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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】光センサ、及びこれを用いた撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240618BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01L31/10 E
H01L27/146 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020070551
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021168332
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-01-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕泰
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/171622(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0264275(US,A1)
【文献】国際公開第2018/173347(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106784115(CN,A)
【文献】特表2013-502735(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0039598(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 27/14-27/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光センサであって、
第1のグラフェン層と、
前記第1のグラフェン層に電界を印加する第2のグラフェン層と、
前記第1のグラフェン層と前記第2のグラフェン層の間に挿入される絶縁層と、
前記第1のグラフェン層に接続されて、前記光センサが受光する光に基づき前記第1のグラフェン層において生成される光電圧または光電流を読み出す第1電極対と、
前記第2のグラフェン層に接続される第2電極対と、
を有し、
前記第1のグラフェン層、前記絶縁層、前記第2のグラフェン層単位構造が形成され、前記単位構造が積層方向に2回以上繰り返され、前記単位構造の間に絶縁層が設けられた周期構造を有する、
光センサ。
【請求項2】
前記第2のグラフェン層は、前記第1のグラフェン層よりも不純物濃度が高い、請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
前記第2のグラフェン層は、前記第1のグラフェン層の面内方向で部分的に設けられている、請求項1または2に記載の光センサ。
【請求項4】
前記第2のグラフェン層は、前記第1のグラフェン層の面内方向で、複数の領域に分割されている、請求項1または2に記載の光センサ。
【請求項5】
前記第2電極対は、前記第2のグラフェン層の前記複数の領域に対応して分割されており、前記第2のグラフェン層の前記複数の領域に異なる電位が与えられる、請求項4に記載の光センサ。
【請求項6】
前記第2のグラフェン層の前記複数の領域で不純物濃度が異なる、請求項4に記載の光センサ。
【請求項7】
前記絶縁層は、六方晶ボロンナイトライドである、請求項1~6のいずれか1項に記載の光センサ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の光センサの配列を有するセンサアレイと、
前記センサアレイからの出力を処理する画像処理装置と、
前記画像処理装置で処理された画像を出力する出力装置と、
を有する撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光センサ、及びこれを用いた撮像装置に関し、特に、グラフェンを用いた光センサの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子が2次元ハニカム状に配列された2次元材料であり、特徴的なエネルギーバンド構造を有する。グラフェンの伝導帯と価電子帯は、ディラック点(波数空間のK点またはK'点)で頂点が接する対称な円錐で模擬され得る。伝導帯と価電子帯がディラック点で交わり、バンドギャップを持たないため、広い波長範囲の光に対して一定の吸収があるほか、テラヘルツ光の吸収も可能である。この特性を利用して、可視光や赤外線の光センサ、テラヘルツ光センサ等の材料として研究開発が進められている。
【0003】
グラフェンを用いた光センサには様々な様式があるが、グラフェンが吸収した光を電気信号に変換する様式は、グラフェンの光熱電効果、光起電力効果、光伝導特性等を利用している。
【0004】
グラフェンの光吸収特性、抵抗率、ゼーベック係数などの物性は、グラフェンに対するドーピング、すなわち電子・正孔を含むキャリアの密度に影響される。光センサとして適切な物性を得るために、グラフェンのドーピングレベルをゲート電圧の印加によって制御する構成が提案されている(例えば、特許文献1、及び非特許文献1参照)。
【0005】
紫外領域に対応するバンドギャップを有する紫外領域用2次元材料層と、可視光領域に対応するバンドギャップを有する可視光領域用2次元材料層と、赤外領域に対応するバンドギャップを有する赤外領域用2次元材料層を積層にした光デバイスが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/173347号
【文献】特開2016-162906号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K. Kinoshita, et al., "Photo-thermoelectric detection of cyclotron resonance in asymmetrically carrier-doped graphene two-terminal device", Appl. Phys. Let. 113, 103102 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グラフェンでの光吸収は、1層あたり数パーセント程度であり、光センサの材料としては大きくない。高感度の光センサを実現するためには、より多くの光吸収を誘起できる構成が望ましい。グラフェンの光吸収を増加する方法として、キャビティ構造、プラズモン共鳴の利用のほかに、多数層のグラフェンを積層することが考えられる。
【0009】
多数のグラフェン層の積層構造で、電界効果によってキャリア濃度を制御する場合、ゲート電極から印加される電界が電極近傍の少数の層で遮断され、積層全体についてドーピングを有効に制御できないという問題がある。
【0010】
本発明は、多層のグラフェン層へのドーピング制御を可能にして光吸収が改善された光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様では、光センサは、
第1のグラフェン層と、
前記第1のグラフェン層に電界を印加する第2のグラフェン層と、
前記第1のグラフェン層と前記第2のグラフェン層の間に挿入される絶縁層と、
前記第1のグラフェン層に接続されて、前記光センサが受光する光に基づき前記第1のグラフェン層において生成される光電圧または光電流を読み出す第1電極対と、
前記第2のグラフェン層に接続される第2電極対と、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
多層のグラフェン層へのドーピング制御を可能にして光吸収が改善された光センサが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】多層グラフェンへのドーピング制御で生じる問題を説明する図である。
図2】実施形態の光センサの基本構成を示す模式図である。
図3】第1実施形態の光センサの模式図である。
図4】第1実施形態の光センサの電極の接続関係を示す図である。
図5】多層グラフェンの光吸収を説明する模式図である。
図6】層数の関数としての光吸収率を示す図である。
図7】層数の関数としての規格化S/N比を示す図である。
図8】第2実施形態の光センサの模式図である。
図9】第3実施形態の光センサの模式図である。
図10】実施形態の光センサのアレイを用いた撮像装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態の構成を説明する前に、図1を参照して、ゲート電圧の制御によるドーピング調整の問題点をより詳しく説明する。
【0015】
グラフェン層115を光吸収層あるいは光電変換層として用いる場合、図1に示すように、多数のグラフェン層115を積層にしてトータルの光吸収量を増やすことが考えられる。
【0016】
基板111上に、絶縁層112を介して、多数のグラフェン層115を積層する。単層のグラフェンデバイスと同様に、多数のグラフェン層115を含む積層体に、一対の電極113,114が接続される。電極113、114は、光吸収によって生じる光電圧または光電流を読み出すために用いられる。
【0017】
電極113と電極114は、この例では異なる金属で形成されている。たとえば、電極113はAu(金)、電極114はクロム(Cr)で形成されているが、Ag,Cu,Al,Nr、Pd、Ir等、その他の良導体を用いてもよい。
【0018】
電極材料の金属とグラフェンの仕事関数などの違いによって、電極113、114とグラフェン層115の界面でエネルギーバンドに勾配が生じる。ある金属を電極113に用いた場合と、電極114に用いた場合とで、勾配の方向が逆になることもある。
【0019】
基板111は、たとえば、n型にドープされたシリコン(Si)基板であり、バックゲート電極として用いられる。絶縁層112は、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al2O3)等、電気的に絶縁性の層である。絶縁層112はゲート絶縁膜として働き、基板11にゲート電圧が印加されたときに、絶縁層112を介してグラフェン層115に電界が印加され、電極113もしくは114からキャリアが移動する。この手法は、電界効果ドーピングとして知られている。なお、図1の矢印は電気力線を模式的に描いたものである。
【0020】
キャリアのドーピングにより、グラフェン層115のフェルミレベルは、ディラックポイントよりも伝導帯側にシフトする。この状態で、グラフェン層15に目的とする波長の光が入射すると、キャリア(電子)がフェルミレベルを超えて励起され、光電流または光電圧が生じる。
【0021】
多数のグラフェン層115が積層されていると、バックゲート、すなわち、基板111に近い少数のグラフェン層115で、ゲートからの電界が遮断される。電界効果によってグラフェン層115にドープされるキャリアが、絶縁層112との界面の近傍に留まってキャリア密度が固定化され、ゲート電極から遠い多数のグラフェン層115でのドーピング調整が困難になる。
【0022】
実施形態では、この問題を解決するために、光検出用のグラフェン層と、絶縁層と、中間ゲート用のグラフェン層を繰り返し積層する。光検出用のグラフェン層は、単層、または電界が遮断されない程度の少数の層であり、たとえば、5層以下、より好ましくは数層以下である。
【0023】
中間ゲート用のグラフェン層は、光検出用のグラフェン層への電界の印加を制御できればよいので、層数に特に限定はないが、感度に寄与しない光吸収を抑制する観点からは、少数層であることが望ましい。外部から中間ゲート用のグラフェン層にゲート電圧を印加することで、光検出用のグラフェン層へのドーピングを制御する。
【0024】
<基本構成>
図2は、実施形態の光センサ10の基本構成を示す。図2の(A)は、光センサ10の鳥瞰図、図2の(B)は、図2の(A)のI-I'ラインに沿った断面模式図である。
【0025】
図2の(B)を参照すると、基板11の上に、絶縁層12を介して、光検出用のグラフェン層15、絶縁層16、中間ゲート用のグラフェン層17、絶縁層16がこの順で繰り返し積層された積層体19が配置されている。光検出用のグラフェン層15、絶縁層16、中間ゲート用のグラフェン層17、及び、グラフェン層17の上の絶縁層16で、1つの単位構造190が形成される。積層体19は、単位構造190が繰り返し配置された周期的な構造を有する。
【0026】
基板11は、光センサ10の全体構造を支持できればどのような基板であってもよい。シリコン等の半導体基板であってもよいし、MgO、サファイアなどの絶縁基板であってもよい。基板11が半導体基板のときは、ノンドープの基板であってもよいし、熱酸化膜付きの基板であってもよい。
【0027】
絶縁層12は、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、ボロンナイトライド(BN)などである。
【0028】
基板11の上に配置される積層体19のうち、光検出用のグラフェン層15は、センサ電極13、及び14に接続されている。中間ゲート用のグラフェン層17は、ゲート電極21、及び22に接続されている。図2の(A)の鳥瞰図では、光検出用のグラフェン層15、中間ゲート用のグラフェン層17、センサ電極13、14、及びゲート電極21、22の接続関係を示すために、間の絶縁層16は省略されている。
【0029】
電極配置の一例として、センサ電極13及び14は平行に配置され、ゲート電極21及び22は平行に配置され、センサ電極対とゲート電極対は、互いに直交する向きに配置されている。単位構造190において、光検出用のグラフェン層15と中間ゲート用のグラフェン層17の間に絶縁層16が挿入されており、隣接するグラフェン層同士は、短絡しない。
【0030】
絶縁層16は、電界を遮断せずキャリアの移動度を維持する材料で形成されるのが望ましく、たとえば、グラフェンと結晶構造が類似する六方晶系(hexagonal)のBN(以下、「h-BN」と称する)で形成される。
【0031】
光検出用のグラフェン層15は、単層または少数層のグラフェンである。中間ゲート用のグラフェン層17は、単層または多層のグラフェン層であり、不純物が高濃度にドープされていてもよい。中間ゲート用のグラフェン層17への高濃度のドーピングは、インターカレーション、異種物質の接触による化学ドーピング等で実現されてもよい。n型にドープするときは、電子または電子供与物質をドープし、p型にドープするときは、正孔または電子受容物質をドープする。中間ゲート用のグラフェン層17にドープされるドーパントの濃度は、たとえば1×10^19~1×10^22cm-3である。ドーパントは無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。
【0032】
動作時に、ゲート電極21、22から中間ゲート用のグラフェン層17にゲート電圧が印加されると、電界効果によって、接続された電極からキャリアが光検出用のグラフェン層15に供給される。このキャリアの移動によって、光検出用のグラフェン層15の物性値が最適化される。
【0033】
光検出用のグラフェン層15に所定の波長の光が入射すると、グラフェン層15と、センサ電極13、及び14の界面で、光電圧または光電流が発生する。この光電圧または光電流を、センサ電極13及び14で読み出すことで、入射光の光量が得られる。
【0034】
上述のように、光検出用のグラフェン層15に発生する光電圧または光電流は、電子-正孔ペアの生成による光電圧または光電流の他に、光入射によりグラフェン層15とセンサ電極13及び14の界面付近に生じる温度勾配(すなわち、熱電効果による)によっても発生する。センサ電極13、14に同じ金属を用いた場合、グラフェン層15とセンサ電極13の界面の温度勾配と、グラフェン層15とセンサ電極14の界面での温度勾配が互いに逆向きになり、発生する光電圧の正負が逆になり得る。
【0035】
実施形態では、中間ゲート用のグラフェン層17を用いて、光検出用のグラフェン層15へのキャリアドーピングを適切に制御することで、高感度のセンサを実現する。高感度が得られる機構としては、光検出用のグラフェン層での光吸収を高める、グラフェン層の面内方向の電界を形成する(pn接合を形成する)、グラフェンのゼーベック係数を最適化する(光熱電効果を利用する場合)、などがある。
【0036】
1つの単位構造190内で、中間ゲート用のグラフェン層17から、単層または少数層のグラフェン層15に対して、電界によるドーピング制御が行われる。光センサ10の積層体19の全体でみると、中間ゲート用のグラフェン層17から、光検出用のグラフェン層15への電界の印加は遮蔽されない。繰り返し積層される光検出用のグラフェン層15の各々で、光センサとしての好適な物性条件が設定され、光センサ全体として光吸収効率を高めることができる。
【0037】
<第1実施形態>
図3は、第1実施形態の光センサ10Aの模式図である。図3の(A)は平面図、図3の(B)は、(A)のX-X'断面図、図3の(C)は、(A)のY-Y'断面図である。
【0038】
光センサ10Aは、図2の基本構成とほぼ同じである。
【0039】
一例として、Siの基板11上に、絶縁層12としてh-BN層を40nmの厚さで配置する。絶縁層12の上に、周期的な繰り返し構造が配置される。
【0040】
周期的な繰り返し構造の1周期として、(1)光検出用のグラフェン層15、(2)絶縁層16、(3)中間ゲート用のグラフェン層17、及び(4)絶縁層16が積層される。光検出用のグラフェン層15は、たとえば、単層グラフェンである。単層グラフェンの厚さは炭素原子1個分の厚さである。
【0041】
絶縁層16は、たとえばh-BN層である。中間ゲート用のグラフェン層17は、単層グラフェンでも多層グラフェンでもよいが、この例では中間ゲート用のグラフェン層17での光吸収を最小限にするために、単層グラフェンを用いる。(1)~(4)の構成を、たとえば20周期繰り返す。
【0042】
光検出用のグラフェン層15は、センサ電極13、及び14に接続され、中間ゲート用のグラフェン層17は、ゲート電極21、及び22に接続されている。光検出用のグラフェン層15と、中間ゲート用のグラフェン層17の間に、絶縁層16が挿入されている。絶縁層16は、光検出用のグラフェン層15と中間ゲート用のグラフェン層17の間を電気的に絶縁するために、トンネル電流を抑制できる30nm以上の厚さを有し、たとえば厚さ40nmのh-BNである。
【0043】
光センサ10Aの作製方法として、別の基材の上に成長したグラフェン層をプロセス加工したものを、基板11の上に転写する。絶縁層16も、別の基板上に生成したh-BN層を加工したものを転写する。
【0044】
グラフェン層の転写は、公知の手法で行われ、たとえば、別の基材上にCVD法で形成したグラフェン層を、リソグラフィとエッチングにより所定のサイズ、形状に加工したものを機械的剥離法によって剥離して、絶縁層12、及び絶縁層16上に順次転写してもよい。
【0045】
光検出用のグラフェン層15、絶縁層16、中間ゲート用のグラフェン層17、及び絶縁層16を所定の繰り返し回数(この例では20周期)で積層した後に、蒸着により、一対のセンサ電極13,14と、一対のゲート電極21、22を形成する。センサ電極13及び14は、光検出用のグラフェン層15に接続される。ゲート電極21及び22は、中間ゲート用のグラフェン層17に接続される。
【0046】
センサ電極13、14、及びゲート電極21、22は、たとえば、厚さ10nmのチタン(Ti)膜の上に厚さ700~1000nmのAuを堆積させて形成されてもよい。互いに対向するセンサ電極13と14は、異なる電極材料で形成されてもよい。この場合、電極金属とグラフェン層との界面での仕事関数の差による温度勾配、すなわち光熱電効果を利用した光センサが構成される。
【0047】
図4は、光センサ10Aの接続関係を説明する図である。ゲート電極21と22を介して、中間ゲート用のグラフェン層17にゲート電圧VGateが印加されると、電界効果により、絶縁層16を介して中間ゲート用のグラフェン層17と隣接する光検出用のグラフェン層15のキャリア密度が変化する。ゲート電圧VGateを調整することで、光検出用のグラフェン層15の物性値を最適な値に制御することができる。ゲート電圧VGateは、たとえば、-10V~10Vの範囲内で制御される。
【0048】
一方、センサ電極13と14の間にバイアス電圧VBIASが印加されると、センサ電極13と光検出用のグラフェン層15の界面、及びセンサ電極14と光検出用のグラフェン層15の界面で、エネルギーバンドに勾配が生じる。バイアス電圧VBIASは、たとえば、0.1V~0.5Vである。
この状態で、光が入射すると、伝導帯に励起された電子は、エネルギーバンドの勾配に沿って移動し、光電流が生じる。この光電流を電流計(図中、「A」の記号で表示されている)で読み取ることで、入射光の光量が得られる。あるいは、電流計を用いずに、直接、発生する光電圧をセンサ電極13及び14で読み取ってもよい。
【0049】
センサ電極13と14が同じ金属材料で形成されている場合でも、各周期で電界効果により光検出用のグラフェン層15が最適な物性値に調整される。
【0050】
図5図7を参照して、実施形態の効果を説明する。図5において、入射光束をφ、グラフェン1層の光吸収率をηとすると、単層グラフェンの透過光束は(1-η)φとなる。中間ゲート用のグラフェン層を考慮しない場合、N層のグラフェンを透過した光束は、(1-η)Nφとなる。η=2.3%と想定すると、グラフェンの層数の関数としての光吸収率ηNは、図6のようになる。
【0051】
フォトコンダクタの感度Sは、光吸収率に比例するので、
【0052】
【数1】
と書ける。フォトコンダクタの雑音Nは、流れている電流の平方根に比例するので、
【0053】
【数2】
と書ける。流れている電流は層数に比例すると考えると、
【0054】
【数3】
となる。
【0055】
グラフェンの層数とS/Nの関係は、
【0056】
【数4】
と表される。単層のS/Nで規格化すると、
【0057】
【数5】
となる。これは、図7の(a)光電流<<暗電流の状況である。この場合、グラフェンを30層程度に積層すると、単層グラフェンと比較して、規格化されたS/N比は4倍以上になる。
【0058】
図7の(b)光電流>>暗電流のときは、流れる電流は光吸収率ηNに比例するので、
【0059】
【数6】
と表される。規格化されたS/N比は、光吸収率ηNの平方根に比例する。この場合、20層程度の積層とすることで、単層グラフェンと比較してS/N比は4倍以上に向上する。
【0060】
一方、中間ゲート用のグラフェン層17が介在することで、入射光の約半分が、中間ゲート用のグラフェン層17で吸収される。中間ゲート用のグラフェン層17での光吸収は光センサ10Aの感度に寄与せず、光損失となる。4倍以上のS/N比の改善と、中間ゲート用のグラフェン層17による損失を相殺すると、光センサ10Aの全体として、S/Nの向上は2倍以上になる。
【0061】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の光センサ10Bの模式図である。図8の(A)は平面図、図8の(B)は、(A)のX-X'断面図、図8の(C)は、(A)のY-Y'断面図である。
【0062】
第2実施形態では、中間ゲート用のグラフェン層17のサイズを、光検出用のグラフェン層15のサイズよりも小さくして、光検出用のグラフェン層15を部分的に覆うようにする。部分的なゲートによって各グラフェン層15の面内方向で不均一なドーピング制御が可能となる。
【0063】
光センサ10Bは、一例として、Siの基板11上に、厚さ40nmのh-BNの絶縁層16を介して、積層方向に、2種類の周期的な繰り返しを有する。
【0064】
一方のセンサ電極、たとえばセンサ電極14に近い側の領域では、繰り返し構造の1周期として、(1)光検出用のグラフェン層15、(2)絶縁層16、(3)中間ゲート用のグラフェン層17、及び(4)絶縁層16が積層される。光検出用のグラフェン層15は、たとえば、単層グラフェンである。中間ゲート用のグラフェン層17は、たとえば単層グラフェンであり、光検出用のグラフェン層15の約半分の領域をカバーするように配置されている。中間ゲート用のグラフェン層17には、高濃度にキャリアがドープされていてもよい。光検出用のグラフェン層15と中間ゲート用のグラフェン層17の間に挿入される絶縁層16は、厚さが40nm程度のh-BN膜である。繰り返し構造の繰り返し回数は、たとえば20周期である。
【0065】
他方の電極、たとえば、センサ電極13に近い側の領域では、(1)光検出用のグラフェン層15と、(2)絶縁層16を1周期とする繰り返し構造が形成される。この繰り返し構造も、たとえば20周期である。図8の(B)では、積層構造を分かりやすく図示するために、センサ電極13の側で、絶縁層16と絶縁層16の間に空気層が介在するように描かれているが、絶縁層16同士は接触していてもよく、また、空気層が介在する場合も全体として電気的に絶縁層となる。
【0066】
光検出用のグラフェン層15は、センサ電極13、及び14に接続され、ゲート電極21、22には接続されない。中間ゲート用のグラフェン層17は、ゲート電極21、及び22に接続され、センサ電極13、14には接続されない。光検出用のグラフェン層15と、中間ゲート用のグラフェン層17の間に、絶縁層16が挿入されており、光検出用のグラフェン層15と、中間ゲート用のグラフェン層17は短絡しない。
【0067】
光センサ10Bの作製では、別の基材の上に成長したグラフェン層をプロセス加工により、異なるサイズに加工し、基板11の上に絶縁層16を介して、順次転写する。センサ電極14の側では、中間ゲート用のグラフェン層17から光検出用のグラフェン層15に、電界効果によるドーピングの制御が行われる。センサ電極13の側では、光検出用のグラフェン層15に対するドーピングの制御は行われない。
【0068】
これにより、光センサ10Bの面内方向でキャリア密度が非対称となる。センサ電極13と14が同じ金属材料で形成される場合でも、高感度に入射光量を検出することができる。
【0069】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態の光センサ10Cの模式図である。図9の(A)は平面図、図9の(B)は、(A)のX-X'断面図、図9の(C)は、(A)のY-Y'断面図である。
【0070】
第3実施形態では、中間ゲート用のグラフェン層17を対向するセンサ電極13,14の間で(X-X'方向に沿って)、複数の領域に分割する。図9の例では、グラフェン層17-1と17-2の2つに分割されているが、X-X'方向に沿って、3つ以上に分割されてもよい。
【0071】
中間ゲート用のグラフェン層17の分割に応じて、ゲート電極対も分割される。たとえば、ゲート電極21を、ゲート電極21-1と21-2に分割し、ゲート電極22をゲート電極22-1と22-2に分割する。グラフェン層17-1をゲート電極21-1とゲート電極22-1に接続し、グラフェン層17-2をゲート電極21-2とゲート電極22-2に接続する。
【0072】
センサ電極13に近い側の領域と、センサ電極14に近い側の領域で、積層方向への繰り返し構造は同じである。すなわち、繰り返し構造の1周期として、(1)光検出用のグラフェン層15、(2)絶縁層16、(3)中間ゲート用のグラフェン層17、及び(4)絶縁層16が、たとえば20周期で積層される。
【0073】
ゲート電極21-1と22-1の間に印加されるゲート電圧と、ゲート電極21-1と22-2の間に印加されるゲート電圧のレベルを変えることで、センサ電極13,14の間で、X-X'方向に沿って、光検出用のグラフェン層15の面内で不均一なドーピング制御が可能となる。
【0074】
図9の(C)のY-Y'断面は、図8の(C)のY-Y'断面とほぼ同じである。ゲート電極21-2、中間ゲート用のグラフェン層17-2、及びゲート電極22-2を通る断面で切っても、図9の(C)と同様の構成となる。
【0075】
センサ電極13に近い側の領域と、センサ電極14に近い側の領域で、別々のゲート電圧を印加することで、センサ電極13と14の間で(X-X'方向に沿って)、光センサ10Cのキャリア密度が非対称となる。センサ電極13と14が同じ金属材料で形成される場合でも、高感度に入射光量を検出することができる。
【0076】
<撮像装置への適用>
図10は、実施形態の光センサ10の撮像装置1への適用例を示す。光センサ10(光センサ10A~10Cのいずれであってもよい)を、たとえば、基板11の面内に2次元配置してセンサアレイ20を形成することができる。各光センサ10は画素を構成し、センサアレイ20によって入射光の2次元強度分布情報を得ることができる。
【0077】
センサアレイ20の光入射側に光学系2を配置して、センサアレイ20の入射面に、入射光の光像を結像させる。光学系2は、たとえば、集光レンズ、シャッター、フィルタ等を含む。
【0078】
光センサ10ごとに得られる入射光(たとえば赤外線)の時間積分強度情報は、センサ電極13,14によって読み出され、画像処理装置3に入力される。画像処理装置3は、観測対象から発せられる赤外線の強度分布(または温度分布)に応じた画像を生成する。画像処理装置3は、センサアレイ20からの出力信号に感度補正や非線形性のばらつき補正処理などを施す補正処理回路を含んでいてもよい。出力装置5は、たとえば表示装置であり、画像処理装置3による画像処理の結果を出力する。
【0079】
センサアレイ20に含まれる光センサ10の各々で、中間ゲート用のグラフェン層17を介して多数の光検出用のグラフェン層15に対するドーピングが制御され、高感度に入射光を検出することができる。
【0080】
以上、特定の実施例に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上述した構成に限定されない。たとえば、第3実施形態で、中間ゲート用のグラフェン層17-1と17-2でドープされるキャリア濃度を異ならせてもよい。積層方向への繰り返し周期は20周期に限定されず、20周期以上であってもよい。この場合も、光検出用のグラフェン層15の各々への電界が、中間ゲート用のグラフェン層17によって制御されるので、多数のグラフェン層に対する電界の遮断を防止して、高感度の光検出が可能になる。
【0081】
実施形態の光センサ10と撮像装置1は、セキュリティ監視、設備の熱管理等に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 撮像装置
2 光学系
3 画像処理装置
5 出力装置
10、10A~10C 光センサ
11 基板
12 絶縁層
13、14 センサ電極(第1電極対)
15 光検出用のグラフェン層(第1のグラフェン層)
16 絶縁層
17、17-1、17-2 中間ゲート用のグラフェン層(第2のグラフェン層)
19 積層体
20 センサアレイ
21、22 ゲート電極(第2電極対)
21-1、21-2、22-1、22-2 分割されたゲート電極
190 単位構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10