(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】パイプベンダー
(51)【国際特許分類】
B21D 7/025 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
B21D7/025 A
(21)【出願番号】P 2020088127
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】秋山 健
(72)【発明者】
【氏名】宝来 亮汰
(72)【発明者】
【氏名】百々 泰
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-141335(JP,A)
【文献】実開平03-057419(JP,U)
【文献】特開平07-308717(JP,A)
【文献】特開平10-058049(JP,A)
【文献】特開2008-161922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプの曲げ対象部分を巻き付けて回転する曲げ型と、
前記曲げ対象部分を前記曲げ型に押し付けながら前記曲げ型と同軸で回転する締め型と、
前記パイプの加工済み部が載置されている床面の下方から上方に移動し、前記曲げ型及び前記締め型の曲げ回転動作に伴って旋回する前記加工済み部に対して、当該加工済み部の旋回方向の後方から前記旋回方向に沿って加勢する押圧方向に前記加工済み部を押圧する押圧部と、
前記押圧部に、前記曲げ回転動作の開始時から前記加工済み部を押圧させ、前記曲げ回転動作が終了する前に前記加工済み部への押圧を停止させる制御部と、
前記床面の下方に配置され、前記床面に形成されている開口部を通じて前記押圧部を前記床面の上方と下方との間で移動させる第1駆動機構と、
前記床面の下方に設置され、前記第1駆動機構を前記押圧方向に沿って移動させる第2駆動機構と、
を備え
、
前記制御部は、前記第1駆動機構に、前記押圧部を前記床面の上方に移動させた後、前記第2駆動機構に、前記第1駆動機構を前記押圧方向に移動させることで、前記押圧部に前記加工済み部を押圧させる、パイプベンダー。
【請求項2】
前記第2駆動機構は、直動機構である、請求項
1に記載のパイプベンダー。
【請求項3】
前記押圧部、前記第1駆動機構及び前記第2駆動機構の組は、複数ある、請求項
1又は
2に記載のパイプベンダー。
【請求項4】
前記制御部は、前記押圧部に、前記曲げ回転動作の開始時から、前記第2駆動機構の駆動範囲の限界到達時まで、前記加工済み部を押圧させる、請求項
1~
3のいずれか1項に記載のパイプベンダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パイプベンダーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管等のパイプを所望の形状に曲げる装置として、パイプベンダーが存在する。パイプベンダーは、直管状である加工前のパイプに対して、連続曲げ加工を施すことが可能である。
【0003】
一般に、パイプベンダーは、すでに曲げ加工が施された加工済み部も同時に旋回させながらパイプを曲げる。そのため、曲げ加工の終盤の工程に近づくにつれて、同時に旋回させる加工済み部の大きさや重量が増えていったときに、旋回させるためのトルクが不足することもあり得る。これに対して、特許文献1は、曲げ型を取り付けたパイプベンダーの上方に設置される、パイプベンダーの回転軸と同一中心で回転可能なアーム装置に関連する技術を開示している。このアーム装置は、先端に設けられた爪によりパイプの加工済み部を支持して回転することで、加工済み部の旋回動作を補助する。また、特許文献2及び特許文献3は、パイプの加工済み部の形状が崩れないようにするための旋回テーブルを備えたパイプベンダーに関連する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平1-172419号公報
【文献】実開平3-18914号公報
【文献】実開平3-18915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されているアーム装置では、爪が係合する部分は、加工前の直進パイプの延長上にある、先の曲げ加工直後のパイプ部である。そのため、加工済み部がすでに大きくなっている場合に、次の曲げ加工を行うときには、爪が係合している部分よりも旋回方向の後方に位置する大部分の加工済み部は、そのまま床面上を引きずられることになる。したがって、引きずられた加工済み部の重量が負荷としてパイプに作用して、パイプに塑性変形が生じることもあり得る。また、アーム装置に設けられている爪は、上方から加工済み部を支持する。そのため、例えば、加工済み部が、一部が床面から浮き上がっているような立体曲げ形状を有する場合には、アーム装置の旋回時に爪が浮き上がり部分と干渉し、所望の支持位置に移動することができないこともあり得る。
【0006】
また、特許文献2に開示されている旋回テーブルは、加工済み部を載置する床面全体が回転する機構である。そのため、旋回テーブルを旋回させるということは、非常に大きな慣性質量を旋回させるのと同義であるので、例えば、曲げ加工時の旋回速度を上げるには限界があり、生産時間の短縮化に難がある。また、加工済み部の質量に比べて、実際に旋回するテーブル部分の質量が大きいことが予想され、旋回テーブルを旋回させるには、常時、大きな出力を要する。
【0007】
そこで、本開示は、パイプの加工済み部の旋回動作を簡易的な構成で補助するのに有利なパイプベンダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るパイプベンダーは、パイプの曲げ対象部分を巻き付けて回転する曲げ型と、曲げ対象部分を曲げ型に押し付けながら曲げ型と同軸で回転する締め型と、パイプの加工済み部が載置されている床面の下方から上方に移動し、曲げ型及び締め型の曲げ回転動作に伴って旋回する加工済み部に対して、当該加工済み部の旋回方向の後方から旋回方向に沿って加勢する押圧方向に加工済み部を押圧する押圧部と、押圧部に、曲げ回転動作の開始時から加工済み部を押圧させ、曲げ回転動作が終了する前に加工済み部への押圧を停止させる制御部と、床面の下方に配置され、床面に形成されている開口部を通じて押圧部を床面の上方と下方との間で移動させる第1駆動機構と、床面の下方に設置され、第1駆動機構を押圧方向に沿って移動させる第2駆動機構と、を備え、制御部は、第1駆動機構に、押圧部を床面の上方に移動させた後、第2駆動機構に、第1駆動機構を押圧方向に移動させることで、押圧部に加工済み部を押圧させる。
【0009】
上記のパイプベンダーでは、第2駆動機構は、直動機構であってもよい。押圧部、第1駆動機構及び第2駆動機構の組は、複数あってもよい。また、制御部は、押圧部に、曲げ回転動作の開始時から、第2駆動機構の駆動範囲の限界到達時まで、加工済み部を押圧させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、パイプの加工済み部の旋回動作を簡易的な構成で補助するのに有利なパイプベンダーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るパイプベンダーの曲げ加工直前の状態を示す平面図である。
【
図2】一実施形態に係るパイプベンダーの曲げ加工開始時の状態を示す平面図である。
【
図3】パイプ押圧機構の一連の動作を示す断面図である。
【
図4】他の実施形態に係るパイプベンダーの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。また、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素については図示を省略する。
【0013】
図1は、一実施形態に係るパイプベンダー1の概略構成を示す平面図である。パイプベンダー1は、ワークであるパイプPを曲げる装置である。パイプPは、例えば、各種規格に準じた一般的な鋼管である。以下の各図では、一例として、鉛直方向にZ軸を取り、Z軸に垂直な水平面内において、曲げ加工前のパイプPを曲げ加工部10へ搬送する搬送方向Fに並行となるX軸を取り、X軸に垂直な方向にY軸を取る。
【0014】
特に
図1では、曲げ加工の例えば中盤や終盤の工程を行うときのパイプベンダー1の状態が示されている。以下で詳説する曲げ加工部10には、
図1に示すような左曲げ用のほかに、パイプPの搬送方向Fを基準として構成要素の配置が対称となる右曲げ用が存在する。パイプベンダー1は、左曲げ用の曲げ加工部10と右曲げ用の曲げ加工部10とを適宜入れ替えながら複数回の曲げ加工を行うことで、
図1に示すような加工済み部P1を形成することができる。ここで、中盤や終盤の工程とは、すでに複数回の曲げ加工が施されていることで加工済み部P1が蛇行曲げ管となっているパイプPに対して、さらに曲げ加工を施す工程をいう。特に終盤の工程では、加工済み部P1は、最終の製品形状に近い形になっている。また、加工済み部P1は、床面100(
図3参照)に載置されており、曲げ加工時には床面100上を移動する。
【0015】
パイプベンダー1は、実際にパイプPに曲げ加工を施す曲げ加工部10と、曲げ加工部10とは別位置にパイプ押圧機構20と、制御部30とを備える。なお、不図示であるが、パイプベンダー1は、曲げ加工部10に向けてパイプPを搬送する搬送部を備える。
【0016】
曲げ加工部10は、例えば、曲げ型12と、締め型13と、締め型クランプ機構14と、圧力型15と、圧力型クランプ機構16とを備える。
【0017】
曲げ型12は、パイプPの曲げ対象部分が押し付けられた状態で回転することで、パイプPを曲げる型である。曲げ型12は、円柱又は円板状の外形を有し、中心軸Oを回転軸として回転可能である。曲げ型12の外周には、パイプPの外周面を当接させる周溝12aが形成されている。周溝12aの断面形状は、パイプPの円形断面に対応した略半円形である。周溝12aの周断面の曲率半径は、パイプPの所望の曲げ半径に対応している。また、曲げ型12は、外周の一部に、直線状に延出されたクランプ部12bを有する。つまり、クランプ部12bでの周溝12aは、例外的に直線状である。また、本実施形態における曲げ型12は、円柱又は円板状の外形を有するものとしているが、これに代えて、角が曲げられた四角柱又は四角板のような他の外形を有していてもよい。
【0018】
締め型13は、パイプPの曲げ対象部分よりも先端側の部分を曲げ型12に押し付けて曲げ型12とともに回転する型である。なお、締め型は、クランプ型とも呼ばれる。締め型13は、曲げ型12の回転軸と同軸で回転可能な回転テーブル13a上に設置される。つまり、締め型13は、中心軸O周りの回転テーブル13aの回転駆動に伴って回転する。なお、回転テーブルは、クランプ台とも呼ばれる。締め型13は、曲げ型12のクランプ部12bとの対向面に、パイプPの円形断面に対応する略半円形断面の押圧溝13bを有する。締め型13は、曲げ型12に対して近づいたり離れたりすることが可能である。
【0019】
締め型クランプ機構14は、回転テーブル13a上に設置され、曲げ型12に向かう方向に締め型13を移動させる。つまり、締め型13は、締め型クランプ機構14を介して回転テーブル13aに設置されている。締め型クランプ機構14は、曲げ型12の周溝12aと締め型13の押圧溝13bとの間にパイプPが存在するときに締め型13を移動させることでパイプPを加圧し、パイプPを曲げ型12と締め型13とで挟み込ませることができる。
【0020】
圧力型15は、締め型13の上流側に設置され、パイプPの曲げ外側と接触し、曲げ加工によるパイプPからの反力を受け止める型である。圧力型15は、パイプPとの接触面に、パイプPの円形断面に対応する略半円形断面の直線溝15aを有する。圧力型15は、パイプPに対して近づいたり離れたりすることが可能である。また、圧力型15は、パイプPの移動に追従して、搬送方向Fに移動可能である。
【0021】
圧力型クランプ機構16は、パイプPに向かう方向に圧力型15を移動させる。圧力型クランプ機構16は、曲げ型12の中心軸O及び搬送方向Fの双方に対して直角な押圧方向に圧力型15を押し出し、圧力型15にパイプPの反力を受け止めさせることができる。圧力型クランプ機構16は、圧力型15と一体で搬送方向Fに移動可能である。
【0022】
また、不図示の搬送部は、搬送方向Fに沿ってパイプPを曲げ加工部10に搬送するパイプ搬送装置を備える。パイプ搬送装置は、パイプPをその中心軸回りに回転させることができるものであってもよい。パイプ搬送装置がパイプPをその中心軸回りに所望の量だけ回転させることで、パイプベンダー1は、パイプPの曲げ方向を所望の方向に調整し、加工済み部P1を立体曲げ形状とすることができる。
【0023】
パイプ押圧機構20は、パイプPの曲げ加工動作に合わせて旋回する加工済み部P1の旋回動作を補助するために、曲げ加工時に加工済み部P1を押圧する。ここで、鉛直方向の上方から加工済み部P1が旋回する床面100に向かって、パイプベンダー1を見たとする。このような平面上では、本実施形態におけるパイプ押圧機構20は、
図1に示すように、加工済み部P1の旋回方向の後方から旋回方向に沿って加勢する方向を押圧方向とすることができる位置に配置される。
【0024】
図2は、
図1に示される曲げ加工直前の状態に対して、曲げ加工開始時のパイプベンダー1の状態を示す平面図である。
図2では、加工済み部P1の旋回方向を白抜きの矢印で示している。
図3は、パイプ押圧機構20の一連の動作を示す断面図である。
【0025】
パイプ押圧機構20は、押圧部21と、第1駆動機構22と、第2駆動機構23とを備える。これらの構成要素のうち、第1駆動機構22と第2駆動機構23とは、床面100の下方にある例えば工場床面101上に設置される。床面100は、上記のとおり加工済み部P1が載置されて旋回する面であり、金属板や木板等で構成される。つまり、第1駆動機構22と第2駆動機構23とは、床面100と工場床面101との間の空間内にある。
【0026】
押圧部21は、加工済み部P1と直接的に接触して加工済み部P1を押圧するブロック状の部材である。ここで、床面100には、押圧部21を貫通可能とする開口部100aが予め形成されている。押圧部21は、開口部100aを通じて床面100の上方と下方との間で移動可能である。
【0027】
第1駆動機構22は、押圧部21を床面100の上方と下方との間で移動させる。第1駆動機構22は、例えば、直動機構の一種である直動式アクチュエーターである。本実施形態では、一例として、第1駆動機構22が油圧式のシリンダーであるものとする。ただし、直動式アクチュエーターは、これに限定されるものではなく、エアーシリンダーや電動式のシリンダー等であってもよい。又は、第1駆動機構22は、ラックピニオンやボールねじ等の直動機構を含むものであってもよい。第1駆動機構22は、本実施形態では鉛直方向に対応するZ方向に沿って直動する第1シャフト22aを備える。第1シャフト22aの先端には、押圧部21が取り付けられる。ここで、押圧部21は、加工済み部P1に対して面接触する場合、接触面は、
図1に示す押圧直前と
図2に示す押圧時とでは、接触角度が変化する。そこで、押圧部21は、第1シャフト22aに対して姿勢を変化可能にとりつけられてもよい。又は、押圧部21の形状は、
図1等に示すような直方体状ではなく、第1シャフト22aと同軸の円柱状であってもよい。
【0028】
第2駆動機構23は、第1駆動機構22を押圧部21の押圧方向に沿って移動させる。第2駆動機構23も、第1駆動機構22と同様の直動機構を採用可能であり、例えば直動式アクチュエーターである。第2駆動機構23は、本実施形態では押圧方向に対応するY方向に沿って直動する第2シャフト23aを備える。第2シャフト23aの先端には、第1駆動機構22が取り付けられる。第2駆動機構23は、例えば、取付金具24を介して工場床面101上に設置される。
【0029】
そして、制御部30は、作業者の指示に基づいて、曲げ加工部10における曲げ加工動作や、パイプ搬送装置によるパイプ搬送動作などを制御する。また、本実施形態では、制御部30は、曲げ加工動作に合わせて、パイプ押圧機構20の動作を制御する。
【0030】
次に、パイプベンダー1における基本的な曲げ加工動作について説明する。
【0031】
加工対象であるパイプPは、予め、パイプ搬送装置により曲げ加工部10に搬送され、パイプPの曲げ対象部分が曲げ型12に対して適切な位置に配置される。曲げ型12及び締め型13は、
図1に示される初期位置においてパイプPを把持する。
【0032】
次に、
図2に示すように、曲げ型12及び締め型13は、パイプPの一部を把持したまま、中心軸O回りに一体的に回転移動する。パイプPは、曲げ型12及び締め型13の回転により、搬送方向Fに引かれつつ、周溝12aに巻き付けられて曲げられる。同時に、パイプPを側方から押圧している圧力型15は、パイプPの軸方向の移動に追従して移動する。このとき、圧力型15には、圧力型クランプ機構16による押圧力と、曲げ加工による反力とが作用している。圧力型15によりパイプPの曲げ外側を押さえることでパイプPの曲げを周溝12aの形状に正確に倣わせることができる。
【0033】
パイプベンダー1は、曲げ加工部10における曲げ加工動作と、パイプ搬送装置によるパイプPの搬送動作とを組み合わせた連続曲げ加工を行うことで、最終的には、
図1等に示すような蛇行曲げ管等の連続曲げ管を製作することができる。
【0034】
次に、パイプ押圧機構20を採用したことによる曲げ加工時のパイプベンダー1の作用について説明する。
【0035】
図1等に示すような蛇行曲げ管を形成する連続曲げでは、曲げ加工時に曲げ加工部10が出力すべきトルクは、以下のモーメント又はモーメント荷重の和で表される。すなわち、パイプPを曲げるために必要な曲げモーメントと、加工済み部P1と床面100との摩擦抵抗によるモーメント荷重と、加工済み部P1を旋回させるための慣性抵抗によるモーメント荷重との和である。ここで、加工済み部P1の質量をM、摩擦抵抗係数をμ、重力加速度をgとすると、摩擦抵抗はμMgで表される。同様に、旋回動作の加速度をαとすると、慣性抵抗はMαで表される。なお、
図2では、摩擦抵抗及び慣性抵抗が作用する方向を加工済み部P1上の矢印で表している。
【0036】
このうち、曲げモーメントは、パイプPの材料物性、曲げ半径及び断面係数に基づいて決定されるものであり、加工済み部P1の大小には依拠しない。そして、加工済み部P1に作用するものは上記の摩擦抵抗と慣性抵抗とであり、加工済み部P1が大きくなればなるほど、これらの抵抗も大きくなる。これらの抵抗のうち、摩擦抵抗は、動摩擦よりも静止摩擦の方が大きいため、曲げ加工動作の開始時に最大となる。一方、慣性抵抗は、速度変動により発生するため、曲げ加工動作の開始時に最大となる。そこで、本実施形態では、制御部30は、曲げ加工動作の基となる曲げ型12と締め型13とによる曲げ回転動作の開始時の一定時間だけ、押圧部21に加工済み部P1の押圧を行わせる。
【0037】
まず、パイプベンダー1がパイプPの新たな曲げ対象部分に対して曲げ加工を行おうとするときには、パイプ押圧機構20の各構成要素は、
図3(a)に示すように、床面100の下方にある。このとき、第1駆動機構22は、押圧部21を最下方に位置させている。また、第2駆動機構23は、第1駆動機構22を押圧方向の最後方に位置させている。
【0038】
次に、制御部30は、
図3(b)に示すように、加工済み部P1に押圧部21を当接させる。
図3(b)は、
図1中のIIIB-IIIB部に対応し、パイプ押圧機構20を通りYZ平面で切断した断面図に相当する。具体的には、制御部30は、
図3(a)に示す状態から、第1駆動機構22に、押圧部21が床面100から上方に突出するように、すなわち、押圧部21の一側面がY方向で加工済み部P1に相対するように、押圧部21を上方に移動させる。次に、制御部30は、第2駆動機構23に、押圧部21の一側面が加工済み部P1と当接するまで、第1駆動機構22をY方向に移動させる。
【0039】
ここで、本実施形態では、押圧部21は、加工済み部P1の旋回方向の後方から旋回方向に沿って加勢する押圧方向に加工済み部P1を押圧する。また、
図1~
図3の各図に示す例では、押圧方向はY方向に相当する。この場合、押圧部21は、加工済み部P1のうち旋回方向の最も後方に位置する後方パイプ部P11に、Y方向に沿って当接することになる。
【0040】
次に、制御部30は、曲げ加工部10に曲げ加工動作を開始させるのに合わせて、
図3(c)に示すように、押圧部21に加工済み部P1を押圧させる。
図3(c)は、
図2中のIIIC-IIIC部に対応し、パイプ押圧機構20を通りYZ平面で切断した断面図に相当する。押圧部21による押圧は、具体的には、第2駆動機構23に、押圧方向であるY方向に第1駆動機構22を移動させることで行われる。
【0041】
ここで、本実施形態では、制御部30は、押圧部21に、曲げ回転動作の開始時から加工済み部P1を押圧させ、曲げ回転動作が終了する前に加工済み部P1への押圧を停止させる。この条件を満たす押圧タイミングは、例えば、以下のように複数ある。
【0042】
第1の押圧タイミングとして、制御部30は、曲げ回転動作の開始時から第2駆動機構23を動作させて、押圧部21に加工済み部P1への押圧を開始させた後、瞬時に、第2駆動機構23の動作を停止させて、加工済み部P1への押圧を停止させてもよい。
【0043】
第2の押圧タイミングとして、制御部30は、曲げ回転動作の開始時から第2駆動機構23を動作させて、例えば数秒間~数十秒間の一定時間だけ、押圧部21に加工済み部P1へ押圧させてもよい。
【0044】
第3の押圧タイミングとして、制御部30は、曲げ回転動作の開始時から、第2駆動機構23の駆動範囲の限界到達時まで、第2駆動機構23を動作させて、押圧部21に加工済み部P1へ押圧させてもよい。例えば、本実施形態のように第2駆動機構23が直動式のアクチュエーターである場合には、構造上、第2シャフト23aが最も伸び切った位置が、ここでいう駆動範囲の限界ということになる。
【0045】
そして、押圧部21による加工済み部P1への押圧が終了した後は、加工済み部P1は、旋回方向に沿って、曲げ加工動作が終了するまでそのまま旋回を続けることになる。また、押圧部21による加工済み部P1への押圧が終了した後は、制御部30は、
図3を参照して説明した一連の動作とは反対の動作を行わせることで、パイプ押圧機構20を、
図3(a)に示すような待機状態に維持させることができる。
【0046】
次に、本実施形態に係るパイプベンダー1による効果について説明する。
【0047】
本実施形態に係るパイプベンダー1は、パイプPの曲げ対象部分を巻き付けて回転する曲げ型12と、曲げ対象部分を曲げ型12に押し付けながら曲げ型12と同軸で回転する締め型13とを備える。パイプベンダー1は、パイプPの加工済み部P1が載置されている床面100の下方から上方に移動する押圧部21を備える。押圧部21は、曲げ型12及び締め型13の曲げ回転動作に伴って旋回する加工済み部P1に対して、加工済み部P1の旋回方向の後方から旋回方向に沿って加勢する押圧方向に加工済み部P1を押圧する。また、パイプベンダー1は、押圧部21に、曲げ回転動作の開始時から加工済み部P1を押圧させ、曲げ回転動作が終了する前に加工済み部P1への押圧を停止させる制御部30を備える。
【0048】
このようなパイプベンダー1によれば、曲げ加工の終盤の工程に近づくにつれて加工済み部P1の大きさや重量が増えていっても、押圧部21が旋回方向に沿って加勢する押圧方向に加工済み部P1を押圧する。つまり、加工済み部P1の旋回動作を、曲げ型12や締め型13による曲げ加工動作に要するトルクのみに依存することなく、押圧部21が補助することができる。したがって、例えば、加工済み部P1を旋回させるトルク分、曲げ加工部10において曲げ回転動作に要する出力が増加することを抑えることができる。一方、例えば、曲げ加工部10の構成だけではトルクが不足して曲げ加工を行うことが難しい最終製品があったとする。このような場合でも、パイプベンダー1によれば、押圧部21を設けることでトルクを補い、曲げ加工部10の性能を向上させずとも、当該最終製品を製造することができる場合もあり得る。
【0049】
また、パイプベンダー1によれば、押圧部21は、加工済み部P1の旋回方向の後方から旋回方向に沿って加勢する押圧方向に加工済み部P1を押圧する。つまり、押圧部21は、加工済み部P1全体を一つのまとまった物体として後方から旋回方向に押し出すことができる。したがって、加工済み部P1の一部が床面上に取り残されて引きずられ、結果としてパイプに塑性変形が生じるということを予め回避させることができる。
【0050】
また、パイプベンダー1によれば、押圧部21は、曲げ回転動作の開始時から加工済み部P1を押圧させ、曲げ回転動作が終了する前に加工済み部P1への押圧を停止させる。つまり、押圧部21による押圧は、曲げ回転動作時すなわち加工済み部P1の旋回時のすべての所要時間中、行われるのではない。したがって、特に押圧部21による押圧に要する出力が大きくなることを予め回避させることができる。
【0051】
結果として、押圧部21による押圧を行う機構は、単に加工済み部P1の旋回方向の後方から押圧方向に加工済み部P1を押圧することができればよく、かつ、大きな出力を要しないことになる。したがって、本実施形態によれば、パイプPの加工済み部P1の旋回動作を簡易的な構成で補助するのに有利なパイプベンダー1を提供することができる。
【0052】
また、パイプベンダー1は、床面100の下方に配置され、床面100に形成されている開口部100aを通じて押圧部21を床面100の上方と下方との間で移動させる第1駆動機構22を備える。パイプベンダー1は、床面100の下方に設置され、第1駆動機構22を押圧方向に沿って移動させる第2駆動機構23を備えてもよい。この場合、制御部30は、第1駆動機構22に、押圧部21を床面100の上方に移動させた後、第2駆動機構23に、第1駆動機構22を押圧方向に移動させることで、押圧部21に加工済み部P1を押圧させてもよい。
【0053】
このようなパイプベンダー1によれば、押圧部21に押圧させる機構は、基本的に床面100の下方に配置され、加工済み部P1の上方に位置しない。したがって、例えば、加工済み部P1が、一部が床面から浮き上がっているような立体曲げ形状を有する場合に、押圧部21等が加工済み部P1の浮き上がり部分と干渉して所望の支持位置に移動することができないということを予め回避することができる。
【0054】
また、パイプベンダー1では、第2駆動機構23は、直動機構であってもよい。
【0055】
例えば、従来のように、旋回方向に合わせて、かつ、加工済み部P1の旋回時のすべての所要時間中、加工済み部P1を押圧させる場合には、押圧させる機構の構造は複雑化する。これに対して、本実施形態では、押圧部21は、曲げ回転動作の開始時からの特定の押圧タイミングだけ加工済み部P1を押圧させることができればよい。したがって、本実施形態では、単なる一方向である押圧方向に沿って押圧部21を移動させる第2駆動機構23として、構造上単純な直動機構を採用することが可能である。これにより、パイプベンダー1全体としての構造の複雑化を予め回避させることができる。
【0056】
また、パイプベンダー1では、押圧部21、第1駆動機構22及び第2駆動機構23の組は、複数あってもよい。
【0057】
図4は、一例として、押圧部21、第1駆動機構22及び第2駆動機構23を含むパイプ押圧機構20を2組備えたパイプベンダー1を示す平面図である。
図4では、曲げ加工部10から遠い側に第1パイプ押圧機構20aが設置され、曲げ加工部10から近い側に第2パイプ押圧機構20bが設置されている。
【0058】
このようなパイプベンダー1によれば、
図4に示すように1つの後方パイプ部P11を2つの押圧部21が異なる位置で押圧するので、旋回時の加工済み部P1の姿勢を安定化させることができる。結果として、加工済み部P1に、より変形を生じづらくさせ、塑性変形を抑止することができる。
【0059】
また、このようなパイプベンダー1によれば、例えば、全体的に小さい形状の加工済み部P1を旋回させるときには、第2パイプ押圧機構20bのみを用いて押圧させるなど、加工済み部P1の形状によって適宜使い分けすることが可能である。
【0060】
また、パイプベンダー1では、制御部30は、押圧部21に、曲げ回転動作の開始時から、第2駆動機構23の駆動範囲の限界到達時まで、加工済み部P1を押圧させてもよい。
【0061】
このようなパイプベンダー1によれば、例えば、制御部30は、押圧部21の押圧動作としては、単に第2駆動機構23のオン・オフのみを制御すればよいので、パイプベンダー1の制御をより簡略化させることができる。
【0062】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 パイプベンダー
12 曲げ型
13 締め型
21 押圧部
22 第1駆動機構
23 第2駆動機構
30 制御部
100 床面
100a 開口部
P パイプ
P1 加工済み部