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特許7505261圧電素子、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】圧電素子、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240618BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240618BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20240618BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240618BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20240618BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B41J2/015 101
H10N30/20
H10N30/045
B41J2/14 301
B05C5/00 101
B05C11/10
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020088643
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021183379
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 泰彰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】板山 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅夫
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-015316(JP,A)
【文献】特開2015-079928(JP,A)
【文献】特開2015-147330(JP,A)
【文献】特開2017-212423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
H10N 30/20
H10N 30/045
B05C 5/00
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される圧電体と、を有し、
前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される正電圧を飽和正電圧とし、
前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される負電圧を飽和負電圧とするとき、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和負電圧から前記飽和正電圧まで漸次的に変化させた場合、
前記圧電体に生じる電荷に基づく電流は、
当該電圧が高くなるにつれて電流が大きくなる第1経路と、
当該電圧が高くなるにつれて電流が小さくなる第2経路と、
当該電圧が高くなるにつれて電流が大きくなる第3経路と、
当該電圧が高くなるにつれて電流が小さくなる第4経路と、をこの順に経由して変化する、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和負電圧から前記飽和正電圧まで変化させた場合、前記圧電体の残留分極は、負の値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和負電圧から前記飽和正電圧まで変化させた場合において、前記圧電体の残留分極とゼロ分極の差分は、前記圧電体の残留分極と前記飽和負電圧に対応する飽和分極の差分よりも小さい、
ことを特徴とする請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和負電圧から前記飽和正電圧まで変化させた場合、前記圧電体の抗電界は、正の値である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記第1経路に対応する電圧は、負の値であり、
前記第2経路、前記第3経路および前記第4経路のそれぞれに対応する電圧は、正の値である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第1経路から前記第2経路に切り替わるタイミングにおける電流は、前記第3経路から前記第4経路に切り替わるタイミングにおける電流よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記第2経路に対応する電圧の変化幅は、前記第1経路、前記第3経路および前記第4経路のそれぞれに対応する電圧の変化幅よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項8】
前記第1経路、前記第2経路、前記第3経路および前記第4経路のそれぞれにおける電流は、正の値である、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項9】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで漸次的に変化させた場合、
前記圧電体に生じる電荷に基づく電流は、
当該電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる第5経路と、
当該電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる第6経路と、
当該電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる第7経路と、
当該電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる第8経路と、をこの順に経由して変化する、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項10】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで変化させた場合、前記圧電体の残留分極は、正の値である、
ことを特徴とする請求項9に記載の圧電素子。
【請求項11】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで変化させた場合において、前記圧電体の残留分極とゼロ分極の差分は、前記圧電体の残留分極と前記飽和正電圧に対応する飽和分極の差分よりも小さい、
ことを特徴とする請求項9に記載の圧電素子。
【請求項12】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで変化させた場合、前記圧電体の抗電界は、負の値である、
ことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項13】
前記第5経路に対応する電圧は、正の値であり、
前記第6経路、前記第7経路および前記第8経路のそれぞれに対応する電圧は、負の値である、
ことを特徴とする請求項9から12のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項14】
前記第5経路から前記第6経路に切り替わるタイミングにおける電流は、前記第7経路から前記第8経路に切り替わるタイミングにおける電流よりも小さい、
ことを特徴とする請求項9から13のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項15】
前記第6経路に対応する電圧の変化幅は、前記第5経路、前記第7経路および前記第8経路のそれぞれに対応する電圧の変化幅よりも小さい、
ことを特徴とする請求項9から14のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項16】
前記第5経路、前記第6経路、前記第7経路および前記第8経路のそれぞれにおける電流は、負の値である、
ことを特徴とする請求項9から15のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項17】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧が前記飽和正電圧である場合に前記圧電体に生じる電荷の絶対値は、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧が前記飽和負電圧である場合に前記圧電体に生じる電荷の絶対値と略等しい、
ことを特徴とする請求項9から16のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項18】
前記飽和正電圧の絶対値は、前記飽和負電圧の絶対値と略等しい、
ことを特徴とする請求項9から17のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項19】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される圧電体と、を有し、
前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される正電圧を飽和正電圧とし、
前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される負電圧を飽和負電圧とするとき、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで漸次的に変化させた場合、
前記圧電体に生じる電荷に基づく電流は、
当該電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる第5経路と、
当該電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる第6経路と、
当該電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる第7経路と、
当該電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる第8経路と、をこの順に経由して変化する、
ことを特徴とする圧電素子。
【請求項20】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで変化させた場合、前記圧電体の残留分極は、正の値である、
ことを特徴とする請求項19に記載の圧電素子。
【請求項21】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで変化させた場合において、前記圧電体の残留分極とゼロ分極の差分は、前記圧電体の残留分極と前記飽和正電圧に対応する飽和分極の差分よりも小さい、
ことを特徴とする請求項20に記載の圧電素子。
【請求項22】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで変化させた場合、前記圧電体の抗電界は、負の値である、
ことを特徴とする請求項19から21のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項23】
前記第5経路に対応する電圧は、正の値であり、
前記第6経路、前記第7経路および前記第8経路のそれぞれに対応する電圧は、負の値である、
ことを特徴とする請求項19から22のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項24】
前記第5経路から前記第6経路に切り替わるタイミングにおける電流は、前記第7経路から前記第8経路に切り替わるタイミングにおける電流よりも小さい、
ことを特徴とする請求項19から23のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項25】
前記第6経路に対応する電圧の変化幅は、前記第5経路、前記第7経路および前記第8経路のそれぞれに対応する電圧の変化幅よりも小さい、
ことを特徴とする請求項19から24のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項26】
前記第5経路、前記第6経路、前記第7経路および前記第8経路のそれぞれにおける電流は、負の値である、
ことを特徴とする請求項19から25のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項27】
前記圧電体は、複数の分域に区画されており、前記分域ごとに分極状態が切り替わる、
ことを特徴とする請求項1から26のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項28】
請求項1から27のいずれか1項に記載の圧電素子と、
液体を貯留し、前記圧電素子の駆動によって液体に圧力が付与される圧力室を備えた圧力室基板と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項29】
請求項28に記載の液体吐出ヘッドと、
前記圧電素子の駆動を制御する制御部と、有する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項30】
請求項1から18のいずれか1項に記載の圧電素子、および、液体を貯留し、前記圧電素子の駆動によって液体に圧力が付与される圧力室を備えた圧力室基板を有する液体吐出ヘッドと、
前記圧電素子の駆動を制御する制御部と、有する液体吐出装置であって、
前記制御部は、前記第1経路に対応する電圧以上、かつ、前記第2経路または前記第3経路に対応する電圧以下の範囲の電圧を、前記第1電極と前記第2電極との間に印加する、
ことを特徴とす液体吐出装置。
【請求項31】
請求項9から26のいずれか1項に記載の圧電素子、および、液体を貯留し、前記圧電素子の駆動によって液体に圧力が付与される圧力室を備えた圧力室基板を有する液体吐出ヘッドと、
前記圧電素子の駆動を制御する制御部と、有する液体吐出装置であって、
前記制御部は、前記第6経路または前記第7経路に対応する電圧以上、かつ、前記第8経路に対応する電圧以下の範囲の電圧を、前記第1電極と前記第2電極の間に印加する、
ことを特徴とす液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ方式のインクジェットプリンター等のデバイスには、圧電素子が用いられる。例えば、特許文献1に記載の圧電素子は、分極-電界ヒステリシス特性における飽和分極、残留分極および抗電界が所定の条件を満たすチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-135748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の圧電素子では、残留分極が比較的大きいので、圧電体層に印加する電圧が正電圧と負電圧との間で変化する場合、当該電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体層の分極方向が変化し難い。このため、特許文献1に記載の圧電素子では、近年の圧電素子の高速化の要求に応えるように駆動電圧の変化に対する圧電体層の変形の応答性をさらに高めることが難しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る圧電素子の一態様は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される圧電体と、を有し、前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される正電圧を飽和正電圧とし、前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される負電圧を飽和負電圧とするとき、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和負電圧から前記飽和正電圧まで漸次的に変化させた場合、前記圧電体に生じる電荷に基づく電流は、当該電圧が高くなるにつれて電流が大きくなる第1経路と、当該電圧が高くなるにつれて電流が小さくなる第2経路と、当該電圧が高くなるにつれて電流が大きくなる第3経路と、当該電圧が高くなるにつれて電流が小さくなる第4経路と、をこの順に経由して変化する。
【0006】
本発明に係る圧電素子の他の一態様は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される圧電体と、を有し、前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される正電圧を飽和正電圧とし、前記圧電体に生じる電荷が飽和状態となる場合における前記第1電極と前記第2電極との間に印加される負電圧を飽和負電圧とするとき、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧を前記飽和正電圧から前記飽和負電圧まで漸次的に変化させた場合、前記圧電体に生じる電荷に基づく電流は、当該電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる第5経路と、当該電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる第6経路と、当該電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる第7経路と、当該電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる第8経路と、をこの順に経由して変化する。
【0007】
本発明に係る液体吐出ヘッドの一態様は、前述のいずれかの態様の圧電素子と、液体を貯留し、前記圧電素子の駆動によって液体に圧力が付与される圧力室を備えた圧力室基板と、を有する。
【0008】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、前述の態様の液体吐出ヘッドと、前記圧電素子の駆動を制御する制御部と、有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る液体吐出装置を模式的に示す構成図である。
図2】実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図3図2中のIII-III線断面図である。
図4】実施形態に係る圧電素子を示す平面図である。
図5図4中のV-V線断面図である。
図6】実施形態における圧電体の電圧と分極との関係を示すグラフである。
図7】実施形態における圧電体の分極状態の変化を説明するための図である。
図8】従来における圧電体の分極状態の変化を説明するための図である。
図9】実施形態における圧電体の電圧と電流との関係を示すグラフである。
図10】実施例1における圧電体の電圧と分極との関係を示すグラフである。
図11】実施例1における圧電体の電圧と電流との関係を示すグラフである。
図12】比較例1における圧電体の電圧と分極との関係を示すグラフである。
図13】比較例1における圧電体の電圧と電流との関係を示すグラフである。
図14】応答性の評価に用いた駆動信号を示す図である。
図15】実施例1における応答性の評価結果を示す図である。
図16】比較例1における応答性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法または縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0011】
なお、以下の説明は、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、X軸に沿う一方向をX1方向といい、X1方向と反対の方向をX2方向という。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向をY1方向およびY2方向という。また、Z軸に沿って互いに反対の方向をZ1方向およびZ2方向という。また、Z軸に沿う方向でみることを「平面視」という。
【0012】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0013】
1.実施形態
1-1.液体吐出装置の全体構成
図1は、実施形態に係る液体吐出装置100を模式的に示す構成図である。液体吐出装置100は、液体の一例であるインクを液滴として媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙である。なお、媒体12は、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0014】
図1に示すように、液体吐出装置100には、インクを貯留する液体容器14が装着される。液体容器14の具体的な態様としては、例えば、液体吐出装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器14に貯留されるインクの種類は任意である。
【0015】
液体吐出装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド26とを有する。制御ユニット20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体吐出装置100の各要素の動作を制御する。ここで、制御ユニット20は、「制御部」の一例であり、後述する圧電素子44の駆動を制御する。
【0016】
搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで、媒体12をY2方向に搬送する。移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで、液体吐出ヘッド26をX1方向とX2方向とに往復させる。図1に示す例では、移動機構24は、液体吐出ヘッド26を収容するキャリッジと称される略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定される搬送ベルト244と、を有する。なお、搬送体242に搭載される液体吐出ヘッド26の数は、1個に限定されず、複数個でもよい。また、搬送体242には、液体吐出ヘッド26のほかに、前述の液体容器14が搭載されてもよい。
【0017】
液体吐出ヘッド26は、制御ユニット20による制御のもとで、液体容器14から供給されるインクを複数のノズルのそれぞれからZ2方向に向けて媒体12に吐出する。この吐出が搬送機構22による媒体12の搬送と移動機構24による液体吐出ヘッド26の往復移動とに並行して行われることにより、媒体12の表面にインクによる画像が形成される。
【0018】
1-2.液体吐出ヘッドの全体構成
図2は、実施形態に係る液体吐出ヘッド26の分解斜視図である。図3は、図2中のIII-III線断面図である。図2に示すように、液体吐出ヘッド26は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNを有する。図2に示す例では、複数のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1および第2列L2のそれぞれは、Y軸に沿う方向に直線状に配列される複数のノズルNの集合である。ここで、液体吐出ヘッド26における第1列L1の各ノズルNに関連する要素と第2列L2の各ノズルNに関連する要素とがX軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。
【0019】
ただし、第1列L1における複数のノズルNと第2列L2における複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致してもよいし異なってもよい。また、第1列L1および第2列L2のうちの一方の各ノズルNに関連する要素が省略されてもよい。以下では、第1列L1における複数のノズルNと第2列L2における複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致する構成が例示される。
【0020】
図2および図3に示すように、液体吐出ヘッド26は、流路構造体30とノズル板62と吸振体64と振動板36と配線基板46と筐体部48と駆動回路50とを有する。
【0021】
流路構造体30は、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する構造体である。本実施形態の流路構造体30は、流路基板32と圧力室基板34とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。流路基板32および圧力室基板34のそれぞれは、Y軸に沿う方向に長尺な板状部材である。流路基板32および圧力室基板34は、例えば接着剤により、互いに接合される。
【0022】
流路構造体30よりもZ1方向に位置する領域には、振動板36と配線基板46と筐体部48と駆動回路50とが設置される。他方、流路構造体30よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル板62と吸振体64とが設置される。液体吐出ヘッド26の各要素は、概略的には流路基板32および圧力室基板34と同様にY軸に沿う方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。
【0023】
ノズル板62は、複数のノズルNが形成された板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる円形状の貫通孔である。ノズル板62は、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル板62の製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0024】
流路基板32には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間Raと複数の供給流路322と複数の連通流路324と供給液室326とが形成される。空間Raは、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の開口である。供給流路322および連通流路324のそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。供給液室326は、複数のノズルNにわたりY軸に沿う方向に延びる長尺状の空間であり、空間Raと複数の供給流路322とを互いに連通させる。複数の連通流路324のそれぞれは、当該連通流路324に対応する1個のノズルNに平面視で重なる。
【0025】
圧力室基板34は、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、キャビティと称される複数の圧力室Cが形成された板状部材である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。流路基板32および圧力室基板34それぞれは、前述のノズル板62と同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板32および圧力室基板34のそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0026】
圧力室Cは、流路基板32と振動板36との間に位置する空間である。第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、複数の圧力室CがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室Cは、連通流路324および供給流路322のそれぞれに連通する。したがって、圧力室Cは、連通流路324を介してノズルNに連通し、かつ、供給流路322と供給液室326とを介して空間Raに連通する。
【0027】
圧力室基板34のZ2方向を向く面には、振動板36が配置される。振動板36は、弾性的に振動可能な板状部材である。なお、振動板36については、後に詳述する。
【0028】
振動板36のZ1方向を向く面には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、互いにノズルNに対応する複数の圧電素子44が配置される。各圧電素子44は、駆動信号の供給により変形する受動素子である。各圧電素子44は、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の圧電素子44は、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子44の変形に連動して振動板36が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、インクがノズルNから吐出される。圧電素子44については、後に詳述する。
【0029】
筐体部48は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するためのケースである。図3に示すように、本実施形態の筐体部48には、第1列L1および第2列L2のそれぞれについて、空間Rbが形成される。筐体部48の空間Rbと流路基板32の空間Raとは、互いに連通する。空間Raと空間Rbとで構成される空間は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留する液体貯留室(リザーバー)Rとして機能する。液体貯留室Rには、筐体部48に形成された導入口482を介してインクが供給される。液体貯留室R内のインクは、供給液室326と各供給流路322とを介して圧力室Cに供給される。吸振体64は、液体貯留室Rの壁面を構成する可撓性のフィルム(コンプライアンス基板)であり、液体貯留室R内のインクの圧力変動を吸収する。
【0030】
配線基板46は、駆動回路50と複数の圧電素子44とを電気的に接続するための配線が形成された板状部材である。配線基板46のZ2方向を向く面は、振動板36に導電性の複数のバンプBを介して接合される。一方、配線基板46のZ1方向を向く面には、駆動回路50が実装される。駆動回路50は、各圧電素子44を駆動するための駆動信号および基準電圧を出力するIC(Integrated Circuit)チップである。なお、配線基板46は、リジット基板に限定されず、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)またはFFC(Flexible Flat Cable)でもよい。この場合、配線基板46上に駆動回路50が実装されてもよいし、配線基板46が外部配線52を兼ねてもよい。
【0031】
配線基板46のZ1方向を向く面には、外部配線52の端部が接合される。外部配線52は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の接続部品で構成される。ここで、配線基板46には、図2に示すように、外部配線52と駆動回路50とを電気的に接続する複数の配線461と、駆動回路50から出力される駆動信号および基準電圧が供給される複数の配線462とが形成される。
【0032】
1-3.振動板および圧電素子の詳細
図4は、実施形態に係る圧電素子44を示す平面図である。図5は、図4中のV-V線断面図である。液体吐出ヘッド26では、図5に示すように、圧力室基板34、振動板36および複数の圧電素子44がこの順でZ1方向に積層される。
【0033】
図5に示すように、圧力室基板34には、圧力室Cを構成する孔341が設けられる。これに伴い、圧力室基板34には、互いに隣り合う2つの孔341の間に、X軸に沿う方向に延びる壁状の隔壁部342が設けられる。図4では、孔341の平面視形状が破線で示される。圧力室基板34は、例えば、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより形成される。当該異方性エッチングのエッチング液には、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)等が用いられる。また、当該異方性エッチングでは、後述の第1層361がエッチング停止層として用いられる。
【0034】
なお、図4では、孔341の平面視形状が矩形であるが、これに限定されず、任意である。例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成した場合の孔341の平面視形状は、平行四辺形をなす。
【0035】
図5に示すように、振動板36は、第1層361と第2層362とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1層361は、例えば、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。当該弾性膜は、例えば、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。第2層362は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)で構成される絶縁膜である。当該絶縁膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。
【0036】
ここで、前述のように、振動板36の第2層362が酸化ジルコニウムで構成されており、積層体31は、酸化ジルコニウムを含む。酸化ジルコニウムは、優れた電気絶縁性、機械的強度および靭性を有する。このため、酸化ジルコニウムを含む第2層362を振動板36に用いることにより、振動板36の特性を高めることができる。また、後述の圧電体443が後述の第1電極441上にない部分を有していても、当該部分が第2層362上に配置されることにより、圧電体443を形成する際、当該部分を(100)方向に優先配向させやすいという利点もある。
【0037】
なお、第1層361と第2層362との間には、金属酸化物等の他の層が介在してもよい。また、振動板36の一部または全部は、圧力室基板34と同一材料で一体に構成されてもよい。また、振動板36は、単一材料の層で構成されてもよい。
【0038】
図4に示すように、圧電素子44は、平面視で圧力室Cに重なる。図5に示すように、圧電素子44は、第1電極441とシード層444と圧電体443と第2電極442とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。なお、圧電素子44の層間、または圧電素子44と振動板36との間には、密着性を高めるための層等の他の層が適宜介在してもよい。
【0039】
第1電極441は、圧電素子44ごとに互いに離間して配置される個別電極である。具体的には、X軸に沿う方向に延びる複数の第1電極441が、互いに間隔をあけてY軸に沿う方向に配列される。各圧電素子44の第1電極441には、当該圧電素子44に対応するノズルNからインクを吐出するための駆動信号が駆動回路50を介して印加される。
【0040】
第1電極441は、例えば、チタン(Ti)で構成される第1層と、白金(Pt)で構成される第2層と、イリジウム(Ir)で構成される第3層と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1電極441は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。
【0041】
ここで、前述の第1層は、振動板36に対する第1電極441の密着性を向上させる密着層として機能する。第1層の厚さは、特に限定されないが、例えば、3nm以上50nm以下程度とされる。なお、第1層の構成材料は、チタンに代えて、クロムを用いてもよい。
【0042】
また、前述の第2層および第3層を構成する金属は、ともに導電性に優れた電極材料であり、かつ、互いに化学的性質が近い。このため、第1電極441の電極としての特性を優れたものとすることができる。第2層の厚さは、特に限定されないが、例えば、50nm以上200nm以下程度とされる。第3層の厚さは、特に限定されないが、例えば、4nm以上20nm以下程度とされる。
【0043】
なお、第1電極441では、第2層または第3層のいずれかを省略してもよいし、第1層と第2層との間に、イリジウムで構成された層をさらに設けてもよい。また、第2層および第3層に代えて、または、第2層および第3層に加えて、イリジウムおよび白金以外の電極材料で構成された層を用いてもよい。当該電極材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料が挙げられ、これらのうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を積層または合金等の形態で組み合わせて用いてもよい。
【0044】
一方、第2電極442は、複数の圧電素子44にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極である。第2電極442には、所定の基準電圧が印加される。
【0045】
第2電極442は、例えば、イリジウム(Ir)で構成される層と、チタン(Ti)で構成される層と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第2電極442は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。
【0046】
なお、第2電極442の構成材料は、イリジウムおよびチタンに限定されず、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)または銅(Cu)等の金属材料でもよい。また、第2電極442は、これらの金属材料のうち、1種を単独で用いて構成されてもよいし、2種以上を積層または合金等の形態で組み合わせて用いて構成されてもよい。また、第2電極442が単層で構成されてもよい。ただし、第2電極442としてイリジウム、或いは化学量論組成よりも酸素の含有量が少ない酸化イリジウムが含まれることが好ましい。
【0047】
圧電体443は、第1電極441と第2電極442との間に配置される。圧電体443は、複数の圧電素子44にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状をなす。図4に示す例では、圧電体443には、互いに隣り合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域に、圧電体443を貫通する貫通孔443aがX軸に沿う方向に延びて設けられる。なお、圧電体443は、複数の圧電素子44に個別に設けられてもよい。
【0048】
圧電体443は、一般組成式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する圧電材料で構成される。当該圧電材料としては、例えば、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)、ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等が挙げられる。中でも、圧電体443の構成材料には、チタン酸ジルコン酸鉛が好適に用いられる。なお、圧電体443には、不純物等の他の元素が少量含まれてもよい。
【0049】
圧電体443は、例えば、ゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法により圧電体の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより形成される。ここで、圧電体443は、単層で構成されてもよいが、複数層で構成される場合、圧電体443の厚さを厚くしても、圧電体443の特性を高めやすいという利点がある。
【0050】
シード層444は、第1電極441と圧電体443との間に配置される。図4に示す例では、シード層444は、平面視で第1電極441と同じ領域にわたり設けられる。なお、シード層444は、第1電極441と圧電体443との間に配置されていればよく、例えば、圧電体443と同じ領域にわたり配置されてもよい。
【0051】
シード層444は、圧電体443を形成する際に、圧電体443の配向性を向上させる機能を有する。具体的には、シード層444は、例えば、チタン(Ti)で構成される。シード層444がチタンで構成される場合、圧電体443を形成する際に、島状のTiが結晶核となって圧電体443の配向性を向上させる。この場合、シード層444の厚さは、特に限定されないが、例えば、3nm以上20nm以下程度とされる。このようなチタンで構成される場合のシード層444は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。なお、シード層444は、チタン等の導電性材料で構成される場合、第1電極441の一部を構成するともいえる。
【0052】
また、シード層444は、チタンで構成される構成に限定されず、例えば、鉛、鉄およびチタンを構成元素として含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成されてもよい。この場合、圧電体443を形成する際に、圧電体443がシード層444の結晶構造の影響を受けることにより、圧電体443の配向性が向上する。当該複合酸化物は、例えば、PbFeOとPbTiOとの固溶体であり、Pb(Fe,Ti)Oで表される。このような複合酸化物で構成される場合のシード層444は、例えば、ゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法により複合酸化物の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより形成される。
【0053】
以上の圧電素子44は、前述のように、第1電極441と、第2電極442と、第1電極441と第2電極442との間に配置される圧電体443と、を有する。以上の圧電素子44では、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧に応じて、圧電体443が変形する。ここで、圧電体443は、当該電圧に対する当該変形の応答性を高めるべく、以下に述べるような電気的特性を有する。
【0054】
1-4.圧電体の電気的特性
図6は、実施形態における圧電体443の電圧と分極との関係を示すグラフである。図6には、圧電体443の特性αが実線で示される。また、図6には、従来の圧電体の特性βが破線で示される。なお、図6中、横軸が電圧であり、縦軸が分極である。
【0055】
図6に示すように、圧電体443における正の残留分極Pr1または負の残留分極Pr2の絶対値は、従来の圧電体における正の残留分極Pr1Xまたは負の残留分極Pr2Xの絶対値よりも小さい。図6に示す例では、圧電体443における残留分極Pr1は、圧電体443における正の飽和分極点Pm1よりもゼロ分極に近い。同様に、圧電体443における残留分極Pr2は、圧電体443における負の飽和分極点Pm2よりもゼロ分極に近い。なお、飽和分極点Pm1は、後述の飽和正電圧Vpに対応し、圧電体443に生じる電荷が飽和状態となる分極値である。同様に、飽和分極点Pm2は、後述の飽和負電圧Vnに対応し、圧電体443に生じる電荷が飽和状態となる分極値である。
【0056】
図6に示す例では、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧が飽和正電圧Vpである場合に圧電体443に生じる電荷の絶対値は、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧が飽和負電圧Vnである場合に圧電体443に生じる電荷の絶対値と略等しい。また、飽和正電圧Vpの絶対値は、飽和負電圧Vnの絶対値と略等しい。ここで、「略等しい」とは、厳密に等しい場合のほか、測定誤差程度の差異を有する場合を含む。
【0057】
また、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧を飽和負電圧Vnから飽和正電圧Vpまで変化させた場合、圧電体443の残留分極Pr2は、負の値である。また、この場合、圧電体443の抗電界は、正の値である。当該抗電界は、電圧V2に対応する。
【0058】
一方、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧を飽和正電圧Vpから飽和負電圧Vnまで変化させた場合、圧電体443の残留分極Pr1は、正の値である。また、この場合、圧電体443の抗電界は、負の値である。当該抗電界は、電圧V1に対応する。
【0059】
以上のように、残留分極Pr1およびPr2の絶対値を小さくすることにより、電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体443の分極方向を変化しやすくすることができる。この結果、駆動電圧の印加に対する圧電体443の変形の応答性を従来に比べて高めることができる。
【0060】
また、残留分極Pr1およびPr2の絶対値は小さくなるが、0よりは大きい。残留分極Pr1およびPr2が0、つまり反強誘電体だと、電流の絶対値が過大となり圧電体443に負荷が掛かる、電流が不安定となる、変位が不安定になる等といった問題が生じ得る虞がある。よって残留分極P1およびP2の絶対値は0よりは大きくする。
【0061】
ただし、残留分極Pr1、Pr2の絶対値が大き過ぎると、ゼロ電圧付近での圧電体層の分極方向が変化し難い。具体的には、残留分極Pr1とゼロ分極の差分が、残留分極Pr1と飽和正電圧に対応する飽和分極点Pm1の差分よりも小さく、残留分極Pr2とゼロ分極の差分が、残留分極Pr2と飽和負電圧に対応する飽和分極点Pm2の差分よりも小さいことが好ましい。
【0062】
また、電圧がゼロ電位となるタイミング付近における電圧変化に対する分極の変化量を従来に比べて大きくすることができる。このため、この点でも、駆動電圧の印加に対する圧電体443の変位の応答性を従来に比べて高めることができる。
【0063】
図7は、実施形態における圧電体443の分極状態の変化を説明するための図である。図8は、従来における圧電体443Xの分極状態の変化を説明するための図である。図7および図8では、圧電体443または443Xの分極状態の変化が模式的に示される。また、図7および図8では、圧電体443または443Xの各部における分極方向が矢印で示される。
【0064】
図7に示すように、圧電体443は、複数の分域REに区画されており、分域REごとに分極状態が切り替わる。このような分域REは、残留分極Pr1およびPr2の絶対値を小さくすることにより実現される。
【0065】
図7の上段に示すように、圧電体443に印加される電圧が飽和正電圧Vpである場合、分極方向がZ軸に沿う一方の方向に揃う。一方、圧電体443に印加される電圧が飽和負電圧Vnである場合、図7の下段に示すように、分極方向がZ軸に沿う他方の方向に揃う。この点、図8の上段および下段に示すように、従来の圧電体443Xも同様である。
【0066】
図7の中段に示すように、圧電体443に印加される電圧がゼロ電圧である場合、複数の分域REのうち、一部の分域REの分極方向がZ軸に沿う一方の方向を向き、残部の分域REの分極方向がZ軸に沿う他方の方向を向く。このとき、Z軸に沿う一方の方向を向いた分域REの方が、X軸に沿う他方の方向を向く分域REよりも、数が多い。このため、前述の図7の上段または下段に示す状態と図7の中段に示す状態との間で状態変化を円滑に行うことができる。
【0067】
これに対し、図8の中段に示すように、圧電体443Xに印加される電圧がゼロ電圧である場合、分極方向がZ軸に対して傾斜する方向にランダムに向く。このような状態は、前述の図7の中段に示す状態に比べて不安定である。このため、前述の図8の上段または下段に示す状態から図8の中段に示す状態への状態変化を円滑に行うことが難しい。
【0068】
以上から理解される通り、残留分極Pr1およびPr2の絶対値を小さくすることにより、電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体443の分極方向を変化しやすくすることができる。
【0069】
図9は、実施形態における圧電体443の電圧と電流との関係を示すグラフである。図9では、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧を飽和負電圧Vnと飽和正電圧Vpとの間で漸次的に変化させた場合における圧電体443の電圧と電流との関係が図示される。ここで、飽和正電圧Vpは、圧電体443に生じる電荷が飽和状態となる場合における第1電極441と第2電極442との間に印加される正電圧である。同様に、飽和負電圧Vnは、圧電体443に生じる電荷が飽和した状態となる場合における第1電極441と第2電極442との間に印加される負電圧である。
【0070】
図9に示すように、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧を飽和負電圧Vnから飽和正電圧Vpまで漸次的に変化させた場合、圧電体443に生じる電荷に基づく電流は、第1経路RT1と第2経路RT2と第3経路RT3と第4経路RT4とをこの順で経由して変化する。図9中の電圧Vaは、第2経路RT2と第3経路RT3との境界に対応する電圧であり、図9中の電圧Vbは、第3経路RT3と第4経路RT4との境界に対応する電圧である。
【0071】
ここで、第1経路RT1では、電圧が高くなるにつれて電流が大きくなる。第2経路RT2では、電圧が高くなるにつれて電流が小さくなる。第3経路RT3では、電圧が高くなるにつれて電流が大きくなる。第4経路RT4では、電圧が高くなるにつれて電流が小さくなる。このような経路で圧電体443に生じる電荷に基づく電流が変化することにより、前述のように残留分極Pr2の絶対値を小さくすることができる。このため、電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体443の分極方向を変化しやすくすることができる。
【0072】
図9に示す例では、第1経路RT1に対応する電圧は、負の値である。これに対し、第2経路RT2、第3経路RT3および第4経路RT4のそれぞれに対応する電圧は、正の値である。また、第1経路RT1、第2経路RT2、第3経路RT3および第4経路RT4のそれぞれにおける電流は、正の値である。
【0073】
ここで、第1経路RT1から第2経路RT2に切り替わるタイミングにおける電流は、第3経路RT3から第4経路RT4に切り替わるタイミングにおける電流よりも大きい。すなわち、第1経路RT1から第2経路RT2への切り替わりによる電流の極大値は、第3経路RT3から第4経路RT4への切り替わりによる電流の極大値よりも大きい。このような極大値の関係となる場合、そうでない場合に比べて、電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体443の分極方向が変化しやすくなる。
【0074】
また、第2経路RT2に対応する電圧の変化幅は、第1経路RT1、第3経路RT3および第4経路RT4のそれぞれに対応する電圧の変化幅よりも小さい。この場合、そうでない場合に比べて、電圧変化に対する分極の変化量を大きくしやすいという利点がある。
【0075】
一方、第1電極441と第2電極442との間に印加される電圧を飽和正電圧Vpから飽和負電圧Vnまで漸次的に変化させた場合、第5経路RT5と第6経路RT6と第7経路RT7と第8経路RT8とをこの順で経由して変化する。図9中の電圧Vcは、第6経路RT6と第7経路RT7との境界に対応する電圧であり、図9中の電圧Vdは、第7経路RT7と第8経路RT8との境界に対応する電圧である。
【0076】
ここで、第5経路RT5では、電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる。第6経路RT6では、電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる。第7経路RT7では、電圧が低くなるにつれて電流が小さくなる。第8経路RT8では、電圧が低くなるにつれて電流が大きくなる。このような経路で圧電体443に生じる電荷に基づく電流が変化することにより、前述のように残留分極Pr1の絶対値を小さくすることができる。このため、電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体443の分極方向を変化しやすくすることができる。
【0077】
図9に示す例では、第5経路RT5に対応する電圧は、正の値である。これに対し、第6経路RT6、第7経路RT7および第8経路RT8のそれぞれに対応する電圧は、負の値である。また、第5経路RT5、第6経路RT6、第7経路RT7および第8経路RT8のそれぞれにおける電流は、負の値である。
【0078】
ここで、第5経路RT5から第6経路RT6に切り替わるタイミングにおける電流は、第7経路RT7から第8経路RT8に切り替わるタイミングにおける電流よりも小さい。すなわち、第5経路RT5から第6経路RT6への切り替わりによる電流の極小値は、第7経路RT7から第8経路RT8への切り替わりによる電流の極小値よりも小さい。このような極小値の関係となる場合、そうでない場合に比べて、電圧がゼロ電圧となるタイミング付近で圧電体443の分極方向が変化しやすくなる。
【0079】
また、第6経路RT6に対応する電圧の変化幅は、第5経路RT5、第7経路RT7および第8経路RT8のそれぞれに対応する電圧の変化幅よりも小さい。この場合、そうでない場合に比べて、電圧変化に対する分極の変化量を大きくしやすいという利点がある。
【0080】
2.変形例
以上の例示における各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択される2以上の態様は、互いに矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0081】
2-1.変形例1
前述の形態では、圧電素子44と、インクを貯留し、圧電素子44の駆動によってインクに圧力が付与される圧力室Cを備えた圧力室基板34と、を有する液体吐出ヘッド26が例示される。ただし、圧電素子44を搭載する機器等は、液体吐出ヘッドに限定されず、例えば、圧電素子を有する圧電アクチュエーター等の他の駆動デバイスでもよく、圧電素子を有する圧力センサー等の検出デバイス等でもよい。
【0082】
2-2.変形例2
前述の形態では、第1電極441が個別電極であり第2電極442が共通電極である構成を例示するが、第1電極441を、複数の圧電素子44にわたり連続する共通電極とし、第2電極442を圧電素子44ごとに個別の個別電極としてもよい。また、第1電極441および第2電極442の双方を個別電極としてもよい。
【0083】
2-3.変形例3
前述の各形態では、液体吐出ヘッド26を搭載する搬送体242を往復させるシリアル方式の液体吐出装置100を例示するが、複数のノズルNが媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明を適用することが可能である。
【0084】
2-4.変形例4
前述の各形態で例示する液体吐出装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
【実施例
【0085】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0086】
A.圧電素子の製造
A-1.実施例1
まず、面方位(110)のシリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより、振動板の第1層として、厚さ1460nmの二酸化シリコン膜を形成した。
【0087】
次に、当該二酸化シリコン膜上に、DCスパッタリング法によりジルコニウム膜を成膜し、当該ジルコニウム膜を850℃で熱酸化することにより、振動板の第2層として、厚さ400nmの酸化ジルコニウム膜を形成した。
【0088】
当該酸化ジルコニウム膜上に、DCスパッタリング法によりチタン、白金、イリジウムおよびチタンをこの順で成膜することにより、第1電極の第1層のための厚さ20nmのチタン膜、第1電極の第2層のための厚さ80nmの白金膜、第1電極の第3層のための厚さ5nmのイリジウム膜、および、シード層のための厚さ4nmのチタン膜をそれぞれ形成した。
【0089】
その後、Pb:Zr:Tiが118:52:48となるように調合したMOD溶液をPZT前駆体溶液としてスピンコート法によりシード層上に塗布し、その後、酸素雰囲気下でRTA(rapid thermal annealing)により737℃で5分間にわたり加熱処理を行うことにより、圧電体層の一部の層のための厚さ110nmのPZT結晶化膜を形成した。
【0090】
次に、第1電極が個別電極となるように、前述の酸化ジルコニウム膜よりも上の層をイオンミリング法によりパターニングした。
【0091】
次に、前述のPZT結晶化膜の形成と同様の方法により、さらに5層のPZT結晶化膜を積層することにより、PZTで構成される厚さ1085nmの圧電体を形成した。
【0092】
その後、当該圧電体上に、DCスパッタリング法によりイリジウムおよびチタンをこの順で成膜ことにより、第2電極の1層目のための厚さ5nmのイリジウム膜、および、第2電極の2層目のための厚さ4nmのチタン膜をそれぞれ形成した。その後、窒素雰囲気下でランプアニールにより740℃で1分間にわたり加熱処理を行った。
【0093】
次に、圧電体を前述の第2電極の1層目および2層目のための膜と一括してイオンミリング法によりパターニングした。
【0094】
その後、第2電極の2層目の上に、DCスパッタリング法によりイリジウムおよびチタンをこの順でさらに成膜することにより、第2電極の3層目のための厚さ6nmのイリジウム膜、および、第2電極の4層目のための厚さ25nmのチタン膜をそれぞれ形成した。
【0095】
次に、前述の第2電極の3層目および4層目のための膜をイオンミリング法によりパターニングすることにより、共通電極となる第2電極を形成した。その後、NiCrと金との積層体をDCスパッタリング法に形成し、当該積層体をエッチングによりパターニングすることにより、配線を形成した。
【0096】
最後に、単結晶シリコン基板の他方の面をエッチングすることにより、圧力室のための孔を形成した後、圧力室の壁面に酸化タンタルで構成される保護膜をスパッタリング法により形成した。
【0097】
A-2.実施例2
第1電極を共通電極とするとともに第2電極を個別電極とした以外は、前述の実施例1と同様にして、実施例2の圧電素子を製造した。
【0098】
具体的には、実施例1と同様に、振動板を形成した後、第1電極の第1層のためのチタン膜、第1電極の第2層のための白金膜、第1電極の第3層のためのイリジウム膜、および、シード層のためのチタン膜をそれぞれ形成することにより、共通電極となる第1電極およびシード層を形成した。
【0099】
その後、実施例1と同様の方法により、シード層の上に、6層のPZT結晶化膜を積層することにより、PZTで構成される厚さ1085nmの圧電体を形成した。
【0100】
次に、当該圧電体上に、DCスパッタリング法によりイリジウムおよびチタンをこの順で成膜することにより、第2電極の1層目のための厚さ5nmのイリジウム膜、および、第2電極の2層目のための厚さ4nmのチタン膜をそれぞれ形成した。その後、窒素雰囲気下でランプアニールにより740℃で1分間にわたり加熱処理を行った。
【0101】
さらに、第2電極の2層目の上に、DCスパッタリング法によりイリジウムおよびチタンをこの順でさらに成膜することにより、第2電極の3層目のための厚さ6nmのイリジウム膜、および、第2電極の4層目のための厚さ25nmのチタン膜をそれぞれ形成した。
【0102】
次に、圧電体を前述の第2電極の1層目~4層目のための膜と一括してイオンミリング法によりパターニングすることにより、個別電極となる第2電極を形成した。
【0103】
その後、NiCrと金との積層体をDCスパッタリング法に形成し、当該積層体をエッチングによりパターニングすることにより、配線を形成した。
【0104】
A-3.比較例1
第2電極の2層目の形成後のランプアニールにおける加熱温度および加熱時間を変更した以外は、前述の実施例1と同様にして、比較例1の圧電体層を製造した。ここで、当該加熱温度を740℃とし、当該加熱時間を8分間とした。
【0105】
A-4.比較例2
第2電極の2層目の形成後のランプアニールにおける加熱温度および加熱時間を変更した以外は、前述の実施例1と同様にして、比較例2の圧電体層を製造した。ここで、当該加熱温度を740℃とし、当該加熱時間を8分間とした。
【0106】
B.評価
B-1.電気的特性
前述の各実施例および各比較例について、三角波形の電圧を第1電極と第2電極との間に印加したときに圧電素子に流れる電流の変化に基づいて、圧電素子の電気的特性を測定した。その結果を図10図13に示す。なお、実施例2の結果は、図示しないが、実施例1と同様の結果であった。また、比較例2の結果は、図示しないが、比較例1と同様の結果であった。
【0107】
図10および図12に示すように、実施例1では、比較例1に比べて、残留分極の絶対値を小さくするとともに、電圧がゼロ電位となるタイミング付近における電圧変化に対する分極の変化量を大きくすることができる。
【0108】
また、図11に示すように、実施例1では、極大値および極小値のそれぞれの数が2つであるのに対し、図13に示すように、比較例では、極大値および極小値のそれぞれの数が1つであった。
【0109】
B-2.応答性
実施例1および比較例1について、図14中の実線または破線で示す駆動信号を第1電極と第2電極との間に印加したときに圧電素子に流れる電流の変化に基づいて、圧電素子の応答性の評価を行った。
【0110】
ここで、図14中の実線で示す駆動信号は、電圧を10Vから-2.5Vまで1μ秒で変化させた後に-2.5Vのまま6μ秒間維持し、その後、電圧を-2.5Vから22.5Vまで2μ秒で変化させた後に22.5Vのまま6μ秒間維持し、その後、電圧を22.5Vから10Vまで1μ秒で変化させた後に10Vのまま6μ秒間維持する。図14中の破線で示す駆動信号は、電圧を-2.5Vのまま維持する時間を省略した以外は、図14中の実線で示す駆動信号と同様である。
【0111】
図15では、実施例1において、図14中の実線で示す駆動信号を用いた場合に圧電体に生じる電荷の経時的変化が実線で示される。また、図15では、実施例1において、図14中の破線で示す駆動信号を用いた場合に圧電体に生じる電荷の経時的変化が破線で示される。図16では、比較例1において、図14中の実線で示す駆動信号を用いた場合に圧電体に生じる電荷の経時的変化が実線で示される。また、図16では、比較例1において、図14中の破線で示す駆動信号を用いた場合に圧電体に生じる電荷の経時的変化が破線で示される。
【0112】
これらの図からわかるように、実施例1では、駆動電圧を維持する状態における電荷の変化が比較例1に比べて少ない。また、実施例1では、比較例1に比べて、短時間で所望の電荷を生じさせることができる。
【0113】
なお、実施例1、2に記載した圧電素子を備えた液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置において、液体吐出装置からの吐出動作では、制御部は、以下の(1)、(2)のいずれかの電圧を圧電素子に印加することが好ましい。これにより、電気的な効率を不要に低下させず、また、圧電素子の変位とスピードの両立が可能となる。
(1)第6経路RT6または第7経路RT7に対応する電圧以上、かつ、第8経路RT8に対応する電圧以下の範囲の電圧を印加する。なお、第6経路RT6と第7経路RT7の境界電圧、すなわち電圧Vc以上、かつ、飽和正電圧Vp以下の範囲の電圧を印加することが特に好ましい。
(2)第1経路RT1に対応する電圧以上、かつ、第2経路RT2または第3経路RT3に対応する電圧以下の範囲の電圧を印加する。なお、飽和負電圧Vn以上、かつ、第2経路RT2と第3経路RT3の境界電圧、すなわち電圧Va以下の範囲の電圧を印加することが特に好ましい。
【符号の説明】
【0114】
12…媒体、14…液体容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、26…液体吐出ヘッド、30…流路構造体、31…積層体、32…流路基板、34…圧力室基板、36…振動板、44…圧電素子、46…配線基板、48…筐体部、50…駆動回路、52…外部配線、62…ノズル板、64…吸振体、100…液体吐出装置、242…搬送体、244…搬送ベルト、322…供給流路、324…連通流路、326…供給液室、341…孔、342…隔壁部、361…第1層、362…第2層、441…第1電極、442…第2電極、443…圧電体、443X…圧電体、443a…貫通孔、444…シード層、461…配線、462…配線、482…導入口、B…バンプ、C…圧力室、L1…第1列、L2…第2列、N…ノズル、Pm1…飽和分極点、Pm2…飽和分極点、Pr1…残留分極、Pr1X…残留分極、Pr2…残留分極、Pr2X…残留分極、R…液体貯留室、RE…分域、RT1…第1経路、RT2…第2経路、RT3…第3経路、RT4…第4経路、RT5…第5経路、RT6…第6経路、RT7…第7経路、RT8…第8経路、Ra…空間、Rb…空間、V1…電圧、V2…電圧、Vn…飽和負電圧、Vp…飽和正電圧、α…特性、β…特性。
図1
図2
図3
図4
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図10
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