(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ショートアーク型放電ランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/36 20060101AFI20240618BHJP
H01J 61/88 20060101ALI20240618BHJP
H01J 61/20 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01J61/36 B
H01J61/88 C
H01J61/20 C
(21)【出願番号】P 2020089545
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-03-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池野 良亮
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-015070(JP,A)
【文献】特開2007-128755(JP,A)
【文献】特開2010-129170(JP,A)
【文献】特開2008-097884(JP,A)
【文献】特開平10-269941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通し、前記リード棒の軸方向に沿って設けられた空隙であり、
前記空隙は、前記リード棒の外周面の周方向における一部が平面状に切り欠かれたDカット面と、前記支持用筒体の内周面とで構成されることを特徴とす
るショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通し、前記リード棒の軸方向に沿って設けられた空隙であり、
前記空隙は、前記リード棒の外周面のうち軸方向の一部が縮径した縮径部と、前記支持用筒体の内周面とで構成されることを特徴とす
るショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通し、前記リード棒の軸方向に沿って設けられた空隙であり、
前記空隙は、前記リード棒の外周面に設けられた軸方向に沿って延びる第一溝と、前記支持用筒体の内周面とで構成されることを特徴とす
るショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通し、前記リード棒の軸方向に沿って設けられた空隙であり、
前記空隙は、前記支持用筒体の内周面に設けられた前記リード棒の軸方向に沿って延びる第二溝と、前記リード棒の外周面とで構成されることを特徴とす
るショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通し、前記リード棒の軸方向に沿って設けられた空隙であり、
前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面は全周に亘って離間しており、
前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面との間の周方向の一部には、空隙形成部材が配置されており、
前記空隙は、前記空隙形成部材の周方向側面と、前記リード棒の外周面と、前記支持用筒体の内周面とで構成されることを特徴とす
るショートアーク型放電ランプ。
【請求項6】
発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通する螺旋状の空隙であることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項7】
前記螺旋状の空隙は、前記リード棒の外周面に形成された螺旋状の第三溝と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるか、または前記支持用筒体の内周面に形成された螺旋状の第四溝と、前記リード棒の外周面とで構成されることを特徴とする請求項
6に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項8】
前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面は全周に亘って離間しており、
前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面との間には、線状部材を隙間をあけて螺旋状に巻き付けたコイルが配置されており、
前記螺旋状の空隙は、前記コイルの隙間と、前記リード棒の外周面と、前記支持用筒体の内周面とで構成されることを特徴とする請求項
6に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項9】
前記貯留部の下端部は、前記リード棒の下端面より上方に位置することを特徴とする請求項1~
8の何れか1項に記載のショートアーク型放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子、液晶表示素子等の製造工程に用いられる露光装置や、種々の映写機においては、光源としてショートアーク型放電ランプ(以下、単に「ランプ」ともいう)が用いられている。このショートアーク型放電ランプは、放電容器内に陽極および陰極が互いに上下に対向して配置されると共に、陽極又は陰極を先端に有するリード棒は、ガラス製の支持用筒体で支持されて構成されている。また、当該放電容器内には、発光物質として水銀が封入されている。
【0003】
このようなランプは、点灯すると蒸発する水銀が、消灯状態では凝集して下方の電極の根元に滞留している。ここで、垂直点灯される場合には、下方に位置する電極側、すなわち、下方に位置する支持用筒体上に水銀が滞留する。
【0004】
そして、ランプの点灯が開始されると、電極間のアーク放電により加熱された電極からの熱伝導によりリード棒が加熱され、リード棒からの熱伝導で支持用筒体が加熱される。このリード棒や支持用筒体からの熱伝導などによって水銀が加熱され、蒸発する。
【0005】
近年は放射光の発光強度が大きいランプが要求されており、これに伴って、封入される水銀量が増加しているため、支持用筒体の表面上に溜まっている水銀をすみやかに蒸発させることができず、早期に安定点灯することが困難になってきている。
【0006】
このような問題を解決するため、放電容器の発光空間内における陰極側端部に、リード棒に接触した熱伝導板を配置し、点灯時に水銀を速やかに蒸発させる試みがなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術においては、孔を有する熱伝導板にリード棒を通すという構成のため、熱伝導板の孔の内径はリード棒の外径よりも少し大きくする必要があり、リード棒と熱伝導板の間には隙間があることから、リード棒の熱が熱伝導板にうまく伝わらないという問題があった。
【0009】
また、この問題を解消するために、例えばリード棒と熱伝導板とを溶接しようとすると、溶接時の熱でガラス製の支持用筒体が割れる、といった問題が生じた。
【0010】
また、ランプの大型化や長寿命化に伴い、陰極のサイズが大型化し、アークからの放射光が熱伝導板に届かず(陰極の陰になる)、アークの放射による加熱の効果が得られずに、水銀の蒸発促進の効果が小さいという問題も生じた。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑み、点灯時に水銀を速やかに蒸発させることで早期に安定点灯することができるショートアーク型放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るショートアーク型放電ランプは、発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通し、前記リード棒の軸方向に沿って設けられた空隙である。
【0013】
この構成によれば、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が、リード棒に隣接するように設けられているため、水銀はリード棒からの熱伝導で直接加熱される。その結果、本発明のショートアーク型放電ランプは、点灯時に水銀を速やかに蒸発させることで早期に安定点灯することができる。
【0014】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記空隙は、前記リード棒の外周面の周方向における一部が平面状に切り欠かれたDカット面と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるという構成でもよい。
【0015】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記空隙は、前記リード棒の外周面のうち軸方向の一部が縮径した縮径部と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるという構成でもよい。
【0016】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記空隙は、前記リード棒の外周面に設けられた軸方向に沿って延びる第一溝と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるという構成でもよい。
【0017】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記空隙は、前記支持用筒体の内周面に設けられた前記リード棒の軸方向に沿って延びる第二溝と、前記リード棒の外周面とで構成されるという構成でもよい。
【0018】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面は全周に亘って離間しており、
前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面との間の周方向の一部には、空隙形成部材が配置されており、
前記空隙は、前記空隙形成部材の周方向側面と、前記リード棒の外周面と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるという構成でもよい。
【0019】
また、本発明のショートアーク型放電ランプは、発光管部および前記発光管部の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部を有する放電容器と、
前記発光管部の内部に上下に対向配置された一対の電極と、
前記一対の電極にそれぞれ接続され、前記封止管部内を延びる一対のリード棒と、
前記リード棒の外周面と前記封止管部の内周面との間に、前記リード棒を支持するように配置されたガラス製の支持用筒体と、を備え、
前記放電容器の発光空間内に水銀が封入され、垂直点灯されるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極のうち下方に位置する電極に接続された前記リード棒と、このリード棒を支持する前記支持用筒体との間には、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が設けられており、
前記貯留部は、前記発光空間と連通する螺旋状の空隙である。
【0020】
この構成によれば、放電ランプが消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部が、リード棒に隣接するように設けられているため、水銀はリード棒からの熱伝導で直接加熱される。その結果、本発明のショートアーク型放電ランプは、点灯時に水銀を速やかに蒸発させることで早期に安定点灯することができる。
【0021】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記螺旋状の空隙は、前記リード棒の外周面に形成された螺旋状の第三溝と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるか、または前記支持用筒体の内周面に形成された螺旋状の第四溝と、前記リード棒の外周面とで構成されるという構成でもよい。
【0022】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面は全周に亘って離間しており、
前記リード棒の外周面と前記支持用筒体の内周面との間には、線状部材を隙間をあけて螺旋状に巻き付けたコイルが配置されており、
前記螺旋状の空隙は、前記コイルの隙間と、前記リード棒の外周面と、前記支持用筒体の内周面とで構成されるという構成でもよい。
【0023】
本発明のショートアーク型放電ランプにおいて、前記貯留部の下端部は、前記リード棒の下端面より上方に位置するという構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係るショートアーク型放電ランプの構成を示す説明図
【
図2】
図1に示すショートアーク型放電ランプのA領域拡大図
【
図3】
図2に示すショートアーク型放電ランプのB-B断面図
【
図4】ショートアーク型放電ランプの消灯状態における、水銀の貯留の様子を示す図
【
図5】実施例等における点灯開始からのランプ電圧の変化を示すグラフ
【
図6】第2実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【
図7】第3実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【
図8】第4実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【
図9】第5実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【
図10】第6実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【
図11】第7実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【
図12】他の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るショートアーク型放電ランプの実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0026】
以下において、XYZ座標系を適宜参照して説明される。また、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。本実施形態において、水平面は、XY平面に平行であり、鉛直方向は、-Z方向である。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係るショートアーク型放電ランプの構成を示す説明図である。ショートアーク型放電ランプ100(以下、「ランプ100」という)は、放電容器1と、上下に対向配置された陽極2および陰極3と、第1リード棒4と、第2リード棒5と、第1支持用筒体6と、第2支持用筒体7と、を備える。
【0028】
ランプ100は垂直点灯される。本発明の「垂直点灯」とは、一対の電極(陽極2および陰極3)を垂直方向に対向配置した状態での点灯のほか、一対の電極を垂直方向に対して90°以外の角度で傾斜する方向に対向配置した状態での点灯も含む。すなわち、本発明の「垂直点灯」とは、一対の電極を完全に水平方向に対向配置した状態での点灯(水平点灯)を除く概念であり、一対の電極を高さが異なるように配置した状態での点灯を含む。本実施形態のランプ100は、半導体素子、液晶表示素子等の製造工程で使用される露光装置等において用いられる大型のランプであり、例えば定格電力が2kW~35kWである。
【0029】
放電容器1は、発光管部10および発光管部10の上下端からそれぞれ反対方向に連続して延びる第1封止管部11、第2封止管部12よりなる。放電容器1は、例えば石英ガラスにより一体として形成される。
【0030】
発光管部10は、ガラス管の中央を膨らませて形成される。発光管部10は、-Z方向に位置する下端および+Z方向に位置する上端から、それぞれ中央に向かうにつれて、その内径が大きくなるガラス管の領域である。発光管部10の概形は、球体または楕円球体である。
【0031】
第1封止管部11は、発光管部10の上端に連なり、上方(+Z方向)に延びている。また、第2封止管部12は、発光管部10の下端に連なり、下方(-Z方向)に延びている。すなわち、放電容器1は、第1封止管部11と第2封止管部12の間に発光管部10が挟まれるように構成されている。第1封止管部11及び第2封止管部12がそれぞれ有する中心軸は互いに重なり、
図1の軸Z1で示される。また、軸Z1は、発光管部10の中心点を通過するとよい。
【0032】
第1封止管部11は、Z方向の一部が縮径された絞り部11aを有する。絞り部11aは、Z方向に関し、その周囲よりも内径が小さくなっている。また、第2封止管部12は、Z方向の一部が縮径された絞り部12aを有する。絞り部12aは、Z方向に関し、その周囲よりも内径が小さくなっている。
【0033】
発光管部10、第1封止管部11、及び第2封止管部12の内部には、発光空間S1が形成される。発光空間S1には、水銀などの発光物質の他、アルゴンガスやキセノンガスなどの始動補助用バッファガスが封入されている。
【0034】
発光管部10の内部には、陽極2および陰極3が互いに対向して配置されている。陽極2が上側に、陰極3が下側に配置されている。本実施形態において、ショートアーク型放電ランプとは、陽極2と陰極3とが40mm以下の間隔(熱膨張をしていない常温時の値)を空けて、互いに対向配置される放電ランプである。
【0035】
第1リード棒4は、陽極2に接続され、第1封止管部11内をZ方向に延びる。陽極2は、第1リード棒4の先端4aに固定されている。また、第2リード棒5は、陰極3に接続され、第2封止管部12内をZ方向に延びる。陰極3は、第2リード棒5の先端5aに固定されている。第1リード棒4および第2リード棒5の中心軸は、軸Z1と重なるとよい。第1リード棒4および第2リード棒5には、高融点金属、例えばタングステンを含む材料が使用される。
【0036】
口金91は、第1封止管部11の陽極2から遠ざかる側(+Z方向側)を覆い、口金92は、第2封止管部12の陰極3から遠ざかる側(-Z方向側)を覆う。なお、
図1において、口金92は断面図で示し、口金91は側面図で示しているが、口金91及び第1封止管部11の構造は、口金92及び第2封止管部12と同様の構造を有する。そのため、以下では、主として口金92及び第2封止管部12の構造について説明する。
【0037】
第2封止管部12内には、発光管部10に接近した位置にガラス製(例えば石英ガラス製)の第2支持用筒体7が配置されている。第2支持用筒体7は、第2リード棒5の外径より僅かに大きい内径の筒孔を有し、第2リード棒5が挿通される。なお、第2リード棒5と第2支持用筒体7の間には、がたつき防止および溶着防止のための金属箔、例えばモリブデンの箔(不図示)が配置されている。第2リード棒5と第2支持用筒体7が溶着すると、ガラスとタングステンの熱膨張率の差から、第2支持用筒体7にクラックが生じて破損に至る可能性があるため、これを防ぐため金属箔を設けている。また、第2支持用筒体7の外周面は、第2封止管部12の絞り部12aの内周面に気密に溶着されている。
【0038】
第2封止管部12内における第2支持用筒体7の下方には、封止用ガラス部材81が配置されている。封止用ガラス部材81は、第2支持用筒体7に向かって先細りとなったテーパ部81aと、テーパ部81aに連なる胴部81bとを有する。円柱状の胴部81bの外径は、第2封止管部12の内径より僅かに小さい。また、封止用ガラス部材81は、胴部81bの下端から+Z方向に延びる穴81cを有し、穴81cには、外部リード棒82が挿入されている。口金92は、外部リード棒82に電気的に接続される。
【0039】
封止用ガラス部材81の外周面には、モリブデンよりなる複数の帯状の金属箔83が、封止用ガラス部材81の周方向に互いに離間して、封止用ガラス部材81の上端から下端に向かって延びるように配置されており、金属箔83の各々の上端部は、封止用ガラス部材81の上端面に沿って伸びて第2リード棒5に接続され、金属箔83の各々の下端部は、封止用ガラス部材81の下端面に沿って延びて外部リード棒82に接続されている。また、封止用ガラス部材81の外周面は、金属箔83を介して第2封止管部12の内周面に気密に溶着されている。
【0040】
封止用ガラス部材81の下端側には、外部リード棒82の外径に適合する筒孔を有するガラス製の外部リード棒用筒体84が、外部リード棒82が挿通された状態で配置されており、この外部リード棒用筒体84の外周面は、第2封止管部12の内周面に気密に溶着されている。
【0041】
第2リード棒5と、第2リード棒5を支持する第2支持用筒体7との間には、ランプ100が消灯状態のときに水銀を貯留する貯留部S2が設けられている。貯留部S2は、発光空間S1と連通し、第2リード棒5の軸方向に沿って設けられた空隙である。貯留部S2の容積は、発光空間S1内に封入される水銀量によって決定される。
【0042】
図2は、
図1に示すランプ100のA領域拡大図である。
図3は、
図2に示すランプ100のB-B断面図である。本実施形態の貯留部S2は、第2リード棒5の外周面5bの周方向における一部が平面状に切り欠かれたDカット面51と、第2支持用筒体7の内周面7aとで構成される空隙である。Dカット面51は、2個形成されており、2個のDカット面51は、第2リード棒5の中心軸を挟んで互いに対向するように配置されている。ただし、Dカット面51の個数や配置は特に限定されず、例えばDカット面51を1個のみ設けてもよく、3個のDカット面51を第2リード棒5の周方向に等間隔で配置してもよい。
【0043】
第2リード棒5の外周面5bからDカット面51までの距離5rは、例えば0.5~2mmである。また、距離5rは、第2リード棒5の半径5Rの4~40%である。
【0044】
Dカット面51は、第2リード棒5の軸方向中央部に設けられている。また、Dカット面51は、第2支持用筒体7の上端面7bを跨ぐように設けられている。上端面7bからDカット面51の下端部までの距離5zは、発光空間S1内に封入される水銀量によって適宜設定される。距離5zは、例えば5~20mmである。
【0045】
Dカット面51は、第2リード棒5の軸方向中央部に設けられており、第2リード棒5の下端面5cには達していない。すなわち、貯留部S2の下端部は、第2リード棒5の下端面5cより上方に位置している。これにより、水銀が第2リード棒5の下端面5cと接触することはない。
【0046】
次に、ランプ100の動作説明を図面に基づいて説明する。
【0047】
図4は、ランプ100の消灯状態における、水銀の貯留の様子を示す図である。ランプ100の消灯状態においては、
図4に示すように、一対の電極(陽極2および陰極3)のうち下方に位置する電極(本実施形態では陰極3)の下方であって、第2支持用筒体7の上端面7bの上に、水銀Hが凝集して貯留している。さらに、本実施形態のランプ100においては、貯留部S2にも水銀Hが貯留している。
【0048】
ランプ100の点灯が開始されると、電極間のアーク放電により陰極3が加熱される。そして、加熱された陰極3からの熱伝導により、第2リード棒5が加熱される。このとき、本実施形態のランプ100では、貯留部S2が設けられており、貯留部S2において、第2リード棒5と水銀Hが接触しているため、貯留部S2が設けられていないランプと比べて、第2リード棒5と水銀との接触面積が大きくなっている。
【0049】
ランプ100は、水銀Hの蒸発に伴ってランプ電圧が急激に上昇し、最終的に定格電圧に達することで安定的に点灯する。本実施形態のランプ100によれば、第2リード棒5からの熱伝導で水銀Hが直接加熱されるため、第2支持用筒体7の上端面7bに溜まっている水銀Hが速やかに蒸発し、早期に定格電圧に達する。その結果、ランプ100は、早期に安定点灯することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。以下の仕様のショートアーク型放電ランプを作製し、実施例とした。
【0051】
[放電容器]
材質=石英ガラス、全長=175mm、
発光管部:最大外径=140mm、最大内径=127mm、
封止管部:外径=35mm
[陽極]
材質=タングステン、外径=35mm、全長65mm
[陰極]
材質=トリエーテッドタングステン、外径=25mm、全長40mm
[陽極側リード棒]
材質=タングステン、外径=8mm
[陰極側リード棒]
材質=タングステン、外径=10mm
[陽極側支持用筒体]
材質=石英ガラス、全長=29mm、外径=27mm
[陰極側支持用筒体]
材質=石英ガラス、全長=26mm、外径=25mm
[貯留部]
外径10mmの陰極側リード棒の一部を両面Dカット加工(形成する平面同士が対向するような平面加工)した。陰極側リード棒の外周面からDカット面までの距離は2mmとし、貯留部の容量は425mm3とした。
[発光物質]
水銀量=32g
[バッファガス]
キセノンガス:封入圧=1気圧
[極間]
陽極先端と陰極先端の離間距離=17mm
[電気特性]
定格電力=16kW、定格電圧=134V、定格電流=119A
【0052】
上述のショートアーク型放電ランプにおいて、貯留部を設けないランプを比較例とした。実施例等について、点灯開始からのランプ電圧の変化を測定した。測定結果を
図5に示す。電圧は、安定点灯時の電圧を100%として示している。電圧は、発光空間における水銀の蒸気圧の上昇に伴って上昇する。すなわち、電圧は、発光空間における水銀の蒸気圧と相関関係がある。
【0053】
図5に示すように、比較例では約14分で電圧が100%に達し、実施例では約12分で電圧が100%に達した。これにより、本発明のランプは、従来のランプよりも電圧の立ち上がりが早く、より早く安定動作に移行していることが分かる。すなわち、本発明のランプでは、従来のランプと比べて安定動作に移行し、照射が可能となるまでの時間が短い。
【0054】
[第2実施形態]
図6に示す第2実施形態のランプ100において、貯留部S2は、第2リード棒5の外周面5bのうち軸方向の一部が縮径した縮径部52と、第2支持用筒体7の内周面7aとで構成される空隙となっている。縮径部52は、第2リード棒5の軸方向中央部に設けられている。なお、
図6に示す断面図は、
図3と同様に、
図2に示すランプ100のB-B断面図に対応する。後述の
図7~
図9においても同様である。
【0055】
[第3実施形態]
図7に示す第3実施形態のランプ100において、貯留部S2は、第2リード棒5の外周面5bに設けられた軸方向に沿って延びる第一溝53と、第2支持用筒体7の内周面7aとで構成される空隙となっている。この例では、第一溝53は、第2リード棒5の外周面5bに周方向に等間隔で6本形成されている。第一溝53は、第2リード棒5の軸方向中央部に設けられている。
【0056】
[第4実施形態]
図8に示す第4実施形態のランプ100において、貯留部S2は、第2支持用筒体7の内周面7aに設けられた第2リード棒5の軸方向に沿って延びる第二溝71と、第2リード棒5の外周面5bとで構成される空隙となっている。この例では、第二溝71は、第2支持用筒体7の内周面7aに周方向に等間隔で2本形成されている。第二溝71は、第2支持用筒体7の軸方向中央部に設けてもよく、第2支持用筒体7の下端面に達するように設けてもよい。
【0057】
[第5実施形態]
図9に示す第5実施形態のランプ100において、第2リード棒5の外周面5bと第2支持用筒体7の内周面7aは全周に亘って離間しており、第2リード棒5の外周面5bと第2支持用筒体7の内周面7aとの間の周方向の一部には、空隙形成部材57が配置されている。空隙形成部材57は、断面円弧状の部材であり、第2リード棒5の外周面5bの周方向の一部と第2支持用筒体7の内周面7aの周方向の一部とに当接する。空隙形成部材57の厚みは、例えば0.2mm~2mmである。これにより、貯留部S2は、空隙形成部材57の周方向側面57aと、空隙形成部材57が接触しない第2リード棒5の外周面5bと、空隙形成部材57が接触しない第2支持用筒体7の内周面7aとで構成される空隙となっている。
【0058】
[第6実施形態]
貯留部S2は、第2リード棒5と第2支持用筒体7との間に設けられて発光空間S1と連通する螺旋状の空隙であってもよい。
図10に示す第6実施形態のランプ100において、貯留部S2は、第2リード棒5の外周面5bに形成された螺旋状の第三溝54と、第2支持用筒体7の内周面7aとで構成される螺旋状の空隙となっている。貯留部S2を螺旋状の空隙で構成することで、第2支持用筒体7による第2リード棒5の支持機能を担保しつつ、第2リード棒5と水銀との接触面積を大きくすることができる。
【0059】
また、貯留部S2は、第2支持用筒体7の内周面7aに形成された螺旋状の第四溝(不図示)と、第2リード棒5の外周面5bとで構成される螺旋状の空隙でもよい。
【0060】
[第7実施形態]
図11に示す第7実施形態のランプ100において、第2リード棒5の外周面5bと第2支持用筒体7の内周面7aは全周に亘って離間しており、第2リード棒5の外周面5bと第2支持用筒体7の内周面7aとの間には、コイル58が配置されている。コイル58は、線状部材を隙間をあけながら螺旋状に巻いたものであり、第2リード棒5の外周面5bと第2支持用筒体7の内周面7aとに当接する。これにより、貯留部S2は、コイル58の隙間と、第2リード棒5の外周面5bと、第2支持用筒体7の内周面7aとで構成される空隙となっている。
【0061】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0062】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよい。
【0063】
(1)
図2や
図10等に示すランプ100においては、貯留部S2の下端部が、第2リード棒5の下端面5cより上方に位置しているが、これに限定されない。
図11に示すランプ100のように、貯留部S2の下端部が、第2リード棒5の下端面5cと同じ高さに位置してもよい。ただし、第2リード棒5にDカット面51や第一溝53を設ける場合には、Dカット面51や第一溝53が第2リード棒5の下端面5cに達さず、貯留部S2の下端部が、第2リード棒5の下端面5cより上方に位置することが好ましい。
【0064】
(2)上記実施形態に係るランプ100においては、陽極2が上側に、陰極3が下側に配置されているが、これに限定されない。
図12に示すように、陰極3が上側に、陽極2が下側に配置されてもよい。この場合、貯留部S2は、第1リード棒4と第1支持用筒体6との間に設けられる。
【符号の説明】
【0065】
1 :放電容器
2 :陽極
3 :陰極
4 :第1リード棒
5 :第2リード棒
5b :第2リード棒の外周面
5c :第2リード棒の下端面
6 :第1支持用筒体
7 :第2支持用筒体
7a :第2支持用筒体の内周面
7b :第2支持用筒体の上端面
10 :発光管部
11 :第1封止管部
12 :第2封止管部
51 :Dカット面
52 :縮径部
53 :第一溝
54 :第三溝
57 :空隙形成部材
57a :空隙形成部材の周方向側面
58 :コイル
71 :第二溝
100 :ショートアーク型放電ランプ(ランプ)
H :水銀
S1 :発光空間
S2 :貯留部
Z1 :軸