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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】エネルギー管理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240618BHJP
   G06Q 10/08 20240101ALI20240618BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020096779
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021189935
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田原 康佐
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬祐
【審査官】小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071843(JP,A)
【文献】特開2019-144897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵器を複数の地点でやり取りするシステムにおいて、前記可搬貯蔵器へのエネルギーの補給と前記可搬貯蔵器の輸送の計画を管理するエネルギー管理装置であって、
前記複数の地点を含む地理的な構造を表し、各地点に存在する補給器の数及び前記補給器による補給時間が定義されたグラフを取得するグラフ構造入力手段と、
計画期間における各地点でのエネルギーの補給価格を取得する電力価格入力手段と、
前記計画期間における、前記複数の地点の間での前記可搬型貯蔵器の輸送価格及び輸送時間を取得する輸送価格入力手段と、
前記計画期間における各地点での前記可搬型貯蔵器の貸出需要及び返却需要を取得する需要入力手段と、
前記計画期間の開始時における前記可搬型貯蔵器の配置の状況及び前記可搬型貯蔵器の状態を取得する計画開始条件入力手段と、
前記グラフ、前記補給器の数、前記補給時間、前記補給価格、前記輸送価格、前記輸送時間、前記貸出需要、前記返却需要、前記可搬型貯蔵器の配置の状況、及び、前記可搬型貯蔵器の状態に基づいて、前記可搬型貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと前記可搬型貯蔵器の輸送のコストを最適化するための数理最適化問題を生成する最適化問題生成手段と、
前記数理最適化問題から最適解を計算する最適化問題解決手段と、
前記最適解を出力する出力手段と、
を有することを特徴とするエネルギー管理装置。
【請求項2】
前記数理最適化問題は、ネットワークを用いて表現される最小費用流問題であり、
前記最適化問題生成手段は、前記ネットワークの各頂点に、前記可搬型貯蔵器の状態、地点、及び、時間を設定し、頂点と頂点とを結ぶ辺に、前記可搬型貯蔵器の容量、及び、前記補給価格又は前記輸送価格を設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のエネルギー管理装置。
【請求項3】
前記最適解は、前記可搬型貯蔵器の貸出サービスに利用される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエネルギー管理装置。
【請求項4】
前記可搬型貯蔵器の価格が下がる時間又は地点を利用者に提供する手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項3に記載のエネルギー管理装置。
【請求項5】
前記貸出サービスは、電動車両に対する貸出サービスである、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のエネルギー管理装置。
【請求項6】
前記最適解は、電動車両の運行計画の支援に用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載のエネルギー管理装置。
【請求項7】
エネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵器を複数の地点でやり取りするシステムにおいて、前記可搬貯蔵器へのエネルギーの補給と前記可搬貯蔵器の輸送の計画を管理するエネルギー管理装置に用いられるコンピュータを、
前記複数の地点を含む地理的な構造を表し、各地点に存在する補給器の数及び前記補給器による補給時間が定義されたグラフを取得するグラフ構造入力手段、
計画期間における各地点でのエネルギーの補給価格を取得する電力価格入力手段、
前記計画期間における、前記複数の地点の間での前記可搬型貯蔵器の輸送価格及び輸送時間を取得する輸送価格入力手段、
前記計画期間における各地点での前記可搬型貯蔵器の貸出需要及び返却需要を取得する需要入力手段、
前記計画期間の開始時における前記可搬型貯蔵器の配置の状況及び前記可搬型貯蔵器の状態を取得する計画開始条件入力手段、
前記グラフ、前記補給器の数、前記補給時間、前記補給価格、前記輸送価格、前記輸送時間、前記貸出需要、前記返却需要、前記可搬型貯蔵器の配置の状況、及び、前記可搬型貯蔵器の状態に基づいて、前記可搬型貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと前記可搬型貯蔵器の輸送のコストを最適化するための数理最適化問題を生成する最適化問題生成手段、
前記数理最適化問題から最適解を計算する最適化問題解決手段、
前記最適解を出力する出力手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵器を管理する装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギー等のエネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵器(例えば電池)を、複数の地点でやり取りする仕組みが提案されている。
【0003】
特許文献1には、電池の余剰がある第1充電ステーションと、電池が不足している第2充電ステーションとが混在している場合、第1充電ステーションにある余剰分の電池を第2充電ステーションに物理的に移動させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-527689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の地点で可搬性貯蔵器をやり取りする場合、可搬性貯蔵器に対するエネルギーの補給(例えば電池の充電)のコストと可搬性貯蔵器の輸送のコストとが掛かり、これら両方のコストを考慮して最適化する技術が求められている。
【0006】
本発明の目的は、エネルギーを貯蔵する可搬性貯蔵器を複数の地点でやり取りする場合において、可搬性貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと可搬性貯蔵器の輸送のコストの両方の最適化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの形態は、エネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵器を複数の地点でやり取りするシステムにおいて、前記可搬性貯蔵器へのエネルギーの補給と前記可搬性貯蔵器の輸送の計画を管理するエネルギー管理装置であって、前記複数の地点を含む地理的な構造を表し、各地点に存在する補給器の数及び前記補給器による補給時間が定義されたグラフを取得するグラフ構造入力手段と、計画期間におけるエネルギーの補給価格を取得する電力価格入力手段と、前記計画期間における、前記複数の地点の間での前記可搬型貯蔵器の輸送価格及び輸送時間を取得する輸送価格入力手段と、前記計画期間における前記可搬型貯蔵器の貸出需要及び返却需要を取得する需要入力手段と、前記計画期間の開始時における前記可搬型貯蔵器の配置の状況及び前記可搬型貯蔵器の状態を取得する計画開始条件入力手段と、前記グラフ、前記補給器の数、前記補給時間、前記補給価格、前記輸送価格、前記輸送時間、前記貸出需要、前記返却需要、前記可搬型貯蔵器の配置の状況、及び、前記可搬型貯蔵器の状態に基づいて、前記可搬型貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと前記可搬型貯蔵器の輸送のコストを最適化するための数理最適化問題を生成する最適化問題生成手段と、前記数理最適化問題から最適解を計算する最適化問題解決手段と、前記最適解を出力する出力手段と、を有することを特徴とするエネルギー管理装置である。
【0008】
前記数理最適化問題は、ネットワークを用いて表現される最小費用流問題であり、前記最適化問題生成手段は、前記ネットワークの各頂点に、前記可搬型貯蔵器の状態、地点、及び、時間を設定し、頂点と頂点とを結ぶ辺に、前記可搬型貯蔵器の容量、及び、前記補給価格又は前記輸送価格を設定してもよい。
【0009】
前記最適解は、前記可搬型貯蔵器の貸出サービスに利用されてもよい。
【0010】
エネルギー管理装置は、前記可搬型貯蔵器の価格が下がる時間又は地点を利用者に提供する手段をさらに有してもよい。
【0011】
前記貸出サービスは、電動車両に対する貸出サービスであってもよい。
【0012】
前記最適解は、電動車両の運行計画の支援に用いられてもよい。
【0013】
本発明の別の形態は、エネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵器を複数の地点でやり取りするシステムにおいて、前記可搬性貯蔵器へのエネルギーの補給と前記可搬性貯蔵器の輸送の計画を管理するエネルギー管理装置に用いられるコンピュータを、前記複数の地点を含む地理的な構造を表し、各地点に存在する補給器の数及び前記補給器による補給時間が定義されたグラフを取得するグラフ構造入力手段、計画期間におけるエネルギーの補給価格を取得する電力価格入力手段、前記計画期間における、前記複数の地点の間での前記可搬型貯蔵器の輸送価格及び輸送時間を取得する輸送価格入力手段、前記計画期間における前記可搬型貯蔵器の貸出需要及び返却需要を取得する需要入力手段、前記計画期間の開始時における前記可搬型貯蔵器の配置の状況及び前記可搬型貯蔵器の状態を取得する計画開始条件入力手段、前記グラフ、前記補給器の数、前記補給時間、前記補給価格、前記輸送価格、前記輸送時間、前記貸出需要、前記返却需要、前記可搬型貯蔵器の配置の状況、及び、前記可搬型貯蔵器の状態に基づいて、前記可搬型貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと前記可搬型貯蔵器の輸送のコストを最適化するための数理最適化問題を生成する最適化問題生成手段、前記数理最適化問題から最適解を計算する最適化問題解決手段、前記最適解を出力する出力手段、として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エネルギーを貯蔵する可搬型貯蔵を複数の地点でやり取りする場合において、可搬型貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと可搬性貯蔵器の輸送のコストの両方の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るエネルギー管理装置を示すブロック図である。
図2】電池状態監視装置と電池状態データの構造を示す図である。
図3】最小費用流問題を示す図である。
図4】最小費用流問題の最適解を示す図である。
図5】電池貸出サービスを実現するためのシステムを示すブロック図である。
図6】予約端末と予約管理装置のそれぞれの構成を示すブロック図である。
図7】GUIの一例を示す図である。
図8】電池貸出サービスの処理の流れを示す図である。
図9】予約に対する価格を計算する流れを示す図である。
図10】より価格の安い予約を提示する処理の流れを示す図である。
図11】エネルギー管理装置と運行計画支援装置とを含むシステムを示すブロック図である。
図12】電池需要シミュレータの概念図である。
図13】電池需要の計算の一例を説明するための図である。
図14】電池需要の計算の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1を参照して、本発明の実施形態に係るエネルギー管理装置について説明する。図1には、本実施形態に係るエネルギー管理装置の構成の一例が示されている。
【0017】
本実施形態に係るエネルギー管理装置10は、エネルギーを貯蔵する可搬性貯蔵器を管理する装置である。可搬性貯蔵器は複数の地点でやり取りされる。エネルギー管理装置10は、可搬性貯蔵器に対するエネルギーの補給のコストと可搬性貯蔵器の輸送のコストの両方の最適化を図る処理を行う。
【0018】
可搬性貯蔵器は、例えば、エネルギー取引サービスにて用いられる。エネルギー取引サービスは、可搬性貯蔵器を複数の地点でやり取り可能にするサービスである。
【0019】
可搬性貯蔵器に貯蔵されるエネルギーは、電気エネルギー(つまり電力)であってもよいし、気体、液体又は固体のエネルギーであってもよい。電気エネルギーの資源は、例えば、化石燃料(例えば、石炭、石油、天然ガス、オイルサンド、シェールガス、メタンハイドレート等)や核燃料等であってもよいし、太陽光や風力や地熱や水力やバイオマス等であってもよい。つまり、電気エネルギーの資源は、枯渇性エネルギーであってもよいし、再生可能エネルギーであってもよい。
【0020】
以下では一例として、エネルギーは電気エネルギーであり、可搬性貯蔵器は電力を充放電可能な電池であるものとする。電池は複数の地点でやり取りされ、エネルギー管理装置10は、電池の充電のコストと電池の輸送のコストの両方の最適化を図る処理を行う。
【0021】
以下、エネルギー管理装置10の構成について説明する。
【0022】
グラフ構造入力部11は、計画対象の地理的な構造を表すグラフのデータをエネルギー管理装置10に入力するように構成されている。グラフ構造入力部11は、そのグラフのデータを外部システムから取得してもよい。グラフのデータは、ストレージ装置19に記憶されてもよい。計画対象の地理的な構造が変更された場合、グラフ構造入力部11は、その変更後の構造を表す新たなグラフのデータをエネルギー管理装置10に入力し、その新たなグラフのデータをストレージ装置19に記憶させる。これにより、ストレージ装置19に記憶されているグラフのデータが更新される。
【0023】
グラフには、電池がやり取りされる複数の地点が表されている。また、グラフには、各地点に存在する充電器の数(グラフの頂点から正整数への写像)、及び、充電時間(グラフの頂点から自然数への写像)が定義されている。充電器は電池の充電に用いられる。充電時間は、電池の充電に掛かる時間である。例えば、充電時間は、電池の状態を満充電にするまでに要する時間である。充電器は補給器の一例に相当し、充電時間は補給時間の一例に相当する。
【0024】
電力価格入力部12は、電力価格を示すデータをエネルギー管理装置10に入力するように構成されている。電力価格は、実際の値であってもよいし、予測値であってもよい。例えば、電力価格入力部12は、計画期間内における電力価格を示すデータをエネルギー管理装置10に入力する。電力価格入力部12は、電力価格を示すデータを外部システム(例えば、電力卸売業者のシステムや小売り業者のシステム等)から取得してもよい。電力価格は、地点や日時等に依存して変更されてもよい。電力価格は、エネルギーの補給価格の一例に相当する。
【0025】
輸送価格入力部13は、電池の輸送価格を示すデータと輸送時間を示すデータとをエネルギー管理装置10に入力するように構成されている。輸送価格は、電池をある地点から別の地点に輸送するのに要する価格である。輸送時間は、その輸送に要する時間である。輸送価格と輸送時間は、実際の値であってもよいし、予測値であってもよい。例えば、輸送価格入力部13は、計画期間内における輸送価格を示すデータと輸送時間を示すデータとをエネルギー管理装置10に入力する。輸送価格入力部13は、輸送価格を示すデータと輸送時間を示すデータとを外部システム(例えば輸送業者のシステム等)から取得してもよい。輸送価格や輸送時間は、地点や日時等に依存して変更されてもよい。
【0026】
電池需要入力部14は、電池需要を示すデータをエネルギー管理装置10に入力するように構成されている。電池需要は、実際の値であってもよいし、予測値であってもよい。例えば、電池需要入力部14は、計画期間内における電池需要を示すデータをエネルギー管理装置10に入力する。電池需要は、例えば、電池の貸出(つまり電池の利用開始)又は電池の返却(つまり電池の利用終了)と、地点と、時間との組によって構成される。電池がレンタルされて利用される場合(例えば、電池の利用形態がレンタルサービスである場合)、電池需要入力部14は、そのレンタルの予約を管理する予約システムから電池需要を示すデータを取得してもよい。例えば、ユーザが、電池を利用する時間帯を指定して電池の利用を予約し、その予約が予約管理システムにて管理される。その予約が電池需要に反映され、電池需要入力部14は、その電池需要を示すデータを取得する。
【0027】
計画開始条件入力部15は、計画開始時の条件を示すデータをエネルギー管理装置10に入力するように構成されている。その条件を示すデータは、例えば、計画開始時における各地点での電池の配置の状況(例えば、各地点に配置されている電池の数)を示すデータ、計画開始時における各電池の充電の状態(例えば、満充電又は未充電等)を示すデータ、計画期間の終了時にて要求される各地点での電池の配置の状況(例えば、終了時にて要求される各地点での電池の数)を示すデータ、及び、計画期間の終了時にて要求される各電池の充電の状態(例えば、満充電又は未充電等)を示すデータを含む。
【0028】
例えば、電池を管理する場所に配置されている端末装置や、電池自体に取り付けられた端末装置が、電池の位置及び状態を監視し、電池の位置及び状態を示す電池状態データをエネルギー管理装置10に送信してもよい。
【0029】
図2には、このような端末装置と電池状態データの構成例とが示されている。電池状態監視装置20は、上記の端末装置の一例に相当し、電池の位置及び状態を監視し、電池の位置及び状態を示す電池状態データをエネルギー管理装置10に送信する。電池の位置を示すデータは、例えば、GPS(Global Positioning System)等によって取得される。電池の状態は、SOC(State Of Charge)やSOH(State Of Health)等で定義されてもよいし、満充電又は未充電のいずれかの状態で定義されてもよい。なお、満充電は、電池の貸出が可能な状態であり、未充電は、電池の貸出が不可能な状態である。満充電は、予め定められた上限電力以上の電力が電池に充電された状態であってもよいし、充電の状態が100%であってもよい。未充電は、予め定められた下限電力未満の電力が電池に受電された状態であってもよいし、充電の状態が0%であってもよい。本実施形態では一例として、充電の状態は、満充電又は未充電のいずれかである。
【0030】
上記のようにして得られた電池状態データが統合され、グラフの頂点集合と電池の状態の直積集合とに基づいて、電池の数への写像が定義される。
【0031】
計画期間の終了時にて要求される各電池の配置の状況と各電池の充電の状態は、例えば、管理者によって設定される。グラフの頂点集合と電池の状態の直積集合とに基づいて、電池の数への写像が定義される。詳細な設定では、グラフ上の各頂点(例えば地理的な場所)に対して電池の数が設定され、各電池の状態が設定される。より粗い設定では、地理的な場所や電池の状態が設定されず、電池の総数が設定される。
【0032】
最適化問題生成部16は、上記のようにしてエネルギー管理装置10に入力された各データに基づいて、電池の充電のコストと電池の輸送のコストの両方を最適化するための数理最適化問題を生成するように構成されている。数理最適化計画は、一般的には数理線形計画として定式化され得るが、ここでは一例として、最適化問題生成部16は、効率的に解くことができる、拡張ネットワーク上の最小費用流問題を生成する。つまり、最小費用流問題はネットワークを用いて表現される。以下、その生成の手順について説明する。
【0033】
まず、最適化問題生成部16は、拡張ネットワーク(例えば有向グラフ)の頂点を生成する。最適化問題生成部16は、電池状態s∈{d,f}(dは未充電、fは満充電)、元のグラフにおける頂点の番号i、及び、時間t={0,1,・・・,M}を用いて、拡張ネットワークの頂点にs(t)のラベルを付ける。電池需要は、拡張ネットワークの頂点の属性(頂点から整数への写像)とみなせる。電池貸出需要はs=fの頂点に対する正の需要として表され、返却需要はs=dの頂点に対する負の需要として表される。
【0034】
次に、最適化問題生成部16は、拡張ネットワークの辺(頂点と頂点とを結ぶ辺)を生成する。最適化問題生成部16は、各辺に2つの整数の属性(電池の容量とコスト)を設定する。コストは、電池の充電のコスト、又は、電池の輸送のコストである。最適化問題生成部16は、すべての頂点に対して以下の手順に従って辺を生成する。行先の頂点が存在しない場合、最適化問題生成部16は辺を生成しない。
【0035】
[保存辺]s(t)からs(t+1):容量は∞、コストは0。
【0036】
「保存」は、充電も輸送も行われない。「保存辺」には、電池の状態(つまり容量)と電池の場所が変わらないことが設定される。電池の状態と電池の場所が変わらないため、コストは0である。
【0037】
[充電辺]d(t)からf(t+τ):容量は元のグラフに対して定義されていた頂点iにある充電器数、τは充電時間、コストは電力価格入力部12にて入力された電力価格。
【0038】
「充電辺」には、電池が充電されること、つまり、電池の状態が未充電(d)から満充電(f)に充電されることが設定される。
【0039】
[輸送辺]d(t)からd(t+τ)、又は、f(t)からf(t+τ):頂点jはグラフ上にて頂点iに隣接する頂点、容量は∞、τとコストは、輸送価格入力部13にて入力された輸送時間と輸送価格である。
【0040】
「輸送辺」には、未充電又は満充電の電池が、頂点iから頂点jに輸送されることが設定される。
【0041】
次に、最適化問題生成部16は、初期条件を表す頂点と辺を生成する。
【0042】
[初期条件]計画開始条件入力部15にて入力された初期条件に従って、初期状態を表す頂点(需要=-(状態s、頂点iの電池数))と、その頂点からs(0)への辺(容量=∞、コスト=0)を設定する。
【0043】
[終端条件]計画開始条件入力部15にて入力された終端条件に従って、終端状態を表す頂点(需要=+(条件に対応する電池数))と、条件に対応する頂点S(M)から終端状態を表す頂点への辺(容量=∞、コスト=0)を設定する。
【0044】
最適化問題解決部17は、最適化問題生成部16によって生成された最適化問題を解くように構成されている。最適化問題を解く手法として、公知の手法(例えば、ネットワーク単体法やコストスケーリング法等)が用いられる。
【0045】
結果表示部18は、最適化問題解決部17によって得られた最適解を出力するように構成されている。例えば、結果表示部18は、最適解をディスプレイに表示させる。最適解は、数値や表の形式で表示されてもよいし、グラフが小さい場合や計画期間が短い場合、グラフの形式で表示されてもよい。
【0046】
ストレージ装置19は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)やソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)等によって構成されている。
【0047】
図3には、上記のようにして生成された、拡張ネットワーク上の最小費用流問題の一例が示されている。このネットワークの基になるグラフは、2つの頂点(つまり、地点i=0と地点i=1)を有するグラフである。上述した手順に従って値が設定されて、図3に示されている最小費用流問題が生成される。以下、図3に示されている最小費用流問題について説明する。
【0048】
各頂点は、「N/s(t)」と表現されている。Nは電池の需要を示しており、sは電池の状態を示しており、iは地点を示しており、tは時間を示している。
【0049】
頂点「N/biM」は初期条件に従って設定されており、頂点「N/bfM」は終端条件に従って設定されている。
【0050】
各辺は、「cap/cost」と表現されている。充電辺においては、capは充電器数であり、costは電力価格である。輸送辺においては、capは容量=∞であり、costは輸送価格である。
【0051】
例えば、頂点「-1/d(0)」は、地点i=0、時間t=0にて、電池が未充電であることを表している。この電池が充電も輸送もされず、時間t=0から時間t=1に時間が経過した状態を表している頂点が、頂点「0/d(1)」である。これらの頂点は、保存辺によって結ばれている。また、時間t=0から時間t=2の間に、この電池が地点i=0から地点i=1まで輸送された状態を表している頂点が、頂点「0/d(2)」である。これらの頂点は、輸送辺(∞/2)によって結ばれている。値「2」は、輸送のコスト(つまり輸送価格)を表している。
【0052】
また、頂点「1/d(0)」は、地点i=1、時間t=0にて、電池が未充電であることを表している。時間t=0から時間t=1の間に、この電池が充電された状態を表している頂点が、頂点「1/f(1)」である。これらの頂点は、充電辺(1/1)によって結ばれている。つまり、この充電辺は、1つの充電器によって電池が充電され、その充電のコスト(つまり電力価格)が「1」であることを表している。
【0053】
他の頂点及び辺についても、上述した手順に従ってグラフに設定される。
【0054】
上述したように、各辺は、各時間において電池を保存する(充電及び輸送を行わない)、充電する、又は、輸送するのいずれかが設定されており、最小費用流問題を解くことで、充電のコストと輸送のコストの両方を最小化することができる。
【0055】
図4には、最適化問題解決部17によって得られた最適解が示されている。頂点は、図3に示されている頂点と同じである。図4に示されている辺は、流れf(例えば電池の個数)を表している。ラベルの無い辺では流れは0である。
【0056】
結果表示部18では、流れfの値が表示されてもよいし、図4に示されているグラフ自体が表示されてもよい。
【0057】
上記のように、本実施形態に係るエネルギー管理装置10によれば、電池の充電のコストと輸送のコストの両方を考慮した数理最適化問題(例えば最小費用流問題)を生成し、その問題を解くことで、最小化された充電コストと輸送コストを提供することができる。
【0058】
以下、エネルギー管理装置10の応用例について説明する。
【0059】
図5を参照して、エネルギー管理装置10を利用した電池貸出サービスの実施例について説明する。図5には、電池貸出サービスを実現するためのシステムの一例が示されている。電池を使用する機器は、一例として、電池を追加で搭載して航続距離を延ばすことができる電動車両等である。
【0060】
グラフ構造入力部11には、計画対象の地理的な構造を表すグラフのデータが地理情報システムから入力される。電力価格入力部12には、電力価格を示すデータが電力卸売/小売市場システムから入力される。輸送価格入力部13には、電池の輸送価格を示すデータが電池輸送業者システムから入力される。電池需要入力部14には、電池需要を示すデータが電池貸出システムから入力される。
【0061】
電池貸出サービスには、主に、「電池管理者」、「電池利用者」、「電池輸送業者」及び「電力会社」が関わる。ここでは一例として、電池管理者が電池を充電する。
【0062】
電池利用者は、予約端末30を利用することで電池の利用の予約等を行う。電池管理者は、予約管理装置40を利用することで電池を管理する。
【0063】
図6には、予約端末30と予約管理装置40のそれぞれの構成が示されている。予約端末30は、例えば、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」と称する)、タブレットPC、スマートフォン、又は、携帯電話等である。予約端末30には、グラフィカルユーザインターフェース(以下、「GUI」と称する)を実現するソフトウェアがインストールされている。予約端末30は、予約管理装置40に対してクライアントとして動作する。
【0064】
予約端末30のGUIの主要部分は、予約可能地点表示部31である。図7には、その予約可能地点表示部31の一例が示されている。予約可能地点表示部31には、地図が表示されている。その地図上には、電池の貸出が可能な地点(その地点はグラフの頂点に相当する)と、その地点での予約可能状況とが表示される。図7に示す例では、地点A,Bのそれぞれでの電池の貸出可能時間が表示されている。同じGUI上で、電池の返却の予約も可能である。利用者が、GUI上で、電池の利用を予約したい地点と時間を選択すると、その地点と時間とを含む予約要求が、予約端末30の情報送信部から予約管理装置40に送信される。なお、予約端末30の予約新規作成部は、予約を新規に作成するように構成されている。
【0065】
予約管理装置40は、エネルギー管理装置10と協働して動作する。予約管理装置40の最適化インターフェイス部は、エネルギー管理装置10との間で情報を送受信する。予約管理装置40の情報受信部は、予約端末30から送信される予約要求を受信するサーバとして機能する。予約管理装置40の予約情報処理部は、情報受信部が受信した情報を受け付けたり、その情報を削除したり、その情報をストレージに記憶させたりする。予約管理装置40は予約情報表示部41等のGUIを含んでもよい。図7に示すように、予約情報表示部41には、各地点での電池の利用の予約状況等が表示される。なお、予約情報表示部41に表示される各情報は、予約端末30に表示されてもよい。予約管理装置40の予約価格計算部は、電池の利用の価格を計算するように構成されている。
【0066】
以下、図8を参照して、電池貸出サービスの処理の流れについて説明する。
【0067】
次の計画期間における輸送価格と時間の予測値が、電池輸送業者システムから電池管理者の予約管理装置40に送信される(S01)。また、電力価格の予測値が、電力卸売/小売市場システム(電力会社)から予約管理装置40に送信される(S02)。各予測値は、予約管理装置40からエネルギー管理装置10に送信される。
【0068】
電池利用者は、予約端末30を操作することで、電池の貸出を受ける時間と地点(つまり、電池を借りる時間と地点)、及び、電池を返却する時間と地点を指定し、各時間と各地点とを示す情報を、電池貸出予約システムを介して予約管理装置40に送信する(S03)。予約管理装置40に送信された各情報は、エネルギー管理装置10に送信される。
【0069】
エネルギー管理装置10は、受信した情報に基づいて、次の計画期間が始まる前に、最適充電輸送計画を作成する(S04)。つまり、エネルギー管理装置10は、最小費用流問題を生成し、その最小費用流問題を解くことで最適解を得る。その最適解が、最適充電輸送計画に反映される。
【0070】
電池管理者は、その最適充電輸送計画に従い、電池輸送の要求を輸送業者に送り(S05)、電力購入の要求を電力会社に送る(S06)。
【0071】
次の計画期間においては、上記の内容に基づいて、電池の貸出、返却、充電及び輸送が行われる(S07)。
【0072】
電池利用者が電池貸出サービスを用いて貸出と返却を予約する際に、「計画開始時点で電池が多い地点で貸出する」、「計画開始時点で電池が少ない地点に返却する」、「電力価格が安い時間に返却する」といった行動は、電池管理者側の充電及び輸送コストを減らす作用がある。貸出料金を安くする等のインセンティブを設けることで、このような選択を電池利用者に推奨すれば、運用コストを低減することができ、電池利用者と電池管理者の双方にとって利点がある。これを実現するために、予約管理装置40は、エネルギー管理装置10との間のインターフェイスを利用して、予約に対する価格を計算する。
【0073】
その価格は、例えば図9に示されているフローに従って計算される。すなわち、現時点での予約状況(地点、時間のリスト)に、ある地点のある時間の予約1件を加えたものを仮の需要として、エネルギー管理装置10は運用コスト(充電と輸送のコスト)を計算し、予め定められた係数をその運用コストに乗算することで、予約に対する価格を計算する。この価格計算フローは、バックグランドで実行され、予約が新に確定する度に価格が更新される。
【0074】
以上のようにして計算された予約価格は予約端末30に表示され、電池利用者は、自分の予約を行う際に予約価格を参照することができる。
【0075】
更に、電池利用者による検索の手順を省くために、より価格の安い予約を提示する仕組みが導入されてもよい。図10には、この仕組みのフローが示されている。
【0076】
電池管理者の予約管理装置40は、利用者の予約要求を受信し(S10)、事前に設定した範囲で、時間と地点とを変化させた価格を取得する(S11)。
【0077】
価格が下がる時間又は地点が存在しない場合(S12,No)、予約管理装置40は、予約完了を電池利用者の予約端末30に通知し(S13)、処理は終了する。
【0078】
価格が下がる時間又は地点が存在する場合(S12,Yes)、予約管理装置40は、その時間や地点を予約端末30に提示する(S14)。予約管理装置40は、価格の下がり幅が大きい条件(時間と地点)を予約端末30に提示してもよい。
【0079】
電池利用者は、提示された条件を比較し、予約端末30を操作することで、1つの条件(時間と地点)を選択する(S15)。その選択された条件を示す情報は、予約端末30から予約管理装置40に送信される。予約管理装置40は、電池利用者によって選択された条件に従って電池の利用を予約し、その予約完了を予約端末30に通知する(S16)。これにより処理は終了する。
【0080】
以下、図11を参照して、エネルギー管理装置10と電動車両の運行計画支援装置50とを含むシステムについて説明する。
【0081】
電動車両の運用は、電動バスの定期運行や、工場における電動フォークリストの運用等である。電動車両は、電池を着脱や交換することでエネルギーを補給することができる車両である。ここでは一例として、利用者が、電池を利用する機器(例えば電動車両)、電池、電池を輸送する機器(例えばトラック)、充電器、再生可能エネルギー源等を所有するものとする。このような場合においても、エネルギー管理装置10を利用することで、電気代や輸送費等のコストを低減することができる。
【0082】
再生可能エネルギー源だけでは電力が足りない場合、足りない分の電力は、電力市場から購入することができ、電力コストは事前に計算できるものとする。
【0083】
また、地理情報(つまりグラフ構造)や電池の輸送価格は、利用者が予め設定する。運行計画は、各電動車両の地理的な移動経路を表す(時間、地点)の列である。利用者が必要とする運用に関して地理的な自由度がある場合、別の装置を利用して運行計画を作成して入力してもよい。例えば、始点と終点のみが決まっていて、経路に制約がない場合、最短経路問題を解いて経路を生成して運行計画を生成してもよい。地理データ入力部によって地理情報が入力され、電池輸送価格入力部によって輸送価格が入力され、運行計画入力部によって運行計画が入力される。運行計画支援装置50は、電池需要シミュレータ部51を含む。電池需要シミュレータ部51は、電池の需要を計算するように構成されている。
【0084】
図12には、電池需要シミュレータの概念が示されている。電池需要シミュレータ部51は、運行計画に基づいて電動車両のエネルギー消費をシミュレーションし、始点から終点までの間の経路上のどこの地点(例えば電池交換地点(例えば地点A,B))で電池の交換が必要であるのかを算出し、電池需要を計算する。
【0085】
図13及び図14には、1台の車両に関する電池需要の計算の一例が示されている。
【0086】
図13に示すように、電池需要シミュレータ部51によって、電池交換パターン(例えば電池交換が行われる地点のリスト)が計算される。ここでは、経路の途中でエネルギー切れを起こさない「実行可能なパターン」のみが列挙される。実行可能なパターンがない場合、その旨を利用者に通知することで、運行計画の修正を利用者に促してもよい。
【0087】
また、図14に示すように、列挙されたパターンのうち、電池交換回数が最も少なく、残エネルギーが大きいパターンを、電池需要として採用してもよい。すべての車両の運行計画に対して上記の処理を繰り返し実行することで、電池需要を計算する。計算された電池需要はエネルギー管理装置10に入力され、エネルギー管理装置10によって、電池の充電と輸送の計画が生成される。
【0088】
上記のエネルギー管理装置10、電池状態監視装置20、予約端末30、予約管理装置40及び運行計画支援装置50のそれぞれは、一例としてハードウェア資源とソフトウェアとの協働により実現される。具体的には、これらの装置はそれぞれ、図示しないCPU等のプロセッサを備えている。当該プロセッサが、図示しない記憶装置に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、これらの装置の各部の機能が実現される。上記プログラムは、CDやDVD等の記録媒体を経由して、又は、ネットワーク等の通信経路を経由して、記憶装置に記憶される。別の例として、これらの装置の各部は、例えばプロセッサや電子回路等のハードウェア資源により実現されてもよい。その実現においてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。別の例として、各部は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10 エネルギー管理装置、11 グラフ構造入力部、12 電力価格入力部、13 輸送価格入力部、14 電池需要入力部、15 計画開始条件入力部、16 最適化問題生成部、17 最適化問題解決部、18 結果表示部、19 ストレージ装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14