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特許7505282光電変換素子及び光電変換層形成用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】光電変換素子及び光電変換層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20240618BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20240618BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240618BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/50
B82Y20/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020104432
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021197500
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 瑞穂
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0276734(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0129302(US,A1)
【文献】特開2014-124715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H01L 31/00-31/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に光電変換層を有してなる光電変換素子であって、光電変換層が、下記一般式(1)で示される表面処理剤と半導体粒子とを含んでなる光電変換素子であって、
半導体粒子が、波長700~2500nmの電磁波を吸収し得る光電変換素子
一般式(1) : Q-R1-X-(R2-O)n-R3
[一般式(1)中、Qはスルファニル基、アルキルスルファニル基、又は硫黄原子を有する一価の複素環基であり、R1は直接結合又はアルキレン基であり、Xはエステル結合であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基であり、nは1以上の整数である。]
【請求項2】
半導体粒子が、化合物半導体を含んでなる請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
半導体粒子が、PbS、PbSe及びAg2Sからなる群より選ばれる一種以上を含んでなる請求項又は記載の光電変換素子。
【請求項4】
下記一般式(1)で示される表面処理剤と半導体粒子とを含んでなる光電変換層形成用組成物であって、半導体粒子が、波長700~2500nmの電磁波を吸収し得る光電変換層形成用組成物
一般式(1) : Q-R1-X-(R2-O)n-R3
[一般式(1)中、Qはスルファニル基、アルキルスルファニル基、又は硫黄原子を有する一価の複素環基であり、R1は直接結合又はアルキレン基であり、Xはエステル結合であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基であり、nは1以上の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及び光電変換層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを電気エネルギーに変える光電変換素子は、太陽電池、光センサー、複写機などに利用されている。これらの内、光エネルギーとして近赤外光を使用した光センサーは、暗視、測距、セキュリティ、半導体ウエハ検査等への用途展開が注目されている。
【0003】
ところで近年、PbS等の半導体粒子(量子ドット)を光電変換素子や太陽電池等の光電変換の材料に用いることが報告されている。例えば、非特許文献1には、PbSeの半導体粒子の周囲のオレイン酸をエタンジチオールに置換する事によって、半導体粒子同士が近接化し、電気伝導性が向上することが開示されている。また、特許文献1には、CdS等の複数の超微粒子がベンゼンジチオール等の分子鎖で結合された超微粒子が記載されており、光学材料、電子材料等の各種用途に使用可能であることが開示されている。更に、特許文献2には、PbSeの半導体粒子の周囲のオレイン酸を2-アミノエタン-1-チオール等に置換する事によって、半導体粒子同士がより近接化し、高い光電流値が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-60109号公報
【文献】国際公開第2014/103536号
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.M.Lutherら著、「Structural, Optical, and Electrical Properties of Self-Assembled Films of PbSe Nanocrystals Treated with 1,2-Ethanedithiol」、(ACS Nano 2008, 2,2,271―280)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、高い光電流値を示す光電変換素子を作製し得るものの、素子の経時での耐久性が低いという問題があった。したがって、本発明が解決しようとする課題は、優れた耐久性を有する光電変換素子とそれを得るための光電変換層形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、一対の電極間に光電変換層を有してなる光電変換素子であって、光電変換層が、下記一般式(1)で示される表面処理剤と半導体粒子とを含んでなる光電変換素子に関する。
一般式(1) : Q-R1-X-(R2-O)n-R3
[一般式(1)中、Qはスルファニル基、アルキルスルファニル基、又は硫黄原子を有する一価の複素環基であり、R1は直接結合又はアルキレン基であり、Xはエステル結合であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基であり、nは1以上の整数である。]
【0008】
また、本発明は、上記半導体粒子が、化合物半導体を含んでなる上記光電変換素子に関する。
【0009】
また、本発明は、上記半導体粒子が、波長700~2500nmの電磁波を吸収し得る上記光電変換素子に関する。
【0010】
また、本発明は、上記半導体粒子が、PbS、PbSe及びAg2Sからなる群より選
ばれる一種以上を含んでなる上記光電変換素子に関する。
【0011】
また、本発明は、上記一般式(1)で示される、分子量が250以下の表面処理剤と半導体粒子とを含んでなる光電変換層形成用組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性に優れる光電変換素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<光電変換層>
光電変換層は、電荷分離に寄与し、電磁波(主として光)の吸収によって生じた電子及び正孔をそれぞれ反対方向の電極に向かって輸送する機能を有しているが、本発明に用いられる光電変換層は、一般式(1)で示される表面処理剤と半導体粒子とを含んでなる。
【0014】
<半導体粒子>
光電変換層は、半導体粒子を含有する。半導体粒子とは、半導体からなる粒子を指すが、平均粒径0.5nm~100nmの粒子であることが好ましい。半導体粒子の平均粒径は、安定性及び光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは1.5nm以上、更に好ましくは2nm以上であり、成膜性及び光電変換効率を向上させる観点から、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。尚、本明細書における半導体粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡観察によって測定した数値である。半導体粒子は、化合物半導体を含有することが好ましい。化合物半導体としては、周期表1族元素、2族元素、10族元素、11族元素、12族元素、13族元素、14族元素、15族元素、16族元素及び17族元素からなる群から選ばれる少なくとも2種以上の元素を含む化合物からなる半導体であることが好ましい。半導体粒子は、波長700~2500nmの電磁波を吸収し得ることが好ましい。波長700~2500nmの電磁波は、一般に近赤外光(近赤外線ともいう)と呼称され、半導体粒子が波長700~2500nmの電磁波を吸収し得るためには、半導体粒子が波長700~2500nmの電磁波を吸収し得る化合物半導体を含有することが好ましい。波長700~2500nmの電磁波を吸収し得る化合物半導体としては、例えば、ペロブスカイト結晶構造を有する化合物半導体や金属カルコゲナイド(例えば、酸化物、硫化物、セレン化物、及びテルル化物など)が挙げられる。ペロブスカイト結晶構造を有する化合物半導体としては、具体的には、CH3NH3PbF3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbI3、CsPbF3、CsPbCl3、CsPbBr3、CsPbI3、RbPbF3、RbPbCl3、RbPbBr3、RbPbI3、KPbF3、KPbCl3、KPbBr3、KPbI3などが挙げられる。また、金属カルコゲナイドとしては、具体的には、PbS、PbSe、PbTe、CdS、CdSe、CdTe、Sb23、Bi23、Ag2S、Ag2Se、Ag2Te、Au2S、Au2Se、Au2Te、Cu2S、Cu2Se、Cu2Te、Fe2S、Fe2Se、Fe2Te、In2S3、SnS、SnSe、SnTe、CuInS2、CuInSe2、CuInTe2、Eu
S、EuSe、EuTeなどが挙げられる。これらの中でも、PbS、PbSe、Ag2Sが好ましい。
【0015】
<一般式(1)で表される表面処理剤>
まず、一般式(1)の置換基について説明する。
一般式(1) : Q-R1-X-(R2-O)n-R3
[一般式(1)中、Qはスルファニル基、アルキルスルファニル基、又は硫黄原子を有する一価の複素環基であり、R1は直接結合又はアルキレン基であり、Xはエステル結合であり、R2はアルキレン基であり、R3はアルキル基であり、nは1以上の整数である。]
【0016】
Qにおけるアルキルスルファニル基中のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0017】
Qにおける硫黄原子を有する一価の複素環基としては、例えば、チエニル基、テトラヒドロチエニル基、テトラヒドロチオピラニル基、チアゾリル基、チオモルフォリニル基等のような、環員原子として硫黄原子を有する複素環基、もしくはピリジル基、ピリミジル基、ピペリジニル基、ピロリジニル基、テトラヒドロピラニル基、フリル基、テトラヒドロフリル基、キノリニル基等の複素環基の水素原子がスルファニル基やアルキルスルファニル基で置換された基が挙げられる。これらは、アルキル基で置換されていてもよい。
【0018】
Qとして、好ましくは、スルファニル基、アルキルスルファニル基、チエニル基又はテトラヒドロチオピラニル基であり、より好ましくは、スルファニル基である。
【0019】
3におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基が挙げられ、直鎖であっても分岐であってもよい。炭素数1~4のアルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0020】
1は、炭素数1~6のアルキレン基であることが好ましい。R1における炭素数1~6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられ、好ましくは炭素数が2又は3のアルキレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
また、nは2であることが好ましい。
【0021】
2は、炭素数2または3のアルキレン基であることが好ましい。R1における炭素数2または3のアルキレン基としては、1,2-エチレン基、1,2-プロピレン基等が挙げられ、好ましくは1,2-エチレン基である。
また、nは1~3の整数であることが好ましく、より好ましくは2である。
【0022】
エステル結合とは、「-COO-」基(オキシカルボニル基)を意味し、R1及びR2と結合を形成する。R1が直接結合の場合には、このエステル結合はQと直接結合することになるが、エステル結合と直接結合するQ中の原子が炭素以外の原子の場合には、エステル結合中の炭素原子(カルボニル炭素)とQとが直接結合することが好ましい。また、エステル結合中の炭素原子(カルボニル炭素)とR1が直接結合することが好ましい。
【0023】
量子ドットの含有比率を向上させ、かつ相溶性を確保する観点から、一般式(1)で示される表面処理剤の分子量は250以下であり、好ましくは100~250であり、より好ましくは150~250であり、特に好ましくは180~230である。
一般式(1)で表される表面処理剤の具体例を表1、2に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
更に、半導体粒子は、有機配位子やハロゲン元素を含んでも良い。有機配位子としては、カルボキシ基含有化合物、アミノ基含有化合物、スルファニル基含有化合物、及びホスフィノ基含有化合物などが挙げられる。
【0027】
<光電変換素子>
本発明の光電変換素子は、一対の電極間に上記光電変換層を有するものである。本発明の光電変換素子において、公知の光電変換素子の構成を適用することができる。また、本発明の光電変換素子は、光電変換層以外は公知の方法で製造することができる。
【0028】
ここで、本発明の光電変換層形成用組成物を用いて作成することができる光電変換素子について詳細に説明する。一般的に、半導体粒子を用いた光電変換素子は、少なくとも一対の電極と光電変換層から構成される。光電変換効率の向上などを目的に、電極と半導体粒子のエネルギー的なマッチングや半導体粒子から成る光電変換層の作製方法などによってさまざまな形の素子構造が提案されている。例えば、本発明の光電変換層形成用組成物を用いて以下に示す公知の構成からなる光電変換素子を作製することができる。
【0029】
1.ショットキー型光電変換素子
電子供与性(p型)又は電子受容性(n型)の半導体粒子と電極との界面において形成されるショットキー障壁を利用し、光起電力を得る光電変換素子である。例えば、p型の光電変換層を用いた場合には、一対の電極の内仕事関数が小さいほうの電極との界面にショットキー障壁が形成され、その界面に電荷分離が生じ光電変換が行われる。
【0030】
2.バイレイヤーヘテロ接合型光電変換素子
一対の電極の間に、電子供与性(p型)及び電子受容性(n型)の半導体粒子やその他の半導体材料を個々に形成し、pn接合界面に光電荷分離を生じさせ光電流を得る光電変換素子である。
【0031】
3.バルクヘテロ接合型光電変換素子
一対の電極の間に、電子供与性(p型)及び電子受容性(n型)の半導体粒子やその他の半導体材料を任意の比率で混合させ有機半導体層を形成する。この際、p型及びn型の材料は均一に分散していても、不均一であっても構わない。個々のp型材料、n型材料が形成する界面で光電荷分離が起こるため、バイレイヤーヘテロ接合型よりもpn接合を広く形成させることが出来る。
【0032】
<電極>
光電変換素子を構成する一対の電極の内、少なくとも一つは光を透過することが好ましい。具体的な例としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、あるいは金、銀、白金、クロム、ニッケル、リチウム、インジウム、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物などが挙げられる。
【0033】
電極の形状としては、フラットな形状が一般的であるが、エネルギー変換効率を向上させるために、波型、ピラミッド型、くし型等の形状であっても良い。これら電極の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、CVD法、化学反応法(ゾルゲル法など)、キャスト法、スプレーコーティング法、インクジェット法、スピンコート法などを挙げることができる。
【0034】
光電変換素子は、一対の電極の間に光電変換層以外の層を備えていてもよく、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、及び/又は、電子注入層を有していてもよい。
【0035】
<正孔注入層>
正孔注入層には、光電変換層に対して優れた正孔注入効果を示し、かつ陽極界面との密着性と薄膜形成性に優れた正孔注入層を形成できる正孔注入材料が用いられる。また、このような材料を多層積層させ、正孔注入効果の高い材料と正孔輸送効果の高い材料とを多層積層させた場合、それぞれに用いる材料を正孔注入材料、正孔輸送材料と呼ぶことがある。これら正孔注入材料や正孔輸送材料は、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.5eV以下と小さい必要がある。このような正孔注入層としては、より低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、更に正孔の移動度が、例えば104~1
6V/cmの電界印加時に、少なくとも10-6cm2/V・秒であるものが好ましい。正孔注入材料及び正孔輸送材料としては、上記の好ましい性質を有するものであれば特に制限はなく、従来、光導伝材料において正孔の電荷輸送材料として慣用されているものや、有機EL素子の正孔注入層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0036】
このような正孔注入材料や正孔輸送材料としては、例えばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、ポリシラン系、アニリン系共重合体、特開平1-211399号公報に開示されている導電性高分子オリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、銅フタロシアニンや水素フタロシアニン等のフタロシアニン誘導体、芳香族ジメチリデン系化合物、p型Si、p型SiC等の無機化合物等が挙げられる。
【0037】
更に、正孔注入層に使用できる材料としては、酸化モリブデン(MnOx)、酸化バナジウム(VOx)、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化銅(CuOx)、酸化タングステン(WOx)、酸化イリジウム(IrOx)等の無機酸化物及びそれらのドープ体も挙げられる。
【0038】
正孔注入材料として、特に好ましい例を表3及び4に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
正孔注入層を形成するには、上述の化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、ラングミュア-ブロジェット法(LB法)等の公知の方法により薄膜化する。正孔注入層の膜厚は、特に制限はないが、通常は5nm~5μmである。
【0042】
<電子注入層>
電子注入層には、光電変換層に対して優れた電子注入効果を示し、かつ陰極界面との密着性と薄膜形成性に優れた電子注入層を形成できる電子注入材料が用いられる。そのような電子注入材料の例としては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、シロール誘導体、トリアリールホスフィンオキシド誘導体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、カルシウムアセチルアセトナート、酢酸ナトリウム等が挙げられる。また、セシウム等の金属をバソフェナントロリンにドープした無機/有機複合材料(高分子学会予稿集,第50巻,4号,660頁,2001年発行)や、第50回応用物理学関連連合講演会講演予稿集、No.3、1402頁、2003年発行記載のBCP、TPP、T5MPyTZ等も電子注入材料の例として挙げられるが、素子作成に必要な薄膜を形成し、陰極からの電子を注入できて、電子を輸送できる材料であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0043】
上記電子注入材料の中で好ましいものとしては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、シロール誘導体、トリアリールホスフィンオキシド誘導体が挙げられる。好ましい金属錯体化合物としては、8-ヒドロキシキノリン又はその誘導体の金属錯体が好適である。
【0044】
更に、電子注入層に使用できる材料としては、酸化亜鉛(ZnOx)、酸化チタン(TiOx)、等の無機酸化物及びそれらのドープ体も挙げられる。
【0045】
特に好ましいオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体及びシロール誘導体の具体例を表5~7に示す。尚、表中のPhはフェニル基を表わす。
【0046】
(オキサジアゾール誘導体)
【表5】
【0047】
(トリアゾール誘導体)
【表6】
【0048】
(シロール誘導体)
【表7】
【0049】
光電変換素子は、上記の各層以外に、その他の構成部材を備えていても良い。例えば、紫外線を透過させない光学膜(フィルタ)を備えていても良い。紫外線は、エネルギーが高いため有機材料を劣化させる一因となる。この紫外線を遮断することにより、素子を長寿命化させることが出来る。
【0050】
外部からの衝撃に対して光電変換層を保護する目的で、保護膜を備えていても良い。保護膜は、例えば、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンポリビニルアルコール共重合体等のポリマー膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜、アルミニウム等の金属板もしくは金属箔、あるいはこれらの積層膜などにより構成することができる。なお、これらの保護膜の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上をも良い。
【0051】
一般に半導体粒子は、空気中の水分や酸素により劣化を招くといわれている。それを防ぐため、バリア膜を備えていても良い。例えば、金属又は無機酸化物が好ましく、Ti、Al、Mg、Zr、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化窒化珪素、酸化窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム等を挙げることができる。これら各種機能性膜を積層させる順番は特になく、これらの機能を併せ持つ機能性膜を用いても良い。
【実施例
【0052】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。なお、特に断りのない限り、全ての測定は25℃で行った。比較例に用いた表面処理剤の構造を表8に示す。
【0053】
【表8】
【0054】
<半導体粒子PbS-0の調製>
まず、硫黄源溶液として、単体硫黄0.40部とオレイルアミン6.0部を反応容器中、窒素雰囲気下、120℃に加熱して均一な溶液をした後、25℃に冷却した。次に、鉛源溶液として、塩化鉛0.32部、オレイルアミン6.0部を別の反応容器中、窒素雰囲気下、120℃に加熱した。その後、鉛源溶液を40℃に調製した後、上記の硫黄源溶液1.8部を一気に加えた。30秒間反応させた後、容器を氷浴に漬けて急冷した後、ヘキサン13部で希釈した。遠心分離(4000rpm、5分間)を行って未反応の原料を除去した後、ブタノール:メタノール=2:1(体積比)からなる混合液を12部加えて半導体粒子を沈降させ、遠心分離(4000rpm、5分間)を行い半導体粒子を回収した。その後、ヘキサン:オレイン酸=1:2(体積比)からなる混合液を24部加えて30分間攪拌し、遠心分離を行い、上澄みを回収した。半導体粒子沈降、再分散、不純物沈降を更に2回繰り返し、最後に半導体粒子を沈降させ、真空乾燥した後、n-オクタンを用いて固形分濃度5%に調製し、半導体粒子PbS-0を得た(平均粒径3.5nm)。
【0055】
<半導体粒子PbSe-0の合成>
鉛源溶液として、酸化鉛0.22部、オレイン酸0.73部、1-オクタデセン10部を反応容器中、窒素雰囲気下、150℃に加熱した。その後、1Mトリオクチルホスフィ
ン-セレン溶液を2.5部とジフェニルホスフィン0.028部からなる混合物を素早く
加え、反応溶液を180℃に加熱した後、160℃に保温し、2分間反応させたあと、反応溶液を急冷した。10部のヘキサンで希釈した後、アセトンで沈殿させた。沈殿物をアセトンで5回洗浄し、真空乾燥させて半導体粒子PbSe-0を得た(平均粒径2.7n
m)。
【0056】
<半導体微粒子Ag2S-0の合成>
0.04部のオレイン酸銀と、8部のオクタンチオールと、4部のドデシルアミンとを反応容器中、Ar雰囲気下、200℃で0.5時間加熱した。この溶液を室温に放冷した後、40部の無水エタノールを添加した。得られた混合物を遠心分離し、真空乾燥させて半導体粒子Ag2S-0を得た(平均粒径2.5nm)。
【0057】
<光電変換層形成用組成物の調製>
<実施例1>
半導体粒子PbS-0を固形分濃度1%のトルエン溶液に調製した。調製した溶液1部と5%表面処理剤1のトルエン溶液1部とを混合した後、12時間撹拌した。トルエンとエタノールを用いて再沈殿法で精製を行った。沈殿を真空乾燥し、n‐オクタンの5重量%溶液として、光電変換形成用組成物PbS-1を調製した。
【0058】
<実施例2~22、比較例1~8>
表面処理剤1を表9に示す表面処理剤に変更した以外は、実施例1と同様にしてPbS-2~24、PbSe-1~3、Ag2S-1~3をそれぞれ調製した。この内、PbS
-2~18、PbSe-1及び2、Ag2S-1及び2は、本発明の光電変換層形成用組
成物であり、PbS-19~24、PbSe-3、Ag2S-3は、本発明の光電変換層
形成用組成物ではない組成物である。
【0059】
【表9】
【0060】
<実施例1>
(光電変換素子の作製)
以下に光電変換素子の作製と評価について説明する。蒸着は、10-6Torrの真空中にて基板の加熱や冷却等の温度制御は行わない条件下で行った。素子の評価は、素子面積2mm×2mmの光電変換素子を用いて測定した。まず、洗浄したITO電極付きガラス板上に、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシ)-2,5-チオフェン/ポリスチレンスルホン酸、Heraeus社製CLEVIOUS(登録商標) PVP CH8000)をスピンコート法にて塗工し、110℃にて20分間乾燥させて、厚み35nmの正孔注入層を得た。正孔注入層上に、光電変換層形成用組成物PbS-1をスピンコート法で塗工し、厚み150nmの光電変換層を形成した。 次いで、光電変換層上に、Avantama社製ZnO分散液N-10をスピンコートで製膜して厚み50nmの電子輸送層を形成した。次いで、電子輸送層上に、厚み200nmでアルミニウム(以下、Al)を蒸着して電極を形成し、光電変換素子を得た。
【0061】
(光電変換素子の評価)
得られた素子について、以下に示す方法によって耐久性を評価した。素子の保存前後のI-V曲線を測定し、これら測定値の比(保存後の測定値/保存前の測定値)を算出することにより、耐久性を算出した。セルのI-V曲線は、キセノンランプ白色光を光源(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、PEC―L01)とし、太陽光(AM1.5)相当の光強度(100 mW/cm2)にて、光照射面積0.0363 cm2(2 mm角)のマスク下、I-V特性計測装置(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、PECK2400-N)を用いて走査速度0.1V/sec(0.01Vstep)、電圧設定後待ち時間50 msec、測定積算時間50msec、開始電圧-0.1V、終了電圧1.1Vの条件で測定した。耐久性は、光電変換素子を保存前(素子作製直後)、及び遮光、25℃、湿度60%の条件下で4日間保存した後のI―V曲線を測定し、保存前(素子作製直後)の変換効率に対する保存後の変換効率の比として算出した。
(評価基準)
◎:比が95%以上 :良好
○:比が90%以上95%未満 :実用上使用可能
△:比が80%以上90%未満 :実用上使用不可
×:比が80%未満 :不良
【0062】
<実施例2~22>
実施例1で使用したPbS-1の替わりに、PbS-2~18,PbSe-1~2,Ag2S-1~2をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして光電変換素子をそれぞれ作製、評価した。結果を表10に示した。
【0063】
<比較例1~8>
実施例1で使用したPbS-1の替わりに、PbS-19~24,PbSe-3,Ag2S-3をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして光電変換素子をそれぞれ作製、評価した。結果を表10に示した。
【0064】
【表10】
【0065】
本発明の光電変換素子(実施例1~22)は、いずれも比較例の素子よりも経時での耐久性に優れていることが明らかとなった。実施例1~22で用いた表面処理剤1~18は、硫黄原子を有する官能基(Q)に加え、エーテル構造((R2-O)n-R3)における半導体粒子表面への吸着が可能であり、その結果、酸素、水等による劣化が抑制され、素子の耐久性が向上したのではないかと推察される。実施例4,6,10では、特に高い耐久性が認められた。表面処理剤4,6,10はいずれもQ=スルファニル基、R2=エチレン基、n=2、R3=メチル基である。QおよびOR3が特に半導体粒子表面に強く吸着する上、n=2により多点吸着が容易な分子長であるため、半導体粒子表面がより密に表面処理剤で覆われ、酸素、水の接近が更に抑制できたのではないかと推察される。