(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ポリブチレンフタレート樹脂組成物、成形品、および複合構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240618BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240618BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240618BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20240618BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240618BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240618BHJP
C08J 5/12 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L69/00
C08K3/013
C08K5/49
C08K5/103
B32B27/36
C08J5/12 CFD
(21)【出願番号】P 2020106678
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019144248
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 幸志郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 貞紀
(72)【発明者】
【氏名】当房 翔吏
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-136298(JP,A)
【文献】特開2000-178417(JP,A)
【文献】特開2013-181171(JP,A)
【文献】特開2003-286465(JP,A)
【文献】特開平07-118623(JP,A)
【文献】特開平10-273585(JP,A)
【文献】特開2017-160288(JP,A)
【文献】特開2004-143208(JP,A)
【文献】特開平03-086753(JP,A)
【文献】特表2015-510524(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161433(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08G
C08K
C08L
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
カルボキシル基濃度が20eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)
芳香族ポリカーボネート樹脂を10重量部以上75重量部以下、(C)無機充填剤を20重量部以上80重量部以下、および(D)リン系安定剤を0.01~0.5重量部配合してなるウレタン接着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(E)離型剤を配合し、該(E)離型剤がペンタエリスリトール系離型剤であることを特徴とする請求項
1に記載のウレタン接着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品。
【請求項4】
請求項
3に記載の成形品と、ガラス製部材とがポリウレタン系接着剤で接合された複合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器部品、自動車部品、機械部品などに必要とされる機械特性と高度な寸法安定性を有し、かつ、ポリウレタン系接着剤との接着性を両立させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と略記することがある。)は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、寸法安定性などに優れているため、各種の電気・電子機器部材、自動車、列車、電車などの車両用部材、その他の一般工業製品製造用材料として、広く使用されている。
【0003】
近年、自動車産業では、情報通信技術の発展とともに、先進の情報技術を利用してドライバーの安全運転を支援するシステム(先進運転支援システム)を搭載した自動車が普及してきている。そのような自動車には、自動車周辺の情報を正確かつスピーディーに収集、伝達するためのセンサーやカメラ、それらに付随する電装部品が多数搭載されており、エンジニアプラスチックとして優れた特性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂は、このような部品のケースやカバー材として多く使用されている。
【0004】
一方、かかる用途では、センサーやカメラなどの電装部品を車体のいずれかの場所に固定する必要があり、高速電波や周辺情報を取得するため、フロントガラスなどのガラス表面上に直接取り付けられる場合がある。ここでガラス表面上にプラスチック製の電装部品を固定する手段としては、接着剤を使用した接合手段が一般的に用いられるが、使用される接着剤は、ガラスとの接着性の観点でポリウレタン系の接着剤が多く選定される。
【0005】
一方、ポリウレタン系接着剤は、主にガラスとの接合を考慮し適用されており、他方の接着相手であるプラスチック側との接着性は十分に考慮されていないことが多いため、プラスチックとポリウレタン系接着剤の間で接着不良が発生することがあった。
【0006】
このようなプラスチックと接着剤との接着不具合に対し、従来の改良方法としては、非特許文献1にあるように、有機シラン系や有機チタネート系などのカップリング剤や特殊合成樹脂溶液などを接着困難なプラスチック表面にプライマー(下塗剤)として塗布する方法が賞用されている。
【0007】
また、特許文献1のようにプラスチック表面にプラズマ処理などの乾式処理を施し、そこに更に特殊な洗浄用具でプラスチック表面をふき取ることで接着剤との接着性を向上させる方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-84520号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0009】
【文献】中島常雄、“プラスチックの接着及び接着技術の現状”、溶接学会誌、1984年、 第53巻、第2号 p.34-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1、および特許文献1にあるような方法では、良好な接着性を得るためプラスチックの種類によってプライマーの選定が必要となり、また量産工程においてプライマー塗布やプラズマ処理、洗浄などといった前処理工程が必要となるため、製品の生産効率が大幅に低下するといった課題があった。
【0011】
本発明は、かかる課題を鑑みたもので、その主な目的は、電気・電子機器部品、自動車部品、機械部品などに必要とされる機械特性と寸法安定性を有し、かつプライマー塗布やプラズマ処理などの前工程をせずに、ポリウレタン系接着剤と良好な接着性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(A)カルボキシル基濃度が20eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂、(C)無機充填剤、(D)リン系安定剤を配合することにより、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(A)カルボキシル基濃度が20eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂を10重量部以上75重量部以下、(C)無機充填剤を20重量部以上80重量部以下、(D)リン系安定剤0.01~0.5重量部配合してなるウレタン接着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、電気・電子機器部品、自動車部品、機械部品などに必要とされる機械特性と高度な寸法安定性を有し、かつ、ポリウレタン系接着剤との接着性(以下、ウレタン接着性と呼ぶ。)を両立させた成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例および比較例におけるウレタン接着試験用半ダンベル型試験片の概略図を示す。
【
図2】実施例および比較例における反り量測定用箱型成形品の概略図を示す。
【
図3】
図2の箱型成形品の概略側面図(1)、および概略平面図(2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明を構成する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4-ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし、重縮合反応させる等の通常の重合方法によって得られる重合体である。その特性を損なわない範囲、例えば20重量部程度以下、他の共重合成分を含んでもよい。これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明で用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを用いることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および重縮合反応を経る方法、ならびに直接重合による重縮合反応による方法(直接重合法)のいずれも適用することができる。カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらの触媒を2種以上併用することもできる。(A)のポリブチレンテレフタレートのカルボキシル基量の観点から、これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。
【0017】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル基量は、ポリウレタン系接着剤との良好な接着性の点で、20eq/t以下であることが好ましく、より好ましくは15eq/t以下である。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端官能基は、カルボキシル基とヒドロキシル基からなる。本発明で得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、ポリウレタン系接着剤と反応する際は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂のヒドロキシル基とポリウレタン系接着剤が持つイソシアネート基が反応し、ウレタン結合を形成することで接着強度を発現する。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル基量が多いと、カルボキシル基がイソシアネート基と副反応し、ウレタン結合とは異なる結合、すなわちアミド結合や尿素結合を形成するため、良好なウレタン接着強度が得られず好ましくない。カルボキシル基量の下限値は、0eq/t程度である。ここで、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル基量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0018】
なお、本発明におけるポリウレタン系接着剤とは、ポリイソシアネートを単独あるいはイソシアネート官能基と反応しやすい活性水素を含む化合物(例えばポリオール)と混合して使用される、一液形、または二液形の接着剤である。イソシアネート官能基は、反応性が高く、接着材表面の活性水素と容易に反応し、化学結合による強固な接着強さが発現する。例えば、横浜ゴム製の“ハマタイト”(登録商標)という商品名で入手できる。
【0019】
(B)ポリカーボネート樹脂
(B)ポリカーボネート樹脂は、2価フェノールとホスゲンまたは炭酸エステル化合物などのカーボネート前駆体とを主成分とする原料を反応させることにより得られる重合体である。例えば、塩化メチレンなどの溶媒中において、2価フェノールとホスゲンなどのカーボネート前駆体との反応により、あるいは2価フェノールとジフェニルカーボネートなどのカーボネート前駆体とのエステル交換反応などにより製造される。
【0020】
2価フェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ハイドロキノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。
【0021】
また、炭酸エステル化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0022】
本発明に用いられる(B)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、適宜選択して決定すればよいが、300℃、1.2kgfにて測定したメルトボリュームレート(以下、MVRと略記することがある。)が、5.0~30.0cm3/10分の範囲のものが好ましい。MVRが30.0cm3/10分以下であると、機械特性がより向上する。一方、溶融粘度が5.0cm3/10分以上であると、流動性がより向上する。より好ましくは10.0~30.0cm3/10分であり、さらに好ましくは15.0~30.0cm3/10分である。また、粘度の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合してもよく、溶融粘度が上記範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。かかる溶融粘度を有するポリカーボネート樹脂は、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社から“ユーピロン”(登録商標)という商品名で入手できる。
【0023】
本発明における(B)ポリカーボネート樹脂の配合量は、前述の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、10~75重量部の範囲である。(B)ポリカーボネート樹脂の配合量が10重量部未満であると、寸法安定性が低下する。複雑な形状に加工されたガラス板との接合には、高度な寸法安定性が必要であることから、(B)ポリカーボネート樹脂は、10重量部以上が好ましく、より好ましくは15重量部以上である。また、(B)ポリカーボネート樹脂の配合量が75重量部を超えると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性が低下し、耐熱性も低下する。流動性および耐熱性の観点で、50重量部以下が好ましく、より好ましくは30重量部以下である。
【0024】
(C)無機充填剤
本発明において、樹脂組成物の機械強度その他の特性を付与するために、(C)無機充填剤を配合することが好ましい。(C)無機充填剤の配合量は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、20~80重量部の範囲で配合することが寸法安定性および機械物性の点で好ましく、30~80重量部の範囲で配合することがより好ましく、40~80重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。また、配合量の上限値は、75重量部以下が好ましく、70重量部以下がより好ましい。
【0025】
本発明において、(C)無機充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの形状の充填剤も使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状またはウィスカー状充填剤、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウムなどの粉状、粒状あるいは板状の充填剤が挙げられ、なかでもガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。これらの中でも、短繊維タイプのチョップドストランドが好ましく、ウレタン接着性の観点で、平均繊維径が10μm以下のチョップドストランドがより好ましい。また、上記の(C)無機充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する(C)無機充填剤は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、アミノシランやエポキシシランなどのシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0026】
(D)リン系安定剤
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、さらに(D)リン系安定剤を配合してなる。(D)リン系安定剤は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂のエステル交換反応を抑制し、耐湿熱性や、滞留安定性を向上させる効果がある。
【0027】
(D)リン系安定剤としては、例えば、ホスフェート系安定剤(ホスフェート化合物)、ホスファイト系安定剤(ホスファイト化合物)、が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でも、ホスフェート系安定剤は、熱可塑性樹脂組成物の滞留安定性を向上させる効果がより高いため好ましい。
【0028】
ホスフェート系安定剤としては、例えば、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェートなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。中でも、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。これらのモノ-およびジ-ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物が特に好ましく、例えば、ADEKA製の“アデカスタブ”(登録商標)AX-71という商品名で入手できる。
【0029】
また、ホスファイト系安定剤としては、例えば、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル) -5-メチルフェニル]-1,6-ヘキサメチレン-ビス(N-ヒドロキシエチル-N-メチルセミカルバジド)-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-サリシロイルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-N,N’-ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド-ジホスファイトなどが挙げられる。少なくとも1つのP-O結合が芳香族基に結合しているものが好ましく、例えば、トリス(2,4 -ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルホスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。中でも、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスフォナイトなどが好ましく使用できる。これらの中でも、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトが特に好ましく、例えば、ADEKA製の“アデカスタブ”(登録商標)PEP-36という商品名で入手できる。
【0030】
(D)リン系安定剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対して、0.01~0.5重量部が好ましい。(D)リン系安定剤の配合量が0.01重量部未満であれば、エステル交換反応の抑制効果がなく、0.5重量部を超すと成形時の発生ガスが著しく多くなり、成形品に外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。
【0031】
(E)離型剤
本発明において、射出成形で得られる成形品の離型性を付与するために、(E)離型剤を配合することが好ましい。用いる離型剤としては、熱可塑性樹脂の離型剤として用いられるものをいずれも使用することができる。具体的には、脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、変成シリコーンなどを挙げることができる。
【0032】
中でも、ウレタン接着性と、ガラスと複合化した成形体として車載用途で使用される際のガラスの透明度低下を抑制する観点で、脂肪酸エステル系離型剤が好ましい。
【0033】
脂肪酸エステル系離型剤は、3~6価の脂肪族アルコールと脂肪酸とから構成される。3~6価の脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセロール、ジグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、テトラグリセロール等が挙げられる。これらの脂肪族アルコールは、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい脂肪族アルコールは5価または6価の脂肪族アルコールであり、例えば、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、テトラグリセロール等であり、ジペンタエリスリトールが特に好ましい。
【0034】
脂肪酸としては、炭素数5以上30以下の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸が好ましく、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。
【0035】
なお、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とのエステル交換反応を回避するために、脂肪酸エステル系離型剤は、遊離のヒドロキシル基及びカルボキシル基を実質的に含まないフルエステルであるのが好ましい。具体的には、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが特に好ましく、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
脂肪酸エステル系離型剤は、例えば、エメリーオレオケミカルズジャパン株式会社から、“ロキシオール”、株式会社ADEKAから、“アデカサイザー”(登録商標)、理研ビタミン株式会社から、“リケスター”(登録商標)、という商品名で入手できる。
【0037】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、(E)離型剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.05~2.0重量部が好ましい。(E)離型剤の配合量が0.05重量部以上であると、離型性向上効果が得られ、2.0重量部以下であると、樹脂組成物から発生するガスを抑制でき、ガラスと複合化した成形体として車載環境に晒されたとき、ガラスの透明度を低下させることがなく好ましい。
【0038】
(その他成分)
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、安定剤、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、末端封鎖剤を一種以上添加することができる。
【0039】
本発明において、結晶核剤は、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれでもよい。無機系結晶核剤としては、合成マイカ、クレー、ゼオライト、酸化マグネシウム、硫化カルシウム、窒化ホウ素、酸化ネオジウムなどを挙げることができ、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。また、有機系結晶核剤としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ-ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ソルビトール系化合物、フェニルホスホネートの金属塩、ナトリウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートなどのリン化合物金属塩などを挙げることができる。これらの結晶核剤を配合することで、機械特性、成形性、耐熱性および耐久性に優れた熱可塑性樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【0040】
本発明において、安定剤としては、熱可塑性樹脂の安定剤に用いられるものをいずれも使用することができる。具体的には、酸化防止剤、光安定剤などを挙げることができる。これらの安定剤を配合することで、機械特性、成形性、耐熱性および耐久性に優れた熱可塑性樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【0041】
酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、テトラキス(メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系化合物、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート等のイオウ系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物等が挙げられる。
【0042】
なお、例えば酸化防止剤として例示した添加剤は、安定剤や紫外線吸収剤として作用することもある。また、安定剤として例示したものについても酸化防止作用や紫外線吸収作用のあるものがある。すなわち前記分類は便宜的なものであり、作用を限定したものではない。
【0043】
本発明において、末端封鎖剤としては、エポキシ基、グリシジル基、酸無水物基、カルボジイミド基、オキサゾリン基等の反応性官能基を有する化合物を使用することができる。
【0044】
末端封鎖剤の例としては、ビスフェノール型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ基を有する化合物、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)等のカルボジイミド基を有する化合物等が挙げられる。
【0045】
また、これら末端封鎖剤は1種でもよいが、ウレタン接着性の点で、2種以上を併用することが好ましく、特にジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物とポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)の組み合わせが好ましい。
【0046】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は、本発明で規定する要件を満たす限り特に限定されるものではなく、単軸または二軸押出機で、均一に溶融混練する方法や、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが好ましく用いられるが、生産性の点で、一軸または二軸押出機で均一に溶融混練する方法が好ましく、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂をより均一に溶融混錬するという点において、二軸押出機で溶融混練する方法がより好ましい。なかでも、スクリュー長さをL(mm)、スクリュー直径をD(mm)とすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。L/Dが大きい程、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂が十分に混練され、ウレタン接着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の機械特性が向上するので望ましい。
【0047】
また、本発明において樹脂組成物を溶融混練する際に二軸押出機を用いる場合のスクリュー構成としては、フルフライトおよびニーディングディスクを組み合わせて用いられることが好ましいが、本発明の樹脂組成物を得るためにはスクリューによる均一的な混練が必要である。そのため、スクリュー全長に対するニーディングディスクの合計長さ(ニーディングゾーン)の割合は、5~50%の範囲が好ましく、10~40%の範囲であればさらに好ましい。
【0048】
本発明において樹脂組成物を溶融混練する場合に、各成分を投入する好ましい方法としては、投入口を2カ所有する押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、(D)リン系安定剤、および必要に応じて(E)離型剤などのその他成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(C)無機充填剤を供給し、溶融混合する方法が挙げられる。
【0049】
本発明の樹脂組成物を製造する際の溶融混練温度は、耐湿熱性および機械物性に優れるという点で、190~340℃が好ましく、210~310℃がさらに好ましく、240~290℃が特に好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用でき、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。
【0051】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。特に本発明においては、ポリウレタン系接着剤との接着性に優れる点を活かして、車載用途であれば、例えば、ウィンドウガラスやフロントガラスなどガラス製部材との複合化のため、ポリウレタン系接着剤による接合が必要となるガラスホルダー部品や車載カメラブラケット部品用途として好適である。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。以下に実施例、比較例で使用する原料の略号および内容を示す。ここで%および部とは、すべて重量%および重量部を表し、下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。
【0053】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
A-1:ポリブチレンテレフタレート(MFR:57g/10分(250℃、1000gf)、カルボキシル基濃度:15eq/t)
A-2:ポリブチレンテレフタレート(MFR:50g/10分(250℃、1000gf)、カルボキシル基濃度:32eq/t)
(B)ポリカーボネート樹脂
B-1:ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ユーピロン”(商標登録)H-2000(商品名)、MVR:20cm3/10分(300℃/1.2kgf)
B-2:ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ユーピロン”(商標登録)S-3000(商品名)、MVR:14cm3/10分(300℃/1.2kgf)
B-3:ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ユーピロン”(商標登録)H-3000(商品名)、MVR:28cm3/10分(300℃/1.2kgf)
(B’)ポリカーボネート樹脂以外の樹脂
B’-4:アクリロニトリル、スチレンおよびグリシジルメタクリレートを共重合してなる共重合体(アクリロニトリル、スチレンおよびグリシジルメタクリレートを懸濁重合しビーズ状のビニル系共重合体を調製した。アクリロニトリル/スチレン/グリシジルメタクリレートの各成分の重量比は25.5/74/0.5(重量%)である)
(C)無機充填剤
C-1:チョップドストランド(日本電気硝子(株)社製 T-187(商品名) 3mm長、平均繊維径13.0μm)
C-2:チョップドストランド(CHONGQING POLYCOMP INTERNATIONAL CORP.製 ECS303HR―3-H(商品名) 3mm長、平均繊維径10μm)
(D)リン系安定剤
D-1:ホスフェート系安定剤(モノ-およびジ-ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物)(ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)AX-71(商品名))
(E)離型剤
E-1:ペンタエリスリトールテトラステアレート(エメリーオレオケミカルズジャパン(株)社製“ロキシオール”VPG861(商品名))
E-2:エチレンビスステアリルアミド(Palmamide社製“PALMOWAX”(登録商標)EBS-SF(商品名))
E-3:モンタン酸エステル(クラリアントジャパン(株)社製“Licowax OP”(商品名))
(F)その他添加剤
F-1:末端封鎖剤 ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物(DIC製“HP-7200H”)
F-2:末端封鎖剤 ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)(LANXESS製“Stabaxol”(登録商標)P(商品名))
以下に、実施例および比較例における評価方法をまとめて示す。
【0054】
(1)ウレタン接着性(ウレタン接着強度およびウレタン接着破壊形態)
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃で
図1に記載の半ダンベル型試験片aを2個成形し、その片方の試験片の上にテフロン製スペーサー(サイズ:5mm×10mm×1.3mm(W×D×H)のスペースを有するコ型スペーサー)を置き、その上にポリウレタン系接着剤(横浜ゴム製“WS222”)を塗布した。その後、その上にもう片方の試験片を被せ、23℃×50%RH雰囲気下で96hr静置し、ポリウレタン系接着剤を硬化させた。最後に、ウレタン接着した試験片複合体を50mm/minの引張速度で引張試験を行い、ウレタン接着強度を測定した。ウレタン接着強度が3MPa以上かつ、接着剤の破壊形態が、接着剤の母材で破壊する凝集破壊形態であれば、ウレタン接着性は良好と判断できる。接着剤の破壊形態が凝集破壊形態であれば〇、試験片と接着剤との界面で破壊する界面破壊であったときを×と判定した。
【0055】
(2)低ガス性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、(株)TABAI ESPEC製パーフェクトオーブンを用いて110℃で96hr加熱処理し、以下の算出式より加熱による重量減少率を求め、低ガス性の評価を行った。
重量減少率(%)={1-(加熱処理後の重量/加熱処理前の重量)}×100
重量減少率が0.010%未満であれば、樹脂組成物の低ガス性は良好と判断できる。重量減少率0.010%未満を○、0.010%以上を×と判定した
【0056】
(3)寸法安定性(内反り量)
日本製鋼所製J55AD射出成形機を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、冷却時間10秒の成形条件で、
図2および
図3に記載の開口部を有する箱型成形品c(幅30mm×奥行き30mm×高さ30mm、厚み1.5mm)を側面のピンゲートdから成形した。成形した箱型成形品を、23℃×50%RH雰囲気下で24時間放置した後、ミツトヨ製3次元寸法測定機(CRYSTA-Apex S776)を使用し、その反ゲート側の側面の、箱の内側への面の倒れ量eを測定し、成形品各10個の平均値を反り量とした。反り量の値が小さいほど寸法安定性に優れ、成形品の反り量が0.40mm未満であれば、寸法安定性は良好と判断した。
【0057】
(4)流動性
厚み1mm、幅10mmの短冊型成形品を用い、流動長により流動性を判断した。流動長は、住友重機械工業(株)社製SE50DU型射出機を用い、実施例および比較例の組成のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形し、成形された上記短冊型成形品の長さとした。射出条件は、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、射出圧50MPa、射出時間10秒、冷却時間10秒にて実施した。流動長が60mm以上あれば流動性は良好と判断できる。流動長60mm以上を〇、60mm未満を×と判定した。
【0058】
(5)耐熱性(荷重たわみ温度)
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度80℃で試験片を成形し、ISO75-1,2に準拠し、フラットワイズ、1.8MPa応力での荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度が175℃以上であれば、耐熱性は良好であると判断できる。荷重たわみ温度175℃以上を〇、175℃未満を×と判定した。
【0059】
[実施例1~6、比較例1~6]
表1に示す配合組成に従い、(A)、(B)、(D)、(E)成分、並びにその他添加剤全てを2軸押出機の元込め部から供給し、(C)成分を主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から供給してシリンダ温度260℃に設定したスクリュー径37mmφの二軸押出機(東芝機械(株)社製 TEM37SS(商品名))で溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1に記した。なお、実施例3は参考例である。
【0060】
【0061】
表1の結果より以下のことが明らかである。
【0062】
実施例1~6と比較例1~2の比較から(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、(C)無機充填剤、(D)リン系安定剤を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物がウレタン接着性に優れることが分かる。
【0063】
実施例1と実施例3の比較から、カルボキシル末端基濃度が20eq/t以下である(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、(C)無機充填剤、(D)リン系安定剤を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、ウレタン接着性に特に優れることがわかる。
【0064】
実施例1~6と比較例3~4の比較から(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、(B)ポリカーボネート樹脂10重量部以上75重量部以下、(C)無機充填剤、(D)リン系安定剤を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が寸法安定性、流動性、耐熱性に優れることがわかる。
【0065】
実施例1と比較例5の比較から(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、(C)無機充填剤、(D)リン系安定剤0.01~0.5重量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が低ガス性、耐熱性に優れることがわかる。
【0066】
実施例1~6と比較例6の比較から、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、(B)ポリカーボネート樹脂、(C)無機充填剤10重量部以上80重量部以下、(D)リン系安定剤を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が流動性に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0067】
a 接着試験用半ダンベル型試験片
b スプルー/ランナー
c 反り量測定用箱型成形品
d ゲート
e 反り量