(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20240618BHJP
B60C 15/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B60C15/06 C
B60C15/02 J
(21)【出願番号】P 2020116567
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直也
(72)【発明者】
【氏名】八尾 優廣
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-226526(JP,A)
【文献】特開2015-140119(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073418(WO,A1)
【文献】特開2017-114452(JP,A)
【文献】特開2013-028783(JP,A)
【文献】特開2010-163154(JP,A)
【文献】特開2007-204733(JP,A)
【文献】特開平11-059139(JP,A)
【文献】特開2005-075186(JP,A)
【文献】特開2019-098983(JP,A)
【文献】特開2000-142041(JP,A)
【文献】特開2020-93703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/06
B60C 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部を具えた空気入りタイヤであって、
前記一対のビード部間をトロイド状に延びるインナーライナーゴムを有し、
前記一対のビード部は、それぞれ、ビードコアと、前記ビードコアのタイヤ軸方向の内側に配され、かつ、ビードトウからタイヤ内腔面に沿ってタイヤ半径方向外側にのびるチェーファーゴムとを有し、
前記チェーファーゴムは、補強用の繊維材を含まないゴム組成物であ
り、かつ、前記タイヤ内腔面に沿ってタイヤ半径方向外側に延びる第1部分を含み、
前記第1部分のタイヤ半径方向の外端は、前記インナーライナーゴムのタイヤ半径方向の内端に接続されており、かつ、タイヤ半径方向において、前記ビードコアのタイヤ半径方向のビードコア外面とビードコア内面との間に配されている、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、
前記ビードコアの断面中心を通るタイヤ軸方向上で特定されるビード部幅である第1ビード幅Waと、
前記ビードトウからビード部のタイヤ軸方向の外側面までのタイヤ軸方向の幅である第2ビード幅Wbとの比Wa/Wbが、0.8~1.3である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記比Wa/Wbは、1.0よりも大である、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第2ビード幅Wbは、18.0mm以下である、請求項2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記一対のビード部は、前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側で、リムシートに当接するビード底面をそれぞれ有し、
前記ビードコアは、前記リムシートに対向するビードコア内面を有し、
前記ビードコア内面のタイヤ軸方向の中心位置と前記ビード底面との最短距離は、3.5mm以上である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記一対のビード部を跨って延びるカーカスプライを有し、
前記ビードトウと前記カーカスプライとの最短距離は、6.0mm以下である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記チェーファーゴムの破断伸びは、260%以下である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記チェーファーゴムの複素弾性率E*は、12MPa以下である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、
前記チェーファーゴムで構成されるタイヤ内腔面のうち、前記ビードコアの断面中心をタイヤ軸方向に横切る直線との交点と、前記ビードトウとの間の輪郭が、円弧状に形成される、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
トレッド部から一対のサイドウォール部をへて、前記一対のビード部の前記ビードコアに至るカーカスと、
前記カーカスのタイヤ軸方向外側に配された一対のクリンチゴムとをさらに含み、
前記チェーファーゴムは
、
リムシートに当接するビード底面の少なくとも一部を構成する第2部分と、
前記ビードコアのタイヤ軸方向の外側で、タイヤ半径方向外側に延びる第3部分とを含
み、
前記第1部分は、前記タイヤ内腔面から前記カーカスのタイヤ軸方向の内面までに亘って配されており、
前記第3部分は、前記カーカスのタイヤ軸方向の外面から前記クリンチゴムのタイヤ軸方向の内面までに亘って配されている、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
小型トラック用である、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤ周方向に環状のビードコアが配置されたビード部を有する空気入りタイヤが記載されている。ビード部には、タイヤ内側の表面の一部を覆うチェーファーが設けられている。このチェーファーは、布と、この布に含浸したゴムとを含んで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の空気入りタイヤは、チェーファーの布による補強効果の向上により、ビード部の曲げ剛性が高くなる。このようなビード部は、ホイールリムから取り外す際に、リムフランジをスムーズに乗り越えることができず、例えば、チェーファーがリムフランジに強く接触して剥離するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、リムから取り外す際のビード部の損傷を抑制することが可能な空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一対のビード部を具えた空気入りタイヤであって、前記一対のビード部は、それぞれ、ビードコアと、前記ビードコアのタイヤ軸方向の内側に配され、かつ、ビードトウからタイヤ内腔面に沿ってタイヤ半径方向外側にのびるチェーファーゴムとを有し、前記チェーファーゴムは、補強用の繊維材を含まないゴム組成物であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、前記ビードコアの断面中心を通るタイヤ軸方向上で特定されるビード部幅である第1ビード幅Waと、前記ビードトウからビード部のタイヤ軸方向の外側面までのタイヤ軸方向の幅である第2ビード幅Wbとの比Wa/Wbが、0.8~1.3であってもよい。
【0008】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記比Wa/Wbは、1.0よりも大であってもよい。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記第2ビード幅Wbは、18.0mm以下であってもよい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記一対のビード部は、前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側で、リムシートに当接するビード底面をそれぞれ有し、前記ビードコアは、前記リムシートに対向するビードコア内面を有し、前記ビードコア内面のタイヤ軸方向の中心位置と前記ビード底面との最短距離は、3.5mm以上であってもよい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記一対のビード部を跨って延びるカーカスプライを有し、前記ビードトウと前記カーカスプライとの最短距離は、6.0mm以下であってもよい。
【0012】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記チェーファーゴムの破断伸びは、260%以下であってもよい。
【0013】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記チェーファーゴムの複素弾性率E*は、12MPa以下であってもよい。
【0014】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、前記チェーファーゴムで構成されるタイヤ内腔面のうち、前記ビードコアの断面中心をタイヤ軸方向に横切る直線との交点と、前記ビードトウとの間の輪郭が、円弧状に形成されてもよい。
【0015】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記チェーファーゴムは、前記タイヤ内腔面に沿ってタイヤ半径方向外側に延びる第1部分と、リムシートに当接するビード底面の少なくとも一部を構成する第2部分と、前記ビードコアのタイヤ軸方向の外側で、タイヤ半径方向外側に延びる第3部分とを含んでいてもよい。
【0016】
本発明に係る前記空気入りタイヤは、小型トラック用であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことにより、リムから取り外す際のビード部の損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面である。
【
図3】(a)、(b)は、タイヤがホイールリムから取り外される状態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0020】
図1には、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)の正規状態のタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面の一例が示されている。
図1において、一点鎖線は、タイヤ赤道(赤道面)Cを表わしている。本実施形態のタイヤ1は、小型トラック用として構成されている。なお、タイヤ1は、小型トラック用に特定されるものではなく、例えば、乗用車用や、バスやトラックなどの重荷重用として構成されてもよい。
【0021】
ここで、「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(以下、単に「リム」ということがある。)18にリム組みされかつ正規内圧に調整された無負荷の状態である。本明細書において、特に言及されない場合、タイヤ1の各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0022】
「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。正規リムは、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0023】
「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。正規内圧は、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUSCOLD INFLATION PRESSURES"に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0024】
本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2、一対のサイドウォール部3、3、及び、一対のビード部4、4を具えている。さらに、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2から一対のサイドウォール部3、3をへて、一対のビード部4、4のビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側に配されるベルト層7とを具えている。
【0025】
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態ではタイヤ半径方向の内外に配された2枚のカーカスプライ6A、6Bで構成されている。各カーカスプライ6A、6Bは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90°の角度で傾けて配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。カーカスコードには、例えば、ナイロン、ポリエステル又はレーヨン等の有機繊維コード等が好適に採用される。
【0026】
各カーカスプライ6A、6Bは、それぞれ、一対のビード部4、4を跨って延びている。各カーカスプライ6A、6Bは、一対のビードコア5、5間をトロイド状に跨る本体部6aと、この本体部6aの両側に連なりかつビードコア5の回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された一対の折り返し部6b、6bとをそれぞれ含んでいる。
【0027】
ベルト層7は、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されている。ベルト層7は、少なくとも1枚、本実施形態では、タイヤ半径方向の内外に配された2枚のベルトプライ7A及び7Bから構成されている。各ベルトプライ7A及び7Bは、例えば、図示しないベルトコードの配列体がトッピングゴムで被覆されて形成されている。ベルトコードは、スチールコード等の高弾性のものが望ましい。
【0028】
本実施形態のタイヤ1には、トレッドゴム11、一対のサイドウォールゴム12、12、一対のビードエーペックスゴム13、13、インナーライナーゴム14、及び、一対のクリンチゴム15、15が設けられている。
【0029】
トレッドゴム11は、トレッド部2において、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配されている。各サイドウォールゴム12、12は、それぞれ、カーカス6のタイヤ軸方向の外側に配されており、トレッドゴム11のタイヤ軸方向の外端からタイヤ半径方向内側に延びている。各ビードエーペックスゴム13、13は、それぞれ、硬質ゴムで構成されており、カーカスプライ6A、6Bの本体部6a、6aと折り返し部6b、6bとの間を、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に延びている。
【0030】
インナーライナーゴム14は、空気非透過性を有しており、カーカス6の内側に設けられている。本実施形態のインナーライナーゴム14は、一対のビード部4,4間をトロイド状に延びている。このようなインナーライナーゴム14により、後述のチェーファーゴム20とともに、タイヤ内腔面16が形成される。
【0031】
一対のクリンチゴム15、15は、それぞれ、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配されており、サイドウォールゴム12のタイヤ半径方向の内端から、タイヤ半径方向の内側に延びている。これらのクリンチゴム15、15は、タイヤ1がリム(ホイールリム)18に装着されたときに、リム18のリムフランジ18fに当接するビード外面4oの少なくとも一部を構成している。
【0032】
図2は、
図1のビード部4の拡大図である。
図2では、
図1に示した一対のビード部4、4のうち、一方のビード部4(
図1において右側)が拡大して示されている。一対のビード部4、4は、それぞれ、ビードコア5と、チェーファーゴム20とをそれぞれ有している。
【0033】
ビードコア5は、タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面(以下、単に「タイヤ子午線断面」ということがある。)において、矩形状(台形状)に形成されている。本実施形態のビードコア5は、リムシート18sに対向するビードコア内面5iと、タイヤ半径方向外側のビードコア外面5oとを有している。なお、ビードコア5の形状は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、六角形状や円形状に形成されても良い。ビードコア5は、例えば、スチール製のビードワイヤ(図示省略)が、多列多段に巻回されることで形成されている。
【0034】
チェーファーゴム20は、補強用の繊維材を含まないゴム組成物で構成されている。繊維材とは、例えば、上記の特許文献1のチェーファーを構成する布(例えば、有機繊維等からなるキャンバス布)等に相当する。このような繊維材(布)は、伸縮性が小さく、補強効果が高い。したがって、本実施形態のチェーファーゴム20は、繊維材を含むチェーファーに比べて、ビード部4の剛性が必要以上に高くなるのを防ぐことができる。
【0035】
チェーファーゴム20のゴム組成物は、適宜設定されうる。本実施形態のゴム組成物は、ポリマーと配合剤とを含んで構成されており、耐摩耗性に優れるものが採用される。
【0036】
ポリマー及び配合剤には、ゴム材料の製造に一般に使用されるものが採用されうる。ポリマーは、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、又は、スチレンブタジエンゴム(SBR)等から適宜選択される。配合材は、例えば、カーボンやシリカ等のフィラー、オイル、加工助剤、硫黄、又は、加硫促進剤から適宜選択される。これらのポリマー及び配合材を含む未加硫のゴム組成物が、加硫されることによって、チェーファーゴム20が成形される。なお、これらの配合は、チェーファーゴム20が後述の物性(破断伸びEBや複素弾性率E*)を有するように、従来のゴム材料の製造手順に基づいて適宜調整されうる。
【0037】
本実施形態のチェーファーゴム20は、タイヤ内腔面16に沿ってタイヤ半径方向外側に延びる第1部分21を含んで構成されている。第1部分21は、ビードコア5のタイヤ軸方向の内側に配されており、ビード部4のビードトウ4tからタイヤ内腔面16に沿ってタイヤ半径方向外側に延びている。
【0038】
第1部分21のタイヤ半径方向の外端21oは、インナーライナーゴム14のタイヤ半径方向の内端14i(
図1に示す)に接続されている。これにより、第1部分21は、インナーライナーゴム14とともに、タイヤ内腔面16を連続して形成することができる。
【0039】
本実施形態のチェーファーゴム20は、第2部分22及び第3部分23をさらに含んでいる。なお、チェーファーゴム20は、このような態様に限定されない。
【0040】
本実施形態の第2部分22は、第1部分21のタイヤ半径方向の内端(ビードトウ4t)からタイヤ軸方向の外側に延びている。第2部分22のタイヤ軸方向の外端は、クリンチゴム15のタイヤ半径方向の内端側に接続されている。このような第2部分22は、ビードコア5(カーカスプライ6A、6Bを含む)のタイヤ半径方向の内側において、リム(ホイールリム)18のリムシート18s(
図1に示す)に当接するビード底面4bの少なくとも一部を構成している。
【0041】
本実施形態の第3部分23は、ビードコア5のタイヤ軸方向の外側で、タイヤ半径方向外側に延びている。本実施形態の第3部分23は、クリンチゴム15のタイヤ軸方向の内側に配されている。第3部分23のタイヤ半径方向の内端は、第2部分22のタイヤ軸方向の外端に接続されている。第3部分23のタイヤ半径方向の外端23oは、タイヤ半径方向において、ビードコア5の外端(最外端)5oよりも外側に配されている。さらに、第3部分23の外端23oは、タイヤ半径方向において、クリンチゴム15の外端15oよりも内側に配されている。このように、第3部分23の外端23oは、タイヤ半径方向において、ビードコア外面5o及びクリンチゴム15の外端15oと位置ずれして配されている。これにより、ビード部4の曲げ剛性が高くなるのを防ぐことができる。
【0042】
本実施形態のチェーファーゴム20は、第1部分21、第2部分22及び第3部分23が連続して設けられている。これにより、チェーファーゴム20は、タイヤ子午線断面において、略U字状に形成される。このようなチェーファーゴム20は、ビード部4を保護する(リム18との摩擦損傷防止)とともに、リムずれを効果的に防ぎうる。
【0043】
図3(a)、(b)は、タイヤ1がホイールリム(リム)18から取り外される状態の一例を示す断面図である。
図3(a)、(b)では、一方のビード部4(
図1で左側)が、一方のリムフランジ18f(
図1で左側)から既に取り外されており、他方のビード部4(
図1で右側)に、一方のリムフランジ18f(
図1で左側)を乗り越えさせようとしている。
【0044】
図3(a)に示されるように、タイヤ1をホイールリム(リム)18から取り外す際に、チェーファーゴム20(第1部分21)で構成されるビード部4のタイヤ内腔面16が、リムフランジ18fに当接する(引っ掛かる)。このため、ビード部4を変形させて、リムフランジ18fを乗り越えさせる必要がある。このとき、例えば、上記の特許文献1のような繊維材を含むチェーファー(図示省略)では、リムフランジ18fに強く接触すると、その繊維材を構成する繊維が切断して、ビード部4が損傷する場合がある。とりわけ、リム18への締め付け力が大きい小型トラック用のタイヤでは、チェーファーゴム20がリムフランジ18fに強く接触する傾向がある。
【0045】
本実施形態では、リムフランジ18fに当接するチェーファーゴム20が、補強用の繊維材を含まないゴム組成物で構成されている。このため、チェーファーゴム20は、
図3(b)に示されるように、上記の特許文献1のような繊維材を含むチェーファー(図示省略)に比べて、柔軟に変形することができる。これにより、本実施形態のタイヤ1は、ビード部4にリムフランジ18fをスムーズに乗り越えさせることができ、チェーファーゴム20がリムフランジ18fに強く接触するのを防ぐことができる。したがって、本実施形態のタイヤ1は、リム18から取り外す際のビード部4の損傷を抑制することが可能となる。
【0046】
図2に示したタイヤ子午線断面において、チェーファーゴム20で構成されるタイヤ内腔面16のうち、ビードコア5の断面中心5cをタイヤ軸方向に横切る直線L1との交点25と、ビードトウ4tとの間の輪郭26は、円弧状に形成されるのが望ましい。これにより、
図3(a)、(b)に示されるように、タイヤ1をリム18から取り外す際に、チェーファーゴム20(第1部分21)の輪郭26とリムフランジ18fとの接触面積が小さくなる。したがって、チェーファーゴム20がリムフランジ18fに強く接触して、剥離するのを防ぐことができる。このような作用を効果的に発揮させるために、輪郭26は、タイヤ軸方向内側に向かって凸となる円弧状に形成されるのが望ましい。
【0047】
図2に示されるように、第1部分21の外端21oは、タイヤ半径方向において、ビードコア5のタイヤ半径方向のビードコア外面5oとビードコア内面5iとの間に配されるのが望ましい。これにより、第1部分21とインナーライナーゴム14との境界部分(外端21o近傍)の変形が、そのタイヤ軸方向の外側に配された剛性の高いビードコア5によって抑制されうる。このため、
図3(a)、(b)に示されるように、タイヤ1をリム18から取り外す際に、第1部分21(チェーファーゴム20)でゴム切れが発生するのを防ぐことでき、ビード部4の損傷を抑制しうる。なお、このようなゴム切れを抑制するために、第1部分21の外端21oと、ビードトウ4tとのタイヤ半径方向の最短距離D3は、10mm以上に設定されるのが望ましい。一方、最短距離D3は、40mm以下に設定されるのが望ましい。最短距離D3が40mm以下に設定されることで、荷重負荷時に第1部分21の歪が大きくなるのを防ぐことができ、第1部分21(チェーファーゴム20)とインナーライナーゴム14との間(外端21oの部分)で剥離するのを防ぐことが可能となる。
【0048】
図2に示されるように、タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、第1ビード幅Waと、第2ビード幅Wbとの比Wa/Wbが、0.8~1.3に設定されるのが望ましい。なお、第1ビード幅Waは、ビードコア5の断面中心5cを通るタイヤ軸方向上(本例では、直線L1上)で特定されるビード部幅である。一方、第2ビード幅Wbは、ビードトウ4tからビード部4のタイヤ軸方向の外側面(
図1に示したビード外面4o)までのタイヤ軸方向の幅(ビードベース幅)である。
【0049】
比Wa/Wbが0.8以上に設定されることにより、ビードコア5側の第1ビード幅Waに対して、リムフランジ18fに接触しやすいビードトウ4t側の第2ビード幅Wbが必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。これにより、タイヤ1をホイールリム(リム)18から取り外す際に、ビードトウ4t側のビード部4が、リムフランジ18fに強く接触するのを防ぐことができ、チェーファーゴム20が剥離するのを防ぐことができる。さらに、ビード部4のビードコア5側のゴム厚さが小さくなるのを防ぐことができるため、その部分において、加硫成形時のゴム不足(成形不良)が生じるのを防ぐことが可能となる。このような観点より、比Wa/Wbは、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.0よりも大に設定されるのが望ましい。
【0050】
一方、比Wa/Wbが1.3以下に設定されることにより、ビードトウ4t側の第2ビード幅Wbに対して、ビードコア5側の第1ビード幅Waが必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。これにより、ビード部4のビードコア5側のゴム厚さが必要以上に大きくなるのを防ぐことができるため、その部分において、加硫成形時のゴム余り(成形不良)が生じるのを防ぐことが可能となる。このような観点より、比Wa/Wbは、好ましくは1.2以下に設定されるのが望ましい。
【0051】
第2ビード幅Wbは、18.0mm以下に設定されるのが望ましい。第2ビード幅Wbが18.0mm以下に設定されることにより、ビード部4の曲げ剛性が大きくなるのを防ぐことができる。これにより、
図3(b)に示されるように、ビード部4にリムフランジ18fをスムーズに乗り越えさせることが可能となる。このような観点より、第2ビード幅Wbは、好ましくは17.0mm以下に設定されるのが望ましい。一方、第2ビード幅Wbが必要以上に小さくなると、リムずれの防止効果を維持することが難しくなる。このため、第2ビード幅Wbは、好ましくは、15mm以上に設定されるのが望ましい。
【0052】
図2に示されるように、ビードコア内面5iのタイヤ軸方向の中心位置28とビード底面4bとの最短距離D1は、3.5mm以上に設定されるのが望ましい。最短距離D1が3.5mm以上に設定されることにより、ビードコア内面5iからビード底面4bをタイヤ半径方向に離間させることができる。これにより、リム18にリム組みされたビード部4が、リム18(
図1に示したリムシート18s及びリムフランジ18f)を、必要以上に強く締め付けて接触するのを防ぐことができる。さらに、チェーファーゴム20がリムフランジ18fに強く接触するのを防ぐことができる。したがって、ビード部4をホイールリム(リム)18から容易に取り外すことが可能となり、さらに、チェーファーゴム20の剥離も効果的に防ぐことができる。このような観点より、最短距離D1は、好ましくは4.0mm以上に設定されるのが望ましい。
【0053】
一方、最短距離D1が必要以上に大きくなると、ビード部4のリム18への締め付け力が小さくなり、リムずれや、リム外れ等が生じやすくなる。このような観点より、最短距離D1は、5.5mm以下に設定されるのが望ましい。
【0054】
ビードトウ4tとカーカスプライ6A、6B(本例では、内のカーカスプライ6A)との最短距離D2は、6.0mm以下に設定されるのが望ましい。最短距離D2が6.0mm以下に設定されることにより、タイヤ1をホイールリム(リム)18から取り外す際に(
図3(a)及び(b)に示す)、ビード部4のビードトウ4tにおいて、リムフランジ18fの接触領域(引っ掛かり量)を小さくできる。これにより、ビード部4にリムフランジ18fをスムーズに乗り越えさせることができ(
図3(b)に示す)、ビード部4の損傷を防ぐことができる。このような観点より、最短距離D2は、好ましくは、5.5mm以下に設定されるのが望ましい。
【0055】
一方、最短距離D2が必要以上に小さくなると、リムずれや、リム外れ等が生じやすくなる。このような観点より、最短距離D2は、4.0mm以上に設定されるのが望ましい。
【0056】
チェーファーゴム20の破断伸びEBは、260%以下に設定されるのが望ましい。破断伸びEBが260%以下に設定されることにより、
図3(b)に示したリムフランジ18fとの接触によって、チェーファーゴム20(第1部分21)が大きく引き伸ばされるのを抑制することができるため、チェーファーゴム20が剥離するの防ぎうる。このような観点より、破断伸びEBは、好ましくは250%以下に設定されるのが望ましい。
【0057】
一方、チェーファーゴム20の破断伸びEBが必要以上に小さくなると、ビード部4のリム18への締め付け力が小さくなり、リムずれや、リム外れ等が生じやすくなる。このような観点より、破断伸びEBは、220%以上に設定されるのが望ましい。本明細書において、破断伸びは、例えば、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方-」に準拠して測定することができる。
【0058】
チェーファーゴム20の複素弾性率E*は、12MPa以下に設定されるのが望ましい。複素弾性率E*が12MPa以下に設定されることにより、リム18にリム組みされたビード部4が、リム18(
図1に示したリムシート18s及びリムフランジ18f)を強く締め付けて接触するのを防ぐことができる。これにより、ビード部4をホイールリム(リム)18から容易に取り外すことが可能となり、チェーファーゴム20の剥離を防ぎうる。このような観点より、複素弾性率E*は、好ましくは10MPa以下に設定されるのが望ましい。
【0059】
一方、チェーファーゴム20の複素弾性率E*が必要以上に小さくなると、ビード部4のリム18への締め付け力が小さくなり、リムずれや、リム外れ等が生じやすくなる。このような観点より、複素弾性率E*は、好ましくは8MPa以上に設定されるのが望ましい。
【0060】
本明細書において、複素弾性率E*は、JIS-K6394の規定に準じ、下記の条件で株式会社岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて測定された値である。
初期歪:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0061】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0062】
[実施例A]
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
図1に示した基本構造を有し、かつ、補強用の繊維材を含まないチェーファーゴムを有する空気入りタイヤが試作された(実施例1~5)。比較のために、補強用の繊維材を含むチェーファーを有する空気入りタイヤが試作された(比較例)。そして、各空気入りタイヤについて、装着されたリムから取り外す際のビード部の耐損傷性、加硫成形不良の発生個数、及び、リムへの締め付け力が評価された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:195/75R15 109/107N
リムサイズ:15×5.5J
第2ビード幅Wb:17.0mm
ビードコア内面の中心位置とビード底面との最短距離D1:4.0mm
ビードトウとカーカスプライとの最短距離D2:5.5mm
チェーファーゴム:
破断伸びEB:250%
複素弾性率E*:10.1MPa
テスト方法は、次のとおりである。
【0063】
<ビード部の耐損傷性>
リムに装着された各空気入りタイヤが、機械式タイヤチエンジャーを用いてリムから取り外された。そして、チェーファーゴム(チェーファー)の剥離の大きさが目視にて確認され、5点法で評価された。1点は、大きく剥離していることを示している。5点は、全く剥離していないことを示している。したがって、点数が大きいほど良好であり、2点以上であれば、ビード部の耐損傷性に問題ないこと示している。
【0064】
<加硫成形不良の発生本数>
各空気入りタイヤが1000本製造され、ビード部に発生するゴム不足又はゴム余りなどの成形不良の発生した空気入りタイヤの本数が求められた。成形不良の本数が少ないほど、良好であることを示している。なお、10本以下であれば、許容範囲内である。
【0065】
<リムへの締め付け力>
ビード締め付け力測定機(ホフマン社製:型番WKM-B4)を用いて、空気入りタイヤのビード部を8つのセグメントで拡張し、セグメントが上記リムの規格値まで拡張されたときの締め付け力(拡張力)が測定された。結果は、実施例3の締め付け力を100とする指数で示しており、指数が大きいほど、締め付け力が大きいことを示している。なお、指数が80以上であれば、リムずれやリム外れ等が生じにくいと評価される。一方、チェーファーゴムの剥離を効果的に防ぐには、指数が120以下であるのが望ましい。
テスト結果が、表1に示される。
【0066】
【0067】
テストの結果、実施例1~5は、比較例1に比べて、リムから取り外す際のビード部の損傷を抑制することができた。さらに、第1ビード幅Waと第2ビード幅Wbとの比Wa/Wbが好ましい範囲内にある実施例2~4は、好ましい範囲内にない実施例1及び実施例5に比べて、加硫による成形不良(ゴム余り及びゴム不足)の発生を抑制できた。さらに、実施例2~4は、リムへの締付け力を適正化でき、ビード部の損傷や、リムずれ及びリム外れを効果的に抑制することができた。
【0068】
[実施例B]
図1に示した基本構造を有し、かつ、補強用の繊維材を含まないチェーファーゴムを有する空気入りタイヤが試作された(実施例3及び実施例6~9)。そして、各空気入りタイヤについて、装着されたリムから取り外す際のビード部の耐損傷性、加硫成形不良の発生個数、及び、リムへの締め付け力が評価された。共通仕様は、次に示すものを除いて、実施例A(第2ビード幅Wbを除く)と同一である。また、テスト方法は、実施例Aに記載したとおりである。テスト結果が、表2に示される。
第1ビード幅Waと第2ビード幅Wbとの比Wa/Wb:1.1
【0069】
【0070】
テストの結果、実施例3及び実施例6~9は、実施例Aの比較例1(表1に示す)に比べて、リムから取り外す際のビード部の損傷を抑制することができた。また、第2ビード幅Wbが好ましい範囲内にある実施例3、実施例7及び実施例8は、好ましい範囲内にない実施例6及び実施例9に比べて、ビード部の損傷、及び、加硫成形不良(ゴム余り及びゴム不足)の発生を抑制できた。さらに、実施例3、実施例7及び実施例8は、リムへの締付け力を適正化でき、ビード部の損傷や、リムずれ及びリム外れを効果的に抑制することができた。
【0071】
[実施例C]
図1に示した基本構造を有し、かつ、補強用の繊維材を含まないチェーファーゴムを有する空気入りタイヤが試作された(実施例3及び実施例10~17)。そして、各空気入りタイヤについて、装着されたリムから取り外す際のビード部の耐損傷性、加硫成形不良の発生個数、及び、リムへの締め付け力が評価された。共通仕様は、次に示すものを除いて、実施例A(ビードコアの内面の中心位置とビード底面との最短距離D1、及び、ビードトウとカーカスプライとの最短距離D2を除く)と同一である。また、テスト方法は、実施例Aに記載したとおりである。テスト結果が、表3に示される。
第1ビード幅Waと第2ビード幅Wbとの比Wa/Wb:1.1
【0072】
【0073】
テストの結果、実施例3及び実施例10~17は、実施例Aの比較例1(表1に示す)に比べて、リムから取り外す際のビード部の損傷を抑制することができた。また、最短距離D1及びD2が好ましい範囲内にある実施例3、実施例11~12、及び実施例15~16は、その他の実施例に比べて、ビード部の損傷、及び、加硫成形不良(ゴム余り及びゴム不足)の発生を抑制でき、リムへの締付け力を適正化できた。
【0074】
[実施例D]
図1に示した基本構造を有し、かつ、補強用の繊維材を含まないチェーファーゴムを有する空気入りタイヤが試作された(実施例3及び実施例18~25)。そして、各空気入りタイヤについて、装着されたリムから取り外す際のビード部の耐損傷性、加硫成形不良の発生個数、及び、リムへの締め付け力が評価された。共通仕様は、次に示すものを除いて、実施例A(チェーファーゴムの破断伸びEB、及び、複素弾性率E*を除く)と同一である。また、テスト方法は、実施例Aに記載したとおりである。テスト結果が、表4に示される。
第1ビード幅Waと第2ビード幅Wbとの比Wa/Wb:1.1
【0075】
【0076】
テストの結果、実施例3及び実施例18~25は、実施例Aの比較例1(表1に示す)に比べて、リムから取り外す際のビード部の損傷を抑制することができた。また、チェーファーゴムの破断伸びEB、及び、複素弾性率E*が好ましい範囲内にある実施例3、実施例19~20、及び実施例23~24は、その他の実施例に比べて、ビード部の損傷の発生を抑制でき、リムへの締付け力を適正化できた。
【符号の説明】
【0077】
1 空気入りタイヤ
4 ビード部
5 ビードコア
16 タイヤ内腔面
20 チェーファーゴム