(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】車両の駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20240618BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20240618BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20240618BHJP
B60W 20/13 20160101ALI20240618BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L58/10
B60W10/26 900
B60W20/13 ZHV
H02J7/00 P
H02J7/00 S
(21)【出願番号】P 2020119759
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】水野 雅大
(72)【発明者】
【氏名】生駒 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 喬紀
(72)【発明者】
【氏名】南部 壮佑
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-106581(JP,A)
【文献】特開2010-041741(JP,A)
【文献】再公表特許第2012/111124(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 58/10
B60W 10/26
B60W 20/13
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるモータまたはインバータとバッテリとを接続する直流回路において前記モータまたは前記インバータに対して並列に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの電圧であるコンデンサ電圧を検出する電圧センサと、
前記バッテリの出力の上限値である電池上限電力を前記コンデンサ電圧に基づいて設定し、前記バッテリの実際の出力が前記電池上限電力を超えないように前記モータまたは前記インバータを制御する制御装置と、
前記バッテリの最大出力を算出するバッテリ管理装置とを備え、
前記制御装置は、前記最大出力に基づいて前記電池上限電力を設定する機能と、前記最大出力の情報を取得できない場合に前記コンデンサ電圧に基づいて前記電池上限電力を設定する機能とを併せ持ち、
前記制御装置が、前記コンデンサ電圧と前記電池上限電力との関係が規定されたマップを有し、
前記マップにおいて、前記コンデンサ電圧が第一所定値以上である場合に前記電池上限電力が所定値に制限され、前記コンデンサ電圧が前記第一所定値未満である場合に前記コンデンサ電圧が低いほど前記電池上限電力が線形に減少する関係が規定され、
前記制御装置は、前記最大出力の値を記憶するとともに、前記最大出力の値が前記所定値未満の状態で前記最大出力の情報を取得できなくなった場合に直近の前記最大出力の値を前記電池上限電力として設定する
ことを特徴とする、車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記マップにおいて、前記コンデンサ電圧が前記第一所定値よりも小さい第二所定値未満である場合に前記電池上限電力が0に制限される関係が規定されている
ことを特徴とする、請求項
1記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、直近の前記最大出力が、前記コンデンサ電圧に基づいて算出される前記電池上限電力未満である場合に、直近の前記最大出力を前記電池上限電力として設定する
ことを特徴とする、請求項
1または2記載の車両の駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの電力でモータを駆動する車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリの電力でモータを駆動して走行するハイブリッド自動車や電気自動車において、バッテリがその時点で出力可能な電力(電池上限電力)を算出し、実際にバッテリから出力される電力が電池上限電力を超えないようにモータを制御する技術が知られている。電池上限電力は、バッテリの残容量(SOC)やバッテリ温度に基づいて算出される(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-054026号公報
【文献】特開2017-011940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリを管理する電子制御装置とモータを制御する電子制御装置とが別設されている場合、電池上限電力が前者の電子制御装置で算出され、その情報が後者の電子制御装置に伝達される。一方、例えば通信回路の不具合により、電池上限電力の情報が後者の電子制御装置に届かないことがある。この場合、適切な電池上限電力がわからないままモータが駆動され、バッテリが過放電するおそれがある。また、通信回路の不具合だけでなく、前者の電子制御装置の不具合やセンサ類の故障が生じた場合にも、同様の課題が生じる。センサ類の故障に起因する課題は、前者の電子制御装置と後者の電子制御装置とが別設されていない場合にも発生しうる。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成でバッテリの過放電を抑制できるようにした車両の駆動制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の車両の駆動制御装置は、車両に搭載されるモータまたはインバータとバッテリとを接続する直流回路において前記モータまたは前記インバータに対して並列に接続されるコンデンサと、前記コンデンサの電圧であるコンデンサ電圧を検出する電圧センサと、前記バッテリの出力の上限値である電池上限電力を前記コンデンサ電圧に基づいて設定し、前記バッテリの実際の出力が前記電池上限電力を超えないように前記モータまたは前記インバータを制御する制御装置と、前記バッテリの最大出力を算出するバッテリ管理装置とを備える。前記制御装置は、前記最大出力に基づいて前記電池上限電力を設定する機能と、前記最大出力の情報を取得できない場合に前記コンデンサ電圧に基づいて前記電池上限電力を設定する機能とを併せ持つ。前記制御装置は、前記コンデンサ電圧と前記電池上限電力との関係が規定されたマップを有する。前記マップにおいて、前記コンデンサ電圧が第一所定値以上である場合に前記電池上限電力が所定値に制限され、前記コンデンサ電圧が前記第一所定値未満である場合に前記コンデンサ電圧が低いほど前記電池上限電力が線形に減少する関係が規定される。前記制御装置は、前記最大出力の値を記憶するとともに、前記最大出力の値が前記所定値未満の状態で前記最大出力の情報を取得できなくなった場合に直近の前記最大出力の値を前記電池上限電力として設定する。
【発明の効果】
【0007】
開示の車両の駆動制御装置によれば、簡素な構成でバッテリの過放電を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例としての駆動制御装置が適用された車両の構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示すモータを駆動するための回路を示す回路図である。
【
図3】
図2に示す車両ECUが記憶する特性を示すグラフである。
【
図4】
図2に示す車両ECUでの演算内容を例示するブロック図である。
【
図5】
図2に示す車両ECUによる制御手順を例示するフローチャートである。
【
図6】(A)~(E)は
図2に示す車両ECUによる制御作用を説明するためのグラフであり、(A)はBMUとの通信状態の経時変化、(B)はアクセル開度の経時変化、(C)は車速の経時変化、(D)はコンデンサ電圧の経時変化、(E)は電池上限電力の経時変化を表す。
【
図7】
図2に示す車両ECUによる制御手順を例示するフローチャートである。
【
図8】
図2に示す車両ECUによる制御手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.構成]
図1は、実施例としての駆動制御装置が適用された車両10の構成を示す模式図である。この車両10は、駆動源として機能するモータ7(電動機)とエンジン8(内燃機関)とを搭載したハイブリッド自動車である。
図1に示すモータ7は、前輪を駆動するフロントモータである。同様のモータ7は、後輪側にも設けられうる。また、車両10の任意の位置には、モータ7を駆動するための電力を貯留するバッテリ1が設けられる。モータ7は、バッテリ1の電力で車両10を走行させる機能と、車両の慣性を利用した発電により電力を回生する機能とを兼ね備えた交流電動発電機である。
【0010】
バッテリ1は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池である。このバッテリ1には、外部充電設備による充電(外部充電)や、モータ7の回生電力による充電や、エンジン8で駆動される図示しない発電機による充電などが可能である。バッテリ1の近傍(または内部)には、バッテリ1の電圧(例えばセル電圧や開放電圧など)を検出するバッテリ電圧センサ2と、バッテリ1の温度(例えばセル温度やケース内温度など)を検出するバッテリ温度センサ3と、バッテリ1の充放電に係る電流値を検出するバッテリ電流センサ30とが設けられる。
【0011】
図2は、
図1に示すモータ7を駆動するための直流回路9を示す回路図である。バッテリ1の電力は、直流回路9を介してインバータ4に入力され、インバータ4の内部で交流電力に変換された後にモータ7に供給される。インバータ4は、直流回路9の電力(直流電力)とモータ7が介装される交流回路の電力(交流電力)とを相互に変換する電圧制御型の電力変換装置である。インバータ4には、複数のスイッチング素子を含む三相ブリッジ回路が内蔵される。各スイッチング素子の接続状態を断続的に切り替えることで、モータ7を駆動するための交流電力が生成される。スイッチング素子には、IGBTやパワーMOSFETなどの半導体素子が用いられる。
【0012】
コンデンサ5は、インバータ4に供給される電力を平滑化するための電子部品である。
図2に示すコンデンサ5は直流回路9において、インバータ4に対して並列に接続される。なお、モータ7が直流モータである場合には、
図2中のインバータ4の位置にモータ7が配置されることになる。したがってこの場合、コンデンサ5はモータ7に対して並列に接続される。コンデンサ5の近傍には、コンデンサ5に蓄えられた電圧(コンデンサ電圧)を検出する電圧センサ6が設けられる。バッテリ1の放電時におけるコンデンサ電圧は、バッテリ1の開放電圧にほぼ一致する。
【0013】
図2に示すように、バッテリ電圧センサ2,バッテリ温度センサ3,バッテリ電流センサ30はBMU11(バッテリ管理装置,Battery Management Unit)に接続される。また、インバータ4,電圧センサ6,モータ7はMCU12(モータ制御装置,Motor Control Unit)に接続される。さらに、BMU11,MCU12は、車載通信網を介して車両ECU13(制御装置)と通信可能に設けられる。車両ECU13は、BMU11,MCU12を統括管理する役割を担う。
【0014】
BMU11,MCU12,車両ECU13の各々は、車両10に搭載される電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)であり、プロセッサとメモリとを搭載した電子デバイスである。プロセッサとは、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサであり、メモリとは、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリなどである。BMU11,MCU12,車両ECU13の各々で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されており、プログラムの実行時にはプログラムの内容がメモリ空間内に展開されて、プロセッサによって実行される。
【0015】
BMU11は、バッテリ1の監視を担当する電子制御装置である。ここでは、バッテリ1の電圧や電流,温度,残容量(SOC),劣化度などに応じて、その時点でバッテリ1が出力しうる最大の電力である最大出力[kW]が算出される。ここで算出された最大出力の情報は、車両ECU13に伝達される。MCU12は、モータ7,インバータ4の作動状態を制御する電子制御装置である。ここでは、電圧センサ6で検出されたコンデンサ電圧の情報が取得され、車両ECU13へと伝達される。また、車両ECU13で算出される電池上限電力の情報を受けて、バッテリ1の実際の出力が電池上限電力を超えないようにインバータ4及びモータ7の作動状態が制御される。
【0016】
車両ECU13は、バッテリ1の出力の上限値である電池上限電力をコンデンサ電圧に基づいて設定し、その情報をMCU12へ伝達する機能を持つ。また、車両ECU13は、電池上限電力を設定するための特性が規定されたマップ14を記憶している。このマップ14には、コンデンサ電圧と電池上限電力との関係が規定されている。
図3は、マップ14に規定される関係を例示するグラフである。このマップ14では、コンデンサ電圧が第一所定値V
1以上である場合に、電池上限電力が所定値P
1に制限されるようになっている。また、コンデンサ電圧が第一所定値V
1未満である場合には、コンデンサ電圧が低いほど電池上限電力が線形に減少している。コンデンサ電圧が第一所定値V
1よりも小さい第二所定値V
2未満である場合には、電池上限電力が0に制限されている。
【0017】
本実施例の車両ECU13は、常にコンデンサ電圧を参照して電池上限電力を設定するのではなく、以下の少なくともいずれかの条件が成立する場合に限って、コンデンサ電圧に基づく電池上限電力の設定を行う。以下の条件がいずれも不成立である場合には、BMU11で算出された最大出力に基づいて電池上限電力の設定を行う。
・条件1.BMU11で算出された最大出力の情報が取得できない場合
・条件2.BMU11との通信が途絶えている場合
なお、条件1には、BMU11における最大出力の算出が停止している状態(BMU11の不具合)やバッテリ電圧センサ2が故障している状態,バッテリ温度センサ3が故障している状態などが含まれる。また、条件2には、車載ネットワークの不具合やBMU11の送信不良などが発生している状態が含まれる。
【0018】
図4は、車両ECU13での演算内容を例示するブロック図である。電圧センサ6で検出されたコンデンサ電圧の情報は、ローパスフィルタ15(LPF)を介してマップ14に入力される。ローパスフィルタ15は、コンデンサ電圧に対応する信号から高周波成分(ノイズ)を除去したものをマップ14に出力する。マップ14は、コンデンサ電圧に対応する第一電池上限電力を出力する。第一電池上限電力の情報は勾配制限器16に入力され、その変化勾配(単位時間あたりの変化量)が急変しない範囲内に制限された後、最小値選択器19に入力される。
【0019】
BMU11で算出された最大出力の情報は、減算器21の正値側に入力される。一方、減算器21の負値側には、予め設定された余裕値(例えば数[kW]の値)が入力される。最大出力から余裕値を減じた値は第二勾配制限器22に入力され、その変化勾配(単位時間あたりの変化量)が急変しない範囲内に制限された後、上下限制限器23に入力される。上下限制限器23は、入力された値を所定の上限値から下限値までの範囲内に制限した上で、その値を最小値選択器19と選択器20とに伝達する。ここで、上下限制限器23から出力される値のことを第二電池上限電力と呼ぶ。最小値選択器19は、第一電池上限電力と第二電池上限電力とのうち、値が小さい一方を選択して選択器20に出力する。
【0020】
図4中の「制限判定」とは、選択器20での選択結果を決定するためのフラグであって、条件1,2の少なくともいずれかが成立している場合にONになり、条件1,2がともに不成立である場合にOFFになる特性を持つ。選択器20は、制限判定がONである場合に、最小値選択器19の出力を選択する。つまり、条件1,2のいずれかが成立していれば、コンデンサ電圧に由来する第一電池上限電力が最終的な電池上下電力となる。また、制限判定がOFFである場合、つまり、条件1,2が不成立である状況下では、コンデンサ電圧に由来する第一電池上限電力が選択されず、第二電池上限電力が最終的な電池上下電力となる。このように、条件1,2が不成立であれば、コンデンサ電圧が参照されないようになっている。
【0021】
[2.フローチャート]
図5は、車両ECU13での制御手順を例示するフローチャートである。このフローチャートに示す制御は、例えば
図4に示すような制御構成を持たない車両ECU13においても適用可能である。ステップA1では、各種情報が車両ECU13に入力される。ステップA2では、BMU11との通信が途絶しているか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA3に進み、コンデンサ電圧に基づいて電池上限電力が算出される。電池上限電力の値は、例えば
図3に示すような特性に基づいて算出される。その後のステップA4では、電池上限電力に基づいてモータ7やインバータ4が制御される。例えば、バッテリ1の実際の出力が電池上限電力を超えないように、インバータ4から出力されるモータ7の駆動電力が制御される。
【0022】
ステップA2の条件が不成立の場合にはステップA5に進み、車両ECU13がBMU11から最大出力の情報を取得したか否かが判定される。この条件が不成立の場合にはステップA3に進み、通信途絶時と同様の処理が実施される。一方、ステップA5の上限が成立する場合にはステップA6に進み、最大出力に基づいて電池上限電力が算出される。その後のステップA4では、電池上限電力に基づいてモータ7やインバータ4が制御される。
【0023】
図7は、
図5に示すフローチャートの変形例である。このフローでは、BMU11から伝達された最大出力の値をメモリや記憶装置に保持するためのステップB1が、
図5のステップA1とステップA2との間に追加されている。最大出力の値は、少なくとも過去一回分の値(前回値)が保持される。また、ステップA2のYESルート及びステップA5のNoルートの後には、最大出力の保持値が所定値P
1以上であるか否かを判定するステップB2が追加されている。この条件が成立する場合にはステップA3に進み、成立しない場合にはステップA6に進む。
【0024】
したがって、ステップA6では、最大出力の情報が取得されている間は、最新の最大出力の値に基づいて電池上限電力が算出される。一方、最大出力の情報を取得できなくなったときに、直近の最大出力の値(保持値)が所定値P1未満だった場合には、その保持値に基づいて電池上限電力が算出され、例えば直近の最大出力の値がそのまま電池上限電力として設定される。また、最大出力の情報を取得できなくなったときに、直近の最大出力の値(保持値)が所定値P1以上だった場合には、コンデンサ電圧に基づいて電池上限電力が算出される。
【0025】
図8は、
図7に示すフローチャートの変形例である。このフローでは、
図5に示すフローと同様に、ステップA2のYESルート及びステップA5のNoルートの後にステップA3が実施され、その後にステップC1が実施される。ステップC1では、ステップB1で保持された最大出力の保持値がステップA3で算出された電池上限電力以上であるか否かが判定される。ステップC1の条件が成立しない場合にはステップA6に進み、保持値に基づいて電池上限電力が算出される。また、ステップC1の条件が成立する場合にはステップA4に進み、ステップA3で算出された電池上限電力に基づいてモータ7やインバータ4が制御される。したがって、保持値が所定値P
1未満である場合であっても、コンデンサ電圧から算出された電池上限電力が所定値P
1を下回ったときには、そのコンデンサ電圧から算出された電池上限電力に基づいてモータ7やインバータ4が制御される。
【0026】
[3.作用]
図6(A)~(E)は、車両ECU13による制御作用を説明するためのグラフである。時刻t
1にBMU11との通信状態が途絶えると、その時点のコンデンサ電圧に基づいて電池上限電力が設定される。これにより、
図6(E)に示すように、電池上限電力の値が時刻t
1に減少する。また、時刻t
2にアクセルペダルが踏み込まれるとモータ7が駆動され、車両10が走行を開始する。一方、コンデンサ電圧は
図6(D)に示すように、時刻t
2にやや遅れて時刻t
3から徐々に減少する。
【0027】
その後、時刻t
4にコンデンサ電圧が第一所定値V
1未満になると、
図6(E)に示すように、電池上限電力がさらに抑制される。これにより、モータ7の出力が減少し、車速の伸び(加速度)が小さくなる。時刻t
5にアクセルペダルが踏み戻されると、モータ7が惰性回転状態となり、あるいは回生発電が実施される。このとき、コンデンサ電圧は速やかに回復し、そのコンデンサ電圧に応じて電池上限電力が設定される。
【0028】
[4.効果]
(1)上記の実施例では、コンデンサ電圧に基づいて電池上限電力が設定され、バッテリ1の実際の出力が電池上限電力を超えないようにインバータ4(ひいてはモータ7)が制御される。このように、コンデンサ5の電圧に応じて電池上限電力を設定することで、バッテリ1の状態を把握できない状況であってもバッテリ1の実際の出力に制限をかけることができる。したがって、簡素な構成でバッテリ1の過放電を抑制できる。
【0029】
(2)上記の車両ECU13(制御装置)は、コンデンサ電圧が低いほど電池上限電力を減少させる制御を実施する。バッテリ1の放電時におけるコンデンサ電圧は、バッテリ1の開放電圧にほぼ一致する。したがって、コンデンサ電圧の低下に応じて電池上限電力を減少させることで、バッテリ1の電圧低下の状態を電池上限電力に精度よく反映させることができ、適切にバッテリ1の過放電を防ぐことができる。
【0030】
(3)上記の実施例には、バッテリ1の最大出力を算出するBMU11(バッテリ管理装置)が設けられる。また、車両ECU13(制御装置)は、最大出力に基づいて電池上限電力を設定する機能と、最大出力の情報を取得できない場合にコンデンサ電圧に基づいて電池上限電力を設定する機能とを併せ持つ。このような制御構成により、BMU11との通信状態の良否にかかわらず、精度よく電池上限電力を設定することができ、適切にバッテリ1の過放電を防ぐことができる。
【0031】
(4)上記の実施例には、BMU11(バッテリ管理装置)とは別体に設けられ、電圧センサ6で検出されたコンデンサ電圧を監視するMCU12(モータ制御装置)が設けられる。コンデンサ電圧の監視をBMU11とは別体のMCU12で実施することで、BMU11の不調時であっても精度よくコンデンサ電圧を把握することができる。したがって、適切な電池上限電力を設定することができ、バッテリ1の過放電を防ぐことができる。
【0032】
(5)上記の車両ECU13(制御装置)は、コンデンサ電圧と電池上限電力との関係が規定されたマップ14を有している。マップ14を用いることで、コンデンサ電圧に対応する電池上限電力の値を迅速かつ容易に設定することができる。したがって、バッテリ1やモータ7,インバータ4の制御性を向上させることができる。また、マップ14に規定される関係を変更することで、電池上限電力の制限の強さを容易に変更することができ、設計変更や仕様変更に対して的確に対応する制御を実現しやすくできる。
【0033】
(6)上記のマップ14では、
図3に示すように、コンデンサ電圧が第一所定値V
1以上である場合に電池上限電力が所定値P
1に制限されている。また、コンデンサ電圧が第一所定値V
1未満である場合には、コンデンサ電圧が低いほど電池上限電力が線形に減少する関係が規定されている。このように、コンデンサ電圧が第一所定値V
1未満の状態ではコンデンサ電圧が低いほど電池上限電力を減少させることで、バッテリ1の電圧低下の状態を電池上限電力に精度よく反映させることができ、適切にバッテリ1の過放電を防ぐことができる。一方、コンデンサ電圧が第一所定値V
1以上の状態では、電池上限電力を所定値P
1に固定することで、過度な制限を防止することができ、車両10の走行性能を維持することができる。
【0034】
(7)上記のマップ14では、
図3に示すように、コンデンサ電圧が第一所定値V
1よりも小さい第二所定値V
2未満である場合に電池上限電力が0に制限される関係が規定されている。このように、コンデンサ電圧が第二所定値V
2未満の状態では、電池上限電力を0にすることでバッテリ1のそれ以上の放電を停止させることができる。したがって、バッテリ1の過放電を確実に防止することができる。
【0035】
(8)
図7に示すように、最大出力の値が所定値P
1未満の状態で最大出力の情報を取得できなくなった場合には、直近の最大出力の値を電池上限電力として設定してもよい。このような制御により、例えば最大出力の情報が取得されなくなった時点でコンデンサ電圧が十分に低下していなかったとしても、直近の最大出力に基づいてバッテリ1の出力を制限することができる。したがって、簡素な構成でバッテリ1の過放電を抑制できる。
【0036】
(9)
図8に示すように、直近の最大出力の保持値がコンデンサ電圧に基づいて算出される電池上限電力未満である場合に、直近の最大出力を電池上限電力として設定してもよい。言い換えれば、直近の最大出力の保持値がコンデンサ電圧に基づいて算出される電池上限電力以上である場合には、保持値を参照することなく、コンデンサ電圧に基づいて算出される電池上限電力に基づいてモータ7やインバータ4を制御してもよい。
【0037】
つまり、直近の最大出力に基づく制御の実施中にもコンデンサ電圧に基づく電池上限電力を算出しておき、その値が保持値を下回るまでの間は直近の最大出力の値を使用するとともに、その値が保持値を下回ったらコンデンサ電圧に基づく電池上限電力を使用してもよい。この場合、最終的に得られる電池上限電力は、コンデンサ電圧から求めた電池上限電力と保持値とのいずれか小さい一方となる。このような制御により、例えば最大出力の情報が取得されなくなった時点でコンデンサ電圧が比較的高く、かつ、その後にコンデンサ電圧が低下したような場合に、バッテリ1の出力を適切に制限することができる。したがって、簡素な構成でバッテリ1の過放電を抑制できる。
【0038】
[5.変形例]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせることができる。例えば、上述の実施例ではインバータ4を用いて交流型のモータ7を制御する駆動制御装置が記載されているが、直流型のモータ7を用いて同様の制御を実施することも可能である。この場合、直流式のモータ7は、
図2中のインバータ4の位置に介装される。コンデンサ電圧に基づいて設定される電池上限電力を超えないようにモータ7を制御することで、上述の実施例と同様の作用・効果を獲得できる。
【符号の説明】
【0039】
1 バッテリ
2 バッテリ電圧センサ
3 バッテリ温度センサ
4 インバータ
5 コンデンサ
6 電圧センサ
7 モータ
8 エンジン
9 直流回路
10 車両
11 BMU(バッテリ管理装置)
12 MCU(制御装置,モータ制御装置)
13 車両ECU(制御装置)
14 マップ
15 ローパスフィルタ
16 勾配制限器
19 最小値選択器
20 選択器
21 減算器
22 第二勾配制限器
23 上下限制限器
30 バッテリ電流センサ