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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240618BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20240618BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240618BHJP
   C09J 123/10 20060101ALI20240618BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20240618BHJP
   C09J 123/30 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B32B15/085
B32B27/32
C09J123/10
C09J123/08
C09J123/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020132512
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029260
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 翔平
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186405(JP,A)
【文献】特開2006-035516(JP,A)
【文献】特開平10-157035(JP,A)
【文献】特開2020-111745(JP,A)
【文献】特開2017-170753(JP,A)
【文献】特開2019-220295(JP,A)
【文献】特開2011-256339(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115648746(CN,A)
【文献】特開平9-111069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分として少なくとも下記の成分(A)~(D)の合計100質量%に対して成分(A)を0.5~30質量%、成分(B)を3~25質量%、成分(C)を25~91質量%、成分(D)を0.5~45質量%含む接着性樹脂組成物からなる層と、樹脂からなる層と、金属からなる基材層とを有する積層体であって、該接着性樹脂組成物からなる層の一方の面に該樹脂からなる層を接するように有し、該接着性樹脂組成物からなる層の他方の面に該基材層を接するように有する積層体。
成分(A):プロピレン系重合体に、少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトした変性ポリプロピレンであって、該不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性率が0.01質量%以上10質量%以下である変性ポリプロピレン
成分(B):分子内に分岐構造を有しかつDSCで測定した融点が150℃以上である、前記成分(A)とは異なるプロピレン系重合体
成分(C):DSCで測定した融点が150℃未満で、40℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分率が4.0質量%以下の、前記成分(A)とは異なるプロピレン系重合体
成分(D):前記成分(A)、成分(B)及び成分(C)とは異なるエチレン・α-オレフィン共重合体
【請求項2】
前記成分(B)のプロピレン系重合体の溶融張力(MT)(230℃)が1~60gである、請求項1に記載の積層体
【請求項3】
前記成分(B)のプロピレン系重合体のメルトフローレート(JIS K7210(230℃、荷重2.16kg))が0.5~70g/10分である、請求項1又は2に記載の積層体
【請求項4】
前記成分(C)のプロピレン系重合体のメルトフローレート(JIS K7210(230℃、荷重2.16kg))が1~50g/10分である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属や樹脂と接着可能な接着性樹脂組成物と、この接着性樹脂組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機などの輸送機器、家電機器、エレクトロニクス分野のボディ素材、フレーム素材、筒体素材、包装体素材等において、軽量であり、耐久性にも優れることから、金属層と樹脂層、あるいは異なる樹脂層同士を積層させた積層体が用いられている。このような積層体は、各層間の接着力が乏しいため、層と層との間に接着層を介在させ、接着層による接着力で積層一体化される。
この接着層として、溶剤型接着剤や熱可塑性樹脂よりなる接着性樹脂組成物を用いる技術が知られている。溶剤型接着剤は、塗布工程による厚みむらが出やすい、有機溶剤を使用するために環境負荷が高いといった問題がある。一方、熱可塑性樹脂よりなる接着性樹脂組成物は、押出溶融による成形加工で簡便に積層体とすることができ、また、環境負荷が小さいといった利点から、広範に使用されている。
【0003】
このような接着性樹脂組成物として、特許文献1には、金属又はプライマーを塗布した高分子支持体の塗布に適する組成物として、プロピレンポリマーと、特定の枝分かれ指数又は溶融張力の高溶融強度プロピレンポリマーと、極性基を有する不飽和化合物をグラフトした変性プロピレンポリマーとを混合したプロピレンポリマー樹脂組成物が記載されている。
特許文献2には、延伸後にも良好な接着性を示す接着層を形成し得る接着性樹脂組成物として、下記成分(A)~(D)を含む接着性樹脂組成物が記載されている。
成分(A):ポリプロピレンに、少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトした変性ポリプロピレン
成分(B):分子内に分岐構造を有するプロピレン系重合体
成分(C):成分(A)及び成分(B)以外のポリプロピレン系樹脂
成分(D):エチレン・α-オレフィン共重合体
特許文献3には、初期接着性に優れるとともに、熱履歴後の接着性にも優れた接着剤として、アイソタクティックポリプロピレンと、融点(Tm)が40~120℃で特定の分子量分布を有するプロピレン・エチレンランダム共重合体と、エチレン・プロピレンランダム共重合体とを含む組成物に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフト付加したポリプロピレン系接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2000/69982号
【文献】特開2017-186405号公報
【文献】国際公開第2007/086425号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着性樹脂組成物の金属や樹脂等への接着性を高めるために、接着時の加熱温度を比較的高温として圧力をかけると、加熱により、金属や樹脂等の成形部材が損傷し、積層体としての意匠性が損なわれたり、機能が失われるという問題が生じる。そのため、接着性樹脂組成物には、積層体の意匠性や機能を損なわない程度の低温加工であっても金属や樹脂等と接着する低温加工性が求められている。
また、自動車等の80℃を超える実用的な耐熱性が要求される用途では、層間剥離や表層樹脂の浮きなどを生じさせないために、高温雰囲気下で金属や樹脂等と接着性を維持する耐熱性が求められる。
更に、長時間外力に晒される用途では、接着性樹脂組成物よりなる接着層の変形・破壊が生じ、積層体としての耐クリープ性が損なわれる場合があることから、積層体の接着層を構成する接着性樹脂組成物には耐クリープ性も求められる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の接着性樹脂組成物は、本発明における成分(C)に該当する融点150℃未満のプロピレン系重合体を含まず、後掲の比較例3に示すように低温加工性や耐熱性、耐クリープ性が劣る場合があり、特に耐クリープ性の観点で未だ改善の余地がある。特許文献2に記載の接着性樹脂組成物は、本発明における成分(C)に該当する40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率4.0質量%以下のプロピレン系重合体を含まず、後掲の比較例2に示すように低温加工性に優れるものの耐熱性や耐クリープ性の観点で未だ改善の余地がある。また、特許文献3に記載の接着性樹脂組成物は、低温加工性、耐熱性に優れるものの、本発明における成分(B)に該当する分子内に分岐構造を有するプロピレン系重合体を含まず、後掲の比較例1に示すように耐クリープ性の観点で未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、金属や樹脂等と接着して用いる場合に、低温加工性と、耐熱性と、耐クリープ性とを満足する接着性樹脂組成物と、この接着性樹脂組成物を用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、成分(A):プロピレン系重合体に、少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトした変性ポリプロピレン、成分(B):分子内に分岐構造を有しかつDSCで測定した融点が150℃以上であるプロピレン系重合体、及び、成分(C):DSCで測定した融点が150℃未満で、40℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分率が4.0質量%以下のプロピレン系重合体、及び、成分(D):エチレン・α-オレフィン共重合体を含有する接着性樹脂組成物とすることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 樹脂成分として少なくとも下記の成分(A)~(D)を含有する接着性樹脂組成物。
成分(A):プロピレン系重合体に、少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトした変性ポリプロピレン
成分(B):分子内に分岐構造を有しかつDSCで測定した融点が150℃以上であるプロピレン系重合体
成分(C):DSCで測定した融点が150℃未満で、40℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分率が4.0質量%以下のプロピレン系重合体
成分(D):エチレン・α-オレフィン共重合体
【0011】
[2] 前記成分(B)のプロピレン系重合体の溶融張力(MT)(230℃)が1~60gである、[1]に記載の接着性樹脂組成物。
【0012】
[3] 前記成分(B)のプロピレン系重合体のメルトフローレート(JIS K7210(230℃、荷重2.16kg))が0.5~70g/10分である、[1]又は[2]に記載の接着性樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記成分(C)のプロピレン系重合体のメルトフローレート(JIS K7210(230℃、荷重2.16kg))が1~50g/10分である、[1]~[3]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記成分(A)~(D)の合計100質量%に対して成分(A)を0.5~30質量%、成分(B)を3~25質量%、成分(C)を25~91質量%、成分(D)を0.5~45質量%含む、[1]~[4]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0015】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物からなる層と、樹脂からなる層とを有する積層体であって、該接着性樹脂組成物からなる層の片面又は両面に該樹脂からなる層を接するように有する積層体。
【0016】
[7] 更に基材層を有する、[6]に記載の積層体。
【0017】
[8] 前記接着性樹脂組成物からなる層の片面に前記基材層を接するように有する、[7]に記載の積層体。
【0018】
[9] 前記基材層、前記接着性樹脂組成物からなる層、前記樹脂からなる層がこの順で積層された、[7]又は[8]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の接着性樹脂組成物によれば、低温加工性と、耐熱性と、耐クリープ性とを満足する積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0021】
本発明において、樹脂のメルトフローレート(MFR)、密度、融点は、以下のようにして測定された値である。
【0022】
<MFR>
後述の成分(A)の変性ポリプロピレン及び原料プロピレン系重合体、成分(B)の分岐構造を有するプロピレン系重合体、成分(C)のプロピレン系重合体のMFRは、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体のMFRは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定される。
【0023】
<密度>
JIS K7112に準拠して、水中置換法で測定される。
【0024】
<融点>
成分(B)の分岐構造を有するプロピレン系重合体、成分(C)のプロピレン系重合体の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。一旦200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて昇温して測定した際の、吸熱ピークトップの温度を融点(℃)とした。単位は℃である。
【0025】
また、共重合体を構成する各単量体単位の含有率、例えば後述の成分(A)の原料プロピレン系重合体や成分(B)のプロピレン系重合体のプロピレン単位や他の共重合成分の各構成単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
ここで、「単量体単位」とは共重合体の原料単量体に由来して共重合体に導入される繰り返し単位をさす。
【0026】
[接着性樹脂組成物]
本発明の接着性樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と称す場合がある。)は、樹脂成分として少なくとも下記の成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含有し、好ましくは、該成分(A)~(D)の合計100質量%中に成分(A)を0.5~30質量%、成分(B)を3~25質量%、成分(C)を25~91質量%、成分(D)を0.5~45質量%含む接着性熱可塑性樹脂組成物である。
本発明において、「樹脂成分」とは、下記成分(A)~(D)と後述のその他の成分としての成分(A)~(D)以外の樹脂を指す。
成分(A):プロピレン系重合体に、少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトした変性ポリプロピレン
成分(B):分子内に分岐構造を有しかつDSCで測定した融点が150℃以上であるプロピレン系重合体
成分(C):DSCで測定した融点が150℃未満で、40℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分率が4.0質量%以下のプロピレン系重合体
成分(D):エチレン・α-オレフィン共重合体
【0027】
<メカニズム>
本発明の接着性樹脂組成物は、成分(A)に由来して不飽和カルボン酸成分を含むことで、基材層、特に金属の基材層との接着性を十分なものとすることができる。また、成分(B)は、圧縮クリープ歪みを小さくする方向に作用し、優れた耐クリープ性を与える。これは、成分(B)が分岐構造に由来し、高い歪み硬化性を有するためと考えられる。成分(C)は低温加工性と耐熱性を両立させる。更に、成分(C)は、成分(A)、成分(B)及び成分(D)との相溶性との関係から、各成分との界面強度を高め、圧縮クリープ歪みを小さくする方向に作用する。また、成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体は、濡れ性を向上させ、接着性を高める方向に作用し、機械的強度を向上させる。
【0028】
<成分(A)>
成分(A)は、プロピレン系重合体に、少なくとも1種の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトした変性ポリプロピレンである。
【0029】
成分(A)の原料として用いるプロピレン系重合体(以下、「原料プロピレン系重合体」と称す場合がある。)は、プロピレン単位の含有率が50mol%を超える、即ちプロピレン以外の単量体単位の含有率が50mol%未満のものであれば限定されない。好ましくはプロピレン以外の単量体単位の含有率が40mol%以下、より好ましくは30mol%以下、更に好ましくは20mol%以下である。
【0030】
原料プロピレン系重合体は、上記に該当するものであれば特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体等のプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンの1種又は2種以上との共重合体であるプロピレン・α-オレフィン共重合体、プロピレンとその他のビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。本明細書において、プロピレン・α-オレフィン共重合体のα-オレフィンはエチレンを含む広義の意味である。プロピレン以外のα-オレフィンは限定されないが、通常、エチレンと炭素数4~20、好ましくは4~10の二重結合を有する炭化水素が挙げられる。また、「その他のビニルモノマー」も限定されないが、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、スチレン誘導体が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」を意味する。
【0031】
原料プロピレン系重合体は、上記の樹脂の1種であってもよく2種以上の混合物であってもよい。
【0032】
なお、前記の各共重合体としては、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0033】
これらの中でも、原料プロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、これらのブレンド物が好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0034】
原料プロピレン系重合体のMFR(230℃、荷重2.16kg)は特に限定されないが、通常0.5~50g/10分であり、好ましくは1~30g/10分であり、より好ましくは2~25g/10分である。MFRを上記下限値以上とすることで、単独での凝集力が強くなることをおさえ、他の成分との均一混合がしやすくなり、また、本発明の接着性樹脂組成物を製造する際のエネルギー負荷の増大を抑制することができる。また、MFRを上記上限値以下とすることで、本発明の接着性樹脂組成物の流動性を所望の範囲に制御でき、優れた成形加工性と耐クリープ性を維持できる。
【0035】
また、原料プロピレン系重合体の密度は、成分(A)の機械強度を優れたものとするために、0.870~0.910g/cmであることが好ましく、0.885~0.905g/cmあることがより好ましい。成分(A)の機械強度を優れたものとすることで、接着強度が高まり、優れた耐クリープ性が得られる。
【0036】
原料プロピレン系重合体のグラフト変性に用いる不飽和カルボン酸としては、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの不飽和カルボン酸の酸無水物、カルボン酸エステルが例示され、更には、酸ハロゲン化物、アミド、イミド等の誘導体であってもよい。これらの誘導体の中では、酸無水物が好ましい。
【0037】
これらの中では、特にマレイン酸及び/又はその無水物が好適である。また、これらの化合物を複数併用してもよい。更には、ビニルトリメトキシシラン等のいわゆるビニルシラン類等を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体とともに併用することもできる。
【0038】
成分(A)の変性ポリプロピレンを得るためのグラフト変性は公知の如何なる方法を用いてもよく、熱のみの反応でも得ることができるが、反応の際にラジカルを発生させる公知の有機過酸化物等をラジカル発生剤として添加してもよい。また、反応させる手法としては、例えば、溶媒中で反応させる溶液変性法や溶媒を使用しない溶融変性法が挙げられ、更には、懸濁分散反応法等その他の方法を用いてもよい。
【0039】
溶融変性法としては、原料プロピレン系重合体と、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体と、必要により後述するラジカル発生剤を予め混合した上で、混練機中で溶融混練して反応させる方法や、混練機中で溶融した原料プロピレン系重合体に、ラジカル発生剤と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体との混合物を装入口から添加して反応させる方法等を用いることができる。混合には通常、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用される。溶融混練には通常、単軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等を使用することができる。
【0040】
溶液変性法としては、原料プロピレン系重合体を有機溶媒等に溶解して、これに後述するラジカル発生剤と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体とを添加してグラフト共重合させる方法を使用することができる。有機溶媒としては特に限定されるものではなく、例えばアルキル基置換芳香族炭化水素やハロゲン化炭化水素を使用することができる。
【0041】
グラフト変性する際の原料プロピレン系重合体と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体との配合割合は限定されないが、原料プロピレン系重合体100質量部に対し、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を通常0.01~30質量部、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部の割合で配合することが望ましい。
【0042】
ラジカル発生剤としては公知のものが使用でき、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類、ヒドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類等が挙げられる。これらのうちで、ジアルキルパーオキサイド類としては、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンやジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
【0043】
これらのラジカル発生剤は、原料プロピレン系重合体の種類やMFR、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の種類及び反応条件等に応じて適宜選択することができ、2種以上を併用してもよい。
【0044】
ラジカル発生剤の配合量は限定されないが、原料プロピレン系重合体100質量部に対し、通常0.001~20質量部、好ましくは0.005~10質量部、より好ましくは0.01~5質量部、更に好ましくは0.01~3質量部である。
【0045】
成分(A)の変性ポリプロピレンにおける不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性率(グラフト率)は限定されないが、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、一方、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性率が上記下限値以上であれば、本発明の接着性樹脂組成物における基材層への接着性が良好となる。また、変性率が上記上限値以下であれば熱安定性の低下、他の成分との相溶性の低下を抑制することができる。
【0046】
ここで変性率(グラフト率)とは、予め核磁気共鳴測定法により標準サンプルとして変性ポリオレフィン中における不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体成分の定量を行い、その定量値から作成された検量線を用いて、赤外分光測定装置で測定した際の、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体成分の含有率を意味する。例えば、厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中のカルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収、具体的には1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。なお、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、100%が反応に供されずに、原料プロピレン系重合体と反応していない不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体も変性ポリプロピレン中に残留している場合があるが、本発明における変性率(グラフト率)は、上記の方法で測定した際の値を意味するものとする。
【0047】
また、成分(A)は、未反応の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を除く処理を行うことができる。この処理方法は限定されないが、具体的な例としては、装置下部より気体が吹き込める構造を有する貯蔵タンクに変性ポリプロピレンを入れて、ヒーターあるいは熱媒油で装置を100℃程度に加熱し、装置下部より窒素等の不活性気体あるいは空気を吹き込み、6~24時間処理する方法がある。
【0048】
これら成分(A)の変性ポリプロピレンは1種のみを用いてもよく、原料プロピレン系重合体の共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
<成分(B)>
成分(B)は、分子内に分岐構造を有しかつDSCで測定した融点が150℃以上であるプロピレン系重合体である。ここで、成分(B)の有する分子内の分岐構造とは、プロピレンよりなる主鎖が分岐した構造を有するものであれば特に制限されず、プロピレンよりなる主鎖が架橋構造を含むものも分岐構造に含まれる。分岐を構成する炭素骨格(分岐の主鎖)の炭素数は、耐クリープ性の観点から数十以上、分子量では数百以上からなる分子鎖による分岐構造のものが好ましい。このような、分子内に分岐構造を有するプロピレン系重合体としては、例えばイソプレングラフト型ポリプロピレンや重合型長鎖分岐ポリプロピレンがある。
【0050】
成分(B)の分子内の分岐構造の程度を示す指標として、成分(B)のプロピレン系重合体の溶融張力(MT)が挙げられる。溶融張力(MT)は分子鎖の絡み合い密度を表すものである。分子鎖の絡み合い密度が高くなると、耐クリープ性が向上する。
【0051】
成分(B)の溶融張力(MT)(230℃)は、良好な耐クリープ性を維持する観点から、好ましくは1~60gであり、より好ましくは3~50g、更に好ましくは5~45gである。ここで、溶融張力(MT)(230℃)は以下の条件で測定された値を用いている。
測定装置:(株)東洋精機製製作所社製キャピログラフ1B
キャピラリー:直径2.0mm、長さ10mm
シリンダー径:9.55mm
シリンダー押出速度:10mm/分
引き取り速度:1.0m/分(但し、MTが高すぎて樹脂が破断してしまう場合には、引き取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度で測定する。)
温度:230℃
【0052】
MFRが高い等の理由により、230℃での溶融張力(MT)を測定できない場合は、以下に示すように、200℃での溶融張力(MT)を測定してもよい。成分(B)の溶融張力(MT)(200℃)は、良好な耐クリープ性を維持する観点から、好ましくは0.5~25gであり、より好ましくは1~20g、更に好ましくは2~15gである。溶融張力(MT)(200℃)は以下の条件で測定された値を用いている。
測定装置:(株)東洋精機製製作所社製キャピログラフ1B
キャピラリー:直径1.0mm、長さ10mm
シリンダー径:9.55mm
シリンダー押出速度:10mm/分
引き取り速度:4.0m/分(但し、MTが高すぎて樹脂が破断してしまう場合には、引き取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度で測定する。)
温度:200℃
【0053】
成分(B)のプロピレン系重合体は、エチレン、1-ブテン等のα-オレフィン、α-オレフィン以外のその他の単量体単位を含有していてもよく、その他の単量体としては具体的には、前記成分(A)の原料プロピレン系重合体における「その他のビニルモノマー」が挙げられる。これらの中でも、成分(B)のプロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、これらのブレンド物が好ましく、プロピレン単独重合体が好適に用いられる。
【0054】
成分(B)の分子内に分岐構造を有するプロピレン系重合体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造できる。例えば、電子線照や、パーオキサイドと架橋モノマーの存在下、押出機内で変性する、もしくは特殊な触媒によって重合時に枝分かれ構造を付与するなどして得ることができる。
【0055】
成分(B)のプロピレン系重合体が、プロピレン・α-オレフィン共重合体の場合、以下の融点を達成可能な材料として、結晶性が高い材料、具体的には当該共重合体におけるプロピレン単位の含有率がα-オレフィン含有率に比べて高いものが挙げられる。当該共重合体におけるプロピレンとα-オレフィンとの共重合比率は、プロピレン単位の含有率とα-オレフィンに基づく単量体単位の含有率との合計を100mol%として、好ましくはプロピレン単位の含有率が60mol%以上、より好ましくは75mol%以上、更に好ましくは90mol%以上である。プロピレン単位の含有率が上記下限以上であれば、高温時の基材層に対する接着性、即ち耐熱性や耐クリープ性の低下を抑制できる。一方、プロピレン単位の含有率の上限については特に限定されないが、通常100mol%未満である。
【0056】
成分(B)のプロピレン系重合体の融点は150℃以上である。成分(B)のプロピレン系重合体の融点が150℃以上であると、耐熱性と耐クリープ性に優れる。成分(B)のプロピレン系重合体の融点は、好ましくは155℃以上である。ただし、融点が過度に高いと、他の成分との均一混合性が低下するため、成分(B)のプロピレン系重合体の融点は175℃以下が好ましい。
【0057】
成分(B)のプロピレン系重合体のMFR(230℃、荷重2.16kg)は、0.5~70g/10分が好ましい。成分(B)のプロピレン系重合体のMFRを上記上限以下とすることで、成分(B)の歪み硬化性を保持でき、接着性樹脂組成物としたときに優れた耐クリープ性が得られる。一方、MFRを上記下限以上とすることで、他の成分との相溶性が良好となり、他の成分との均一混合性に優れる。成分(B)のMFRはより好ましくは0.5~65g/10分である。
【0058】
成分(B)のプロピレン系重合体の密度は限定されないが、通常0.880g/cm以上であることが望ましい。プロピレン系重合体の密度が上記下限以上であれば、高温時の基材層に対する接着性、即ち耐熱性の低下を抑制できる。成分(B)のプロピレン系重合体の密度の上限は限定されないが、通常0.910g/cm以下である。
【0059】
成分(B)は市販品として入手することができる。市販品としては、例えば、ボレアリス社製「Daploy(登録商標) WB135HMS」、日本ポリプロ社製「WAYMAX(登録商標) MFX3、MFX8、EX4000」、カネカ社製「SLB039N(登録商標)」、バゼル社製「Profax(登録商標) PF-814」から該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0060】
これら成分(B)のオレフィン系重合体は、1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
<成分(C)>
成分(C)は、DSCで測定した融点が150℃未満で、40℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分率が4.0質量%以下のプロピレン系重合体である。ここで、成分(C)のプロピレン系重合体の40℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分率(以下、「40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率」と称す場合がある。)は、TREF(温度上昇溶離分別)法によって得られる溶出曲線を用いて、試料の総質量に対して、40℃の温度でオルトジクロロベンゼンに溶出した可溶分の質量の割合として測定される。
【0062】
成分(C)のプロピレン系重合体は、プロピレン以外のα-オレフィン、α-オレフィン以外のその他の単量体単位を含有していてもよい。プロピレン以外のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等のα-オレフィンが挙げられる。その他の単量体としては具体的には、前記成分(A)の原料プロピレン系重合体における「その他のビニルモノマー」が挙げられる。これらの中でも、成分(C)のプロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、これらのブレンド物が好ましく、耐熱性を低下せず、結晶性を効率よく低下させ、低温加工性を維持できる観点から、より好ましくはプロピレン・エチレン共重合体である。
【0063】
成分(C)のプロピレン系重合体が、プロピレンの単独重合体の場合、以下の融点を達成可能な材料として、結晶性が低い材料、具体的には立体規則性を低下させた材料が挙げられる。成分(C)のプロピレン系重合体が、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体の場合、当該共重合体におけるプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合比率は、プロピレン単位の含有率とプロピレン以外のα-オレフィン単位の含有率との合計を100mol%として、好ましくは、プロピレン単位の含有率が70~99.5mol%、プロピレン以外のα-オレフィン単位の含有率が0.5~30mol%であり、より好ましくは、プロピレン単位の含有率が85~99mol%、プロピレン以外のα-オレフィン単位の含有率が1~15mol%である。
プロピレン単位の含有率が上記上限以下であれば、低温加工性の低下を抑制できる。また、プロピレン単位の含有率が上記下限以上であれば、高温時における基材に対する接着性、即ち耐熱性や耐クリープ性の低下を抑制できる。
【0064】
成分(C)のプロピレン系重合体の融点は150℃未満、好ましくは145℃以下である。成分(C)のプロピレン系重合体の融点を150℃未満とすることで、優れた低温加工性と接着性を得ることができる。また、接着性樹脂組成物を構成する成分(A)、(B)、(D)との相溶性が良好となり、耐クリープ性の低下を抑えられる。ただし、融点が過度に低いと、耐熱性が低下するため、成分(C)のプロピレン系重合体の融点は70℃以上であることが好ましい。
【0065】
また、成分(C)のプロピレン系重合体の40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率は、4.0質量%以下である。40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率は、成分(C)に含まれる低分子及び/又は低結晶性成分の含有率の指標である。成分(C)は、成分(A)、成分(B)及び成分(D)との相溶性との関係から、各成分との界面強度を高め、圧縮クリープ歪みを小さくする方向に作用するが、40℃におけるオルトジクロロベンゼンへの可溶分に該当するこれら低分子及び/又は低結晶性成分は、その機械強度ならびに融点が低いため、各成分との界面強度を低下させるため、40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率は低い方が好ましい。
成分(C)のプロピレン系重合体の40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率が4.0質量%以下であることで、成分(A)、成分(B)及び成分(D)といった各成分との界面強度を高めることができる。各成分との界面強度を高める観点から、成分(C)のプロピレン系重合体の40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率は、好ましくは3.0質量%以下である。ただし、40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率を過度に低くすることは現状の重合技術では実現困難であることから、通常その下限は0.1質量%以上である。
【0066】
成分(C)のプロピレン系重合体のMFR(230℃、荷重2.16kg)は、1~50g/10分であることが好ましい。成分(C)のプロピレン系重合体のMFRを上記上限以下とすることで、溶融粘度を所望の範囲に制御しやすく、良好な押出加工性を得やすくなる。一方、MFRを上記下限以上とすることで、他の成分との相溶性が良好となり、他の成分との均一混合性に優れる。成分(C)のMFRはより好ましくは1.5~35g/10分である。
【0067】
成分(C)のプロピレン系重合体の密度は限定されないが、通常0.870g/cm以上であることが望ましい。プロピレン系重合体の密度が前記下限以上であれば、高温時の基材に対する接着性の低下、即ち耐熱性の低下を抑制できる。成分(C)のプロピレン系重合体の密度の上限は限定されないが、通常0.910g/cm以下である。
【0068】
成分(C)は市販品として入手することができる。市販品としては、例えば、日本ポリプロ社製「ウィンテック(登録商標) WFX6、WMG03」、バゼル社製「Metocene(登録商標) HM562、HM2089」から該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0069】
これら成分(C)のプロピレン系重合体は、1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
[成分(D)]
成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体は、本発明の接着性樹脂組成物に接着性や機械的強度を付与する成分である。
【0071】
成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンは限定されないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンの1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、炭素数が3~8であるものが好ましい。
【0072】
成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位を主成分として含有するものであり、エチレン単位の含有率とα-オレフィン単位の含有率の合計を100質量%としたときに、エチレン単位の含有率が60~90質量%、α-オレフィン単位の含有率が10~40質量%であることが好ましく、より好ましくは、エチレン単位の含有率が70~80質量%、α-オレフィン単位の含有率が20~30質量%である。エチレン単位の含有率が上記範囲内であると、他の成分との親和性が良好となって接着性樹脂組成物における成分(D)の微分散性が向上する傾向にある。
【0073】
成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体には、エチレンと上記のα-オレフィン以外の他の単量体単位が含まれていてもよい。これらの単量体単位を含有する場合の含有率は限定されないが、他の単量体単位とα-オレフィン単位との合計の含有率が、前記のα-オレフィン単位の含有率の範囲内となることが好ましい。その他の単量体としては前記した成分(A)の原料プロピレン系重合体における「その他のビニルモノマー」が挙げられる。
【0074】
成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体のMFR(190℃、荷重2.16kg)は限定されないが、0.5~30g/10分であることが好ましく、1~15g/10分であることがより好ましい。
MFRが上記下限以上であると、その他の樹脂との溶融混練の際、混練不足による異物の発生を抑制でき、成形した際に良好な外観の接着性樹脂組成物を得やすい。また、MFRが上記上限以下であると、成分(D)が配向することなく微分散性が保たれるために好ましい。
【0075】
また、成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体の密度は限定されないが、通常0.89g/cm以下、好ましくは0.88g/cm以下であることが望ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体の密度が上記上限以下であると成形時の濡れ性が十分となり層間接着強度、即ち耐熱性が向上する傾向がある。成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体の密度の下限は限定されないが、通常0.85g/cm以上である。
【0076】
成分(D)は市販品として入手することができる。市販品としては、例えば、三井化学社製「Tafmer(登録商標)」シリーズ、DOW社製「Engage(登録商標)」シリーズ、LG化学社製「LUCENE(登録商標)」シリーズ、SK化学社製「SOLUMER(登録商標)」の中から該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0077】
これら成分(D)のエチレン・α-オレフィン共重合体は、1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
<成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の含有割合>
本発明の接着性樹脂組成物は、前記成分(A)~(D)の合計100質量%に対して成分(A)を0.5~30質量%、成分(B)を3~25質量%、成分(C)を25~91質量%、成分(D)を0.5~45質量%含むことが好ましい。
【0079】
成分(A)の含有率は、グラフト変性に用いた酸量の程度が反映されるが、上記上限値以下とすることで、吸湿により、水分と官能基が反応し、接着性が低下したり、吸湿した水分により発泡しやすくなる等の副作用を抑えやすい。成分(A)の含有率を上記下限値以上とすることで、官能基濃度を基材層との接着性を発揮するのに十分な範囲に制御しやすい。成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量%中の成分(A)の含有率は、より好ましくは1~20質量%である。
【0080】
成分(B)の含有率を上記上限値以下とすることで、接着性樹脂組成物の溶融粘度を所望の範囲に維持しやすく、押出加工性を良好とできる。また、接着性樹脂組成物としての融点を所望の範囲に制御しやすく、低温加工時における接着性を高めやすい。また、成分(B)の含有率を上記下限値以上とすることで、耐クリープ性を維持しやすい。成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量%中の成分(B)の含有率は、より好ましくは3~20質量%である。
【0081】
成分(C)の含有率を上記下限値以上とすることで、低温加工性を維持しやすい傾向にあるほか、常温及び高温時の接着性も維持しやすい傾向にある。また、成分(C)の含有率を上記上限値以下とすることで、他の成分の必要量を確保して、耐クリープ性、耐熱性を高めることができる。成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量%中の成分(C)の含有率は、より好ましくは40~91質量%である。
【0082】
成分(D)の含有率を上記上限値以下とすることで、耐熱性と耐クリープ性を良好に維持しやすい。また、成分(D)の含有率を上記下限値以上とすることで、低温加工性や常温での接着性を良好に維持しやすい。成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量%中の成分(D)の含有率は、より好ましくは5~39質量%である。
【0083】
<接着性樹脂組成物中の不飽和カルボン酸成分の含有率>
本発明の接着性樹脂組成物は、樹脂成分の合計100質量%中に、不飽和カルボン酸成分を0.001質量%以上含むことが好ましい。この不飽和カルボン酸成分は、成分(A)の変性ポリプロピレンに由来していてもいなくてもよい。
【0084】
接着性樹脂組成物中の不飽和カルボン酸成分の含有率は、前述の成分(A)の変性ポリプロピレンの変性率と同様に求めることができる。或いは、成分(A)の変性ポリプロピレンの変性率(グラフト率)と成分(A)の含有割合とから算出することができる。
【0085】
本発明の接着性樹脂組成物の上記不飽和カルボン酸成分の含有率を上記下限値以上とすることで、基材層への接着性を十分に得やすい。ただし、不飽和カルボン酸成分の含有率が多過ぎると、接着性樹脂組成物としての相溶性が低下するので、接着性と相溶性の両立の観点で、樹脂成分100質量%中の不飽和カルボン酸成分の含有率は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.07~0.4質量%がより好ましい。
【0086】
<その他の成分>
本発明の接着性樹脂組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分(A)~(D)以外に添加剤や樹脂等(以下、その他の成分という場合がある)を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0087】
本発明の接着性樹脂組成物に使用可能な添加剤は限定されないが、具体的には、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、難燃剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、充填剤(無機及び/又は有機フィラー等)、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、相溶化剤、触媒残渣の中和剤、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)が挙げられる。これら添加剤を用いる場合のその含有率は限定されないが、接着性樹脂組成物に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下であることが望ましい。
【0088】
本発明の接着性樹脂組成物には、その他の成分として粘着付与剤を用いることもできる。ここで粘着付与剤とは、常温で固体の非晶性樹脂が挙げられ、例えば、石油樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂又はそれらの水素添加物が挙げられる。しかしながら、樹脂組成物中に粘着付与剤を多量に含有すると、成形時に発煙を生じたり、耐熱性を低下させる場合がある。このため粘着付与剤を用いる場合も、樹脂組成物中に30質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。本発明の接着性樹脂組成物は、粘着付与剤を用いない場合においても、低温加工性に優れ、積層体における接着層として用いた場合に基材層との接着性が良好であり、しかも高温や高湿の環境下においても基材層との接着性を良好に維持することができる。
【0089】
前記石油樹脂としては、例えば、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、又はそれらの共重合体、及びこれらの水素添加物が挙げられる。石油樹脂の骨格としては、C5樹脂、C9樹脂、C5/C9共重合樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、ビニル置換芳香族系化合物の重合体、オレフィン/ビニル置換芳香族化合物の共重合体、シクロペンタジエン系化合物/ビニル置換芳香族系化合物の共重合体、あるいはこれらの水素添加物等が挙げられる。
前記ロジン樹脂とはアビエチン酸を主成分とする天然樹脂であり、例えば、天然ロジン、天然ロジンから誘導される重合ロジン、天然ロジンや重合ロジンを不均化又は水素添加して得られる安定化ロジン、天然ロジンや重合ロジンに不飽和カルボン酸類を付加して得られる不飽和酸変性ロジン、天然ロジンエステル、変性ロジンエステル、重合ロジンエステルが挙げられる。
前記テルペン樹脂としては、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等の芳香族テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂及びそれらの水素添加物が挙げられる。
【0090】
その他の成分として用いる樹脂は限定されないが、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂を挙げることができる。
ただし、本発明の接着性樹脂組成物が前述の成分(A)~(D)を含むことによる本発明の効果を有効に得る上で、本発明の接着性樹脂組成物中の全樹脂成分100質量%に含まれる成分(A)~(D)以外の樹脂の含有率は50質量%以下、特に30質量%であることが好ましい。
【0091】
<接着性樹脂組成物の製造方法>
本発明の接着性樹脂組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。
混合の方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分散した組成物を得る。
より均一な混合・分散のためには、所定量の上記原料成分を溶融混合することが好ましく、例えば、本発明の樹脂組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合してもよいし、各原料成分等の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0092】
本発明の接着性樹脂組成物は、所定量の上記原料成分を種々公知の手法、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、混合後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等で溶融混練し、造粒あるいは粉砕する手法により調製することができる。溶融混練時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150~300℃の範囲で行う。
【0093】
本発明の接着性樹脂組成物は、少なくとも前記の成分(A)~(D)を含有していれば、これを独立した原料として用いなくともよい。すなわち、既にこれら成分のうち2つ以上の成分を含有する樹脂組成物を原料とする場合や、既に樹脂組成物からなる成形品となったものを破砕して原料とすることもできる。また、予め樹脂組成物となっている原料が本発明を構成する全ての成分を有していない場合には、足りない成分のみを原料として補えばよい。
【0094】
<接着性樹脂組成物の成形品>
本発明の接着性樹脂組成物から得られる成形品には限定は無く、種々の押出成形品や射出成形品とすることができる。また、本発明の接着性樹脂組成物を単独で使用し、単層シート等の成形品とすることもできるが、本発明の接着性樹脂組成物は、後述する種々の金属や樹脂との接着性に優れているので、これらを基材とした積層体の接着層として好適に使用される。
【0095】
[積層体]
本発明の積層体は、上述した本発明の接着性樹脂組成物からなる層と、樹脂からなる層とを有し、本発明の接着性樹脂組成物からなる層の片面又は両面に該樹脂からなる層を接するように有する。更に金属及び/又は樹脂を基材層とする層を有する、3層又は4層以上に積層された積層体とすることが好ましい。中でも、基材層、本発明の接着性樹脂組成物からなる層、樹脂からなる層の順に積層された積層体が好適に用いられる。積層体としては、積層シート、積層フィルム、積層チューブ等が挙げられる。ここで、「シート」と「フィルム」は何れも面状の成形体を意味し、同義である。
【0096】
樹脂からなる層を構成する樹脂は限定されず、具体的には、本発明における成分(A)、(B)、(C)、(D)や、前記した本発明の樹脂組成物におけるその他の成分として挙げた樹脂が挙げられるが、好ましくは本発明の樹脂組成物との共押出し性に優れる観点からオレフィン系重合体である。
【0097】
本発明の積層体の基材層を構成する材料は限定されないが、具体的には、金属や樹脂のフィルム又はシートが挙げられる。また、本発明の接着性樹脂組成物からなる層と基材層との層構成は限定されないが、これらの層が隣接している場合が好ましい。
【0098】
基材層が樹脂フィルム又はシートである場合、該樹脂フィルム又はシートを構成する樹脂は限定されないが、具体的には、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含むオレフィン系ポリマーやオレフィン系エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6・66、ポリアミド12等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂やポリエステル系エラストマー、スチレン系樹脂やスチレン系エラストマー、アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0099】
これらの基材層は、2種以上が積層されていてもよい。
【0100】
基材層の形態は、フィルムやシートに限定されず、織布、不織布のような形状であってもよい。また、基材層は、単層構造であっても複層構造であってもよい。複層構造の基材の作成方法としては、特に限定されるものではなく、共押フィルム法、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出ラミネート法、サーマルラミネート法等が挙げられる。
【0101】
本発明の積層体には、本発明の接着性樹脂組成物からなる層、基材層、樹脂からなる層以外に、任意の層を設けることができる。
【0102】
本発明の積層体を製造する方法としては、公知の種々の方法を採用することができるが、特に、ラミネート成形が好適である。ラミネート加工は、予め製造した基材の表面上に、Tダイより押出した溶融樹脂膜を、基材上に連続的に被覆・圧着する押出ラミネート方法と、予めTダイにより製膜・固化した膜を熱圧着する熱ラミネート方法がある。通常、基材の片側表面にラミネート加工するが、必要に応じて、両側にラミネートすることもできる。
【0103】
ラミネート成形は、1種の基材層を予めフィルムとして用いるだけでなく、2種以上のフィルムを用いてもよい。その場合、同時貼り合せによって成形してもよいが、予め、一方の基材を用いてラミネート成形しておき、これに他方の基材を貼り合せてもよい。また、ラミネートする樹脂は、1種のみを用いる場合に限らず、2種以上を共押出してもよい。
【0104】
本発明の積層体は、上記の方法等で積層した後、これを延伸して延伸フィルムとしてもよい。このような場合は、基材層として無延伸の樹脂フィルムやシートを用いるとよい。
延伸フィルムを製造する方法としては、公知の種々の方法を採用することができる。延伸方向は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよく、また逐次延伸で製造しても、同時延伸で製造してもよい。また、延伸方法の一つとして、積層体を製造する段階でインフレーション成形することでインフレーションフィルムとしてもよい。
【0105】
本発明の積層体を延伸して得る場合、上記の通り延伸した後には、熱固定を行ってもよいし、熱固定をせずに製品としてもよい。熱固定を行わない場合は、その後に積層体を加熱することによって応力が開放され、収縮する性質を持つためシュリンクフィルムとして用いることができる。
【0106】
このようにして製造された積層体には、更に、金属蒸着加工、コロナ放電処理加工、印刷加工等の各種フィルム加工処理を施すことができる。
【0107】
本発明の積層体において、本発明の接着性樹脂組成物からなる層の厚みに特に制限はなく、層構成、用途、最終製品の形状、要求される物性等により任意に設定することができるが、通常0.1~200μmであり、0.3~100μmであることが好ましく、0.5~50μmであることがより好ましい。
【0108】
本発明の接着性樹脂組成物は、金属や樹脂等に対して優れた低温加工性と、耐熱性と、耐クリープ性を示すため、これを用いた本発明の積層体は、自動車、航空機などの輸送機器、家電機器、エレクトロニクス分野、ロボット分野のボディ素材、フレーム素材、筒体素材、包装体素材等において、好適に用いることができる。
【実施例
【0109】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0110】
[原材料の物性の測定方法]
以下の実施例及び比較例で用いた原材料の物性の測定方法は以下の通りである。
【0111】
(1)メルトフローレート(MFR)
原材料について、JIS K7210に準拠して、温度230℃又は190℃、荷重2.16kgの条件でMFRを測定した。
【0112】
(2)グラフト率
変性ポリプロピレンのペレットをプレス成形(230℃)により、厚さ100μmのフィルム状に成形したサンプルを使用し、FT-IR装置(JASCOFT/IR610、日本分光株式会社製)にて、前述の方法で赤外吸収スペクトル法によるグラフト率を算出した。
【0113】
(3)融点
示差走査熱量計(DSC)を用い、一旦200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて昇温して測定した際の、吸熱ピークトップの温度を融点(℃)とした。
【0114】
(4)密度
JIS K7112に準拠して、水中置換法で測定した。
【0115】
(5)溶融張力(MT)
キャピラリーフローメーター((株)東洋精機製製作所社製キャピログラフ1B)を用い、下記条件で溶融張力(MT)を測定した。単位はgである。
測定装置:(株)東洋精機製製作所社製キャピログラフ1B
キャピラリー:直径2.0mm、長さ10mm
シリンダー径:9.55mm
シリンダー押出速度:10mm/分
引き取り速度:1.0m/分
温度:230℃
MFRが高い等の理由により、溶融張力(MT)を230℃で測定できない場合は、以下に示すように、200℃で測定された溶融張力(MT)を用いた。
測定装置:(株)東洋精機製製作所社製キャピログラフ1B
キャピラリー:直径1.0mm、長さ10mm
シリンダー径:9.55mm
シリンダー押出速度:10mm/分
引き取り速度:4.0m/分
温度:200℃
【0116】
(6)40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率
TREF(温度上昇溶離分別)法によって得られる溶出曲線において、試料の総質量に対して、40℃の温度でオルトジクロロベンゼンに溶出した質量の割合を可溶分率(質量%)とした。
【0117】
[原材料]
以下の実施例及び比較例において、接着性樹脂組成物の製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0118】
<成分(A)>
・A-1
変性ポリプロピレンA-1として、市販のプロピレン単独重合体(密度:0.90g/cm、MFR(230℃、荷重2.16kg):10g/10分)を無水マレイン酸によりグラフト変性して得られた変性ポリプロピレン(グラフト率:2.2質量%)を用いた。
【0119】
<成分(B)>
・B-1
分子内に分岐構造を有するプロピレン系重合体B-1として、日本ポリプロ社製プロピレン系重合体「WAYMAX(登録商標)MFX8」(重合型長鎖分岐プロピレン単独重合体、MFR(230℃、荷重2.16kg):1g/10分、密度:0.90g/cm、融点:156℃、溶融張力(MT)(230℃):32g)を用いた。
・B-2
分子内に分岐構造を有するプロピレン系重合体B-2として、カネカ社製変性プロピレン系重合体「SLB039N(登録商標)」(イソプレングラフト型プロピレン単独重合体、MFR(230℃、荷重2.16kg):60g/10分、密度:0.90g/cm、融点:158℃、溶融張力(MT)(200℃):2g)を用いた。
【0120】
<成分(C)>
・C-1
プロピレン系重合体C-1として、日本ポリプロ社製「ウィンテック(登録商標)WFX6」(プロピレン・エチレン共重合体、MFR(230℃、荷重2.16kg):2g/10分、密度:0.90g/cm、融点:128℃、40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率:3.1質量%)を用いた。
【0121】
<成分(C´)>
・C´-1
プロピレン系重合体C´-1として、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)FW4B」(プロピレン・エチレン共重合体、MFR(230℃、荷重2.16kg):7g/10分、密度:0.90g/cm、融点:142℃、40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率:4.8質量%)を用いた。
・C´-2
プロピレン系重合体C´-2として、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)MA3」(プロピレン単独重合体、MFR(230℃、荷重2.16kg):10g/10分、密度:0.90g/cm、融点:161℃、40℃オルトジクロロベンゼン可溶分率:2.2質量%)を用いた。
【0122】
<成分(D)>
・D-1
エチレン・α-オレフィン共重合体D-1として、三井化学社製「Tafmer(登録商標)P0280」(エチレン・プロピレン共重合体、MFR(190℃、荷重2.16kg):5.4g/10分、密度:0.87g/cm)を用いた。
【0123】
<添加剤>
・X-1:BASF社製フェノール系酸化防止剤「Irganox 1010(登録商標)」
・X-2:BASF社製リン系酸化防止剤「Irgafos 168(登録商標)」
【0124】
<接着性樹脂組成物の製造>
[実施例1]
表1の通り、樹脂成分として、成分(A)を5質量%、成分(B)を6質量%、成分(C)を72質量%、成分(D)を17質量%、これら成分(A)~(D)の合計100質量部に対して、成分(X-1)0.1質量部と成分(X-2)0.1質量部をドライブレンドして混合し、単軸押出機(IKG社製、PSM50-32(1V)、D=50mmφ、L/D=32)を用い、設定温度180~240℃、スクリュー回転数40~80rpm、押出量15~40kg/hで溶融混練し、ストランドカットによりペレット状の接着性樹脂組成物(接着性樹脂組成物の樹脂成分中の不飽和カルボン酸成分の含有率は0.11質量%)を得た。
【0125】
口径20mmφに幅200mmのTダイスを有する20mmφ押出シート成形機(サーモプラスティックス工業株式会社製TPM-20S型)を用い、得られた接着性樹脂組成物を押出機に供給し、押出機及びTダイスの温度を190℃~240℃に設定し、幅150mm、厚み100μmの単層フィルムを作製した。
【0126】
[実施例2~3、比較例1~3]
樹脂成分配合を表1に記載の配合とする以外は実施例1と同様にして、実施例2~3、比較例1~3の接着性樹脂組成物とそれよりなる単層フィルムを得た。
【0127】
[接着性樹脂組成物の評価方法]
実施例及び比較例で得られた接着性樹脂組成物及びその単層フィルムを用いて、以下の方法で評価を行った。
【0128】
<接着強度の測定>
一般にシール部分の層間強度が8N/15mm以上あればシール部の強度は十分であると考えられ、シール時の温度を高くすれば、層間強度は高くなることが知られているが、温度が高いと生産性が低く、また接着層の溶融流れが生じるため、著しい厚みの減少が起こるため好ましくない。
上記をふまえて、下記1),2)の手順で評価を行った。
1) 実施例及び比較例で得られた単層フィルムを押出方向と垂直(TD方向)に50mm×100mmサイズに切断し、無垢アルミ箔(25μm)と重ね合わせて、170℃、180℃又は190℃、0.2MPa、圧着時間2秒の条件で加熱圧着してヒートシールフィルム(シール試料)を作製した。
2) 上記で得られたヒートシールフィルムをシール方向と垂直に幅15mmの短冊状に切り出して試験片とし、23℃及び95℃の恒温雰囲気下にて、それぞれ速度300mm/minで180°ピール剥離試験を行い、接着強度を測定した。ここで、接着強度は、アルミ箔と接着性樹脂組成物よりなる層との界面における接着強度である。なお、95℃の接着強度は、引張試験機のチャックが恒温槽に設置された装置を用い、95℃に設定された恒温槽内で170℃のシール温度条件で得られた短冊状の試験片をチャックではさみ、温度が安定するまで3分放置した後に、速度300mm/minで180°ピール剥離試験を行って測定した。
【0129】
<低温加工性評価>
低温加工性の評価指標として、23℃の常温雰囲気下で、シール温度条件170℃、180℃又は190℃の試験片についてそれぞれ接着強度を評価した。接着強度が8N/15mm以上であれば実用可能と評価した。
【0130】
<耐熱性評価>
耐熱性の評価指標として、95℃の高温雰囲気下で、シール温度条件170℃の試験片について接着強度を評価した。接着強度が8N/15mm以上であれば実用可能と評価した。
【0131】
<耐クリープ性評価>
以下の方法で耐クリープ性の評価指標として、圧縮クリープひずみを評価した。
実施例及び比較例で得られた接着性樹脂組成物を用いて、射出成形(射出温度240℃、金型温度40℃)により作製したJIS K7152多目的試験片(120mm×80mm×2mm厚み)の中央の平行部から直径29mmの円形シートを6枚打ち抜き、これを重ね合わせて積層試験片の厚さ(t0)を測定後、15%の圧縮率になるように治具にセットした。そして、治具を95℃の恒温槽に投入し、22時間経過後に治具から積層試験片を取り出し、室温にて30分冷却後に厚さ(t1)を測定した。これらの測定値から下記式で圧縮クリープひずみを算出した。圧縮クリープひずみ10%以下を「良」と判定した。
圧縮クリープひずみ(%)={(t0-t1)/t0}×100
【0132】
これらの結果を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
表1より、本発明の接着性樹脂組成物の具体例である実施例1~3は、アルミ箔に対して、低温シール温度でも常温及び高温雰囲気下において高い接着性を示しつつ、良好な耐圧縮クリープ性を示すことが分かる。