(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ルチル型板状酸化チタン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/047 20060101AFI20240618BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20240618BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240618BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20240618BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C01G23/047
A61K8/29
A61Q1/00
A61Q1/12
A61Q17/04
(21)【出願番号】P 2020138026
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】窪内 将隆
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直紀
(72)【発明者】
【氏名】芦田 拓郎
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-157312(JP,A)
【文献】特開昭58-088121(JP,A)
【文献】特開2006-306827(JP,A)
【文献】特表2008-506627(JP,A)
【文献】特開平10-095617(JP,A)
【文献】特開平11-349328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/047
A61K 8/29
A61Q 1/00
A61Q 1/12
A61Q 17/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が5m
2/g未満であり、下記に規定する板状度の式(1)~(3)を満足することを特徴とするルチル型板状酸化チタン。
<板状度>
走査型電子顕微鏡を用いて、加速電圧15kVで100個の粒子を無作為に観測し、粒子の最短径、並びに、最短径と直行する面における短径及び長径を測定し、それぞれの平均値をa、b、cとして、下記式(1)~(3)に代入する。
b×c/a≧5 (1)
b/a>2.0 (2)
c/b<10 (3)
【請求項2】
前記ルチル型板状酸化チタンは、下記の方法により求める粒度分布のD
50が1~100μmであることを特徴とする請求項1に記載のルチル型板状酸化チタン。
<粒度分布の算出方法>
散乱式粒子径分布測定装置を用いて以下の条件により測定を行う。
溶媒:0.025質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液
測定上限:3000μm
測定下限:0.01μm
粒子屈折率:2.75
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.33
得られた体積基準粒度分布曲線において積算値が50%のときの粒径値を、平均粒子径D
50(
μm)とする。
【請求項3】
前記ルチル型板状酸化チタンは、アルカリ金属原子の含有量が1at%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のルチル型板状酸化チタン。
【請求項4】
ルチル型板状酸化チタンを製造する方法であって、
該製造方法は、アルカリ金属塩と、BET比表面積が2~400m
2/gである酸化チタンとを含む混合物を700~1200℃で焼成する工程(I)と、
該工程(I)で得られた生成物を酸を用いて洗浄する工程(II)と、
該工程(II)で得られた生成物を800~1100℃で焼成する工程(III)とを含むことを特徴とするルチル型板状酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記工程(III)は、昇温速度が50~500℃/時間であることを特徴とする請求項4に記載のルチル型板状酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記ルチル型板状酸化チタンの製造方法は、前記工程(III)で得られた生成物を酸を用いて洗浄する工程(IV)を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のルチル型板状酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載のルチル型板状酸化チタンを含むことを特徴とする化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチル型板状酸化チタン及びその製造方法に関する。より詳しくは、ファンデーションやその他のメイクアップ化粧料等に好適に使用することができるルチル型板状酸化チタン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンや酸化亜鉛は、UV遮蔽性を有する白色顔料として化粧料等に一般的に用いられている。近年環境負荷の観点から、酸化亜鉛を化粧料材料として敬遠する傾向があること、酸化チタンは酸化亜鉛よりUV遮蔽性が高いことから酸化チタンの需要が高まっている。工業用に使用される酸化チタンの結晶構造としてはアナターゼ型、ルチル型があるが、アナターゼ型はルチル型よりもバンドギャップが狭いためUV遮蔽性が小さく、屈折率が小さいため隠蔽力が低く、また、光活性が高いため、種々の成分を含む化粧料等における他の成分への影響や肌への影響が懸念されている。
また、化粧料用に使用されている酸化チタンはナノ粒子であり、粒径が小さいために凝集を生じやすく、これにより充分なUV遮蔽性が得られなかった。
【0003】
更に、ファンデーションその他のメイクアップ化粧料は使用時の感触が重要であるが、酸化チタンのナノ粒子は、吸油等の理由により使用時にざらつきを生じ感触が良くない場合があった。良好な感触を得るために、様々な粒子形状が検討されている(特許文献1~12参照)。特に、肌上で滑りやすいという観点から板状の酸化チタンが開発されている(特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-205644号公報
【文献】特開2014-080392号公報
【文献】特開2014-015340号公報
【文献】特開2010-173863号公報
【文献】特開2008-56535号公報
【文献】特開2007-308395号公報
【文献】特開2003-192349号公報
【文献】特開平11-322337号公報
【文献】特開平10-212211号公報
【文献】特開平10-15392号公報
【文献】特開平06-122518号公報
【文献】特開2014-177371号公報
【文献】特開平10-95617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、従来、種々の形状の酸化チタンが開発されているものの、従来の酸化チタンは、種々の成分を含む化粧料等において光活性に基づく他成分への影響の抑制と使用時の良好な感触との両立の点で充分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来の酸化チタンよりも、種々の成分を含む化粧料等において光活性に基づく他成分への影響を抑制し、かつ、使用時の感触に優れた酸化チタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸化チタンについて種々検討したところ、BET比表面積が5m2/g未満であり、所定の方法で規定する板状度を満足するルチル型酸化チタンが、従来の酸化チタンよりも、光活性に基づく他成分への影響を抑制し、かつ、使用時の感触に優れることを見出し、課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、BET比表面積が5m2/g未満であり、下記に規定する板状度の式(1)~(3)を満足するルチル型板状酸化チタンである。
<板状度>
走査型電子顕微鏡を用いて、加速電圧15kVで100個の粒子を無作為に観測し、粒子の最短径、並びに、最短径と直行する面における短径及び長径を測定し、それぞれの平均値をa、b、cとして、下記式(1)~(3)に代入する。
b×c/a≧5 (1)
b/a>2.0 (2)
c/b<10 (3)
【0009】
上記ルチル型板状酸化チタンは、下記の方法により求める粒度分布のD50が1~100μmであることが好ましい。
<粒度分布の算出方法>
散乱式粒子径分布測定装置を用いて以下の条件により測定を行う。
溶媒:0.025質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液
測定上限:3000μm
測定下限:0.01μm
粒子屈折率:2.75
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.33
得られた体積基準粒度分布曲線において積算値が50%のときの粒径値を、平均粒子径D50(nm)とする。
【0010】
上記ルチル型板状酸化チタンは、アルカリ金属原子の含有量が1at%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、ルチル型板状酸化チタンを製造する方法であって、上記製造方法は、アルカリ金属塩と、BET比表面積が2~400m2/gである酸化チタンとを含む混合物を700~1200℃で焼成する工程(I)と、上記工程(I)で得られた生成物を酸を用いて洗浄する工程(II)と、上記工程(II)で得られた生成物を800~1100℃で焼成する工程(III)とを含むルチル型板状酸化チタンの製造方法でもある。
【0012】
上記工程(III)は、昇温速度が50~500℃/時間であることが好ましい。
【0013】
上記ルチル型板状酸化チタンの製造方法は、前記工程(III)で得られた生成物を酸を用いて洗浄する工程(IV)を含むことが好ましい。
【0014】
本発明は更に、上記ルチル型板状酸化チタンを含む化粧料でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のルチル型板状酸化チタンは、上述の構成よりなり、UV遮蔽性に優れ、かつ、使用時の感触に優れるため、ファンデーションやその他のメイクアップ化粧料等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1で得られたルチル型板状酸化チタンのSEM写真(倍率:5000倍)である。
【
図2】比較例1で得られたアナターゼ型板状酸化チタンのSEM写真(倍率:5000倍)である。
【
図3】比較例2で得られたルチル型板状酸化チタンのSEM写真(倍率:1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0018】
<ルチル型板状酸化チタン>
本発明のルチル型板状酸化チタンは、BET比表面積が5m2/g未満であり、上記に規定する板状度の式(1)~(3)を満足する。これにより、光活性に基づく他成分への影響を抑制し、かつ、使用時の感触に優れることとなる。
上記酸化チタンの板状度として、上記式(1)におけるb×c/aは5以上である。この値が高いほど、化粧料等として用いたときの肌の上での粒子の滑りが良く、使用時の感触が向上する。好ましくは7以上であり、より好ましくは10以上であり、更に好ましくは15以上であり、一層好ましくは20以上であり、特に好ましくは30以上である。上記b×c/aは200以下であることが好ましい。
【0019】
上記式(2)におけるb/aは2.0より大きく、上記式(3)におけるc/bは10未満である。これにより、化粧料等として用いたときの肌の上での粒子の滑りがよくなり、使用時の感触が向上する、上記式(2)において好ましくはb/a>3.0である。上記b/aは20以下であることが好ましい
また式(3)において好ましくはc/b<5である。上記c/bは1以上であることが好ましい
【0020】
上記BET比表面積は5m2/g未満であればよいが、0.1m2/g以上であることが好ましい。これによりルチル型板状酸化チタンの粒子径がより好適な範囲となり、使用時の感触がより向上する。
BET比表面積は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
上記ルチル型板状酸化チタンは、上記方法により求める粒度分布のD50(メジアン径)が1~100μmであることが好ましい。これにより使用時の感触がより向上する。D50が1μm以上であると粒子同士の凝集が強くなることをより充分に抑制し、粒子の流動性が失われ触感が低下することをより充分に抑制することができる。また、100μm以下であれば手触りで粒子の大きさを実感できないため化粧料としてより好適に用いることができる。D50としてより好ましくは2~40μmであり、更に好ましくは5~10μmである。
【0022】
上記ルチル型板状酸化チタンは、上記方法により求める粒度分布のD10が0.5~20μmであることが好ましい。より好ましくは0.7~15μmであり、更に好ましくは1~10μmであり、特に好ましくは1~7μmである。
【0023】
上記ルチル型板状酸化チタンは、上記方法により求める粒度分布のD90が1~150μmであることが好ましい。より好ましくは2~50μmであり、更に好ましくは3~20μmである。
【0024】
上記ルチル型板状酸化チタンは、上記D90/D10が2~20であることが好ましい。より好ましくは2~5である。
【0025】
上記ルチル型板状酸化チタンは、板状度が上記範囲であれば粒子の厚み(粒子の最短径a)は特に制限されないが、0.05~5μmであることが好ましい。より好ましくは0.1~2μmであり、更に好ましくは0.2~1μmである。0.05μm以上であると、工程(III)の焼成によりルチル化する際に粒子に亀裂が入ることをより充分に抑制し、また、5μm以下であれば質感やUV遮蔽性をより向上させることができる。
上記粒子の厚みは、走査型電子顕微鏡を用いて、加速電圧15kVで100個の粒子を無作為に観測し、粒子の最短径を測定し、平均値を算出することにより測定することができる。
【0026】
本発明の酸化チタンはルチル型結晶相を主相とするものである。アナターゼ型は光活性が強く製剤の際に他の成分を変性させる恐れがあるのに対して、ルチル型の本発明の酸化チタンは、化粧料等における他の成分を変性させることを充分に抑制することができる。またルチル型はUV遮蔽性及び可視光の遮蔽性にも優れるため、化粧料として用いた場合に日焼け止め効果及びしみ、そばかす等の隠蔽力にも優れる。
本発明のルチル型板状酸化チタンは、ルチル型結晶相を主相とするものであれば、例えば、アナターゼ型やブルッカイト型の異相を含んでいてもよい。
本明細書中、「ルチル型結晶相を主相とする」とは、酸化チタン粉粒体の粉末X線回折パターン(CuKα、2θ=10~70°の測角範囲)において、回折角2θ=27.4°、36.1°、54.3°のそれぞれ±2°の範囲に回折ピークを有し、かつ2θ=27.4°、36.1°、39.2°、41.2°、44.1°、54.3°、56.6°のそれぞれ±2°の範囲以外に、測角範囲内の最大ピーク強度の50%、好ましくは30%、より好ましくは25%を超える回折ピークが現れないことを意味する。
粉末X線回折パターンの具体的な測定条件は、実施例において後述する。
なお、XRD測定データ全体にノイズが多い場合は、XRDに付属の解析ソフト(例えば、株式会社リガク製X線回折装置(RINT-TTR3)付属の粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアPDXL2)等を用いて、スムージング、バックグランド除去を実施してから判定を行ってもよい。
【0027】
上記ルチル型板状酸化チタンは、チタン原子、酸素原子以外の成分を含んでいてもよいがその他の成分は5at%以下であることが好ましい。より好ましくは3at%以下であり、更に好ましくは1at%以下である。その他の成分が5at%以下であれば、ルチル型の結晶構造をより充分に維持し、可視光遮蔽性やUV遮蔽性をより向上させることができる。
上記その他の成分としては特に制限されないが、例えばアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子や遷移金属元素が挙げられる。
アルカリ金属原子の割合が、1at%以下である形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
アルカリ金属原子の含有割合は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
<ルチル型板状酸化チタンの製造方法>
本発明のルチル型板状酸化チタンの製造方法は特に制限されないが、アルカリ金属塩と、BET比表面積が2~400m2/gである酸化チタンとを含む混合物を700~1200℃で焼成する工程(I)と、該工程(I)で得られた生成物を酸を用いて洗浄する工程(II)と、該工程(II)で得られた生成物を800~1100℃で焼成する工程(III)とを行って製造することが好ましい。本発明者はこのような方法により本発明のルチル型板状酸化チタンを工業的に容易に製造することができることも見出した。
このような工程(I)~(III)を含むルチル型板状酸化チタンの製造方法もまた本発明の1つである。
【0029】
上記ルチル型板状酸化チタンの製造方法は、上記工程(I)において、アルカリ金属塩と、酸化チタンを含む混合物を700~1200℃で焼成することが好ましい。このような温度で焼成を行うことにより、板状の前駆体を合成することができる。
焼成温度としてより好ましくは750~1200℃である。
また、工程(I)で用いるアルカリ金属塩がリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、フランシウム塩のうちの一つの場合、上記焼成温度は700~820℃であることが好ましい。より好ましくは750~800℃である。700℃以上であればより充分に焼成を行うことができ、820℃以下であれば針状粒子の生成を充分に抑制し、所望の板状度を有する粒子を効率的に得ることができる。
【0030】
工程(I)で用いるアルカリ金属塩がリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、フランシウム塩のうち複数の場合、上記焼成温度は800~1200℃であることが好ましい。800℃以上であればより充分に焼成を行うことができ、より好適な板状度を有する粒子を得ることができ、1200℃以下であれば粒子が肥大化して質感が低下することをより充分に抑制することができる。
【0031】
上記工程(I)における酸化チタンとアルカリ金属塩とを含む混合物の調製を固相で行うことが好ましい。これにより、粒子径をより好適な範囲とすることができ、また、緻密な結晶を得ることができる。
【0032】
上記工程(I)における焼成時間は1~80時間であることが好ましい。より好ましくは30~50時間である。焼成時間が1時間以上であればより充分に焼成することができ、80時間以下であれば針状粒子生成をより充分に抑制することができる。
【0033】
上記工程(I)で用いる酸化チタンは、BET比表面積が2~400m2/gであることが好ましい。このような粒子径の酸化チタンを用いることにより、得られるルチル型板状酸化チタンの比表面積、粒子径をより好適な範囲とすることができる。BET比表面積としてより好ましくは100~350m2/gであり、更に好ましくは200~300m2/gである。
【0034】
上記工程(I)で用いるアルカリ金属塩は特に制限されず、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。中でも好ましくは炭酸塩である。炭酸塩を用いた場合、焼成で生じる副生成物が二酸化炭素であるため、製造設備等にやさしく、腐食等を充分に抑制することができる。
【0035】
上記アルカリ金属塩のアルカリ金属元素としては特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。好ましくはリチウム、カリウム、セシウムであり、より好ましくはリチウム、カリウムである。
アルカリ金属元素としてリチウム、カリウムを用いることにより、ルチル型板状酸化チタンの粒子径をより好適な範囲とすることができ、また、工程(III)の焼成によりルチル化する際に粒子に亀裂が入ることをより充分に抑制することができる。
更にリチウム塩及びカリウム塩はセシウム塩等よりも安価であるため、製造コストの観点からも好ましい。
【0036】
上記工程(I)で用いるアルカリ金属塩の使用量は、酸化チタン100モル%に対して10~70モル%であることが好ましい。より好ましくは15~50モル%であり、更に好ましくは20~35モル%である。アルカリ金属塩の使用量が10モル%以上70モル%以下であれば、板状により好適な結晶構造となり、より好適な板状度を有する粒子を得ることができる。
【0037】
上記アルカリ金属塩は1種用いても2種以上用いてもよい。例えばリチウム塩及びカリウム塩を併用する形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
リチウム塩及びカリウム塩を併用する際のリチウム塩に対するカリウム塩のモル比(K/Li)は2~4であることが好ましい。より好ましくは2.5~3.5である。リチウム塩に対するカリウム塩のモル比が2以上4以下であれば、板状により好適な結晶構造となり、より好適な板状度を有する粒子を得ることができる。
【0038】
上記アルカリ金属塩としてリチウム塩及び/又はカリウム塩を用いる場合、工程(I)においてフラックスを添加することが好ましい。
フラックスとしては特に制限されないが、LiF、NaF、KF、LiCl、NaCl、KCl、LiBr、LiI、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、AlF3、MgCl2、SrCl2、BaCl2、Na2SO4、K2SO4、K2MoO4、K3PO4、K2B4O7、B2O3等が挙げられる。中でも好ましくはKClである。
【0039】
上記フラックスの使用量としては特に制限されないが、アルカリ金属塩及び酸化チタンの合計100質量%に対して10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上である。また、300質量%以上でも所望の板状物が得られるが、経済的、環境的に好ましくは300質量%以下である。
【0040】
上記工程(I)においてフラックスを用いた場合、工程(II)の前にフラックスを除去することが好ましい。
フラックスを除去する方法は特に制限されないが、50~80℃の熱湯を用いることが好ましい。
【0041】
上記ルチル型板状酸化チタンの製造方法は、上記工程(II)において、工程(I)で得られた生成物を酸を用いて洗浄することが好ましい。
洗浄に用いる酸としては特に制限されないが、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。中でも好ましくは硫酸である。
【0042】
上記工程(II)で用いる酸の濃度としては特に制限されないが、0.5~5Mであることが好ましい。これにより、工程(I)で得られた生成物の結晶中のアルカリ金属原子を工程(III)の焼成において粒子が崩れない程度により充分に除去することができる。より好ましくは1~3Mである。
【0043】
上記工程(II)における洗浄の回数としては特に制限されず、洗浄に用いる酸の量等にも依存するが、1~5回が好ましい。これにより、工程(I)で得られた生成物の結晶中のアルカリ金属原子を工程(III)の焼成において粒子が崩れない程度により充分に除去することができる。より好ましくは1~3回である。
【0044】
上記工程(II)における洗浄の温度(洗浄に用いる酸の温度)としては特に制限されないが、20~60℃が好ましい。これにより、工程(I)で得られた生成物の結晶中のアルカリ金属原子を工程(III)の焼成において粒子が崩れない程度により充分に除去することができる。より好ましくは20~30℃である。
【0045】
上記工程(II)において、工程(I)で得られた生成物を酸に浸漬する時間としては特に制限されないが、合計して、1~20時間が好ましい。これにより、工程(I)で得られた生成物の結晶中のアルカリ金属原子を工程(III)の焼成において粒子が崩れない程度により充分に除去することができる。
【0046】
上記工程(II)において、工程(I)で得られた生成物を酸に浸漬した後、水洗することが好ましい。
【0047】
上記ルチル型板状酸化チタンの製造方法は、上記工程(III)において、工程(II)で得られた生成物を800~1100℃で焼成することが好ましい。このような温度で焼成を行うことにより、酸化チタンのルチル化を充分に進めることができる。焼成温度としてより好ましくは850~1000℃である。
【0048】
上記工程(III)における昇温速度は特に制限されないが、50~500℃/時間であることが好ましい。これにより得られる酸化チタンの板状度をより好適な範囲とすることができる。昇温速度としてより好ましくは100~400℃/時間であり、更に好ましくは100~300℃/時間であり、特に好ましくは150~250℃/時間である。
昇温速度が50℃/時間以上であれば、熱エネルギーが過剰にかかることをより充分に抑制し、ルチル化する際に粒子に亀裂が入ることをより充分に抑制することができる。昇温速度が500℃/時間以下であれば、アナターゼ型からルチル型への転位が急激に進むことをより充分に抑制し、結晶内部の応力が過剰にかかることにより粒子に亀裂が入ることをより充分に抑制することができる。
【0049】
上記ルチル型板状酸化チタンの製造方法は、工程(III)で得られた生成物を酸を用いて洗浄する工程(IV)を含むことが好ましい。これにより、得られた酸化チタンにおける異相をより充分に除去することができる。
【0050】
上記工程(IV)で用いる酸及びその濃度並びに洗浄温度の好ましい形態は上記工程(II)における好ましい形態と同様である。
【0051】
上記工程(IV)における洗浄の回数としては特に制限されず、洗浄に用いる酸の量等にも依存するが、1~3回が好ましい。これにより、板状形状を保ち、かつ、結晶中のアルカリ金属原子を充分に除去することができる。より好ましくは1~2回である。
【0052】
上記工程(IV)において、工程(III)で得られた生成物を酸に浸漬する時間としては、特に制限されないが、合計して、0.5~5時間が好ましい。これにより、板状形状を保ち、かつ、結晶中のアルカリ金属原子を充分に除去することができる。
【0053】
上記工程(IV)において、工程(III)で得られた生成物を酸に浸漬した後、水洗することが好ましい。
【0054】
<化粧料>
本発明のルチル型板状酸化チタンは、UV遮蔽性に優れ、かつ、使用時の感触に優れるため、ファンデーションやその他のメイクアップ化粧料等に好適に用いることができる。
本発明は、本発明のルチル型板状酸化チタン含む化粧料でもある。
本発明の化粧料としては、ファンデーション、化粧下地、アイシャドウ、頬紅、マスカラ、口紅、サンスクリーン剤等を挙げることができる。本発明の化粧料は、油性化粧料、水性化粧料、O/W型化粧料、W/O型化粧料の任意の形態とすることができる。中でも、ファンデーション、化粧下地、アイシャドウ等のメイクアップ化粧料やサンスクリーン剤において特に好適に使用することができる。
【0055】
本発明の化粧料は、上記ルチル型板状酸化チタン以外に、化粧品分野において使用することができる任意の水性成分、油性成分を併用するものであってもよい。上記水性成分及び油性成分としては特に限定されず、例えば、油分、界面活性剤、保湿剤、高級アルコール、金属イオン封鎖剤、天然及び合成高分子、水溶性及び油溶性高分子、紫外線遮蔽剤、各種抽出液、無機及び有機顔料、無機及び有機粘土鉱物等の各種粉体、金属石鹸処理又はシリコーンで処理された無機及び有機顔料、有機染料等の色剤、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤等の成分を含有するものであってもよい。具体的には、特許文献2に列挙した配合成分の1種又は2種以上を任意に配合して常法により目的の化粧料を製造することが可能である。これらの配合成分の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されない。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0057】
1、各種測定は以下のようにして行った。
(1)板状度
走査型電子顕微鏡(JEM-7000F、日本電子製)を用いて、加速電圧15kVで100個の粒子を無作為に観測し、粒子の最短径、並びに、最短径と直行する面における短径及び長径を測定し、粒子の最短径の平均値をa、粒子の最短径と直行する面における短径の平均値をb、最短径と直行する面における長径の平均値をcとして、下記式(1)~(3)で規定する板状度の充足性を確認した。
b×c/a≧5 (1)
b/a>2.0 (2)
c/b<10 (3)
【0058】
(2)BET比表面積
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製Macsorb HM-1220)を用いて、純窒素ガス気流下、230℃で30分間保持して脱気後、窒素30%ヘリウム70%の混合ガスを流通して、BET流動法(1点法)により測定した。
【0059】
(3)粒度分布の平均粒径
散乱式粒子径分布測定装置(LA―950(HORIBA製))を用いて以下の条件により測定を行った。
溶媒:0.025質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液
測定上限:3000μm
測定下限:0.01μm
粒子屈折率:2.75
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.33
【0060】
(4)透過率
UV―Vis Spectrophotometer(v―570、日本分光製)にて測定した。
得られたルチル型板状酸化チタンの粉体2g、アクリルポリオール樹脂10g、キシレン5g、酢酸ブチル5g、1.0mmファイのガラスビーズ38gを75mlマヨネーズ瓶に入れ、ペイントコンディショナーにて90分振とうして得られた分散液をスライドガラスにバーコーター♯6で塗布し試料とした。
以下の基準で550nmの全光透過率、375nmの全光透過率を評価した。
550nm ◎:60%未満 〇:60%以上、70%未満 ×:70%以上
375nm ◎:50%未満 〇:50%以上、60%未満 ×:60%以上
【0061】
(5)アルカリ金属原子の含有量
偏光ゼーマン原子吸光光度計Z―2300(日立ハイテクサイエンス製)にて測定した。
【0062】
(6)粉末X線回折
X線回折装置(RINT―TTR3、Rigaku製)を用いて、以下の条件により測定した。
光学系:平行ビーム光学系(長尺スリット:PSA200/分解能:0.057°)
管電圧:50kV
電流:300mA
測定方法:連続スキャン
測定範囲(2θ):10°~70°
サンプリング幅:0.04°
スキャンスピード:5°/min
ルチル型結晶相に対する異相の割合は以下の式で表される。
[異相の最強ピークの強度の合計/(ルチル型結晶相の最強ピークの強度+異相の最強ピークの強度の合計)]×100(%)
ここで、ルチル型結晶相の最強ピークの強度とは2θが27.4±2°のピーク強度である。異相の最強ピークの強度の合計とは、アナターゼ型結晶相の25.3±2°のピークに、異相としてNa-Ti-O、K-Ti-O、Rb-Ti-O、Cs-Ti-O三元系やその他ルチル型結晶相以外の相が存在する場合は、これらの最強ピーク強度を加える。
【0063】
(7)官能試験
評価パネラー20名に直接粉体を皮膚に塗り広げてもらう官能試験を行い、塗布時ののび広がりの良さ、肌でのきしみ感のなさについて下記基準より5段階評価し、さらにその平均点を求め判定した。
[評価基準]
5点:非常に良好
4点:良好
3点:普通
2点:やや不良
1点:不良
[判定]
◎:平均点4.5以上
○:平均点3.5以上4.5未満
△:平均点2.5以上3.5未満
×:平均点2.5未満
【0064】
(8)SEMによる観察
走査型電子顕微鏡(JEM-7000F、日本電子製)を用いて、加速電圧5~15kVで、視野100~10000倍にて撮影した。
【0065】
2、ルチル型板状酸化チタンの製造
<実施例1>
(工程I)酸化チタン(堺化学製SSP-25、アナターゼ型、粒径10nm、BET比表面積296m2/g):炭酸セシウム(高純度科学製、3N)=5.3:1(mol)となるように秤量し、乳鉢で5分間混合した。混合した試料をアルミナ坩堝に入れ、大気下、800℃で40時間で焼成した。昇温速度は200℃/hであり、焼成後は炉内で放冷した。
(工程II)焼成後坩堝より試料を取り出し、乳鉢で粉砕した。その後、試料1gに対して100mLの1M塩酸水溶液で、試料を室温で3時間攪拌しながら洗浄した。得られたスラリーを濾紙(東洋濾紙 Advantec 5C)にて濾過、水洗して大気下、60℃で24時間乾燥した。
(工程III)乾燥した粉末をアルミナ坩堝を用いて、大気下、900℃で5時間焼成した。昇温速度は200℃/hであり、焼成後は炉内で放冷した。
(工程IV)工程IIIで取り出した試料1gに対して100mLの1M塩酸水溶液で、試料を室温で30分間攪拌しながら洗浄した。得られたスラリーを濾過、水洗して60℃で24時間乾燥した。
【0066】
<比較例1>
(工程I)酸化チタン:炭酸セシウム=5.3:1(mol)となるように秤量し、乳鉢で5分間混合した。混合した試料をアルミナ坩堝に入れ、大気下、800℃で40時間焼成した。昇温速度は200℃/hであり、焼成後は炉内で放冷した。
(工程II)焼成後坩堝より試料を取り出し、乳鉢で粉砕した。その後、試料1gに対して100mLの1M塩酸水溶液で、試料を室温で3時間攪拌しながら洗浄した。得られたスラリーを濾紙にて濾過、水洗して大気下、60℃で24時間乾燥した。
(工程III)乾燥した粉末をアルミナ坩堝を用いて、700℃で5時間焼成した。昇温速度は200℃/hであり、焼成後は炉内で放冷した。
(工程IV)工程IIIで取り出した試料1gに対して100mLの1M塩酸水溶液で、試料を室温で30分間攪拌しながら洗浄した。得られたスラリーを濾過、水洗して60℃で24時間乾燥した。
【0067】
<比較例2>
(工程I)酸化チタン:炭酸セシウム=5.3:1(mol)となるように秤量し、乳鉢で5分間混合した。混合した試料をアルミナ坩堝に入れ、大気下、800℃で40時間で焼成した。昇温速度は200℃/hであり、焼成後は炉内で放冷した。
(工程II)焼成後坩堝より試料を取り出し、乳鉢で粉砕した。その後、試料1gに対して100mLの1M塩酸水溶液で、試料を室温で3時間攪拌しながら洗浄した。得られたスラリーを濾紙にて濾過、水洗して大気下、60℃で24時間乾燥した。
(工程III)乾燥した粉末をアルミナ坩堝を用いて、1200℃で5時間焼成した。昇温速度は200℃/hであり、焼成後は炉内で放冷した。
(工程IV)工程IIIで取り出した試料1gに対して100mLの1M塩酸水溶液で、試料を室温で30分間攪拌しながら洗浄した。得られたスラリーを濾過、水洗して60℃で24時間乾燥した。
【0068】
実施例1、比較例1、2における焼成条件、並びに、実施例1、比較例1、2で得られた酸化チタン及び比較例3として顔料級酸化チタン(堺化学工業製R―410L、一次粒径500nm)の各種物性を表1に示す。
【0069】