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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/04 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
C03B17/04 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020184997
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074705
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 隆則
(72)【発明者】
【氏名】久保 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 太基
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-172852(JP,A)
【文献】特開平07-172851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0101260(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを管ガラス又は棒状ガラスに成形する円筒状のスリーブと、前記スリーブを収容する成形室とを備えるダンナー方式のガラス製造装置を用いたガラス物品の製造方法であって、
前記成形室の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズルから流下する溶融ガラスを、回転する前記スリーブに巻き付けて、前記スリーブの先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備え、
前記成形工程において、前記成形室に設けられるとともに前記スリーブの軸線よりも上方に配置されている吸引口を通じて前記成形室内の気体を吸引することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
溶融ガラスを管ガラス又は棒状ガラスに成形する円筒状のスリーブと、前記スリーブを収容する成形室とを備えるダンナー方式のガラス製造装置を用いたガラス物品の製造方法であって、
前記成形室の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズルから流下する溶融ガラスを、回転する前記スリーブに巻き付けて、前記スリーブの先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備え、
前記成形工程において、前記成形室に設けられた吸引口を通じて前記成形室内の気体を吸引し、
前記成形室内の気体を吸引する際の吸引速度は、前記成形室の容積をV(L)としたとき、0.2V~0.5V(L/時間)であることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項3】
溶融ガラスを管ガラス又は棒状ガラスに成形する円筒状のスリーブと、前記スリーブを収容する成形室とを備えるダンナー方式のガラス製造装置を用いたガラス物品の製造方法であって、
前記成形室の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズルから流下する溶融ガラスを、回転する前記スリーブに巻き付けて、前記スリーブの先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備え、
前記成形工程において、前記成形室に設けられた吸引口を通じて前記成形室内の気体を吸引し、
前記成形室内の気体は、供給ポートと、排出ポートと、前記吸引口に接続される吸引ポートとを備えるエジェクターを用いて、前記供給ポートから前記排出ポートへと流れる高圧気体の流れによって吸引されることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ダンナー法を用いて管ガラスを製造するガラス製造装置が開示されている。上記ガラス製造装置は、溶融ガラスを貯留する溶融ポットと、溶融ポットから溶融ガラスが供給されるマッフル炉と、マッフル炉内に配置されたスリーブとを備える。上記ガラス製造装置においては、マッフル炉内のスリーブ上に溶融ガラスを供給することによりスリーブに巻き付いた溶融ガラスを、スリーブ先端から空気を送り込みながら引き出すことにより管ガラスが成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-137207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ガラス製造装置のマッフル炉内に溶融ガラスを供給する方法として、マッフル炉の天井を構成する上壁に設けた孔状の供給口を設けるとともに、溶融ポット内の溶融ガラスを流出させる供給ノズルを供給口に挿入し、供給口に挿入された供給ノズルから溶融ガラスを流下させる方法が考えられる。この場合、マッフル炉の上壁と供給ノズルとの間には、温度変化に伴う供給ノズルの膨張を許容するための隙間を設ける必要があるが、この隙間に起因して、製造される管ガラスの品質が低下するおそれがある。
【0005】
詳述すると、マッフル炉の上壁と供給ノズルとの間に隙間が存在する場合、高温状態にあるマッフル炉内には、空気及び溶融ガラスの揮発性成分が成形室の上壁の隙間に向かって流れる上昇気流が発生する。この上昇気流が上記隙間へと達すると、上記隙間を通過して炉外へと流出する際、供給口及びその周辺の温度が低いため、揮発性成分が供給口の内面や供給口周辺の上壁に凝集して付着する。供給口内面や供給口周辺の上壁に付着した揮発性成分の凝集物が増えてくると、スリーブに巻き付いた溶融ガラスに落下し、溶融ガラスに付着した凝集物により製品不良が発生する。
【0006】
また、供給口周辺の上壁に付着した凝集物は、上壁を構成する耐火物と反応して耐火物を侵食する。これにより、供給口が拡大するためマッフル炉内に上昇気流が更に生じやすくなり、上壁に対する凝集物の付着が促進されるとともに、スリーブに巻き付いた溶融ガラスへの凝集物、及び凝集物と耐火物との反応物の落下の発生が促進され、製品不良が増大する。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダンナー法を用いたガラス物品の製造方法に関して、マッフル炉の上壁に設けられる隙間に起因するガラス物品の品質の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、溶融ガラスを管ガラス又は棒状ガラスに成形する円筒状のスリーブと、前記スリーブを収容する成形室とを備えるダンナー方式のガラス製造装置を用いたガラス物品の製造方法であって、前記成形室の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズルから流下する溶融ガラスを、回転する前記スリーブに巻き付けて、前記スリーブの先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備え、前記成形工程において、前記成形室に設けられた吸引口を通じて前記成形室内の気体を吸引する。
【0009】
上記構成によれば、ガラス物品を外部へ引き出す引出口から成形室に空気が流入し、成形室の空気及び溶融ガラスの揮発性成分が吸引口を通じて成形室の外部へ排出されるという気体の流れ(以下、排出気流と記載する。)が成形室内に発生する。成形室内に発生した、空気及び溶融ガラスの揮発性成分を含む上昇気流の一部又は全部が、排出気流に取り込まれて排出気流と共に吸引口から排出されることにより、上昇気流が上壁の隙間に達することを抑制できる。これにより、揮発性成分の凝集物が供給口内面や供給口周辺の上壁に付着することが低減されて、供給口内面や供給口周辺の上壁に付着した凝集物やその反応物がスリーブに巻き付いた溶融ガラスに落下することによるガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【0010】
上記ガラス物品の製造方法において、前記吸引口は、前記スリーブの軸線よりも上方に配置されていることが好ましい。
上記構成によれば、成形室において、供給ノズルが挿通される供給口に近い位置にて成形室内の気体が吸引される。そのため、上壁の隙間に向かって流れようとする上昇気流を、より効果的に排出気流に取り込ませることができ、隙間に達する上昇気流の流量を更に低減できる。
【0011】
上記ガラス物品の製造方法において、前記成形室内の気体を吸引する際の吸引速度は、前記成形室の容積をV(L)としたとき、0.2V~0.5V(L/時間)であることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、成形室内の気体が緩やかに吸引されるため、成形室内の気流が過度に乱れることを抑制できる。これにより、成形工程において、ガラス物品をより安定して成形できる。
【0013】
上記ガラス物品の製造方法において、供給ポートと、排出ポートと、前記吸引口に接続される吸引ポートとを備えるエジェクターを用いて、前記供給ポートから前記排出ポートへと流れる高圧気体の流れによって前記成形室内の気体を吸引することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、吸引ポンプを用いた場合と比較して、成形室内の気体が緩やかに吸引されるように吸引速度を調整することが容易である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マッフル炉の上壁に設けられる隙間に起因するガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガラス製造装置の説明図。
図2図1の2-2線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
ガラス物品の製造方法の一例として、管ガラスの製造方法について説明する。まず、管ガラスの製造方法に用いられるダンナー方式のガラス製造装置について説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、ガラス製造装置10は、溶融ガラスを貯留する溶融ポット11と、溶融ポット11から供給された溶融ガラスを管ガラスに成形するスリーブ12と、スリーブ12を収容するマッフル炉13とを備えている。
【0019】
溶融ポット11は、溶融ガラスを貯留する装置であり、溶融ガラスをマッフル炉13に供給するための供給ノズル11aを備えている。供給ノズル11aは、下方に向かって延びる筒状の部材であり、下端部分に溶融ガラスを流下させる開口が設けられている。
【0020】
スリーブ12は、耐火物により構成される円筒状の部材であり、その先端部12aは、先端側へ向って縮径するテーパー形状に形成されている。スリーブ12の基端部12bには、スリーブ12を軸線P周りに回転させる駆動装置(図示略)のシャフト12cが連結されている。マッフル炉13内において、スリーブ12は、先端部12aへ向かうについて下方へ傾斜するように配置されている。
【0021】
マッフル炉13は、溶融ポット11の下流に配置された箱状の炉であり、天井を構成する上壁20と、底部を構成する下壁21と、マッフル炉13内に収容されたスリーブ12の周囲を囲む第1~第3側壁22a~22cとを備えている。
【0022】
第1側壁22aは、スリーブ12の基端に対向する側壁であり、第1側壁22aには、スリーブ12の基端部12bに連結されたシャフト12cが挿通されるスリーブ用開口23が設けられている。第2側壁22bは、スリーブ12の先端に対向する側壁であり、第2側壁22bには、スリーブに巻き付いた溶融ガラスをマッフル炉13外へ引き出すための引出口24が設けられている。第3側壁22cは、第1側壁22aと第2側壁22bとを接続する側壁である。
【0023】
マッフル炉13の内部には、炉内を、スリーブ12を収容する成形室A1と、成形室A1を囲む燃焼室A2とに区画する区画壁25が設けられている。燃焼室A2は、区画壁25を介して成形室A1を加熱するための密閉空間であり、その内部には、バーナー、電気ヒーター等の加熱部26が配置されている。区画壁25は、スリーブ12の軸方向に延びる断面略U字状の壁であり、その上端が上壁20に接続されるとともに、スリーブ12の軸方向の両端が第1側壁22a及び第2側壁22bに接続されている。区画壁25と下壁21との間には、区画壁25を支持する支持壁27が設けられている。
【0024】
マッフル炉13の上壁20における、成形室A1に収容されたスリーブ12の基端部12bの上方に位置する部分には、孔状の供給口20aが設けられている。この供給口20aに対して、溶融ポット11の供給ノズル11aが上方から挿入されている。また、上壁20の上には、供給口20aを覆う蓋部材28が配置されている。ここで、温度変化に伴う供給ノズルの膨張を考慮して、供給口20aと供給ノズル11aとの間、及び蓋部材28と供給ノズル11aとの間には、僅かな隙間Sが設けられている。この隙間Sは、マッフル炉13の外部につながっている。
【0025】
マッフル炉13を構成する上壁20、下壁21、第1~第3側壁22a~22c、区画壁25、支持壁27、及び蓋部材28は、耐火物により構成されている。上記耐火物としては、例えば、アルミナジルコン質耐火物、ムライト質耐火物、アルミナ質耐火物等の酸化物系耐火物、炭化珪素質耐火物、窒化アルミニウム質耐火物、窒化珪素質耐火物等の非酸化物系耐火物が挙げられる。
【0026】
マッフル炉13の成形室A1を区画する壁であって、スリーブ12の側方に位置する壁には、成形室A1内の気体を吸引するための吸引口25aが設けられている。マッフル炉13の成形室A1を区画する壁であって、スリーブ12の側方に位置する壁に該当する壁は、区画壁25におけるスリーブ12の側方に位置する部分、及び第1側壁22aである。本実施形態においては、区画壁25におけるスリーブ12の側方に位置する壁部に一つの吸引口25aが設けられている。
【0027】
成形室A1において、吸引口25aは、供給口20aに近い位置に配置されている。具体的には、吸引口25aは、スリーブ12の軸線Pよりも上方に位置する範囲に配置されている。また、図1に示すように、成形室A1を上方から見た場合のスリーブ12の軸線方向を第1方向として、成形室A1を第1方向の中心で二分する面を仮想面Mとする。このとき、吸引口25aは、仮想面Mにより第1方向に二分される成形室A1の二つの領域のうち、供給口20aが位置する側の領域に開口するように設けられている。
【0028】
図2に示すように、吸引口25aは、吸引管30を介してエジェクター31の吸引ポート31aに接続されている。エジェクター31の供給ポート31bには、エジェクター31へ高圧気体を供給する気体流発生装置32が接続されている。エジェクター31の排出ポート31cには、供給ポート31bから供給された高圧気体を排出するための排出路33が接続されている。エジェクター31は、供給ポート31bから排出ポート31cへと流れる高圧気体を利用することにより、ベンチュリ効果に基づいて、吸引ポート31aに接続される成形室A1内の気体を吸引する。気体流発生装置32からエジェクター31に供給される高圧気体は、例えば、0.2~0.4MPaの高圧エアである。
【0029】
次に、ガラス製造装置10を用いたダンナー方式による管ガラスの製造方法について説明する。
まず、溶融ポット11内で溶融された溶融ガラスを供給ノズル11aから流下させることにより、マッフル炉13内のスリーブ12の基端部12bへ溶融ガラスを供給する。供給された溶融ガラスが、駆動装置により軸線P周りに回転するスリーブ12に巻き付くことにより円筒状に成形される。この際、スリーブ12の先端に設けられた孔からブローエアを噴出させることにより、溶融ガラスは、円筒状の連続した管ガラスとして成形される。その後、成形された管ガラスの先端を、スリーブ12の先端部12aから、マッフル炉13の引出口24を通じて炉外へと引き出して連続的に管引き成形するとともに、管引き成形された管ガラスを所定の長さごとに切断する。
【0030】
本実施形態の製造方法では、供給ノズル11aから流下する溶融ガラスを、回転するスリーブ12に巻き付けて、スリーブ12の先端部12aから引き出すことにより管ガラスを成形する成形工程において、吸引口25aから成形室A1内の気体を吸引する処理を行う。
【0031】
詳述すると、上記成形工程が行われている間、気体流発生装置32を駆動してエジェクター31に高圧気体を供給することにより、吸引ポート31aに接続される成形室A1内の気体を連続的に吸引する。このとき、成形室A1内の気体を緩やかに吸引することが好ましい。例えば、マッフル炉13の成形室A1内の気体が0.5~5時間で入れ替わる程度の速度で吸引すること、換言すると、成形室A1内の気体を吸引する際の吸引速度は、成形室A1の容積をV(L)としたとき、0.2V~0.5V(L/時間)であることが好ましい。具体例として、成形室A1の容積が2000Lである場合、吸引速度を400~4000(L/時間)とする。
【0032】
次に、本実施形態の作用について説明する。
マッフル炉13の上壁20に設けられた供給口20aと供給ノズル11aとの間、及び蓋部材28と供給ノズル11aとの間には、隙間Sが設けられている。そのため、図1に示すように、成形工程において、高温状態にある成形室A1内には、空気及び溶融ガラスの揮発性成分が成形室A1の上壁20の隙間Sに向かって流れる上昇気流AF1が発生する。
【0033】
この上昇気流AF1が隙間Sへと達すると、隙間Sを通過して炉外へと流出する際、供給口20a及びその周辺の温度が低いため、揮発性成分が凝集して供給口20aの内面や供給口20aの周辺の上壁20に付着する。供給口20aの内面や供給口20aの周辺の上壁20に付着した揮発性成分の凝集物が増えてくると、スリーブ12に巻き付いた溶融ガラスに落下し、溶融ガラスに付着した凝集物により製品不良が発生する。
【0034】
また、供給口20aの周辺の上壁20に付着した凝集物は、上壁20を構成する耐火物と反応して耐火物を侵食する。これにより、供給口20aが拡大するためマッフル炉13内に上昇気流AF1が更に生じやすくなり、上壁20に対する凝集物の付着が促進されるとともに、スリーブ12に巻き付いた溶融ガラスへの凝集物、及び凝集物と耐火物との反応物の発生が促進され、製品不良が増大する。
【0035】
本実施形態の製造方法では、成形工程の間、成形室A1に開口する吸引口25aから成形室A1内の気体を吸引している。これにより、引出口24から成形室A1に空気が流入し、成形室A1の空気及び溶融ガラスの揮発性成分が吸引口25aを通じて成形室A1の外部へ排出される、という気体の流れ(以下、排出気流AF2と記載する。)が成形室A1内に発生する。
【0036】
そのため、上壁20の隙間Sに向かって流れようとする上昇気流AF1の一部又は全部が、排出気流AF2に取り込まれて排出気流AF2と共に吸引口25aから排出される。その結果、隙間Sに達する上昇気流AF1の流量が低減されて、揮発性成分の凝集物が供給口20aの内面や供給口20aの周辺の上壁20に付着することが低減される。
【0037】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)ダンナー方式のガラス製造装置を用いたガラス物品の製造方法は、成形室A1の上壁20に設けられた供給口20aに挿入された供給ノズル11aから流下する溶融ガラスを、回転するスリーブ12に巻き付けて、スリーブ12の先端部12aから外部へ引き出すことにより管ガラスを成形する成形工程を備えている。成形工程において、成形室A1に設けられた吸引口25aを通じて成形室A1内の気体を吸引している。
【0038】
上記構成によれば、マッフル炉13の成形室A1内に発生した、空気及び溶融ガラスの揮発性成分を含む上昇気流AF1が上壁20の隙間Sに達することを抑制できる。これにより、揮発性成分の凝集物が供給口20aの内面や供給口20aの周辺の上壁20に付着することが低減されて、供給口20aの内面や供給口20aの周辺の上壁に付着した凝集物やその反応物がスリーブに巻き付いた溶融ガラスに落下することによるガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【0039】
また、外部から成形室A1内に気体を送り込み、成形室A1を区画する壁部に設けた排気口から成形室A1内の気体を排出させることにより、成形室A1内に排出気流AF2を発生させる構成と比較して、上記構成によれば、成形室A1内の気流が乱れ難い。そのため、管ガラスをより安定して成形できる。
【0040】
(2)吸引口25aは、スリーブ12の軸線Pよりも上方に配置されている。
上記構成によれば、成形室A1において、供給ノズル11aが挿通される供給口20aに近い位置にて成形室A1内の気体が吸引される。そのため、上壁20の隙間Sに向かって流れようとする上昇気流AF1を、より効果的に排出気流AF2に取り込ませることができ、隙間Sに達する上昇気流AF1の流量を更に低減できる。
【0041】
(3)成形室A1を上方から見た場合のスリーブ12の軸線方向を第1方向として、成形室A1を第1方向の中心で二分する面を仮想面Mとしたとき、吸引口25aは、仮想面Mにより第1方向に二分される成形室A1の二つの領域のうち、供給口20aが位置する側の領域に開口している。この場合にも、上記(2)と同様の効果が得られる。
【0042】
(4)成形室A1内の気体を吸引する吸引速度は、成形室A1の容積をV(L)としたとき、0.2V~0.5V(L/時間)である。
上記構成によれば、成形室A1内の気体が緩やかに吸引されるため、成形室A1内の気流が過度に乱れることを抑制できる。これにより、成形工程において、管ガラスをより安定して成形できる。
【0043】
(5)成形工程において、成形室A1内の気体を連続的に吸引している。
上記構成によれば、成形工程の途中で成形室A1内の気流が変化して管ガラスの成形に影響を与えることを抑制できる。したがって、管ガラスをより安定して成形できる。
【0044】
(6)供給ポート31bと、排出ポート31cと、吸引口25aに接続される吸引ポート31aとを備えるエジェクター31を用いて、供給ポート31bから排出ポート31cへと流れる高圧気体の流れによって成形室A1内の気体を吸引している。
【0045】
上記構成によれば、吸引ポンプを用いた場合と比較して、成形室A1内の気体が緩やかに吸引されるように吸引速度を調整することが容易である。また、吸引ポンプを用いた場合には、溶融ガラスの揮発成分が吸引ポンプ内に侵入することを抑制するためのフィルタ機構を吸引ポンプに設ける必要がある。これに対して、上記構成によれば、吸引された成形室A1内の気体は、供給ポート31bから排出ポート31cへと流れる高圧気体と共に排出ポート31cから排出される。そのため、高圧気体を発生させる気体流発生装置32にフィルタ機構を設ける必要がない。
【0046】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・成形室A1を区画する壁における吸引口25aを設ける位置を変更してもよい。例えば、成形室A1を区画する壁におけるスリーブ12の基端に対向する壁部、即ち、上記実施形態における第1側壁22aに吸引口25aを設けてもよい。また、スリーブ12の軸線Pと同じ高さ又はスリーブ12の軸線Pよりも下方に吸引口25aを設けてもよいし、仮想面Mにより二分される成形室A1の二つの領域のうち、供給口20aが位置しない側の領域に開口するように吸引口25aを設けてもよい。
【0047】
・成形室A1内の気体を吸引する吸引口25aの数は特に限定されるものではなく、2以上であってもよい。例えば、上記実施形態において、区画壁25及び第1側壁22aの両方に吸引口25aを設けてもよい。
【0048】
・上記実施形態では、成形工程の間、成形室A1内の気体を連続的に吸引していたが、間欠的に吸引してもよい。
・エジェクター31の供給ポート31bに接続される気体流発生装置32は、高圧エアを発生させる装置に限定されるものではなく、エジェクター31の供給ポート31bから排出ポート31cへと流れる気体流を発生させることのできる装置であればよい。上記装置としては、例えば、送風ファンが挙げられる。
【0049】
・成形室A1内の気体を吸引する吸引方法は、エジェクター31を用いた吸引方法に限定されるものではなく、吸引ポンプを用いた吸引方法などのその他の吸引方法であってもよい。
【0050】
・本発明の製造方法により製造されるガラス物品は、棒状ガラスであってもよい。成形工程において、スリーブ12の先端に設けられた孔からブローエアを噴出させる処理を省略することにより、棒状ガラスを成形できる。
【0051】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記成形室を上方から見た場合の前記スリーブの軸線方向を第1方向とし、前記成形室を前記第1方向の中心で二分する面を仮想面としたとき、前記吸引口は、前記仮想面により二分される前記成形室の二つの領域のうち、前記供給口が位置する側の領域に開口している前記ガラス物品の製造方法。
【0052】
(ロ)前記吸引口は、前記成形室を区画する壁における前記スリーブの基端に対向する壁部に設けられている前記ガラス物品の製造方法。
【符号の説明】
【0053】
P…軸線
A1…成形室
11a…供給ノズル
12…スリーブ
20…上壁
20a…供給口
25…区画壁
25a…吸引口
26…加熱部
31…エジェクター
31a…吸引ポート
31b…供給ポート
31c…排出ポート
図1
図2