(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】内燃機関用点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
H01F38/12 E
H01F38/12 J
(21)【出願番号】P 2020194877
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇司
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-202808(JP,A)
【文献】特開2019-057689(JP,A)
【文献】特開2002-280237(JP,A)
【文献】特開2017-147387(JP,A)
【文献】特開2018-014416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 27/32
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を有するイグナイタ(43)と、
前記スイッチング素子によって通電及び通電の遮断が行われる一次コイル(2)と、
前記一次コイルの外周側に前記一次コイルと同軸状に配置され、前記一次コイルへの通電の遮断を受けて誘導起電力を発生させる二次コイル(3)と、
前記二次コイルが外周に巻き付けられた二次ボビン(31)と、
前記イグナイタ、前記一次コイル、前記二次コイル及び前記二次ボビンを収容するコイルケース(5)と、
前記コイルケース内の隙間に充填され、前記イグナイタ、前記一次コイル、前記二次コイル及び前記二次ボビンを絶縁して固着し、かつ前記二次ボビンの比誘電率よりも比誘電率が高い絶縁固着樹脂(6)と、を備え、
前記二次ボビンは、四角筒形状の筒状部(32)と、前記筒状部の外周における軸方向(L)の複数箇所において、前記筒状部の外周から突出し、前記筒状部の外周を前記軸方向に並ぶ複数の凹部(321)に仕切る複数の鍔部(33,34)とを有し、
複数の前記鍔部における、両端に位置する端鍔部(33)を除く残りの複数の中間鍔部(34)には、互いに隣接する前記凹部の間を渡る前記二次コイルの巻線(301)が配置された1つの渡り溝(35)が形成されており、
複数の前記中間鍔部のうちの、前記二次コイルの軸方向(L)の中心位置(L0)よりも前記軸方向の高電圧側(L1)に位置する少なくとも1つの中間鍔部には、前記二次コイルの巻線の最外周位置(P)よりも深く切り欠かれて、前記絶縁固着樹脂によって充填された少なくとも1つの切欠き溝(36)が形成されて
おり、
前記切欠き溝は、前記中心位置よりも前記軸方向の前記高電圧側に位置する複数の前記中間鍔部に形成されており、
前記切欠き溝が形成された複数の前記中間鍔部において、前記軸方向の前記高電圧側に位置する前記中間鍔部ほど、前記軸方向から見たときの前記切欠き溝の切欠き面積が大きい、内燃機関用点火コイル(1)。
【請求項2】
前記切欠き溝は、複数の前記中間鍔部のうちの、前記二次コイルの前記軸方向の最も高電圧側に位置する中間鍔部から、前記軸方向の低電圧側に向けて連続する、1~4個の中間鍔部に形成されている、請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記絶縁固着樹脂は、熱硬化性樹脂と、前記熱硬化性樹脂の比誘電率よりも比誘電率が高いフィラーとを含有する、請求項1又は2に記載の内燃機関用点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用点火コイル(点火コイルという。)は、内燃機関としてのエンジンの燃焼室において、燃料と燃焼用空気との混合気に点火するために用いられる。点火コイルは、一次コイル、一次コイルの外周側に同軸状に配置されて一次コイルに磁気的に結合される二次コイル、一次コイルへの通電を断続するスイッチング素子が内蔵されたイグナイタ、一次コイル及び二次コイルによって生じる磁束を通過させるためのコア等を備えている。また、一次コイル、二次コイル、イグナイタ、コア等は、コイルケース内に配置され、コイルケース内に充填された絶縁固着樹脂によって絶縁固着されている。
【0003】
一次コイルは、樹脂製の一次ボビンの外周に巻き付けられており、二次コイルは、樹脂製の二次ボビンの外周に巻き付けられている。二次コイルの巻線(マグネットワイヤ)にはスパーク用の高電圧が発生するため、二次コイルの巻線同士の間に生じる電位差は大きくなる。そのため、二次コイルの巻線の絶縁被膜を絶縁破壊から保護するために、二次ボビンの外周に、軸方向に並ぶ複数の鍔部を設け、この鍔部によって複数に区画された凹部に二次コイルの巻線を配置している。
【0004】
また、特許文献1の内燃機関用の点火コイルにおいては、二次コイルの二次導線(巻線)の線間の絶縁性を向上させる工夫がなされている。この点火コイルにおいては、二次コイルの高電圧側に配置された二次導線である高電圧側部の絶縁被膜の厚みを、二次コイルの低電圧側に配置された二次導線である低電圧側部の絶縁被膜の厚みよりも厚くして、高電圧側部の耐電圧を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
点火コイルの二次コイルは、二次ボビンに巻き付けられた状態で、コイルケース内の絶縁固着樹脂によってコイルケース内に固定されている。そして、二次コイルに電位が生じるときには、二次ボビンの鍔部を間に介して高電圧側と低電圧側とに並ぶ二次コイルの巻線の部位、並びに絶縁固着樹脂を間に介する二次コイルの巻線及びコアによって静電容量が生じる。前者を直列静電容量といい、後者を対地静電容量という。
【0007】
一次コイルへの通電の遮断後に生じる誘導起電力によってスパークプラグに火花放電が生じた後には、二次コイルに、スパークプラグからの電圧の跳ね返りであるサージ電圧が加わる。このサージ電圧は、二次コイルの巻線における、高電圧側に位置する部位ほど大きくなる。特許文献1の点火コイルにおいては、二次導線の高電圧側部の耐電圧を高くすることによって、巻線同士の間の線間の絶縁性を高めているに過ぎない。
【0008】
特許文献1の点火コイルにおいては、二次導線の絶縁被膜の厚みを大きくすることによって、二次コイル及び二次ボビンの全体の静電容量が大きくなるおそれがある。二次コイル及び二次ボビンの全体の静電容量が大きくなると、二次コイルにおける電圧の損失が大きくなって、二次コイルによる放電電圧を高めることが困難になる。このことは、点火コイルの性能低下に繋がる。また、被膜厚みを大きくすることが点火コイルの体格アップの要因になり、点火コイルの搭載性を悪化させることに繋がる。
【0009】
発明者の研究によると、二次コイルの巻線同士の間に生じる電位差としての線間電位(巻線に分担される分担電位)は、対地静電容量と直列静電容量との比率によって大きく変化することが分かった。そして、特に、二次コイルの巻線における高電圧側の部位の線間電位を小さくするためには、この高電圧側の部位における直列静電容量を高めることが有効であることが分かった。この高電圧側の部位における直列静電容量は、二次コイル全体の容量に対して微小であり、前述の二次コイルにおける電圧の損失に及ぼす影響は小さい。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、点火コイルの性能低下、体格アップ等を抑制しつつ、二次コイルの巻線における高電圧側の部位に生じる線間電位を小さくすることができる内燃機関用点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
スイッチング素子を有するイグナイタ(43)と、
前記スイッチング素子によって通電及び通電の遮断が行われる一次コイル(2)と、
前記一次コイルの外周側に前記一次コイルと同軸状に配置され、前記一次コイルへの通電の遮断を受けて誘導起電力を発生させる二次コイル(3)と、
前記二次コイルが外周に巻き付けられた二次ボビン(31)と、
前記イグナイタ、前記一次コイル、前記二次コイル及び前記二次ボビンを収容するコイルケース(5)と、
前記コイルケース内の隙間に充填され、前記イグナイタ、前記一次コイル、前記二次コイル及び前記二次ボビンを絶縁して固着し、かつ前記二次ボビンの比誘電率よりも比誘電率が高い絶縁固着樹脂(6)と、を備え、
前記二次ボビンは、四角筒形状の筒状部(32)と、前記筒状部の外周における軸方向(L)の複数箇所において、前記筒状部の外周から突出し、前記筒状部の外周を前記軸方向に並ぶ複数の凹部(321)に仕切る複数の鍔部(33,34)とを有し、
複数の前記鍔部における、両端に位置する端鍔部(33)を除く残りの複数の中間鍔部(34)には、互いに隣接する前記凹部の間を渡る前記二次コイルの巻線(301)が配置された1つの渡り溝(35)が形成されており、
複数の前記中間鍔部のうちの、前記二次コイルの軸方向(L)の中心位置(L0)よりも前記軸方向の高電圧側(L1)に位置する少なくとも1つの中間鍔部には、前記二次コイルの巻線の最外周位置(P)よりも深く切り欠かれて、前記絶縁固着樹脂によって充填された少なくとも1つの切欠き溝(36)が形成されており、
前記切欠き溝は、前記中心位置よりも前記軸方向の前記高電圧側に位置する複数の前記中間鍔部に形成されており、
前記切欠き溝が形成された複数の前記中間鍔部において、前記軸方向の前記高電圧側に位置する前記中間鍔部ほど、前記軸方向から見たときの前記切欠き溝の切欠き面積が大きい、内燃機関用点火コイル(1)にある。
【発明の効果】
【0012】
前記一態様の内燃機関用点火コイル(点火コイルという。)においては、二次ボビンの高電圧側に位置する中間鍔部の形状を変更し、二次コイルの巻線における高電圧側の部位に生じる直列静電容量を大きくする工夫をしている。具体的には、二次コイルの軸方向の中心位置よりも軸方向の高電圧側に位置する少なくとも1つの中間鍔部に、少なくとも1つの切欠き溝を形成している。そして、この切欠き溝に、絶縁固着樹脂が充填されることによって、二次コイルの巻線を軸方向に仕切る中間鍔部の一部が絶縁固着樹脂によって形成されることになる。
【0013】
また、切欠き溝は、二次コイルの巻線の最外周位置よりも深く切り欠かれており、二次コイルの巻線の軸方向に隣接する位置に形成されている。絶縁固着樹脂の比誘電率は、二次ボビンの比誘電率よりも高いことにより、高電圧側に位置する少なくとも1つの中間鍔部と、この中間鍔部を介して軸方向に並ぶ二次コイルの巻線とによる直列静電容量を大きくすることができる。これにより、二次ボビンの中間鍔部の一部に切欠き溝を形成するといった簡単な工夫によって、二次コイルの巻線における高電圧側の部位に生じる線間電位を小さくすることができる。
【0014】
そして、二次ボビンの中間鍔部の厚みを大きくする、あるいは二次コイルの巻線における絶縁被膜の厚みを大きくするといった、各構成部品の寸法を大きくしなくても、二次コイル及び二次ボビンの高電圧側の部位における直列静電容量を大きくすることができる。そのため、点火コイルの全体の静電容量が大きくなることを抑制し、点火コイルの性能低下、体格アップ等を抑制することができる。
【0015】
前記一態様の点火コイルによれば、点火コイルの性能低下、体格アップ等を抑制しつつ、二次コイルの巻線における高電圧側の部位に生じる線間電位を小さくすることができる。
【0016】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態1にかかる、点火コイルの断面を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態1にかかる、絶縁固着樹脂が充填される前の点火コイルの断面を、
図1に直交する方向から見た状態で示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態1にかかる、二次ボビンを、スパークプラグの装着側から見た状態で示す説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態1にかかる、
図2における切欠き溝の周辺を拡大して示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1にかかる、
図2における渡り溝の周辺を拡大して示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態1にかかる、
図2の二次ボビンと切欠き溝の形成状態が異なる他の二次ボビンの断面を、
図1に直交する方向から見た状態で示す説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態1にかかる、
図2の二次ボビンと切欠き溝の形成状態が異なる、さらに他の二次ボビンの断面を、
図1に直交する方向から見た状態で示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態1にかかる、二次コイルの巻線の割合と、二次コイルの巻線の各部位の分担電圧との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施形態1にかかる、対地静電容量及び直列静電容量を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述した内燃機関用点火コイルにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の内燃機関用点火コイル1(点火コイル1という。)は、
図1及び
図2に示すように、イグナイタ43、一次コイル2、二次コイル3、二次ボビン31、コイルケース5及び絶縁固着樹脂6を備える。イグナイタ43は、スイッチング素子を有する。一次コイル2は、スイッチング素子によって通電及び通電の遮断が行われるよう構成されている。二次コイル3は、一次コイル2の外周側に一次コイル2と同軸状に配置されており、一次コイル2への通電の遮断を受けて誘導起電力を発生させるよう構成されている。
【0019】
二次ボビン31は、二次コイル3が外周に巻き付けられたものである。コイルケース5は、イグナイタ43、一次コイル2、二次コイル3、二次ボビン31等を収容するものである。絶縁固着樹脂6は、コイルケース5内の隙間に充填されており、イグナイタ43、一次コイル2、二次コイル3、二次ボビン31等を、絶縁して固着するものである。絶縁固着樹脂6の比誘電率は、二次ボビン31の比誘電率よりも高い。
【0020】
図1は、点火コイル1のコイルケース5内の隙間に絶縁固着樹脂6が充填された状態を示す。
図2は、点火コイル1のコイルケース5内の隙間に絶縁固着樹脂6が充填される前の状態を示す。
【0021】
図1~
図3に示すように、二次ボビン31は、四角筒形状の筒状部32と、筒状部32の外周における軸方向Lの複数箇所において、筒状部32の外周から突出し、筒状部32の外周を軸方向Lに並ぶ複数の凹部321に仕切る複数の鍔部33,34とを有する。複数の鍔部33,34における、両端に位置する端鍔部33を除く残りの複数の中間鍔部34には、互いに隣接する凹部321の間を渡る二次コイル3の巻線301が配置された1つの渡り溝35が形成されている。複数の中間鍔部34のうちの、二次コイル3の軸方向Lの中心位置L0よりも軸方向Lの高電圧側L1に位置する少なくとも1つの中間鍔部34には、二次コイル3の巻線301の最外周位置Pよりも深く切り欠かれて、絶縁固着樹脂6によって充填された少なくとも1つの切欠き溝36が形成されている。
【0022】
以下に、本形態の点火コイル1について詳説する。
(点火コイル1)
図1に示すように、点火コイル1は、車両の内燃機関としてのエンジンにおいて、シリンダヘッドカバー7に配置され、シリンダヘッドに配置されたスパークプラグから、シリンダヘッドの燃焼室内に火花放電を発生させるために用いられる。本形態の点火コイル1は、車載用のものである。点火コイル1は、一次コイル2、二次コイル3、コイルケース5、イグナイタ43等によって構成されたコイル本体部11と、コイル本体部11から突出して、二次コイル3とスパークプラグとを高圧端子45及びバネ46を介して電気的に接続するためのジョイント部12とを有する。コイル本体部11は、シリンダヘッドカバー7に配置され、ジョイント部12は、シリンダヘッドカバー7のプラグホール71に配置される。
【0023】
(軸方向L,径方向R,周方向C,装着方向D,幅方向W)
図1~
図5に示すように、本形態の軸方向Lとは、一次コイル2及び二次コイル3の断面の中心(図心)を通る仮想線としての中心軸線が延びる方向のことをいう。軸方向Lにおいて、二次コイル3に高電圧が生じる側を高電圧側L1といい、高電圧側L1の反対側を低電圧側L2という。一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線から放射状に広がる方向を径方向Rという。一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線の周りの方向を周方向Cという。本形態の周方向Cは、四角形の周りの方向を示す。
【0024】
本形態の装着方向Dとは、軸方向Lに直交する方向であって、コイルケース5の開口部52と底部53とが並ぶ方向のことをいう。コイルケース5の装着方向Dにおいて、底部53が位置する側及びスパークプラグが配置される側を装着側D1といい、開口部52が位置する側を開口側D2という。また、軸方向L及び装着方向Dの双方に直交する方向を幅方向Wという。
【0025】
(一次コイル2)
図1及び
図2に示すように、一次コイル2は、巻線301としてのマグネットワイヤを、一次ボビン21の筒状部の外周面に巻き付けることによって形成されている。一次コイル2は、イグナイタ43のスイッチング素子によって、通電及び通電の遮断が繰り返されるものである。
【0026】
(二次コイル3)
図1及び
図2に示すように、二次コイル3は、一次コイル2の外周側において、一次コイル2と同軸状に配置されている。二次コイル3は、巻線301としてのマグネットワイヤを、二次ボビン31の筒状部32の外周面に巻き付けることによって形成されている。二次コイル3の巻線301は一次コイル2の巻線よりも細く、二次コイル3の巻線数は一次コイル2の巻線数よりも多い。二次コイル3は、一次コイル2への通電が遮断されたときに、相互誘導作用による誘導起電力を発生させるものである。一次コイル2及び二次コイル3の中心軸線は、コイルケース5の開口部52に対して直交する方向に向けられている。
【0027】
図3~
図5に示すように、二次コイル3の巻線301は、二次ボビン31の各凹部321において、二次ボビン31の軸方向Lに複数列に巻き付けられるとともに、二次ボビン31の径方向Rに複数段に重なって巻き付けられている。換言すれば、二次コイル3は、1本のマグネットワイヤが、複数の凹部321に分割されて、連続して巻き付けられることによって形成されている。二次コイル3の巻線301は、各凹部321における、径方向Rの最も内周側の位置である最下段位置301Aから、径方向Rの外周側に順次重なって、径方向Rの最も外周側の位置である最上段位置301Bまで配置されている。
図4及び
図5に示す巻線301の段数は一例である。
【0028】
二次コイル3の巻線301は、互いに隣接する凹部321同士の間に、中間鍔部34の渡り溝35を通って渡されている。より具体的には、二次コイル3の巻線301は、各凹部321における、複数段の巻線301のうちの径方向Rの最上段位置301Bから、渡り溝35内を通って、各凹部321の軸方向Lに隣接する凹部321における、径方向Rの最下段位置301Aへ渡されている。
【0029】
二次コイル3の巻線301は、各凹部321において、周方向Cの一方側に向けて巻き付けられている。二次コイル3の巻線301の一端部は、低電圧側L2に繋がる端部として、イグナイタ43における、グラウンド又は電源の端子に接続されている。二次コイル3の巻線301の他端部は、高電圧側L1に繋がる端部として、スパークプラグの中心側電極に繋がる高圧端子45に接続されている。
【0030】
二次コイル3の巻線301は、巻線301を形成するためのマグネットワイヤに対して二次ボビン31を回転させること、又は二次ボビン31の中心軸線の周りに、巻線301を形成するためのマグネットワイヤを送り出す治具を回転させることによって形成される。
【0031】
(中心コア41)
図1及び
図2に示すように、一次コイル2の内周側には、一次コイル2及び二次コイル3によって生じる磁束を通過させるための中心コア41が配置されている。本形態の中心コア41は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。中心コア41は、直方体形状に形成されている。なお、中心コア41は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0032】
(外周コア42)
図1及び
図2に示すように、二次コイル3の外周側には、一次コイル2及び二次コイル3によって生じる磁束を通過させるための外周コア42が配置されている。本形態の外周コア42は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。外周コア42は、装着方向Dから見た断面において、中心コア41を内側に配置する四角環形状に形成されている。なお、外周コア42は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0033】
中心コア41と外周コア42とによって、磁束が通過する閉磁路が形成されている。中心コア41と外周コア42との間には、磁気飽和を防止するための永久磁石44が配置されている。
【0034】
(イグナイタ43)
図1に示すように、イグナイタ43は、一次コイル2及び二次コイル3の軸方向Lにおいて、外周コア42の一部に隣接して配置されている。イグナイタ43は、スイッチング回路を形成するスイッチング素子等の電子部品が設けられた電子基板と、この電子基板を覆うモールド樹脂とによって構成されている。電子基板に設けられた導体ピンは、モールド樹脂の外部に引き出されている。イグナイタ43の導体ピンは、モールド樹脂から装着方向Dの開口側D2に突出している。イグナイタ43におけるスイッチング素子は、点火コイル1の外部に配置された電子制御装置による指令を受けて、一次コイル2への通電及び通電の遮断を行う。
【0035】
(コイルケース5)
図1及び
図2に示すように、コイルケース5は、熱可塑性樹脂の成形品として形成されている。コイルケース5は、一次コイル2、二次コイル3、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等を収容する収容部51を有する。コイルケース5の開口部52は、収容部51の装着方向Dの開口側D2の端部に形成されている。開口部52は、装着方向Dにおける、スパークプラグが装着される装着側D1とは反対側に形成されている。一次コイル2、一次ボビン21、二次コイル3、二次ボビン31、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等のコイル組付体は、開口部52から収容部51に配置される。また、液状の絶縁固着樹脂6は、開口部52からコイルケース5内の隙間に注入される。
【0036】
コイルケース5の一部には、イグナイタ43を外部の電子制御装置と電気接続するためのコネクタ部24が配置されている。本形態のコネクタ部24は、一次ボビン21と別体に形成されている。コネクタ部24は、一次ボビン21と一体成形してもよい。
【0037】
また、コイルケース5の装着方向Dの装着側D1の底部53には、ジョイント部12を構成するタワー部54が形成されている。タワー部54には、点火コイル1とプラグホール71との間を封止するためのシールラバー55が装着されている。
【0038】
(絶縁固着樹脂6)
図1に示すように、絶縁固着樹脂6は、熱硬化性樹脂によって構成されている。コイルケース5内に、一次コイル2、一次ボビン21、二次コイル3、二次ボビン31、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等が組み付けられたコイル組付体が配置された後に、このコイルケース5内の隙間に液状の熱硬化性樹脂が注入され、この液状の熱硬化性樹脂が硬化される。熱硬化性樹脂からなる絶縁固着樹脂6によって、コイルケース5内の一次コイル2、一次ボビン21、二次コイル3、二次ボビン31、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等が絶縁された状態で互いに固着される。
【0039】
(一次ボビン21)
図1及び
図2に示すように、一次ボビン21は、熱可塑性樹脂の成形品によって形成されている。一次ボビン21は、四角形状の筒状部と、筒状部の軸方向Lの両端に形成された鍔部とを有する。一次コイル2の巻線は、一次ボビン21の筒状部における、鍔部同士の間の外周面に巻き付けられている。コネクタ部24には、イグナイタ43における導体ピンに接続されるコネクタ導体が設けられている。
【0040】
イグナイタ43は、外周コア42とコネクタ部24との間に形成されたスペースに配置されている。イグナイタ43の複数の導体ピンは、コネクタ部24の複数のコネクタ導体と、コイルケース5内において、装着方向Dの開口側D2の位置において互いに対向して配置されている。そして、複数の導体ピンと複数のコネクタ導体とは、半田付け、溶接等によって互いに接合されている。また、複数の導体ピンは、一次コイル2の巻線の両端部に接続されたコイル導体、及び二次コイル3の巻線301の低電圧側L2の端部に接続されたコイル導体と、半田付け、溶接等によって互いに接合されている。
【0041】
(二次ボビン31)
図2及び
図3に示すように、二次ボビン31は、熱可塑性樹脂の成形品によって形成されている。二次ボビン31における四角形状の筒状部32の4つの角部位は、曲線状に形成されている。また、複数の中間鍔部34の4つの角部位は、曲線状角部位343として形成されている。二次ボビン31の筒状部32の内周側には、一次コイル2及び一次ボビン21が配置された中空穴322が形成されている。複数の中間鍔部34は、装着方向Dに平行な、直線状の一対の第1辺部位341と、装着方向Dに垂直な、直線状の一対の第2辺部位342と、第1辺部位341と第2辺部位342とを繋ぐ4つの曲線状角部位343とによって構成されている。
図3は、二次ボビン31を装着方向Dの装着側D1から見た状態で示す。
【0042】
図5に示すように、各中間鍔部34における、装着方向Dの装着側D1に位置する2つの曲線状角部位343のうちの一方には、二次コイル3の巻線301が通過する渡り溝35が形成されている。渡り溝35は、二次ボビン31における各凹部321に配置された二次コイル3の巻線301を、各凹部321にそれぞれ隣接する凹部321に渡らせるために形成されている。渡り溝35は、中間鍔部34における周方向Cの一部を切り欠く切欠きとして形成されている。渡り溝35は、二次ボビン31の筒状部32の外周位置まで切り欠かれている。
【0043】
図3に示すように、本形態の渡り溝35は、複数の中間鍔部34の曲線状角部位343の幅方向Wの一方側において、軸方向Lに貫通する状態(並ぶ状態)で形成されている。渡り溝35は、互いに隣接する複数の中間鍔部34における、幅方向Wの一方側と他方側とに交互に形成してもよい。
【0044】
図4に示すように、二次コイル3の静電容量を大きくする目的を有する切欠き溝36は、渡り溝35とは別に、中間鍔部34における、互いに対向する直線状の辺部位としての一対の第2辺部位342にそれぞれ形成されている。切欠き溝36は、二次ボビン31の筒状部32の外周位置まで切り欠かれており、二次コイル3の巻線301における最下段位置301Aから最上段位置301Bまでの複数段の巻線301の軸方向Lに隣接して形成されている。なお、切欠き溝36は、中間鍔部34の外周位置から二次コイル3の巻線301の最外周位置Pよりも深く切り欠かれていればよい。
【0045】
切欠き溝36は、二次コイル3の巻線301が通過せず、全体が絶縁固着樹脂6によって充填される切欠きとして形成されている。切欠き溝36及び渡り溝35のすべてが、装着方向Dに向かって開口して形成されていることにより、二次ボビン31の成形時において、成形型から成形後の二次ボビン31を取り出すことが容易になる。
【0046】
図3に示すように、本形態の切欠き溝36は、複数の中間鍔部34のうちの、二次コイル3の軸方向Lの最も高電圧側L1に位置する中間鍔部34から、軸方向Lの低電圧側L2に向けて連続する、3個の中間鍔部34に形成されている。二次ボビン31における、軸方向Lに並ぶ中間鍔部34の形成数は、例えば、3~8個とすることができる。切欠き溝36は、複数の中間鍔部34のうちの、二次コイル3の軸方向Lの最も高電圧側L1に位置する中間鍔部34から、軸方向Lの低電圧側L2に向けて連続する、1~4個の中間鍔部34に形成することができる。この構成により、二次コイル3及び二次ボビン31による高電圧側L1の直列静電容量を効果的に高めることができる。
図3においては、分かりやすくするために、中間鍔部34における、渡り溝35及び切欠き溝36の周辺の部位を、ハッチングを行って示す。
【0047】
二次コイル3の軸方向Lの中心位置L0とは、二次ボビン31の複数の凹部321に分割して配置された、二次コイル3の複数の分割巻線部の軸方向Lの全長Lxにおける中心位置L0のことをいう。二次コイル3の軸方向Lの高電圧側L1は、二次コイル3の巻線301の端部がスパークプラグに接続される側に位置する。二次コイル3の軸方向Lの低電圧側L2は、二次コイル3の軸方向Lの端部に対してイグナイタ43が配置される側、あるいは二次コイル3の巻線301の端部がイグナイタ43又はコネクタ部24に接続される側に位置する。
【0048】
二次ボビン31における複数の凹部321の軸方向Lの幅は、軸方向Lの高電圧側L1に位置する凹部321ほど小さい。そして、各凹部321に配置された、二次コイル3の巻線301による分割巻線部の軸方向Lの幅は、軸方向Lの高電圧側L1に位置する分割巻線部ほど小さい。
【0049】
切欠き溝36は、
図6に示すように、二次ボビン31の各中間鍔部34における、互いに対向する直線状の辺部位としての一対の第1辺部位341のそれぞれと、互いに対向する直線状の辺部位としての一対の第2辺部位342のそれぞれとに形成されていてもよい。また、切欠き溝36は、
図7に示すように、各第1辺部位341及び各第2辺部位342のそれぞれに複数形成されていてもよい。切欠き溝36は、これら以外の種々の態様で形成されていてもよい。また、軸方向Lの高電圧側L1に位置する切欠き溝36ほど、中間鍔部34の全体の軸方向Lから見た突出面積における切欠き面積が大きくなるようにしてもよい。
【0050】
(比誘電率)
本形態の絶縁固着樹脂6は、熱硬化性樹脂と、熱硬化性樹脂の比誘電率よりも比誘電率が高いフィラーとを含有する。フィラーの使用により、絶縁固着樹脂6の機械的強度、耐電圧等を向上させるとともに、絶縁固着樹脂6の比誘電率を高くすることができる。本形態の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂等によって構成されている。本形態のフィラーは、アルミナ(酸化アルミニウム)、二酸化ケイ素を含むシリカ等によって構成されている。フィラーは、粉末、繊維等の無機材料、セラミックス、樹脂、木粉等によって構成することができる。フィラーは、例えば、熱硬化性樹脂の粘度を高くする目的で、熱硬化性樹脂に混合される。
【0051】
静電容量Cは、極板の面積をS、極板間の距離をd、比誘電率をεとしたとき、C=ε・S/dによって表される。そして、比誘電率を大きくすることによって静電容量を大きくすることができる。
【0052】
二次ボビン31は、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂等の熱可塑性樹脂によって構成されている。ポリフェニレンエーテル樹脂の比誘電率は3.0程度である一方、エポキシ樹脂の比誘電率は3.5程度である。また、エポキシ樹脂に含まれるフィラーとしてのアルミナの比誘電率は8.5程度であり、二酸化ケイ素の比誘電率は3.9程度である。
【0053】
特に、フィラーは、コイルケース5の底部53の付近に位置する絶縁固着樹脂6の部位に堆積しやすくなる。また、フィラーは、二次コイル3及び二次ボビン31の付近に位置する絶縁固着樹脂6の部位にも堆積しやすくなる。そして、二次コイル3及び二次ボビン31の付近における絶縁固着樹脂6の比誘電率は4~5程度となる。絶縁固着樹脂6の比誘電率が高いことにより、二次ボビン31の切欠き溝36に絶縁固着樹脂6が充填されたときに、二次コイル3及び二次ボビン31による静電容量をより大きくすることが可能になる。
【0054】
(静電容量と線間電位)
一次コイル2への通電の遮断後に生じる誘導起電力によってスパークプラグに火花放電が生じた後には、二次コイル3に、スパークプラグからの電圧の跳ね返りであるサージ電圧が加わる。このサージ電圧は、二次コイル3の巻線301における、高電圧側L1に位置する部位ほど大きくなる。二次コイル3の巻線301に設けられた絶縁被膜は、巻線301同士の間に線間電位として作用するサージ電圧にも、材質、形成厚みの設定によって耐えられるようにしている。
【0055】
本形態の点火コイル1は、二次コイル3の周辺に生じる静電容量を適切に小さくすることによって、二次コイル3の巻線301同士の間に生じる線間電位(各巻線301の分担電位)を低くする工夫をしている。二次コイル3にサージ電圧を模擬したステップ電圧を加えた場合の、二次コイル3の巻線301における電位の分布は、
図8に示すように、巻線301の割合と、巻線301の各部位の分担電位との関係によって示される。
【0056】
図8の横軸としての巻線301の割合は、全巻き数を100%とするとともに、高電圧側L1にあるものを0%とし、低電圧側L2に行くほど100%に近くなるものとする。巻線301の各部位の分担電位Vn/Vは、ステップ電圧をV、全巻き数をN、巻線301の各部位の巻き数をXnとしたとき、Vn=V・sinhα(1-Xn/N)/sinhαによって表されるものとする。ここで、係数αは、二次コイル3の全対地静電容量をC、二次コイル3の全直列静電容量をKとしたとき、α=(C/K)
1/2によって表される。全対地静電容量Cは、全体の対地静電容量Cのことをいい、単に対地静電容量Cという。全直列静電容量Kは、全体の直列静電容量Kのことをいい、単に直列静電容量Kという。
【0057】
図9は、対地静電容量C及び直列静電容量Kを模式的に示す。
図9に示すように、対地静電容量Cとは、絶縁固着樹脂6を間に介して二次コイル3の巻線301と外周コア42とによって生じる静電容量のことをいう。直列静電容量Kとは、二次ボビン31の中間鍔部34を間に介して高電圧側L1と低電圧側L2とに並ぶ二次コイル3の巻線301の部位による静電容量のことをいう。通常、対地静電容量Cは直列静電容量Kに比べて大きい。そして、
図8に示すように、係数αは2以上の値を取り、二次コイル3の巻線301における電位分布は曲線状になる。
【0058】
係数αが大きくなるほど、曲線の湾曲度合が大きくなるとともに分担電位Vn/Vが高電圧側L1の巻線301の部位に片寄って生じることになる。分担電位Vn/Vが高電圧側L1の巻線301の部位に片寄って生じると、巻線301同士の間の線間電位が高くなり、巻線301に電流のリークが生じやすくなる。巻線301の各部位に生じる線間電位を低くするためには、直列静電容量Kを少しでも大きくして、分担電位Vn/Vが二次コイル3の巻線301の全体にできるだけ均等に生じるようにすることが有効である。
【0059】
(作用効果)
本形態の点火コイル1においては、二次ボビン31の高電圧側L1に位置する中間鍔部34の形状を変更し、二次コイル3の巻線301における高電圧側L1の部位に生じる直列静電容量を大きくする工夫をしている。具体的には、二次コイル3の軸方向Lの中心位置L0よりも軸方向Lの高電圧側L1に位置する少なくとも1つの中間鍔部34に、複数の切欠き溝36を形成している。そして、この切欠き溝36に、絶縁固着樹脂6が充填されることによって、二次コイル3の巻線301を軸方向Lに仕切る中間鍔部34の一部が絶縁固着樹脂6によって形成されることになる。
【0060】
また、切欠き溝36は、二次コイル3の巻線301の最外周位置Pよりも深く切り欠かれており、二次コイル3の巻線301の軸方向Lに隣接する位置に形成されている。絶縁固着樹脂6の比誘電率は、二次ボビン31の比誘電率よりも高いことにより、高電圧側L1に位置する少なくとも1つの中間鍔部34と、この中間鍔部34を介して軸方向Lの高電圧側L1と低電圧側L2とに並ぶ二次コイル3の巻線301とによる直列静電容量を大きくすることができる。これにより、二次ボビン31の中間鍔部34の一部に切欠き溝36を形成するといった簡単な工夫によって、二次コイル3の巻線301における高電圧側L1の部位に生じる線間電位を小さくすることができる。
【0061】
そして、二次ボビン31の中間鍔部34の厚みを大きくする、あるいは二次コイル3の巻線301における絶縁被膜の厚みを大きくするといった、各構成部品の寸法を大きくしなくても、二次コイル3及び二次ボビン31の高電圧側L1の部位における直列静電容量を大きくすることができる。そのため、点火コイル1の全体の静電容量が大きくなることを抑制し、点火コイル1の性能低下、体格アップ等を抑制することができる。
【0062】
点火コイル1の全体の静電容量が大きくなると、二次コイル3による放電電圧を高くすることが難しくなる。また、二次コイル3の巻線301の絶縁被膜を厚くする、二次ボビン31の中間鍔部34の軸方向Lの厚みを厚くする、あるいは二次ボビン31の凹部321(スロット)の数を増やすといった形状の変更をすると、点火コイル1の体格が大きくなってしまう。よって、点火コイル1の体格を大きくすることなく、二次コイル3による放電電圧を高くするためには、本形態の点火コイル1の構成が有効である。
【0063】
本形態の点火コイル1によれば、点火コイル1の全体の静電容量が大きくなることを抑制して、点火コイル1の性能低下、体格アップ等を抑制しつつ、二次コイル3の巻線301における高電圧側L1の部位に生じる線間電位を小さくすることができる。
【0064】
(効果の確認)
本形態においては、中間鍔部34に切欠き溝36を形成することによる効果を、シミュレーションによって確認した。
切欠き溝36は、
図3に示した5つの中間鍔部34のうちの軸方向Lの高電圧側L1に位置する3つの中間鍔部34の一対の第2辺部位342に形成した。中間鍔部34の軸方向Lの厚みは、0.8mmで一定とした。二次ボビン31の比誘電率は3.0とし、フィラーを含む絶縁固着樹脂6の比誘電率は5.0とした。中間鍔部34の軸方向Lの表面における、切欠き溝36及び渡り溝35による面積減少率を、25%、50%としたときの最大線間電位の低減量を確認した。また、比較のために、渡り溝35のみが形成された中間鍔部34を有する従来の二次ボビンにおける面積減少率は、4%とした。最大線間電位とは、巻線301の全体において、線間電位が最大になる部位の値を示す。
【0065】
最大線間電位の低減量は、面積減少率が25%の場合には10%程度となり、面積減少率が50%の場合には18%程度となった。従来の点火コイルに要求される出力電圧としての放電電圧は、40kV程度である。近年の点火コイル1においては、要求される出力電圧が45kV程度になることが想定される。この場合、最大線間電位が11.1%(45/40×100%)大きくなるとすると、中間鍔部34における切欠き溝36の面積減少率を30%以上とすることにより、45kV程度の要求出力電圧に対応できることが分かった。
【0066】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 点火コイル
2 一次コイル
3 二次コイル
31 二次ボビン
32 筒状部
34 中間鍔部
35 渡り溝
36 切欠き溝