(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】プライマー組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/12 20060101AFI20240618BHJP
C09D 143/04 20060101ALI20240618BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240618BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240618BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C09D133/12
C09D143/04
C09D7/63
C09D163/00
C09D5/00 D
(21)【出願番号】P 2020559791
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042543
(87)【国際公開番号】W WO2020121672
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018233855
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019026583
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】水野 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】岡村 直実
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 知紀
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274177(JP,A)
【文献】特開平03-006282(JP,A)
【文献】特開2001-214122(JP,A)
【文献】特開2002-363484(JP,A)
【文献】特開平11-209682(JP,A)
【文献】特開2003-026997(JP,A)
【文献】特開昭57-023661(JP,A)
【文献】特開2018-180248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/12
C09D 143/04
C09D 7/63
C09D 163/00
C09D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマー組成物であって、
(A)樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合が80重量%以上であって、重量平均分子量が60,000以上であるメタクリル酸メチル系重合体と、
(B)樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合が80重量%未満であり、重量平均分子量が1,000以上20,000以下であるアルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体と
を含有し、
前記(B)成分の添加量が、前記プライマー組成物全体の質量を100%とした場合、5%以上60%以下であ
り、
前記(B)成分が、前記(B)成分の重合体の合成に用いるアルコキシシリル基を有する単量体及びメタクリル酸メチル以外に、炭素数が8以上のエステル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むプライマー組成物。
【請求項2】
(C)アミノ基含有シラン
を更に含む請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
(D)エポキシ樹脂
を更に含む請求項1又は2に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
(E)シラン系架橋剤
を更に含む請求項1~3のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅建築において、シーリング材の外壁材被着面への施工前に当該被着面にプライマーが塗布されている。外壁材等の被着面にプライマーを塗布することにより、被着体とシーリング材との接着性を向上させ、表面強度の脆弱な被着面を強化することができる。そして、近年、住宅の長寿命化、メンテナンスフリー等の要求により、高耐久性能を有する外壁材及びシーリング材が開発され、これに合わせ、建築用シーリング材用のプライマーに対しても高耐久性能が要求されている。
【0003】
また、木造住宅の外壁材としては、窯業系又は木質系のサイディングボードが多く用いられているところ、これらのサイディングボードは多孔質であることから、水分の影響を受けやすいと共にプライマーが浸透しやすい。そのため、外壁材被着面においてプライマーの造膜性が低下する等の理由により、良好な接着耐久性、特に湿潤条件における接着耐久性が必ずしも得られなかった。
【0004】
そこで、(A)ケイ素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋し得るケイ素含有基を少なくとも1個有する飽和炭化水素系重合体を含有するプライマー組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に係るプライマー組成物においては、長期の接着性を改善できる。また、(A)ケイ素原子に結合した水酸基若しくはアルコキシ基含有オルガノポリシロキサン樹脂、(B)アミノ基含有シラン化合物、(C)アルコキシシリル基含有イソブチレン系ポリマー、(D)触媒としてスズ(IV)化合物、及び(E)有機溶剤から成るプライマー組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に係るプライマー組成物においては、多孔質面用として用い得ることが提案されている。
【0005】
一方、シーリング材を被着面等の施工部に施工した後に、当該シーリング材の劣化等により当該施工部を改修等する必要が生じる場合がある。この場合、既存のシーリング材、すなわち、先打ちシーリング材を除去した後に新規のシーリング材(後打ちシーリング材)を施工するところ、先打ちシーリング材を完全に除去できないことがある。この場合、先打ちシーリング材に後打ちシーリング材を打ち継がなければならない。このシーリング材の打ち継ぎにおいては、先打ちシーリング材及び後打ちシーリング材同士が良好な接着性を有することを要するところ、接着性が所望の目標まで及ばないことが多く、一般的に、打ち継ぎにおいてもプライマーが用いられる。
【0006】
ところが、シーリング材の打ち継ぎにおいて、プライマーを用いたとしても、これらのシーリング材同士の打ち継ぎ性が劣る、又は打ち継ぎできないという問題が生じる場合がある。
【0007】
そこで、a)イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートと、b)エポキシシラン化合物と、c)所定の式で表される構造を有するアミノシラン化合物、所定の式で表される構造を有するアミノシラン化合物及び所定の式で表される構造を有するケチミンシラン化合物からなる群より選択される1種以上のシラン化合物と、d)造膜樹脂とを含有し、b)エポキシシラン化合物が、所定の式で表されるエポキシシランの少なくとも1種の縮合物、又は所定の式で表されるエポキシシランの少なくとも1種と所定の式で表されるアルコキシシランの少なくとも一種との縮合物である変性シリコーン系シーリング材の打ち継ぎ用プライマー組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
更に、プライマー組成物は、シーリング材の単なる副資材ではなく、例えば、多孔質物質の内部からシーリング材接着面への水、アルカリ等の浸出低減や、被着体若しくはシーリング材からの可塑剤等の移行を低減する役割も求められている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-343429号公報
【文献】特開2000-86990号公報
【文献】特許4802448号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】建築用シーリング材ハンドブック、日本シーリング材工業会、2017年、19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載のプライマー組成物は、ガラスや金属に対する接着性を改善できるものの、多孔質建材に対しては十分な効果を発揮できない。また、特許文献2に記載のプライマー組成物は、多孔質面に適用されることができるとされているものの、接着耐久性については実用上、十分な耐久性を発揮しない。すなわち、近年の技術革新、材料等の最適化、製造工程の簡素化、及び/又は短縮化等により、プライマーに要求される特性等も高度化しているところ、従来のプライマー(プライマー組成物)には、窯業系サイディングボードやアルミ塗板等の各種被着体に対する接着性(例えば、初期接着性、耐水接着性、及び耐熱接着性)等を高い水準で満たすプライマー組成物が存在せず、これら特性の更なる改善が求められている。
【0012】
また、特許文献3に記載の打ち継ぎ用プライマー組成物は、打ち継ぎ性をアミノシランにより発揮させているにすぎず、先打ちシーリング材に対する打ち継ぎ性(常態接着性、耐水接着性)等を高い水準では満たさないので、打ち継ぎ用のプライマー組成物のこれら特性の更なる改善が求められている。更に、プライマー組成物には多孔質物質内部からシーリング材接着面への水やアルカリ等の浸出低減や被着体やシーリング材からの可塑剤等の移行低減を実現する特性(以下、本明細書において、この特性を「バリア性」と称する。)も要求される。
【0013】
そこで、本発明の目的は、多孔質建材に適用してもプライマー組成物が多孔質建材に浸透し難く、高い造膜性を発揮することができると共に、塗布後の膜強度が強固であり、多孔質建材に対してもシーリング材を良好に接着できるプライマー組成物を提供することにある。更に、先打ちシーリング材に対して用いる場合の打ち継ぎ性にも優れるプライマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するため、(A)樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合が80重量%以上であって、重量平均分子量が60,000以上であるメタクリル酸メチル系重合体と、(B)樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合が80重量%未満であるアルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体とを含有するプライマー組成物が提供される。
【0015】
また、上記プライマー組成物は、(C)アミノ基含有シランを更に含むこともできる。
【0016】
また、上記プライマー組成物は、(D)エポキシ樹脂を更に含むこともできる。
【0017】
更に、上記プライマー組成物は、(E)シラン系架橋剤を含むこともできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプライマー組成物によれば、多孔質建材に適用してもプライマー組成物が多孔質建材に浸透し難く、高い造膜性を発揮することができると共に、塗布後の膜強度が強固であり、多孔質建材に対してもシーリング材を良好に接着でき、先打ちシーリング材に対して用いる場合の打ち継ぎ性にも優れるプライマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<数値、及び用語の定義・意義>
本明細書において用いる用語の定義・意義は以下のとおりである。
【0020】
(室温の定義)
本明細書における「室温(常温)」とは、23℃の温度である。
【0021】
(用語の意義:室温で固体(状))
本明細書において、「室温で固体(状)」という用語は、対象となる物質(例えば、所定の組成物)が結晶性の物質、部分的に結晶性の物質、及び/又はガラス状非晶質であって、23℃よりも高い軟化点(環球法による測定値)、若しくは融点を有することを意味する。ここで融点は、例えば、動的示差熱量測定(示差走査型熱量測定[DSC])によって、加熱操作中に測定した曲線の最大値であって、対象の材料が固体状態から液体状態に転移する温度である。
【0022】
(重量平均分子量)
本明細書において重量平均分子量は、例えば、HLC-8220(東ソー(株)製)を用い、ポリスチレンを標準物質として、下記の条件で測定することができる。
【0023】
使用カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×2本、TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-M×1本、TSKgel SuperMultiporeHM-L×1本
溶媒:THF
流速:1.0ml/min
測定温度:40℃
【0024】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度(以下、「Tg」と称する場合がある。)は単量体成分の種類や量から下記Fox式を用いて容易に推定することができる。
【0025】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn (Fox式)
【0026】
上記Fox式中、Tgは、例えば、アクリル系樹脂のガラス転移温度(K)であり、W1、W2、・・・、Wnは、各モノマーの重量分率であり、Tg1、Tg2、・・・、Tgnは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度である。なお、上記Fox式に用いるホモポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いることができ、例えば、三菱レイヨン株式会社のアクリルエステルカタログ(1997年度版)や北岡協三著、「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」、高分子刊行会、p168~p169等に記載されている。
【0027】
<プライマー組成物の概要>
プライマー組成物に要求される各特性を向上させる観点から、本発明者は種々検討した。例えば、アミノシランを用いることで変性シリコーン系シーリング材との相溶性に優れ、当該シーリング材に対する打ち継ぎ性が改善されることが知られているものの、従来技術においてはアクリル成分を造膜樹脂として用い(例えば、特許第4802448号)、アクリル成分による接着付与性向上の認識がされている従来技術はなかった。本発明者は、プライマー組成物におけるアクリル成分の接着付与性を見出し、その特性を最大限発揮させる構成を検討した。その結果、所定のアクリル系重合体と、シリル基含有重合体とを用いることで、多孔質建材に浸透し難く、高い造膜性を発揮し、塗布後の膜強度が強固であり、多孔質建材に対してもシーリング材を良好に接着でき、打ち継ぎ性にも優れるプライマー組成物を得ることができることを見出した。
【0028】
すなわち、本発明に係るプライマー組成物は、(A)メタクリル酸メチル系重合体(以下、成分(A)と称する。)と、(B)アルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体(以下、成分(B)と称する。)とを含有する組成物である。また、本発明に係るプライマー組成物は、(C)アミノ基含有シラン(以下、成分(C)と称する。)、(D)エポキシ樹脂(以下、成分(D)と称する。)、(E)シラン系架橋剤(以下、成分(E)と称する。)、及び/又はその他の添加剤を含有してもよい。
【0029】
<プライマー組成物の詳細>
本発明に係るプライマー組成物は、所定の重量平均分子量の(A)メタクリル酸メチル系重合体と、所定の重量平均分子量の(B)アルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体とを含有して構成される。また、成分(A)及び成分(B)に、成分(C)、成分(D)、成分(E)、及び/又はその他の添加剤を添加して本発明に係るプライマー組成物を調製することもできる。そして、本発明に係るプライマー組成物は、室温で湿気硬化する性質を有する。
【0030】
<(A)メタクリル酸メチル系重合体>
本発明に係る(A)メタクリル酸メチル系重合体としては、常温で固体の樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合が80重量%以上で、重量平均分子量Mw(GPC[ゲル浸透クロマトグラフィー]法でのポリメチルメタクリレート換算見かけ重量平均分子量)が60,000以上である樹脂が好ましい。
【0031】
樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合を80重量%以上、重量平均分子量を60,000以上にすることにより、本発明に係るプライマー組成物を多孔質建材に適用した場合であっても、多孔質建材にプライマー組成物が浸透し難くなる。その結果、本発明に係るプライマー組成物は高い造膜性を発揮することができ、塗布後の膜強度が強固になり、優れた接着性を発揮する。
【0032】
当該樹脂には、メチルメタクリレートの単独重合体、又はメチルメタクリレートとメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシアクリレート、無水マレイン酸、スチレン、若しくはα-メチルスチレン等の共重合可能なモノマーのいずれか一つ以上との共重合体等が含まれる。
【0033】
共重合可能なモノマーとしては、メチルアクリレ-ト、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアルキル基の炭素数が1~4であるアルキルアクリレート、及び(メタ)アクリル酸が好ましく、メチルアクリレート、エチルアクリレート、(メタ)アクリル酸がより好ましく、メチルアクリレート、(メタ)アクリル酸が更に好ましい。メチルメタクリレートがこれらのモノマーと共重合することにより、成分(A)の溶剤に対する溶解性が増加すると共に、本発明に係るプライマー組成物の粘度が適度な粘度(増粘)になり、多孔質建材に浸透し難くなる。そのため、本発明に係るプライマー組成物は、高い造膜性を発揮することができ、塗布後の膜強度が強固になり、優れた接着性を発揮する。
【0034】
成分(A)の市販品としては、例えば、メチルアクリレートとの共重合体であるデルパウダ(登録商標)80N(旭化成工業製、ポリメタクリル酸メチル、メチルメタクリレート/メチルアクリレート=97.5/2.5重量比、重量平均分子量100,000、還元粘度0.54デシリットル/g、ガラス転移温度105℃)や、(メタ)アクリル酸との共重合体であるダイアナール(登録商標)BR-84(三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度105℃、酸価:6.5mgKOH/g)等が挙げられる。
【0035】
成分(A)は、重量平均分子量Mwが、60,000以上が好ましく、70,000以上がより好ましく、80,000以上が更に好ましく、90,000以上が特に好ましい。また、本発明に係る成分(A)は、重量平均分子量Mwが、通常、200,000以下が好ましく、180,000以下がより好ましく、160,000以下が更に好ましく、140,000以下が特に好ましい。成分(A)の重量平均分子量Mwが60,000以上であると、プライマー組成物のバリア性、接着耐久性、及び多孔質面への接着性が増加し、重量平均分子量Mwが200,000以下であると、プライマー組成物の良好な接着耐久性、作業性、及び多孔質面への接着性が得られる。
【0036】
また、成分(A)中に含まれるメチルメタクリレートの割合は80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上が更に好ましい。そして、成分(A)のガラス転移温度は80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、95℃以上が更に好ましく、140℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。
【0037】
プライマー組成物に対する成分(A)の添加量は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上が更に好ましく、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。プライマー組成物への添加量が20%を超えると、塗布作業時の粘度が高くなることで作業性が低下する場合があり、1%未満では多孔質建材への塗布時にプライマー組成物が多孔質建材に浸透し、高い造膜性を発揮することができない場合がある。なお、この添加量は、プライマー組成物全体の質量を100%とした場合の割合を示す。
【0038】
<(B)アルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体>
(B)アルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体は、アルコキシシリル基を有し、常温で固体のメタクリル酸メチルを必須モノマーとした(メタ)アクリルエステル重合体である。
【0039】
本発明に係る(B)アルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体としては、樹脂中に含まれるメチルメタクリレートの割合が80重量%未満で、重量平均分子量Mw(GPC[ゲル浸透クロマトグラフィー]法でのポリスチレン換算見かけ重量平均分子量)が60,000未満である樹脂が好ましい。
【0040】
成分(B)によりプライマー組成物は、シーリング材の硬化物(先打ちシーリング材)への優れた接着性を発現し、良好な打ち継ぎ性を実現する。また、成分(B)と後述する成分(C)とを併用する場合、シーリング材の硬化物(先打ちシーリング材)に対するより優れた接着性と良好な打ち継ぎ性が発揮される。更に、成分(B)のアルコキシシリル基及び後述する成分(C)のアルコキシシリル基が硬化することで、基材(サイディングボード等)に対する優れた接着性を発現する。更に、成分(B)のシリル基と成分(C)のシリル基とが架橋することにより、基材に対する耐温水接着性を向上させることができる。
【0041】
(アルコキシシリル基)
成分(B)のアルコキシシリル基は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を有し、シラノール縮合反応により架橋し得る基である。アルコキシシリル基としては、下記一般式(1)で表される基が挙げられる。
【0042】
【0043】
一般式(1)中、R1は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20の置換アルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基を示し、R1が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xはアルコキシシリル基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2、又は3を示す。一般式(1)のアルコキシシリル基においてaが2又は3である場合が好ましい。aが3の場合、aが2の場合よりも硬化速度が大きくなる。
【0044】
R1の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシメチル基等の置換アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。これらの中ではメチル基が好ましく、硬化速度が大きくなる観点ではα炭素が極性基で置換された置換アルキル基が好ましい。
【0045】
Xで示されるアルコキシシリル基としては、特に限定されず、従来公知のアルコキシシリル基であればよい。アルコキシ基の中では炭素数の少ない基の方が反応性は高く、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順のように炭素数が多くなる程に反応性が低くなる。目的や用途に応じて選択できるが、通常、メトキシ基やエトキシ基が用いられる。一般式(1)で示されるアルコキシシリル基の場合、硬化性を考慮するとaは2以上が好ましい。
【0046】
具体的に、アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基(-Si(OR2)3);メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基等のジアルコキシシリル基(-SiR1(OR2)2)が挙げられる。ここでR1は前記と同じであり、R2はメチル基やエチル基のようなアルキル基である。アルコキシシリル基としては、反応性が高い点からトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基が更に好ましい。柔軟性を有する硬化物を得る観点からメチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基が好ましい。
【0047】
また、アルコキシシリル基は単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。アルコキシシリル基は、主鎖若しくは側鎖、又はいずれにも存在していてよい。
【0048】
成分(B)のアルコキシシリル基の数(平均値)は、重合体一分子あたり0.3個以上が好ましく、0.5個以上がより好ましく、1個以上が更に好ましく、5個以下が好ましく、3個以下がより好ましく、2.5個以下が更に好ましい。分子中に含まれるアルコキシシリル基の数が0.3個未満になると硬化性が不充分になり、また、多すぎると網目構造があまりに密となることから良好な機械特性を示さなくなる。
【0049】
(アルコキシシリル基の導入方法)
成分(B)の調製において、(メタ)アクリル酸エステル重合体へのアルコキシシリル基の導入は公知の種々の方法を用いることができる。例えば、アルコキシシリル基の導入方法の例として次の方法を挙げることができる。
【0050】
(1)アルコキシシリル基を有する不飽和化合物を共重合する。
(2)アルコキシシリル基を有する開始剤や連鎖移動剤を用いて重合する。
(3)水酸基等の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体にエポキシシラン等の当該官能基と反応し得る他の官能基とアルコキシシリル基とを有する化合物を反応させる。
【0051】
これらのアルコキシシリル基の導入方法のうち、アルコキシシリル基を容易に導入できる観点から、(1)アルコキシシリル基を有する不飽和化合物を共重合する方法が好ましい。また、(1)の方法と(2)の方法とを併用する方法も好ましい。例えば、メチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、金属触媒としてのチタノセンジクロリド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(チタノセンジクロリドの作用により開始剤として作用し、連鎖移動剤としても作用する。)、及び重合停止剤としてのベンゾキノン溶液を用い、WO2015-088021の合成例4に準じた合成方法を用いることで、アルコキシシリル基含有メタクリル酸メチル系重合体としてのトリメトキシシリル基含有(メタ)アクリル系重合体が得られる。
【0052】
(アルコキシシリル基を有する不飽和化合物)
共重合に用いるアルコキシシリル基を有する不飽和化合物としてはアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルやビニルシランが好ましい。係る化合物としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の3-(メタ)アクリロキシプロピルアルコキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシラン等が挙げられる。これらの中ではアルコキシシリル基を有するアルキル基の炭素数が10以下、好ましくは3以下の置換アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0053】
(成分(B)に用いるアルコキシシリル基を有する単量体を除く他の単量体)
本発明に係る成分(B)に用いるアルコキシシリル基を有する単量体を除く他の単量体としては、メタクリル酸メチルを必須のモノマー成分とする、一般式(2)で示される繰り返し単位を有するメタクリル酸メチル系ランダム共重合体が挙げられる。
【0054】
-CH2C(R3)(COOR4)- (2)
【0055】
一般式(2)中、R3は水素原子若しくはメチル基、R4は置換基を有してもよい炭化水素基を示す。なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル、及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを示す。
【0056】
本発明に係る成分(B)の重合体の合成に用いるアルコキシシリル基を有する単量体及びメタクリル酸メチルを除く他の単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が1~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが更に好ましく、アルキル基の炭素数が1~30で置換基を有しない(メタ)アクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。
【0057】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の例としては、公知の化合物が挙げられる。例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等を挙げることができる。
【0058】
また、シーリング材硬化物(先打ちシーリング材)への優れた接着性を発現し、良好な打ち継ぎ性を実現する観点からは、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の炭素数が8以上のエステル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。成分(B)に可撓性を与える観点からは、アクリル酸n-ブチル(Tg;-55℃)、アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg;-70℃)、アクリル酸ラウリル(Tg;-3℃)等のガラス転移温度(Tg)が0℃以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましい。なお、この段落におけるガラス転移温度はホモポリマーのガラス転移温度を示す。
【0059】
(メタ)アクリル酸エステルのアルキル基等の炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、エポキシ基等の置換基を有していてもよい。このような化合物の例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。なお、ポリスチレン鎖を有するアクリル酸エステル等の高分子鎖を有する不飽和化合物(マクロモノマー若しくはマクロマー)を用いることもできる。
【0060】
更に、成分(B)のアルコキシシリル基含メタクリル酸メチル系重合体中には、(メタ)アクリル酸エステル化合物由来の繰り返し単位に加えて、これらと共重合性を有する化合物由来の繰り返し単位を含んでもよい。(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合性を有する化合物の例としては、(メタ)アクリル酸等のアクリル酸;(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物、アルキルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;その他アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0061】
(単量体の使用比率)
成分(B)の重合体中のメチルメタクリレート量は80重量%未満であり、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合性を有する化合物の使用比率は、成分(B)の重合体中に20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。ただし、マクロモノマーを用いる場合、マクロモノマーの量が成分(B)の重合体中に10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
(ガラス転移温度)
成分(B)は、0℃以上120℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する。ガラス転移温度は、0℃以上であることが好ましく、20℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましい。また、120℃以下であることが好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。ガラス転移温度が0℃未満であると接着直後の接着強度が劣る傾向にある。また、ガラス転移温度が120℃を超えると粘度が高くなり、プライマーの被着体への塗布が困難になる傾向にある。ガラス転移温度は上述のFox式を用いて容易に推定できる。
【0063】
成分(B)の分子量は、重量平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算分子量)で、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、3,000以上が更に好ましく、20,000以下が好ましく、10,000以下がより好ましく、6,000以下が更に好ましい。重量平均分子量が1,000未満では、塗布後の初期接着力が低く、20,000を超えると、塗布作業時の粘度が高くなり過ぎ、作業性が低下する。また、成分(B)の重合体は室温では固体若しくは環球法軟化点が80℃以上であることが好ましい。
【0064】
プライマー組成物に対する成分(B)の添加量は、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましく、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下が更に好ましい。添加量が60%を超えると、塗布作業時の粘度が高くなり過ぎ、作業性が低下し、5%未満では良好な打ち継ぎ性を実現できない。なお、この添加量は、プライマー組成物全体の質量を100%とした場合の割合を示す。
【0065】
(成分(B)の重合法)
成分(B)の重合法としては、ラジカル重合方法を用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の熱重合開始剤を用いる通常の溶液重合方法や塊状重合方法を用いることができる。また、光重合開始剤を用い、光又は放射線を照射して重合する方法も用いることができる。ラジカル共重合においては、分子量を調節するために、例えば、ラウリルメルカプタンや3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の連鎖移動剤を用いてもよい。また、熱重合開始剤を用いるラジカル重合方法を用いることができ、係る方法で本発明に係る成分(B)の重合体を容易に得ることができる。なお、特開2000-086998公報に記載されているようなリビングラジカル重合法等、他の重合方法を用いてもよい。
【0066】
<(C)アミノ基含有シラン>
基材(接着部材)に対する接着性を向上させるだけでなく、成分(B)との併用でシーリング材硬化物(先打ちシーリング材)との接着性をより向上させ、打継性に優れるという観点から、本発明に係るプライマー組成物は(C)アミノ基含有シランを更に含有することが好ましい。(C)アミノ基含有シランのアミノ基としては、第一級アミン又は第二級アミンから水素を除去した1価の官能基及びケチミン基が挙げられる。具体的に、本発明に係る(C)アミノ基含有シランとしては、アミノシラン及びケチミン系シランが挙げられる。なお、ケチミン系シランは、水分との反応により所定のアミンを生成するシラン化合物であり、本発明においては、ケチミン系シランも成分(C)に含まれるものとする。
【0067】
アミノシランとしては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のモノ-シリルアミノシラン、ビス-(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス-(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス-(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-[2-(ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びアミノエチル-アミノプロピルトリメトキシシラン等のビス-シリルアミノシランが挙げられる。
【0068】
更に、アミノシランとしては、上記のアミノシランとエポキシシランとの反応物、アミノシランと(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシランとの反応物、アミノシランとエポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等)との反応物、アミノシランとポリアクリレートとの反応物等のアミノシラン反応物;上記シラン類を部分的に縮合した縮合体(好ましくは上記のアミノシラン、アミノシラン反応物、及び反応物の混合物を部分的に縮合したアミノシラン縮合体);これらを変性した誘導体等も挙げられる。
【0069】
ケチミン系シランとしては、例えば、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリメトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(メチルジメトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(メチルジエトキシシリル)-1-プロパンアミン等が挙げられる。
【0070】
成分(C)の配合量は、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。なお、成分(B)の配合量は、成分(B)から溶剤成分を除いた固形分の配合量を示す。
【0071】
<(D)エポキシ樹脂>
本発明に係るプライマー組成物は、(D)エポキシ樹脂を更に含有することができる。(D)エポキシ樹脂は、(C)アミノ基含有シランと反応し、プライマー組成物が硬化した後に得られる網目構造を強固にして、接着性、耐水接着性、及び高温高湿条件での接着耐久性を改善する。また、強固な網目構造によりバリア性能を高めて被着体のシーリング材接着箇所、及び周辺部の変色、劣化等を防止する。特に、(D)エポキシ樹脂は、反応活性基を有する化合物と反応して活性化合物の移行等を抑制することで、アミン化合物等のエポキシ基に対する反応活性基を有する化合物による変色、劣化等の防止に優れた効果を発揮する。
【0072】
(D)エポキシ樹脂としては、様々なエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらを水添したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂(例えば、ポリブタジエン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、及びCTBNのいずれかのゴムで変性したエポキシ樹脂等)、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテル等の難燃型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0073】
これらエポキシ樹脂の中では、作業性や硬化性、接着強度、被着体汎用性、耐水性、耐久性等のバランスの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらを水添したエポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂より好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が最も好ましい。
【0074】
成分(D)の分子量に特に制限はないが、重量平均分子量が300以上であることが好ましく、350以上であることがより好ましく、1,000以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。また、取り扱いやすさの観点からは、常温で液状の(D)エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0075】
成分(D)のエポキシ基とアミノ基(第一級アミン又は第二級アミン及びケチミン基)のアミノ基由来の活性水素(ケチミン基は加水分解後の活性水素)のモル比(EP基/アミノ基由来の活性水素)は、0.4以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.8以上が更に好ましく、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。
【0076】
成分(D)の配合量は、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましく、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましい。なお、成分(B)の配合量は、成分(B)から溶剤成分を除いた固形分の配合量を示す。
【0077】
<(E)シラン系架橋剤>
本発明に係るプライマー組成物は、(E)シラン系架橋剤を更に含有できる。(E)シラン系架橋剤としては、成分(C)を除く二個以上のアルコキシシリル基を有するシラン化合物が挙げられる。(E)シラン系架橋剤は、プライマー組成物が硬化した後に得られる網目構造を強固にして、接着性、耐水接着性、及び高温高湿条件での接着耐久性を改善する効果を有する。また、(E)シラン系架橋剤は、架橋を促進させることでプライマー組成物のバリア性を向上させることもできる。そこで、架橋密度を向上させる観点から、成分(E)において、アルコキシシリル基の数は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。
【0078】
成分(E)としては、イソシアヌレートシラン、カルバシラトラン、シラン反応物、シラン縮合体等を用いることができる。
【0079】
イソシアヌレートシランとしては、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。カルバシラトランとしては、特許第3831481号記載の3-アミノプロピルトリメトキシシラン1.0モル及び3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2.0モルの反応物等が挙げられる。
【0080】
シラン反応物及びシラン縮合体としては(ただし、この段落においては、一級アミノ基、二級アミノ基を含有する化合物は除く。)、アミノシランとエポキシシランとの反応物、アミノシランとイソシアネートシランとの反応物、アミノシランと(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシランとの反応物、アミノシランとエポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等)との反応物、アミノシランとポリイソシアネートとの反応物、アミノシランとポリアクリレートとの反応物等のアミノシラン反応物;上記シラン類を部分的に縮合した縮合体(好ましくは上記のアミノシラン、イソシアネートシラン、アミノシラン反応物、及び反応物の混合物を部分的に縮合したアミノシラン縮合体);これらを変性した誘導体である、アミノ変性シリルポリマー、シリル化アミノポリマー等も挙げられる。
【0081】
成分(E)を用いる場合、(E)シラン系架橋剤の配合量は、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましく、60質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましい。なお、成分(B)の配合量は、成分(B)から溶剤成分を除いた固形分の配合量を示す。
【0082】
<他の添加剤>
本発明のプライマー組成物は、必要に応じて他の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば、溶剤、縮合反応促進触媒、脱水剤、シラン系接着付与剤、ポリイソシアネート化合物、塩素化重合体、ポリウレタン系樹脂、顔料、染料、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられる。
【0083】
(溶剤)
溶剤としては、例えば、脂肪族化合物(n-ヘキサン、ヘプタン等)、芳香族化合物(トルエン、キシレン等)、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、エーテル(テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等)、リグロイン等の有機溶剤が挙げられる。溶剤は、これらの1種又は2種以上を用いることができ、本発明に係るプライマー組成物に適量添加することができる。
【0084】
これら溶剤の中では、接着速度と作業性とがより良好になるという観点から、メチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましい。なお、上記溶剤は、十分に乾燥又は脱水してから用いることが好ましい。
【0085】
溶剤の含有量は、本発明に係るプライマー組成物の全質量に対し、40%以上90%以下であることが好ましく、50%以上80%以下であることが好ましい。溶剤の含有量がこの範囲であれば、良好な塗布性を得ることができる。なお、本発明に係るプライマー組成物中における溶剤の含有量は、組成物の用途、目的等に応じて、適宜、その含有量を変化させることができる。
【0086】
(縮合反応促進剤)
アルコキシシリル基の縮合反応促進触媒としては、公知の硬化触媒を広く用いることができ、例えば、シラノール縮合触媒を用いることが好ましい。シラノール縮合触媒としては、例えば、金属系触媒、錫系触媒、アミン系触媒等が挙げられ、アミン系触媒としては、有機金属化合物、アミン類(特に、第3級アミン類)、第3級アミン類とカルボン酸等との塩類等が挙げられる。
【0087】
具体的に、有機金属化合物としては、例えば、オクチル酸錫等の2価の有機錫化合物;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の4価の有機錫化合物;ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アセチルアセトンビスマス等の各種金属のキレート化合物;テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類等が挙げられる。
【0088】
アミン類としては、例えば、オクチルアミン等の第1級、第2級アミン;ポリアミン;N-メチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU)等の環状アミン;2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミノフェノール化合物等のアミン化合物及びそのカルボン酸塩;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物等が挙げられる。また、これらの触媒は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0089】
これらの中でも、微量で大きな触媒能を有するという観点から、錫系触媒、アミン系触媒が好ましく、特に錫系触媒が好ましい。錫系触媒とアミン系触媒とはどちらか一方又は両方を用いてもよい。錫系触媒としては、2価又は4価のどちらか一方を単独で用いることも、双方を併用することもできる。アミン系触媒としては、第3級アミン類を用いるのが好ましい。
【0090】
縮合反応促進触媒を用いる場合、縮合反応促進触媒の配合量は、成分(A)及び成分(B)成分の合計量100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、10質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下が更に好ましい。
【0091】
(脱水剤)
脱水剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のシラン化合物;オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル等のエステル化合物等を挙げることができる。これらの脱水剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。なお、脱水剤としては、シラン化合物が好ましく、ジメトキシジフェニルシラン、フェニルトリメトキシシランがより好ましい。
【0092】
脱水剤を用いる場合、脱水剤の配合量は、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0093】
(シラン系接着付与剤)
シラン系接着付与剤は、難接着性塗装面への接着性を向上させる効果に優れる観点から、本発明に係るプライマー組成物に添加することができる。シラン系接着付与剤としては、エポキシシラン、アクリルシラン、メルカプトシラン、尿素シラン系カップリング剤、イソシアネートシラン等が挙げられる。
【0094】
エポキシシランとしては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。アクリルシランとしては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。メルカプトシランとしては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。尿素シラン系カップリング剤としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。イソシアネートシランとしては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0095】
接着性の観点から、エポキシシラン、アクリルシラン系シラン、尿素シラン系カップリング剤、イソシアネートシランが好ましく、エポキシシランがより好ましい。
【0096】
シラン系接着付与剤を用いる場合、シラン系接着付与剤の配合量は、成分(A)及び成分(B)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0097】
(ポリイソシアネート化合物)
本発明に係るプライマー組成物は、ポリイソシアネート化合物を更に含有できる。ポリイソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されない。ポリイソシアネート化合物は高い造膜性を発揮することができ、塗布後の膜強度が強固になり、優れた接着性を発揮する。また、イソシアネート基が硬化して基材(サイディングボード等)に対する優れた接着性を発現し、イソシアネート基が架橋することにより、基材に対する耐温水接着性及び耐熱接着性を向上させることができる。
【0098】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(ポリメリックMDI)等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ポリイソシアネート;これらポリイソシアネートの付加反応物、例えば、トリメチロールプロパンやグリコール等を用いたアダクト体;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネート;アロハネート変性ポリイソシアネート;ビュレット変性ポリイソシアネート等が挙げられる。このようなポリイソシアネート化合物は、単独で用いることも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0099】
造膜性が良く、難接着性の塗装面に対する接着性がより良好となるという観点から、ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を3個以上有していることが好ましい。イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネート化合物としては、例えば、上記のポリイソシアネート化合物に、トリス(フェニルイソシアネート)チオホスフェート、トリメチロールプロパン(TMP)等の化合物を反応させて得られるポリイソシアネート-付加体及びポリイソシアネート化合物のアダクト、ビウレット体、イソシアヌレート体等も挙げられる。以下、このようなポリイソシアネート化合物を「イソシアネート付加体」という。これらは、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0100】
このようなイソシアネート付加体としては、例えば、HDIをTMPに反応させて得られるHDI-TMP付加体、XDIをTMPに反応させて得られるXDI-TMP付加体、TDIをTMPに反応させて得られるTDI-TMP付加体、TMXDIをTMPに反応させて得られるTMXDI-TMP付加体、HXDIをTMPに反応させて得られるHXDI-TMP付加体、IPDIをTMPに反応させて得られるIPDI-TMP付加体、HDIのビウレット体、HDIのイソシアヌレート体、IPDIのイソシアヌレート体、TDIのイソシアヌレート体等が挙げられる。これらの中でも、TDIとTMPとを反応させて得られるTDI-TMP付加体及びイソシアヌレート変性体が好ましい。
【0101】
イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物を三量化して得られる、ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体が好ましい。ジイソシアネート化合物として、例えば、上記で例示した芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらのうち、TDIとHDIとの混合物を反応させて得られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物が、難接着性塗装面に対する初期接着性及び耐温水接着性がより良好となり十分な接着性が得られるという観点から好ましい。
【0102】
ポリイソシアネート化合物の市販品として、例えば、トリス(フェニルイソシアネート)チオホスフェート(ディスモジュールRFE、バイエル社製)、HDIとTDIとの混合物を反応させて得られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物(ディスモジュールHL、バイエル社製)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(スミジュール44V-10、住化バイエルウレタン株式会社製)等が挙げられる。
【0103】
(塩素化重合体)
塩素化重合体は、高い造膜性を発揮することができ、塗布後の膜強度が強固になり、優れた接着性を発揮する。塩素化重合体としては、イソプレン系合成ゴムの塩素化物、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン・プロピレン共重合体、塩素化ポリブタジエン、塩素化ポリスチレン、塩素化ポリブタジエン・スチレン共重合体、クロロスルフォン化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0104】
(ポリウレタン系樹脂)
ポリウレタン系樹脂は、高い造膜性を発揮することができ、塗布後の膜強度が強固になり、優れた接着性を発揮する。ポリウレタン系樹脂は、イソシアネート基とアルコール基とが縮合したウレタン結合によってモノマーを共重合させた化合物である。ポリウレタン系樹脂としては、本発明の効果を奏する範囲で各種ポリウレタン系樹脂を用いることができる。ポリウレタン系樹脂としては、プライマー組成物の接着性の観点から、数平均分子量が3,000以上60,000以下のものが好ましい。ポリウレタン系樹脂は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0105】
ポリウレタン系樹脂としては、ポリウレタン樹脂(パンデックス(登録商標)T-5205、数平均分子量:60,000、DIC社製)、ポリウレタン樹脂(パンデックス(登録商標)T-5201、数平均分子量:55,000、DIC社製)等の市販品を用いることができる。
【0106】
(顔料)
顔料としては、無機顔料及び有機顔料の一方、若しくは双方が挙げられる。例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等を用いることができる。
【0107】
(染料)
染料としては、従来公知の染料を用いることができる。例えば、黒色染料、黄色染料、赤色染料、青色染料、褐色染料等が挙げられる。
【0108】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0109】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩、ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0110】
(難燃剤)
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド-ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
【0111】
<プライマー組成物の調製法>
本発明に係るプライマー組成物の調整法に特に限定はないが、例えば、液体を均一に混合可能な混合機を用いて製造することができる。例えば、プライマー組成物を構成する材料(成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)、及び/又はその他の添加剤)を所定量秤量し、秤量した各材料を1軸若しくは2軸のシャフト付の攪拌機、又は底部にパルセーター等を有するタンクを用いて混合することによって製造できる。特に、ジャケットを備え、材料温度を可変調整できる装置を用いることが好ましい。
【0112】
<プライマー組成物の塗布方法>
本発明に係るプライマー組成物の被着体への塗布方法に特に限定はないが、一例として、以下の塗布方法が好ましい。まず、本発明に係るプライマー組成物を、例えば、刷毛、筆等を用いて、持ち上げて液が落ちないよう液切りした後、50~400ml/m2の塗布量で被着面へ均一に塗布する。塗布後30分~8時間経過した後、シーリング材を施工する。なお、雨天時の施工及び被着体面に水滴等が残る環境下での使用は避けることが好ましく、5℃以上35℃以下の条件下で施工することが好ましい。
【0113】
<用途>
本発明に係るプライマー組成物は、建築用、土木用、コンクリート用、木材用、金属用、ガラス用、プラスチック用等のプライマー組成物、シーリング材、接着剤等の用途に好適に用いることができる。また、本発明に係るプライマー組成物は、シーリング材の硬化物に対する打ち継ぎ性に優れるため、特に、シーリング材用に好適に用いることができる。
【0114】
また、本発明に係るプライマー組成物は、難接着性塗装部材用のプライマーとしても好適に用いることができる。本発明に係るプライマー組成物を用いることができる難接着性塗装部材の材料としては、例えば、アクリル電着塗装部材、フッ素焼付け塗装部材、陽極酸化塗装部材等が挙げられる。また、本発明に係るプライマー組成物は、難接着性塗装部材以外の部材にも用いることができる。
【0115】
<実施の形態の効果>
本発明に係るプライマー組成物は、成分(A)とアルコキシシリル基を含有する成分(B)とを含んで構成され、成分(A)及び/又は成分(B)が所定の重量平均分子量及び/又は所定の割合のメチルメタクリレートを有するので、被着体としての多孔質建材(一例として、サイディング材等の小口等の表面)に塗布若しくは接触させた場合であっても、プライマー組成物が多孔質建材に浸透し難い効果を発揮する。このため、本発明に係るプライマー組成物は、高い造膜性を発揮することができる共に、塗布後の膜強度を強固にできる。また、本発明に係るプライマー組成物は、刷毛等によって塗布し易く、高い作業性を発揮することもできる。したがって、本発明に係るプライマー組成物は、窯業系又は木質系のサイディングボード等の外壁材、特にシーラーや塗料等が塗布された外壁材等にも施工することができる。
【0116】
更に、本発明に係るプライマー組成物は、高いバリア性を有するため、被着体又はシーリング材から可塑剤等が移行するのを抑制でき、また、長期間にわたる高い接着耐久性を発揮することができる。そして、本発明に係るプライマー組成物は、湿潤面に対しても高い接着性を発揮することができる。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を挙げて更に具体的に説明する。なお、これらの実施例は例示であり、限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0118】
(合成例1:アルコキシシリル基含有メタクリル樹脂)
アルコキシシリル基含有メタクリル樹脂として、トリメトキシシリル基を有する(メタ)アクリル系重合体を合成した。具体的に、メチルメタクリレート70.00g、2-エチルヘキシルメタクリレート30.00g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12.00g、金属触媒としてのチタノセンジクロリド0.10g、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン8.60g、重合停止剤としてのベンゾキノン溶液(95%THF溶液)20.00gを用い、WO2015-088021の合成例4の方法に準じ、トリメトキシシリル基を有する(メタ)アクリル系重合体を得た。
【0119】
得られた反応物の酢酸エチル溶液を105℃で加熱により固形分を求めたところ、70.5%であった。また、得られた重合体についてゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算分子量は、重量平均分子量(Mw)が4,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.4であった。更に、1H-NMR測定(島津製作所社製のNMR400を用いて、CDCl3溶媒中で測定)により、含有されるトリメトキシシリル基が1分子あたり2個であることが確認された。また、ガラス転移温度は、61℃であった。
【0120】
(実施例、比較例)
実施例1~12、及び比較例1~3のそれぞれについて、成分(A)、成分(A’)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)、及びその他の添加剤を表1に示す配合割合にて混合し、撹拌混合した。これにより、実施例及び比較例に係るプライマー組成物を得た。そして、得られた実施例1~12、及び比較例1~3のプライマー組成物それぞれについて、下記の各評価を実施した。結果を表1に示す。なお、表1において、各配合物質の配合量の単位は「g」である。
【0121】
【0122】
表1に示す材料の詳細は以下のとおりである。なお、表1における成分(B)の配合量は、溶剤を含む量である。
(成分(A))
・デルパウダ(登録商標)80NS:旭化成工業製、ポリメタクリル酸メチル、MMA/MA=97.5/2.5重量比、重量平均分子量:100,000、還元粘度:0.54デシリットル/g、ガラス転移温度(Tg):105℃
・ダイアナールBR84:三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル、重量平均分子量:100,000、ガラス転移温度(Tg):105℃、酸価:6.5mgKOH/g
【0123】
(成分(A’))
・アルフォン(登録商標)UH-2170:東亞合成株式会社製、スチレン、アクリル、重量平均分子量:14,000、OH価:88mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg):60℃/DSC
【0124】
(成分(C))
・KBM903:信越化学社製、アミン系カップリング剤、重量平均分子量:179、3-アミノプロピルトリメトキシシラン
・Dynasylan1124:エボニック社製、重量平均分子量:343、アミン系カップリング剤、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン
・ケチミン系カップリング剤:N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリメトキシシリル)-1-プロパンアミン、重量平均分子量:261
【0125】
(成分(D))
・jER828:三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状、重量平均分子量:370、d=1.17、エポキシ当量:184~194
・EP1001:三菱ケミカル社製、エポキシ樹脂、固形、重量平均分子量:900、d=1.19、軟化点:97℃、エポキシ当量:450~500
【0126】
(成分(E))
・X-12-965:信越化学社製、イソシアヌレート系カップリング剤、重量平均分子量:616、Si基の数:3、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート
【0127】
(脱水剤)
・KBM202SS:信越化学社製、フェニル系カップリング剤、ジフェニルジメトキシシラン
・A-1630:モメンティブ社製、カップリング剤、トリメトキシメチルシラン
【0128】
(触媒)
・U-360:日東化成社製、メルカプト系触媒、ジブチルスズイソオクチルチオグリコレート
【0129】
(評価方法:作業性)
作業性の評価においては、プライマー組成物の刷毛塗り性及び造膜性を評価した。具体的に刷毛塗り性については、まず、実施例1に係るプライマー組成物を、サイディング材(モエンサイディングM、ニチハ株式会社製)の小口面に刷毛を用いて塗布した。同様に、比較対象として、比較用のプライマー組成物(MP3000、セメダイン株式会社製)を用い、サイディング材(モエンサイディングM、ニチハ株式会社製)の小口面に刷毛を用いて塗布した。
【0130】
そして、刷毛塗り性について、プライマー組成物の塗布時における塗り易さを、実施例1に係るプライマー組成物と比較用のプライマー組成物との対比により評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0131】
「○」:MP3000と塗り易さが同等以上である。
「×」:MP3000より塗りにくい。
【0132】
また、造膜性については、小口面に塗布したプライマー組成物の全てが小口面に浸み込むことがなく、小口面にプライマー組成物によって形成された皮膜の状態を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0133】
「○」:均一な皮膜形成が観察される。
「×」:まばらな(一部浸み込み、消失)皮膜形成が観察される。
【0134】
他の実施例、及び比較例についても同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【0135】
(評価方法:打継接着性)
打継接着性については以下のように評価した。まず、先打ち用の被着体として変成シリコーン系シーリング材(セメダイン製「POSシールLM」)を23℃50%RH環境下で7日間硬化させた試料を準備した。次に、硬化させたシーリング材(被着体)の表面に実施例1に係るプライマー組成物を塗布し、23℃50%RH環境下で30分間放置した後、その上に打ち継ぎ用の変成シリコーン系シーリング材(セメダイン製「POSシールLM超耐候」)をビード状に打設して試験片とした。この試験片を23℃50%RH環境下で3日間硬化させ、続いて50℃40%RH環境下で4日間硬化させた後、接着界面部の一部(つまり、被着体と変成シリコーン系シーリング材との接着界面の部分の一部)をナイフでカットし、このカット部を手で剥離した。そして、その剥離状態を目視で観察することで、破壊状態を評価した。評価結果を表1の「打継接着性:POSシールLM」の欄に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
【0136】
「○」:先打ち、及び/又は後打ちシーリング材が凝集破壊している。
「×」:先打ちシーリング材からプライマー組成物の硬化物が界面破壊している。
【0137】
また、先打ち用の被着体として変成シリコーン系シーリング材(セメダイン製「POSシールLM超耐候」)を23℃50%RH環境下で7日間硬化させた試料を準備した点を除き、上記と同様にして打継接着性を評価した。評価結果を表1の「打継接着性:POSシールLM超耐候」の欄に示す。更に、他の実施例、及び比較例についても同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【0138】
(評価方法:バリア性)
バリア性については、以下のように評価した。ステンレス板の表面に、塩素化ポリプロピレン系のコーティング剤(スーパークロン814HS(日本製紙社製)の20%酢酸エチル溶液)を塗布し、23℃環境下で24時間放置することで、塩素化ポリプロピレンでコーティング層を形成したステンレス板を得た。得られたステンレス板のコーティング層上に実施例1に係るプライマーを塗布(0.02g/cm2)し、23℃環境下で1時間乾燥させた。
【0139】
乾燥させたプライマー上にシーリング材(POSシールLM超耐候)をビード状に打設し、23℃50%RH環境下で3日間、50℃40%RH環境下で4日間養生させることでシーリング材を硬化させた。更に70℃環境下で3日間加熱促進させた後、シーリング材を接着界面に沿ってカッターで切り取り、シーリング材が触れていたコーティング層部分を観察し、色変化を確認した。評価基準は以下のとおりである。
【0140】
「◎」:変化なし
「○」:ほぼ変化なし
「△」:やや変化がみられる
「×」:変化(変色)がみられる
【0141】
他の実施例、及び比較例についても同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【0142】
(評価方法:引張接着性)
引張接着性の試験方法及び特性の測定方法については、NPO法人住宅外装テクニカルセンター規格「JTC S-0001 窯業系サイディング用シーリング材(2004年)」に準拠し、同規格の5.1.6に記載のI形試験体を作製して実施した。まず、サイディングボード(モエンサイディングM、ニチハ株式会社製)を縦50mm、横50mmの大きさに切断し、第1のサイディングボードと第2のサイディングボードとを作製した。そして、切断して得られた第1のサイディングボードと第2のサイディングボードとを間隔10mmで縦方向が相対するように、すなわち、第1のサイディングボードの小口と、第2のサイディングボードの小口とを小口間の距離が10mmになるように、小口同士を向かい合わせて固定した。そして、第1のサイディングボードの小口と第2のサイディングボードの小口との間の隙間の下面に縦50mm、横10mm、厚さ6mmの発泡ポリエチレン製バックアップ材を置き、第1のサイディングボード及び第2のサイディングボードの表面をマスキングテープで覆った。そして、シーリング材と接触する領域(すなわち、第1のサイディングボードの小口、及び第2のサイディングボードの小口)に実施例1に係るプライマー組成物を塗布し、間隔10mmの隙間(目地)にシーリング材(POSシールLM超耐候、セメダイン株式会社製)を8mmの厚さで充填した後、マスキングテープを除去し、試験サンプルを作成した。
【0143】
そして、常態接着性を評価するため、試験サンプルを23℃50%RH環境下で1週間養生後、更に30℃環境下で1週間養生した後、23℃環境下において引張速度50mm/minで引張接着性試験を実施した。(表1における「引張接着性(常態/モエンM)」)。また、耐熱接着性を評価するため、別の試験サンプルを23℃50%RH環境下で1週間養生後、更に30℃環境下で1週間養生した後、2週間80℃環境下で養生した。そして、各養生終了後、23℃環境下において引張速度50mm/minで引張接着性試験を実施した(表1における「引張接着性(80℃2w/モエンM)」)。更に、耐水接着性を評価するため、別の試験サンプルを23℃50%RH環境下で1週間養生後、更に30℃環境下で1週間養生した後、2週間60℃の温水に浸漬した。そして、各養生終了後、23℃環境下において引張速度50mm/minで引張接着性試験を実施した(表1における「引張接着性(60℃温水2w/モエンM)」)。引張接着性試験においては伸び率が50%時の荷重(MPa)、最大荷重(Tmax(MPa))、及び最大荷重時の伸び率(Emax(%))を測定した。なお、表1における「50%モジュラス」は、上記伸び率が50%時の荷重である。
【0144】
他の実施例、及び比較例についても同様に評価した。評価結果は表1に示す。
【0145】
表1を参照すると分かるように、実施例に係るプライマー組成物はいずれも、作業性、打継接着性、バリア性が優れ、各種条件における引張接着性についても実施例に係るプライマー組成物を用いた場合、良好な特性を発揮することが示された。実施例と比較例とを参照すると、成分(A)と成分(B)との組み合わせが、良好な作業性、打継接着性、及びバリア性を発現させることが分かる。
【0146】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点、及び本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能である点に留意すべきである。