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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】セパレータの加工装置および加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0226 20160101AFI20240618BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20240618BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20240618BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240618BHJP
   B29C 43/50 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
H01M8/0226
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/10 101
B29C43/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021050477
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148700
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野畑 安浩
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234639(JP,A)
【文献】特開2001-143722(JP,A)
【文献】特開2006-172812(JP,A)
【文献】特開2003-338294(JP,A)
【文献】特開2005-125623(JP,A)
【文献】特開2012-099371(JP,A)
【文献】特開2017-064775(JP,A)
【文献】特開2004-074461(JP,A)
【文献】特開2007-055094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
B29C 43/50
B29C 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料と樹脂材料とからなるシート材を、燃料電池用のセパレータの形状に熱圧成形するセパレータの加工装置であって、
前記加工装置は、前記シート材を、前記セパレータを複数枚平面上に並べた形状の成形体に熱圧成形する装置本体と、前記装置本体に前記シート材をセットするセット治具と、を備えており、
前記装置本体は、前記シート材を挟み込んで、前記成形体に熱圧成形する上型および下型を備えており、
前記セット治具は、前記シート材のうち、前記装置本体により成形される成形領域を露出させる開口部と、前記成形領域の周縁部を拘束する拘束部とが、形成された枠状のセット治具であり、
前記装置本体は、
前記上型および前記下型の間に前記成形領域が配置される位置で、前記セット治具を支持する支持部材と、
前記上型を前記下型から引き離した状態で、前記下型から前記成形体が離間するように、前記支持部材を前記上型に向かって付勢する第1付勢部材と、をさらに備えることを特徴とするセパレータの加工装置。
【請求項2】
前記装置本体は、前記下型および前記上型で前記シート材を挟み込んだ状態から、前記上型を前記下型から引き離した状態となるまでの間に、前記上型から前記成形体が離間するように、前記セット治具を前記下型に向かって付勢する第2付勢部材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のセパレータの加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセパレータの加工装置を用いた、セパレータの加工方法であって、
前記シート材の前記成形領域の周縁部が拘束されるように、前記セット治具に、前記シート材を取り付ける工程と、
前記セット治具を、前記支持部材に配置する工程と、
前記下型に対して、前記上型を下降させて、前記成形領域を前記上型と前記下型の間に挟み込み、前記シート材から前記成形体を熱圧成形する工程と、
前記上型を前記下型から引き離す工程と、を少なくとも含むことを特徴とするセパレータの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のセパレータの形状に熱圧成形するセパレータの加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、たとえば、特許文献1には、プレスにより燃料電池用のセパレータを成形する加工装置が提案されている。この加工装置は、導電性材料と樹脂材料とを含むシート材を熱圧成形する一対の成形型を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-122899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の加工装置で、シート材を熱圧成形した際に、熱圧成形した樹脂シートが、成形型から外れ難いことがある。これにより、シート材から成形された成形体(セパレータ)が過剰に加熱され、得られるセパレータの品質が低下することが想定される。特に、一対の成形型で、セパレータを複数枚平面上に並べた形状に、シート材を熱圧成形しようとした場合、このような現象は、より顕著になる。
【0005】
このような点を鑑みて、本発明は、シート材を、セパレータを複数枚平面上に並べた形状の成形体に熱圧成形する際に、成形体が過剰に加熱されることを抑えることができるセパレータの加工装置および加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明に係るセパレータの加工装置は、導電性材料と樹脂材料とからなるシート材を、燃料電池用のセパレータの形状に熱圧成形するセパレータの加工装置であって、前記加工装置は、前記シート材を、前記セパレータを複数枚平面上に並べた形状の成形体に熱圧成形する装置本体と、前記装置本体に前記シート材をセットするセット治具と、を備えており、前記装置本体は、前記シート材を挟み込んで、前記成形体に熱圧成形する上型および下型を備えており、前記セット治具は、前記シート材のうち、前記装置本体により成形される成形領域を露出させる開口部と、前記成形領域の周縁部を拘束する拘束部とが、形成された枠状のセット治具であり、前記装置本体は、前記上型および前記下型の間に前記成形領域が配置される位置で、前記セット治具を支持する支持部材と、前記上型を前記下型から引き離した状態で、前記下型から前記成形体が離間するように、前記支持部材を前記上型に向かって付勢する第1付勢部材と、をさらに備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、シート材の成形領域が露出され、その周縁部が拘束されるように、セット治具に、シート材を取り付け、このセット治具を、上型および下型の間に成形領域が配置される位置で、加工装置の支持部材に支持することができる。この支持状態で、シート材の成形領域に上型および下型を挟み込んで、シート材の成形領域を熱圧成形すると、得られた成形体は、セパレータを複数枚平面上に並べた形状になる。
【0008】
ここで、熱圧成形後に、上型を下型から引き離そうとすると、第1付勢部材で、下型から成形体が離間するように、セット治具が上型に向かって付勢され、セット治具は、下型に対して持ち上げられる。なお、成形後に、上型を下型から引き離すと、シート材を拘束しているセット治具は、自重で上型から離間する。このようにして、成形体を下型から迅速に引き離し、下型からの熱により、成形体が過剰に加熱されることを抑えることができる。この結果、成形体に含まれる樹脂が変質することを抑え、この成形体から得られた打ち抜かれた複数のセパレータは、より均一な品質のセパレータとなる。
【0009】
より好ましい態様としては、前記装置本体は、前記下型および前記上型で前記シート材を挟み込んだ状態から、前記上型を前記下型から引き離した状態となるまでの間に、前記上型から前記成形体が離間するように、前記セット治具を前記下型に向かって付勢する第2付勢部材をさらに備える。
【0010】
この構成によれば、熱圧成形後、上型の上昇に伴って、成形体を下型から第1付勢部材で離間させるとともに、第2付勢部材による付勢により、成形体を上型からより迅速に離間させることができる。これにより、上型および下型からの熱の伝達による成形体の影響を抑え、成形体の適切な温度管理が可能となる。
【0011】
また、本発明として、以下に示すセパレータの加工方法を開示する。本発明に係るセパレータの加工方法は、前記したセパレータの加工装置を用いた、セパレータの加工方法であって、前記シート材の前記成形領域の周縁部が拘束されるように、前記セット治具に、前記シート材を取り付ける工程と、前記セット治具を、前記支持部材に配置する工程と、前記下型に対して、前記上型を下降させて、前記成形領域を前記上型と前記下型の間に挟み込み、前記シート材から前記成形体を熱圧成形する工程と、前記上型を前記下型から引き離す工程と、を少なくとも含む。
【0012】
このように構成されたセパレータの加工方法によれば、上型を前記下型から引き離す工程において、第1付勢部材で、下型から成形体が離間するように、セット治具が上型に向かって付勢される。これにより、成形体を下型から瞬時に離すことができ、下型からの熱により、成形体が過剰に加熱されることを抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シート材を、セパレータを複数枚平面上に並べた形状の成形体に熱圧成形する際に、成形体が過剰に加熱されることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】燃料電池用のセパレータを使用する燃料電池セルの平面図である。
図2図1に示す燃料電池セルを積層させて構成した燃料電池スタックの要部の拡大断面図である。
図3】本実施形態に係る燃料電池用のセパレータの加工装置であって、下型に対して上型を上昇させた状態の断面図である。
図4図3に示す加工装置において、上型を下降させた熱圧成形時の状態の断面図である。
図5】上型と下型とセット治具との配置および寸法を示す要部断面図である。
図6図3図4に示す加工装置において、シート材を保持するセット治具を示す分解状態の斜視図である。
図7図6に示すセット治具を示し、シート材を保持する前の状態の断面図である。
図8】セパレータの加工装置における加工方法の工程を示し、シート材をセットした状態のセット治具を搬送する搬送装置の動作を示す平面図である。
図9図8に示す搬送装置で搬送されるシート材の各工程を説明するための平面図である。
図10】セパレータの加工装置の変形例における加工方法を示し、シート材をセットした状態のセット治具を搬送する搬送装置の動作を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る燃料電池用のセパレータの加工装置の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。以下では、先ず、燃料電池用のセパレータを備えた燃料電池セルおよび燃料電池スタックの構成の一例を説明し、その後、本開示に係る燃料電池用のセパレータの加工装置および加工方法の実施形態を説明する。
【0016】
1.燃料電池セル(セル51)とセパレータ53について
図1は、燃料電池セル(以下、「セル51」と略称する。)の平面図である。図2は、図1に示すセル51を積層させて構成した燃料電池スタック(以下、「スタック50」と略称する。)の要部の拡大断面図である。セル51は、たとえば、空気などの酸化剤ガスと水素などの燃料ガスとの電気化学反応により起電力を発生する固体高分子型燃料電池である。セル51は、膜‐電極‐ガス拡散層接合体(以下、「MEGA52」と略称する。)と、MEGA52を区画するように、MEGA52に接触するセパレータ53とを備えている。
【0017】
MEGA52は、電気化学反応により起電力を発生するセル51の発電部である。MEGA52は、一対のセパレータ53、53により挟持されている。MEGA52は、膜‐電極接合体(以下、「MEA54」と略称する。)と、このMEA54の両面に配置されたガス拡散層57、57とを一体化させた構成を有している。
【0018】
MEA54は、電解質膜55と、その電解質膜55を挟むように接合された一対の電極56、56とを有している。電解質膜55は、固体高分子材料で形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜によって構成されている。なお、セル51がガス拡散層57を有しない場合には、MEA54がセル51の発電部となる。
【0019】
電極56は、たとえば、白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材によって構成される。電解質膜55の一方側に配置された電極56がアノードとなり、他方側の電極56がカソードとなる。スタック50において隣り合う二つのセル51は、アノードとなる電極56とカソードとなる電極56とを向き合わせて配置されている。
【0020】
ガス拡散層57は、例えばカーボンペーパ若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体、または、金属メッシュもしくは発泡金属等の金属多孔質体などのガス透過性を有する導電性部材によって構成される。
【0021】
セパレータ53は、導電性を有する樹脂製の板状の部材であり、後述する燃料電池用のセパレータ53の加工装置1(図3等参照)によって製造される。セパレータ53は、導電性材料と樹脂材料とからなる成形体であり、その他にも添加剤とが含有されていてもよい。セパレータ53を構成する材料については、セパレータ53に加工する前のシート材2の説明の際に後述する。
【0022】
セル51を形成する一対のセパレータ53は、図1に示すように、流路部65を有している。流路部65は、たとえば、図2に示す横断面が波形または凹凸形状を有し、発電部を縦断するように、図1に示すセル51の長手方向に延びる複数の筋状の流路61、63を形成している。なお、図1では、流路61、63を有した一方のセパレータ(アノード側のセパレータ)53側から視たセル51を示しているが、図2からも明らかなように、他方のセパレータ(カソード側のセパレータ)53にも、流路62、63が形成されている。
【0023】
各セル51の一対のセパレータ53、53のうち、アノード側のセパレータ53は、MEGA52との間に燃料ガスの流路61を画定し、カソード側のセパレータ53は、MEGA52との間に酸化剤ガスの流路62を画定している。また、隣り合う二つのセル51のうち、一方のセル51のアノード側のセパレータ53の外側の面は、他方のセル51のカソード側のセパレータ53の外側の面に接している。これにより、隣り合う二つのセル51の間に、冷媒の流路63が画定されている。
【0024】
より詳細には、各セパレータ53の形状は、波形の頂部がほぼ平坦な等脚台形状の波形であり、この頂部の両端に等角度の角部を有する角張った形状である。つまり、各セパレータ53は、MEGA52に対向する内側から見てもMEGA52と反対の外側から見ても、ほぼ同じ形状である。各セル51の一対のセパレータ53、53のうち、アノード側のセパレータ53の波形の頂部は、MEGA52のアノード側のガス拡散層57に面接触し、カソード側のセパレータ53の波形の頂部は、MEGA52のカソード側のガス拡散層57に面接触している。
【0025】
各セパレータ53には、流路61に連通するマニホールド孔61a、61bと、流路62に連通するマニホールド孔62a、62bと、流路63に連通するマニホールド孔63a、63bが形成されている。
【0026】
このような構成により、各セル51は、MEGA52のアノード側の流路61に燃料ガスが供給され、MEGA52のカソード側の流路62に酸化剤ガスが供給されると、MEGA52で電気化学反応が生じて起電力が生じる。スタック50は、複数のセル51に生じた起電力を、積層された複数のセル51の両端で取り出して外部へ供給する。スタック50において、各セル51は、発電により熱が生じるが、隣り合うセル51,51の間の流路63を流れる冷却水などの冷媒によって冷却される。
【0027】
2.セパレータ53の加工装置1について
つぎに、セパレータ53を熱圧成形する加工装置について詳細に説明する。図3は、本実施形態の燃料電池用のセパレータの加工装置1において、上型25を上昇させた状態の断面図、図4は、上型25を下降させた熱圧成形時の状態の断面図、図5は上型25と下型15と、支持部材31と、セット治具5との関係を示す要部断面図である。なお、図3図4は、一部の構成を明瞭とするため、端面の状態として表している。
【0028】
図3および図4に示すように、本実施形態に係る燃料電池用のセパレータの加工装置1は、被成形物であるシート材2から、セパレータを複数枚平面上に並べた形状の成形体3に熱圧成形する装置である。加工装置1は、下方に設置された下型15に対して、上方に位置する上型25を下降させ、下型15と上型25との間にシート材2を挟んで押圧し、成形体3を加熱しながらプレス成形する加工装置である。
【0029】
2-1.シート材2について
シート材2は、導電性材料と樹脂材料とからなる導電性を有したシート状の部材である。導電性材料は、導電性粒子、または導電性線材等の形態でシート材2に含まれる。導電性材料としては、鉄、アルミニウムなどの金属、カーボン、導電性セラミックスなどの非金属などを挙げることができる。本実施形態では、シート材2には、カーボン粒子が含有されており、カーボン粒子としては、人造や天然の黒鉛粉末であってもよい。導電性材料は、シート材2の全体に対して、70~80体積%含有している。
【0030】
シート材2に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかである。熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、またはフッ素系樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ABSなどを挙げることができ、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶性プラスチックなどであってもよい。なお、シート材2が、熱硬化性樹脂の場合には、シート材2の保形性が確保でき、かつ、熱圧成形時の熱により、セパレータ53の形状で熱硬化の処理が完了するように、熱硬化性樹脂を硬化(半硬化)させてもよい。
【0031】
この加工装置1は、詳細には後述するが、導電性材料と樹脂材料とからなる1枚のシート材2から2枚のセパレータ53、53を含む成形体3を熱圧成形するものであるが、成形されるセパレータ53の枚数は、複数枚であればよく、2枚に限定されるものではない。
【0032】
2-2.装置本体1Aについて
本実施形態では、加工装置1は、シート材2を、2枚セパレータ53、53を複数枚平面上に並べた形状の成形体3に熱圧成形する装置本体1Aと、装置本体1Aにシート材をセットするセット治具5と、を備えている。装置本体1Aは、シート材2を挟み込んで、成形体3に熱圧成形する下型15および上型25を備えている。
【0033】
下型15は、後述する下型ユニット10の一部を構成し、上型25は、後述する上型ユニット20の一部を構成し、下型ユニット10と上型ユニット20とに成形装置を構成している。この他にも、装置本体1Aには、シート材2または成形体3が取り付けられた状態のセット治具5を搬送する搬送装置40、およびセット治具5に取り付けられた成形体3からセパレータ53を打ち抜く打ち抜き装置70等をさらに備えてもよい。
【0034】
下型ユニット10は、下部セットプレート11、断熱盤12、温度調整盤13、サブセットプレート14、および下型15を備えている。下部セットプレート11、断熱盤12、温度調整盤13、サブセットプレート14、および下型15は、下からこの順で配置されている。
【0035】
下部セットプレート11は、図示していない基盤上に設置固定されている。断熱盤12は、この上に載置された温度調整盤13から下部セットプレート11へ向かう熱を、断熱するものであり、たとえば断熱ボード等からなる。温度調整盤13は、たとえば電気ヒータが内蔵され、サーモスタット等で所定の温度に調整することができる機能を有している。サブセットプレート14は、温度調整盤13を下部セットプレート11とともに挟み込んで、温度調整盤13をセットする部材であり、下型15の位置決め用としての役割も果たしている。断熱盤12、温度調整盤13、サブセットプレート14は、ボルト等で下部セットプレート11に固定されて一体化されている。
【0036】
サブセットプレート14の上部には、下型15がボルト等で固定されている。下型15の表面には、後述する成形体3の一方側の表面形状に応じた成形パターン15aが形成されている(図3参照)。下型15は、入れ子式の金型であり、成形パターン15aを含む部分は、後述する枠状のセット治具5内に下方から入り込む。成形パターン15aは、燃料電池用のセパレータ53として必要なガス流路等を形成するための形状である。
【0037】
上型ユニット20は、下型ユニット10の上方に配置されており、上部セットプレート21、断熱盤22、温度調整盤23、サブセットプレート24、および上型25を備えている。上部セットプレート21、断熱盤22、温度調整盤23、サブセットプレート24、および上型25は、上からこの順で配置されている。断熱盤22、温度調整盤23、サブセットプレート24は、ボルト等で上部セットプレート21に固定されて一体化されている。
【0038】
上部セットプレート21は、スライド押圧機構(図示せず)により下方に向けてスライドできるように、加工装置1のハウジング(図示せず)に支持されている。断熱盤22および温度調整盤23は、下型ユニット10の断熱盤12および温度調整盤13と同様の構成を有している。
【0039】
サブセットプレート24の下部には、上型25がボルト等で固定されている。上型25の表面は、後述する成形体3の他方側の表面形状に応じた成形パターン25aが形成されている(図3参照)。上型25は、入れ子式の金型であり、上型25の成形パターン25aを含む部分は、後述する枠状のセット治具5内に上方から入り込む。成形パターン25aは、燃料電池用のセパレータ53として必要なガス流路等を形成するための形状である。
【0040】
このようして、下型15は、温度調整盤13で加熱され、上型25は、温度調整盤23で加熱され、これら熱で、シート材2の両面を加熱しながら、下型15および上型25で、シート材2の成形領域2aを挟み込みながら変形させる。これにより、シート材2を成形体3に熱圧成形することができる。温度調整盤13から発生された熱は、断熱盤12で下部セットプレート11への伝熱が抑制され、温度調整盤23から発生された熱は、断熱盤22で上部セットプレート21への伝熱が抑制される。
【0041】
2-3.セット治具5について
セット治具5は、図5に示すように、シート材2のうち、装置本体1Aにより成形される成形領域2aを露出させる開口部5aと、成形領域2aの周縁部2bを拘束する拘束部5bとが、形成された枠体のセット治具である。成形領域2aは、開口部5aの寸法より小さく設定されており、開口部5aは、熱圧成形時に、下型15および上型25の一部が入り込むことが可能な大きさおよび寸法を有している。
【0042】
セット治具5は、図6および図7に示すように、下枠体6と上枠体7とから構成され、下枠体6と上枠体7とは、複数のボルト(固定具)8で連結されて一体となっている。下枠体6および上枠体7には、ネジ穴8bおよび貫通孔8aが形成されており、ボルト8は、貫通孔8aを通してネジ穴8bに締結される。セット治具5の下枠体6および上枠体7は、外形が長方形である。下枠体6の中央には、セパレータ53、53(具体的には成形領域2a、2a)の大きさに応じた2つの開口部6a、6aが形成されている。上枠体7の中央にも、セパレータ53、53(具体的には成形領域2a、2a)の大きさに応じた2つの開口部7a、7aが形成されている。開口部6aと開口部7aとか重なるように、下枠体6と上枠体7と一体化することにより、セット治具5には、開口部5aが形成される。
【0043】
本実施形態では、下枠体6と上枠体7との一体化において、下枠体6の開口部6aを形成する周縁部6bと、上枠体7の開口部7aを形成する周縁部7bとを重ね合わせることにより、シート材2の成形領域2aの周縁部2bを拘束する拘束部5bが形成される。本実施形態では、各周縁部6b(7b)は、それぞれに形成された2つの開口部6a、6a(7a、7a)の全体を囲む外枠部6c(7c)と、2つの成形領域2aを区画するように、仕切り部6d(7d)が設けられている。
【0044】
このようにして、仕切り部6d、7d同士も、周縁部2bを拘束する拘束部5bとなり、シート材2の2つの成形領域2aのそれぞれを拘束部5bでより確実に拘束することができる。なお、図示はしないが、下型15および上型25は、熱圧成形時には、これらの仕切り部6d、7dを逃がすような溝部が形成されている。成形領域2aを拘束することができるのであれば、これらの仕切り部6d、7dは、省略されていてもよい。
【0045】
ここで、本実施形態では、下枠体6の外枠部6cには、図6および図7に示されるように、シート材2の周縁部を落とし込むように凹んだ凹溝6eが形成されており、上枠体7の外枠部7cには、凹溝6eに係合する凸条7eが形成されている。シート材2の周縁部を介して、凹溝6eと凸条7eとを係合させることにより、シート材2の成形領域2aの周縁部2bを拘束することができる。
【0046】
なお、図6および図7に示すように、本実施形態では、下枠体6に凹溝6eを設け、上枠体7に凸条7eを設けたが、下枠体に凸条を設け、上枠体に凹溝を設けてもよい。
【0047】
2-4.セット治具5の引き離し機構30と位置決めについて
本実施形態では、図4に示すように、装置本体1Aは、セット治具5を下型ユニット10および上型ユニット20から引き離す引き離し機構30をさらに備えている。本実施形態では、装置本体1Aの下型ユニット10には、支持部材31と第1付勢部材32とを備えており、上型ユニット20には、押し下げ部材33と第2付勢部材34とを備えている。
【0048】
支持部材31は、上型25および下型15の間に成形領域2aが配置される位置で、セット治具5を支持する部材であり、本実施形態では、支持部材31は、セット治具5の下枠体6に当接している。第1付勢部材32は、上型25を下型15から引き離した状態で、下型15から成形体3が離間するように、支持部材31を上型25に向かって付勢している。
【0049】
本実施形態では、図6に示すように、支持部材31は、下型15が入り込む開口部31bを有し、下枠体6に当接する枠部材である。しかしながら、下枠体6に当接し、セット治具5を支持することができるのであれば、支持部材31は、複数の部材で構成されていてもよい。第1付勢部材32は、サブセットプレート14と支持部材31とに連結され、支持部材31の下面に沿って、複数配置されている。第1付勢部材32としては、弾性バネまたは弾性ゴムなど、支持部材31を上型25に向かって付勢することができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0050】
本実施形態では、図3に示すように、第1付勢部材32は、セット治具5を支持部材31が支持した状態で、下型15とシート材2(成形領域2a)との間に隙間d1が形成されるように、支持部材31を支持している。
【0051】
本実施形態では、加工装置1の装置本体1Aは、上型25および下型15の間に、2つのコーナーガイド16、16を備えている。本実施形態では、2つのコーナーガイド16、16は、矩形状の枠体である支持部材31の四隅のうち対角に位置する2つの隅部を、上下方向に沿って案内する部材である。本実施形態では、各コーナーガイド16は、サブセットプレート14に立設されている。
【0052】
図3に示すように、支持部材31は、熱圧成形時には、上型ユニット20により下方に沈み込むため、コーナーガイド16により、セット治具5は、上下方向に安定して移動可能となる。さらに、本実施形態では、2つのコーナーガイド16、16が、矩形状の枠体である支持部材31の四隅のうち対角に位置する2つの隅部を、上下方向に案内するため、図3に示すように、下型15と、枠状の支持部材31との隙間d2を安定して確保することができる。なお、本実施形態では、コーナーガイド16が、支持部材31の上下方向の移動を案内し、かつ、下型15と、支持部材31との隙間d2を確保することができるのであれば、その個数は限定されるものではない。
【0053】
さらに、押し下げ部材33は、熱圧成形時に、セット治具5の上枠体7が当接している状態から、セット治具5を押し下げる部材である。第2付勢部材34は、下型15および上型25でシート材2を挟み込んだ状態(すなわち、図4に示す成形体3を成形した状態)から、図3に示す上型25を下型15から引き離した状態となるまでの間に、上型25から成形体3が離間するように、セット治具5を下型15に向かって付勢する。
【0054】
これにより、熱圧成形後、図4に示す状態から、上型25の上昇に伴って、成形体3を下型15から第1付勢部材32で離間させるとともに、第2付勢部材34による付勢により、成形体3を上型25からより迅速に離間させることができる。これにより、上型25および下型15からの熱の伝達による成形体3の影響を抑え、成形体3の適切な温度管理が可能となる。なお、成形後に上型25を上昇させると、セット治具5は自重で下降するため、第2付勢部材34は必ずしも必要でない。
【0055】
さらに、加工装置1の装置本体1Aは、上型25および下型15の間に、シート材2の成形領域2aが配置されるように、2つのガイドシャフト17、17を備えている。ガイドシャフト17、17は、セット治具5の位置決め用の部材であり、サブセットプレート14に立設されている。しかしながら、2つのガイドシャフト17、17により、セット治具5の位置決めができるのであれば、ガイドシャフト17、17は、支持部材31に、立設されていてもよい。本実施形態では、2つのガイドシャフト17、17は、矩形状の外形を有した支持部材31に対して、2つのコーナーガイド16、16とは異なる対角に設けられているが、これらが同じ対角に設けられていてもよい。
【0056】
本実施形態では、支持部材31には、各ガイドシャフト17を挿通する貫通孔31aが、四隅のうち対角の位置する隅部に形成されており、ガイドシャフト17は、貫通孔31aに挿通された状態で、支持部材31の上面から突出している。ガイドシャフト17のうち、支持部材31の上面から突出た部分に、セット治具5に形成された貫通孔17aを挿通することにより、装置本体1Aに対して、セット治具5の位置決めを行うことができる。なお、ガイドシャフト17に対して、支持部材31およびセット治具5が上下方向に摺動可能なように、ガイドシャフト17は、貫通孔17a、31aに挿通されている。
【0057】
前記のように構成された本実施形態の加工装置1の作用について、図3図4および図8図9を参照して説明する。図8は、セパレータの加工装置における加工方法の工程を示し、シート材をセットした状態のセット治具を搬送する搬送装置の動作を示す平面図である。図9は、熱圧成形前のシート材2、熱圧成形後の成形体3、および打ち抜き加工後のセパレータ53を示した図である。
【0058】
図7および図8において、シート材2を、燃料電池用のセパレータ53、53の形状に熱圧成形するときは、シート材2の成形領域2aの周縁部2bが拘束されるように、シート材2をセット治具5にセットする(シート材を取り付ける工程)。
【0059】
具体的には、図7に示すように、下枠体6の凹溝6eにシート材2を落とし込み、シート材2を介して、上枠体7の凸条7eを下枠体6の凹溝6eに係合させ、ボルト8で下枠体6と上枠体7とを連結固定する。これにより、図5に示すように、シート材2は、凹溝6eと凸条7eで拘束され、平坦な状態で保持される。
【0060】
具体的には、図8および図9に示すように、シート材2の成形領域2aは、セット治具5の開口部5aから露出し、成形領域2aの周りの周縁部2bは、拘束部5bにより拘束される。本実施形態では、加工装置1は、搬送装置40を備えており、シート材2を取り付けたセット治具5は、搬送装置40の2本のレール41、41上に移動可能に装着されたキャリア42、42で支持される。
【0061】
本実施形態では、搬送装置40のキャリア42、42で、セット治具5は搬送され、装置本体1Aの下型15と上型25との間において、支持部材31に配置される(セット治具配置工程)。具体的には、図6に示すように、装置本体1Aに固定されたガイドシャフト17、17に、セット治具5の貫通孔17a、17aを挿通する。
【0062】
このようにして、セット治具5の位置決めを行うと、熱圧成形時に、下型15と上型25により、シート材2の成形領域2aをより正確に成形することができ、セット治具5が沈み込んだとしても、コーナーガイド16、16と機械的に干渉して移動不能になることを防止できる。
【0063】
セット治具5は、下型15と上型25との間に配置された後、キャリア42、42が後退し、セット治具5は、キャリア42、42から解放され、フリーの状態となる。すなわち、本実施形態では、支持部材31は、第1付勢部材32により上方に付勢されているので、セット治具5に保持されたシート材2は、下型15と隙間d1を開けた状態で支持される(図3参照)。
【0064】
次に、下型15に対して上型25を下降させて、成形領域2aを上型25と下型15の間に挟み込み、シート材2から成形体3を熱圧成形する(図4参照)。下型15および上型25は、温度調整盤13、23により所定の温度に設定されている。本実施形態では、上型25を下降させると、押し下げ部材33はセット治具5の上枠体7に当接し、第2付勢部材34が圧縮されて、押し下げ部材33は上方に退避する。
【0065】
一方、上型25の下降に伴い、上型25の成形パターン25aがシート材2の上面に接触し、セット治具5とともにシート材2を下降させ、シート材2の下面と下型15の成形パターン15aと接触し、さらなる下降によりシート材2を、成形体3に熱圧成形する(熱圧成形工程)。これにより、図9の右上の図に示すように、1枚のシート材2から、2つのセパレータ53、53の形状を有した成形体3を熱圧成形することができる。
【0066】
所定の成形時間が経過後、上型25を上昇させると、支持部材31が、第1付勢部材32の付勢力(弾性力)でセット治具5を押し上げ、下型15の成形パターン15aと成形体3は瞬時に離間する。一方、上型25の上昇で、押し下げ部材33が、第2付勢部材34の付勢力(弾性力)でセット治具5を押し下げるため、上型25の成形パターン25aと成形体3も瞬時に離間する(引き離し工程)。
【0067】
このように、シート材2を、セパレータ53、53を複数枚平面上に並べた形状の成形体3に熱圧成形する際に、成形体3が過剰に加熱されることを抑えることができる。このため、たとえば熱硬化性樹脂を含むシート材2の場合には、熱硬化の状態を均一にでき、均一な硬化状態の成形パターンの成形体3を得ることができる。一方、熱可塑性樹脂を含むシート材2の場合には、熱圧成形時の軟化後、速やかに放冷されるため、成形体3の形状を安定させることができる。
【0068】
下型15からシート材2を引き離す際に、熱圧成形時の残渣等が発生することがあるが、発生した残渣を、下型15と支持部材31との間の全周にわたる隙間d2に落とし込むことも可能である。また、この隙間d2をある程度確保すれば、熱圧成形時にシート材2の一部が、隙間d2に流動したとしても、支持部材31と下型15との噛み込みを抑えることができる。
【0069】
上型25を下型15から引き離す引き離し工程のあと、キャリア42、42でセット治具5を保持し、キャリア42、42で、セット治具5を打ち抜き装置70まで移動する(図10参照)。この位置で、図9の右下図に示すように、1枚の成形体3から2枚のセパレータ53、53が打抜き加工される(打抜き工程)。
【0070】
なお、本実施形態では、矩形状のセパレータ53を、セパレータ53の短手方向に沿って、複数枚平面上に並べた形状の成形体3が成形されるように、セット治具5に開口部5aを設けた。しかしながら、図10に示すように、矩形状のセパレータ53を、セパレータ53の長手方向に沿って、複数枚平面上に並べた形状の成形体3が成形されるように、セット治具5に開口部5aを設けてもよい。これにより、搬送方向に沿った搬送装置40のライン長さを短くすることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、セット治具では、2つのセパレータを保持する例を示したが、3つ以上のセパレータを保持するものでもよい。
【符号の説明】
【0072】
1:加工装置、1A:装置本体、2:シート材、2a:成形領域、53:セパレータ、5:セット治具、5a:開口部、5b:拘束部、15:下型、25:上型、32:第1付勢部材、34:第2付勢部材
図1
図2
図3
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図8
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図10