(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】接合体、およびその接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 5/04 20060101AFI20240618BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20240618BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240618BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20240618BHJP
H01R 4/02 20060101ALI20240618BHJP
H01R 43/02 20060101ALI20240618BHJP
H02K 15/04 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
H01F5/04 L
H01F5/06 H
H01F27/28 152
H01F5/00 D
H01R4/02 C
H01R43/02 B
H02K15/04 E
(21)【出願番号】P 2021114458
(22)【出願日】2021-07-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】白井 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】下坂元 嗣矢
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-535596(JP,A)
【文献】特開2013-16366(JP,A)
【文献】特開2007-299761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/00- 5/06
H01F 27/28
H01F 27/29-27/30
H01R 3/00- 4/22
H01R 43/00-43/02
H02G 1/14- 1/16
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
束線(12)と金属部材(24)との接合体であって、
絶縁性樹脂で構成された線間被膜(14)により互いに隔てられ且つ互いに接着された複数の導線(13)を有し、該複数の導線が束ねられた前記束線と、
前記束線に対して接合された前記金属部材とを備え、
前記束線は、該束線の長手方向(Da)の一方側に設けられた先端部(121)と、該先端部から前記長手方向の前記一方側とは反対側の他方側へ延設された先端延設部(122)とを有し、
前記金属部材は、前記先端延設部に接触する金属部材接続部(25)を有し、
前記複数の導線は、前記先端延設部では前記線間被膜により互いに接着された状態のまま、前記束線の先端部で前記金属部材接続部の一部に対し溶融接合されており、
前記束線の先端部では前記線間被膜が除去されている、接合体。
【請求項2】
前記絶縁性樹脂は第1絶縁性樹脂であり、
前記束線は、第2絶縁性樹脂で構成された外層被膜(16)を有し、
前記外層被膜は、前記束線のうち、前記先端延設部に対する前記長手方向の前記他方側で、前記複数の導線を囲むように形成されている、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記外層被膜は、前記先端延設部では剥離されている、請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記線間被膜の厚みは平均で3~30μmである、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の接合体。
【請求項5】
前記束線は、前記複数の導線が撚られた撚線として構成されており、
前記複数の導線は、前記先端延設部でも撚られた状態になっている、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の接合体。
【請求項6】
束線(12)と金属部材(24)との接合体を製造するための製造方法であって、
絶縁性樹脂で構成された線間被膜(14)により互いに隔てられ且つ互いに接着された複数の導線(13)が束ねられたものを前記束線として用い、該束線のうち該束線の長手方向(Da)の一方側に設けられた先端部(121)から前記長手方向の他方側へ延設された先端延設部(122)で前記複数の導線が前記線間被膜により互いに接着された状態のまま、前記先端延設部を、前記金属部材が有する金属部材接続部(25)に対し接触させ保持すること(S03)と、
前記先端延設部を前記金属部材接続部に対し保持した後に、前記束線の先端部が含む前記複数の導線と前記金属部材接続部の一部とを溶融接合する先端部接合を行うこと(S04)とを含み、
前記先端部接合を行うことでは、エネルギービーム(42)を照射することで、前記束線の先端部と前記金属部材接続部の一部とを溶融接合すると共に、前記先端部が含む前記線間被膜を除去する、接合体の製造方法。
【請求項7】
前記金属部材は、銅または銅合金で構成され、
前記複数の導線は、銅または銅合金で構成され、
前記先端部接合を行うことでは、波長が400~600nmのレーザ光を、前記エネルギービームとして用いる、請求項6に記載の接合体の製造方法。
【請求項8】
前記線間被膜の厚みは平均で3~30μmである、請求項6または7に記載の接合体の製造方法。
【請求項9】
前記エネルギービームの照射は複数回である、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
【請求項10】
前記先端部接合を行うことには、
前記エネルギービームのエネルギー密度(Ed)を第1所定値(E1)にして前記エネルギービームを照射することにより、前記先端部が含む前記線間被膜を除去することと、
該線間被膜を除去することの後に、前記エネルギービームのエネルギー密度を前記第1所定値よりも大きい第2所定値(E2)にして前記エネルギービームを照射することにより前記束線の先端部と前記金属部材接続部の一部とを溶融接合することとが含まれる、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
【請求項11】
前記束線は、前記複数の導線が撚られた撚線として構成され、
前記先端延設部を前記金属部材接続部に対し接触させ保持することでは、前記先端延設部で前記複数の導線が撚られた状態のまま、前記先端延設部を前記金属部材接続部に対し接触させ保持する、請求項6ないし10のいずれか1つに記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、束線と金属部材との接合体、およびその接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁樹脂の絶縁膜によって被覆された複数の導線が束ねられた集合導線と金属端子との接続方法が記載されている。この特許文献1の接続方法では、先ず、金属端子と共に集合導線の接合部位が加圧され、金属端子と集合導線の接合部位とが密着させられる。続いて、その金属端子と接合部位が加圧された状態で、金属端子に対し通電が行われる。これにより、金属端子が発熱するので、接合部位で導線が塑性変形すると共に、溶融した絶縁樹脂が接合部位から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の集合導線に対応する束線と、特許文献1の金属端子に対応する金属部材とが接合された接合体として、特許文献1に記載の方法以外の方法で接合された接合体も想定される。例えば、その束線と金属部材との接合体として、束線と金属部材との接続部分でその束線と金属部材とが溶融接合されたものが考えられる。
【0005】
そのように溶融接合された接合体の製造工程では、束線と金属部材とを溶融接合するに先立って、絶縁膜である線間被膜で互いに隔てられた複数の導線が束ねられた束線のうち、溶融接合される部分で複数の導線の束が解かれ、線間被膜が除去されることが想定される。
【0006】
しかしながら、そのように複数の導線の束を解くことは、接合体の製造工程で生産性を低下させる一因になる。発明者らの詳細な検討の結果、以上のようなことが見出された。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、製造工程での生産性低下を回避することができる接合体、およびその接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の接合体は、
束線(12)と金属部材(24)との接合体であって、
絶縁性樹脂で構成された線間被膜(14)により互いに隔てられ且つ互いに接着された複数の導線(13)を有し、その複数の導線が束ねられた束線と、
束線に対して接合された金属部材とを備え、
束線は、その束線の長手方向(Da)の一方側に設けられた先端部(121)と、その先端部から上記長手方向の一方側とは反対側の他方側へ延設された先端延設部(122)とを有し、
金属部材は、先端延設部に接触する金属部材接続部(25)を有し、
複数の導線は、先端延設部では線間被膜により互いに接着された状態のまま、束線の先端部で金属部材接続部の一部に対し溶融接合されており、
束線の先端部では線間被膜が除去されている。
【0009】
このようにすれば、接合体の製造工程において複数の導線の束を予め解くことなく、束線の先端部を金属部材接続部に対して溶融接合する際の熱で線間被膜を除去すると共に、複数の導線のそれぞれを先端部にて金属部材接続部に溶融接合することが可能である。従って、接合体の製造工程での生産性低下を回避することができる。
【0010】
また、請求項6に記載の製造方法は、
束線(12)と金属部材(24)との接合体を製造するための製造方法であって、
絶縁性樹脂で構成された線間被膜(14)により互いに隔てられ且つ互いに接着された複数の導線(13)が束ねられたものを束線として用い、その束線のうち束線の長手方向(Da)の一方側に設けられた先端部(121)から上記長手方向の他方側へ延設された先端延設部(122)で複数の導線が線間被膜により互いに接着された状態のまま、先端延設部を、金属部材が有する金属部材接続部(25)に対し接触させ保持すること(S03)と、
先端延設部を金属部材接続部に対し保持した後に、束線の先端部が含む複数の導線と金属部材接続部の一部とを溶融接合する先端部接合を行うこと(S04)とを含み、
先端部接合を行うことでは、エネルギービーム(42)を照射することで、束線の先端部と金属部材接続部の一部とを溶融接合すると共に、先端部が含む線間被膜を除去する。
【0011】
このようにすれば、上記請求項1に記載の接合体の製造工程と同様に、複数の導線の束を予め解くことなく、複数の導線のそれぞれを束線の先端部にて金属部材接続部に溶融接合することが可能である。従って、接合体の製造工程での生産性低下を回避することができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態において接合体を模式的に示した斜視図である。
【
図2】第1実施形態において、接合体のうち撚線の被覆部を除き断面図示して接合体を模式的に示した断面図である。
【
図3】第1実施形態の接合体が用いられるモータの斜視図である。
【
図4】第1実施形態において、
図2のIV-IV断面を示した断面図であって、撚線の長手方向に垂直な撚線の断面を模式的に示した図である。
【
図5】第1実施形態において接合体の製造工程を示したフローチャートである。
【
図6】
図5の第2工程において撚線のうち先端部および先端延設部の外層被膜が剥離される様子を模式的に示した図である。
【
図7】
図5の第3工程で撚線が金属部材に保持された状態を模式的に示した斜視図である。
【
図8A】
図5の第4工程で3回実施されるエネルギービームの照射のうち、1回目のエネルギービームの照射が実施された状態を模式的に示した断面図である。
【
図8B】
図5の第4工程で3回実施されるエネルギービームの照射のうち、2回目のエネルギービームの照射が実施された状態を模式的に示した断面図である。
【
図8C】
図5の第4工程で3回実施されるエネルギービームの照射のうち、3回目のエネルギービームの照射が実施された状態を模式的に示した断面図である。
【
図9】第2実施形態において、
図5の第4工程で照射されるエネルギービームのエネルギー密度変化を示したタイムチャートである。
【
図10】第2実施形態において、
図9のt0時点からt1時点までの間のエネルギービームが照射されている状態を模式的に示した断面図であって、
図8Aに相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、実施形態を説明する。なお、後述する他の実施形態を含む以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0015】
(第1実施形態)
図1、
図2に示すように、本実施形態の接合体10は、撚線12と金属部材24とが接合された接合体である。例えば、この接合体10は
図3のモータ70に用いられ、そのモータ70のうちステータを構成する複数の電磁コイル71のそれぞれに含まれる。
【0016】
図1、
図2に示すように、接合体10は、撚線12と金属部材24とを備えている。その撚線12は、複数回巻かれることで
図3の電磁コイル71を構成するものである。
図2、
図4に示すように、撚線12は、複数の導線13と、第1絶縁膜としての線間被膜14と、第2絶縁膜としての外層被膜16とを有している。すなわち、本実施形態の撚線12は、複数の導線13が束ねられた束線でもある。
【0017】
導線13は、本実施形態の撚線12には7本設けられており、例えば銅または銅合金で構成されている。具体的に、複数の導線13は、撚線12の中で、撚線12の長手方向Daに平行に延びているのではなく、撚られている。なお、撚線12の長手方向Daは、直線に沿った方向に限定されず、撚線12が曲がっていれば、その撚線12の曲りに沿った方向を意味する。
【0018】
線間被膜14は、複数の導線13の相互間に設けられた絶縁膜であり、その複数の導線13を互いに隔てている。この線間被膜14は、複数の導線13を互いに絶縁すると共に、その複数の導線13を互いに接着する。線間被膜14の厚みは、平均で3~30μmとされている。線間被膜14は、例えばAI樹脂である第1絶縁性樹脂で構成されている。AI樹脂とは、アミドイミド樹脂の略である。
【0019】
外層被膜16は、複数の導線13および線間被膜14の外側に設けられた絶縁膜であり、その複数の導線13および線間被膜14を囲んで覆うように構成されている。言い換えると、外層被膜16は、撚線12の長手方向Daに延びた筒状であり、その外層被膜16の内側に複数の導線13および線間被膜14が設けられている。この外層被膜16の厚みは、線間被膜14の厚みと比較して大きく、例えば、平均で40~80μmとされている。外層被膜16は、例えばPEEK樹脂である第2絶縁性樹脂で構成されている。PEEK樹脂とは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の略である。
【0020】
また、撚線12は、撚線12のうちその撚線12の長手方向Daにおける一部を構成する先端部121と先端延設部122と被覆部123とを有している。その先端部121は撚線12の長手方向Daの一方側に設けられ、先端延設部122は、先端部121に対し撚線12の長手方向Daの一方側とは反対側の他方側に設けられ、その先端部121から延設されている。そして、被覆部123は、先端延設部122に対し撚線12の長手方向Daの他方側に設けられ、その先端延設部122から延設されている。なお、本実施形態では、撚線12の長手方向Daを撚線長手方向Daとも称する。
【0021】
撚線12において、外層被膜16は、基本的に撚線12の全長にわたって設けられているので、被覆部123にも設けられている。そして、その被覆部123では、外層被膜16は、複数の導線13および線間被膜14の全体を囲むように形成されている。但し、外層被膜16は、先端部121および先端延設部122では剥離されている。すなわち、外層被膜16は、撚線12のうち、先端延設部122に対する撚線長手方向Daの他方側で、複数の導線13および線間被膜14の全体を囲むように形成されている。
【0022】
図1、
図2に示すように、金属部材24は、例えば銅または銅合金で構成されており、撚線12に通電するために撚線12に対して接合されている。本実施形態の金属部材24は、例えばバスバである。
【0023】
金属部材24は、撚線12の先端延設部122に接触する金属部材接続部25を有している。例えば、金属部材接続部25は、その先端延設部122を挟むようにして先端延設部122に接触している。そして、撚線12の複数の導線13は、先端延設部122では撚られた状態で且つ線間被膜14により互いに接着された状態のまま、撚線12の先端部121で金属部材接続部25の一部に対し溶融接合されている。従って、接合体10は、一旦溶融してから凝固した再凝固部101を有し、その再凝固部101は、金属部材接続部25の一部と撚線12の先端部121とを含むので、撚線12と金属部材24とに跨って形成されている。
【0024】
具体的に、撚線12の複数の導線13は、被覆部123と同様に先端延設部122でも撚られた状態になっている。そして、撚線12の複数の導線13は先端部121で、金属部材接続部25のうち撚線長手方向Daの一方側の一部に対し全て溶融接合されている。
【0025】
なお、撚線12の先端部121は金属部材接続部25に対し溶融接合されているので、先端部121において複数の導線13は、その溶融前の形状をとどめていない。また、
図1では、再凝固部101にドット状のハッチングが付されている。
【0026】
次に、
図5を用いて、接合体10の製造工程について説明する。
図5の用意工程としての第1工程S01では、互いに接合される前の撚線12と金属部材24とが、それぞれ用意される。第1工程S01の次は第2工程S02に進む。
【0027】
外層被膜除去工程としての第2工程S02では、
図6に示すように、撚線12のうち先端部121および先端延設部122において外層被膜16が剥離される。例えば、先端部121および先端延設部122に対し、レーザ光40が照射されながら矢印A1のように撚線長手方向Daに走査されることによって、外層被膜16が、先端部121および先端延設部122において剥離される。このとき用いられるレーザ光40は、例えば赤外線パルスレーザ光である。
図5の第2工程S02の次は第3工程S03に進む。
【0028】
保持工程としての第3工程S03では、
図7に示すように、撚線12の先端部121および先端延設部122が金属部材24に対し相対的に変位しないように、金属部材接続部25に撚線12の先端部121および先端延設部122を保持させる。なお、
図7および上述した
図1では、撚線12の線間被膜14の図示は省略されている。
【0029】
具体的には、第1工程S01で用意される金属部材接続部25はU字状に形成されている。そして、この第3工程S03では、そのU字状の金属部材接続部25の内側に撚線12の先端部121および先端延設部122が挿入された状態で、金属部材接続部25は、その先端部121および先端延設部122を挟み込むように押圧され変形させられる。このようにして、撚線12の先端部121および先端延設部122は金属部材接続部25に対して接触させられながら保持される。
【0030】
このとき、
図6、
図7に示すように、撚線12の先端部121および先端延設部122において、複数の導線13の撚りは解かれていないので、複数の導線13は撚られた状態で且つ線間被膜14により互いに接着された状態のままである。
図5の第3工程S03の次は第4工程S04に進む。
【0031】
溶融接合工程としての第4工程S04では、
図8A~
図8Cに示すように、撚線12の先端部121が含む複数の導線13と金属部材接続部25の一部とが、エネルギービーム42によって溶融接合される。詳細には、エネルギービーム42が、撚線12の先端部121に対する撚線長手方向Daの一方側から先端部121およびその先端部121周りに対し複数回照射される。これにより、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが溶融接合されると共に、その先端部121が含む線間被膜14が除去される。
【0032】
このとき用いられるエネルギービーム42は、例えば、波長が400~600nmのレーザ光である。その波長が400~600nmのレーザ光としては、緑色レーザ光や青色レーザ光が例示される。また、エネルギービーム42の照射の際には、溶融させる領域の大きさに応じて、エネルギービーム42を照射しながらエネルギービーム42の照射位置を移動させてもよいし、その照射位置を移動しない定点照射を行ってもよい。なお、
図8A~
図8Cでは、上述した
図2と同様に、撚線12の被覆部123を除き断面図示されている。
【0033】
例えば、本実施形態では、エネルギービーム42の照射は所定の時間間隔をあけて3回行われる。
図8Aに示すように、先ず1回目のエネルギービーム42の照射が行われると、撚線12の先端部121と、金属部材接続部25のうち撚線長手方向Daの一方側の一部とがそれぞれ溶融し、エネルギービーム42の照射終了後に再凝固する。このとき、例えば、溶融した金属部材接続部25と先端部121は殆ど混ざり合わずに、分かれて再凝固する。また、撚線12の先端部121が含む線間被膜14は、その先端部121が溶融することに伴って、矢印B1で示すように蒸発または焼失する。
図8A、
図8Bでは、先端部121から蒸発または焼失する線間被膜14が破線のハッチングで示されている。
【0034】
次に、
図8Bに示すように、2回目のエネルギービーム42の照射が行われると、分かれて再凝固した撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが再び溶融し、互いに混ざり始めるが、十分には混ざり合わずにエネルギービーム42の照射終了後に再凝固する。このとき、撚線12の先端部121が含む線間被膜14の僅かな残部が、その先端部121が溶融することに伴って、矢印B2で示すように蒸発または焼失する。本実施形態では、2回目のエネルギービーム42の照射で、撚線12の先端部121が含む線間被膜14の除去は完了する。
【0035】
次に、
図8Cに示すように、3回目のエネルギービーム42の照射が行われると、2回目のエネルギービーム42の照射後に再凝固した撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが再び溶融し、互いの混ざり合いが更に進行し、十分に混ざり合う。そして、この溶融した撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部は、エネルギービーム42の照射終了後には、境目無く一体となって再凝固する。以上のようにして、
図1に示す接合体10を得ることができる。
【0036】
上述したように、本実施形態によれば、
図1、
図2に示すように、撚線12は、線間被膜14により互いに隔てられ且つ互いに接着された複数の導線13を有する。そして、その複数の導線13は、撚線12の先端延設部122では線間被膜14により互いに接着された状態のまま、撚線12の先端部121で金属部材接続部25の一部に対し溶融接合されている。
【0037】
そのため、接合体10の製造工程において複数の導線13の束を予め解くことなく、撚線12の先端部121を金属部材接続部25に対して溶融接合する際の熱で線間被膜14を除去することができる。それと共に、複数の導線13のそれぞれを先端部121にて金属部材接続部25に溶融接合することが可能である。従って、接合体10の製造工程において、複数の導線13の束を解くことに起因した生産性低下を回避することができる。
【0038】
また、本実施形態によれば、
図5の第3工程S03では、
図7に示すように、撚線12の先端延設部122で複数の導線13が線間被膜14により互いに接着された状態のまま、撚線12の先端延設部122は、金属部材接続部25に対して接触させられながら保持される。そして、
図5の第4工程S04では、
図8A~
図8Cに示すように、撚線12の先端部121が含む複数の導線13と金属部材接続部25の一部とをエネルギービーム42によって溶融接合する先端部接合が行われる。この第4工程S04では、エネルギービーム42が照射され、これにより、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが溶融接合されると共に、その先端部121が含む線間被膜14が除去される。
【0039】
そのため、
図1の接合体10の製造工程において複数の導線13の束を予め解くことなく、複数の導線13のそれぞれを撚線12の先端部121にて金属部材接続部25に溶融接合することが可能である。つまり、接合体10の製造工程において、複数の導線13の束を解くことに起因した生産性低下を回避することができる。
【0040】
また、上記したように
図5の第4工程S04では、エネルギービーム42の照射に伴って、撚線12の先端部121から線間被膜14が除去される。従って、撚線12から金属部材24に至る通電経路において各導線13と金属部材24との接合面積を、十分な大きさでバラツキ少なく安定して得ることが可能である。
【0041】
また、例えば、エネルギービーム42によって溶融した金属溶融プールから線間被膜14を排出させつつ、その金属溶融プールの挙動を活発化させることが可能である。そして、金属部材接続部25と先端部121とがエネルギービーム42の照射終了後に分かれて再凝固する溶け分かれを防止できる。
【0042】
(1)また、本実施形態によれば、
図2、
図4に示すように、外層被膜16は、撚線12のうち、先端延設部122に対する撚線長手方向Daの他方側で、複数の導線13をまとめて囲むように形成されている。従って、撚線12のうち先端延設部122に対する撚線長手方向Daの他方側では外層被膜16によって撚線12を保護できる。すなわち、撚線12を保護する機能を線間被膜14に備えさせる必要がない。そのため、エネルギービーム42の照射により撚線12の先端部121から線間被膜14を除去できる程度に、線間被膜14を薄く形成することが可能である。また、線間被膜14を薄く形成することは、複数の導線13と金属部材接続部25との溶融接合に費やす所要時間を短縮すること(例えば、エネルギービーム42の照射回数を減らすこと)にも寄与するので、接合体10の生産性向上にもつながる。
【0043】
(2)また、本実施形態によれば、外層被膜16は、撚線12の先端延設部122では剥離されている。従って、複数の導線13と金属部材接続部25との溶融接合を外層被膜16が阻害することを回避しつつ、その溶融接合を実施することができる。例えば、溶融接合を行っている最中に外層被膜16が溶けることに起因した不具合を回避することが可能である。
【0044】
(3)また、本実施形態によれば、線間被膜14の厚みは、平均で3~30μmとされている。これにより、線間被膜14の機能を十分に確保しつつ、実用的な製造工程で接合体10を製造することが可能である。
【0045】
例えば、線間被膜14の厚みが平均で3μmを下回る場合には、エネルギービーム42の照射により線間被膜14を先端部121から除去しやすくなるが、線間被膜14の厚みが小さくなるほど、線間被膜14を挟んだ複数の導線13相互間の絶縁性能が低下する。その一方で、線間被膜14の厚みが平均で30μmを上回る場合には、例えばエネルギービーム42の照射回数が増えすぎるので、実用的な製造工程で接合体10を製造することが難しくなる。
【0046】
(4)また、本実施形態によれば、
図5の第3工程S03では、
図7に示すように、撚線12の先端延設部122で複数の導線13が撚られた状態のまま、その先端延設部122は、金属部材接続部25に対して接触させられながら保持される。すなわち、
図5の製造工程を経て得られた接合体10において、撚線12が有する複数の導線13は、先端延設部122でも撚られた状態になっている。従って、接合体10の製造工程において、複数の導線13の撚りを解くことに起因した生産性低下を回避することができる。
【0047】
(5)また、本実施形態によれば、金属部材24と導線13は、例えば銅または銅合金で構成されている。そして、
図5の第4工程S04で用いられるエネルギービーム42は、例えば、波長が400~600nmのレーザ光である。従って、
図5の第4工程S04で、銅または銅合金の溶融接合に好適なエネルギービーム42を用いることになる。そのため、線間被膜14が或る程度の厚みを有していても、複数の導線13と金属部材接続部25との溶融接合において接合不良を抑制しつつ、高い生産性でその溶融接合を行うことが可能である。
【0048】
(6)また、本実施形態によれば、
図5の第4工程S04で実施されるエネルギービーム42の照射は複数回である。従って、そのエネルギービーム42の照射により溶融される範囲が照射熱の伝導に起因して過度に拡がることを回避しつつ、所望の範囲を適切に溶融させることが可能である。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。また、前述の実施形態と同一または均等な部分については省略または簡略化して説明する。
【0050】
図5の第4工程S04においてエネルギービーム42の照射は、前述の第1実施形態では複数回行われるが、本実施形態では1回である。但し、本実施形態では、
図9に示すように、エネルギービーム42の照射中にエネルギービーム42のエネルギー密度Edが時間経過に従って変化させられる。
【0051】
具体的に、
図9のt0時点からエネルギービーム42の照射が開始され、そのエネルギービーム42は、
図10に示すように、撚線12の先端部121に対する撚線長手方向Daの一方側から先端部121およびその先端部121周りに対し照射される。このときのエネルギービーム42のエネルギー密度Edは第1所定値E1にされ、エネルギー密度Edが第1所定値E1にされたエネルギービーム42の照射は
図9のt1時点まで継続される。
【0052】
このt0時点からt1時点までのエネルギービーム42の照射により、撚線12の先端部121が含む線間被膜14が除去される。例えば、撚線12の先端部121が含む線間被膜14は、その先端部121がエネルギービーム42の照射により加熱されることに伴って、
図10の矢印B3で示すように蒸発または焼失する。
【0053】
図9のt0時点からt1時点までの照射時間と第1所定値E1は、エネルギービーム42の照射による溶融範囲が必要以上に拡がるなど照射熱に起因した悪影響を回避し、且つ線間被膜14の除去を短時間で十分に行うことができるように予め実験的に設定されている。例えば本実施形態では、t0時点からt1時点までにおいて、金属部材接続部25および撚線12の先端部121は殆ど溶融しないか、または、全く溶融しない。
【0054】
続いて、
図9のt1時点から、エネルギービーム42のエネルギー密度Edが引き上げられ、第1所定値E1よりも大きい第2所定値E2にされる。エネルギー密度Edが第2所定値E2にされたエネルギービーム42の照射は
図9のt2時点まで継続され、そのt2時点でエネルギービーム42の照射は終了する。そのエネルギービーム42の照射により溶融した撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部は、エネルギービーム42の照射終了後に、境目無く一体となって再凝固する。
【0055】
すなわち、このt1時点からt2時点までのエネルギービーム42の照射により、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが溶融接合される。これにより、
図1に示す接合体10を得ることができる。
【0056】
t1時点からt2時点までの照射時間と第2所定値E2は、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部との溶融接合が短時間で良好な接合状態になるように予め実験的に設定されている。なお、t1時点にて撚線12の線間被膜14が多少残留していたとしても、その線間被膜14の除去は、t2時点までには完了する。
【0057】
(1)このようにすれば、エネルギービーム42が休みなく継続的に照射されるので、エネルギービーム42の照射が間欠的に実施される場合と比較して、接合体10の形状等によっては、
図5の第4工程S04に要する時間を短縮することが可能である。
【0058】
以上説明したことを除き、本実施形態は第1実施形態と同様である。そして、本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0059】
(他の実施形態)
(1)上述の各実施形態では、接合体10は
図3のモータ70に用いられるが、その接合体10は、モータ70以外の用途に用いられて差し支えない。
【0060】
(2)上述の各実施形態では、
図4に示すように、撚線12は導線13を7本有しているが、その導線13の本数に限定はなく、例えば、撚線12が有する導線13は2本でもよいし、8本でもよい。
【0061】
(3)上述の各実施形態では、撚線12が有する導線13は、例えば銅または銅合金で構成されているが、アルミニウムまたはアルミニウム合金など他の金属材料で構成されていても差し支えない。
【0062】
(4)上述の各実施形態では、
図1に示す金属部材24は、例えば銅または銅合金で構成されているが、アルミニウムまたはアルミニウム合金など他の金属材料で構成されていても差し支えない。
【0063】
(5)上述の各実施形態では、
図4に示す線間被膜14を構成する第1絶縁性樹脂は、例えばAI樹脂であるが、これは一例である。例えば、その第1絶縁性樹脂は、PEI樹脂、PA樹脂、PI樹脂、PAI樹脂、PES樹脂、ウレタン樹脂、またはPPS樹脂であっても差し支えない。なお、PEI樹脂はポリエーテルイミド樹脂の略であり、PA樹脂はポリアミド樹脂の略であり、PI樹脂はポリイミド樹脂の略である。また、PAI樹脂はポリアミドイミド樹脂の略であり、PES樹脂はポリエーテルサルフォン樹脂の略であり、PPS樹脂はポリフェニレンサルファイド樹脂の略である。
【0064】
(6)上述の各実施形態では、
図4に示す線間被膜14の厚みは、平均で3~30μmとされているが、好ましくは、平均で3~15μmとされるのがよい。
【0065】
(7)上述の各実施形態では、
図4に示す外層被膜16を構成する第2絶縁性樹脂は、例えばPEEK樹脂であるが、これは一例である。例えば、その第2絶縁性樹脂は、PEI樹脂、PA樹脂、PI樹脂、PAI樹脂、PES樹脂、ウレタン樹脂、PPS樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、またはLCP樹脂であっても差し支えない。なお、LCP樹脂は液晶ポリマー樹脂の略である。
【0066】
(8)上述の各実施形態では、
図4に示す線間被膜14を構成する第1絶縁性樹脂と、外層被膜16を構成する第2絶縁性樹脂は異なるが、それらは同じ樹脂であっても差し支えない。
【0067】
(9)上述の各実施形態では、
図1に示すように、金属部材24は例えばバスバであるが、ターミナルなどの他の金属部品であっても差し支えない。
【0068】
(10)上述の各実施形態では、
図5の第2工程S02では、
図6に示すように、撚線12のうち先端部121および先端延設部122の外層被膜16がレーザ光40によって剥離されるが、これは一例である。例えば、その外層被膜16は刃物による切削によって機械的に剥離除去されてもよいし、溶剤によって剥離除去されてもよい。
【0069】
また、第2工程S02では、外層被膜16は撚線12の先端部121および先端延設部122から完全に除去される必要はなく、例えば、撚線12の先端部121と金属部材接続部25との溶融接合を阻害しない程度であれば、僅かに残留していても差し支えない。この場合でも、外層被膜16が先端部121および先端延設部122で剥離されていることに変わりはない。
【0070】
(11)上述の第1実施形態では、
図8A~
図8Cに示すように、エネルギービーム42の照射は3回行われるが、これは一例である。そのエネルギービーム42の照射回数は、撚線12および金属部材24の形状や大きさなどに応じて適宜定められるものであり、2回であることも4回以上であることも想定できる。
【0071】
例えば、2回目のエネルギービーム42の照射で、
図8Cに示すように、撚線12の先端部121に線間被膜14が残存せずに、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが十分に混ざり合えば、エネルギービーム42の照射回数は2回でよい。
【0072】
また、3回目のエネルギービーム42の照射を行っても、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部との混ざり合いが、
図8Bに示すように十分ではない場合には、4回以上、エネルギービーム42を照射する。そして、撚線12の先端部121と金属部材接続部25の一部とが、
図8Cに示すように十分に混ざり合うまで、エネルギービーム42の照射回数を重ねるのがよい。
【0073】
(12)上述の各実施形態では、
図4に示すように、撚線12が有する樹脂膜または樹脂層は線間被膜14と外層被膜16だけであるが、これは一例である。例えば、撚線12は、その線間被膜14と外層被膜16とに加え、その線間被膜14と外層被膜16との間に設けられた中間膜を有していてもよい。例えば、その中間膜が設けられている場合、中間膜は、第1絶縁性樹脂と第2絶縁性樹脂との中間の線膨張率を有する樹脂材料で構成されるのがよい。そして、この中間膜は、
図5の第4工程S04で、エネルギービーム42の照射によって、撚線12の先端部121から線間被膜14と共に除去される。
【0074】
(13)上述の各実施形態では、
図5の第4工程S04で用いられるエネルギービーム42は、例えば、波長が400~600nmのレーザ光であり、これが好ましいが、そのレーザ光に限定される必要はない。例えば、撚線12および金属部材24の構成や材質などに応じて、
図5の第4工程S04では、電子ビームなど他のエネルギービームが用いられてもよい。
【0075】
(14)上述の各実施形態では、
図2に示すように、接合体10は、複数の導線13が撚られた撚線12を備えるが、これは一例である。その撚線12は、複数の導線13が撚られることなく束ねられた単なる束線に置き換えられても差し支えない。
【0076】
(15)なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0077】
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
10 接合体
12 撚線(束線)
13 導線
14 線間被膜
24 金属部材
25 金属部材接続部
121 先端部
122 先端延設部
Da 撚線長手方向(束線の長手方向)