(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
B64D 27/355 20240101AFI20240618BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240618BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240618BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240618BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240618BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240618BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240618BHJP
【FI】
B64D27/355
B64C27/08
B64C39/02
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04858
(21)【出願番号】P 2021121852
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大浦 淳一
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0000639(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0249985(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0297544(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/08
B64C 39/02
B64D 27/00
B64D 37/00
B64U 10/13
B64U 50/00
H01M 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運搬対象物を積載可能な飛行体であって、
プロペラを駆動するモータと、
前記モータに電力を供給する燃料電池と、
前記燃料電池にコンバータを介することなく並列に接続されており、前記燃料電池の出力電圧に応じて受動的に充電又は放電される二次電池と、
を備え、
前記運搬対象物が最大積載量まで積載されたときに、前記燃料電池の定格運転における前記出力電圧は第1電圧値となり、
前記燃料電池の前記出力電圧が前記第1電圧値であるときに、前記二次電池は第1充電率以上の充電率まで充電され、
前記第1充電率まで充電された前記二次電池には、前記飛行体が許容された最大高度から着陸するのに要する電力量が蓄電され
、
前記運搬対象物が積載されていないときに、前記燃料電池の定格運転における前記出力電圧は、前記第1電圧値よりも大きい第2電圧値となり、
前記燃料電池の出力電圧が前記第2電圧値であるときに、前記二次電池は、第2充電率未満の充電率まで充電され、
前記第2充電率は、前記第1充電率以上であって、かつ、100パーセントよりも小さい、飛行体。
【請求項2】
前記飛行体の着陸に要する電力量は、前記運搬対象物が最大積載量まで積載された状態で前記燃料電池が定格運転したときの出力電力に、前記着陸に必要とされる所要時間を乗じた値である、請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記着陸に必要とされる所要時間は、前記許容された最大高度を、前記飛行体に許容された最大降下速度で除した値である、請求項2に記載の飛行体。
【請求項4】
前記二次電池は、前記第2充電率から100パーセントまで充電されるまでに、所定の電力量をさらに蓄電可能であり、
前記所定の電力量は、前記モータの消費電力に想定される変動の幅に、当該想定される変動の継続時間を乗じた電力量よりも大きい、請求項
1から3のいずれか一項に記載の飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、運搬対象物を積載可能な飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、飛行体が開示されている。飛行体は、動力源であるバッテリーと、バッテリーを充電可能な発電機とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許国際公開WO2017/030034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した飛行体では、発電機によって生成された電力を蓄電池に充電するために、発電機と蓄電池とを、コンバータを介して接続する必要がある。飛行体にコンバータを設けると、飛行体のサイズや重量を無用に増大させてしまう。本明細書では、飛行体を軽量化及び小型化し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する飛行体は、運搬対象物を積載可能な飛行体であって、プロペラを駆動するモータと、モータに電力を供給する燃料電池と、燃料電池にコンバータを介することなく並列に接続されており、燃料電池の出力電圧に応じて受動的に充電又は放電される二次電池と、を備える。運搬対象物が最大積載量まで積載されたときに、燃料電池の定格運転における出力電圧は第1の電圧値となる。燃料電池の出力電圧が前記第1の電圧値であるときに、二次電池は第1充電率以上の充電率まで充電される。そして、第1充電率まで充電された二次電池には、飛行体が許容された最大高度から着陸するのに要する電力量が蓄電される。
【0006】
上記した飛行体では、モータに電力を供給する燃料電池と二次電池との両者が、コンバータを介することなく並列に接続されている。これにより、飛行体を軽量化することができると共に、運搬対象物の積載スペースを広く確保することができる。その一方で、燃料電池と二次電池との間が、コンバータを介することなく接続されていると、燃料電池の出力電圧に応じて、二次電池は受動的に充電又は放電されることになる。
【0007】
燃料電池が定格運転している場合、燃料電池の出力電圧は、運搬対象物の積載量に応じて変化し、積載量が多くなるほど(即ち、モータの消費電力が大きくなるほど)、燃料電池の出力電圧は低くなる。従って、飛行体に運搬対象物が最大積載量まで積載されると、燃料電池の出力電圧は最も低くなり、その結果、二次電池の充電率も最も低くなる。即ち、上記した構成において、第1の電圧値は、燃料電池の出力電圧に想定される最小値を意味し、第1充電率は、二次電池の充電率に想定される最小値を意味する。
【0008】
飛行体では、例えば意図しない状況に備えて、いつでも着陸可能であることが求められる。この点に関して、上記した飛行体では、二次電池の充電率が、運搬対象物の積載量にかかわらず、第1充電率を下回ることがない。そして、少なくとも第1充電率まで充電された二次電池には、飛行体が許容された最大高度から着陸するのに要する電力量が蓄電される。このような構成によると、二次電池の充放電がコンバータ等で制御される構成でなくても、運搬対象物の積載量や飛行体の飛行高度にかかわらず、飛行体が着陸するのに要する電力量を、二次電池に確保しておくことができる。これにより、飛行体は、例えば燃料電池に異常が発生し、二次電池の電力で着陸動作を実行する場合に、着陸動作を地上まで確実に継続することができる。
【0009】
上記に加えて、又は代えて、飛行体に運搬対象物が積載されていないときは、燃料電池の定格運転における出力電圧が、前記した第1電圧値よりも大きい第2電圧値となってもよい。この場合、燃料電池の出力電圧が第2電圧値であるときに、二次電池は第2充電率未満の充電率まで充電されてもよい。そして、二次電池は、第2充電率から100パーセントまで充電されるまでに、所定の電力量をさらに蓄電可能であってもよく、この所定の電力量は、モータの消費電力に想定される変動の幅に、当該想定される変動の継続時間を乗じた電力量よりも大きくてもよい。
【0010】
前述したように、燃料電池の出力電圧は、運搬対象物の積載量に応じて変化する。従って、飛行体に運搬対象物が積載されていないときに、燃料電池の出力電圧は最も高くなり、その結果、二次電池の充電率も最も高くなる。即ち、上記した構成において、第2電圧値は、燃料電池の出力電圧に想定される最大値を意味し、第2充電率は、二次電池の充電率に想定される最大値を意味する。
【0011】
飛行体では、モータの消費電力が、運搬対象物の積載量だけでなく、例えば風向きや風速といった外乱によっても変動する。この場合、二次電池の充電率は、第2充電率を上回ることがあり、外乱の程度によっては、二次電池が過充電されるおそれがある。この点に関して、上記した飛行体では、二次電池が、第2充電率から100パーセントまで充電されるまでに、所定の電力量をさらに蓄電可能に構成されており、その所定の電力量は、モータの消費電力に想定される変動の幅に、当該想定される変動の継続時間を乗じた電力量よりも大きい。このような構成によると、飛行体に運搬対象物が積載されていない状態で、モータの消費電力に変動が生じた場合であっても、二次電池の過充電を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】二次電池及び燃料電池の電流-電圧曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本技術一実施形態において、飛行体の着陸に要する電力量は、運搬対象物が最大積載量まで積載された状態で燃料電池が定格運転したときの出力電力に、着陸に必要とされる所要時間を乗じた値であってよい。このような構成によると、運搬対象物が最大積載量まで積載された状態で、二次電池の着陸動作を実行する場合であっても、着陸動作を地上まで確実に継続することができる。
【0014】
本技術の一実施形態において、着陸に必要とされる所要時間は、許容された最大高度を、飛行体に許容された最大降下速度で除した値であってよい。このような構成によると、二次電池による着陸動作を、飛行体に許容された最大降下速度以下で実行することができる。
【0015】
図面を参照して、本実施例の飛行体10について説明する。飛行体10は、運搬対象物を積載することができると共に、運搬対象物を積載した状態で飛行することができる。飛行体10は、いわゆるマルチコプタである。但し、飛行体10は、マルチコプタに限定されず、プロペラによって揚力を得るヘリコプタであればよい。また、飛行体10は、人が搭乗しない無人の飛行体であってもよく、人が搭乗する有人の飛行体であってもよい。
【0016】
図1に示すように、飛行体10は、燃料電池12と、二次電池14と、プロペラ16と、モータ18と、電源コントローラ20と、を備える。
【0017】
プロペラ16は、モータ18に接続されており、モータ18によって駆動する。プロペラ16がモータ18の動作に応じて回転することによって、飛行体10に揚力が発生する。プロペラ16の数は限定されない。
【0018】
燃料電池12は、不図示の燃料容器から供給された燃料ガスを使用することによって、電気を生成する。燃料電池12は、電力線24を通ってモータ18に接続されている。燃料電池12によって生成された電力は、電力線24を通ってモータ18に供給される。
【0019】
二次電池14は、電力線24に接続されている。二次電池14は、電力線24を介して燃料電池12に並列に接続され、燃料電池12と共にモータ18に接続されている。燃料電池12と二次電池14との間には、燃料電池12に向かう電流を遮断するためのダイオード22が挿入されている。二次電池14で生成された電流は、ダイオード22によって燃料電池12へ流れることが禁止されるとともに、電力線24を通ってモータ18に供給される。二次電池14は、燃料電池12が生成した電力を充電することもできる。
【0020】
電源コントローラ20は、燃料電池12に電気的に接続されている。電源コントローラ20は、燃料電池12に供給される燃料ガスの量を制御することによって、燃料電池12の出力電力を制御することができる。電源コントローラ20は、燃料電池12から供給された電力によって駆動可能に構成される。
【0021】
前述したように、モータ18に電力を供給する燃料電池12と二次電池14との両者は、コンバータを介することなく並列に接続されている。これにより、飛行体10を軽量化することができると共に、運搬対象物の積載スペースを広く確保することができる。その一方で、燃料電池12と二次電池14との間が、コンバータを介することなく接続されていると、燃料電池12の出力電圧に応じて、二次電池14は受動的に充電又は放電されることになる。
【0022】
ここで、
図2に、燃料電池12の電流-電圧曲線(以下、「IV曲線」と称することがる)L1と、二次電池14のIV曲線L2と、を示す。IV曲線L1が示すように、燃料電池12の出力電圧は、燃料電池12の出力電流に応じて変化し、出力電流が小さくなるほど出力電圧は大きくなる。
【0023】
燃料電池12が定格運転している場合、燃料電池12の出力電圧は、運搬対象物の積載量に応じて変化し、その積載量が多くなるほど(即ち、モータ18の消費電力が大きくなるほど)、燃料電池12の出力電圧は低くなる。従って、飛行体10に運搬対象物が最大積載量まで積載されると、
図2の点a1に示されるように、燃料電池12の出力電圧は、最も低い値である電圧値V1になる。以下では、この電圧値を第1電圧値V1と称する。その結果、燃料電池12の出力電圧(即ち第1電圧値V1)に応じて受動的に充電又は放電される二次電池14の充電率も、最も低くなる。この場合の二次電池14の充電率を、第1充電率CR1と称する。即ち、第1電圧値V1は、燃料電池12の出力電圧に想定される最小値を意味し、第1充電率CR1は、二次電池14の充電率に想定される最小値を意味する。
【0024】
飛行体10では、例えば意図しない状況に備えて、いつでも着陸可能であることが求められる。この点に関して、上記した飛行体10では、二次電池14の充電率が、運搬対象物の積載量にかかわらず、第1充電率CR1を下回ることがない。そして、少なくとも第1充電率CR1まで充電された二次電池14には、飛行体10が許容された最大高度から着陸するのに要する電力量が蓄電されるように設計されている。このような構成によると、二次電池14の充放電がコンバータ等で制御される構成でなくても、運搬対象物の積載量や飛行体10の飛行高度にかかわらず、飛行体10が着陸するのに要する電力量を、二次電池14に確保しておくことができる。これにより、飛行体10は、例えば燃料電池12に異常が発生し、二次電池14の電力で着陸動作を実行する場合に、着陸動作を地上まで確実に継続することができる。
【0025】
従って、二次電池14の第1充電率CR1は、飛行体10の着陸動作に要する電力量に基づいて決定される。飛行体10の着陸に要する電力量は、運搬対象物が最大積載量まで積載された状態で燃料電池12が定格運転したときの出力電力V1に、着陸動作に必要とされる所要時間を乗じた値であってよい。このような構成によると、運搬対象物が最大積載量まで積載された状態で、例えば、燃料電池12に異常が発生し、二次電池14の電力で着陸動作を実行する場合であっても、着陸動作を地上まで確実に継続することができる。
【0026】
また、上述の着陸動作に必要とされる所要時間[s]は、飛行体10が許容された最大高度[m]を、飛行体10に許容された最大降下速度[m/s]で除した値であってよい。このような構成によると、飛行体10は、飛行体10に許容された最大降下速度以下で着陸動作を実行することができる。ここで、飛行体10に許容された最大降下速度は、飛行体10の構成や運搬対象物等に応じて適宜定められていてよい。
【0027】
次いで、飛行体10に運搬対象物が積載されていない場合について説明する。前述したように、燃料電池12の出力電圧は、運搬対象物の積載量に応じて変化する。従って、
図2の点a2に示されるように、飛行体10に運搬対象物が積載されていないときの燃料電池12の出力電圧は、最も高い値である電圧V2になる。以下では、この電圧値を、第2電圧値V2と称する。その結果、燃料電池12の出力電圧(即ち第2電圧値V2)に応じて受動的に充電又は放電される二次電池14の充電率も、最も高くなる。この場合の二次電池14の充電率を、第2充電率CR2と称する。即ち、第2電圧値V2は、燃料電池12の出力電圧に想定される最大値を意味し、第2充電率CR2は、二次電池14の充電率に想定される最大値を意味する。
【0028】
飛行体10では、モータ18の消費電力が、運搬対象物の積載量だけでなく、例えば風向きや風速といった外乱によっても変動する。この場合、二次電池14の充電率は、第2充電率CR2を上回ることがあり、外乱の程度によっては、二次電池14が過充電されるおそれがある。この点に関して、本実施例の飛行体10では、二次電池14が、第2充電率CR2から100パーセントまで充電されるまでに、所定の電力量をさらに蓄電可能に構成されている。この所定の電力量は、モータ18の消費電力に想定される変動の幅に、当該想定される変動の継続時間を乗じた電力量よりも大きい。
【0029】
即ち、第2充電率CR2は、モータ18の消費電力に想定される変動を考慮して、100%に一定の余裕(即ちマージン)を与えて設定されている。このマージンの最小値は、モータ18の消費電力に想定される変動の幅[kW]に、当該想定される変動の継続時間[h]を乗じた値を、二次電池14の充電率1%当たりのエネルギー量[kWh/%]で除することによって算出される。従って、第2充電率CR2は、100%から、上記のマージンを減じた値よりも小さい。このような構成によると、飛行体10に運搬対象物が積載されていない状態で、モータ18の消費電力に変動が生じた場合であっても、二次電池14の過充電を回避することができる。
【0030】
以上、本技術の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0031】
10:飛行体
12:燃料電池
14:二次電池
16:プロペラ
18:モータ
20:電源コントローラ
22:ダイオード
24:電力線