(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】電動飛行体の制御装置及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B64D 27/357 20240101AFI20240618BHJP
B64C 27/26 20060101ALI20240618BHJP
B64D 27/34 20240101ALI20240618BHJP
B64D 31/16 20240101ALI20240618BHJP
【FI】
B64D27/357
B64C27/26
B64D27/34
B64D31/16
(21)【出願番号】P 2021194046
(22)【出願日】2021-11-30
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】竹村 優一
(72)【発明者】
【氏名】福士 正人
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022266(WO,A1)
【文献】特開2021-90315(JP,A)
【文献】国際公開第2017/206032(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0339010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/26
B64D 27/30-27/359
B64D 31/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ(31)の電力により回転翼(20)が駆動回転して飛行する電動飛行体(10)に設けられ、前記電動飛行体を制御する電動飛行体の制御装置(40)であって、
前記バッテリの温度をバッテリ温度(Tbt)として取得する温度取得部(S102)と、
前記温度取得部により取得された前記バッテリ温度が前記電動飛行体の離陸を許可するための離陸許可温度(TA)よりも低い場合に、前記電動飛行体の離陸を制限する離陸制限部(S104)と、
前記離陸制限部により前記電動飛行体の離陸が制限された場合に、前記バッテリ温度を上昇させるためのバッテリ昇温処理を行うバッテリ昇温部(S202,S301,S302,S404)と、
前記バッテリ昇温部により前記バッテリ昇温処理が行われている状態で、前記バッテリ温度が前記離陸許可温度よりも高い制限解除温度(TB)を超えた場合に、前記電動飛行体の離陸制限を解除する制限解除部(S204,S408)と、
を備えている電動飛行体の制御装置。
【請求項2】
前記バッテリ昇温部として、
前記バッテリ温度が上昇するように前記バッテリから通電対象(50)に対して電流(Ibt)を出力させる出力実行部(S202,S404)、を備えている請求項
1に記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項3】
前記出力実行部として、
前記バッテリ温度が前記離陸許可温度よりも低く、且つ前記バッテリの蓄電量(Pbt)が目標量(PA)に達している場合に、前記バッテリから前記通電対象に対して電流(Ibt)を出力させる電流実行部(S404)、を備えている請求項
2に記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項4】
前記電動飛行体には、前記バッテリからの電力により前記回転翼を駆動回転させる駆動装置(50)が設けられており、
前記バッテリ昇温部として、
前記バッテリ温度が上昇するように前記駆動装置を駆動させる駆動実行部(S202)、を備えている請求項
1~3のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項5】
充電装置により前記バッテリの充電が行われている状態で前記駆動実行部により前記駆動装置が駆動され、且つ前記バッテリの蓄電量(Pbt)が下限量(PB)まで減少した場合に、前記駆動装置の駆動を停止させる駆動停止部(S406)、を有している請求項
4に記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項6】
前記電動飛行体は、前記回転翼を少なくとも4つ有しており、
前記駆動実行部は、少なくとも2つの前記回転翼が駆動回転するように前記駆動装置を駆動させる、請求項
4又は
5に記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項7】
前記電動飛行体には、発熱する発熱部(101)と、前記発熱部の熱を前記バッテリに付与するための熱媒体を循環させる循環部(102)とを有する加熱装置(100)が設けられており、
前記バッテリ昇温部として、
前記バッテリ温度が上昇するように前記加熱装置を駆動させる加熱実行部(S301,S302)、を備えている請求項
1~6のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項8】
前記バッテリ昇温部により前記バッテリ昇温処理が行われている状態で、前記バッテリ温度が前記離陸許可温度よりも高い昇温終了温度(TB)を超えた場合に、前記バッテリ昇温処理を終了させる昇温終了部(S205,S409)、を備えている請求項
1~7のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項9】
前記バッテリ昇温部は、上限時間(S1,S2)が経過しても前記バッテリ温度が昇温終了温度(TB)を超えない場合に前記バッテリ昇温処理を終了する、請求項
1~8のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項10】
前記バッテリ昇温部による前記バッテリ昇温処理が行われた後に、前記バッテリ温度の下降を規制するための降温規制処理を行う降温規制部(S108)、を備えている請求項
1~9のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項11】
前記離陸制限部は、前記電動飛行体の離陸を禁止する、請求項1~
10のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項12】
前記離陸制限部は、前記バッテリ温度が前記離陸許可温度よりも高い場合に前記電動飛行体の離陸を制限しない、請求項1~
11のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項13】
前記電動飛行体は、
前記バッテリの電力により駆動するモータを含み、前記モータの駆動により前記回転翼を駆動回転させる駆動装置(50)、を有しており、
前記駆動装置の駆動により飛行する電動航空機である、請求項1~
12のいずれか1つに記載の電動飛行体の制御装置。
【請求項14】
バッテリ(31)の電力により回転翼(20)が駆動回転して飛行する電動飛行体(10)に設けられ、前記電動飛行体を制御する電動飛行体の
制御プログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサに、
前記バッテリの温度をバッテリ温度(Tbt)として取得させ(S102)、
前記バッテリ温度が前記電動飛行体の離陸を許可するための離陸許可温度(TA)よりも低い場合に、前記電動飛行体の離陸を制限させ(S104)、
前記電動飛行体の離陸が制限された場合に、前記バッテリ温度を上昇させるためのバッテリ昇温処理を行わせ(S202,S301,S302,S404)、
前記バッテリ昇温処理が行われている状態で、前記バッテリ温度が前記離陸許可温度よりも高い制限解除温度(TB)を超えた場合に、前記電動飛行体の離陸制限を解除させる(S204,S408)、電動飛行体の
制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、電動飛行体の制御装置及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の回転翼により飛行する無人飛行体について記載されている。この無人飛行体では、電動モータの駆動により回転翼が駆動回転する。電動モータは、バッテリから供給される電力により駆動可能である。この無人飛行体は、電動式の電動飛行体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の無人飛行体は、電動式の電動飛行体である。電動飛行体においては、バッテリの温度が低すぎると、バッテリの出力が不安定になるなどして回転翼の出力が不足することが懸念される。回転翼の出力が不足すると、電動飛行体が飛行する際の安全性が低下しやすくなってしまう。
【0005】
本開示の主な目的は、電動飛行体においてバッテリの温度が低下した場合の安全性を高めることができる電動飛行体の制御装置及び制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲及びこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するため、開示された態様は、
バッテリ(31)の電力により回転翼(20)が駆動回転して飛行する電動飛行体(10)に設けられ、電動飛行体を制御する電動飛行体の制御装置(40)であって、
バッテリの温度をバッテリ温度(Tbt)として取得する温度取得部(S102)と、
温度取得部により取得されたバッテリ温度が電動飛行体の離陸を許可するための離陸許可温度(TA)よりも低い場合に、電動飛行体の離陸を制限する離陸制限部(S104)と、
離陸制限部により電動飛行体の離陸が制限された場合に、バッテリ温度を上昇させるためのバッテリ昇温処理を行うバッテリ昇温部(S202,S301,S302,S404)と、
バッテリ昇温部によりバッテリ昇温処理が行われている状態で、バッテリ温度が離陸許可温度よりも高い制限解除温度(TB)を超えた場合に、電動飛行体の離陸制限を解除する制限解除部(S204,S408)と、
を備えている電動飛行体の制御装置である。
開示された態様は、
バッテリ(31)の電力により回転翼(20)が駆動回転して飛行する電動飛行体(10)に設けられ、電動飛行体を制御する電動飛行体の制御プログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサに、
バッテリの温度をバッテリ温度(Tbt)として取得させ(S102)、
バッテリ温度が電動飛行体の離陸を許可するための離陸許可温度(TA)よりも低い場合に、電動飛行体の離陸を制限させ(S104)、
電動飛行体の離陸が制限された場合に、バッテリ温度を上昇させるためのバッテリ昇温処理を行わせ(S202,S301,S302,S404)、
バッテリ昇温処理が行われている状態で、バッテリ温度が離陸許可温度よりも高い制限解除温度(TB)を超えた場合に、電動飛行体の離陸制限を解除させる(S204,S408)、電動飛行体の制御プログラムである。
【0008】
上記態様によれば、バッテリの温度が離陸許可温度よりも低い場合、電動飛行体の離陸が制限される。この構成では、バッテリの温度が離陸許可温度よりも低いことに起因して回転翼の出力不足が懸念されるにもかかわらず電動飛行体が離陸してしまう、ということを抑制できる。このため、電動飛行体においてバッテリの温度が低下した場合の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態におけるeVTOLの構成を示す図。
【
図2】飛行システムの電気的な構成を示すブロック図。
【
図5】バッテリ温度の変化態様、及びバッテリ出力電流の変化態様を示す図。
【
図6】第2実施形態における飛行システムの電気的な構成を示すブロック図。
【
図8】第3実施形態における昇温制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0011】
<第1実施形態>
図1に示す飛行システム30は、eVTOL10に搭載されている。eVTOL10は、電動垂直離着陸機である。電動垂直離着陸機は、電動式の垂直離着陸機であり、垂直離着陸することが可能である。eVTOLは、electric Vertical Take-Off and Landing aircraftの略称である。eVTOL10は、大気中を飛行する電動式の飛行体である。eVTOL10は、電動式の航空機でもあり、電動航空機と称されることがある。eVTOL10は、乗員が乗る有人飛行体である。eVTOL10の乗員には、操縦者としてのパイロットが含まれる。飛行システム30は、eVTOL10を飛行させるために駆動するシステムである。飛行システム30は、推進システムと称されることがある。
【0012】
eVTOL10は、機体11及びロータ20を有している。機体11は、機体本体12及び翼13を有している。機体本体12は、機体11の胴体であり、例えば前後に延びた形状になっている。機体本体12は、乗員が乗るための乗員室を有している。翼13は、機体本体12から延びており、機体本体12に複数設けられている。翼13は固定翼である。複数の翼13には、主翼、尾翼などが含まれている。
【0013】
ロータ20は、機体11に複数設けられている。eVTOL10には、少なくとも4つのロータ20が設けられている。ロータ20は、機体本体12及び翼13のそれぞれに設けられている。ロータ20は、ロータ軸線を中心に回転する。ロータ軸線は、ロータ20の回転軸線であり、ロータ20の中心線に一致している。ロータ20は、回転翼であり、eVTOL10に推力及び揚力を生じさせることが可能である。なお、eVTOL10が上昇する際に生じる力は推力と称されることがある。
【0014】
ロータ20は、ブレード21、ロータヘッド22及びロータシャフト23を有している。ブレード21は、周方向に複数並べられている。ロータヘッド22は、複数のブレード21を連結している。ブレード21は、ロータヘッド22から径方向に延びている。ブレード21は、ロータシャフト23と共に回転する羽根である。ロータシャフト23は、ロータ20の回転軸であり、ロータヘッド22からロータ軸線に沿って延びている。
【0015】
eVTOL10は、チルトロータ機である。eVTOL10においては、ロータ20を傾けることが可能になっている。すなわち、ロータ20のチルト角が調整可能になっている。例えば、eVTOL10が上昇する場合には、ロータ軸線が上下方向に延びるようにロータ20の向きが設定される。この場合、ロータ20は、eVTOL10に揚力を生じさせるためのリフト用ロータとして機能する。リフト用ロータは、eVTOL10をホバリングさせるためのホバリング用ロータとしても機能する。また、リフト用ロータは、eVTOL10を下降させることも可能である。なお、ホバリング用ロータはホバー用ロータと称されることがある。
【0016】
eVTOL10が前方に進む場合には、ロータ軸線が前後方向に延びるようにロータ20の向きが設定される。この場合、ロータ20は、eVTOL10に推力を生じさせるためのクルーズ用ロータとして機能する。本実施形態では、パイロットにとっての前方をeVTOL10にとっての前方としている。なお、パイロットにとっての前方に関係なく、水平方向のうちeVTOL10が進む向きを前方としてもよい。この場合、eVTOL10は、進行方向を変えても常に前方に進んでいることになる。
【0017】
eVTOL10は、図示しないチルト機構を有している。チルト機構は、モータ等を含んで構成されており、ロータ20のチルト角を調整するために駆動する。チルト機構は、チルト駆動部と称されることがある。例えば、eVTOL10においては、翼13を機体本体12に対して相対的に傾けることが可能になっている。すなわち、翼13ごとロータ20を傾けることが可能になっている。このeVTOL10においては、機体本体12に対する翼13の傾斜角度が調整されることで、ロータ20のチルト角が調整される。このeVTOL10においては、翼13の傾斜角度を調整する機構がチルト機構である。
【0018】
なお、eVTOL10においては、ロータ20が機体11に対して相対的に傾くことが可能になっていてもよい。例えば、翼13に対するロータ20の相対的な傾斜角度が調整されることで、ロータ20のチルト角が調整されてもよい。
【0019】
図1、
図2に示すように、飛行システム30は、駆動バッテリ31、分配器32、コンバータ33、外気温度センサ36、補機バッテリ39、飛行制御装置40、EPU50を有している。EPU50は、回転センサ55、電流センサ56、電圧センサ57を有している。駆動バッテリ31は、電流センサ31a、電圧センサ31bを有している。飛行制御装置40は、記憶装置35を有している。
図2では、駆動バッテリ31をBTE、記憶装置35をFSD、外気温度センサ36をOTS、補機バッテリ39をBTA、飛行制御装置40をFCD、と図示している。EPU50においては、回転センサ55をRS、電流センサ56をIS、電圧センサ57をVSと図示している。駆動バッテリ31においては、電流センサ31aをIS、電圧センサ31bをVSと図示している。なお、
図2では、分配器32の図示を省略している。
【0020】
EPU50は、ロータ20を駆動回転させるために駆動する装置であり、駆動装置に相当する。EPUは、Electric Propulsion Unitの略称である。EPU50は、電駆動装置と称されることがある。EPU50は、複数のロータ20のそれぞれに対して個別に設けられている。EPU50は、ロータ軸線に沿ってロータ20に並べられている。複数のEPU50はいずれも、機体11に固定されている。EPU50は、ロータ20を回転可能に支持している。EPU50は、ロータシャフト23に機械的に接続されている。複数のEPU50には、機体11の外側にはみ出した状態で機体11に固定されたEPU50、及び機体11の内側に埋め込まれた状態で機体11に固定されたEPU50、の少なくとも一方が含まれている。
【0021】
ロータ20は、EPU50を介して機体11に固定されている。EPU50は、ロータ20に対して相対的に傾くということが生じないようになっている。EPU50は、ロータ20と共に傾くことが可能になっている。ロータ20のチルト角が調整される場合、ロータ20と共にEPU50の向きが設定されることになる。
【0022】
EPU50は、モータ装置80及びインバータ装置60を有している。モータ装置80は、モータ及びモータハウジングを有している。モータはモータハウジングに収容されている。モータは、複数相の交流モータであり、例えば3相交流方式の回転電機である。モータは、eVTOL10の飛行駆動源である電動機として機能する。モータは、回転子及び固定子を有している。モータは、駆動バッテリ31の電力により駆動される。EPU50においては、モータの回転軸がロータ20に接続されており、モータの回転軸が回転することでロータ20が回転する。EPU50は、モータの駆動によりロータ20を駆動回転させる。モータとしては、例えばブラシレスモータが用いられている。なお、モータとしては、誘導モータやリアクタンスモータが用いられてもよい。
【0023】
インバータ装置60は、インバータ及びインバータハウジングを有している。インバータはインバータハウジングに収容されている。インバータは、モータに供給する電力を変換することでモータを駆動する。インバータは、駆動部と称されることがある。インバータは、モータに供給される電力を直流から交流に変換する。インバータは、電力を変換する電力変換部である。インバータは、複数相の電力変換部であり、複数相のそれぞれについて電力変換を行う。インバータは、例えば3相インバータである。モータは、インバータから供給される電圧及び電流に応じて駆動する。
【0024】
EPU50においては、センサ55~57の検出結果などに応じてモータ装置80の駆動が制御される。例えば、EPU50は、モータ装置80の駆動を制御する駆動制御部を有している。駆動制御部は、インバータ、センサ55~57に電気的に接続されている。センサ55~57は、検出結果を駆動制御部に対して出力する。駆動制御部は、インバータを介してモータ制御を行う。駆動制御部は、飛行制御装置40に電気的に接続されており、飛行制御装置40からの信号に応じてモータ制御を行う。なお、飛行制御装置40がEPU50についてモータ等の制御を直接的に行ってもよい。
【0025】
回転センサ55は、モータに対して設けられている。回転センサ55は、モータの回転数を検出する。回転センサ55は、例えばエンコーダやレゾルバなどを含んで構成されている。モータの回転数は、例えば単位時間当たりの回転数である。電流センサ56は、モータに流れる電流をモータ電流として検出する。電流センサ56は、例えば複数相のそれぞれについてモータ電流を検出する。電圧センサ57は、インバータから出力される電圧をインバータ電圧として検出する。回転センサ55、電流センサ56及び電圧センサ57は、飛行制御装置40に電気的に接続されており、飛行制御装置40に対して検出信号を出力する。
【0026】
なお、EPU50は、送風ファンを有していてもよい。送風ファンは、モータ装置80及びインバータ装置60に向けて空気を送るように送風することが可能である。送風ファンは、モータの回転軸に接続されており、モータの回転軸と共に回転することが送風する。EPU50においては、送風ファンにより送られた空気がモータ装置80の外面及びインバータ装置60の外面に沿って流れる。モータ装置80及びインバータ装置60の熱が送風ファンからの空気に付与されることで、モータ装置80及びインバータ装置60が放熱して冷却される。
【0027】
駆動バッテリ31は、複数のEPU50に電気的に接続されている。駆動バッテリ31は、EPU50に電力を供給する電力供給部であり、電源部に相当する。駆動バッテリ31は、EPU50を駆動させるためのバッテリであり、駆動用バッテリと称されることがある。駆動バッテリ31は、EPU50に直流電圧を印加する直流電圧源である。駆動バッテリ31は、充放電可能な2次電池を有している。この2次電池としては、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などがある。駆動バッテリ31は、電力を蓄えることが可能であり、蓄電装置に相当する。駆動バッテリ31は、複数のセルを有している。セルは、駆動バッテリ31を構成する蓄電池である。駆動バッテリ31は組電池と称され、セルは電池セル及びバッテリセルと称されることがある。
【0028】
駆動バッテリ31においては、電流センサ31aにより電流が検出される。電流センサ31aは、駆動バッテリ31のバッテリ電流を検出する。バッテリ電流としては、駆動バッテリ31から出力される出力電流、及び駆動バッテリ31に入力される入力電流がある。出力電流は、駆動バッテリ31を放電させる放電電流である。入力電流は、駆動バッテリ31を充電させる充電電流である。
【0029】
駆動バッテリ31の出力電流をバッテリ出力電流Ibtと称し、バッテリ出力電流Ibtが流れる装置及び機器を通電対象と称すると、通電対象は駆動バッテリ31に電気的に接続されている。バッテリ出力電流Ibtにより通電対象への通電が行われると、駆動バッテリ31の電力が消費される。バッテリ出力電流Ibtは、駆動バッテリ31から通電対象に対して出力される電流に相当する。通電対象としては、EPU50、チルト機構、空調装置などがある。空調装置は、乗員室及び積載物が積載される貨物室などを対象として空調を行う。駆動バッテリ31の電力により通電対象が駆動した場合、通電対象の駆動に伴って駆動バッテリ31からバッテリ出力電流Ibtが出力される。この場合、バッテリ出力電流Ibtにより駆動バッテリ31の電力が消費される。バッテリ出力電流Ibtの値が、通電対象に通電される通電量になる。
【0030】
また、駆動バッテリ31においては、電圧センサ31bによりバッテリ電圧が検出される。バッテリ電圧は、駆動バッテリ31が出力する電力の電圧であり、出力電圧である。電流センサ31a及び電圧センサ31bは、飛行制御装置40に電気的に接続されており、飛行制御装置40に対して検出信号を出力する。
【0031】
分配器32は、駆動バッテリ31及び複数のEPU50に電気的に接続されている。分配器32は、駆動バッテリ31からの電力を複数のEPU50に分配する。駆動バッテリ31は、分配器32を介して複数のEPU50に電気的に接続されている。駆動バッテリ31は、分配器32を介してEPU50に電力を供給する。駆動バッテリ31の電圧を高電圧と称すると、EPU50において後述するインバータには高電圧が印加される。なお、駆動バッテリ31の電力が複数のEPU50に供給される構成であれば、分配器32がなくてもよい。分配器32がなくてもよい構成としては、例えば、複数のEPU50のそれぞれに個別に電源部が設けられた構成がある。
【0032】
外気温度センサ36は、外気温度Toaを検出する。外気温度センサ36は、eVTOL10の外側に設けられており、外気温度Toaとして外気の温度を検出する。外気温度センサ36は、飛行制御装置40に電気的に接続されており、飛行制御装置40に対して検出信号を出力する。
【0033】
図2に示す飛行制御装置40は、例えばECUであり、eVTOL10を飛行させるための飛行制御を行う。飛行制御装置40は、飛行システム30を制御する制御装置であり、例えばEPU50を制御する。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。飛行制御装置40は、例えばプロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータを主体として構成されている。マイクロコンピュータはマイコンと称されることがある。メモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、non-transitory tangible storage mediumであり、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0034】
飛行制御装置40は、EPU50に電気的に接続されている。飛行制御装置40は、メモリ及び記憶装置35の少なくとも一方に記憶された制御プログラムを実行することで、飛行制御に関する各種の処理を実行する。飛行制御装置40は、各種センサの検出結果などに応じて飛行制御を行う。各種センサとしては、電流センサ31a及び外気温度センサ36などがある。この飛行制御には、EPU50を駆動する駆動制御、チルト角を調整するチルト角制御、eVTOL10の離陸準備を行う離陸準備制御などが含まれている。記憶装置35は、制御プログラムなど飛行制御に関する情報を記憶している。各種センサとしては、回転センサ55、電流センサ31a,56及び電圧センサ31b,57などがある。なお、記憶装置35は、飛行制御装置40から独立して設けられていてもよい。この場合、記憶装置35と飛行制御装置40とが互いに通信可能であることが好ましい。
【0035】
補機バッテリ39は、コンバータ33を介して飛行制御装置40に電気的に接続されている。補機バッテリ39は、飛行制御装置40に電力を供給する電力供給部であり、電源部に相当する。補機バッテリ39は、飛行制御装置40等の補機を駆動させるためのバッテリであり、補機用バッテリと称されることがある。補機としては、飛行制御装置40の他に、EPU50が有する制御装置、各種センサなどがある。補機バッテリ39には、補機が電気的に接続されている。補機バッテリ39は、駆動バッテリ31と同様に、充放電可能な2次電池を有している。補機バッテリ39は、電力を蓄えることが可能であり、蓄電装置に相当する。
【0036】
補機バッテリ39は、駆動バッテリ31よりも低い電圧を出力する。駆動バッテリ31が出力する電圧は高電圧と称され、補機バッテリ39が出力する電圧は低電圧と称されることがある。コンバータ33は、駆動バッテリ31からの電力を降圧して補機バッテリ39に供給する。コンバータ33は、駆動バッテリ31からの高電圧を低電圧に変圧し、定電圧を補機バッテリ39に印加する。
【0037】
飛行制御装置40は、eVTOL10を飛行させるための飛行制御処理を行う。飛行制御装置40は、飛行制御処理において例えばEPU50を介してロータ20の駆動回転を制御する。eVTOL10は電動飛行体に相当し、飛行制御装置40は電動飛行体の制御装置に相当する。飛行制御装置40は、フライトコントローラと称されることがある。
【0038】
飛行制御処理について、
図3のフローチャートを参照しつつ説明する。飛行制御装置40は、飛行制御処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。飛行制御装置40は、飛行制御処理の各ステップの処理を実行する機能を有している。
【0039】
飛行制御装置40は、
図3に示すステップS101にて、eVTOL10が着陸中であるか否かを判定する。飛行制御装置40は、eVTOL10が飛行しているか否かを判定し、eVTOL10が飛行していない場合に着陸中であると判断する。本実施形態では、eVTOL10が着陸した状態にあることを着陸中と称する。eVTOL10が着陸中である場合、このeVTOL10は、飛行しておらずに地上に存在している。eVTOL10が着陸中である場合としては、例えばeVTOL10が離陸する前の状態がある。eVTOL10が着陸中ではない場合、eVTOL10は飛行中である。本実施形態では、eVTOL10が飛行している状態にあることを飛行中と称する。
【0040】
eVTOL10が着陸中である場合、飛行制御装置40はステップS102に進む。飛行制御装置40は、ステップS102においてバッテリ温度Tbtを取得する。バッテリ温度Tbtは、駆動バッテリ31の温度である。バッテリ温度Tbtは、駆動バッテリ31の全体的な温度であり、例えば複数のセルの平均温度である。飛行制御装置40は、駆動バッテリ31の温度に関連した温度パラメータを取得し、この温度パラメータを用いてバッテリ温度Tbtを推定する。温度パラメータとしては、バッテリ電流及び外気温度Toaなどがある。飛行制御装置40におけるステップS102の処理を実行する機能が温度取得部に相当する。
【0041】
駆動バッテリ31においては、複数のセルで温度が同じになりにくい。すなわち、複数のセルで温度が異なりやすくい。このため、例えば温度センサが駆動バッテリ31に設けられた構成では、温度センサの検出結果が、この温度センサに最も近いセルの温度に応じた値になりやすい。例えば、温度センサの検出結果が、複数のセルのうち温度が高い側のセルの温度であるか、温度が低い側のセルの温度であるか、平均的な温度のセルの温度であるか、が不明である。すなわち、温度センサの検出結果が、駆動バッテリ31において高温になっている高温部の温度なのか、低温になっている低温部の温度なのか、平均的な温度になっている部位の温度なのか、が不明である。このように、バッテリ温度Tbtの検出に温度センサが用いられる構成では、バッテリ温度Tbtの検出精度が低下しやすい。
【0042】
駆動バッテリ31においては、発熱と放熱とのバランスに応じたバッテリ温度Tbtになりやすい。発熱について、駆動バッテリ31の電力が消費される状況では、駆動バッテリ31の放電電流が大きいほど駆動バッテリ31が発熱しやすい。駆動バッテリ31が充電される状況では、駆動バッテリ31の充電電流が大きいほど発熱しやすい。また、放熱について、駆動バッテリ31の熱が冷却媒体に放出される状況では、バッテリ温度Tbtと冷却媒体との温度差が大きいほど駆動バッテリ31が放熱しやすい。冷却媒体としては、駆動バッテリ31に熱交換可能に接触している外気等の空気、及び駆動バッテリ31に熱交換可能に循環している冷却水等の液体などがある。
【0043】
飛行制御装置40がバッテリ温度Tbtを推定する方法としては、バッテリ温度Tbtを常に監視する方法、飛行システム30を駆動させる方法、eVTOL10の履歴情報を用いる方法、などがある。
【0044】
バッテリ温度Tbtを常に監視する方法については、飛行システム30が常時監視装置を有していることが好ましい。常時監視装置は、eVTOL10の電源スイッチがオン状態にある場合及びオフ状態にある場合のいずれにおいても、温度パラメータをモニタするなどしてバッテリ温度Tbtを取得することが可能である。常時監視装置は、例えば常時記憶装置及び常時演算装置を有している。常時記憶装置は、例えば記憶装置35から独立して設けられている。常時演算装置は、例えば飛行制御装置40から独立して設けられている。eVTOL10の電源スイッチがオン状態及びオフ状態のいずれにある場合でも、補機バッテリ39から常時記憶装置及び常時演算装置への電力供給が継続される。
【0045】
常時演算装置は、バッテリ外温度を取得する。バッテリ外温度は、駆動バッテリ31の外側にある冷却媒体等の温度である。バッテリ外温度としては、外気温度Toa及び冷却水温度などがある。常時演算装置は、温度パラメータとして、バッテリ電流及びバッテリ外温度をモニタするなどして取得する。eVTOL10の電源スイッチがオフ状態にある場合について、バッテリ電流としては、駆動バッテリ31の充電に伴って流れる充電電流がある。また、このバッテリ電流としては、駆動バッテリ31の自然放電に伴って流れる放電電流がある。
【0046】
常時記憶装置には、駆動バッテリ31の発熱に関する発熱情報、及び駆動バッテリ31の放熱に関する放熱情報が記憶されている。発熱情報は、バッテリ電流と駆動バッテリ31の発熱量との関係を示す情報である。発熱情報としては、発熱マップ等がある。放熱情報は、バッテリ外温度と駆動バッテリ31の放熱量との関係を示す情報である。放熱情報としては、放熱マップ等がある。
【0047】
常時演算装置は、バッテリ電流を取得し、バッテリ電流及び発熱情報を用いて駆動バッテリ31の発熱量を推定する。常時演算装置は、バッテリ外温度を取得し、バッテリ外温度及び放熱情報を用いて駆動バッテリ31の放熱量を推定する。常時演算装置は、駆動バッテリ31の発熱量及び放熱量を用いてバッテリ温度Tbtを推定する。常時演算装置は、eVTOL10の電源スイッチがオン状態にある場合及びオフ状態にある場合のいずれにおいても、バッテリ温度Tbtを推定する。
【0048】
飛行システム30を駆動させる方法では、飛行制御装置40が、駆動バッテリ31の電力が消費されるように飛行システム30を駆動させる。飛行制御装置40は、例えばロータ20が駆動回転するようにEPU50を駆動させることで、駆動バッテリ31からEPU50に対して出力電流を出力させる。駆動バッテリ31においては、バッテリ温度Tbtが低いほど内部抵抗が大きくなってバッテリ出力電流Ibtが流れにくい。記憶装置35には、バッテリ温度Tbtとバッテリ電流との関係を示す温度電流情報が記憶されている。飛行制御装置40は、EPU50を駆動させた場合のバッテリ出力電流Ibtをバッテリ電流として取得し、このバッテリ電流及び温度電流情報を用いてバッテリ温度Tbtを推定する。なお、飛行制御装置40は、ロータ20が駆動回転するようにEPU50を駆動させる場合、eVTOL10が上昇するほどの推力が発生しない程度にロータ20の回転を制限しつつ、ロータ20を駆動回転させるための指令信号をEPU50に対して出力する。この指令信号は、放電指令と称されることがある。
【0049】
eVTOL10の履歴情報を用いる方法については、この履歴情報が記憶装置35に記憶されていることが好ましい。履歴情報としては、eVTOL10の飛行履歴に関する飛行履歴情報、及びeVTOL10の充電履歴に関する充電履歴情報などがある。飛行制御装置40は、履歴情報を記憶装置35から読み込み、前回の飛行又は前回の充電からの経過時間を停止時間として取得する。また、飛行制御装置40は、バッテリ外温度を取得する。そして、飛行制御装置40は、停止時間及びバッテリ外温度を用いてバッテリ温度Tbtを推定する。例えば飛行制御装置40は、バッテリ外温度が所定の基準温度よりも低く、且つ停止時間が所定の基準時間に達している場合に、バッテリ温度Tbtがバッテリ外温度に近い温度まで低下していると推定する。基準温度は、例えば寒冷地での外気温度など極低温を想定している。
【0050】
ステップS102の後、飛行制御装置40は、ステップS103に進み、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低いか否かを判定する。上述したように、バッテリ温度Tbtが低いほどバッテリ出力電流Ibtが流れにくい。このため、バッテリ温度Tbtが低すぎると、バッテリ出力電流Ibtが不安定になり、モータ装置80の出力が低下するなどしてロータ20の出力が不足しやすくなる。ロータ20の出力が不足すると、ロータ20の回転数などが不足するなどして、eVTOL10に生じる推力が不足することになる。
【0051】
これに対して、離陸許可温度TAは、ロータ20の出力が不足しない程度にバッテリ出力電流Ibtが流れる温度に設定されている。離陸許可温度TAは、試験結果等に応じて設定された値であり、記憶装置35に記憶されている。離陸許可温度TAは、例えばeVTOL10に追加される追加重量の上限値を想定して設定されている。追加重量としては、eVTOL10に乗る乗員の総重量、及びeVTOL10に積載される積載物の総重量などがある。eVTOL10が重いほど、eVTOL10を飛行させるために必要なロータ20の出力が大きくなる。このため、追加重量の上限値を想定して離陸許可温度TAが設定されていることで、eVTOL10の重さに対してロータ20の出力が不足するということが生じにくい。
【0052】
ステップS103では、eVTOL10の離陸準備を開始するか否かの判定が行われる。飛行制御装置40は、eVTOL10の離陸準備を開始する場合に限って、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低いか否かの判定を行う。飛行制御装置40は、例えばeVTOL10の離陸準備を行うための操作がパイロットにより行われた場合に、離陸準備を開始すると判断する。離陸準備を開始するための操作としては、例えばeVTOL10の電源スイッチをオンするための操作がある。なお、パイロットによる操作はパイロットの指示に相当する。パイロットによる操作としては、手足等による物理的な操作、及び音声による操作などがある。
【0053】
バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い場合、飛行制御装置40は、ステップS104に進む。飛行制御装置40は、ステップS104においてeVTOL10の離陸を禁止する。飛行制御装置40は、離陸禁止フラグをメモリ等にセットする。飛行制御装置40は、離陸禁止フラグがセットされている場合に、離陸禁止処理を行う。離陸禁止処理は、eVTOL10を垂直離陸させるための操作がパイロットにより行われることを禁止する処理である。離陸禁止処理としては、eVTOL10の垂直離陸が禁止されていることをパイロット等に報知する報知処理がある。また、離陸禁止処理としては、eVTOL10を垂直離陸させるために操作される操作部が動作しないように規制する規制処理がある。飛行制御装置40は、離陸禁止フラグをセットすることでeVTOL10の離陸を制限する。飛行制御装置40におけるステップS104の処理を実行する機能が離陸制限部に相当する。
【0054】
飛行制御装置40は、ステップS105において昇温制御を行う。飛行制御装置40は、バッテリ温度Tbtを上昇させるために昇温制御を行う。昇温制御については、
図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0055】
飛行制御装置40は、昇温制御のステップS201において、バッテリ昇温処理での目標出力を設定する。バッテリ昇温処理は、バッテリ温度Tbtを上昇させるための処理である。飛行制御装置40は、eVTOL10が上昇するほどの推力が発生しない程度の回転数でロータ20が駆動回転するように、ロータ20に関する目標出力として、EPU50の目標出力を設定する。例えば飛行制御装置40は、モータ装置80について、EPU50の目標出力に応じた目標トルクを算出する。この目標トルクは、モータ装置80にとっての目標出力になる。また、飛行制御装置40は、駆動回転させるロータ20の数を設定し、この数に応じて目標出力を算出する。例えば飛行制御装置40は、駆動回転させるロータ20の数が多いほど目標出力を小さい値に設定する。
【0056】
飛行制御装置40は、ステップS202において、バッテリ昇温処理として、EPU50を駆動させる駆動処理を行う。飛行制御装置40は、目標出力を指令信号としてEPU50に対して出力し、EPU50の駆動制御を行う。例えば飛行制御装置40は、目標出力として目標トルクをモータ装置80に対して出力し、モータ装置80を対象としてモータ制御を行う。EPU50の駆動によりロータ20が駆動回転する場合、バッテリ出力電流IbtがEPU50に流れることで駆動バッテリ31の電力が消費される。この場合、駆動バッテリ31が発熱して、バッテリ温度Tbtが上昇する。また、この場合、バッテリ出力電流Ibtが昇温電流値IAまで増加する。飛行制御装置40におけるステップS202の処理を実行する機能がバッテリ昇温部、出力実行部及び駆動実行部に相当する。
【0057】
ステップS202では、eVTOL10に搭載された少なくとも4つのロータ20のうち、少なくとも2つのロータ20が回転駆動するようにEPU50が駆動される。例えば、1つのEPU50が1つのロータ20を回転駆動する構成であれば、飛行制御装置40は、少なくとも2つのロータ20が回転駆動するように少なくとも2つのEPU50を駆動させる。
【0058】
飛行制御装置40は、ステップS203において、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高いか否かを判定する。ここでは、EPU50の駆動に伴ってバッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなったか否かの判定が行われる。昇温終了温度TBは、駆動バッテリ31のバッテリ昇温処理を終了するか否かの判定基準になる温度である。すなわち、昇温終了温度TBは、EPU50の駆動を停止するための温度である。昇温終了温度TBは、離陸許可温度TAよりも高い温度に設定されている。昇温終了温度TBは、ロータ20の出力が十分に高くなるほどにバッテリ出力電流Ibtが流れる温度に設定されている。昇温終了温度TBは、試験結果等に応じて設定された値であり、記憶装置35に記憶されている。
【0059】
バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなった場合、飛行制御装置40は、ステップS204に進む。飛行制御装置40は、ステップS204においてeVTOL10の離陸禁止を解除する。ここでは、eVTOL10の離陸が許可される。飛行制御装置40は、メモリ等にセットされている離陸禁止フラグをクリアする。飛行制御装置40は、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも大きくなった場合に、eVTOL10の離陸禁止を解除することになる。このため、昇温終了温度TBは、eVTOL10の離陸禁止を解除するための温度でもある。昇温終了温度TBは、eVTOL10の離陸制限を解除するための温度であり、制限解除温度に相当する。飛行制御装置40におけるステップS204の処理を実行する機能は制御解除部に相当する。
【0060】
ステップS204の後、飛行制御装置40は、ステップS205に進み、EPU50の駆動を停止する。飛行制御装置40は、EPU50の駆動を停止させるための指令信号をEPU50に対して出力する。飛行制御装置40は、EPU50の駆動を停止させることで、バッテリ昇温処理を終了する。また、飛行制御装置40は、バッテリ昇温処理を終了したことを示す終了フラグをメモリ等にセットする。飛行制御装置40におけるステップS205の処理を実行する機能が昇温終了部に相当する。
【0061】
バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くない場合、飛行制御装置40は、ステップS206に進む。飛行制御装置40は、ステップS206において、EPU50の駆動を開始してから上限時間S1が経過したか否かを判定する。ここでは、EPU50の駆動時間が上限時間S1を超えたか否かの判定が行われる。駆動時間は、EPU50が駆動を開始してからの経過時間である。上限時間S1は、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなるまでに要する時間の上限値である。eVTOL10が正常な状態であれば、EPU50の駆動を開始してから上限時間S1が経過するよりも前のタイミングでバッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなる。すなわち、eVTOL10に異常が発生していない場合、駆動時間は上限時間S1を超えないようになっている。上限時間S1は、試験結果等に応じて設定された値であり、記憶装置35に記憶されている。
【0062】
飛行制御装置40は、上限時間S1を可変設定してもよい。例えば飛行制御装置40は、バッテリ外温度が低いほど上限時間S1を長い時間に設定してもよい。上限時間S1は、EPU50の駆動を開始する直前のバッテリ温度Tbtが低いほど、長い時間に設定されてもよい。
【0063】
EPU50の駆動を開始してから上限時間S1が経過した場合、飛行制御装置40は、eVTOL10に異常が発生したとして、ステップS207に進む。飛行制御装置40は、ステップS207において、EPU50の駆動時間が上限時間S1に達してもバッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBより高くならなったことを、バッテリ温度Tbtに関する異常が発生したことを示す異常情報として記録する。この異常情報は、例えば記憶装置35に記憶される。なお、飛行制御装置40は、バッテリ温度Tbtが正常に上昇しないことを異常発生としてパイロット等に報知してもよい。
【0064】
ステップS207の後、飛行制御装置40は、ステップS205に進み、EPU50の駆動を停止する。この場合、飛行制御装置40は、EPU50の駆動を停止する一方で、eVTOL10の離陸禁止を解除しないことになる。このため、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBより高くなっていないにもかかわらずeVTOL10が離陸してしまう、ということが離陸禁止フラグにより規制される。また、飛行制御装置40は、離陸禁止フラグをクリアしない場合でも、終了フラグをセットする。
【0065】
ステップS106について、EPU50の駆動を開始してから上限時間S1が経過していない場合、飛行制御装置40は、そのまま昇温制御を終了する。この場合、飛行制御装置40は、EPU50の駆動停止とeVTOL10の離陸禁止解除とを行わないことになる。
【0066】
図3に戻り、飛行制御装置40は、ステップS105にて昇温制御を行った後、ステップS106に進む。飛行制御装置40は、ステップS106において、バッテリ昇温処理が終了したか否かを判定する。ここでは、終了フラグがセットされているか否かの判定が行われる。飛行制御装置40は、終了フラグがセットされている場合にバッテリ昇温処理が終了した判断する。
【0067】
バッテリ昇温処理が終了した場合、飛行制御装置40は、ステップS107に進む。飛行制御装置40は、ステップS107において、外気温度Toaが保温実行温度TCより低いか否かを判定する。飛行制御装置40は、外気温度センサ36の検出信号を用いて外気温度Toaを取得する。例えば、外気温度Toaが寒冷地での外気温度などごく低温である場合、バッテリ昇温処理によりバッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBより高くなっても、駆動バッテリ31が外気により冷やされてバッテリ温度Tbtが再び低下することが懸念される。これに対して、保温実行温度TCは、駆動バッテリ31の保温を実行するか否かの判定基準になる温度である。保温実行温度TCは、離陸許可温度TAよりも低い温度に設定されている。保温実行温度TCは、試験結果等に応じて設定された値であり、記憶装置35に記憶されている。
【0068】
外気温度Toaが保温実行温度TCよりも低い場合、飛行制御装置40は、ステップS108に進む。飛行制御装置40は、ステップS108において保温制御を行う。飛行制御装置40は、バッテリ温度Tbtを保つために保温制御を行う。飛行制御装置40は、保温制御において、バッテリ出力電流Ibtが通電対象に流れるように通電対象を駆動させる。保温制御では、通電対象が駆動することで駆動バッテリ31の電力が消費され、バッテリ温度Tbtが上昇する。
【0069】
飛行制御装置40は、バッテリ保温処理での目標出力を設定する。バッテリ保温処理は、保温制御においてバッテリ温度Tbtを保つための処理である。バッテリ保温処理は、バッテリ温度Tbtの下降を規制するための処理であり、降温規制処理と称されることがある。飛行制御装置40におけるステップS108の処理を実行する機能が降温規制部に相当する。
【0070】
バッテリ保温処理での目標出力は、バッテリ昇温処理での目標出力よりも小さい値に設定される。この目標出力は、例えばEPU50の目標出力である。このため、バッテリ保温処理でのバッテリ出力電流Ibtは、バッテリ昇温処理でのバッテリ出力電流Ibtよりも小さくなる。例えば飛行制御装置40は、バッテリ出力電流Ibtが保温電流値IBになるようにバッテリ保温処理での目標出力を設定する。保温電流値IBは、昇温電流値IAよりも小さい値である。バッテリ昇温処理の後にバッテリ保温処理が行われると、バッテリ出力電流Ibtが昇温電流値IAから保温電流値IBまで減少する。
【0071】
本実施形態では、EPU50を通電対象として、保温制御によりEPU50が駆動される。このため、EPU50に通電される通電量が保温電流値IBになる。飛行制御装置40は、保温制御によりEPU50を駆動する場合に、モータ装置80を対象としてモータ制御を行う。この場合、バッテリ保温処理でのロータ20の回転数は、バッテリ昇温処理でのロータ20の回転数よりも小さい値になる。
【0072】
EPU50においては、駆動バッテリ31から保温電流値IBが出力されることで、駆動バッテリ31の電力が消費され、駆動バッテリ31が発熱する。保温制御においては、保温電流値IBの出力による駆動バッテリ31での熱の発生と、外気による駆動バッテリ31の冷却と、がバランスしてバッテリ温度Tbtが保たれるように目標出力が設定される。飛行制御装置40は、通電対象を駆動させることで、バッテリ温度Tbtを保つためのバッテリ保温処理を行うことになる。
【0073】
次に、飛行制御処理が行われた場合のバッテリ温度Tbtの変化態様について、
図5を参照しつつ説明する。
図5においては、外気温度Toaが保温実行温度TC及び離陸許可温度TAのいずれよりも低い温度になっている。タイミングt1の直前においては、外気温度Toaと同様に、バッテリ温度Tbtが保温実行温度TC及び離陸許可温度TAのいずれよりも低い温度になっている。
【0074】
タイミングt1では、飛行制御処理においてeVTOL10の離陸が禁止されたことに起因して、飛行制御装置40によるバッテリ昇温処理が開始される。バッテリ昇温処理の開始に伴って、バッテリ出力電流Ibtは昇温電流値IAまで増加する。タイミングt1の後、バッテリ出力電流Ibtが昇温電流値IAに保持されていることで、バッテリ温度Tbtが徐々に上昇していく。バッテリ温度Tbtは、バッテリ昇温処理により保温実行温度TC及び離陸許可温度TAのいずれよりも高い温度まで上昇していく。
【0075】
タイミングt2では、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなっている。バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えたことに伴って、バッテリ昇温処理が終了される。そして、外気温度Toaが保温実行温度TCよりも低いことに起因して、バッテリ昇温処理の終了と共にバッテリ保温処理が開始される。バッテリ保温処理の開始に伴って、バッテリ出力電流Ibtは保温電流値IBまで減少する。タイミングt2の後、バッテリ出力電流Ibtが保温電流値IBに保持されていることで、バッテリ温度Tbtの低下が規制される。このため、バッテリ温度Tbtは、昇温終了温度TBに近い値に保持される。
【0076】
例えば
図5とは異なり、外気温度Toaが保温実行温度TCよりも高いことなどに起因して、バッテリ温度Tbtが保温実行温度TCよりも高い場合には、バッテリ保温処理が行われない。この場合、バッテリ昇温処理によりバッテリ出力電流Ibtが昇温終了温度TBを超えた後、バッテリ昇温処理が終了され且つバッテリ保温処理が行われないため、バッテリ出力電流Ibtがゼロに近い値まで減少する。
【0077】
そして、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAまで低下するよりも前のタイミングで、eVTOL10の垂直離陸が開始されることが好ましい。また、eVTOL10の離陸準備のうち、バッテリ温度Tbtを離陸許可温度TAよりも高い温度に保持すること以外の項目については、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAまで低下するよりも前のタイミングで完了することが好ましい。
【0078】
ここまで説明した本実施形態によれば、駆動バッテリ31においてバッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い場合、eVTOL10の離陸が禁止される。この構成では、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低いことに起因してロータ20の出力不足が懸念されるにもかかわらずeVTOL10が離陸してしまう、ということを抑制できる。このため、eVTOL10においてバッテリ温度Tbtが低下した場合の安全性を高めることができる。
【0079】
eVTOL10が垂直離陸するには、ロータ20の出力として大きな出力が必要になる。一方で、駆動バッテリ31の出力性能は低温ほど低下する。このため、寒冷地でバッテリ温度Tbtが低いままeVTOL10が離陸動作に入ると、所望の推力が得られずに離陸動作に支障が生じる可能性がある。したがって、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い場合はeVTOL10の離陸が禁止されることが好ましい。
【0080】
本実施形態によれば、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも高い場合、eVTOL10の離陸が禁止されない。この構成では、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAを超えるほどに十分に高いにもかかわらずeVTOL10の離陸が禁止される、ということが生じない。このため、バッテリ温度Tbtについての安全性を過剰に高めるのではなく、バッテリ温度Tbtが低下した場合の安全性と、eVTOL10の使い勝手との両方をバランス良く高めることができる。
【0081】
本実施形態によれば、eVTOL10の離陸が禁止された場合に、バッテリ温度Tbtを上昇させるためのバッテリ昇温処理が行われる。このため、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低くても、バッテリ昇温処理によりバッテリ温度Tbtが上昇すればeVTOL10を離陸させることが可能になる。したがって、例えば寒冷地において外気により駆動バッテリ31が冷やされた状況でも、eVTOL10を利用することができる。
【0082】
本実施形態によれば、バッテリ昇温処理として、駆動バッテリ31からバッテリ出力電流Ibtを出力させる処理が行われる。この構成では、バッテリ出力電流Ibtにより駆動バッテリ31の放電が行われることで、駆動バッテリ31が発熱してバッテリ温度Tbtが上昇しやすくなる。このため、バッテリ温度Tbtの温度を意図的に上昇させることができる。
【0083】
本実施形態によれば、バッテリ昇温処理として、バッテリ温度Tbtが上昇するようにEPU50を駆動させる処理が行われる。この構成では、駆動バッテリ31からの電力によりEPU50が駆動することでロータ20が駆動回転する。このため、ロータ20の回転をeVTOL10に推力が生じない程度に抑えることで、eVTOL10を離陸させることなくEPU50の駆動によりバッテリ温度Tbtを上昇させることができる。このように、着陸中のeVTOL10においては、機体が不安定にならない範囲でEPU50を稼働させることで、駆動バッテリ31からのバッテリ出力電流Ibtの出力によりバッテリ温度Tbtを上昇させることができる。
【0084】
例えば本実施形態とは異なり、バッテリ温度Tbtを上昇させるためにロータ20が1つだけ駆動回転する構成では、1つのロータ20がeVTOL10の機体を不安定にさせる力を発生させることになる。したがって、この構成では、ロータ20が1つだけ駆動回転することでeVTOL10が不安定になりやすいことが懸念される。
【0085】
これに対して、本実施形態によれば、バッテリ昇温処理として、eVTOL10が有する少なくとも4つのロータ20の少なくとも2つが回転駆動するようにEPU50が駆動される。この構成では、バッテリ温度Tbtを上昇させるために少なくとも2つのロータ20が駆動回転するため、少なくとも2つのロータ20のそれぞれが発生させる力が互いに相殺されやすい。このため、少なくとも2つのロータ20が駆動回転しても、eVTOL10を不安定にさせる力が大きくなりにくい。したがって、少なくとも2つのロータ20を駆動回転させるためにバッテリ出力電流Ibtが大きくなっても、eVTOL10の機体が不安定になりにくくなっている。
【0086】
しかも、eVTOL10において駆動回転するロータ20が全てのロータ20ではなく一部のロータ20に制限されることで、eVTOL10にて推力が生じにくくなっている。
【0087】
本実施形態によれば、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えた場合に、eVTOL10の離陸禁止が解除される。この構成では、昇温終了温度TBが離陸許可温度TAよりも高い温度であるため、バッテリ昇温処理の終了に伴ってすぐにバッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い温度まで低下する、ということが生じにくくなっている。このため、バッテリ昇温処理を行ったにもかかわらずeVTOL10の離陸時にバッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い温度になる、ということを抑制できる。したがって、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAより低い状態のままeVTOL10が離陸してしまう、ということを防ぐことができる。
【0088】
本実施形態によれば、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えた場合に、バッテリ昇温処理が終了される。この構成では、昇温終了温度TBが離陸許可温度TAよりも高い温度であるため、バッテリ昇温処理が終了した後、バッテリ温度Tbtが多少低下してもバッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAを上回ることができる。このようにバッテリ温度Tbtを昇温終了温度TBまで高くしておくことで、eVTOL10が離陸する際の安全性を高めることができる。
【0089】
本実施形態によれば、上限時間S1が経過してもバッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えない場合に、バッテリ昇温処理が終了される。この場合、バッテリ温度Tbtの上昇態様が異常であるにもかかわらずバッテリ昇温処理が長時間にわたって継続される、ということを回避できる。このため、バッテリ温度Tbtが正常に上昇しない状態で駆動バッテリ31の電力を浪費するということを防ぐことをできる。
【0090】
本実施形態によれば、バッテリ昇温処理が行われた後に、バッテリ温度Tbtの下降を規制するバッテリ保温処理が行われる。この構成では、バッテリ昇温処理の終了に伴ってバッテリ温度Tbtが急激に低下するということを抑制できる。このため、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも高い状態でeVTOL10を離陸させる、ということを実現しやすくなる。しかも、バッテリ保温処理では、バッテリ温度Tbtの下降を規制できればよいため、バッテリ昇温処理に比べてバッテリ出力電流Ibtを低減できる。このため、例えば本実施形態とは異なり、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えたにもかかわらずバッテリ昇温処理が継続される構成に比べて、駆動バッテリ31の電力消費を抑えることができる。
【0091】
本実施形態では、外気温度Toaが保温実行温度TCよりも低い場合に限って、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えた後にバッテリ保温処理が行われる。このように、バッテリ温度Tbtの低下を抑制するためのバッテリ保温処理が行われることで、駆動バッテリ31について無駄なエネルギを使うことなく、バッテリ温度TbtについてeVTOL10が離陸可能な状態を保つことができる。
【0092】
<第2実施形態>
第1実施形態では、バッテリ昇温処理として、駆動バッテリ31からバッテリ出力電流Ibtを出力させることでバッテリ温度Tbtを上昇させる処理が行われた。これに対して、第2実施形態では、バッテリ温度Tbtを上昇させるために駆動バッテリ31を加熱する処理が行われる。第2実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第2本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0093】
図6に示す飛行システム30は、加熱装置100を有している。加熱装置100は、eVTOL10に搭載されており、駆動バッテリ31を加熱するためのシステムである。加熱装置100は、駆動バッテリ31を加熱することでバッテリ温度Tbtを上昇させることが可能である。
【0094】
加熱装置100は、発熱体101及び熱交換装置102を有している。熱交換装置102は、熱交換器103、循環装置104及び循環経路105を有している。
図6においては、発熱体101をHGP、熱交換器103をHE、循環装置104をLCS、と図示している。
【0095】
発熱体101は、発熱可能な装置又は機器であり、発熱部に相当する。発熱体101は、駆動バッテリ31を加熱するための熱を発生させる熱源である。発熱体101にて発生した熱は、熱交換装置102を介して駆動バッテリ31に付与される。発熱体101は、駆動バッテリ31を加熱することが可能であり、加熱部と称されることがある。発熱体101は、例えば電気式のヒータを有している。この発熱体101においては、例えばヒータへの通電量が制御されることで発熱量が調整される。なお、発熱体101は、燃焼機関を有していてもよい。燃焼機関は、内燃機関等の熱機関に含まれており、ガソリン等の燃料を燃焼させて熱を発生させることが可能である。この発熱体101においては、例えば燃料の燃焼が制御されることで発熱量が調整される。
【0096】
熱交換装置102は、発熱体101と駆動バッテリ31との間で熱交換を行うことが可能である。熱交換装置102においては、発熱体101の熱が熱媒体を介して駆動バッテリ31に付与される。熱媒体は、冷却水等の液体であり、発熱体101の熱を駆動バッテリ31に付与することが可能である。熱媒体は、発熱体101の熱によりバッテリ温度Tbtを調整することが可能であり、温調用液体と称されることがある。熱媒体は、空気等の気体を含む流体であってもよい。
【0097】
熱媒体は、熱交換装置102において循環経路105を循環する。循環経路105は、熱媒体が流れる流路であり、経路形成部により形成されている。経路形成部は、金属配管等の部材により形成されており、伝熱性を有している。循環装置104は、熱媒体が循環経路105を循環するように、ポンプ等により循環経路105内の熱媒体を圧送する。熱交換装置102は、熱媒体を循環させる循環部に相当する。循環装置104は、温調用液体を循環させる液体循環システムと称されることがある。
【0098】
加熱装置100においては、循環経路105を流れる熱媒体が、発熱体101及び駆動バッテリ31のそれぞれと熱交換を行う。熱交換器103は、熱媒体と発熱体101との熱交換を行うことが可能であり、例えば循環経路105と発熱体101との間に設けられている。なお、加熱装置100は、熱媒体と駆動バッテリ31との熱交換を行う熱交換部を有していてもよい。
【0099】
飛行制御装置40は、上記第1実施形態のステップS105と同様に、昇温制御を行う。本実施形態の昇温制御は、EPU50の駆動により駆動バッテリ31の昇温が行われるのではなく、加熱装置100により駆動バッテリ31の昇温が行われる。本実施形態の昇温制御については、
図7に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0100】
飛行制御装置40は、昇温制御のステップS301,S302において、加熱装置100による加熱処理を行う。飛行制御装置40は、加熱処理において、バッテリ温度Tbtが上昇するように加熱装置100を駆動させて駆動バッテリ31を加熱する。飛行制御装置40は、加熱処理のステップS301において発熱体101を発熱させる。ここでは、飛行制御装置40により発熱体101がオンされることで発熱体101の発熱が開始される。例えば飛行制御装置40は、発熱体101に流れる電流が第1電流値になるように発熱体101を駆動させる。第1電流値は、発熱体101の熱により駆動バッテリ31を昇温させるための電流値である。
【0101】
飛行制御装置40は、加熱処理のステップS302において熱交換装置102により熱媒体を循環させる。ここでは、飛行制御装置40により循環装置104がオンされることで熱媒体の循環が開始される。加熱処理により発熱体101の発熱及び熱媒体の循環が行われると、発熱体101の熱が熱媒体を介して駆動バッテリ31に付与され、バッテリ温度Tbtが上昇する。飛行制御装置40におけるステップS301,S302の処理を実行する機能がバッテリ昇温部及び加熱実行部に相当する。
【0102】
なお、加熱処理においては、発熱体101の発熱と、熱交換装置102による熱媒体の循環とは、同じタイミングで開始されてもよく、異なるタイミングで開始されてもよい。例えば、発熱体101の発熱が開始された後、発熱体101の温度が十分に高くなったタイミングで熱交換装置102による熱媒体の循環が開始されてもよい。また、熱交換装置102による熱媒体の循環が開始された後に、発熱体101の発熱が開始されてもよい。
【0103】
飛行制御装置40は、ステップS303,S304において、上記第1実施形態のステップS203,S204と同様の処理を行う。バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなった場合に、eVTOL10の離陸禁止が解除された後、飛行制御装置40は、ステップS305に進む。飛行制御装置40は、ステップS305において加熱装置100による駆動バッテリ31の加熱を停止する。ここでは、飛行制御装置40により発熱体101がオフされることで発熱体101の発熱が停止される。また、飛行制御装置40により循環装置104がオフされることで熱媒体の循環が停止される。さらに、飛行制御装置40は、加熱装置100による駆動バッテリ31の加熱を終了したことを示す終了フラグをメモリ等にセットする。
【0104】
バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くない場合、飛行制御装置40は、ステップS306に進む。飛行制御装置40は、ステップS306において、加熱装置100による駆動バッテリ31の加熱を開始してから上限時間S2が経過したか否かを判定する。ここでは、加熱装置100による加熱時間が上限時間S2を超えたか否かの判定が行われる。加熱時間は、加熱装置100による加熱が開始されてからの経過時間である。例えば加熱時間は、発熱体101及び循環装置104の両方がオンされてからの経過時間である。上限時間S2は、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなるまでに要する時間の上限値である。eVTOL10が正常な状態であれば、加熱装置100による加熱が開始されてから上限時間S2が経過するよりも前のタイミングでバッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高くなる。すなわち、eVTOL10に異常が発生していない場合、加熱時間は上限時間S2を超えないようになっている。上限時間S2は、試験結果等に応じて設定された値であり、記憶装置35に記憶されている。
【0105】
飛行制御装置40は、上記第1実施形態の上限時間S1と同様に、上限時間S2を可変設定してもよい。例えば飛行制御装置40は、バッテリ外温度が低いほど上限時間S2を長い時間に設定してもよい。上限時間S2は、加熱装置100による加熱が開始される直前のバッテリ温度Tbtが低いほど、長い時間に設定されてもよい。
【0106】
加熱装置100による加熱を開始してから上限時間S2が経過した場合、飛行制御装置40は、eVTOL10に異常が発生したとして、ステップS307に進む。飛行制御装置40は、ステップS307において、上記第1実施形態のステップS207と同様の処理を行う。
【0107】
ステップS307の後、飛行制御装置40は、ステップS305に進み、加熱装置100による加熱を停止する。この場合、飛行制御装置40は、加熱装置100による加熱を停止する一方で、eVTOL10の離陸禁止を解除しないことになる。ステップS306について、加熱装置100による加熱を開始してから上限時間S2が経過していない場合、飛行制御装置40は、そのまま昇温制御を終了する。この場合、飛行制御装置40は、加熱装置100による加熱停止とeVTOL10の離陸禁止解除とを行わないことになる。
【0108】
飛行制御装置40は、上記第1実施形態のステップS108と同様に、保温制御を行う。本実施形態の保温制御は、EPU50の駆動により駆動バッテリ31の保温が行われるのではなく、加熱装置100により駆動バッテリ31の保温が行われる。飛行制御装置40は、保温制御において、通電対象としての加熱装置100にバッテリ出力電流Ibtが流れるように加熱システム10を駆動させる。保温制御では、加熱システム10から駆動バッテリ31に付与される熱が昇温制御よりも小さくなるように、加熱システム10による加熱が行われる。例えば、保温制御では、発熱体101の発熱量及び熱媒体の循環量の少なくとも一方が昇温制御よりも小さくされる。
【0109】
例えば飛行制御装置40は、発熱体101に流れる電流が第2電流値になるように発熱体101を駆動させる。第2電流値は、発熱体101の熱により駆動バッテリ31を保温するための電流値であり、第1電流値よりも小さい値である。加熱装置100について、バッテリ昇温処理の後にバッテリ保温処理が行われると、発熱体101に流れる電流が第1電流値から第2電流値まで減少する。このように発熱体101に流れる電流が減少するのは、上記第1実施形態においてバッテリ出力電流Ibtが昇温電流値IAから保温電流値IBまで減少するのと同様である。
【0110】
本実施形態によれば、バッテリ昇温処理として、バッテリ温度Tbtが上昇するように加熱装置100を駆動させる処理が行われる。この構成では、加熱装置100により駆動バッテリ31の加熱が行われる。加熱装置100においては、発熱体101の熱が熱媒体により駆動バッテリ31に付与されるため、上記第1実施形態とは異なりロータ20を駆動回転させる必要がない。このため、例えばeVTOL10においてロータ20が駆動回転できない状況でも、加熱装置100を駆動させることで駆動バッテリ31の昇温を行うことができる。
【0111】
<第3実施形態>
第3実施形態では、駆動バッテリ31の充電が行われている場合に駆動バッテリ31に対する昇温制御が行われる。第3実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第3本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0112】
eVTOL10においては、充電装置により駆動バッテリ31の充電が行われる。充電装置は、駆動バッテリ31に対して着脱可能に接続される。充電装置は、充電ケーブルを有しており、充電ケーブルを介して駆動バッテリ31に電気的に接続される。充電装置から電流が出力されることで駆動バッテリ31の充電が行われる。充電装置から出力された電流は、バッテリ入力電流として駆動バッテリ31に入力される。バッテリ入力電流は、駆動バッテリ31を充電するための充電電流である。
【0113】
飛行制御装置40は、駆動バッテリ31を充電可能なeVTOL10について、上記第1実施形態のステップS105と同様に、昇温制御を行う。飛行制御装置40は、駆動バッテリ31の充電が行われている場合、及び駆動バッテリ31の充電が行われていない場合、のいずれについても昇温制御を実行可能である。駆動バッテリ31の充電が行われていない場合に実行される昇温制御を第1昇温制御と称し、駆動バッテリ31の充電中に実行される昇温制御を第2昇温制御と称する。
【0114】
本実施形態の昇温制御については、
図8に示すフローチャートを参照しつつ説明する。飛行制御装置40は、昇温制御のステップS401において、駆動バッテリ31が充電中であるか否かを判定する。ここでは、駆動バッテリ31の充電が充電装置により行われているか否かを判定する。例えば飛行制御装置40は、駆動バッテリ31に電力ケーブルが接続されているか否かを判定する。駆動バッテリ31に電力ケーブルが接続されている場合、飛行制御装置40は、充電中であると判断する。駆動バッテリ31に電力ケーブルが接続されていない場合、飛行制御装置40は、充電中ではないと判断する。
【0115】
駆動バッテリ31が充電中ではない場合、飛行制御装置40は、ステップS410に進み、第1昇温制御を行う。飛行制御装置40は、第1昇温制御として、上記第1実施形態のステップS105と同様の処理を行う。なお、上記第2実施形態のようにeVTOL10に加熱装置100が搭載されていれば、飛行制御装置40は、第1昇温制御として、上記第2実施形態と同様に加熱装置100を用いた昇温制御を行ってもよい。
【0116】
駆動バッテリ31が充電中である場合、飛行制御装置40は、ステップS402~S409において第2昇温制御を行う。飛行制御装置40は、第2昇温制御のステップS402において、バッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PA以上であるか否かを判定する。バッテリ蓄電量Pbtは、駆動バッテリ31に蓄えられている電力の量である。目標蓄電量PAは、例えば駆動バッテリ31に蓄電可能な電力の上限である電力上限量に設定されている。目標蓄電量PAは、eVTOL10を飛行させる上で十分に多い蓄電量である。バッテリ蓄電量Pbtが蓄電量に相当し、目標蓄電量PAが目標量に相当する。なお、バッテリ蓄電量Pbtが電力上限値に達した場合は、充電装置による駆動バッテリ31の充電が停止される。また、目標蓄電量PAは、目標充電量と称されることがある。
【0117】
充電装置の充電によりバッテリ蓄電量Pbtが増加して目標蓄電量PAに達した場合、飛行制御装置40は、ステップS403,S404の処理を行う。飛行制御装置40は、ステップS403,S404において、上記第1実施形態のステップS201,S202と同様の処理を行う。具体的には、飛行制御装置40は、ステップS403,S404において、目標出力を設定し、この目標出力に合わせてEPU50の駆動によるバッテリ昇温処理を行う。飛行制御装置40におけるステップS404の処理を実行する機能がバッテリ昇温部、出力実行部及び電流実行部に相当する。
【0118】
バッテリ蓄電量Pbtは、充電装置による駆動バッテリ31の充電態様、及びEPU50の駆動による駆動バッテリ31の放電態様の両方に応じて変化する。例えば、駆動バッテリ31を充電するバッテリ入力電流が、駆動バッテリ31を放電するバッテリ出力電流Ibtよりも大きい場合には、目標蓄電量PAを基準としてバッテリ蓄電量Pbtが増加していく。一方、バッテリ入力電流がバッテリ出力電流Ibtよりも小さい場合には、目標蓄電量PAを基準としてバッテリ蓄電量Pbtが減少していく。
【0119】
飛行制御装置40は、ステップS405において、バッテリ蓄電量Pbtが蓄電下限量PB以下であるか否かを判定する。蓄電下限量PBは、目標蓄電量PAよりも小さい値に設定されている。蓄電下限量PBは、eVTOL10を飛行させる上で不足しない程度の蓄電量である。EPU50の駆動に伴って流れるバッテリ出力電流Ibtがバッテリ入力電流よりも大きい場合、バッテリ蓄電量Pbtは、EPU50の駆動が継続されることで蓄電下限量PBまで減少する。なお、蓄電下限量PBが下限量に相当する。
【0120】
バッテリ蓄電量Pbtが蓄電下限量PBまで減少した場合、飛行制御装置40は、ステップS406に進む。飛行制御装置40は、ステップS406においてEPU50の駆動を停止する。EPU50の駆動が停止することでバッテリ蓄電量Pbtの減少が停止する。なお、EPU50の駆動停止後も充電装置による駆動バッテリ31の充電が継続して行われると、バッテリ蓄電量Pbtは再び増加する。そして、バッテリ蓄電量Pbtが電力上限値に達した場合などに駆動バッテリ31の充電が終了される。飛行制御装置40におけるステップS406の処理を実行する機能が駆動停止部に相当する。
【0121】
ステップS406の後、飛行制御装置40は、ステップS407~S409の処理を行う。飛行制御装置40は、ステップS407~S409において、上記第1実施形態のステップS203~S205と同様の処理を行う。具体的には、飛行制御装置40は、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBよりも高い場合に、eVTOL10の離陸禁止を解除し、且つEPU50の駆動を停止する。なお、飛行制御装置40におけるステップS408の処理を実行する機能が制限解除部に相当し、ステップS409の処理を実行する機能が昇温終了部に相当する。
【0122】
ステップS405について、バッテリ蓄電量Pbtが蓄電下限量PBまで減少していない場合、飛行制御装置40は、EPU50の駆動を停止せずに、ステップS407~S409の処理を行う。また、ステップS402について、駆動バッテリ31の充電によってバッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PAに達していない場合、EPU50の駆動によるバッテリ昇温処理を行わずに、ステップS407~S409の処理を行う。そして、ステップS407について、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBに達していない場合には、再び昇温制御としてS401~S410の処理を行う。
【0123】
駆動バッテリ31の充電についてまとめて説明する。駆動バッテリ31は、充電によって発熱する。このため、駆動バッテリ31の充電中には、バッテリ昇温処理としてEPU50を駆動させる必要はないはずである。ところが、充電によってバッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PAに達した時に、まだバッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAに達しないほどに低温である場合は、これ以上の充電を行うことが制限される。そこで、駆動バッテリ31の昇温を促すためにEPU50を駆動して駆動バッテリ31を放電させ、バッテリ蓄電量Pbtを減少させる。かといって、あまり駆動バッテリ31を放電させてしまうと、バッテリ蓄電量Pbtを増加させるという充電の目的に反する。このため、ある程度まで駆動バッテリ31の電力を消費したらEPU50の駆動を停止し、駆動バッテリ31の充電を継続する。このような動作が、バッテリ温度Tbtが昇温終了温度TBを超えるまで繰り返し行われる。
【0124】
なお、本実施形態においては、充電装置による駆動バッテリ31の充電態様が飛行制御装置40により制御されてもよい。例えば、昇温制御においてバッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PAに達した場合、飛行制御装置40は、充電装置による駆動バッテリ31の充電を一時的に制限してもよい。飛行制御装置40による充電の制限としては、駆動バッテリ31の充電が停止されること、及び充電装置から駆動バッテリ31に供給される充電電流が低減されること、などがある。例えば飛行制御装置40は、駆動バッテリ31の充電態様を急速充電から通常充電に切り替えることで充電電流を低減してもよい。急速充電での充電電流は、通常充電での充電電流よりも大きい。
【0125】
このように飛行制御装置40により充電電流が制限されることで、バッテリ入力電流がバッテリ出力電流Ibtよりも小さくなり、バッテリ蓄電量Pbtが減少しやすくなる。このため、バッテリ蓄電量Pbtを減少させるために、eVTOL10が不安定になるほどにロータ20を回転させてバッテリ出力電流Ibtを増加させる、という必要がない。したがって、バッテリ出力電流Ibtを過剰に増加させなくても、バッテリ31の放電による駆動バッテリ31の昇温を実現しやすくなる。
【0126】
これに対して、例えばバッテリ入力電流がバッテリ出力電流Ibtよりも大きい場合、バッテリ蓄電量Pbtが減少しにくくなる。この場合、バッテリ蓄電量Pbtが減少しにくいことに起因して、バッテリ温度Tbtが上昇しにくくなることが懸念される。バッテリ入力電流がバッテリ出力電流Ibtよりも大きくなりやすい場合としては、急速充電が行われている状態でバッテリ昇温処理が行われた場合などがある。
【0127】
本実施形態によれば、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低く、且つバッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PAに達している場合に、駆動バッテリ31からバッテリ出力電流Ibtが出力される。この構成では、バッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PAに達していても、バッテリ出力電流Ibtの出力により駆動バッテリ31を昇温させることができる。このように、バッテリ蓄電量Pbtが目標蓄電量PAに達してこれ以上の充電を行うことが困難な場合にEPU50を駆動して駆動バッテリ31を昇温させることで、駆動バッテリ31の充電に無駄が生じることを抑制しつつ駆動バッテリ31を昇温できる。
【0128】
本実施形態によれば、駆動バッテリ31の充電が行われている状態でEPU50が駆動され、且つバッテリ蓄電量Pbtが蓄電下限量PBまで減少した場合に、EPU50の駆動が停止される。この構成では、バッテリ蓄電量Pbtが蓄電下限量PBよりも更に減少することをEPU50の駆動停止により抑制できる。このため、駆動バッテリ31の電力を、eVTOL10の飛行にとって支障が生じない範囲で駆動バッテリ31の昇温に利用することができる。
【0129】
<他の実施形態>
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、又は組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0130】
上記第2実施形態において、加熱装置100において熱媒体が流れる循環経路105は、切り替え可能になっていてもよい。例えば加熱装置100においては、熱媒体が流通可能な媒体流路が複数設けられており、複数の媒体流路のうち循環経路105を形成する流路が選択的に切り替えられてもよい。複数の媒体流路のうち循環経路105として選択される流路は、eVTOL10の着陸中と飛行中とで同じでもよく、異なっていてもよい。また、複数の媒体流路に対して弁等の流路切替部が設けられていることで循環経路105が切り替えられてもよい。さらに、eVTOL10の着陸中及び飛行中の両方においてバッテリ昇温処理が行われる構成であれば、着陸中の循環経路105は、飛行中の循環経路105よりも熱媒体が駆動バッテリ31に放熱しやすくなっていてもよい。
【0131】
上記各実施形態において、バッテリ昇温処理及びバッテリ保温処理として、上記第1実施形態のEPU50を駆動させる処理と、上記第2実施形態の加熱装置100を駆動させる処理との少なくとも一方が行われてもよい。例えば、バッテリ外温度が第1基準温度よりも低い場合には、EPU50及び加熱装置100の両方が駆動される構成とする。この構成では、バッテリ外温度が第1基準温度よりも高く且つ第2基準温度よりも低い場合には、EPU50及び加熱装置100のうち一方だけが駆動される。
【0132】
上記第2実施形態において、加熱装置100の発熱体101としてEPU50が用いられてもよい。すなわち、加熱装置100において、熱交換装置102により循環される熱媒体が発熱体101及びEPU50の少なくとも一方と熱交換するようになっていてもよい。熱媒体が発熱体101及びEPU50の両方と熱交換可能になっていれば、発熱体101とEPU50とで循環経路105が共有されることになる。
【0133】
例えば、EPU50の熱が熱媒体を介して駆動バッテリ31に付与される構成では、EPU50の駆動に伴う駆動バッテリ31の放電と、EPU50の駆動に伴って発生した熱と、の両方により駆動バッテリ31が昇温されることになる。この構成では、駆動バッテリ31にて発生した熱が熱媒体に吸熱されるため、発熱体101の消費電力を節約することができる。また、この構成では、発熱体101及びEPU50のうちEPU50だけの熱が熱媒体に付与されるようにすることで、発熱体101を不要にできる。
【0134】
上記各実施形態において、バッテリ昇温処理及びバッテリ保温処理では、駆動させる通電対象はEPU50に限られない。例えば、バッテリ昇温処理として、チルト機構及び空調装置の少なくとも一方が駆動されてもよい。この場合、駆動バッテリ31からのバッテリ出力電流Ibtがチルト機構及び空調装置の少なくとも一方に流れる。この場合でも、通電対象への通電により駆動バッテリ31が放電し、バッテリ温度Tbtを上昇させることができる。また、バッテリ昇温処理とバッテリ保温処理とで、駆動させる通電対象が異なっていてもよい。例えば、バッテリ昇温処理ではEPU50が駆動され、バッテリ保温処理では空調装置が駆動されてもよい。なお、EPU50が送風ファンを有していれば、バッテリ昇温処理及びバッテリ保温処理において、EPU50がロータ20及び送風ファンのうち送風ファンだけを駆動回転させてもよい。
【0135】
上記各実施形態において、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い場合、飛行制御装置40は、eVTOL10の離陸を制限できればよい。例えば、バッテリ温度Tbtが離陸許可温度TAよりも低い場合に、例えば飛行制御装置40に対して特定のパイロットにより特定の操作が行われた場合に限って、離陸禁止フラグが解除されてもよい。この場合でも、飛行制御装置40はeVTOL10の離陸を制限していることになる。なお、eVTOL10については、離陸の制限の一種が離陸の禁止である。
【0136】
上記各実施形態において、バッテリ温度Tbtについて、eVTOL10の離陸制限を解除する制限解除温度と、バッテリ昇温処理を終了する昇温終了温度とは、異なっていてもよい。例えば上記第1実施形態において、制限解除温度が昇温終了温度TBよりも低い温度に設定されていてもよい。この構成では、バッテリ温度Tbtが制限解除温度を越えることでeVTOL10の離陸制限が解除された後も、バッテリ昇温処理が継続して行われる。
【0137】
上記各実施形態において、離陸許可温度TAは可変設定されてもよい。例えば飛行制御装置40が、eVTOL10の機体情報に応じて離陸許可温度TAを可変設定してもよい。機体情報としては、eVTOL10の重さに関する情報及び大きさに関する情報などがある。重さに関する情報としては、機体重量を示す情報、及び追加重量を示す情報がある。追加重量を示す情報としては、乗員の人数を示す情報、及び積載物の総重量を示す情報などがある。例えば飛行制御装置40は、eVTOL10が軽いほど離陸許可温度TAを低い温度に設定する。eVTOL10が軽い場合、仮にバッテリ温度Tbtが低いことに起因してロータ20の出力が低めであったとしても、eVTOL10の安全性が低下しない程度にロータ20の出力を確保することが可能である。このため、eVTOL10が軽いほど離陸許可温度TAが低い温度に設定されても、eVTOL10の安全性を確保した上でeVTOL10を飛行させることが可能である。
【0138】
離陸許可温度TAと同様に、昇温終了温度TB及び保温実行温度TCが機体情報等に応じて可変設定されてもよい。例えば、昇温終了温度TB及び保温実行温度TCは、外気温度Toaに応じて可変設定されてもよい。また、上限時間S1,S2が機体情報等に応じて可変設定されてもよい。さらに、目標蓄電量PA及び蓄電下限量PBが機体情報等に応じて可変設定されてもよい。
【0139】
上記各実施形態において、駆動バッテリ31の温度を検出する温度センサが駆動バッテリ31に対して設けられていてもよい。
【0140】
上記各実施形態において、eVTOL10は、チルトロータ機でなくてもよい。すなわち、1つのロータ20がリフト用ロータ及びクルーズ用ロータを兼用する構成でなくてもよい。例えば、1つのロータ20がリフト用ロータ及びクルーズ用ロータのうち一方だけとして機能する構成とする。この構成では、eVTOL10において、複数のロータ20に、リフト用ロータとクルーズ用ロータとが含まれている。このeVTOL10では、上昇する場合にはリフト用ロータが駆動し、前方に進む場合にはクルーズ用ロータが駆動する。リフト用ロータはホバー用ロータと称されることがある。
【0141】
上記各実施形態において、飛行制御装置40が搭載される垂直離着陸機は、少なくとも1つのロータ20を少なくとも1つのEPU50が駆動するという電動式の垂直離着陸機であればよい。例えば、1つのロータ20を複数のEPU50が駆動する構成でもよく、複数のロータ20を1つのEPU50が駆動する構成でもよい。
【0142】
上記各実施形態において、飛行制御装置40が搭載される飛行体は、電動式であれば、垂直離着陸機でなくてもよい。例えば、飛行体は、電動航空機として、滑走を伴う離着陸が可能な飛行体でもよい。さらに、飛行体は、回転翼機又は固定翼機でもよい。飛行体は、人が乗らない無人飛行体でもよい。
【0143】
上記各実施形態において、飛行制御装置40は、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、ハードウェアである少なくとも1つのプロセッサを含む。このプロセッサをハードウェアプロセッサと称すると、ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、又は(iii)により提供することができる。
【0144】
(i)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、プログラム及びデータの少なくとも一方を格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0145】
(ii)ハードウェアプロセッサは、少なくとも1つのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、例えばCPUと称される。メモリは、記憶媒体とも称される。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラム及びデータの少なくとも一方」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。
【0146】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、又は共通のチップの上に配置される。
【0147】
すなわち、飛行制御装置40が提供する手段及び機能の少なくとも一方は、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組み合わせにより提供することができる。
【符号の説明】
【0148】
10…電動飛行体としてのeVTOL、20…回転翼としてのロータ、31…バッテリとしての駆動バッテリ31、40…制御装置としての飛行制御装置、50…通電対象及び駆動装置としてのEPU、100…加熱装置、101…発熱部としての発熱体、102…循環部としての熱交換装置、Ibt…電流としてのバッテリ出力電流、Pbt…蓄電量としてのバッテリ蓄電量、PA…目標量としての目標蓄電量、PB…下限量としての蓄電下限量、S1,S2…上限時間、Tbt…バッテリ温度、TA…離陸許可温度、TB…制限解除温度としての昇温終了温度、S102…温度取得部、S104…離陸制限部、S108…降温規制部、S202…バッテリ昇温部、出力実行部及び駆動実行部、S204…制限解除部、S205…昇温終了部、S301,S302…バッテリ昇温部及び加熱実行部、S404…バッテリ昇温部、出力実行部及び蓄電出力部、S406…駆動停止部、S408…制限解除部、S409…昇温終了部。