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特許7505494ポリオレフィン系接着剤組成物及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系接着剤組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20240618BHJP
   C09J 109/00 20060101ALI20240618BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J109/00
B32B27/32 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021533256
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042128
(87)【国際公開番号】W WO2021106576
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019216781
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 知佳
(72)【発明者】
【氏名】柏原 健二
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-035079(JP,A)
【文献】特表平08-504226(JP,A)
【文献】特開昭55-037350(JP,A)
【文献】特開昭54-007453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン(A)およびエチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)を含有する接着剤組成物であって
前記酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対し、前記エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の含有量50~100質量部であり、
前記酸変性ポリオレフィン(A)のポリオレフィン成分がプロピレン・1-ブテン共重合体であり、
前記接着剤組成物中における前記酸変性ポリオレフィン(A)及び前記エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の含有量の合計が10質量%以上である、
接着剤組成物。
【請求項2】
前記エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の重量平均分子量(Mw)が1,000以上100,000以下である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィン(A)の酸価が2~50mgKOH/gである請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
さらに溶剤(C)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記溶剤(C)が、脂環式炭化水素溶剤(C1)およびエステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)を含む、請求項1~4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
脂環式炭化水素溶剤(C1)とエステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)の質量比が、(C1)/(C2)=95/5~50/50である、請求項1~5のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
ポリオレフィン樹脂基材1および基材1とは異なる基材2との接着に用いられる請求項1~6のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項8】
酸変性ポリオレフィン(A)がプロピレンを60モル%以上含有する請求項1~7のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の接着剤組成物によって接着されたポリオレフィン樹脂基材1と、基材1とは異なる基材2との積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂は、安価で成形性、耐薬品性、耐水性、電気特性など多くの優れた性質を有するため、シート、フィルム、成形物等として、近年広く採用されている。
しかし、これらポリオレフィン系樹脂からなる基材(以下、ポリオレフィン系基材)は、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等の極性基材とは異なり、非極性かつ結晶性であるため、塗装や接着が困難であるという欠点を有する。
最近は、ポリオレフィン系基材同士のみならず、例えば塩化ビニル(PVC)、ポリエステルといった極性プラスチック基材や、金属など異種材料とポリオレフィン系基材との優れた付着性への要求が大きくなっている。
ポリオレフィン系樹脂基材および異種材間の接着剤の主成分としては、熱可塑性の共重合線状ポリマーをベース樹脂とし、変性ポリオレフィン樹脂および粘着付与剤からなるもの(特許文献1)、変性ポリオレフィン、脂肪族ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂および粘着付与剤からなるもの(特許文献2)、変性ポリオレフィン、熱可塑性樹脂および粘着付与剤からなるもの(特許文献3)などが提案されている。
【0003】
【文献】特開2004-292716
【文献】特開2014-234400
【文献】特開2016-89060
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記提案されている接着剤組成物は、いずれもポリオレフィン樹脂基材と金属(アルミ二ウム)やポリオレフィン樹脂基材とポリエステル(PET)基材間での接着性は良好であるが、アルミニウムやPET以外の基材とポリオレフィン樹脂基材との接着性は不明である。また、いずれもホットメルト接着剤であり、180℃という高温での接着が不可欠である。本発明は、ポリオレフィン樹脂基材とポリオレフィン樹脂基材以外の様々な極性プラスチック基材や金属基材間で良好な接着性を示し、低温での貼り合わせが可能である接着剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討し、特定の変性ポリオレフィンおよびエチレン-α-オレフィン -ジエンゴムの組み合わせが有効であることを見出し、以下の発明を提案するに至った。すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0006】
(1)酸変性ポリオレフィン(A)およびエチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(B)を含有し、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対し、エチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(B)が1~100質量部の接着剤組成物。
【0007】
(2)前記エチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(B)の重合平均分子量(Mw)が1,000以上100,000以下である接着剤組成物。
【0008】
(3)前記酸変性ポリオレフィン(A)の酸価が2~50mgKOH/gである上記(1)または(2)に記載の接着剤組成物。
【0009】
(4)さらに溶剤(C)を含む上記(1)~(3)に記載の接着剤組成物。
【0010】
(5)前記溶剤(C)が、脂環式炭化水素溶剤(C1)およびエステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0011】
(6)脂環式炭化水素溶剤(C1)とエステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)の質量比が、(C1)/(C2)=95/5~50/50である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0012】
(7)ポリオレフィン樹脂基材1および基材1とは異なる基材2との接着に用いられる上記(1)~(6)のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0013】
(8)酸変性ポリオレフィン(A)がプロピレンを60モル%以上含有する上記(1)~(7)のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0014】
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載の接着剤組成物によって接着されたポリオレフィン樹脂基材1と、基材1とは異なる基材2との積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の接着剤組成物は、酸変性ポリオレフィンおよびエチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(B)を含み、硬化剤を使用しない場合でもポリオレフィンのような非極性基材と、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)のような極性基材、金属などのその他異種基材の接着性に優れ、伸び性も良好である。また、ドライラミネートにより塗工可能なため、設備費を削減でき、膜厚も薄くすることができる。さらに、ポリオレフィン基材の熱収縮影響が小さい90℃以下のような低温で加熱接着した場合でも優れた接着性を発現する。
【0016】
本発明の接着剤組成物は、ポリオレフィン基材のみならず、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル樹脂、アルミニウム等の基材とも良好な密着性を示すため、マルチ基材用接着剤として有用である。
【0017】
また、本発明の接着剤組成物は硬化剤を使用しないため、接着後でも熱処理を行うことで基材から簡単に剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
<酸変性ポリオレフィン(A)>
本発明で用いる酸変性ポリオレフィン(A)は限定的ではないが、ポリプロピレンにα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。
【0020】
ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンが特に好ましく使用できるが、プロピレン・α-オレフィン共重合体も使用できる。プロピレン・α-オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いることができる。これらのα-オレフィンの中では、エチレン、1-ブテンが好ましい。
【0021】
酸変性ポリオレフィン(A)はオレフィン成分としてプロピレンを60モル%以上含有することが好ましい。より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上である。まして好ましいのは90モル%以上である。プロピレン含有量が多いほど、プロピレン基材との接着性が向上する。
【0022】
プロピレンと1-ブテンのモル比の好ましい範囲としてはプロピレン/1-ブテン=100~60/0~40であり、より好ましくは98~65/2~35、さらに好ましくは90~70/10~30である。プロピレンのモル比が60%以上であることで、ポリオレフィン基材との優れた接着性を発現できる。
【0023】
オレフィン成分として、プロピレンと1-ブテン成分の合計量は樹脂成分を100質量部とすると50質量部以上であることが好ましい。より好ましくは55質量部以上であり、さらに好ましくは60質量部以上であり、特に好ましくは65質量部以上であり、70質量部であっても差し支えない。プロピレンと1-ブテン成分の合計量が50質量部以上であると、ポリオレフィン基材への接着性が特に良好である。
【0024】
α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体等が挙げられ、これら酸変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0025】
酸変性ポリオレフィン(A)の酸価は、2~50mgKOH/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは3~40mgKOH/g、さらに好ましくは5~30mgKOH/g、特に好ましくは5~16mgKOH/gの範囲である。酸価が2mgKOH/g以上では、接着層の伸び性が良好に発揮される。一方、酸価が50mgKOH/g以下では、低温での溶液安定性が良好な傾向を示す。
【0026】
酸変性ポリオレフィン(A)は塩素化されていてもよい。
【0027】
酸変性ポリオレフィン(A)の融点(Tm)は、50℃以上130℃以下であることが好ましい。より好ましくは55℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。また、より好ましくは125℃以下であり、さらに好ましくは120℃未満であり、それ以上に好ましいのは115℃以下、最も好ましくは110℃以下である。50℃以上では、結晶由来の凝集力が強くなり、接着性が良好である。一方、130℃以下では、溶液安定性、流動性が良好であり、接着する際の操作性に優れる。また、接着時の温度が低温でも可能となる。
【0028】
酸変性ポリオレフィン(A)の融解熱量は、20~70J/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは25~65J/gの範囲であり、最も好ましくは30~60J/gの範囲である。前記の値以上であると、結晶由来の凝集力が強くなり、接着性が優れる。一方、前記の値未満では、ゲル化しにくく、溶液安定性が良好である。
【0029】
酸変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)は、10,000~200,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは20,000~180,000の範囲であり、さらに好ましくは30,000~160,000の範囲であり、特に好ましくは40,000~140,000の範囲であり、最も好ましくは、50,000~100,000の範囲である。10,000以上であると、凝集力が強くなり接着性が良好である。一方、200,000以下であると、流動性が高く接着する際の操作性が良好、かつ低温での溶液安定性が良好である。
【0030】
酸変性ポリオレフィン(A)の製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸および酸無水物をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0031】
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。
【0032】
これらの酸変性ポリオレフィン(A)は、単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
<エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)>
本発明の接着剤組成物はエチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)を含有する。エチレン-α-オレフィン-ジエンゴムを含有させることにより、接着剤を成膜した後の内部応力を軽減させ、かつタック性を付与でき、基材との接着性を向上させることができる。
【0034】
エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)は、エチレンを30質量%以上含有することが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、850質量%以下がさらに好ましく、80質量%以下が特に好ましい。
【0035】
エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)のα-オレフィン成分はC3~20のオレフィンが挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。α-オレフィンとしてはプロピレンであることが好ましく、プロピレンのみであることがより好ましい。
【0036】
エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)中のジエン成分は3質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、12質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上200,000以下が好ましい。より好ましくは15,000以上180,000以下であり、さらに好ましくは20,000以上160,000以下、特に好ましくは30,000以上140,000,0以下、それ以上に好ましくは40,000以上120,000以下、最も好ましくは45,000以上100,000以下である。10,000以上であると酸変性ポリオレフィン(A)との相溶性がほどよく、応力緩和効果が発現され、接着性が良好となる傾向がある。また、100,000以下では、酸変性ポリオレフィン(A)との相溶性が著しく向上する。
【0038】
エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の添加量は、酸変性ポリオレフィン(A)100重量部に対して、1質量部以上100質量部以下が好ましい。より好ましくは5質量部以上80質量部以下であり、さらに好ましくは8質量部以上75質量部以下、特に好ましくは12質量部以上70質量部以下、それ以上に好ましくは15質量部以上65質量部以下、最も好ましくは18質量部以上60質量部以下である。1質量部以上であると酸変性ポリオレフィン(A)との相溶性がほどよく、応力緩和効果が発現され、接着性が良好となる傾向がある。また、100質量部以下では、程よくタックがあり、接着性が向上する。
【0039】
エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の形状は、特に限定しないが、常温で半固形または液状のものが特に好ましい。塗膜にしたときの粘着性が高く、かつ伸び性が良好である。
【0040】
エチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(B)の粘度は、60℃雰囲気下において、100Pa・S以上2,000Pa・S以下が好ましい。より好ましくは200Pa・S以上1,800Pa・S以下、さらに好ましくは300Pa・S以上1,600Pa・S以下であり、特に好ましくは400Pa・S以上1,500Pa・S以下であり、それ以上に好ましくは500Pa・S以上1,400Pa・S以下、最も好ましくは600Pa・S以上1,300Pa・S以下である。100Pa・S以上であると粘着性を発現し、2,000Pa・S以下であると、他成分との相溶性が良好となる。
【0041】
<溶剤(C)>
本発明の接着剤組成物は、溶剤(C)を含むことができる。溶剤(C)は、酸変性ポリオレフィン(A)およびエチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)を溶解または分散できるものであれば特に限定されないが、脂環式炭化水素溶剤(C1)、エステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)が好ましい。
例えば、脂環式炭化水素溶剤(C1)としてはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。エステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの中ではメチルシクロヘキサン、メチルエチルケトンが好ましい。これらを単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0042】
本発明で使用される溶剤(C)は、脂環式炭化水素溶剤(C1)とエステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)を含む混合溶剤を用いることができる。脂環式炭化水素溶剤とエステル系溶剤またはケトン系溶剤の混合溶剤とすることで、接着剤組成物の溶解性を向上させることができる。
【0043】
前記混合溶剤を用いる場合、脂環式炭化水素溶剤(C1)とエステル系溶剤またはケトン系溶剤(C2)の質量比は(C1)/(C2)=99/1~50/50であることが好ましい。より好ましくは95/5~60/40であり、特に好ましくは90/10~70/30の範囲である。前記の範囲より脂環式炭化水素(C1)が多いと、粘度が高く塗工ムラが発生し、接着性が低下する場合がある。前記の範囲の脂環式炭化水素(C1)を含んでいれば、樹脂の溶解性が良好である。
【0044】
溶剤(C)は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、10~2000質量部の範囲で含むことができる。好ましくは25質量部以上1500質量部以下であり、より好ましくは50質量部以上1000質量部以下、さらに好ましくは100質量部以上900質量部以下、それ以上に好ましくは100質量部以上800質量部以下である。前記範囲内であると製造コスト、輸送コストの面から有利である。
【0045】
本発明にかかる接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で、酸変性ポリオレフィン(A)、エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)の他に、各種の可塑剤、硬化促進剤、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤等の添加剤を配合して使用することができる。
【0046】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、接着剤組成物中における酸変性ポリオレフィン(A)およびエチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)を合計5質量%以上40質量%以下含むことが好ましい。より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは13質量%以上である。また、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。さらに好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以下である。前記範囲内では、貯蔵安定性が良好であり、また、塗工性が良好な傾向にある。
【0047】
上記硬化剤は特に限定されず、一般的に公知のものを指す。例えば、エポキシ硬化剤や、イソシアネート硬化剤、オキサゾリン基またはカルボジイミド基を含有する化合物、シランカップリング剤などである。
【0048】
<積層体>
本発明の積層体は、ポリオレフィン樹脂基材1と、ポリオレフィン基材1もしくは異種基材2を本発明にかかる接着剤組成物で積層したものである。前記異種基材2とは、ポリオレフィン基材1とは異なる基材のことである。例えば、ポリオレフィン基材1がポリプロピレンであれば、異種基材2はポリプロピレン以外のABS樹脂、ポリカーボネートなどである。
【0049】
上述した本発明の積層体は、例えば、バンパー、インストルメントパネル、トリム、ガーニッシュなどの自動車部品や新幹線の内装材等の乗り物用部品、テレビ、洗濯機槽、冷蔵庫部品、エアコン部品、掃除機部品などの家電機器部品、携帯電話端末やノートパソコンなどのモバイル機器や通信機器、各種機器のタッチパネル、日用品に有用である。
【0050】
積層する方法としては、従来公知のラミネート製造技術を利用することができる。例えば、特に限定されないが、基材の表面に接着剤組成物をアプリケータやバーコータ等の適当な塗布手段を用いて塗布し、乾燥させる。乾燥後、基材表面に形成された接着剤組成物の層(接着剤層)が溶融状態にある間に、その塗布面にもう片方の基材を積層接着(ラミネート接着、ヒートシール接着)して積層体を得ることができる。ラミネート接着やヒートシール接着いずれの積層体作製方法であっても、十分な接着性を確保できる。
前記接着剤組成物により形成される接着剤層の厚みは、特に限定されないが、0.5~60μmにすることが好ましく、1~50μmにすることがより好ましく、2~40μmにすることがさらに好ましい。
【0051】
<ポリオレフィン樹脂基材(フィルム)>
ポリオレフィン樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などを用いることができる。中でも、ポリプロピレンの無延伸フィルム(以下、CPPともいう。)の使用が好ましい。その厚さは、特に限定されないが、20~100μmであることが好ましく、25~95μmであることがより好ましく、30~90μmであることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよいし、表面処理を施してもよい。
【0052】
<ポリオレフィン樹脂基材(成型体)>
ポリオレフィン樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などを用いることができる。中でも、ポリプロピレンの試験板の使用が好ましい。その厚さは、特に限定されないが、0.1~100mmであることが好ましく、0.5~90mmであることがより好ましく、1~80mmであることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよいし、表面処理を施してもよい。
【0053】
<その他異種基材(成型体)>
異種基材は、フィルムであっても成型体であってもよく、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、Al箔等を用いることができる。特に限定されないが、市販の試験板を用いることができる。その厚さも特に限定されないが、0.1~100mmであることが好ましく、0.5~90mmであることがより好ましく、1~80mmであることがさらに好ましい。表面処理を施してもよいし、未処理のままでもよい。いずれの場合であっても同等の効果を発揮することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0055】
<酸変性ポリオレフィン(A)の製造例>
製造例1
1Lオートクレーブに、ポリプロピレン(Tm:80℃、重量平均分子量135,000)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸8.5質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド4質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に1時間撹拌した。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。得られた樹脂を減圧乾燥することにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性ポリプロピレン(A-1、酸価12mgKOH/g-resin、重量平均分子量60,000、Tm80℃、融解熱31J/g)を得た。
【0056】
製造例2
製造例1で用いたポリプロピレンを別のポリプロピレン(Tm:80℃、重量平均分子量45,000)に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性ポリプロピレン(A-2、酸価12mgKOH/g-resin、重量平均分子量45,000、Tm80℃、融解熱33.5J/g)を得た。
【0057】
製造例3
製造例1で用いたポリプロピレンをプロピレン-ブテン共重合体(Tm:83℃、プロピレン80モル%、ブテン20モル%)に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(A-3、酸価12mgKOH/g-resin、重量平均分子量90,000、Tm80℃、融解熱47.9J/g)を得た。
【0058】
製造例4
製造例1で用いたポリプロピレンをプロピレン-ブテン共重合体(Tm:98℃、プロピレン85モル%、ブテン15モル%)に変更し、かつ無水マレイン酸を12質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(A-4、酸価12mgKOH/g-resin、重量平均分子量90,000、Tm95℃、融解熱55.7J/g)を得た。
【0059】
実施例1
水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、製造例1で得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン(A-1)を83質量部、エチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(EPDM)(B-1)を17質量部、シクロヘキサンを540質量部およびメチルエチルケトンを60質量部仕込み、撹拌しながら70℃まで昇温し、撹拌を1時間続けた後、冷却することで接着剤組成物1を得た。この接着剤組成物1を用いて、下記の方法で積層体を作成した。
【0060】
ポリオレフィン樹脂基材とポリオレフィン樹脂基材、もしくはその他異種基材との積層体の作製(ヒートシール接着)
ポリオレフィン樹脂基材には無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムCT、厚さ80μm)(以下、CPPともいう。)を使用した。得られた接着剤組成物をポリオレフィン樹脂基材にアプリケータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が20μmになるように調整して塗布した。温風乾燥機を用いて塗布面を100℃雰囲気で3分間乾燥させ、膜厚20μmの接着剤層が積層されたポリオレフィン樹脂基材を得た。前記接着剤層表面にポリプロピレン(PP)試験板(日本テストパネル社製、厚さ2mm)、ABS試験板(日本テストパネル社製、厚さ2mm)、ポリカーボネート(PC)試験板(日本テストパネル社製、厚さ2mm)を重ね合わせ、テスター産業社製のヒートシールテスター(TP-701-B)を用いて、ヒートシール温度90℃(試験板側は55℃)で、0.3MPa、15秒間貼り合わせ、室温で、1日間養生することで積層体を得た。
得られた積層体に対して、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例2~11、比較例1~4)
酸変性ポリオレフィン(A)、エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム(B)を表1に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で接着剤組成物2~11を作製した。得られた接着剤組成物2~11を用いて実施例1と同様な方法で積層体を作製し、接着性評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0063】
表1で用いたエチレン-α-オレフィン -ジエンゴム(B)は以下のものである。
B-1:LION ELASTOMERS社製 Trilene(登録商標)65(Mw:47,000、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ジエン成分10質量%)
B-2:LION ELASTOMERS社製 Trilene(登録商標)67(Mw:39,000、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ジエン成分9.5質量%)
B-3:LION ELASTOMERS社製 Trilene(登録商標)77(Mw:27,000、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ジエン成分10.5質量%)
【0064】
実施例1の接着剤組成物1を用い、前記の積層体の作製(ヒートシール接着)に記載した方法でポリオレフィン樹脂基材(CPPフィルム)とアルミニウム基材(日本テストパネル社製、厚さ2mm)の積層体を作製したところ、接着性(剥離強度)は10N/15mmであり、良好な接着性を示した。また、接着剤組成物2~11についても接着性は良好であった。
【0065】
上記のようにして得られた各酸変性ポリオレフィン、応力緩和剤、粘着付与剤、接着剤組成物および積層体に対して下記方法に基づいて分析測定および評価を行った。
【0066】
<酸価の測定>
本発明における酸価(mgKOH/g-resin)は、1gの酸変性ポリオレフィン(A)を中和するのに必要とするKOH量のことであり、JIS K0070(1992)の試験方法に準じて、測定した。具体的には、100℃に温度調整したキシレン100gに、酸変性ポリオレフィン1gを溶解させた後、同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行った。この際、滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0067】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
本発明における重量平均分子量は、日本ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフAlliance e2695(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-806 + KF-803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm = 紫外線))によって測定した。
【0068】
<融点、融解熱量の測定>
本発明における融点、融解熱量は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、-50℃で5分間保持後、10℃/分の速度で昇温融解し、200℃で2分間保持し、10℃/分の速度で-50℃まで冷却樹脂化した後、再度10℃/分の速度で昇温融解した際の融解ピークのトップ温度および面積から測定した。
【0069】
<接着性の評価>
積層体を15mmの短冊状に切断し、180°剥離試験により接着性を以下の基準により評価した。
180°剥離試験はASTM-D1876-61の試験法に準拠し、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分における剥離強度を測定した。異種基材/ポリオレフィン樹脂基材間の剥離強度(N/15mm)は2回の試験値の平均値とした。
【0070】
本発明における塗膜の伸び性は、厚さ50μmのキャストフィルムを作製し、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分の条件で測定した。キャストフィルムの作製方法は次のように作製した。得られた接着剤組成物をテフロンシートにアプリケータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が50μmになるように調整して塗布した。温風乾燥機を用いて塗布面を100℃雰囲気で10分間乾燥させ、膜厚50μmの接着剤層が積層されたテフロンシートを得た。塗膜は、テフロンシートから剥離させ、長さ60×幅15mmにカットし、チャック間距離(はじめの塗膜の長さ)を30mmとし、以下の式から伸度を計算した。

{(塗膜破断時の長さ-はじめの塗膜の長さ)/はじめの塗膜の長さ}×100(%)
【0071】
<総合評価>
本発明における接着性と伸び性の評価から、下記基準により評価を行った。
○:3基材(PP、ABS、及びPC)の接着性(剥離強度)の平均14(N/15mm)以上かつ、伸び性(破断伸度)550(%GL)以上
△:(i)3基材(PP、ABS、及びPC)の接着性(剥離強度)の平均7(N/15mm)以上かつ、伸び性(破断伸度)550(%GL)未満350以上、または(ii)3基材(PP、ABS、及びPC)の接着性(剥離強度)の平均14(N/15mm)未満7以上かつ、伸び性(破断伸度)550(%GL)以上
×:3基材(PP、ABS、及びPC)の接着性(剥離強度)の平均7(N/15mm)未満、または伸び性(破断伸度)350(%GL)未満
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の接着剤組成物は、酸変性ポリオレフィンおよび熱可塑性樹脂を含み、硬化剤不使用の場合でもポリオレフィンのような非極性基材と極性基材、金属などのその他異種基材の接着性に優れる。また、ドライラミネートにより塗工可能なため、設備費を削減でき、膜厚も薄くすることができる。さらに、ポリオレフィン基材の熱収縮影響が小さい90℃以下のような低温での加熱接着でも優れた接着性を発現し、伸び性も良好である。そのため、本発明の接着剤組成物は、様々な種類の基材同士を貼り合わせる加飾フィルムやペイントフィルム用をはじめとする様々な用途の接着剤として幅広く利用し得るものである。