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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20240618BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20240618BHJP
【FI】
H01M10/06 Z
H01M4/62 B
H01M10/12 K
H01M4/14 Q
H01M4/14 R
H01M50/463 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021548960
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020035918
(87)【国際公開番号】W WO2021060327
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2019178091
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 文也
(72)【発明者】
【氏名】辻中 彬人
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-018742(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110594(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/087678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14- 4/23
H01M 4/62
H01M 4/68
H01M10/06-10/18
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの極板群と、電解液とを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパ
レータと、を備え、
前記少なくとも1つの極板群において、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、有機防縮剤を含み、
前記有機防縮剤は、単環式芳香族化合物のユニットと他の芳香族化合物のユニットとを含む第1有機防縮剤(リグニン化合物を除く)を含み、
前記単環式芳香族化合物のユニットは、少なくともフェノールスルホン酸化合物のユニットを含み、
前記正極板と前記負極板との極間距離は、1.1mm未満であり、
前記負極電極材料に含まれる前記有機防縮剤の含有量の総量は、0.01質量%以上、1.0質量%以下であり、
前記有機防縮剤の含有量に占める前記第1有機防縮剤の含有量は、20質量%以上であり、
前記第1有機防縮剤は、芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物であり、
前記芳香族化合物は、前記単環式芳香族化合物と前記他の芳香族化合物とに区分され、
前記単環式芳香族化合物のユニットと前記他の芳香族化合物のユニットの総量に占める前記単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、10モル%以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極板は、正極電極材料を含み、
前記正極電極材料は、Sbを含む、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極電極材料中のSbの含有量は、0.01質量%以上0.6質量%以下である、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記正極電極材料中のSbの含有量は、0.02質量%以上0.5質量%以下である、請求項2または3に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記正極電極材料中のSbの含有量は、0.4質量%以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
少なくとも1つの極板群と、電解液とを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、を備え、
前記少なくとも1つの極板群において、
前記正極板は、正極電極材料を含み、
前記正極電極材料は、Sbを含み、
前記正極電極材料中のSbの含有量は、0.02質量%以上0.4質量%以下であり、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、有機防縮剤を含み、
前記有機防縮剤は、単環式芳香族化合物のユニットと他の芳香族化合物のユニットとを含む第1有機防縮剤(リグニン化合物を除く)を含み、
前記正極板と前記負極板との極間距離は、1.1mm未満であり、
前記負極電極材料に含まれる前記有機防縮剤の含有量の総量は、0.01質量%以上、1.0質量%以下であり、
前記有機防縮剤の含有量に占める前記第1有機防縮剤の含有量は、20質量%以上であり、
前記第1有機防縮剤は、芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物であり、
前記芳香族化合物は、前記単環式芳香族化合物と前記他の芳香族化合物とに区分され、
前記単環式芳香族化合物のユニットと前記他の芳香族化合物のユニットの総量に占める前記単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、10モル%以上である、鉛蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータは、少なくとも一方の表面にリブを備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記セパレータは、両方の表面にリブを備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記リブの平均高さは、0.1mm以上1mm以下である請求項7または8に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記第1有機防縮剤は、前記他の芳香族化合物のユニットとして、ビスアレーン化合物のユニットを含み、
前記ビスアレーン化合物のユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記正極板は、クラッド式である、請求項1~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記極板群の総数の50%以上または全ての極板群において、前記負極板が前記第1有機防縮剤を含み、前記極間距離が1.1mm未満である請求項1~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記極間距離は、1.0mm以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項14】
前記極間距離は、0.2mm以上である、請求項1~13のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項15】
前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上、9000μmol/g以下、である請求項1~14のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項16】
前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、3000μmol/g以上、である請求項1~15のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項17】
前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上、2000μmol/g未満である請求項1~14のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項18】
前記第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上100,000以下である請求項1~17のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項19】
前記単環式芳香族化合物のユニットと前記他の芳香族化合物のユニットの総量に占める前記単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、90モル%以下である請求項1~18のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板は、集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料には、有機防縮剤が添加される。有機防縮剤としては、リグニンスルホン酸ナトリウムなどの天然由来の有機防縮剤の他、合成有機防縮剤も利用される。合成有機防縮剤としては、例えば、ビスフェノールの縮合物が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、正極、負極、及び電解液を備える鉛蓄電池であって、負極が負極材と負極集電体とを有し、負極材がビスフェノール系樹脂と負極活物質とを含み、負極集電体は耳部を有し、耳部はSn、又はSn合金の表面層が形成されている、鉛蓄電池が記載されている。
【0004】
特許文献2には、海綿状鉛を主成分とする負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えた液式鉛蓄電池において、負極活物質は、カーボンと、セルロースエーテル、ポリカルボン酸及びそれらの塩から成る群の少なくとも一つの物質と、スルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物から成る水溶性高分子とを含有し、正極活物質はアンチモンを含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池が記載されている。
【0005】
特許文献3には、海綿状鉛を主成分とする負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えた液式鉛蓄電池において、負極活物質は、化成済みの状態において海綿状鉛100mass%当たりで、カーボンブラックを0.5mass%以上2.5mass%以下と、置換基としてスルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物からなる水溶性高分子と、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びポリマレイン酸及びそれらの塩から成る群の少なくとも一種のポリカルボン酸化合物、とを含有し、かつ電解液は、化成済みの状態において、カーボンブラック濃度が3massppm以下であることを特徴とする、液式鉛蓄電池が記載されている。
【0006】
特許文献4には、活物質にビスフェノール類と亜硫酸塩もしくはアミノ酸のホルムアルデヒド縮合物を添加したことを特徴とする鉛蓄電池用負極板が記載されている。
【0007】
特許文献5には、正極と負極と電解液とを具備する鉛蓄電池において、負極は混合添加剤を添加した負極活物質を有し、混合添加剤はビスフェノールA・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物とリグニンとの混合物を含有していることを特徴とする鉛蓄電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-79166号公報
【文献】国際公開第2013/150754号
【文献】特開2013-161606号公報
【文献】特開平11-121008号公報
【文献】特開平11-250913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
深放電を含む充放電サイクルで使用される鉛蓄電池では、長時間充放電を繰り返すと、電池の温度が高くなる。これは、充電時には、鉛蓄電池が過充電状態となり易いことで、発熱することに加え、放電時にも深放電に伴い抵抗が大きくなることで、発熱が大きくなるためである。高温で深放電を含む充放電サイクルを行うと、負極電極材料から有機防縮剤が溶出し易くなり、鉛の溶出も顕著になる。鉛の溶出が顕著になると浸透短絡が発生し易い。特に、正極板と負極板との極間距離が小さい場合には、電解液の利用率が高く電解液の比重が低下し易いため、浸透短絡が顕著になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、少なくとも1つの極板群と、電解液とを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、を備え、
前記少なくとも1つの極板群において、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、単環式芳香族化合物のユニットを含む有機防縮剤(リグニン化合物を除く)を含み、
前記正極板と前記負極板との極間距離は、1.1mm未満である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
鉛蓄電池における浸透短絡の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の蓋を外した一例を模式的に示す斜視図である。
図2A図1の鉛蓄電池の正面図である。
図2B図1AのIIB-IIB線における断面を矢印方向から見たときの概略断面図である。
図3】電極板の厚みの測定箇所の説明図である。
図4】表1の結果を示すグラフである。
図5】表2の結果を示すグラフである。
図6】表3の結果を示すグラフである。
図7】表4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、少なくとも1つの極板群と、電解液とを備える。極板群は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、を備える。少なくとも1つの極板群において、負極板は、負極電極材料を含み、負極電極材料は、単環式芳香族化合物のユニットを含む有機防縮剤(リグニン化合物を除く)を含み、正極板と負極板との極間距離は、1.1mm未満である。
【0014】
高温で深放電を含む充放電サイクル(以下、単に深放電サイクルと称する)を鉛蓄電池に行うと、正極板と負極板との極間距離が1.1mm以上では、有機防縮剤の種類によって、浸透短絡の発生率はほとんど変わらない。それに対し、本発明者らは、極間距離が1.1mm未満の場合には、有機防縮剤の種類によって、浸透短絡の発生率が大きく異なることを見出した。
【0015】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、単環式芳香族化合物のユニットを含む有機防縮剤(ただしリグニン化合物を除く)を用いる。リグニン化合物は、三次元的に発達した高分子構造を有する。ビスフェノールの縮合物は、芳香環がπ電子間で相互作用し易く、リジッドになり易い。それに対し、上記の有機防縮剤は、リグニン化合物またはビスフェノールの縮合物などに比べて、平面構造を取り易いことに加え、分子の柔軟性が高い。これにより、上記の有機防縮剤では、負極電極材料に含まれる成分(特に、鉛および硫酸鉛)に対する吸着性が高まると考えられる。そのため、高温で深放電サイクルを行っても、負極電極材料中に有機防縮剤が保持され、これにより防縮効果が発揮され、鉛の流出が抑制されると考えられる。よって、極間距離が1.1mm未満と小さく、電解液の利用率が高く、電解液の比重が低下し易い場合にも拘わらず、上記の有機防縮剤を用いることで浸透短絡の発生を抑制できる。
【0016】
また、一般に、負極電極材料から有機防縮剤が溶出すると、溶出した有機防縮剤が正極板に到達して分解されるとともに、正極電極材料の還元劣化が起こる。これにより正極電極材料の脱落が促進され、電池内における正極電極材料に由来する固形物(セジメント)の量が増加する。セジメントの量が多くなると、セジメントを介する短絡(セジメント短絡)が起こり易くなる。本発明の一側面に係る鉛蓄電池によれば、上記のように、負極電極材料からの有機防縮剤の溶出が抑制される。そのため、セジメントが低減され、セジメント短絡の発生率を低減できる。
【0017】
鉛蓄電池が複数の極板群を備える場合には、1つの極板群で、負極板が上記の有機防縮剤を含み、極間距離が上記の範囲であれば、少なくともその極板群を備えるセルでは、上記のような効果を得ることができる。2つ以上の極板群(例えば、極板群の総数の50%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは全ての極板群))で、負極板が上記の有機防縮剤を含み、極間距離が1.1mm未満(好ましくは1.0mm以下)となるように鉛蓄電池を設計してもよい。
【0018】
本明細書中、リグニン化合物には、リグニンおよびリグニン誘導体が包含される。リグニン誘導体には、リグニン様の三次元構造を有するものが含まれる。リグニン誘導体としては、例えば、変性リグニン、リグニンスルホン酸、変性リグニンスルホン酸、およびこれらの塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)、マグネシウム塩、カルシウム塩など)からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0019】
極間距離は、満充電状態の鉛蓄電池について求めるものとする。
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が、3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0020】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池を意味する。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池を意味する。
【0021】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、深放電サイクルに伴い、充電後の上部の電解液の比重が低下し易い液式(ベント式)鉛蓄電池として有用である。特に、クラッド式正極板を用いる鉛蓄電池では、正極板の長さが長くなる傾向があるとともに、深放電サイクルで使用されることも多いため、充電後の上部の電解液の比重低下が顕著になる。このようなクラッド式正極板を用いる場合であっても、上記の有機防縮剤を用いることで、浸透短絡の発生を効果的に抑制できる。
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
[鉛蓄電池]
(極間距離)
正極板と負極板との間の距離(極間距離)は、1.1mm未満であればよく、1.0mm以下であってもよい。極間距離は、0.2mm以上であってもよい。
極間距離は、以下の手順で測定される。
【0024】
満充電状態の鉛蓄電池を分解し、極板群を取り出し、式:「極間距離=(ピッチ-正極板の厚み-負極板の厚み)/2」から算出する。ピッチとは、隣接する一対の正極板の耳の中心間距離である。1つの極板群に含まれる全ての隣接する正極板の対についてピッチを求め、それらの平均値を上記式に代入する。例えば、1つの極板群が正極板6枚と負極7枚とで構成される場合、ピッチは5箇所で測定される。また、1つの極板群が正極板7枚と負極板7枚とで構成される場合、ピッチは6箇所で測定される。耳の中心間距離は、1つの極板群について、複数の正極板の耳を並列接続するストラップの断面の下部で測定すればよい。鉛蓄電池が複数の極板群を備える場合、極間距離を測定する極板群は、任意に選択される。2つ以上の極板群で極間距離を測定する場合には、各極板群について上記と同様に極間距離を測定すればよい。
【0025】
正極板の厚みは、1つの極板群に含まれる全ての正極板の厚みの平均値であり、負極板の厚みは、1つの極板群に含まれる全ての負極板の厚みの平均値である。負極板およびペースト式の正極板の厚みは、例えば電極板の周縁に沿って、1辺当たり両端付近および中心付近の3箇所(合計8箇所:図3中数字1~8で示す位置)をマイクロメータで測定し、平均化する。クラッド式正極板の場合、クラッド式正極板を幅方向に平行な方向に投影した形状(つまり、クラッド式正極板を側面から見たときの形状)において、正極電極材料が存在する部分の最大厚みを正極板の厚みとして測定する。正極板は、水洗により硫酸を除去し、大気圧下で乾燥してから厚みを測定し、負極板は、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)してから厚みを測定する。
【0026】
極板群にセパレータとマットとが併用される場合、ならびに電極板に不織布を主体とするマットが貼り付けられている場合は、電極板の厚みはマットを含む厚みとする。マットは電極板と一体として使用されるためである。ただし、セパレータにマットが貼り付けられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
【0027】
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板のうち負極集電体を除いた部分である。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれる。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板のうち負極集電体および貼付部材を除いた部分である。ただし、セパレータに貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0028】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成されてもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成されてもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工および打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0029】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有してもよい。
【0030】
負極電極材料は、単環式芳香族化合物のユニットを含む(ただし、リグニン化合物以外の)有機防縮剤(以下、第1有機防縮剤と称することがある)を含む。負極電極材料は、通常、さらに酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、他の有機防縮剤(以下、第2有機防縮剤と称することがある)、炭素質材料、および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であり、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0031】
(有機防縮剤)
負極電極材料は、有機防縮剤を含む。有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。負極電極材料は、既に述べたように、有機防縮剤のうち、第1有機防縮剤を必須成分として含み、必要に応じて、さらに第2有機防縮剤を含んでいてもよい。第1有機防縮剤とは、単環式芳香族化合物のユニットを含む有機防縮剤のうち、リグニン化合物以外の有機防縮剤である。第2有機防縮剤とは、第1有機防縮剤以外の有機防縮剤である。有機防縮剤は、例えば公知の方法で合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0032】
各有機防縮剤としては、例えば、合成有機防縮剤が挙げられる。鉛蓄電池に使用される合成有機防縮剤は、通常、有機縮合物(以下、単に縮合物と称する。)である。縮合物とは、縮合反応を利用して得られ得る合成物である。リグニン化合物は、天然素材であるから合成物である縮合物(合成有機防縮剤)からは除外される。縮合物は、芳香族化合物のユニット(以下、芳香族化合物ユニットとも称する。)を含んでもよい。芳香族化合物ユニットは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットである。すなわち、芳香族化合物ユニットは、芳香族化合物の残基である。縮合物は、芳香族化合物のユニットを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0033】
縮合物としては、例えば、芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。このような縮合物は、芳香族化合物とアルデヒド化合物とを反応させることで合成し得る。ここで、芳香族化合物とアルデヒド化合物との反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、芳香族化合物として硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールS)を用いたりすることで、硫黄元素を含む縮合物を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および硫黄元素を含む芳香族化合物の量の少なくとも一方を調節することで、縮合物中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じてよい。縮合物を得るために縮合させる芳香族化合物は一種でもよく、二種以上でもよい。なお、アルデヒド化合物は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)でもよく、アルデヒドの縮合物(または重合物)などでもよい。アルデヒド縮合物(または重合物)としては、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキシメチレンなどが挙げられる。アルデヒド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。芳香族化合物との反応性が高い観点からは、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0034】
芳香族化合物は、硫黄含有基を有してもよい。すなわち、縮合物は、分子内に複数の芳香環と硫黄含有基として硫黄元素とを含む有機高分子であってもよい。硫黄含有基は、芳香族化合物が有する芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0035】
硫黄含有基は、負の極性が強い官能基である。このような官能基は電解液中では、水分子や水素イオン、硫酸水素イオンと安定な結合を形成するため、縮合物の表面に官能基が偏在する傾向がある。表面に偏在するこのような官能基は、負の電荷を持つため、縮合物の会合体間で静電的な反発が起こる。これにより、縮合物のコロイド粒子の会合または凝集が制限され、コロイド粒子径が小さくなりやすい。その結果、負極電極材料の細孔径が小さく、かつ負極電極材料の比抵抗が減少しやすくなると考えられる。そのため、硫黄含有基を有する縮合物を用いる場合、さらに高い防縮効果を確保することができる。
【0036】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合または連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。
【0037】
芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、官能基(ヒドロキシ基、アミノ基など)とを有する化合物が挙げられる。官能基は、芳香環に直接結合していてもよく、官能基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。芳香族化合物は、芳香環に、硫黄含有基および上記の官能基以外の置換基(例えば、アルキル基、アルコキシ基)を有していてもよい。
【0038】
芳香族化合物ユニットの元となる芳香族化合物は、ビスアレーン化合物および単環式芳香族化合物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0039】
ビスアレーン化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)が挙げられる。中でもビスフェノール化合物が好ましい。
【0040】
ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。例えば、ビスフェノール化合物は、ビスフェノールAおよびビスフェノールSからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。ビスフェノールAまたはビスフェノールSを用いることで、負極電極材料に対する優れた防縮効果が得られる。
【0041】
ビスフェノール化合物は、ビスフェノール骨格を有すればよく、ビスフェノール骨格が置換基を有してもよい。すなわち、ビスフェノールAは、ビスフェノールA骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。ビスフェノールSは、ビスフェノールS骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。
【0042】
単環式芳香族化合物としては、ヒドロキシモノアレーン化合物、アミノモノアレーン化合物などが好ましい。中でもヒドロキシモノアレーン化合物が好ましい。
【0043】
ヒドロキシモノアレーン化合物としては、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが挙げられる。例えば、フェノール化合物であるフェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)を用いることが好ましい。なお、既に述べたように、フェノール性ヒドロキシ基には、フェノール性ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。
【0044】
アミノモノアレーン化合物としては、アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)が挙げられる。
【0045】
リグニン化合物以外の有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば2000μmol/g以上であってもよく、3000μmol/g以上であってもよい。このような硫黄元素含有量を有する有機防縮剤を用いると、適度な粒子径のコロイド粒子が形成され易くなるため、有機防縮剤の流出が抑制され、浸透短絡の抑制効果をさらに高めることができる。また、後述の第1有機防縮剤の硫黄元素含有量がこのような範囲である場合、単環式芳香族化合物のユニットにより柔軟性が付与された有機防縮剤において、硫黄元素を含む官能基が有機防縮剤の表面に偏在し易くなる。そのため、負極電極材料中の成分に対するより高い吸着性が得られ、第1有機防縮剤の流出をより効果的に抑制できる。
【0046】
有機防縮剤中の硫黄元素含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0047】
リグニン化合物以外の有機防縮剤の硫黄元素含有量の上限は、特に制限されないが、例えば9000μmol/g以下であればよく、8000μmol/g以下でもよく、7000μmol/g以下でもよい。
【0048】
なお、リグニン化合物以外の有機防縮剤には、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満のものも包含される。このような有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上であってもよい。
【0049】
リグニン以外の有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)7000μmol/g以下、300μmol/g以上9000μmol/g以下(または8000μmol/g以下)、あるいは300μmol/g以上7000μmol/g以下(または2000μmol/g未満)であってもよい。
【0050】
リグニン以外の有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、7000以上であることが好ましい。有機防縮剤のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0051】
なお、本明細書中、有機防縮剤のMwは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
Mwは、下記の装置を用い、下記の条件で測定される。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0052】
有機防縮剤のうち、第1有機防縮剤としては、例えば、上記のような単環式芳香族化合物のユニットを含む有機防縮剤(例えば、縮合物)が挙げられる。単環式芳香族化合物のうち、ヒドロキシ基(特に、フェノール性ヒドロキシ基)を有する単環式化合物(ヒドロキシモノアレーン化合物など)が好ましい。フェノール性ヒドロキシ基を有する単環式化合物のアルデヒド化合物による縮合物では、主にフェノール性ヒドロキシ基に対してオルト位およびパラ位の少なくとも一方(特にオルト位)で縮合した状態となる。一方、アミノ基を有する単環式化合物のアルデヒド化合物による縮合物では、アミノ基を介して縮合した状態となる。そのため、フェノール性ヒドロキシ基を有する単環式化合物を用いる場合、アミノ基を有する単環式化合物を用いる場合に比べて、有機防縮剤分子における芳香環同士のねじれが少なく、有機防縮剤分子がより平面構造を取り易くなることで、鉛または硫酸鉛に作用させ易くなると考えられる。
【0053】
単環式芳香族化合物のユニットのうち、フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む第1有機防縮剤を用いることが好ましい。このような第1有機防縮剤は、フェノール性ヒドロキシ基とスルホン酸基とを有する。フェノール性ヒドロキシ基およびスルホン酸基は、いずれも負の極性が強く、金属との親和性も高い。このことに加え、フェノールスルホン酸により縮合物が平面構造を取り易い。よって、フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む縮合物は、鉛および硫酸鉛に対してより高い吸着性を有する。そのため、このような縮合物を用いると、負極電極材料からの縮合物の流出をより効果的に抑制できる。
【0054】
第1有機防縮剤は、単環式芳香族化合物のユニットと他の芳香族化合物のユニット(例えば、ビスアレーン化合物のユニット)とを含んでいてもよい。ビスアレーン化合物のユニットとしては、例えば、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。これらのビスアレーン化合物のユニットは、単環式芳香族化合物のユニットに比べて、2つの芳香環を連結する連結基が芳香環平面から飛び出した構造を取るため、第1有機防縮剤は鉛または硫酸鉛に対して吸着しにくい。しかし、第1有機防縮剤がこのようなビスアレーン化合物のユニットを含む場合でも、第1有機防縮剤は、単環式モノアレーン化合物のユニットを含むことで、平面構造を取り易くなる。ビスアレーン化合物のユニットを含む有機防縮剤では、一般に、芳香環がπ電子間で相互作用してリジッドになり易い。しかし、第1有機防縮剤では、単環式芳香族化合物のユニットにより、ビスアレーン化合物のユニットのπ電子間相互作用が阻害されるため、分子の柔軟性を高めることができる。これにより、第1有機防縮剤に含まれる負の極性を有する官能基が分子表面に偏在し易くなると考えられる。よって、第1有機防縮剤の鉛および硫酸鉛に対する高い吸着性を確保することができ、浸透短絡の発生を抑制できる。
【0055】
第1有機防縮剤が、単環式芳香族化合物のユニットと他の芳香族化合物のユニットとを含む場合、これらのユニットの総量に占める単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、例えば、10モル%以上であり、20モル%以上であってもよい。モル比率がこのような範囲である場合、第1有機防縮剤がより平面構造を取り易くなる。単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、例えば、90モル%以下であり、80モル%以下であってもよい。
【0056】
単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、10モル%以上(または20モル%以上)90モル%以下、あるいは10モル%以上(または20モル%以上)80モル%以下であってもよい。
【0057】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量およびMwは、それぞれ上記の範囲から選択できる。
【0058】
第1有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
第2有機防縮剤としては、上記の有機防縮剤のうち、第1有機防縮剤以外の有機防縮剤(縮合物など)の他、リグニンも包含される。上記の有機防縮剤のうち、第2有機防縮剤としては、例えば、ビスアレーン化合物(ビスフェノール化合物など)のユニットを含む縮合物などが挙げられる。
【0060】
リグニンの硫黄元素含有量は、例えば2000μmol/g未満であり、1000μmol/g以下または800μmol/g以下であってもよい。リグニンの硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、例えば、400μmol/g以上である。
【0061】
リグニンのMwは、例えば、7000未満である。リグニンのMwは、例えば、3000以上である。
【0062】
第2有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、リグニン以外の第2有機防縮剤と、リグニンとを併用してもよい。
【0063】
第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。第2有機防縮剤を併用する場合であっても、第1有機防縮剤の質量比に応じて浸透短絡およびセジメント短絡の抑制効果を得ることができる。より高い浸透短絡の抑制効果およびセジメント短絡の抑制効果を確保する観点からは、有機防縮剤全体(つまり、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との総量)に占める第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。
【0064】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。
【0065】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%以下、0.05質量%以上1.0質量%以下、0.01質量%以上0.5質量%以下、または0.05質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
【0066】
(硫酸バリウム)
負極電極材料は、硫酸バリウムを含むことができる。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0067】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0068】
(炭素質材料)
負極電極材料は、炭素質材料を含むことができる。炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0069】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
【0070】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または、0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0071】
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0072】
(1)有機防縮剤の分析
(1-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出物に複数の有機防縮剤が含まれていれば、次に、抽出物から、各有機防縮剤を分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
【0073】
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、または試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0074】
なお、上記抽出物が複数の有機防縮剤を含む場合、それらの分離は、次のようにして行なう。
【0075】
まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、およびGC-MSの少なくとも1つで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。
【0076】
有機防縮剤は、官能基の種類および官能基の量の少なくとも一方が異なれば、溶解度が異なる。分子量の違いによる有機防縮剤の分離が難しい場合には、このような溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。例えば、2種の有機防縮剤を含む場合、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。凝集による分離が難しい場合には、官能基の種類および量の少なくとも一方の違いを利用して、イオン交換クロマトグラフィまたはアフィニティクロマトグラフィにより、第1有機防縮剤を分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0077】
(1-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(1-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0078】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定するものとする。
【0079】
(1-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(1-1)と同様に、有機防縮剤の試料Bを得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で試料Bを燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(C0)を求める。次に、C0を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0080】
(2)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
粉砕された試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0081】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。得られる試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料(以下、試料Cと称する)である。乾燥後の試料Cとメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、試料Cの質量(M)を測定する。その後、乾燥後の試料Cをメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(M)を求める。質量Mから質量Mを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0082】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、通常、正極集電体と正極電極材料とを含む。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。
【0083】
ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板のうち正極集電体を除いた部分である。
【0084】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0085】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれる。また、正極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板のうち正極集電体および貼付部材を除いた部分である。また、クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板のうち、チューブ、正極集電体、連座、および貼付部材(マットなど)を除いた部分である。
【0086】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成されてもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成されてもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0087】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0088】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0089】
正極電極材料は、添加剤として少なくともSbを含むことが好ましい。この場合、セジメントの発生量をさらに低減することができる。正極電極材料がSbを含むことで、正極電極材料の軟化が抑制されることに加え、負極電極材料が第1有機防縮剤を含むことで、有機防縮剤の溶出が抑制され、正極電極材料の脱落が抑制されるためである。
【0090】
正極電極材料中のSbの含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.02質量%以上であってもよい。Sbの含有量がこのような範囲である場合、セジメントの発生量を低減する効果がさらに高まる。正極電極材料中のSbの含有量は、例えば、0.6質量%以下である。正極電極材料からのSbの溶出を低く抑えながら、Sbを用いることによるセジメント発生量の低減効果を十分に発揮させ易い観点からは、正極電極材料中のSbの含有量は、0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましい。
【0091】
正極電極材料中のSbの含有量は、0.01質量%以上(または0.02質量%以上)0.6質量%以下、0.01質量%以上(または0.02質量%以上)0.5質量%以下、あるいは0.01質量%以上(または0.02質量%以上)0.4質量%以下であってもよい。
【0092】
アンチモンの定量分析方法を以下に示す。
まず、満充電状態の鉛蓄電池を解体して正極板を取り出す。取り出した正極板を、水洗することにより硫酸を除去する。水洗は、水洗した正極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した正極板を60±5℃で送風により乾燥させる。乾燥後に、正極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により正極板から貼付部材が除去される。次に、正極板から適量の乾燥状態の正極電極材料の試料(以下、試料Dと称する)を採取する。採取した試料Dの質量を測定した後、酒石酸、硝酸および過酸化水素を含む混合水溶液で試料Dの全量を溶解する。得られた溶液を必要に応じてイオン交換水で希釈して定容し、その後、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光法により、溶液中のSbの発光強度を測定する。そして、予め作成した検量線を用いて溶液中に含まれるSbの質量を求める。そのSb質量の、分析に供した正極電極材料の試料Dの質量に対する割合(百分率)をSbの含有量として求める。
【0093】
未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。正極電極材料がSbを含む正極板は、例えば、添加剤として、アンチモン化合物(例えば、酸化物、塩など)を用いることにより形成できる。
【0094】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0095】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、例えば、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも1つが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は、極間数に応じて選択すればよい。
【0096】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分(例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマー)を含んでもよい。
【0097】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末およびオイルの少なくとも一方など)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成されることが好ましく、ポリマー成分を主体ととして構成されることが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。
【0098】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0099】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板および負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0100】
なお、本明細書中、極板においては、耳部が設けられている側を上側、耳部とは反対側下側として上下方向を定める。極板の上下方向は、通常、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向と同じである。
【0101】
セパレータは、少なくとも一方の表面にリブを備えるものであってもよい。このようなセパレータは、ベース部とベース部の表面(主面)から突出するリブとを備える。正極板側の表面にリブを有するセパレータを用いると、セパレータの酸化劣化を抑制する上で有利である。また、正極電極材料の還元劣化が抑制され、正極電極材料の脱落を抑制する効果をさらに高めることができ、セジメント短絡を抑制する効果を高めることができる。なお、セパレータの表面とは、セパレータの表面全体の大部分を占める主面(端面以外の表面)である。
【0102】
両方の表面にリブを備えるセパレータを用いると、正極板側の表面にのみリブを備えるセパレータを用いる場合に比べて、浸透短絡を抑制することができる。第1有機防縮剤を用いると、鉛の溶出自体が抑制されるため、金属鉛の成長が抑制される。第1有機防縮剤により、金属鉛の成長が抑制されると、セパレータの両方の表面にリブを設けることによる浸透短絡抑制効果が顕著に発揮され易くなる。よって、第1有機防縮剤とセパレータの両方の表面に設けられたリブとの組み合わせにより、浸透短絡抑制発生率を大幅に低減できる。
【0103】
各リブの平均高さは、例えば、0.1mm以上である。リブの平均高さは、例えば、1mm以下であり、0.9mm以下であってもよく、0.6mm以下または0.5mm以下であってもよい。セパレータにおいては、少なくとも電極板と対向する領域(好ましくは電極材料が存在する領域)にこのような平均高さでリブが形成されていることが好ましい。
【0104】
なお、リブの高さとは、リブの所定の位置におけるベース部の一方の表面からリブの頂部までの距離を言う。ベース部の表面が平面でない場合には、セパレータを、リブ側を上にして平置きしたときに、ベース部の一方の表面の最も高い位置から、リブの所定の位置におけるリブの頂部までの距離をリブの高さとする。リブの平均高さは、ベース部の一方の表面において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブの高さを平均化することにより求められる。リブの高さは、極板群から取り出したセパレータについて測定される。
【0105】
リブは、例えば、押出成形する際に形成してもよく、シート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、リブに対応する溝を有するローラで押圧することにより形成してもよい。
【0106】
本明細書中、鉛蓄電池におけるセパレータの厚みは、極間距離に相当すると言える。そのため、セパレータがリブを有する場合、セパレータの厚みは、リブを含む厚みである。
【0107】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、およびアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0108】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0109】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0110】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0111】
鉛蓄電池は、通常、電槽の開口部を覆う蓋を有している。蓋は、一重構造(単蓋)であってもよく、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有してもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えてもよい。
【0112】
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の蓋を外した一例を模式的に示す斜視図である。図2Aは、図1の鉛蓄電池の正面図であり、図2Bは、図2AのIIB-IIB線における断面を矢印方向から見たときの概略断面図である。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液12とを収容する電槽10を具備する。極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2およびクラッド式正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2とクラッド式正極板3との間に、シート状のセパレータ4が挟まれている状態を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。
【0113】
複数の負極板2のそれぞれの上部には、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。複数のクラッド式正極板3のそれぞれの上部にも、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。そして、負極板2の耳部同士は負極用ストラップ5aにより連結され一体化されている。同様に、クラッド式正極板3の耳部同士も正極用ストラップ5bにより連結されて一体化されている。負極用ストラップ5aの上部には負極柱6aの下端部が固定され、正極用ストラップ5bの上部には正極柱6bの下端部が固定されている。
【0114】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池用負極板および鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0115】
(1)少なくとも1つの極板群と、電解液とを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、を備え、
前記少なくとも1つの極板群において、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、単環式芳香族化合物のユニットを含む有機防縮剤(リグニン化合物を除く。第1有機防縮剤とも称する。)を含み、
前記正極板と前記負極板との極間距離は、1.1mm未満である、鉛蓄電池。
【0116】
(2)上記(1)において、前記極板群の総数の50%以上、80%以上、または全ての極板群において、前記負極板が前記有機防縮剤を含み、前記極間距離が1.1mm未満であってもよい。
【0117】
(3)上記(1)または(2)において、前記極間距離は、1.0mm以下であってもよい。
【0118】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記極間距離は、0.2mm以上であってもよい。
【0119】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤は、さらにビスアレーン化合物のユニットを含み、
前記ビスアレーン化合物のユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0120】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記単環式芳香族化合物のユニットは、少なくともフェノールスルホン酸化合物のユニットを含んでもよい。
【0121】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上、2000μmol/g以上、または3000μmol/g以上であってもよい。
【0122】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤の硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下、8000μmol/g以下、または7000μmol/g以下であってもよい。
【0123】
(9)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤の硫黄元素含有量は、2000μmol/g未満であってもよい。
【0124】
(10)上記(9)において、前記有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上であってもよい。
【0125】
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上であってもよい。
【0126】
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、100,000以下、または20,000以下であってもよい。
【0127】
(13)上記(1)~(12)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤(第1有機防縮剤)は、前記単環式芳香族化合物のユニットと他の芳香族化合物のユニットとを含んでもよい。
【0128】
(14)上記(13)において、前記単環式芳香族化合物のユニットと前記他の芳香族化合物のユニットの総量に占める前記単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、10モル%以上、または20モル%以上であってもよい。
【0129】
(15)上記(13)または(14)において、前記単環式芳香族化合物のユニットおよび前記他の芳香族化合物のユニットの総量に占める前記単環式芳香族化合物のユニットのモル比率は、90モル%以下、または80モル%以下であってもよい。
【0130】
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる有機防縮剤(前記第1有機防縮剤および前記第1有機防縮剤以外の有機防縮剤(第2有機防縮剤)の総量)に占める前記第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上、50質量%以上、または80質量%以上であってもよい。
【0131】
(17)上記(1)~(16)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる有機防縮剤(前記第1有機防縮剤および前記第1有機防縮剤以外の有機防縮剤(第2有機防縮剤)の総量)の含有量は、0.01質量%以上、または0.05質量%以上であってもよい。
【0132】
(18)上記(1)~(17)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる有機防縮剤(前記第1有機防縮剤および前記第1有機防縮剤以外の有機防縮剤(第2有機防縮剤)の総量)の含有量は、1.0質量%以下、または0.5質量%以下であってもよい
【0133】
(19)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに硫酸バリウムを含んでもよい。
【0134】
(20)上記(19)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0135】
(21)上記(19)または(20)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0136】
(22)上記(1)~(21)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに炭素質材料を含んでもよい。
【0137】
(23)上記(22)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0138】
(24)上記(22)または(23)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、5質量%以下、または3質量%以下であってもよい。
【0139】
(25)上記(1)~(24)のいずれか1つにおいて、前記正極板は、クラッド式であってもよい。
【0140】
(26)上記(1)~(25)のいずれか1つにおいて、前記正極電極材料は、Sbを含んでもよい。
【0141】
(27)上記(26)において、前記正極電極材料中のSbの含有量は、0.01質量%以上、または0.02質量%以上であってもよい。
【0142】
(28)上記(26)または(27)において、前記正極電極材料中のSbの含有量は、0.6質量%以下、0.5質量%以下、または0.4質量%以下であってもよい。
【0143】
(29)上記(1)~(28)のいずれか1つにおいて、前記セパレータは、少なくとも一方の表面にリブを備えていてもよい。
【0144】
(30)上記(1)~(29)のいずれか1つにおいて、前記セパレータは、両方の表面にリブを備えていてもよい。
【0145】
(31)上記(29)または(30)において、前記リブの平均高さは、0.1mm以上であってもよい。
【0146】
(32)上記(29)~(31)のいずれか1つにおいて、前記リブの平均高さは、1mm以下、0.9mm以下、0.6mm以下、または0.5mm以下であってもよい。
【0147】
(33)上記(1)~(32)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における前記電解液の20℃における比重は、1.20以上、または1.25以上であってもよい。
【0148】
(34)上記(1)~(33)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における前記電解液の20℃における比重は、1.35以下、または1.32以下であってもよい。
【0149】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0150】
《鉛蓄電池E1~E8およびR1~R20》
(1)負極板の作製
鉛粉(酸化鉛80質量%および金属鉛20質量%を含む)と、カーボンブラック0.3質量%、有機防縮剤0.1質量%、および硫酸バリウム1.5質量%を、水および希硫酸とともに混合して、負極ペーストを調製する。負極集電体としてSb系合金製の鋳造格子に負極ペーストを充填し、乾燥させることにより未化成の負極板を作製する。このとき、厚みが4.4mmの格子を用いて厚み4.5mmの負極板を作製する。負極板1枚に含まれる負極活物質量が、Pb換算で750±6gとなるように、負極ペーストの充填量を調節する。負極板の長さは、正極板のチューブの長さと同じにし、負極板の幅は、正極板の幅と同じにする。
【0151】
有機防縮剤としては、表1に示すものが用いられる。表1に示す有機防縮剤は下記の通りである。
A(第2有機防縮剤):リグニンスルホン酸ナトリウム(硫黄元素含有量:600μmol/g、Mw:5500)
B1(第2有機防縮剤):ビスフェノールSとビスフェノールA(=4:6(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:4000μmol/g、Mw:9000)
C1(第1有機防縮剤):ビスフェノールSとフェノールスルホン酸(=2:8(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw:8000)
D1(第1有機防縮剤):ビスフェノールAとフェノールスルホン酸(=6:4(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:2000μmol/g、Mw:8000)
【0152】
(1)正極板の作製
クラッド式正極板を下記の手順で作製する。
まず、耳部を備える集電部に長さ方向の一端部が一体化された15本の芯金のそれぞれを、15個のチューブ内にそれぞれ収容する。耳部が露出した状態となるように、集電部とチューブの集電部側の長さ方向の一端部とを樹脂で覆うことにより樹脂製の上部連座を形成する。なお、芯金および集電部の材質は、Pb-Sb系合金であり、各芯金の長さは295mmである。チューブとしては、長さ310mm、外径9.5mmのガラス繊維製の多孔質チューブを用いる。
【0153】
鉛粉(酸化鉛80質量%および金属鉛20質量%を含む)と鉛丹と水と希硫酸とを混練することにより調製した正極スラリーを、チューブの長さ方向の他端部の開口から充填する。鉛粉と鉛丹との質量比は、9:1とする。次いで、チューブの他端部の開口を、下部連座で封止し、乾燥させる。このようにして、未化成のクラッド式正極板を作製する。作製した正極板の幅は、143mmである。
なお、正極スラリーの充填量は、化成完了後の正極板が、化成後の正極活物質をPbO換算で1枚あたり841±8g含むように調整される。
【0154】
(2)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板4枚と、たがいに同形状の芯金を持つ未化成のクラッド式正極板3枚とを、間にセパレータを介在させた状態で、交互に重ねて、図2Bに示すような極板群を形成する。このとき、既述の手順で求められる極間距離が表1に示す値となるように各電極板を配置する。セパレータとしては、一方の表面にリブを有するポリプロピレン製の微多孔膜を用いる。セパレータは、正極板側にリブが位置するように配置する。
【0155】
極板群をポリプロピレン製の電槽に収容し、20℃における比重が1.28である希硫酸を注液して、電槽の開口に蓋を接着により固定する。電槽を30℃±2℃の水槽内に保持した状態で化成を行う。このようにして定格容量(5時間率)が165Ahである鉛蓄電池E1~E8およびR1~R20を得る。鉛蓄電池は、化成によりほぼ満充電状態となる。
【0156】
(3)評価
満充電状態の化成後の鉛蓄電池を用いて、高温深放電サイクルによりサイクル試験を行う。サイクル試験では、鉛蓄電池を、温度75℃±0.5℃の水槽内に保持した状態で、41.3Aの電流で3時間放電し、29.7Aの電流で5.42時間充電する。この放電および充電のサイクルを1サイクルとして500サイクル充放電を繰り返す。
【0157】
サイクル試験後の鉛蓄電池を分解し、セパレータにおける浸透痕を確認する。20個の鉛蓄電池のうち、浸透痕が確認された鉛蓄電池の個数比率を浸透短絡の発生率として評価する。
結果を表1および図4に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
表1および図4に示されるように、極間距離が1.1mm以上の場合には、第2有機防縮剤である有機防縮剤Aや有機防縮剤B1を用いる場合と、第1有機防縮剤である有機防縮剤C1および有機防縮剤D1を用いる場合とで浸透短絡の発生率はそれほど変わらない。ところが、極間距離が1.1mm未満になると、第2有機防縮剤を用いる場合には、浸透短絡の発生率が顕著に増加する。それに対し、第1有機防縮剤を用いる場合には、極間距離が1.1mm未満の場合にも、浸透短絡の発生率の増加を大幅に抑制できる。これは、第1有機防縮剤が単環式芳香族化合物のユニットを含むことで、有機防縮剤Aや有機防縮剤B1の場合に比べて、平面構造を取り易くなり、負極電極材料中の鉛や硫酸鉛に吸着し易くなるためと考えられる。これにより、鉛蓄電池E1~E8では、高温深放電サイクル試験を行っても、有機防縮剤が負極電極材料中に保持され、鉛の溶出を抑制するものと考えられる。
【0160】
《鉛蓄電池E9~E13およびR21~R23》
有機防縮剤としては、表2に示すものを用いる。セパレータとしては、両方の表面にリブを有するポリプロピレン製の微多孔膜を用いる。これら以外は鉛蓄電池E2と同様にして、鉛蓄電池E9~E13およびR21~R23を作製し、サイクル試験を行う。これらの鉛蓄電池における極間距離は0.6mmである。
【0161】
表2に示す有機防縮剤としては下記のものが用いられる。A、B1、C1、およびD1は表1と同じである。
B2(第2有機防縮剤):ビスフェノールSとビスフェノールA(=8:2(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw:9000)
C2(第1有機防縮剤):ビスフェノールSとフェノールスルホン酸(=6:4(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:4300μmol/g、Mw:8000)
C3(第1有機防縮剤):ビスフェノールSとフェノールスルホン酸(=8:2(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:4000μmol/g、Mw:8000)
D2(第1有機防縮剤):ビスフェノールAとフェノールスルホン酸(=9:1(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:400μmol/g、Mw:8000)
【0162】
サイクル試験後の鉛蓄電池について、セジメント短絡の発生率を測定する。セジメント短絡の発生率は、サイクル試験中の放電末電圧の推移を確認することにより求められる。放電末電圧は、通常、サイクルの進行に伴い緩やかに低下するが、セジメント短絡が発生すると、急激な放電末電圧の低下が確認される。
【0163】
より具体的には、複数の満充電状態の化成後の鉛蓄電池を準備し、上述の条件で、各鉛蓄電池について、高温深放電サイクルによりサイクル試験を行う。サイクル試験中の放電末電圧推移を確認し、10サイクルの間における放電末電圧の低下量ΔVが150mV以上である鉛蓄電池を選別する。選別した鉛蓄電池を解体し、極板群の上部、および負極板並びに正極板を集電するためのストラップにおいて、セジメントの堆積による短絡箇所があるかどうかを確認する。そして、セジメントの堆積による短絡箇所が確認された鉛蓄電池の個数比率を、セジメント短絡の発生率として求める。
結果を表2および図5に示す。
【0164】
【表2】
【0165】
表2および図5に示されるように、第2有機防縮剤である有機防縮剤A、有機防縮剤B1およびB2を用いる鉛蓄電池R21~R23では、セジメント短絡の発生率は40%と高い。それに対し、第1有機防縮剤である有機防縮剤C1~C3およびD1~D2を用いる鉛蓄電池E9~E13では、セジメント短絡の発生率が10~15%と低く抑えられている。これは、鉛蓄電池E9~E13では、鉛蓄電池R21~R23に比べて、有機防縮剤の溶出が抑制されることで、正極電極材料の脱落が抑制されたものと考えられる。
【0166】
《鉛蓄電池E14~E16およびR24》
有機防縮剤としては、表3に示すC2,C3、D2またはB2を用いる。これ以外は鉛蓄電池E2と同様にして、鉛蓄電池E14~E16およびR24を作製し、浸透短絡の発生率の評価を行う。有機防縮剤は、表2に示すものと同じである。鉛蓄電池E9~E13およびR21~R23についても、同様に浸透短絡の発生率の評価を行う。これらの鉛蓄電池における極間距離は0.6mmである。
結果を表3および図6に示す。表3には、鉛蓄電池E2、E6、R2、およびR9の結果も合わせて示す。
【0167】
【表3】
【0168】
表3および図6に示されるように、第2有機防縮剤である有機防縮剤A、B1またはB2を用いる場合には、片方の表面にリブを有するセパレータと両方の表面にリブを有するセパレータとで、浸透短絡の発生率に差がない。ところが、第1有機防縮剤である有機防縮剤C1~C3またはD1~D2を用いる場合には、片方の表面にリブを有するセパレータを用いる場合に比べて、両方の表面にリブを有するセパレータを用いる場合に、浸透短絡の発生をさらに抑制することができる。これは、高温深放電サイクルでも、第1有機防縮剤の溶出が抑制されることに加えて、正極板側に加えて負極板側にリブが存在することで、金属鉛の成長自体も抑制されることによるものと考えられる。
【0169】
《鉛蓄電池E17~E26およびR25~R34》
鉛粉および鉛丹とともに、アンチモン化合物(三酸化アンチモン)を用いる以外は、鉛蓄電池E2と正極ペーストを調製する。このとき、既述の手順で求められる正極電極材料中のSb含有量が表4に示す値となるように、各成分を混合する。また、有機防縮剤として表4に示すものを用いる。これら以外は、鉛蓄電池E2と同様にして、鉛蓄電池E17~E26およびR25~R34を作製する。これらの鉛蓄電池における極間距離は0.6mmである。
【0170】
満充電状態の化成後の鉛蓄電池を用いて、寿命サイクル試験を行う。寿命サイクル試験では、鉛蓄電池を温度15℃±0.5℃の水槽内に保持した状態で、41.3Aの電流で2.64時間放電し、29.7Aの電流で4.8時間充電する。この放電および充電のサイクルを1サイクルとして1200サイクル充放電を繰り返す。
【0171】
寿命サイクル試験後の鉛蓄電池を分解し、電槽底部に堆積した固形分、ならびに負極板の上部および側面に付着した固形分を回収する。回収した固形分は、水洗した後、乾燥し、質量を測定する。この固形分の総量をセジメント発生量とする。
【0172】
鉛蓄電池E2、E6、R2、およびR9についても、同様に評価を行い、セジメント発生量を求める。各鉛蓄電池のセジメント発生量は、鉛蓄電池R2のセジメント発生量を100としたときの比率で表す。
結果を表4および図7に示す。
【0173】
【表4】
【0174】
表4および図7に示されるように、第2有機防縮剤である有機防縮剤AまたはB1を用いる場合には、正極電極材料がSbを含む場合でも、セジメント発生量はそれほど変わらない。しかし、第1有機防縮剤である有機防縮剤C1またはD1を用いる場合には、正極電極材料がSbを含むことで、セジメント発生量が大きく低減される。セジメントの発生量をさらに少なくする観点からは、正極電極材料中のSbの含有量は、0.5質量%以下または0.4質量%以下が好ましい。また、同様の理由で、正極電極材料中のSbの含有量は、0.01質量%以上または0.02質量%以上が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、電動車両(フォークリフト、自動搬送機(AGV:Automated guided vehicle)など)などの産業用蓄電装置の電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0176】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5a:負極用ストラップ
5b:正極用ストラップ
6a:負極柱
6b:正極柱
10:電槽
11:極板群
12:電解液
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7