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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】消火体
(51)【国際特許分類】
   A62C 35/10 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
A62C35/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021572799
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2021002090
(87)【国際公開番号】W WO2021149778
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020010064
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020183602
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 司
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-205240(JP,A)
【文献】特表2010-527103(JP,A)
【文献】特開2014-121817(JP,A)
【文献】特開2021-029286(JP,A)
【文献】実開昭52-053105(JP,U)
【文献】国際公開第2018/012503(WO,A1)
【文献】特開平05-084873(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108578945(CN,A)
【文献】特開2009-113434(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107571556(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の樹脂基材、消火剤含有層及び樹脂基材をこの順に備える消火体(但し、金属層を備えるものを除く)であって
前記消火剤含有層と前記樹脂基材との間、及び前記消火剤含有層と前記他の樹脂基材との間の少なくとも一方に接着層を備え、
前記他の樹脂基材が、ポリオレフィン、PVC及びPVAからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記樹脂基材が、ポリオレフィン、PVC及びPVAからなる群より選択される少なくとも一種を含む、消火体。
【請求項2】
前記消火剤含有層が、消火剤及びバインダーを含む組成物の層、又は消火剤を含有する樹脂層である、請求項1に記載の消火体。
【請求項3】
前記樹脂基材が、ポリオレフィンを含む、請求項1又は2に記載の消火体。
【請求項4】
前記樹脂基材の厚さが、4.5~1000μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の消火体。
【請求項5】
前記樹脂基材の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)が、2×10g/m/day以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の消火体。
【請求項6】
前記樹脂基材の外側に粘着層又は接着層を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の消火体。
【請求項7】
前記他の樹脂基材が、ポリオレフィンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の消火体。
【請求項8】
前記消火剤含有層と前記樹脂基材との間に前記接着層を備えず、前記消火剤含有層と前記他の樹脂基材との間に前記接着層を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の消火体。
【請求項9】
前記他の樹脂基材の外側に粘着層又は接着層を更に備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の消火体。
【請求項10】
前記他の樹脂基材の少なくとも一方の面上に意匠層を更に備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の消火体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている一方で、その快適性を生む為の大量のエネルギーが必要となっている。大量のエネルギーを高密度に充填し蓄える、移動させる、使用するといった各々のシーンで、エネルギーの取り扱いには高い安全性が求められる。
【0003】
自動車を例にとると、化石燃料を採掘する際、化石燃料からガソリンを精製する際、ガソリンを運搬する際、ガソリンをエンジンで燃焼させる際等において、発火や火災の危険が潜んでいる。また、エレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に蓄える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0004】
発火や火災の問題に対し、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、ヘリコプターから投下する自動消火装置が提案されている。特許文献3では、エアロゾル消火装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-276440号公報
【文献】特開2015-6302号公報
【文献】特開2017-080023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業(初期消火)が行われることが望ましい。
【0007】
そこで、例えば先行技術に開示される消火剤の成分自体を、発火する虞のある対象物付近に予め存在させておくという方法が考えられる。そうすることで、対象物から発火したことを人間が感知する以前に、当該消火剤の成分により消火が完了することが期待される。しかしながら、解放空間に置かれた消火剤が経時により劣化するという問題に対処する必要がある。加えて、当然ながら消火剤を対象物付近に散布しておけばよいということは現実的ではなく、適度に取り扱い性のある形状で対象物付近に設けておく必要がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、取り扱い性と消火剤の性状安定性とに優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、消火剤含有層及び樹脂基材をこの順に備える、消火体を提供する。このような消火体であれば、樹脂基材によりその取り扱い性が担保される。また、消火体を、消火剤含有層側が対象物と対向するように設けた際に、樹脂基材が封止材として機能することにより消火剤の劣化が抑制される。このように、上記消火体は取り扱い性と消火剤の性状安定性とに優れる。また、消火体を予め対象物付近に設けておくことで初期消火が可能となり、周囲に火が燃え広がる事を抑制することができる。
【0010】
本発明の消火体において、消火剤含有層は、消火剤及び樹脂を含んでよい。
【0011】
本発明の消火体において、樹脂基材は、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでよい。
【0012】
本発明の消火体において、樹脂基材の厚さは、4.5~1000μmであってよい。
【0013】
本発明の消火体において、樹脂基材の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、2×10g/m/day以下であってよい。
【0014】
本発明の消火体は、消火剤含有層下に他の樹脂基材を更に備えてよい。これにより、対象物表面の素材に依らず、消火剤の劣化を抑制することができる。本発明の消火体は、上記他の樹脂基材の少なくとも一方の面上に意匠層を更に備えてもよい。
【0015】
本発明の消火体は、消火剤含有層と樹脂基材との間、及び消火剤含有層と他の樹脂基材との間の少なくとも一方に接着層を更に備えてよい。本発明の消火体は、上記樹脂基材及び/又は上記他の樹脂基材の外側に粘着層又は接着層を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、取り扱い性と消火剤の性状安定性とに優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火体を提供することができる。本発明の利点を以下に簡潔にまとめる。
・炎が燃え広がることによる被害を最小限に留められる。すなわち初期消火が可能である。
・人が火災発生を確認後、消火器を消火対象付近に持ち運び消火活動を行う必要が無い。
・自動消火装置等の設備に比して簡易的に設置できるため、設置場所の制限が少なくかつ必要な箇所に応じて適用することができる。
・消火剤の性状安定性に優れるため、消火体の交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図2図2は、消火体の使用方法を示す模式断面図である。
図3図3は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図4図4は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図5図5は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図6図6は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図7図7は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<消火体>
図1は、一実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体10は、消火剤含有層1及び樹脂基材2をこの順に備える。消火体はシート状であってよい。なお、図1に示すように、消火剤含有層1は樹脂基材2の下面の少なくとも一部に設けられていればよいが、樹脂基材2の下面の全面に設けられていてもよい。すなわち、消火剤含有層1及び樹脂基材2の端面は面一であってよい。
【0020】
図2は、消火体の使用方法を示す模式断面図である。図2に示すとおり、消火体10は、消火体の消火剤含有層1側と(消火体が後述の他の樹脂基材を備える場合は、他の樹脂基材側と)、発火する虞のある対象物Xとが対向するようにして用いられる。対象物Xから発火した場合、予め設けられた消火体により初期消火が行われることになる。
【0021】
図3は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体20は、他の樹脂基材3、消火剤含有層1及び樹脂基材2をこの順に備えている。図4は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体30は、他の樹脂基材3、消火剤含有層1及び樹脂基材2をこの順に備えており、かつ樹脂基材2と消火剤含有層1との間、及び他の樹脂基材3と消火剤含有層1との間に接着層4を更に備えている。図5は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体40は、他の樹脂基材3、消火剤含有層1及び樹脂基材2をこの順に備えており、かつ樹脂基材2及び他の樹脂基材3の周縁同士が封止部5により接合されている。図6は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体50は、他の樹脂基材3、接着層4、消火剤含有層1及び樹脂基材2をこの順に備えており、かつ樹脂基材2及び他の樹脂基材3の周縁同士が封止部5により接合されている。
【0022】
消火体の厚さは、その層構成により変動するため必ずしも限定されないが、消火性能を維持しつつ、設置スペースを問われないよう薄型化できる観点から、例えば0.1~20mmとすることができる。また、消火体の主面(消火体を鉛直方向上部から見たときの面)の面積は、消火性能及び取り扱い性の観点から、例えば9~620cmとすることができる。
【0023】
(樹脂基材)
基材の材質は、樹脂基材を選択することができる。例えば、樹脂基材の材質としては、ポリオレフィン(LLDPE、LDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。これらのうち、水蒸気透過度が低く消火剤の劣化を抑制し易い観点から、樹脂基材は、LLDPE、PP、COP、CPP、PET、PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE及びPVCからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。また、透明性のある材質を選択することで、消火体の外観検査や、交換時期の確認がし易くなる。樹脂基材には、後述の消火剤が含まれていてもよい。
【0024】
樹脂基材は、一層又は二層以上の樹脂層から構成されてよい。各層の材質は同じでも異なっていてもよい。樹脂基材が二層以上の樹脂層から構成される場合、その内の一層が消火剤を支持するための消火剤支持層であってよい。消火剤を消火剤支持層上に予め形成しておくことで、消火剤の取り扱いが容易となる。
【0025】
樹脂基材の厚さや破断強度等は出火時の熱量、衝撃、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚い樹脂基材であれば、水蒸気透過を抑制し易く、強度や剛性が得られ、平面性の高い形態を得ることができ、ハンドリングが容易となる。また、薄い樹脂基材であれば、狭いスペースに消火体を設けることができる。樹脂基材の厚さは、例えば4.5~1000μmとすることができ、12~100μmであってよく、12~50μmであってよい。樹脂基材は複数の樹脂基材の積層体であってもよい。
【0026】
樹脂基材は、耐熱性及び耐衝撃性を有する樹脂基材(高強度耐熱樹脂基材)であってよい。高強度耐熱基材としては、引張強度20N/cm以上及び融点500℃以上の少なくとも一方を満たすことが好ましい。樹脂基材は、補強材としてカーボン、ガラス、ステンレス、アルミニウム、セラミック等の材料、特にこれらの材料からなる繊維の織布(クロス)を含んでいてよい。樹脂基材が耐熱性及び耐衝撃性を有することで、発火時の熱や衝撃により樹脂基材側に穴が開くことを抑制することができる。これにより、対象物とは逆方向に消火剤が噴出することを抑制することができる。
【0027】
樹脂基材は、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤含有層に含まれる消火剤の性状が大きく変化しない程度の水蒸気バリア性を具備する。樹脂基材の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、2×10g/m/day以下とすることができ、1×10g/m/day以下であってよい。水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂基材には水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。
【0028】
(消火剤含有層)
消火剤としては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、対象物の態様に応じて適宜用いることができる。消火剤としては、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)に加え、砂(標準砂)等が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。対象物がリチウムイオン電池である場合は、BC消火剤や、その他リチウムイオン電池用の消火剤が用いられる。
【0029】
消火剤含有層は、後述のとおり消火剤及びバインダーを含むスラリーを塗布して形成することができ、又は消火剤を樹脂に練りこんで形成することができる。すなわち、消火剤含有層は、消火剤及びバインダーを含む組成物の層、又は消火剤を含有する樹脂層から構成されてよい。
【0030】
消火剤の量は、対象物の態様、発火時の火力、消火時間、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。消火剤の量が多い程消火能力は向上し、消火時間も短縮されるが、嵩が増す場合もあるため消火体を載置できる場所が限られることになる。消火剤含有層の厚さは、例えば30~1000μmとすることができ、50~500μmであってよい。消火剤含有層に含まれる消火剤の含有量は、消火剤含有層の全量を基準として70~97質量%とすることができる。消火剤含有層と対象物とは、後述の接着層により接着されていてよい。
【0031】
(他の樹脂基材)
図3に示すように、消火体は消火剤上にさらに他の樹脂基材(封止基材)を備えていてよい。他の樹脂基材を用いることで、対象物Xの材質に依らず、消火剤をより安定的に保持することができる。
【0032】
他の樹脂基材の材質としては、上述の樹脂基材の材質として例示した材質が挙げられる。対象物Xからの出火、又は出火までに発生する熱により他の樹脂基材が溶融し、消火剤含有層が露出する。適度な溶融性及び水蒸気バリア性を有する観点から、他の樹脂基材の材質としては、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC等であることが好ましいが、必ずしもこれらに限定される必要はない。他の樹脂基材の厚さは、例えば4.5~1000μmとすることができ、12~100μmであってよく、12~50μmであってよい。他の樹脂基材には、消火剤が含まれていてもよい。
【0033】
他の樹脂基材は、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤含有層に含まれる消火剤の性状が大きく変化しない程度の水蒸気バリア性を具備する。他の樹脂基材の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、2×10g/m/day以下とすることができ、1×10g/m/day以下であってよい。水蒸気透過度の調整の観点から、他の樹脂基材には水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。
【0034】
(接着層)
図4に示すように、消火体はさらに接着層を備えていてよい。図4では、樹脂基材2と消火剤含有層1との間、及び他の樹脂基材3と消火剤含有層1との間に接着層4が図示されているが、接着層4は、樹脂基材2と消火剤含有層1との間、及び他の樹脂基材3と消火剤含有層1との間の少なくとも一方に設けられていてよい。また、同図において、他の樹脂基材3及びそれを接着するための接着層4を設けなくてもよい。さらに図4では、消火剤含有層1の端面と接着層4の端面とが面一で描かれているが、両者は必ずしも面一である必要はなく、例えば接着層4は消火剤含有層1の端面より外側にはみ出すように設けられていてよい。
【0035】
樹脂基材と消火剤含有層との間に接着層を設けることで、樹脂基材上に消火剤含有層を安定して保持することができる。また、他の樹脂基材と消火剤含有層との間に接着層を設けることで、他の樹脂基材を固定化し易くなる。
【0036】
接着層は、樹脂基材、他の樹脂基材、消火剤含有層の種類等によって適宜選択することができる。接着層は、例えば、ヒートシール材、接着剤、粘着剤等の材料により形成することができる。接着層の厚さは、例えば1~10μmとすることができ、2~5μmであってよい。
【0037】
(封止部)
図5に示すように、消火体はさらに封止部を備えていてよい。すなわち、消火体は、樹脂基材及び他の樹脂基材の周縁同士を接合する封止部を備えていてよい。封止部を設けることで樹脂基材と他の樹脂基材とが接合され、消火剤が封止される。これにより消火剤が空気に触れなくなり、消火剤の消火性能の劣化を抑制することができる。また、消火剤の移動が封止部により妨げられるため、消火剤を所望の方向に放出させ易い。
【0038】
封止部は、上述の接着層で例示した材料から形成されてよい。樹脂基材及び他の樹脂基材の周縁同士は、上述の接着層で例示した材料を用いて接合されてよい。例えば、図6に示すように、消火体が消火剤含有層及び他の基材との間に接着層を備える場合、接着層及び封止部にて、同一の材料により消火剤を封止することができる。封止部は、その他、紫外線硬化性のシール材から形成されてよい。封止部は、樹脂基材及び/又は他の樹脂基材自体にヒートシール性がある場合は、それら基材の熱融着により形成されてよい。すなわち、封止部は樹脂基材及び/又は他の樹脂基材の熱融着部であってよい。封止部がヒートシール材の場合、他の樹脂基材全面にヒートシール材を形成し、消火剤外周部のみをヒートシールすることで、消火剤を封入することができる。封止部を設けることで、消火剤と他の基材同士は接着させずに消火剤を封入することができる。
【0039】
(発火する虞のある対象物)
対象物としては、発火する虞のあるものでありかつ上述の消火体を載置できる面(平面又は曲面)を有するものであれば特に制限されない。例えば、対象物としては、電線、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池回収用Box(リサイクルBox)、ごみ箱、自動車関連部材、コンセント、コンセントカバーなどの各部材が挙げられる。
【0040】
図1に示すように、消火剤含有層及び樹脂基材をこの順に備える消火体の場合、対象物X表面は水蒸気透過性が低い金属、ガラス等の素材で構成されていることが好ましい。図2に示すように、他の樹脂基材、消火剤含有層及び樹脂基材をこの順に備える消火体の場合、対象物X表面は必ずしも水蒸気透過性が低い素材で構成されている必要はない。
【0041】
<消火体の製造方法>
上述のとおり、消火体の製造方法は特に制限されない。上記各層を適宜積層し、また必要に応じ基材周縁をヒートシールや接着剤等により接合して封止することにより、消火体を製造することができる。消火剤含有層の設け方については、その態様に応じて調整すればよい。例えば、消火剤及びバインダーを含むスラリーを樹脂基材上に塗布することで、消火剤含有層を形成することができる。また、消火剤を練り込んだ樹脂を基材樹脂と共押出しすることで、消火剤含有層を形成することができる。消火剤含有層と樹脂基材とを別々に準備し、ラミネートにより両者を貼り合わせてもよい。消火剤含有層が設けられる樹脂基材は、消火剤支持層としての樹脂層(樹脂基材を構成する複数の層の内の一層)であってもよい。消火体が他の樹脂基材を備える場合、消火剤含有層を設けた他の樹脂基材を準備し、これを樹脂基材と貼り合わせてもよい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、発火の懸念がある箇所に消火体をより一層容易に設置する観点から、樹脂基材2又は他の樹脂基材3の外側に、粘着層又は接着層を設けてもよい。粘着層又は接着層を覆うように離型フィルムを更に設けてもよい。離型フィルムは、消火体の使用時には剥がされるものであり、樹脂製であっても紙製であってもよい。また、樹脂基材2及び他の樹脂基材3を構成する熱可塑性樹脂の選択及び処理(例えば、延伸又は薄膜化)によって、消火体がシュリンクフィルムもしくはストレッチフィルムの態様であってもよい。
【0043】
消火体は、意匠層を更に備えてもよい。意匠層は印刷もしくは印字によって形成することができる。意匠の具体例として、住空間を意識した木目調や、タイル調などの白色、グレー調のベタパターン、並びに、絵柄、模様、デザイン及び文字パターンなどが挙げられる。意匠層を設けることで、意匠性を高めることができる、消火体を周囲の環境に馴染ませることができる、消火体の強度を高めることもできるなどの効果が奏される。図7は意匠層を備える消火体の一実施形態を示す断面図である。この図に示す消火体60は、樹脂基材2の外側に、粘着層6(もしくは接着層)及び離型フィルム7をこの順序で備えるとともに、他の樹脂基材3の側に意匠層8を備える。例えば、意匠層によってタイル地などの質感を出す場合、図7に示すように、他の樹脂基材3の外側の面3a上に意匠層8を設けることが好ましい。他の樹脂基材3が透明である場合、他の樹脂基材3の内側の面3b上に意匠層を設けてもよい。なお、意匠層は単層構造であっても多層構造であってもよい。
【実施例
【0044】
本発明を以下の実施例(但し実施例1~2は参考例)によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0045】
<使用材料の準備>
(基材及び他の基材)
PVCフィルム:厚さ100μm
LLDPEフィルム:厚さ50μm又は100μm
LDPEフィルム:厚さ25μm又は50μm
紙:厚さ250μm
(消火剤)
一般消火剤(モリタ宮田工業株式会社製)
【0046】
<消火体の作製>
(実施例1)
表1に示す材料を用いて消火体を作製した。消火剤含有層は、消火剤及びバインダーを含むスラリーを調製し、これを基材上に塗布することで形成した。
【0047】
(実施例2)
使用材料を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして消火体を作製した。
【0048】
(実施例3)
表1に示す材料を用いて消火体を作製した。消火剤含有層は、消火剤及びバインダーを含むスラリーを調製し、これを基材上に塗布することで形成した。消火剤含有層と他の基材とは接着剤層を用いて貼り合わせた。
【0049】
(実施例4~5)
使用材料を表1に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして消火体を作製した。
【0050】
(比較例1)
使用材料を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして消火体を作製した。
【0051】
(比較例2)
使用材料を表1に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして消火体を作製した。
【0052】
各例の消火体について下記評価を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
<水蒸気透過度>
基材及び他の基材について、それぞれの水蒸気透過度を測定した。測定はJIS K 7129に準拠し、40℃/90%RH条件下で行った。水蒸気透過度を下記基準にて評価した。
A:水蒸気透過度が2×10g/m/day以下であった。
B:水蒸気透過度が2×10g/m/day超であった。
【0054】
<消火剤性状安定性評価>
実施例1及び2、並びに比較例1については、得られた消火体の消火剤含有層側を、シーラーを用いてステンレス板(SUS304)に貼り合わせて供試体とした。その他の実施例及び比較例については、得られた消火体をそのまま供試体とした。各例の供試体を40℃/90%RH条件下に7日間放置した。その後、消火剤性状安定性を下記基準にて評価した。
A:消火体の外観に変化がなかった。
B:消火体の外観に変化(消火剤含有層の変色、膨潤等)があった。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例の消火体は樹脂基材を備えるため取り扱い性に優れており、また経時による消火剤の劣化を抑制することができた。このような消火体を予め対象物付近に設けておくことで、対象物の発火による火災の発生及び拡大を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の消火体は特に、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等の産業資材に用いられる部材に対し、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…消火剤含有層、2…樹脂基材、3…他の樹脂基材(封止基材)、4…接着層、5…封止部、6…粘着層、7…離型フィルム、8…意匠層、10,20,30,40,50,60…消火体、X…対象物。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7