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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ミリ波反射建装材
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240618BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240618BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
B32B7/025
B32B15/08 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022173327
(22)【出願日】2022-10-28
(65)【公開番号】P2023123339
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2022026470
(32)【優先日】2022-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】矢口 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智彦
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-048465(JP,A)
【文献】特開平08-084107(JP,A)
【文献】特開2020-070552(JP,A)
【文献】特開2002-155478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
B32B 7/025
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状の誘電体と、
前記誘電体の第一面上に設けられ、形状の異なる複数の金属パターンを有するスーパーセルと、
前記誘電体において、前記第一面と反対側の第二面上に設けられた金属層と、
前記スーパーセルを覆うように配置され、表面における純水接触角が90°以上である防汚層と、
前記誘電体と前記防汚層との間、および前記スーパーセルと前記防汚層との間に位置する接着層と、
を備え、
前記防汚層および前記接着層のトータルの誘電率εrが2.9以下であり、
平面視において、前記防汚層により前記スーパーセルが視認できなくなっている、
ミリ波反射建装材。
【請求項2】
前記防汚層がフッ素系材料またはシリコーン系材料を含有する、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項3】
前記防汚層は、
表面における純水接触角が90°未満の基材と、
前記基材上に設けられ、表面における純水接触角が90°以上の表層と、を有する、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項4】
前記基材が多孔質構造を有する、
請求項3に記載のミリ波反射建装材。
【請求項5】
前記防汚層の表面ヘイズが70%以上である、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の電波を反射するミリ波反射建装材に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波に対応した各種無線機器の実用化に際し、電波の不感地帯の発生が問題となっている。ミリ波帯の電波は普及が進んでいるVHF波、UHF波と比較して著しく減衰しやすく、直進性も高いという特徴がある。この為、ミリ波帯の電波は、回折による障害物背後への回り込みが難しい。
【0003】
ミリ波帯の電波の不感地帯を解消するものとして、ミリ波帯の電波を反射する反射板(以下、「ミリ波反射板」と称する。)が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のマルチビームリフレクトアレイは、上記ミリ波反射板として機能し得る。このマルチビームリフレクトアレイは、面状の誘電体の一方の面に所定の角度にミリ波を反射する反射単位を多数有し、他方の面にグランドとして機能とする金属層を有する。各反射単位は、形状の異なる複数の金属パターンで構成される。
【0005】
反射単位が設けられた側の面に入射したミリ波は、各金属パターンと、金属層との両方で反射される。この反射波どうしが干渉することにより、ミリ波は入射時と異なる位相に反射される。
さらに、異なる金属パターンに基づく干渉波は、位相が異なるため、二次干渉を生じる。したがって、反射単位を構成する複数の金属パターンの形状を適宜設定することにより、入射したミリ波の反射方向を所望の向きに設定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/031539号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミリ波反射板は、その原理上、比較的大きい面積の建装材として建造物の内面や外面に取り付けることで、不感地帯を効率よく解消することが期待できる。
しかしながら、屋外に設置される場合、特許文献1に記載のリフレクトアレイを建装材に適用するには、防汚性を良好にする必要がある。さらに、金属パターンが劣化すると、反射特性が著しく低下したり消失したりするため、これを長期間にわたり保護することも必要になる。
【0008】
本発明は、防汚性が良好であり、屋外に設置しても良好な反射特性が長期間持続するミリ波反射建装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、面状の誘電体と、誘電体の第一面上に設けられ、形状の異なる複数の金属パ
ターンを有するスーパーセルと、誘電体において、第一面と反対側の第二面上に設けられ
た金属層と、スーパーセルを覆うように配置され、表面における純水接触角が90°以上
である防汚層と、誘電体と防汚層との間、およびスーパーセルと防汚層との間に位置する接着層とを備えるミリ波反射建装材である。
防汚層および接着層のトータルの誘電率εrは、2.9以下である。平面視において、防汚層によりスーパーセルが視認できなくなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るミリ波反射建装材は、防汚性が良好であり、屋外に設置しても良好な反射特性が長期間持続する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るミリ波反射建装材の模式断面図である。
図2】同ミリ波反射建装材の部分拡大平面図であり、防汚層および接着層を除いて示している。
図3】本発明の変形例に係るミリ波反射建装材の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るミリ波反射建装材(以下、単に「建装材」と称する。)1を示す模式断面図である。図1に示すように、建装材1は、面状の誘電体20と、誘電体20上に設けられたスーパーセル10および金属層30と、スーパーセル10を覆う接着層40および防汚層50を備えている。
【0013】
図2に、接着層40および防汚層50を除いた建装材1の部分拡大平面図を示す。スーパーセル10は、誘電体20の第一面20a上に複数設けられており、形状の異なる複数の金属パターンを有する。
本実施形態において、スーパーセル10は、大きさの異なる十字型の金属パターン11、12、13の三つの金属パターンを有しており、金属パターン11、12、13が一方向に並べて配置されている。金属パターンの形状や数、配置等は、図2に示した態様に限られず適宜設定でき、環状や、特許文献1に記載されたマッシュルーム構造のような立体形状等であってもよい。
複数のスーパーセル10は、平面視四角形の建装材1において、辺に沿った二次元マトリクス状に整列して配置されている。
【0014】
誘電体20の材質は、誘電体であれば特に制限はない。誘電体20の好適な例として、ガラスクロスに合成樹脂を含浸させたものや、各種合成樹脂からなるフィルム等を挙げることができる。中でも、低損失な電気特性を有する誘電体がより好適であり、高純度ガラス(石英ガラス)、フッ素系樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリオレフィン、等が例示できる。これらは単体で使用してもよく複数種類を混合したり積層したりして使用してもよい。
【0015】
金属層30は、誘電体20において第一面20aと反対側の第二面20bに設けられ、第二面20bの概ね全体を覆っている。
誘電体20、スーパーセル10、および金属層30は、例えば、誘電体の両面に金属箔が接合された材料を用いて、金属箔をエッチング等でパターニングして複数のスーパーセルを形成することにより製造できる。
【0016】
本実施形態において、スーパーセル10および金属層30は、銅からなるが、材質は銅には限られず、金や銀、アルミニウム等も使用できる。さらに、本実施形態における金属層は、金属を主成分としていればよく、抵抗値として10-6Ω・m以下程度の導電性を保持する範囲で金属以外の物質を含んでもよい。例えば、銀混入ペースト、銅混入ペースト、ITO等の導電性金属酸化物等も用途に応じて適用可能である。
【0017】
本実施形態の防汚層50は、フッ素系の材料からなる。材料の具体例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等を例示できる。
【0018】
接着層40の材料は、誘電体と防汚層とを充分な強度で接着できるものであれば特に制限はない。接合性の観点からは、防汚層と同系統の材料が好ましい。
【0019】
上記のように構成された本実施形態に係る建装材1の使用時の動作について説明する。
建装材1は、金属層30上に接着剤やモルタル等の接合材を層状に配置することにより、建造物の内部や外部の壁面に取り付けることができる。
【0020】
防汚層50は、フッ素系材料からなるため、表面における純水接触角が90°以上であり、撥水性に優れる。その結果、表面に汚れが付きにくく、着いた場合もふき取りにより容易に除去できる。また、防汚層50により、スーパーセル10の金属パターンが大気に曝露されず、錆や変色等の劣化が好適に抑制される。
これにより、建装材1は、屋外に長期間設置しても汚れにくく、スーパーセル10の反射性能が長期間好適に保持される。その結果、メンテナンスも簡便であり、貼り換え頻度も低減できる。
【0021】
防汚層50側から建装材1にミリ波が入射すると、ミリ波は防汚層50および接着層40を通って建装材1の内部を進む。その一部はスーパーセル10で反射され、他の一部は、誘電体20を通り金属層30で反射される。これらの反射波の位相差と、スーパーセル10における金属パターンの態様とにより、入射したミリ波は設定された反射特性に従った反射波として建装材1から出射される。
この一連の動作において、ミリ波は、入射する際と反射波として出射される際との2回、防汚層および接着層を通過する。したがって、防汚層および接着層の誘電率が高いと、ミリ波は防汚層および接着層を通過する間に大きく減衰するため、防汚層や接着層が存在しない状態に比して反射特性が大きく低下する。
【0022】
図1に示す建装材1においては、防汚層50がフッ素系材料からなるため、他の添加剤を含んだり印刷が施されたりした場合でも、防汚層50におけるフッ素系材料の比率は95%以上となる。その結果、防汚層50全体としては誘電率εrが2.9以下と、樹脂層としては比較的誘電率の低い層とでき、入射したミリ波の減衰を抑制できる。誘電率εrが2.3以下であるような、より誘電率の低いものを用いたり、接着層40についても誘電率の低い材料を用いたりすることにより、この効果をさらに向上させることもできる。
建装材1のように、防汚層が接着層等の他の層を介して誘電体20に接合されている場合は、防汚層と当該他の層とのトータルの誘電率εrを2.9以下とすることが好ましい。
【0023】
建装材1の平面視においては、接着層40および防汚層50がスーパーセル10を覆っているため、接着層40および防汚層50を所定の態様とすることにより、スーパーセル10を視認できなくして外観を良好にできる。スーパーセルを視認できなくする具体的態様については特に制限はなく、例えば以下のように例示できる。
・接着層および防汚層の少なくとも一方に顔料や染料を含有させて不透明にする。
・防汚層の少なくとも一方の面に不透明な印刷層を設ける。
・防汚層として、多数の空孔を有する多孔質のフィルムを使用し、入射光の乱反射を生じさせる。
・防汚層の少なくとも一方の面をサンドブラストや転写等により粗面化し、粗面化した面において入射光の乱反射を生じさせる。例えば表面ヘイズ70%以上とすると、充分にスーパーセルを視認できなくすることができる。
【0024】
上述した態様は適宜組み合わせてもよい。例えば、防汚層として多孔質構造を有するフィルムを用い、さらに不透明な木目調の印刷層を設けることにより、建装材1を触感の柔らかい木目調の壁紙として構成できる。
また、接着層40および防汚層50の着色や乱反射が、単独ではスーパーセルを完全に視認できなくするのに十分でなくても、接着層40と防汚層50とを重ねた状態で視認できなくなっていれば問題ない。
なお、接着層40や防汚層50が既に不透明である場合は、そのまま使用すればよいことは当然である。
【0025】
本実施形態に係る防汚層は、フッ素系材料からなるものに限られない。
図3に示す変形例に建装材1Aにおいて、防汚層50Aは、基材51と、基材51上に設けられた表層52とを有する。防汚層50Aにおいては、基材51自体の純水接触角が90°未満であっても、表層52の純水接触角が90°以上であることにより、防汚層がフッ素系材料からなる建装材1と概ね同様の効果を奏する。
基材51としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等を含むポリエステル系材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等を含むオレフィン系材料等を例示できる。
表層52としては、防汚剤を含む防汚処理塗料からなる層を例示できる。このような層は、塗料の塗工および乾燥によって形成でき、必要に応じて紫外線照射を組み合わせてもよい。層厚はサブミクロンオーダーとでき、その場合は、防汚層の誘電率にほとんど影響しないため、幅広い材料選択が可能である。
防汚処理塗料は、フッ素含有防汚剤をバインダ樹脂に混合して作製してもよい。フッ素含有防汚剤としては、フッ素系防汚剤やフッ素シリコーン系防汚剤等を例示できる。バインダ樹脂としては、重合性官能基を少なくとも1つ以上有する重合性化合物の重合体を使用できる。重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基、ビニル気、アリル基、ヒドロシリル基、シラノール基、エポキシ基、等があげられる。中でも多官能(メタ)アクリレートは、バインダ樹脂として好ましい。
【0026】
本実施形態に係るミリ波反射建装材について、実施例を用いてさらに説明する。本発明に係る技術的思想は、実施例の具体的な内容のみによって何ら限定されない。
【0027】
(実施例1)
誘電体の両面に銅箔が設けられた400mm×300mmの銅張積層板(中興化成工業社製CGP-500)を準備した。誘電体はフッ素樹脂含浸ガラスクロス(厚さ764μm)であり、銅箔の厚さはいずれも18μm、総厚は0.8mmである。
【0028】
銅張積層板の一方の面にエッチングを施し、二次元マトリクス状に配列されたスーパーセルを複数形成した。スーパーセルは、十字型の3つの金属パターンで構成される。小パターンは、幅1.1mm、縦横寸法1.4mmである。中パターンは、幅1.4mm、縦横寸法3.0mmである。大パターンは、幅1.4mm、縦横寸法3.7mmである。3つのパターンを小、中、大の順に等ピッチで5mm×15mmの区画内に配置し、これをスーパーセルの単位とした。このスーパーセルは、垂直に入射した28GHz帯のミリ波を、小パターンから大パターンに向かう方向に45°傾けて反射するよう設計されている。
上記構成のスーパーセルを、80行20列の二次元マトリクス状に形成した。
【0029】
PTFEを主材とする厚さ180μmのフィルム(日東電工社製 ニトフロン900UL)を準備した。このフィルムは、不透明の白色を呈しており、10GHzにおける誘電率εrは2.1(誘電正接0.0005)である。誘電率、誘電正接はベクトルネットワークアナライザ(N5224B;キーサイトテクノロジー製)および、スプリットシリンダ共振器(CR710;EMラボ製)を用いて行った。
フィルムの一方の面にコロナ処理を行い、接合性を高めた。
【0030】
離型フィルム上にフッ素系接着剤(AGC社製 LM-ETFEAH-2000 無水マレイン酸変性ETFE)を押し出し機により厚さ15μmで成膜し、白色の接着層を形成した。
接着層の10GHzにおける誘電率εrは2.1(誘電正接0.0012)である。
【0031】
スーパーセルを覆うように接着層のついた離型フィルムを誘電体に貼り合わせ、離型フィルムのみを除去して接着層を配置した。その後、PTFEのフィルムを、コロナ処理面を接着層に向けて貼り合わせ、240℃、5MPaの条件で30秒間加熱および加圧を行った。
以上により、実施例1に係る建装材を得た。
実施例1に係る建装材において、PTFEのフィルムと接着層を合わせたトータルの誘電率εrは2.1(誘電正接0.0006)であった。
【0032】
(実施例2)
ETFEを主材とする厚さ200μmのフィルム(AGC社製 アフレックス200N NT)を準備した。この樹脂フィルムは、透明であり、10GHzにおける誘電率εrは2.1(誘電正接0.0006)である。
フィルムの一方の面にコロナ処理を行い、接合性を高めた。
実施例1と同一のスーパーセル付き誘電体に接着層を配置し、ETFEのフィルムを、コロナ処理面を接着層に向けて貼り合わせ、実施例1と同様の加熱および加圧を行った。さらに、ETFEフィルムの上面に、長辺長さ30μmの不定形シリカ粉を用いたサンドブラストを施し、処理後に表層の水洗浄と温風乾燥を行った。
以上により、実施例2に係る建装材を得た。この建装材の表面ヘイズは92%である。
実施例2に係る建装材において、ETFEのフィルムと接着層を合わせたトータルの誘電率εrは2.1(誘電正接0.0006)であった。
【0033】
(実施例3)
実施例3および4は、図3で示した構成の防汚層を有する。
基材として、ポリプロピレンを主材とする厚さ200μmの多孔質フィルム(ユポ・コーポレーション社製 ニューユポFGS)を準備した。この樹脂フィルムは多孔質構造により不透明な白色の外観を呈し、10GHzにおける誘電率εrは2.3(誘電正接0.0006)である。
フィルムの一方の面にコロナ処理を行い、接合性を高めた。
【0034】
以下の組成を有する防汚処理塗料を準備した。
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学工業社製 A-TMM-3):100質量部
・シリコーン系滑剤(ビックケミー・ジャパン社製 BYK-333):0.1.質量部・フッ素含有防汚剤(DIC社製 メガファックRS-56):0.1
・重合開始剤(チバジャパン社製 イルガキュア184):0.1重量部
上記材料を、溶媒であるメチルイソブチルケトンで、固形分5重量パーセントとなるように希釈混合して防汚処理塗料を調製した。
防汚処理塗料を基材のコロナ処理を行っていない面上にバーコータで塗布し、オーブンで乾燥した(80℃ 60秒)。乾燥後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン、光源Hバルブ)を用いて窒素雰囲気下、照射線量300mJ/mで紫外線照射を行い、膜厚約0.05μmの表層を形成した。これにより基材と表層とを有する実施例3に係る防汚層を得た。この防汚層の誘電率は2.3(誘電正接0.0006)であった。
【0035】
離型フィルム上にポリオレフィン系接着剤(クラレ社製 セプトン4044 スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS);ランダムコポリマーブロック)をトルエンで25wt%となるよう溶解した。これを離形フィルム上にナイフコーターで塗工し、乾燥して、厚さ15μmの透明な接着層を形成した。
接着層の10GHzにおける誘電率εrは2.20(誘電正接0.0013)である。
実施例1と同一のスーパーセル付き誘電体に上記接着層を配置した後、防汚層を、コロナ処理面を接着層に向けて貼り合わせ、200℃、1MPaの条件で10秒間加熱および加圧を行った。
以上により、実施例3に係る建装材を得た。
実施例3に係る建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの誘電率εrは2.3(誘電正接0.0006)であった。
【0036】
(実施例4)
基材として、厚さ125μmのPETフィルム(東洋紡社製 コスモシャインA4300)を準備した。この樹脂フィルムは透明であり、10GHzにおける誘電率εrは2.8(誘電正接0.0080)である。
【0037】
実施例3に係る防汚処理塗料から、重合開始剤をIGM社製イルガキュア907に変え、固形部50%としたものを実施例4に係る防汚処理塗料とした。
A3サイズ、厚さ2mmのアルミ板に対しサンドブラスト処理を行い、全面に凹凸を付与してブラスト鋳型を作製した。
防汚処理塗料を基材上にバーコータで塗布し、オーブンで乾燥した(80℃ 60秒)。乾燥後、未硬化の塗膜にブラスト鋳型を押し当て、基材の裏側から実施例3と同一条件で紫外線を照射し、塗膜を硬化させた。硬化後、鋳型を外し、膜厚約1.5μmの表層を形成した。これにより基材と表層とを有する実施例4に係る防汚層を得た。表層の表面ヘイズは70%であり、白っぽい外観を有する。この防汚層の誘電率は2.8(誘電正接0.0081)であった。
この防汚層を、実施例3と同一の接着層を用いてスーパーセル付き誘電体と接合し、実施例4に係る建装材を得た。
実施例4に係る建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの誘電率εrは2.7(誘電正接0.0074)であった。
【0038】
(比較例1)
塩化ビニルを主材とする厚さ200μmの樹脂フィルムを準備した。この樹脂フィルムは、白色であり、10GHzにおける誘電率εrは3.0(誘電正接0.020)である。
離型フィルム上に塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体接着剤(日信化学工業社製 ソルバインCN)をメチルエチルケトンとトルエンとを質量比1対1で混合した混合溶媒で10wt%となるよう溶解した。これを離形フィルム上にナイフコーターで塗工し、乾燥して、厚さ25μmの透明な接着層を形成した。
比較例1に係る接着層の10GHzにおける誘電率εrは3.29(誘電正接0.025)である。
実施例1と同一のスーパーセル付き誘電体に上記接着層を配置した後、樹脂フィルムを接着層に貼り合わせ、120℃、2MPaの条件で10秒間加熱および加圧を行った。
以上により、比較例1に係る建装材を得た。
比較例1に係る建装材において、樹脂フィルムと接着層を合わせたトータルの誘電率εrは3.0(誘電正接0.021)であった。
【0039】
(比較例2)
表層を設けない点を除き、実施例3と同様の手順で、比較例2に係る建装材を得た。
【0040】
(比較例3)
接着層および防汚層を取り付けない点を除き、実施例1と同様の手順で、比較例3に係る建装材を得た。
【0041】
各例に係るミリ波反射建装材に対して、以下の評価を行った。
(外観評価)
各例の建装材を、アクリル系接着剤を用いてスチール製のパーティションに貼り付けた。10人の試験員が各例の建装材を目視し、化粧シートあるいは壁材として違和感を覚えるか否か評価した。違和感なしと評価した試験員が6名以上の場合を合格とし、5名以下の場合を不合格とした。
【0042】
(スーパーセルの保護性能評価)
各例の建装材を65℃、65%RH(相対湿度)の環境に100時間静置した。静置後に防汚層および接着層を剥離し、スーパーセルの各金属パターンに錆や変色を生じているか否かを目視により評価した。
【0043】
(純水接触角評価)
JIS R3257に従い、接触角計(協和界面科学社製)を用い、4μLの純水を防汚層の表面に着滴させて測定した。
【0044】
(拭き取り性評価)
日本ビニル工業会建装部会制定の「表面強化商品性能表示規定」に準拠して、汚染物の付着、ふき取りによる塗工面の汚れ防止性を、以下の基準で目視により判定した。
1.汚染物の準備
・汚染物A:ネスカフェゴールドブレンド(ネスレ社製)の4%水溶液
・汚染物B:サクラクレヨン太巻きの赤色(サクラクレパス社製)
2.ふき取り法
・汚染物A:布に水を含ませて丁寧にふき取る。
・汚染物B:布に台所用洗剤の原液を含ませて丁寧にふき取った後、さらに水でふき取り、乾拭きする。
3.判定
5級:汚れが残らない
4級:殆ど汚れが残らない
3級:やや汚れが残る
2級:かなり汚れが残る
1級:汚れが濃く残る
4級以上を合格、3級以下を不合格とした。
【0045】
(反射特性評価)
各例の建装材を、金属層30が接するように平坦な木の板に取り付け、電波暗室環境内に固定した。
ホーンアンテナからの送信波を曲面形状の反射鏡で反射して28GHzの平面波を生成し、建装材に対して垂直に照射した。
建装材に対して遠方界となる位置に設置した受信アンテナで、建装材からの反射波を計測した。この受信アンテナは、ロボット上に設置され、建装材から一定の遠方界距離を保ったまま周回できるよう構成されており、広い角度範囲で反射波を計測できる。この評価では、設計内容である、法線に対して45°方向のRCS(レーダー反射断面積)を評価値とした。
結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
外観評価において、すべての実施例および比較例1、2は、いずれも白色の外観を有する防汚層によりスーパーセルが視認できなくなっており、合格であった。比較例3では、スーパーセルがむき出しであったため、違和感を覚える試験員が多く、不合格であった。
【0048】
スーパーセルの保護性能評価について、すべての実施例および比較例1、2は、いずれもスーパーセルに変色や錆等を認めず、良好に保護されていた。比較例3では、金属パターンに錆が生じており、劣化が認められた。
【0049】
いずれの実施例も、防汚層の表面において90°以上の純水接触角を示した。これに伴い、汚れの拭き取り性も良好であり、汚れにくく、かつ付着した汚れを容易に除去できることが確認できた。
比較例1、2では、純水接触角が90°未満であり、汚れの拭き取り性は十分でなかった。
比較例3では、誘電体の表面が不整であり、純水接触角を測定できなかった。また、スーパーセルや誘電体に付着した汚れが拭き取れず、拭き取り性は評価不能であった。
【0050】
いずれの実施例も、概ね70%以上の良好な反射性を示した。一方、比較例1では、塩化ビニルの誘電率が高いため、反射特性が著しく低下した。
比較例3は、製造直後においては、良好な反射特性を示したが、スーパーセルの保護性能評価後に測定したところ、ミリ波反射能を失っており測定不能であった。
【0051】
以上より、実施例に係る建装材では、防汚性が良好であり、屋外に設置しても良好な反射特性が長期間持続することが期待できる。
【0052】
ところで、建装材が設置された後に生物がその反射面上に構造物を形成すると、反射面が汚れていないにも関わらず、反射特性が損なわれる可能性がある。このような構造物としては、クモの巣やアワフキムシの泡などが例示でき、大きさや形成頻度を考慮すると、特にクモの巣の影響が大きく、屋外のみならず屋内でも問題となる。
【0053】
発明者らは、防汚層に特定の材料を含有させることで、クモの営巣を効果的に抑制できることを見出したため、これについて、実施例および比較例を用いて説明する。
【0054】
(実施例A)
60mm×60mmの銅張積層板(CGP-500)を用い、一方の面に、実施例1と同様のスーパーセルを、4列12行形成した。
厚さ125μmのPETフィルム(東洋紡社製 コスモシャインA4360)に、以下に示す組成の防汚層形成用インキaを、乾燥後膜厚が13μmとなるように塗工し、乾燥炉にて80℃で1分乾燥した。
(防汚層形成用インキa)
ペンタエリスリトールトリアクリレート:60重量部
ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物:40重量部
イルガキュア369E:0.2重量部
シリコーン系材料(共栄社化学社製シリコーン系レベリング剤 GL-02R):2重量部
スチレン系微粒子(積水化学社製 XX367K)100重量部
メチルイソブチルケトン(MIBK):100重量部
【0055】
A3サイズ2mm厚みのアルミ板に対しサンドブラスト処理を行い全面に凹凸を付与した。第一の微粒子としてジルコニアビーズ(東ソー社製 TZ-B125、平均粒径125μm)を、ブラスト圧力0.05MPa(ゲージ圧、以下同じ)、微粒子使用量16g/cm(ロールの表面積1cmあたりの使用量、以下同じ)でブラストし、表面に凹凸を形成した。その凹凸面に、ブラスト装置(不二製作所社製)を用いて、第二の微粒子としてジルコニアビーズ(東ソー社製 TZ-SX-17、平均粒径20μm)を、ブラスト圧力0.1MPa、微粒子使用量4g/cmでブラストし、表面凹凸を微調整した。表面凹凸は後述する転写によって硬化塗膜のヘイズが70%以上となるように複数回の試作で調整された。
【0056】
乾燥後の防汚層形成用インキの未硬化塗膜上にブラスト面を向けて上記アルミ板を配置した。この状態で、PET側から高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製、照度20mW/cm)を用いて、照射量が300mJ/cmとなるように、窒素雰囲気下で光を照射し、塗膜を硬化させた。これにより、ブラスト面の凹凸が防汚層形成用インキからなる硬化塗膜の表面に転写された。さらに、PETの露出面にコロナ処理を施し、接合性を向上させた。
以上により、PET製の基材と防汚層形成用インキからなる表層とを有する防汚層を得た。
【0057】
この防汚層を上述の方法で測定したところ、10GHzにおける誘電率εrは2.78、誘電正接tanδは0.0087であった。
防汚層のヘイズは72%であり、白濁した外観を呈していた。
【0058】
セプトン4044(クラレ社製のSEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンのランダムコポリマーブロック)をトルエンで25wt%となるよう溶解し、離形フィルム上にナイフコーターで塗工、乾燥製膜して、厚さ15μmの接着層を作製した。接着層の10GHzにおける誘電率εrは2.2、誘電正接tanδは0.0013であった。
防汚層のPET面に離型フィルム付きの接着層を取り付けた後、離型フィルムをはがしてPET面上に接着層を設けた。その後、銅張積層板の第一面に接着層を接触させて銅張積層板と防汚層とを積層し、160℃、5MPa、30秒の条件で両者を接合した。
以上により、実施例Aに係るミリ波反射建装材を得た。この建装材においては、防汚層の白濁により、スーパーセルの金属パターンが視認しにくくなっていた。
建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.74、誘電正接tanδは0.0075であった。
【0059】
(実施例B)
防汚層形成用インキaに代えて、下記組成の防汚層形成用インキbを用いた点を除き、実施例Aと同様の手順で実施例Bに係る防汚層を得た。
(防汚層形成用インキb)
ペンタエリスリトールトリアクリレート:60重量部
ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物:40重量部
イルガキュア369E:0.2重量部
シリコーン系材料(GL-02R):1重量部
フッ素系材料(DIC社製フッ素系レベリング剤 RS-90):1重量部
スチレン系微粒子(積水化学社製 XX367K)100重量部
MIBK:100重量部
実施例Bに係る防汚層を上述の方法で測定したところ、10GHzにおける誘電率εrは2.78、誘電正接tanδは0.0087であった。
ヘイズは実施例Aと同等の72%であり、白濁した外観を呈していた。
さらに、実施例Aと同様の手順で、実施例Bに係るミリ波反射建装材を得た。建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.74、誘電正接tanδは0.0075であった。
【0060】
(実施例C)
防汚層形成用インキaに代えて、下記組成の防汚層形成用インキcを用いた点を除き、実施例Aと同様の手順で実施例Cに係る防汚層を得た。
(防汚層形成用インキb)
ペンタエリスリトールトリアクリレート:60重量部
ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物:40重量部
イルガキュア369E:0.2重量部
シリコーン系材料(大成ファインケミカル社製シリコーンアクリルポリマー 8SS-723):2重量部
スチレン系微粒子(積水化学社製 XX367K)100重量部
MIBK:100重量部
実施例Cに係る防汚層を上述の方法で測定したところ、10GHzにおける誘電率εrは2.78、誘電正接tanδは0.0087であった。
ヘイズは実施例Aと同等の72%であり、白濁した外観を呈していた。
さらに、実施例Aと同様の手順で、実施例Cに係るミリ波反射建装材を得た。建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.74、誘電正接tanδは0.0075であった。
【0061】
(実施例D)
厚さ200μmの多孔質ポリプロピレン系フィルム(ユポ社製 ニューユポFGS)に、以下に示す組成の防汚層形成用インキdを、乾燥後膜厚が0.1μmとなるように塗工し、乾燥炉にて80℃で1分乾燥した。
(防汚層形成用インキd)
ペンタエリスリトールトリアクリレート:60重量部
ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物:40重量部
イルガキュア184:0.1重量部
シリコーン系材料(GL-02R):1重量部
MIBK:900重量部
【0062】
高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製、照度20mW/cm)を用いて、照射量が300mJ/cmとなるように、窒素雰囲気下で塗膜に光を照射し、硬化させた。
以上により、白濁した基材上に透明の薄い表層を有する、実施例Dに係る防汚層を得た。この防汚層を上述の方法で測定したところ、10GHzにおける誘電率εrは2.30、誘電正接tanδは0.0006であった。
さらに、実施例Aと同様の手順で、実施例Dに係るミリ波反射建装材を得た。この建装材においては、基材が白色であることにより、スーパーセルの金属パターンが視認しにくくなっていた。
建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.29、誘電正接tanδは0.0006であった。
【0063】
(実施例E)
防汚層形成用インキdに代えて下記組成の防汚層形成用インキeを用いた点を除き、実施例Dと同様の手順で実施例Eに係る防汚層を得た。
(防汚層形成用インキe)
ペンタエリスリトールトリアクリレート:60重量部
ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物:40重量部
イルガキュア184:0.1重量部
シリコーン系材料(GL-02R):0.5重量部
フッ素系材料(RS-90):0.5重量部
MIBK:900重量部
実施例Eに係る防汚層を上述の方法で測定したところ、10GHzにおける誘電率εrは2.30、誘電正接tanδは0.0006であった。
さらに、実施例Aと同様の手順で、実施例Eに係るミリ波反射建装材を得た。建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.29、誘電正接tanδは0.0006であった。
【0064】
(実施例F)
防汚層形成用インキdに代えて下記組成の防汚層形成用インキfを用いた点を除き、実施例Dと同様の手順で実施例Fに係る防汚層を得た。
(防汚層形成用インキf)
ペンタエリスリトールトリアクリレート:60重量部
ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物:40重量部
イルガキュア184:0.1重量部
シリコーン系材料(8SS-723):1重量部
MIBK:900重量部
実施例Fに係る防汚層を上述の方法で測定したところ、10GHzにおける誘電率εrは2.30、誘電正接tanδは0.0006であった。
さらに、実施例Aと同様の手順で、実施例Fに係るミリ波反射建装材を得た。建装材において、防汚層と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.29、誘電正接tanδは0.0006であった。
【0065】
(比較例A)
防汚層形成用インキからなる表層を形成しなかった点を除き、実施例Aと同様の手順で、比較例Aに係る防汚層を得た。
この防汚層は、実質基材(A4360)のみからなり、10GHzにおける誘電率εrは2.80、誘電正接tanδは0.0080であった。ヘイズは1.2%であった。
さらに、実施例Aと同様の手順で、比較例Aに係るミリ波反射建装材を得た。この建装材においては、基材が透明であるため、スーパーセルの金属パターンが容易に視認できた。
建装材において、防汚層(基材のみ)と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.74、誘電正接tanδは0.0074であった。
【0066】
(比較例B)
防汚層形成用インキからなる表層を形成しなかった点を除き、実施例Dと同様の手順で、比較例Bに係る防汚層を得た。
この防汚層は、実質基材(ニューユポFGS)のみからなり、10GHzにおける誘電率εrは2.30、誘電正接tanδは0.0006であった。
さらに、実施例Aと同様の手順で、比較例Bに係るミリ波反射建装材を得た。この建装材においては、基材が白色であることにより、スーパーセルの金属パターンが視認しにくくなっていた。
建装材において、防汚層(基材のみ)と接着層を合わせたトータルの10GHzにおける誘電率εrは2.29、誘電正接tanδは0.0006であった。
【0067】
(比較例C)
防汚層を設けず、スーパーセルが設けられた銅張積層板の第一面にシリコーン防汚剤入り殺虫剤(アース製薬社製 クモの巣消滅ジェット)を約0.5秒間噴霧した。
以上により、比較例Cに係るミリ波反射建装材を得た。
【0068】
実施例AからF、および比較例AからCに対し、実施例1等と同様の方法で外観、スーパーセル保護性能、純粋接触角、拭き取り性、および反射特性を評価した結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
外観は、スーパーセルが視認できた比較例AおよびCを除き、いずれも良好であった。
スーパーセルの保護性能は、スーパーセルが露出した比較例Cを除き、いずれも良好であった。
いずれの実施例も、防汚層の表面において90°以上の純水接触角を示し、汚れの拭き取り性も良好であった。
比較例A、Bは、防汚性を発揮する層を有さないため、純粋接触角が90°未満であり、汚れの拭き取り性は十分でなかった。
比較例Cでは、誘電体の表面が不整であり、純水接触角を測定できなかった。また、スーパーセルや誘電体に付着した汚れが拭き取れず、拭き取り性は評価不能であった。
いずれの実施例も、実施例1等に比べると若干低いものの、概ね良好な反射特性を示した。
比較例Cは、製造直後においては、良好な反射特性を示したが、スーパーセルの保護性能評価後に測定したところ、ミリ波反射能を失っており測定不能となった。
【0071】
次に、実施例AからF、および比較例AからCに比較例1および3を加えた11例について、以下の手順でクモの営巣抑制効果を評価した。
ジョロウグモ4頭をプレハブの軒下に放って営巣させ、その巣をクモが逃げ出さない程度に半壊した。その後、半壊した巣の少し下方に各例に係る建装材を、防汚層を巣側に向けて設置した。1週間後に建装材を観察し、新しい足場の糸が建装材に付着しているか否かを目視により判定した。
検討は、製造直後の建装材と、エタノールをしみこませた不織布で防汚層(比較例Cは殺虫剤を噴霧した第一面)を20回強く拭いた建装材とを用いて、各例につき計2回行った。
結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示されるように、実施例では、いずれもクモが新しい足場の糸を掛けることを完全に防止できた。これは、実施例がいずれも防汚層にシリコーン系材料を含むことにより、クモが分泌して糸となる粘液が滑り落ちやすくなり、足場となる糸を掛けることができなかったことによると思われた。
上述したフッ素系材料も一定の営巣抑制効果を奏するが、シリコーン系材料は、より安価で営巣抑制効果も高いため、特にこの用途に適していると言える。
【0074】
比較例3においては、製造直後の建装材を用いた場合は糸の付着を抑制できたが、その効果は拭き取りにより消失した。これは、噴霧した殺虫剤が拭き取りにより脱落し、その効果が失われたことによると思われた。したがって、建装材の表面に殺虫剤を噴霧する方法では、設置後に時間が経過したり、風雨にさらされたりすることにより、営巣防止効果が減弱あるいは消失することが懸念された。
一方、実施例はいずれも拭き取りによる効果の減弱は認められず、屋外に設置した後も営巣防止効果が長期間持続することが期待できた。また、殺虫成分を用いずに営巣を防止するため、不必要に生物を殺すことがなく、生態系への悪影響も少ないと考えられた。
【0075】
実施例AからFで用いたシリコーン系材料には、上述した営巣防止効果に加えて、以下のような利点もある。
実施例AからCのように、防汚層の表面に凹凸を転写してその下に位置する金属パターンの視認性を調節する場合、塗膜がシリコーン系材料を含有していると、鋳型の離型性が向上して製造効率を向上できる。
また、フッ素系材料に比して安価であるため、防汚層の各部の材料に関する選択肢が大きく広がるという利点もある。
【0076】
以上、本発明について、実施形態および実施例を用いて説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。
【0077】
・本発明に係るミリ波反射板において、金属層は、必ずしも第二面上に隙間なく設けられなくてもよい。たとえば、小さな開口を有するメッシュ状であったり、スーパーセルの区画に対応した線状の欠損部位などを有したりしてもよい。ただし、金属層のない部分においては、入射したミリ波が反射されずに透過するため、金属層のない部分が多すぎると反射性能に影響する可能性があるため、金属層のない部分の最大連続長を、反射対象周波数の1/4λ未満とすることが好ましい。メッシュ状とする場合は、開口の寸法を調節することで、所定波長の電波を反射せずに透過させることも可能である。
【0078】
・金属層上に接着層およびセパレータを設け、セパレータを剥がすことによりそのまま壁面等に貼り付けられるように建装材を構成してもよい。
【0079】
・誘電体上におけるスーパーセルの配置態様は、上述した内容に限定されず、適宜設定できる。
【0080】
・本発明において、接着層は必須ではない。例えばビス止め等により防汚層を誘電体に固定したり、高周波、超音波、レーザー等により誘電体や防汚層の一部を融解して接合したりしてもよい。接着層を設ける場合も、通常の接着剤には限られず、ホットメルト接着剤やヒートシール層を用いた熱融着等も適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1、1A ミリ波反射建装材
10 スーパーセル
11、12、13 金属パターン
20 誘電体
20a 第一面
20b 第二面
30 金属層
40 接着層
50、50A 防汚層
51 基材
52 表層
図1
図2
図3