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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 5/04 20230101AFI20240618BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G06N5/04
G05B23/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022564925
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044177
(87)【国際公開番号】W WO2022113258
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】大西 貴士
(72)【発明者】
【氏名】窪澤 駿平
【審査官】田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-281106(JP,A)
【文献】特開平02-277136(JP,A)
【文献】特開平04-023131(JP,A)
【文献】特開平06-314269(JP,A)
【文献】特開平05-165278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 5/04
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象のうち指定部分の状態を定量的に示す情報を、前記指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報に変換する定性表現変換手段と、
前記指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、前記監視対象における状態推定対象部分を決定し、前記状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得する定性推論手段と、
前記状態候補定性表現情報に基づいて、前記状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得する定量的状態候補設定手段と、
前記状態候補定量表現情報を用いた前記監視対象のシミュレーション結果における前記指定部分の定量的な状態と、前記指定部分の状態を定量的に示す情報との比較に基づいて、前記状態候補定量表現情報の絞り込みを行うシミュレータ手段と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記状態推定対象部分の状態の観測値を示す観測値情報を用いて、その状態推定対象部分の状態候補定性表現情報またはその状態推定対象部分の状態候補定量表現情報の少なくとも何れか一方の絞り込みを行う観測値反映手段
をさらに備える請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記状態候補定量表現情報に基づいて前記監視対象の制御を行う対象制御手段
をさらに備える請求項1または請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
コンピュータが、
監視対象のうち指定部分の状態を定量的に示す情報を、前記指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報に変換し、
前記指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、前記監視対象における状態推定対象部分を決定し、前記状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得し、
前記状態候補定性表現情報に基づいて、前記状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得し、
前記状態候補定量表現情報を用いた前記監視対象のシミュレーション結果における前記指定部分の定量的な状態と、前記指定部分の状態を定量的に示す情報との比較に基づいて、前記状態候補定量表現情報の絞り込みを行う
ことを含む推定方法。
【請求項5】
コンピュータに、
監視対象のうち指定部分の状態を定量的に示す情報を、前記指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報に変換することと、
前記指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、前記監視対象における状態推定対象部分を決定し、前記状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得することと、
前記状態候補定性表現情報に基づいて、前記状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得することと、
前記状態候補定量表現情報を用いた前記監視対象のシミュレーション結果における前記指定部分の定量的な状態と、前記指定部分の状態を定量的に示す情報との比較に基づいて、前記状態候補定量表現情報の絞り込みを行うことと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設備など状態監視対象の状態を推定する場合に状態監視対象のシミュレーションが用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-177676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサ値などシミュレーションモデルへの入力値を推定する場合、入力値の候補の個数が膨大になる可能性がある。シミュレーションモデルへの入力値の候補の個数が比較的少なくなることが好ましい。
【0005】
本発明の目的の1つは、上述の課題を解決することのできる推定装置、推定方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、推定装置は、監視対象のうち指定部分の状態を定量的に示す情報を、前記指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報に変換する定性表現変換手段と、前記指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、前記監視対象における状態推定対象部分を決定し、前記状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得する定性推論手段と、前記状態候補定性表現情報に基づいて、前記状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得する定量的状態候補設定手段と、前記状態候補定量表現情報を用いた前記監視対象のシミュレーション結果における前記指定部分の定量的な状態と、前記指定部分の状態を定量的に示す情報との比較に基づいて、前記状態候補定量表現情報の絞り込みを行うシミュレータ手段と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、推定方法は、コンピュータが、監視対象のうち指定部分の状態を定量的に示す情報を、前記指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報に変換し、前記指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、前記監視対象における状態推定対象部分を決定し、前記状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得し、前記状態候補定性表現情報に基づいて、前記状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得し、前記状態候補定量表現情報を用いた前記監視対象のシミュレーション結果における前記指定部分の定量的な状態と、前記指定部分の状態を定量的に示す情報との比較に基づいて、前記状態候補定量表現情報の絞り込みを行うことを含む
【0008】
本発明の第3の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、監視対象のうち指定部分の状態を定量的に示す情報を、前記指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報に変換することと、前記指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、前記監視対象における状態推定対象部分を決定し、前記状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得することと、前記状態候補定性表現情報に基づいて、前記状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得することと、前記状態候補定量表現情報を用いた前記監視対象のシミュレーション結果における前記指定部分の定量的な状態と、前記指定部分の状態を定量的に示す情報との比較に基づいて、前記状態候補定量表現情報の絞り込みを行うことと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
上記した推定装置、推定方法およびプログラムによれば、シミュレーションモデルへの入力値の候補の個数を比較的少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る推定装置の機能構成の例を示す概略ブロック図である。
図2】実施形態に係る状態候補定性表現情報および状態候補定量表現情報の例を示す図である。
図3】実施形態に係る推定装置が要因の候補を推定する処理手順の例を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る推定装置が監視対象の制御を行う場合の機能構成の例を示す概略ブロック図である。
図5】実施形態に係る推定装置の構成例を示す図である。
図6】実施形態に係る推定方法における処理手順の例を示す図である。
図7】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
実施形態に係る推定装置は、監視対象の部分の状態量の指定を受けて、指定された状態量の要因となるような、監視対象の部分の状態量を推定する。実施形態に係る推定装置が、推定した状態量に基づいて、監視対象を制御するようにしてもよい。
【0013】
実施形態に係る推定装置の適用対象である監視対象は、複数の部分の状態が定量的に表され、それら複数の部分のうち少なくとも一部の間の状態に相関関係があるいろいろなものとすることができる。例えば、監視対象は、単体の装置であってもよいし、工場などの施設であってもよい。
【0014】
図1は、実施形態に係る推定装置の機能構成の例を示す概略ブロック図である。図1に示す構成で、推定システム10は、推定装置100と、表示装置210と、入力デバイス220とを備える。
【0015】
推定装置100は、データ取得部111と、定性表現変換部112と、定性推論部113と、インタラクション部114と、パラメータ推定部115と、シミュレータ部116と、取得データ記憶部121と、変換知識記憶部122と、推論知識記憶部123とを備える。
表示装置210および入力デバイス220が、推定装置100の一部として構成されていてもよい。また、推定装置100は、対象設備900からセンサ測定データなどのデータを取得する。
【0016】
対象設備900は、推定装置100による状態推定の対象となる設備である。対象設備900は、操作または周囲環境あるいはそれらの組み合わせによって状態または動作あるいはそれら両方が変化する、いろいろなものとすることができる。例えば、対象設備900は、プラント(工場設備)または単体の機器であってもよいが、これらに限定されない。
【0017】
以下では、対象設備900が監視対象の例に該当する場合を例に説明する。ここでいう監視対象は、状態監視の対象である。ユーザは、状態監視で検出した状態の要因を推定するために、推定装置100を用いることができる。
ただし、対象設備900とその周囲環境との組み合わせが監視対象の例に該当してもよい。すなわち、対象設備900に対する周囲環境の影響を無視できない場合、または、周囲環境に対する対象設備900の影響を無視できない場合などに、推定装置100が、対象設備900だけでなくその周囲環境も考慮して状態推定を行うようにしてもよい。
【0018】
例えば、対象設備900に異常が発生し、その要因の1つが、対象設備900が設置された部屋の室温が高いことである場合を考える。この場合、推定装置100が状態推定の際に扱う事象の1つに室温が含まれていることで、推定装置100が、推定される異常要因の候補をユーザに提示する際に、室温を含めて提示できることが期待される。
ここでいう要因(Factor)は、結果に対して影響を及ぼす事物である。要因には原因(Cause)が含まれていてもよい。ここでいう原因は、結果に対して直接的な影響を及ぼす事物である。
【0019】
推定装置100は、対象設備900の部分の指定およびその部分の状態を示す情報の入力を受けて、指定された部分がその状態になる要因の候補を推定する。
推定装置100に対して指定される対象設備900の部分を指定部分とも称する。上記の情報で示される指定部分の状態、すなわち、指定部分について指定される状態を、指定状態とも称する。
【0020】
例えば、推定装置100が、対象設備900に異常が発生した場合に異常要因の候補を推定するようにしてもよい。さらに例えば、推定装置100が、対象設備900の異常を示すセンサ値を対象設備900から取得した場合に、その異常の要因の候補を推定するようにしてもよい。
【0021】
推定装置100が、対象設備900に異常が発生した場合に異常要因の候補を推定するようにしてもよい。
あるいは、推定装置100が、異常予測および予防のために用いられるなど、対象設備900に想定される異常の提示を受けて、その異常が発生する要因の候補を推定するようにしてもよい。
【0022】
対象設備900に想定される異常の提示として、例えば、ユーザが、対象設備900について異常発生が想定される箇所、および、その箇所について想定される異常状態を推定装置100に入力するようにしてもよい。この場合の、異常発生が想定される箇所は、指定部分の例に該当する。その箇所について想定される異常状態は、指定状態の例に該当する。
【0023】
ただし、推定装置100の用途は、異常要因推定に限定されない。例えば、推定装置100が、品質管理または省エネに用いられてもよい。
推定装置100が、対象設備900の部分の、異常には至らない状態低下の要因の候補を推定するようにしてもよい。
推定装置100が、対象設備900の部分の状態の目標値の提示を受けて、その目標値を達成するための、推定装置100に対する操作の候補を推定するようにしてもよい。
【0024】
例えば、推定装置100が、対象設備900のある工程における処理速度の目標値の入力を受けて、目標値を達成するための、対象設備900に対する設定および操作の候補を推定するようにしてもよい。
あるいは、推定装置100が、対象設備900の駆動部など主要な電力消費箇所における消費電力の目標値の入力を受けて、目標値を達成するための、対象設備900に対する設定および操作の候補を推定するようにしてもよい。
【0025】
指定状態は、定量表現で推定装置100に入力されてもよいし、定性表現で推定装置100に入力されてもよい。
ここでいう定量表現は、定量的な表現、すなわち、数値を用いた表現である。例えば、指定部分が配管であり、指定状態として配管を流れる流量が数値で示されてもよい。
ここでいう定性表現は、定性的な表現、すなわち、数値を用いずに行える表現である。例えば、指定部分が遮断弁であり、指定状態として遮断弁が開いているかまたは閉じているかの状態が示されてもよい。ただし、遮断弁の開状態を「1」と表記し、閉状態を「0」と表記するなど、定性表現に離散的な数値が用いられてもよい。
【0026】
ここで、一般的にはシミュレータに用いられるシミュレーションモデルの逆関数に相当するモデルを得ることはできない。推定装置100が対象設備900の状態を推定する場合も、通常は、指定状態をモデルに入力して解析的に解いて要因を算出することはできない。
【0027】
シミュレータを用いて要因を推定する方法として、シミュレーションモデルへの入力データセットを複数用意し、入力データセットごとにシミュレーションを行う方法が考えられる。この場合、シミュレーション結果における指定部分の状態が、指定された状態と一致するかあるいは近い入力データセットを、要因の候補として選択することが考えられる。
【0028】
ここでいう近さは、例えば、近いことを判定する基準と比較することによって判定される。さらに例えば、シミュレーション結果における指定部分の状態量と指定された状態量との「距離」を計算し、算出された「距離」が所定の閾値以下である場合に、「近い」と判定することが考えられる。
【0029】
しかしながら、対象設備900の規模が大きい場合などシミュレーションモデルが複雑な場合、可能な入力データセットの個数が膨大になり、さらには、入力データセットごとのシミュレーション実行時間が長くなる。このため、現実的な時間内に網羅的な推定結果を得られないことが考えられる。
【0030】
そこで、推定装置100は、対象設備900に関する定性推論を行って、指定状態の要因の候補の絞り込みを行う。例えば、推定装置100は、対象設備900の各部のうち、指定部分の状態に影響を与える部分の組み合わせを推定するようにしてもよい。推定装置100が推定する、指定部分の状態に影響を与える部分の組み合わせを、状態推定対象部分セットとも称する。状態推定対象部分セットに含まれる個々の部分を、状態推定対象部分とも称する。
【0031】
推定装置100が定性推論を行う際の推論規則の選択、あるいは推論規則の適用順序の選択によって、推論結果が異なることが考えられる。そこで、推定装置100が、対象設備900に関する定性推論を複数回行って、定性推論の実行ごとに状態推定対象部分セットを決定するようにしてもよい。1つの状態推定対象部分セットは、指定状態の要因を生じさせる部分の組み合わせの候補であるといえる。状態推定対象部分は、指定状態の要因を生じさせる部分の候補であるといえる。
【0032】
推定装置100が、状態推定対象部分の推定に加えてさらに、状態推定対象部分の状態を定性的に推定するようにしてもよい。これにより、推定装置100は、指定状態の要因の候補をさらに絞り込むことができる。例えば、推定装置100が、状態推定対象部分における弁開度または液体流量などの値が、基準値よりも大、基準値と同じ、基準値よりも小の何れかを推定するようにしてもよい。
【0033】
推定装置100は、要因の候補の絞り込み結果に基づいて、シミュレーションモデルへの入力データセットを生成する。推定装置100が、シミュレーションモデルへの入力データセットを複数生成してもよい。例えば、推定装置100が、対象設備900の部分のうち状態推定対象部分については、定性推論で定性的に推定された状態に整合する値を設定し、それ以外の部分については、予め定められている基準値を設定して、シミュレーションモデルへの入力データセットを生成するようにしてもよい。
【0034】
そして、推定装置100は、入力データセットごとにシミュレーションを行い、シミュレーション結果に基づいてデータセットを選択する。例えば、推定装置100は、シミュレーション結果における指定部分の状態が、指定状態と一致するかあるいは所定の条件以上に近い入力データセットを、指定状態の要因の候補として選択する。
【0035】
表示装置210は、例えば液晶パネルまたはLED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)パネルなどの表示画面を備え、推定装置100の制御に従って各種画像を表示する。例えば、表示装置210は、推定装置100による対象設備900の状態推定結果を表示する。
推定装置100が、対象設備900の部分の観測値を用いて指定状態の要因の候補の絞り込みを行う場合、表示装置210が、観測値の取得対象の部分を表示するようにしてもよい。この場合、ユーザが、表示装置210の表示を参照して対象設備900の部分の状態を観測し、観測値を推定装置100に入力するようにしてもよい。
【0036】
入力デバイス220は、例えばキーボードおよびマウスなど、ユーザ操作を受け付けるための入力デバイスを含む。入力デバイス220は、受け付けたユーザ操作を示す情報を推定装置100に送信する。例えば入力デバイス220は、対象設備900の部分の観測値を入力するユーザ操作を受け付け、入力された観測値を示す情報を推定装置100へ送信する。
【0037】
データ取得部111は、対象設備900に関連する各種データを取得する。例えばデータ取得部111は、対象設備900に設けられたセンサの測定データ、および、対象設備900に対して行われた操作を示すデータを、対象設備900から取得する。
【0038】
監視対象に対象設備900の周囲環境が含まれる場合、データ取得部111が、対象設備900の周囲に設置されたセンサの測定データも取得するようにしてもよい。さらに、データ取得部111が、対象設備900が設置された部屋の空調機に対する操作を示すデータなど、対象設備900の周囲に設置された機器に対する操作を示すデータも取得するようにしてもよい。
【0039】
定性表現変換部112は、定量表現を定性表現に変換する。例えば、定性表現変換部112は、指定状態を定量表現で示す情報を指定部分定性表現情報に変換する。定性表現変換部112は、定性表現変換手段の例に該当する。
ここでいう指定部分定性表現情報は、指定部分の状態を定性的に示す情報である。指定部分定性表現情報が、指定部分を明示する情報を含んでいてもよい。あるいは、指定部分定性表現情報自体は指定部分を明示せず、指定部分定性表現情報が指定部分を示す情報と共に用いられるようにしてもよい。
【0040】
定性表現変換部112が、定量表現で示される量と所定の閾値とを比較して定性表現に変換するようにしてもよい。例えば、対象設備900の部分P1における流量を示す情報が定性表現変換部112に入力された場合について考える。この場合、定性表現変換部112が、部分P1における流量と、部分P1について予め定められている上限閾値および下限閾値の各々とを比較するようにしてもよい。
【0041】
そして、定性表現変換部112が、部分P1における流量が上限閾値よりも多いと判定した場合、「部分P1における流量が多い」ことを示す定性表現の情報を出力するようにしてもよい。また、定性表現変換部112が、部分P1における流量が上限閾値以下、かつ、下限閾値以上であると判定した場合、「部分P1における流量が正常である」ことを示す定性表現の情報を出力するようにしてもよい。また、定性表現変換部112が、部分P1における流量が下限閾値よりも少ないと判定した場合、「部分P1における流量が少ない」ことを示す定性表現の情報を出力するようにしてもよい。
【0042】
ただし、定性表現変換部112が定量表現から定性表現への変換に用いる閾値の個数は、2つに限らず1つ以上であればよい。
例えば、定性表現変換部112が、部分P1における流量と1つの閾値とを比較するようにしてもよい。この場合、定性表現変換部112が、部分P1における流量が閾値よりも多いと判定した場合、「部分P1における流量が多い」ことを示す定性表現の情報を出力するようにしてもよい。また、定性表現変換部112が、部分P1における流量が閾値以下であると判定した場合、「部分P1における流量が少ない」ことを示す定性表現の情報を出力するようにしてもよい。
【0043】
定性推論部113は、指定部分定性表現情報を用いた定性推論を行う。定性推論部113が行う定性推論を、対象設備900に関する定性推論とも称する。この推論により、定性推論部113は、対象設備900における状態推定対象部分を決定し、状態候補定性表現情報を取得する。定性推論部113は、定性推論手段の例に該当する。
【0044】
ここでいう状態候補定性表現情報は、状態推定対象部分の状態を定性的に示す情報である。状態候補定性表現情報が、対象設備900の部分を明示する情報を含んでいてもよい。あるいは、状態候補定性表現情報自体は対象設備900の部分を明示せず、状態候補定性表現情報が、対象設備900の部分を示す情報と共に用いられるようにしてもよい。
【0045】
定性推論部113が、状態推定対象部分の決定と、状態候補定性表現情報の取得とを同時に行うようにしてもよい。例えば、定性推論部113が定性推論で、状態推定対象部分セットに含まれる全ての状態推定対象部分の状態候補定性表現情報を取得し、それぞれの状態候補定性表現情報に、状態推定対象部分を示す情報が含まれていてもよい。
【0046】
定性推論部113が行う定性推論の推論規則には、対象設備900の1つ以上の部分の状態の定性表現の入力を受けて、対象設備900の1つ以上の部分の状態の定性表現を出力する推論規則が含まれる。
ある推論規則への入力が要因に該当し、その推論規則の出力が結果に該当する関係にある場合、定性推論部113が、その推論規則を用いて後ろ向きに推論を行うようにしてもよい。また、ある推論規則への入力が結果に該当し、その推論規則の出力が要因に該当する関係にある場合、定性推論部113が、その推論規則を用いて前向きに推論を行うようにしてもよい。
【0047】
定性推論部113は、1回の定性推論で指定部分定性表現情報に推論規則を1回以上適用して、1つの状態推定対象部分セット、および、その状態推定対象部分セットが示す各部分の状態候補定性表現情報を取得する。
推定装置100について上述したように、定性推論部113が、対象設備900に関する定性推論を複数回行って、定性推論の実行ごとに状態推定対象部分セットを決定するようにしてもよい。
【0048】
定性推論部113が行う定性推論の推論規則に、入力および出力の何れについても状態を任意の状態とする推論規則が含まれていてもよい。ここでいう任意は、いわゆるワイルドカードである。定性推論部113は、この推論規則を用いて、状態推定対象部分を推定することができる。
【0049】
1つの状態推定対象部分セットに含まれる全ての状態推定対象部分について、状態候補定性表現情報を1つずつ示す情報を、仮説とも称する。定性推論部113が、一度の定性推論の実行で1つの仮説を取得するように、推論規則が定められていてもよい。
【0050】
あるいは、定性推論部113が一度の定性推論の実行で複数の仮説を取得するようにしてもよい。例えば、定性推論部113が一度の定性推論の実行で、調整弁の開度が「正常」または「大きい」ことを示す情報を含む推論結果を取得するようにしてもよい。そして、定性推論部113が、調整弁の開度が「正常」であることを示す情報を含む仮説と、調整弁の開度が「大きい」ことを示す情報を含む仮説とを取得するようにしてもよい。
【0051】
パラメータ推定部115は、状態候補定性表現情報に基づいて、状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得する。パラメータ推定部115は、定量的状態候補設定手段の例に該当する。
例えば、パラメータ推定部115が、状態候補定性表現情報における状態量の定性表現を、その状態量がとり得る範囲の情報に置き換え、得られた範囲内で状態量をサンプリングするようにしてもよい。
【0052】
さらに例えば、状態候補定性表現情報が、調整弁P2の開度が大きいことを示し、調整弁P2の開度の上限閾値が60%と定められている場合について考える。また、調整弁P2の開度のサンプリング間隔が5%と定められているものとする。
【0053】
この場合、パラメータ推定部115は、調整弁P2の開度の範囲を、60%よりも大きく100%以下であると算出する。ここで、調整弁P2の開度100%は、調整弁P2の開度の最大値である。
そして、パラメータ推定部115は、調整弁P2の開度を65%、70%、75%、・・・、100%のように、得られた開度の範囲内でサンプリング間隔ごとに設定する。
パラメータ推定部115が設定した開度のそれぞれが、調整弁P2の開度の候補として扱われる。シミュレータ部116による対象設備900の動作のシミュレーション結果に基づいて、候補の絞り込みが行われる。
【0054】
あるいは、パラメータ推定部115が、状態候補定性表現に基づいて、状態推定対象部分の状態量の確率分布を設定するようにしてもよい。そして、パラメータ推定部115が、設定した確率分布に従って、状態推定対象部分の状態量をサンプリングして、状態候補定量表現情報を取得するようにしてもよい。
【0055】
この場合、パラメータ推定部115が、状態候補定性表現情報および閾値から算出される状態推定対象部分の状態量の範囲内でのみ、状態推定対象部分の状態量を設定するようにしてもよい。あるいは、パラメータ推定部115が、状態候補定性表現情報および閾値から算出される状態推定対象部分の状態量の範囲外についても、確率分布に従って、状態推定対象部分の状態量を設定するようにしてもよい。
【0056】
パラメータ推定部115が、仮説に含まれる定性表現を定量表現に変換することで、指定状態の要因の候補を定量的に示す情報が得られる。仮説に含まれる定性表現が定量表現に変換された情報を定量的仮説と称する。
ただし、定量的仮説に含まれる全ての状態推定対象部分の状態が定量表現で示されている必要はない。例えば、状態推定対象部分が遮断弁である場合など、状態推定対象部分の状態が定性的な状態である場合、パラメータ推定部115は、その状態推定対象部分の状態を示す情報を状態候補定性表現情報のままとする。
定量的仮説は、例えば、仮説に含まれる1つ以上の定性表現が定量表現に変換された情報と定義できる。また、定量的仮説は、1つの状態推定対象部分セットに含まれる全ての状態推定対象部分について、状態候補定量表現情報を1つずつ示す情報である、とも言える。
【0057】
シミュレータ部116は、状態候補定量表現情報を用いた対象設備900のシミュレーション結果における指定部分の状態と指定状態との比較に基づいて、状態候補定量表現情報の絞り込みを行う。シミュレータ部116は、シミュレータ手段の例に該当する。
【0058】
例えば、シミュレータ部116は、パラメータ推定部115が生成する定量的仮説ごとにシミュレーションモデルへの入力データセットを生成する。具体的には、シミュレータ部116は、対象設備900の部分のうち定量的仮説で状態が示される部分については、その状態を示す情報をシミュレータモデルへの入力データとして用いる。それ以外の部分については、シミュレータ部116が、予め定められている基準値を設定して、シミュレーションモデルへの入力データセットを生成するようにしてもよい。
【0059】
そして、シミュレータ部116は、生成した入力データセットごとに対象設備900のシミュレーションを行って、指定部分の状態を算出する。
シミュレータ部116は、シミュレーション結果における指定部分の状態が、指定状態と一致するかあるいは所定の条件以上に近い入力データセットの元となっている定量的仮説を、指定状態の要因の候補として選択する。すなわち、シミュレータ部116は、シミュレーション結果における指定部分の状態が、指定状態と一致するかあるいは所定の条件以上に近い場合に、そのシミュレーションに用いられた定量的仮説を、指定状態の要因の候補として選択する。
【0060】
シミュレータ部116が取得する指定状態の要因の候補は、シミュレーション結果における指定部分の状態が、指定状態と一致するかあるいは所定の条件以上に近い入力データセットから、状態推定対象部分セットの各部の状態情報を抽出した情報に相当する。シミュレータ部116が、複数の定量的仮説のうちの一部を指定状態の要因の候補として選択することは、上述した状態候補定量表現の絞り込みの例に該当する。
【0061】
インタラクション部114は、状態推定対象部分の状態の観測値を示す情報を用いて、状態候補定性表現情報または状態候補定量表現情報の少なくとも何れか一方の絞り込みを行う。状態推定対象部分の状態の観測値を示す情報を、観測値情報とも称する。インタラクション部114は、観測値反映手段の例に該当する。
【0062】
例えば、インタラクション部114が、表示装置210に、状態推定対象部分を表示させるようにしてもよい。そして、ユーザが、表示された状態推定対象部分の状態を対象設備900で実際に観測し、得られた観測値情報を、入力デバイス220を用いて推定装置100に入力するようしてもよい。ユーザが観測する状態は、調整弁の開度など定量的な状態であってもよいし、遮断弁の開閉など定性的な状態であってもよい。
【0063】
インタラクション部114は、観測値情報を参照して状態候補定性表現情報を絞り込むことができる。具体的には、インタラクション部114が、定性推論部113の定性推論で得られた仮説のうち、観測値情報に整合しない状態候補定性表現情報を含む仮説を削除するようにしてもよい。
【0064】
例えば、対象設備900が冷却塔を備え、定性推論部113が、「冷却塔の外気温度が高い」ことを含む仮説H1と、「冷却塔ファンの吸気量が少ない」ことを含む仮説H2とを生成した場合について考える。「冷却塔の外気温度が高い」こと、および、「冷却塔ファンの吸気量が少ない」ことは、何れも状態候補定性表現情報の例に該当する。
この場合、表示装置210が、インタラクション部114からの指示に従って、「冷却塔の外気温度」との状態推定対象部分、または、「冷却塔の外気温度が高い」との状態候補定性表現情報を表示するようにしてもよい。
【0065】
さらに、表示装置210の表示を参照したユーザが冷却塔の外気温度を測定し、観測値情報として「冷却塔の外気温度20℃」を、入力デバイス220を用いて推定装置100に入力した場合について考える。この場合、定性表現変換部112が観測値情報を定性表現に変換することで、インタラクション部114は、仮説H1が測定値情報と整合するか否かを判定することができる。
【0066】
「冷却塔の外気温度20℃」が「冷却塔の外気温度が正常である」旨の定性表現に変換された場合、「冷却塔の外気温度が高い」旨の状態候補定性表現情報を含む仮説H1は、観測値情報と整合しない。この場合、インタラクション部114は、仮説H1を誤りとして削除することができる。インタラクション部114による仮説の削除は、状態候補定性表現情報の絞り込みの例に該当する。
【0067】
あるいは、インタラクション部114が、観測値情報を参照して状態候補定量表現情報を絞り込むようにしてもよい。例えば、インタラクション部114が、パラメータ推定部115が算出した定量的仮説のうち、観測値情報に整合しない状態候補定量表現情報を含む定量的仮説を削除するようにしてもよい。
インタラクション部114が、定量的仮説に含まれる指定部分の状態情報と、指定部分の状態の観測値との差異を算出し、差異の大きさが所定の閾値よりも大きい場合に、定量的仮説が観測値に整合しないとしてその定量的仮説を削除するようにしてもよい。インタラクション部114による定量的仮説の削除は、状態候補定量表現情報の絞り込みの例に該当する。
【0068】
あるいは、表示装置210が推定対象部分を表示していない状態で、ユーザが、対象設備900の部分の状態を観測して観測値情報を、入力デバイス220を用いて推定装置100へ入力するようにしてもよい。この場合も、インタラクション部114は、上記の場合と同様に、状態候補定性表現情報または状態候補定量表現情報の絞り込みを行うことができる。
【0069】
取得データ記憶部121は、データ取得部111が取得するデータなど、シミュレーションに用いられるデータを記憶する。
変換知識記憶部122は、定量表現から定性表現への変換に用いられる各種情報を記憶する。例えば、変換知識記憶部122は、定性表現変換部112が定量表現を定性表現に変換する際に、定量表現で示される量と比較する閾値を記憶する。
推論知識記憶部123は、定性推論のための推論規則など、定性推論部113が定性推論を行うために用いられる各種データを記憶する。
【0070】
図2は、状態候補定性表現情報および状態候補定量表現情報の例を示す図である。
図2では、調整弁912の入口側の配管911に流量計921が設けられ、出口側の配管913に流量計922が設けられている。
この構成で、正常時の定常状態では、流量計921が測定する入口側流量、流量計922が測定する出口側流量が、いずれも100であり、調整弁912の開度が50%であるとする。そして、流量計922が測定する出口側流量が105に増加するという異常が検知されたとする。
【0071】
取得データの定性表現の「+」は、出口側流量が正常時の値よりも多い状態を示す。「?」は、状態推定対象部分に決定されたことを示す。
仮説1、仮説2、および、仮説3は、状態候補定性表現情報の例を示している。定性推論部113は、定性推論の結果、要因の候補として、入口側流量が「+」かつ弁開度が「0」(仮説1)、入口側流量が「0」かつ弁開度が「+」(仮説2)、入口側流量が「+」かつ弁開度が「+」(仮説3)という3通りの候補を取得している。
【0072】
パラメータ推定部115は、仮説1に対して、入口側流量「101」かつ弁開度「50%」(仮説1:SIM1)、入口側流量「102」かつ弁開度「50%」(仮説1:SIM2)、入口側流量「103」かつ弁開度「50%」(仮説1:SIM3)、入口側流量「104」かつ弁開度「50%」(仮説1:SIM4)、入口側流量「105」かつ弁開度「50%」(仮説1:SIM5)の5通りの要因の候補を設定している。
【0073】
また、パラメータ推定部115は、仮説2に対して、入口側流量「100」かつ弁開度「51%」(仮説2:SIM1)、入口側流量「100」かつ弁開度「52%」(仮説2:SIM2)、入口側流量「100」かつ弁開度「53%」(仮説3:SIM1)の3通りの要因の候補を設定している。
【0074】
また、パラメータ推定部115は、仮説3に対して、入口側流量「101」かつ弁開度「51%」(仮説3:SIM1)、入口側流量「101」かつ弁開度「52%」(仮説3:SIM2)、入口側流量「102」かつ弁開度「51%」(仮説3:SIM3)、入口側流量「102」かつ弁開度「52%」(仮説3:SIM4)、入口側流量「103」かつ弁開度「51%」(仮説3:SIM5)の5通りの要因の候補を設定している。
【0075】
シミュレーション部116は、設定した要因の候補のそれぞれを用いてシミュレーションを行っている。シミュレーションの結果、入口側流量「105」かつ弁開度「50%」(仮説1:SIM5)、入口側流量「100」かつ弁開度「53%」(仮説2:SIM3)、入口側流量「101」かつ弁開度「52%」(仮説3:SIM2)、入口側流量「103」かつ弁開度「51%」(仮説3:SIM5)のそれぞれで、指定部分の状態の例に該当する出口側配管913における出口側流量が、測定値「105」と同じ値になっている。シミュレーション部116は、これらを要因の候補とする。
【0076】
さらに、パラメータ推定部115は、仮説3:SIM3(シミュレーション結果の出口側流量「104」)と、仮説3:SIM4(シミュレーション結果の出口側流量「106」)とに基づいて、入口側流量「102」かつ弁開度「51.5%」との要因の候補を生成するようにしてもよい。
【0077】
例えば、パラメータ推定部115が、仮説3:SIM3の弁開度「51%」と、仮説3:SIM4の弁開度「52%」とについて、出口側流量のシミュレーション結果と測定値との差に応じた割合で線形補間を行うようにしてもよい。パラメータ推定部115は、例えば式(1)のように線形補間を行って、要因の候補としての弁開度「51.5%」を算出する。
【0078】
【数1】
【0079】
図3は、推定装置100が要因の候補を推定する処理手順の例を示すフローチャートである。
図3の処理で、データ取得部111は、異常時のデータを取得する(ステップS101)。ここでの異常時のデータは、指定状態の例に該当する。データ取得部111が、対象設備900に設けられたセンサからの異常を示すセンサ値を、異常時のデータとして取得するようにしてもよい。あるいは、ユーザが、例えば入力デバイス220を用いて指定部分および指定状態を示す情報を入力し、データ取得部111が、入力された情報を異常時のデータとして取得するようにしてもよい。
ただし、上述したように、指定状態は異常時の状態に限定されない。
【0080】
次に、定性表現変換部112は、データ取得部111が取得した異常時のデータを定性表現のデータに変換する(ステップS102)。定性表現変換部112が異常時のデータを変換して得られるデータは、指定部分定性表現情報の例に該当する。
【0081】
次に、定性推論部113は、仮説を1つ以上取得する(ステップS103)。具体的には、定性推論部113は、定性表現変換部112による変換後のデータに推論規則を適用する定性推論を行って、仮説を取得する。上述したように、1回の定性推論で1つの仮説が得られるように推論規則が定められていてもよい。そして、定性推論部113が、定性推論を複数回行うことで、複数の仮説を取得するようにしてもよい。
【0082】
次に、インタラクション部114は、仮説を絞り込む(ステップS104)。上述したように、インタラクション部114は、状態推定対象部分の状態の観測値を示す観測値情報を取得する。そして、インタラクション部114は、得られた観測値情報に整合しない状態候補定性表現情報または状態候補定量表現情報の少なくとも何れか一方の絞り込みを行うことで、仮説を絞り込む。
【0083】
次に、パラメータ推定部115は、仮説に含まれる定性表現を定量表現に置き換えて定量的仮説を生成する(ステップS105)。パラメータ推定部115が、1つの仮説に基づいて複数の定量的仮説を生成してもよい。
【0084】
次に、シミュレータ部116は、パラメータ推定部115が生成した定量的仮説ごとにシミュレーションを実行する(ステップS106)。上述したように、シミュレータ部116は、定量的仮説ごとにシミュレーションモデルへの入力データセットを生成する。例えば、シミュレータ部116は、シミュレーションモデルへの入力項目のうち定量的仮説に示さない項目について、予め定められている基準値を設定することで、定量的仮説を拡張して入力データセットを生成する。
そして、シミュレータ部116は、生成した入力データセットごとにシミュレーションを実行する。
【0085】
次に、シミュレータ部116は、シミュレーション結果に基づいて定量的仮説のうち何れか1つ以上を、指定状態の要因の候補として選択する(ステップS107)。上述したように、シミュレータ部116は、シミュレーション結果における指定部分の状態が、指定状態と一致するかあるいは所定の条件以上に近い場合に、そのシミュレーションに用いられた定量的仮説を、指定状態の要因の候補として選択する。
【0086】
そして、インタラクション部114は、指定状態の要因の候補を表示装置210に表示させる(ステップS108)。シミュレータ部116が、指定状態の要因の候補として定量的仮説を複数選択した場合、インタラクション部114が、複数の定量的仮説のそれぞれを、表示装置210に表示させるようにしてもよい。
【0087】
ただし、推定装置100が、指定状態の要因の候補を出力する方法は、表示装置210に表示させる方法に限定されない。例えば、推定装置100が、指定状態の要因の候補を他の装置に送信するようにしてもよい。
また、推定装置100が、指定状態の要因の候補を用いて対象設備900の制御を行うようにしてもよい。
ステップS108の後、推定装置100は、図3の処理を終了する。
【0088】
以上のように、定性推論部113は、対象設備900のうち指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、対象設備900における状態推定対象部分を決定し、状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得する。パラメータ推定部115は、状態候補定性表現情報に基づいて、状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得する。
【0089】
定性推論部113が指定部分定性表現情報を用いた定性推論を行うことで、状態推定対象部分の状態の候補を絞り込むことができる。また、定性推論部113が定性推論を行う点で、定量的な計算によって状態推定対象部分の状態の候補を絞り込む場合よりも計算量が少ないことが期待される。
【0090】
このように、推定装置100によれば、シミュレーションモデルへの入力値の候補の個数を比較的少なくすることができる。例えば、推定装置100によれば、定性推論を行わずにシミュレーションモデルへの入力値の候補をランダムに設定する場合よりも、シミュレーションモデルへの入力値の候補を絞り込むことができる。
【0091】
また、推定装置100が状態推定対象部分の状態またはその候補を定量的に示すことで、単に異常個所をユーザに提示するだけでなく、異常の程度も提示することができる。推定装置100による推定結果を参照したユーザは、例えば正常値との差が微細な異常値が示されている場合、異常個所の状態を注意深く観察する必要があると認識することができる。
【0092】
また、シミュレータ部116は、状態候補定量表現情報を用いた対象設備900のシミュレーション結果と指定部分の状態との比較に基づいて、状態候補定量表現情報の絞り込みを行う。
ここで、パラメータ推定部115が取得する状態候補定量表現情報も、指定部分の状態の要因の候補を示す情報として捉えることができる。シミュレータ部116によれば、状態候補定量表現情報が示す指定部分の状態の要因の候補を絞り込むことができる。
【0093】
また、定性表現変換部112は、指定部分の状態を定量的に示す情報を指定部分定性表現情報に変換する。
定性表現変換部112がかかる変換を行うことで、定性推論部113が定性推論を行うことができる。
【0094】
また、インタラクション部114は、複数の状態推定対象部分のうち一部の状態推定対象部分の状態の観測値を示す観測値情報を用いて、状態候補定性表現情報または状態候補定量表現情報の少なくとも何れか一方の絞り込みを行う。
これにより、シミュレータ部116が行うシミュレーションの回数を軽減させることができ、シミュレータ部116の負荷が比較的軽くなる。
【0095】
上述したように推定装置が、指定状態の要因の候補を用いて監視対象の制御を行うようにしてもよい。
図4は、推定装置が監視対象の制御を行う場合の機能構成の例を示す概略ブロック図である。図4に示す構成で、推定システム11は、推定装置101と、表示装置210と、入力デバイス220とを備える。
推定装置101は、データ取得部111と、定性表現変換部112と、定性推論部113と、インタラクション部114と、パラメータ推定部115と、シミュレータ部116と、対象制御部117と、取得データ記憶部121と、変換知識記憶部122と、推論知識記憶部123とを備える。
【0096】
図4に示す構成のうち、図1の各部に対応して同様の機能を有する部分には同一の符号(111、112、113、114、115、116、121、122、123、210、220、900)を付し、ここでは詳細な説明を省略する。
推定システム11では、推定装置101が、推定装置100の構成に加えてさらに、対象制御部117を備える。それ以外の点では、推定システム11は、推定システム10と同様である。
【0097】
対象制御部117は、状態候補定量表現情報に基づいて対象設備900の制御を行う。具体的には、対象制御部117は、指定状態の要因の候補としての定量的仮説に基づいて対象設備900の制御を行う。
対象制御部117は、対象制御手段の例に該当する。
【0098】
指定状態として指定部分の状態量の目標値が示されている場合、対象制御部117は、状態推定対象部分の状態を、指定状態の要因の候補に示される状態にするように、対象設備900を制御するようにしてもよい。これにより、対象制御部117は、指定部分の状態量が目標値に近づくように、対象設備900を制御する。
【0099】
対象設備900に異常が発生し、指定状態として指定部分の状態量の異常値が示されている場合、例えばシミュレータ部116が、指定部分の状態量が正常値に近付くような、状態推定対象部分の状態量を探索するようにしてもよい。
例えば、シミュレータ部116が、状態推定対象部分の状態量を定量的仮説に示される状態量から変化させてシミュレーションを実行し、指定部分の状態量が正常値に近付くような、状態推定対象部分の状態量を採用するようにしてもよい。
【0100】
そして、対象制御部117が、状態推定対象部分の状態量を、シミュレータ部116が採用した状態量にするように、対象設備900を制御するようにしてもよい。これにより、対象制御部117は、対象設備900の指定部分の状態量が正常値に近付くように、対象設備900を制御する。
【0101】
指定状態の要因の候補としての定量的仮説が複数得られている場合、ユーザが、これら複数の定量的仮説のうち何れか1つを選択するようにしてもよい。そして、対象制御部117が、選択された定量的仮説に基づいて対象設備900の制御を行うようにしてもよい。
あるいは、ユーザに代えて推定装置101が、複数の定量的仮説のうち何れか1つを選択するようにしてもよい。例えば、対象制御部117が、複数の定量的仮説のうち何れか1つをランダムに選択するようにしてもよい。
【0102】
あるいは、対象制御部117が、複数の定量的仮説に示される状態量を状態推定対象部分ごとに平均するなど、複数の定量的仮説を統合した値を算出するようにしてもよい。そして、対象制御部117が、算出した値に基づいて対象設備900の制御を行うようにしてもよい。
【0103】
以上のように、対象制御部117は、状態候補定量表現情報に基づいて対象設備900の制御を行う。これにより、対象制御部117は、対象設備900の指定部分の状態である指定状態が所望の状態に近づくように、対象設備900を制御することができる。
【0104】
図5は、実施形態に係る推定装置の構成例を示す図である。図5に示す構成で、推定装置510は、定性推論部511と、定量的状態候補設定部512とを備える。
かかる構成で、定性推論部511は、監視対象のうち指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、監視対象における状態推定対象部分を決定し、状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得する。定量的状態候補設定部512は、状態候補定性表現情報に基づいて、状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得する。
定性推論部511は、定性推論手段の例に該当する。定量的状態候補設定部512は、定量的状態候補設定手段の例に該当する。
【0105】
定性推論部511が指定部分定性表現情報を用いた定性推論を行うことで、状態推定対象部分の状態の候補を絞り込むことができる。このように、推定装置510によれば、シミュレーションモデルへの入力値の候補の個数を比較的少なくすることができる。例えば、推定装置510によれば、定性推論を行わずにシミュレーションモデルへの入力値の候補をランダムに設定する場合よりも、シミュレーションモデルへの入力値の候補を絞り込むことができる。
定性推論部511は、例えば、図1に示される定性推論部113等の機能を用いて実現することができる。定量的状態候補設定部512は、例えば、図1のパラメータ推定部115等の機能を用いて実現することができる。
【0106】
図6は、実施形態に係る推定方法における処理手順の例を示す図である。図6に示す方法は、定性推論を行う工程(ステップS511)と、状態候補定量表現情報を取得する工程(ステップS512)とを含む。
定性推論を行う工程(ステップS511)では、監視対象のうち指定部分の状態を定性的に示す指定部分定性表現情報を用いた定性推論に基づいて、監視対象における状態推定対象部分を決定し、状態推定対象部分の状態の候補を定性的に示す状態候補定性表現情報を取得する。状態候補定量表現情報を取得する工程(ステップS512)では、状態候補定性表現情報に基づいて、状態推定対象部分の状態の候補を定量的に示す状態候補定量表現情報を取得する。
【0107】
定性推論を行う工程にて指定部分定性表現情報を用いた定性推論を行うことで、状態推定対象部分の状態の候補を絞り込むことができる。このように、図6の推定方法によれば、シミュレーションモデルへの入力値の候補の個数を比較的少なくすることができる。例えば、図6の推定方法によれば、定性推論を行わずにシミュレーションモデルへの入力値の候補をランダムに設定する場合よりも、シミュレーションモデルへの入力値の候補を絞り込むことができる。
ステップS511の処理は、例えば、図1に示される定性推論部113等の機能を用いて行うことができる。ステップS512の処理は、例えば、図1のパラメータ推定部115等の機能を用いて行うことができる。
【0108】
図7は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
図7に示す構成で、コンピュータ700は、CPU710と、主記憶装置720と、補助記憶装置730と、インタフェース740とを備える。
推定装置100および推定装置510のうち何れか1つ以上またはその一部が、コンピュータ700に実装されてもよい。その場合、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU710は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域を主記憶装置720に確保する。各装置と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って通信を行うことで実行される。
【0109】
推定装置100がコンピュータ700に実装される場合、定性表現変換部112、定性推論部113、パラメータ推定部115、および、シミュレータ部116の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0110】
また、CPU710は、プログラムに従って、取得データ記憶部121、および、推論知識記憶部123に対応する記憶領域を主記憶装置720に確保する。
データ取得部111によるデータの取得は、例えば、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作して、状態推定対象からデータを受信することで実行される。
【0111】
インタラクション部114による観測値情報の取得は、例えば、インタフェース740がキーボード等の入力デバイスを備え、観測値情報を入力するユーザ操作を受け付けることで行われる。あるいは、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作して、ユーザが端末装置を用いて送信する観測値情報を受信するようにしてもよい。
インタラクション部114による定量的説明の表示は、インタフェース740が表示画面を有し、CPU710の制御に従って定量的説明を表示画面に表示することで実行される。
【0112】
推定装置510がコンピュータ700に実装される場合、定性推論部511、および、定量的状態候補設定部512の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0113】
また、CPU710は、プログラムに従って、推定装置510が行う処理のための記憶領域を主記憶装置720に確保する。
推定装置510と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。
推定装置510とユーザとのインタラクションは、例えば、インタフェース740が表示画面を有してCPU710の制御に従って各種画像を表示し、また、インタフェース740がキーボード等の入力デバイスを有してユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0114】
なお、推定装置100、および、推定装置510が行う処理の全部または一部を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0115】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0116】
10 推定システム
100、510 推定装置
111 データ取得部
112 定性表現変換部
113、511 定性推論部
114 インタラクション部
115 パラメータ推定部
116 シミュレータ部
121 取得データ記憶部
123 推論知識記憶部
512 定量的状態候補設定部
900 対象設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7