(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】加熱用電磁波制御体及び加熱用電磁波制御体付き物品
(51)【国際特許分類】
H05B 6/64 20060101AFI20240618BHJP
F24C 7/02 20060101ALI20240618BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H05B6/64 J
F24C7/02 551E
B65D81/34 W
(21)【出願番号】P 2022569812
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2021042895
(87)【国際公開番号】W WO2022130915
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2020206549
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏充
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌良
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】田村 誠道
(72)【発明者】
【氏名】加藤 数矢
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-185991(JP,A)
【文献】米国特許第05322984(US,A)
【文献】米国特許第05593610(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0043936(US,A1)
【文献】特公平08-025584(JP,B2)
【文献】特表2016-523775(JP,A)
【文献】特許第3049071(JP,B2)
【文献】特公平06-059908(JP,B2)
【文献】米国特許第05278378(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/64 - 6/80
F24C 7/02
A47J 27/00 - 27/64
B65D 81/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波加熱装置で加熱される物品と共に前記電磁波加熱装置の内部に配置されて、前記物品へ照射される電磁波を制御する加熱用電磁波制御体であって、
複数のアンテナを備え、
前記複数のアンテナは、互いに対向し、当該対向の方向での平面視で重なる部分を有し、
前記複数のアンテナのうち、互いに対向する2つのアンテナの間隔は前記電磁波の1波長未満であり、
前記複数のアンテナ同士の間に、他部に比べて加熱されやすい領域又は加熱されにくい領域を有する、
加熱用電磁波制御体。
【請求項2】
前記複数のアンテナはそれぞれ概円状の導体で構成されている、
請求項
1に記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項3】
前記複数のアンテナのうち、互いに対向する少なくとも一方のアンテナは開口部を有する、
請求項
2に記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項4】
前記複数のアンテナのうち、互いに対向する2つのアンテナの間隔は前記電磁波の半波長以下である、
請求項
1から
3のいずれかに記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項5】
前記複数のアンテナのうち、互いに対向する2つのアンテナの間隔は前記電磁波の半波長を超え、1波長未満である、
請求項
1から
3のいずれかに記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項6】
前記アンテナの直径は前記電磁波の1/4波長以上3/4波長以下である、
請求項
4又は
5に記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項7】
前記複数のアンテナは、前記物品の所定箇所を挟む2箇所にそれぞれ配置されている、
請求項
4から
6のいずれかに記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項8】
前記複数のアンテナは、前記物品を包装する包装体に形成されている、
請求項1から
7のいずれかに記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項9】
前記複数のアンテナは、前記物品に貼付される絶縁基材に形成されている、
請求項1から
7のいずれかに記載の加熱用電磁波制御体。
【請求項10】
電磁波加熱装置で加熱される物品と共に前記電磁波加熱装置の内部に配置されて、前記物品へ照射される電磁波を制御する加熱用電磁波制御体であって、
複数のアンテナを備え、
前記複数のアンテナ同士の間に、他部に比べて加熱されやすい領域又は加熱されにくい領域を有し、
前記複数のアンテナはそれぞれ概円状の導体で構成されており、
前記複数のアンテナのうち、互いに対向する少なくとも一方のアンテナは開口部を有する、
加熱用電磁波制御体。
【請求項11】
電磁波加熱装置で加熱される物品と、当該物品と共に前記電磁波加熱装置の内部に配置されて、前記物品へ照射される電磁波を制御する加熱用電磁波制御体と、を有し、
前記加熱用電磁波制御体は、複数のアンテナを備え、
前記複数のアンテナは、互いに対向し、当該対向の方向での平面視で重なる部分を有し、前記複数のアンテナのうち、互いに対向する2つのアンテナの間隔は前記電磁波の1波長未満であり、これら複数のアンテナ同士の間に、他部に比べて加熱されやすい領域又は加熱されにくい領域を有する、
加熱用電磁波制御体付き物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱用電磁波で物品を加熱する装置に用いられる加熱用電磁波制御体及び加熱用電磁波制御体付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジ内で用いられる包装において、マイクロ波を、遮蔽する部分、透過する部分、吸収して発熱する部分、をそれぞれ設けることによって、焦げ目をつけたりバランスよく加熱させたりすることを目的とした用具が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に示されている用具は、加熱対象である餅に被せて用いられる。この用具は、アルミニウム箔による遮蔽体でマイクロ波を遮蔽し、アルミニウム箔の開口をマイクロ波の透過部とし、アルミナとアルミニウムの混合材料やその他の金属類による発熱体を備え、発熱体の渦電流のジュール熱により餅を直接加熱するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の用具では、次のような課題がある。
【0006】
・発熱体の熱が食品に直接伝わるように、発熱体を食品に接触させる必要があり、食品が発熱体側に貼りつきやすい。
【0007】
・用具が食品に直接接するので、衛生面での懸念がある。
【0008】
・加熱を促進する発熱体が高温となるため、電子レンジから取り出す際にやけどなどの危険性が高まる。
【0009】
・加熱を抑制したい部分に対してはマイクロ波が遮蔽されるため、全体として熱効率が低下する。
【0010】
・発熱体や遮蔽体に金属を用いるので、金属が発熱して燃える懸念がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、加熱用電磁波を受けて、加熱対象物品に対し照射される電磁波を制御することで、物品の選択的加熱又は選択的非加熱を可能とした加熱用電磁波制御体及び加熱用電磁波制御体付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の加熱用電磁波制御体は、電磁波加熱装置で加熱される物品と共に前記電磁波加熱装置の内部に配置されて、前記物品へ照射される電磁波を制御する加熱用電磁波制御体であって、複数のアンテナを備え、これら複数のアンテナ同士の間に、他部に比べて加熱されやすい領域又は加熱されにくい領域を有する。
【0013】
本発明の加熱用電磁波制御体付き物品は、電磁波加熱装置で加熱される物品と、当該物品と共に前記電磁波加熱装置の内部に配置されて、前記物品へ照射される電磁波を制御する加熱用電磁波制御体と、を有し、前記加熱用電磁波制御体は、複数のアンテナを備え、これら複数のアンテナ同士の間に、他部に比べて加熱されやすい領域又は加熱されにくい領域を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加熱用電磁波を受けて、加熱対象物品に対し照射される電磁波を制御することで、物品の選択的加熱又は選択的非加熱を行うので、次のような効果を奏する。
【0015】
・加熱用電磁波制御体はアンテナの再放射を利用するため、アンテナを物品に接触させる必要がなく、物品の貼り付き等が回避できる。
【0016】
・加熱用電磁波制御体はアンテナの再放射を利用するため、発熱体のような高温部を発生させることなく、物品の選択的加熱が可能となり、安全性が向上する。
【0017】
・加熱用電磁波制御体が物品に直接接しないので、物品が食品等である場合の衛生面での懸念がない。
【0018】
・加熱を促進する発熱体が無いので、発熱体が高温になることによる問題が生じない。
【0019】
・加熱用電磁波が遮蔽されるわけではないので、全体の熱効率が低下しない。
【0020】
・放射体の放射効率は高いため、放射体の発熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係る加熱用電磁波制御体付き物品201の加熱状態を示す図である。
【
図2】
図2(A)は加熱用電磁波制御体付き物品201の斜視図である。
図2(B)はその縦断面図である。
【
図3】
図3(A)、
図3(B)は、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔の例を示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、選択的加熱部に高効率で加熱すべき食材を配置した例であり、
図4(B)は、選択的非加熱部に非加熱食材を配置した例である。
【
図5】
図5は、電磁波加熱装置300の庫内55内の電磁波と、その電磁波を受けてアンテナから再放射される電磁波との関係を示す図である。
【
図6】
図6は第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dにおける電界の強度を示す図である。
【
図7】
図7は第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dにおける電界の強度を示す図である。
【
図8】
図8は第1アンテナ11及び第2アンテナ12の大きさについての例を示す斜視図である。
【
図9】
図9(A)、
図9(B)、
図9(C)は、それぞれアンテナの支持構造を示す部分断面図である。
【
図10】
図10(A)、
図10(B)は、第2の実施形態に係る加熱用電磁波制御体を構成する2つのアンテナの斜視図である。
【
図11】
図11は第2の実施形態に係る別の加熱用電磁波制御体を構成する2つのアンテナの斜視図である。
【
図12】
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)は、いずれも第3の実施形態に係る加熱用電磁波制御体が備える1つのアンテナの平面図である。
図12(D)は第3の実施形態に係る加熱用電磁波制御体が備える1つのアンテナの斜視図である。
【
図13】
図13は加熱用電磁波制御体付き物品204Aの縦断面図である。
【
図14】
図14は加熱用電磁波制御体付き物品204B,204Cの斜視図である。
【
図15】
図15は第1アンテナ11及び第2アンテナ12による加熱用電磁波制御体の配置の様子を示す斜視図である。
【
図16】
図16は、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dを変化させたときの、空間内の中央のYZ面における温度分布を示す図である。
【
図17】
図17は第1アンテナ11及び第2アンテナ12による加熱用電磁波制御体を配置した様子を示す斜視図である。
【
図18】
図18は、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dを変化させたときの、空間内の中央のYZ面における温度分布を示す図である。
【
図19】
図19は第6の実施形態に係る被測定構造の縦断面図である。
【
図20】
図20(A)は第6の実施形態の被測定構造による測定結果であり、
図20(B)は比較例としての被測定構造による測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0023】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る加熱用電磁波制御体付き物品201の加熱状態を示す図である。加熱用電磁波制御体付き物品201は電磁波加熱装置(電子レンジ)300の庫内55に入れられる。電磁波加熱装置300は、高圧トランス51、マグネトロン52、アンテナ53、導波管54、庫内55、ターンテーブル56等を備える。
【0024】
マグネトロン52は高圧トランス51からの高電圧を電源としてマイクロ波発振する。アンテナ53から放射されるマイクロ波は導波管54を伝搬し、庫内55内に照射される。加熱用電磁波制御体付き物品201はこのマイクロ波を受けて発熱する。なお、マグネトロン52や庫内55などの電磁波加熱装置300の構成要素の配置関係は、
図1に示したものに限定されない。例えば、庫内55に対して、下方もしくは上下両方にマグネトロン52や導波管54があってもよい。
【0025】
図2(A)は加熱用電磁波制御体付き物品201の斜視図である。
図2(B)はその縦断面図である。
【0026】
加熱用電磁波制御体付き物品201は物品100と加熱用電磁波制御体101とを備える。物品100は例えば樹脂容器でパックされた弁当である。
【0027】
加熱用電磁波制御体101は第1アンテナ11及び第2アンテナ12で構成されている。上記樹脂容器はPP(ポリプロピレン)やPS(ポリスチレン)等の樹脂成型体であり、第1アンテナ11及び第2アンテナ12は、例えばアルミニウムの蒸着膜やアルミニウム箔のパターンニングにより形成された導体パターンである。
【0028】
第1アンテナ11及び第2アンテナ12は、
図1に示した電磁波加熱装置300により放射される電磁波を受けて電磁波を再放射する。電磁波加熱装置300の庫内55の電磁波、第1アンテナ11による再放射の電磁波及び第2アンテナ12による再放射の電磁波は干渉する。この干渉によって、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間の領域Z1における電磁波の振幅を、領域ZAにおける電磁波の振幅に比べて強める。つまり、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間の領域Z1は、その他部である領域ZAに比べて加熱されやすくなる。
【0029】
第1アンテナ11及び第2アンテナ12はいずれも円状又は概円状の導体であり、包装体21に設けられている。
【0030】
第1アンテナ11と第2アンテナ12とは、互いに対向し、当該対向の方向での平面視で重なる。
【0031】
図3(A)、
図3(B)は、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔の例を示す斜視図である。
図3(A)に示す例では、互いに対向する第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dは電磁波の半波長(λ/2)を超え、1波長(λ)未満である。また、
図3(B)に示す例では、互いに対向する第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dは電磁波の半波長(λ/2)以下である。
【0032】
なお、電磁波の波長と対比する際の第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dは、この第1アンテナ11と第2アンテナ12との間に存在する部材の誘電性及び透磁性による波長短縮効果のため、実際の物理長と異なる場合がある。
【0033】
後に示すように、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔が
図3(A)に示す関係であれば、この第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれる領域が選択的加熱部である。この選択的加熱部はその他の領域に比べて加熱効率が高い。また、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dが
図3(B)に示す関係であれば、この第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれる領域が選択的非加熱部である。この選択的非加熱部はその他の領域に比べて加熱効率が低い。
【0034】
図4(A)は、選択的加熱部に高効率で加熱すべき食材を配置した例であり、
図4(B)は、選択的非加熱部に非加熱食材を配置した例である。選択的加熱部では食材F1は高効率で加熱され、選択的非加熱部では食材F2は加熱効率が低い。
【0035】
図5は、電磁波加熱装置300の庫内55内の電磁波と、その電磁波を受けてアンテナ(この例では第1アンテナ11)から再放射される電磁波との関係を示す図である。
図5中の太い矢印は庫内55内の電磁波(入射波)の電界方向を示し、細い矢印は第1アンテナ11により再放射された電磁波の電界方向を示す。
【0036】
断面において、第1アンテナ11の近傍領域Z0では、入射波の電界を打ち消す方向に電界が向く電磁波(位相差がほぼ180度の電磁波)が再放射される。このことにより、第1アンテナ11の近傍領域Z0では電界強度は弱められる。
【0037】
一方、第1アンテナ11からλ/2程度離れた領域Z01では、第1アンテナ11からの再放射の電磁波の電界方向は入射波の電界方向と揃い(同相となり)、領域Z01での電界強度は高まる。
【0038】
図6及び
図7は、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dにおける電界の強度を示す図である。
【0039】
図6のように、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dがλ/2を超えλ未満であれば、第1アンテナ11からの再放射の電磁波と入射波の電磁波とが同相又はほぼ同相となる領域Z1が拡がる。
【0040】
一方、
図7のように、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dがλ/2以下であれば、第1アンテナ11からの再放射の電磁波と入射波の電磁波とが逆相又はほぼ逆相となる領域Z2が第1アンテナ11と第2アンテナ12との間に形成される。
【0041】
図8は第1アンテナ11及び第2アンテナ12の大きさについての例を示す斜視図である。この例では、円形の第1アンテナ11及び第2アンテナ12の直径φは電磁波の1/4波長以上3/4波長以下(3λ/4≧φ≧λ/4)である。この大きさであることにより、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の面方向の大きさが電磁波の波長の1/2に近くなり、第1アンテナ11及び第2アンテナ12から高効率で再放射される。
【0042】
図9(A)、
図9(B)、
図9(C)は、それぞれアンテナの支持構造を示す部分断面図である。
図9(A)に示す例では、第1アンテナ11は絶縁基材22に支持されている。例えば、絶縁基材22は電気絶縁体であり、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)等の樹脂フィルムである。第1アンテナ11は例えばアルミニウムの蒸着膜やアルミニウム箔である。
図9(B)に示す例では、第1アンテナ11の片面に粘着剤層24が形成されている。
図9(C)に示す例では、絶縁基材22の第1面に第1アンテナ11が形成されていて、絶縁基材22の第2面に粘着剤層24が形成されている。
【0043】
図9(A)において、絶縁基材22は、例えば、アンテナを、物品を包装する包装体に形成する場合の包装体である。
図9(B)、
図9(C)に示す粘着剤層24付きの第1アンテナ11は、例えば、物品を包装する包装体や容器に貼付される。
【0044】
以上に示した例では第1アンテナ11について示したが、第2アンテナ12等、他の複数のアンテナに関しても同様である。
【0045】
本実施形態によれば、次のような効果を奏する。
【0046】
(a)物品の選択的加熱部を設定できる。また、物品の選択的非加熱部を設定できる。
【0047】
(b)加熱用電磁波制御体を物品に接触させる必要がないので、両者が貼り付くことがない。
【0048】
(c)アンテナの再放射で加熱を促進するため、それ自体が発熱する「発熱体」を近接させることなく、食品の選択的加熱が可能となり、安全性が向上する。
【0049】
(d)入力電磁波を遮断するわけではないので、エネルギー利用効率が高い。
【0050】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、以上に示した加熱用電磁波制御体が備えるアンテナとは形状が異なるアンテナについて例示する。
【0051】
図10(A)、
図10(B)は、第2の実施形態に係る加熱用電磁波制御体を構成する2つのアンテナの斜視図である。
図10(A)に示す加熱用電磁波制御体は第1アンテナ11と第2アンテナ12とで構成されるが、第1アンテナ11は開口部APを有するリング状の導体であり、第2アンテナ12は円状の導体である。
図10(B)に示す加熱用電磁波制御体では、第1アンテナ11と第2アンテナ12のいずれも開口部APを有するリング状の導体である。
【0052】
図11は第2の実施形態に係る別の加熱用電磁波制御体を構成する2つのアンテナの斜視図である。
図11に示す加熱用電磁波制御体は第1アンテナ11と第2アンテナ12とで構成されるが、第1アンテナ11は外形が円状で、複数の開口部APを有する導体であり、第2アンテナ12は円状の導体である。
【0053】
このように、加熱用電磁波制御体を構成する複数のアンテナは、そのいずれか又は全てに開口部を有していてもよい。
図10(A)、
図10(B)、
図11に示した加熱用電磁波制御体を、
図2(A)、
図2(B)に示した加熱用電磁波制御体101に適用すれば、加熱用電磁波制御体付き物品201の樹脂容器内の視認性が阻害されない、という作用効果を奏する。
【0054】
特に、大きな開口部を形成するよりも、
図11に示した例のように、複数の小さな開口部を分散配置すれば、開口部を設けることによる、アンテナとしての動作への影響を小さくできる。
【0055】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、以上に示した加熱用電磁波制御体が備えるアンテナとは形状が異なるアンテナについて例示する。
【0056】
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)は、いずれも第3の実施形態に係る加熱用電磁波制御体が備える1つのアンテナの平面図である。また、
図12(D)は第3の実施形態に係る加熱用電磁波制御体が備える1つのアンテナの斜視図である。
【0057】
アンテナは、
図12(A)に示すように線状や棒状であってもよいし、
図12(B)に示すように長方形状であってもよいし、
図12(C)に示すように楕円状や長円状であってもよい。また、
図12(D)に示すドーム型などの立体であってもよい。
【0058】
本実施形態によれば、いろいろなバリエーションの加熱ムラを実現できる。また、曲面にも容易に貼り付けることができる。
【0059】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、加熱用電磁波制御体付き物品における加熱用電磁波制御体の配置に関して幾つかの例を示す。
【0060】
図13は加熱用電磁波制御体付き物品204Aの縦断面図である。加熱用電磁波制御体付き物品204Aは、第1アンテナ11及び第2アンテナ12による加熱用電磁波制御体104と物品100とを備える。物品100は例えば樹脂容器でパックされた弁当である。第1アンテナ11は樹脂容器のカバーの内面に設けられていて、第2アンテナ12は樹脂容器の本体部の内面に設けられている。このように、加熱用電磁波制御体を構成する複数のアンテナは物品100の内部に配置されていてもよい。なお、
図13に示す例では、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dが、D≦λ/2の関係にあって、この第1アンテナ11と第2アンテナ12との間の領域Z2は他の領域ZAに比べて加熱効率が悪い。つまり、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間の領域Z2は、その他部である領域ZAに比べて加熱されにくくなる。すなわち、加熱用電磁波制御体104は選択的非加熱部に設けられている。
【0061】
図14は加熱用電磁波制御体付き物品204B,204Cの斜視図である。加熱用電磁波制御体付き物品204B,204Cは、いずれも物品100の上下面ではなく物品100の互いに対向する側面に第1アンテナ11及び第2アンテナ12を備える。このように、物品100の側部に配置した複数のアンテナによって加熱用電磁波制御体を構成することもできる。
【0062】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では、加熱用電磁波制御体を構成する第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dの違いによる加熱/非加熱の作用についてのシミュレーション結果を示す。
【0063】
図15は、幅Wx=300mm、奥行=300mm、高さH=400mmの空間の中央に、第1アンテナ11及び第2アンテナ12による加熱用電磁波制御体を配置した様子を示す斜視図である。第1アンテナ11及び第2アンテナ12は直径60mmの円状の導体である。この空間に平面波進行方向が+X方向、偏波方向がY方向の電磁波が入射する条件で、空間内の温度分布をシミュレーションした。
【0064】
図16は、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dを変化させたときの、空間内の中央のYZ面における温度分布を示す図である。ここで、濃度の薄さが温度の高さに対応する。電磁波の周波数は2.45GHzであるので、λ≒120mmである。
【0065】
D=20mm、D=40mm、D=60mmのように、D≦λ/2であるとき、第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域の電界強度は弱い。そのため、この第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域は選択的非加熱領域として作用する。
【0066】
一方、D=80mm、D=100mm、D=120mmのように、λ>D>λ/2であるとき、第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域の電界強度は強い。そのため、この第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域は選択的加熱領域として作用する。
【0067】
図17は、幅Wx=300mm、奥行=300mm、高さH=400mmの空間の中央に、第1アンテナ11及び第2アンテナ12による加熱用電磁波制御体を配置した様子を示す斜視図である。第1アンテナ11は内径40mm、外径60mmのリング状の導体であり、第2アンテナ12は直径60mmの円状の導体である。第1アンテナ11の形状以外は
図15に示した構成と同じである。
【0068】
図18は、
図16に示した例と同様に、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔Dを変化させたときの、空間内の中央のYZ面における温度分布を示す図である。
【0069】
D=20mm、D=40mm、D=60mmのように、D≦λ/2であるとき、第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域の電界強度は弱い。そのため、この第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域は選択的非加熱領域として作用する。
【0070】
一方、D=80mm、D=100mm、D=120mmのように、λ>D>λ/2であるとき、第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域の電界強度は強い。そのため、この第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域は選択的加熱領域として作用する。
【0071】
《第6の実施形態》
第6の実施形態では、加熱用電磁波制御体による加熱抑制効果について例示する。
【0072】
図19は第6の実施形態に係る被測定構造の縦断面図である。
図19において、ダミー食材Fは、四片の板が十字状に組み合わされたFR4による部材である。各片の幅は50mm、高さは40mmである。第1アンテナ11は内径40mm、外径60mmのリング状の導体であり、第2アンテナ12は直径60mmの円状の導体である。第1アンテナ11の上部には物品の上部の外装を模した絶縁体板100U、第2アンテナ12の下部には物品の下部の外装を模した絶縁体板100Bが配置されている。これらの構造体が電子レンジのターンテーブル56に載置されている。このように、第1アンテナ11と第2アンテナ12との間隔D≦λ/2であるので、第1アンテナ11と第2アンテナ12とで挟まれた領域は選択的非加熱領域である。
【0073】
図20(A)は本実施形態の被測定構造によるサーモカメラの測定結果、
図20(B)は比較例としての被測定構造によるサーモカメラの測定結果である。この比較例の被測定構造では第1アンテナ11及び第2アンテナ12を備えていない。この例では、1800Wで15秒加熱したときの温度上昇を測定した。なお、構造が視認しやすいように、加熱後に第1アンテナ11および絶縁体板100Uを取り除いた状態で測定を行った。
【0074】
比較例では、ダミー食材Fの上部の温度上昇は23.9℃、中央部の温度上昇は28.6℃、下部の温度上昇は36.1℃であるのに対し、本実施形態では、ダミー食材Fの上部の温度上昇は22.7℃、中央部の温度上昇は18.7℃、下部の温度上昇は15.9℃である。比較例に対し、本実施形態のダミー食材Fの上部の温度上昇比は22.7/23.9=0.95、中央部の温度上昇比は18.7/28.6=0.65、下部の温度上昇比は15.9/36.1=0.44である。このように、本実施形態によれば、約45%の加熱抑制効果が得られる。
【0075】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【0076】
例えば、以上に示した各実施形態では、第1アンテナ11と第2アンテナ12とが、当該対向方向での平面視で全体が重なる例を示したが、第1アンテナ11及び第2アンテナ12の平面視で、第1アンテナ11と第2アンテナ12とが部分的に重なる構成であってもよい。
【0077】
また、以上に示した各実施形態では、それぞれの外形が同じ第1アンテナ11及び第2アンテナ12を設けた例を示したが、各アンテナの外形は異なっていてもよい。
【0078】
また、
図2に示した例では、物品の容器を覆う包装体に加熱用電磁波制御体101を形成したが、物品の容器に貼り付けるラベルやシールに加熱用電磁波制御体101を形成してもよい。
【0079】
また、加熱用電磁波制御体は、物品を収める容器に設けることに限らず、選択的加熱対象物又は選択的非加熱対象物に直接的に配置してもよい。
【0080】
また、加熱用電磁波制御体は、容器や包装体に設けることに限らず、対象物品に被せるカバー等に設けてもよい。
【0081】
また、例えば、放射体としての導体パターンは金属箔をパターンニングすること以外に導電性ペーストの印刷により形成してもよい。
【符号の説明】
【0082】
AP…開口部
F…ダミー食材
F1,F2…食材
Z0…近傍領域
Z01…領域
Z1,Z2…領域
11…第1アンテナ
12…第2アンテナ
21…包装体
22…絶縁基材
24…粘着剤層
51…高圧トランス
52…マグネトロン
53…アンテナ
54…導波管
55…庫内
56…ターンテーブル
100…物品
100B,100U…絶縁体板
101,104…加熱用電磁波制御体
201,204A,204B,204C…加熱用電磁波制御体付き物品
300…電磁波加熱装置