(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 17/02 20060101AFI20240618BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
F02D17/02 S
F02D41/12
(21)【出願番号】P 2023525272
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021142
(87)【国際公開番号】W WO2022254646
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】大森 将裕
(72)【発明者】
【氏名】平迫 一樹
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-60898(JP,A)
【文献】特開2014-173511(JP,A)
【文献】特開2012-47312(JP,A)
【文献】特開2008-106841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 17/02
F02D 41/12
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転を駆動輪に伝達する経路上に自動変速機及びトルクコンバータが設けられ、アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルオフの状態で上記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチが締結された走行中に所定の条件が成立すると上記内燃機関への燃料供給を停止する燃料カットを実施し、上記燃料カット中に上記ロックアップクラッチが解放されると上記内燃機関への燃料供給を再開する車両の制御方法において
、
上記燃料カットを開始する際に
、所定時間後の車速を予測し、予測した所定時間後の車速が上記ロックアップクラッチを解放するロックアップ解放速度以下の場合には、上記燃料カットを禁止する車両の制御方法。
【請求項2】
上記燃料カットを開始する際に、所定時間経過後に上記ロックアップクラッチの解放が予測される場合は、上記燃料カットを禁止するとともに、所定時間後の車速を予測し、予測した所定時間後の車速が上記ロックアップクラッチを解放するロックアップ解放速度以下の場合には、ギヤ比を設定可能な最ハイと最ローの中間よりもロー側に設定する請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
上記燃料カットを開始する際に、所定時間経過後に上記ロックアップクラッチの解放が予測される場合は、上記燃料カットを禁止するとともに、所定時間後の車速を予測し、予測した所定時間後の車速が上記ロックアップクラッチを解放するロックアップ解放速度以下の場合には、ギヤ比が低くなるほど上記ロックアップ解放速度が高くなるよう設定する請求項1または2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
上記自動変速機は、無段変速機である請求項1~3のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項5】
車両の駆動輪の駆動源となる内燃機関と、
上記内燃機関の回転を上記駆動輪に伝達する経路上に設けられた自動変速機及びトルクコンバータと、
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度検出部と、
上記アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルオフの状態で上記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチが締結されている走行中に所定の条件が成立すると上記内燃機関への燃料供給を停止する燃料カットを実施し、上記燃料カット中に上記ロックアップクラッチが解放されると上記内燃機関への燃料供給を再開する燃料供給制御部と、を有し
、
上記燃料供給制御部は、上記燃料カットを開始する際に
、所定時間後の車速を予測し、予測した所定時間後の車速が上記ロックアップクラッチを解放するロックアップ解放速度以下の場合には、上記燃料カットを禁止する車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御方法及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、アクセルペダルが解放された走行中であって、トルクコンバータのロックアップクラッチが締結された状態のときに、内燃機関の機関回転数が予め設定された所定回転数を上回っていれば内燃機関への燃料供給を停止する燃料カットを実施し、内燃機関の機関回転数が上記所定回転数以下の場合にはエンジンストール等を回避するために燃料カットを禁止する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1においては、例えば燃料カットが開始された直後に車両が急減速した場合についての考慮がなされていない。すなわち、特許文献1においては、燃料カットが開始された直後に内燃機関への燃料供給を再開するような状況が発生すると、燃料噴射の停止により低下中の内燃機関のトルクが一転して上昇に転じるトルク変動が生じ運転性が悪化する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明の車両は、内燃機関への燃料供給をする停止する燃料カット中にトルクコンバータのロックアップクラッチが解放されると上記内燃機関への燃料供給を再開する。そして、本発明の車両は、上記燃料カットを開始する際に所定時間経過後に上記ロックアップクラッチの解放が予測される場合、上記燃料カットを禁止する。
【0006】
本発明の車両は、燃料カットリカバーに起因する内燃機関のトルク変動(駆動力変動)を回避することができ、車両前後方向の加速度変化が抑制されて、運転性の悪化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明が適用された車両のパワートレインの概略構成を模式的に示した説明図。
【
図2】比較例における燃料カットリカバー前後の各種パラメータ変化を示すタイミングチャート。
【
図3】本発明が適用された車両の燃料カットリカバー前後の各種パラメータ変化の一例を示すタイミングチャート。
【
図4】本発明が適用された車両の燃料カットリカバー前後の各種パラメータ変化の一例を示すタイミングチャート。
【
図5】本発明が適用された車両の制御の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明が適用される自動車等の車両のパワートレインの概略構成を模式的に示した説明図である。
【0010】
内燃機関1は、変速ユニット2を介して出力軸3に駆動力(回転トルク)を伝達している。
【0011】
内燃機関1は、例えば多気筒の火花点火式内燃機関であって、各気筒に燃料噴射弁4が設けられている。
【0012】
燃料噴射弁4の燃料噴射制御及び内燃機関1の各種制御は、エンジンコントローラ(ECU)5により実施される。エンジンコントローラ5は、燃料供給制御部に相当する。
【0013】
変速ユニット2は、内燃機関1の図示せぬ回転軸(クランクシャフト)が連結されたトルクコンバータ6と、トルクコンバータ6の出力回転を変速する自動変速機としての無段変速機(CVT)7と、無段変速機7の出力回転を変速する副変速機8と、を有している。変速ユニット2は、無段変速機7に加えて副変速機8を有しているので、トータルのギヤ比を広く設定できる。
【0014】
トルクコンバータ6は、内燃機関1の回転軸に連結されたポンプインペラ(図示せず)と、無段変速機7の入力軸に連結されたタービンランナ(図示せず)と、ポンプインペラとタービンランナを連結可能なロックアップクラッチ9と、有している。
【0015】
トルクコンバータ6は、ポンプインペラとタービンランナとの間に介在する作動油を介してトルクを伝達する。ロックアップクラッチ9は、締結時にポンプインペラとタービンランナを直接的に連結し、解放時にポンプインペラとタービンランナの相対回転を許容する。
【0016】
つまり、内燃機関1の回転を駆動輪に伝達する経路上には、トルクコンバータ6、無段変速機7及び副変速機8が設けられている。内燃機関1は、車両の駆動輪の駆動源である。
【0017】
ロックアップクラッチ9の締結と解放は、変速機コントローラ(TCU)10により実施される。
【0018】
無段変速機7は、例えばベルト式の無段変速機であって、変速機コントローラ10により、主にアクセル開度と車速とに基づいて変速比が連続的に制御される。
【0019】
副変速機8は、例えば前進2段の変速機能を有する遊星歯車式の自動変速機であって、変速機コントローラ10により、主にアクセル開度と車速とに基づいて変速段が制御される。
【0020】
エンジンコントローラ5及び変速機コントローラ10は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。エンジンコントローラ5と変速機コントローラ10とは、情報交換が可能なCAN通信線を介して接続されている。
【0021】
エンジンコントローラ5には、車両の車速を検出する車速センサ11、クランクシャフトのクランク角を検出するクランク角センサ12、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度検出部としてのアクセル開度センサ13、車両の加速度を検出する加速度センサ14等の各種センサ類の検出信号が入力されている。
【0022】
エンジンコントローラ5は、車両の走行中にアクセル開度がゼロ(アクセルオフ)になると所定条件のもとで内燃機関1への燃料供給を停止する燃料カットを実施する。すなわち、内燃機関1は、所定の燃料カット許可条件が成立すると燃料カットが可能となる。燃料カットは、機関回転数が所定のリカバリ回転数以下に低下すると中止される。燃料カットの中止とは、燃料供給が再開(燃料カットリカバー)されることである。
【0023】
リカバリ回転数は、燃料カットと燃料カットリカバーの基準となる内燃機関1の機関回転数である。エンジンコントローラ5は、アクセル開度がゼロで機関回転数がリカバリ回転速度を上回る場合に燃料カットを実行する。また、エンジンコントローラ5は、燃料カット中に機関回転数が所定のリカバリ回転数を下回った場合や燃料カット中にロックアップクラッチ9が解放された場合、燃料カットリカバーを実行する。
【0024】
変速機コントローラ10には、シフトレバーの操作位置を検出するシフトセンサ15等からの検出信号が入力されている。
【0025】
変速機コントローラ10は、ロックアップクラッチ9の締結状態で走行中にアクセルペダルが解放されると、車両の走行速度などの運転条件に応じて、ロックアップクラッチ9の解放を指示する信号を出力する。
【0026】
変速機コントローラ10は、例えば車速が予め設定された所定のロックアップ解放速度に以下になるとロックアップクラッチ9を解放する指令を出力する。ロックアップ解放速度は、ロックアップクラッチ9を解放する車速の閾値である。
【0027】
ここで、燃料カットが実施された直後にロックアップクラッチ9が解放された場合には、
図2に示すように、燃料噴射の停止により低下中の内燃機関1のトルクが一転して上昇に転じるトルク変動が生じ運転性が悪化する虞がある。
図2は、比較例における燃料カットリカバー前後の各種パラメータ変化を示すタイミングチャートである。
【0028】
図2の時刻t1は、アクセルペダルの踏み込み量が「0」となるアクセルオフのタイミングである。
図2の時刻t2は、燃料カットが開始されるタイミングである。
図2の時刻t3は、車速がロックアップ解放速度以下になるタイミングである。
【0029】
ロックアップクラッチ9の締結中に燃料カットを実施する場合には、燃料カットの直後に車速がロックアップ解放速度まで減速すると、ロックアップクラッチ9の解放に伴い燃料カットリカバーすることなる。そのため、車両前後方向の加速度は、燃料カットによる低下中に燃料カットリカバーにより増加に転じることになる。つまり、運転者が感じるトルク変動のショック感は、車両前後方向の加速度が低下中に増加に転じることにより悪化することになる。
【0030】
そこで、エンジンコントローラ5は、燃料カットを開始する際に所定時間経過後にロックアップクラッチ9の解放が予測される場合、燃料カットを禁止する。詳述すると、エンジンコントローラ5は、所定時間後の車速を予測(算出)し、予測(算出)した所定時間後の車速がロックアップ解放速度以下の場合には、燃料カットを禁止する。
【0031】
図3、
図4は、上述した実施例における燃料カットリカバー前後の各種パラメータ変化の一例を示すタイミングチャートである。
図3、
図4中に破線で示す車速は、その時点から所定時間後(例えば1秒後)の車速の予測値である。
図3、
図4の時刻t1は、アクセルペダルの踏み込み量が「0」となるアクセルオフのタイミングである。
図3、
図4の時刻t2は、燃料カット許可条件が成立したタイミングである。また、
図3の時刻t2は、所定時間後の車速の予測値がロックアップ解放速度以下と予測されるタイミングでもある。
図3、
図4の時刻t3は、車速がロックアップ解放速度以下になるタイミングである。
【0032】
図3においては、時刻t2のタイミングで燃料カット許可条件が成立するが、時刻t2のタイミングで所定時間後の車速の予測値がロックアップ解放速度以下と予測されるため、時刻t2において燃料カットが禁止される。
【0033】
図4においては、時刻t2のタイミングで燃料カット許可条件が成立するとともに、所定時間後の車速の予測値がロックアップ解放速度よりも大きい予測されるため、時刻t2のタイミングで燃料カットが許可される。つまり、
図4においては、時刻t2の直後にロックアップクラッチ9が解放されることがないと予測されるため、時刻t2のタイミングで燃料カットが開始される。
【0034】
これによって、内燃機関1は、
図3に示すように、燃料供給を停止(燃料カット)した直後に燃料供給が再開(燃料カットリカバー)されることを回避できる。 そのため、車両は、燃料カットリカバーに起因する内燃機関1のトルク変動(駆動力変動)を回避することができ、車両前後方向の加速度変化が抑制されて、運転性の悪化を回避することができる。
【0035】
また、内燃機関1は、燃料供給を停止(燃料カット)した直後に燃料供給が再開(燃料カットリカバー)されない場合は、
図4に示すように、燃料カットが可能となり、燃費の悪化を抑制することができる。
【0036】
所定時間後の車速は、例えば所定の単位時間における車速の変化量に基づいて予測(算出)可能である。
【0037】
ロックアップクラッチ9の解放は、車速の低下に伴い実施される。そのため、所定の単位時間における車速の減速量(変化量)が大きくなるほど、燃料カット後に短時間でロックアップクラッチ9が解放される現象が起きやすい。
【0038】
そこで、車速の減速量(変化量)から所定時間後の車速を予測(算出)することで、変速機コントローラ10は、ロックアップクラッチ9の解放を精度良く実施できる。所定時間後の車速は、車速の減速量(変化量)に基づいて算出されるため、自動変速機の変速比の影響を受けることなく、予測することが可能となる。
【0039】
上述した実施例においては、自動変速機が無段変速機であり、変速比が変化するタイミングによらず、車速がロックアップ解放速度以下になったタイミングに応じてロックアップクラッチ9を解放できる。
【0040】
自動変速機が有段の自動変速機の場合には、変速比が変化するタイミングでロックアップクラッチ9の解放を実施して、変速ショックにロックアップクラッチ解放に伴うトルク変動を紛れさせるのが一般的である。
【0041】
しかしながら、上述した実施例のロックアップクラッチ9は、自動変速機が無段変速機7であるため、変速比が変化するタイミングによらず、車速がロックアップ解放速度以下になったタイミングでロックアップクラッチ9を解放できる。
【0042】
また、上述した実施例においては、自動変速機が無段変速機7であるため、車速と内燃機関1の機関回転数が比例しない。そのため、車速に応じてロックアップクラッチ9を解放する制御は、無段変速機7を搭載した車両への適用に好適である。
【0043】
また、上述した実施例においては、所定時間経過後にロックアップクラッチ9の解放が予測されて燃料カットが禁止されるシーンで、変速ユニット2のギヤ比が例えば設定可能な最ハイと最ローの中間よりもロー側に設定される。
【0044】
図5は、上述した実施例の車両の制御の流れを示すフローチャートである。ステップS1は、所定時間後の車速の予測値を算出するステップである。ステップS2は、アクセル開度がゼロ(アクセルオフ)であるか否かを判定するステップである。ステップS2でアクセル開度がゼロ(アクセルオフ)ではないと判定された場合は、ステップS3へ進む。ステップS2でアクセル開度がゼロ(アクセルオフ)であると判定された場合は、ステップS4へ進む。ステップS3は、運転状態に応じた通常の燃料噴射を実施する通常燃料制御を実施するステップである。ステップS4は、ロックアップクラッチ9がオフであるか否かを判定するステップである。ステップS4でロックアップクラッチ9がオフであると判定された場合は、ステップS5へ進む。ステップS4でロックアップクラッチ9がオフでないと判定された場合は、ステップS6へ進む。ステップS5は、燃料カットを禁止するステップである。ステップS6は、車速の予測値がロックアップ解放速度以下であるか否かを判定するステップである。ステップS6で車速の予測値がロックアップ解放速度以下と判定された場合は、ステップS5へ進む。ステップS6で車速の予測値がロックアップ解放速度より大きいと判定された場合は、ステップS7へ進む。ステップS7は、燃料カットを実施するステップである。
【0045】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、所定時間後の車速を予測する際に、加速度センサ14の検出値を用いて予測することも可能である。
【0047】
ロックアップ解放速度は、ギヤ比が低くなるほど高くなるよう設定してもよい。
【0048】
本発明は、自動変速機が有段変速機のものに対しても適用可能である。
【0049】
上述した実施例は、車両の制御方法及び車両の制御装置に関するものである。