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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1213 20160101AFI20240618BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240618BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240618BHJP
   C25B 1/042 20210101ALN20240618BHJP
   C25B 9/00 20210101ALN20240618BHJP
   C25B 9/23 20210101ALN20240618BHJP
   C25B 9/63 20210101ALN20240618BHJP
   C25B 11/031 20210101ALN20240618BHJP
   C25B 11/032 20210101ALN20240618BHJP
   C25B 13/07 20210101ALN20240618BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/1226
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/63
C25B11/031
C25B11/032
C25B13/07
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023539661
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2022020861
(87)【国際公開番号】W WO2023013205
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021129204
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 達也
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】酒井 伸吾
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179756(JP,A)
【文献】特開2004-303508(JP,A)
【文献】特開2008-226478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
H01M 8/02
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面と他方面との間を貫通する複数の貫通孔(21)を有する金属支持体(2)と、
上記金属支持体の上記一方面に接合されたセル部(3)と、を有しており、
上記セル部は、
上記金属支持体の上記一方面に形成された第1電極層(31)と、
上記第1電極層上に形成された固体電解質層(30)と、
上記固体電解質層上に形成された第2電極層(32)と、を有しており、
上記第1電極層は、
上記一方面における上記貫通孔の開口(210)がある位置に対応する貫通孔領域(311)と、上記一方面における上記貫通孔の開口(210)がない位置に対応する非貫通孔領域(312)とを有しており、
上記貫通孔領域におけるガス拡散抵抗は、上記非貫通孔領域におけるガス拡散抵抗より大きい、
電気化学セル(1)。
【請求項2】
上記貫通孔領域の密度は、上記非貫通孔領域の密度より大きい、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
上記金属支持体と上記セル部との接合界面より上記固体電解質層側において、上記貫通孔領域の膜厚は、上記非貫通孔領域の膜厚より大きい、
請求項1または請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
上記貫通孔の孔径は、0.01mm以上2mm以下である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
上記第1電極層の平均気孔率は、30%以上60%以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
上記第1電極層の平均膜厚は、30μm以上である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
上記貫通孔領域のガス拡散抵抗は、上記非貫通孔領域のガス拡散抵抗よりも1.2倍以上大きい、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
上記貫通孔領域の密度は、上記非貫通孔領域の密度よりも1.2倍以上大きい、
請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項9】
上記貫通孔領域の膜厚は、上記非貫通孔領域の膜厚よりも1.2倍以上大きい、
請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項10】
固体酸化物形燃料電池セルおよび固体酸化物形電解セルの少なくとも一方として用いられる、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年8月5日に出願された日本出願番号2021-129204号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0003】
従来、金属支持体によってセル部が支持された電気化学セルが知られている。電気化学セルとしては、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層を備える固体酸化物形燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell:以下、SOFCということがある。)や固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrochemical Cell:以下、SOECということがある。)などが挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、複数の貫通孔を有する金属基板と、金属基板の表側の面に設けられた電極層と、電極層の上に設けられた電解質層とを有する固体酸化物形燃料電池セルが開示されている。同文献には、電極層が貫通孔を塞ぐ挿入部を有する構成や、電極層において、金属基板に隣接する下方部位に比べて電解質層に隣接する上方部位の緻密度を高くする構成などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2016/043328号公報
【発明の概要】
【0006】
セル部を支持する金属支持体は、通常、金属支持体を構成する材料自体のガス透過能力が低い。そのため、従来技術に開示されるように、金属支持体に複数の貫通孔を形成し、この貫通孔により金属支持体のガス透過性が担保されることが多い。しかしながら、従来技術を適用した金属支持型の電気化学セルにおいて、金属支持体に接する電極層は、金属支持体の貫通孔がある部分の上方においてガス拡散抵抗が低くなり、金属支持体の貫通孔がない部分の上方においてガス拡散抵抗が高くなる。そのため、従来技術を適用した電気化学セルでは、電極層内部(全体)のガス拡散が不均一になる。電極層内部のガス拡散が不均一になると、電極反応に寄与しないガスが増加し、電極層の反応効率が悪化する。
【0007】
本開示は、複数の貫通孔を有する金属支持体に接する第1電極層におけるガス拡散の均一化を図ることが可能な電気化学セルを提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様は、一方面と他方面との間を貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体と、
上記金属支持体の上記一方面に接合されたセル部と、を有しており、
上記セル部は、
上記金属支持体の上記一方面に形成された第1電極層と、
上記第1電極層上に形成された固体電解質層と、
上記固体電解質層上に形成された第2電極層と、を有しており、
上記第1電極層は、
上記一方面における上記貫通孔の開口がある位置に対応する貫通孔領域と、上記一方面における上記貫通孔の開口がない位置に対応する非貫通孔領域とを有しており、
上記貫通孔領域におけるガス拡散抵抗は、上記非貫通孔領域におけるガス拡散抵抗より大きい、
電気化学セルにある。
【0009】
上記電気化学セルは、上記構成を有している。そのため、上記電気化学セルでは、金属支持体の貫通孔から第1電極層の貫通孔領域内に流入したガスは、貫通孔領域のガス拡散抵抗が大きいため、貫通孔領域の周囲にあるガス拡散抵抗の小さい非貫通領域へ拡散しやすくなる。それ故、上記電気化学セルは、複数の貫通孔を有する金属支持体に第1電極層が接していても、第1電極層全体におけるガス拡散の均一化を図ることが可能になる。
【0010】
なお、請求の範囲に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。その図面は、
図1図1は、実施形態1の電気化学セルの模式的な断面を示した図であり、
図2図2は、図1に示した金属支持体および第1電極層の一部を拡大して模式的に示した図であり、
図3図3は、図2に対応させて、第1電極層の変形例を示した図であり、
図4図4(a)は、実施形態1の電気化学セルにおける第1電極層へガスを供給した場合におけるガスの拡散を模式的に示した説明図であり、図4(b)は、比較形態1の電気化学セルにおける電極層へガスを供給した場合におけるガスの拡散を模式的に示した説明図であり、
図5図5は、第1電極層における貫通孔領域および非貫通孔領域のガス拡散抵抗の測定方法を説明するための図であり、
図6図6は、実施形態2の電気化学セルにおける金属支持体および第1電極層の一部を拡大して模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
実施形態1の電気化学セルについて、図1図5を用いて説明する。図1図2に例示されるように、本実施形態の電気化学セル1は、金属支持体2によりセル部3が支持された金属支持型の電気化学セルである。電気化学セル1は、金属支持体2と、セル部3と、を有している。なお、電気化学セル1は、平板形であってもよいし、円筒形であってもよい。図1では、板状の金属支持体2により平板形のセル部3が支持された電気化学セル1が例示されている。
【0013】
金属支持体2は、金属支持体2の一方面と他方面との間を貫通する複数の貫通孔21を有している。金属支持体2は、具体的には、一方板面と他方板面との間を貫通する複数の貫通孔21を備える板状のセル支持部20を有する構成とすることができる。貫通孔21は、セル部3の第1電極層31へ供給されるガス(後述する)の流路とされる。図1等では、金属支持体2の厚み方向に沿って貫通孔21が形成されている例が示されている。
【0014】
貫通孔21の孔径は、具体的には、0.01mm以上2mm以下とすることができる。貫通孔21の孔径が0.01mm以上である場合には、ガス拡散性の確保を図りやすくなる。そのため、この場合には、ガス供給が滞ることによる過電圧の発生を抑制しやすくなる。また、貫通孔21の孔径が2mm以下である場合には、金属支持体2の表面にセル部3を形成する際の焼成時などにおいて、焼結体であるセル部3にかかる応力による割れを抑制しやすくなる。そのため、上記構成によれば、ガス拡散の均一化と機械的強度との両立を図りやすい電気化学セル1が得られる。貫通孔21の孔径は、ガス拡散性などの観点から、好ましくは、0.05mm以上、より好ましくは、0.1mm以上、さらに好ましくは、0.5mm以上とすることができる。貫通孔21の孔径は、電気化学セル1の機械的強度などの観点から、好ましくは、1.8mm以下、より好ましくは、1.5mm以下、さらに好ましくは、1mm以下とすることができる。なお、貫通孔21の開口径は、貫通孔21の孔径と同じとすることができる。
【0015】
金属支持体2の材料としては、例えば、FeおよびCrを含むFe-Cr系合金、Fe、CrおよびAlを含むFe-Cr-Al系合金、フェライト系ステンレス鋼(SUS430等)、オーステナイト系ステンレス鋼(SU304等)、Ni系合金、NiおよびCrを含むNi-Cr系合金、Ni、CrおよびAlを含むNi-Cr-Al系合金、Ni、CrおよびFeを含むNi-Cr-Fe系合金、Ni、CrおよびSiを含むNi-Cr-Si系合金、NiおよびFeを含むNi-Fe系合金などを例示することができる。この種の材料によれば、電子伝導性、耐腐食性、構造強度、コスト等のバランスを図りやすい。
【0016】
セル部3は、金属支持体2の一方面に形成された第1電極層31と、第1電極層31上に形成された固体電解質層30と、固体電解質層30上に形成された第2電極層32と、を有している。図1では、具体的には、金属支持体2の一方面に、第1電極層31、固体電解質層30、および、第2電極層32がこの順に積層され、互いに接合されている例が示されている。また、図1では、具体的には、金属支持体2における板状のセル支持部20の一方面にセル部3が形成されている例が示されている。
【0017】
セル部3は、固体電解質層30と第2電極層32との間に中間層(不図示)をさらに備えることができる。中間層は、主に、固体電解質層30の材料と第2電極層32の材料との反応を抑制するための層である。この場合、固体電解質層30上に中間層が形成され、中間層上に第2電極層32が形成される。中間層は、固体電解質層30および第2電極層32に接合される。また、第1電極層31および第2電極層32は、互いに対となる電極である。第1電極層31および第2電極層32は、いずれもガス拡散可能となるように多孔質に形成される(気孔を含む)ことができる。第1電極層31および第2電極層32に供給されるガスの詳細については、後述する。また、電気化学セル1は、金属支持体2と第1電極層31との間に、金属支持体2と第1電極層31とを接合する接合層を有していてもよい。
【0018】
図2に示されるように、第1電極層31は、貫通孔領域311と、非貫通孔領域312とを有している。貫通孔領域311は、第1電極層31のうち、金属支持体2の一方面における貫通孔21の開口210がある位置に対応する領域である。非貫通孔領域312は、第1電極層31のうち、金属支持体2の一方面における貫通孔21の開口210がない位置に対応する領域である。つまり、金属支持体2を基準としてセル部3側を上方とした場合、貫通孔領域311は、金属支持体2の一方面における貫通孔21の開口210の上方(直上)の領域ということができる。また、非貫通孔領域312は、金属支持体2の一方面における貫通孔21の開口210がない部分の上方(直上)の領域ということができる。
【0019】
なお、図2では、貫通孔21内に第1電極層31の一部が入り込んでいない例が示されているが、図3に例示されるように、貫通孔21内に第1電極層31の一部が入り込んでいてもよい。
【0020】
電気化学セル1は、貫通孔領域311におけるガス拡散抵抗が、非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗より大きい。
【0021】
この構成によれば、図4(a)に例示されるように、金属支持体2の貫通孔21から第1電極層31の貫通孔領域311内に流入したガスGは、貫通孔領域311におけるガス拡散抵抗が大きいため、貫通孔領域311の周囲にあるガス拡散抵抗の小さい非貫通孔領域312にも拡散しやすい。それ故、本実施形態の電気化学セル1は、複数の貫通孔21を有する金属支持体2に第1電極層31が接していても、第1電極層31全体におけるガス拡散の均一化を図ることが可能になる。なお、図3に示されるように、貫通孔21内に存在する第1電極層31の部分は、金属支持体2とセル部3との接合界面より固体電解質層側(上側)における第1電極層31の面内方向のガス拡散性に影響を及ぼさない。なぜなら、貫通孔21内に存在する第1電極層31の部分は、貫通孔領域311および非貫通孔領域312に拡散するいずれのガスも通る部分に該当するからである。
【0022】
本実施形態の電気化学セル1に対し、図4(b)に示されるように、比較形態1の電気化学セル9は、貫通孔領域311’および非貫通孔領域312’におけるガス拡散抵抗が制御されていない。なお、比較形態1の電気化学セル9は、金属支持体2の一方面に形成された電極層91全体が、一定の密度で形成されているものとする。そのため、比較形態1の電気化学セル9では、貫通孔領域311’においてガスが最も拡散しやすく、非貫通孔領域312’にはガスが拡散し難い。それ故、比較形態1の電気化学セル9は、電極層91全体におけるガス拡散の均一化を図ることができない。
【0023】
電気化学セル1において、貫通孔領域311および非貫通孔領域312のガス拡散抵抗の測定は、以下のように行うことができる。
【0024】
先ず、電気化学セル1全体のガス拡散抵抗を測定する。具体的には、電気化学セル1の第1電極層31と第2電極層32との間を電気化学用インピーダンスアナライザーにて接続する。次いで、第1電極層31および第2電極層32のうち、燃料極として使用する方の電極層(例えば、第1電極層31)に還元性ガスとして水素を流し、他方の電極層(例えば、第2電極層32)に空気を流す。なお、電極面積は1cmとし、還元性ガスの流量は0.03NL/min以上とする。次いで、セル温度を700℃に上げ、電流密度を0.2A/cmと一定にして周波数を掃引した際の複素インピーダンスを測定する。ガス拡散抵抗は、図5(a)に模式的に示した複素インピーダンスの右側円弧の終点と開始点間の実部の値である。
【0025】
次に、図5(b)に模式的に示すように、第2電極層32側に、金属支持体2の貫通孔21と同じ位置に貫通孔21の開口210と同じ径の開口部M1を有するマスクMを設置し、ショットブラストによりマスクMの開口部M1に見えている第2電極層32を削る。次いで、上記と同様にして、複素インピーダンスを測定し、非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗を取得する。上記のようにして測定した電気化学セル1全体のガス拡散抵抗と非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗との差分が、貫通孔領域311におけるガス拡散抵抗となる。
【0026】
貫通孔領域311のガス拡散抵抗は、非貫通孔領域312のガス拡散抵抗よりも1.2倍以上大きい構成とすることができる。この構成によれば、ガス拡散の均一化と電気化学セル1の機械的強度との両立を図りやすい電気化学セル1が得られる。貫通孔領域311のガス拡散抵抗は、ガス拡散の均一化を確実なものとするなどの観点から、非貫通孔領域312のガス拡散抵抗の、好ましくは、1.4倍以上、より好ましくは、1.7倍以上、さらに好ましくは、2倍以上とすることができる。なお、ガス拡散性の均一性などの観点から、貫通孔領域311のガス拡散抵抗は、非貫通孔領域312のガス拡散抵抗の2.5倍以下とすることができる。
【0027】
本実施形態において、電気化学セル1は、貫通孔領域311および非貫通孔領域312の密度が調整されることにより、貫通孔領域311および非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗が調整されている。具体的には、貫通孔領域311の密度は、非貫通孔領域312の密度より大きい構成とすることができる。この構成によれば、貫通孔領域311および非貫通孔領域312の密度を調整することにより、非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗<貫通孔領域311におけるガス拡散抵抗の関係を実現することができる。
【0028】
電気化学セル1において、貫通孔領域311の密度は、非貫通孔領域312の密度よりも1.2倍以上大きい構成とすることができる。この構成によれば、ガス拡散の均一化と機械的強度との両立を図りやすい電気化学セル1が得られる。貫通孔領域311の密度は、ガス拡散の均一化を確実なものとするなどの観点から、非貫通孔領域312の密度の、好ましくは、1.2倍以上、より好ましくは、1.3倍以上、さらに好ましくは、1.4倍以上とすることができる。なお、ガス拡散性の均一性などの観点から、貫通孔領域311の密度は、非貫通孔領域312の密度の2倍以下とすることができる。
【0029】
電気化学セル1において、第1電極層31の平均気孔率は、30%以上60%以下とすることができる。第1電極層31の平均気孔率が30%以上である場合には、ガス拡散性の確保を図りやすくなる。そのため、この場合には、ガス供給が滞ることによる過電圧の発生を抑制しやすくなる。また、第1電極層31の平均気孔率が60%以下である場合には、気孔増加に伴う電子伝導パス、イオン伝導パスの減少を抑制しやすくなる。また、電気化学セル1の機械的強度も確保しやすい。第1電極層31の平均気孔率は、ガス拡散性などの観点から、好ましくは、32%以上、より好ましくは、35%以上、さらに好ましくは、40%以上とすることができる。第1電極層31の平均気孔率は、第1電極層31電子伝導性、イオン伝導性、電気化学セル1の機械的強度などの観点から、好ましくは、58%以下、より好ましくは、55%以下、さらに好ましくは、50%以下とすることができる。
【0030】
電気化学セル1において、第1電極層31の平均膜厚は、30μm以上とすることができる。第1電極層31の平均膜厚が30μm以上である場合には、金属支持体2の表面にセル部3を形成する際の焼成時などにおいて、焼結体であるセル部3にかかる応力による割れを抑制しやすくなる。第1電極層31の平均膜厚は、上記割れ抑制などの観点から、好ましくは、40μm以上、より好ましくは、45μm以上、さらに好ましくは、50μm以上とすることができる。一方、上記割れ抑制の観点からは、第1電極層31の膜厚が大きいほどよいため、第1電極層31の平均膜厚の上限は、特に限定されない。もっとも、第1電極層31の膜厚が大きくなるほど第1電極層31のオーミック抵抗が大きくなり、セル部3を構成する層を薄くして、抵抗を低減できるという金属支持型の電気化学セル1の利点が少なくなる。かかる観点から、第1電極層31の平均膜厚は、例えば、100μm以下とすることができる。
【0031】
電気化学セル1において、貫通孔領域311および非貫通孔領域312の膜厚、第1電極層31の平均膜厚は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができる。具体的には、セル部3の厚み方向に沿う断面が形成されるようにセル部3をカットし、研磨およびイオンミリングをかけたサンプルについて、第1電極層31のSEM像を取得する。この際、SEM像の倍率は500倍とすることができる。貫通孔領域311の膜厚は、SEM像を横方向(セル面内方向)に10等分し、10等分された各区間内からそれぞれ1つずつ選択した貫通孔領域311の横方向の中心において測定した貫通孔領域311の各厚み測定値の算術平均値である。また、非貫通孔領域312の膜厚は、SEM像を横方向(セル面内方向)に10等分し、10等分された各区間内からそれぞれ1つずつ選択した非貫通孔領域312の横方向の中心において測定した非貫通孔領域312の各厚み測定値の算術平均値である。また、第1電極層31の平均膜厚は、SEM像を横方向(セル面内方向)に10等分し、10等分された各区間内の横方向の中心において測定した第1電極層31の各厚み測定値の算術平均値である。
【0032】
電気化学セル1において、第1電極層31の平均気孔率は、SEM観察および画像解析により測定することができる。上記と同様にして第1電極層31のSEM像を取得する。この際、SEM像の倍率は500倍とすることができる。次いで、画像解析ソフト(Media Cybernetics製、「Image-Pro」)を用い、撮影画像について二値化処理または三値化処理による画像処理を行う。二値化処理は、第1電極層31の多孔構造を構成する骨格部が電子伝導体より構成される場合に、電子伝導体と多孔構造を構成する気孔とを区別することを目的とする。三値化処理は、第1電極層31の多孔構造を構成する骨格部が電子伝導体および酸素イオン伝導体より構成される場合に、これらと多孔構造を構成する気孔とを区別することを目的とする。第1電極層31の骨格部と気孔とは、相互に輝度が異なるため、上記画像処理では、撮影画像に残るノイズの除去を施し、任意の閾値を設定した後に二値化処理または三値化処理を行う。撮影画像によって閾値は異なるため、撮影画像を目視にて確認しながら、第1電極層31の骨格部と気孔とを分離できる閾値を撮影画像ごとに設定する。得られた処理画像における各気孔について気孔の面積をそれぞれの気孔毎に算出する。そして、100×(処理画像における第1電極層31内に含まれる気孔面積の合計値)/(処理画像における第1電極層31の全体面積)の式より気孔率測定値を求める。上記のようにして異なる任意の5か所のSEM断面像について求めた各気孔率測定値の算術平均値を、第1電極層31の平均気孔率とする。
【0033】
電気化学セル1において、貫通孔領域311および非貫通孔領域312の密度は、次のようにして測定することができる。具体的には、上述の要領にて、貫通孔領域311および非貫通孔領域312について二値化処理または三値化処理による画像処理を行い、各領域について骨格部と気孔とを分離し、各領域の骨格部に含まれる電子伝導体、酸素イオン伝導体の体積比率を算出する。そして、各体積比率を足し合わせ、各領域の相対密度として算出する。
【0034】
電気化学セル1において、第1電極層31の材料としては、例えば、Ni、Ni合金、Cu、Cu合金、Co、Co合金などの電子伝導体(金属や合金、以下省略)、Ni酸化物(NiO等)、Cu酸化物、Co酸化物などの還元により電子伝導体になる電子伝導体の酸化物(金属や合金の酸化物、以下省略)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、好ましくは、Ni、Ni合金、Ni酸化物(NiO等)などであり、より好ましくは、Niである。第1電極層31は、他にも、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などの酸素イオン伝導体を1種または2種以上含むことができる。これらのうち、好ましくは、イットリア安定化ジルコニアである。第1電極層31は、他にも、例えば、Ce、Al、La、Pr、Nd、Y、および、Scからなる群より選択される少なくとも1種の元素とZrとを含む酸化物、好ましくは、Al、La、Pr、Nd、Y、および、Scからなる群より選択される少なくとも1種の元素とCeおよびZrとを含む酸化物などの酸化物系添加材を1種または2種以上含むことができる。これらのうち、好ましくは、CeおよびZrを含む酸化物である。CeおよびZrを含む酸化物としては、例えば、Ce-Zr-O系酸化物、Ce-Zr-La-O系酸化物、Ce-Zr-Sc-O系酸化物、Ce-Zr-Y-O系酸化物、Ce-Zr-Al-O系酸化物などが挙げられる。上述した金属、合金、酸化物は、任意に組み合わせることができる。第1電極層31は、より具体的には、例えば、Niとイットリア安定化ジルコニアとを含む構成、あるいは、Niとイットリア安定化ジルコニアとCeおよびZrを含む酸化物とを含む構成とすることができる。なお、第1電極層31中において、上述した金属、合金、酸化物は、粒子として存在することができる。
【0035】
電気化学セル1において、固体電解質層30は、固体酸化物より構成することができ、酸素イオン伝導性を有している。固体電解質層30は、ガス密性を確保するため、通常、緻密質に形成される。固体電解質層30を構成する固体電解質としては、例えば、強度、熱的安定性に優れるなどの観点から、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニアなどの酸化ジルコニウム系酸化物を好適に用いることができる。固体電解質層30を構成する固体電解質としては、酸素イオン伝導性、機械的安定性、他の材料との両立、酸化雰囲気から還元雰囲気まで化学的に安定であるなどの観点から、イットリア安定化ジルコニアなどが好適である。
【0036】
電気化学セル1において、第2電極層32の材料としては、例えば、ランタン-ストロンチウム-コバルト系酸化物、ランタン-ストロンチウム-コバルト-鉄系酸化物、ランタン-ストロンチウム-マンガン-鉄系酸化物等の遷移金属ペロブスカイト型酸化物、あるいは、上記遷移金属ペロブスカイト型酸化物と、セリア(CeO)やセリアにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたセリア系固溶体とを含む混合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。上述した遷移金属ペロブスカイト型酸化物、セリア、セリア系固溶体は、任意に組み合わせることができる。なお、第2電極層32中において、上述した遷移金属ペロブスカイト型酸化物、セリア、セリア系固溶体は、粒子として存在することができる。
【0037】
電気化学セル1において、セル部3が中間層を有する場合、中間層は、具体的には、酸素イオン伝導性を有する固体電解質より層状に構成されることができる。中間層に用いられる固体電解質としては、例えば、セリア(CeO)、セリアにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたセリア系固溶体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。中間層に用いられる固体電解質としては、Gdがドープされたセリアが好適である。
【0038】
セル部3の厚みは、好ましくは、400μm以下、より好ましくは、300μm以下、さらに好ましくは、150μm以下とすることができる。セル部3の厚みの厚みは、強度の担保、起動性向上などの観点から、好ましくは、20μm以上、より好ましくは、50μm以上、さらに好ましくは、100μm以上とすることができる。
【0039】
固体電解質層30の厚みは、オーミック抵抗の低減、ガス透過抑制、電子リークによる起電力低下の防止などの観点から、好ましくは、3~20μm、より好ましくは、3.5~15μm、さらに好ましくは、4~10μmとすることができる。第2電極層32の厚みは、オーミック抵抗の低減、ガス拡散抵抗の低減、電気化学反応点の確保などの観点から、好ましくは、5~100μm、より好ましくは、20~80μm、さらに好ましくは、30~50μmとすることができる。中間層の厚みは、オーミック抵抗の低減、第2電極層32からの元素拡散の抑制、ガス透過抑制などの観点から、好ましくは、1~20μm、より好ましくは、2~10μmとすることができる。なお、上述したセル部3、固体電解質層30、第2電極層32、中間層の厚みは、上述した第1電極層31の平均膜厚の測定方法を準用して測定することができる。
【0040】
電気化学セル1は、固体酸化物形燃料電池セル(SOFC)および固体酸化物形電解セル(SOEC)の少なくとも一方として用いられることができる。つまり、電気化学セル1は、SOFCとして動作させてもよいし、また、SOECとして動作させてもよいし、さらには、SOFCとして動作させるSOFCモードとSOECとして動作させるSOECモードとに切り替え可能に構成し、SOFCおよびSOECとして動作させてもよい。
【0041】
電気化学セル1は、上述したように第1電極層31全体におけるガス拡散の均一化を図ることができるので、電極反応に寄与しないガスが低減され、第1電極層31の反応効率を向上させることが可能になる。したがって、電気化学セル1をSOFCとして用いた場合には、発電分布の均一化に有利なSOFCが得られる。また、電気化学セル1をSOECとして用いた場合には、水電解分布の均一化に有利なSOECが得られる。
【0042】
本実施形態において、第1電極層31は、燃料ガスが供給される電極とすることができる。具体的には、電気化学セル1をSOFCとして動作させる場合、第1電極層31は、燃料極として用いることができる。第1電極層31には、燃料ガスとして水素ガスなどの水素含有ガスを供給することができる。この場合、第2電極層32は、空気極(酸化剤極)として用いることができる。第2電極層32には、酸化剤ガスとして、空気、酸素ガスなどの酸素含有ガスを供給することができる。一方、電気化学セル1をSOECとして動作させる場合、第1電極層31は、水素極として用いることができる。第1電極層31には、燃料ガスとして水蒸気ガスなどの水(HO)含有ガスを供給することができる。この場合、第2電極層32は、酸素極として用いることができる。第2電極層32には、空気などのガスが供給されてもよいし、ガスが供給されなくてもよい。なお、上述した水素含有ガスは、加湿等のため、水蒸気を含むことができ、水含有ガスは、水素ガスなどの還元性ガスを含むことができる。
【0043】
なお、本実施形態では、第1電極層31に燃料ガスが供給される場合について主に説明したが、電気化学セル1は、第2電極層32に上述した燃料ガスが供給されるように構成されてもよい。この場合、第1電極層31の材料としては、上述した第2電極層32の材料を用いることができ、第2電極層32の材料としては、上述した第1電極層31の材料を用いることができる。また、この場合、第1電極層31には、上述した酸化剤ガスを供給することができる。また、この場合、中間層は、第1電極層31と固体電解質層30との間に形成されることができる。
【0044】
また、図1図2などに例示されるように、貫通孔領域311の固体電解質層30側の端部は、固体電解質層30に達して(接して)いてもよいし、達して(接して)いなくてもよい。また、第1電極層31は、単層から構成されていてもよいし、二層構造等、複数層から構成されていてもよい。第1電極層31が複数層から構成されている場合、複数層のうち金属支持体2と接する最下層を、貫通孔領域311および非貫通孔領域312を有する層とすることができる。最下層と固体電解質層30との間にある上層は、例えば、第1電極層31の面内方向で密度が一様(一定)である構成とすることができる。
【0045】
(実施形態2)
実施形態2の電気化学セルについて、図6を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0046】
本実施形態の電気化学セル1は、金属支持体2とセル部3との接合界面より固体電解質層30側における貫通孔領域311および非貫通孔領域312の膜厚が調整されることにより、貫通孔領域311および非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗が調整されている。具体的には、図6に例示されるように、金属支持体2とセル部3との接合界面より固体電解質層30側において、貫通孔領域311の膜厚は、非貫通孔領域312の膜厚より大きい構成とすることができる。この構成によれば、金属支持体2とセル部3との接合界面より固体電解質層30側における貫通孔領域311および非貫通孔領域312の膜厚を調整することにより、非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗<貫通孔領域311におけるガス拡散抵抗の関係を実現することができる。また、この構成によれば、第1電極層31と固体電解質層30との接合性を向上させることができる。
【0047】
電気化学セル1において、貫通孔領域311の膜厚は、非貫通孔領域312の膜厚よりも1.2倍以上大きい構成とすることができる。この構成によれば、ガス拡散の均一化と機械的強度との両立を図りやすい電気化学セル1が得られる。貫通孔領域311の膜厚は、ガス拡散の均一化を確実なものとする、ガス拡散均一性などの観点から、非貫通孔領域312の密度の、好ましくは、1.3倍以上、より好ましくは、1.35倍以上、さらに好ましくは、1.4倍以上とすることができる。なお、ガス拡散均一性などの観点から、貫通孔領域311の膜厚は、非貫通孔領域312の膜厚の2倍以下とすることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、実施形態1にて上述したように、貫通孔領域311の密度が、非貫通孔領域312の密度より大きい構成とされていてもよいし、上記構成とされていなくてもよい。好ましくは、前者であるとよい。前者の場合には、非貫通孔領域312におけるガス拡散抵抗<貫通孔領域311におけるガス拡散抵抗の関係をより確実なものとすることができる。その他の構成および作用効果は、実施形態1と同様である。
【0049】
(実験例)
<電気化学セルの作製>
Fe-Cr合金より構成される平板状の金属支持体(板厚1mm)を準備した。なお、金属支持体は、表面状態を安定化させるため、800℃にて焼き鈍しを行った。また、金属支持体におけるセルを接合する部分には、レーザー加工により、一方板面と他方板面との間を厚み方向に貫通する複数の貫通孔を形成した。貫通孔の孔径は、0.05mm、貫通孔のピッチは、0.2mmとした。
【0050】
NiO粉末(平均粒子径:0.5μm)と、8mol%のYを含むイットリア安定化ジルコニア(以下、8YSZ)粉末(平均粒子径:0.3μm)と、カーボン(造孔剤、平均粒子径:3.0μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、2-ブタノールおよびエタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。NiO粉末と8YSZ粉末との質量比は、60:40とした。上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、樹脂シート上に層状に塗工し、乾燥させた後、樹脂シートを剥離することにより、第1電極層形成用シートを準備した。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である(以下、同様)。
【0051】
YSZ粉末(平均粒子径:0.2μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、1-ブタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。以降は、第1電極層形成用シートの作製と同様にして、固体電解質層形成用シートを準備した。
【0052】
GdがドープされたCeO(以下、GDC)粉末(平均粒子径:0.3μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、1-ブタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。なお、本実験例では、GDCとして、10mol%のGdがドープされたCeOを用いた。以降は、第1電極層形成用シートの作製と同様にして、中間層形成用シートを準備した。
【0053】
LSC(La0.6Sr0.4CoO)粉末(平均粒子径:2.0μm)と、エチルセルロースと、テルピネオールとを3本ロールにて混練することにより、第2電極層形成用ペーストを準備した。
【0054】
Ni粉末(平均粒子径:0.4μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、1-ブタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、樹脂シート上に層状に塗工し、乾燥させた後、樹脂シートを剥離することにより、四角形状の接合層形成用シート(厚み1μm)を準備した。なお、準備した接合層形成用シートは、60℃にて30分アニールし、乾燥による形状変化の抑制処理を施した後、レーザー加工により厚み方向に貫通する貫通孔を複数形成した。これにより、後に位置を合わせて積層する金属支持体の貫通孔との位置がずれることなく、積層しやすくなる。
【0055】
所定の厚みとなるように複数枚の第1電極層形成用シートを積層した後、さらに、固体電解質層形成用シート、中間層形成用シートを順に積層し、静水圧プレス(WIP)成形法を用いて圧着することにより、圧着体を得た。圧着体は、圧着後に脱脂した。なお、WIP成形条件は、温度80℃、加圧力50MPa、加圧時間10分という条件とした。
【0056】
次いで、得られた圧着体を、大気雰囲気中、1400℃で2時間焼成した。これにより、外形が四角形状の焼結体を得た。
【0057】
次いで、得られた焼結体における中間層の表面に、第2電極層形成用ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、大気雰囲気中にて、950℃で2時間焼成(焼付け)することにより、第2電極層を形成した。なお、第2電極層の外形は、第1電極層の外形よりも小さく形成した。
【0058】
次いで、板状の金属支持体の一方板面上に、接合層形成用シート、焼結体をこの順に積層した。この際、接合層形成用シートと金属支持体とは互いの貫通孔の位置を合わせて積層した。また、焼結体は、第1電極層側を板状の金属支持体側にして積層した。その後、焼結体に10g/cmの荷重を負荷し、当該荷重をかけた状態のまま、大気雰囲気中850℃で3時間保持するという条件にて焼成した。この焼成後、荷重は除荷した。
【0059】
次いで、金属支持体に空いた貫通孔から、第1電極層の貫通孔領域に、第1電極層形成用シートの作製で使用したスラリーを注入した。次いで、これを、大気雰囲気中850℃で3時間保持するという条件にて焼成した。
【0060】
次いで、形成されたセル部を適宜ガラスによりシールしてガスシール構造を形成した。その後、このセル部の第1電極層を、水素雰囲気中、800℃にて3時間還元処理した。以上により、第1電極層厚み40μm/固体電解質層(厚み5μm)/中間層(厚み5μm)/第2電極層(厚み40μm)が順に積層されたセル部(厚み90μm)における第1電極層が、金属支持体の一方表面上に接合層(厚み1μm)を介して接合された試料1の電気化学セルを得た。なお、本実験例では、金属支持体の貫通孔内に第1電極層の一部が入り込んでいない電気化学セルが得られた。
【0061】
得られた試料1の電気化学セルについて、上述の測定方法により、各種測定を行った。その結果、貫通孔領域におけるガス拡散抵抗は、非貫通孔領域におけるガス拡散抵抗より大きかった。具体的には、貫通孔領域のガス拡散抵抗は、非貫通孔領域のガス拡散抵抗よりも1.2倍以上大きかった。金属支持体とセル部との接合界面より固体電解質層側において、貫通孔領域の密度は、非貫通孔領域の密度より大きかった。具体的には、貫通孔領域の密度は、非貫通孔領域の密度よりも1.2倍以上大きかった。第1電極層の平均気孔率は、45%であった。第1電極層の平均膜厚は、45μmであった。
【0062】
試料1の電気化学セルは、貫通孔領域におけるガス拡散抵抗が、非貫通孔領域におけるガス拡散抵抗より大きい。そのため、試料1の電気化学セルでは、金属支持体の貫通孔から第1電極層の貫通孔領域内に流入したガスは、貫通孔領域のガス拡散抵抗が大きいため、貫通孔領域の周囲にあるガス拡散抵抗の小さい非貫通領域へ拡散しやすくなる。それ故、試料1の電気化学セルは、複数の貫通孔を有する金属支持板に第1電極層が接していても、第1電極層全体におけるガス拡散の均一化を図ることが可能になるといえる。
【0063】
なお、金属支持体とセル部との接合界面より固体電解質層側において、貫通孔領域の膜厚が、非貫通孔領域の膜厚より大きい構成は、例えば、以下のようにして形成することができる。上述した試料1の電気化学セルの作製において、所定の厚みとなるように複数枚の第1電極層形成用シートを積層した後、固体電解質層形成用シートを積層する前に、第1電極層形成用シートの固体電解質層形成用シート側の表面における金属支持体の貫通孔位置に対応する位置に、第1電極層形成用ペーストを印刷する。その後、固体電解質層形成用シート、中間層形成用シートを順に積層し、圧着する。以降は、試料1の電気化学セルの作製と同様である。また、貫通孔内に第1電極層の一部が入り込んだ構成は、例えば、以下のようにして形成することができる。上述した試料1の電気化学セルの作製において、圧着体を形成した後、圧着体を焼成する前に、圧着された第1電極層形成用シートの金属支持体側の表面における金属支持体の貫通孔位置に対応する位置に、第1電極層形成用ペーストを印刷する。以降は、試料1の電気化学セルの作製と同様である。
【0064】
本開示は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例、以下の参考形態に示される各構成および各効果は、それぞれ任意に組み合わせることができる。すなわち、本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は、当該実施形態や構造等に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0065】
以下に参考形態の例を付記する。
[項1]
一方面と他方面との間を貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体と、
上記金属支持体の上記一方面に接合されたセル部と、を有しており、
上記セル部は、
上記金属支持体の上記一方面に形成された第1電極層と、
上記第1電極層上に形成された固体電解質層と、
上記固体電解質層上に形成された第2電極層と、を有しており、
上記第1電極層は、
上記一方面における上記貫通孔の開口がある位置に対応する貫通孔領域と、上記一方面における上記貫通孔の開口がない位置に対応する非貫通孔領域とを有しており、
上記金属支持体と上記セル部との接合界面より上記固体電解質層側において、上記貫通孔領域の密度は、上記非貫通孔領域の密度より大きい、
電気化学セル。
この構成によれば、貫通孔領域におけるガス拡散抵抗を、非貫通孔領域におけるガス拡散抵抗より大きくすることができる。そのため、金属支持体の貫通孔から第1電極層の貫通孔領域内に流入したガスは、貫通孔領域だけでなく非貫通領域にも拡散しやすくなる。それ故、項1の電気化学セルは、複数の貫通孔を有する金属支持体に第1電極層が接していても、第1電極層全体におけるガス拡散の均一化を図ることが可能になる。
[項2]
上記金属支持体と上記セル部との接合界面より上記固体電解質層側において、上記貫通孔領域の膜厚は、上記非貫通孔領域の膜厚より大きい、
項1に記載の電気化学セル。
[項3]
一方面と他方面との間を貫通する複数の貫通孔を有する金属支持体と、
上記金属支持体の一方面に接合されたセル部と、を有しており、
上記セル部は、
上記金属支持体の上記一方面に形成された第1電極層と、
上記第1電極層上に形成された固体電解質層と、
上記固体電解質層上に形成された第2電極層と、を有しており、
上記第1電極層は、
上記一方面における上記貫通孔の開口がある位置に対応する貫通孔領域と、上記一方面における上記貫通孔の開口がない位置に対応する非貫通孔領域とを有しており、
上記金属支持体と上記セル部との接合界面より上記固体電解質層側において、上記貫通孔領域の膜厚は、上記非貫通孔領域の膜厚より大きい、
電気化学セル。
この構成によれば、貫通孔領域におけるガス拡散抵抗を、非貫通孔領域におけるガス拡散抵抗より大きくすることができる。そのため、金属支持体の貫通孔から第1電極層の貫通孔領域内に流入したガスは、貫通孔領域だけでなく非貫通領域にも拡散しやすくなる。それ故、項3の電気化学セルは、複数の貫通孔を有する金属支持体に第1電極層が接していても、第1電極層全体におけるガス拡散の均一化を図ることが可能になる。
[項4]
上記金属支持体と上記セル部との接合界面より上記固体電解質層側において、上記貫通孔領域の密度は、上記非貫通孔領域の密度より大きい、
項3に記載の電気化学セル。
[項5]
上記貫通孔の孔径は、0.01mm以上2mm以下である、
項1から項4のいずれか1項に記載の電気化学セル。
[項6]
上記第1電極層の平均気孔率は、30%以上60%以下である、項1から項5のいずれか1項に記載の電気化学セル。
[項7]
上記第1電極層の平均膜厚は、30μm以上である、
項1から項6のいずれか1項に記載の電気化学セル。
[項8]
上記貫通孔領域のガス拡散抵抗は、上記非貫通孔領域のガス拡散抵抗よりも1.2倍以上大きい、
項1から項7のいずれか1項に記載の電気化学セル。
[項9]
上記貫通孔領域の密度は、上記非貫通孔領域の密度よりも1.2倍以上大きい、
項1または項2に記載の電気化学セル。
[項10]
上記貫通孔領域の膜厚は、上記非貫通孔領域の膜厚よも1.2倍以上大きい、
項3または項4に記載の電気化学セル。
[項11]
固体酸化物形燃料電池セルおよび固体酸化物形電解セルの少なくとも一方として用いられる、
項1から項10のいずれか1項に記載の電気化学セル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6