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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】聴取音取得方法および聴取音取得装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/00 20060101AFI20240618BHJP
   H04R 3/00 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
G10K15/00 L
H04R3/00 310
H04R3/00 320
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024019952
(22)【出願日】2024-02-14
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2023137780
(32)【優先日】2023-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 弘平
(72)【発明者】
【氏名】金森 光平
(72)【発明者】
【氏名】山川 高史
(72)【発明者】
【氏名】相羽 広高
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅司
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-211178(JP,A)
【文献】特開2001-289675(JP,A)
【文献】特開2018-137532(JP,A)
【文献】特開2006-246312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収音手段、増幅手段および放音手段を含む拡声伝達経路を介して発話者の発話音を聴取者に届ける拡声システムにおける、前記聴取者の聴取位置における音圧を取得する聴取音取得方法であって、
前記発話音は、前記拡声伝達経路を含まない直接伝達経路を介して前記聴取者に届き、
前記聴取音取得方法は、前記発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧を取得し、取得した音圧に基づいて前記聴取者の聴取位置における音圧を求める、
聴取音取得方法。
【請求項2】
前記発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧を測定し、この測定した音圧に基づく演算により前記聴取者の聴取位置における音圧を求める、
請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項3】
前記収音手段の入力音の音圧を測定し、この測定した音圧に基づく演算により前記聴取位置における音圧を求める請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項4】
前記放音手段の出力音の音圧を測定し、この測定した音圧に基づく演算により前記聴取位置における音圧を求める請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項5】
前記収音手段の入力音の音圧および前記放音手段の出力音の音圧を測定し、この測定した音圧に基づく演算により前記聴取位置における音圧を求める請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項6】
前記発話音の音圧を測定し、この測定した音圧に基づく演算により前記聴取位置における音圧を求める請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項7】
前記発話音の音圧の適正値に対する関係を判定し、判定結果を示す可視情報を前記発話者に提供する請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項8】
前記発話音の音圧の適正値に対する関係を判定し、判定結果を示す感覚情報を前記発話者に提供する請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項9】
前記聴取位置における音圧に基づいて、前記発話音の音圧の適正値に対する関係を判定する請求項7に記載の聴取音取得方法。
【請求項10】
前記可視情報を提供する装置を前記放音手段に対応付けて配置する請求項7に記載の聴取音取得方法。
【請求項11】
前記聴取位置における音圧を、音圧分布として前記発話者に提供する請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項12】
前記放音手段により放音される音の指向角に応じた光を放出し、前記光によって、前記音の放音エリアを可視情報として、前記発話者に提供する請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項13】
前記音圧の大きさに比例して変化する指標を、複数箇所に配置することによって、前記発話音の音圧の適正値に対する関係を示す可視情報を前記発話者に提供する請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項14】
前記発話者および前記聴取者の頭部の位置を検出し、
該頭部の位置に基づいて、前記発話者から前記直接伝達経路を介して前記聴取者の位置に至るまでの伝達関数、前記発話者から前記収音手段に至るまでの伝達関数、および前記放音手段から前記聴取者の位置に至るまでの伝達関数を取得し、
取得したこれらの伝達関数に基づいて前記聴取者の聴取位置における音圧を求める、
請求項1に記載の聴取音取得方法。
【請求項15】
収音手段、増幅手段および放音手段を含む拡声伝達経路を介して発話者の発話音を聴取者に届ける拡声システムにおける、前記聴取者の聴取位置における音圧を取得する聴取音取得装置であって、
前記発話音は、前記拡声伝達経路を含まない直接伝達経路を介して前記聴取者に届き、
前記聴取音取得装置は、前記発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧を取得し、取得した音圧に基づいて前記聴取者の聴取位置における音圧を求める制御部を備える、
聴取音取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、聴取音取得方法および聴取音取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
会議システムでは、会議参加者の全員が発話音を明瞭に聴き取れるように、発話音を拡声して会議参加者に伝達する手段が会議室に設けられる。この種の会議システムでは、発話者の発話音が十分な音圧で聴取者に届くように発話音を拡声する必要がある。特許文献1は、遠隔制御に関するものであるが、発話音を拡声するエリアにおける拡声の実行状況を通知する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-245365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は拡声の実行状況を通知するのみであり、この通知を受けたとしても、発話音が十分な音圧で聴取者に届いているか否かを判断することが困難である。
【0005】
この発明の一実施形態は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、発話音の音圧を取得する聴取音取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態に係る聴取音取得方法は、収音手段、増幅手段および放音手段を含む拡声伝達経路を介して発話者の発話音を聴取者に届ける拡声システムにおける、前記聴取者の聴取位置における音圧を求める。発話音は、前記拡声伝達経路を含まない直接伝達経路を介して前記聴取者に届く。聴取音取得方法は、前記発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧を取得し、取得した音圧に基づいて前記聴取者の聴取位置における音圧を求める。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】この発明の一実施形態である聴取音取得方法を実行する聴取音取得装置および会議システムの構成を示すブロック図である。
図2】聴取音取得装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】同実施形態における発話音の伝達系の構成例を示す図である。
図4】同伝達系のブロック図である。
図5】同伝達系における聴取音取得方法を示すブロック図である。
図6】同実施形態における発話音の伝達系を一般化したブロック図である。
図7】同伝達系を構成する伝達経路を示すブロック図である。
図8】同伝達系における聴取音取得方法を示すブロック図である。
図9】同実施形態における情報提供部の例を示す図である。
図10】同実施形態において実行される聴取音取得処理のフローチャートである。
図11】この発明の他の実施形態である聴取音取得方法を示すブロック図である。
図12】可視情報の変形例を示す図である。
図13】可視情報の変形例を示す図である。
図14】会議室の側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1はこの発明の一実施形態である聴取音取得方法を実行する聴取音取得装置200および拡声システム100の構成を示すブロック図である。
【0010】
本実施形態による聴取音取得方法は、図1に示す拡声システム100を対象としている。本実施形態の拡声システム100は、ある発話者の音声を拡声して聴取者に届けるシステムである拡声システム100は、例えば会議、セミナー、プレゼンテーション等に用いられる。本実施形態では一例として拡声システム100を会議に用いる例を示す。拡声システム100では、発話者である会議参加者Miの発話音が、収音手段11、増幅手段12および放音手段13を含む拡声伝達経路10を介して聴取者である会議参加者Mjに届き、かつ、拡声伝達経路10を含まない直接伝達経路20を介して発話音が会議参加者Mjに届く。
【0011】
聴取音取得装置200は、このような拡声システム100において、聴取者である会議参加者Mの聴取位置における音圧を演算により取得する装置である。聴取音取得装置200は、図1では拡声システム100の外部装置として示されているが、拡声システム100の制御装置(図示略)に含まれた装置であってもよい。
【0012】
図2は、聴取音取得装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。聴取音取得装置200は、一例としてパーソナルコンピュータまたはスマートフォン等の汎用の情報処理装置からなる。汎用の情報処理装置は、発話者の用いる装置であってもよいし、会議を運営する運営者あるいは会議システムを設置する設置者等が用いる装置であってもよい。
【0013】
聴取音取得装置200は、表示器251、ユーザI/F252、フラッシュメモリ253、CPU254、RAM255、および通信I/F256を備える。
【0014】
表示器251は、例えばLCDまたはOLED等からなり、種々の情報を表示する。ユーザI/F252は、例えば表示器251のLCDまたはOLEDに積層されるタッチパネルである。あるいは、ユーザI/F252は、キーボードまたはマウス等であってもよい。ユーザI/F252がタッチパネルである場合、該ユーザI/F252は、表示器251とともに、GUI(Graphical User Interface)を構成する。
【0015】
通信I/F256は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)等の通信手段である。通信I/F256は、例えば拡声システム100から音信号を受信する。
【0016】
CPU254は、プロセッサの一例であり、聴取音取得装置200の動作を制御する制御部である。CPU254は、記憶媒体であるフラッシュメモリ253に記憶されたアプリケーションプログラム等の所定のプログラムをRAM255に読み出して実行することにより各種の動作を行なう。本実施形態のCPU254は、図1に示す制御部201と、測定部202と、情報提供部203との機能を実現する。なお、プログラムは、サーバ(不図示)に記憶されていてもよい。CPU24は、ネットワークを介してサーバからプログラムをダウンロードし、実行してもよい。
【0017】
図1に示すように、聴取音取得装置200は、制御部201と、測定部202と、情報提供部203とを含む。ここで、測定部202は、拡声システム100において発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧を測定する手段である。制御部201は、プロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムを記憶した不揮発性メモリと、プロセッサによりワークエリアとして使用される揮発性メモリ等を含む。この制御部201は、測定部202により測定された音圧を用いた演算により聴取者である会議参加者Mの聴取位置における音圧を取得する。また、制御部201は、聴取位置における音圧に基づいて、発話音の音圧の適正値に対する関係を判定し、判定結果を示す可視情報を情報提供部203により提供する。
【0018】
図3は拡声システム100における発話音の伝達系の例を示す図である。また、図4は同伝達系を伝達関数により表現したブロック図である。
【0019】
この例では、会議室300の天井301に、収音手段11としてのマイク11aと、増幅手段12としてのアンプ12aと、放音手段13としてのスピーカ13aが配置されている。会議参加者Mの発話位置(例えば頭部の位置)からマイク11a、アンプ12aおよびスピーカ13aを経由して会議参加者Mの聴取位置(例えば頭部の位置)に到るまでの経路が拡声伝達経路10となる。また、拡声伝達経路10を経由することなく、会議参加者Mの発話位置から会議参加者Mの聴取位置に到るまでの経路が直接伝達経路20となる。
【0020】
この例において、発話位置における発話音の音圧をsp0、発話位置からマイク11aの収音部までの伝達関数をH、マイク11a、アンプ12aおよびスピーカ13aのトータルのゲインをG、スピーカ13aの放音部から聴取位置までの伝達関数をHとすると、拡声伝達経路10を経由して聴取位置に届く音の音圧sp4は、次式に示すものとなる。
【0021】
sp4=H・G・H・sp0 ……(1)
一方、直接伝達経路20の伝達関数をHとすると、直接伝達経路10を経由して聴取位置に届く音の音圧sp1は、次式に示す通りものとなる。
【0022】
sp1=H・sp0 ……(2)
従って、聴取位置における聴取音の音圧sp5は、次式に示すものとなる。
【0023】
sp5=sp1+sp4
=(H・G・H+H)・sp0 ……(3)
ところで、図3および図4に示す伝達系において、マイク11aの入力音圧をsp2とすると、この音圧sp2は、発話音の伝達経路上の位置の音圧であり、次式により示される。
【0024】
sp2=H・sp0 ……(4)
ここで、音圧sp0は、次式により音圧sp2から逆算することができる。
【0025】
sp0=H -1・sp2 ……(5)
そこで、聴取音取得装置200の制御部201は、測定部202により音圧sp2を測定し、この測定した音圧sp2に基づいて次式の演算を行い、聴取位置における音圧sp5を求める。
【0026】
sp5=(H・G・H+H)・sp0
=(H・G・H+H)・H -1・sp2 ……(6)
図5はこの式(6)の演算内容をブロック図として表現したものである。
【0027】
次に聴取音取得装置200の機能をより一般化して説明する。図6は会議参加者人数Nが8である拡声システム100の発話音の伝達系を示すブロック図である。この拡声システム100では、通常、N名の会議参加者M(i=1~N)のうちの任意の1名が発話者となり、残りのN-1名が聴取者となる。図6には、上下に並んだ会議参加者M(i=1~N)に接続されたN本(この例ではN=8)の横線が示されている。これらの横線は、会議参加者M(i=1~N)によって発話された音が伝搬する経路を示している。また、図6には、左右に並んだ会議参加者M(j=1~N)に接続されたN本の縦線が示されている。これらの縦線は、会議参加者M(j=1~N)によって聴取される音が伝搬する経路を示している。また、図6には会議参加者M(i=1~N)に接続された各横線と会議参加者M(j=1~Nかつj≠i)に接続された各縦線の各交差に伝達関数Hijが示されている。この伝達関数Hijは、会議参加者MおよびM(j≠i)間に介在する拡声伝達経路10および直接伝達経路20を並列接続した伝達経路の伝達関数である。発話者である会議参加者Mの発話音は、伝達関数Hijを介して聴取者である会議参加者Mに到達する。
【0028】
図7は会議参加者MおよびM(j≠i)間に介在する伝達経路の伝達関数Hijを示している。本実施形態において、この伝達経路は、発話音を伝達する伝達経路を含む。ここで、伝達関数Hmijとは、伝達関数Hijの一部分を表す伝達関数で、spmとは、任意の位置の音圧を表す。これにより、聴取音取得装置200は、発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧(spm)を取得し、取得した音圧に基づいて前記聴取者の聴取位置における音圧を求めることができる。具体的には、聴取音取得装置200は、音圧spmを取得することができれば、伝達関数Hmijの逆関数を用いて、音圧spを求めることができる。
【0029】
sp=Hmij ―1・spm ……(7)
spが求まれば、式(3)と同様にspを求めることができる。 sp=Hij・sp
=Hij・Hmij ―1・spm ……(8)
そこで、本実施形態において制御部201は、音圧spmに基づいて、上式(8)に示す演算を実行し、聴取者である会議参加者M(j=1~Nかつj≠i)の聴取位置(N-1箇所)における音圧spを求める。
【0030】
図8は式(8)の演算をブロック図により表現したものである。
【0031】
この一般化された実施形態と上述した図3および図4の実施形態との対応関係は例えば次のようになる。
【0032】
<例1:spm=sp2の場合>
spm=sp2
Hmij=H
sp=sp0
sp=sp5
ij=H・G・H+H
<例2:spm=sp4の場合>
spm=sp4
Hmij=H・G・H
sp=sp0
sp=sp5
ij=H・G・H+H
上記例1及び例2を用いて説明すると、spの位置で音圧を得た場合はHmij=Hとなり、spの位置で音圧を得た場合はHmij=H・G・Hと定義される。以上のように音圧を得た位置に応じた逆関数Hmij ―1を用いる必要がある。本実施形態では、聴取位置における音圧を取得するために、会議参加者MおよびM(j≠i)間に介在する伝達経路の伝達関数Hijおよびモニタ音を発生する伝達経路の伝達関数Hmijを使用する必要がある。本実施形態では、拡声システム100の設置時、会議参加者M(i=1~N)の頭部の位置が決定され、その位置に基づいて、拡声伝達経路10の各部の特性が最適化される。これにより伝達関数HijおよびHmijもその内容が定まる。そこで、本実施形態では、拡声システム100の設置時に、演算またはシミュレーション等により伝達関数HijおよびHmijを生成し、制御部201の不揮発性メモリに格納しておく。そして、拡声システム100の稼働時に、制御部201が、この格納された伝達関数HijおよびHmijを利用して聴取位置における音圧を取得するのである。
【0033】
また、本実施形態では、聴取位置における音圧を取得するために、発話者である会議参加者Mに対応付けられた伝達関数HijおよびHmijを使用する必要がある。このため、発話者である会議参加者Mを特定する必要がある。発話者の検出に関しては各種の手段が考えられるが、例えば会議室300に配置されるマイク11aが、発話音を高いゲインで収音するように指向性を制御可能なマイクである場合には、このマイクを利用して発話者を検出してもよい。また、マイク11aによる発話者検出が困難な場合には、例えば会議室300内の会議参加者M(i=1~N)をカメラにより撮像し、撮像された画像について認識処理を実行することにより発話を行っている会議参加者を検出してもよい。
【0034】
制御部201は、N-1箇所の聴取位置における音圧を取得すると、取得した音圧に基づいて、発話音の音圧の適正値に対する関係を判定し、判定結果を示す可視情報を情報提供部203により提供する。
【0035】
図9は情報提供部203の例を示す図である。この情報提供部203は、“適正”の文字が付された適正ランプ203aと、“過少”の文字が付された過少ランプ203bと、“過剰”の文字が付された過剰ランプ203cとを有する。好ましい態様において、これらの適正ランプ203a、過少ランプ203bおよび過剰ランプ203cは、異なる発光色で点灯する。情報提供部203は、例えば、放音部の近くに配置される。情報提供部203を配置する位置は、発話者が容易に確認できる位置であれば、どこでもよい。例えば、情報提供部203を配置する位置は、発話者が発話する場面において、容易に視認できる位置でもよい。具体的には、情報提供部をスピーカの位置に配置すれば、発話者は、実際に放音されているスピーカを見ることで、適切な音圧で発話できていることを確認することができる。また、情報提供部を発話者の手元の位置に配置すれば、発話者は、手元を確認することで、適切な音圧で発話できていることを確認することができる。例えば、情報提供部203を配置する位置は、拡声システムの設置時に設置者が容易に確認できる位置でもよい。具体的には、設置者が使用するコンピュータの画面上に、情報提供部を備える構成とすれば、設置者は設置作業中に、自身のコンピュータを確認することで、適切な音圧で発音できていることを容易に確認することができる。
【0036】
制御部201は、N-1箇所の聴取位置における全ての音圧が適正範囲内にある場合、適正ランプ203aを点灯させる。また、制御部201は、N-1箇所の聴取位置における少なくとも1箇所の音圧が適正範囲の下限を下回っている場合、過少ランプ203bを点灯させる。この場合、発話者は発話音圧を高くする。また、制御部201は、N-1箇所の聴取位置における少なくとも1箇所の音圧が適正範囲の上限を上回っている場合、過剰ランプ203cを点灯させる。この場合、発話者は発話音圧を低くする。
【0037】
次に本実施形態の動作について説明する。本実施形態において、制御部201のプロセッサは、不揮発性メモリ内のプログラムに従い、図10に示す聴取音取得処理P200を繰り返し実行する。
【0038】
まず、制御部201のプロセッサは、発話が検出されたか否かを判断する(ステップS1)。この判断は、例えば収音手段11の収音状態(具体的には発話音を収音しているか否か、また、いずれの会議参加者の発話音を収音しているか)等に基づいて実行される。ステップS1の判断結果が「NO」である場合、制御部201のプロセッサは、同ステップS1の判断を繰り返す。
【0039】
ステップS1の判断結果が「YES」である場合、制御部201のプロセッサは、発話者である会議参加者の発話音の伝達経路上の位置におけるモニタ音の音圧spmを測定部202により測定する(ステップS2)。
【0040】
次に制御部201のプロセッサは、発話者である会議参加者Mに対応付けられた伝達関数HijおよびHmij -1と、ステップS2において得られたモニタ音の音圧spmとを用いて、N-1箇所の聴取位置における音圧SP(j=1~Nかつj≠i)を算出する(ステップS3)。
【0041】
次に制御部201のプロセッサは、ステップS3において算出した各聴取位置での音圧SP(j=1~Nかつj≠i)に基づいて、発話音の音圧の適正値に対する関係を判定し、判定結果を示す可視情報を情報提供部203により発話者に提供する(ステップS4)。このステップS4が終了すると、処理はステップS1に戻る。
【0042】
本実施形態では、以上のようにステップS1~S4の処理が繰り返される。そして、発話があったときは、各聴取位置における音圧が算出され、その算出結果に基づいて、発話音の音圧の適正値に対する関係が判定され、その判定結果が発話者に示される。従って、発話者は、発話音が適正な音圧で各聴取者に届くように、発話音圧を変更することができる。
【0043】
<他の実施形態>
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0044】
(1)上記実施形態では、聴取音取得装置200は、収音手段11の入力音の音圧(図3におけるsp2)を測定し、この測定した音圧に基づく演算により聴取位置における音圧を求めた。しかし、聴取音取得装置200は、このような収音手段11の入力音の音圧以外の音圧に基づいて聴取位置における音圧を算出してもよい。例えば聴取音取得装置200は、放音手段13の出力音の音圧(図3におけるsp3)を測定し、この測定した音圧に基づく演算により聴取位置における音圧を求めてもよい。あるいは聴取音取得装置200は、収音手段11の入力音の音圧(図3におけるsp2)および放音手段13の出力音の音圧(図3におけるsp3)を測定し、この測定した音圧に基づく演算により聴取位置における音圧を求めてもよい。あるいは聴取音取得装置200は、発話位置における発話音の音圧(図3におけるsp0)を測定し、この測定した音圧に基づく演算により前記聴取位置における音圧を求めてもよい。
【0045】
(2)上記実施形態では、聴取音取得装置200は、予め決定された伝達関数HijおよびHmij -1を利用して聴取位置における音圧を取得したが、例えばカメラによる撮像等により、会議参加者M(i=1~N)の頭部位置(すなわち、発話位置および聴取位置)を求め、これらの頭部位置に基づいて、各会議参加者間に介在する伝達経路の伝達関数を生成してもよい。より具体的には、聴取音取得装置200は、部屋の壁面の位置、部屋の壁面の材質(反射率)、発話者と収音手段11との距離、放音手段13と聴取者との距離、および発話者と聴取者との距離、を求める。聴取音取得装置200は、発話者と聴取者との距離、発話者と壁面の位置関係、聴取者と壁面の位置関係、および壁面の反射率に基づいて発話位置から聴取位置までの伝達関数Hを求める。聴取音取得装置200は、発話者と収音手段11との距離、発話者と壁面の位置関係、収音手段11と壁面の位置関係、および壁面の反射率に基づいて発話位置からマイク11aの収音部までの伝達関数Hを求める。聴取音取得装置200は、発話者と収音手段11との距離、および発話者と壁面の位置関係、および壁面の反射率に基づいて発話位置から収音手段11までの伝達関数Hを求める。
【0046】
(3)上記実施形態では、聴取音取得装置200は、聴取位置における音圧を演算により求めたが、事前に測定したデータベース(マトリクス等)から適切なものを選択することで決定してもよい。マトリクスを適切に設定すればマイクとスピーカはそれぞれ複数でもよい。
【0047】
(4)図11に例示するように、聴取音取得装置200は、AI(artificial intelligence)250を実現してもよい。図11に示す態様では、拡声システム100において、各会議参加者Mi(i=1~N)に発話を行わせる。その際に拡声システム100から得られるモニタ音の音圧spmと聴取位置における音圧spを教師データとしてAI250に与え、モニタ音の音圧spmと聴取位置における音圧spとの関係をAI250に学習させる。そして、拡声システム100の本稼働時には、AI250が、拡声システム100から得られるモニタ音の音圧spmに基づいて聴取位置における音圧spを求めるのである。
【0048】
(5)情報提供部203は、会議参加者Mi(i=1~N)に各々対応したものを例えば各会議参加者の前方に配置してもよい。この態様では、ある会議参加者Miが発話者である場合、その会議参加者Miに対応した情報提供部203が、発話音圧の適正値に対する関係を示す可視情報を提供する。
【0049】
(6)放音手段13が複数ある場合に、聴取音取得装置200は、情報提供部203を各放音手段13に対応付けて配置してもよい。
【0050】
(7)上記実施形態では、聴取音取得装置200は、聴取位置における音圧に基づいて、発話音圧の適正値に対する関係を判定したが、聴取位置における音圧以外の音圧に基づいて、当該関係を判定してもよい。
【0051】
(8)上記実施形態では、聴取音取得装置200は、発話音圧の適正値に対する関係を、過少、適正、過剰の3ランクに分けて表示したが、4ランク以上に分けて表示してもよい。あるいは聴取音取得装置200は、聴取位置における音圧から算出される発話音圧を聴取位置毎にバーグラフ表示(連続的な値として表示)してもよい。
【0052】
(9)拡声伝達経路10に関しては、人の基本的な発話音量で、ある程度適切な拡声度合となるように、事前にゲインを設定するようにしてもよい。これにより、拡声状態を適切にするための発話音圧を、発話者にとって無理のない範囲に設定できる。
【0053】
(10)聴取音取得装置200は、図3に示した伝達系において、直接伝達経路10を経由して聴取位置に届く音の音圧sp1が十分に小さい場合、当該音圧sp1を無視し、音圧sp4=音圧sp5としてもよい。聴取音取得装置200は、例えば、会議参加者Miと会議参加者Mjとの距離が所定の閾値を超える場合、音圧sp1を無視して音圧sp4=音圧sp5としてもよい。
【0054】
(11)図12は、可視情報の変形例を示す図である。この例では、聴取音取得装置200は、表示器251において、聴取位置における音圧を、音圧分布として発話者に提供する。図12の例は、会議室を平面視した模式図上に、マイク11aおよびスピーカ13aを示している。また、図12の例では、聴取音取得装置200は、受聴面での音圧を色の濃さで表示している。例えば、色の濃い部分は音圧が高く、色の薄い部分は音圧が低い。聴取音取得装置200は、受聴面での音圧を、色の違いで表示してもよい。聴取音取得装置200は、例えば、音圧が高い位置の色を赤く、音圧が低い位置の色を青く表示してもよい。
【0055】
図12の例では2つのマイク11aを示しているが、聴取音取得装置200は、第1のマイク11aと第2のマイク11aで異なる画面を表示し、マイク毎の音圧分布を表示してもよい。また、聴取音取得装置200は、マイクごとに音圧の色を変えてもよい。例えば聴取音取得装置200は、第1のマイク11aでは赤色の濃度で音圧分布を表示し、第2のマイク11aでは青色の濃度で音圧分布を表示してもよい。
【0056】
これにより、発話者は、会議室内に届く発話音圧を一目で直感的に把握することができ、適切な音圧で聴取者に音声を届けるように、発話音圧を変更し易くできる。
【0057】
(12)可視情報は、スピーカ毎に設けられたLED等の表示器であってもよい。聴取音取得装置200は、例えば、音圧が過少である場合にはLEDを青く光らせてもよい。また、聴取音取得装置200は、音圧が過剰である場合にはLEDを赤く光らせてもよい。聴取音取得装置200は、音圧が適性である場合にはLEDを緑に光らせてもよい。また、聴取音取得装置200は、LEDの輝度を音圧によって変更してもよい。聴取音取得装置200は、例えば、音圧が過少である場合にはLEDを暗くし、音圧が過剰である場合にはLEDを明るくしてもよい。
【0058】
(13)聴取音取得装置200は、判定結果を音声による感覚情報で案内してもよい。例えば、聴取音取得装置200は、音圧が過少である場合には「音声を大きくしてください」と音声で案内し、音圧が過剰である場合には「音声を小さくしてください」と音声で案内してもよい。
【0059】
(14)聴取音取得装置200は、判定結果を振動による感覚情報で案内してもよい。この場合、聴取音取得装置200は、発話者の携帯する振動デバイスを含む。聴取音取得装置200は、音圧が過少である場合および音圧が過剰である場合に振動デバイスを振動させる。
【0060】
(15)図13は、可視情報の変形例を示す図である。この例では、聴取音取得装置200は、音圧の大きさに比例して変化する指標を複数箇所に配置することによって、発話音の音圧の適正値に対する関係を示す可視情報を発話者に提供する。より具体的には、この例では、指標として、スピーカ13aの前に複数のリボン70a~70eが配置されている。複数のリボン70a~70eは、例えば会議室の天井から垂れ下がっている。複数のリボン70a~70eは、それぞれ異なる色および物性を有する。物性は、例えば弾性率(硬さ)または重さを含む。リボン70aは最も薄い色であり、最も柔らかい(または軽い)。リボン70eは最も濃い色であり、最も硬い(または重い)。したがって、リボン70aは最も動きやすい。リボン70aは、スピーカ13aの音圧が低い場合でも動く。リボン70eは最も動き難い。リボン70eは、スピーカ13aの音圧が高い場合に動く。つまり、スピーカ13aの音圧が高くなるほど、リボン70a~70eが順に動く。これにより発話者は、リボン70a~70eの動きを見て、音圧を視認することができる。例えば、発話者はリボン70eが動く場合、音圧が過剰であると判断できる。また、発話者はリボン70aのみが動く場合、音圧が過少であると判断できる。
【0061】
(16)聴取音取得装置200は、伝達経路上の任意の位置の音圧を、スピーカに供給する音信号のレベルから求めてもよい。あるいは、聴取音取得装置200は、伝達経路上の任意の位置の音圧を、スピーカの駆動電圧から求めてもよい。
【0062】
(17)可視情報は、部屋全体に対して適正な音圧となっている部分の割合を示してもよい。聴取音取得装置200は、例えば部屋全体に対して適正な音圧となっている部分の割合が所定値(例えば70%)である場合に、LED、LCD、あるいはOLED等の表示器を用いて適性である旨を表示してもよい。
【0063】
(18)「適性」とは、音圧が適性である場合に限らない。「適性」とは、周波数特性が適正であるか否かであってもよい。「適性」とは、ノイズの音圧に対する発話音声の音圧が適性であるか否かであってもよい。また、「適性」とは、音声の明瞭性を評価する指標(STI:Speech Transmission Index)に基づいた判定結果であってもよい。音声は伝達の過程で残響または騒音等によって元の波形が崩れることにより、聞き取りづらくなる。STIは、このような波形の崩れが無くどれだけ忠実に伝わるかにより、音声の明瞭性を評価する指標である。本実施形態では、シミュレーションまたは測定等で発話者から聴取者までの伝達関数H1,発話者からマイク11aまでの伝達関数H2、マイク11a、アンプ12aおよびスピーカ13aのトータルのゲインG、スピーカ13aから聴取位置までの伝達関数Hが求められている。上述の様に、拡声系も含めた伝達関数はH1+(H2+H3)*Gで表される。当該伝達関数は、時間領域のインパルス応答IRで表現できる。聴取音取得装置200は、予め、もしくは発話のない時間帯において、空調騒音等のノイズNを測定する。聴取位置における音圧sp5は、上記(3)式または(6)式で求められる。したがって、発話音声とノイズのSN比は、sp5/Nで求められる。STIは、インパルス応答IRおよびSN比から、IEC60268-16に基づいて求められる。聴取音取得装置200は、音圧に代えて、算出したSTIに応じた表示を行ってもよい。STIは、例えば0.75以上でExcellent、0.6~0.75でGood等の基準が決められている。したがって、聴取音取得装置200はSTIの数値を表示してもよいし、この基準に応じたExcellentまたはGood等の表示を行ってもよい。
【0064】
(19)図14は、会議室の側面模式図である。この例の聴取音取得装置200は、放音手段により放音される音の指向角に応じた光を放出し、該光によって、音の放音エリアを可視情報として発話者に提供する。
【0065】
図14の例では、天井に設置されたスピーカのそれぞれに音の指向角に応じた光を放出する発光器が設けられている。複数のスピーカの音が届く場所は複数の発光器の光が当たるため明るくなる。また、天井に段差がある場合や空間内に仕切りがある場合、発光器の光は遮られる。
【0066】
光と音には、回折条件や減衰率の違いがあることから、光と音の届きやすい範囲や届きにくい範囲は全く同じとは言えない。しかしながら、全体的な傾向として、光の届き易い位置は音も届き易い、と解釈することができる。したがって、発話者は、明るい場所には大きい音が届き、暗い場所には音が届き難いことを視覚的に、直感的に理解できる。
【符号の説明】
【0067】
100……拡声システム、10……拡声伝達経路、11……収音手段、12……増幅手段、13……放音手段、11a……マイク、12a……アンプ、13a……スピーカ、20……直接伝達回路、200……聴取音取得装置、201……制御部、202……測定部、203……情報提供部、M,M……会議参加者
【要約】
【課題】 会議システムにおいて会議参加者によって聴取される発話音の音圧を取得する。
【解決手段】聴取音取得方法は、収音手段、増幅手段および放音手段を含む拡声伝達経路を介して発話者の発話音を聴取者に届ける拡声システムにおける、前記聴取者の聴取位置における音圧を取得する。発話音は、前記拡声伝達経路を含まない直接伝達経路を介して前記聴取者に届く。聴取音取得方法は、前記発話音の伝達経路上の任意の位置の音圧を取得し、取得した音圧に基づいて前記聴取者の聴取位置における音圧を求める。
【選択図】図1
図1
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