(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】水性分散体組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 123/26 20060101AFI20240618BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240618BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20240618BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C09D123/26
C09D7/63
C09J123/26
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2024512393
(86)(22)【出願日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2023011943
(87)【国際公開番号】W WO2023190213
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2022060484
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 篤
(72)【発明者】
【氏名】柏原 健二
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 恵太朗
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-128429(JP,A)
【文献】特開2004-285227(JP,A)
【文献】特開2005-220153(JP,A)
【文献】特開2011-052062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPCを用いて測定される重量平均分子量が60,000以上であり、且つα,β-不飽和カルボン酸及び/またはその酸無水物で変性された変性量が1.0質量%未満である変性ポリオレフィン(A)、窒素含有非イオン系乳化剤(B)および塩基性物質(C)を含有する水性分散体組成物であり、前記水性分散体組成物のZ平均粒子径が200nm以下であ
り、前記変性ポリオレフィン(A)が、酸変性されたプロピレン-αオレフィン共重合体であることを特徴とする水性分散体組成物。
【請求項2】
前記変性ポリオレフィン(A)の融点が60℃~85℃であることを特徴とする請求項1に記載の水性分散体組成物。
【請求項3】
前記変性ポリオレフィン(A)が塩素を含有しない請求項1に記載の水性分散体組成物。
【請求項4】
前記窒素含有非イオン系乳化剤(B)の添加量が前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して10~45
質量部であることを特徴とする請求項1に記載の水性分散体組成物。
【請求項5】
さらにアニオン性基含有水溶性高分子(D)を含有し、前記アニオン性基含有水溶性高分子(D)の酸価が100mg~500mgKOH/g-resinであり、
前記アニオン性基含有水溶性高分子(D)の含有量が前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して0.1~20
質量部であることを特徴とする請求項1に記載の水性分散体組成物。
【請求項6】
前記変性ポリオレフィン(A)が、ポリオレフィン成分中のブテン含有量2~35質量%の
酸変性されたプロピレン-αオレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の水性分散体組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性分散体組成物を含有する塗料。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性分散体組成物を含有する接着剤。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性分散体組成物から水性媒体を除去した塗膜。
【請求項10】
請求項7に記載の塗料に由来する層を有する積層体。
【請求項11】
請求項8に記載の接着剤に由来する層を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤、プライマー、塗料、インキ、接着剤等に好適なポリオレフィン樹脂、窒素含有非イオン系乳化剤および塩基性物質を含有する水性分散体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、安価で優れた性質を持つことから、自動車部品、各種フィルム、各種成型品等に多量に使用されている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は非極性であることから塗装や接着が困難であるという問題を有する。このため、ポリオレフィン系樹脂の塗装、印刷、フィルムの貼り合わせや接着には、酸変性ポリオレフィンや酸変性塩素化ポリオレフィン等の変性ポリオレフィンが開発されている。
【0003】
また、世界的な地球環境保護活動の高まりから、塗料業界全体で塗料中のVOC削減あるいは焼付乾燥炉でのエネルギー消費の削減による、地球温暖化の原因となるCO2を削減する取り組みが積極的に行われており、自動車塗装ラインにおいても各層の水性化や低VOC塗料の採用が増加している。
【0004】
溶剤系塗料と水性塗料を比較すると、溶剤系塗料では基材への浸透拡散効果あるいは溶剤の基材への膨潤効果による密着力の向上が期待できるため、密着性が良好となるのに対し、水性塗料では上述の効果が期待できないため、密着性が低下してしまう問題を有する。
【0005】
一方、近年では、バンパー基材においても材料コストダウン、薄肉化のための組成の変化により、基材への塗料付着性がより困難なバンパー基材も出現してきており、難密着素材に対しての水性塗料の密着力向上が一層求められている。
【0006】
また、上述したエネルギー消費量削減の取組としては、自動車塗装ラインの焼付温度の低温化も検討されているが、水性塗装ラインにおいては上述の密着力の観点から、低温焼付における密着力の向上に課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第5023557号公報
【文献】日本国特開2005-126615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、基材上に水性変性ポリオレフィン樹脂組成物を塗工し、80~90℃で焼付乾燥する被膜の形成方法において、該水性変性ポリオレフィン樹脂組成物の融点が乾燥温度より19℃以上26℃以下の範囲で低いことを特徴とする被膜の形成方法が開示されている。しかしながら、密着強度が不十分であるという課題があった。また、特許文献2には、高分子量ポリオレフィン及び界面活性剤を含有する水性分散体が開示されているが、低温焼き付けにおける十分な密着性を得られないという課題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、水性でありながら難密着なポリオレフィン基材に対して低温(80~90℃)焼き付けにおける高いピール強度と高い密着性、及び良好な耐水性を示す水性分散体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の変性ポリオレフィン(A)、窒素含有非イオン系乳化剤(B)および塩基性物質(C)を含有し、変性ポリオレフィン(A)のZ平均粒子径が200nm以下である水性分散体組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
すなわち本発明は、GPCを用いて測定される重量平均分子量が60,000以上であり、且つ変性量が1.0質量%未満である変性ポリオレフィン(A)、窒素含有非イオン系乳化剤(B)および塩基性物質(C)を含有する水性分散体組成物であり、前記水性分散体組成物中の変性ポリオレフィン(A)のZ平均粒子径が200nm以下であることを特徴とする水性分散体組成物。
【0012】
前記変性ポリオレフィン (A)の融点が60℃~85℃であることが好ましく、変性ポリオレフィン(A)が塩素を含有しないことが好ましい。
【0013】
前記窒素含有非イオン系乳化剤(B)の添加量が変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して10~45質量%であることが好ましい。
【0014】
前記アニオン性基含有水溶性高分子(D)を含有する場合、アニオン性基含有水溶性高分子(D)の酸価が100mg ~ 500mgKOH/g-resinであり、含有量が前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して0~2質量%であることが好ましい。
【0015】
前記酸変性ポリオレフィン(A)がポリオレフィン成分中のブテン含有量2~35質量%のプロピレン-αオレフィン共重合体であることが好ましい。
【0016】
前記いずれかに記載の水性分散体を含有する接着剤及び塗料。前記いずれかに記載の水性分散体から水性媒体を除去した塗膜。
【0017】
前記に記載の塗料又は接着剤に由来する層を有する積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる水性分散体組成物は、ポリプロピレン基材用のプライマーとして用いたい際に、水性でありながら難密着なポリオレフィン基材に対して低温(80~90℃)焼き付けにおける高いピール強度、高い密着性及び耐水性を有する塗膜を与えることができるため、塗料や接着剤に好適に使用することができ、自動車用塗料として特に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
<変性ポリオレフィン(A)>
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A)は、プロピレン-αオレフィン共重合体が酸変性されたポリオレフィンである。
本発明で用いる酸変性ポリオレフィンの酸成分としては、α,β-不飽和カルボン酸及びまたはその酸無水物が挙げられる。プロピレン-αオレフィン共重合体に、α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。
【0021】
プロピレン-α-オレフィン共重合体は、プロピレン及びα-オレフィンを共重合成分として含む共重合体であり、プロピレン-1-ブテン共重合体もしくは、プロピレン-1-ブテンを主体としてα-オレフィンを共重合したものが好ましい。プロピレン及びブテン以外のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、イソブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いることができる。これらのα-オレフィンの中では、エチレンが好ましい。
【0022】
プロピレン-α-オレフィン共重合体は、プロピレン成分が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることが特に好ましい。前記範囲であることで、プロピレン基材をはじめポリオレフィン基材との密着性(接着性)が良好である。また、1-ブテン成分はオレフィン成分中に2~35質量%であることが好ましい。3~33質量%であることがより好ましく、5~31質量%であることが特に好ましい。この範囲であることで、80℃~90℃で乾燥する被膜形成過程において適した融点の樹脂が形成される。
【0023】
α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン-ブテン共重合体等が挙げられ、これら酸変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
酸変性ポリオレフィンの製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸および酸無水物をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0025】
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物、アゾニトリル類が挙げられ、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等、アゾニトリル類としてはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等が挙げられる。
【0026】
酸変性ポリオレフィンの酸変性量は、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上が特に好ましい。また、1.0質量%未満であり、0.9質量%以下が好ましく、0.8質量%以下が特に好ましい。0.1質量%以上であることで、水中での分散性が良好となりやすく、1.0質量%未満であることで、ポリオレフィン基材に対する塗膜のピール強度及び耐水性が特に向上する。
【0027】
変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)は、60,000以上であり、好ましくは70,000以上であり、80,000以上であることが特に好ましい。60,000以上であることで、凝集力が強くなり密着性(接着性)及び耐水性が良好となる。また、上限については特に規定はされないが、150,000以下であることが望ましい。溶解性が良好となり水性分散体組成物の作製が容易となる傾向がある。本発明における重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値をいう。具体的な測定条件については、後述する実施例において説明する。
【0028】
変性ポリオレフィン(A)は、結晶性であることが好ましい。結晶性であることで、非晶性に比べ、凝集力が強く、密着性(接着性)や耐水性、耐熱性、耐薬品性に優れるため有利である。
【0029】
本発明でいう結晶性とは、示差走査型熱量計(以下、DSCともいう。ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、-100℃~250℃ まで10℃/min.で昇温し、該昇温過程に明確な融解ピークを示すものを指す。融点、融解熱量の測定は、DSCを用いて、10℃/min.の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度および面積から測定した値である。
【0030】
変性ポリオレフィン(A)の融点(Tm)は、80~90℃で乾燥する皮膜形成過程において、変性ポリオレフィン樹脂(A)の融点が乾燥温度から20~5℃低いことが望ましく、融点としては60℃以上であることが好ましい。より好ましくは63℃以上であり、特に好ましくは65℃以上である。また、好ましくは85℃以下であり、より好ましくは83℃以下、特に好ましくは80℃以下であることが好ましい。60℃以上であると、結晶由来の凝集力が強くなり、ピール強度、密着性(接着性)、耐水性、耐熱性、耐薬品性がより良好となる。一方、85℃以下では、溶解性が良好であり水性分散体組成物とするのが容易となる。
【0031】
<窒素含有非イオン系乳化剤(B)>
本願発明の水分散体の含有する乳化剤(B)は、窒素含有非イオン系乳化剤である。これを使用することで、塗膜の耐水性が良好になる。窒素含有非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンヤシ油アミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン等のポリオキシアルキレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアミン等のポリオキシアルキレンアミン型、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンラウリルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレン牛脂アミド、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルモノエタノールアミド等のポリオキシアルキレンアルキルアミド型等が挙げられる。これら窒素含有非イオン系乳化剤としてはブリードが少なくピール強度が良好となることからポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンヤシ油アミンが好ましい。
【0032】
窒素含有非イオン系乳化剤(B)はアルキル鎖炭素数が10~30の範囲であることが好ましく、より好ましくは12~25の範囲であり、10以上30以下であることで疎水性相互作用が好適となりオレフィン粒子との安定性が向上し、耐水性が向上し、ピール強度が向上する。
【0033】
窒素含有非イオン系乳化剤(B)はエチレンオキサイド(EO)のモル数(1分子あたりのエチレンオキサイド単位の数)が8~30の範囲であることが好ましい。より好ましくは9~25以上であり、特に好ましくは10~20である。8~30の範囲内であることで乳化における水分散性が安定となる。
【0034】
窒素含有非イオン系乳化剤(B)は、変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく13質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以上であることが特に好ましい。また、45質量部以下であることが好ましく、42質量部以下であることがさらに好ましく、40質量部以下であることが特に好ましい。15質量部以上であることで乳化性が上がり粒子径が小さくなるとともに、造膜性が向上するためピール強度が向上する傾向にあり、45質量部以下では塗膜の耐水性が良好となりやすい。
【0035】
窒素含有非イオン系乳化剤(B)の配合方法は特に限定されないが、例えば、水等に希釈せずに配合してもよいし、1~50質量%に希釈した水溶液の形態で配合してもよい。水性分散体組成物に速やかに混合するために、1~50質量%に希釈した水溶液の形態で配合するのが好ましい。水性分散体組成物に水溶液状態の乳化剤を配合することで、速やかに乳化剤が粒子に吸着し、粒子径を小さくすることができる。
【0036】
<塩基性物質(C)>
本発明で用いる塩基性物質(C)は、変性ポリオレフィン(A)の酸性基(カルボキシル基)を中和させ、変性ポリオレフィン(A)の分散性を向上させることができる。
【0037】
塩基性物質(C)は、特に限定されないが、揮発性の塩基性物質が好ましく、中でもアンモニアやアミン類が好ましい。アミン類としては、特に限定されないが、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジメチル-n-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、およびN,N-ジメチルプロパノールアミン等が挙げられ、特に好ましいのはトリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンである。これらの揮発性アミン類を単独でまたは2種以上を併用して使用できる。
【0038】
塩基性物質(C)は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましく、3質量部以上であることが特に好ましい。また、10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることがさらに好ましく、7質量部以下であることが特に好ましい。少なすぎると得られる水性分散体組成物の分散粒子の粒子径が大きく、貯蔵安定性が低下することがあり、多すぎると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0039】
<アニオン性基含有水溶性高分子(D)>
本発明に用いるアニオン性基含有水溶性高分子(D)は、水性分散体組成物中の変性ポリオレフィン(A)の粒子表面の電荷を低減することができる。これにより、水性分散体組成物中の変性ポリオレフィン固形分30質量%のときの粘度を500mPa・s以下の範囲で一定にすることができる。
【0040】
さらに、アニオン性基含有水溶性高分子(D)を使用することによって、水性分散体組成物の粘度が低下することに加え、塗料化時の粘性調整剤の効果を阻害しないという優れた効果が発揮される。粘性調整剤は、塗料中で水和および極性基間の会合により目的の粘性を発現させているが、電荷低減剤として電解質等の低分子化合物を用いるとこれらの水和および極性基間の会合を阻害するために粘性調整剤が機能しなくなることがある。一方、アニオン性基含有水溶性高分子(D)は、高分子化合物であるため塗料中での流動が抑制され、粘性調整剤との相互作用が小さく粘性調整剤の効果に影響を与えないと考えられる。すなわち、塗料、インキ、シール剤、プライマーおよび接着剤等を作製する際には水性分散体組成物の他、粘性調整剤等の各種添加剤を配合し、塗工時の液だれを防止する必要がある。アニオン性基含有水溶性高分子(D)であれば、粘性調整剤等の効果を阻害することがないため、塗工時の液だれがなく、良好な塗料、インキ、シール剤、プライマーおよび接着剤等を得ることができる。
【0041】
アニオン性基含有水溶性高分子(D)は、水に溶解して変性ポリオレフィン(A)の粒子表面の電荷を低減する高分子化合物をいう。具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基を含有するアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられ、より具体的には、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、スチレン-無水マレイン酸共重合物、スチレン-アクリルモノマー共重合物、スチレン-メタクリルモノマー共重合物等を主成分とするアニオン性基含有水溶性高分子が挙げられる。これら、アニオン性基含有水溶性高分子(D)を単独でまたは2種以上併用して使用することができる。
【0042】
アニオン性基含有水溶性高分子(D)の酸価は、100mgKOH/g-resin以上が好ましく、より好ましくは130mgKOH/g-resin以上であり、さらに好ましくは150mgKOH/g-resin以上であり、特に好ましくは160mgKOH/g-resin以上であり、それ以上に好ましくは170mgKOH/g-resin以上であり、最も好ましくは180mgKOH/g-resin以上である。100mgKOH/g-resin未満では、水性分散体組成物の粘度低下の効果が小さくなることがある。また、500mgKOH/g-resin以下であることが好ましく、より好ましくは490mgKOH/g-resin以下であり、さらに好ましくは480mgKOH/g-resin以下であり、特に好ましくは470mgKOH/g-resin以下であり、それ以上に好ましくは460mgKOH/g-resin以下であり、最も好ましくは450mgKOH/g-resin以下である。500mgKOH/g-resinを超えると、塗膜の耐水性が低下することがあり、また塗料化時の粘性調整剤の効果を阻害することがある。前記範囲内であれば、水性分散体組成物の粘度および塗膜の物性が良好となるため好ましい。アニオン性基含有水溶性高分子(D)の酸価は、JIS K-0070-1992に準じて測定することができる。
【0043】
アニオン性基含有水溶性高分子(D)の重量平均分子量(Mw)は、1,500以上であることが好ましく、より好ましくは2,000以上であり、さらに好ましくは3,000以上であり、特に好ましくは5,000以上であり、それ以上に好ましくは、7,000以上であり、最も好ましくは9,000以上である。1,500未満では、塗料化時の粘性調整剤の効果を阻害することがある。また、30,000以下であることが好ましく、より好ましくは29,000以下であり、さらに好ましくは28,000以下であり、特に好ましくは27,000以下であり、それ以上に好ましくは26,000以下であり、最も好ましくは25,000以下である。30,000を超えると、水への溶解性が低下して粘度低下の効果が小さくなることがある。前記1,500以上30,000以下の範囲内であれば、水性分散体組成物の粘度および塗膜の物性が良好となるため好ましい。アニオン性基含有水溶性高分子(D)の重量平均分子量は、GPCによって40℃の雰囲気下で測定することができる。
【0044】
アニオン性基含有水溶性高分子(D)の水(20℃)に対する溶解性は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、実用的には、50質量%以下である。
【0045】
アニオン性基含有水溶性高分子(D)は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、0.8質量部以上であることが特に好ましい。また、20質量部以下であることが好ましく、19質量部以下であることがより好ましく、18質量部以下であることがさらに好ましく、17質量部以下であることが特に好ましい。少なすぎると粘度低下の効果が小さくなることがあり、多すぎると塗膜の耐水性が低下することがあり、また塗料化時の粘性調整剤の効果を阻害することがある。
【0046】
変性ポリオレフィン(A)を含有する水性分散体におけるZ平均粒子径は200nm以下である。好ましくは150nm以下であり、より好ましくは120nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下であり、80nm以下であることが特に好ましい。200nm以下であることで、プロピレン基材の間隙に入りこみ強固なアンカー効果による密着性(接着性)が得られる傾向があり、また焼付時の融着性が向上し造膜性向上によるピール強度が向上する。下限値は特に規定されないが、貯蔵安定性が良好となることから、30nm以上であることが好ましい。
【0047】
変性ポリオレフィン(A)を含有する水性分散体組成物の粘度は5mPa・s以上が好ましく、10mPa・s以上がより好ましい。また、300mPa・s以下が好ましく、250mPa・s以下がより好ましい。本発明の水性分散体組成物のpHは5以上10以下が好ましく、7以上がより好ましく、8.3以上が特に好ましく、8.5以上がさらに好ましい。
【0048】
水分散体組成物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。すなわち、変性ポリオレフィン(A)と乳化剤(B)をエーテル系溶剤、アルコール系溶剤および芳香族系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤、および水に溶解させ、塩基性物質を添加し、冷却した後に、これら溶剤を除去することにより得ることができる。
【0049】
本発明における樹脂組成物の水分散体の固形分濃度は、水分散体の取り扱い性の観点から、水分散体の総量に対して10~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
エーテル系溶剤としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン(以下、THFともいう)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
アルコール系溶剤としては、特に限定されないが、炭素数1~7の脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂環式アルコール等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
芳香族系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ソルベントナフサ等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
溶剤および水の使用量は、任意に選択することができるが、変性ポリオレフィン(A):水:溶剤=100:50~800:11~900(質量比)であるのが好ましく、100:200~400:43~233(質量比)であるのがより好ましい。
【0054】
その他、本発明の水性分散体組成物に対し、耐水性や耐溶剤性などの性能をさらに向上させるために、必要に応じて硬化剤を配合しても良い。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば水性多官能カルボジイミド樹脂、多官能イソシアネート化合物の水分散体、水性多官能オキサゾリン系樹脂、多官能シリル基を含有する水溶性シランカップリング剤、水性メラミン化合物等が挙げられる。これらの硬化剤は本発明の水性分散体組成物中の樹脂100質量部に対して、2~30質量部配合されるのが好ましい。
【0055】
さらに、本発明の水性分散体組成物に対し、本発明の効果を低下させない範囲で充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤等の種々添加剤を配合しても良い。これらの添加剤の配合量は水性分散体組成物中の樹脂100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましく、より好ましくは140質量部以下であり、さらに好ましくは130質量部以下である。また5質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上である。上記範囲内にすることで、本発明の優れた効果を発揮することができる。
【0056】
本発明の水性分散体組成物はポリプロピレンを始めとする種々のポリオレフィン基材用の接着剤としても用いることができる。また、本発明の水性分散体と顔料分散液を混合することで塗料を得ることができ、塗料としても用いることができる。本発明の水性分散体組成物から水性媒体を除去してなる塗膜を接着層として、基材同士を貼り合わせて積層体とすることができる。また、本発明の水性分散体組成物から水性媒体を除去してなる塗膜を塗料層として、基材上に塗布し、積層体とすることができる。本発明の水性分散体組成物は、ポリオレフィン基材用に限定されるものではなく、例えば、その他のプラスチック、木材、金属等にも塗装することができる。ポリオレフィン基材としてはフィルム、シート、成形体等が挙げられる。塗装方法に特別な制限はない。
【0057】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中および比較例中に単に「部」とあるのは質量部を示す。また、本発明で採用した測定・評価方法は以下のとおりである。
【0058】
1)水性分散体組成物の固形分濃度の測定
50mlガラス製秤量瓶にサンプルの水性分散体約1gを採り、精秤した。次いでサンプルを採取した秤量瓶を120℃の熱風乾燥機で2時間乾燥させ、取り出した秤量瓶をデシケーターに入れ、室温で30分放置・冷却した。デシケーターから秤量瓶を取り出し、質量を精秤し、熱風乾燥前後の重量変化(下記式)から水性分散体固形分濃度の質量%を算出した。
水性分散体固形分濃度(質量%)=100-[(熱風乾燥前のサンプル質量)-(熱風乾燥後のサンプル質量)]/(熱風乾燥前のサンプル質量)×100
【0059】
2)水性分散体組成物の粘度の測定
東機産業(株)製“Viscometer TV-22”(E型粘度計)を用い、0.6gのサンプルをローターNo.0.8°(=48’)×R24、レンジH、回転数5rpm、25℃の条件で測定した。
【0060】
3)水性分散体組成物のpHの測定
堀場製作所(株)製“pH meter F-52”を用い、25℃での値を測定した。尚、測定器の校正は富士フイルム和光純薬(株)製、フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)、中性燐酸塩pH標準液(pH:6.86)、ホウ酸塩pH標準液(pH9.18)を用い、3点測定で実施した。
【0061】
4)水性分散体組成物の平均粒子径(Z平均粒子径)の測定
Malvern社製“ゼータサイザー Nano-ZS Model ZEN3600”を用い、動的光散乱法にて、強度分布による平均粒子径(Z平均粒子径)を測定した。水性分散体組成物の固形分を0.05g/Lの濃度に調整したサンプルを25℃で3回測定し、その平均値とした。
【0062】
5)酸変性量の測定
無水マレイン酸で酸変性した場合の酸変性量は、FT-IR(島津製作所社製、FT-IR8200PC)により求めた。まず無水マレイン酸を任意の濃度で溶解させて検量線溶液を作製し、次に検量線溶液のFT-IR測定を行い無水マレイン酸のカルボニル(C=O)結合の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度より検量線を作成した。変性ポリオレフィン(A)をクロロホルムに溶解させてFT-IR測定を行い、前記検量線をもとに無水マレイン酸のカルボニル結合の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度より無水マレイン酸の酸変性量を求めた。
【0063】
6)融点の測定
本発明における融点、融解熱量は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、10℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度から測定した値である。
【0064】
7)ガラス転移温度の測定
樹脂のガラス転移温度(Tg)(℃)はDSCにより融点の測定と同様の条件にて、再度昇温過程での各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0065】
8)変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量
変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量は日本ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance e2695(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF―806 + KF―803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm=紫外線))によって測定した値である。
【0066】
製造例1
1Lオートクレーブに、プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/ブテン=69/31質量%)100質量部、トルエン300質量部及び無水マレイン酸10質量部を入れ、120℃まで昇温した後、ジ-tert-ブチルパーオキサイド1質量部を加え、1時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン-ブテン共重合体とグラフトしていない無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(PO-1、融点72℃、無水マレイン酸の変性量0.6質量%、重量平均分子量80,000)を得た。
【0067】
製造例2
1Lオートクレーブに、プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/ブテン=75/25質量%)100質量部、トルエン300質量部及び無水マレイン酸10質量部を入れ、120℃まで昇温した後、ジ-tert-ブチルパーオキサイド2質量部を加え、1時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン-ブテン共重合体とグラフトしていない無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(PO-2、融点80℃、無水マレイン酸の変性量0.6質量%、重量平均分子量80,000)を得た。
【0068】
製造例3
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイドを5質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(PO-3、融点 72℃、無水マレイン酸の変性量2.0質量%、重量平均分子量50,000)を得た。
【0069】
製造例4
撹拌機を取り付けた1Lオートクレーブに、プロピレン-エチレン共重合体(230℃雰囲気下のMFR=5g/10分)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸10質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド1質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン-エチレン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン共重合体を得た。次いで、2Lのグラスライニング製反応缶に、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン共重合体を100質量部、クロロホルムを1700質量部入れ密閉にした。反応缶内の液を撹拌して分散しながら加温し、缶内温度120℃で1時間溶解した。缶内温度を110℃まで冷却した後に、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサエノエートを0.5質量部添加し、塩素を70質量部導入した。缶内温度を60℃まで冷却し、クロロホルム1400質量部を留去した後に、安定剤としてp-t-ブチルフェニルグリシジルエーテルを4質量部添加した。その後、乾燥することにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体(CPO-1、融点75℃、無水マレイン酸の変性量0.8質量%、塩素含有率20質量%、重量平均分子量103,000)を得た。
【0070】
製造例5
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイドの仕込み量を5質量部に変更した以外は製造例4と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン-エチレン共重合体(CPO-2、融点75℃、無水マレイン酸の変性量2.5質量%、塩素含有率20質量%、重量平均分子量83,500)を得た。
【0071】
以下の実施例および比較例において用いた水分散体の組成を表1に示す。
【0072】
【0073】
[実施例1]
変性ポリオレフィン(PO-1)を100質量部、乳化剤としてEO付加モル数が10のポリオキシエチレンラウリルアミン(B-1)を10質量部、イオン交換水を300質量部、テトラヒドロフランを30質量部、およびトルエン50質量部を撹拌機付きフラスコに入れ、90℃に昇温した後、同温度で1時間、加熱溶解した。次に、N,N-ジメチルエタノールアミン3.5質量部を添加し、同温度で1時間攪拌した。その後、1時間かけて徐々に40℃まで冷却した後、91kPaの減圧度で有機溶剤を留去したのち、ARUFON UC-3920 1.0質量部添加し、性状が表1に示される水性分散体を得た。
【0074】
実施例2~7
表1に示す変性ポリオレフィン(A)とし、乳化剤としてEO付加モル数が10のポリオキシエチレンラウリルアミン(B-1)の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、水性分散体組成物を得た。性状を表1に示す。
【0075】
比較例1、2
表1に示す通り、乳化剤としてEO付加モル数が15のポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル(B-2)をそれぞれ15質量部、35質量部とした以外は実施例1と同様にして、性状が表1に示される水性分散体組成物を得た。
【0076】
比較例3,4
変性ポリオレフィン(PO-3)を100質量部、EO付加モル数が10のポリオキシエチレンラウリルアミン(B-1)の添加量それぞれを25、45質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、組成が表1に示される水性分散体組成物を得た。
【0077】
比較例5
変性ポリオレフィン(CPO-2)を100質量部、EO付加モル数が10のポリオキシエチレンラウリルアミン(B-1)の添加量を35質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、組成が表1に示される水性分散体組成物を得た。
【0078】
比較例6
乳化剤としてEO付加モル数が10のポリオキシエチレンラウリルアミン(B-1)を5質量部、N,N-ジメチルエタノールアミンを0.4質量部に変更した以外は実施例1と同様にして表1に示される水性分散体組成物を得た。
【0079】
<顔料分散液>
水溶性アクリル樹脂4質量部、導電性カーボンブラック2質量部、ルチル型酸化チタン36質量部、イオン交換水を70質量部加え30分撹拌した後、ビーズミルにて30分分散を行った。その後、ウレタン会合型増粘剤を5質量部、レベリング剤2質量部を加え顔料分散液を得た。
【0080】
<塗料組成物の調製>
上記で得られた水性分散体20重量部に上記顔料分散液を38質量部、ポリエステルポリウレタンディスパージョン(三洋化成製 UXA-310 固形分38%)16質量部加えてディスパー撹拌機で10分攪拌した。次いでレベリング剤としてBYK-349を1.0質量部、アルカリ膨潤型増粘剤(ロームアンドハース製 ASE-60)2重量部を滴下し15分攪拌し塗料組成物を得た。塗料組成物について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(ピール強度の評価)
バンパー用ポリプロピレン基材(TYC-1175P-G01 Standard Plaque社製150mm×1000mm×3mm)に上記作製した塗料組成物をスプレーガンにて乾燥塗膜が10μmになるように塗布し、80℃×10分間加熱乾燥した。次に、市販の水性ベース塗料(関西ペイント製レタンPG WBエコ)をスプレーガンにて乾燥塗膜150μmになるように塗布した。その後、該試験体を23℃の環境下で塗装後15分間放置した後、80℃の乾燥炉で30分間焼付乾燥した後、試験片を取り出した。その後、23℃の環境下に72時間試験を放置した後、エー・アンド・デイ社社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分における試験片の剥離強度を測定した。
評価基準
A:剥離強度の数値が1000gf / cm以上の場合
B:剥離強度の数値が700以上1000gf / cm未満の場合
C:剥離強度の数値が500以上700gf/cm未満の場合
D:剥離強度の数値が500gf / cm未満の場合
【0082】
(塗膜の密着性の評価)
バンパー用ポリプロピレン基材((TYC-1175P-G01 Standard Plaque社製150mm×1000mm×3mm)に上記作製した塗料組成物をスプレーガンにて乾燥塗膜が10μmになるように塗布し、80℃×10分間加熱乾燥した。次に、市販の水性ベース塗料(関西ペイント製レタンPG WBエコ)をスプレーガンにて乾燥塗膜35μmになるように塗布した。その後、該試験体を23℃の環境下で塗装後15分間放置した後、80℃の乾燥炉で30分間焼付乾燥した後、試験片を取り出した。
25℃雰囲気下で36時間静置後、塗装面にカッターナイフにて2mm間隔で100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて60°の角度で引き剥がす。新しいセロハン粘着テープを使用して引き剥がしを10回繰り返す。10回繰り返しても塗装面に変化がなかった場合を10点とし、評価はAとした。10回目で剥がれが生じた場合は9点とし、評価はBとした。以下8,7,6点となり1回目で剥がれが生じた場合を0点とし、評価はCとした。
【0083】
(塗膜の耐水性の評価 )
塗膜の密着性の評価と同様の条件で作成した試験片を25℃雰囲気下で36時間静置後、40℃の温水に10日間浸漬させた。塗膜の変化を確認した後、上述の塗膜の密着性の評価を実施した。塗膜に変化が無く、密着性の評価で10点となった場合を良好でAとした。塗膜に変化が無く、密着性の評価で9点となった場合をBとした。塗膜にブリスターが発生したり、密着性の評価で8点以下となった場合を不良でCとした。
【0084】
(貯蔵安定性)
上記作製した塗料組成物200gをポリプロピレン製容器に密閉し、40℃×10日静置保管した。その後、回転粘度計(東機産業製TVB-10M)で保管後の粘度を測定。保存前の粘度との変化率を測定した。
評価基準
A:保管前と保管後の粘度変化率が5%未満
B:保管前と保管後の粘度変化率が5%以上10%未満
C:保管前と保管後の粘度変化率が11%以上20%未満
D:保管前と保管後の粘度変化率が20%以上
【0085】
【0086】
[表2の結果の考察]
実施例1~7で得られた水性分散体組成物は、バンパー用ポリプロピレン基材に対して良好なピール強度、良好な密着性、良好な耐水性を有することが示された。一方、比較例1、2では、窒素含有非イオン系乳化剤(B)を使用しなかったため、耐水性とピール強度が劣る結果となった。また比較例3、4では、変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量が60,000以下であったため、耐水性とピール強度が劣る結果となった。また、比較例5では、α,β-不飽和カルボン酸及び/またはその酸無水物で変性された変性量が1.0質量%未満である変性ポリオレフィン(A)を使用しなかったため、耐水性とピール強度が劣る結果となった。さらに比較例6では、変性ポリオレフィン(A)のZ平均粒子径が200nmより大きく、耐水性とピール強度が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の水性分散体組成物は、難密着なポリオレフィン基材に対して低温(80~90℃)焼き付けにおける高いピール強度、高い密着性、及び良好な耐水性を示す塗膜を与えることができる。このため、水性塗装システムにおける塗装不良率の削減、VOC削減あるいは焼付乾燥炉でのエネルギー消費の削減による地球温暖化の原因となるCO2の削減に、貢献することが可能である。