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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】レーザーマーキング用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/26 20060101AFI20240618BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240618BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240618BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B41M5/26
C08L101/00
C08K3/22
C08K7/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024514588
(86)(22)【出願日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2023030729
【審査請求日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2022143463
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】滝田 宗利
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-179012(JP,A)
【文献】特開2007-98939(JP,A)
【文献】特開平5-42760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)20~70質量%、ガラス繊維(B)20~70質量%及びチタン酸カリウム(C)0.1~10質量%を含有することを特徴とするレーザーマーキング用樹脂組成物。
【請求項2】
チタン酸カリウム(C)が繊維状のチタン酸カリウムであることを特徴とする請求項1に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
【請求項3】
レーザーマーキング用樹脂組成物が、非ハロゲン系難燃剤(D)1~30質量%をさらに含有し、レーザーマーキング用樹脂組成物の曲げ強度が250MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)がポリアミドであることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度及びレーザー印字性に優れたレーザーマーキング用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の識別マーキングは、産業分野において広く用いられている。例えば、製造日、有効期限、企業ロゴ、シリアル番号、型番などを、樹脂製品に付けるために用いられる。これらの印字は、印刷、ホットエンボス、他のエンボス法又はラベル添付を使用する方法などもあるが、特に樹脂製品の場合には、レーザーを使用すると、無接触で非常に速く、高精細な印字が可能である。この方法により、例えばバーコードのようなグラフィックプリントや小さな文字を、高速で、平面でない表面にさえ付けることが可能である。また、この方法では、ラベルや印刷のように剥がれたり、消えたりする心配がない。従って、特に熱可塑性樹脂への識別マーキングでは、その適切な機械的、熱的、電気的及び化学的特性と並び、レーザー印字性の要求が高まっている。
【0003】
熱可塑性樹脂製品は、照射するレーザー光からエネルギーを吸収し、このエネルギーを熱に変換することができ、これにより、材料に変色反応(即ち、印字)を誘発できることが一般に知られている。
【0004】
しかしながら、これまで、多くの熱可塑性樹脂に対して、レーザーを使用して印字することは実際には困難であった。例えば10.6μmの領域の赤外光を放出するCOレーザーは、高出力でも非常に弱いため、判読可能な印字は困難であった。また、ポリウレタンエラストマー及びポリエーテル-エステルエラストマーの場合、エンボスが行われるが、周囲とのコントラストがほとんど生じないため、同様に判読可能な印字にはならなかった。
【0005】
熱可塑性樹脂にレーザー印字するためには、樹脂がレーザー光を吸収することが必要である。レーザー光の吸収性は、樹脂組成物の化学構造や使用されるレーザー波長に依存する。熱可塑性樹脂を構成するポリマーの固有の能力が不十分である場合、レーザー光の吸収を向上させるために、レーザー光の吸収剤のような添加剤を加えるのが一般的である。
【0006】
例えば特許文献1には、ハロゲン含有有機化合物とアンチモン化合物を使用したレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物が提案されている。しかしながら、アンチモン化合物は、毒性があり、発癌性であると疑われている。そのため、アンチモン化合物を含有しないものが求められている。
【0007】
一方、特許文献2には、毒性のあるアンチモンを含有せず、代わりに二酸化チタンと還元剤を配合した安全なレーザーマーキング材料が提案されている。しかしながら、特許文献2のレーザーマーキング材料を実際に樹脂組成物に配合すると、樹脂組成物の機械的特性の低下をもたらすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-98939号公報
【文献】特開平11-1065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、高強度、高剛性でありながら、コントラストの鮮明な文字・記号等が得られ、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品などへのレーザー印字性に優れたレーザーマーキング用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特許文献2のレーザーマーキング材料を配合した樹脂組成物が機械的特性に劣る理由は、樹脂組成物に強化のために通常配合されるガラス繊維が二酸化チタンにより損傷し、曲げ強度などの機械的特性が低下してしまうためであることを見出した。また、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品などの用途では、高い難燃性が要求されるため、樹脂組成物に難燃剤を配合することがあるが、難燃剤の中でも特に非ハロゲン系難燃剤を配合した場合、難燃剤非配合系と比べてもともと機械的特性が低いにもかかわらず、難燃剤の配合により、機械的特性が更に低下してしまうことを見出した。そして、本発明者は、レーザーマーキング材料として特許文献2のような二酸化チタンと還元剤の代わりにチタン酸カリウムを特定の量で使用することにより、樹脂組成物がガラス繊維や非ハロゲン系難燃剤を含有する場合であっても、高い機械的特性を維持しながらコントラストの鮮明なレーザー印字性を有するレーザーマーキング用樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(4)の構成を有するものである。
(1)熱可塑性樹脂(A)20~70質量%、ガラス繊維(B)20~70質量%及びチタン酸カリウム(C)0.1~10質量%を含有することを特徴とするレーザーマーキング用樹脂組成物。
(2)チタン酸カリウム(C)が繊維状のチタン酸カリウムであることを特徴とする(1)に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
(3)レーザーマーキング用樹脂組成物が、非ハロゲン系難燃剤(D)1~30質量%をさらに含有し、レーザーマーキング用樹脂組成物の曲げ強度が250MPa以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
(4)熱可塑性樹脂(A)がポリアミドであることを特徴とする(1)または(2)に記載のレーザーマーキング用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高強度、高剛性でありながら、レーザー印字性に優れたレーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明の樹脂組成物は、非ハロゲン系難燃剤を配合しても機械的特性の低下が少ない。さらに、本発明の樹脂組成物は、カーボンブラック等の着色剤が必須ではないため、幅広い色調に対応可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)に強化のためのガラス繊維(B)を配合した樹脂組成物において、レーザーマーキング材料としてチタン酸カリウム(C)を特定の量で配合したことを特徴とする。
【0014】
熱可塑性樹脂(A)としては、例えばポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリサルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエステル(PEs)、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、フッ素樹脂、ポリアクリレートなどを挙げることができる。なかでもポリアミド、ポリエステルが好ましく、ポリアミドが特に好ましい。熱可塑性樹脂は、上記の1種のみを単独使用してもよいし、数種を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
ポリアミドとしては、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM-5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリ-11-アミノウンデカン酸(ポリアミド11)、およびこれらの構成単位を含む共重合体などを挙げることができる。なかでも、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)が好ましい。ポリアミドは、上記の1種のみを単独使用してもよいし、数種を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
熱可塑性樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物100質量%中、20~70質量%であり、25~65質量%が好ましく、30~65質量%がより好ましく、35~60質量%がさらに好ましい。
【0017】
ガラス繊維(B)としては、例えば、Eガラス(Electrical glass)、Cガラス(Chemical glass)、Aガラス(Alkali glass)、Sガラス(High strength glass)、及び耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られるフィラメント状の繊維を挙げることができる。ガラス繊維(B)としては、平均繊維径が4~50μm程度、カット長が3~6mm程度である汎用品を使用することができる。ガラス繊維(B)の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を使用することができる。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円形、略長円形、略繭形であるものも含み、偏平度が1.3~8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは、例えば短径が1~20μm、長径2~100μm程度のものを使用できる。これらのガラス繊維は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用しても良い。
【0018】
ガラス繊維(B)は、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理されていることが好ましい。カップリング剤で処理したガラス繊維を配合した樹脂組成物は、優れた機械的特性や外観特性の優れた成形品が得られる。また、カップリング剤で未処理の場合は後添加して使用することができる。
【0019】
ガラス繊維(B)の平均繊維径は、好ましくは3~15μmであり、より好ましくは3~10μmであり、さらに好ましくは3~8μmである。ガラス繊維の繊維径は、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面における径である。なお、その断面において最大径および最小径がある場合には、ガラス繊維の繊維径は、最大径を指す。平均繊維径が上記範囲にあると、熱可塑性樹脂とガラス繊維の密着性が向上し、樹脂組成物の機械的特性が向上する。
【0020】
ガラス繊維(B)の含有量は、樹脂組成物100質量%中、20~70質量%であり、25~65質量%が好ましく、30~65質量%がより好ましく、35~60質量%がさらに好ましい。
【0021】
チタン酸カリウム(C)は、KO・nTiO(但し、nは1,2,4,6,8から選ばれた整数)で表されるチタン酸カリウムである。なかでもn=6であるKO・6TiOで表されるチタン酸カリウムは、鮮明で視認性の高いレーザーマーキングを可能にするため好ましい。特に、トンネル構造を有し、遊離カリウムの少ないものが好ましい。チタン酸カリウム(C)は、結晶水を含むものであってもかまわない。また、シラン系、チタン系、アルミニウム系等のカップリング剤で表面処理して使用することもできる。
【0022】
チタン酸カリウム(C)は、繊維状又は粒子状のいずれのものでもよく、両者を併用することもできるが、繊維状のものが好ましい。チタン酸カリウム(C)が繊維状の場合、平均繊維径が0.05~1μmであることが好ましく、0.05~0.9μmがより好ましく、0.05~0.8μmがさらに好ましい。平均繊維径が上記範囲未満ではハンドリング性が悪くなり、またガラス繊維と接触しやすくなることから機械的特性が低下するおそれがあり、上記範囲を超えるとレーザー印字性が低下するおそれがある。平均繊維長は、市販品の入手の容易さの点から1~50μmであることが好ましく、2~40μmがより好ましく、3~30μmがさらに好ましい。
【0023】
チタン酸カリウム(C)が粒子状の場合、平均粒子径が0.5~15μmであることが好ましく、1~13μmがより好ましく、1.5~10μmがさらに好ましい。平均粒子径が上記範囲未満では、ハンドリング性が悪くなり、ガラス繊維と接触しやすくなることから機械的特性が低下するおそれがあり、平均粒子径が上記範囲を超えるとレーザー印字性が低下するおそれがある。
【0024】
チタン酸カリウム(C)の含有量は、樹脂組成物100質量%中、0.1~10質量%であることが必要であり、0.2~8質量%が好ましく、0.3~5質量%がより好ましい。含有量が上記範囲未満では、印字の発現性に劣る。一方、上記範囲を超えて含有させても、印字性の向上は期待できないのみならず、樹脂組成物の機械的特性が低下するおそれがある。
【0025】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物に難燃性を付与する場合、非ハロゲン系難燃剤(D)を含有させることができる。非ハロゲン系難燃剤(D)としては、例えば、リン系難燃剤を使用することができる。リン系難燃剤としては、赤燐系化合物や、ジホスフィン酸金属塩、メラミンとリン酸からなる反応生成物、ホスファゼン化合物及びホスフィン酸誘導体が挙げられ、単独でも複数種を組み合わせても使用することもできる。
【0026】
また、本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物では、非リン系難燃剤も非ハロゲン系難燃剤として使用してもよい。また、リン系難燃剤と非リン系難燃剤を併用してもよい。非リン系難燃剤としては、窒素系難燃剤、シリコン系難燃剤、金属水酸化物、金属ホウ酸化物等が挙げられる。
【0027】
非ハロゲン系難燃剤(D)の含有量は、樹脂組成物100質量%中、1~30質量%が好ましく、3~27質量%がより好ましく、5~24質量%がさらに好ましい。含有量が上記範囲未満では、目標とする高度な難燃性が得られない。また、上記範囲より多いと、物性が低下し、問題となりやすい。また、経済的にも好ましくない。
【0028】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、安定剤をさらに含むことが好ましい。安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの有機系酸化防止剤、熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系などの光安定剤、紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物、ハロゲン化アルカリ金属化合物などを挙げることができる。なかでも、銅化合物が好ましい。安定剤は、1種のみを単独使用してもよいし、数種を組み合わせて使用してもよい。なお、安定剤の含有量は、樹脂組成物100質量%中、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
安定剤として使用可能な銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カルボン酸の銅塩などを挙げることができる。銅化合物は、1種のみを単独使用してもよく、数種を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、耐衝撃や柔軟性のような特性を改質することを目的として、オレフィン系化合物をさらに含むことができる。オレフィン系化合物は、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を有することが好ましい。そのようなオレフィン系化合物として、例えば、変性ポリオレフィン、変性スチレン系共重合体などを挙げることができる。オレフィン系化合物の含有量は、樹脂組成物100質量%中、3質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましい。また、オレフィン系化合物の含有量の上限は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物には、前述のガラス繊維(B)以外に公知の強化材を含むことができる。ここで強化材とは、力学的特性、具体的にはペレットを成形することによって得られた成形品の力学的特性を高めることが可能な物質を意味する。強化材の形状は、特に限定されず、例えば、繊維状であっても粒子状であってもよい。強化材の種類としては、特に限定されず、例えば、針状ワラストナイト、マイカ、タルク、未焼成クレー、ウィスカ(チタン酸カリのウィスカ以外)、炭素繊維、セラミック繊維、シリカ、アルミナ、カオリン、石英、粉末状ガラス(ミルドファイバー)、グラファイト、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、金属粉末などを挙げることができる。強化材は、1種のみを単独使用してもよく、数種を組み合わせて使用してもよい。ガラス繊維(B)以外の強化材の含有量は、樹脂組成物100質量%中、20質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、離型剤、結晶核剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料などの添加剤(E)をさらに含むことができる。これらの添加剤(E)のうち、一つまたは任意の組み合わせを選択して使用することができる。離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコーン、ポリエチレンオキシドなどを挙げることができる。これらの添加剤(E)の含有量は、樹脂組成物100質量%中、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、これらの添加剤(E)の含有量の上限は、樹脂組成物100質量%中、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、前記(A)、(B)、(C)及び(D)成分の合計で、樹脂組成物中の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。なお、前記(A)、(B)、及び(C)成分は必須成分であり、(D)成分は任意成分である。
【0034】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、非ハロゲン系難燃剤(D)を配合した場合であっても、高い機械的特性を維持することができる。具体的には、本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、非ハロゲン系難燃剤(D)1~30質量%をさらに含有する場合であっても、250MPa以上の高い曲げ強度を達成することができる。従って、本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品などの高い難燃性と高い機械的特性を両立することが要求される用途において、特に好適に使用されることができる。
【0035】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば本発明における各成分の配合量を上記の所定の範囲に正確にコントロールできる溶融混練押出法を採用することができる。この方法では、単軸押出機、又は二軸押出機を用いることが好ましい。
【0036】
配合する樹脂ペレットの形状、見かけ比重、摩擦係数などの異なり度が大きい樹脂ペレットを押出機のホッパー部から投入する場合は、熱可塑性樹脂(A)および他の成分を予め混合して押出機のホッパー部に投入し、ガラス繊維(B)、チタン酸カリウム(C)をサイドフィード方式によって投入することが好ましい。
【0037】
本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物からなる成形品あるいはかかる樹脂組成物を印刷、塗布、多重成形等によって被覆された樹脂、セラミック、金属等の成形品は、その所望位置にレーザー光線を照射するだけで、容易に鮮明なマーキングを行なうことができる。所望の形状のマーキングを行うためには、例えば、レーザー光を適当な大きさのスポットにして対象物の表面を走査する方法、レーザー光をマスクすることによって所望形状のレーザー光とし、これを対象物の表面に照射する方法等が挙げられる。使用するレーザーとしては、例えば炭酸ガスレーザー、ルビーレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー等が挙げられる。なかでもNd:YAGレーザーが好ましく、特に好ましくはスキャン式のNd:YAGレーザーが好ましい。
【実施例
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において示した各特性、物性値は、下記の試験方法で測定した。
【0039】
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度(RV):
ポリアミド樹脂の相対粘度は、96%硫酸中、ポリアミド樹脂濃度1g/dlで測定した。
(2)曲げ強度:
曲げ強度は、各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを成形して得られた試験片について、ISO-178に準じて測定した。
(3)レーザー印字性ΔL:
レーザー印字性ΔLは、各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを成形して得られた試験片に対して以下のマーキング条件でレーザーマーキングを行ない、以下の測定方法でマーキング部分と生地部分の色の差ΔLを測定した。
[マーキング条件]
装置:株式会社キーエンス 3-Axis UVレーザマーカ MD-U1000C
印字条件:レーザーパワー 20%;スキャンスピード 1000mm/s;
周波数 40kHz;印字回数 1回
[ΔLの測定]
JIS Z8722に従って、(有)東京電色 精密型分光光度色彩計 TC-1500SXを使用して試験を行ない、レーザー照射により発色したマーキング部分のLと生地部分のLを測定し、下記式からΔLを求めた。
ΔL=(マーキング部分のL)-(生地部分のL)
(4)燃焼性試験:
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを成形して得られた試験片について、UL94に準拠して燃焼性を評価した。なお、試験片の厚みは1.6mmとした。
【0040】
実施例、比較例で用いた原料は、以下の通りである。
(A)熱可塑性樹脂
(A-1):ポリアミド6:東洋紡製「グラマイドT-860」(RV1.9)
(B):ガラス繊維
(B-1):日本電気硝子社製「ECS03T-275H」(繊維径10.5μm、繊維長3mm)
(B-2):日東紡績社製「CS 3DE―456」(繊維径6.5μm、繊維長3mm)
(C):チタン酸カリウム
(C-1):大塚化学株式会社製「ティスモD」(繊維状,繊維径0.5μm、繊維長15μm)
(C-2):JFEミネラル株式会社製「TIBREX RPN」(粒子状、粒径1.5μm)
(C-3):JFEミネラル株式会社製「TIBREX Type-IIM」(粒子状、粒径7μm)
(C’):石原産業株式会社製「PF691」(酸化チタン、粒子状、粒径0.2μm)
(D)非ハロゲン系難燃剤
(D-1)ホスフィン酸アルミニウム塩/三酸化スズ亜鉛/亜リン酸アルミニウム=77/3/20
(E)その他添加剤
(E-1)ステアリン酸マグネシウム(離型剤):淡南化学工業社製「NP-1500」
【0041】
実施例1~10、比較例1~7
表1に示す組成になるように、ガラス繊維及びチタン酸カリウムを除く各成分をタンブラーにて予備混合後、得られた予備混合物を二軸押出機(TEM-1008、L/D=40)のメインフィーダーから供給し、一方、ガラス繊維及びチタン酸カリウムを二軸押出機のサイドフィーダーから供給し、溶融混練(メインバレル温度260℃、吐出量:300kg/hr)した。得られた樹脂組成物を水浴中に吐出してストランドを形成させ、このストランドをストランドカッターでペレタイズして、樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットを乾燥後、上記の方法によって評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から明らかなように、熱可塑性樹脂、ガラス繊維及びチタン酸カリウムを所定量含有する実施例1~10では曲げ強度が高く、レーザー印字のコントラストも鮮明であった。一方、チタン酸カリウムを酸化チタンに置き換えた比較例1~4では曲げ強度(機械的特性)が低下した。この傾向は、ガラス繊維を配合しなかった比較例3において顕著であった。また、チタン酸カリウムを配合しなかった比較例5及びチタン酸カリウムの配合量が少なすぎた比較例6は、レーザー印字性(印字の発現性)に劣っていた。チタン酸カリウムの配合量が多すぎた比較例7は、実施例1~10と比べてレーザー印字性のさらなる向上は見られず、むしろ曲げ強度(機械的特性)が低下した。
【0044】
また、実施例5は、非ハロゲン系難燃剤を配合しているにもかかわらず、非ハロゲン系難燃剤を配合していない実施例1~4,6~10と同レベルの高い曲げ強度(機械的特性)を維持していた。一方、比較例4は、チタン酸カリウムの代わりに酸化チタンを使用した以外は実施例5と同一の配合であるが、曲げ強度(機械的特性)の低下が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高強度、高剛性でありながら、レーザー印字によりコントラストの鮮明な文字・記号等が得られるため、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品などの幅広い用途に適用できる。
【要約】
本発明は、高強度、高剛性でありながら、コントラストの鮮明な文字・記号等が得られ、電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品などへのレーザー印字性に優れたレーザーマーキング用樹脂組成物を提供する。本発明のレーザーマーキング用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)20~70質量%、ガラス繊維(B)20~70質量%及びチタン酸カリウム(C)0.1~10質量%を含有することを特徴とする。熱可塑性樹脂(A)はポリアミドであることが好ましい。