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特許7505705腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240618BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20240618BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240618BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240618BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240618BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240618BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/715
A61P3/10
A61P3/04
A61P1/16
A61P35/00
C07K14/46
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019149688
(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公開番号】P2021029122
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 2018年8月20日 刊行物 日本応用糖質科学会誌「応用糖質科学」第8巻第3号(通巻31号)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2018年9月10日から2018年9月12日 集会名、開催場所 日本応用糖質科学会平成30年度大会(第67回) 秋田県立大学生物資源科学部秋田キャンパス(秋田県秋田市下新城中野字街道端西241-438)
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真範
(72)【発明者】
【氏名】芦田 久
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/103808(WO,A1)
【文献】特開2019-011315(JP,A)
【文献】特開2019-043879(JP,A)
【文献】特開2016-113382(JP,A)
【文献】浅野 クリスナら著,サケ鼻軟骨プロテオグリカンによる腸内細菌叢の改善とEAEの抑制,臨床免疫・アレルギー科,2016年,vol. 65, no. 4,pp. 290-296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
A61K 6/00 -135/00
A61P 1/00 - 43/00
C07K 14/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンを含有する、腸内細菌フローラにおける二次胆汁酸産生菌を含むクロストリジウムクラスターXIVa及びクロストリジウムクラスターXIからなる群より選択される少なくとも1種の脂肪摂取による増加の抑制用組成物。
【請求項2】
前記プロテオグリカンが梅酢抽出プロテオグリカンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記プロテオグリカンが、魚類、哺乳類、軟体動物、及び棘皮動物からなる群より選択される少なくとも1種の生物原料の抽出物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記生物原料が、軟骨、結合組織、腱、角膜、心房、基底膜、脳、皮膚、及びそれらの加工物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
肝炎、肝がん、肥満、糖尿病、及び便臭からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善用である、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
経口摂取用である、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
食品組成物、食品添加剤、健康増進剤、栄養補助剤、又は医薬である、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌フローラ改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
おなかの調子を整える効果や腸内細菌フローラを改善する効果を有する食品、サプリメント等が数多く存在する。例えば、難消化性デキストリン(おなかの調子を整える、排便の改善)、ガラクトオリゴ糖やフルクトオリゴ糖(ビフィズス菌や乳酸菌の増加)、ヨーグルト(便秘や下痢の改善、ビフィズス菌や乳酸菌の増加)、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクス製剤(おなかの調子を整える、便秘や下痢の改善、ビフィズス菌や乳酸菌の増加)等が挙げられる。しかしながら、悪玉菌の抑制効果を明確に謳った食品・サプリメントは存在しない。
【0003】
プロテオグリカンは、動物の細胞外マトリックスを構成する高分子の一種である。プロテオグリカンは、保水性が高く、また、創傷治癒作用、細胞増殖促進作用等の多様な生理機能を有することが知られており、医薬品や実験試薬以外にも、化粧品や飲食品等の幅広い領域での利用が期待できる。また、生物組織からプロテオグリカンを抽出する際に、古くから食品保存液等として用いられてきた梅干し廃液を抽出溶媒として用いることにより、より安全性の高いプロテオグリカンを得ることが可能である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-113382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高脂肪食の摂取により、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスターの割合が増加する。クロストリジウムクラスターには、一次胆汁酸を毒性の高い二次胆汁酸に変換するもの、便の悪臭や腐敗臭(インドールなど)を生成するもの、炎症を惹起するものが多く含まれているため、肝炎~肝がんのみならず肥満・糖尿病などの発症に関与する可能性が示唆されている。
【0006】
そこで、本発明は、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、プロテオグリカン、特に梅酢抽出プロテオグリカンが、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制作用を有することを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. プロテオグリカンを含有する、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制用組成物.
項2. 前記プロテオグリカンが梅酢抽出プロテオグリカンである、項1に記載の組成物.
項3. 脂肪高摂取によるクロストリジウムクラスター増加の抑制用である、項1又は2に記載の組成物.
項4. クロストリジウムクラスターXIVa及びクロストリジウムクラスターXIからなる群より選択される少なくとも1種の抑制用である、項1~3のいずれかに記載の組成物.
項5. 前記クロストリジウムクラスターが二次胆汁酸産生菌を含む、項1~4のいずれかに記載の組成物.
項6. 前記プロテオグリカンが、魚類、哺乳類、軟体動物、及び棘皮動物からなる群より選択される少なくとも1種の生物原料の抽出物である、項1~5のいずれかに記載の組成物.
項7. 前記生物原料が、軟骨、結合組織、腱、角膜、心房、基底膜、脳、皮膚、及びそれらの加工物からなる群より選択される少なくとも1種である、項6に記載の組成物.
項8. 肝炎、肝がん、肥満、糖尿病、及び便臭からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善用である、項1~7のいずれかに記載の組成物.
項9. 経口摂取用である、項1~8のいずれかに記載の組成物.
項10. 食品組成物、食品添加剤、健康増進剤、栄養補助剤、又は医薬である、項1~9のいずれかに記載の組成物.
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】製造例1で得られたプロテオグリカンのHPLC分析チャートを示す。
図2】製造例1で得られたプロテオグリカンをセルロースアセテート膜電気泳動した結果を示す。レーン1はプロテオグリカンスタンダードを示し、レーン2は製造例1のプロテオグリカンを示す。
図3】T-RFLP法による腸内細菌フローラ解析における全体のプロファイルを示す(実施例1)。縦軸は、腸内細菌の構成割合を示す。横軸中、Contは標準食摂取群を示し、HFは高脂肪食摂取群を示し、PGはプロテオグリカンを含む高脂肪食の摂取群を示す。
図4】T-RFLP法による腸内細菌フローラ解析における、Clostridiumクラスター(Clostridium subcluster XIVaと Clostridium cluster XI)の解析結果を示す。縦軸は、Clostridium subcluster XIVa(右図)とClostridium cluster XI(左図)の腸内細菌全体における構成割合を示す。横軸中、Contは標準食摂取群を示し、HFは高脂肪食摂取群を示し、HF+PGはプロテオグリカンを含む高脂肪食の摂取群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本発明は、その一態様において、プロテオグリカンを含有する、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制用組成物(本明細書において、「本発明の組成物」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0013】
プロテオグリカンとしては、コアタンパク質にグリコサミノグリカンが結合してなる化合物であれば特に限定されない。プロテオグリカンとしては、例えばアグリカン、バイグリカン、バーシカン、ニューロカン、デコリン、ビグリカン、フィブロモデュリン、ルミカン、パールカン、シンデカン、セルグリシン、ブレビカン、ケラトカン、ミメカン、バーマカン、アグリン等、或いはこれらの分解物等が挙げられる。
【0014】
プロテオグリカンが部分構造として有するグリコサミノグリカン鎖は、特に限定されない。該グリコサミノグリカン鎖としては、例えばコンドロイチン硫酸鎖、コンドロイチン鎖、ヘパリン、ヘパラン硫酸鎖、ケラタン硫酸鎖、デルマタン硫酸鎖等が挙げられる。また、これらのグリコサミノグリカン鎖は、分岐鎖としてフコース等の糖を含む鎖を有していてもよい。なお、この場合、分岐鎖を構成する糖残基数は1であってもよいし、2以上であってもよい。また、グリコサミノグリカン鎖を構成する糖残基(分岐鎖中のフコース残基等の糖残基も含む)は硫酸化されたものであってもよい。
【0015】
プロテオグリカンの平均分子量は、特に限定されない。プロテオグリカンの平均分子量は、例えば10~3000kDa、好ましくは120~2000kDa、より好ましくは170~1400kDa、さらに好ましくは210~800kDa、よりさらに好ましくは250~500kDaである。なお、プロテオグリカンの平均分子量は、試験例2のように、クロマトグラフィーを用いて分画し、プルランスタンダード等の分子量標品の保持時間と比較することにより、測定することができる。
【0016】
プロテオグリカンは、生物原料の抽出物であることが好ましい。生物原料のプロテオグリカン含有抽出物の製造方法としては、特に限定されず、例えば公知の方法に従った方法、或いは公知の方法に準じた方法を採用することができる。
【0017】
生物原料の由来生物としては、特に制限されず、例えば魚類、哺乳類、アメフラシ等の軟体動物、ナマコ等の棘皮動物等を広く挙げることができる。これらの中でも魚類が好ましい。
【0018】
魚類としては、特に限定されず、硬骨魚類、軟骨魚類等が広く挙げられる。硬骨魚類としては、例えばタラ、マグロ、サケ、マス、カツオ、ヒラメ、ブリ等が挙げられ、軟骨魚類としては、例えばサメ、エイ等が挙げられる。
【0019】
生物原料としては、特に制限されず、例えば軟骨、結合組織、腱、角膜、心房、基底膜、脳、皮膚、それらの加工物等があげられる。これらの中でも、軟骨及びその加工物が好ましい。加工物としては、特に制限されず、例えば組織の乾燥物、破砕物、乾燥破砕物等が挙げられる。乾燥、破砕、小片化等の加工方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。抽出効率等の観点から、生物原料は、組織の加工物が好ましく、溶媒接触面積がより広くなるように加工された加工物がより好ましく、破砕物、乾燥破砕物等がさらに好ましい。
【0020】
魚類の生物原料としては、魚類軟骨及びその加工物が好ましい。該軟骨としては、特に制限されないが、頭部軟骨、中でも鼻軟骨が好ましい。また、魚類が食品製品等へ加工される際に頭部は通常廃棄されることから、頭部軟骨の入手コストは安く、大量に安定供給され得るという利点もある。
【0021】
生物原料は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0022】
プロテオグリカンとしては、人体に対する有害性がより低く、且つ不快臭がより低減されているという観点、さらには腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制作用の観点、善玉菌に対する悪影響が低いという観点等から、梅干し廃液(梅酢)抽出プロテオグリカンが特に好ましい。該プロテオグリカンは、(a)生物原料から梅干し廃液(梅酢)でプロテオグリカンを抽出すること(工程a)を含む製造方法によって得ることができる。以下に該製造方法について説明する。
【0023】
梅干し廃液(梅酢)としては、特に制限されず、白梅干し廃液、赤梅干し廃液等が挙げられる。これらの中でも、プロテオグリカンへの着色を抑えるという観点からは、白梅干し廃液が好ましい。白梅干し廃液は、典型的には、梅干しの製造に際して、梅と食塩とを混合した後、上におもりを載せて数日間(1~5日間)放置することにより得られる。梅干し廃液のpHは、特に制限されないが、例えば1.0~4.0、好ましくは1.5~3.0、より好ましくは1.5~2.5であることができる。梅干し廃液は、原液であってもよいし、水で希釈したものであってもよい。希釈する場合、抽出効率の観点、プロテオグリカンの分解を抑制するという観点、プロテオグリカンへの着色を抑えるという観点等から、1/2~1/3程度に希釈することが好ましい。
【0024】
梅干し廃液は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0025】
プロテオグリカンの抽出は、公知の抽出方法に従って行うことができる。例えば、生物原料と梅干し廃液とを混合した後、(好ましくは撹拌しながら)放置することにより行うことができる。
【0026】
生物原料と梅干し廃液との重量比は、特に制限されないが、生物組織が梅干し廃液に浸漬する程度の重量比であることが好ましい。重量比(生物原料:梅干し廃液)は、具体的には、例えば1:1~1:50、好ましくは1:2~1:10、より好ましくは1:2.5~1:5であることができる。
【0027】
抽出時間は、プロテオグリカンを抽出できる限り特に限定されない。抽出時間は、例えば8~72時間、好ましくは24~60時間、より好ましくは40~56時間であることができる。抽出時間の上限が上記時間であれば、抽出成分中のプロテオグリカンの割合をより高めることができる。
【0028】
抽出温度は、プロテオグリカンを抽出できる限り特に限定されない。抽出温度は、例えば10~40℃、好ましくは15~30℃であることができる。
【0029】
上記工程aにより梅干し廃液(梅酢)抽出プロテオグリカンが得られる。この梅干し廃液(梅酢)抽出プロテオグリカンをそのまま「プロテオグリカン」として利用することもできるし、以下の工程を経て得られたものを「プロテオグリカン」として利用することもできる。
【0030】
工程aに加えて、さらに(b)工程aで得られた抽出物から不溶物(抽出残渣)を除去すること(工程b)を行うことが好ましい。不溶物の除去方法としては特に限定されず、公知の方法、例えばろ過、遠心分離等を採用することができる。
【0031】
得られるプロテオグリカンの純度をより高めるために、上記工程a又は工程bの後に、精製を行ってもよい。精製方法としては、例えばアルコール沈殿、透析、カラム(好ましくは陰イオン交換カラム)クロマトグラフィー、アフニティーカラムクロマトグラフィー、限外ろ過法、電気透析法等が挙げられる。これらの中でも、より簡便であるという観点から、限外ろ過及びアルコール沈殿が好ましい。よって、工程a及びbに加えて、さらに(c)工程b後、限外ろ過及び/又はアルコール沈殿によりプロテオグリカンを精製すること(工程c)を行うことが好ましい。
【0032】
限界ろ過は公知の方法に従って行うことができる。限外ろ過後、アルコール沈殿を行わない場合は、乾燥(例えば、スプレードライ、凍結乾燥等)することが好ましい。限外ろ過により、溶媒、塩等の大半を除去することができ、分子量が大きい物質(プロテオグリカン)を精製することができる。
【0033】
アルコール沈殿は、公知の方法に従って行うことができる。典型的には、工程bを経て得られたプロテオグリカン含有抽出物を、その1~5倍量(好ましくは2~4倍量)のアルコールと混合した後、一定時間放置することにより沈殿を形成させ、その後、遠心分離もしくは吸引濾過して得られたペレットを回収することにより行われる。
【0034】
アルコールは、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されない。アルコールとしては、例えばエタノール、イソプロパノール等が挙げられ、これらの中でも毒性がより低いという観点からはエタノールが好ましく挙げられる。アルコールは1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
アルコールには、塩が含まれていることが好ましい。塩としては、特に限定されず、アルコール沈殿に用いられる通常の塩、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、得られるプロテオグリカン粉末の取扱い性の観点から、酢酸ナトリウムが好ましい。塩は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。アルコール中の塩の濃度は、特に限定されず、アルコール沈殿において採用される通常の塩濃度、例えば塩化ナトリウムの場合はアルコールに対する飽和濃度であることができる。また、酢酸ナトリウムの場合、1~4%程度とすることができる。
【0036】
沈殿を形成させるために放置する際の温度は、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されない。温度は、例えば-80℃~室温程度、好ましくは0~10℃程度であることができる。
【0037】
沈殿を形成させるために放置する時間は、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されず、温度に応じて適宜設定される。時間は、温度が0~10℃である場合であれば、例えば4~24時間、好ましくは8~16時間であることができる。
【0038】
遠心力は、ペレットを形成させることができる限り特に限定されない。遠心力は、例えば700~2500gであることができる。
【0039】
プロテオグリカンは、1種単独で用いることもできるし、任意の2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
本発明の組成物は、腸内細菌フローラにおけるクロストリジウムクラスター抑制に用いるためのものである。クロストリジウムクラスターは、クロストリジア(クロストリジウム綱)全体を意味する。すなわち、本発明の組成物によれば、腸内細菌フローラにおける特定のクロストリジウム細菌ではなく、腸内フローラの全細菌に占める、クロストリジウムクラスター全体の構成割合を抑制することができる。
【0041】
本発明の組成物は、脂肪高摂取による(脂肪過剰摂取による、高脂肪食摂取による)クロストリジウムクラスター増加の抑制、クロストリジウムクラスターXIVa及びクロストリジウムクラスターXIからなる群より選択される少なくとも1種の抑制等に好適に用いることができる。また、クロストリジウムクラスターは二次胆汁酸産生菌を含むことが好ましい。
【0042】
なお、本明細書において、「抑制」とは、単に低減させること、増加を抑止すること(本来であれば増加するところ、増加させないこと)、増加した状態から低減させること等の意味を包含する。好ましくは、「抑制」とは、増加を抑止すること(本来であれば増加するところ、増加させないこと)、増加した状態から低減させることである。
【0043】
本発明の組成物によれば、善玉菌への悪影響を低減しつつも(すなわち、善玉菌を大きく減少させることなく)、悪玉菌であるクロストリジウムクラスターを抑制することも可能であり得る。
【0044】
クロストリジウムクラスターには、一次胆汁酸を毒性の高い二次胆汁酸に変換するもの、便の悪臭や腐敗臭(インドールなど)を生成するもの、炎症を惹起するものが多く含まれているため、肝炎~肝がんのみならず肥満・糖尿病などの発症に関与する可能性が示唆されている。このため、本発明の組成物は、肝炎、肝がん、肥満、糖尿病、及び便臭からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善に用いることができる。なお、「改善」とは、症状又は状態の好転又は緩和、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0045】
本発明の組成物は、各種分野において、例えば食品添加剤、食品組成物(健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)、医薬などとして用いることができる。
【0046】
本発明の組成物は、通常は経口摂取されるが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明の組成物の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0048】
本発明の組成物の形態としては、用途が食品添加剤、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0049】
本発明の組成物の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばラーメン、ハンバーガー、揚げ物、ジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、バターなどの食用油脂、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。食品組成物は、脂肪含有率(カロリー比)が高いものが好ましい。脂肪含有率は、例えば10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上である。
【0050】
本発明の組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品添加剤、食品組成物、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0051】
本発明の組成物におけるプロテオグリカン(有効成分)の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0052】
本発明の組成物の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、その効果を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、プロテオグリカンの乾燥重量として、一般に一日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
製造例1.軟骨組織からのプロテオグリカンの抽出
3mm四方にスライスした魚類鼻軟骨(300 g)を、梅酢を水で1/3に希釈して得られた梅酢希釈液 (900 mL)に浸し、室温にて緩やかに撹拌しながら48時間放置した。得られた混合液をろ紙により濾過して不溶成分を除去した。濾過液に水を加えてから限外ろ過に供して、約200mLの溶液を得た。該溶液に対して3倍量の1.3%酢酸ナトリウムエタノール溶液を加え、4℃にて12時間放置した。得られた沈殿を吸引濾過することにより、白色粉末として回収した。その粉末をエタノールで洗浄し、風乾することにより、プロテオグリカンの粉末(8.9 g)を得た。
【0055】
得られたプロテオグリカンを水に溶解させ、0.1%プロテオグリカン水溶液を調製し、そのうち50μLを高速液体クロマトグラフィー分析に供した。分析条件は下記に示すとおりである。
検出器:示差屈折率計(RI) 5450 RI Detector(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
カラム:TOSOH TSK-gel G5000PWXL
溶出液:0.2M-NaCl
流速:1 mL/min
カラム温度:40℃
結果を図1に示す。保持時間7.520分のところにピークが観測されたことから、その平均分子量は約40万と算出された。なお、平均分子量は、プルランスタンダード(shodex社製、P-82)を用いて算出した。
【0056】
また、上記で調製した0.1%プロテオグリカン水溶液のうち1μLと、別途調製したスタンダード溶液(プロテオグリカンスタンダード)を、泳動用緩衝液である0.1 Mギ酸―ピリジン緩衝液(pH = 3.0)にてあらかじめ浸したセルロースアセテート膜上にスポットした。次いで、そのセルロースアセテート膜を泳動層にのせ1mA/cmにて15分間、電気泳動を行った。泳動後、セルロースアセテート膜をアルシアンブルー染色に供し、70%エタノールで脱色した。
【0057】
結果を図2に示す。得られたプロテオグリカンはスタンダードのプロテオグリカンと同等の移動度を示した。このことから、本抽出方法において確かに目的プロテオグリカンが抽出されたことが分かった。
【0058】
実施例1.マウスへの経口投与試験
C57BL/6Jマウスを3群(各群n=6)に分け、標準食(AIN-93M:脂肪含有率(カロリー比)10%)、高脂肪食(HFD-60:脂肪含有率(カロリー比)60%)、1.5% プロテオグリカンを含む高脂肪食(HFD-60:脂肪含有率(カロリー比)60%)を自由摂取させて、15日間飼育した。なお、一日の摂取量は3~4g であった。この間に、体重増加量は群間で有意な差は認められなかった。15日目に解剖し、盲腸を摘出し、内容物を採取した。盲腸重量にも群間で有意な差は認められなかった。盲腸内容物より全DNAを抽出し、T-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)による腸内細菌フローラ解析に供した。
【0059】
その結果、プロテオグリカンを含む高脂肪食を摂取させた群においては、高脂肪食で顕著に増加する悪玉菌の代表であるClostridium属を含むClostridia(クロストリジウム綱)が顕著に抑制されており、Clostridiaの割合が標準食の摂取群と同程度のレベルにまで低下していた(図3)。T-RFLP法によりClostridiaをさらにいくつかのクラスターに分類して解析したところ、Clostridium subcluster XIVaと Clostridium cluster XIの両方のクラスターについても同様の結果が得られた(図4)。一方、乳酸菌やビフィズス菌等の善玉菌への悪影響は見られなかった。
【0060】
これらのClostridiumクラスターには、一次胆汁酸を毒性の高い二次胆汁酸に変換するもの、便の悪臭や腐敗臭(インドールなど)を生成するもの、炎症を惹起するものが多く含まれているため、肝炎~肝がんのみならず肥満・糖尿病などの発症に関与する可能性が示唆されている。このため、プロテオグリカンの摂取により、Clostridiaの増加が有意に抑制されるため、高脂肪食によるこれらの疾患リスクを低下させる効果が期待できる。
図1
図2
図3
図4