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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】アクティブロードプル測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/28 20060101AFI20240618BHJP
   H03F 3/20 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
G01R27/28 Z
H03F3/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018230466
(22)【出願日】2018-12-08
(65)【公開番号】P2019105636
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2017236546
(32)【優先日】2017-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】石崎 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川辺 健太朗
【合議体】
【審判長】岡田 吉美
【審判官】濱本 禎広
【審判官】素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529029(JP,A)
【文献】特開2004-301562(JP,A)
【文献】特表2016-528769(JP,A)
【文献】米国特許第9331670(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0182424(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部信号源或いは該外部信号源と同期を取った別の外部信号源からの信号の振幅と位相を制御する開ループ回路部と、
前記外部信号源からの信号が入力端子に入力される被測定デバイスの出力信号から抽出した信号の振幅と位相を制御する閉ループ回路部と、
を備え、
前記開ループ回路部の出力の基本波と前記閉ループ回路部の出力の基本波電圧加算によりひとつに合成した擬似反射波を生成し前記被測定デバイスの出力端に注入することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、
電力合成器を更に備え、
前記開ループ回路部は、第1の補助増幅器を有して該第1の補助増幅器により増幅して出力し、
前記閉ループ回路部は、第2の補助増幅器を有して該第2の補助増幅器により増幅して出力し、
前記電力合成器が、前記開ループ回路部の出力と前記閉ループ回路部の出力を合成して前記擬似反射波を生成し前記被測定デバイスの出力端に注入することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【請求項3】
請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、
電力合成器と補助増幅器を更に備え、
該電力合成器が、前記開ループ回路部の出力と前記閉ループ回路部の出力を合成し、
該補助増幅器が、該電力合成器の出力を増幅して前記擬似反射波を生成し前記被測定デバイスの出力端に注入することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波領域で用いる電力増幅器(マイクロ波電力増幅器)の設計手法として好適なアクティブロードプル測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタを用いたマイクロ波電力増幅器で最大出力(又は最高効率)を得るために、ロードプル測定システムを使用した回路設計がよく行われている。通常、トランジスタの最大出力(又は最高効率)は、線形デバイスとして扱うことは出来ない非線形の領域(例えば、出力が飽和に近づいた領域など)で動作させた時に得られる。そのため、実際の入力信号レベルにおいてロードプル測定システムで測定を行い、基本波や高調波に対する最適な負荷インピーダンスを設計することが必要である。一般的に用いられるロードプル測定システムは、トランジスタなどのDUT(Device Under Test (被測定デバイス))の出力端に接続される線路に機械式のパッシブチューナを設けてその負荷インピーダンスを変化させるパッシブロードプル測定システムである。
【0003】
パッシブロードプル測定システムは、パッシブチューナにおいて線路に近接して反射を起こすプローブの位置を機械的(物理的)に変更することで反射波の振幅と位相を変化させるものである。しかし、パッシブチューナによる損失が大きいためDUTに対し大きな反射波の負荷インピーダンスを形成することは難しく、つまり、反射係数Γが1に近いスミスチャートの周辺部を測定することは困難である。また、プローブの位置を変化させて反射波の位相を変化させるため、位相を360度変えるためには装置が大型化し、測定に時間を要し、また、負荷インピーダンスの変化をリアルタイムに観測することができない。
【0004】
これらの問題点を解決するために、アクティブロードプル(Active Load-Pull)測定システムが提案されている。アクティブロードプル測定システムでは、図7(及び図9)に示すように、リファレンスとなる入力信号を可変減衰器121(又は131)と可変移相器122(又は132)で調整し、その調整した信号を補助増幅器123(又は133)で増幅して擬似反射波を形成し、サーキュレータ124(又は134)を介してその擬似反射波をDUTの出力端に注入する。DUTの出力信号(出力波)は、上記サーキュレータ124(又は134)を介して終端抵抗125(又は135)に吸収させる。アクティブロードプル測定システムは、可変減衰器121(又は131)と可変移相器122(又は132)で擬似反射波の振幅と位相を制御するため、理論上、スミスチャート全域の負荷インピーダンスを電子的に(機械的(物理的)制御を含まずに)作り出すことができる。
【0005】
また、アクティブロードプル測定システムは、図7(及び図9)に示すように、ネットワークアナライザ106、方向性結合器107、バイアスT回路108などを用いて構成することができる。DUTの出力端に接続された方向性結合器107により、線路上をDUTから負荷に向かう信号(出力波)と負荷からDUTに向かう信号(反射波)を取り出してネットワークアナライザ106で測定し、それらの比を取ることでDUTから見た負荷の反射係数Γ、すなわち負荷インピーダンスが求められる。従って、負荷インピーダンス(反射係数Γ)のリアルタイムな観測が可能である。
【0006】
従来のアクティブロードプル測定システムは、一般には、開ループ型と閉ループ型に類別される。開ループ型のアクティブロードプル測定システム101Aは、リファレンスとなる入力信号に、図7に示すように外部信号源SGからの信号を用いたり、或いは外部信号源SGと同期を取った別の外部信号源からの信号を用いたりするものである。一方、閉ループ型のアクティブロードプル測定システム101Bは、図9に示すように、抽出器(方向性結合器又はサーキュレータ)130を介してDUTの出力信号の一部を抽出して(取り出して)リファレンスとなる入力信号に用いるものである。
【0007】
開ループ型の利点としては、閉ループ型よりも構成するコンポーネントの数が少ないことが挙げられる。また、擬似反射波を生成する補助増幅器123に要求される仕様も、DUTの最大出力電力と同程度の汎用性の高い一般的な増幅器を用いることが出来るため、比較的に簡単なハードウェア構成で実現可能である。また、システムとして安定して動作する。一方、閉ループ型は、出力電力の変化に対し注入する擬似反射波の強度が追従し、一度、可変減衰器131を設定すれば、ソフトウェア上での精密な制御の必要なく、位相のみを変化させて等高線図に近い円状の曲線を描きながら反射係数Γを測定することが可能である。
【0008】
なお、特許文献1には、本願の上記図7で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムとほぼ同様な構成に加え、擬似反射波を注入する補助増幅器とDUTの間の整合を取るために、それらの間にトランスフォーマを設けた構成が開示されている。特許文献2の図1には、本願の上記図7で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムと基本的構成がほぼ同様なものが開示されており、また、特許文献2の図2aには、本願の上記図9で示した閉ループ型のアクティブロードプル測定システムと基本的構成がほぼ同様なものが開示されている。また、特許文献3の図1には、本願の上記図7で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムと基本的構成がほぼ同様なものが開示されており、特許文献3の図2以下の図には、本願の上記図7で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムとほぼ同様な基本的構成に加え、擬似反射波を注入する補助増幅器とDUTの間の整合を取るために、それらの間に前述したパッシブロードプル測定システムのものと同様なパッシブチューナを設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-271186号公報
【文献】特表2006-528769号公報
【文献】米国特許9213056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の開ループ型及び閉ループ型いずれのアクティブロードプル測定システムも、以下に述べるような実使用上の課題がある。
【0011】
図7に示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムでは、DUTに注入される擬似反射波の振幅は、DUTの出力波の振幅と無関係に注入される。負荷の反射係数ΓLが小さい、すなわち注入する擬似反射波の振幅が小さい時は、注入する擬似反射波の位相変化(振幅一定での位相変化)で、図8に示すように、反射係数Γもあまり変動しない。一方、負荷の反射係数ΓLが大きい、すなわち注入する擬似反射波の振幅をDUTの出力波と同程度に大きくした場合、図8に示すように、反射係数Γが大きく変化し、反射係数ΓLが1を超える状況も発生し得るようになる。
【0012】
従って、開ループ型のアクティブロードプル測定システムでは、スミスチャート全域を測定するには、振幅と位相を細かなステップに設定して、その組み合わせ点で測定を行わなければばらない。また、DUTが破壊等を起こさないように反射係数ΓLが1を超えないようにする必要がある。よって、開ループ型のアクティブロードプル測定システムは、システムの制御が複雑になる。この課題は、特許文献1~3に開示される開ループ型のアクティブロードプル測定システムにおいても、基本的には同様と考えられる。なお、特許文献3においては、パッシブチューナを設けている点でパッシブロードプル測定システムと同様な装置の大型化などの問題点が残る。
【0013】
一方、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムにおける課題は、以下に示すように、実使用上、反射係数Γの大きな領域の測定が難しいことである。
【0014】
図10に、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムの本願発明者が行った実験において、可変減衰器131の設定値を変化させて測定した時の反射係数Γを示す。図10における反射係数Γの変化は、図8に示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムでの反射係数Γの変化とは大きく異なっており、位相の変化にともなって円状の曲線を描き、振幅を変化させることによって等高線図に近い円状の曲線を描くようになる。ここで、実際に実現可能な反射係数Γは0.6程度が最大であり限界である。反射係数Γが1に近いスミスチャートの周辺部に反射係数Γを近づけようとして、可変減衰器131の減衰量を減らしてループ利得を増加させるとループを構成する系が発振するため、それ以上の測定は不可能である。従って、出力電力の等高線図は、図11に示すように、反射係数Γが1に近いスミスチャートの周辺部では得ることができない。
【0015】
本願発明者は、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムにおいての発振の原因は、反射係数Γを1に近づけようとすると、補助増幅器133、サーキュレータ134、抽出器130、DUTの出力端、抽出器130、可変減衰器131、可変移相器132、が形成する閉ループ(以降、「閉ループ系」と称す。)(図12の矢印付き破線)においてその周波数特性により測定周波数(基本波や高調波の周波数)以外で利得が1を超えてしまうこと(図13参照。図中のMは測定周波数の帯域を示す。)と、抽出器130の不十分な方向性による補助増幅器133の出力信号の可変減衰器131への回り込み(図12の矢印付き実線)と、に有ると考え、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムの利点を考慮し、開ループ型のアクティブロードプル測定システムの上記の利点と課題をも考慮し、本願発明を案出した。
【0016】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、測定できる反射係数Γの領域が限定されることをなくすことができ、また、反射係数Γが大きな領域で反射係数Γが1を超えないようにしつつ安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能なアクティブロードプル測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムは、外部信号源或いは該外部信号源と同期を取った別の外部信号源からの信号の振幅と位相を制御する開ループ回路部と、前記外部信号源からの信号が入力端子に入力される被測定デバイスの出力信号から抽出した信号の振幅と位相を制御する閉ループ回路部と、を備え、前記開ループ回路部の出力の基本波と前記閉ループ回路部の出力の基本波電圧加算によりひとつに合成した擬似反射波を生成し前記被測定デバイスの出力端に注入することを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載のアクティブロードプル測定システムは、請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、電力合成器を更に備え、前記開ループ回路部は、第1の補助増幅器を有して該第1の補助増幅器により増幅して出力し、前記閉ループ回路部は、第2の補助増幅器を有して該第2の補助増幅器により増幅して出力し、前記電力合成器が、前記開ループ回路部の出力と前記閉ループ回路部の出力を合成して前記擬似反射波を生成し前記被測定デバイスの出力端に注入することを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載のアクティブロードプル測定システムは、請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、電力合成器と補助増幅器を更に備え、該電力合成器が、前記開ループ回路部の出力と前記閉ループ回路部の出力を合成し、該補助増幅器が、該電力合成器の出力を増幅して前記擬似反射波を生成し前記被測定デバイスの出力端に注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアクティブロードプル測定システムによれば、測定できる反射係数Γの領域が限定されることをなくすことができ、また、反射係数Γが大きな領域で反射係数Γが1を超えないようにしつつ安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムの実験による反射係数Γを示すスミスチャートであって、開ループ回路部の位相の変化による影響を示すものである。
図3】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムの実験による反射係数Γを示すスミスチャートであって、開ループ回路部の振幅の変化による影響を示すものである。
図4】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムの実験で得た出力電力の等高線図のスミスチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムの実験による反射係数Γを示すスミスチャートであって、閉ループ回路部の振幅の変化による影響を示すものである。
図6】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システム構成の変形例を示すブロック図である。
図7】従来の開ループ型のアクティブロードプル測定システムを示すブロック図である。
図8】従来の開ループ型アクティブロードプル測定システムにおいて注入波の振幅と位相を変化させた時のΓを示すスミスチャートである。
図9】従来の閉ループ型アクティブロードプル測定システムを示すブロック図である。
図10】従来の閉ループ型アクティブロードプル測定システムの実験において注入波の振幅と位相を変化させた時のΓを示すスミスチャートである。
図11】従来の閉ループ型アクティブロードプル測定システムの実験において注入波の振幅と位相を変化させた時の出力電力の等高線図のスミスチャートである。
図12】従来の閉ループ型アクティブロードプルシステムのおける閉ループ系と抽出器の不十分な方向性による補助増幅器の出力信号の可変減衰器への回り込みとを示すブロック図である。
図13図12における閉ループ系の利得の周波数特性を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システム1は、外部信号源SGからの信号をDUT(被測定デバイス)の入力端子に入力し、DUTの出力信号に対する最適な負荷インピーダンスを求めるものである。このアクティブロードプル測定システム1は、図1に示すように、開ループ回路部2と閉ループ回路部3と電力合成器4とを備える。また、アクティブロードプル測定システム1は、システム制御部5とネットワークアナライザ6と方向性結合器7とバイアスT回路8とを備えることができる。
【0023】
開ループ回路部2は、外部信号源SG(或いは外部信号源SGと同期を取った別の外部信号源)からの信号の振幅と位相を制御し第1の補助増幅器23で増幅するものである。振幅は可変減衰器21で制御し、位相は可変移相器22で制御することができる。第1の補助増幅器23の出力端子と後述する電力合成器4の間にはサーキュレータ24が設けられ、サーキュレータ24は、第1の補助増幅器23から電力合成器4に向かう信号は通過させ、その逆向きの信号は終端抵抗25に向かわせてそれに吸収させる。
【0024】
閉ループ回路部3は、DUTの出力信号から抽出した信号の振幅と位相を制御し第2の補助増幅器33で増幅するものである。閉ループ回路部3では、DUTの出力信号の一部を抽出して(取り出して)入力信号としているので、閉ループ回路部3の出力電力は、DUTの出力電力に比例した量となる。DUTの出力信号からの抽出は、抽出器(方向性結合器又はサーキュレータ)30で行う。振幅は可変減衰器31で制御し、位相は可変移相器32で制御することができる。第2の補助増幅器33の出力端子と後述する電力合成器4の間にはサーキュレータ34が設けられ、サーキュレータ34は、第2の補助増幅器33から電力合成器4に向かう信号は通過させ、その逆向きの信号は終端抵抗35に向かわせてそれに吸収させる。なお、サーキュレータ34と電力合成器4との間の線路に、上記抽出器30が設けられている。
【0025】
電力合成器4は、開ループ回路部2の出力と閉ループ回路部3の出力を合成してDUTの出力端に注入する擬似反射波を生成するものである。また、電力合成器4では、DUTの出力信号(出力波)は注入する擬似反射波と逆に向かい、分配される。電力合成器4は、例えば、ウィルキンソンカプラなどを用いることができる。
【0026】
システム制御部5は、開ループ回路部2の可変減衰器21と可変移相器22、閉ループ回路部3の可変減衰器31と可変移相器32を一定のアクティブロードプル測定方法の手順に従って制御する。システム制御部5は、アクティブロードプル測定方法の手順をプログラムとして格納しており、その手順をCPUが実行する。
【0027】
ネットワークアナライザ6は、市販の一般的な仕様のものを使用することができる。方向性結合器7は、一般的な仕様のものを使用することができる。DUTの出力端に接続された方向性結合器7により、線路上をDUTから負荷に向かう信号(出力波)と負荷からDUTに向かう信号(反射波)を取り出してネットワークアナライザ6で測定し、それらの比を取ることでDUTから見た負荷の反射係数Γが算出され、反射係数Γから負荷インピーダンスが求められる。従って、負荷インピーダンス(反射係数Γ)のリアルタイムな観測が可能である。バイアスT回路8は、DUTの出力にバイアスをかける一般的な仕様のものを使用することができる。
【0028】
アクティブロードプル測定システム1においては、Γは、以下の(1)式に示すように、電力合成器4からDUTに向かう信号の電圧aのDUTから電力合成器4に向かう信号の電圧bに対する比で表される。
Γ=a/b ・・・(1)
また、電力合成器4からDUTに向かう信号の電圧aは、開ループ回路部2の出力電圧(第1の補助増幅器23の出力電圧)aと閉ループ回路部3の出力電圧(第2の補助増幅器33の出力電圧)aにより、以下の(2)式に示すように表される(ここで、電力合成器4における開ループ回路部2の出力の伝達係数をS、閉ループ回路部3の出力の伝達係数をSとしている)。
a=a・S+a・S ・・・(2)
(2)式におけるa・Sは、以下の(3)式に示すように、DUTから電力合成器4に向かう信号の電圧bに閉ループ回路部3による帰還利得Gを乗じたもので表すことができる。
・S=b・G ・・・(3)
上記(1)式と(3)式を(2)式に代入すると、以下の(2’)式を得ることができる。
b・Γ=a・S+b・G ・・・(2’)
(2’)式を変形すると、以下の(4)式となる。
Γ=(a・S/b)+G ・・・(4)
(4)式より、(a・S/b)が開ループ回路部2による反射係数(ΓLOで表す)を示し、Gが閉ループ回路部3による反射係数を示すことが分かる。(4)式を変形すると、以下の(5)式となる。
G=Γ-ΓLO ・・・(5)
【0029】
従って、閉ループ回路部3による帰還利得Gを大きくしなくても、開ループ回路部2による反射係数ΓLOが有るので、必要な反射係数Γを得ることができる。そして、閉ループ回路部3と電力合成器4とDUTの出力端が形成する閉ループ(発明が解決しようとする課題の欄で述べた閉ループ系と同様な閉ループ)における測定周波数以外での利得が測定周波数での利得よりも大きかったり、抽出器30の不十分な方向性による第2の補助増幅器33の出力信号の閉ループ回路部3内への回り込みが有ったりしても、閉ループ回路部3による帰還利得Gを大きくしなくてもよいので、発振を防止することが可能になる。
【0030】
アクティブロードプル測定システム1を用いたアクティブロードプル測定方法の手順を以下、説明する。
【0031】
先ず、アクティブロードプル測定システム1を用いて本願発明者が行った実験について述べる。実験では、外部信号源SGからの信号は2.45GHzとした。2.45GHzは、マイクロ波加熱用に広く使用されるもので、DUTであるトランジスタの出力インピーダンスは、出力が大きいほど低インピーダンスとなりショートに近くなるため、そのトランジスタを用いて100W以上の電力増幅器を設計するのは容易でないとされるものである。DUTは、住友電工デバイス・イノベーション株式会社製の窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)であるEGN21C020MKである。
【0032】
図2は、開ループ回路部2の振幅と閉ループ回路部3の振幅を固定し、開ループ回路部2の位相を3通り(-30度、0度、30度)変化させ、その変化ごとに閉ループ回路部3の位相を所定角度ずつ計360度変化させて測定した反射係数Γを示すスミスチャートである。図2は、開ループ回路部の位相の変化による影響を示すものである。図中、◆印は開ループ回路部2の位相が-30度で閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、△印は開ループ回路部2の位相が0度で閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、●は開ループ回路部2の位相が30度で閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、の反射係数Γを示す。開ループ回路部2の位相を-30度、0度、30度と変化させると、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円形(閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたことにより形成する円形)は、同じ直径のまま、図中の矢印付き実線が示すように、回転する動きを見せる。このように、開ループ回路部2の位相を変化させると、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円形は、同じ直径のまま回転する動きを見せる。
【0033】
図3は、開ループ回路部2の位相と閉ループ回路部3の振幅を固定し、開ループ回路部2の振幅を4通り(可変減衰器21の減衰量が31.5dB、25dB、20dB、1.5dB)変化させ、その変化ごとに閉ループ回路部3の位相を所定角度ずつ計360度変化させて測定した反射係数Γを示すスミスチャートである。図3は、開ループ回路部の振幅の変化による影響を示すものである。図中、●印は開ループ回路部2の可変減衰器21の減衰量が31.5dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、△印は開ループ回路部2の可変減衰器21の減衰量が25dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、◆印は開ループ回路部2の可変減衰器21の減衰量が20dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、□印は開ループ回路部2の可変減衰器21の減衰量が1.5dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、の反射係数Γを示す。開ループ回路部2の振幅を可変減衰器21の減衰量が31.5dB、25dB、20dB、1.5dBとなるようにして変化させると、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円形(閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたことにより形成する円形)は、直径を変えながら、図中の矢印付き実線で示すように、中央(Γ=0)の付近(開ループ回路部2の振幅が小さいとき)から外枠の円(Γ=1の円)付近(開ループ回路部2の振幅が大きいとき)までの直線的な動きを見せる。このように、開ループ回路部2の振幅を変化させると、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円形は、直径を変えながら中央の付近から外枠の円付近までの直線的な動きを見せる。
【0034】
閉ループ回路部3の振幅を固定し、開ループ回路部2の位相と振幅を複数通り変化させ、その変化ごとに閉ループ回路部3の位相を所定角度ずつ計360度変化させて反射係数Γを測定し続けると、閉ループ回路部2の振幅が固定されているにもかかわらず反射係数Γのデータの形成する円形の直径は非常に小さくなるものが現れる。図3の□印の反射係数Γのデータの形成する円形は、それを示している。この場合、反射係数Γのデータの形成する円形の中心点がDUTの出力インピーダンスの共役点の付近に来ており、DUTの出力インピーダンスの共役点の付近では、最適に近い電力が注入されているため、閉ループ回路3の位相を変えたときの反射係数Γの変動範囲が小さくなっている。
【0035】
従って、開ループ回路部2の位相と振幅を複数通り変化させて、反射係数Γのデータの形成する円形の直径が小さいものを選択してそのときの開ループ回路部2の位相と振幅に固定すれば、それらによって測定できる反射係数Γの領域が限定されることをなくすことができる。そして、それから閉ループ回路部3の振幅を変化させると、反射係数Γのデータの形成する円形の直径を変化させることができる(下記の図5参照)ので、最大出力を得ることが可能である反射係数Γの範囲を集中的にかつ不要な範囲を除いて反射係数Γを変化させることができる。その結果、反射係数Γが大きな領域で反射係数Γが1を超えないようにしつつ、図4で示すような、出力電力の等高線図を得ることができる。
【0036】
なお、図5は、閉ループ回路部3の振幅を変化させたときの反射係数Γの動きの理解のために参考に示すものである。図5は、開ループ回路部2の振幅と位相を固定し、閉ループ回路部3の振幅を3通り(可変減衰器31の減衰量が3dB、6dB、12dB)変化させ、その変化ごとに閉ループ回路部3の位相を所定角度ずつ計360度変化させて測定した反射係数Γを示すスミスチャートである。図5は、閉ループ回路部の振幅の変化による影響を示すものである。図中、△印は可変減衰器31の減衰量が3dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、◆印は可変減衰器31の減衰量が6dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、□印は可変減衰器31の減衰量が12dBで閉ループ回路部3の位相を計360度変化させたとき、の反射係数Γを示す。閉ループ回路部3の振幅を可変減衰器31の減衰量が3dB、6dB、12dBとなるようにして変化させると、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円形は同心のまま直径が狭まる動きを見せる。このように、閉ループ回路部3の振幅を変化させると、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円形は同心のまま直径が変化する動きを見せる。
【0037】
アクティブロードプル測定方法は、このようなアクティブロードプル測定システム1の特性を利用したもので、その手順は、以下のような第1の手順と第2の手順とすることができる。
【0038】
アクティブロードプル測定方法の第1の手順は、図2及び図3で示したようにして、開ループ回路部2の振幅と位相を複数通り変化させ、その変化ごとに反射係数Γを測定した後、複数個の反射係数Γの測定値から固定する開ループ回路部2の振幅と位相を決めるものである。このとき、開ループ回路部2は、図2及び図3で示したように、開ループ回路部2の振幅と位相の変化ごとに、その振幅を一定値に固定し位相を所定角度ずつ計360度変化させるようにすることができる。
【0039】
アクティブロードプル測定方法の第2の手順は、開ループ回路部2の振幅と位相を固定し、閉ループ回路部3の振幅を複数通り変化させ、その変化ごとに閉ループ回路部3の位相を所定角度ずつ計360度変化させて各々の反射係数Γとそのとき出力電力を測定した後、最大出力を得る反射係数Γを求めるものである。このとき、スミスチャート上に図4で示したような出力電力の等高線を記入して最大出力を得る反射係数Γを求めることができる。
【0040】
このようなアクティブロードプル測定システムを用いれば、第1の手順により、閉ループ回路部3と電力合成器4とDUTの出力端が形成する閉ループ(発明が解決しようとする課題の欄で述べた閉ループ系と同様な閉ループ)における測定周波数以外での利得が測定周波数での利得よりも大きかったり、抽出器30の不十分な方向性による第2の補助増幅器33の出力信号の閉ループ回路部3内への回り込みが有ったりしても、閉ループ回路部3による帰還利得Gを大きくしなくてもよいので、発振を防止することができ、よって、測定できる反射係数Γの領域が限定されることをなくすことができる。また、閉ループ回路部3の出力電力は、DUTの出力電力に比例した量となるので、このアクティブロードプル測定システムを用いれば、第2の手順により、反射係数Γが大きな領域で反射係数Γが1を超えないようにしつつ安定的に測定できる。また、このアクティブロードプル測定システムは、全て電子的な制御であり、機械的(物理的)制御を含んでいないので、システムとして簡素化及び低コスト化が可能である。
【0041】
次に、アクティブロードプル測定システム1を変形したアクティブロードプル測定システム1’について説明する。アクティブロードプル測定システム1は、上記のように、開ループ回路部2の第1の補助増幅器23と閉ループ回路部3の第2の補助増幅器33を有しているが、アクティブロードプル測定システム1’では、以下に述べるように、1つの補助増幅器9で済むようにしている。すなわち、このアクティブロードプル測定システム1’は、図6に示すように、開ループ回路部2’と閉ループ回路部3’と電力合成器4’と補助増幅器9を備える。また、アクティブロードプル測定システム1’は、アクティブロードプル測定システム1と同様なシステム制御部5と方向性結合器6とネットワークアナライザ7とバイアスT回路8とを備えることができる。
【0042】
開ループ回路部2’は、外部信号源SG(或いは外部信号源SGと同期を取った別の外部信号源)からの信号の振幅と位相を制御するものである。振幅は上記の可変減衰器21で制御し、位相は上記の可変移相器22で制御することができる。閉ループ回路部3’は、DUTの出力信号から抽出した信号の振幅と位相を制御するものである。DUTの出力信号からの抽出は、上記の抽出器30で行い、振幅は上記の可変減衰器31で制御し、位相は上記の可変移相器32で制御することができる。
【0043】
電力合成器4’は、開ループ回路部2の出力と閉ループ回路部3の出力を合成するものである。補助増幅器9は、電力合成器4’の出力を増幅してDUTに注入する擬似反射波を生成するものである。補助増幅器9の出力端子とDUTの間にはサーキュレータ10が設けられ、サーキュレータ10は、補助増幅器9からDUTに向かう信号は通過させ、その逆向きの信号は終端抵抗11に向かわせてそれに吸収させる。なお、サーキュレータ10とDUTとの間の線路に、上記の抽出器30が設けられている。
【0044】
アクティブロードプル測定システム1’は、開ループ回路部2の代わりに開ループ回路部2’、閉ループ回路部3の代わりに閉ループ回路部3’、を用いることにより、アクティブロードプル測定システム1と同様に、上記のアクティブロードプル測定方法を用いることができる。
【0045】
アクティブロードプル測定システム1’は、補助増幅器が1台で済むことから、システムとして更なる簡素化及び低コスト化が可能である。
【0046】
以上、本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムについて説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載する事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、上記の実験では、2.45GHz(基本波)について行ったものであるが、その高調波についても適用可能である。また、その他の周波数の基本波、高調波についても適用可能であることは言うまでもない。また、基本波と高調波、或いは、高調波同士を同時に測定できることも言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1、1’ アクティブロードプル測定システム
2、2’ 開ループ回路部
21 可変減衰器
22 可変移相器
23 第1の補助増幅器
24 サーキュレータ
25 終端抵抗
3、3’ 閉ループ回路部
30 抽出器
31 可変減衰器
32 可変移相器
33 第2の補助増幅器
34 サーキュレータ
35 終端抵抗
4、4’ 電力合成器
5 システム制御部
6 ネットワークアナライザ
7 方向性結合器
8 バイアスT回路
9 補助増幅器
10 サーキュレータ
11 終端抵抗
SG 外部信号源
DUT 被測定デバイス
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