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  • 特許-IH/直火両用の調理容器 図1
  • 特許-IH/直火両用の調理容器 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】IH/直火両用の調理容器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20240618BHJP
   A47J 36/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A47J27/00 107
A47J36/02 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019152647
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021029574
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 萩乃
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-313549(JP,A)
【文献】特開2018-121843(JP,A)
【文献】特開平11-206558(JP,A)
【文献】特開2004-000379(JP,A)
【文献】特開2001-346695(JP,A)
【文献】特開2009-097077(JP,A)
【文献】特開2012-149325(JP,A)
【文献】米国特許第05411014(US,A)
【文献】国際公開第2013/115176(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00-27/13
A47J 27/20-29/06
A47J 33/00-36/42
H05B 6/12
B65D 1/00-90/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正円形の底部と側壁部とを備えた容器形状であり、
前記底部は外面側の一層の導電体層と、内面側の塗料層とが積層されて成るものであり、
前記塗料層に放射材が含有されており、
前記底部において、前記導電体層が他の箇所よりも肉厚が相対的に薄い薄肉部と、前記薄肉部以外の部位とを備えており、
前記薄肉部の肉厚はIH調理器の加熱コイルとのインピーダンスマッチングがとれる範囲内であり、
前記薄肉部は高周波磁界で励起された渦電流を発生させて発熱するものであり、
前記薄肉部と前記薄肉部以外の部位とが前記底部の周方向に沿って交互に形成されていることを特徴とするIH/直火両用の調理容器。
【請求項2】
前記塗料層がシリコーン塗料層であることを特徴とする請求項1に記載のIH/直火両用の調理容器。
【請求項3】
前記放射材が炭素系黒色顔料であることを特徴とする請求項1又は2に記載のIH/直火両用の調理容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IH調理器だけでなくガスコンロ等の直火式調理器にも対応し、食材に焦げが生じずに安全に調理を行うことができ、且つ使い捨てできるIH/直火両用の調理容器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁調理器やIH調理器と称される加熱調理器が広く普及している。この調理器は内部に設けた電磁誘導加熱コイルにより高周波磁界を発生させ、調理用容器に誘起させた渦電流によるジュール熱を利用して食材を加熱するものである。
近年では鍋焼きうどん用等として市販されているアルミニウム製の簡易調理なべにおいて、ガスコンロ等の直火式調理器だけでなくIH調理器にも対応したものが市販されている。
【0003】
本願発明者は、導電体層と誘電体層から成るIH調理器用発熱シート及びこの発熱シートを保持する保持具を開発した(特許文献1)。使用者は保持具をIH調理器の誘導加熱部に置き、容器形状に折り込んだ発熱シートを保持具の内部に挿入し保持させて使用する。
しかし、特許文献1の技術によると発熱シートからの直接伝熱によって食材が部分的に焦げてしまうという問題や、発熱シートの温度が高くなり過ぎてしまい、IH調理器の温度コントロールが困難になるという問題がある。
そこで、本願発明者は上から順に塗料層、導電シート、シリコーンシートを積層すると共に塗料層とシリコーンシートに放射材を含有させたIH調理器用発熱シートを開発した(特許文献2)。
この発熱シートによれば導電シートの熱を放射材が放射するので食材の部分的な焦げを防止でき、また、発熱シートの温度が高くなり過ぎてしまう事態を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5788557号公報
【文献】特開2018-121843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術でも以下のような問題がある。
ガスコンロ等の直火を使用する場合には特許文献1及び2に記載した保持具を使用できないという問題がある。
また、IH調理器で容器内に水等を入れて調理する場合、容器の変形を防ぐべく容器の肉厚を増して剛性を高める必要があるが、肉厚を増し過ぎると容器とIH調理器の加熱コイルとのインピーダンスマッチングがとれなくなり、加熱不能になるという問題がある。
また、上述した鍋焼きうどん用の簡易調理なべのようにアルミニウム製の容器を使用する場合、食材を入れずに空焚きした場合には容器が簡単に燃えてしまうという安全上の問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を考慮して、IH調理器だけでなくガスコンロ等の直火式調理器にも対応し、食材に焦げが生じずに安全に調理を行うことができ、且つ使い捨てできるIH/直火両用の調理容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のIH/直火両用の調理容器は、正円形の底部と側壁部とを備えた容器形状であり、前記底部は外面側の一層の導電体層と、内面側の塗料層とが積層されて成るものであり、前記塗料層に放射材が含有されており、前記底部において、前記導電体層が他の箇所よりも肉厚が相対的に薄い薄肉部と、前記薄肉部以外の部位とを備えており、前記薄肉部の肉厚はIH調理器の加熱コイルとのインピーダンスマッチングがとれる範囲内であり、前記薄肉部は高周波磁界で励起された渦電流を発生させて発熱するものであり、前記薄肉部と前記薄肉部以外の部位とが前記底部の周方向に沿って交互に形成されていることを特徴とする。
また、前記塗料層がシリコーン塗料層であることを特徴とする。
また、前記放射材が炭素系黒色顔料であることを特徴とする。

【発明の効果】
【0008】
本発明では導電体層の表面に塗料層を備えており、塗料層が放射材を含有している。IH調理器又は直火式調理器で加熱すると導電体層、特に薄肉部が高温になるが、その熱を放射材が主に赤外の電磁波に変換して熱平衡を維持するので食材を焦がすことなく適温で調理できる。また、空焚きの状態でも調理容器が燃えてしまう事態を防止でき、安全に調理できる。
また、導電体層の材質にもよるが最も一般的なアルミニウムを使用した場合には使用後の調理容器を燃えるゴミとして使い捨てすることができる。
塗料層をシリコーン塗料層にすることで塗料層と導電体層との密着性や耐熱性を向上させることができる。
また、放射材として炭素系黒色顔料を用いることにすれば遠赤外線効果により食材をより美味しく調理できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】IH/直火両用の調理容器のA-A線断面図(a)、平面図(b)及び底面図(c)
図2】薄肉部の形状の変形例を示す平面図(a)及び(b)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のIH/直火両用の調理容器について説明する。なお、以下の説明において「IH/直火両用の調理容器」を単に「調理容器」と表記する場合がある。
図1(a)~(c)に示すように調理容器1は底部10と側壁部20とを備えた容器形状である。調理容器1の形状としては内部に食材を入れるための凹部30を備えていればよく、平面視した場合に正円形に限らず楕円形や四角形等の多角形でもよい。
【0011】
調理容器1は外面側の導電体層40と、内面側の塗料層50とを少なくとも備える。
導電体層40はアルミ箔等に代表される金属箔から形成される。詳しい説明は後述するが、調理容器1の底部10をIH調理器の誘導加熱部に置いてIH調理器を作動させると、底部10のうち薄肉部11において高周波磁界で誘起された渦電流が発生して薄肉部11が発熱する。
【0012】
塗料層50は導電体層40との密着性や耐熱性の観点からシリコーン塗料により形成されていることが好ましい。シリコーン塗料は例えばシリコーンゴムなどからなる。塗料層50はアクリルアルコキシシランやその他のアルコキシシラン等をモノマー成分として含む液状シリコーンなどからなるシリコーンプライマーを用いて導電体層40に貼着される。シリコーン塗料以外には例えばフッ素樹脂コーティングが挙げられる。
塗料層50には放射材が含有されている。放射材は導電体層40の熱を外部に放射することで食材を加熱すると共に、導電体層40の直接伝熱によって食材が焦げてしまう事態を防止するために用いられる。塗料層50に放射材を含有させることでIH調理器又は直火式調理器を用いて凹部30に食材が入っていない空焚きの状態で加熱した場合でも導電体層40が溶融温度に達する前にその熱を主に赤外の電磁波に変換し、熱平衡を維持できるので調理容器1が燃えてしまう事態を防止できる。
【0013】
放射材としては、特に制限されないが炭素系黒色顔料、酸化物系黒色顔料など、公知の黒色顔料を使用することが好ましい。
例えば炭素系黒色顔料としては、カーボンブラック、ランプブラック、植物黒、骨黒、黒鉛等を挙げることができ、酸化物系黒色顔料としては、マグネタイト、銅-クロム複合酸化物、銅-クロム-亜鉛複合酸化物などを挙げることができる。本発明においては特に食品用途に使用する観点から、炭素系黒色顔料、特にカーボンブラックが好ましい。炭素系黒色顔料を使用することで遠赤外線効果により食材をより美味しく調理できる。
塗料層50の厚みは一般的には1~25μm程度が好ましい。厚みが薄すぎると放射による食材加熱が不十分となり、焦げを生じ易くなる。また、過度に厚いと塗料層50が導電体層40から剥離しやすくなるおそれがある。
【0014】
底部10には薄肉部11が形成されている。薄肉部11とは底部10のうち他の部位12よりも肉厚が相対的に薄い部位を指す。薄肉部11の肉厚は高周波抵抗分を上げて渦電流密度を増加させ、IH調理器の加熱コイルとのインピーダンスマッチングがとれる範囲内に収める必要がある。薄肉部11の肉厚を加熱コイルとのインピーダンスマッチングがとれる範囲内に収めることで、IH調理器を作動させた際に高周波磁界で誘起された渦電流が薄肉部11に発生して発熱する。
底部10のうち薄肉部11以外の部位12の肉厚を薄肉部11の肉厚よりも厚くすることで底部10の剛性を高めることができ、凹部30に食材を入れた際の調理容器1の変形を抑制できる。底部10のうち薄肉部11以外の部位12はIH調理器によっては発熱しにくいが、直火式調理器による加熱では発熱する。
【0015】
薄肉部11の肉厚と薄肉部11以外の部位12の肉厚の好ましい範囲は、導電体層40の材質、底部10の面積等によって変動するため一概には言えないが、仮に導電体層40をアルミニウムとして、底部10の直径を15cm程度とした場合には薄肉部11の肉厚を5μm~60μm程度、薄肉部11以外の部位12の肉厚を50μm~150μm程度にするのが好ましい。
薄肉部11は食材を充分に加熱できる形状や面積であれば特に制限されず、例えば図2(a),(b)に示す形状が挙げられる。薄肉部11の形成方法は特に限定されないが、例えばレーザを利用した除去加工を用いることができる。
【0016】
側壁部20は凹凸を備えない平面で構成してもよく、或いは例えばひだ折り等の屈曲箇所を多数設けることで調理容器1の剛性を高めてもよい。また、剛性を高めるために側壁部20の上端から外側にのびるフランジ部21を設けてもよい。側壁部20の上下方向の高さを大きくすることで調理容器1を深鍋として利用でき、高さを小さくすることで浅鍋やフライパンとして利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、IH調理器だけでなくガスコンロ等の直火式調理器にも対応し、食材に焦げが生じずに安全に調理を行うことができ、且つ使い捨てできるIH/直火両用の調理容器であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0018】
1 調理容器
10 底部
11 薄肉部
12 他の部位
20 側壁部
21 フランジ部
30 凹部
40 導電体層
50 塗料層




図1
図2