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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】薄膜人工皮膚
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/14 20060101AFI20240618BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G01L1/14 J
G01L1/14 L
G01L5/00 101Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020087970
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181946
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月30日に日本生体医工学会関東支部若手研究者発表会2019抄録集にて発表 令和1年11月30日に日本生体医工学会関東支部若手研究者発表会2019にて発表 令和2年3月26日にIIP2020情報・知能・精密機器部門(IIP部門)講演会のウエブサイト上において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】土方 亘
(72)【発明者】
【氏名】松本 爽
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-529884(JP,A)
【文献】特開2012-145407(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022258(WO,A1)
【文献】特開昭53-033651(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103828082(CN,A)
【文献】西独国特許出願公開第02829225(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26
G01L 5/00-5/28
G01D 5/00-5/252
5/39-5/62
A61L 27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極膜と誘電エラストマー膜とエレクトレット膜と下部電極膜と積層してなり、検出処理部において、上記上部電極膜と上記下部電極膜との間の静電容量が上記上部電極膜への接触により変化することにより生ずる上記エレクトレット膜からの電荷の移動量として上記上部電極膜への接触情報を検出する薄膜人工皮膚であって、
上記検出処理部は、上記上部電極膜と上記下部電極膜に外部接続された複数の検出抵抗を備え、上記複数の検出抵抗と上記上部電極膜への接触位置に応じて変化する内部抵抗との比から上記上部電極膜への接触位置情報を検出することを特徴とする薄膜人工皮膚
【請求項2】
上記検出処理部は、
上記上部電極膜と上記下部電極膜の4隅に外部接続された4個の検出抵抗を備え、
上記上部電極膜の中央を原点としたXY座標上において、上記4個の検出抵抗における降下電圧Vを左上部より反時計回り(i=1、2、3、4)にV、V、V、Vとして、上記上部電極膜への接触位置座標(X 、Y)情報を次の(1)式、(2)式により、得ることを特徴とする請求項に記載の薄膜人工皮膚。
【数1】
【請求項3】
上記検出処理部は、
上記接触位置座標(X、Y)における接触押圧力(F) 情報を次の(3)式により、得ることを特徴とする請求項に記載の薄膜人工皮膚。
【数2】
【請求項4】
上記上部電極膜と上記下部電極膜は、カーボンブラック含有エラストマー膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の薄膜人工皮膚。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトと協働するロボット等の触覚センサとして機能する薄膜人工皮膚に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療や福祉,生産現場などにおいて人との協働作業を目的としたソフトロボットの研究・開発が進められている。これらソフトロボットには人との接触を検出するための触覚センサが必要であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、従来の触覚センサは硬く、厚みがあり検出範囲が小さいため、ソフトロボットに搭載するには課題が多い。さらに、人間とロボットの接触はロボットの体表面で生じるが、ロボットが接触を理解しデータとして取得するには、触覚センサをロボット全体に搭載する必要がある。
【0004】
そこで近年、柔軟で検出範囲の大きいセンサとして、圧電素子、磁気、生体音響や静電容量を利用した人工皮膚の研究が行われている。中でもNittalaらは厚さ約1mmの投影型静電容量方式を利用した複数の位置検出が可能なオンスキンセンサを開発した(例えば、非特許文献2参照)。また、Zirkiらはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた圧電型の柔軟なセンサを提案し、センサが湾曲した状態でも接触による出力電圧が線形性を保持し、検出が可能であることを確認した(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】T.Mukai, S.Hirano, H.Nakashima, Y.Kato, “Development of a Nursing-Care Assistant Robot RIBA That Can Lift a Human in Its Arms”, IEEE International Conference on Intelligent Robots and Systems, Vol. 10-1109, pp. 5996-6001, 2010.
【文献】Keer, L.M., Knapp, W., and Hocken, R.,“Resonance Effects for a Crack Near a Free Surface”, Transactions of the ASME, Journal of Applied Mechanics, vol.51-1, pp.65-69, 1986.
【文献】M. Zirkl, G. Scheipl, B. Stadlober, C. Rendl, P. Greindl, M. Haller, P.Hartmann, “PyzoFlex: a printed piezoelectric pressure sensing foil for human machine interfaces”, SPIE Organic Photonics + Electronics, Vol.8831, No. 24, pp.1-8, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先に提案された静電容量方式のセンサでは、電界を形成し続けるために外部電源を必要とするという課題がある 。また、圧電型のセンサでは、センサを丸めたり、ロボットの形状に沿わせることに適していないという課題がある 。さらに、これら従来方式の触覚センサでは、柔軟性を確保することができ位置検出可能であるが、薄膜化や配線の簡易化などにおいて課題がある 。
【0007】
そこで、本発明は、柔軟性のある薄膜で、なおかつ入力動作に外部電源を必要としない、触覚機能を有する大面積の薄膜人工皮膚を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、電荷を打ち込み半永久的に帯電させた誘電体からなるエレクトレット素子に着目し、エレクトレット膜からの電荷の移動量として接触情報を検出する触覚機能を有する薄膜人工皮膚を実現した。
【0011】
すなわち、本発明は、上部電極膜と誘電エラストマー膜とエレクトレット膜と下部電極膜と積層してなり、検出処理部において、上記上部電極膜と上記下部電極膜との間の静電容量が上記上部電極膜への接触による変化することにより生ずる上記エレクトレット膜からの電荷の移動量として上記上部電極膜への接触情報を検出する薄膜人工皮膚であって、上記検出処理部は、上記上部電極膜と上記下部電極膜に外部接続された複数の検出抵抗を備え、上記複数の検出抵抗と上記上部電極膜への接触位置に応じて変化する内部抵抗との比から上記上部電極膜への接触位置情報を検出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る薄膜人工皮膚において、上記検出処理部は、上記上部電極膜と上記下部電極膜の4隅に外部接続された4個の検出抵抗を備え、上記上部電極膜の中央を原点としたXY座標上において、上記4個の検出抵抗における降下電圧Vを左上部より反時計回り(i=1,2,3,4)にV、V、V、Vとして、上記上部電極膜への接触位置座標(X、Y)情報を次の(1)式、(2)式により、得るものとすることができる。
【数1】
【0013】
また、本発明に係る薄膜人工皮膚において、上記検出処理部は、上記接触位置座標(X,Y)における接触押圧力(F)情報を次の(3)式により、得るものとすることができる。
【数2】
【0014】
さらに、本発明に係る薄膜人工皮膚において、上記上部電極膜と上記下部電極膜は、カーボンブラック含有エラストマー膜であることものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、上部電極膜と誘電エラストマー膜とエレクトレット膜と下部電極膜を積層した構造により、検出処理部において上記上部電極膜と上記下部電極膜との間の静電容量が上記上部電極膜への接触による変化することにより生ずる上記エレクトレット膜からの電荷の移動量として上記上部電極膜への接触情報を検出する触覚機能を実現し、上記上部電極膜と上記下部電極膜に外部接続された複数の検出抵抗を備える検出処理部により、上記複数の検出抵抗と上記上部電極膜への接触位置に応じて変化する内部抵抗との比から上記上部電極膜への接触位置情報を検出することができ、柔軟性のある薄膜でなおかつ入力動作に外部電源を必要としない、触覚機能を有する大面積の薄膜人工皮膚を提供することができる。
【0017】
また、本発明に係る薄膜人工皮膚では、上記上部電極膜と上記下部電極膜に外部接続された複数の検出抵抗を備える検出処理部により、上記接触位置における接触押圧力(F)情報をことができる。
【0018】
さらに、本発明では、上記上部電極膜と上記下部電極膜は、カーボンブラック含有エラストマー膜であるものとすることにより、高感度の触覚機能を有する大面積の薄膜人工皮膚を実現することができる。
【0019】
したがって、本発明によれば、ヒトと協働するロボットの触覚センサとして機能する薄膜人工皮膚を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る薄膜人工皮膚の構造を模式的に示す断面図である。
図2】上記薄膜人工皮膚の指圧により誘電エラストマー膜が圧縮された状態を模式的に示す断面図である。
図3】薄膜人工皮膚の2次元平面における指圧位置の検出原理を模式的に示す平面図である。
図4】エレクトレット膜からの電荷の移動量として接触情報を検出する触覚機能を確認するために試作した人工皮膚の誘電エラストマー膜とエレクトレット膜を示す平面図である。
図5】エレクトレット膜の試作過程の説明に供する模式図である。
図6】試作したエレクトレット膜について測定して得られた表面電位の保持特性を示す特性図である。
図7】試作した人工皮膚について接触検出実験を行って負荷抵抗により得られた電圧波形を示す波形図であり、(A)は、指圧した場合を示し、(B)はソレノイドスイッチの場合を示す。
図8】接触位置座標情報と接触押圧力情報を得ることができる触覚機能を確認するために試作した人工皮膚の誘電エラストマー膜とエレクトレット膜を示す平面図である。
図9】電極膜について電極材料を変えて測定して得られた接触位置に応じた内部抵抗の変化を示す特性図であり、(A)は銅箔電極膜の内部抵抗変化を示し、(B)は銅箔電極膜の内部抵抗変化を示す。
図10】試作した接触位置検出用の短冊状人工皮膚の構造を模式的に示す断面図である。
図11】上記短冊状人工皮膚についてソレノイドを用いて圧縮位置を変化させて得られた抵抗両端電圧の差分電圧波形を示す波形図である。
図12】上記差分電圧波形のピーク電圧を横軸を押圧位置としてプロットした特性図である。
図13】エレクトレット膜とポリフッ化ビニリデン(PVDF)の柔軟性を示す図であり、(A)はPVDF片を片持ち指示した状態を示し、(B)はエレクトレット膜を片持ち指示した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜人工皮膚10の構造を示す断面図である。
【0023】
この薄膜人工皮膚10は、上部電極膜1と誘電エラストマー膜2とエレクトレット膜3と下部電極膜4を積層した構造、すなわち、誘電エラストマー膜2とエレクトレット膜3を対向する2枚の電極膜1、4で挟んだ積層構造となっている。
【0024】
エレクトレット膜3は半永久的に電荷を内部に蓄積した誘電体であり、エレクトレット膜3の表面には電荷が保持されており、これに釣り合うよう上下の電極膜1,4に電荷が誘導される。この際,上下の電極膜1、4に誘導される電荷の比率は、エレクトレット膜3から上下の電極膜1、4までの静電容量により定まる。
【0025】
この薄膜人工皮膚10は、図2に示すように、指圧により誘電エラストマー膜2が圧縮されると、人工皮膚内部の静電容量が変化することで誘導電流が発生し、誘電エラストマー膜2の上部電極膜1に誘導されていた負電荷の一部が検出抵抗5を通ってエレクトレット膜3の下部電極膜4側へ移動する。除荷されると、誘電エラストマー膜2の復元力により上部電極膜1が押し戻され、再び検出抵抗5を通って誘電エラストマー膜2側の上部電極膜1に電荷が移動する。
【0026】
この薄膜人工皮膚10では、上記電荷の移動を利用して、検出処理部6において上記上部電極膜1への接触情報を検出することができる。検出処理部6では、上記上部電極膜1と上記下部電極膜4に外部接続された検出抵抗6における降下電圧Vの変化として、上記上部電極膜1への指圧状態の変化に応じた電荷の移動量を検出する。
【0027】
すなわち、この薄膜人工皮膚10では、検出処理部6において、外部電源を必要とすることなく、上記上部電極膜1と上記下部電極膜4との間の静電容量が上記上部電極膜1への接触により変化することにより生ずる上記エレクトレット膜3からの電荷の移動量として上記上部電極膜1への接触情報を検出する触覚機能を実現している。
【0028】
また、この薄膜人工皮膚10における検出処理部6では、上記上部電極膜1と上記下部電極膜4に外部接続された複数の検出抵抗5を備えることにより、上記上部電極膜1への接触位置に応じて変化する各検出抵抗5の接続点までの距離に応じた電極膜1、4の内部抵抗の比を上記複数の検出抵抗5における降下電圧Vの比として検出することにより、上記上部電極膜1への接触位置情報を得ることができる。
【0029】
すなわち、この薄膜人工皮膚10では、例えば、図3に模式的に示すように、指圧位置に応じて、電極膜1、4の四隅までの内部抵抗r、r、r、rが変化するので、上記検出処理部6は、上記上部電極膜1と上記下部電極膜4の四隅に外部接続された四個の検出抵抗5、5、5、5における降下電圧Vを左上部より反時計回り(i=1、2、3、4)にV、V、V、Vとして計測して、それらを比率に換算することにより、電極膜1、4の中央を原点OとしたXY座標上における上記上部電極膜1への接触位置座標(X,Y)情報を次の(1)式、(2)式により得ることができる。
【数3】
【0030】
また、上記接触位置座標(X、Y)における接触押圧力(F)は、次の(3)式により得ることができる。
【数4】
【0031】
すなわち、この薄膜人工皮膚10は、入力動作に外部電源を必要とすることなく、上記検出処理部6により上記上部電極膜1への接触位置座標(X,Y)情報と接触押圧力(F)情報を得ることができる触覚機能を有する。
〔接触検出実験〕
【0032】
ここで、本件発明者等は、このようにエレクトレット膜3からの電荷の移動量として接触情報を検出する触覚機能を有する薄膜人工皮膚10における上記触覚機能を確認するために、図4に示すように、50×50mm、厚さ0.01mmの銅極板1A、4A間に誘電エラストマー膜2Aとエレクトレット膜3Aを積層した厚さ50μmの人工皮膚10Aを試作した。
【0033】
誘電エラストマー膜2Aは、銅極板1A上に比誘電率3.0のシリコーン系ゴム(Dragon skin 10 fast, Smooth-On社)を厚さ20μmの膜状に成型した。
【0034】
エレクトレット膜2Aは、図5に示すように、銅極板4Aにアモルファス系フッ素樹脂をフィルムアプリケータ(064,All good社)を用いて厚さ15μmで塗布し、230℃で60分間加熱することで成膜し、その後、加熱プレート11上で100℃に加熱した状態で、放電電極12に-9kV印加して10分間のコロナ放電を行うことにより試作した。
【0035】
試作エレクトレット膜2Aについて,表面電位計で表面電位を測定したところ、図6に示すように、コロナ放電直後のエレクトレット膜2Aは-450Vの表面電位を保持し、2週間ほどで安定し-400Vを保持することを確認することができた。
【0036】
そして、このようにして試作した人工皮膚10Aについて、負荷抵抗5として150MΩを接続して、指圧した場合とソレノイドスイッチ(LE-33-21, タキゲン製造)を使用した場合で接触検出実験を行ったところ、図7の(A)、(B)に示すような電圧波形が得られた。
【0037】
指圧した場合では、図7の(A)に電圧波形を示すように、抵抗両端電圧の最大値は約1Vを確認することができた。
【0038】
一方、ソレノイドを用いた場合では、図7の(B)に電圧波形を示すように、約0.5Vと指圧の場合と比較して小さいことが確認された。しかし、ノイズの影響が小さく、検出に十分なピーク電圧を得ることができた。
【0039】
ソレノイドを用いた場合にピーク電圧が減少した原因として、圧縮範囲の減少による誘導電流の減少が考えられる。また、ピーク電圧の波形に着目すると、波形の表れ方が異なることが確認できる。これは、指圧の場合では圧縮力を与えたときに、指の粘弾性により力が持続的に伝わったため,電圧波形に影響したと考えられる。
〔接触位置検出実験〕
【0040】
また、本件発明者等は、上述の如く、検出処理部6により、上部電極膜1への接触位置座標(X、Y)情報と接触押圧力(F)情報を得ることができる触覚機能を有する薄膜人工皮膚10における上記触覚機能を確認するために、図8に示すように、接触検出と同様のエレクトレット材料を用いて30×110mmの短冊状の人工皮膚10Bを試作した。
【0041】
上述したように位置検出のためには通常2次元での検出を行う必要があるが、ここでは、原理検証のため、まず1次元用での人工皮膚10Bを作成し検出可能か検討した。
【0042】
先ず、上部電極膜1への接触位置に応じて変化する各検出抵抗6の接続点までの距離に応じた電極膜1、4の内部抵抗の比率を読み取る接触位置検出では、電極膜1、4の内部抵抗が大きい方が有利なので、銅箔電極膜、ステンレス箔電極膜、導電性ペイント電極膜、カーボン粉末添加電極膜について、それらの内部抵抗を確認した。
【0043】
銅箔電極膜では、図9の(A)に示すように、極板の内部抵抗が検出抵抗と比較して非常に小さく、位置による電位差の変化が確認できなかった。
【0044】
そこで、金属材料と比較して抵抗が大きく、かつエラストマー内部の抵抗値を調節可能にするカーボンブラックを添加したカーボン粉末添加電極膜を電極膜1B、4Bに使用した。
【0045】
カーボン粉末添加電極膜では、図9の(B)に示すように、両端部で4MΩ程度の内部抵抗を有していることが確認された。
【0046】
接触位置検出実験では、比誘電率3.0のシリコーン系ゴム(Dragon skin 10 fast, Smooth-On 社)に重量比25%となるようカーボンブラック(東レ社製)を添加し、良く攪拌したシリコーン系ゴムからなるエラストマーをカーボン粉末添加電極膜として対向電極1B、4Bに使用し、図10に示すように、試作したエラストマー膜2Bとエレクトレット膜3Bとを対向電極1B、4B間に挟んで積層構造とした接触位置検出用の短冊状人工皮膚10Bを構成した。
【0047】
また、両端に等負荷となるように200MΩの検出抵抗5B、5Bを接続した。
【0048】
そして、このようにして試作した薄膜人工皮膚1Bについて、ソレノイドを用いて圧縮位置を変化させ、抵抗両端電圧V、Vを測定したところ、図11に示すように、抵抗両端電圧V、Vの差分電圧(V-V)波形が得られた。
【0049】
そして、この薄膜人工皮膚1Bでは、左端部を0として10,30,50,70,90mmの20mm間隔で圧縮位置を変化させて得られた抵抗両端電圧V、Vの差分電圧(V-V)波形は、横軸を押圧位置としてプロットした図12に示すように、高い線形性を有し、20mmで0.2Vの変化量とおおよそ位置に比例したピーク電圧を得ることができ、10mm分解能で接触位置検出を行うことができる。
【0050】
ここで、人間の場合、体の部位に応じて感度が異なり、手指では5mm以下,顔においては10mm以下であるのに対して、上肢では30mm以上であることが分かっている。ロボットに人工皮膚を搭載する場合、腕部や胸部を覆う面積が必要であると考えられ、人の上肢の接触分解能が30mm以上であること考慮すると10mmという分解能は充分に高解像度のセンサである。
【0051】
上述の如く、上記薄膜人工皮膚10では、エレクトレット膜3からの電荷の移動量として接触情報を検出する触覚機能を有する薄膜人工皮膚を実現している。
【0052】
エレクトレット膜3は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた圧電型の触覚センサに用いられるポリフッ化ビニリデン(PVDF)と比較して、図13の(A)にPVDF片を片持ち指示した状態を示すとともに、図13の(B)にエレクトレット膜3の片持ち指示状態を示すように、柔軟性に優れ、接触感度の良好な触覚機能を実現することができる。
【0053】
上記薄膜人工皮膚10は、電極膜1、4としてカーボンブラック含有エラストマー膜を使用することにより、高感度の触覚機能を有する大面積の薄膜人工皮膚を実現するとができる。
【0054】
したがって、上記薄膜人工皮膚10は、柔軟性のある薄膜でなおかつ入力動作に外部電源を必要とすることなく、ヒトと協働するロボット等の触覚センサとして機能する触覚機能を有する大面積の薄膜人工皮膚を実現することができる。
【符号の説明】
【0055】
1、1A、1B、4、4A、4B 電極膜、2、2A、2B エラストマー膜、3、3A、3B エレクトレット膜、5、5、5、5、5、5B、5B 検出抵抗、10、10A、10B 薄膜人工皮膚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13