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特許7505743被膜形成用組成物および被覆体の製造方法
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  • 特許-被膜形成用組成物および被覆体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物および被覆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/14 20060101AFI20240618BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240618BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240618BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20240618BHJP
   C09D 5/16 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C09D133/14
C09D7/63
C09D7/20
C09K21/14
C09D5/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020110827
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022022564
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】518456409
【氏名又は名称】インテリジェント・サーフェス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 勇次
(72)【発明者】
【氏名】切通 義弘
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-257570(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084219(WO,A1)
【文献】特開2009-046619(JP,A)
【文献】特開2019-026825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体と、
ホスホリルコリン基を備え、かつ、非重合状態の化合物であるホスホリルコリン基含有非重合状態化合物とを含有し、
前記重合体は、下記式(1)で示される化学構造に対応するモノマー、および、下記式(2)で示される化学構造に対応するモノマーからなるものであり、
前記重合体中における下記式(1)で示される化学構造に対応するモノマーの含有量をX11[mol]、前記重合体中における下記式(2)で示される化学構造に対応するモノマーの含有量をX12[mol]としたとき、0.5≦X12/X11≦2.0の関係を満たし、
重合していない状態での前記モノマー成分と、前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物とは、同一の化学構造のものであり、
前記重合体の含有率をX1[質量%]、前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の含有率をX2[質量%]としたとき、1.5≦[X2/(X1+X2)]×100≦30の関係を満たすことを特徴とする被膜形成用組成物。
【化1】
(式(1)中、l、nは、それぞれ独立に、1以上の整数である。)
【化2】
(式(2)中、nは1以上の整数であり、Rは、ベンジル基である。)
【請求項2】
前記重合体の重量平均分子量が8000以上160000以下である請求項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項3】
被膜形成用組成物は、前記重合体および前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物に加えて、さらに、多価アルコールを含有している請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項4】
被膜形成用組成物中における前記重合体の含有率をXP[質量%]、被膜形成用組成物中における前記多価アルコールの含有率をXO[質量%]としたとき、0.01≦XO/XP≦2.0の関係を満たす請求項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項5】
前記多価アルコールがグリセリンである請求項またはに記載の被膜形成用組成物。
【請求項6】
被膜形成用組成物は、前記重合体および前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物に加えて、さらに、揮発性の溶媒を含有している請求項1ないしのいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項7】
前記揮発性の溶媒として、エタノールを含有している請求項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を基材の表面の少なくとも一部に付与する組成物付与工程を有することを特徴とする被覆体の製造方法。
【請求項9】
前記被膜の厚さが30nm以上1000nm以下である請求項に記載の被覆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成用組成物および被覆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面への汚れの付着を防止する技術は、種々提案されている。例えば、基材の表面への汚れの付着を防止する技術として、基材の表面を親水化する方法が知られている。
【0003】
表面の親水化方法としては、基材の表面を酸化チタン等の光触媒材料で改質し、光触媒の光励起に応じて表面を高度に親水化する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このような光触媒による表面改質では、その光触媒機能により、光触媒を基材に固定するバインダーや基材自体が分解してしまう場合があり、耐久性に問題があった。
【0005】
また、基材の表面を親水化する方法としては、例えば、エッチング処理、プラズマ処理等がある。これらの方法は、基材の表面を高度に親水化することができるものの、その効果は一時的であり、親水化状態を長期間維持することができない。また、一般的な親水性材料は、構造内にイオン性基を有するため、かえって、タンパク質等の汚れとなる成分を吸着しやすい。
【0006】
また、所定の親水性ポリマーを基材に被覆する方法(特許文献2参照)もあるが、基材と親水性ポリマーとの密着性を十分に優れたものとすることが困難であり、基材を親水性ポリマーで被覆してなる被覆体の耐久性を十分に優れたものとすることが困難であった。また、特許文献2では、親水性ポリマーの付与に先立って、基材にプラズマ処理等の表面処理を行うことも提案されているが、これらの表面処理を施した場合でも、基材と親水性ポリマーとの密着性を十分に優れたものとすることが困難であり、基材を親水性ポリマーで被覆してなる被覆体の耐久性を十分に優れたものとすることが困難であった。
このように、従来においては、防汚性と耐久性とを両立することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第1996/029375号パンフレット
【文献】国際公開第2018/008663号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、防汚性および耐久性に優れた被膜の形成に用いることができる被膜形成用組成物を提供すること、また、防汚性および耐久性に優れた被膜を有する被覆体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記[1]~[]に記載の本発明により達成される。
[1] ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体と、
ホスホリルコリン基を備え、かつ、非重合状態の化合物であるホスホリルコリン基含有非重合状態化合物とを含有し、
前記重合体は、下記式(1)で示される化学構造に対応するモノマー、および、下記式(2)で示される化学構造に対応するモノマーからなるものであり、
前記重合体中における下記式(1)で示される化学構造に対応するモノマーの含有量をX11[mol]、前記重合体中における下記式(2)で示される化学構造に対応するモノマーの含有量をX12[mol]としたとき、0.5≦X12/X11≦2.0の関係を満たし、
重合していない状態での前記モノマー成分と、前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物とは、同一の化学構造のものであり、
前記重合体の含有率をX1[質量%]、前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の含有率をX2[質量%]としたとき、1.5≦[X2/(X1+X2)]×100≦30の関係を満たすことを特徴とする被膜形成用組成物。
【化1】
(式(1)中、l、nは、それぞれ独立に、1以上の整数である。)
【化2】
(式(2)中、nは1以上の整数であり、Rは、ベンジル基である。)
【0015】
] 前記重合体の重量平均分子量が8000以上160000以下である上記[1]に記載の被膜形成用組成物。
【0017】
] 被膜形成用組成物は、前記重合体および前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物に加えて、さらに、多価アルコールを含有している上記[1]または[2]に記載の被膜形成用組成物。
【0018】
] 被膜形成用組成物中における前記重合体の含有率をXP[質量%]、被膜形成用組成物中における前記多価アルコールの含有率をXO[質量%]としたとき、0.01≦XO/XP≦2.0の関係を満たす上記[]に記載の被膜形成用組成物。
【0019】
] 前記多価アルコールがグリセリンである上記[]または[]に記載の被膜形成用組成物。
【0020】
] 被膜形成用組成物は、前記重合体および前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物に加えて、さらに、揮発性の溶媒を含有している上記[1]ないし[]のいずれかに記載の被膜形成用組成物。
【0021】
] 前記揮発性の溶媒として、エタノールを含有している上記[]に記載の被膜形成用組成物。
【0022】
] 上記[1]ないし[]のいずれかに記載の被膜形成用組成物を基材の表面の少なくとも一部に付与する組成物付与工程を有することを特徴とする被覆体の製造方法。
【0023】
] 前記被膜の厚さが30nm以上1000nm以下である上記[]に記載の被覆体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、防汚性および耐久性に優れた被膜の形成に用いることができる被膜形成用組成物を提供すること、また、防汚性および耐久性に優れた被膜を有する被覆体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の被覆体の製造方法の一例を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<1>被膜形成用組成物
まず、本発明に係る被膜形成用組成物について説明する。
【0027】
本発明の被膜形成用組成物は、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体と、ホスホリルコリン基を備え、かつ、非重合状態の化合物であるホスホリルコリン基含有非重合状態化合物とを含有している。そして、被膜形成用組成物中における前記重合体の含有率をX1[質量%]、被膜形成用組成物中における前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の含有率をX2[質量%]としたとき、1.5≦[X2/(X1+X2)]×100≦30の関係を満たす。
【0028】
このような条件を満たすことにより、防汚性および耐久性に優れた被膜の形成に用いることができる被膜形成用組成物を提供することができる。特に、水性の汚れだけでなく、オイルミスト等の油性の汚れに対しても優れた防汚性を有する被膜の形成に用いることができる被膜形成用組成物を提供することができる。また、水蒸気や気化した油に対する防曇性に優れ、当該防曇性を長期間にわたって維持することができる被膜を好適に形成することができる。また、被膜に汚れが付着した場合であっても、容易に除去することができ、その後においても汚れの付着抑制効果を好適に維持することができる。
【0029】
前記重合体およびホスホリルコリン基含有非重合状態化合物に含まれるホスホリルコリン基は、両性イオン構造を有する。このため、本発明の被膜形成用組成物を用いて形成される被膜は、親水性(ぬれ性)に優れるとともに各種分子に対する非特異的吸着を効果的に抑制することができる。その結果、防汚効果、潤滑特性効果、摩擦低減効果、自己浄化(セルフクリーニング)効果等を発揮させることができる。また、ホスホリルコリン基は、生体膜の主成分であるリン脂質(ホスファチジルコリン)の極性基と同様の構造を有する極性基である。したがって、ホスホリルコリン基の導入により、生体膜の表面に対する極めて良好な生体適合性、特に、生体分子の非吸着性、および非活性化特性が付与され得る。
【0030】
上記のような優れた効果が得られるのは、前記重合体中に含まれるホスホリルコリン基、および、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物が備えるホスホリルコリン基の存在により、好適に水を含有し、被膜の表面に水の膜を好適に形成させることができるためであると考えられる。
【0031】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体を含まないと、被膜の表面に親水性の膜を形成することができず、極小の水滴(曇り)が生じやすくなる。
【0032】
また、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体を含んでいたとしても、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物を含んでいないと、被膜の親水性が低下してしまい、被膜の表面に親水性の膜を好適に形成することができず、極小の水滴(曇り)が生じやすくなる。
【0033】
また、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体、および、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物を含んでいたとしても、[X2/(X1+X2)]×100の値が前記下限値未満であると、被膜が十分な親水性を発揮できず、極小の水滴(曇り)が生じやすくなる。
【0034】
また、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体、および、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物を含んでいたとしても、[X2/(X1+X2)]×100の値が前記上限値を超えると、重合体による防曇効果を十分に発現できなくなる。
【0035】
上記のように、被膜形成用組成物中における前記重合体の含有率をX1[質量%]、被膜形成用組成物中における前記ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の含有率をX2[質量%]としたとき、1.5≦[X2/(X1+X2)]×100≦30の関係を満たせばよいが、1.6≦[X2/(X1+X2)]×100≦25の関係を満たすのが好ましく、1.7≦[X2/(X1+X2)]×100≦20の関係を満たすのがより好ましく、1.8≦[X2/(X1+X2)]×100≦10の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0036】
<1-1>重合体
上記のように、本発明の被膜形成用組成物は、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体を含有している。
【0037】
前記重合体は、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含んでいればよく、モノマー成分が、いかなる形態で重合した構造を有するものであってもよいが、アクリル骨格を有するモノマー成分が重合した化学構造を有するものであるのが好ましい。
【0038】
アクリル骨格を有するとともに、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-(2-メタクリルアミド)エチルホスホリルコリン、4-メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6-メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10-メタクリロイルオキシデシルシルホスホリルコリン、ω-メタクリロイルジオキシエチレンホスホリルコリン、4-スチリルオキシブチルホスホリルコリン等が挙げられ、前記重合体はこれらから選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0039】
中でも、前記重合体は、下記式(1)で示される化学構造を含んでいるものであるのが好ましい。
【0040】
【化3】
(式(1)中、l、nは、それぞれ独立に、1以上の整数である。)
【0041】
これにより、重合体を得る重合反応に用いる溶媒(重合溶媒)への溶解性をより好適なものとすることができる。
【0042】
上記式(1)中、lは、1以上の整数であればよいが、1以上10以下の整数であるのが好ましく、1以上5以下の整数であるのがより好ましく、1以上3以下の整数であるのがさらに好ましい。
【0043】
前記重合体を構成するホスホリルコリン基を備えるモノマー成分は、上記式(1)に対応する化合物以外の化合物であってもよい。
【0044】
前記重合体は、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分に加えて、ホスホリルコリン基を備えていないモノマー成分を含んでいてもよい。
【0045】
例えば、前記重合体は、上記式(1)で示される化学構造に加えて、下記式(2)で示される化学構造を含むものであってもよい。
【0046】
【化4】
(式(2)中、nは1以上の整数であり、Rは、水素、または、置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
【0047】
これにより、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜の水溶性を低下させることができ、基材と被膜との密着性をさらに向上させることができる。
【0048】
前記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基等の脂肪族炭化水素基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ベンジル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられるが、中でも、ベンジル基が好ましい。
【0049】
これにより、被膜の親水性を保持したまま、重合体の水溶性をより好適に低下させることができる。
【0050】
また、前記炭化水素基が置換基を有するものである場合、当該置換基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲノ基、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基、エステル基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。
【0051】
また、前記重合体は、ホスホリルコリン基を備えていないモノマー成分として、例えば、下記式(b1)、下記式(b2)で表される化合物を含んでいてもよい。
【0052】
【化5】
(上記式(b1)および上記式(b2)中、nは1以上の整数を表す。)
【0053】
上記式(b1)および上記式(b2)中、nは1以上の整数であればよいが、1以上12以下の整数であるのが好ましく、1以上6以下の整数であるのがより好ましく、1であるのがさらに好ましい。
【0054】
前記重合体が、上記式(1)で示される化学構造、および、上記式(2)で示される化学構造を含むものである場合、前記重合体中における上記式(1)で示される化学構造に対応するモノマーの含有量をX11[mol]、前記重合体中における上記式(2)で示される化学構造に対応するモノマーの含有量をX12[mol]としたとき、0.5≦X12/X11≦2.0の関係を満たすのが好ましく、0.7≦X12/X11≦1.5の関係を満たすのがより好ましく、0.8≦X12/X11≦1.2の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0055】
これにより、被膜の親水性を保持したまま、重合体の水溶性をより好適に低下させることができる。
【0056】
前記重合体が複数種のモノマー成分を含む共重合体である場合、当該重合体は、例えば、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0057】
前記重合体を構成する全モノマー成分に対するホスホリルコリン基を備えるモノマー成分の含有率は、30mol%以上67mol%以下であるのが好ましく、35mol%以上59mol%以下であるのがより好ましく、40mol%以上56mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
これにより、被膜の親水性を保持したまま、重合体の水溶性をより好適に低下させることができる。
【0059】
前記重合体は、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分として、複数種のモノマー成分を含んでいてもよい。
また、前記重合体は、ホスホリルコリン基を備えていないモノマー成分として、複数種のモノマー成分を含んでいてもよい。
【0060】
また、前記重合体は、異なる複数種の分子を含んでいてもよい。例えば、前記重合体は、互いに分子量の異なる分子を含んでいてもよい。また、前記重合体は、互いに、構成モノマーの種類が異なる複数種の分子を含んでいてもよい。また、前記重合体が、複数種の構成モノマーが重合してなる分子を含むものである場合、前記重合体は、複数種の構成モノマーの含有比率が互いに異なる複数種の分子を含んでいてもよい。
【0061】
前記重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、8000以上160000以下であるのが好ましく、30000以上150000以下であるのがより好ましく、50000以上120000以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
これにより、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜において、不本意な凹凸が形成されることをより効果的に防止することができ、被膜の表面の平坦性をより優れたものとすることができる。
【0063】
重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定することができる。
【0064】
本発明の被膜形成用組成物中における前記重合体の含有率は、特に限定されないが、0.02質量%以上10.0質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
これにより、被膜形成用組成物の粘度をより好適な範囲にすることができ、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜に不本意な厚みのばらつきや組成のばらつきが生じることをより効果的に防止しつつ、より効率よく被膜を形成することができる。
【0066】
本発明の被膜形成用組成物中において、前記重合体は、溶解状態で含まれていてもよいし、分散状態で含まれていてもよいし、溶融状態で含まれていてもよい。
【0067】
被膜形成用組成物を構成する前記重合体は、いかなる方法で製造されるものであってもよいが、例えば、以下に述べるような重合開始剤を用いてラジカル重合する方法により好適に製造することができる。
【0068】
ラジカル重合する方法としては、例えば、ラジカル重合開始剤を用いた方法を採用することができる。
【0069】
前記重合体は、特定条件でラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合により合成することができる。具体的には、有機溶媒中でのラジカル重合により、前記重合体を好適に合成することができる。
【0070】
重合に用いられるラジカル重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタノイックアシッド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ系開始剤や、ベンゾイルパーオキサイド、tーブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウムのようなペルオキシド系開始剤等が挙げられる。
【0071】
ラジカル重合開始剤の使用量は、モノマーの重合性や必要とする重合体の分子量に応じて調節することが可能であるが、重合に用いる全単量体100質量部に対して、0.001質量部以上3質量部以下であるのが好ましく、0.01質量部以上1質量部以下であるのがより好ましい。
【0072】
ラジカル重合に使用する溶媒としては、例えば、酢酸エチル等のエステル系溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;ジオキサン等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族性溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール系溶媒が好ましい。
【0073】
重合反応時の反応温度は、合成すべき前記重合体の分子量や、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定することができるが、30℃以上100℃以下であるのが好ましい。
【0074】
上記の方法等により重合後、得られた前記重合体の溶液を必要に応じて精製してもよい。
【0075】
精製方法は、特に限定されないが、例えば、再沈殿法を好適に採用することができる。
再沈殿法を採用する場合、貧溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;3-メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
また、前記重合体の精製は、例えば、限外ろ過により行うことができる。
【0077】
<1-2>ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物
上記のように、本発明の被膜形成用組成物は、ホスホリルコリン基を備え、かつ、非重合状態の化合物であるホスホリルコリン基含有非重合状態化合物を含有している。
【0078】
言い換えると、本発明の被膜形成用組成物は、ホスホリルコリン基を備えるモノマー成分を含む重合体とともに、ホスホリルコリン基を備える重合体ではないホスホリルコリン基含有化合物(ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物)を含有している。
【0079】
ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物としては、例えば、重合反応に寄与しうる官能基を有していない化合物や、重合反応に寄与しうる官能基を有するものの当該官能基が重合した状態ではない化合物を用いることができる。
【0080】
重合反応に寄与しうる官能基を有していないホスホリルコリン基含有非重合状態化合物としては、例えば、グリセロホスホコリン(α-GPC)、レシチン、下記式(3)で示されるポリエンホスファチジルコリン等が挙げられる。
【0081】
【化6】
(式(3)中、i、j、k、l、m、nは、それぞれ独立に、1以上10以下の整数である。)
【0082】
重合反応に寄与しうる官能基を有するものの当該官能基が重合した状態ではない化合物としては、例えば、前記重合体を構成するホスホリルコリン基を備えるモノマー成分として例示した化合物等を用いることができる。
【0083】
重合していない状態でのホスホリルコリン基を備える前記モノマー成分(すなわち、前記重合体を構成するホスホリルコリン基を備えるモノマー成分が重合していない状態の化合物)と、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物とは、同一の化学構造のものであるのが好ましい。
【0084】
これにより、好ましくない反応を効果的に抑制することができる。また、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の被膜内での分散性をより高いものとすることができ、被膜の吸水効果をより効果的に高めることができる。
【0085】
また、被膜形成用組成物は、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物として、異なる複数種の分子を含んでいてもよい。
【0086】
ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の分子量は、特に限定されないが、150以上2000以下であるのが好ましく、180以上1500以下であるのがより好ましく、200以上800以下であるのがさらに好ましい。
【0087】
これにより、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の被膜内での分散性をより高いものとすることができ、被膜の吸水効果をより効果的に高めることができる。
【0088】
また、被膜形成用組成物が複数種のホスホリルコリン基含有非重合状態化合物を含有するものである場合、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の分子量としては、平均分子量を採用することができる。
【0089】
ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物は、いかなる方法で被膜形成用組成物中に含有させられるものであってもよいが、通常、被膜形成用組成物の製造時において、前述したような方法で合成された前記重合体と混合されるものである。
【0090】
本発明の被膜形成用組成物中におけるホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の含有率は、特に限定されないが、0.0003質量%以上3.3質量%以下であるのが好ましく、0.001質量%以上1.3質量%以下であるのがより好ましく、0.003質量%以上0.4質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0091】
これにより、被膜の親水性をさらに高めることができる。
【0092】
<1-3>多価アルコール
本発明の被膜形成用組成物は、前記重合体およびホスホリルコリン基含有非重合状態化合物に加えて、さらに、多価アルコールを含有していてもよい。
【0093】
これにより、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜に不本意な厚みのばらつきが生じることをより効果的に防止することができる。また、後述する揮発性の溶媒として1価のアルコール類と併用した場合に、多価アルコールの分散性を高めることができ、前述した効果をより顕著に発揮させることができる。このような効果は、揮発性の液体としてエタノールを用いた場合により顕著に発揮される。
【0094】
多価アルコールとしては、室温(23℃)で液状をなすものであり、被膜形成用組成物において、前記重合体、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の一部を溶解する溶媒として機能するものであってもよい。
【0095】
また、多価アルコールは、後に詳述する被覆体の製造方法において、基材に付与した後に少なくとも一部が除去されるものであってもよいが、基材に付与した後においても、その大半(例えば、80質量%以上)が基材上に残存するものであるのが好ましい。
【0096】
多価アルコールとしては、分子内に複数個の水酸基を備える化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、グリセリンが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0097】
また、被膜形成用組成物は、多価アルコールとして、異なる複数種の分子を含んでいてもよい。
【0098】
多価アルコールの分子量は、特に限定されないが、62以上30000以下であるのが好ましく、76以上20000以下であるのがより好ましく、92以上4000以下であるのがさらに好ましい。
【0099】
これにより、例えば、後述する揮発性の溶媒として1価のアルコール類と併用した場合に、多価アルコールの揮発性の溶媒への溶解性を高め、重合体との親和性をさらに向上させることができ、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0100】
また、被膜形成用組成物が複数種の多価アルコールを含有するものである場合、多価アルコールの分子量としては、平均分子量を採用することができる。
【0101】
本発明の被膜形成用組成物中における多価アルコールの含有率は、特に限定されないが、0.001質量%以上15.0質量%以下であるのが好ましく、0.010質量%以上6.0質量%以下であるのがより好ましく、0.10質量%以上2.2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0102】
これにより、被膜形成用組成物および被膜形成用組成物により形成される被膜の特性を損なうことなく、被膜の均一性をより優れたものとすることができる。
【0103】
被膜形成用組成物中における前記重合体の含有率をXP[質量%]、被膜形成用組成物中における多価アルコールの含有率をXO[質量%]としたとき、0.01≦XO/XP≦2.0の関係を満たすのが好ましく、0.10≦XO/XP≦1.5の関係を満たすのがより好ましく、0.80≦XO/XP≦1.2の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0104】
これにより、被膜形成用組成物および被膜形成用組成物により形成される被膜の特性を損なうことなく、被膜の均一性をより優れたものとすることができる。
【0105】
<1-4>揮発性溶媒
本発明の被膜形成用組成物は、揮発性の溶媒を含有していてもよい。
これにより、被膜形成用組成物の取り扱いがより容易になるとともに、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜の平坦性をより高いものとすることができ、被膜の厚さの不本意なばらつきをより効果的に防止することができる。
【0106】
揮発性の溶媒は、後に詳述する被覆体の製造方法において、通常、基材に付与した後にそのほとんどが除去されるものである。具体的には、被膜形成用組成物中に含まれる揮発性の溶媒は、基材に付与した後において、その80質量%以上が基材上から除去されるものであるのが好ましく、その90質量%以上が基材上から除去されるものであるのがより好ましく、その98質量%以上が基材上から除去されるものであるのがさらに好ましい。
【0107】
揮発性の溶媒の1気圧下における沸点は、50℃以上160℃以下であるのが好ましく、55℃以上120℃以下であるのがより好ましく、60℃以上100℃以下であるのがさらに好ましい。
【0108】
揮発性の溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の1価のアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ただし、揮発性の溶媒には、前述した多価アルコールは含まないものとする。
【0109】
中でも、本発明の被膜形成用組成物は、揮発性の溶媒として、エタノールを含有しているのが好ましい。
【0110】
これにより、揮発性の溶媒に対する前記重合体およびホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の溶解性(特に、前述したような好ましい組成を有する前記重合体およびホスホリルコリン基含有非重合状態化合物の溶解性)をより優れたものとすることができ、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜に不本意な厚みのばらつきや組成のばらつきが生じることをより効果的に防止しつつ、より効率よく被膜を形成することができる。
【0111】
本発明の被膜形成用組成物が、揮発性の溶媒としてエタノールを含有している場合、揮発性の溶媒全体に占めエタノールの割合は、50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上99.8質量%以下であるのがより好ましく、65質量%以上99質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0112】
本発明の被膜形成用組成物中における揮発性の溶媒の含有率は、特に限定されないが、70.0質量%以上99.9質量%以下であるのが好ましく、90.0質量%以上99.8質量%以下であるのがより好ましく、95.0質量%以上99.6質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0113】
これにより、被膜形成用組成物の粘度をより好適な範囲にすることができ、被膜形成用組成物を用いて形成される被膜に不本意な厚みのばらつきや組成のばらつきが生じることをより効果的に防止しつつ、より効率よく被膜を形成することができる。また、基材(ワーク)に付与した被膜形成用組成物からの揮発性の溶媒の除去を効率よく行うことができ、基材と被膜とを有する被覆体の生産性をより優れたものとすることができる。
【0114】
<1-6>その他の成分
本発明の被膜形成用組成物は、前述した成分以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0115】
その他の成分としては、例えば、顔料、染料等の着色剤、各種フィラー、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、前記重合体以外の重合体等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
pH調整剤としては、特に限定されないが、無機塩が好ましい。当該無機塩としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のリン酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でもリン酸塩が好ましく、リン酸水素二ナトリウム2水和物、またはリン酸水素二ナトリウム12水和物がより好ましい。
【0117】
また、所望のpHに調整するために、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基類;硫酸、塩酸、硝酸等の酸類等を用いてもよい。
【0118】
ただし、本発明の被膜形成用組成物中におけるその他の成分の含有率(複数種のその他の成分を含む場合には、これらの含有率の和)は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0119】
本発明の被膜形成用組成物のpH(23℃でのpH)は、特に限定されないが、3以上11以下であるのが好ましく、3以上7以下であるのがより好ましい。
【0120】
本発明の被膜形成用組成物は、例えば、そのまま、被膜を形成すべき基材(ワーク)に付与するものであってもよいし、希釈して用いるものであってもよいし、他の成分と混合して用いるものであってもよい。また、条件の異なる複数種の本発明の被膜形成用組成物を混合して用いてもよい。
【0121】
<2>被覆体の製造方法
次に、本発明の被覆体の製造方法について説明する。
図1は、本発明の被覆体の製造方法の一例を模式的に示す縦断面図である。
【0122】
図1に示すように、本実施形態の被覆体100の製造方法は、基材1を用意する基材用意工程(1a)と、本発明の被膜形成用組成物2’を基材1の表面の少なくとも一部に付与する組成物付与工程(1b)と、基材1に付与された被膜形成用組成物2’から揮発性の溶媒を除去する溶媒除去工程(1c)とを有する。
【0123】
このような条件を満たすことにより、防汚性および耐久性に優れた被膜を有する被覆体の製造方法を提供することができる。特に、水性の汚れだけでなく、オイルミスト等の油性の汚れに対しても優れた防汚性を有する被膜を有する被覆体の製造方法を提供することができる。また、水蒸気や気化した油に対する防曇性に優れ、当該防曇性を長期間にわたって維持することができる被膜を備える被覆体を好適に製造することができる。また、被膜に汚れが付着した場合であっても、容易に除去することができ、その後においても汚れの付着抑制効果を好適に維持することができる被覆体の製造方法を提供することができる。
【0124】
<2-1>基材用意工程
基材用意工程では、後に詳述する処理が施される被処理物としての基材1を用意する(図1(1a)参照)。
基材1は、通常、被覆体100の主体となる部分を構成するものである。
【0125】
基材1は、いかなる材料で構成されたものであってもよく、基材1の構成材料としては、例えば、Ti、Au、Cu、Fe等の各種単体金属やこれらのうち少なくとも1種を含む合金(各種ステンレス鋼、ジュラルミン等)等の金属材料、ケイ素、ダイヤモンド、黒鉛、ダイヤモンド様炭素等の炭素材料、Al、TiO、ZrO、シリコン酸化物(SiO)、Ta、マイカ、ヒドロキシアパタイト、ZnO、ITO、IGZO等の金属化合物材料、各種ガラス材料、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネートポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーや、これらの共重合体、ポリマーブレンド等の各種プラスチック材料、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の各種シリコーンゴム等の各種ゴム材料等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、基材1は、構成材料が異なる部位を有するもの、例えば、互いに異なる材料で構成された層を有する積層体であってもよい。また、基材1は、組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成された部位を有するものであってもよい。
【0126】
特に、基材1の少なくとも被膜2が形成されるべき部位がガラス材料、プラスチック材料、金属材料で形成されたものであると、基材1と、被膜2との密着性をより優れたものとすることができ、被覆体100の耐久性をより優れたものとすることができる。
【0127】
通常、基材1の形状は、製造すべき被覆体100によって決定されるものであり、通常は、製造すべき被覆体100と略同形状であるが、例えば、平板状、湾曲板状、屈曲板状等の板状、筒状、多孔状、粒状、繊維状等が挙げられる。また、基材1は、例えば、孔部、溝部、突起部等が設けられたものであってもよい。
【0128】
後に詳述する被膜2の形成は、基材1の表面のうち少なくとも一部に対して行うものである。
【0129】
例えば、基材1が中空部を有するものである場合、後に詳述する被膜2の形成を、少なくとも、基材1の中空部の内壁面に対して行ってもよい。
【0130】
基材1については、例えば、後述する工程に供する前に、洗浄処理等の前処理を施してもよい。より具体的には、例えば、水洗、酸洗、アルカリ洗、中性洗剤等の洗剤を用いた洗浄、有機溶媒を用いた洗浄等を行ってもよい。
【0131】
<2-2>組成物付与工程
組成物付与工程では、基材1の表面の少なくとも一部に、本発明の被膜形成用組成物2’を付与する(図1(1b)参照)。
【0132】
被膜形成用組成物2’の基材1への付与は、例えば、ロールコート法、バーコート法、スプレー法等の各種塗布法や、スクリーン印刷法、インクジェット法等の各種印刷法、浸漬法等の各種の方法により行うことができる。
【0133】
基材1の所定の部位に被膜形成用組成物2’を選択的に付与する等の目的で、基材1の一部をマスクしてもよい。
【0134】
被膜形成用組成物2’の基材1への付与を浸漬法により行う場合、被膜形成用組成物2’中への基材1の浸漬時間は、特に限定されないが、1秒間以上60分間以下であるのが好ましく、10秒間以上30分間以下であるのがより好ましく、30秒間以上15分間以下であるのがさらに好ましい。
【0135】
<2-3>溶媒除去工程
溶媒除去工程では、基材1に付与された被膜形成用組成物2’から揮発性の溶媒を除去し、被膜2を形成する(図1(1c)参照)。
【0136】
溶媒除去工程を行うことにより、平坦化した状態の被膜2を好適に形成することができるとともに、最終的に得られる被覆体100中に、揮発性の溶媒が不本意に残存することを好適に防止することができる。
【0137】
溶媒除去工程は、例えば、自然乾燥により行うことができる。
これにより、被膜形成用組成物の構成成分に不本意な変性を生じたり、被膜の表面が不本意に荒れたりすることを効果的に防止することができ、形成される被膜2の基材1に対する密着性、被覆体100の信頼性をより優れたものとすることができる。
【0138】
溶媒除去工程を自然乾燥により行う場合、その時間は、0.5分間以上120分間以下であるのが好ましく、1分間以上60分間以下であるのがより好ましく、2分間以上10分間以下であるのがさらに好ましい。
【0139】
これにより、被覆体100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、被覆体100の信頼性をより優れたものとすることができる。
【0140】
また、溶媒除去工程は、加熱により行うことができる。
溶媒除去工程を加熱により行う場合、溶媒除去工程での処理温度(加熱温度)は、60℃以上150℃以下であるのが好ましく、70℃以上140℃以下であるのがより好ましく、80℃以上130℃以下であるのがさらに好ましい。
【0141】
これにより、被覆体100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、被覆体100の信頼性、生産性をより優れたものとすることができる。
【0142】
溶媒除去工程を加熱により行う場合、溶媒除去工程で処理時間(加熱時間)は、30分間以上600分間以下であるのが好ましく、45分間以上480分間以下であるのがより好ましく、60分間以上300分間以下であるのがさらに好ましい。
【0143】
これにより、被覆体100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、被覆体100の信頼性、生産性をより優れたものとすることができる。
【0144】
被膜2の厚さは、特に限定されないが、30nm以上1000nm以下であるのが好ましく、40nm以上700nm以下であるのがより好ましく、50nm以上500nm以下であるのがさらに好ましい。
【0145】
これにより、より短時間で効率よく、基材1の表面に、むらをより効率よく抑制しつつ、より緻密に、被膜2を形成することができる。その結果、被膜2の防汚性、防曇性、耐久性をより優れたものとすることができる。
【0146】
なお、溶媒除去工程は、組成物付与工程と同時進行的に行うものであってもよい。また、被膜形成用組成物が揮発性の溶媒を含まない場合、溶媒除去工程は省略することができる。
【0147】
<3>被覆体
上記のようにして得られる本発明に係る被覆体100は、基材1と被膜2とを備えている。そして、被膜2は、防汚性および耐久性に優れている。特に、水性の汚れだけでなく、オイルミスト等の油性の汚れに対しても優れた防汚性を有する。また、被膜2は、水蒸気や気化した油に対する防曇性に優れ、当該防曇性を長期間にわたって維持することができる。また、被膜2に汚れが付着した場合であっても、容易に除去することができ、その後においても汚れの付着抑制効果を好適に維持することができる。
【0148】
被覆体100の用途は、特に限定されないが、例えば、歯科材料、歯科用器具、内視鏡等の各種医療用デバイス、コンタクトレンズ、人工臓器、バイオチップ、バイオセンサー、酸素富加膜、細胞保存器具等の医療器具、自動車フロントガラス、船底塗料等が挙げられる。歯科材料としては、例えば、有床義歯、架工義歯、インプラント義歯、クラウン等の歯科用補綴物、歯科矯正材、義歯裏装材等が挙げられる。
【0149】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0150】
例えば、被覆体の製造方法は、前述した以外の工程を有していてもよい。
より具体的には、例えば、組成物付与工程より前に、基材に対して、紫外線照射処理、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理、過酸化水素水/フェントン反応溶液処理、カップリング剤を用いた処理等の各種処理を施す工程を有していてもよい。
【0151】
また、基材上にマスクを配した状態で組成物付与工程を行う場合、前記マスクを除去するマスク除去工程を有していてもよい。
また、組成物付与工程、溶媒除去工程の後に、洗浄工程を有していてもよい。
【実施例
【0152】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に温度条件を示していない処理、測定については、23℃で行った。
【0153】
<4>重合体の合成
(合成例1)
モノマーとしての2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(C1122NOP Mw=295.27 CAS 67881-98-5)およびベンジルメタクリレート(BzMA)、ランダム重合開始剤(酸化剤)としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を所定の割合で配合し、反応溶媒としてのエタノール360mLにモノマー濃度が0.5mol/Lになるように溶解した後、溶液をナスフラスコに移し、アルゴンバブリングして系中の酸素を脱気した(20分)。
【0154】
次に、ナスフラスコに栓をして、オイルバス中で加熱(60℃)して重合反応した(24時間)。
【0155】
その後、前記反応容器を開管して、THFにて再沈殿を行い、未反応物を除去、回収して減圧乾燥して、精製された重合体を得た。
【0156】
得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は、90000であった。重合体の重量平均分子量(Mw)はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により求めた。
【0157】
(合成例2~5)
合成反応に用いる原料の種類、使用量を調整し、合成される重合体の条件が表1に示すようになるようにした以外は、前記合成例1と同様にして重合体を得た。
【0158】
前記各合成例で得られた重合体の条件を表1にまとめて示す。なお、表1中、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを「MPC」、ベンジルメタクリレートを「BzMA」、n-ブチルメタクリレートを「BMA」、Phosmer M(acid phosphoxy ethyl methacrylate)(C11P Mw=210.12 CAS 24599-21-1)を「PhosmerM」と示した。
【0159】
【表1】
【0160】
<5>被膜形成用組成物の製造
(実施例1)
前記合成例1で得られた重合体と、ホスホリルコリン基含有非重合状態化合物としての2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、揮発性の溶媒としての99.5質量%エタノール水溶液とを所定の割合で混合することにより、被膜形成用組成物を得た。
【0161】
(実施例2~10)
原料としての各成分の種類、使用量を表2に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして被膜形成用組成物を製造した。
【0162】
(比較例1~3)
原料としての各成分の種類、使用量を表2に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして被膜形成用組成物を製造した。
【0163】
前記各実施例および各比較例の被膜形成用組成物の組成を表2にまとめて示す。なお、表2中、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを「MPC」と示した。
【0164】
【表2】
【0165】
<6>被覆体の製造
前記各実施例および各比較例の被膜形成用組成物を用いて、以下のようにして、被覆体を製造した。
【0166】
まず、ガラス製の板状の基材(直径25mm)を用意した。
次に、この基材をエタノールで洗浄し、当該基材の一方の面に、所定量の被膜形成用組成物を、流し塗り法により付与した。
【0167】
その後、自然乾燥により、揮発性の溶媒を除去し、基材の一方の面に被膜を有する被覆体を得た。
【0168】
被覆体としては、前記各実施例および各比較例について、それぞれ、被膜の厚さが、51nm、76nm、102nm、509nm、1000nm、1360nmのものを製造した。なお、被膜の厚さの測定は、大塚電子社製 OPTM-A1を用いて行った。
【0169】
<7>評価
上記のようにして製造した前記各実施例および各比較例に係る被覆体について、以下の評価を行った。また、コントロール(参考例)として、被膜を形成していないガラス製の前記基材についても評価を行った。
【0170】
<7-1>防汚性(オイルミストの付着のしにくさ)
まず、豚肉および前記の被覆体を閉空間に載置した。この閉空間中にてニクロム線を使用して、豚肉を約600℃に加熱することにより、オイルミストを発生させ、このオイルミストに、被覆体の被膜が設けられた面を晒し、以下の基準に従い評価した。被膜が設けられていない参考例についても、前記と同様にして評価を行った。
【0171】
A:汚れが全く認められない。
B:面の1割以下に汚れが認められる。
C:面の3割以下に汚れが認められる。
D:面の5割以下に汚れが認められる。
E:全体的に汚れが認められる。
【0172】
<7-2>防曇性
前記各実施例および各比較例に係る被覆体の被膜が設けられた面を温度:37℃、湿度:90%RHの環境下で30分放置し、曇りの状態を目視により観察し、以下の基準に従い評価した。被膜が設けられていない参考例についても、前記と同様に評価した。
【0173】
A:曇りが全く認められない。
B:面の1割以下に曇りが認められる。
C:面の3割以下に曇りが認められる。
D:面の5割以下に曇りが認められる。
E:全体的に曇りが認められる。
【0174】
<7-3>防曇性の持続時間
前記各実施例および各比較例に係る被覆体の被膜が設けられた面を温度:37℃、湿度:90%RHの環境下で一定の時間放置し、曇りの状態を目視により観察し、以下の基準に従い評価した。被膜が設けられていない参考例についても、前記と同様に評価した。
【0175】
A:2時間以上曇りが認められない。
B:1.5時間以上2時間未満曇りが認められない。
C:1時間以上1.5時間未満曇りが認められない。
D:30分間以上1時間未満曇りが認められない。
E:30分未満で曇りが認められる。
【0176】
<7-4>耐久性
前記各実施例および各比較例に係る被覆体を室温で純水中に1時間浸漬し、以下の基準に従い評価した。被膜が設けられていない参考例についても、前記と同様にして評価を行った。
【0177】
A:表面の濡れ性が保持されている。
B:表面の濡れ性がわずかに低下している。
C:表面の濡れ性が部分的に低下している。
D:表面の濡れ性がほとんど認められない。
E:表面の濡れ性が全く認められない。
【0178】
これらの結果を表3にまとめて示す。
【0179】
【表3】
【0180】
表3から明らかなように、前記各実施例では、いずれも、優れた結果が得られた。これに対し、各比較例および参考例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0181】
また、基材をガラス製のものから、シクロオレフィンポリマー(COP)製、SUS304製のものに変更した以外は、前記各実施例および各比較例と同様にして、被覆体を製造して、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の傾向が確認された。
【符号の説明】
【0182】
100…被覆体
1…基材
2…被膜
2’…被膜形成用組成物
図1