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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240618BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240618BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/547 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/4535 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/549 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/4152 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P21/00
A61P43/00 121
A61K31/5415
A61K31/547
A61K31/4535
A61K31/197
A61K31/138
A61K31/13
A61K31/427
A61K31/4545
A61K31/549
A61K31/202
A61K31/4152
A61K31/711
A61K31/7105
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021507829
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 US2019046310
(87)【国際公開番号】W WO2020036934
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】62/718,122
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン,エヴァ エル.
(72)【発明者】
【氏名】マードック,ベン
(72)【発明者】
【氏名】ゴートマン,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ジャコビー,ステイシー
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0328615(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0015704(US,A1)
【文献】J. Mol. Neurosci.,2017年,61, [4],p.563-580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/519
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療、進行の遅延、または重症度の低減のための医薬組成物であって、
薬学的に許容可能なキャリア中に治療有効量のトファシチニブを含み、
前記医薬組成物は、それを必要とする対象に対して投与され、
前記治療有効量は、中枢神経系関連ナチュラルキラー細胞(NK)のレベルおよび機能に干渉するために十分である、医薬組成物。
【請求項2】
前記治療有効量は、ALSの1つ以上の症状を検出可能に減少または改善するために十分な量である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の症状は:足先の前部を持ち上げることが困難;足指を持ち上げることが困難;片脚または両脚の衰弱;片足先または両足先の衰弱;片足首または両足首の衰弱;手の衰弱;手のぎこちなさ;発話の不明瞭さ;嚥下障害;筋痙攣;片腕または両腕の痙攣;片肩または両肩の痙攣;および/または舌の攣縮;を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記投与は、CNS炎症を低減する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記投与は、NK細胞活性に対する運動ニューロンの脆弱性を低減する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記投与は、IL-15シグナル伝達の妨害および/または阻害、IL-10発現の妨害および/または阻害、IFN-γ発現の妨害および/または阻害、パーフォリンレベルの減少、ならびにNK細胞移動の妨害および/または阻害、のうちの1つ以上を介して、NK細胞の維持、増殖、および運動ニューロン細胞に対する細胞毒性を妨害および/または阻害することをもたらす、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記対象は、哺乳動物の対象である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記対象は、ALSに罹患しているか、または罹患する危険性があるヒト患者である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物は、患者に対して、リルゾール、セフトリアキソン、デクスプラミペキソール、クレアチン+タモキシフェン、ラサギリン、ピオグリタゾン、アリモクロモル、ピリメタミン、トランチノイン(trantinoin)+ピオグリタゾン、エダラボン、およびスーパーオキシドジスムターゼをコードするRNAに対するアンチセンス分子または干渉RNA、のうちの1つ以上と組み合わせて投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物は、全身に、静脈内に、動脈内に、皮下に、またはくも膜下腔内に投与されるように製剤化される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物の前記投与は、前記対象の中枢神経系を特異的に標的とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物の前記投与は、ALS運動ニューロンを特異的に標的とする、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物の前記投与は、正常レベルのMHC-1と比較して減少したレベルのMHC-1を有するALS運動ニューロンを特異的に標的とする、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物の前記投与は、脊髄細胞を特異的に標的とする、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
中枢神経系関連ナチュラルキラー細胞(NK)のレベルおよび機能に干渉することができる治療有効量の薬剤(例えば、JAKキナーゼ阻害剤(例えば、トファシチニブ))の投与を介する、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療、進行の遅延、または重症度の低減のための方法が本明細書中に提供される。
【0002】
〔導入〕
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動系の全てのレベルでの運動ニューロン変性を特徴とする破壊的な成人発症疾病である。発症部位にもよるが、初期症状は、構音障害、嚥下障害、近位または遠位の衰弱を含む。疾患の進行により、筋萎縮、痙縮、反射亢進、麻痺を生じ、最終的に呼吸不全に至る(Mitchell JD、Borasio GD、Lancet 2007、369:2031-41を参照のこと)。米国では、10万人あたり3.9人の罹患率で、診断後の予想寿命は、3~5年である(Mehta P、Antao V、Kaye W、Sanchez M、Williamson D、Bryan L、Muravov O、Horton K、Division of T、Human Health Sciences AfTS、Disease Registry AG、Prevalence of amyotrophic lateral sclerosis-United States、2010-2011、Morbidity and mortality weekly report Surveillance summaries 2014、63 Suppl 7:1-14を参照のこと)。解決策はなく、治療の選択肢は限られている。研究は、免疫系がALS進行において重要な役割を果たすことを実証する(Murdock BJら、Neurobiology of disease 2015、77:1-12;Hooten KGら、Neurotherapeutics:the journal of the American Society for Experimental NeuroTherapeutics 2015、12:364-75;Zhao Wら、Journal of neuroimmune pharmacology:the official journal of the Society on NeuroImmune Pharmacology 2013、8:888-99を参照のこと)が、免疫系の役割は様々であり、疾患の経過において、様々な態様が有益な役割と有害な役割との両方を果たし得る。ALS患者の免疫系を普遍的に抑制しようとする試みは、良くても疾患の進行において無視できる程度の効果しか及ぼさないか、悪くて疾患を加速させている(Cudkowicz MEら、Annals of Neurology 2006、60:22-31;Meininger Vら、Amyotrophic lateral sclerosis:official publication of the World Federation of Neurology Research Group on Motor Diseases 2009、10:378-83;Meininger Vら、Neurology 2006、66:88-92;Gordon PHら、The Lancet Neurology 2007、6:1045-53を参照のこと)。あるいは、ALSマウスモデルにおける特異的免疫細胞集団の増大または欠損が疾患経過を変化させ、疾患進行を遅らせることができる(例えば、Chiu IMら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2008,105:17913-8;Butovsky Oら、The Journal of clinical investigation 2012,122:3063-87;Finkelstein Aら、PloS one 2011、6:e22374を参照のこと)。このように、治療標的として役立つ免疫細胞集団を同定することが決定的に必要である。
【0003】
本発明は、この必要性に取り組む。
【0004】
〔発明の概要〕
ナチュラルキラー(NK)細胞は、癌および感染症に対抗する際に重要な役割を果たす免疫細胞である(Vivier、Eら、Nature immunology 9、503-510、doi:10.1038/ni1582(2008)を参照のこと)。これらの細胞は、組織を巡回し、感染しているか、または癌化した他の細胞を排除する。さらに、それらは、病気や死につつある細胞を排除する役割も担っている。通常、体内の細胞は、主要組織適合複合体クラスI(MHC I)の発現を介して、NK細胞媒介性細胞傷害から保護される。しかしながら、ALSの運動ニューロンは、ヒト患者およびマウスモデルの両方においてMHC I発現を欠いており(Songら、Nature medicine 22、397-403、doi:10.1038/nm.4052(2016)を参照のこと)、それらは、NK細胞に対して信じ難いほど脆弱である。増加したNK細胞レベルは、ALSマウスの中枢神経系(CNS)(Finkelstein,Aら、PloS one 6、e22374、doi:10.1371/journal.pone.0022374(2011)を参照のこと)、およびALS患者の末梢(Murdock,B.Jら、JAMA neurology、doi:10.1001/jamaneurol.2017.2255(2017)を参照のこと)でも検出できる。
【0005】
本発明のための実施形態を開発する過程の間に行われた実験は、NK細胞がALS進行に寄与することを割り出し、それによって、NK細胞を標的とすることを実行可能な治療の選択肢として示した。さらに、本発明のための実施形態を開発する過程の間に行われた実験は、トファシチニブが、IL-15シグナル伝達の妨害および/または阻害、IL-10発現の妨害および/または阻害、IFN-γ発現の妨害および/または阻害、パーフォリンレベルの減少、ならびにNK細胞移動の妨害および/または阻害、のうちの1つ以上を介して、NK細胞の維持、増殖、および他の細胞に対する細胞毒性を妨害および/または阻害できることを割り出した。
【0006】
トファシチニブは、免疫細胞の分極化、および炎症誘発性サイトカインの産生に不可欠なjanusキナーゼ(JAK)経路を阻害する。トファシチニブは、免疫系全体を抑制するのではなく、免疫系が破壊的な表現型へと歪むことを妨げる。さらに、NK細胞レベルおよび活性を調節するサイトカインの発現は、トファシチニブによって減少し(Hodge,J.Aら、Clinical and experimental rheumatology 34、318-328(2016)を参照のこと)、NK細胞レベルは用量に依存して減少する(Hodge,J.Aら、Clinical and experimental rheumatology 34、318-328(2016);van Gurp,E.ら、American journal of transplantation:official journal of the American Society of Transplantation and the American Society of Transplant Surgeons 8、1711-1718、doi:10.1111/J.1600-6143.2008.02307.x(2008)を参照のこと)一方で、CD4 T細胞レベルを維持しながら(van Gurp,E.ら、American journal of transplantation:official journal of the American Society of Transplantation and the American Society of Transplant Surgeons 8、1711-1718、doi:10.1111/J.1600-6143.2008.02307.x(2008)を参照のこと)、ALSにおいて保護的であることが示されている(Murdock,B.Jら、JAMA neurology、doi:10.1001/jamaneurol.2017.2255(2017);Beers,D.Rら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105、15558-15563、doi:10.1073/pnas.0807419105(2008)を参照のこと)。
【0007】
したがって、本発明は、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療、進行の遅延、または重症度の低減の方法であって、前記方法は、それを必要とする対象に対して、治療有効量の薬剤(例えば、JAKキナーゼ阻害剤(例えば、トファシチニブ))を投与することを含み、前記治療有効量は、中枢神経系関連ナチュラルキラー細胞(NK)のレベルおよび機能に干渉するために十分である、方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記薬剤の前記投与は、前記対象の中枢神経系を特異的に標的とする。いくつかの実施形態において、前記薬剤の前記投与は、ALS運動ニューロンを特異的に標的とする。いくつかの実施形態において、前記薬剤の前記投与は、正常レベルのMHC-1と比較して減少したレベルのMHC-1を有するALS運動ニューロンを特異的に標的とする。いくつかの実施形態において、前記薬剤の前記投与は、脊髄細胞を特異的に標的とする。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記対象は、哺乳動物の対象(例えば、マウス、ウマ、ヒト、ネコ、イヌ、ゴリラ、チンパンジーなど)である。いくつかの実施形態において、前記対象は、ALSに罹患しているか、または罹患する危険性があるヒト患者である。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記投与は、IL-15シグナル伝達の妨害および/または阻害、IL-10発現の妨害および/または阻害、IFN-γ発現の妨害および/または阻害、パーフォリンレベルの減少、ならびにNK細胞移動の妨害および/または阻害、のうちの1つ以上を介して、NK細胞の維持、増殖、および運動ニューロン細胞に対する細胞毒性を妨害および/または阻害することをもたらす。
【0011】
本発明は、中枢神経系関連ナチュラルキラーNKのレベルおよび機能に干渉することが、ALSの治療のための満たされていない必要性を満たすことを意図しており、このような治療はCNS炎症の減少、および/またはNK細胞活性に対する運動ニューロンの脆弱性の予防をもたらす。さらに、このような治療は、CD4 T細胞レベルに影響を及ぼさない。
【0012】
このような方法は、特定の薬剤の投与に限定されない。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、AT9283、AZD1480、バリシチニブ、BMS-911543、フェドラチニブ、フィルゴチニブ(GLPG0634)、ガンドチニブ(LY2784544)、INCB039110、レスタウルチニブ、モメロチニブ(CYT0387)、NS-018、パクリチニブ(SB1518)、ペフィシチニブ(ASP015K)、ルキソリチニブ、トファシチニブ(旧タソシチニブ)、およびXL019から選択される。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、JAKキナーゼ阻害剤である。例えば、いくつかの実施形態において、このような薬剤は、JAK1、JAK2および/またはJAK3を阻害することができる。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、JAK3阻害剤である。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記治療有効量は、ALSの1つ以上の症状を検出可能に減少または改善するために十分な量である。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の症状は:足先の前部を持ち上げることが困難;足指を持ち上げることが困難;片脚または両脚の衰弱;片足先または両足先の衰弱;片足首または両足首の衰弱;手の衰弱;手のぎこちなさ;発話の不明瞭さ;嚥下障害;筋痙攣;片腕または両腕の痙攣;片肩または両肩の痙攣;および/または舌の攣縮;を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、局所的に投与されるように製剤化される。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、全身に、静脈内に、動脈内に、皮下に、またはくも膜下腔内に投与されるように製剤化される。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、ALSを治療するために公知の薬剤および一連の薬物(例えば、リルゾール、セフトリアキソン、デクスプラミペキソール、クレアチン+タモキシフェン、ラサギリン、ピオグリタゾン、アリモクロモル、ピリメタミン、トランチノイン(trantinoin)+ピオグリタゾン、エダラボン、およびスーパーオキシドジスムターゼをコードするRNAに対するアンチセンス分子または干渉RNA、のうちの1つ以上)との組み合わせ治療が、ALS治療のために提供される。ALSを治療するために知られている全ての承認された薬物についての投与は公知であるので、本発明は、それらと先に記載された薬剤との種々の組み合わせを意図する。
【0016】
特定の実施形態において、薬剤は、CNS関連炎症を減少させる目的で投与される。
【0017】
特定の実施形態において、薬剤は、NK細胞曝露に関連する運動ニューロンの脆弱性を予防する目的で投与される。
【0018】
本発明はまた、薬学的に許容可能なキャリア中に薬剤を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
本発明はまた、1つ以上の薬剤(例えば、中枢神経系関連NKのレベルおよび機能に干渉するために十分な薬剤)と、動物に対して、前記薬剤を投与するための取扱説明書と、を含むキットを提供する。前記キットは、任意に、1つ以上の他の治療薬、例えば、リルゾール、セフトリアキソン、デクスプラミペキソール、クレアチン+タモキシフェン、ラサギリン、ピオグリタゾン、アリモクロモル、ピリメタミン、トランチノイン(trantinoin)+ピオグリタゾン、エダラボン、およびスーパーオキシドジスムターゼをコードするRNAに対するアンチセンス分子または干渉RNAを含んでもよい。
【0020】
〔図面の簡単な説明〕
図1〕NK細胞除去処理後のWTおよびALSマウスにおけるNK細胞(NK1.1+)のフローサイトメトリー解析。コントロールWTマウス、疑似処理したALSマウス、およびNK細胞除去処理の末梢血(A)と脊髄(B)におけるNK細胞のレベルが示される。**:p<.01、***:p<.001、****:p<.0001。
【0021】
図2〕NK細胞除去処理後の生存率およびCNS炎症の変化。(A)コントロールWTマウス、疑似処理したALSマウス、およびNK細胞除去処理の生存率が示される。コントロールWTマウス、疑似処理したALSマウス、およびNK細胞除去処理のCNSにおける、全白血球蓄積(B)とCD11c+ミクログリアの蓄積(B)が示される。*:p<.05、**:p<.01、***:p<.001。
【0022】
図3〕トファシチニブは、NK細胞の活性および細胞毒性を減少させる。(A)NK細胞(NK92細胞株)を、30ng/mlのIL-15で一晩(ON)活性化した後、またはIL-15で活性化させる前(2時間)のいずれかに、トファシチニブで処理し、既に活性化されたNK細胞の阻害(一晩刺激)、またはその活性化の防止(2時間刺激)における、その有効性を試験した。(B)一晩または2時間、IL-15と共に培養したNK細胞を溶解し、qPCRを用いてサイトカイン発現を評価した。IL-10、TNF-α、およびIFN-γ遺伝子発現を評価した。(C)細胞内グランザイムBおよびパーフォリンのレベルを、フローサイトメトリーを用いてインビトロでNK細胞において評価した。血清なし状態の非刺激NK細胞(ネガティブコントロール;青)、血清刺激NK細胞(ポジティブコントロール;赤)、IL-15刺激NK細胞(30ng/ml IL-15;橙)、またはトファシチニブ処理NK細胞(30ng/ml IL-15+トファシチニブ;緑)について、蛍光強度をプロットした。(D)NK細胞移動は、トランスウェルアッセイを用いて評価した。NK92細胞を蛍光標識し、多孔質膜によって分離されたウェルの片側に置いた。化学誘引物質(血清またはCCL13)をトランスウェルの反対側に置き、3時間後、ウェル半分の化学誘引物質における蛍光強度を評価した。(E)NK細胞毒性は、K562共培養アッセイを用いて測定した。NK92 NK細胞を複数条件で培養した後、K562癌細胞と4:1の比率で一晩、共培養した。次いで、細胞を生体染料で染色し、フローサイトメトリーを用いて分析した。K562の生存率が低いことは、NK細胞の細胞毒性が大きいことを示している。
【0023】
〔発明の詳細な説明〕
ALSは、一般にルー・ゲーリッグ病と呼ばれ、運動皮質、脳幹、および脊髄における運動ニューロンの選択的な早期変性、および死を特徴とする。運動ニューロンの喪失は、進行性の筋麻痺を引き起こし、最終的には呼吸不全から死に至る。ALS全症例の約90%は、疾病の家族歴がない孤発性筋萎縮性側索硬化症であり、他の約10%の症例は、家族性筋萎縮性側索硬化症の症例である。
【0024】
神経炎症は、ヒト患者およびマウスモデルの両方におけるALSの顕著な特徴である(Murdock BJら、Neurobiology of disease 2015、77:1-12;Zhao Wら、Journal of neuroimmune pharmacology:the official journal of the Society on NeuroImmune Pharmacology 2013、8:888-99を参照のこと)。運動ニューロン変性が臨床症状の根底にある一方で、免疫系が病理学において鍵となる役割を果たすことが次第に明らかになってきている。種々の傷害は、運動ニューロン疾患の特徴的な臨床的および組織病理学的徴候を生じる同一の免疫応答を生じる。これにより、免疫系は、治療のための魅力的な標的となるが、これは多種多様な可能性があるALSの原因全てが、疾患の経過に渡って、共通の免疫学的経路を通って集中するからである(Hooten KGら、Neurotherapeutics:the journal of the American Society for Experimental NeuroTherapeutics 2015、12:364-75を参照のこと)。ALSにおいてナチュラルキラー(NK)細胞とナチュラルキラーT(NKT)細胞とを関係づけるこれまでの研究にもかかわらず、これまでの研究は、CD4 T細胞、単球、またはミクログリアに焦点を当てているため、ALSの間のこれらの細胞の役割を探るためには、ほとんど行われていない(Murdock BJら、Neurobiology of disease 2015,77:1-12;Zhao Wら、Journal of neuroimmune pharmacology:the official journal of the Society on Neuroimmune Pharmacology 2013、8:888-99を参照のこと)。したがって、ALSにおけるNKおよびNKT細胞の試験および調節は、非常に魅力的な研究手段である。
【0025】
本発明のための実施形態を開発する過程の間に行われた実験は、NK細胞がALS進行に寄与することを割り出し、それによって、NK細胞を標的とすることを実行可能な治療の選択肢として示した。さらに、本発明のための実施形態を開発する過程の間に行われた実験は、トファシチニブが、IL-15シグナル伝達の妨害および/または阻害、IL-10発現の妨害および/または阻害、IFN-γ発現の妨害および/または阻害、パーフォリンレベルの減少、ならびにNK細胞移動の妨害および/または阻害、のうちの1つ以上を介して、NK細胞の維持、増殖、および運動ニューロン細胞に対する細胞毒性を妨害および/または阻害できることを割り出した。
【0026】
したがって、本発明は、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療、進行の遅延、または重症度の低減の方法であって、当該方法は、それを必要とする対象に対して、治療有効量の薬剤(例えば、JAKキナーゼ阻害剤(例えば、トファシチニブ))を投与することを含み、当該治療有効量は、中枢神経系関連ナチュラルキラー細胞(NK)のレベルおよび機能に干渉するために十分である、方法を提供する。
【0027】
いくつかの実施形態において、薬剤の投与は、対象の中枢神経系を特異的に標的とする。いくつかの実施形態において、薬剤の投与は、ALS運動ニューロンを特異的に標的とする。いくつかの実施形態において、薬剤の投与は、正常レベルのMHC-1と比較して減少したレベルのMHC-1を有するALS運動ニューロンを特異的に標的とする。いくつかの実施形態において、薬剤の投与は、脊髄細胞を特異的に標的とする。
【0028】
いくつかの実施形態において、対象は、哺乳動物の対象(例えば、マウス、ウマ、ヒト、ネコ、イヌ、ゴリラ、チンパンジーなど)である。いくつかの実施形態において、対象は、ALSに罹患しているか、または罹患する危険性があるヒト患者である。
【0029】
いくつかの実施形態において、投与は、IL-15シグナル伝達の妨害および/または阻害、IL-10発現の妨害および/または阻害、IFN-γ発現の妨害および/または阻害、パーフォリンレベルの減少、ならびにNK細胞移動の妨害および/または阻害、のうちの1つ以上を介して、NK細胞の維持、増殖、および運動ニューロン細胞に対する細胞毒性を妨害および/または阻害することをもたらす。
【0030】
本発明は、中枢神経系関連ナチュラルキラーNKのレベルおよび機能に干渉することが、ALSの治療のための満たされていない必要性を満たすことを意図しており、このような治療はCNS炎症の減少、および/またはNK細胞活性に対する運動ニューロンの脆弱性の予防をもたらす。さらに、このような治療は、CD4 T細胞レベルに影響を及ぼさない。
【0031】
このような方法は、特定の薬剤の投与に限定されない。いくつかの実施形態において、薬剤は、AT9283、AZD1480、バリシチニブ、BMS-911543、フェドラチニブ、フィルゴチニブ(GLPG0634)、ガンドチニブ(LY2784544)、INCB039110、レスタウルチニブ、モメロチニブ(CYT0387)、NS-018、パクリチニブ(SB1518)、ペフィシチニブ(ASP015K)、ルキソリチニブ、トファシチニブ(旧タソシチニブ)、およびXL019から選択される。いくつかの実施形態において、薬剤は、JAKキナーゼ阻害剤である。例えば、いくつかの実施形態において、このような薬剤は、JAK1、JAK2および/またはJAK3を阻害することができる。いくつかの実施形態において、薬剤は、JAK3阻害剤である。
【0032】
いくつかの実施形態において、治療有効量は、ALSの1つ以上の症状を検出可能に減少または改善するために十分な量である。いくつかの実施形態において、1つ以上の症状は:足先の前部を持ち上げることが困難;足指を持ち上げることが困難;片脚または両脚の衰弱;片足先または両足先の衰弱;片足首または両足首の衰弱;手の衰弱;手のぎこちなさ;発話の不明瞭さ;嚥下障害;筋痙攣;片腕または両腕の痙攣;片肩または両肩の痙攣;および/または舌の攣縮;を含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、薬剤は、局所的に投与されるように製剤化される。いくつかの実施形態において、薬剤は、全身に、静脈内に、動脈内に、皮下に、またはくも膜下腔内に投与されるように製剤化される。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、ALSを治療するために公知の薬剤および一連の薬物(例えば、リルゾール、セフトリアキソン、デクスプラミペキソール、クレアチン+タモキシフェン、ラサギリン、ピオグリタゾン、アリモクロモル、ピリメタミン、トランチノイン(trantinoin)+ピオグリタゾン、エダラボン、およびスーパーオキシドジスムターゼをコードするRNAに対するアンチセンス分子または干渉RNA、のうちの1つ以上)との組み合わせ治療が、ALS治療のために提供される。ALSを治療するために知られている全ての承認された薬物についての投与は公知であるので、本発明は、それらと先に記載された薬剤との種々の組み合わせを意図する。
【0035】
本発明の範囲内の組成物は、全ての組成物を含み、当該全ての組成物において、記載された薬剤(例えば、中枢神経系関連NKのレベルおよび機能に干渉するために十分な薬剤)が、その意図された目的を達成するために有効な量で含まれる。個々のニーズは様々であるが、各成分の有効量の最適範囲の決定は、当技術分野の技術の範囲内である。典型的には、化合物は、哺乳動物、例えばヒトに0.0025~50mg/kgの用量で経口投与され得、または、アポトーシスの誘導に対応する障害について処理される哺乳動物の体重の1日当たり、等量のその薬学的に許容可能な塩が投与され得る。一実施形態において、約0.01~約25mg/kgが、このような障害を処理、改善、または予防するために経口投与される。筋肉内注射の場合、用量は、一般に経口用量の約1/2である。例えば、適切な筋肉内用量は、約0.0025~約25mg/kg、または約0.01~約5mg/kgであろう。
【0036】
単位経口用量は、約0.01~約1000mg、例えば、約0.1~約100mgの化合物を含んでもよい。単位用量は、それぞれが約0.1~約10mg、便利には約0.25~50mgの化合物またはその溶媒和物を含有する1つ以上のタブレットまたはカプセルで、1日1回以上、投与されてもよい。
【0037】
局所製剤において、化合物は、キャリア1グラム当たり、約0.01~100mgの濃度で存在してもよい。一実施形態において、化合物は、約0.07~1.0mg/ml、例えば約0.1~0.5mg/mlの濃度で存在してもよく、一実施形態において、約0.4mg/mlの濃度で存在してもよい。
【0038】
化合物を化学物質そのままで投与することに加えて、本発明の化合物は、医薬調製物の一部として投与されてもよい。当該医薬調製物は、薬学的に使用され得る調製物へと化合物を処理することを容易にする賦形剤および助剤を含む適切な薬学的に許容可能なキャリアを含有する。調製物、特に、経口または局所投与することができ、1つのタイプの投与に使用することができる調製物は、賦形剤とともに、約0.01~99%、一実施形態においては約0.25~75%の活性化合物を含有する。当該1つのタイプの投与は、タブレット、糖衣錠、徐放性ロゼンジおよびカプセル、口内洗浄剤および口洗剤、ゲル、液状懸濁物、ヘアリンス、ヘアゲル、シャンプー、および座薬などの直腸投与することができる調製物、ならびに静脈内注入、注射、局所または経口投与による投与に適した溶液などである。
【0039】
本発明の医薬組成物は、本発明の化合物の有益な効果を経験し得る任意の患者に投与され得る。そのような患者の中でも、最も重要なものは哺乳類、例えばヒトであるが、本発明はそのように限定されることを意図しない。他の患者は、獣医動物(ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコなど)を含む。
【0040】
化合物およびその医薬組成物は、それらの意図された目的を達成する任意の手段によって投与され得る。例えば、投与は、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、口腔内、くも膜下腔内、頭蓋内、鼻腔内または局所経路によるものであり得る。代替的には、または同時には、当該投与は、経口経路によるものであり得る。投与される用量は、受容者の年齢、健康状態、および体重、同時治療の種類(もしあれば)、治療の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存する。
【0041】
本発明の医薬調製物は、それ自身公知の様式、例えば従来の混合、混合、造粒、糖衣錠製造、溶解、または凍結乾燥処理によって、製造される。したがって、経口使用のための医薬調製物は、活性化合物を固体賦形剤と組み合わせ、任意に得られた混合物を粉砕し、所望または必要であれば、適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理し、タブレットまたは糖衣錠コアを得ることによって、得ることができる。
【0042】
適切な賦形剤は特に:例えばラクトースまたはスクロース、マンニトールまたはソルビトールなどの糖類、セルロース調製物および/またはリン酸カルシウム、例えば、リン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウムなどの充填剤;ならびに、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドンを使用するデンプンペーストなどの結合剤;である。所望の場合、例えば上述の澱粉およびカルボキシメチル澱粉、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、または、例えばアルギン酸ナトリウムのような、その塩などの崩壊剤を添加してもよい。助剤はとりわけ、流れ調整剤および滑剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、またはその塩、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコールなどである。糖衣錠コアには、所望の場合、胃液に対して耐性がある適切なコーティングが備えられる。この目的のために、濃縮糖溶液を使用してもよく、当該溶液は、任意にアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ならびに/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒もしくは溶媒混合物を含んでもよい。胃液に耐性があるコーティングを生成するためには、適切なセルロース調製物、例えばアセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチル-セルロースフタレートなど、の溶液が使用される。染料または顔料が、例えば識別のために、または活性化合物用量の組み合わせを特性付けるために、タブレットまたは糖衣錠コーティングに添加されてもよい。
【0043】
経口使用できる他の医薬調製物は、ゼラチン製の押込みカプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤、例えばグリセロールまたはソルビトールなど、製の封入軟カプセルを含む。押込みカプセルは、粒形状の活性化合物を含むことができ、当該活性化合物は、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの滑剤、ならびに任意に安定化剤と混合されてもよい。軟カプセルでは、活性化合物は、一実施形態においては、脂肪油、または液体パラフィンなどの適切な液体に溶解または懸濁される。さらに、安定剤が添加されてもよい。
【0044】
直腸に使用することができる、あり得る医薬調製物は、例えば座薬を含み、当該座薬は、1つ以上の活性化合物と座薬基剤との組み合わせからなる。適切な座薬基剤は例えば、天然もしくは合成トリグリセリド、またはパラフィン炭化水素である。さらに、活性化合物と基剤との組み合わせからなるゼラチン直腸カプセルを使用することも可能である。可能な基剤材料は例えば、液状トリグリセリド、ポリエチレングリコール、またはパラフィン炭化水素を含む。
【0045】
非経口投与のために適切な製剤は、水溶性形態の活性化合物の水溶液、例えば水溶性の塩およびアルカリ溶液を含む。さらに、適切な油性注射懸濁液として、活性化合物の懸濁液を投与してもよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルは、例えばゴマ油などの脂肪油、または、例えばオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、もまたは、ポリエチレングリコール-400を含む。水性注射懸濁剤は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランを含む、懸濁液の粘度を増加させる物質を含んでもよい。任意に、懸濁液は、安定剤を含んでもよい。
【0046】
本発明の局所用組成物は、一実施形態においては、適当なキャリアの選択により、油、クリーム、ローション、軟膏などとして、製剤化される。適切なキャリアは、植物油または鉱油、白色ワセリン(白色軟パラフィン)、分枝鎖脂肪または油、動物性脂肪および高分子量アルコール(C12より大きい)を含む。キャリアは、活性成分が可溶なものであってもよい。乳化剤、安定剤、湿潤剤、および酸化防止剤、ならびに所望の場合、色または香りを付与する薬剤も含まれてもよい。さらに、経皮浸透増強剤が、これらの局所用製剤に使用され得る。このような増強剤の例は、米国特許第3,989,816号、および第4,444,762号に見出すことができ;それぞれは、その全体が参照により、本明細書に組み込まれる。
【0047】
軟膏は、活性成分の、アーモンド油などの植物油の溶液を温かい軟パラフィンと混合し、混合物を冷却させることによって、製剤化されてもよい。このような軟膏の典型的な例は、約30重量%のアーモンド油および約70重量%の白色軟パラフィンを含むものである。ローションは、活性成分を、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどの適切な高分子量アルコールに溶解することによって、便利に調製されてもよい。
【0048】
当業者は、上記が本発明の特定の好ましい実施形態の詳細な説明を表すにすぎないことを容易に認識するのであろう。上記の組成物および方法の種々の修飾および改変は、当技術分野で利用可能な専門知識を使用して容易に達成することができ、本発明の範囲内である。
【0049】
〔実施例〕
以下の実施例は、本発明の化合物、組成物、および方法を例示するものであり、限定するものではない。臨床治療において通常直面し、当業者に明らかである種々の状態およびパラメータの他の適切な修飾および適応は、本発明の精神および範囲内である。
【0050】
〔実施例I〕
この実施例は、NK細胞がALS進行に寄与することを実証するものである。
【0051】
ALSの進行には、重要な免疫要素がある。実際には、免疫系は、疾患の初期段階では防御的であるが、疾患が進行するにつれて破壊的になる。そのため、特定の免疫集団を標的とすることで、ALSマウスの寿命を延ばすことができる。
【0052】
NK細胞がALS進行に寄与するかどうかを試験するために、実験を行った。NK細胞は、感染細胞、癌細胞または死につつある細胞を致死させ、健康な患者と比較して、ALS患者の血中で増加することが示されている。NK細胞は、ALSマウスの脊髄で増加していることが示されている。NK細胞は、MHC-1が欠損した他の細胞を致死させる。ALS関連運動ニューロン細胞はMHC-1が欠損しているので、ALS進行におけるNK細胞の役割を調べた。
【0053】
NK細胞がALS進行に寄与するかどうかを試験するために、SOD1G93A ALSマウスを週1回用量のNK細胞欠損抗体で処理し、マウスの生存率およびCNS炎症を評価した。欠損抗体は、マーカーNK1.1を発現するNK細胞を標的とする;このマーカーは、ヘテロ接合性SOD1G93A ALSマウスのNK細胞の半分にしか存在しないが、末梢において、すべてのNK1.1細胞(またはすべてのNK細胞の半分)を効果的に除去した(図1A)。さらに、欠損により、CNSにおけるNK1.1 NK細胞の蓄積が排除された(図1B)。末梢およびCNSにおけるこの50%のNK減少は、ALSマウスの寿命の延長をもたらし(図2A)、CNSにおける総炎症の減少(図2B)をもたらしたが、これは、炎症性ミクログリアの数の減少によるものである(図2C)。まとめると、これらのデータは、NK細胞がALS進行に寄与しており、NK細胞を標的とすることが実行可能な治療の選択肢であることを示している。
【0054】
〔実施例II〕
前述のように、NK細胞は、ALSマウスの中枢神経系(CNS)に蓄積すること(Chiu、I.Mら、Proc Natl Acad Sci USA、2008、105(46):p.17913-8;Finkelstein,Aら、PLoS One、2011、6(8):p.e22374を参照のこと)、ALS患者の末梢血およびCNSにおいて、NK細胞の増殖および活性化を促進する分子シグナルが増加すること(Rentzos,Mら、Eur Neurol、2010、63(5):p.285-90を参照のこと)、ALSマウスおよびヒト患者の両方における運動ニューロンは、NK細胞媒介性損傷に対して、より脆弱であること(Song,Sら、Nat Med、2016、22(4):p.397-403を参照のこと)が分かってきている。実施例Iに示した結果は、NK細胞の欠損がALSマウスにおける神経炎症を減少させ得、生存率を増加させ得ることを示す。さらに、ALS患者は疾患の初期段階でNK細胞レベルが増加しているので、このような結果は、NK細胞を標的とすることが魅力的なALS治療であることを示す。さらに、トファシチニブは、末梢NK細胞を減少させることができ、これは、マウス(Shimaoka,Hら、Oncol Lett、2017、14(3):p.3019-3027を参照のこと)においても、ヒト患者(van Vollenhoven,Rら、Arthritis Rheumatol、2019、71(5):p.685-695;van Gurp,Eら、Am J Transplant、2008、8(8):p.1711-8を参照のこと)においても該当する。そのため、、魅力的なALS治療として、このようにNK細胞を標的とすることは、このような治療薬(例えば、JAKキナーゼ阻害剤(例えば、トファシチニブ))の使用によって、達成され得る。
【0055】
トファシチニブは、JAK/STAT経路を介するサイトカインシグナル伝達をブロックることによって、機能する(Changelian,P.Sら、Science、2003、302(5646):p.875-8;Flanagan,M.Eら、J Med Chem、2010、53(24):p.8468-84を参照のこと)。ブロックされる経路の1つは、NK細胞集団の維持および拡大に不可欠であるIL-15シグナル伝達経路である(Strowig,Tら、Blood、2010、116(20):p.4158-67;Ferlazzo,Gら、Proc Natl Acad Sci USA、2004、101(47):p.16606-11を参照のこと)。これはおそらく、トファシチニブで処理されている患者におけるNK細胞レベルの減少を説明する(van Vollenhoven,Rら、Arthritis Rheumatol、2019、71(5):p.685-695;van Gurp,Eら、Am J Transplant、2008、8(8):p.1711-8を参照のこと)。しかし、IL-15はまた、NK細胞の活性化および細胞毒性において重要な役割を果たす(Fehniger,T.Aら、J Immunol、1999、162(8):p.4511-20;Allavena、Pら、Nat Immun、1996、15(2-3):p.107-16;Allavena、pら、J Leukoc Biol、1997、61(6):p.729-35;Choi,S.Sら、Clin Diagn Lab Immunol、2004、11(5):p.879-88を参照のこと)。このように、トファシチニブは、全体的なNK細胞レベルを低下させることに加えて、ALS患者におけるNK細胞活性をさらに低下させ、運動ニューロンの損傷を減少させる可能性がある。
【0056】
この可能性を試験するために、十分に特性付けられたNK92 NK細胞株を利用した実験を実施し、インビトロにおけるNK細胞の活性化および細胞毒性に対するトファシチニブの影響を評価した。2つの別々の条件を用いた(図3A):NK細胞をIL-15で2時間、前処理した後、トファシチニブで一晩培養し(一晩 IL-15)、予め活性化された細胞を抑制するトファシチニブの能力を評価した。あるいは、NK細胞をトファシチニブで一晩処理した後、IL-15で2時間、刺激し、トファシチニブ(2時間 IL-15)の今後の活性化を抑制する能力を評価した。まず、これら2つの条件からNK細胞を採取し、溶解し、qPCR法を用いてサイトカイン発現遺伝子の発現を評価した(図3B)。IL-10およびIFN-γの発現は、一晩のIL-15処理により有意に増加した一方で、IL-10、IFN-γ、およびTNF-α(第一応答炎症性サイトカイン)は、2時間のIL-15刺激の後に大幅に増加した。対照的に、IL-10およびIFN-γの発現の両方は、トファシチニブ処理または前処理により、有意に低下した。
【0057】
次に、グランザイムBおよびパーフォリンの細胞内レベルを試験する実験を行った。当該2つのタンパク質は、フローサイトメトリーを用いたNK細胞において、標的細胞においてアポトーシスを誘導するためにNK細胞によって使用された(Shresta,Sら、Proc Natl Acad Sci USA、1995、92(12):p.5679-83;Rode,Mら、J Virol、2004、78(22):p.12395-405を参照のこと)(図3C)。NK細胞は、トファシチニブの存在下または非存在下で、IL-15で一晩または2時間、刺激された;血清が無い培地で培養された非刺激NK細胞をネガティブコントロールとして用い、血清で培養したNK細胞をポジティブコントロールとして用いた。培養後、NK細胞を透過処理し、グランザイムBおよびパーフォリンに対する蛍光標識抗体で細胞内染色した。次いで、フローサイトメトリーを用いてNK細胞を分析して、平均的なNK細胞のグランザイムBおよびパーフォリンレベルを評価した。トファシチニブは、グランザイムBレベルにわずかな影響を及ぼしたが、パーフォリンレベルは、特にIL-15刺激の前にトファシチニブで処理されていたNK細胞において、トファシチニブ処理により低下した。
【0058】
トファシチニブ処理後のNK細胞移動に対する影響を評価するために、実験を行った(図3D)。市販のキットを使用して、NK92 NK細胞を、多孔質膜によって二等分されたウェルの半分に配置した。次いで、NK細胞化学誘引物質(血清、またはCCL13)をウェルの残り半分に入れ、膜を横切ったNK細胞の数を測定した。トファシチニブの有無にかかわらず、IL-15で刺激された細胞;血清無しで培養したNK細胞をネガティブコントロールとして用いた。結果は、トファシチニブ処理が、化学誘引物質としての血清に応答したNK細胞移動をわずかに減少させ、CCL13に応答した移動をより強固に抑制することを示している。最後に、トファシチニブがNK細胞媒介性致死を抑制できるかどうかを評価するために、十分に確立された共培養モデル系を利用して、NK細胞をK562癌細胞と共に培養し、K562生存率を用いてNK細胞毒性を測定する実験を行った(Lanier,L.Lら、J Immunol、1983、131(4):p.1789-96を参照のこと)。NK細胞は、血清なし(ネガティブコントロール)、血清あり(ポジティブコントロール)、IL-15ありで2時間、IL-15ありで一晩、トファシチニブ単独、IL-15ありで2時間+トファシチニブ、またはIL-15ありで一晩+トファシチニブ、の条件下で培養された(図3E)。次いで、、NK:K562が4:1の比率で、これらのNK細胞をK562癌細胞と一晩、共培養した。細胞を採取し、生体染料で染色し、フローサイトメトリーを用いて分析した。すべてのデータを血清非存在下(ネガティブコントロール)で培養したNK細胞に対して正規化し、実験間の変動を補正した。血清中で培養したNK細胞が最も細胞毒性が高く、K562細胞の50%がNK細胞によって致死されていることが分かった。IL-15刺激の持続時間が長くなると、K562の生存率が減少し(したがってNK細胞の細胞毒性が増大し)、一晩刺激すると血清活性化NK細胞と比較して細胞毒性が生じた。対照的に、NK細胞損傷は、一晩のIL-15刺激後でもトファシチニブ処理によって改善された。
【0059】
次に、ヒトの年齢および性別を一致させたALS患者および対照患者の小グループ(n=10)において、NK細胞活性化レベルを試験する実験を行った。市販のキットを用いてNK細胞を単離し、NK細胞活性化遺伝子の発現を、Nanostringを用いて測定した。活性化遺伝子の発現増加が、ALS患者(表1)および複数回の受診にわたって観察された。これらのデータは、ALS患者のNK細胞が健常な対照患者よりも活性化されていること、およびトファシチニブがALSの治療に使用される可能性があることを示している。
【0060】
【表1】
【0061】
ここまでで本発明を全体的に説明してきたが、本発明の範囲またはその任意の実施形態に影響を及ぼすことなく、条件、定式化、および他のパラメータの広範かつ同等の範囲内で、同じことが実施され得ることが、当業者には理解されるであろう。本明細書中で引用されたすべての特許、特許出願および刊行物は、その全体が参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0062】
〔参照による組み込み〕
本明細書中で参照される特許文献および科学論文それぞれの開示全体は、すべての目的のために参照により組み込まれる。
【0063】
〔同等物〕
本発明は、その精神または本質的特性から逸脱することなく、他の特定の形態内で実施されてもよい。したがって、前述の実施形態は、本明細書で説明される本発明を限定するものではなく、すべての点において例示的であると見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は前述の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の同等性の意味および範囲の中に入るすべての変更は、その中に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】NK細胞除去処理後のWTおよびALSマウスにおけるNK細胞(NK1.1+)のフローサイトメトリー解析。コントロールWTマウス、疑似処理したALSマウス、およびNK細胞除去処理の末梢血(A)と脊髄(B)におけるNK細胞のレベルが示される。**:p<.01、***:p<.001、****:p<.0001。
図2】NK細胞除去処理後の生存率およびCNS炎症の変化。(A)コントロールWTマウス、疑似処理したALSマウス、およびNK細胞除去処理の生存率が示される。コントロールWTマウス、疑似処理したALSマウス、およびNK細胞除去処理のCNSにおける、全白血球蓄積(B)とCD11c+ミクログリアの蓄積(B)が示される。*:p<.05、**:p<.01、***:p<.001。
図3A】NK細胞(NK92細胞株)を、30ng/mlのIL-15で一晩(ON)活性化した後、またはIL-15で活性化させる前(2時間)のいずれかに、トファシチニブで処理し、既に活性化されたNK細胞の阻害(一晩刺激)、またはその活性化の防止(2時間刺激)における、その有効性を試験した。
図3B】一晩または2時間、IL-15と共に培養したNK細胞を溶解し、qPCRを用いてサイトカイン発現を評価した。IL-10、TNF-α、およびIFN-γ遺伝子発現を評価した。
図3C】細胞内グランザイムBおよびパーフォリンのレベルを、フローサイトメトリーを用いてインビトロでNK細胞において評価した。血清なし状態の非刺激NK細胞(ネガティブコントロール;青)、血清刺激NK細胞(ポジティブコントロール;赤)、IL-15刺激NK細胞(30ng/ml IL-15;橙)、またはトファシチニブ処理NK細胞(30ng/ml IL-15+トファシチニブ;緑)について、蛍光強度をプロットした。
図3D】NK細胞移動は、トランスウェルアッセイを用いて評価した。NK92細胞を蛍光標識し、多孔質膜によって分離されたウェルの片側に置いた。化学誘引物質(血清またはCCL13)をトランスウェルの反対側に置き、3時間後、ウェル半分の化学誘引物質における蛍光強度を評価した。
図3E】NK細胞毒性は、K562共培養アッセイを用いて測定した。NK92 NK細胞を複数条件で培養した後、K562癌細胞と4:1の比率で一晩、共培養した。次いで、細胞を生体染料で染色し、フローサイトメトリーを用いて分析した。K562の生存率が低いことは、NK細胞の細胞毒性が大きいことを示している。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E