(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ノイズ低減装置
(51)【国際特許分類】
H04B 1/10 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
H04B1/10 L
(21)【出願番号】P 2021512061
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014289
(87)【国際公開番号】W WO2020203875
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019068104
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165848
【氏名又は名称】原田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】今村 豊
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051758(WO,A1)
【文献】特開2013-98767(JP,A)
【文献】特開平9-55690(JP,A)
【文献】特開平8-154081(JP,A)
【文献】米国特許第5260707(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/10
H04B 17/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送波を受信する第1のアンテナ、及び、第2のアンテナに接続されたノイズ低減装置であって、
車両のノイズ源から前記第1のアンテナ及び前記第2のアンテナを経由して前記ノイズ低減装置に到達する信号の経路をそれぞれ第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路とした場合に、前記第1の伝搬経路を伝搬した第1の信号、及び、前記第2の伝搬経路を伝搬した第2の信号のうち一方の信号の位相を所定の角度だけ移相し、移相された前記一方の信号と、前記第1の信号及び前記第2の信号のうち他方の信号と合成する合成器と、
前記第1のアンテナと前記合成器との間、又は、前記第2のアンテナと前記合成器との間に設けられた位相差吸収回路と、を備え、
前記位相差吸収回路は、前記放送波の帯域の下限周波数を有する2つの信号が前記第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路をそれぞれ通過したときの該2つの信号の位相差と、前記放送波の帯域の上限周波数を有する2つの信号が前記第1の伝搬経路及び前記第2の伝搬経路をそれぞれ通過したときの該2つの信号の位相差との差異を小さくするような位相シフト特性を有する、ノイズ低減装置。
【請求項2】
前記下限周波数を有する信号が前記第1の伝搬経路を通過したときの位相シフト量と前記上限周波数を有する信号が前記第1の伝搬経路を通過したときの位相シフト量との差を表す第1の帯域内位相偏差が、前記下限周波数を有する信号が前記第2の伝搬経路を通過したときの位相シフト量と前記上限周波数を有する信号が前記第2の伝搬経路を通過したときの位相シフト量との差を表す第2の帯域内位相偏差よりも小さいときには、前記第1のアンテナと前記合成器との間に前記位相差吸収回路が配置され、
前記第1の帯域内位相偏差が前記第2の帯域内位相偏差よりも大きいときには、前記第2のアンテナと前記合成器との間に前記位相差吸収回路が配置される、請求項1に記載のノイズ低減装置。
【請求項3】
前記第2のアンテナが、前記第1のアンテナよりも前記ノイズ源に近い位置に配置されている、請求項1又は2に記載のノイズ低減装置。
【請求項4】
振幅可変器及び位相可変器を更に備え、
前記振幅可変器及び位相可変器は、前記第1のアンテナと前記合成器との間、又は、前記第2のアンテナと前記合成器との間に設けられている、請求項1~3の何れか一項に記載のノイズ低減装置。
【請求項5】
前記合成器によって合成された信号に含まれるノイズの電力を取得し、前記ノイズの電力が小さくなるように前記振幅可変器及び前記位相可変器を調節する制御部を更に備える、請求項4に記載のノイズ低減装置。
【請求項6】
前記合成器が、前記一方の信号の位相を反転し、位相が反転された前記一方の信号と前記他方の信号とを合成する180°結合器である、請求項1~5の何れか一項に記載のノイズ低減装置。
【請求項7】
前記合成器が、
前記一方の信号の位相を反転する位相反転器と、
位相が反転された前記一方の信号と前記他方の信号とを加算する加算器と、
を含む、請求項1~5の何れか一項に記載のノイズ低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノイズ低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放送波を受信する第1のアンテナ及びノイズ信号を受信する第2のアンテナを備え、第1のアンテナで受信された信号と第2のアンテナで受信された信号とを逆位相で合成することによって、第1のアンテナにおいて受信された信号からノイズ成分を除去する技術が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、車外用アンテナ、車内用アンテナ、可変増幅器、可変移相器、電力検出部及び復調制御部を備えるノイズ低減装置が開示されている。このノイズ低減装置は、車内用アンテナで受信された信号の振幅及び位相を可変増幅器及び可変移相器を用いて調整してから、車外用アンテナで受信された信号に加算する。このとき、復調制御部は、電力検出部によって検出された加算器からの出力電力が最小になるように、可変増幅器及び可変移相器を制御する。
【0004】
このノイズ低減装置は、上記のように可変増幅器及び可変移相器を制御することによって、車内用アンテナで受信された信号と車外用アンテナで受信された信号とを同振幅及び逆位相にして合成する。このように、同振幅及び逆位相を有する信号同士を加算することによって、車外用アンテナで受信された信号からノイズ成分が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置では、加算器からの出力電力を最小化するように可変増幅器及び可変移相器をフィードバック制御しているので、信号のノイズ成分を最小化するには複雑な計算処理が要求される。特に、このような複雑な計算処理をリアルタイムで行うためには大きな計算資源が必要となり、装置が複雑化する恐れがある。
【0007】
したがって、簡易な構成によってノイズを低減することができるノイズ低減装置を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、放送波を受信する第1のアンテナ、及び、第2のアンテナに接続されたノイズ低減装置が提供される。このノイズ低減装置は、車両のノイズ源から第1のアンテナ及び第2のアンテナを経由してノイズ低減装置に到達する信号の経路をそれぞれ第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路とした場合に、第1の伝搬経路を伝搬した第1の信号、及び、第2の伝搬経路を伝搬した第2の信号のうち一方の信号の位相を所定の角度だけ移相し、移相された一方の信号と、第1の信号及び第2の信号のうち他方の信号と合成する合成器と、第1のアンテナと合成器との間、又は、第2のアンテナと合成器との間に設けられた位相差吸収回路と、を備えている。位相差吸収回路は、放送波の帯域の下限周波数を有する2つの信号が第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路をそれぞれ通過したときの該2つの信号の位相差と、放送波の帯域の上限周波数を有する2つの信号が第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路をそれぞれ通過したときの該2つの信号の位相差との差異を小さくするような位相シフト特性を有する。
【0009】
上記態様に係るノイズ低減装置では、位相差吸収回路によって、放送波の下限周波数を有する2つの信号が第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路をそれぞれ通過したときの該2つの信号の位相差と、上限周波数を有する2つの信号が第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路をそれぞれ通過したときの該2つの信号の位相差の差異が小さくなる。これにより、放送波の全周波数帯域において、第1の伝搬経路を伝搬する第1の信号と第2の伝搬経路を伝搬する第2の信号との位相差を一定に近づけることができる。したがって、第1の信号又は第2の信号の位相を所定の角度だけ移相することで、第1の信号の位相と第2の信号の位相とを逆位相に近づけることができる。逆位相に近い第1の信号及び第2の信号を合成器によって合成することによって、ノイズ源に起因するノイズを打ち消すことができ、その結果、第1のアンテナで受信した信号に含まれるノイズを低減することができる。また、このノイズ低減装置では、フィードバック制御によらずに第1の信号と第2の信号とを逆位相に近づけることができるので、簡易な構成でノイズを低減することができる。
【0010】
一実施形態では、下限周波数を有する信号が第1の伝搬経路を通過したときの位相シフト量と上限周波数を有する信号が第1の伝搬経路を通過したときの位相シフト量との差を表す第1の帯域内位相偏差が、下限周波数を有する信号が第2の伝搬経路を通過したときの位相シフト量と上限周波数を有する信号が第2の伝搬経路を通過したときの位相シフト量との差を表す第2の帯域内位相偏差よりも小さいときには、第1のアンテナと合成器との間に位相差吸収回路が配置され、第1の帯域内位相偏差が第2の帯域内位相偏差よりも大きいときには、第2のアンテナと合成器との間に位相差吸収回路が配置されてもよい。この実施形態では、第1の伝搬経路を伝搬する第1の信号と第2の伝搬経路を伝搬する第2の信号との位相差を一定に近づけることが容易になる。
【0011】
一実施形態では、第2のアンテナが、第1のアンテナよりもノイズ源に近い位置に配置されていてもよい。第2のアンテナをノイズ源の近くに配置することにより、主にノイズ信号が第2の信号として合成器に供給されることとなる。その結果、第1の信号と第2の信号とを逆位相で合成したときに、ノイズの抑制量を高めることができる。
【0012】
一実施形態では、振幅可変器及び位相可変器を更に備え、振幅可変器及び位相可変器は、第1のアンテナと合成器との間、又は、第2のアンテナと合成器との間に設けられていてもよい。この実施形態では、振幅可変器及び位相可変器を調整することで第1の信号の振幅と第2の信号の振幅との差異を小さくし、且つ、第1の信号と第2の信号を逆位相に近づけることができる。したがって、信号のノイズ成分をより低減することができる。
【0013】
一実施形態では、合成器によって合成された信号に含まれるノイズの電力を取得し、ノイズの電力が小さくなるように振幅可変器及び位相可変器を調節する制御部を更に備えていてもよい。この実施形態では、ノイズの電力が小さくなるように、振幅可変器及び位相可変器が制御されるので、ノイズ成分をより低減することができる。また、位相差吸収回路及び合成器によって第1の信号と第2の信号との位相差が逆位相に近づけられているので、位相可変器による位相の制御範囲を小さくすることができる。したがって、制御の計算負荷を小さくすることができる。
【0014】
一実施形態では、合成器が、一方の信号の位相を反転し、位相が反転された一方の信号と他方の信号とを合成する180°結合器であってもよい。第1の信号と第2の信号が同位相を有する場合には、合成器として180°結合器を用いることによって、他の移相器を用いることなく第1の信号と第2の信号とを逆位相に近づけることができる。
【0015】
一実施形態では、合成器が、一方の信号の位相を反転する位相反転器と、位相が反転された一方の信号と他方の信号とを加算する加算器と、を含んでいてもよい。合成器として、位相反転器と加算器を用いることによって、装置のコストを低減することができると共に、装置の寸法を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、簡易な構成によってノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係るノイズ低減装置の機能構成を示す図である。
【
図2】空間及び同軸ケーブルの単位距離あたりの位相シフト特性を示す図である。
【
図3】位相誤差とノイズ抑制量との関係を表す図である。
【
図4】ノイズ低減装置の第1配置例を示す図である。
【
図5】第1配置例における第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路の位相シフト特性を示す図である。
【
図6】位相差吸収回路の回路構成の例を示す図である。
【
図7】位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【
図8】第1配置例で用いられる位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【
図9】第2配置例における第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路の位相シフト特性を示す図である。
【
図10】第2配置例で用いられる位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係るノイズ低減装置の機能構成を示す図である。
【
図12】第3実施形態に係るノイズ低減装置の機能構成を示す図である。
【
図13】位相差吸収回路の位相シフト特性の例を示す図である。
【
図14】第4実施形態に係るノイズ低減装置の機能構成を示す図である。
【
図15】ノイズ低減装置の第3配置例を示す図である。
【
図16】第3配置例における第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路の位相シフト特性を示す図である。
【
図17】第3配置例で用いられる位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【
図18】第3の伝搬経路の位相シフト特性と位相差吸収回路の位相シフト特性とが合成された位相シフト特性、及び、第4の伝搬経路の信号伝搬特性を示す図である。
【
図19】第3配置例で用いられる位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【
図20】第5実施形態に係るノイズ低減装置の機能構成を示す図である。
【
図21】第4配置例における第1の伝搬経路及び第2の伝搬経路の位相シフト特性を示す図である。
【
図22】位相差吸収回路の回路構成の例を示す図である。
【
図23】位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【
図24】第4配置例で用いられる位相差吸収回路の位相シフト特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るノイズ低減装置1の機能構成を示す図である。
図1に示すように、ノイズ低減装置1は、第1のアンテナ12及び第2のアンテナ14を含む車載アンテナ装置10に接続されている。第1のアンテナ12は、放送波を受信するためのアンテナである。第2のアンテナ14は、ノイズ源N1からのノイズ信号を受信するためのアンテナであり、第1のアンテナ12よりもノイズ源N1に近い位置に設けられている。
【0020】
第1のアンテナ12は、放送波と共にノイズ源N1から出力されたノイズ信号を受信する。
図1に示すように、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路31を伝搬して第1のアンテナ12に受信される。第1のアンテナ12で受信された放送波の信号とノイズ源N1からのノイズ信号とを含む第1の信号S1は、導線伝搬路41を通ってノイズ低減装置1の入力端子IN1に入力される。また、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路32を伝搬して第2のアンテナ14にも受信される。第2のアンテナ14で受信された第2の信号S2は、導線伝搬路42を通ってノイズ低減装置1の入力端子IN2に入力される。
【0021】
ノイズ低減装置1は、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1と、第2のアンテナ14で受信された第2の信号S2とを逆位相で合成することによって、第1の信号S1に含まれるノイズ成分を除去する機能を有している。
図1に示すように、ノイズ低減装置1は、位相差吸収回路20及び合成器22を備えている。合成器22は、第1の信号S1及び第2の信号S2のうち一方の信号の位相を反転し、位相が反転された一方の信号と第1の信号S1及び第2の信号S2のうち他方の信号とを合成する180°結合器である。本実施形態の合成器22は、第2の信号S2の位相を反転して第1の信号S1に合成するものとする。
【0022】
第1のアンテナ12と合成器22との間には位相差吸収回路20が設けられている。位相差吸収回路20は、周波数に応じた角度だけ第1の信号S1の位相を遅延させる機能を有している。位相差吸収回路20の機能の詳細については、後述する。
【0023】
まず、発明の理解を容易にするために、第1の信号S1と第2の信号S2とを逆位相で合成する際に生じる問題について説明する。
【0024】
伝送路を伝搬する信号の位相は、伝送路の媒体、伝搬経路長、及び、信号の周波数に依存して変化する。
図2は、空間の単位距離あたりの位相シフト特性、及び、同軸ケーブルの単位距離あたりの位相シフト特性を表している。ここで、単位距離あたりの位相シフト特性とは、信号が伝送路を単位距離(1m)だけ進んだときに当該信号に生じる位相シフト量を示している。
図2に示すように、空間からなる伝送路と同軸ケーブルからなる伝送路とは、互いに異なる位相シフト特性を有している。このような違いは、伝送路の媒体が固有の波長短縮率を有していることに起因する。例えば、同軸ケーブルの場合、空間と比較して67%の波長短縮率を有している。伝送路の波長シフト特性は、伝送路を構成する媒体の波長短縮率から求めることができる。
【0025】
図2に示すように、76MHzの周波数(FM帯域の下限周波数)を有する信号が空間を単位距離進んだときには、その信号には-91°の位相シフトが生じる(すなわち、91°位相が遅延する)。これに対し、108MHzの周波数(FM帯域の上限周波数)を有する信号が空間を1m進んだときには、その信号には-130°の位相シフトが生じる(130°位相が遅延する)。ここで、76MHzの周波数を有する信号が空間を単位距離だけ進んだときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が空間を単位距離だけ進んだときの位相シフト量との差を第1の帯域内位相偏差D1とすると、第1の帯域内位相偏差D1は、39°となる。
【0026】
また、76MHzの周波数を有する信号が同軸ケーブルを単位距離進んだときには、その信号には-136°の位相シフトが生じる(136°位相が遅延する)。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が同軸ケーブルを単位距離進んだときには、その信号には-193°の位相シフトが生じる(193°位相が遅延する)。ここで、76MHzの周波数を有する信号が同軸ケーブルを単位距離だけ進んだときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が同軸ケーブルを単位距離だけ進んだときの位相シフト量との差を第2の帯域内位相偏差D2とすると、第2の帯域内位相偏差D2は、57°となる。
【0027】
ここで、2つの信号が、空間及び同軸ケーブルをそれぞれ伝搬した場合について検討する。
図2に示すように、76MHzの周波数を有する2つの信号が空間及び同軸ケーブルをそれぞれ単位距離だけ進んだとき、当該2つの信号の位相差θ1は45°になる。これに対し、108MHzの周波数を有する2つの信号が空間及び同軸ケーブルをそれぞれ単位距離だけ進んだとき、当該2つの信号の位相差θ2は63°になる。この例では、45°だけ位相を遅延させる移相器を用いて、空間を伝搬する信号の位相を一定の角度だけ遅延(移相)させれば、周波数76MHzの信号が空間を単位距離進んだときの位相シフト量は136°となり、周波数76MHzの信号が同軸ケーブルを単位距離進んだときの位相シフト量と一致させることができる。したがって、76MHzの周波数を有する信号に関しては、移相器から出力された信号と同軸ケーブルを伝搬した信号は同位相となる。そして、同位相の2つの信号を180°結合器で合成することによって、当該2つの信号を逆位相で合成することが可能となる。
【0028】
一方で、2つの信号の周波数が108MHzの場合には、当該2つの信号の位相差θ2が63°であるので、同じ移相器を用いて45°だけ位相を遅延させた場合には、当該2つの信号の間には18°(=θ2-θ1)の位相差が残ることとなる。したがって、これら2つの信号を180°結合器で合成しても、これら2つの信号を逆位相で合成することはできない。上記のように、信号の位相シフト量は、伝送路の媒体及び伝搬経路長のみでなく、信号の周波数にも依存するので、放送波の全周波数帯域において、異なる伝搬経路を伝搬する2つの信号の位相差をなくすことは困難である。特に、DAB帯(デジタルラジオ放送、174MHz~240MHz)、DTV帯(デジタルテレビ放送、470MHz~710MHz)といった高周波数帯域の放送波では、2つの信号の位相差が大きくなる傾向がある。
【0029】
図3は、2つの信号の位相誤差(逆位相からの乖離量)とノイズ抑制量との関係を表している。
図3に示すように、ノイズ抑制量は、2つの信号の位相誤差が大きくなるにつれて低下する。例えば、位相誤差が0°である場合にはノイズ抑制量が35dBとなるのに対して、位相誤差が18°の場合には、ノイズ抑制量が10dBまで低下する。このように、2つの信号を合成してノイズを低減するためには、放送波の全周波数帯域において、2つの信号を逆位相に近づけて合成することが要求される。
【0030】
以下、具体例に基づいてノイズ低減装置1の機能構成についてより詳細に説明する。
図4は、車両100に取り付けられたノイズ低減装置1の第1配置例を示している。
【0031】
第1配置例では、第1のアンテナ12は、車両100のルーフパネル上に取り付けられている。第2のアンテナ14は、車両100のノイズ源N1の近傍に配置されている。車両100のノイズ源N1としては、インバータ、モータ等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ノイズ低減装置1は、第1のアンテナ12及び第2のアンテナ14と電気的に接続されている。
図4に示す例では、ノイズ低減装置1は、第1のアンテナ12の近傍に配置されている。また、ノイズ低減装置1は、第2のアンテナ14に対して離間して配置されており、ノイズ低減装置1と第2のアンテナ14とは同軸ケーブルCAによって互いに接続されている。この同軸ケーブルCAの長さは、1mであるものとする。
【0033】
第1配置例では、ノイズ源N1と第1のアンテナ12との離間距離は1mであるものとする。したがって、空間伝搬路31の伝搬経路長は1mである。一方、第2のアンテナ14は、ノイズ源N1の近傍に配置されているので、空間伝搬路32の伝搬経路長は無視できるものとする。
【0034】
また、ノイズ低減装置1は第1のアンテナ12の近傍に配置されているので、導線伝搬路41の伝搬経路長は無視できるものとする。第2のアンテナ14とノイズ低減装置1とは1mの同軸ケーブルCAで接続されているので、導線伝搬路42の伝搬経路長は1mである。なお、入力端子IN1と合成器22との間の伝搬経路長と、入力端子IN2と合成器22との間の伝搬経路長は、同一であるものとする。
【0035】
第1配置例において、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路31と導線伝搬路41を伝搬してノイズ低減装置1の入力端子IN1に入力される(
図1参照)。ここで、ノイズ源N1から第1のアンテナ12を経由してノイズ低減装置1の入力端子IN1に到達する信号の経路を第1の伝搬経路P1とした場合、第1の伝搬経路P1は、1mの空間伝搬路31と実質的に0mの導線伝搬路41を有することとなる。第1の伝搬経路P1の位相シフト特性は、空間伝搬路31の位相シフト特性と導線伝搬路41の位相シフト特性とを合成したものとなる。
【0036】
また、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路32と導線伝搬路42を伝搬してノイズ低減装置1の入力端子IN2に入力される。ここで、ノイズ源N1から第2のアンテナ14を経由してノイズ低減装置1の入力端子IN2に到達する信号の経路を第2の伝搬経路P2とした場合、第2の伝搬経路P2は、実質的に0mの空間伝搬路32と1mの導線伝搬路42を有することとなる。この第2の伝搬経路P2の位相シフト特性は、空間伝搬路32の位相シフト特性と導線伝搬路42の位相シフト特性とを合成したものとなる。
【0037】
図5は、第1配置例における第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2の位相シフト特性を示している。
図5に示すように、76MHzの周波数(FM帯の下限周波数)を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過すると、その信号には-91°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過すると、その信号には-130°の位相シフトが生じる。ここで、76MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過したときの位相シフト量との差を表す第1の帯域内位相偏差D1は、39°となる。
【0038】
また、76MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-136°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-193°の位相シフトが生じる。ここで、76MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過したときの位相シフト量との差を表す第2の帯域内位相偏差D2は、57°となる。
【0039】
また、
図5に示すように、76MHzの周波数を有する2つ信号が第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過したときの当該2つの信号の位相差θ1は45°である。これに対し、108MHzの周波数を有する2つ信号が第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過したときの当該2つの信号の位相差θ2は63°である。ノイズ低減装置1の位相差吸収回路20は、位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有している。
【0040】
図6は、位相差吸収回路20の回路構成の例を示している。
図6(a)~(d)に示すように、位相差吸収回路20は、インダクタ及びキャパシタを含んで構成されている。
図6(a)は、π型の一段構成に係る位相差吸収回路20の回路構成を示しており、
図6(b)は、π型の二段構成に係る位相差吸収回路20の回路構成を示している。また、
図6(c)は、T型の一段構成に係る位相差吸収回路20の回路構成を示しており、
図6(d)は、T型の二段構成に係る位相差吸収回路20の回路構成を示している。位相差吸収回路20は、回路素子のインダクタンス及びキャパシタンスを変更することによって、様々な位相シフト特性を得ることができる。
図7は、回路素子のインダクタンス及びキャパシタンスを様々な値に変化させたときの位相差吸収回路20の位相シフト特性を示している。なお、位相差吸収回路20は、3段以上の回路構成を有していてもよい。
【0041】
図8は、第1配置例で用いられる位相差吸収回路20の位相シフト特性を示している。なお、位相差吸収回路20の位相シフト特性とは、位相差吸収回路20の入力信号に対する出力信号の位相シフト量を表している。
図8に示す位相シフト特性は、位相差吸収回路20の回路構成を、53.1nHのインダクタンスと21.2pFのキャパシタンスを有するπ型の一段構成とすることによって得ることができる。
【0042】
図8に示すように、この位相差吸収回路20は、76MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-45°シフトさせて出力する。また、位相差吸収回路20は、108MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-63°シフトして出力する。
図1に示すように、この位相差吸収回路20は第1のアンテナ12と合成器22との間に設けられている。したがって、位相差吸収回路20は、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1の位相を位相シフト特性に応じて変化させる。
【0043】
第1配置例では、ノイズ源N1から76MHzの周波数を有するノイズ信号が出力されると、当該ノイズ信号には、第1の伝搬経路P1を伝搬することで-91°の位相シフトが生じ(
図5参照)、位相差吸収回路20を通過することで-45°の位相シフトが生じる(
図8参照)。その結果、このノイズ信号には、-136°の位相シフトが生じることになる。一方、ノイズ源N1から108MHzの周波数を有するノイズ信号が出力されると、当該ノイズ信号には、第1の伝搬経路P1を通過することで-130°の位相シフトが生じ(
図5参照)、位相差吸収回路20を通過することで-63°の位相シフトが生じる(
図8参照)。その結果、このノイズ信号には、-193°の位相シフトが生じる。このように、第1の伝搬経路P1の位相遅延特性と位相差吸収回路20の位相シフト特性が合成された位相シフト特性は、第2の伝搬経路P2の位相シフト特性と一致している。したがって、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過した第1の信号S1のノイズ成分の位相と、第2の伝搬経路P2を通過した第2の信号S2の位相とは、同位相となる。
【0044】
位相差吸収回路20によって位相がシフトされた第1の信号S1は、合成器22に入力される。合成器22は、第2の信号S2の位相を反転すると共に、位相差吸収回路20から出力された第1の信号S1と位相が反転された第2の信号S2とを合成する。この合成によって、第1の信号S1のノイズ成分と第2の信号S2のノイズ成分とが逆位相で合成されるので、第1の信号S1から第2の信号S2に含まれるノイズ成分が除去される。
【0045】
なお、上記の例では、位相差吸収回路20が、位相差θ1と位相差θ2との差異を0°にするような位相シフト特性を有しているが、位相差吸収回路20は、少なくとも位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有していればよい。位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくすることによって、第1の信号S1のノイズ成分と第2の信号S2とを、放送波の全周波数帯域において、同位相に近づけることができる。したがって、これらの信号を合成器22を用いて合成することによって、第1の信号S1から第2の信号S2に含まれるノイズ成分を除去することができる。
【0046】
次に、第2配置例に係るノイズ低減装置1について説明する。第2配置例の第1の伝搬経路P1は、1mの伝搬経路長を有する空間伝搬路31、及び、実質的に0mの伝搬経路長を有する導線伝搬路41を有するものとする。また、第2配置例の第2の伝搬経路P2は、実質的に0mの伝搬経路長を有する空間伝搬路32、及び、1.2mの伝搬経路長を有する導線伝搬路42を有するものとする。すなわち、第2配置例は、導線伝搬路42の伝搬経路長が1.2mである点で第1配置例と異なっている。
【0047】
図9は、第2配置例に係る第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2の位相シフト特性を表している。第2の配置例に係る第1の伝搬経路P1の位相シフト特性は、第1の配置例に係る第1の伝搬経路P1の位相シフト特性と同じである。
図9に示すように、76MHzの周波数(FM帯の下限周波数)を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-163°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-232°の位相シフトが生じる。
【0048】
また、
図9に示すように、ノイズ源N1から第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過した76MHzの周波数を有する2つ信号の位相差θ1は72°である。これに対し、ノイズ源N1から第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過した108MHzの周波数を有する2つ信号の位相差θ2は102°である。ノイズ低減装置1の位相差吸収回路20は、位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有している。
【0049】
第2配置例で用いられる位相差吸収回路20は、二段構成を有している。位相差吸収回路20の一段目部分は、53.1nHのインダクタンスと21.2pFのキャパシタンスによって構成されており、
図8に示す位相シフト特性を有している。位相差吸収回路20の二段目部分は、34.6nHのインダクタンスと13.6pFのキャパシタンスによって構成されており、
図10に示す位相シフト特性を有している。
【0050】
図8及び
図10に示すように、この位相差吸収回路20は、76MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-72°(=-45°-27°)シフトして出力する。また、位相差吸収回路20は、108MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-102°(=-63°-39°)シフトして出力する。この位相差吸収回路20は、第1のアンテナ12と合成器22との間に設けられる。これにより、位相差吸収回路20は、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1の位相を位相シフト特性に応じて変化させる。
【0051】
第2配置例では、ノイズ源N1から76MHzの周波数を有するノイズ信号が出力されると、当該ノイズ信号には、第1の伝搬経路P1を伝搬することで-91°の位相シフトが生じ(
図9参照)、位相差吸収回路20を通過することで-72°(=-45°-27°)の位相シフトが生じる(
図8及び
図10参照)。その結果、この信号には、-163°の位相シフトが生じることになる。一方、ノイズ源N1から108MHzの周波数を有するノイズ信号が出力されると、当該ノイズ信号には、空間伝搬路31を通過することで-130°の位相シフトが生じ(
図9参照)、位相差吸収回路20を通過することで-102°(=-63°-39°)の位相シフトが生じる(
図8及び
図10参照)。その結果、この信号には、-232°の位相シフトが生じる。このように、第1の伝搬経路P1の位相シフト特性と位相差吸収回路20の位相シフト特性が合成された位相シフト特性は、第2の伝搬経路P2の位相シフト特性と一致している。したがって、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過した第1の信号S1に含まれるノイズ信号の位相と、第2の伝搬経路P2を通過したノイズ信号(第2の信号S2)の位相とは、同位相となる。
【0052】
位相差吸収回路20によって位相シフトされた第1の信号S1は、合成器22に入力される。合成器22は、第2の信号S2の位相を反転すると共に、位相差吸収回路20から出力された第1の信号S1と位相が反転された第2の信号S2とを合成する。この合成によって、第1の信号S1のノイズ成分と第2の信号S2とが逆位相で合成されるので、第1の信号S1から第2の信号S2に含まれるノイズ成分が除去される。
【0053】
上記のように、第1配置例及び第2の配置例では、位相差吸収回路20が、第1の伝搬経路P1の位相シフト特性を補正し、補正された第1の伝搬経路P1の位相シフト特性と第2の伝搬経路P2の位相シフト特性とを一致させている。言い換えれば、位相差吸収回路20は、位相差θ1及び位相差θ2を0°にするような位相シフト特性を有している。しかしながら、位相差吸収回路20は、少なくとも位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有していればよい。位相差θ1と位相差θ2との差異が小さくすることによって、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過した信号と、第2の伝搬経路P2を伝搬した信号との位相差を、放送波の全周波数帯域において、一定に近づけることができる。言い換えれば、補正された第1の伝搬経路P1の位相シフト特性の傾きと、第2の伝搬経路P2の位相シフト特性の傾きを互いに近い値にすることができる。この場合には、位相差に応じた角度だけ位相シフトを生じさせる移相器を用いることで、2つの信号を同位相にすることができる。
【0054】
なお、第1配置例及び第2の配置例では、第1の帯域内位相偏差D1が、第2の帯域内位相偏差D2よりも小さいので、位相差吸収回路20が第1のアンテナ12と合成器22との間に設けられている。しかしながら、第1の帯域内位相偏差D1が、第2の帯域内位相偏差D2よりも大きい場合には、位相差吸収回路20が、第2のアンテナ14と合成器22との間に設けられていてもよい。この場合には、位相差吸収回路20は、周波数に応じた角度だけ第2の信号S2の位相をシフトする。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るノイズ低減装置について説明する。
図11は、第2実施形態に係るノイズ低減装置1Aの機能構成を示す図である。以下では、上述した第1実施形態に係るノイズ低減装置1との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0056】
ノイズ低減装置1Aは、増幅器23、振幅可変器24、位相可変器25、受信回路26及び制御部27を更に備えている点で、ノイズ低減装置1と異なっている。増幅器23は、第1のアンテナ12と位相差吸収回路20との間に設けられており、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1の振幅を増幅する機能を有する。なお、第1のアンテナ12が十分な利得を有する場合には、ノイズ低減装置1Aが増幅器23を備えなくてもよい。
【0057】
振幅可変器24及び位相可変器25は、第2のアンテナ14と合成器22との間に設けられている。振幅可変器24は、第2のアンテナ14で受信された第2の信号S2の振幅を増幅して位相可変器25に出力する機能を有する。位相可変器25は、振幅可変器24から出力された第2の信号S2の位相を移相(変化)して合成器22に出力する機能を有する。振幅可変器24及び位相可変器25は、制御部27に接続されており、振幅可変器24による振幅の増幅率、及び、位相可変器25による位相の移相量は、制御部27からの制御信号に応じて変化できるようになっている。なお、一実施形態では、振幅可変器24及び位相可変器25は、第1のアンテナ12と合成器22との間に設けられていてもよい。
【0058】
受信回路26は、増幅器及びバンドパスフィルタを有している。受信回路26は、合成器22からの出力信号を受信し、受信した出力信号を増幅すると共に、放送波の周波数帯域の信号のみを通過させる。制御部27は、合成器22によって合成された信号を受信回路26から取得し、その出力信号を復調して信号雑音比(SN比)を検出する。そして、制御部27は、復調したノイズ信号の電力が小さくなるように、振幅可変器24及び位相可変器25に制御信号を送出し、振幅可変器24の増幅率、及び、位相可変器25による位相の移相量を調節する。
【0059】
このノイズ低減装置1Aでは、合成器22によって合成された信号に含まれるノイズの電力が小さくなるように、振幅可変器24及び位相可変器25が制御されるので、第1の信号S1のノイズ成分をより低減させることができる。このノイズ低減装置1Aでは、位相差吸収回路20及び合成器22によって第1の信号S1と第2の信号S2との位相差が小さくなっているので、制御部27による増幅率及び移相量の制御範囲を小さくすることができる。その結果、制御の計算負荷を小さくすることができる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るノイズ低減装置について説明する。
図12は、第3実施形態に係るノイズ低減装置1Bの機能構成を示す図である。以下では、上述した第2実施形態に係るノイズ低減装置1Aとの相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0061】
図12に示すノイズ低減装置1Bは、主に、第1のアンテナ12で受信されたAM信号からノイズを除去するために利用される。このノイズ低減装置1Bは、合成器22に代えて合成器22Aを備えている。
【0062】
また、本実施形態の位相差吸収回路20は、AM信号の周波数帯域に対応した位相シフト特性を有している。
図13は、本実施形態で利用される位相差吸収回路20の位相シフト特性の例を示している。このような位相差吸収回路20を備えることにより、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過した第1の信号S1のノイズ成分の位相と、第2の伝搬経路P2を通過した第2の信号S2の位相とを同位相にすることができる。
【0063】
図12に示すように、合成器22Aは、位相反転器28及び加算器29を含んでいる。位相反転器28は、位相差吸収回路20の後段に設けられており、位相差吸収回路20の出力信号の位相を反転して加算器29に出力する。加算器29は、オペアンプ等を使用した加算器である。加算器29は、位相反転器28によって位相が反転された第1の信号S1と第2の信号S2とを加算する。このように、合成器22Aは、第1の信号S1のノイズ成分と第2の信号S2とを逆位相で加算する。これにより、第1の信号S1からノイズ成分が除去される。
【0064】
本実施形態のノイズ低減装置1Bによれば、ノイズ低減装置1,1Aと同様に、第1の信号S1に含まれるノイズを低減することができる。さらに、合成器22Aは、単純な回路によって構成することができる加算器29を用いて第1の信号S1と第2の信号S2とを合成しているので、合成器22よりも寸法を小さくすることができる。したがって、ノイズ低減装置1Bを小型化することができる。
【0065】
なお、
図12に示す実施形態では、位相差吸収回路20から出力された第1の信号S1の位相を反転しているが、位相反転器28は、加算器29と第2のアンテナ14との間に設けられ、第2の信号S2の位相を反転して加算器29に出力してもよい。この場合、加算器29は、位相差吸収回路20から出力された第1の信号S1と位相反転器28によって位相が反転された第2の信号S2とを加算する。
【0066】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係るノイズ低減装置について説明する。
図14は、第4実施形態に係るノイズ低減装置1Cの機能構成を示す図である。以下では、上述した第2実施形態に係るノイズ低減装置1Aとの相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0067】
図14に示すように、ノイズ低減装置1Cは、第1のアンテナ12、第2のアンテナ14及び第3のアンテナ16を含む車載アンテナ装置10Aに接続されている。第1のアンテナ12は、放送波を受信するためのアンテナであり、第2のアンテナ14及び第3のアンテナ16は、ノイズ源N1及びノイズ源N2からのノイズ信号をそれぞれ受信するためのアンテナである。
【0068】
第1のアンテナ12は、放送波と共にノイズ源N1及びノイズ源N2から出力されたノイズ信号を受信する。
図14に示すように、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路31を伝搬して第1のアンテナ12に受信され、ノイズ源N2から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路33を伝搬して第1のアンテナ12に受信される。第1のアンテナ12で受信された放送波の信号とノイズ源N1及びノイズ源N2からのノイズ信号とを含む第1の信号S1は、導線伝搬路41を通ってノイズ低減装置1Cの入力端子IN1に入力される。
【0069】
また、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路32を伝搬して第2のアンテナ14にも受信される。第2のアンテナ14で受信された第2の信号S2は、導線伝搬路42を通ってノイズ低減装置1Cの入力端子IN2に入力される。さらに、ノイズ源N2から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路34を伝搬して第3のアンテナ16にも受信される。第3のアンテナ16で受信された第3の信号S3は、導線伝搬路43を通ってノイズ低減装置1Cの入力端子IN3に入力される。
【0070】
ノイズ低減装置1Cは、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1と、第2のアンテナ14で受信された第2の信号S2とを逆位相で合成することによって、第1の信号S1からノイズ源N1に起因するノイズ成分を除去する。また、ノイズ低減装置1Cは、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1と、第3のアンテナ16で受信された第3の信号S3とを逆位相で合成することによって、第1の信号S1からノイズ源N2に起因するノイズ成分を除去する。
【0071】
図14に示すように、本実施形態に係るノイズ低減装置1Cでは、第3のアンテナ16と合成器22との間に、振幅可変器45、位相可変器46及び位相差吸収回路47が設けられている。振幅可変器45は、第3のアンテナ16で受信された第3の信号S3の振幅を増幅して位相可変器46に出力する。位相可変器46は、振幅可変器45から出力された第3の信号S3の位相を移相して位相差吸収回路47に出力する。位相差吸収回路47は、周波数に応じた角度だけ第3の信号S3の位相をシフトする。
【0072】
以下、具体例に基づいてノイズ低減装置1Cの機能構成についてより詳細に説明する。
図15は、車両100に取り付けられたノイズ低減装置1Cの第3配置例を示している。
【0073】
第3配置例では、第1のアンテナ12は、車両100のルーフパネル上に取り付けられている。第2のアンテナ14は、車両100のノイズ源N1の近傍に配置されている。ノイズ源N1としてはインバータが例示されるが、これに限定されるものではない。第3のアンテナ16は、車両100のノイズ源N2の近傍に配置されている。ノイズ源N2としては車両100の後方を撮像するためのリアカメラが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0074】
ノイズ低減装置1Cは、第1のアンテナ12、第2のアンテナ14及び第3のアンテナ16と電気的に接続されている。本配置例では、ノイズ低減装置1Cは、第1のアンテナ12の近傍に配置されている。また、ノイズ低減装置1Cは、第2のアンテナ14対して離間して配置されており、ノイズ低減装置1Cと第2のアンテナ14とは同軸ケーブルCA1によって互いに接続されている。この同軸ケーブルCA1の長さは、2mであるものとする。
【0075】
また、ノイズ低減装置1Cは、第3のアンテナ16対して離間して配置されており、ノイズ低減装置1Cと第3のアンテナ16とは同軸ケーブルCA2によって互いに接続されている。この同軸ケーブルCA2の長さは、0.2mであるものとする。
【0076】
第3配置例では、ノイズ源N1と第1のアンテナ12との離間距離は1mであるものとする。したがって、空間伝搬路31の伝搬経路長は1mである。また、ノイズ源N2と第1のアンテナ12との離間距離は0.02mであるものとする。したがって、空間伝搬路33の伝搬経路長は0.02mである。一方、第2のアンテナ14及び第3のアンテナ16は、それぞれノイズ源N1及びノイズ源N2の近傍に配置されているので、空間伝搬路32及び空間伝搬路34の伝搬経路長は無視できるものとする。
【0077】
また、ノイズ低減装置1Cは第1のアンテナ12の近傍に配置されているので、導線伝搬路41の伝搬経路長は無視できるものとする。第2のアンテナ14とノイズ低減装置1Cとは2mの同軸ケーブルCA1で接続されているので、導線伝搬路42の伝搬経路長は2mである。第3のアンテナ16とノイズ低減装置1Cとは0.2mの同軸ケーブルCA2で接続されているので、導線伝搬路43の伝搬経路長は0.2mである。なお、入力端子IN1と合成器22との間の伝搬経路長、入力端子IN2と合成器22との間の伝搬経路長、及び、入力端子IN3と合成器22との間の伝搬経路長は、互いに同一であるものとする。
【0078】
第3配置例において、ノイズ源N1から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路31と導線伝搬路41を伝搬してノイズ低減装置1Cの入力端子IN1に入力される。ここで、ノイズ源N1から第1のアンテナ12を経由してノイズ低減装置1Cの入力端子IN1に到達する信号の経路を第1の伝搬経路P1とした場合、第1の伝搬経路P1は、1mの空間伝搬路31と実質的に0mの導線伝搬路41を有することとなる。第1の伝搬経路P1の位相シフト特性は、空間伝搬路31の位相シフト特性と導線伝搬路41の位相シフト特性を合成したものとなる。
【0079】
また、ノイズ源N1から出力されたノイズ波は、空間伝搬路32と導線伝搬路42を伝搬してノイズ低減装置1Cの入力端子IN2に入力される。ここで、ノイズ源N1から第2のアンテナ14を経由してノイズ低減装置1Cの入力端子IN2に到達する信号の経路を第2の伝搬経路P2とした場合、第2の伝搬経路P2は、実質的に0mの空間伝搬路32と2mの導線伝搬路42を有することとなる。この第2の伝搬経路P2の位相シフト特性は、空間伝搬路32の位相シフト特性と導線伝搬路42の位相シフト特性を合成したものとなる。
【0080】
図16は、第3配置例に係る第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2の位相シフト特性を示している。
図16に示すように、76MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過すると、その信号には-91°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過すると、その信号には130°の位相シフトが生じる。ここで、76MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過したときの位相シフト量との差を表す第1の帯域内位相偏差D1は、39°となる。
【0081】
また、76MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-272°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-386°の位相シフトが生じる。ここで、76MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過したときの位相シフト量との差を表す第2の帯域内位相偏差D2は、114°となる。
【0082】
さらに、
図16に示すように、ノイズ源N1から第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過した76MHzの周波数を有する2つ信号の位相差θ1は181°である。これに対し、ノイズ源N1から第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過した108MHzの周波数を有する2つ信号の位相差θ2は256°である。ノイズ低減装置1Cの位相差吸収回路20は、位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有している。
【0083】
図17は、第3配置例で用いられる位相差吸収回路20の位相シフト特性を示している。この位相差吸収回路20は、二段構成を有している。この位相差吸収回路20の一段目部分は、106nHのインダクタンスと42.4pFのキャパシタンスによって構成されている。位相差吸収回路20の二段目部分は、58.9nHのインダクタンスと23.6pFのキャパシタンスによって構成されている。
図17に示すように、この位相差吸収回路20は、76MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-139°(=-48°-91°)シフトして出力する。また、位相差吸収回路20は、108MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-214°(=-69°-145°)シフトして出力する。この位相差吸収回路20は、第1のアンテナ12と合成器22との間に設けられる。これにより、位相差吸収回路20は、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1の位相を位相シフト特性に応じて変化させる。
【0084】
第3配置例では、ノイズ源N1から76MHzの周波数を有する信号が出力されると、当該ノイズ信号には、第1の伝搬経路P1を伝搬することで-91°の位相シフトが生じ、位相差吸収回路20を通過することで-139°の位相シフトが生じる。その結果、この信号には、-230°の位相シフトが生じる。一方、ノイズ源N1から108MHzの周波数を有するノイズ信号が出力されると、当該ノイズ信号には、空間伝搬路31を通過することで-130°の位相シフトが生じ、位相差吸収回路20を通過することで-214°の位相シフトが生じる。その結果、この信号には、-344°の位相シフトが生じる。
【0085】
図16に示すように、第1の伝搬経路P1の位相シフト特性と位相差吸収回路20の位相シフト特性とが合成された位相シフト特性は、第2の伝搬経路P2の位相シフト特性と同じ傾きを有している。例えば、ノイズ源N1及びN2からのノイズ信号の周波数が76MHzである場合、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過したノイズ信号と第2の伝搬経路P2を通過したノイズ信号との位相差θ1’は42°となる。また、ノイズ信号の周波数が108MHzである場合、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過したノイズ信号と第2の伝搬経路P2を通過したノイズ信号の位相差θ2’も42°となる。すなわち、位相差吸収回路20は、位相差θ1’と位相差θ2’との差異を小さくしている。これにより、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過した第1の信号S1に含まれるノイズ信号と、第2の伝搬経路を通過したノイズ信号との位相差が、FM帯域の全周波数帯域において、略一定の角度となる。
【0086】
第3の配置例では、第2の信号S2は、例えば位相可変器25によって、一定の角度42°だけ移相される。これにより、位相差吸収回路20から出力された第1の信号S1のうちノイズ源N1に起因するノイズ成分の位相と、移相後の第2の信号S2の位相とが、放送波の全周波数帯域において同位相となる。移相された第2の信号S2は、合成器22に出力される。
【0087】
また、ノイズ源N2から出力されたノイズ信号は、空間伝搬路33と導線伝搬路41を伝搬してノイズ低減装置1Cの入力端子IN1に入力される。ここで、ノイズ源N2から第1のアンテナ12を経由してノイズ低減装置1Cの入力端子IN1に到達する信号の経路を第3の伝搬経路P3とした場合、第3の伝搬経路P3は、0.02mの空間伝搬路33と実質的に0mの導線伝搬路41を有することとなる。第3の伝搬経路P3の位相シフト特性は、空間伝搬路33の位相シフト特性と導線伝搬路41の位相シフト特性を合成したものとなる。さらに、入力端子IN1と合成器22との間には、上述した位相差吸収回路20が設けられているので、ノイズ源N2から出力されたノイズ信号は、位相差吸収回路20によって移相されることになる。
【0088】
また、ノイズ源N2から出力されたノイズ波は、空間伝搬路34と導線伝搬路43を伝搬してノイズ低減装置1Cの入力端子IN3に入力される。ここで、ノイズ源N2から第3のアンテナ16を経由してノイズ低減装置1Cの入力端子IN3に到達する信号の経路を第4の伝搬経路P4とした場合、第4の伝搬経路P4は、実質的に0mの空間伝搬路34と0.2mの導線伝搬路43を有することとなる。第4の伝搬経路P4の位相シフト特性は、空間伝搬路34の位相シフト特性と導線伝搬路43の位相シフト特性を合成したものとなる。
【0089】
図18は、第3の伝搬経路P3の位相シフト特性と位相差吸収回路20の位相シフト特性を合成した位相シフト特性、及び、第4の伝搬経路P4の位相シフト特性を示している。
図18に示すように、76MHzの周波数を有する信号が第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過すると、その信号には-141°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過すると、その信号には-217°の位相シフトが生じる。ここで、76MHzの周波数を有する信号が第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過したときの位相シフト量との差を表す第3の帯域内位相偏差D3は、76°となる。
【0090】
また、76MHzの周波数を有する信号が第4の伝搬経路P4を通過すると、その信号には-27.2°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第4の伝搬経路P4を通過すると、その信号には-38.6°の位相シフトが生じる。ここで、76MHzの周波数を有する信号が第4の伝搬経路P4を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第4の伝搬経路P4を通過したときの位相シフト量との差を表す第4の帯域内位相偏差D4は、11.4°となる。
【0091】
さらに、
図18に示すように、ノイズ信号の周波数が76MHzである場合、第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過したノイズ信号と第4の伝搬経路P4を通過したノイズ信号の位相差θ3は113.8°となり、ノイズ信号の周波数が108MHzである場合、第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過したノイズ信号と第4の伝搬経路P4を通過したノイズ信号の位相差θ4は178.4°となる。ノイズ低減装置1Cの位相差吸収回路47は、位相差θ3と位相差θ4との差異を小さくするような位相シフト特性を有している。
【0092】
図19は、第3配置例で用いられる位相差吸収回路47の位相シフト特性を示している。この位相差吸収回路47は、二段構成を有している。この位相差吸収回路47の一段目部分は、106nHのインダクタンスと42.4pFのキャパシタンスによって構成されている。位相差吸収回路47の二段目部分は、28.4nHのインダクタンスと11.4pFのキャパシタンスによって構成されている。
図19に示すように、この位相差吸収回路47は、76MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-114.2°(=-91°-23.2°)シフトして出力する。また、位相差吸収回路20は、108MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を-177.9°(=-145°-32.9°)シフトして出力する。この位相差吸収回路47は、第3のアンテナ16と合成器22との間に設けられる。これにより、位相差吸収回路47は、第3のアンテナ16で受信された第3の信号S3の位相を位相シフト特性に応じて変化させる。
【0093】
上記のように、第3配置例では、ノイズ源N2から出力されたノイズ信号が第3のアンテナ16で受信される。例えば、ノイズ源N2から76MHzの周波数を有するノイズ信号が出力された場合、当該ノイズ信号には、第4の伝搬経路P4を伝搬することで-27.2°の位相シフトが生じ、位相差吸収回路47を通過することで-114.2°の位相シフトが生じる。その結果、この信号には、-141°の位相シフトが生じる。一方、ノイズ源N2から108MHzの周波数を有するノイズ信号が出力された場合には、当該ノイズ信号には、第4の伝搬経路P4を伝搬することで-38.6°の位相シフトが生じ、位相差吸収回路47を通過することで-177.9°の位相シフトが生じる。その結果、この信号には、-217°の位相シフトが生じる。すなわち、第3の伝搬経路P3の位相シフト特性と位相差吸収回路20の位相シフト特性とが合成された位相シフト特性は、第4の伝搬経路P4の位相シフト特性と位相差吸収回路47の位相シフト特性とが合成された位相シフト特性に一致する。したがって、第3の伝搬経路P3及び位相差吸収回路20を通過した第1の信号S1に含まれるノイズ信号と、第4の伝搬経路P4及び位相差吸収回路47を通過したノイズ信号とは、同位相となる。
【0094】
合成器22は、第2の信号S2及び第3の信号S3の位相を反転すると共に、位相差吸収回路20から出力された第1の信号S1と、位相が反転された第2の信号S2と、位相が反転された第3の信号S3とを合成する。この合成によって、第1の信号S1に含まれるノイズ源N1に起因するノイズ成分と第2の信号S2とが逆位相で合成されるとともに、第1の信号S1に含まれるノイズ源N2に起因するノイズ成分と第3の信号S3とが逆位相で合成される。これにより、第1の信号S1からノイズ源N1及びN2に起因するノイズ成分が除去される。
【0095】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係るノイズ低減装置について説明する。
図20は、第5実施形態に係るノイズ低減装置1Dの機能構成を示す図である。以下では、上述した第1実施形態に係るノイズ低減装置1との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0096】
ノイズ低減装置1Dは、位相差吸収回路20及び合成器22に代えて位相差吸収回路20D及び合成器22Dを備えている。位相差吸収回路20Dは、周波数に応じた角度だけ第1の信号S1の位相を進める点で上述の位相差吸収回路20と相違する。
【0097】
以下、具体例に基づいてノイズ低減装置1Dの機能構成についてより詳細に説明する。まず、第4配置例に係るノイズ低減装置1Dについて説明する。第4配置例では、第1の伝搬経路P1は、1mの伝搬経路長を有する空間伝搬路31、及び、実質的に0mの伝搬経路長を有する導線伝搬路41を有するものとする。また、第2配置例の第2の伝搬経路P2は、実質的に0mの伝搬経路長を有する空間伝搬路32、及び、1.62mの伝搬経路長を有する導線伝搬路42を有するものとする。
【0098】
図21は、第4配置例における第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2の位相シフト特性を示している。
図21に示すように、76MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過すると、その信号には-91°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過すると、その信号には-130°の位相シフトが生じる。したがって、76MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第1の伝搬経路P1を通過したときの位相シフト量との差を表す第1の帯域内位相偏差D1は、39°となる。
【0099】
一方、76MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-221°の位相シフトが生じる。これに対し、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過すると、その信号には-313°の位相シフトが発生する。したがって、76MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過したときの位相シフト量と、108MHzの周波数を有する信号が第2の伝搬経路P2を通過したときの位相シフト量との差を表す第2の帯域内位相偏差D2は、92°となる。
【0100】
図21に示すように、76MHzの周波数を有する2つ信号が第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過したときの当該2つの信号の位相差θ1は130°である。これに対し、108MHzの周波数を有する2つ信号が第1の伝搬経路P1及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過したときの当該2つの信号の位相差θ2は183°である。ノイズ低減装置1Dの位相差吸収回路20Dは、位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有している。
【0101】
図22は、位相差吸収回路20Dの回路構成の例を示している。
図22(a)~(d)に示すように、位相差吸収回路20Dは、インダクタ及びキャパシタを含んで構成されている。
図22(a)は、π型の一段構成に係る位相差吸収回路20Dの回路構成を示しており、
図22(b)は、π型の二段構成に係る位相差吸収回路20Dの回路構成を示している。また、
図22(c)は、T型の一段構成に係る位相差吸収回路20Dの回路構成を示しており、
図22(d)は、T型の二段構成に係る位相差吸収回路20Dの回路構成を示している。位相差吸収回路20Dは、回路素子のインダクタンス及びキャパシタンスを変更することによって、様々な位相シフト特性を得ることができる。
図23は、回路素子のインダクタンス及びキャパシタンスを様々な値に変化させたときの位相差吸収回路20Dの位相シフト特性を示している。なお、位相差吸収回路20Dは、3段以上の回路構成を有していてもよい。
【0102】
図24は、第4配置例で用いられる位相差吸収回路20Dの位相シフト特性を示している。なお、位相差吸収回路20Dの位相シフト特性とは、位相差吸収回路20Dの入力信号に対する出力信号の位相進み量を表している。
図24に示す位相シフト特性は、位相差吸収回路20Dの回路構成を、75.7nHのインダクタンスと30.3pFのキャパシタンスを有するπ型の一段構成とすることによって得ることができる。
【0103】
図24に示すように、この位相差吸収回路20Dは、76MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を+140°シフトして出力する(すなわち、140°位相が進む)。また、位相差吸収回路20Dは、108MHzの周波数を有する信号が入力されると、その信号の位相を+87°シフトして出力する(すなわち、87°位相が進む)。
図20に示すように、位相差吸収回路20Dは、第1のアンテナ12と合成器22Dとの間に設けられている。したがって、位相差吸収回路20Dは、第1のアンテナ12で受信された第1の信号S1の位相を位相シフト特性に応じて変化させる。
【0104】
例えば、ノイズ源N1から出力された76MHzの周波数を有するノイズ信号は、第1の伝搬経路P1を伝搬することで-91°の位相シフトを受け(
図21参照)、位相差吸収回路20Dを通過することで+140°の位相シフトを受ける(
図24参照)。その結果、このノイズ信号には、+49°の位相シフトが生じる。一方、ノイズ源N1から出力された108MHzの周波数を有するノイズ信号は、第1の伝搬経路P1を通過することで-130°の位相シフトを受け(
図21参照)、位相差吸収回路20Dを通過することで+87°の位相シフトを受ける(
図24参照)。その結果、このノイズ信号には、-43°の位相シフトが生じる。
【0105】
したがって、76MHzの周波数を有するノイズ信号が位相差吸収回路20D及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過したときの当該ノイズ信号の位相差θ1は270°(=49°+221°)となる。一方、108MHzの周波数を有するノイズ信号が位相差吸収回路20D及び第2の伝搬経路P2をそれぞれ通過したときの当該ノイズ信号の位相差θ2は270°(=-43°+313°)となる。これにより、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20Dを通過した第1の信号S1に含まれるノイズ信号と、第2の伝搬経路を通過したノイズ信号との位相差は、FM帯域の全周波数帯域において一定の角度(270°)となる。
【0106】
合成器22Dは、第2の信号S2を270°(-90°)だけ位相シフトし、位相差吸収回路20Dから出力された第1の信号S1と位相シフトされた第2の信号S2とを合成する。これにより、第1の信号S1に含まれるノイズ信号と第2の信号S2に含まれるノイズ信号とが逆位相で合成される。その結果、第1の信号S1からノイズ源N1に起因するノイズ信号が除去される。
【0107】
上記実施形態に係るノイズ低減装置1,1A,1B,1C,1Dでは、位相差吸収回路20,20D,47が、2つのノイズ信号の位相差θ1と位相差θ2の差異が小さくするような位相シフト特性を有している。これにより、放送波の全周波数帯域において、第1の伝搬経路P1を伝搬する第1の信号S1と第2の伝搬経路P2を伝搬する第2の信号S2との位相差を一定に近づけることができる。したがって、第1の信号S1又は第2の信号S2の位相を所定の角度だけ移相することで、第1の信号S1と第2の信号S2とを逆位相に近づけることができる。そして、逆位相の第1の信号S1及び第2の信号S2を合成器22,22Aによって合成することによって、ノイズ源N1,N2に起因するノイズを打ち消すことができ可能となる。その結果、第1のアンテナ12で受信した第1の信号S1に含まれるノイズを低減することができる。また、ノイズ低減装置1,1A,1B,1Cでは、位相差吸収回路20,20D,47によって、第1の信号S1と第2の信号S2とを逆位相に近づけているので、簡易な構成でノイズを低減することができる。
【0108】
また、上記実施形態に係るノイズ低減装置1,1A,1B,1C,1Dでは、第1の帯域内位相偏差D1が、第2の帯域内位相偏差D2よりも小さいときには、第1のアンテナ12と合成器22との間に位相差吸収回路20,20Dが配置され、第1の帯域内位相偏差D1が、第2の帯域内位相偏差D2よりも大きいときには、第2のアンテナ14と合成器22との間に位相差吸収回路20,20Dが配置される。これにより、第1の信号S1と第2の信号S2との位相差を容易に一定に近づけることができる。
【0109】
以上、種々の実施形態に係るノイズ低減装置について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0110】
例えば、上記実施形態では、位相差吸収回路20は、位相差θ1及び位相差θ2を0°にするような位相シフト特性を有しているが、位相差吸収回路20は、少なくとも位相差θ1と位相差θ2との差異を小さくするような位相シフト特性を有していればよい。位相差θ1と位相差θ2との差異が小さくすることによって、第1の伝搬経路P1及び位相差吸収回路20を通過した信号と、第2の伝搬経路P2を伝搬した信号との位相差を、放送波の全周波数帯域において、一定に近づけることができる。この場合には、一定の位相差に応じた角度だけ位相シフトを生じさせる移相器を用いることで、2つの信号を同位相にすることができる。
【0111】
また、ノイズ低減装置1では、合成器22が180°結合器によって構成されているが、合成器22は180°結合器に限定されるものではない。例えば、90°結合器、加算器、減算器等を合成器22として用いてもよい。さらに、上述の実施形態では、ノイズ低減装置1,1A,1B,1Cが、第1のアンテナ12の近傍に配置されているが、1,1A,1B,1Cの位置は第1のアンテナ12の近傍に限定されるものではない。
【0112】
また、
図14に示すノイズ低減装置1Cでは、第1のアンテナ12と合成器22との間、及び、第3のアンテナ16と合成器22との間に位相差吸収回路が設けられているが、第2のアンテナ14と合成器22との間に位相差吸収回路が更に設けられていてもよい。
【0113】
上述の実施形態では、第1のアンテナ12で受信される放送波として、主にFM帯(76MHz~108MHz)の放送波を例に挙げて説明したが、第1のアンテナ12で受信される放送波は、AM帯(0.5MHz~1.7MHz)、DAB帯(デジタルラジオ放送、174MHz~240MHz)、及び、DTV帯(デジタルテレビ放送、470MHz~710MHz)の放送波であってもよい。なお、同等の効果を得られる範囲内であれば、上述した下限周波数及び上限周波数は、必ずしも放送波のターゲット周波数と合致していなくてもよい。例えば、受信する放送波がFM帯である場合、下限周波数を75MHzとし、上限周波数を109MHzとしてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、第1のアンテナ12がルーフ上に配置されたシャークフィンアンテナであったが、第1のアンテナ12としては、任意のアンテナを利用することが可能である。また、上述した種々の実施形態は、矛盾のない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0115】
1,1A,1B,1C…ノイズ低減装置、10,10A…車載アンテナ装置、12…第1のアンテナ、14…第2のアンテナ、16…第3のアンテナ、20,47…位相差吸収回路、22,22A…合成器、22A…合成器、24…振幅可変器、25…位相可変器、26…受信回路、27…制御部、28…位相反転器、29…加算器、31…空間伝搬路、32…空間伝搬路、33…空間伝搬路、34…空間伝搬路、41…導線伝搬路、42…導線伝搬路、43…導線伝搬路、100…車両、D1…第1の帯域内位相偏差、D2…第2の帯域内位相偏差、N1,N2…ノイズ源、P1…第1の伝搬経路、P2…第2の伝搬経路、S1…第1の信号、S2…第2の信号。