(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ケイ素-炭素複合アノード材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20240618BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240618BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240618BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240618BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240618BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240618BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240618BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20240618BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M10/054
H01M10/052
C01B32/00
(21)【出願番号】P 2021526291
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2019081384
(87)【国際公開番号】W WO2020099589
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520223549
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リエージュ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・エシュラギ
(72)【発明者】
【氏名】アブデルファター・マームード
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・ボスキーニ
(72)【発明者】
【氏名】ルディ・クローツ
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520494(JP,A)
【文献】国際公開第2016/106487(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/199606(WO,A1)
【文献】特開2014-007141(JP,A)
【文献】特開2017-168456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/62
H01M 10/054
H01M 10/052
C01B 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.ケイ素-炭素複合粒子を含むケイ素-炭素複合材料層と、
ii.前記ケイ素-炭素複合材料層を覆う酸化グラフェン層と、
を含み、前記ケイ素-炭素複合粒子がそれぞれ、炭素系材料と混合された複数のケイ素粒子を含む、複合アノード材料において、
前記ケイ素-炭素複合粒子が、中空部を取り囲む多孔質シェルを含み、前記多孔質シェルが、前記炭素系材料と混合された前記複数のケイ素粒子を含むことを特徴とする、複合アノード材料。
【請求項2】
前記ケイ素-炭素複合材料層が、
ia.以下のものからのマトリックスと:
-導電性炭素材料、および
-バインダー
ib.前記マトリックス中に分散したケイ素-炭素複合粒子と、を含む、請求項1に記載の複合アノード材料。
【請求項3】
前記炭素系材料が導電性炭素材料である、請求項1または2に記載の複合アノード材料。
【請求項4】
前記ケイ素-炭素複合粒子が、少なくとも80重量
%のSi含有量を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合アノード材料。
【請求項5】
前記ケイ素-炭素複合材料が前記酸化グラフェン層の上方に存在しないことを条件とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合アノード材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の複合アノード材料を形成する方法であって、
a.ケイ素-炭素複合粒子を含むケイ素-炭素複合材料層を提供することと、
b.前記ケイ素-炭素複合材料層の上方に酸化グラフェン層を提供することと、
を含み、ステップaの前に、
a’1.200nm以下の平均サイズを有するケイ素粒子の懸濁液を提供することと、
a’2.炭素系材料をケイ素粒子の前記懸濁液に混合することと、
a’3.ケイ素粒子と炭素系材料との前記懸濁液を噴霧乾燥させてケイ素-炭素複合粒子を形成することと、
a’4.還元雰囲気で前記ケイ素-炭素複合粒子を焼成することと、を含む前記ケイ素-炭素複合粒子を形成するステップa’を含む、方法。
【請求項7】
ステップaで前記ケイ素-炭素複合材料層を提供することが、
a1.導電性基板上に前記ケイ素-炭素複合材料のスラリーを提供することと、
a2.前記スラリーを乾燥させて前記ケイ素-炭素複合材料層を形成することと、を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップa1で前記導電性基板上にケイ素-炭素複合材料の前記スラリーを提供することが、
-前記ケイ素-炭素複合粒子を導電性炭素材料およびバインダーと混合して前記スラリーを形成することと、
-ウェットコーティング技術を使用して前記導電性基板上に前記スラリーをコーティングすることと、を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップbで前記酸化グラフェン層を提供することが、
b1.前記ケイ素-炭素複合材料層上に酸化グラフェンの水性懸濁液を提供することと、
b2.前記水性懸濁液を乾燥させて前記酸化グラフェン層を形成することと、を含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップa2および/またはb2(存在する場合)が、150℃以
下の温度で実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップa’1および/またはステップa’2がボールミル粉砕を含む、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ケイ素粒子が、太陽電池および/またはウェハ断片から得られる、請求項6~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップaが、ステップbの開始前に完了される、請求項6~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか1項に記載の複合アノード材料を含む、バッテリ。
【請求項15】
リチウムイオンバッテリ、カリウムイオンバッテリ、またはナトリウムイオンバッテリである、請求項14に記載のバッテリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にリチウムイオンバッテリにおける使用のための、ケイ素-炭素複合材を含む複合アノード材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素は、主にその理論容量が非常に大きい(例えば、Li3.75Siの構造の場合、3580mAh.g-1)ことから、リチウムイオンバッテリについての将来性のあるアノードの候補であると考えられる。一般的な電極材料の場合、リチウム化/脱リチウム化プロセス中に生じる反応は、しばしば、活物質の構造体におけるリチウム挿入/抽出現象に類似している。対照的に、Si系材料の場合、リチウム化プロセスは、どちらかというと、LixSi合金の形成に関連する変換現象に関係している。この変換結果は、非晶質相を形成するための結晶構造の再編成に関連しており、また、これによって、初期体積に対して300%超になり得る大きな体積膨張がもたらされる。
【0003】
この体積膨張の問題を克服する目的で、1つの手法として、導電性材料によるケイ素粒子のカプセル化がある。そのような導電性材料は、この体積膨張に対して緩衝剤として作用することに加えて、電極材料の電子伝導性を改善することができる。この問題は、さまざまな研究努力によって、一般に、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノ粒子、多孔質構造体などの明確に画定されたSiナノ構造体、ならびにそれらの炭素材料複合材を設計することで対処されてきた。これらのケイ素/炭素複合材料の設計は、炭素導電性材料の電子伝導性および応力緩衝性が良好であり、それによって、Liイオンバッテリ用のケイ素系アノードの安定性および電気化学的性能を改善することから、かなりの関心を集めている。
【0004】
ケイ素/炭素複合材を調製する目的で、工業的使用に好適な興味深い方法としては、噴霧乾燥法がある。例えば、WO2016/106487(A1)では、ケイ素ナノ粒子、1つ以上の導電性炭素添加剤、および炭素前駆体を無水エチルアルコール中に含有する分散液が、噴霧乾燥によって乾燥させられる。このようにして、ケイ素ナノ粒子および1つ以上の導電性炭素添加剤が、多孔質二次粒子の形態で混合され、炭素前駆体と一緒にコーティング(1~10nm)される。しかしながら、Si/CNT粒子は、炭素層にカプセル化されているものの、それらの比較的稠密な構造によって、体積膨張が阻害されず、それによって、容量が経時的に減少する。これは、1000サイクル超の性能が望まれる市販用のバッテリ用途には好ましくない。
【0005】
ケイ素-炭素複合材料の調製の別の手法は、WO2015/170918(A1)に提示されている。ここでは、この方法は、ケイ素または酸化ケイ素の粒子、導電性材料、およびポロゲンが分散された第1の混合溶液とともに開始する。次いで、酸化グラフェン(GO)を第1の混合溶液中に分散させることによって、GOをシェル層として有するコアシェル粒子の作製を意図して、第2の混合溶液を得る。しかしながら、報告された電極の最大容量は、約900mAh/gに過ぎず、その一方で、容量保持率は、最初の10サイクルしか安定していなかった。
【0006】
Liイオンバッテリは、実用的な充電式バッテリの中で最も高い既知のエネルギー密度を有し、電子機器、電気自動車、および定置型エネルギー貯蔵システムにおいて広く使用されている。さらに、世界のバッテリ市場は急速に成長しており、この成長は近い将来で見込まれている。需要および用途のこのような拡大とともに、リチウム資源およびコバルト資源の価格が上昇している。したがって、最近では、定置型エネルギー貯蔵システム用のNaイオンバッテリおよびKイオンバッテリの研究にも多くの注目が向いている。というのも、Na資源およびK資源は、豊富に存在しており、かつ世界に広く分布しているからである。
【0007】
現在では、グラファイトが、Liイオンバッテリにおける市販の負極材料として使用されている。理論研究からは、グラファイトにおけるKイオンおよびLiイオンの運動が同等であることが提示されているが、電解質中のKの測定された移動度は、Liの移動度よりも高く、Liグラファイト電池は、実験において「より良好な」性能を発揮し、すなわち、これらは、より低い分極および抵抗を有する。これは、界面および固体電解質中間相(SEI)の抵抗が、Kグラファイト電池においてより大きいことを示唆しているだろう。したがって、電極および電解質組成物の設計は、Kイオンバッテリ(KIB)においてグラファイト系負極の高い速度能力を得るために重要である。
【0008】
Kim等は、軟質炭素、硬質炭素微小球、硬質-軟質複合材、Nドープされた硬質炭素および炭素ナノ繊維、鉛筆跡の炭素(pencil-trace carbon)、タイヤ由来の炭素、多ナノ結晶グラファイト、還元された酸化グラフェン、ならびにFドープ、Nドープ、PドープおよびOドープされたグラファイト、およびドープされていないグラファイトを含む、Kを挿入することに成功したと報告されている、グラファイト以外の炭素のさまざまな形態を記載した。これらの材料のほとんどは、グラファイトの理論容量を超えさえして、素晴らしい容量を呈する。これらの組成物の速度能力および容量保持率は、適正であるものの、Komaba等によってグラファイトおよびポリアクリル酸ナトリウム(PANa)を用いて得られた15Cレートで230mAh/g未満である(KIM,Haegyeom等、Recent progress and perspective in electrode materials for K-ion batteries.Advanced Energy Materials,2018,8.9:1702384.KOMABA,Shinichi等、Potassium intercalation into graphite to realize high-voltage/high-power potassium-ion batteries and potassium-ion capacitors.Electrochemistry Communications,2015,60:172-175.)。
【0009】
Naイオンバッテリについても、同様の難点がある。
【0010】
したがって、当技術分野では、より良好なSi系アノード材料が依然として必要とされている。さらに、Liイオンバッテリ、Kイオンバッテリ、および/またはNaイオンバッテリで使用することが可能な大容量負極技術の開発が、特に有益であろう。
【発明の概要】
【0011】
本発明の課題は、良好な複合アノード材料を提供することである。本発明のさらなる課題は、該複合アノード材料に関連する良好な製造方法、デバイス、および使用を提供することである。この課題は、本発明による、複合アノード材料、方法、電極配合物、バッテリ、および使用によって達成される。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料によって高い容量値が可能になることである(例えば、容量制限なしでC/5でサイクルさせたLi-Si電池の場合、2200~2300mAh/g、容量が1200mAh/gに制限されている場合、1Cで1200mAh/g)。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、延長されたサイクル時間にわたって優れた容量保持率を可能にすることである(例えば、1Cでサイクルさせた1200mAh/gの容量制限の場合、1500サイクルにわたってほぼ100%まで)。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、高い信頼性を有することである。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、長いライフサイクルを有することである。
【0016】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、Liによって誘発される体積膨張に対して耐久性があることである。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、安定した固体電解質中間相(SEI)層の形成を可能にすることである。
【0018】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、高いSi充填量(例えば、約30重量%)を有していてもよいことである。これによって、当技術分野で開発されている現在のバッテリについてより一般的な比較的低いSi充填量(例えば、5~10重量%)も可能であることが保証される。
【0019】
本発明の実施形態の利点は、Li拡散経路が最小限に阻害されることである。
【0020】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料に、リサイクルされた材料(例えば、太陽電池またはウェハ断片からリサイクルされたSi)を使用することが可能なことである。
【0021】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料に使用されるSi/C複合粒子が、素晴らしく均質なことである。
【0022】
本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、比較的単純かつ経済的に製造可能なことである。本発明の実施形態の利点は、複合アノード材料が、工業規模で製造可能なことである。
【0023】
第1の態様では、本発明は、(i)ケイ素-炭素複合粒子を含むケイ素-炭素(Si/C)複合材料層と、(ii)ケイ素-炭素複合材料層を覆う酸化グラフェン(GO)層と、を含む複合アノード材料であって、ケイ素-炭素複合粒子がそれぞれ、炭素系材料と混合された複数のケイ素(Si)粒子を含み、ケイ素-炭素複合粒子が、中空部を取り囲む多孔質シェルを含み、多孔質シェルが、炭素系材料と混合された複数のケイ素粒子を含む、複合アノード材料に関する。
【0024】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態に定義されているような複合アノード材料を形成するための方法であって、(a)ケイ素-炭素複合粒子を含むケイ素-炭素複合材料層を提供することと、(b)ケイ素-炭素複合材料層の上方に酸化グラフェン層を提供することと、を含み、またステップaの前に、(a’1)200nm以下の平均サイズを有するケイ素粒子(すなわち、一次粒子)の懸濁液を提供することと、(a’2)炭素系材料をケイ素粒子の懸濁液に混合することと、(a’3)ケイ素粒子と炭素系材料との懸濁液を噴霧乾燥させてケイ素-炭素複合材料の粒子(すなわち、二次粒子)を形成することと、(a’4)還元雰囲気でケイ素-炭素複合材料の粒子を焼成することと、を含むケイ素-炭素複合材料を形成するステップa’を含む、方法に関する。実施形態では、炭素系材料は、導電性炭素材料および/または有機化合物であり得る。
【0025】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態に定義されているような複合アノード材料を含む、バッテリに関する。
【0026】
第4の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態に定義されているようなケイ素-炭素複合材料層の体積膨張を阻害または緩衝するための酸化グラフェン層の使用に関する。
【0027】
本発明の特定のおよび好ましい態様は、添付の独立請求項および従属請求項に記載されている。従属請求項からの特徴は、単に特許請求の範囲に明示的に記載されているようにではなく、必要に応じて、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と組み合わせてもよい。
【0028】
この分野では、デバイスの継続的な改善、変更、および発展があるが、当概念は、従来の慣行からの逸脱を含む、実質的に新しい新規の改善を表すと考えられ、それによって、より効率的で、安定した、信頼性の高い、この種類のデバイスが提供される。
【0029】
本発明の上記および他の特性、特徴、および利点は、本発明の原理を例示的に図示する添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。この説明は、単に例示的に与えられるのであって、本発明の範囲を限定することはない。以下で引用されている参照図は、添付の図面を指す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、粒子サイズ分析器によって測定されたSi一次粒子の平均サイズ分布を示す。
【
図2】本発明の例示的な実施形態による、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって観察されたSi一次粒子を示す。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、熱処理前のケイ素-炭素(Si/C)複合粒子のSEM画像を示す。
【
図4】本発明の例示的な実施形態による、熱処理後のケイ素-炭素(Si/C)複合粒子のSEM画像を示す。
【
図5】本発明の例示的な実施形態による、Si/C複合粒子の透過型電子顕微鏡法(TEM)画像を示す。
【
図6】本発明の例示的な実施形態による、崩壊したSi/C複合粒子のSEM画像を示す。
【
図7】本発明の例示的な実施形態による、複合アノード材料についてサイクル数に応じて得られる比容量を示す。
【
図8】本発明の例示的な実施形態による、複合アノード材料についてサイクル数に応じて得られる比容量を示す。
【
図9】本発明の例示的な実施形態による、酸化グラフェン(GO)層を有しない(Si/C)複合アノード材料(a)のSEM画像を示す。
【
図10】本発明の例示的な実施形態による、酸化グラフェン(GO)層を有する(Si/C)複合アノード材料(b)のSEM画像を示す。
【
図11】本発明の例示的な実施形態による、複合アノード材料についてサイクル数に応じて得られる比容量を示す。
【
図12】本発明の例示的な実施形態による、複合アノード材料についてサイクル数に応じて得られる比容量を示す。
【
図13】本発明の例示的な実施形態による、EC/DEC中に入った1MのKFSI(黒丸)およびEC/DMC中に入った1MのKFSI(白丸)から成る、2つの異なる電解質を有する複合アノード材料に基づくKイオンバッテリについてのサイクル数に応じた放電容量の変化を示す。
【
図14】本発明の例示的な実施形態による、電解質としてのEC/DEC中に入った1MのKFSIを有する複合アノード材料の電圧プロファイルを示す。
【
図15】本発明の例示的な実施形態による、電解質としてのEC/DMC中に入った1MのKFSIを有する複合アノード材料の電圧プロファイルを示す。
【0031】
異なる図において、同じ参照符号は、同じまたは類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、特定の実施形態を参照して、かつ特定の図面を参照して説明されるが、本発明は、これらに限定されるのではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載されている図面は、概略的なものに過ぎず、非限定的なものである。図面では、要素のいくつかのサイズは強調されており、例示的な目的のために縮尺通りには描かれていない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明の実施に際して、実際の縮小には相応していない。
【0033】
さらに、明細書および特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、類似要素を区別するために使用されるのであって、必ずしも、時間的、空間的、序列的、または任意の他の方式のいずれかで順序を説明するために使用されるわけではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で相互に交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されている以外の順序で操作することができると理解されたい。
【0034】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における上部、上方、下方などの用語は、説明目的のために使用されるのであって、必ずしも、相対位置を説明するために使用されるわけではない。そのように使用される用語は、適切な状況下でそれらの対義語と相互に交換可能であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されている以外の方向で操作することができると理解されたい。
【0035】
特許請求の範囲で使用されている「含む」という用語は、その後に列挙されている手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素またはステップを除外しないことに留意されたい。したがって、これは、言及されるように、記載されている特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を指定すると解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、もしくは構成要素、またはそれらの群の存在または追加を排除することはない。したがって、「含む」という用語は、記載されている特徴のみが存在する状態、ならびにこれらの特徴および1つ以上の他の特徴が存在する状態を包含する。したがって、「手段AおよびBを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなるデバイスに限定されると解釈されるべきではない。これは、本発明について、デバイスの関連構成要素のみがAおよびBであることを意味する。
【0036】
本明細書全体において、「1つの実施形態」または「一実施形態」についての記述は、実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体においてさまざまな箇所で「1つの実施形態では」または「一実施形態では」という語句が用いられている場合、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではないが、そうなることもある。さらに、1つ以上の実施形態では、特定の特徴、構造、または特性は、本開示から当業者には明らかであり得るように、任意の好適な方式で組み合わせてもよい。
【0037】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明のさまざまな特徴は、本開示を効率化し、さまざまな本発明の態様のうちの1つ以上の理解を補助する目的で、単一の実施形態、図、またはその説明についてまとめてグループ化されることがあると理解されたい。しかしながら、開示される本方法は、特許請求される発明が各特許請求の範囲に明示的に列挙されるよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映すると解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲に反映されているように、本発明の態様は、開示される単一の前述の実施形態のすべての特徴よりも少ない。したがって、以下の詳細な説明に続く特許請求の範囲は、本明細書において、この詳細な説明に明示的に組み込まれており、各請求項は、本発明の個別の実施形態としてそれ自体が記載されている。
【0038】
さらに、本明細書に記載されているいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれる、いくつかの、ただし他のものではない特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者によって理解され得るように、本発明の範囲にあることを意味し、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲では、特許請求されている実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0039】
本明細書で提供される説明には、多くの具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細がなくても実施することができると理解される。他の例では、この説明の理解を曖昧にしないために、周知の方法、構造、および技術は、詳細には示さなかった。
【0040】
第1の態様では、本発明は、(i)ケイ素-炭素複合粒子を含むケイ素-炭素(Si/C)複合材料層と、(ii)ケイ素-炭素複合材料層を覆う酸化グラフェン(GO)層と、を含む複合アノード材料であって、ケイ素-炭素複合粒子がそれぞれ、炭素系材料と混合された複数のケイ素(Si)粒子を含み、ケイ素-炭素複合粒子が、中空部を取り囲む多孔質シェルを含み、多孔質シェルが、炭素系材料と混合された複数のケイ素粒子を含む、複合アノード材料に関する。
【0041】
実施形態では、複合アノード材料は、Liイオン、Kイオン、またはNaイオンの存在下で使用するためのものであり得る。実施形態では、複合アノード材料は、電極として使用するためのものであり得る。例えば、複合アノード材料は、Liイオンバッテリ、Kイオンバッテリ、またはNaイオンバッテリ内の負極として使用するためのものであり得る。電極は、有利には、二層電極、すなわち、(活物質としての)Si/C複合材料層と(緩衝層としての)GO層とを含む二層電極であり得る。実施形態では、複合アノード材料は、ケイ素-炭素複合材料が酸化グラフェン層の上方に存在しないことを条件とし得る。したがって、Si/C複合活物質は、GO層によって有利に覆われ得て、それ自体は、該GO層を覆うことはない。これは、例えば、GO層がSi/C複合材料を覆ってから再びSi/C複合材料によって覆われ得る、混合層または交互層の構成とは対照的である。
【0042】
ケイ素-炭素複合材料層の厚さは、重大ではないが、例えば、10~1000μm、好ましくは30~300μm、より好ましくは50~300μmであり得る。例えば、厚さは、30~100μmであり得る。これらの厚さは、好ましくは、その圧縮後に乾燥フィルム上で測定される。
【0043】
実施形態では、ケイ素-炭素複合材料層は、(ia)導電性炭素材料およびバインダーのマトリックスと、(ib)該マトリックス中に分散したケイ素-炭素複合粒子と、を含み得る。
【0044】
実施形態では、導電性炭素材料は、カーボンブラックであり得る。実施形態では、バインダーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)であり得る。マトリックスは、有利には、Si/C複合粒子間の物理的な接触および電気的な接触の改善、ならびに該粒子間の電解質の透過の改善をもたらす。
【0045】
実施形態では、Si粒子は、200nm未満の平均サイズを有し得る。Si粒子は、本明細書では「一次粒子」とも称され、Si/C複合粒子は、本明細書では「二次粒子」とも称される。実施形態では、ケイ素-炭素複合粒子は、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%のSi含有量を有し得る。
【0046】
実施形態では、ケイ素-炭素複合粒子は、0.001~2.3g/cm3の密度を有する粉末を形成し得る。例えば、これは、0.01~0.25g/cm3の密度を有し得る。
【0047】
実施形態では、炭素系材料は、導電性炭素材料であり得る。実施形態では、導電性炭素材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、および酸化グラフェンから選択され得る。CNTは、Si粒子を相互接続することを可能にする剛性の網目構造体を形成するので有利である。実施形態では、炭素系材料(例えば、導電性炭素材料)は、有機化合物に由来する材料であり得るか、またはそのような材料を含み得る。実施形態では、炭素系材料は、熱炭化有機化合物であり得るか、またはこれを含み得る。炭化された有機化合物の性質は、重要性が低い。実質的に任意の有機化合物が好適である。有機化合物は、一般に、非導電性有機化合物である。実施形態では、有機化合物は、水溶性有機化合物であり得る。好適な有機化合物の例は、水溶性ポリマー、水溶性有機酸、および水溶性糖である。実施形態では、有機化合物は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、およびラクトースから選択され得る。実施形態では、有機化合物は、イソプロパノール、エタノール、またはシクロヘキサンなどの有機溶媒に可溶性であり得る。炭素系材料(例えば、CNT)がSi/C複合粒子において存在すると、ケイ素-炭素複合材料(例えば、Si/C複合粒子)層の体積膨張を有利に阻害することができる。導電性炭素系材料(例えば、CNT)がSi/C複合粒子において存在すると、ケイ素-炭素複合材料(例えば、Si電極材料)層の電気化学的性能を有利に改善することができる。
【0048】
実施形態では、ケイ素-炭素複合粒子は、中空部を取り囲む多孔質シェルを含む粒子、そのような粒子の一部(例えば、それらが破壊されることから生じる)、または双方の混合物であり得る。実施形態では、中空部は、空洞であり得る。中空部を取り囲む多孔質シェルの形態によって、膨張が内側に起こるためのある程度の空間を確保することで、ケイ素-炭素複合材料(例えば、Si/C複合粒子)層の体積膨張を有利に阻害することができる。さらに、多孔質シェルによって、Liが比較的阻害されずにシェルを通じて拡散することを可能にすることで、ケイ素-炭素複合材料層の電気化学的性能を有利に改善することができる。実施形態では、多孔質シェルは、2μm未満、例えば750nm~1μmの厚さを有し得る。
【0049】
実施形態では、ケイ素-炭素複合材料層を覆う酸化グラフェン(GO)層は、ケイ素-炭素複合材料層上にあり得て、すなわち、これと直接物理的に接触し得る。
【0050】
実施形態では、酸化グラフェン層は、1つの単原子層と2μmとの間または1つの単原子層と1μmとの間に含まれる厚さを有し得る。
【0051】
実施形態では、ケイ素-炭素(Si/C)複合材料層は、導電性基板上にあり、酸化グラフェン(GO)層は、ケイ素-炭素複合材料上にある。
【0052】
実施形態では、導電性基板は、平らであり得る。
【0053】
実施形態では、導電性基板は、金属基板(例えば、銅箔などの銅基板)であり得る。
【0054】
実施形態では、第1の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、独立して、他の態様のいずれかの任意の実施形態について相応して記載される通りであり得る。
【0055】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態に定義されているような複合アノード材料を形成するための方法であって、(a)ケイ素-炭素複合粒子を含むケイ素-炭素複合材料層を提供することと、(b)ケイ素-炭素複合材料層の上方に酸化グラフェン層を提供することと、を含み、またステップaの前に、(a’1)200nm以下の平均サイズを有するケイ素粒子(すなわち、一次粒子)の懸濁液を提供することと、(a’2)炭素系材料をケイ素粒子の懸濁液に混合することと、(a’3)ケイ素粒子と炭素系材料との懸濁液を噴霧乾燥させてケイ素-炭素複合材料の粒子(すなわち、二次粒子)を形成することと、(a’4)還元雰囲気でケイ素-炭素複合材料の粒子を焼成することと、を含むケイ素-炭素複合材料を形成するステップa’を含む、方法に関する。実施形態では、炭素系材料は、導電性炭素材料および/または有機化合物であり得る。
【0056】
実施形態では、ステップaは、ステップbの開始前に完了され得る。
【0057】
実施形態では、ステップaでケイ素-炭素複合材料層を提供することは、(a1)導電性基板上にケイ素-炭素複合材料のスラリーを提供することと、(a2)スラリーを乾燥させてケイ素-炭素複合材料層を形成することと、を含み得る。
【0058】
実施形態では、ステップa1で導電性基板上にケイ素-炭素複合材料のスラリーを提供することは、ケイ素-炭素複合粒子を導電性炭素材料およびバインダーと混合してスラリーを形成することと、ウェットコーティング技術を使用して導電性基板上にスラリーをコーティングすることと、を含み得る。実施形態では、Si/C複合材料を導電性炭素材料およびバインダーと混合することは、緩衝液中で実施され得る。実施形態では、緩衝液は、1~6または2~4、例えば3のpHを有し得る。実施形態では、Si:導電性炭素材料の重量比は、1:20~20:1、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1、さらにより好ましくは1:3~3:1、さらにより好ましくは1:2~2:1、さらにより好ましくは1:1.5~1.5:1、それよりもさらにより好ましくは1:1.2~1.2:1、例えば1:1であり得る。実施形態では、Si:バインダーの重量比は、1:3~20:1、好ましくは1:3~10:1、より好ましくは1:3~5:1、さらにより好ましくは1:3~3:1、さらにより好ましくは1:2~2:1、さらにより好ましくは1:1.5~1.5:1、それよりもさらにより好ましくは1:1.2~1.2:1、例えば1:1であり得る。実施形態では、導電性炭素材料:バインダーの重量比は、10:1~1:10、好ましくは5:1~1:5、より好ましくは1:3~3:1、さらにより好ましくは1:2~2:1、さらにより好ましくは1:1.5~1.5:1、それよりもさらにより好ましくは1:1.2~1.2:1、例えば1:1であり得る。好ましい実施形態では、Si:導電性炭素材料:バインダーの比は、1:1:1であり得る。好ましい実施形態では、導電性炭素材料は、カーボンブラックであり得る。好ましい実施形態では、バインダーは、有機ポリマーである。バッテリに使用されることが一般的な任意のバインダーが使用され得る。好適なバインダーの例は、特に、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性ポリマー、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのエラストマー、リグニンなどのバイオポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)などの自己修復ポリマー、分岐ポリエチレンイミン(PEI)などの分岐ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのN-メチルピロリドン可溶性ポリマーである。好ましい実施形態では、バインダーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの多糖類であり得る。実施形態では、ウェットコーティング技術は、フィルムコーティング、ドクターブレード、ロールツーロール処理、およびインクジェット印刷から選択され得る。
【0059】
実施形態では、導電性基板は、銅箔などの金属基板であり得る。
【0060】
実施形態では、ステップa2は、150℃以下、好ましくは120℃以下の温度で実施され得る。実施形態では、ステップa2でスラリーを乾燥させることは、0~120℃の温度で実施され得る。実施形態では、スラリーを乾燥させることは、まず、大気圧のもと10~40℃の温度で少なくとも1時間にわたってスラリーを乾燥させ、その後、真空のもと60~100℃の温度で少なくとも1時間にわたってスラリーを乾燥させることを含み得る。実施形態では、スラリーを乾燥させることは、真空を適用することを含み得る。スラリーを乾燥させることは、例えば、スラリーを、室温で一晩かけて乾燥させ、次いで、真空のもと80℃で12時間にわたって乾燥させることを含み得る。
【0061】
実施形態では、ケイ素-炭素複合材料層の上方に酸化グラフェン層を提供することは、ケイ素-炭素複合材料層上に酸化グラフェン層を提供することであり得る。
【0062】
好ましくは、酸化グラフェン層は、ケイ素-炭素複合材料の乾燥層上に提供される。
【0063】
実施形態では、ステップbで酸化グラフェン層を提供することは、(b1)ケイ素-炭素複合材料層上に酸化グラフェンの水性懸濁液を提供(例えば、キャスティング)することと、(b2)水性懸濁液を乾燥させて酸化グラフェン層を形成することと、を含み得る。実施形態では、酸化グラフェンの水性懸濁液は、0.1~5重量%、好ましくは0.4~3重量%の酸化グラフェンを含み得る。例えば、0.4重量%および2.5重量%の水性懸濁液は、Graphenea(商標)から市販されている。任意の濃度の懸濁液、特に0.4%超の濃度の懸濁液を、グラファイト粉末で開始するHummers法(またはその変形形態)によって調製することができる。実施形態では、ステップb2は、150℃以下、好ましくは120℃以下、例えば0~120℃の温度で実施され得る。ステップb2は、例えば、酸化グラフェン層をさらに熱処理することなく、水性懸濁液を室温で一晩かけて乾燥させることを含み得る。
【0064】
実施形態では、ステップa’1におけるSi粒子の懸濁液は、Siがアルコール(例えば、無水イソプロパノール)または別の溶媒中に入った懸濁液であり得て、この懸濁液に炭素系材料をステップa’2で混合することができ、またこの懸濁液は、好ましくは、ステップa’3における噴霧乾燥と適合している。実施形態では、懸濁液におけるSi粒子の濃度は、4~40重量%であり得る。Si粒子のサイズは、例えば、粒子サイズ分析器を使用して、または好適な顕微鏡技術(例えば、走査型電子顕微鏡法)によって特定することができる。
【0065】
実施形態では、ステップa’1および/またはステップa’2はボールミル粉砕を含み得る。ボールミル粉砕は、ケイ素粒子のサイズを小さくするために、および/または混合するために有利に使用することができる。
【0066】
実施形態では、ケイ素粒子は、太陽電池および/またはウェハ断片からケイ素を破砕することによって得られ得る。ケイ素粒子または断片が約200μm超の平均サイズを有する場合、破砕することが特に好ましい。実施形態では、ケイ素粒子は、まず初期サイズ(例えば、125μm未満)に破砕され、その後、より小さいサイズ(例えば、200nm未満)にボールミル粉砕され得る。実施形態では、特にケイ素粒子が太陽電池から得られる場合、ケイ素から金属を浸出させるステップが、破砕の前に行われ得る。他の実施形態では、ケイ素粒子は、ケイ素ナノ粉末であり得る。ケイ素ナノ粉末は、市販されており、一般に、より小さいサイズに破砕および/またはボールミル粉砕される必要はない。
【0067】
実施形態では、ステップa’2で炭素系材料を懸濁液に混合することは、導電性炭素材料の混合物(例えば、溶液または懸濁液)および/または有機化合物の混合物(例えば、溶液または懸濁液)を懸濁液に混合することを含み得る。実施形態では、導電性炭素材料の混合物における導電性炭素材料の濃度は、0.01~50重量%、好ましくは0.01重量%~10重量%であり得る。実施形態では、有機化合物の混合物における有機化合物の濃度は、1重量%~50重量%、好ましくは1重量%~40重量%であり得る。実施形態では、ステップa’2で混合される炭素系材料の量を、ケイ素-炭素複合材料の粒子中の最終的な炭素含有量(すなわち、ステップa’4の後)が、1~50重量%、好ましくは5~20重量%であるようにしてもよい。最終的な炭素含有量は、元素分析器で測定することができる。ステップa’2の後に、Si粒子および炭素系材料が溶媒に入った均質な混合物を得ることができる。
【0068】
実施形態では、ステップa’4でケイ素-炭素複合材料の粒子を焼成することは、粒子を、6~24時間、好ましくは12時間の期間にわたって、900~1300℃、好ましくは1100℃の温度で焼成することを含み得る。実施形態では、還元雰囲気は、Ar/H2混合物(例えば、95体積%のAr/5体積%のH2)を含み得る。還元雰囲気でケイ素-炭素複合材料の粒子を焼成することは、有利には、粒子上に形成され得るSiO2を還元することを可能にし、導電性炭素材料中の有機化合物を変換することを可能にする。
【0069】
実施形態では、導電性基板上のケイ素-炭素(Si/C)複合材料層とケイ素-炭素複合材料上の酸化グラフェン(GO)層とのアセンブリを圧縮して、電極の厚さを調整してもよい。この目的のために、カレンダー加工プロセスを使用することができる。この圧縮ステップは、さまざまな電極構成要素の接触を改善するので有利である。これは、界面の接触を向上させ、炭素系材料とケイ素との間のより良好な接触に基づいて、電子伝導性を増加させる。また、導電性基板上のケイ素-炭素複合材料の密度を増加させ、それによって、電極がより高いエネルギー密度の値を達成することが可能になる。
【0070】
実施形態では、第2の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、独立して、他の態様のいずれかの任意の実施形態について相応して記載される通りであり得る。
【0071】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態に定義されているような複合アノード材料を含む、バッテリに関する。
【0072】
一般に、複合アノード材料は、本発明の任意の他の態様に定義されているような導電性基板上にある。
【0073】
一般に、バッテリは、カソードをさらに含む。
【0074】
一般に、バッテリは、アノードとカソードとの間に電解質をさらに含む。一般に、電解質は、アノードとカソードとを分離するセパレータ内に含まれ得る。セパレータは、バッテリのアノードとカソードとの間に配置された透過性膜である。セパレータは、一般に電解質に含浸されている。セパレータに好適な材料としては、不織布繊維(コットン、ナイロン、ポリエステル、ガラス)、ポリマーフィルム(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ塩化ビニル)、セラミック材料、および天然に存在する物質(ゴム、アスベスト、木材)が挙げられる。
【0075】
不織布繊維は、一般に、指向的またはランダムに配向された繊維の製造されたシート、ウェブ、またはマットの形態にある。
【0076】
セパレータには、単一または複数の材料層/材料シートを使用することができる。
【0077】
実施形態では、固体電解質が、アノードおよびカソードと一緒に(例えば、それらの間で)使用され得る。そのような実施形態では、セパレータは使用されない。
【0078】
実施形態では、バッテリは、リチウムイオンバッテリ、カリウムイオンバッテリ、またはナトリウムイオンバッテリであり得る。
【0079】
実施形態では、バッテリがリチウムイオンバッテリである場合、これは、リチウムを含むカソード材料をさらに含み得る。好適なカソード材料の例は、酸化リチウムニッケルコバルトマンガン(LiNiCoMnO2;NMC)、リン酸リチウム鉄(LiFePO4;LFP)、酸化リチウムニッケルコバルトアルミニウム(LiNiCoAlO2;NCA)、酸化リチウムマンガン(LiMn2O4;LMO)、リチウムニッケルマンガンスピネル(LiNi0.5Mn1.5O4;LNMO)、および酸化リチウムコバルト(LiCoO2;LCO)である。
【0080】
リチウムイオンバッテリの場合、一般的な電解質は、LiPF6である。LiPF6は、例えば、溶液の状態で、カーボネート中に存在し得る。例えば、LiPF6は、溶液の状態で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、またはそれらの混合物中にあり得る。好ましくは、LiPF6溶液は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートを含む。
【0081】
実施形態では、アノード充填量、すなわち、導電性基板1cm2あたりのケイ素の質量は、1~40mg/cm2であり得る。アノード充填量は、所望のエネルギー密度に応じて、この範囲で容易に変化し得る。
【0082】
実施形態では、第3の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、独立して、他の態様のいずれかの任意の実施形態について相応して記載される通りであり得る。
【0083】
第4の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態に定義されているようなケイ素-炭素複合材料層の体積膨張を阻害または緩衝するための酸化グラフェン層の使用に関する。
【0084】
実施形態では、本発明は、サイクル中にケイ素-炭素複合材料層の体積膨張を阻害または緩衝するための酸化グラフェン層の使用に関する。
【0085】
実施形態では、体積膨張は、Liイオンの存在によるものであり得る。実施形態では、体積膨張は、Liイオンの存在下でのLixSi合金の可逆的な形成によるものであり得る。
【0086】
好ましい実施形態では、体積膨張を阻害することは、カーボンナノチューブと(導電性基板と酸化グラフェン層との間の)ケイ素-炭素複合材料層とによってケイ素材料を内部にカプセル化して、それによって、体積膨張を物理的に阻害することを含み得る。代替的または相補的な実施形態では、体積膨張を阻害することは、複合アノード材料の内部に空間(例えば、中空部、空洞、または細孔)を形成することを含み得て、この空間内で、体積膨張が、複合アノード材料の全体的な形状を変化させることなく生じ得る。
【0087】
実施形態では、酸化グラフェン層の使用はさらに、安定した固体電解質中間層(SEI)を形成するためであり得る。例えば、安定したSEIは、酸化グラフェン層を形成することによって複合アノード材料の導電性が改善されることを理由に、例えば、電気化学的に活性な二次粒子間の物理的および電気的な接触がさらに改善されることに基づいて形成され得る。
【0088】
実施形態では、第4の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、独立して、他の態様のいずれかの任意の実施形態について相応して記載される通りであり得る。
【0089】
ここで、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって本発明を説明する。本発明の他の実施形態を、本発明の真の技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成することが可能であることは明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定される。
【実施例】
【0090】
実施例1:複合アノード材料およびこれに基づくバッテリ
実施例1a:太陽電池からのSiの回収
この調製において使用されるケイ素は、第1世代太陽光(PV)パネル(すなわち、単結晶または多結晶ケイ素を含む)の使用されなくなった太陽電池を回収することで得たが、Siが他の供給源からも同様に得られ得ることは明らかであろう。
【0091】
太陽電池に含有されている金属を、まずエッチング媒体を使用して浸出させた。8mol/LのKOHおよび8mol/LのHNO3の化学浴を調製した。2リットルの体積のエッチング媒体を使用して、200gの太陽光パネルの断片を浸出させた。各浸出ステップの後に、断片を脱イオン水で入念に洗浄し、浴を回収し、再利用して、200gの断片の別の画分を浸出させた(例えば、KOHの場合は500g/Lの最大効率まで、またはHNO3の場合は1kg/Lの最大効率まで)。次いで、回収したSiを予備破砕して、125μm未満の粒径を有するSi粉末を得た。
【0092】
実施例1b:Si/C複合粒子の形成
Si粉末(125μm未満)を、1.5mmのジルコニアビーズを使用して遊星ボールミル粉砕機内で1時間にわたってボールミル粉砕した。無水イソプロパノールを溶媒として添加して、プロセスにおいてSiの最小限の酸化を確実にした。得られた懸濁液におけるSiの濃度は、40重量%であった。その後、今回は0.5mmのジルコニアビーズを使用して、懸濁液を3時間にわたってさらにボールミル粉砕した。
【0093】
ここで、
図1および
図2を参照する。Malvern Mastersizer 2000粒径分析器によって測定(
図1を参照)して、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって確認(
図2を参照)したところ、粉砕後の粒子(本明細書では、「一次粒子」とも称される)の平均サイズは、200nm未満であった。
【0094】
次いで、ボールミル粉砕したSi懸濁液をカーボンナノチューブ(CNT)懸濁液およびポリビニルピロリドン(PVP)溶液と混合して、噴霧乾燥のためのSi/C組成物を調製した。この目的を達成するために、CNT(平均直径9.5nmおよび平均長さ1.5μm)がイソプロパノール(0.2重量%)中に入った安定した懸濁液を、まず水熱経路によって調製し、Si懸濁液に添加して、1:0.01のSi:CNT比を得た。その後、2時間にわたって撹拌しながらPVPをイソプロパノール中で40℃に加熱することによって、40000g/molのモル質量を有する40%のPVPの溶液を調製した。PVP溶液をSi懸濁液に添加して、1:1のSi:PVP比を得た。
【0095】
次いで、懸濁液をMobile Minor GEA-Niro噴霧乾燥機内にて噴水モードで噴霧乾燥させて、ケイ素-炭素(Si/C)複合粒子(本明細書では、「二次粒子」とも称される)を形成した。懸濁液を25ml/分の射出速度で2流体ノズル構成物に圧送し、噴霧乾燥機の乾燥チャンバ内に送った。乾燥空気の入口温度と懸濁液を粉末化するために使用した空気圧は、それぞれ120℃および0.5barであった。この懸濁液は、乾燥チャンバ内に射出されると、液滴を形成して、この液滴が、乾燥チャンバ内の熱風と接触した。これによって、溶媒が蒸発し、均質な二次粒子粉末が形成されて、この均質な二次粒子粉末は、気流によって、粉末回収用のサイクロンへと流れた。出口温度は、83±2℃であった。
【0096】
通常、噴霧乾燥ステップによって、高い均質性から優れた均質性までの二次粒子を達成することが可能になる。したがって、制御された形態および所望のサイズの二次粒子を得るように、入口温度、空気圧、および射出速度を調整することができる。
【0097】
ここで、
図3を参照する。得られた二次粒子は、SEMによって確認したところ、1~50μmのサイズ分布を有する球状の形態を有していた。
図3に見られるように、熱処理前の粉末の形態学的特性(下記参照)は、PVPが二次粒子上に比較的滑らかな外側表面を形成するようなものであった。
【0098】
次いで、Si/C複合粒子を、還元雰囲気(例えば、Ar/5%H2)で12時間にわたって1100℃で熱処理プロセスにかけた。これによって、二次粒子上の最終的な酸化ケイ素層を還元することが可能になり、また二次粒子中の有機炭素供給源(例えば、PVP)を導電性炭素に変換することも可能になった。
【0099】
ここで、
図4を参照する。PVPが熱処理中に変換した後に、二次粒子は、球体の外側表面に一次Si粒子を有していた。したがって、二次粒子は、一次Si粒子および導電性炭素の双方から成っていた。
【0100】
ここで、
図5および
図6を参照する。透過型電子顕微鏡法(TEM)によって、球状の二次粒子が実際に中空であることが明らかになった(
図5を参照)。これらの中空粒子の形成は、仮定ではあるが、乾燥プロセス中に液滴に皮膜(crust)を生じさせる噴霧乾燥法で溶媒を使用することによる迅速な乾燥プロセスに起因しており、溶媒の蒸発時にSi一次粒子の濃度をゆっくりと増加させることで液滴の粒径を低減させることとは対照的であった。この皮膜の厚さは、崩壊した二次粒子から観察されたように、750nm~1μmであった(
図6を参照)。この形態の利点は、一次Si粒子が、かなり多孔質の構造(ここで溶媒の蒸発が起こり、蒸気が液滴の内側から出た)を有する一方で、同時に球体の外層中の炭素と十分に混合されることである。したがって、このタイプの中空球体構造は、Liの拡散経路も最小限に抑えながら、Siの稠密な凝集体と比較して、体積膨張の問題により良好に対処することができる。
【0101】
また、二次粒子中の炭素含有量を、Analytik Jena Multi EA 4000元素分析器によって測定すると、熱処理の前後で20重量%および5重量%の炭素がそれぞれ得られた。したがって、熱処理された二次粒子中の最終的なSi含量は、95重量%であった。
【0102】
実施例1c:Si/C複合材料層の調製
Si/C複合粒子(すなわち、二次粒子)を、導電性炭素としてのカーボンブラック(CB)(Alfa Aesar、カーボンブラック、アセチレン、100%圧縮、99.9+%)およびバインダーとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)(Sigma Aldrich)と、pH3のKOHおよびクエン酸の水性緩衝液中でさらに混合して、スラリーを得た。Si/C:CB:CMCの重量比は、1:1:1であった。
【0103】
次いで、このスラリーをフィルムコーターで銅箔上に120μmの厚さでキャスティングして、Si/C複合材層を調製した。このSi/C複合層を、室温で一晩かけて乾燥させ、次いで、真空のもと80℃で12時間にわたって乾燥させた。乾燥したSi/C複合層は、2~50μmの厚さを有し、これは主に二次粒子のサイズに依存していた。
【0104】
実施例1d:複合アノード材料の調製
Si/C複合材料層を完全に乾燥させたら、水(0.4重量%)中に入った酸化グラフェン(GO)懸濁液(Graphenea、スペイン)をフィルムの上部にキャスティングし、続いて、室温で一晩かけて乾燥させた。乾燥した懸濁液によって、1μmまでの厚さを有するGO層のスタックを形成することができた。それによって、目的の複合アノード材料を得た。
【0105】
実施例1e:複合アノード材料に基づくバッテリのアセンブリ
次いで、乾燥した複合アノード材料を15mmのディスクに切断し、アルゴンを充填したグローブボックス内にてコイン電池内で組み立てた。ここでは、複合アノード材料電極によって1つの半電池を形成し、金属リチウムを対極および参照電極として使用し、電解質は、固形物(すなわち、電極)/電解質中間相(SEI)を安定化させるための添加剤としての10重量%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)および2重量%のビニレンカーボネート(VC)と一緒にエチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)中に入ったLiPF6であった。
【0106】
実施例2:実施例1の複合アノード材料の電気化学的性能
実施例2a:全容量での実施例1の複合アノード材料の電気化学的性能
複合アノード材料の電気化学的性能を、実施例1eによるコイン電池の0.01~1Vの電圧範囲内で、定電流サイクルによって調べた。ここでは、印加した電流密度(Cレート)を、変換反応に関与する3個のLiの理論容量(すなわち、3600mAh/g)に基づいて計算した。電池をC/20の低電流で定電流充放電によってまず速度論的に安定化させた。
【0107】
ここで、実施例1の複合アノード材料の電気化学的性能を図示する
図7を参照する。C/20の容量が最初の数サイクルで3600mAh/gに達し、5サイクル後に3300mAh/gに達したことが観察される。その後、C/5(0.72A/g)の電流密度を電池に印加すると、2300mAh/gの初期比容量が得られた。この複合電極については、高い可逆容量(1900mAh/g)が観察され、わずかな容量の減少があり、その大部分は、最初の50サイクルで起こっている。この容量の低下は、仮定ではあるが、リチウムの一部を消費することによって生じる、固体電解質中間相(SEI)の形成に主に起因していた。SEI層が多少安定化されたら(例えば、50サイクル目から、容量が2000mAh/gになる)、200サイクルの容量保持率を計算すると、95%に相当していた(容量値に影響を与える測定中の温度変動を考慮)。
【0108】
実施例2b:従来技術との比較
得られた容量および保持値をWO2016/106487のものと比較すると、WO2016/106487のバッテリに印加された電流密度(0.3A/g=C/12)が本実施例より低くても、報告された可逆容量(110サイクル後に約1800mAh/g)および容量保持率(110サイクル後に78.3%)が劣っていることが分かる。この点において、通常、電流密度が低いほど、電気化学反応がより低い速度で起こることが可能になり、したがって、(例えば、反応が速度論的に何らかの制限を受けている場合に)バッテリの初期容量に達する機会がより多くなることに言及する価値がある。
【0109】
実施例2c:限定された容量での実施例1の複合アノード材料の電気化学的性能
実用的なリチウムイオンバッテリにおけるSiの使用に関する重要な態様の1つは、Siがアノードの役割を果たしていることである。したがって、全電池の容量は、カソード材料(すなわち、リチウム供給源)の容量にも依存する。結果的に、ここでのカソード材料の制限に基づいて、Siの理論容量に達する必要はない。したがって、サイクル中にSiと反応するLi+の数を制限して、バッテリにおけるSiの高い容量を維持しながら、形成される合金における体積膨張を減らした。反応するリチウムの数を1個に制限することによって、1200mAh/gのSiの理論容量を得る。この制限は、バッテリの充放電に費やされる電流密度および全時間に適用された。
【0110】
ここで、実施例1の複合アノード材料の電気化学的性能を図示する
図8を参照する。ここでは、Li-Si半電池を、C/20、1C、2Cでそれぞれサイクルさせ、続いて1Cで長くサイクルさせた。C/20での初期容量は、理論容量の99.83%に相当する1198mAh/gであったと観察される。さらに、電極は、高速充電/放電サイクル速度(1Cおよび2C)でさえ、非常に良好な性能を示した。2Cでのサイクル後のバッテリの信頼性を検証するために、バッテリを1Cで長期間にわたって試験した。1000サイクルを超えても容量損失は観察されなかった。
【0111】
実施例2d:酸化グラフェン層の影響
ここで、
図9および
図10を参照する。2つのサンプルのうちの1つについてはGO層のキャスティングを省略したことを除いて、2つのサンプルを実施例1で説明したように調製した。GO層を有しないサンプルの形態は、
図9に示されており、GO層を有するサンプルは、
図10に示されている。
【0112】
ここで、GO層を有する複合アノード材料(三角形)およびGO層を有しない複合アノード材料(正方形)の電気化学的性能を図示する
図11を参照する。GO層を追加することによって容量値がほぼ2倍になったという点で、双方の間に大きな差が観察される。さらに、C/20の低い電流密度での1サイクル目であっても、GOを有しないサンプルでは理論容量が得られなかった。これは、3個のLi
+イオンが反応に関与してLi
xSi合金(式中、x=Liの数)を形成することができないことを示唆する。これは、仮定ではあるが、自らSEI層を生じさせることによる、かつSi部位におけるLiの主な分解を制限することによる、GO層の保護的な役割に起因していた。さらに、GOによってSi/C複合二次粒子を覆うことは、これらの活物質粒子間の物理的および電気的な接続を改善するのに役立つ。
【0113】
実施例2e:乾燥方法の影響
ここで、
図12を参照する。比較のために、サンプルを、実施例1で説明したように、ただし噴霧乾燥の代わりに回転蒸発を使用して調製し、その電気化学的性能を
図12に示す。C/5での350サイクルにわたる初期容量および容量保持率は、噴霧乾燥によって調製された均質に混合されたSi/C複合粒子に基づくものよりも明らかに良好ではなかった。したがって、一般に、噴霧乾燥法が好ましい。回転蒸発器内で調製された粒子は凝集体を形成する傾向があり、それによって、Li拡散が制限され得ることが観察された。
【0114】
実施例3:さらなる複合アノード材料およびこれに基づくバッテリ
実施例3a
実施例1を繰り返したが、太陽電池ではなく、ドープされていないSiウェハ断片をSi供給源として使用した。この場合、一般に、最初に断片から金属を浸出させる必要はなかった。したがって、125μm未満の粒径を有するSi粉末を得るために、予備破砕のみを実施する必要があった。
【0115】
実施例3b
実施例1を繰り返したが、市販のSiナノ粉末をSi供給源として使用した。この場合、一般に、浸出ステップまたは予備破砕ステップは必要ではなかった。さらに、ボールミル粉砕ステップは、PVPとCNT添加剤とを混合するためにのみ使用され、それによって、噴霧乾燥のための懸濁液が得られた。
【0116】
実施例3c
実施例1を繰り返したが、噴霧乾燥のための懸濁液を形成するために、CNT(すなわち、導電性炭素)懸濁液のみをSi一次粒子に添加した。
【0117】
実施例3d
実施例1を繰り返したが、噴霧乾燥のための懸濁液を形成するために、PVP(すなわち、有機化合物)溶液のみをSi一次粒子に添加した。
【0118】
実施例3e:実施例3a~dの複合アノード材料の性能
実施例1および3a~dで使用される異なる成分、ならびにこれらの複合アノード材料について得られた電気化学的結果を、以下の表に要約する。
【0119】
【0120】
実施例4:Kイオンバッテリ内の複合アノード材料
本発明による複合アノード材料をKイオンバッテリ内の負極材料として調べた。ケイ素は、1個のカリウムとだけ反応して、K/K+に対して平均電圧0.15Vで954mAh/gの理論容量をもたらすことができるが、我々の知る限りでは、そのような値は、まだ実験的には得られていない。むしろ、ほとんどの研究では、200mAh/g未満の容量が得られ、これらの容量を数サイクルしか維持することができない。
【0121】
この実施例では、半電池を実施例1に記載されているように組み立てたが、金属カリウム(K)を対電極および参照電極として使用し、電解質は、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)中に入った1Mのカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)、またはECおよびジメチルカーボネート(DMC)中に入った1MのKFSIのいずれかであった。
【0122】
Si/C負極について、サイクル数による比放電容量の変化を
図13に示す。見られるように、50サイクルの場合、C/20レートで約250mAh/gの安定した容量が得られ、これにC/5レート領域が続き、ここでは、速度論的な制限が課されており、100サイクル中に、電極において100mAh/gの容量が依然として得られ、最終的にC/20レートの初期速度に戻り、電極は、C/5サイクルの前の初期容量値を再びもたらす。これは、(例えば、体積膨張による)電極の構造的または形態学的な分解が起こらなかったことを意味する。
【0123】
図14および
図15に示されるように、GO層の存在下でのSi-C電極の電圧プロファイルは、第1のサイクル後の後続のサイクル時に分極効果を示さない。第1の放電と第1の充電との間の不可逆容量は、SEI不動態化層の形成に起因していた。分極を示さないさらなるサイクルは、比較的安定したSEI層が形成されていることを示し、これは、大方(または主にさえ)、イオン伝導性GO層が存在することに基づくと予想されている。双方の電解質間の電気化学的性能に関して、有意差は観察されなかった。
【0124】
実施例5:Naイオンバッテリ内の複合アノード材料
実施例4を繰り返すが、金属ナトリウム(Na)を対極および参照電極として使用し、好適なNa系電解質を使用する。同等の結果が得られる。
【0125】
本明細書では、好ましい実施形態、特定の構造および構成、ならびに材料を、本発明によるデバイスについて論じてきたが、形態および詳細におけるさまざまな変更または修正を、本発明の範囲および技術的教示から逸脱することなく行ってもよいと理解されたい。例えば、先に記載の任意の式は、使用され得る手順を単に表すだけである。ブロック図から機能を追加または削除してもよく、機能ブロック間で操作を相互に交換してもよい。本発明の範囲に記載されている方法にステップを追加または削除してもよい。