(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】GD2結合性分子
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240618BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240618BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240618BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240618BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240618BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240618BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61K35/17
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021535464
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029446
(87)【国際公開番号】W WO2021020564
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019142358
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 洋
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 泰
(72)【発明者】
【氏名】三輪 啓志
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘
(72)【発明者】
【氏名】古川 鋼一
(72)【発明者】
【氏名】古川 圭子
(72)【発明者】
【氏名】大海 雄介
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-536341(JP,A)
【文献】特表2013-532968(JP,A)
【文献】特表2015-521607(JP,A)
【文献】特表2011-526785(JP,A)
【文献】特表2017-508466(JP,A)
【文献】国際公開第2012/033885(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/023025(WO,A8)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
A61K 35/00-35/768
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに
配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含むGD2結合性領域を含む、キメラ抗原受容体。
【請求項13】
がんの治療又は予防用である、請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GD2結合性分子等に関する。
【背景技術】
【0002】
ガングリオシドは糖脂質の一種で、糖鎖の部分と脂質(セラミド:脂肪酸+長鎖塩基)より構成される。ガングリオシドは、一連の酵素反応により合成され、最終産物へと代謝される。GD2はGD3よりGM2/GD2合成酵素によって合成され、さらにGM1/GD1b/GA1合成酵素によってGD1bへと合成が進む。
【0003】
がん細胞ではGD2合成酵素の発現が高く、GD1b合成酵素の発現が低いため、細胞表面上にはGD2が高発現となる。細胞上に発現されたGD2はIntegrinなどの接着分子と共存して細胞の接着やシグナル伝達に関与し、がんの増殖や転移に関係することが知られている。
【0004】
GD2は、黒色腫や神経芽腫、神経膠芽腫、肺がん、骨肉腫や白血病で高発現となることが知られており、正常組織では神経細胞やグリア細胞で発現が見られるが、それら正常組織での発現は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GD2は良い分子標的と考えられるので、これを認識する抗体が単離され、抗体治療やCAR治療が行われてきたが(特許文献1)、これまでのところその効果は限定的で、十分な治療効果があがっていない。例えば、特許文献1のFig. 3で示されているように、In vitro細胞傷害作用が弱く、最も作用の強いP1143に対しても、E:T ratio 5:1で20% lysis程度であり、他は数%程度に過ぎない。また、同文献では、メラノーマをIV投与で肺がんを作らせ、1x10^7のeffector輸注での治療実験について記載されているが(Fig. 6)、day 100で20%が死亡し、完全治癒に至っていない。
【0007】
本発明は、GD2を分子標的とした、がんの治療又は予防技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/或いは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、GD2結合性分子、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/或いは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、GD2結合性分子。
【0010】
項2. 前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域を含む、項1に記載のGD2結合性分子。
【0011】
項3. ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGD1b、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM3、ガングリオシドGT1b、及びラクトシルセラミドに対する結合性が、ガングリオシドGD2に対する結合性の1/2以下である、項1又は2に記載のGD2結合性分子。
【0012】
項4. キメラ抗原受容体である、項1~3のいずれかに記載のGD2結合性分子。
【0013】
項5. 前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域を含むscFvドメイン、膜貫通ドメイン、並びにTCRの細胞内ドメインを含むコア領域を含む、項4に記載のGD2結合性分子。
【0014】
項6. 前記コア領域がさらに共刺激因子の細胞内ドメインを含む、項5に記載のGD2結合性分子。
【0015】
項7. 前記コア領域のC末端側に、自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む、項5又は6に記載のGD2結合性分子。
【0016】
項8. 抗体である、項1~3のいずれかに記載のGD2結合性分子。
【0017】
項9. 項1~8のいずれかに記載のGD2結合性分子をコードする、ポリヌクレオチド。
【0018】
項10. 項9に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【0019】
項11. 項4~7のいずれかに記載のGD2結合性分子をコードするポリヌクレオチドを含有する、キメラ抗原受容体T細胞又はキメラ抗原受容体NK細胞。
【0020】
項12. 項11に記載のキメラ抗原受容体T細胞若しくはキメラ抗原受容体NK細胞、又は項8に記載のGD2結合性分子を含有する、医薬組成物。
【0021】
項13. がんの治療又は予防用である、項12に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、GD2を分子標的とした、がんの治療又は予防技術を提供することができる。具体的には、GD2を分子標的とした抗体、GD2を分子標的としたキメラ抗原受容体等を利用して、がんを治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】試験例2のELISAの結果を示す。縦軸は吸光度を示し、横軸は希釈倍率を示す。凡例は、固定化した抗原を示す。
【
図2】試験例3の薄層クロマトグラフィー・イムノステイニングの結果を示す。左側の写真のレーン1,2,3は、brain ganglioside mixをそれぞれ3 micro gram, 2 micro gram, 1 micro gram使用したレーンである。右側の写真のレーン1, 2は、SK-MEL-23(Carney2)細胞のganglioside抽出液3 micro litter, 1 micro litterを使用したレーンであり(10gペレットより抽出した糖脂質を2 mlのC:M(1:1)に溶解)、レーン3,4は、AS細胞抽出液1 micro liter, 3 micro literを使用したレーンである(1 gペレットより抽出した糖脂質を0.5mlのC:M (1:1)に溶解)。
【
図3】試験例4のフローサイトメトリーの結果を示す。縦軸はカウント細胞数を示し、横軸は細胞の蛍光強度を示す。黒ピークは220-51抗体で処理したサンプルを示し、グレー(赤)ピークは220-51抗体で処理しなかったサンプルを示す。ヒストグラム上方に使用した細胞を示す。AS, IMR32, Kohl-3 (SK-MEL-31), YTN17はGD2陽性細胞であり、CEM, MOLT4はGD2陰性細胞である。
【
図4】試験例5のRT-CES解析結果を示す。縦軸は、Cell index (電気抵抗より算出) を示し、横軸は、細胞接着の測定開始からの経過時間を示す。
【
図5】4種のCAR(28z CAR、zG CAR、28z GITRL CAR、zG GITRL CAR)の構造の模式図を示す。
【
図6】試験例8の結果を示す(28z CAR又は28z GITRL CAR発現プラスミド導入の場合、α/β細胞における発現)。anti kappa CARの発現効率を%で示す。CAR発現細胞分画の発現強度をMFIで示す。
【
図7】試験例8の結果を示す(zG CAR又はzG GITRL CAR発現プラスミド導入の場合、alpha/beta細胞における発現)。anti kappa CARの発現効率を%で示す。CAR発現細胞分画の発現強度をMFIで示す。
【
図8】試験例8の結果を示す(CAR発現プラスミド非導入の場合、alpha/beta細胞における発現)。anti kappa CARの発現効率を%で示す。CAR発現細胞分画の発現強度をMFIで示す。
【
図9】試験例8の結果を示す(28z GITRL CAR発現プラスミド導入の場合、alpha/beta細胞における発現)。GITRL発現細胞の割合を%で示す。
【
図10】試験例8の結果を示す(zG GITRL CAR発現プラスミド導入の場合、alpha/beta細胞における発現)。GITRL発現細胞の割合を%で示す。
【
図11】試験例8の結果を示す(CAR発現プラスミド導入の場合、alpha/beta細胞における発現)。GITRL発現細胞の割合を%で示す。
【
図12】試験例8の結果を示す(28z CAR又は28z GITRL CAR発現プラスミド導入の場合及びCAR発現プラスミド非導入の場合、gamma/delta細胞における発現)。kappa陽性かつVd2陽性の分画の割合を%で示す。
【
図13】試験例8の結果を示す(28z GITRL CAR発現プラスミド導入の場合及びCAR発現プラスミド非導入の場合、gamma/delta細胞における発現)。GITRL発現細胞の割合を%で示す。
【
図14】gamma/delta細胞、標的細胞認識 AS細胞とCAR T細胞(28z CAR発現プラスミド導入)を4時間共培養したのち、細胞内発現IFNg、CD107aをフローサイトメーターにて測定した結果(試験例9)を示す。IFNg, CD107a発現細胞の割合を%で示す。
【
図15】gamma/delta細胞、標的細胞認識 AS細胞とCAR T細胞(28z GITRL CAR発現プラスミド導入)を4時間共培養したのち、細胞内発現IFNg, CD107aをフローサイトメーターにて測定した結果(試験例9)を示す。IFNg, CD107a発現細胞の割合を%で示す。
【
図16】gamma/delta細胞、標的細胞認識 AS細胞とPBMCを4時間共培養したのち、細胞内発現IFNg, CD107aをフローサイトメーターにて測定した結果(試験例9)を示す。IFNg, CD107a発現細胞の割合を%で示す。
【
図17】試験例10(alpha/beta細胞)のxCelligence解析の結果を示す。縦軸は、xCelligenceにより測定された細胞障害活性(%)を示し、横軸はエフェクター細胞添加からの経過時間を示す。
【
図18】試験例10(gamma/delta細胞)のxCelligence解析の結果を示す。縦軸は、xCelligenceにより測定された細胞傷害活性(%)を示し、横軸はエフェクター細胞添加からの経過時間を示す。
【
図19】試験例10における非RI細胞傷害性試験の結果を示す。縦軸は、発光量に基づいて算出された傷害細胞の割合を示す。凡例中の比はCAR-T細胞とAS細胞との比(CAR-T細胞数:AS細胞数)を示す。
【
図20】試験例11の結果を示す。縦軸は、E-plate上のKelly細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図21】試験例12の結果を示す。縦軸は、E-plate上のSK-N-SH細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図22】試験例13の結果を示す。縦軸は、E-plate上のHs578T-Luc細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図23】試験例14の結果を示す。縦軸は、E-plate上のBT549-Luc細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図24】試験例15の結果を示す。縦軸は、E-plate上のKelly細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図25】試験例16の結果を示す。縦軸は、E-plate上のD8細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図26】試験例17の結果を示す。縦軸は、E-plate上のC2細胞数を反映するCell indexを示す。横軸はターゲット細胞添加からの経過時間を示す。
【
図27】試験例18の結果を示す。縦軸は、E-plate上のNCI-N417細胞数を反映するCell indexを示す。横軸は時間の経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes ”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0026】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったbeta-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0027】
本明細書中において、「CDR」とは、Complementarity Determining Regionの略であり、相補性決定領域とも称される。CDRとは、イムノグロブリンの可変領域に存在する領域であり、抗体が有する抗原への特異的な結合に深く関与する領域である。そして、「軽鎖CDR」とはイムノグロブリンの軽鎖可変領域に存在するCDRであり、「重鎖CDR」とはイムノグロブリンの重鎖可変領域に存在するCDRのことを意味する。
【0028】
本明細書中において、「可変領域」とは、CDR1~CDR3(以下、単に「CDRs1-3」という)を含む領域のことを意味する。これらのCDRs1-3の配置順序は特に限定はされないが、好ましくは、N末端側からC末端側の方向に、CDR1、CDR2、及びCDR3の順か、若しくはこの逆の順に、連続又は後述するフレームワーク領域(FR)と称される他のアミノ酸配列を介して、配置された領域を意味する。そして「重鎖可変領域」とは、上述の重鎖CDRs1-3が配置された領域であり、「軽鎖可変領域」とは、上述の軽鎖CDRs1-3が配置された領域である。
【0029】
各可変領域の上記CDR1-3以外の領域は、上述するようにフレームワーク領域(FR)と称される。特に可変領域のN末端と上記CDR1との間の領域をFR1、CDR1とCDR2との間の領域をFR2、CDR2とCDR3との間の領域をFR3、CDR3と可変領域のC末端との間をFR4とそれぞれ定義される。
【0030】
2.GD2結合性分子
本発明は、その一態様において、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/或いは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、GD2結合性分子(本明細書において、「本発明のGD2結合性分子」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0031】
本発明のGD2結合性分子は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/或いは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含むものであって、GD2に対して結合性を有する分子である限り、特に制限されない。
【0032】
本発明のGD2結合性分子は、1種のポリペプチドからなる分子であってもよいし、2種以上のポリペプチドの複合体からなる分子であってもよい。また、本発明のGD2結合性分子は、ポリペプチド又はその複合体からなる分子であってもよいし、ポリペプチド又はその複合体に、他の物質(例えば蛍光物質、放射性物質、無機粒子等)が連結してなるものであってもよい。
【0033】
GD2に対する結合性は、公知の方法に従って、例えばELISA法により(具体的には、例えば試験例2の方法により)測定することができる。本発明のGD2結合性分子のGD2に対する結合性は、例えば、後述の実施例の220-51抗体のGD2に対する結合性100%に対して、例えば20%以上、50%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上である。
【0034】
本発明のGD2結合性分子は、好ましくは上記重鎖可変領域及び上記軽鎖可変領域を両方含む。
【0035】
重鎖可変領域は、好ましくは、配列番号4で示されるアミノ酸配列、又は配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域である。軽鎖可変領域は、好ましくは、配列番号12で示されるアミノ酸配列、又は配列番号12で示されるアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域である。配列番号4又は12からアミノ酸変異がある場合、その変異は、アミノ酸置換であることが好ましく、アミノ酸の保存的置換であることがより好ましい。
【0036】
本発明のGD2結合性分子は、ガングリオシドGD2を特異的に認識することができる。この観点から、本発明のGD2結合性分子は、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGD1b、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM3、ガングリオシドGT1b、及びラクトシルセラミドからなる群より選択される少なくとも1種(好ましくは、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種(全て))の他の抗原に対する結合性が、ガングリオシドGD2に対する結合性の1/2以下(好ましくは、1/5以下、1/10以下、1/20以下、1/100以下、1/500以下、1/2000以下、1/10000以下)であることが好ましい。
【0037】
本発明のGD2結合性分子は、化学修飾されたものであってもよい。本発明のGD2結合性分子を構成するポリペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。本発明のGD2結合性分子を構成するポリペプチドは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。さらに、本発明のGD2結合性分子を構成するポリペプチドには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものも包含される。
【0038】
本発明のGD2結合性分子は、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ、蛍光タンパク質タグ等が挙げられる。
【0039】
本発明のGD2結合性分子は、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0040】
本発明のGD2結合性分子は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0041】
2-1.抗体
本発明のGD2結合性分子は、好ましい一態様において、抗体である(本明細書において、抗体である本発明のGD2結合性分子について、「本発明の抗体」と示すこともある。)。
【0042】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。
【0043】
本発明の抗体の分子量は、特に制限されないが、下限は、例えば20,000、好ましくは50,000、好ましくは100,000、より好ましくは120,000であり、上限は、例えば1,000,000、好ましくは500,000、より好ましくは200,000である。
【0044】
本発明の抗体の構造は、特に制限されない。本発明の抗体は、定常領域を含むものであってもよいし、定常領域を含まないものであってもよい。定常領域を含む場合、重鎖の定常領域(CH1、CH2、及びCH3)並びに軽鎖の定常領域(CL)の全てを含んでいてもよいし、これらの内の任意の1種又は2種以上の組み合わせを含んでいてもよい。
【0045】
本発明の抗体の構造の具体例としては、イムノグロブリン、Fab、F(ab’)2、ミニボディ(minibody)、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果の観点から、好ましくはイムノグロブリンが挙げられる。
【0046】
イムノグロブリンは、重鎖可変領域及び重鎖定常領域を有する1本の重鎖と軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を有する1本の軽鎖から成る構造が2つ組み合わされた構造を有する。
【0047】
Fabとは、重鎖可変領域及び重鎖定常領域中のCH1を含む重鎖の断片と、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖とを含み、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが上述する非共有結合性の分子間相互作用によって会合するか、またはジスルフィド結合によって結合してなる構造を有する。Fabにおいて、CH1とCLとは、それぞれに存在するシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合していてもよい。
【0048】
F(ab’)2とは、2対の上記Fabを有し、CH1同士がこれらに含まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合してなる構造である。
【0049】
ミニボディとは、下記scFvを構成する重鎖可変領域にCH3が結合した断片2つが、CH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合した構造である。
【0050】
scFv‐Fcとは、下記scFv、CH2、およびCH3を含む抗体断片2つが、上記ミニボディと同様にCH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合し、それぞれのCH3に含まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合した構造である。
【0051】
Fvとは、抗体の最小構造単位ともいわれ、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが非共有結合性の分子間相互作用によって会合した構造である。Fvにおいて、重鎖可変領域および軽鎖可変領域内に存在するシステイン残基のチオール基同士がジスルフィド結合していてもよい。
【0052】
scFvとは、重鎖可変領域のC末端と軽鎖可変領域のN末端がリンカーで繋がれた構造、又は重鎖可変領域のN末端と軽鎖可変領域のC末端とがリンカーで繋がれた構造であり、単鎖抗体とも呼ばれる。
【0053】
ディアボディ、トリアボディ、およびテトラボディとは、それぞれ上記scFvが2量体、3量体および4量体を形成し、Fvなどと同様に可変領域同士の非共有結合性の分子間相互作用等により、構造的に安定な状態で会合した構造である。
【0054】
本発明の抗体がイムノグロブリンである場合、そのクラスは特に制限されない。該クラスとしては、例えばIgA、IgD、IgE、IgG、IgMなど、さらにはこれらのサブクラスが挙げられる。好ましいクラスとしては、例えばIgG、IgMなどが挙げられ、好ましくはIgGが挙げられ、より好ましくはIgG1が挙げられる。
【0055】
本発明の抗体の由来は特に制限されない。本発明の抗体は、例えばヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ウサギ由来抗体、サル由来抗体、チンパンジー由来抗体などであり得る。また、本発明の抗体は、キメラ抗体(例えばヒト以外の生物(マウスなど)由来抗体の定常領域のアミノ酸配列をヒト由来抗体の定常領域のアミノ酸配列に置き換えられてなる抗体)、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体などであってもよい。
【0056】
本発明の抗体は、例えば、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドにより形質転換させた宿主を培養し、本発明の抗体を含む画分を回収する工程を含む方法によって製造することができる。
【0057】
本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドは、本発明の抗体を発現可能な状態で含む限りにおいて特に制限されず、本発明の抗体のコード配列以外に、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、本発明の抗体コード配列に隣接して配置される分泌シグナルペプチドコード配列、プロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。また、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドは、直鎖状のポリヌクレオチドであってもよいし、環状のポリヌクレオチド(ベクターなど)であってもよい。
【0058】
ポリヌクレオチドの具体例としては、(I)本発明の抗体の重鎖、重鎖可変領域、及び重鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(II)本発明の抗体の軽鎖、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(III)本発明の抗体の重鎖、重鎖可変領域、及び重鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに本発明の抗体の軽鎖、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドなどが挙げられる。
【0059】
宿主は、特に制限されず、例えば昆虫細胞、真核細胞、哺乳類細胞等が挙げられる。中でも、抗体をより効率的に発現させる観点から、哺乳類細胞であるHEK細胞、CHO細胞、NS0細胞、SP2/O細胞、P3U1細胞などが好ましい。形質転換、培養、及び回収の方法は、特に制限されず、抗体製造における公知の方法を採用することができる。回収後は、必要に応じて本発明の抗体を精製してもよい。精製は、抗体製造における公知の方法、例えばクロマトグラフィー、透析などにより行うことができる。
【0060】
2-2.キメラ抗原受容体
本発明のGD2結合性分子は、好ましい一態様において、キメラ抗原受容体である(本明細書において、キメラ抗原受容体である本発明のGD2結合性分子について、「本発明のキメラ抗原受容体」と示すこともある。)。
【0061】
キメラ抗原受容体(CAR)とは、代表的には、モノクローナル抗体可変領域の軽鎖(VL)と重鎖(VH)を直列に結合させた単鎖抗体(scFv)を、抗原に対する結合性を担う領域としてN末端側に有し、さらにT細胞受容体(TCR)ζ鎖をC末端側に持つキメラ蛋白である。CARを発現させたT細胞は、CAR-T細胞と呼ばれる。
【0062】
本発明のキメラ抗原受容体において、抗原(GD2)に対する結合性を担う領域(GD2結合性領域)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/或いは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む限りにおいて、特に制限されない。
【0063】
GD2結合性領域は、scFv構造を採ることが好ましい。重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを繋ぐリンカーは、キメラ抗原受容体としての機能が維持される限り特に制限されず、任意である。リンカーとしては、好ましくはGSリンカー(代表的にはGGGGS(配列番号41)を構成単位とする繰返し配列を含むリンカー)が挙げられる。リンカーのアミノ酸残基数は、例えば5~30、好ましくは10~20、より好ましくは15である。
【0064】
本発明のキメラ抗原受容体は、通常、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むscFvドメイン、膜貫通ドメイン、並びにTCRの細胞内ドメインを含むコア領域を含む。該コア領域においては、通常、N末端側から、scFvドメイン、膜貫通ドメイン、TCRの細胞内ドメインが順に、直接又は他のドメインを介して配置される。
【0065】
膜貫通ドメインの種類は、キメラ抗原受容体の機能を阻害しない限り制限されない。例えば、T細胞等で発現するCD28、CD3zeta、CD4、CD8alpha等を用いることができる。これらの膜貫通ドメインは、キメラ抗原受容体の機能を阻害しない限り、適宜変異が導入されていてもよい。
【0066】
TCRの細胞内ドメインは、例えば、TCRζ鎖とも呼ばれるCD3などに由来する細胞内ドメインであり得る。CD3は、キメラ抗原受容体の機能を阻害しない限り、適宜変異が導入されていてもよい。CD3に変異を導入する場合は、ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)が含まれるよう行うことが好ましい。
【0067】
本発明のキメラ抗原受容体は、scFvドメインと膜貫通ドメインとの間にスペーサー配列が配置されていることが好ましい。スペーサー配列の長さ及びそれを構成するアミノ酸残基の種類は、キメラ抗原受容体の機能を阻害しない限り制限されない。例えば、スペーサー配列は、10個~200個程度のアミノ酸残基となるように設計することができる。スペーサー配列としては、軽鎖の定常領域の配列を採用することが好ましい。
【0068】
本発明のキメラ抗原受容体においては、コア領域がさらに共刺激因子の細胞内ドメインを含むことが好ましい。共刺激因子の細胞内ドメインは、T細胞などが有する共刺激因子に由来する細胞内ドメインであればよく特に限定はされない。例えば、OX40、4-1BB、GITR、CD27、CD278及びCD28等からなる群より選択される1種以上を適宜選択して使用することができる。これらの共刺激因子の細胞内ドメインは、キメラ抗原受容体の機能を阻害しない限り、適宜変異が導入されていてもよい。共刺激因子の細胞内ドメインの位置は、膜貫通ドメインのC末端側である限り特に制限されず、TCRの細胞内ドメインのN末端側及びC末端側のいずれであってもよい。
【0069】
本発明のキメラ抗原受容体においては、コア領域のC末端側に、自己切断ペプチドドメインを介して GITRLドメイン、4-1BBLドメイン、ICOSLドメイン等の各種リガンドドメインを含むことが好ましい。これにより、キメラ抗原受容体の発現効率や、これを含むCAR-T細胞の細胞傷害活性をより高めることが可能になる。
【0070】
本明細書において「自己切断ペプチド」とは、ペプチド配列自体の中の2つのアミノ酸残基の間に生じる切断活性を伴うペプチド配列を意味する。自己切断ペプチドとしては、例えば2Aペプチド又は2A様ペプチドが例示される。例えば2Aペプチド又は2A様ペプチドでは、切断はこれらのペプチド上のグリシン残基とプロリン残基との間で生じる。これは翻訳の間に、グリシン残基とプロリン残基との間の正常なペプチド結合の形成が行われない「リボソームスキップ機構」によって生じ、下流の翻訳には影響することはない。リボソームスキップ機構は当分野において知られており、そして1分子のメッセンジャーRNA(mRNA)によりコードされる複数のタンパク質の発現のために使用される。本発明で使用する自己切断ペプチドは、ウイルスの2Aペプチド又はそれと同等の機能を有する2A様ペプチドから得ることが可能である。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、Porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)及びThosea asigna virus(TaV)由来の2Aペプチド(T2A)から成る群から選択することができる。自己切断ペプチドドメインは、その活性が著しく損なわれない限り、適宜変異が導入されていてもよい。
【0071】
GITRLドメインとしては、特に制限されないが、例えば配列番号40で示されるアミノ酸配列、又は配列番号40で示されるアミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含むドメインが好ましい。配列番号40からアミノ酸変異がある場合、その変異は、アミノ酸置換であることが好ましく、アミノ酸の保存的置換であることがより好ましい。
【0072】
キメラ抗原受容体及びそれを発現するCAR-T細胞を製造する技術は公知である。これらは、公知の方法に従って又は準じて、製造することができる。
【0073】
3.ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、本発明のGD2結合性分子をコードする、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0074】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のGD2結合性分子のコード配列以外に、他の配列を含んでいてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のGD2結合性分子を発現可能な状態で含むことが好ましい。他の配列としては、プロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。また、本発明のポリヌクレオチドは、直鎖状のポリヌクレオチドであってもよいし、環状のポリヌクレオチド(ベクターなど)であってもよい。ベクターは、プラスミドベクター、又はウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、又はレトロウイルス)であり得る。また、ベクターは、例えば、クローニング用ベクター又は発現用ベクターであり得る。発現用ベクターとしては、大腸菌、又は放線菌等の原核細胞用のベクター、或いは、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞等の真核細胞用のベクターを挙げることができる。
【0075】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNAのみならず、これらに、次に例示するように、公知の化学修飾が施されたものも包含する。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、「ポリヌクレオチド」の語は、天然の核酸だけでなく、BNA(Bridged Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)等の何れも包含する。
【0076】
4.細胞
本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含有する、細胞(本明細書において、「本発明の細胞」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0077】
本発明の細胞の由来細胞は、特に制限されない。本発明の細胞を、本発明のGD2結合性分子の製造において使用する目的であれば、由来細胞としては、タンパク質発現に使用できる細胞(例えば、昆虫細胞、真核細胞、哺乳類細胞等)等が挙げられる。
【0078】
本発明の細胞が、本発明のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む場合、細胞は好ましくはT細胞である。該T細胞は、好ましくは本発明のキメラ抗原受容体を発現する細胞であり、より具体的な態様においては、該T細胞は、本発明のキメラ抗原受容体が細胞膜上に発現しており、好ましくは本発明のキメラ抗原受容体がGD2結合性領域を細胞膜外に露出した状態で発現している。
【0079】
キメラ抗原受容体を発現するT細胞等はGD2結合性領域でGD2を認識した後、その認識シグナルをT細胞等の内部に伝達し、細胞傷害活性を惹起させるシグナルを作動させ、これに連動して該細胞がGD2を発現する他の細胞または組織に対して攻撃または細胞傷害活性を発揮する。
【0080】
このような機能を発揮する細胞がCTLである場合、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)と呼ばれる。NK細胞などの細胞傷害活性を発揮する可能性を有する細胞もキメラ抗原受容体T細胞と同様に、GD2結合性領域がGD2と結合することにより、細胞傷害活性を発揮できる。従って、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞(特に、細胞傷害活性を有する宿主細胞)は、医薬組成物の有効成分として有用である。
【0081】
このようなCAR-T細胞等は、がん組織(腫瘍組織)を特異的に認識するため、がん等の治療又は予防に有用である。がんの種類は特に制限されず、固形がん及び血液がんを含む。固形がんとしては、例えば、肺がん、大腸がん、卵巣がん、乳がん、脳腫瘍、胃がん、肝がん、舌がん、甲状腺がん、腎臓がん、前立腺がん、子宮がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、黒色腫、神経芽腫、膀胱がん等を挙げることができる。
【0082】
本発明の細胞は、本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入することによって得ることができる。必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドを含む細胞を濃縮してもよいし、特定のマーカー(CD8等のCD抗原)を指標として濃縮してもよい。
【0083】
5.医薬組成物
本発明は、その一態様において、本発明のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含有するキメラ抗原受容体T細胞若しくはキメラ抗原受容体NK細胞、又は本発明の抗体を含有する、医薬組成物(本明細書において、「本発明の医薬組成物」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0084】
医薬組成物中の上記細胞や抗体の含有量は、対象とする疾患(例えば、固形癌)の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重等を考慮して適宜設定することができる。例えば、医薬組成物中の抗体の含量は、医薬組成物全体を100重量部として0.001重量部~10重量部程度とすることができる。医薬組成物中の細胞の含有量は、例えば、1細胞/mL~10^4細胞/mL程度とすることができる。
【0085】
医薬組成物の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。有効成分は細胞であるため、好ましい投与形態は非経口投与であり、より好ましくは静脈注射である。経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、本発明による抗体又は細胞を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0086】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、抗体又は細胞を注射用蒸留水に溶解又は懸濁して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤等を添加することができる。医薬組成物は、用時調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0087】
医薬組成物は、疾患の治療又は予防に有効な他の薬剤を更に含有していてもよい。また、医薬組成物は、必要に応じて殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、及びアミノ酸等の成分を配合することもできる。
【0088】
医薬組成物の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を用いることができる。
【0089】
医薬組成物を用いて治療又は予防する疾患の種類は、その治療又は予防が達成できる限り特に限定されない。具体的な対象疾患として、例えば、腫瘍が挙げられる。腫瘍はGD2陽性の腫瘍であることが好ましい。腫瘍の種類は特に制限されず、固形癌及び血液癌を含む。固形癌としては、例えば、肺癌(特に、小細胞肺癌)、大腸癌、卵巣癌、乳癌、脳腫瘍、胃癌、肝癌、舌癌、甲状腺癌、腎臓癌、前立腺癌、子宮癌、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、黒色腫、神経芽腫、膀胱がん等を挙げることができる。
【0090】
医薬組成物の投与対象(被験体)は、例えば、上記疾患に罹患した動物または罹患する可能性がある動物である。「罹患する可能性がある」とは、公知の診断方法にて決定することができる。動物とは、例えば、哺乳類動物であり、好ましくはヒトである。
【0091】
医薬組成物の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができる。医薬組成物の投与量は、例えば、有効成分が抗体である場合、一日当たりで、1 micro gram / kg(体重)~10 g/kg(体重)程度とすることができる。また、有効成分が細胞の場合、10^4細胞/kg(体重)~10^9細胞/kg(体重)程度とすることができる。医薬組成物の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1回投与することできる。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0093】
<材料と実験方法>
以下、特に断りの無い限り、各試験例では、以下の材料、方法を採用した。
【0094】
(1)細胞
Carney及びASはDr. Oldより得た。IMR32は、CEM, Kokl-3, MOLT4は (Dr. Old/ Ueda)。YTN17はYodoi 博士から、SK-MEL-28細胞の亜株N1は、Dr. Lloyd より供与された。NCI-417, ACC-LC-171, ACC-LC-96, ACC-LC-17は高橋隆博士から供与された。C-2細胞D-18はACC-LC-17にGD3合成酵素を導入して作成した。GD2発現細胞S1, S6はSK-MEL-28細胞の亜株N1(GD3, GD3無発現)にGD3合成酵素及びGM2/GD2合成酵素cDNAをpCDNA3.1neoに組み込んで導入した。また、空ベクターpCDNA3.1neoを導入したものがV4, V9である。
【0095】
(2)抗体
ウサギ抗ヒトkappa抗体(159)はMBLより購入した。Alexa488標識抗ウサギIgG抗体(A11034)はInvitrogenより購入した。PE標識抗GITRL抗体(FAB6941P)はBiolegendより購入した。PE標識抗ヒト4-1BB抗体(311504)はBiolegendより購入した。PE標識抗ヒトICOSL抗体(309404)はBiolegendより購入した。APC標識抗ヒトCD4抗体(clone RPA-T4)はInvitrogenより購入した。PE標識抗ヒトCD4抗体(555347)はBDより購入した。APC/Cy7標識抗ヒトCD8抗体(clone HT8a)はBiolegendより購入した。FITC標識抗ヒトVd2抗体(clone B6, 331418)はBiolegengより購入した。V450標識抗ヒトIFNg抗体(clone 45.83, 48-7319-42)BD Pharmingenより購入した。PE/Cy7標識抗ヒトTNFa抗体(clone Mab11, 12-7349-82)はeBioscienceより購入した。APC標識抗ヒトCD107a抗体(560664)はBD Pharmingenより購入した。
【0096】
(3)CAR発現プラスミドの構築、レトロウィルスの作製、マップ、配列
ユーロフィンに依頼して作製したCD1928及びCD1928z GITRLを制限酵素NotIとXhoIにて酵素処理し、pMS3に組み替えてプラスミドベクターを作製した。Luciferase NGFR発現ベクターについては、この二つをユーロフィンの受託合成によって作製し、それぞれNotIとClaI, ClaIとXhoIにて処理し、pMS3に組み替えて作製した。それらを用いてFUGENEを使用してPlatAに導入し、レトロウィルスを作製した。方法はメーカーの指示に従った。
【0097】
(4)PBMCの培養、レトロウィルスによる遺伝子導入
OKT3 2 micro gramとレトロネクチン 10 micro gramを12 well plateに固相化したのち、フィコールによって調整した末梢血単核球を、0.6%ヒト血漿と終濃度600 u/mlのIL-2を加えたGT-T551にて培養し、day 4時点にて回収し、それに2000xg、2時間42℃にて固相化したレトロウィルスを感染して培養を行った。
gamma/delta細胞の作製は田中らの方法に従った。Gamma/delta細胞(末梢血単核球を新規ビスホスフォネート製剤(PTA)を含むYM-ABにて培養し、IL-7、IL-15をそれぞれ25 ng/ml添加し、day 4に回収)に感染させ、同培地にて培養を行った。
【0098】
(5)CAR, GITRL発現の確認
CARの発現に関しては、抗kappa抗体を10 micro gram /mlで反応させたのち洗浄し、Alexa488標識抗ウサギIgG(Invitrogen)を5 micro gram /mlで反応させて洗浄したのち、APC/Cy7標識抗ヒトCD8(BD)とAPC標識抗ヒトCD4抗体(Biolegend)による染色を行い、FACS CANTにて測定を行った。GITRLの発現に関してはPE標識抗ヒトGITRL(Biolegend)を100倍希釈にて反応させ、FACS CANTにて測定を行った。GITRLの細胞内染色に関してはPE標識抗ヒトGITRL抗体(Biolegend)を使用してBD Cytofix/Cytoperm及びBD Perm/Washによる染色を行った。方法はメーカーの指示に従った。
【0099】
(6)Intracellular staining
CAR遺伝子導入PBMCと標的細胞を混ぜ合わせたのちAPC標識抗ヒトCD107a抗体を反応させてCO2インキュベーターにて1時間培養したのちGolgi stopを作用させてCO2インキュベーターにて4時間培養し、洗浄したのち、抗ヒトkappa抗体及びAlexa488標識抗ウサギIgG抗体による染色を行ったのち、APC/Cy7標識抗CD8抗体及びPE標識抗ヒトCD4抗体による染色を行い、BD Cytofix/Cytoperm及びBD Perm/Washによる処理を行ったのちV450標識抗ヒトIFNg及びPE/Cy7標識抗ヒトTNFa染色を行った。
【0100】
(7)xCelligence測定
RPMI1640 10%FCS 100 micro litterに懸濁した標的細胞AS 1.5x10^4を入れてCO2培養器にて24時間静置したのち、RPMI1640 10%FCS 100 micro literに懸濁したエフェクター細胞1.5x10^4を入れてその後の電流変化を記録した。
【0101】
(8)非RI細胞傷害性測定
実験方法はメーカーの指示に従った。即ち、まず、標的のAS細胞4x10^5細胞を400 micro litterの10%FCS/PRMI1640に懸濁し、これに1 micro litterのBM-HT溶液を加え、CO2インキュベーターにて15分培養し、洗浄したのち5x10^3細胞を準備し、これに50x10^3, 15x10^3, 5x10^3のCAR T細胞を入れ、2時間の共培養を行ったのち、遠心して25 micro litterの上清を回収した。これにEU solution 250 micro litterを加えて混ぜたのち、TriStar2 SLB942 Multimode Reader (Berthold Technologies社)にて発光の測定を行った。
【0102】
試験例1.モノクローナル抗体の単離
Balb/c x C57BL/6 F1マウスを3回のIMR32細胞皮下接種によって免疫し、採取した脾臓細胞をNS-1細胞と融合させて10%FCS とHATを含むRPMI1640培地にて培養し、モノクローナル抗体を作製した。得られた抗体はIMR32細胞に対するフローサイトメトリ認識でスクリーンし、得られたクローン220についてさらにサブクローンを取得し、220-51を得た。
【0103】
試験例2.抗原特異性の解析1
220-51抗体の抗原特異性をELISAで解析した。ガングリオシドGD1a, GD1b, GD2, GD3, GM1, GM3, GT1bおよびlactosylceramideをそれぞれ50 ngをメタノールにて固相化し、各希釈段階の腹水抗体を作用させ、HRP標識抗マウスIgG抗体(Southern Biotech社製)を反応させ、OPDによる発色を行い、吸光度を測定した。
【0104】
結果を
図1に示す。220-51抗体はGD2のみを認識し、他のガングリオシドを認識しなかった。
【0105】
試験例3.抗原特異性の解析2
220-51抗体の抗原特異性を薄層クロマトグラフィーで解析した。牛由来のgangliosideにGM3を混ぜたもの、およびがん細胞SK-MEL-23(Carney2), AS由来のgangliosideを薄層クロマトグラフィーで展開し、heat blotter (ATTO TLC Thermal Blotter AC5970, Atto, Tokyo) にてPVDF膜に転写したのち、220-51抗体を作用させた。その後、HRP標識抗マウス抗体secondary antibody, HRP-conjugated anti-mouse IgG (whole) (Cell Signaling)を作用させ、WESTERN LIGHTNINGTM Plus ECL (Perkin Elmer Inc., Waltham, MA)にて発光させた。
【0106】
結果を
図2に示す。220-51抗体はGD2のみを認識し、他のガングリオシドを認識しなかった。
【0107】
試験例4.GD2発現細胞の認識
1x10^5の細胞を0.5% BSA/PBSにて100倍希釈した抗体で室温30分処理したのち、洗浄して、FITC標識抗マウスIgG抗体(Cappel社製)にて処理し、PBSで洗浄したのち、FACS CaliverまたはAccuriC6にて測定した。
【0108】
結果を
図3に示す。220-51抗体はGD2+のAS, IMR32, Kohl-3(SK-MEL-31), YTN17を認識し、GD2-のCEM, MOLT4を認識しなかった。
【0109】
試験例5.細胞接着阻害
コラーゲンを固相化したplateに対して、GD2+のメラノーマS1, S6細胞及びGD2-の V4, V9細胞(細胞数1x10^4)を蒔いて、220-51抗体を0.5時間、3時間で50倍希釈で作用させさせたときの接着をRT-CESによって観察した(S1-T: S1に抗体添加)。
【0110】
結果を
図4に示す。220-51抗体は、GD2+のS1, S6細胞に対してはその接着を阻害するが、GD2-のV4, V9細胞に対しては接着を阻害しなかった。
【0111】
試験例6.配列解析
220-51抗体のアミノ酸配列、及び該抗体をコードする塩基配列を解析した。解析結果を以下に示す。なお、CDRの配列はIMGITで推定した。
【0112】
<重鎖>
重鎖CDR1アミノ酸配列:GFSLPSYG(配列番号1)
重鎖CDR2アミノ酸配列:IWAGGITN(配列番号2)
重鎖CDR3アミノ酸配列:ARGGSDYDGFAY(配列番号3)
重鎖可変部アミノ酸配列:EVQLVESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLPSYGVHWVRQPPGKGLEWLGVIWAGGITNYNSALMSRLTISKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCARGGSDYDGFAYWGQGTLVTVS(配列番号4)
重鎖CDR1塩基配列:GGG TTT TCA TTA CCC AGC TAT GGT(配列番号5)
重鎖CDR2塩基配列:ATC TGG GCT GGT GGA ATC ACA AAT(配列番号6)
重鎖CDR3塩基配列:GCC AGA GGC GGC TCT GAT TAC GAC GGC TTT GCT TAC(配列番号7)
重鎖可変部塩基配列:GAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGACCTGGCCTGGTGGCGCCCTCACAGAGCCTGTCCATCACTTGCACTGTCTCTGGGTTTTCATTACCCAGCTATGGTGTTCACTGGGTTCGCCAGCCTCCAGGAAAGGGTCTGGAGTGGCTGGGAGTAATCTGGGCTGGTGGAATCACAAATTATAACTCGGCTCTCATGTCCAGACTGACCATCAGCAAAGACAACTCCAAGAGCCAAGTTTTCTTAAAAATGAACAGTCTTCAAACTGATGACACAGCCATATACTACTGTGCCAGAGGCGGCTCTGATTACGACGGCTTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCATCA(配列番号8)。
【0113】
<軽鎖>
軽鎖CDR1アミノ酸配列:QSLLSSRTRKNY(配列番号9)
軽鎖CDR2アミノ酸配列:WAS(配列番号10)
軽鎖CDR3アミノ酸配列:KQSYNLRT(配列番号11)
軽鎖可変部アミノ酸配列:DIVMTQSPSSLAVSAGEKVTMNCRSSQSLLSSRTRKNYLAWYQQKPGQSPKLLIYWASIRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCKQSYNLRTFGGGTKLEIK(配列番号12)
軽鎖CDR1塩基配列:CAG AGT CTC CTC AGC AGT AGA ACC CGA AAG AAC TAC(配列番号13)
軽鎖CDR2塩基配列:TGG GCA TCT(配列番号14)
軽鎖CDR3塩基配列:AAG CAA TCT TAT AAT CTT CGG ACG(配列番号15)
軽鎖可変部塩基配列:GACATTGTGATGACACAGTCTCCATCCTCCCTGGCTGTGTCAGCAGGAGAGAAGGTCACTATGAACTGCAGATCCAGTCAGAGTCTCCTCAGCAGTAGAACCCGAAAGAACTACTTGGCTTGGTACCAGCAGAAACCAGGGCAGTCTCCTAAACTGCTGATCTACTGGGCATCTATTAGGGAATCTGGGGTCCCTGATCGCTTCACAGGCAGTGGATCTGGGACAGATTTCACTCTCACCATCAGCAGTGTGCAGGCTGAAGACCTGGCAGTTTATTACTGCAAGCAATCTTATAATCTTCGGACGTTCGGTGGAGGCACCAAGCTGGAAATCAAA(配列番号16)。
【0114】
試験例7.CAR発現プラスミドの構築
220-51抗体のアミノ酸配列を使用した4種のCAR(28z CAR、zG CAR、28z GITRL CAR、zG GITRL CAR)をデザインし(構造の模式図を
図5に示す)、これらのCARの発現プラスミドを作製した。具体的には、次のようにして作製した。
【0115】
28z CAR及びzG CARについては、下記2つの配列からなる人工遺伝子をユーロフィンに依頼して作製し、これをNotIとXhoIにて切り出してpMS3に組込み発現プラスミドとした。
【0116】
<28z CAR作製用人工遺伝子塩基配列>
NotI site kozak sequence:GCGGCCGCCACC(配列番号17)-
mVH leader:ATGAACTTTGGGCTCAGATTGATTTTCCTTGTCCTTACTTTAAAAGGTGTGAAGTGT(配列番号18)-
mVH:GAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGACCTGGCCTGGTGGCGCCCTCACAGAGCCTGTCCATCACTTGCACTGTCTCTGGGTTTTCATTACCCAGCTATGGTGTTCACTGGGTTCGCCAGCCTCCAGGAAAGGGTCTGGAGTGGCTGGGAGTAATCTGGGCTGGTGGAATCACAAATTATAACTCGGCTCTCATGTCCAGACTGACCATCAGCAAAGACAACTCCAAGAGCCAAGTTTTCTTAAAAATGAACAGTCTTCAAACTGATGACACAGCCATATACTACTGTGCCAGAGGCGGCTCTGATTACGACGGCTTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCATCA(配列番号19)-
single chain:GGAGGTGGAGGTTCTGGTGGAGGAGGTTCAGGTGGAGGTGGATCA(配列番号20)-
mVkappa:GACATTGTGATGACACAGTCTCCATCCTCCCTGGCTGTGTCAGCAGGAGAGAAGGTCACTATGAACTGCAGATCCAGTCAGAGTCTCCTCAGCAGTAGAACCCGAAAGAACTACTTGGCTTGGTACCAGCAGAAACCAGGGCAGTCTCCTAAACTGCTGATCTACTGGGCATCTATTAGGGAATCTGGGGTCCCTGATCGCTTCACAGGCAGTGGATCTGGGACAGATTTCACTCTCACCATCAGCAGTGTGCAGGCTGAAGACCTGGCAGTTTATTACTGCAAGCAATCT TAT AAT CTT CGG ACG TTC GGT GGA GGC ACC AAG CTG GAA ATC AAA (配列番号21)-
hCkappa:CGAACTGTGGCTGCACCATCTGTCTTCATCTTCCCGCCATCTGATGAGCAGTTGAAATCTGGAACTGCCTCTGTTGTGTGCCTGCTGAATAACTTCTATCCCAGAGAGGCCAAAGTACAGTGGAAGGTGGATAACGCCCTCCAATCGGGTAACTCCCAGGAGAGTGTCACAGAGCAGGACAGCAAGGACAGCACCTACAGCCTCAGCAGCACCCTGACGCTGAGCAAAGCGGACTACGAGAAACACAAACTCTACGCCTGCGAAGTCACCCATCAGGGCCTGAGCTCGCCCGTCACAAAGAGCTTCAACAGGGGAGAGTGTGGCGCGCCA(配列番号22)-
hCD28 transmembrane:ACTAGATTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAGG(配列番号23)-
hCD28 intracellular domain:AGTAAGAGGAGCAGGCTCCTGCACAGTGACTACATGAACATGACTCCCCGCCGCCCCGGGCCCACCCGCAAGCATTACCAGCCCTATGCCCCACCACGCGACTTCGCAGCCTATCGCTCC(配列番号24)-
hCD3 zeta:CTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGCAGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGC(配列番号25)TAA-
XhoI site:TCGATTCTCGAG(配列番号26)
<28z CARアミノ酸配列>
mVH leader:MNFGLRLIFLVLTLKGVKC(配列番号27)-
mVH:EVQLVESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLPSYGVHWVRQPPGKGLEWLGVIWAGGITNYNSALMSRLTISKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCARGGSDYDGFAYWGQGTLVTVS(配列番号28)-
single chain:GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号29)-
mVkappa:DIVMTQSPSSLAVSAGEKVTMNCRSSQSLLSSRTRKNYLAWYQQKPGQSPKLLIYWASIRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCKQSYNLRTFGGGTKLEIK(配列番号30)-
hCkappa:RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKLYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECGAP(配列番号31)-
hCD28 transmembrane:TRFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVR(配列番号32)-
hCD28 intracellular domain:SKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS(配列番号33)-
hCD3 zeta:LRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR*(配列番号34)-
<zG CAR作製用人工遺伝子塩基配列>
NotI site kozak sequence:GCGGCCGCCACC(配列番号17)-
mVH leader:ATGAACTTTGGGCTCAGATTGATTTTCCTTGTCCTTACTTTAAAAGGTGTGAAGTGT(配列番号18)-
mVH:GAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGACCTGGCCTGGTGGCGCCCTCACAGAGCCTGTCCATCACTTGCACTGTCTCTGGGTTTTCATTACCCAGCTATGGTGTTCACTGGGTTCGCCAGCCTCCAGGAAAGGGTCTGGAGTGGCTGGGAGTAATCTGGGCTGGTGGAATCACAAATTATAACTCGGCTCTCATGTCCAGACTGACCATCAGCAAAGACAACTCCAAGAGCCAAGTTTTCTTAAAAATGAACAGTCTTCAAACTGATGACACAGCCATATACTACTGTGCCAGAGGCGGCTCTGATTACGACGGCTTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCATCA(配列番号19)-
single chain:GGAGGTGGAGGTTCTGGTGGAGGAGGTTCAGGTGGAGGTGGATCA(配列番号20)-
mVkappa:GACATTGTGATGACACAGTCTCCATCCTCCCTGGCTGTGTCAGCAGGAGAGAAGGTCACTATGAACTGCAGATCCAGTCAGAGTCTCCTCAGCAGTAGAACCCGAAAGAACTACTTGGCTTGGTACCAGCAGAAACCAGGGCAGTCTCCTAAACTGCTGATCTACTGGGCATCTATTAGGGAATCTGGGGTCCCTGATCGCTTCACAGGCAGTGGATCTGGGACAGATTTCACTCTCACCATCAGCAGTGTGCAGGCTGAAGACCTGGCAGTTTATTACTGCAAGCAATCT TAT AAT CTT CGG ACG TTC GGT GGA GGC ACC AAG CTG GAA ATC AAA (配列番号21)-
hCkappa:CGAACTGTGGCTGCACCATCTGTCTTCATCTTCCCGCCATCTGATGAGCAGTTGAAATCTGGAACTGCCTCTGTTGTGTGCCTGCTGAATAACTTCTATCCCAGAGAGGCCAAAGTACAGTGGAAGGTGGATAACGCCCTCCAATCGGGTAACTCCCAGGAGAGTGTCACAGAGCAGGACAGCAAGGACAGCACCTACAGCCTCAGCAGCACCCTGACGCTGAGCAAAGCGGACTACGAGAAACACAAACTCTACGCCTGCGAAGTCACCCATCAGGGCCTGAGCTCGCCCGTCACAAAGAGCTTCAACAGGGGAGAGTGTGGCGCGCCA(配列番号22)-
hCD28 transmembrane:ACTAGATTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAGG(配列番号23)-
hCD3 zeta:CTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGCAGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGC(配列番号25)-
hGITR intracellular domain:AGGAGTCAGTGCATGTGGCCCCGAGAGACCCAGCTGCTGCTGGAGGTGCCGCCGTCGACCGAAGACGCCAGAAGCTGCCAGTTCCCCGAGGAAGAGCGGGGCGAGCGATCGGCAGAGGAGAAGGGGCGGCTGGGAGACCTGTGGGTG(配列番号35)TAA-
XhoI site:TCGATTCTCGAG(配列番号26)
<zG CARアミノ酸配列>
mVH leader:MNFGLRLIFLVLTLKGVKC(配列番号27)-
mVH:EVQLVESGPGLVAPSQSLSITCTVSGFSLPSYGVHWVRQPPGKGLEWLGVIWAGGITNYNSALMSRLTISKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCARGGSDYDGFAYWGQGTLVTVS(配列番号28)-
single chain:GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号29)-
mVkappa:DIVMTQSPSSLAVSAGEKVTMNCRSSQSLLSSRTRKNYLAWYQQKPGQSPKLLIYWASIRESGVPDRFTGSGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCKQSYNLRTFGGGTKLEIK(配列番号30)-
hCkappa:RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKLYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECGAP(配列番号31)-
hCD28 transmembrane:TRFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVR(配列番号32)-
hCD3 zeta:LRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号34)-
hGITR intracellular domain:RSQCMWPRETQLLLEVPPSTEDARSCQFPEEERGERSAEEKGRLGDLWV*(配列番号36)
28z GITRL CARについては、28z CAR発現プラスミドの配列番号25の塩基配列の3´側に隣接して、P2A-GITRL塩基配列:GGATCCGGCGCCACAAATTTTAGCCTCTTGAAGCAAGCCGGCGACGTGGAAGAGAATCCTGGGCCC(P2A塩基配列:配列番号37)-ATGACCCTGCACCCCAGCCCCATCACCTGCGAGTTCCTGTTCAGCACCGCCCTGATCAGCCCCAAGATGTGCCTGAGCCACCTGGAGAACATGCCCCTGAGCCACAGCAGAACCCAGGGCGCCCAGAGAAGCAGCTGGAAGCTGTGGCTGTTCTGCAGCATCGTGATGCTGCTGTTCCTGTGCAGCTTCAGCTGGCTGATCTTCATCTTCCTGCAGCTGGAGACCGCCAAGGAGCCCTGCATGGCCAAGTTCGGCCCCCTGCCCAGCAAGTGGCAGATGGCCAGCAGCGAGCCCCCCTGCGTGAACAAGGTGAGCGACTGGAAGCTGGAGATCCTGCAGAACGGCCTGTACCTGATCTACGGCCAGGTGGCCCCCAACGCCAACTACAACGACGTGGCCCCCTTCGAGGTGAGACTGTACAAGAACAAGGACATGATCCAGACCCTGACCAACAAGAGCAAGATCCAGAACGTGGGCGGCACCTACGAGCTGCACGTGGGCGACACCATCGACCTGATCTTCAACAGCGAGCACCAGGTGCTGAAGAACAACACCTACTGGGGCATCATCCTGCTGGCCAACCCCCAGTTCATCAGC(GITRL塩基配列:配列番号38)が組み込まれてなる発現プラスミドを、人工遺伝子及びPCRを利用して、作製した。なお、P2A-GITRLアミノ酸配列は次の通りである:GSGATNFSLLKQAGDVEENPGP(P2Aアミノ酸配列:配列番号39)-MTLHPSPITCEFLFSTALISPKMCLSHLENMPLSHSRTQGAQRSSWKLWLFCSIVMLLFLCSFSWLIFIFLQLETAKEPCMAKFGPLPSKWQMASSEPPCVNKVSDWKLEILQNGLYLIYGQVAPNANYNDVAPFEVRLYKNKDMIQTLTNKSKIQNVGGTYELHVGDTIDLIFNSEHQVLKNNTYWGIILLANPQFIS(GITRLアミノ酸配列:配列番号40)。
【0117】
zG GITRL CARについては、zG CAR発現プラスミドの配列番号35の塩基配列の3´側に隣接して、P2A-GITRL塩基配列が組み込まれてなる発現プラスミドを、人工遺伝子及びPCRを利用して、作製した。
【0118】
試験例8.T細胞へのCAR遺伝子導入、及び発現の確認
上記で構築したプラスミドDNAをPlat-A細胞に導入してレトロウィルスを作製し、それを培養ヒトPBMCに感染させてCAR導入T細胞を得て、フローサイトメトリーでCAR発現を調べた。
図6~11に示すように alpha/beta T細胞、
図12~13に示すように gamma/delta T細胞におけるCAR及びリガンドの発現が確認できた。これがエフェクター細胞である。また、CARの発現効率及び発現強度(mean fluorescent intensity, MFIで示す)はGITRLの共発現により増強したことが確認された(
図6~8)。
【0119】
試験例9.エフェクター細胞による標的細胞の認識
CAR T細胞は、標的であるAS細胞と共培養すると活性化し、IFNg, TNFaを発現する。また、CD107aが細胞表面に移行する。これらの反応は、多機能性の反応が起きたことを示している。今回作製したCAR T細胞はいずれもAS細胞との共培養によって活性化し、これらの反応が起きたことが確認された(
図14~16)。
【0120】
試験例10.エフェクター細胞による細胞傷害作用の確認
AS細胞に対するエフェクター細胞の細胞傷害作用を、xCelligenceによる継時的変化によって検討した。その結果、GD2 CARがalpha/beta T細胞、gamma/delta T細胞でも十分な細胞傷害活性を有することが示された(
図17及び18)。このことは、非RI細胞傷害性試験でも認められた(
図19)。
【0121】
試験例11.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析1
GD2陽性Kelly細胞20000個をE-plate上で20時間培養したのち、各エフェクター細胞(alpha/beta) 40000個を添加培養し、cell indexを継時的に追跡した。Cell indexはE-plate上のKelly細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のKelly細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GD2 zG, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による効果的な細胞傷害が観察され、CAR導入の無いPBMCによる細胞傷害は観察されなかった(
図20)。
【0122】
試験例12.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析2
GD2陰性のSK-N-SH細胞20000個をE-plateにて18時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 40000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡したCell indexはE-plate上のSK-N-SH細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のSK-N-SH細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GD2 zG, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による細胞傷害は観察されなかった(
図21)。
【0123】
試験例13.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析3
GD2陽性のHs578T-Luc細胞15000個をE-plateにて20時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 40000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡した。 Cell indexはE-plate上のHs578T-Luc細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のHs578T-Luc細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GD2 zG, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による効果的な細胞傷害が観察され、CAR導入の無いPBMCによる細胞傷害は観察されなかった(
図22)。
【0124】
試験例14.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析4
GD2陰性のBT549-Luc細胞20000個をE-plateにて18時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 40000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡した。 Cell indexはE-plate上のBT549-Luc細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のBT549-Luc細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による細胞傷害は観察されなかった(
図23)。
【0125】
試験例15.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析5
GD2陽性のKelly細胞20000個をE-plateにて20時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 30000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡した。 1日後、GD2 28z, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による効果的な細胞傷害が観察された。このエフェクター細胞を回収し、24時間E-plate上で培養したKelly細胞と連続的に共培養し、cell indexの変化を継時的に記録した。 Cell indexはE-plate上のKelly細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のKelly細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 連続した2回目の細胞傷害性試験で、GITRL共発現28z CAR-T細胞が28z CARに比較して、より強い細胞傷害活性を保持していた(
図24)。
【0126】
試験例16.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析6
D8細胞はGD2陰性の小細胞肺がんSK-LC-17にGD3 synthaseとGD2 synthase遺伝子を導入し、G418選択によって確立したGD2陽性細胞株である。GD2陽性のD8細胞10000個をE-plateにて18時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 30000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡した。 Cell indexはE-plate上のD8細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のD8細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GD2 zG, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による効果的な細胞傷害が観察され、CAR導入の無いPBMCによる細胞傷害は観察されなかった(
図25)。
【0127】
試験例17.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析6
C2細胞はGD2陰性の小細胞肺がんSK-LC-17にpCDNA3.1neoプラスミドを導入し、G418選択によって確立したGD2陰性細胞株である。GD2陰性のC2細胞10000個をE-plateにて18時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 30000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡した。 Cell indexはE-plate上のC2細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のC2細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GD2 zG, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞、 CAR導入の無いPBMCによる細胞傷害は観察されなかった(
図26)。
【0128】
試験例18.エフェクター細胞による細胞傷害作用の解析7
GD2陽性のNCI-N417細胞20000個をE-plateにて34時間培養したのち、そこにエフェクター細胞(alpha/beta) 60000個を作用させ、cell indexを継時的に追跡した。 Cell indexはE-plate上のNCI-N417細胞数を反映する。Normalized cell indexは、エフェクター細胞と共培養する直前のNCI-N417細胞数を1として標準化した。グラフは平均値(n=2)を示す。 GD2 28z, GD2 zG, GITRL共発現GD2 28z CAR T細胞による効果的な細胞傷害が観察され、CAR導入の無いPBMCによる細胞傷害は観察されなかった(
図27)。
【配列表】