(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】人工弁
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
A61F2/24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022125966
(22)【出願日】2022-08-06
(62)【分割の表示】P 2020133436の分割
【原出願日】2010-11-05
【審査請求日】2022-08-24
(32)【優先日】2009-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ゴーマン、ジョセフ、エイチ.、サード
(72)【発明者】
【氏名】ゴーマン、ロバート、シー.
(72)【発明者】
【氏名】ガレスピー、マシュー、ジェイ.
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-514628(JP,A)
【文献】独国特許発明第102006052564(DE,B3)
【文献】特表2003-518984(JP,A)
【文献】国際公開第2009/132187(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工僧帽弁であって、
拡張状態と未拡張状態とを有するステントであって、
長軸と、
第1の端部と第2の端部とを備えるとともに、外面および内面を画定するワイヤーフレームワークを有する中間領域と、
前記中間領域の前記第1の端部に形成され、複数のフランジ要素を有する下方フランジ部であって、前記フランジ要素の各々は、前記中間領域に取着された第1の端部と、当該第1の端部から離間され且つ当該第1の端部と対向する位置にある第2の端部とを有するものである、前記下方フランジ部と、
を有するものである、前記ステントと、
前記ステントの前記中間領域の内面に取り付けられた弁と
を有し、
前記下方フランジ部は、前記ステントが前記未拡張状態にあるとき、前記ステントの長軸に実質的に沿った位置に配置されており、
前記ステントが前記未拡張状態から前記拡張状態に移行するとき、前記ステントの長軸に対する前記下方フランジ部の位置が変化して、前記下方フランジ部は前記ステントの長軸に実質的に沿った位置ではない位置に配置されるものであり
、
前記下方フランジ部は、前記ステントが前記未拡張状態から前記拡張状態に移行するとき、僧帽弁輪の心室側において組織を当該下方フランジ部と前記中間領域の外面によって包み込むようにして挟持することで前記ステントを前記僧帽弁輪内に係止するように構成されているものであり、
前記下方フランジ部は、天然僧帽弁の弁尖および前記僧帽弁輪の心室側の腱索を当該下方フランジ部と前記中間領域の外面によって包み込むようにして挟持することで、前記ステントを前記僧帽弁輪内に係止するように構成されているものであり、
前記下方フランジ部は、前記ステントが前記未拡張状態および前記拡張状態にあるとき、前記ステントの長軸に対して実質的に平行である、
人工僧帽弁。
【請求項2】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記下方フランジ部は、当該下方フランジ部と前記中間領域の外面によって前記僧帽弁輪の心室側の弁下組織を挟持することにより、前記ステントを前記僧帽弁輪内に係止するように構成されているものである人工僧帽弁。
【請求項3】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記下方フランジ部は、左心室壁を当該下方フランジ部と前記中間領域の外面によって挟持することにより、前記ステントを前記僧帽弁輪内に係止するように構成されているものである人工僧帽弁。
【請求項4】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは自己拡張するものである人工僧帽弁。
【請求項5】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントはワイヤー織りから成るものである人工僧帽弁。
【請求項6】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記下方フランジ部における前記フランジ要素の前記第2の端部は、前記ステントが前記未拡張状態から前記拡張状態に移行するとき、前記ステントの中間領域に向かって移動するものである人工僧帽弁。
【請求項7】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記下方フランジ部における前記フランジ要素の前記第2の端部は、前記ステントが前記未拡張状態から前記拡張状態に移行するとき、前記ステントの長軸から離れる方向に移動するものである人工僧帽弁。
【請求項8】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは、弁置換を必要とする成人の僧帽弁輪における最大径の95%~125%の拡張された直径を有し、且つ対象の僧帽弁内に係止される寸法に設定されているものである人工僧帽弁。
【請求項9】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは、弁置換を必要とする成人の僧帽弁輪における最大径の100%、105%、110%、115%、120%、または125%の拡張された直径を有するものである人工僧帽弁。
【請求項10】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは、弁置換を必要とする成人の僧帽弁輪における最大径の100%~125%の拡張された直径を有するものである人工僧帽弁。
【請求項11】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは、損傷または病変のある成人の僧帽弁輪における最大径の95%~125%の拡張された直径を有するものである人工僧帽弁。
【請求項12】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは、心筋梗塞後の左心室機能不全によって機能しなくなった成人の僧帽弁輪における最大径の95%~125%の拡張された直径を有するものである人工僧帽弁。
【請求項13】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記ステントは、前記中間領域の前記第2の端部に形成された上方フランジ部を有し、
前記上方フランジ部は、前記中間領域の端部または縁部を構成するものである
人工僧帽弁。
【請求項14】
請求項1記載の人工僧帽弁において、前記下方フランジ部の前記複数のフランジ要素は、不規則に離間されたアレイを形成するものである人工僧帽弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年11月5日付で出願された米国仮特許出願第61/241,659号(この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、解剖学的な弁置換装置と、弁を置換しステント付き装置を送達する方法およびシステムとに関する。
【背景技術】
【0003】
僧帽弁は複雑な構造をしており、その能力は、弁輪、弁尖、腱索、乳頭筋、および左心室(left ventricle:LV)の精確な相互作用に依存する。これら構造のいずれに病理学的変化が起こっても、弁閉鎖不全につながる。なかでも、弁尖または腱索の粘液腫性変性、ならびに慢性の梗塞後心室リモデリングで二次的に起こる虚血性拡張型心筋症は、僧帽弁逆流(mitral regurgitation:MR)を生じる最も一般的な機序である。これら2つの疾病過程は、MR手術全症例の約78%を占める。
【0004】
フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)の一環として、米国マサチューセッツ州Framinghamにおける僧帽弁逸脱の有病率は2.4%と推定された。典型的および非典型的なMVP(僧帽弁逸脱)の比はほぼ同等で、有意な年齢差または性別差はない。米国で収集されたデータによると、MVPは検視時の7%に見られる。僧帽弁逆流の発生は、年齢とともに増加し、MI後(僧帽弁閉鎖不全症後)集団およびCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者においてしばしば見られる臨床的に有意な医療問題である。
【0005】
カテーテルベースで経皮的に送達する弁付きステントの使用は、ヒトの肺動脈弁および大動脈弁どちらの置換でも実施可能であることが示されている。経皮的アプローチでの弁置換は、肺動脈弁で初めて成功しており、現在も肺動脈弁置換分野で最も発達している。大動脈弁については、現在2製品が臨床試験中であり、他の製品も開発されている。僧帽弁の経皮的置換には大きな関心が寄せられているものの(特に心筋梗塞後の患者は、その多くが弁置換手術に耐えられないため)、僧帽弁の生体構造と機能を考慮すると、現行の大動脈・肺動脈技術を直接適用することは困難である。しかし、近年は経心尖部弁付きステント移植を重視した僧帽弁置換法(Lozonschi Lら、Transapical mitral valved stent implantation(経心尖部僧帽弁ステント移植)、Ann Thorac Surg.、2008年9月、86(3):745-8)を参照)、「ダブルクラウン」弁付きステント(Ma L.ら、Double-crowned valved stents for off-pump mitral valve replacement(オフポンプ僧帽弁置換用ダブルクラウン弁付きステント)、Eur J Cardiothorac Surg.、2005年8月、28(2):194-8を参照)、およびシリンダにより分離された2つのディスクから成る弁付きステント設計(Boudjemline Yら、Steps toward the percutaneous replacement of atrioventricular valves an experimental study(経皮的房室弁置換への歩み、実験的研究)、J Am Coll Cardiol.、2005年7月19日、46(2):360-5を参照)の開発も行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
経皮的な弁移植を適切に行うには、その弁に設計上重要な特徴が4つ必要なことがわかっている。当該弁は、許容される送達モダリティに適合し、弁輪に係止され、係止点を密閉して漏れを防ぎ、移植後正常に機能するものでなければならない。公開された設計のうち、経皮的に送達される弁付きステントで、良好な移植、安定性、および長期的機能に必要と考えられる特徴を有するものは現時点で存在しない。そのような特徴を有する設計は、新たに弁置換を必要とする患者にも、従来設計の弁を現在装着している患者にも、医療上大きな意義があるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一観点では人工弁が提供され、当該人工弁は、自己拡張するステントであって、外面と、内面と、中間領域と、上方係止フランジと、下方係止フランジとを有し、また未拡張状態および拡張済み状態を有するものである、前記ステントと、前記ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフであって、前記吸収性材料は、液体の吸収により膨張して当該人工弁を移植部位に実質的に接着し、前記接着は、前記移植部位における当該人口弁の配置を可能にするために十分な時間だけ遅延されるものである、前記カフと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも2つの弁尖を有する弁とを有する。
【0008】
別の観点では、損傷し若しくは病変のある弁を対象体内で置換する方法が開示され、この方法は、前記対象の移植部位に人工僧帽弁を送達する工程であって、前記人工僧帽弁は、自己拡張ステントであって、外面と、内面と、中間領域と、上方係止フランジと、下方係止フランジとを有し、また未拡張状態および拡張済み状態を有するものである、前記自己拡張ステントと、前記ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも2つの弁尖とを有するものである、前記送達する工程と、液体の吸収により前記カフを膨張させて前記人工僧帽弁を移植部位に実質的に接着させる工程であって、前記接着は、前記移植部位における当該人工僧帽弁の配置を可能にするために十分な時間だけ遅延されるものである、前記膨張させる工程とを有する。
【0009】
また、人工弁も開示され、当該人工弁は、少なくとも部分的に自己拡張するステントであって、外面および内面を画成するワイヤーフレームワークと、中間領域により介設された上方および下方係止フランジとを有し、前記ステントは未拡張状態および拡張済み状態を有し、前記下方係止フランジは、前記上方係止フランジの対応する寸法より大きい、少なくとも1つの幾何学的寸法を有するものである、前記ステントと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁とを有する。
【0010】
本開示は、損傷し若しくは病変のある弁を対象体内で置換する方法も含み、この方法は、前記対象の移植部位に人工弁を送達する工程であって、前記人工弁は、少なくとも部分的に自己拡張するステントであって、外面および内面を画成するワイヤーフレームワークと、中間領域により介設された上方および下方係止フランジとを有し、前記ステントは未拡張状態および拡張済み状態を有し、前記下方係止フランジは、前記上方係止フランジの対応する寸法より大きい、少なくとも1つの幾何学的寸法を有するものである、前記ステントと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁とを有するものである、前記送達する工程と、前記ステントを拡張して前記人工弁を前記移植部位に実質的に接着させる工程とを有する。
【0011】
別の観点では、少なくとも部分的に自己拡張するステントを有する人工弁を移植部位に送達するシステムが提供され、このシステムは、カテーテルであって、遠端部および近端部と、ガイドワイヤーに沿って前記カテーテルを平行移動させるガイドワイヤールーメンと、前記カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンと、前記遠端部にあり、前記ステントを装填するドック(dock)とを有するものである、前記カテーテルを有する。また、本システムは、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する後退自在な圧縮スリーブと、前記ドックの遠位に配置され、送達中に前記カテーテルを先導する先行端部と、前記張力ケーブルと動作可能に連結され、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変える操作機構とを有する。
【0012】
さらに別の観点では、移植部位で少なくとも部分的に自己拡張するステントを含むシステムを有するキットが開示され、このシステムは、カテーテルであって、遠端部および近端部と、ガイドワイヤーに沿って前記カテーテルを平行移動させるガイドワイヤールーメンと、前記カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンと、前記遠端部にあり、前記ステントを装填するドックとを有するものである、前記カテーテルと、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する後退自在な圧縮スリーブと、前記ドックの遠位に配置され、送達中に前記カテーテルを先導する先行端部と、張力ケーブルと動作可能に連結され、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変える操作機構とを有するものである、前記システムと、少なくとも1つの人工弁であって、少なくとも部分的に自己拡張するステントであって、外面および内面を画成するワイヤーフレームワークと、中間領域により介設された上方および下方係止フランジとを有し、前記ステントは未拡張状態および拡張済み状態を有し、前記下方係止フランジは、前記上方係止フランジの対応する寸法より大きい、少なくとも1つの幾何学的寸法を有するものである、前記ステントと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁とを有するものである、前記少なくとも1つの人工弁とを有する。
【0013】
また、本開示は、少なくとも部分的に自己拡張するステントを有する人工弁を移植部位に送達する方法に関し、この方法は、(i)システムを提供する工程であって、前記システムは、カテーテルであって、遠端部および近端部と、ガイドワイヤーに沿って前記カテーテルを平行移動させるガイドワイヤールーメンと、前記カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンと、前記遠端部にあり、前記ステントを装填するドックとを有するものである、前記カテーテルと、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する後退自在な圧縮スリーブと、前記ドックの遠位に配置され、送達中に前記カテーテルを先導する先行端部と、張力ケーブルと動作可能に連結され、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変える操作機構とを有するものである、前記システムを提供する工程と、(ii)前記人工弁を前記ドックに装填する工程と、(iii)前記ガイドワイヤーを前記移植部位に送達する工程と、(iv)前記カテーテルを前記ガイドワイヤー上で平行移動させ、前記装填された人工弁を前記移植部位に配置する工程と、(v)前記後退自在な圧縮スリーブを後退させて前記ステントを前記移植部位で拡張させ、前記カテーテルから離脱する工程と、(vi)前記移植部位から前記カテーテルおよび前記ガイドワイヤーを抜去する工程とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以上の本発明の態様等は、添付の図面を参照して以降の詳細な説明を考慮することで明確に理解されるであろう。本発明を例示するため、現時点で好適な諸実施形態を図面に示しているが、本発明は、開示された具体的な態様に限定されないものと理解すべきである。これらの図面は、必ずしも縮尺どおりに描画したものではない。図面は、以下のとおりである。
【
図1】
図1は、本開示に係る例示的な人工弁について3つの異なる図を示している。
【
図2】
図2は、突出部を有する上方および下方フランジを備えた例示的な人工弁について単純化したバージョンを示した図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る人工弁の経心房的送達について例示的な処置の工程を例示した図である。
【
図4】
図4は、本開示に係る人工弁の経皮経静脈的送達について例示的な処置の工程を示した図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る人工弁に使用する例示的なステントを示した図である。
【
図6】
図6は、ワイヤー織り密度を特徴付けする方法のほか、ワイヤー織り密度とワイヤーの太さとがそれぞれどのように当該進歩性のあるステントの種々のパラメータに影響を及ぼすかについて例示した図である。
【
図7】
図7は、本開示に係る例示的なキットの構成要素を示した図である。
【
図8】
図8~9は、移植部位への送達中、後退自在な圧縮スリーブを使って、いかにカテーテルの前記ドックに抗してステントを圧縮できるか、またいかに移植部位で当該ステントを拡張させて前記カテーテルから離脱させられるかの一例を示したものである。
【
図9】
図8~9は、移植部位への送達中、後退自在な圧縮スリーブを使って、いかにカテーテルの前記ドックに抗してステントを圧縮できるか、またいかに移植部位で当該ステントを拡張させて前記カテーテルから離脱させられるかの一例を示したものである。
【
図10】
図10は、
図9で説明した工程の結果、ワイヤーフレームワークを有する人工弁がいかにin situで移植されるか例示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、本開示の一部を形成する添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照すると、より容易に理解されるであろう。本発明は本明細書に説明し示す具体的な製品、方法、条件、またはパラメータに限定されないこと、また本明細書で使用する用語は単に例をとって特定の実施形態を説明するためのものであり本発明を限定することを目的としたものではないことを理解すべきである。
【0016】
本開示において単数形扱いしている名称は、別段の断りがない限り複数形も包含し、特定の数値に言及している場合は、別段の断わりがない限り少なくともその特定の値が包含される。したがって、例えば「材料」と言及した場合は、当業者に知られている1若しくはそれ以上の当該材料およびそれと同等のものなどを指す。直前に「約」、「ほぼ」、「おおよそ」などを伴う近似値として値を表している場合、その特定の値は、本発明の範囲内で別の実施形態を形成することが理解されるであろう。本明細書における「約X」(ここで、Xは数値)は、当該記載された値±10%をいうことが好ましい。例えば、表現「約8」とは7.2以上8.8以下の値をいうことが好ましく、別の例として、表現「約8%」とは7.2%以上8.8%以下の値をいうことが好ましい(それ以外の場合もあるが)。記載されたすべての範囲は、包含的で組み合わせ可能である。例えば、「1~5」の範囲が記載されている場合、この記載範囲は、「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2および4~5」、「1~3および5」、「2~5」などの範囲を含むと解釈されるべきである。また、代替値のリストが明示的に提供されている場合、そのようなリストは、例えば請求項における消極的限定などにより、それら代替値のいずれを除外してもよいことを意味すると解釈できる。例えば、「1~5」の範囲が記載された場合、この記載範囲は、1、2、3、4、または5のいずれかが消極的に除外される場合を含んでよく、そのため「1~5」という記載が、「1および3~5であるが、2ではない」または単に「2が含まれない」場合を含んでよいものと解釈できる。
【0017】
別段の断りがない限り、本発明の一態様について開示するいかなる構成要素、要素、属性、または工程(例えば、それぞれ人工弁、システム、キット、および方法)も、本明細書に開示する本発明の他の任意態様(それぞれ他の任意の人工弁、システム、キット、および方法)に適用可能である。
【0018】
本文書で引用または説明する各特許、各特許出願、および各文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0019】
カテーテルベースで経皮的に送達する弁付きステントの使用は、ヒトの肺動脈弁およびヒトの大動脈弁どちらの置換でも実施可能であることがこれまで実証されている。経皮的アプローチでの弁置換は、肺動脈弁の置換で初めて成功しており、現在も肺動脈弁置換分野で最も発達している。僧帽弁の経皮的置換には大きな関心が寄せられているものの、僧帽弁の生体構造と機能を考慮すると、現在、肺動脈および大動脈の弁置換に利用できる技術を直接適用することは困難である。現在、心筋梗塞後の左心室機能不全から僧帽弁不全が起きた患者は非常に多い。ただし、その患者の多くは、外科的な僧帽弁置換術または修復術を受けるだけの体力がないものと考えられている。カテーテルベースの技術開発で信頼性の高い僧帽弁置換が可能になれば、そのような患者も僧帽弁置換療法の対象として命を救える可能性がある。経皮的な弁送達を適切に行うには、その弁に設計上重要な特徴が4つなければならないことがわかっている。すなわち、その弁は送達用に折り畳み可能で、弁輪に係止され、移植点を密閉して漏れを防ぎ、それ自体in situで正常に機能するものでなければならない。現在開示されている置換弁は、カテーテルベースで移植部位に展開できるよう折り畳み可能であり、確実で耐久性のある精密な移植のため非常に効果的な係止機構を含み、弁周囲の漏れを防ぐ独自の密閉機構を使用し、in situ機能の信頼性を高めるため適切な弁尖システムを取り入れている。
【0020】
一般的な実施例I
以下の開示は、本開示の第1の一般的実施形態に関するもので、この第1の一般的実施形態は、進歩性のある人工弁と、損傷し若しくは病変のある弁を置換する方法とに関する。
【0021】
一観点では人工弁が提供され、当該人工弁は、自己拡張するステントであって、外面と、内面と、中間領域と、上方係止フランジと、下方係止フランジとを有し、また未拡張状態および拡張済み状態を有するものである、前記ステントと、前記ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフであって、前記吸収性材料は、液体の吸収により膨張して当該人工弁を移植部位に実質的に接着し、前記接着は、前記移植部位における当該人口弁の配置を可能にするために十分な時間だけ遅延されるものである、前記カフと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも2つの弁尖を有する弁とを有する。好適な諸実施形態において、前記人工弁は人工僧帽弁である。
【0022】
前記ステントは、自己拡張するものであってよく、または例えばバルーンで強制的に拡張するよう構成してもよい。好適な諸実施形態において、前記ステントは自己拡張する。この自己拡張ステントは、大きな弾性ひずみを呈する形状記憶材料または「超弾性」材料を有することが好ましい。例示的な材料は、ニチノール、すなわちニッケル・チタン合金である。同様な特徴を有する他の任意の材料も前記自己拡張ステントの構築に使用でき、より一般的には、自己拡張するかどうかにかかわらず、任意の適切な生体適合性材料で前記ステントを形成できる。例示的な材料としては、ステンレス鋼、コバルト・クロム合金、コバルト・クロム・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、プラチナ、プラチナ・イリジウム合金などなどがある。前記ステントは、1若しくはそれ以上の他の材料であって、当該材料自体は自己拡張しないが前記ステントが自己拡張する能力を妨げず若しくはこれに干渉しない、1若しくはそれ以上の他の材料を有することができる。例えば、構造上望ましい他の任意の特徴を前記ステントに加えるため、任意の生体適合性材料を含めてよい。例示的な生体適合性材料としては、ステンレス鋼、タンタル、プラチナ合金、ニオブ合金、およびコバルト合金などがある。付加的または二者択一的に、1若しくはそれ以上の生体吸収性材料を使って前記ステントを形成することもできる。前記ステントの一部または全部を薬剤を有する組成物でコーティングすると、当該ステントがin situで薬剤を溶出させられるようにできる。前記ステントは、当該ステントが自己拡張できるようにする材料のほか、上述した他の任意の適合材料から形成されるフレームワークを有することが好ましい。その構造的フレームワークは、コイリング、製織、編組(ブレイディング)、または編成(ニッティング)など従来の技術を使ってワイヤーで形成できる。前記ワイヤーの交差点の一部または全部を溶接または接合すると、ヒンジ式ではない構造を形成できる。ステントの形成については当業者であれば容易に理解でき、本開示は、機能的に許容されるすべてのステント幾何学的構造を含め、いかなる適切な技術も包含するよう意図されている。
【0023】
前記ステントは中間領域を有し、この中間領域は、未拡張時の長さと、未拡張時の外周と、拡張時の長さと、拡張時の外周とを含む種々の寸法を有する。前記未拡張時の長さは、前記拡張時の長さと実質的に等しく、またはそれより大きいことが好ましく、前記拡張時の外周は、前記未拡張時の外周より大きい。前記未拡張時の外周は、未拡張ステントがカテーテル内部を通過して平行移動できるようにするいかなるサイズであってもよい。例えば、前記未拡張時の外周は、直径約1mm~約8mmのカテーテル内部で前記未拡張ステントを平行移動可能にするサイズであってよい。前記拡張時の長さは、ヒト対象者の心臓の左心房と左心室間の弁輪長とほぼ等しく若しくはそれを超える長さに実質的に対応したものであることが好ましい。前記ステントの当該拡張時の長さは、左心房と左心室間の弁輪より長いことが好ましい。僧帽弁輪の長さは対象ごとに異なるため、特定の対象にはその僧帽弁輪に適した拡張時の長さを有するステントを使用できる。一般に、前記拡張時の長さは約0.5cm~約5cm、約1cm~約4cm、約1.5cm~約3.5cm、または約2cm~約3cmであってよい。前記拡張時の外周は、対象の僧帽弁輪の内周と実質的に等しく、またはそれ未満であってよい。好適な諸実施形態において、前記拡張時の外周は、対象の僧帽弁輪の内周未満であり、ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられたカフを有するステントを僧帽弁輪内に配置できるよう適切にサイズ調整される。本明細書でより詳しく説明するように、前記カフは未拡張形態および拡張形態を有し、前記ステントは、ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた実質的に未拡張のカフを有する当該ステントを僧帽弁内に配置できるよう適切にサイズ調整されることが好ましい。一般に、前記ステントの前記拡張時の外周は約2cm~約5cm、約2.5cm~約4cm、または約2.5cm~約3.5cmであってよい。
【0024】
本開示に係る人工弁は、経心房的に、経心尖的に、または経皮的に送達されるよう構成できる。そのため、前記人工弁の寸法、前記ステント、カフ、または他の構成要素に使用する材料のタイプ、前記ステントへの薬剤コーティングの有無、含まれるフランジのタイプ、前記ステントの織りのパターン、液体吸収の遅延長、および他の要因は、必要に応じて前記人工弁を経心房的、経心尖的、または経皮的な送達用に構成する目的に合わせて、すべて操作可能である。当業者であれば、経心房的、経心尖的、または経皮的な経路でのステント付き装置送達にそれぞれ必要な特徴が容易に理解でき、本明細書で説明する広範囲の特徴から適宜選択を行えるであろう。
【0025】
前記中間領域に加え、前記自己拡張ステントは、上方および下方フランジも有する。最も単純な実施形態では、これらフランジのどちらか一方または双方が、前記中間領域の長手方向の端部または縁部を有する。例えば、前記フランジのどちらか一方または双方は、前記中間領域の長手方向の端部で前記ステント外周の一部または全部から延出する材料の「リップ部」であってよい。他の実施形態では、僧帽弁輪の位置で前記ステントを実質的に固定する係止機能をもたらすよう前記フランジのどちらか一方または双方を構成できる。特に、前記上方または下方フランジの一方は、僧帽弁輪の心室側に係止されるよう構成でき、当該上方または下方フランジの他方は、僧帽弁輪の心房側に係止されるよう構成できる。前記上方フランジ、下方フランジ、またはその双方は、複数の突出したステント要素を有することができる。例えば、前記ステントがワイヤーから構成される場合、前記フランジは、複数の個別ワイヤーまたは束ねられたワイヤーセットを有することができる。前記複数のワイヤーは、規則的または不規則的に離間されたアレイを有することができ、当該ワイヤー自体は、単一のストランドであっても、2本、3本、4本、またはそれ以上のワイヤーストランドのセットをグループ化し若しくは束ねたものであってもよい。各フランジは、前記ステントの前記未拡張状態に対応する構成と、前記ステントの前記拡張済み状態に対応する構成とを有することができる。前記フランジのどちらか一方または双方が複数の個別ステント要素を有する場合、それらの要素は、前記ステントが未拡張状態の場合実質的に直線形状を呈し、前記ステントが未拡張状態の場合実質的にコイル状になる。他の実施形態において、フランジは、フラップ、ローブ(丸い突出部)、または他の突出部を画成する1若しくはそれ以上の要素を有することができ、そのフラップ、ローブ、または他の突出部は、前記ステントが未拡張状態の場合に当該ステントの長軸と実質的に平行に配向でき、前記ステントが拡張済み状態の場合に当該ステントの長軸に対し実質的に斜角(例えば、約30°、約45°、約60°、約75°、または約90°)をなして配向できる。
図2は、この変形形態の例示的な実施形態を単純化したもので、ステント4が未拡張状態(
図2A)の場合に長軸Yと実質的に平行に配向され、ステント4が拡張済み状態の場合に「長」軸Yに対し実質的に斜角をなして配向されるフラップ7を有する。単一構造から成るか、多数の個別要素から成るかにかかわらず、いかなるフランジ設計も、本開示の目的に合わせて考慮される。
【0026】
また、当該人工僧帽弁は、ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフも有する。用語「カフ」は、前記ステントの前記外面の周囲で完全な円形を形成する連続した吸収性材料のリングか、連続した吸収性材料部分を伴う他の任意の立体構造、例えば前記ステントの前記外面の周囲でらせんを形成するストリップ(帯状体)か、前記ステントの前記外面に設けられた1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の個別パッチまたはストリップ(あるいは他の任意の形状または構成)の吸収性材料か、1若しくはそれ以上の連続した材料部分、個別のパッチ、およびストリップなどの任意の組み合わせかを包含するよう意図されている。好適な一実施形態において、前記カフは、前記ステントの外面周囲で完全な円形を形成する連続した吸収性材料のリングを有する。
【0027】
前記カフは、液体の吸収により膨張して当該人工弁を移植部位に実質的に接着する吸収性材料を有する。本明細書に開示する人工弁は、損傷し、または機能を失った僧帽弁を置換するため使用され、その移植部位は僧帽弁輪である。本明細書における「接着する」(adhere)とは、前記人工弁を移植部位で実質的に固定(affix)または係止(anchor)し、または実質的に液体不透過性の密閉部を前記カフと前記僧帽弁輪との間に形成し、またはその双方を行うという意味を含む。現時点でわかっていることは、前記カフが心房と心室間の弁周囲の漏れを高い信頼性で防ぐ密閉部を形成でき、そのため、前記人工弁が留置されると、心房と心室間を通過する液体は、置換弁自体の活動により通過が許される液体のみという点である。
【0028】
前記人工弁の接着は、移植部位への当該人工弁の配置を可能にする上で十分な時間だけ遅延される。例えば、カテーテル経由で移植部位に前記人工弁を配置する処置だけで40分かかる可能性があるため、前記カフが液体を吸収して十分膨張し当該人工弁が移植部位に接着する前に、それだけの時間遅延がある。そのため、前記カフは、所望の遅延時間が経過するまでは、前記人工弁が移植部位に接着するため必要な程度まで膨張しないよう、液体の吸収を遅らせ、または液体の吸収率が十分緩慢な1若しくはそれ以上の材料、構成要素、またはその双方を有する。前記遅延時間は、前記人工弁が液体(例えば、血液)にさらされた時点から測定できる。この遅延時間は、約1分間、約2分間、約5分間、約7分間、約10分間、約15分間、約20分間、約30分間、約45分間、約1時間、約75分間、約90分間、または約2時間である。前記人工弁用に選択されるカフのタイプは、当該人工弁を移植部位に送達する処置の難度に応じて異なる。
【0029】
前記カフの前記吸収性材料は、それ自体が十分緩慢な率で液体を吸収し、移植部位での前記人工弁の接着を遅らせることができる。他の実施形態において、前記カフの前記吸収性材料は、吸収率が初期低く、経時的または一定時間後に増加する可変吸収率を特徴としている。例えば、その吸収性材料は、前記人工弁が液体に露出した後の第1の期間、1分あたり約0~約20μLの液体吸収率を有することができ、第1の期間後は1分あたり約10~約200μLの液体吸収率を有することができる。吸収率が増加し始める遅延時間は、約10分、約15分、約20分、約30分、約45分、約1時間、約90分、約2時間、約180分、または約2時間とすることができる。他の実施形態では、前記カフの前記吸収性材料が液体を吸収する能力は遅延される。例えば、前記カフの前記吸収性材料は、当該吸収性材料の液体吸収能力に作用する材料で完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができる。前記吸収性材料は、被覆材料、例えばフィルムまたは布帛で完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができ、その被覆材料は永久的に液体不透過性であるが取り外し可能で、望ましい遅延時間が経過すると取り外される。この被覆材料の取り外しは、前記人工弁がin situで移植部位にある間に、例えばこの被覆材料を把持して取り外すためのカテーテルベースの取り外し器具を使って行われる。実質的に液体(例えば、水、血液など)不透過性および生体適合性であれば、いかなる材料を使っても前記被覆材料を形成することができる。その非限定的な例としては、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコン、ゴム、およびポリ塩化ビニルなどがある。他の実施形態では、一時的に液体不透過性であるが、望ましい遅延時間後に透過性となる被覆材料、例えばフィルムまたは布帛などで、前記吸収性材料を完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができる。例えば、前記被覆材料は経時的に分解可能なものであってよく、または温度、pH、または移植部位に存在する他の何らかの環境要因の変化に反応して分解し若しくは変化する材料を有することができる。他の実施形態では、液体透過性の被覆材料で、前記吸収性材料を完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができるが、そのような被覆材料を通過する液体の移動および/または当該被覆材料の飽和は緩慢であり、前記吸収性材料が十分な量の液体を吸収して移植部位に接着するまでの遅延を十分もたらせる。被覆材料がもたらす遅延時間は、例えば約5分間~約3時間、約10分間~約3時間、約20分間~約2時間、約30分間~約2時間、約45分間~約90分間、または前記人工弁の液体露出後約1時間とできる。さらに他の実施形態では、前記カフの前記吸収性材料の吸収能力は、その吸収性材料自体が、あるいはその吸収性材料と混合され、またはその吸収性材料内に実質的に分散し若しくはこれと実質的に一体化された材料が、移植部位に存在する1若しくはそれ以上の条件(例えば、温度、pHなど)に反応して変化することにより遅延される。例えば、前記吸収性材料は、液体への露出または移植部位に存在する他の何らかの環境要因に反応して経時的に形状変化するポリマーを含み、またはそれとともに提供することができ、そのような形状変化により、前記吸収性材料の液体吸収の開始または加速が可能になる。
【0030】
前記吸収性材料の形成に使用できる例示的な物質としては、任意の架橋ヒドロゲル成分などがある。架橋ヒドロゲル成分は、共有架橋、物理架橋若しくはイオン架橋、またはその双方に基づくものであってよい。その非限定的な例としては、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリジノン、ポリ(ヒドロキシメタクリル酸エチル)、ポリ(アミノ酸)、デキストラン、多糖類、およびタンパク質などがある。前記吸収性材料の形成に使用できるさらに別の物質例としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド共重合体(コポリマー)、エチレン無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロースポリビニルアルコール共重合体、ポリエチレンオキシド、およびポリアクリロニトリルなどがある。
【0031】
任意の「高吸収性」材料、例えば高吸収性ポリマーも使用できる。本明細書における「高吸収性」材料とは、体積膨潤度(Qv。「乾燥」体積または任意の液体が吸収される前の体積で、膨潤体積を除算したもの)が1から約5~1000に増加することを特徴とするものをいう。高吸収性材料の例は、以上にいくつか記載した。当業者であれば、「高吸収性」と特徴付けられている他の適切な材料を容易に特定でき、そのような任意の材料が使用可能である。前記カフは、膨張が主に単一方向へ生じるよう構成されることが好ましい。例えば、この膨張は、主に前記ステントの外面に対し、実質的に垂直な方向に起こる。前記カフが、前記ステントの外面の周囲で完全な円形を形成する連続した吸収性材料のリングを有する場合、前記吸収性材料が膨張する方向は、径方向であると特徴付けることができる。拡張済み状態の前記ステントは、前記吸収性材料が当該ステントの表面へと径方向に膨張することにより十分硬質になって圧迫に耐えるため、前記吸収性材料の放射状膨張は、当該ステントの表面から離れる実質的に単一の方向、すなわち僧帽弁輪の内面へ向かう方向に起こることになる。上述のとおり、前記吸収性材料の膨張により前記カフと僧帽弁輪との間に密閉部が生じて、弁周囲の漏れが防止される。
【0032】
本開示に係る人工弁には、さらに、前記上方フランジ、下方フランジ、またはその双方にウェビングを設けることができる。このウェビングは、吸収性材料を有することができる。このウェビングを設けると、移植部位における前記人工弁の接着(すなわち、固定、係止、および/または密閉)に役立つ。上記を受け、前記ウェビングは液体を吸収して膨張し、その結果生じる接着は、移植部位への当該人工弁の配置を可能にする上で十分な時間だけ遅らせることができる。前記上方および下方フランジのどちらか一方または双方が個別の要素、例えば上述した個別ステント要素を有する場合、前記ウェビングの一部は、前記フランジの一方または双方の、少なくとも一対の前記個別ステント要素間に設けることができる。このウェビングは、前記上方係止フランジの複数対の個別ステント要素間に設けられ、前記下方係止フランジの複数対の個別ステント要素間に設けられることが好ましい。前記上方および下方フランジのどちらか一方または双方がフラップ、ローブ、または他の突出部を有する場合は、それら各突出部の一部または全部をウェビングに嵌装できる。前記カフに関して上述した材料または構成要素の各特徴は、前記ウェビングに設けてもよい。そのため、前記ウェビングは、所望の遅延時間が経過するまでは、前記人工弁が移植部位に接着するため必要な程度まで膨張しないよう、液体の吸収を遅らせ、または液体の吸収率が十分緩慢な1若しくはそれ以上の材料、構成要素、またはその双方を有することができる。
【0033】
また、本発明の人工弁は、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁も有する。前記ステントの内面への当該1つまたは複数の弁尖の取り付けは、直接的である必要はない。例えば、弁支持リングは前記ステントの内面に固着でき、前記弁は、前記弁支持リングに固着できる。前記弁は、1つの弁尖、2つの弁尖、または3つの弁尖を有することができる。それらの弁尖は、生体源由来のもの、例えば哺乳類の心膜であることが好ましい。例えば、前記弁尖は、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、またはブタの心膜で作製してよい。他の実施形態において、前記弁尖は動物の弁、好ましくは哺乳類の弁由来のものであってよい。その非限定的な例としては、ウシの頸静脈弁、ブタの肺動脈弁、およびブタの大動脈弁などがある。当業者であれば、望ましい目的に適した弁を選択する方法が理解できるであろう。
【0034】
図1は、例示的な人工弁2について3つの図を示している。人工弁2は、上方係止フランジ6と、下方係止フランジ8とを有したステント4を有する。
図1Aおよび1Cにそれぞれ示すように、ステント4は、拡張済み状態および未拡張状態を有する。
図1Bは、例示的な人工弁2の上面斜視図である。上方フランジ6および下方フランジ8は、ステント4が拡張済み状態のとき実質的にコイル状になり(
図1A、1B)、ステント4が未拡張状態のとき実質的に直線形状を呈する(
図1C)個々のステント要素を有する。ステント4を圧縮して細長く引き伸ばし、当該ステントの要素も細長く直線状にすると、人工弁2を折り畳んで配置用カテーテルに嵌通させることができる。また、人工弁2は、ステント4外面の円周に沿って設けられたカフ10a、10bも有する。
図1Cに示すように、人工弁2が移植部位に配置されるまで、カフ10aは、液体吸収により膨張しない。ただし
図1Aおよび1Bに示すように、移植部位に人工弁2を配置するため人工弁2を液体に露出させて望ましい時間を経過させると、カフ10bは、液体を吸収して実質的にステント4の表面から離れる方向へ放射状に膨張し、人工弁2を移植部位に実質的に接着させる。人工弁2には、ステント4の内面に固着された弁尖12も含まれる。
図1に示した人工弁には3つの弁尖が含まれ、これらは
図1Bで最も明確に認められる。
【0035】
別の観点では、損傷し若しくは病変のある僧帽弁を対象体内で置換する方法が開示され、この方法は、前記対象の移植部位に人工僧帽弁を送達する工程であって、前記人工僧帽弁は、自己拡張ステントであって、外面と、内面と、中間領域と、上方係止フランジと、下方係止フランジとを有し、また未拡張状態および拡張済み状態を有するものである、前記自己拡張ステントと、前記ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも2つの弁尖とを有するものである、前記送達する工程と、液体の吸収により前記カフを膨張させて前記人工僧帽弁を移植部位に実質的に接着させる工程であって、前記接着は、前記移植部位における当該人工僧帽弁の配置を可能にするため十分な時間だけ遅延されるものである、前記膨張させる工程とを有する。
【0036】
前記進歩性のある人工僧帽弁に関して上述した属性、構成要素、材料などは、それぞれ前記方法に基づいて使用することができる。
【0037】
前記人工僧帽弁の移植部位への送達は、経心房的に、経心尖的に、または経皮的に実施できる。前記人工弁の送達後には、1若しくはそれ以上の配置工程(すなわち配置、ならびに所望の場合は再配置)を行うことができ、これにより僧帽弁輪に対し当該人工弁の位置を最適に調整できる。
【0038】
経心房的送達の場合は、次のように、また
図3に示すように例示的な処置を行うことができる。まず、肋間隙で小開胸(2~3cm)を行う(
図3A)。心房内へ切開を行う。
図3Bに示すように右心房14を後退させ、左心房16内に巾着縫合をおく。右肺静脈は項目18で示している。次に、操作可能な挿入用カテーテル20を巾着縫合糸で左心房内に配置する(
図3C)。このカテーテルを、僧帽弁輪を通じて前進させる(
図3D)。その位置は、心臓超音波検査法(心エコー法)で誘導および確認できる。前記カテーテル20を通じて、前記人工弁2を導入する。心室側のフランジがまず拡張して、弁輪の心室側と、弁下組織(弁尖、腱索、左心室壁)とに係止する(
図3E)。前記ステントの残りおよび心房側のフランジも、心臓超音波検査法による誘導で送達される(図示せず)。心房側のフランジは、拡張して弁輪および左心房に係止する。密閉用のカフは、その後60分間、膨張前の状態で保たれるため、弁の位置および機能が十分であるという記録を心臓超音波検査で残すことが可能である。配備から1時間後、前記カフ10bは完全に膨張し、天然の僧帽弁輪に抗して当該装置を密着させる(
図3F)。
【0039】
経心尖的送達の場合は、次のように例示的な処置を行うことができる。左小開胸を行う―その長さは、前記経心房的送達処置と同様である。左心尖部に巾着縫合をおく。次に、操作可能な挿入用カテーテルを前記巾着縫合糸に通して、左心室内に配置する。この挿入用カテーテル20を、心臓超音波検査法で僧帽弁輪を通じて左心房内へ誘導する。このアプローチの場合は、最初に心房側のフランジが展開および配置されるよう当該装置を設計できる。前記カフおよび任意選択のウェビングによる密閉技術は、前記例示的な経心房的送達工程に関して上述したものと同様であってよい。
【0040】
経皮的送達は、静脈経由であっても動脈経由であってもよい。経皮的送達を行う場合は、それに合わせて前記人工弁を構成し、例えば、末梢静脈経由または動脈経由で配置できるよう十分折り畳み可能にする。
【0041】
経皮経静脈的な送達は、次のように、また
図4に示すように行うことができる。大腿静脈へのアクセスは、当業者であれば容易に理解されるであろう標準的な技術により実現される。次に、操作可能なカテーテル20を静脈系に挿入し、蛍光透視法で右心房へ誘導する(
図4A)。右心房に進入したら、標準的な技術を使って、前記カテーテルが心房中隔を抜けて左心房へ到達できるようにする(
図4B)。次いで、前記経心房的アプローチで説明したように、心臓超音波検査法による誘導で前記人工弁2を展開する。
【0042】
経皮経動脈的な送達を行う場合は、次のように例示的な処置を行うことができる。大腿動脈へのアクセスは、標準的な技術により実現される。次に、操作可能なカテーテルを動脈系に挿入し、蛍光透視法で大動脈起始部から左心室内へ誘導する。左心室に進入したら、経心尖的アプローチについて上述したように、当該装置を展開する。
【0043】
一般的な実施例II
以下の説明は、本開示の第2の一般的実施形態に関するもので、この第1の一般的実施形態は、進歩性のある人工弁と、損傷し若しくは病変のある弁を置換する方法と、人工弁を送達するシステムと、キットと、人工弁を送達する方法とに関する。
【0044】
一観点では人工弁が提供され、この人工弁は、少なくとも部分的に自己拡張するステントであって、外面および内面を画成するワイヤーフレームワークと、中間領域により介設された上方および下方係止フランジとを有し、前記ステントは未拡張状態および拡張済み状態を有し、前記下方係止フランジは、前記上方係止フランジの対応する寸法より大きい、少なくとも1つの幾何学的寸法を有するものである、前記ステントと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁とを有する。
【0045】
前記ステントは、少なくとも部分的に自己拡張するよう構成できる。例えば、前記ステントは、最大拡張状態へと、または少なくともある程度、自己拡張できるものであってよく、例えばバルーンで強制的に拡張しなければならないよう構成してもよい。例えば、前記ステントは、当該ステント自体以外の機構から何の寄与がなくとも必要な拡張の100%が起こるよう構成でき、または当該ステント自体以外の機構から何の寄与がなくとも必要な拡張の99%以下(ただし0%を超える)が起こるよう構成できる。特定の実施形態において、前記ステントは完全に自己拡張する。
【0046】
前記少なくとも部分的に自己拡張するステントは、大きな弾性ひずみを呈する形状記憶材料または「超弾性」材料を有することができる。例示的な材料は、ニチノール、すなわちニッケル・チタン合金である。一実施形態では、前記ステントはニチノールワイヤーを織ったもの(ニチノールワイヤー織り)を有する。同様な特徴を有する他の任意の材料も前記自己拡張ステントの構築に使用でき、より一般的には、自己拡張するかどうかにかかわらず、任意の適切な生体適合性材料で前記ステントを形成できる。例示的な材料としては、ステンレス鋼、コバルト・クロム合金、コバルト・クロム・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、プラチナ、プラチナ・イリジウム合金などなどがある。前記ステントは、1若しくはそれ以上の他の材料であって、当該材料自体は自己拡張しないが前記ステントが自己拡張する能力を妨げず若しくはこれに干渉しない、1若しくはそれ以上の他の材料を有することができる。例えば、構造上望ましい他の任意の特徴を前記ステントに加えるため、任意の生体適合性材料を含めてよい。例示的な生体適合性材料としては、ステンレス鋼、タンタル、プラチナ合金、ニオブ合金、およびコバルト合金などがある。付加的または二者択一的に、1若しくはそれ以上の生体吸収性材料を使って前記ステントを形成することもできる。前記ステントの一部または全部を薬剤を有する組成物でコーティングすると、当該ステントがin situで薬剤を溶出させられるようにできる。
【0047】
前記ステントは、当該ステントが少なくとも部分的に自己拡張できるようにする材料のほか、上述した他の任意の適合材料から形成されるワイヤーフレームワークを有する。このフレームワークは、コイリング、製織、編組(ブレイディング)、または編成(ニッティング)など従来の技術を使ってワイヤーで形成できる。好適な一実施形態では、前記ステントがワイヤー織りを有する。特定の実施形態では、前記ワイヤーフレームワークの交差点の一部または全部を溶接または接合することにより、少なくとも一部の箇所がヒンジ式ではない構造を形成できる。ワイヤーフレームワークの形成については当業者であれば容易に理解でき、本開示は、機能的に許容されるすべてのフレームワーク幾何学的構造を含め、いかなる適切な技術も包含するよう意図されている。
【0048】
本願発明者らによると、ステントにより作用する径方向の力の大きさは、前記ステントがどの程度移植部位に係止されるかを決定する上でも、前記ステントと移植部位との間、例えば前記ステントと弁輪の内壁との間に形成される密閉部の特性を決定する上でも、重要な決定要因であることがわかっている。本発明によると、前記ステントにより作用する径方向外向きの力には、少なくとも3つの要因が寄与することが見いだされた。まず、前記フレームワークを形成するため使用されるワイヤーの太さは、前記ステントが及ぼす径方向の力の大きさに影響する。本開示によれば、前記フレームワークを形成するため使用されるワイヤーの太さは、約0.005インチ~約0.030インチである。例えば、そのワイヤーの厚さは、約0.010インチ、約0.015インチ、約0.020インチ、約0.025インチ、または約0.030インチにできる。また、前記ワイヤーフレームワークの密度が前記ステントにより作用する径方向の力に影響を及ぼすこともわかっている。前記ワイヤーフレームワークの密度を記述するため使用できるパラメータについては、以下でより詳しく定義している。第3に、前記ステントにより作用する前記径方向の力は、当該ステントを移植する弁輪の最大径に対する前記拡張済み状態のステント直径に影響を受ける。弁輪はおおよそ円形であるが、多くの場合、実質的に楕円形または鞍形状であるため、弁輪は最大径および最小径を有する。弁輪が円形の場合、「最大径」は単に弁輪の直径となる。現時点で、ステントは、拡張済み状態での直径が弁輪最大径の約95%~約125%である場合に、有益な大きさの径方向の力を及ぼすことがわかっている。例えば、弁輪最大径の約95%、約100%、約105%、約110%、約115%、約120%、または約125%の直径を有する拡張済みステントは、有益な大きさの径方向の力をもたらす。すなわち絶対的に言うと、拡張したステントは、約25~約50mmの直径を有することができる。
【0049】
前記ステントは中間領域を有し、この中間領域は、未拡張時の長さと、未拡張時の直径と、拡張時の長さと、拡張時の直径とを含む種々の寸法を有する。前記未拡張時の長さは、前記拡張時の長さと実質的に等しく、またはそれより大きいことが好ましく、前記拡張時の直径は、前記未拡張時の直径より大きい。前記未拡張時の直径は、送達中、対象の脈管構造を未拡張ステントが通過して平行移動できるようにするいかなるサイズであってもよい。例えば、前記未拡張時の直径は、直径約1mm~約13mm、好ましくは約1mm~約8mmのカテーテル(または関連する構成要素、例えば本明細書でより詳しく後述する圧縮スリーブ)に前記未拡張ステントを嵌入できるサイズとすることができる。前記拡張時の長さは、ヒト対象者の心臓の2つの心房間の弁輪、または1つの心室およびそれに伴う動脈の間、例えば左心室および大動脈間の弁輪の長さとほぼ等しく若しくはそれを超える長さに実質的に対応したものとできる。前記ステントの前記拡張時の長さは、そのような弁輪より長いことが好ましい。弁輪、例えば僧帽弁輪の長さは対象ごとに異なるため、特定の対象にはその弁輪に適した拡張時の長さを有するステントを使用できる。一般に、前記拡張時の長さは約0.5cm~約5cm、約1cm~約4cm、約1.5cm~約3.5cm、または約2cm~約3cmであってよい。上述のように、前記拡張時の直径は、対象の弁輪最大径の約95%~約125%とできる。本人工弁が、さらに、カフであって、ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフ(本明細書でより詳しく後述する)を有する諸実施形態においても、拡張時の直径は、対象の弁輪最大径に対して上記の範囲内であることが好ましい。
【0050】
本開示に係る人工弁は、経心房的に、経心尖的に、または経皮的に送達されるよう構成できる。そのため、前記人工弁の寸法、前記ステント、カフ、または他の構成要素に使用する材料のタイプ、前記ステントへの薬剤コーティングの有無、含まれるフランジのタイプ、前記ステントのフレームワークパターン(例えば、織り)、液体吸収の遅延長、および他の要因は、必要に応じて前記人工弁を経心房的、経心尖的、または経皮的な送達用に構成する目的に合わせて、すべて操作可能である。当業者であれば、経心房的、経心尖的、または経皮的な経路でのステント付き装置送達にそれぞれ必要な特徴が容易に理解でき、本明細書で説明する広範囲の特徴から適宜選択を行えるであろう。
【0051】
前記中間領域に加え、前記自己拡張ステントは、上方フランジおよび下方フランジも有する。最も単純な実施形態では、これらフランジのどちらか一方または双方が、前記中間領域の長手方向の端部または縁部を有する。例えば、前記フランジのどちらか一方または双方は、前記中間領域の長手方向の端部で前記ステント外周の一部または全部から延出するステント材料の「リップ部」であってよい。他の実施形態では、弁輪の位置で前記ステントを実質的に固定する係止機能をもたらすよう前記フランジのどちらか一方または双方を構成できる。例えば、前記下方フランジは、僧帽弁輪の心室側に係止されるよう構成でき、前記上方フランジは、僧帽弁輪の心房側に係止されるよう構成できる。前記上方および下方フランジのそれぞれの構成は、同じであってもそうでなくともよい。そのため、前記下方フランジに前記上方フランジと異なる構成を採用することもできる。前記上方フランジ、下方フランジ、またはその双方は、複数の突出したステント要素を有することができる。単一構造から成るか、多数の個別要素から成るかにかかわらず、いかなるフランジ設計も、本開示の目的に合わせて考慮される。例えば、前記フランジは、それぞれ個別ワイヤーまたは束ねられたワイヤーセットを有する複数の突出したステント要素を有することができる。前記複数のワイヤーは、規則的または不規則的に離間されたアレイを有することができ、当該ワイヤー自体は、単一のストランドであっても、2本、3本、4本、またはそれ以上のワイヤーストランドのセットをグループ化し若しくは束ねたものであってもよい。他の実施形態において、前記フランジは、複数のワイヤーループを有することができる。そのワイヤーループは、前記ステントの前記ワイヤーフレームワークと一体化できる。例えば、前記ステントは、ワイヤー織りを有することができ、そのワイヤー織りは、(当該ステントの他の要素のほかに)複数のワイヤーループを有するフランジを画成する。それらのワイヤーループは、規則的または不規則的に離間されたアレイを有することができる。
【0052】
各フランジは、前記ステントの前記未拡張状態に対応する構成と、前記ステントの前記拡張済み状態に対応する構成とを有することができる。例えば、前記フランジのどちらか一方または双方が複数の個別ステントワイヤーを有する場合、それらの要素は、前記ステントが未拡張状態の場合実質的に直線形状を呈し、前記ステントが未拡張状態の場合実質的にコイル状になる。他の場合、フランジは、フラップ、ローブ(丸い突出部)、または他の突出部を画成する1若しくはそれ以上の要素を有することができ、そのフラップ、ローブ、または他の突出部は、前記ステントが未拡張状態の場合に当該ステントの長軸と実質的に平行に配向でき、当該ステントが拡張済み状態の場合には異なる態様で配向できる。一部の実施形態において、前記上方フランジおよび下方フランジはそれぞれ複数の突出したステント要素を有し、その各ステント要素は、前記ステントが未拡張状態の場合実質的に直線形状を呈し、当該ステントが拡張済み状態の場合当該ステントの前記中間領域へ向かって実質的に反り曲がる。
【0053】
現在では、ステントの下方係止フランジと上方係止フランジの対応しあう寸法を比べて、下方係止フランジの方が上方係止フランジより少なくとも1つ大きな幾何学的寸法を有する方が、当該人工弁を高い信頼性で移植部位に接着できることがわかっている。従来、損傷し若しくは病変のある弁の置換では、人工弁機器用にスペースを設けるため、またその人工弁の機能が損なわれないよう、機能しなくなった弁組織を除去してきた。本設計は、機能しない弁組織の除去を必要とせず、移植部位に存在する組織を前記下方係止フランジで把持でき(そのような組織が、機能しない弁組織を有するかどうかにかかわらず)、また前記上方係止フランジで同様な把持が可能なだけでなく「キャッピング」(キャップ装着)も可能なため、逆に前記組織の存在がメリットになる。例えば、移植部位が僧帽弁輪である場合、進歩性のある当該人工弁は、その移植部位に強固に接着するが、これは、特に機能しない弁組織および弁輪組織を心室側で把持する下方係止フランジの作用と、そのような組織を把持して同様に当該弁輪の心房側に「キャップ」をもたらす上方係止フランジの作用とによるものである。
【0054】
本明細書における用語「下方」および「上方」は、単に便宜的な用語である。僧帽弁輪で移植を行うための人工弁は、例えば前記「下方」係止フランジが弁輪の心室側すなわち実質的に「下方へ」配向されるようin situで配置されるため、上方フランジと対応する寸法を比べた場合、より大きい幾何学的寸法を有する心室側のフランジを示す際、慣習的に用語「下方」が使用されている。一般に、用語「上方」および「下方」の使用は単なる慣習であることから、当該人工弁を他の文脈で使用する場合に「下方」係止フランジを実質的または場合により部分的にも「下方へ」配向する必要はない。
【0055】
前記上方係止フランジと比べて前記下方係止フランジの方が大きい幾何学的寸法とは、両フランジが共有する任意の寸法であってよい。すなわち、その幾何学的寸法は、長さ、幅、高さ、または他の任意のパラメータであってよい。その一例において、前記下方係止フランジは、互いに長さの等しい突出したステント要素を有し、この下方係止フランジの突出したステント要素は、前記上方係止フランジを形成する一連の突出したステント要素より長い。前記上方および下方の係止フランジがそれぞれ複数の突出したステント要素を有する場合、前記下方フランジの突出したステント要素の50%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、または100%が、前記上方フランジの突出したステント要素より大きな寸法を有するとき、当該下方係止フランジは当該上方係止フランジの対応する寸法と比べて大きな幾何学的寸法を有するということができる。
【0056】
図5は、この変形形態の例示的なステント21の図であり、それぞれ複数の突出したステント要素26を有する上方フランジ22および下方フランジ24を有する。突出したステント要素26は、ステント21が未拡張状態のとき(
図5A)実質的に直線形状を呈して長軸Yと実質的に平行に配向され、ステント21が拡張済み状態のとき(
図5B)前記中間領域28方向へ実質的に反り曲がる。
図5Bの前記ステント21は、
図5Aと比べて縦方向に裏返っており、すなわち
図5Bの前記上方フランジ22は、ステント21の図の頂部(
図5Aのように)にあるのではなく、底部に見られる。前記下方フランジ24の前記突出したステント要素26は、前記上方フランジ22の前記突出したステント要素26より長い。前記ステント21が拡張済み状態のとき、前記突出したステント要素26は、前記ステント本体の方向に力を及ぼすため、突出した要素26と、当該ステントの前記中間領域28外面との間に介在する任意の物を、これら2つの要素間に閉じ込める。そのため、本明細書で説明するものなどのステントを有する人工弁が移植部位に送達されて未拡張状態から拡張済み状態にシフトする場合は、移植部位に存在する機能不全弁組織などの固定されていない組織が、当該ステントの各フランジと前記中間領域との間に挟み込まれる。この作用は、前記人工弁が移植部位に係止される上で著しく貢献する。以下の例2では、本開示に係る例示的な人工弁をその移植部位から抜去するために必要な力の測定について開示する。
【0057】
図5Bは、例示的なステント21の拡張済み状態について種々の寸法を示したものである。線aは、ステント21の直径を示し、線bは、前記下方フランジ24の各突出したステント要素26の長さを示し、線cは、ステント21の高さ(前記上方および下方フランジ要素22、24の寄与を含む)を示し、線dは、中間領域28の高さを指し、線eは、中間領域28へ向かって反り曲がった前記下方フランジ要素24の直径を指し、線fは、中間領域28へ向かって反り曲がった前記上方フランジ要素22の直径を示す。
【0058】
当該ステントの拡張済み状態における直径は、例えば約25~約55mmとすることができる。下方フランジの各突出したステント要素の長さは、例えば約5~約45mmとできる。前記上方および下方フランジ要素の寄与を含む、当該ステントの拡張済み状態における高さ(すなわち、当該ステントの内腔に平行な寸法―
図5Bでは線cで示す)は、例えば約15~約55mmとできる。拡張済み状態における当該ステントの前記中間領域だけの高さは、例えば約15~45mmとできる。前記中間領域へ向かって反り曲がった前記下方フランジ要素の直径(
図5Bでは線eで示す)は、例えば約1~約8mmとできる。当該ステントの前記中間領域へ向かって反り曲がった前記上方フランジ要素の直径(
図5Bでは線fで示す)は、例えば約3~約12mmとできる。
【0059】
図5Aの圧縮されたステントについて言うと、当該ステントの全長は約4~約15cmとすることができ、前記圧縮されたステントの前記中間領域28における幅は約5~約15mmとでき、好ましくは約6~約12mmである。
【0060】
上記で示したように、前記ステントにより作用する径方向外向きの力の大きさは、特に前記ワイヤーフレームワークの密度に影響される。一般に、密度が高いほど径方向外向きに大きな力が及ぼされる。
図6は、ワイヤー織り密度を特徴付けする方法のほか、ワイヤー織り密度とワイヤーの太さとがそれぞれどのように当該進歩性のあるステント21の種々のパラメータに影響を及ぼすかについて、具体例を示したものである。ワイヤー織りを構築する工程は、ワイヤー織り「ステップ」および「ステップオーバー」により記述することができる。
【0061】
図6Aは、進歩性のあるステント21の一実施形態を示したもので、このステント21は、31の突出したステント要素を個別に有する上方フランジ22と、31の突出したステント要素を個別に有する下方フランジ24とを含むワイヤー織りを有する。
図6Aに示した実施形態に関していうと、各突出したステント要素26は、構築工程における1つの「ステップ」を成し、各「ステップ」は、当該ステント21本体の形成に5つの「ステップオーバー」を必要とする。
【0062】
図6Bは、進歩性のあるステント21の別の一実施形態を示したもので、このステント21は、25の突出したステント要素を個別に有する上方フランジ22と、25の突出したステント要素を個別に有する下方フランジ24とを含むワイヤー織りを有する。
図6Bに示した実施形態の場合、各突出したステント要素26は、構築工程における1つの「ステップ」を成し、各「ステップ」は、当該ステント21本体の形成に3つの「ステップオーバー」を必要とする。
【0063】
本発明に係るワイヤー織りを有したステントの形成に使用できる「ステップオーバー」の数は、2、3、4、5、6、7、8、9、または10とすることができる。
【0064】
また、
図6Aおよび6Bは、ワイヤー織りを有するステント21の形成に使用されるワイヤーの太さが、いかに特定のステント特性に影響を及ぼすかも例示している。
図6Aの実施形態は太さ0.025インチのワイヤーを使用し、
図6Bの実施形態は太さ0.012インチのワイヤーを使用する。各突出したステント要素26の末端の曲がり部は、
図6Aの実施形態の方が
図6Bの実施形態より幅広であり、これは、後者より前者の場合で、より太いワイヤーが使用されるためである。上記で示したように、進歩性のあるステントの前記フレームワークを形成するため使用されるワイヤーの太さは、約0.005インチ~約0.030インチである。
【0065】
また、当該人工弁は、ステントの外周面の少なくとも一部に沿って設けられた吸収性材料を有するカフも有する。用語「カフ」は、前記ステントの前記外面の周囲で完全な円形を形成する連続した吸収性材料のリングか、連続した吸収性材料部分を伴う他の任意の立体構造、例えば前記ステントの前記外面の周囲でらせんを形成するストリップ(帯状体)か、前記ステントの前記外面に設けられた1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の個別パッチまたはストリップ(あるいは他の任意の形状または構成)の吸収性材料か、1若しくはそれ以上の連続した材料部分、個別のパッチ、およびストリップなどの任意の組み合わせかを包含するよう意図されている。好適な一実施形態において、前記カフは、前記ステントの外面周囲で完全な円形を形成する連続した吸収性材料のリングを有する。
【0066】
カフが存在する場合、そのカフは、液体の吸収により膨張して当該人工弁を移植部位に実質的に接着する吸収性材料を有する。本明細書に開示する人工弁は、損傷し、または機能を失った僧帽弁を置換するため使用され、その移植部位は僧帽弁輪である。本明細書における「接着する」(adhere)とは、前記人工弁を移植部位で実質的に固定(affix)または係止(anchor)し、または実質的に液体不透過性の密閉部を前記カフと前記僧帽弁輪との間に形成し、またはその双方を行うという意味を含む。現時点でわかっていることは、前記カフが心房と心室間の弁周囲の漏れを高い信頼性で防ぐ密閉部を形成でき、そのため、前記人工弁が留置されると、心房と心室間を通過する液体は、置換弁自体の活動により通過が許される液体のみという点である。
【0067】
カフを含む実施形態の場合、前記人工弁の接着は、移植部位への当該人工弁の配置を可能にする上で十分な時間だけ遅延される。例えば、カテーテル経由で移植部位に前記人工弁を配置する処置だけで40分かかる可能性があるため、前記カフが液体を吸収して十分膨張し当該人工弁が移植部位に接着する前に、それだけの時間遅延がある。そのため、前記カフは、所望の遅延時間が経過するまでは、前記人工弁が移植部位に接着するため必要な程度まで膨張しないよう、液体の吸収を遅らせ、または液体の吸収率が十分緩慢な1若しくはそれ以上の材料、構成要素、またはその双方を有する。前記遅延時間は、前記人工弁が液体(例えば、血液)にさらされた時点から測定できる。この遅延時間は、約1分間、約2分間、約5分間、約7分間、約10分間、約15分間、約20分間、約30分間、約45分間、約1時間、約75分間、約90分間、または約2時間である。前記人工弁用に選択されるカフのタイプは、当該人工弁を移植部位に送達する処置の難度に応じて異なる。
【0068】
前記カフの前記吸収性材料は、それ自体が十分緩慢な率で液体を吸収し、移植部位での前記人工弁の接着を遅らせることができる。他の実施形態において、前記カフの前記吸収性材料は、吸収率が初期低く、経時的または一定時間後に増加する可変吸収率を特徴としている。例えば、その吸収性材料は、前記人工弁が液体に露出した後の第1の期間、1分あたり約0~約20μLの液体吸収率を有することができ、第1の期間後は1分あたり約10~約200μLの液体吸収率を有することができる。吸収率が増加し始める遅延時間は、約10分、約15分、約20分、約30分、約45分、約1時間、約90分、約2時間、約180分、または約2時間とすることができる。他の実施形態では、前記カフの前記吸収性材料が液体を吸収する能力は遅延される。例えば、前記カフの前記吸収性材料は、当該吸収性材料の液体吸収能力に作用する材料で完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができる。前記吸収性材料は、被覆材料、例えばフィルムまたは布帛で完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができ、その被覆材料は永久的に液体不透過性であるが取り外し可能で、望ましい遅延時間が経過すると取り外される。この被覆材料の取り外しは、前記人工弁がin situで移植部位にある間に、例えばこの被覆材料を把持して取り外すためのカテーテルベースの取り外し器具を使って行われる。実質的に液体(例えば、水、血液など)不透過性および生体適合性であれば、いかなる材料を使っても前記被覆材料を形成することができる。その非限定的な例としては、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコン、ゴム、およびポリ塩化ビニルなどがある。他の実施形態では、一時的に液体不透過性であるが、望ましい遅延時間後に透過性となる被覆材料、例えばフィルムまたは布帛などで、前記吸収性材料を完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができる。例えば、前記被覆材料は経時的に分解可能なものであってよく、または温度、pH、または移植部位に存在する他の何らかの環境要因の変化に反応して分解し若しくは変化する材料を有することができる。他の実施形態では、液体透過性の被覆材料で、前記吸収性材料を完全または部分的に覆い、あるいはその内部に含めることができるが、そのような被覆材料を通過する液体の移動および/または当該被覆材料の飽和は緩慢であり、前記吸収性材料が十分な量の液体を吸収して移植部位に接着するまでの遅延を十分もたらせる。被覆材料がもたらす遅延時間は、例えば約5分間~約3時間、約10分間~約3時間、約20分間~約2時間、約30分間~約2時間、約45分間~約90分間、または前記人工弁の液体露出後約1時間とできる。さらに他の実施形態では、前記カフの前記吸収性材料の吸収能力は、その吸収性材料自体が、あるいはその吸収性材料と混合され、またはその吸収性材料内に実質的に分散し若しくはこれと実質的に一体化された材料が、移植部位に存在する1若しくはそれ以上の条件(例えば、温度、pHなど)に反応して変化することにより遅延される。例えば、前記吸収性材料は、液体への露出または移植部位に存在する他の何らかの環境要因に反応して経時的に形状変化するポリマーを含み、またはそれとともに提供することができ、そのような形状変化により、前記吸収性材料の液体吸収の開始または加速が可能になる。
【0069】
前記吸収性材料の形成に使用できる例示的な物質としては、任意の架橋ヒドロゲル成分などがある。架橋ヒドロゲル成分は、共有架橋、物理架橋若しくはイオン架橋、またはその双方に基づくものであってよい。その非限定的な例としては、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリジノン、ポリ(ヒドロキシメタクリル酸エチル)、ポリ(アミノ酸)、デキストラン、多糖類、およびタンパク質などがある。前記吸収性材料の形成に使用できるさらに別の物質例としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド共重合体(コポリマー)、エチレン無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロースポリビニルアルコール共重合体、ポリエチレンオキシド、およびポリアクリロニトリルなどがある。
【0070】
任意の「高吸収性」材料、例えば高吸収性ポリマーも、カフが存在する場合はそれに使用できる。本明細書における「高吸収性」材料とは、体積膨潤度(Qv。「乾燥」体積または任意の液体が吸収される前の体積で、膨潤体積を除算したもの)が1から約5~1000に増加することを特徴とするものをいう。高吸収性材料の例は、以上にいくつか記載した。当業者であれば、「高吸収性」と特徴付けられている他の適切な材料を容易に特定でき、そのような任意の材料が使用可能である。前記カフは、膨張が主に単一方向へ生じるよう構成されることが好ましい。例えば、この膨張は、主に前記ステントの外面に対し、実質的に垂直な方向に起こる。前記カフが、前記ステントの外面の周囲で完全な円形を形成する連続した吸収性材料のリングを有する場合、前記吸収性材料が膨張する方向は、径方向であると特徴付けることができる。拡張済み状態の前記ステントは、前記吸収性材料が当該ステントの表面へと径方向に膨張することにより十分硬質になって圧迫に耐えるため、前記吸収性材料の放射状膨張は、当該ステントの表面から離れる実質的に単一の方向、すなわち僧帽弁輪の内面へ向かう方向に起こることになる。上述のとおり、前記吸収性材料の膨張により前記カフと僧帽弁輪との間の密閉度を高めることができ、弁周囲の漏れが防止される。
【0071】
本開示に係る人工弁には、さらに、前記上方フランジ、下方フランジ、またはその双方にウェビングを設けることができる。このウェビングは、吸収性材料を有することができる。このウェビングを設けると、移植部位における前記人工弁の接着(すなわち、固定、係止、および/または密閉)に役立つ。上記を受け、前記ウェビングは液体を吸収して膨張し、その結果生じる接着は、移植部位への当該人工弁の配置を可能にする上で十分な時間だけ遅らせることができる。前記上方および下方フランジのどちらか一方または双方が個別の要素、例えば上述の突出したステント要素を有する場合、前記ウェビングの一部は、前記フランジの一方または双方の、少なくとも一対の前記突出したステント要素間に設けることができる。このウェビングは、前記上方係止フランジの複数対の突出したステント要素間に設けられ、前記下方係止フランジの複数対の突出したステント要素間に設けられることが好ましい。前記上方および下方フランジのどちらか一方または双方がフラップ、ローブ、ループ、または他の突出部を有する場合は、それら各突出部の一部または全部をウェビングに嵌装できる。前記カフに関して上述した材料または構成要素の各特徴は、前記ウェビングに設けてもよい。そのため、前記ウェビングは、所望の遅延時間が経過するまでは、前記人工弁が移植部位に接着するため必要な程度まで膨張しないよう、液体の吸収を遅らせ、または液体の吸収率が十分緩慢な1若しくはそれ以上の材料、構成要素、またはその双方を有することができる。
【0072】
また、本発明の人工弁は、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁も有する。前記ステントの内面への当該1つまたは複数の弁尖の取り付けは、直接的である必要はない。例えば、弁支持リングは前記ステントの内面に固着でき、前記弁は、前記弁支持リングに固着できる。前記弁は、1つの弁尖、2つの弁尖、または3つの弁尖を有することができる。それらの弁尖は、生体源由来のもの、例えば哺乳類の心膜であることが好ましい。例えば、前記弁尖は、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、またはブタの心膜で作製してよい。他の実施形態において、前記弁尖は動物の弁、好ましくは哺乳類の弁由来のものであってよい。その非限定的な例としては、ウシの頸静脈弁、ブタの肺動脈弁、およびブタの大動脈弁などがある。当業者であれば、望ましい目的に適した弁を選択する方法が理解できるであろう。例えば、特定タイプの弁および弁尖数の適合性は、当該人工弁の使用目的に左右されることが理解されるであろう。ある場合において、当該人工弁の使用目的は、損傷し若しくは病変のある僧帽弁の置換であり、その場合、3つの弁尖を有する弁を選択すべきことが理解されるであろう。本人工弁は、任意の心臓弁、例えば肺動脈弁、三尖弁、大動脈弁、または僧帽弁の置換用に構成することができる。
【0073】
本開示は、損傷し若しくは病変のある弁を対象体内で置換する方法も含み、この方法は、前記対象の移植部位に人工弁を送達する工程であって、前記人工弁は、少なくとも部分的に自己拡張するステントであって、外面および内面を画成するワイヤーフレームワークと、中間領域により介設された上方および下方係止フランジとを有し、前記ステントは未拡張および拡張済み状態を有し、前記下方係止フランジは、前記上方係止フランジの対応する寸法より大きい、少なくとも1つの幾何学的寸法を有するものである、前記ステントと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁とを有するものである、前記送達する工程と、前記ステントを拡張して前記人工弁を前記移植部位に実質的に接着させる工程とを有する。
【0074】
前記進歩性のある人工弁に関して上述した属性、構成要素、材料などは、それぞれ前記方法に基づいて使用することができる。
【0075】
前記人工弁の移植部位への送達は、経心房的に、経心尖的に、または経皮的に実施できる。前記人工弁の送達後には、1若しくはそれ以上の配置工程(すなわち配置、ならびに所望の場合は再配置)を行うことができ、これにより弁輪に対し当該人工弁の位置を最適に調整できる。
【0076】
経心房的送達の場合は、次のように例示的な処置を行うことができる。まず、肋間隙で小開胸(2~3cm)を行う。心房内へ切開を行う。右心房を後退させ、左心房内に巾着縫合をおく。次に、操作可能な挿入用カテーテルを前記巾着縫合糸に通して、左心房内に配置する。このカテーテルを、僧帽弁輪を通じて前進させる。その位置は、心臓超音波検査法で誘導および確認できる。前記カテーテルを通じて、前記人工弁を導入する。下方(心室側の)フランジがまず拡張して、弁輪の心室側と、弁下組織(弁尖、腱索、左心室壁)とに係止する。前記ステントの残りおよび上方(心房側の)フランジも、心臓超音波検査法による誘導で送達される。心房側のフランジは、拡張して弁輪および左心房に係止する。カフを含む人工弁の諸実施形態では、前記密閉用のカフが、その後60分間、膨張前の状態で保たれるため、弁の位置および機能が十分であるという記録を心臓超音波検査で残すことが可能である。配備から1時間後、前記カフは完全に膨張し、天然の僧帽弁輪に抗して当該装置を密着させる。
【0077】
経心尖的送達の場合は、次のように例示的な処置を行うことができる。左小開胸を行う―その長さは、前記経心房的送達処置と同様である。左心尖部に巾着縫合をおく。次に、操作可能な挿入用カテーテルを前記巾着縫合糸に通して、左心室内に配置する。この挿入用カテーテルを、心臓超音波検査法で僧帽弁輪を通じて左心房内へ誘導する。このアプローチの場合は、最初に心房側のフランジが展開および配置されるよう当該装置を設計できる。任意選択のカフおよび/またはウェビングは、前記例示的な経心房的送達工程に関して上述したものと同様であってよい。
【0078】
経皮的送達は、静脈経由であっても動脈経由であってもよい。経皮的送達を行う場合は、それに合わせて前記人工弁を構成し、例えば、末梢静脈経由または動脈経由で配置できるよう十分折り畳み可能にする。
【0079】
経皮経静脈的な送達は、次のように行うことができる。大腿静脈へのアクセスは、当業者であれば容易に理解されるであろう標準的な技術により実現される。次に、操作可能なカテーテルを静脈系に挿入し、蛍光透視法で右心房へ誘導する。右心房に進入したら、標準的な技術を使って、前記カテーテルが心房中隔を抜けて左心房へ到達できるようにする。次いで、前記経心房的アプローチで説明したように、心臓超音波検査法による誘導で前記人工弁を展開する。
【0080】
経皮経動脈的な送達を行う場合は、次のように例示的な処置を行うことができる。大腿動脈へのアクセスは、標準的な技術により実現される。次に、操作可能なカテーテルを動脈系に挿入し、蛍光透視法で大動脈起始部から左心室内へ誘導する。左心室に進入したら、経心尖的アプローチについて上述したように、当該装置を展開する。
【0081】
別の観点では、少なくとも部分的に自己拡張するステントを有する人工弁を移植部位に送達するシステムが提供され、このシステムは、カテーテルであって、遠端部および近端部と、ガイドワイヤーに沿って前記カテーテルを平行移動させるガイドワイヤールーメンと、前記カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンと、前記遠端部にあり、前記ステントを装填するドックとを有するものである、前記カテーテルを有する。また、本システムは、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する後退自在な圧縮スリーブと、前記ドックの遠位に配置され、送達中に前記カテーテルを先導する先行端部と、前記張力ケーブルと動作可能に連結され、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変える操作機構とを有する。
【0082】
既存の送達システムと異なり、本明細書に開示するシステムは、本開示に係る人工弁のステントだけでなく、従来のステント付き装置を含む他構成のステントも収容、移送、および送達できる。本明細書で以下より詳しく説明するように、本システムには、少なくとも部分的に自己拡張するステント(本開示の人工弁に使用されるステントの特徴を有するものを含む)の操作および移植に伴う特定の課題に対処するため、いくつかの特徴が含まれる。
【0083】
本システムのカテーテルには、当該カテーテルの端部である遠端部が含まれ、この遠端部がまず当該ステントの移植術中に生理学的な進入点へ挿入される。前記カテーテルの近端部(本明細書では、当該システムの使用中、操作者に最も近いカテーテル端部と定義される)は、対象の体外にとどまる。本カテーテルは、前記遠端部から前記近端部まで約20cm~約200cmの長さを有することができる。前記カテーテルの外径は、約0.5cm~約1.5cmとできる。
【0084】
前記カテーテルは任意の適切な材料から構築でき、その適合性は、生物学的適合性、耐久性、剛性と柔軟性(可撓性)との適切なバランス、および当該カテーテルの使用目的に基づき容易に理解できる他の要因などの考慮事項により決定される。例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、カルレッツ(Kalrez)(登録商標)、シムリッツ(Simriz)(登録商標)、バイトン(Viton)(登録商標)、ケムラッツ(Chemraz)(登録商標)、シリコン、ネオプレン、ニトリル、金属または合金(Ti-Nb-Zrなど。例えば、米国特許第5,685,306号を参照)、あるいはこれらの他の任意の組み合わせを使用することができる。前記カテーテルの構築に使用する材料とその構築方法は、当業者であれば容易に理解され、構築に適した材料および手段は、すべて本明細書で考慮されている。
【0085】
前記カテーテルには、少なくとも2つのルーメンが含まれ、そのうち第1のルーメンは、当該カテーテルがガイドワイヤーに沿って平行移動できるようにするガイドワイヤールーメンで、第2のルーメンは、当該カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンである。前記ガイドワイヤールーメンは、対象体内の関心部位への適切な生理学的経路に配置されたガイドワイヤーを覆う態様で前記カテーテルを平行移動できるようガイドワイヤーを収容するため、前記カテーテル内で適切にサイズ調整、成形、および設置される。操作用ルーメンは、張力ケーブルを収容するよう前記カテーテル内で適切にサイズ調整、成形、および設置される。本カテーテルのルーメン内に配置した張力ケーブルを操作すると、当該カテーテルの方向を変えられるため、当該カテーテルをin situで第1の位置から第2の位置へ移動できる。ガイドワイヤーと操作用張力ケーブルの選択および使用については、当業者によく知られている。前記カテーテル内の前記ルーメンの相対的な構成に関する制限はない。ただし、従来、ガイドワイヤールーメンは、カテーテルの中心寄りに設置される。一実施形態では、前記ガイドワイヤールーメンおよび前記操作用ルーメンが、前記カテーテル内に並列構成で内設される。他の場合、前記ガイドワイヤールーメンは、実質的に前記カテーテルの中心に設置され、前記操作用ルーメンは、前記ガイドワイヤールーメンと当該カテーテル外面との間に設置される。操作用ルーメンは複数含めることが望ましく、その場合、各操作用ルーメンは、可操作性を高めるため別個の張力ケーブルを収容できる。例えば、例示的なカテーテルには、単一のガイドワイヤールーメンと、2つ、3つ、または4つの別個の操作用ルーメンとを含めることができる。
【0086】
本システムのカテーテルは、その遠端部にドックをさらに有し、前記ドックにはステントを装填できる。前記ドックは、前記カテーテルの残りの部分と一体的であることが好ましく、単に当該カテーテルの遠位部分が、当該カテーテルの残りの部分または当該ドックに隣接した当該カテーテルの少なくとも一部より小さい直径を有するようにもできる。例えば、前記カテーテル(前記ドックを除く)の外径は約0.25cm~約1.5cmとして、前記ドックの外径は当該カテーテルの残り部分の直径の約25%~約75%とすることができる。絶対的に言うと、前記ドックの外径は約0.10cm~約0.80cmとできる。前記ドックの長さは、少なくともステントの完全に圧縮された状態(この状態の例示的な長さが、本開示の人工弁に関連して上述されている)と同じ長さであることが好ましく、圧縮されたステントより若干長くてもよい。絶対的に言うと、前記ドックの長さは約4cm~約15cmとできる。
【0087】
前記ドックは、任意選択で、当該ドックに装填されるステントを拡張させ、または前記ステントの拡張を支援する膨張自在なバルーンを有することができる。ステントを拡張させるための膨張自在なバルーンの使用は、当業者によく知られている。そのようなバルーンは、通常、流体(液体または気体)圧力の選択的誘導により望ましい時間に作動されることから、前記ドックが膨張自在なバルーンを有する場合、前記カテーテルは、前記バルーンを膨張させるため使用される流体(例えば、食塩水、水、またはCO2ガス)を供給するバルーンルーメンをさらに有することができる。膨張時、前記バルーンは、前記ステントの拡張を支援する上で適した任意の構成となってよい。例えば、膨張したバルーンは、前記ドックの長手方向に沿って分布する細長いトーラスまたは2若しくはそれ以上の一連のトーラスであってよい。
【0088】
本システムは、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する少なくとも1つの後退自在な圧縮スリーブをさらに有する。この圧縮スリーブは、前記カテーテルと同軸状の構成であることが好ましく、例えば当該カテーテルの遠端部へ向かう方向またはそれから離れる方向へカテーテル上で平行移動するカニューレまたは外部被覆のように機能する。ステントは圧縮した状態で前記ドックに装填でき、前記圧縮スリーブは、前記圧縮されたステントを覆う形態で移動するよう前記ドック上を平行移動できる。これにより、当該圧縮スリーブは、前記ステントが確実に圧縮された状態で前記ドックに装填されるようにする。前記ステントを圧縮した状態で前記ドックに装填する際は、専門技術が必要な場合もある。前記圧縮されたステントを前記ドックに装填し、少なくとも1つの圧縮スリーブを同軸状構成で当該ドックに嵌装し、前記ステントを確実に圧縮したまま保った状態にすると、前記カテーテルの遠端部を移植部位に送達でき、そこで前記圧縮スリーブを最終的に引き戻し、それにより前記ステントを移植部位で拡張することができる。
【0089】
圧縮スリーブは、上述の態様で機能可能な任意の生体適合性材料で作製できる。例えば、圧縮スリーブは、前記圧縮されたステントが及ぼす径方向外向きの力により損傷または変形しないよう、硬質材料で構築できる。前記圧縮スリーブの内面および/または外面は、当該スリーブが使用中にスライドする他の任意の構成要素または生理学的対象に対する摩擦係数が低くなるよう構成されることが好ましい。この特徴は、当該スリーブの作製に使用される材料固有のものであっても、低摩擦コーティング剤により前記スリーブ材料に付与されるものであってもよい。前記圧縮スリーブの構築に使用する例示的な材料の1つは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE―商品名テフロン(登録商標)として生産される場合もある)である。他のいかなる適切な材料も使用でき、任意選択で、その内面および外面の一方または双方に、PTFEまたは摩擦軽減に適した別材料をコーティングすることができる。
【0090】
単一の圧縮スリーブを使用すると、前記ステント全体を圧縮することができる。他の場合、当該システムは、2若しくはそれ以上の圧縮スリーブを有することができる。前記ステントが前記ドックに装填される場合は、第2の後退自在な圧縮スリーブ、または他の付加的な圧縮スリーブで、前記ステントの別の部分を圧縮することもできる。例えば、第1の圧縮スリーブで、前記ステントの前記中間領域を圧縮状態に保つことができ、第2の圧縮スリーブで、当該ステントの前記上方および下方フランジを圧縮状態に保つことができる。そのような実施形態では、前記ステントが前記ドックに装填されるとき、前記第1および第2の圧縮スリーブの双方が前記ドックと同軸状構成で配置され、前記第1の圧縮スリーブは前記ステントの直接外側に配置され、前記第2の圧縮スリーブは前記第1の圧縮スリーブおよび前記ステントの外側に配置され、第2の圧縮スリーブを後退させると(例えば、前記カテーテルを覆う形態で前記ドックから離れる方向へ平行移動させて)、前記フランジが拡張し、それに続いて前記第1の圧縮スリーブを後退させると、前記ステントの残りの部分が拡張する。前記第2の圧縮スリーブを後退させる工程の性質上、前記上方または下方フランジの一方は、当該上方または下方フランジの他方が拡張するより先に拡張することになる。以上の工程については、以下、
図7~9との関連でより詳しく説明する。前記第1の圧縮スリーブを取り外して前記中間領域を拡張させる前に前記第2の圧縮スリーブを取り外して前記フランジを拡張させると、移植部位で前記フランジが展開されるため、前記ステントは、当該ステントの前記中間領域(前記弁を収容する)が展開される前に、前記移植部位に少なくとも部分的に接着できるようになる。
【0091】
本システムは、さらに、前記カテーテルの前記ドック部分の遠位に配置された先行端部であって、送達工程中に前記カテーテルを先導する先行端部を有する。この先行端部は実質的に円錐形で、その遠端部が丸みを帯びたものであってよく、または対象の脈管構造内で前記端部、ひいてはそれに続くカテーテルをより容易に方向付ける他の任意の構成を有することもできる。前記先行端部の形成に使用できる材料としては、硬質かつ生体適合性であり、好ましくは低摩擦の任意の材料などがある。その例としては、ナイロン、シラスティック(Silastic)、プラスチック、ニチノール、ステンレス鋼、コバルト・クロム合金、コバルト・クロム・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、プラチナ、およびプラチナ・イリジウム合金などなどがある。前記先行端部は、当該先行端部を取り付ける前に前記ステントを前記ドックに装填できるよう、前記ドックの前記遠端部に強固ながらも着脱可能に取り付けることができる。
【0092】
また、本開示に係るシステムは、1本または複数本の張力ケーブルと動作可能に連結された操作機構であって、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変えるための操作機構も有する。前記操作機構と、前記1本または複数本の張力ケーブルとの連結は、前記操作機構が前記張力ケーブルとの接続を使って前記先行端部の方向を変えることから、動作可能なものであると記述される。張力ケーブルハウジングの方向を変えるために張力ケーブルを使用することは、当業者であれば容易に理解される。前記操作機構は、利用者が前記1本または複数本の張力ケーブルを操作することにより、意図した態様で前記カテーテルを操作できるようにするものであれば、いかなる装置であってもよく、例えば、オブチュレーターノブ、レバー、ダイヤル、または任意の適切な機構を使用することができる。この操作機構を使って前記先行端部の方向を変えると、対象の脈管構造内で前記カテーテルを誘導でき(例えば、対象の心室内への下降をもたらし)、さらに移植部位付近で前記ドックおよびステントを精確に配置できる。この操作機構は、通常、蛍光透視法または心臓超音波検査法などの適切な撮像技術と併用される。
【0093】
さらに別の観点では、移植部位で少なくとも部分的に自己拡張するステントを含むシステムを有するキットが開示され、このシステムは、カテーテルであって、遠端部および近端部と、ガイドワイヤーに沿って前記カテーテルを平行移動させるガイドワイヤールーメンと、前記カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンと、前記遠端部にあり、前記ステントを装填するドックとを有するものである、前記カテーテルと、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する後退自在な圧縮スリーブと、前記ドックの遠位に配置され、送達中に前記カテーテルを先導する先行端部と、張力ケーブルと動作可能に連結され、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変える操作機構とを有するものである、前記システムと、少なくとも1つの人工弁であって、少なくとも部分的に自己拡張するステントであって、外面および内面を画成するワイヤーフレームワークと、中間領域により介設された上方および下方係止フランジとを有し、前記ステントは未拡張状態および拡張済み状態を有し、前記下方係止フランジは、前記上方係止フランジの対応する寸法より大きい、少なくとも1つの幾何学的寸法を有するものである、前記ステントと、前記ステントの前記内面に固着された少なくとも1つの弁尖を有する弁とを有するものである、前記少なくとも1つの人工弁とを有する。
【0094】
前記進歩性のある人工弁およびシステムに関して上述した属性、構成要素、材料などは、前記キットに含まれる前記人工弁およびシステムに応じてそれぞれ使用することができる。
【0095】
前記キットは、さらに、付加的な構成要素、すなわち使用説明書、前記システムまたは人工弁の構成要素の交換部品、および当該システムの修理工具のうち1若しくはそれ以上を有することができる。特定の実施形態において、本キットは複数の人工弁を有し、その場合、前記人工弁のうち少なくとも1つの拡張済み状態の直径は、前記人工弁のうち少なくとも他の1つの拡張済み状態の直径より大きい。そのような実施形態は、対象とされる特定患者体内の特定の関心部位への移植用に拡張済み状態が適切にサイズ調整された人工弁を、利用者が選択しなければならないことを反映している。弁輪の内径は、例えば大動脈弁輪の直径が僧帽弁輪の直径と異なるように、特定の患者体内でも異なる。同様に、第1の患者の僧帽弁輪の内径は第2の患者の僧帽弁輪の内径より大きいなど、特定の弁輪、例えば僧帽弁輪の内径も患者により異なる。そのため、拡張済み状態で適切な直径を有する人工弁を選択しなければならず、特定の拡張済み直径の妥当性は、意図された移植部位と特定の対象とに応じて異なる。したがって、本開示のキット内に少なくとも2つの人工弁を含めると有益であり、その場合、少なくとも2つの異なる人工弁「サイズ」から関連性の高い基準に応じて選択を行えるよう、当該人工弁の少なくとも1つの拡張済み状態における直径は、当該人工弁の少なくとも他の1つの拡張済み状態における直径より大きい。
【0096】
本キットには、少なくとも2つの人工弁を含めて、そのうちの1つが、少なくとも他の1つの人工弁と異なるタイプの弁を有するようにできる。例えば、特定のキットには3つの人工弁を含め、そのうちの2つが置換用の僧帽弁を含み、1つは置換用の大動脈弁を含むようにできる。本明細書で説明する、本キットに含めるシステムを使用すると、任意タイプの人工弁(任意タイプの弁を有する人工弁を含む)を移植部位に送達でき、それぞれ異なるタイプの弁を含む人工弁を含めると、利用者は、意図された目的に最も適した人工弁を選択できるようになる。
【0097】
図7は、本開示に係る例示的なキットの構成要素を示した図である。
図7Dに示すように、このキットはカテーテル30を含むシステムを有し、前記カテーテル30は、遠端部32および近端部34を有する。
図7Aはカテーテル30の断面図であり、ガイドワイヤールーメン36および3つの操作用ルーメン38を示している。
図7Dに戻ると、ドック40はカテーテル30の遠端部32にあり、先行端部42は前記ドック40の遠位に配置されている。人工弁は、このシステムの使用中、ドック40に装填される。操作機構44はカテーテル30の近端部34に位置し、図示したこの実施形態では、オブチュレーターノブ46を有する。当該キットには、ワイヤーフレームワークを有したステント21を有する人工弁も含まれ、前記ワイヤーフレームワークについては、拡張済み状態を
図7Bに示し、圧縮状態を
図7Cに示す。ステント21のワイヤーフレームワークは、中間領域28が介設された上方フランジ22および下方フランジ24を画成する。バルブ29は、このステント21の内部に固着される。
【0098】
また、本開示は、少なくとも部分的に自己拡張するステントを有する人工弁を移植部位に送達する方法に関し、この方法は、(i)システムを提供する工程であって、前記システムは、カテーテルであって、遠端部および近端部と、ガイドワイヤーに沿って前記カテーテルを平行移動させるガイドワイヤールーメンと、前記カテーテルを操作する張力ケーブルを収容する操作用ルーメンと、前記遠端部にあり、前記ステントを装填するドックとを有するものである、前記カテーテルと、前記ステントが前記ドックに装填されている間、当該ステントの少なくとも一部を圧縮する後退自在な圧縮スリーブと、前記ドックの遠位に配置され、送達中に前記カテーテルを先導する先行端部と、張力ケーブルと動作可能に連結され、少なくとも1つの方向平面内で前記先行端部の方向を変える操作機構とを有するものである、前記システムを提供する工程と、(ii)前記人工弁を前記ドックに装填する工程と、(iii)前記ガイドワイヤーを前記移植部位に送達する工程と、(iv)前記ガイドワイヤー上で前記カテーテルを平行移動させ、前記装填された人工弁を前記移植部位に配置する工程と、(v)前記後退自在な圧縮スリーブを後退させて前記ステントを前記移植部位で拡張させ、前記カテーテルから離脱する工程と、(vi)前記移植部位から前記カテーテルおよび前記ガイドワイヤーを抜去する工程とを有する。
【0099】
前記進歩性のある人工弁およびシステムに関して上述した属性、構成要素、材料などは、前記方法に基づいて使用される前記人工弁およびシステムに応じてそれぞれ使用することができる。
【0100】
図8~9は、移植部位への送達中、後退自在な圧縮スリーブ48、50を使って、いかにカテーテル30の前記ドック40に抗してステント21を圧縮できるか、またいかに移植部位で当該ステントを拡張させて前記カテーテル30から離脱させられるかの一例を示したものである。
図8Aは、圧縮されたステント21がカテーテル30のドック40に取り付けられている状態を示したものである。簡略化のため圧縮スリーブは示していないが、圧縮スリーブがなければ、通常、前記ステント21は拡張可能である。
図8Bは、濃い灰色の層で示した第1の圧縮スリーブ48(挿入
図Xを参照)が、いかにステント21の外側で前方に移動され、ステント21の前記中間領域28を圧縮する機能を果たすかを示したものである。下方フランジ24は、第1の圧縮スリーブ48では覆われない。
図8Cでは、薄い灰色の層で示した第2の圧縮スリーブ50(挿入
図Yを参照)が、いかに第1の圧縮スリーブ48およびステント21を、この場合はステント21の下方フランジ24も含めて、覆うよう前方に移動されるかを示したものである。そのため、第2の圧縮スリーブ50は、カテーテル30の遠端部が移植部位に送達される間、前記下方フランジ24が確実に圧縮された状態で保たれるようにする。
【0101】
図9A~Cは、圧縮スリーブを後退させることにより、いかに順次制御された態様で、ステントを有する人工弁を展開できるかを逆順に示したものである。
図9Cにおいて、第1の圧縮スリーブ48および第2の圧縮スリーブ50は、カテーテル30のドック40に取り付けられたステントの上から同軸状の構成で配備される。圧縮スリーブ48、50は協動して、前記ステントがドック40に取り付けられたまま保たれるよう、前記ステントの前記中間領域28および前記フランジ22、24を圧縮する。
図9Cにおける薄い灰色の矢印は、移植部位で前記ステントを拡張する工程の次段階へ進むため、カテーテル30の外側で第2の圧縮スリーブ50が引き戻される方向を示す。
図9Bは、第2の圧縮スリーブ50を後退させた結果を示したもので、下方フランジ24が拡張し始めている。
図9Bにおける濃い灰色の矢印は、前記ステントの各前記構成要素を拡張可能にするため、カテーテル30の外側で第1の圧縮スリーブ48が引き戻される方向を示す。
図9Aでは、第1の圧縮スリーブ48が完全に引き戻され、前記ステント21の前記下方フランジ24、上方フランジ22、および中間領域28がそれぞれ完全に拡張している。下方フランジ24は、中間領域28へ向かい反り曲がっており、これらと構成要素に挟まれた任意の組織は、しっかり固定される。
【0102】
本方法のいくつかの実施形態では、前記カテーテルの前記ドックが膨張自在なバルーンを有することができ、後退自在な圧縮スリーブの後退後、前記方法は、さらに、前記バルーンを少なくとも部分的に膨張させてさらに前記ステントを拡張させる工程を有することができる。前記ステントは少なくとも部分的に自己拡張するが、バルーンを使って、当該ステントが確実に最大限拡張した状態に達するようにすることが望ましい場合もある。
【0103】
図10は、
図9で説明した工程の結果、ワイヤーフレームワークを有する人工弁がいかにin situで移植されるか例示したものである。
図10Aは、その移植工程でカテーテル30が移植部位(僧帽弁輪)へと進められた時点を示しており、先行端部42は弁輪を通過して心室内にあり、圧縮された人工弁が装填された前記ドックは弁輪内に位置している。
図10Bでは、前記装填された人工弁から圧縮スリーブを初期後退させると、いかに下方フランジ24が部分的に拡張し、展開するか示している。
図10Cでは、前記圧縮スリーブがさらに引き戻されて、下方フランジ24がいっそう拡張している。
図10Dは、前記移植工程において前記圧縮スリーブが完全に引き戻された時点を示しており、下方フランジ24は中間領域28へ向かって反り曲がり、中間領域28は完全に拡張して僧帽弁輪に対し径方向の力を及ぼしている。僧帽弁輪の心室側で固定されていない組織は、下方フランジ24により把持され、下方フランジ24とステントの中間領域28との間に固定されている。上方フランジ22も完全に拡張した状態で、僧帽弁輪心房側の固定されていない組織を把持し、弁輪心房側の前記組織の上から「キャップ」として機能している。
【0104】
実施例1-経大腿アプローチによる経皮的移植
例示的な送達および移植処置は、人工弁を送達する本開示のシステムと、本開示に係る人工弁とを使って次のように行われる。
【0105】
まず、大腿静脈(右または左)にアクセスし、セルジンガー法で血管シースを挿入する。標準的な経中隔技術で心房中隔を通過し、バルーン拡張による裂開術(10~15mm血管形成術用バルーン)で心房に欠損孔を設け、それを拡大する。
【0106】
スーパースティッフガイドワイヤーを左心室用に慎重に成形したのち、前記新たに開けた心房欠損孔を通じて左心室内に配置する。大腿静脈にアクセスするための部位は、前記送達システムの直径に合うよう適切にサイズ調整した血管拡張器を逐次的に大きくして、より大きく、すなわち「拡張」する。
【0107】
前記人工弁を圧縮して前記送達システムの前記ドック上に位置付け、あるいは、大腿静脈に挿入できるよう前記システムを準備する。心臓超音波検査法(経食道および/または心腔内)および蛍光透視法での誘導により、前記装填した送達カテーテルを、前記ワイヤーに沿って大腿静脈内へ進め、静脈系を経由し、心房中隔に開けた欠損孔を通過させて、僧帽弁輪レベルに配置する。前記操作機構を使って前記カテーテルの前記先行端部を誘導し、脈管構造経由で前記中隔を通過させる。
【0108】
僧帽弁輪を通過し配備したら、収容スリーブを順次後退させて前記ステントを拡張させることにより、人工弁の展開を完了する。必要であれば、前記送達カテーテルの前記ドック部分に設置したバルーンを膨張させて、前記ステントを強制的に拡張させ、公称構成にする。
【0109】
前記装置の位置および安定性を確認するには、心臓超音波検査法および蛍光透視法での評価を使用する。すべてが安定していると見られた時点で、前記送達カテーテルを体内から引き戻す。大腿静脈には、止血を促すため太めの血管シースを留置する。前記心房中隔欠損は、経皮的閉鎖装置(AmplatzerまたはHelex)を使って閉じる。
【0110】
実施例2-「抜去力」の計算
本発明に係る人工弁は、in situで、いくつかの異なる力を弁輪とその周囲の組織に及ぼす。そのような力は、移植部位で係止されて適切に配置された状態で保たれる当該人工弁独自の能力に寄与する。例えば、前記上方および下方フランジは、それぞれへ向かって反り曲がり、フランジと前記中間領域との間に介在する組織は、そのフランジと中間領域との間に把持される。また、前記ステントも弁輪壁に対して径方向外向きの力を及ぼす。そのような力を個別に測定することは難しいが、移植された人工弁を抜去する上で必要な力は、前記ステントが及ぼす各力の総計の一部を表す。
【0111】
例示的な人工弁の抜去力を測定するため、実験を行った。この試験は、ヒツジの心臓を直立配置で安定に収容するよう構築したカスタム設計の箱に切除直後のヒツジの心臓を入れ、その心臓を外部から固定したものを使って行った。まず、左心房切開術を行って、僧帽弁輪を露出させる。次に、直接見える状態で、前記人工弁を僧帽弁輪内に展開した。縫合糸を当該装置の心房側各アーム部に通してループにし、中央に合わせ集めたのち、各縫合糸を等しい長さに保つよう注意しながらまとめて結び目を作った(パラシュートのコードを寄せ集めるように)。結び合わせた縫合糸をフォースゲージで引き戻し、徐々に力を強めて僧帽弁輪から前記装置を引き抜いた。この工程の目標は、前記人工弁の抜去に少なくとも15ニュートンの力が必要になるようにすることである。実際、前記人工弁は15ニュートンでも弁輪に固定された状態を保ち、測定値が20ニュートンを超えて僧帽弁および腱索組織が断裂し始めるまで抜去できなかった。そのため、前記装置は、前記人工弁が移植部位に及ぼした総力により、著しい抜去力がかかっても弁輪に付着していられたことになる。
【0112】
また、当業者であれば、本発明の新規性のある教示内容および利点を実質的に変更しない範囲で、前記例示的な実施形態に対し多数の付加的な変更(修正)形態が可能であることが容易に理解されるであろう。このため、このようないかなる変更(修正)形態も、以下の例示的請求項で定義された本発明の範囲に包含されるよう意図されている。