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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】電解研磨装置用電極
(51)【国際特許分類】
   C25F 1/00 20060101AFI20240618BHJP
   C25F 7/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C25F1/00 B
C25F7/00 K
C25F7/00 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022182308
(22)【出願日】2022-11-15
(65)【公開番号】P2024071850
(43)【公開日】2024-05-27
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591120837
【氏名又は名称】株式会社ケミカル山本
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】山本 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】佃 岩夫
(72)【発明者】
【氏名】大下 功
(72)【発明者】
【氏名】藤永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】植木 達己
(72)【発明者】
【氏名】天野 正幸
(72)【発明者】
【氏名】空 美春
(72)【発明者】
【氏名】北河 哲平
(72)【発明者】
【氏名】小野 勉
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-181900(JP,A)
【文献】登録実用新案第3201282(JP,U)
【文献】特開平03-257200(JP,A)
【文献】特表2005-531690(JP,A)
【文献】特開2014-37611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00- 1/18
C25F 7/00- 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対配置した電極とステンレス鋼の溶接加工製品との間に、該電極を被覆する保水性を備える電気短絡防止材と電解液層とを介在した状態で両者間に通電して電解し、電気化学的作用によってステンレス鋼の溶接焼け取りや清浄化を行う電解研磨装置で使用する電解研磨装置用電極であって、
柔軟性又は弾力性を有する導電性の炭素繊維材又は金属部材を単独で用い又は混在させた電極コアと、
前記電極コアが露出しないように被覆する柔軟性かつ保水性を有する電気短絡防止材と、
を備え、
前記電気短絡防止材の一端を前記電極コアが連結する通電用金属端子に固定し、前記電気短絡防止材に隔膜効果を付与させたことを特徴とする電解研磨装置用電極。
【請求項2】
前記電極コアが、複数本の前記炭素繊維材、又は複数本の前記金属部材、又は前記炭素繊維材及び金属部材の複数本の混合物が束状に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の電解研磨装置用電極。
【請求項3】
前記電極コアに柔軟性のある樹脂細線又は樹脂チューブを併用し弾力性を付与したことを特徴とする請求項1又は2に記載の電解研磨装置用電極。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電解研磨装置用電極を電極片とし、該電極片を複数個備える電解研磨装置用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼溶接加工品の溶接焼けを電気分解方式により溶解除去すると同時に、耐食性に優れた不動態皮膜を形成させるための新規な電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、過去ステンレス鋼の溶接後の溶接焼け取り洗浄作業が極めて危険な毒劇物に該当する硝弗酸に依存している実情に鑑み研究の結果、安全無害な中性塩の溶液を電解液とする電解焼け取り法を開発し、「合金鋼の脱スケール法」の名称のもとに特許第1543867号を取得し、従来の危険な毒劇物硝弗酸の使用を抑制し、より安全無害な溶接焼け取りを可能とする電解装置を開発した。
【0003】
この発明の要旨とするところは、燐酸、硫酸、弗酸の中性塩溶液にグリセリンを混合して電解液とし、被処理ステンレス鋼を陽極とする直流電解法である。この方法によれば、極めて効果的に上記焼け取り作業が実施できるが、電解時に毒性の高い六価のクロムが溶出する欠点が有ったため、この種の電解液に改良を加え、市販の単純な直流電源器をもって電解処理を施工しても六価クロムを溶出しない画期的で安全な電解液を開発し業界の注目するところとなっている。
【0004】
また従来市販の六価クロムが溶出して危険性のある中性塩電解液を使用しても、六価クロムが完璧に溶出しないように改良した画期的な電解処理用電源器を開発し、「合金鋼の溶接に伴うスケールの除去方法」の名称のもとに特許第1908719号を取得している。
【0005】
この発明の要旨とするところは、無機中性塩の溶液を電解液とし、直流に振幅が直流電圧に等しいか、又は若干高い程度の交流を重ね合わせた交直重乗電流をもって電解処理することを特長とするもので、電解時に溶出した有害な六価クロムは直ちに還元され、無害化される卓越した効果を奏するものである。
【0006】
本出願人は、その他電気化学的手法として、従来の技術ではステンレス表面の公知の酸素系不動態皮膜を破壊するため適用不可能とされていた交流電流を用いることも可能にして、ステンレス鋼表面の優美性を維持したままでその表面に強力な不動態皮膜を形成させることにより、ステンレス鋼本来の耐食性を損なうことなく、むしろ向上させながらステンレス鋼表面に付着している溶接や熱処理による酸化膜や、さび、油分、汚れ等の各種異物を一工程で除去するステンレス鋼の表面洗浄、不動態化処理方法を確立し、「ステンレス鋼表面の清浄、不動態化処理方法」の名称のもとに特許第3484525号を取得している。
【0007】
また特許第4218000号「含弗素乃至弗素・酸素系被膜層を形成させたステンレス鋼とその製造方法」では、特許第3484525号で不明であった強力な不動態皮膜を形成させるメカニズムをも解明し、電気化学的手法により、ステンレス鋼の表面部乃至はその近傍に対し、弗酸若しくは弗酸と酸素とをイオン状で拡散、浸透せしめることにより含弗素系乃至含弗素・酸素系の皮膜層を形成させ、従来のステンレス鋼表面に形成されている酸素系不動態皮膜に比べて耐食性に優れた新規な皮膜の形成によってもたらせる効果により、該ステンレス鋼の鋼種に応じて保有する固有の耐食性をより一層飛躍的に向上させ、特にオーステナイト系ステンレス鋼に特有の塩素による孔食発生から異常腐食さらには応力腐食割れに至る諸問題を大幅に改善したステンレス鋼とその製造方法発明した。
【0008】
一般に、前述したような電解処理装置の根幹を成す電極部の役割は、ステンレス鋼等の導電性材質に天然又は合成繊維の織布若しくは不織布よりなる保水性物質を隔膜として被覆せしめた状態のもので、該電極と被処理ステンレス鋼表面との間に電解液を介在させて電解処理を行うものであるが、従来の電極は、構造そのものが金属の平板に織物を被せた画一的なものであるだけに、あらゆる溶接状況に対応し充分な溶接焼けの除去性能を上げるには難があり、概ね平滑な溶接周辺部に適用されてきた経緯がある。
【0009】
本出願人はあらゆる溶接状況に対応する電極として「電解研磨装置用電極」の名称のもとに特許第5849348号を取得している。この発明の要旨とするところはステンレス鋼平板を電気短絡防止の布袋で被覆し、該布袋内全体に導電性の炭素繊維あるいはステンレス繊維を装着したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第1543867号公報
【文献】特許第1908719号公報
【文献】特許第3484525号公報
【文献】特許第4218000号公報
【文献】特許第5849348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許第5849348号に記載の電解研磨装置用電極は、柔軟で弾力性があるため変形自在な電極となり多くのユーザーから好評を博している。一方、電極のコア部にステンレス製平板を用いているため、炭素繊維あるいはステンレス繊維を内包した布袋の柔軟性に制限があり、曲面部に対しては当該電極の一部しか密着しないため、完全な溶接焼け取りに時間を要している。
【0012】
本発明の目的は、曲面部への密着面を増加させて効率的な焼け取りを可能とし、同時に溶接焼け取り除去部に不動態皮膜を形成させることのできる電解研磨装置用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、相対配置した電極とステンレス鋼の溶接加工製品との間に、該電極を被覆する保水性を備える電気短絡防止材と電解液層とを介在した状態で両者間に通電して電解し、電気化学的作用によってステンレス鋼の溶接焼け取りや清浄化を行う電解研磨装置で使用する電解研磨装置用電極であって、柔軟性又は弾力性を有する導電性の炭素繊維材又は金属部材を単独で用い又は混在させた電極コアと、前記電極コアが露出しないように被覆する柔軟性かつ保水性を有する電気短絡防止材と、を備え、前記電気短絡防止材の一端を前記電極コアが連結する通電用金属端子に固定し、前記電気短絡防止材に隔膜効果を付与させたことを特徴とする電解研磨装置用電極である。
【0014】
本発明に係る電解研磨装置用電極において、前記電極コアが、複数本の前記炭素繊維材、又は複数本の前記金属部材、又は前記炭素繊維材及び金属部材の複数本の混合物が束状に形成されてなることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る電解研磨装置用電極において、前記電極コアに柔軟性のある樹脂細線又は樹脂チューブを併用し弾力性を付与したことを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記電解研磨装置用電極を電極片とし、該電極片を複数個備える電解研磨装置用電極である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電解研磨装置用電極は、従来の電極では充分な機能が発揮できなかったステンレス鋼の溶接加工製品、特に曲面部に対しても柔軟性や弾力性を持たせたことで曲面に沿って密着し、溶接焼けを残すことなく効率よく除去できると共に、溶接焼け部分に不動態皮膜を形成させ耐食性の改善が図れるなど、産業上益するところは極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る電解研磨装置用電極11を含む電解研磨装置1の構成及び使用方法を説明するための図である。
図2】本発明の第1実施形態の電解研磨装置用電極11の構成を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の第1実施形態の電解研磨装置用電極11の構成を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の第2実施形態の電解研磨装置用電極12の構成を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の第3実施形態の電解研磨装置用電極13の構成を模式的に示す断面図である。
図6】本発明の第4実施形態の電解研磨装置用電極14の構成を模式的に示す断面図である。
図7】本発明に係る電解研磨装置用電極を備える電解研磨装置を用い溶接曲面部の溶接焼け取りの処理を施した実施例である。
図8】本発明に係る電解研磨装置用電極を備える電解研磨装置を用い丸棒点付け溶接部の焼け取り処理を施した実施例である。
図9】本発明に係る電解研磨装置用電極の効果を示す実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態の電解研磨装置用電極11を含む電解研磨装置1の構成及び使用方法を説明するための図である。電解研磨装置1は、電源器2と、電源器2に接続された電極グリップコード3及びアースクリップコード5と、電解研磨装置用電極11とを有する。電極グリップコード3の先端には電極グリップ4が設けられ、電極グリップ4に電解研磨装置用電極11が取付けられる。
【0020】
電解研磨装置1の使用方法は、以下のとおりである。アースクリップコード5の先端に設けられたクリップ6を溶接加工品200に取り付ける。電解研磨装置用電極11に電解液容器100に注入された電解液101を含浸させ(図1(B)参照)、電解研磨装置用電極11を溶接加工品200の溶接焼け部201に当てると通電が始まり、電気化学的作用にて溶接焼けが除去されていく。
【0021】
電解研磨装置1は、電解研磨装置用電極11を除き従来の電解研磨装置と同じ構成であり、特に限定されるものではない。また電解研磨装置1の使用方法も特に限定されるものではない。一方、電解研磨装置用電極11は、以下に説明のとおり構成・構造が特定される。
【0022】
図2及び図3は、本発明の第1実施形態の電解研磨装置用電極11の構成を模式的に示す断面図である。図2(a)、(b)、(c)は、それぞれ電極コア16に炭素繊維21a、炭素繊維撚糸21b、炭素繊維紐21cを使用する電解研磨装置用電極11である。また図3(a)、(b)、(c)は、それぞれ電極コア16に金属細線22a、金属線編帯22b、炭素繊維撚糸21bと金属細線22aとを使用する電解研磨装置用電極11である。
【0023】
本発明の第1実施形態の電解研磨装置用電極(以下、電極と記す)11は、導電性を有する電極コア16と、電極コア16を覆う不導電性の電気短絡防止材30と、通電用金属端子35とを含む。
【0024】
図2(a)の電極コア16は、炭素繊維21aを複数本束ねたものであり、導電性及び柔軟性を有する。炭素繊維は、公知の炭素繊維を使用することができる。電極コア16に使用する炭素繊維材の形態は、繊維状の炭素繊維21aの他、炭素繊維撚糸21b(図2(b)参照)、又は炭素繊維紐21c(図2(c)参照)を使用することができ、またこれらを混合して使用してもよい。電極コア16の一端部は、通電用金属端子35に固着される。
【0025】
図2では炭素繊維材を使用した電極コア16を示したが、電極コア16は、導電性を有しかつ柔軟性又は弾力性を有する部材であればよく炭素繊維材以外の部材であってもよい。炭素繊維材以外の部材としては、金属製の針金、細線22a(図3(a)参照)、帯板、薄板22c、さらには金属細線の編帯22b(図3(b)参照)などの金属材がある。また金属コイルばねなども導電性、柔軟性、弾力性を有するので電極コア16の部材として使用することができる。
【0026】
電極コア16は、1つの部材で構成されていてもよく、複数の部材で構成されていてもよい。電極コア16を複数の部材で構成する場合、これらは同種の部材又は異種の部材であってもよい(図3(c)参照)。また電極コア16を構成する複数の部材は、同一の形状・寸法の部材であっても、異なる形状・寸法の部材であってもよい。
【0027】
通電用金属端子35は、電極グリップ4に固定可能に構成される。通電用金属端子35は電極グリップ4にボルト等を用い堅固に固定し使用される。
【0028】
電気短絡防止材30は、電極コア16を被覆する筒状の不導電性の織布からなる被覆材である。電気短絡防止材30は、不導電性、保水性及び柔軟性を有し、電極コア16を被覆することができれば素材、形状は特に限定されない。素材としては、不導電性の織布、樹脂製の不織布が挙げられる。図2に示す電気短絡防止材30は、先端部が開口しているが、先端部が閉じた袋状であってもよい(図6参照)。また織布又は不織布からなる平板状の布を巻付けてもよい。
【0029】
電気短絡防止材30は、図2図3に示すように電極コア16を覆った状態で一端が通電用金属端子35に固定される。なお電気短絡防止材30は、電極コア16を被覆することができれば固定方法は特に限定されない。
【0030】
上記構成からなる電極11は、電極自身が柔軟性、可撓性、あるいは弾力性を有することが必要である。電極11の寸法は、特に限定されるものではない。電極11の外観形状も特に限定されるものではなく、代表的には円柱状、角柱状、紡錘状、扁平状などが挙げられ、溶接加工品200の溶接焼け部201の形状に適したものを使用すればよい。
【0031】
図4は、本発明の第2実施形態の電解研磨装置用電極12の構成を模式的に示す断面図である。図1から図3に示す第1実施形態の電解研磨装置用電極11と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
第2実施形態の電解研磨装置用電極12(以下、電極12と記す)も第1実施形態の電解研磨装置用電極11と同様に、電解研磨装置1の電極グリップ4に取付け使用する。電極12は、第1実施形態の電極11と基本構成を同じくするが、電極コア17の構成が異なる。
【0033】
電極コア17は、炭素繊維21aと合成樹脂細チューブ23とで構成される。第1実施形態の電極コア16は、全て導電性の部材で構成されるが、電極コア17は、導電性の部材と不導電性の部材とで構成される。ここでは電極コア17の導電性部材として炭素繊維21aを使用するが、導電性部材は、炭素繊維撚糸21b、炭素繊維撚紐21c、金属細線22a、金属線編帯22bなどであってもよく、これらを2種以上含むものであってもよい。
【0034】
合成樹脂細チューブ23は、主として電極12に弾力性を付与する役目を果たす。合成樹脂細チューブ23は、チューブ内に電解液101を保持する効果もある。合成樹脂細チューブ23の材質は、特に限定されるものではないが、耐薬品性、耐熱性に優れるポリテトラフルオロエチレンPTFEなどを好適に使用することができる。
【0035】
合成樹脂細チューブ23の口径、本数も特に限定されるものではない。電極コア17を構成する合成樹脂細チューブ23の口径、肉厚、本数、材質は、電極12の弾力性に影響を与えるため、この点を考慮し適宜決定すればよい。本実施形態では、合成樹脂細チューブ23を使用するが、弾力性を有する中実材である樹脂細線を用いてもよく、また樹脂細チューブと樹脂細線とを使用してもよい。
【0036】
図5は、本発明の第3実施形態の電解研磨装置用電極13の構成を模式的に示す断面図である。図1から図3に示す第1実施形態の電解研磨装置用電極11、図4に示す第2実施形態の電解研磨装置用電極12と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
第3実施形態の電解研磨装置用電極13(以下、電極13と記す)も第1実施形態の電解研磨装置用電極11と同様に、電解研磨装置1の電極グリップ4に取付け使用する。電極13は、第1実施形態の電極11と基本構成を同じくするが電極13の形態が異なる。
【0038】
第1実施形態の電極11は、中心部に電極コア16を配置し、電極コア16全体を電気短絡防止材30で被覆する。これに対して第3実施形態の電極13は、3つの電極片13aが1つの通電用金属端子35に固定されてなる。ここに示す3つの電極片13aは、同一構造、同一形態である。
【0039】
電極片13aは、第1実施形態の電極11に比較して外径が小さいものの、構造は電極11と同じである。図5に示す電極片13aは、電極コア16が炭素繊維21aであるが、電極コア16は、炭素繊維21aに限定されるものではなく、電極11又は電極12と同様に種々の部材を用いることができる。
【0040】
図5に示す電極13は、3つの同一構造、同一形態の電極片13aからなるが、電極片13aの数は特に限定されるものではない。電極13を構成する電極片は、電極コアが電気短絡防止材35で被覆されていればよく、電極13は、異なる構造の電極片、異なる形態の電極片で構成されていてもよい。
【0041】
図6は、本発明の第4実施形態の電解研磨装置用電極14の構成を模式的に示す断面図である。図1から図3に示す第1実施形態の電解研磨装置用電極11、図4に示す第2実施形態の電解研磨装置用電極12、図5に示す第3実施形態の電解研磨装置用電極13と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
第4実施形態の電解研磨装置用電極14(以下、電極14と記す)も第1実施形態の電解研磨装置用電極11と同様に、電解研磨装置1の電極グリップ4に取付け使用する。第1から第3実施形態の電極11、12、13は、電極コア16、17と、電極コア16、17を被覆する電気短絡防止材30と、通電用金属端子35とで構成されるが、第4実施形態の電極14は、さらに中間材25を備える点で第1から第3実施形態の電極11、12、13とは異なる。
【0043】
中間材25は、導電性及び柔軟性を有するフェルト状の炭素繊維であり、電極コア16と電気短絡防止材30との間に配置される。中間材25としては、フェルト状の炭素繊維の他に、炭素繊維21a又は金属細線22aを絡ませクッション性を持たせた部材などが挙げられる。中間材25は、電極コア16と接触するが、通電用金属端子35と接触しなくてもよい。
【0044】
図6に示す電極14は、電極コア16が金属薄板バネ鋼22cであり、電極コア16の基端部を電極グリップ4に直接固定するタイプの電極である。図6において電極14のうち電気短絡防止材30から突出している右端の電極コア16は、実質的に通電用金属端子35として機能する。図6に示す電極14においても、他の実施形態と同様に電極コア16を通電用金属端子35に固定し、通電用金属端子35を電極グリップ4に固定してもよい。電気短絡防止材30は、電極コア16及び中間材25を被覆することできれば固定方法等は特に限定されない。
【0045】
電極コア16と電気短絡防止材30との間に導電性及び柔軟性を有する中間材25を配置する方法は、第1から第3実施形態の電極11、12、13においても適用することができる。
【0046】
以上、第1から第4実施形態の電解研磨装置用電極11、12、13、14を用いて説明のとおり、本発明に係る電解研磨装置用電極は、通電時に隔膜となる電気短絡防止材により電極コア、電極コア及び中間材が被覆されているので、電極と溶接加工品との接触によるスパークを防止でき、仕上がり性及び耐食性が向上する。
【0047】
また本発明に係る電解研磨装置用電極は、柔軟性、弾力性を有するので溶接加工物の形状に追従して密着し、焼け取り速度が一段と向上する。さらに本発明に係る電解研磨装置用電極は、種々の形状の外観形状とすることができるので曲面部、箱の隅、狭隘部、すき間などの溶接焼けにも対応することができる。
【0048】
また電極コアに金属細線を用いた本発明に係る電解研磨装置用電極は、柔軟性とともに形状保持性を備えるので、溶接加工物の曲面形状に合わせて変形させ使用すれば電極全面が密着し、効率化が図れる(図7(A)参照)。また電極コアにばね弾性を有する金属薄板を用いた本発明に係る電解研磨装置用電極は、溶接加工物への押し付け力(密着性)が強まり、特に平滑な溶接周辺の焼け取りに好適である。
【0049】
また電極コアに樹脂製のチューブ、樹脂製の細線・棒が加えられた本発明に係る電解研磨装置用電極は、作業に適した柔軟性に設定することができるので作業性が向上する。また本発明に係る電解研磨装置用電極は、電気短絡防止材ほか、電極コア、さらには中間材も電解液を保持することができるので保水性が向上し、作業効率が一段と高まる。
【実施例
【0050】
実施例1
図7は、本発明に係る第1実施形態の電解研磨装置用電極11を備える電解研磨装置1を用い、溶接曲面部の処理を施した実施例である。図7(A)が処理前、図7(B)が処理後であり、溶接焼けがきれいに除去されていることが分かる。
【0051】
実施例2
図8は、本発明に係る第1実施形態の電解研磨装置用電極11を備える電解研磨装置1を用い、丸棒点付け溶接部に処理を施した実施例である。図8(A)が処理前、図8(B)が処理後であり、溶接焼けがきれいに除去されていることが分かる。
【0052】
実施例3
図9は、本発明に係る電解研磨装置用電極の電気短絡防止材の効果を示す図であり、図9の左図は、電気短絡防止材なし、図9の右図は、電気短絡防止材ありである。電極コアを電気短絡防止材で被覆しない状態で使用すると腐食が発生することが分かる。一方、本発明に係る電解研磨装置用電極11(図9右図)は、電極コアが電気短絡防止材で被覆されているので電気短絡防止材の隔膜効果により腐食の発生を防止できることが分かる。
【0053】
実施例4
本発明に係る電解研磨装置用電極と従来の電解研磨装置用電極との溶接焼き取り速度の対比結果を表1に示した。溶接焼き取り速度は、直線部及び曲線部それぞれ10cmの長さを処理するに要する時間とした。本発明に係る電解研磨装置用電極には、図3(c)に記載の電極11及び図6に記載の電極14を使用した。従来の電解研磨装置用電極は、可撓性に乏しく柔軟性のないステンレス鋼平板を電極コアとし、中間材に炭素繊維を使用し、布袋を電気短絡防止材とする電極であり柔軟性がほとんどない。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように本発明に係る電解研磨装置用電極は、従来の電解研磨装置用電極に比較して、直線部で1.5~1.8倍、曲面部で1.4~1.8倍の溶接焼き取り速度であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
ステンレス鋼溶接加工品の溶接焼け取りに利用でき、特に曲面部の焼け取りスピード及び仕上がり性が向上するだけでなく,耐食性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 電解研磨装置
2 電源器
3 電極グリップコード
4 電極グリップ
5 アースクリップコード
6 クリップ
11、12、13、14 電解研磨装置用電極
13a 電極片
16、17 電極コア
21a 炭素繊維
21b 炭素繊維撚糸
21c 炭素繊維紐
22a 金属細線
22b 金属線編帯
22c 金属薄板
23 合成樹脂細チューブ
25 中間材
30 電気短絡防止材
35 通電用金属端子
100 電解液容器
101 電解液
200 溶接加工品
201 溶接焼け部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9