(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】スタビロン改変体に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント
(51)【国際特許分類】
C07K 16/44 20060101AFI20240618BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240618BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240618BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240618BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240618BHJP
C07K 4/12 20060101ALI20240618BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C07K16/44 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/531 A
C07K4/12
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2022547007
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2021032827
(87)【国際公開番号】W WO2022050423
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2020150003
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】舛廣 善和
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181836(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/134226(WO,A1)
【文献】舛廣 善和,タンパク質の高発現や安定化を可能にし、 先端医療にも有望なスタビロンタグの開発,NUBIC NEWS,日本大学産官学連携知財センター,2017年07月01日,pp.11-12
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,2010年,Vol.397, pp.345-349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、
を含む重鎖可変領域と、
(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、
(e)配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、
(f)配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L3と、
を含む軽鎖可変領域と、を含み、
配列番号9、10又は20に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合する、抗体、又は、その抗原結合フラグメント。
【請求項2】
配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む、請求項1に記載の抗体、又は
、その抗原結合フラグメント。
【請求項3】
配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合し、且つ配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに結合しない、
請求項1又は2に記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメント。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメントをコードする核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含むベクター。
【請求項6】
請求項4に記載の核酸を含む形質転換体。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメントを含む、キット。
【請求項8】
配列番号20に記載のアミノ酸配列を含み且つアミノ酸数が15以下であるペプチドをさらに含む、請求項
7に記載のキット。
【請求項9】
配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むベクターをさらに含む、請求項
7又は
8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタビロン改変体に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントに関する。また、前記抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸又はベクター、前記核酸又はベクターを導入した形質転換体、前記抗体又は抗原結合フラグメントからスタビロン改変体タグ融合タンパク質を解離可能なペプチド、及び、前記スタビロン改変体に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを含むキットに関する。
本願は、2020年9月7日に、日本に出願された特願2020-150003号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エピトープタグとして、FLAG(登録商標)タグが普及している(例えば、特許文献1)。エピトープタグは、タグを認識する抗体(抗タグ抗体)のエピトープとなるタグ配列のことをいう。FLAGタグを始めとするエピトープタグは、抗タグ抗体とともに用いることにより、目的のタンパク質の局在や発現量を調査したり、精製したりすることができる。
これまでに、他分子のタンパク質分解を強力に防ぐモチーフであるスタビロン(Stabilon)配列が知られている(例えば、特許文献2)。スタビロン配列は、天然に存在するアミノ酸配列である。
【0003】
タンパク質の検出又は精製用のタグとしては、天然に存在しないアミノ酸配列を有することが好ましい。そのため、スタビロン改変体が提案されている(例えば、特許文献3)。特許文献3に記載のスタビロン改変体は、天然には存在しないアミノ酸配列を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平7-4255号公報
【文献】特許第5961380号公報
【文献】特許第6646310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スタビロン改変体をエピトープタグとして実用化するためには、スタビロン改変体に特異的に結合する抗体が必要である。
スタビロン改変体に特異的に結合する抗体を実用化するためには、工業的スケールでの産生が求められるため、モノクローナル抗体であることが望ましい。また、近年では動物愛護の観点からも、モノクローナル抗体が望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、スタビロン改変体に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを提供することを課題とする。また、前記抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸又はベクター、前記核酸又はベクターを導入した形質転換体、前記抗体又は抗原結合フラグメントからスタビロン改変体タグ融合タンパク質を解離可能なペプチド、及び、前記抗体又は抗原結合フラグメントを含むキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1](a)配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-H1と、(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-H2と、(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-H3と、を含む重鎖可変領域と、(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号5に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-L1と、(e)配列番号6に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-L2と、(f)配列番号7に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号7に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-L3と、を含む軽鎖可変領域と、を含み、スタビロン改変体に特異的に結合する、抗体、又は、その抗原結合フラグメント。
[2]配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、を含む重鎖可変領域、及び、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L3と、を含む軽鎖可変領域を含む、[1]に記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメント。
[3]配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合し、且つ配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに結合しない、[1]又は[2]に記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメント。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメントをコードする核酸。
[5][4]に記載の核酸を含むベクター。
[6][4]に記載の核酸を含む形質転換体。
[7]配列番号20に記載のアミノ酸配列を含み、アミノ酸数が15以下である、ペプチド。
[8][1]~[3]のいずれか1つに記載の抗体、又は、その抗原結合フラグメントを含む、キット。
[9][7]に記載のペプチドをさらに含む、[8]に記載のキット。
[10]配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むベクターをさらに含む、[8]又は[9]に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スタビロン改変体に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを提供することができる。また、前記抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸又はベクター、前記核酸又はベクターを導入した形質転換体、前記抗体又は抗原結合フラグメントからスタビロン改変体タグ融合タンパク質を解離可能なペプチド、及び、前記抗体又は抗原結合フラグメントを含むキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】抗Flag抗体又は抗体「24-8G-4G」を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す。図中、A~Fは、表1の6種の発現プラスミドを示す。
【
図2】Flag-hRARα-StabilonNo9/pcDNA3を導入したHEK293T細胞の細胞抽出液において、抗Flag抗体(IP;Flag)、抗体「23-2E」(IP;23)、又は抗体「24-8G-4G」(IP;24)を用いて免疫沈降し、ウエスタンブロット解析した結果を示す。図中。「Lysate」は免疫沈降を行っていないサンプルを示す。
【
図3】免疫沈降サンプルをアクリルアミドゲル電気泳動し、ゲルをCBB染色した結果を示す。免疫沈降サンプルは、
図2と同様のものを用いた。図中、「IP;Prog」は、ProteinG sepharoseのみを添加して反応させたサンプル(抗体非添加)を示す。
【
図4】Flag-hRARα-No.9-Stabilon/pcDNA3を導入したHEK293T細胞を、抗体「24-8G-4G」を用いて免疫染色した結果を示す。
【
図5】ペプチドA(図中の「A」)又はペプチドB(図中の「B」)によるスタビロン改変体タグ融合タンパク質の溶出試験の結果を示す。抗体「24-8G-4G」結合ProteinG sepharoseからスタビロン改変体タグ融合タンパク質を溶出し、溶出液のウエスタンブロット解析を行った。図中、「3.0」は0.1M Glycine Buffer(pH3.0)を用いて溶出した結果を示す。
【
図6】大腸菌発現系における、スタビロン改変体タグ及び抗スタビロン改変体抗体の利用可能性をウエスタンブロット解析により検討した結果を示す。図中、「IPTG(+)」は、lacプロモーター制御下でスタビロン改変体タグ融合タンパク質を発現する大腸菌において、IPTGによる発現誘導を行った菌体の抽出液を用いた結果を示す。図中、「IPTG(-)」は、lacプロモーター制御下でスタビロン改変体タグ融合タンパク質を発現する大腸菌において、IPTGによる発現誘導を行わなかった菌体の抽出液を用いた結果を示す。
【
図7】植物発現系及び昆虫発現系における、スタビロン改変体タグ及び抗スタビロン改変体抗体の利用可能性をウエスタンブロット解析により検討した結果を示す。図中、「(+)」は、スタビロン改変体タグ融合タンパク質を添加した生物抽出液を用いた結果を示す。図中、「(-)」は、スタビロン改変体タグ融合タンパク質を添加していない生物抽出液を用いた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「を含む」(comprise)という用語は、対象となる構成要素以外の構成要素を含んでいてもよいことを意味する。「からなる」(consist of)という用語は、対象となる構成要素以外の構成要素を含まないことを意味する。「から本質的になる」(consist essentially of)という用語は、対象となる構成要素以外の構成要素を特別な機能を発揮する態様(発明の効果を完全に喪失させる態様など)では含まないことを意味する。本明細書において、「を含む」(comprise)と記載する場合、「からなる」(consist of)態様、及び「から本質的になる」(consist essentially of)態様を包含する。
【0011】
タンパク質、ペプチド、核酸(DNA、RNA)、ベクター、及び細胞は、単離されたものであり得る。「単離された」とは、天然状態から分離された状態を意味する。本明細書に記載されるタンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、ベクター、及び細胞は、単離されたタンパク質、単離されたペプチド、単離されたポリヌクレオチド(単離されたDNA、単離されたRNA)、単離されたベクター、及び単離された細胞であり得る。
【0012】
本明細書において、塩基配列どうし又はアミノ酸配列どうしの配列同一性(又は相同性)は、2つの塩基配列又はアミノ酸配列を、対応する塩基又はアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除く、塩基配列全体又はアミノ酸配列全体に対する一致した塩基又はアミノ酸の割合として求められる。塩基配列又はアミノ酸配列どうしの配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、塩基配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTNにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができ、アミノ酸配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTPにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
【0013】
<抗体、又は、その抗原結合フラグメント>
一態様において、本発明は、スタビロン改変体に特異的に結合する抗体、又は、その抗原結合フラグメントを提供する。
前記抗体は、
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-H1と、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-H2と、
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-H3と、
を含む重鎖可変領域と、
(d)配列番号5に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号5に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-L1と、
(e)配列番号6に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-L2と、
(f)配列番号7に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号7に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含むCDR-L3と、
を含む軽鎖可変領域と、
を含み、スタビロン改変体に特異的に結合する。
【0014】
スタビロンは、主として酸性アミノ酸からなるアミノ酸配列を有するタンパク質分解阻害モチーフである。スタビロンは、好ましくは、DP-1タンパク質(ヒトDP-1の例:GenBank No.NM_007111.5)のC末端側の酸性アミノ酸領域の全部又は一部のアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む、タンパク質分解阻害モチーフである。スタビロン配列は、スタビロンが有するアミノ酸配列である。
具体的には、スタビロンは、DP-1タンパク質のC末端側の領域である395~410位のアミノ酸配列領域から成る分解阻害モチーフである。典型的には、スタビロンは、下記アミノ酸配列を含む。
EDDEEDDDFNENDEDD(配列番号11)
E:グルタミン酸
D:アスパラギン酸
N:アスパラギン
F:フェニルアラニン
【0015】
本明細書において、「スタビロン改変体」とは、上記スタビロン配列の改変体を意味する。具体的には、スタビロン改変体は、配列番号11で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を有する。スタビロン改変体は、好ましくは下記式(I)で表されるアミノ酸配列を含む。
Xp(XFDXN)mXq(XFDXN)nXr (I)
(XはE又はDを表し;pは0~10の整数を表し;qは0~20の整数を表し;rは0~10の整数を表し;mは0~3の整数を表し;nは0~3の整数を表す。但し、p+q+r≧4である。)
【0016】
スタビロン改変体は、天然には存在しないアミノ酸配列からなることが好ましい。スタビロン改変体としては、配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列からなるものが好ましい。
【0017】
本明細書において、「天然に存在しないアミノ酸配列」とは、天然に存在するタンパク質内に存在しないアミノ酸配列を意味する。天然に存在しないアミノ酸配列は、例えば、対象のアミノ酸配列をクエリーとして、タンパク質データベースを検索し、相同性の高い(例えば、配列同一性が60%以上、70%以上、又は80%以上)天然タンパク質がヒットしないアミノ酸配列である。タンパク質データベースとしては、例えば、NCBIが提供するNon-redundant protein sequences(nr)データベースが挙げられる。天然に存在しないアミノ酸配列は、例えば、nrデータベース(ftp://ftp.ncbi.nlm.nih.gov/blast/db/)を、blastp(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE=Proteins)プログラムを用いて検索した結果、アライメントスコアが80以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは50以下のタンパク質しかヒットしないアミノ酸配列であってもよい。
【0018】
本明細書において、抗体には、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラスが含まれる。
本明細書において、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体を意味する。本実施形態の抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0019】
本明細書において、抗体の「抗原結合フラグメント」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、当該抗体が特異的に結合する標的タンパク質(抗原)に特異的に結合するものを意味する。抗原結合フラグメントは、通常、抗体の6つのCDR(CDR-H1~3、CDR-L1~3)のいずれかを含む。抗原結合フラグメントは、6つのCDRの全てを含むことが好ましい。抗原結合フラグメントとしては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
【0020】
本明細書において、「特異的に結合する」とは、抗体が標的タンパク質(抗原)に高い結合性を示し、他の抗原に対する結合性が認められないか、極めて低いことを意味する。抗体の抗原に対する結合性は、例えばin vitroアッセイにおける抗体の抗原への結合を定量することにより評価することができる。前記in vitroアッセイとしては、例えば、精製抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIAcore、GE-Healthcare Uppsala、Sweden等)等が挙げられる。抗原に対する抗体の結合親和性は、ka(結合速度定数:抗体-抗原複合体からの抗体結合に関する速度定数)、kd(解離速度定数)、及び解離定数KD(kd/ka)によって規定することができる。抗体が抗原に特異的に結合している場合の解離定数(KD)は、10-8mol/L以下であることが好ましく、10-13mol/L以上10-9mol/L以下であることがより好ましい。
【0021】
本明細書中において「アミノ酸が欠失されている」とは、アミノ酸配列の任意の位置のアミノ酸が欠損していることを意味する。
【0022】
本明細書中において「アミノ酸が置換されている」とは、アミノ酸配列の任意の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換していることを意味する。アミノ酸が置換される場合、元のアミノ酸の側鎖と置換されたアミノ酸の側鎖は、化学的性質が類似することが好ましい。
化学的性質が類似するアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、アミノ酸は、側鎖の種類により、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸(炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・スレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン))等に分類することができる。
【0023】
本明細書中において、「アミノ酸が付加されている」とは、アミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか又は両方にアミノ酸が付加されること、又はペプチドの任意の位置にアミノ酸が挿入されることを意味する。
【0024】
前記(a)~(f)において、欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸の数は、特に限定されないが、例えば、1~4個、1~3個、1個~2個、又は1個が好ましい。
【0025】
本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、中でも、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、を含む重鎖可変領域、及び、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むCDR-L3と、を含む軽鎖可変領域を有することが好ましい。本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるCDR-H1と、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるCDR-H2と、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるCDR-H3と、を含む重鎖可変領域、及び、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるCDR-L1と、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるCDR-L2と、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるCDR-L3と、を含む軽鎖可変領域を有することが好ましい。
本明細書において、「CDR」は相補性決定領域(complementarity-determining region)を意味する。本明細書において、抗体の重鎖可変領域が有する3つのCDRをN末端側から順に、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と記載する。本明細書において、抗体の軽鎖可変領域が有する3つのCDRをN末端側から順に、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3と記載する。
【0026】
本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、スタビロン改変体に特異的に結合し、且つスタビロンに結合しないことが好ましい。
すなわち、本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合し、且つ配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに結合しないことがより好ましい。
【0027】
本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントの製造方法としては、特に限定されず、公知の抗体製造方法を用いることができる。公知の抗体製造方法としては、例えば、ハイブリドーマ法、組換えDNA法等が挙げられる。
【0028】
ハイブリドーマ法としては、例えば、ケーラー及びミルスタインにより開発された方法(例えば、Kohler & Milstein, Nature, 256:495,1975. 参照)等が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞としては、例えば抗原で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等が挙げられる。また、免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することができる。ミエローマ細胞としては、公知の種々の細胞株を使用することができる。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、同一の動物種起源のものであることが好ましい。ハイブリドーマを得る方法としては、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、標的タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る方法等が挙げられる。ハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体を得る方法としては、ハイブリドーマの培養液から取得する方法、または、ハイブリドーマを移植した哺乳動物の腹水から取得する方法等が挙げられる。
【0029】
組換えDNA法としては、例えば本実施形態の抗体又は抗原結合フラグメントをコードする核酸(DNA)を適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、本実施形態の抗体又は抗原結合フラグメントを組換え抗体として産生させる手法等が挙げられる(例えば、「P. J. Delves, Antibody Production : Essential Techniques, 1997 WILEY」、「P. Shepherd and C. Dean Monoclonal Antibodies, 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS」、「Vandamme A. M. et al., Eur. J. Biochem. 192 : 767-775 (1990)」参照)。本実施形態の抗体又は抗原結合フラグメントをコードするDNAは、これらを産生するハイブリドーマ又はB細胞等からクローニングしてもよく、ホスホロアミダイト法等により化学合成してもよい。
本実施形態の抗体をコードするDNAは、抗体の重鎖及び軽鎖をそれぞれコードするDNAをそれぞれ別の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい。あるいは、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(例えば、国際特許出願第94/11523号参照)。本実施形態の抗体又は抗原結合フラグメントは、上記のように形質転換された宿主細胞を培養することにより、宿主細胞に産生させることができる。産生された抗体又は抗原結合フラグメントは、宿主細胞内又は培養液から分離及び精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体又は抗原結合フラグメントの分離及び精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。
【0030】
トランスジェニック動物を用いた方法では、例えば、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等)を作製し、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得する方法等が挙げられる。
【0031】
本実施形態の抗体は、例えば、腸骨リンパ法によって作製することができる。
マウス腸骨リンパ節法としては、日本国特許第4098796号公報に記載の方法を用いることができる。マウス腸骨リンパ節法は、免疫をしたマウスの腸骨リンパ節を使用する。抗原免疫注射は、マウスの尾根部への1回のみとし、抗体免疫注射後2~3週間後に細胞融合を行う。その後、ELISAスクリーニングを行い、ハイブリドーマのクローニングを行う。
【0032】
本実施形態の抗体又は抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含むことが好ましい。
【0033】
本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、スタビロン改変体に特異的に結合できるものであれば、アミノ酸配列変異体であってもよい。具体的には、本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含むものであってもよい。重鎖可変領域又は軽鎖可変領域において欠失、置換若しくは付加されるアミノ酸の数は、例えば、1~20個が挙げられ、1~10個が好ましく、1~5個がより好ましく、1~3個がさらに好ましく、1又は2個が特に好ましい。あるいは、本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有する重鎖可変領域と、配列番号8に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有する軽鎖可変領域と、を含むものであってもよい。前記配列同一性は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0034】
アミノ酸配列変異体は、抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、又はペプチド合成によって作製することができる。抗体のアミノ酸配列において改変される部位は、改変される前の抗体と同等の抗原結合活性を有する限り、特に限定されない。改変部位は、抗体の重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよく、可変領域(フレームワーク領域及びCDR)であってもよい。CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法等を用いてもよい(例えば、「PNAS, 102 : 8466-8471(2005)」、「Protein Engineering, Design&Selection,21 : 485-493 (2008)」、国際公開第2002/051870号、「J. Biol. Chem., 280 : 24880-24887 (2005)」、「Protein Engineering, Design&Selection, 21 : 345-351 (2008)」参照)。
【0035】
アミノ酸配列変異体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、または配列番号8に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域において、CDRのアミノ酸配列が改変されてもよく、フレームワーク領域のアミノ酸配列が改変されてもよい。
重鎖可変領域における改変の割合は、CDR以外の重鎖可変領域(すなわち4つのフレームワーク領域)のアミノ酸配列全体を100%として、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下、3%以下、2%以下又は1%以下が特に好ましい。軽鎖可変領域における改変の割合は、CDR以外の軽鎖可変領域(すなわち4つのフレームワーク領域)のアミノ酸配列全体を100%として、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下が特に好ましい。改変は、CDR以外の領域(フレームワーク領域)で行われることが好ましい。
【0036】
本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメント(上述のアミノ酸配列変異体等も含む)のスタビロン改変体への結合活性は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロッティング法、フローサイトメトリー法、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、ラジオイムノアッセイ法、免疫沈降法、免疫染色法、プラズモン共鳴アッセイ等により評価することができる。
【0037】
本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、スタビロン改変体を含むペプチド又はタンパク質を検出するために用いることができる。また、本実施形態の抗体又はその抗原結合フラグメントは、スタビロン改変体を含むペプチド又はタンパク質を単離及び/又は精製するために用いることができる。
本明細書において、スタビロン改変体を含むペプチド又はタンパク質を「スタビロン改変体タグ融合タンパク質」又は「スタビロン改変体タグ融合ペプチド」という場合がある。
【0038】
<抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸>
本発明の一実施形態に係る核酸は、上述した抗体又はその抗原結合フラグメント(以下、まとめて「抗スタビロン改変体抗体」ともいう)をコードする。本実施形態の核酸を、適切な宿主細胞に導入して発現させることにより、抗スタビロン改変体抗体を製造することができる。
【0039】
本実施形態の核酸としては、例えば、上述した抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする遺伝子、及び上述した抗体の重鎖可変領域を含む重鎖をコードする遺伝子等が挙げられる。
本実施形態の核酸としては、例えば、前記抗体と同じ抗原結合性を有する抗原結合フラグメントをコードする遺伝子が挙げられる。
本実施形態の核酸の好適な例としては、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、を含む抗体又はその抗体フラグメントをコードする核酸が挙げられる。配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列の具体例としては、配列番号12に記載の塩基配列が挙げられる。前記核酸の具体例としては、例えば、重鎖可変領域をコードする塩基配列として配列番号12に記載の塩基配列を含み、及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列として配列番号13に記載の塩基配列を含む核酸が挙げられる。
【0040】
<ベクター>
本発明の一実施形態に係るベクターは、上述した核酸を含む。本実施形態のベクターは、発現ベクターであってもよい。本実施形態のベクターを適切な宿主に導入することにより、抗スタビロン改変体抗体を製造することができる。
【0041】
発現ベクターとしては、導入対象の細胞中でベクターが含む上述の核酸がコードする抗体又は抗原結合フラグメントを発現可能なものであれば特に限定されない。発現ベクターは、プラスミドベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージベクター;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルスベクター;及びこれらを改変したベクター等が挙げられる。
【0042】
本明細書において、「発現ベクター」とは、対象核酸を含むベクターであって、該ベクターを導入した細胞内で、対象核酸を発現可能な状態にするシステムを備えたベクターを意味する。「発現可能な状態」とは、対象核酸が導入された細胞内で、対象核酸が転写され得る状態にあることを意味する。
発現ベクターは、上述の核酸に加えて、他の塩基配列を含んでもよい。他の塩基配列としては、例えば、プロモーター、エンハンサー、マーカー遺伝子、複製開始点等が挙げられる。発現ベクターは、プロモーターを含むことが好ましく、プロモーターに上述の核酸(遺伝子)が機能的に連結されていることが好ましい。核酸(遺伝子)がプロモーターに機能的に連結されているとは、当該核酸が、当該プロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。
【0043】
<形質転換体>
本発明の一実施形態に係る形質転換体は、上述した核酸又はベクターを含む。本実施形態の形質転換体が微生物又は培養細胞である場合、適切な培地で培養することにより、スタビロン改変体に特異的に結合する抗スタビロン改変体抗体を製造することができる。形質転換体が植物体又は動物体である場合、当該植物体又は動物体を生育させ、当該植物体又は動物体から抗スタビロン改変体抗体を抽出、精製することにより、抗スタビロン改変体抗体を製造することができる。
【0044】
形質転換体としては、例えば、上述した核酸又はベクターが導入された、大腸菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞等の培養細胞;上述した核酸又はベクターが導入された、カイコ等の昆虫生体;上述した核酸又はベクターが導入された、タバコ等の植物体;乳中、卵中に上述した抗スタビロン改変体抗体を発現するように遺伝子改変された、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ニワトリ等の動物等が挙げられる。
【0045】
<溶出ペプチド>
本発明の一実施形態に係るペプチドは、配列番号20に記載のアミノ酸配列(EFNDNDE)を含み、アミノ酸数が15以下である。
【0046】
本実施形態のペプチドは、スタビロン改変体のアミノ酸配列(例えば、配列番号9又は10)の一部(EFNDNDE:配列番号20)を含む。本実施形態のペプチドは、上述の抗スタビロン改変体抗体のエピトープを含む。本実施形態のペプチドは、スタビロン改変体タグ融合タンパク質と抗スタビロン改変体抗体との抗原抗体複合体と接触させることにより、前記抗原抗体複合体から、スタビロン改変体タグ融合タンパク質を解離させることができる。
【0047】
本実施形態のペプチドに含まれるアミノ酸数は、7~15個である。本実施形態のペプチドのアミノ酸数は、14個以下、13個以下、12個以下、11個以下、10個以下、9個以下、8個以下、又は7個が好ましい。アミノ酸数が7個であるペプチドは、配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0048】
配列番号20に記載のアミノ酸配列に付加されるアミノ酸の種類は、特に限定されない。アミノ酸の付加は、配列番号20に記載のアミノ酸配列のN末端側であってもよく、C末端側であってもよく、N末端側及びC末端側の両方であってもよい。
【0049】
本実施形態のペプチドは、例えば、抗スタビロン改変体抗体結合レジンに、抗スタビロン改変体抗体を介して捕捉されたスタビロン改変体タグ融合タンパク質を溶出するために用いることができる。例えば、スタビロン改変体タグ融合タンパク質を含む細胞抽出液等を抗スタビロン改変体抗体結合担体に接触させて、抗スタビロン改変体抗体によりスタビロン改変体タグ融合タンパク質を捕捉させる。次いで、適宜、抗スタビロン改変体抗体結合担体を洗浄した後、本実施形態のペプチドを抗スタビロン改変体抗体結合担体に接触させる。これにより、スタビロン改変体タグ融合タンパク質を抗スタビロン改変体抗体結合担体から溶出することができる。したがって、本実施形態のペプチドを、抗スタビロン改変体抗体と共に用いることにより、細胞抽出液等のタンパク質混合物から、スタビロン改変体タグ融合タンパク質を単離及び精製することができる。
【0050】
抗スタビロン改変体抗体を結合させる担体としては、Protein G等の免疫グロブリン結合タンパク質を結合させた担体が挙げられる。免疫グロブリン結合タンパク質を結合させた担体に、抗スタビロン改変体抗体を接触させることにより、抗スタビロン改変体抗体結合担体を作製することができる。担体としては、特に限定されないが、例えば、樹脂ビーズ(Sepharoseビーズ、アガロースビーズ等)、磁気ビーズ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
<スタビロン改変体検出キット>
本発明の一実施形態に係るスタビロン改変体検出キットは、上述の抗体又はその抗原結合フラグメント(抗スタビロン改変体抗体)を含む。本実施形態に係るスタビロン改変体検出キットは、抗スタビロン改変体抗体に加えて、他の構成を含んでいてもよい。他の構成としては、例えば、上述の溶出ペプチド、スタビロン改変体をコードする塩基配列を含むベクター等が挙げられる。また、本実施形態のキットは、さらに、抗スタビロン改変抗体結合用担体、各種バッファー類、細胞溶解液、及び使用説明書等を含んでいてもよい。本実施形態のキットにおいて、抗スタビロン改変体抗体は、担体に結合されていてもよい。担体としては、前記<溶出ペプチド>で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0052】
≪スタビロン改変体をコードする塩基配列を含むベクター≫
本実施形態のキットは、抗スタビロン改変体抗体に加えて、スタビロン改変体をコードする塩基配列(以下、「スタビロン改変体遺伝子」ともいう)を含むベクターを含んでもよい。スタビロン改変体をコードする塩基配列は、スタビロン改変体をコードする限り、特に限定されない。スタビロン改変体は、配列番号9又は10に記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい。配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号22に記載の塩基配列が挙げられる。配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号23に記載の塩基配列が挙げられる。
【0053】
ベクターは、任意のペプチド又はタンパク質(以下、「被験ペプチド」ともいう)をコードする塩基配列を含む核酸(以下、「被験ペプチド遺伝子」ともいう)の挿入サイトを含むことが好ましい。ベクターは、前記挿入サイトに被験ペプチド遺伝子を挿入することで、スタビロン改変体と被験ペプチドとの融合タンパク質を発現し得る構造を有することが好ましい。
ベクターは、例えば、スタビロン改変体遺伝子の上流に前記挿入サイトを有してもよい。前記挿入サイトに被験ペプチド遺伝子を挿入することで、スタビロン改変体遺伝子と被験ペプチド遺伝子とがインフレームで連結されることが好ましい。この場合、N末端側にスタビロン改変体タグが融合された被験ペプチドを発現させることができる。
あるいは、ベクターは、例えば、スタビロン改変体遺伝子の下流に前記挿入サイトを有してもよい。前記挿入サイトに被験ペプチド遺伝子を挿入することで、被験ペプチド遺伝子とスタビロン改変体遺伝子とがインフレームで連結されることが好ましい。この場合、前記挿入サイトに被験ペプチド遺伝子を挿入することで、C末端側にスタビロン改変体タグが融合された被験ペプチドを発現させることができる。
【0054】
ベクターは、スタビロン改変体遺伝子と前記挿入サイトとの間に、任意のプロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列を含んでもよい。プロテアーゼ認識配列は、プロテアーゼに認識されて、切断されるアミノ酸配列である。プロテアーゼとしては、例えば、トロンビンや、TEVプロテアーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。ベクターが、プロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列を含むことで、前記挿入サイトに被験ペプチド遺伝子が挿入された場合に、スタビロン改変体タグと被験ペプチドとの間にプロテアーゼ認識配列を有する融合タンパク質を発現させることができる。これにより、必要に応じて、プロテアーゼにより前記プロテアーゼ認識配列を切断し、スタビロン改変体タグと被験ペプチドとを分離することができる。
【0055】
ベクターの種類は、特に限定されず、<ベクター>の項で挙げたものと同様のものを用いることができる。ベクターは、さらに、プロモーター、エンハンサー、マーカー遺伝子、複製開始点等を含んでもよい。ベクターは、例えば、前記挿入サイトに被験ペプチド遺伝子が挿入されることにより形成されるスタビロン改変体遺伝子/被験ペプチド遺伝子の融合遺伝子に対して、その発現を制御するプロモーターを含むことが好ましい。
【0056】
≪スタビロン改変体の検出方法≫
本実施形態に係るスタビロン改変体検出キットは、スタビロン改変体の検出に有効に用いることができる。
スタビロン改変体の検出方法は、抗スタビロン改変体抗体をタグ抗体として用いることを特徴としている。具体的には、スタビロン改変体を結合又は融合させた被験物質と、抗スタビロン改変体抗体との抗原抗体反応を利用して、被験物質を検出することができる。スタビロン改変体の検出方法は、以下の工程を含むことができる。
【0057】
(1)抗スタビロン改変体抗体をタグ抗体として用いて、スタビロン改変体で標識された被験物質と抗原抗体反応を行う工程。
(2)タグ抗体が結合した抗原抗体複合体を指標として、被験物質を検出する工程。
【0058】
「スタビロン改変体で標識された被験物質」としては、スタビロン改変体をエピトープタグとして融合した被験ペプチド(以下、「スタビロン改変体タグ融合ペプチド」ともいう)が挙げられる。スタビロン改変体タグ融合ペプチドは、公知の遺伝子工学的手法により作製することができる。例えば、スタビロン改変体遺伝子と被験ペプチド遺伝子とを含む融合遺伝子を作製し、前記融合遺伝子を適切な発現系(細胞発現系、又は無細胞発現系)で発現させることにより、スタビロン改変体タグ融合ペプチドを調製することができる。具体的には、例えば、スタビロン改変体をコードする塩基配列を有し、スタビロン改変体タグを被験ペプチドの末端等に融合した状態で発現することが可能な「融合ペプチド発現用ベクター」を用いてもよい。この場合、まず被験ペプチドをコードする塩基配列を有する核酸を融合ペプチド発現用ベクターに組み込み、前記ベクターをそれに適した発現系に供してスタビロン改変体タグ融合ペプチドを発現させる。このように発現産生されたスタビロン改変体タグ融合ペプチドは、抗スタビロン改変体抗体とスタビロン改変体タグとの親和性を利用したアフィニティー精製法により単離回収することができる。この際に、上述の溶出ペプチドを用いて、スタビロン改変体タグ融合ペプチドを溶出してもよい。
【0059】
タグ融合ペプチドは、スタビロン改変体タグと被験ペプチドとの間に任意のプロテアーゼ認識配列を含んでもよい。プロテアーゼ認識配列を有するスタビロン改変体タグ融合ペプチドは、必要に応じて、精製した後に、プロテアーゼを用いてプロテアーゼ認識配列を切断することにより、スタビロン改変体タグと被験ペプチドとを分離することができる。スタビロン改変体タグ及び消化されなかったスタビロン改変体タグ融合ペプチドは、抗スタビロン改変体抗体を用いたアフィニティー精製法により回収又は除去することができる。これにより、被験ペプチドを単離回収することができる。
【0060】
抗原抗体反応に採用される条件は、抗スタビロン改変体抗体がスタビロン改変体タグ融合タンパク質のスタビロン改変体タグを認識し結合し得る条件であればよく、特に制限されない。抗原抗体反応は、タグ融合タンパク質を発現させた細胞内の生体環境条件下で実施してもよい。この場合、所望のタンパク質の発現プロファイリング等に応用することもできる。
【0061】
被験物質(スタビロン改変体タグ融合ペプチド)の検出は、抗原抗体反応により生成した抗原抗体複合体を指標として行うことができる(免疫染色)。この場合、抗スタビロン改変体抗体を標識物質で標識して用いてもよい。標識物質としては、例えば、放射性同位体、非放射性同位体、蛍光色素、酵素等が挙げられるが、これらに限定されない。抗原抗体複合体は、抗スタビロン改変体抗体の標識に用いられた標識物質を指標として検出することができる。
【0062】
以上の通り、本実施形態のスタビロン改変体検出キットによれば、スタビロン改変体、および抗スタビロン改変体抗体を用いることにより、スタビロン改変体で標識された被験物質を特異的に検出することができる。そのため、所望のペプチド又はタンパク質の精製、及び細胞内での所望のペプチド又はタンパク質の発現解析又は動態解析等に使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[1]ハイブリドーマの樹立
ハイブリドーマの樹立及びモノクローナル抗体の作製は、株式会社アイティーエム(ITM社)に委託して行った。ITM社では、マウス腸骨リンパ節法(特許第4098796号公報、参照。重井医学研究所からのライセンス許諾により実施。)を用いて、ハイブリドーマの樹立及びモノクローナル抗体の作製を行った。抗原としては、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるスタビロン改変体及び配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるスタビロン改変体の合成ペプチド混合液を用いた。抗原性向上の観点から、これらのペプチドのN末側にはシステイン(Cys)を配置し、KLHコンジュゲートとした。
【0065】
ELISA法によるスクリーニングで、ハイブリドーマ2株を選択した。これらのハイブリドーマは、抗原ペプチドに対する力価が高い抗体を産生すると予想された。得られた2株のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を、抗体「23-2E」、及び抗体「24-8G-4G」と命名した。
【0066】
[2]抗体精製
抗体「23-2E」及び「24-8G-4G」を産生する各ハイブリドーマ株をギット培地(和光純薬工業;637-25715)で培養した。75cm2フラスコ(ThermoFisherSCIENTIFIC;156800-Nunc Non-treated T75 EasyFlask, Filter Cap)を用いて、ハイブリドーマを4日間培養した。その後、3000rpm,5分間の遠心分離を行い、細胞と上清とを分離した。上清を新しいチューブに移し、プロテインGセファロース(GE ヘルスケア)を加えた。1時間4℃で反応後、プロテインGセファロースをTNE-Tで洗浄し、グリシンバッファー(pH3.0)で抗体を溶出した。溶出後は直ちに1M Tris-HCl(pH9.5)を加えて中和し、セントリコン(アミコンウルトラ-15;メルクミリポア)で抗体を濃縮した。
【0067】
<試験例1:ウエスタンブロット解析>
抗原タンパク質の発現プラスミドとして、表1に示す6種の発現プラスミドを用いたウエスタンブロット解析を行った。表1において、「/」の左側は抗原タンパク質を示す。「/」の右側はプラスミドの種類を示す。No.9-Stabilonは、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるスタビロン改変体を示す。No.10-Stabilonは、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるスタビロン改変体を示す。No.0-Stabilon(DP-1 Stabilon)は、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるスタビロンを示す。
【0068】
【0069】
上記A~Fの6種の発現プラスミドは、大腸菌DH5αに形質転換後、アンピシリン含有LB培地で培養し、MAXI prep kit(QIAGEN)で精製した。
【0070】
次に、ヒト胎児腎臓由来HEK293T細胞(以下、「HEK293T細胞」ともいう。)を培養した。培地は、D-MEM液体培地(和光純薬)に、10%(V/V)牛胎児血清、及び、1/100希釈ストレプトマイシンペニシリン(和光純薬)を混合した培地を使用した。
HEK293T細胞を12wellプレートに播種し、60%コンフルエントになったところで、リン酸カルシウム法でA~Fのいずれかの発現プラスミドをトランスフェクションした。発現プラスミドを培地に添加してから、8時間後に、1mlの培地を追加し、更に24時間後に培地を除去し、細胞抽出を行った。
【0071】
細胞抽出は、1well当たり80μlのTNE-N buffer(20mM Tris-HCl[pH7.8],150mM NaCl,1mM EDTA[pH7.9],1/100 Protease inhibitor cocktail)を用いて、ピペッティングで行った。破砕した細胞残渣は、高速遠心(14000rpm、5分間、4℃)で分離した。高速遠心後、上清60μlを別チューブに移し、更に60μlの2xSDS-PAGE sample buffer(125mM Tris-HCl[pH6.8],4% SDS,20% Glycerol,0.01% BPB,10% 2-Mercaptoethanol)を加え、98℃で2分間煮沸した。ウエスタンブロット解析には、前記のように調製したサンプルを各々4μl用いた。
【0072】
電気泳動は通常のSDS-PAGEで行い、10%アクリルアミド濃度の分離ゲルを使用した。泳動後、ゲル板から分離ゲルを外し、トランファーバッファーに浸し、セミドライトランスファー装置(BioRAD;Trans Blot Turbo)でイモビロン;PVDFメンブレン(メルクミリポア)に移した。5%スキムミルク/TBSTでブロッキングした後、1xTBSTで4回洗浄した。
【0073】
1枚目のメンブレンには、抗Flag抗体であるM2抗体-HRP標識マウス宿主抗体(Sigma;M2-HRP;A8592)を1μl添加し、1時間室温で震盪しながら反応させた。その後、前記メンブレンを1xTBSTで4回洗浄した。
【0074】
2枚目のメンブレンには、抗体「24-8G-4G」を1μl添加し、1時間室温で震盪しながら反応させた。このメンブレンを1xTBSTで4回洗浄した後、2次抗体としてAnti-mouse IgG-HRP融合(ジャクソンリサーチ社;115-035-003)を1μl添加し、1時間室温で震盪しながら反応させた。その後、当該メンブレンを1xTBSTで4回洗浄した。
【0075】
洗浄が終わった1枚目及び2枚目のメンブレンは、ハイブリバックに移し、ケミルミワンL(ナカライテスク)を加え、暗室でHyperFilm ECL(GEヘルスケア)に感光した。ウエスタンブロット解析の結果を
図1に示す。
【0076】
2枚目のメンブレン(抗体「24-8G-4G」を使用)では、No.9-Stabilonタグ融合のhRARα及びNo.10-Stabilonタグ融合のhRARαに特異的な結合が見られた(
図1のレーンD,E参照)。
この結果より、抗体「24-8G-4G」は、抗Flag抗体であるM2抗体と同様に、HEK293T細胞抽出液中の夾雑タンパク質には結合せず、目的のペプチドモチーフ(No9-Stabilon,No10-Stabilon)のみに極めて特異的に結合することが判明した。
【0077】
<試験例2:抗体「24-8G-4G」の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の配列解析>
Iosgen(ニッポンジーン)を用い、ギット培地で培養した抗体「24-8G-4G」のハイブリドーマからTotal RNAを抽出した。このTotal RNAから、IgG1抗体の可変領域のcDNAを合成し、クローニングした。cDNA合成には、SMARTer PCR cDNA合成キット(タカラバイオ)を用いた。
【0078】
反応1:逆転写用プライマーのアニーリング
軽鎖用と重鎖用とに分けて、逆転写用プライマーのアニーリングを行った。軽鎖用の反応液の組成を表2に示す。重鎖用の反応液の組成を表3に示す。表2及び表3に示す試薬をそれぞれ混合した後、72℃で2分間、42℃で2分間インキュベートし、反応液を得た。
【0079】
【0080】
【0081】
反応2:逆転写反応とSMARTer oligoのアニーリング
上記反応1で得られた軽鎖用及び重鎖用の反応液に、表4に示す混合液を分注して加え、42℃で1時間、逆転写反応を行った。さらに70℃で10分間反応させた後、40μlのTEを加えた。
【0082】
【0083】
反応3:PCR増幅
表5に示す反応液を作製し、PCR反応を行った。表5中、「RT産物」は反応2で得られた逆転写反応産物を示す。PCR反応は、(1)98℃、8秒、及び(2)72℃、1分を1サイクルとし、35サイクル繰り返した。
【0084】
【0085】
PCR反応後、2%アガロースゲルで400-500bp付近のサイズのDNA断片の増幅を確認した。
【0086】
反応4:A付加反応
PrimeStar DNA polymeraseでは、PCR産物の3’末端へA(アデニン)が付加されない。そのため、上記反応3で増幅がみられた産物をフェノールクロロホルム処理後、エタノール沈殿し、更にEx-Taq DNA polymeraseでA付加反応を行った。反応液を表6に示す。反応は、72℃で1分行った。
【0087】
【0088】
A付加反応後、フェノールクロロホルム処理し、エタノール沈殿した。これにより、A付加反応産物を得た。
【0089】
A付加反応産物は、T vector(pMD20)にLigationした。その後、大腸菌に形質転換し、青白選択(ポンドプレートにX-galとIPTGを添加)を行った。白いコロニーのみを選択し、3mlのアンピシリン含有LB液体培地で終夜震盪培養後、集菌を行い、アルカリSDS法でプラスミドのミニプレップを行った。
【0090】
精製したプラスミドのHindIII-EcoRI消化を行い、500bp付近にバンドが出るクローンを確認した。
これらのクローンに関して、BigDyeTerminaterを使用した配列解析を行い、塩基配列を解読した。解読した塩基配列のうち、Reverse primerの直後が定常領域であるものをクローン化できたと判断し、各々フレームを合わせアミノ酸配列に翻訳した。これらを軽鎖可変領域、及び重鎖可変領域のアミノ酸配列とした。得られた重鎖可変領域のアミノ酸配列及び塩基配列、並びにKabatの定義により特定したCDRを表7に示す。得られた軽鎖可変領域のアミノ酸配列、塩基配列、及びKabatの定義により特定したCDRを表8に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
尚、抗体「23-2E」のハイブリドーマ株及び抗体「24-8G-4G」のハイブリドーマ株が産生したIgG1抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、共に同じアミノ酸配列であったが、抗体「24-8G-4G」の方がウエスタンブロット解析の結果が明瞭であった。
【0094】
<試験例3(1):抗原タンパク質の調製>
HEK293T細胞を10cmデュッシュに40%コンフレントになるように播種した。リン酸カルシウム法により、Flag-hRARα-StabilonNo9/pcDNA3(表1のDのプラスミド)をHEK293T細胞にトランスフェクトした。8時間後に培地(D-MEM低グルコース、10% FBS、1/100希釈ペニシリンストレプトマイシン含有)交換し、さらに12時間後に細胞をピペッティングにより剥離した。別の新しい1.5mlエッペンチューブに細胞を移し、1xPBSで2回洗浄した。回収した細胞に1mlのTNE-N buffer(20mM Tris-HCl[pH7.8],150mM NaCl,1mM EDTA[pH7.9],1/100 Protease inhibitor cocktail)を加え、ピペッティングで細胞を破砕した。細胞破砕液の高速遠心分離(14000rpm、5min、4℃)後、上清を得た。
【0095】
<試験例3(2):免疫沈降サンプルの調製>≪抗体「23-2E」免疫沈降サンプル≫
試験例3(1)で得られた上清230μlをチューブに分注し、抗体「23-2E」を10μl加え、1時間、4℃で反応させた。更に、平衡化済みProteinG sepharose(GEヘルスケア)を加え、1時間、4℃で反応させた。その後、TNE-N bufferで4回洗浄し、沈殿したProteinG sepharoseに、2xSDS-PAGE sample bufferを加え、98℃で、2分間煮沸した。
【0096】
≪抗体「24-8G-4G」免疫沈降サンプル≫
試験例3(1)で得られた上清230μlをチューブに分注し、抗体「24-8G-4G」を10μl加え、1時間、4℃で反応させた。更に、平衡化済みProteinG sepharose(GEヘルスケア)を加え、1時間、4℃で反応させた。その後、TNE-N bufferで4回洗浄し、沈殿したProteinG sepharoseに、2xSDS-PAGE sample bufferを加え、98℃で、2分間煮沸した。
【0097】
≪抗Flag抗体免疫沈降サンプル≫
試験例3(1)で得られた上清230μlをチューブに分注し、抗Flag抗体を10μl加え、1時間、4℃で反応させた。更に、平衡化済みProteinG sepharose(GEヘルスケア)を加え、1時間、4℃で反応させた。その後、TNE-N bufferで4回洗浄し、沈殿したProteinG sepharoseに、2xSDS-PAGE sample bufferを加え、98℃で、2分間煮沸した。
【0098】
≪抗体非添加サンプル≫
試験例3(1)で得られた上清230μlをチューブに分注し、平衡化済みProteinG sepharose(GEヘルスケア)を加え、1時間、4℃で反応させた。その後、TNE-N bufferで4回洗浄し、沈殿したProteinG sepharoseに、2xSDS-PAGE sample bufferを加え、98℃で、2分間煮沸した。
【0099】
<試験例3(3):ウエスタンブロット解析>
試験例3(1)で得た上清50μlに、50μlの2xSDS-PAGE sample bufferを加え、90℃で、2分間煮沸し、Lysateサンプルを調製した。ウエスタンブロット解析には、前記Lysateサンプル、及び試験例3(2)で調製した免疫沈降サンプル(抗Flag抗体免疫沈降サンプル、抗体「23-2E」免疫沈降サンプル、抗体「24-8G-4G」免疫沈降サンプル)を用いた。検出用の抗体には、抗Flag抗体(Sigma;M2-HRP;A8592)を用い、試験例1と同様の条件でウエスタンブロット解析を行った。解析結果を、
図2に示す。
【0100】
図2に示す通り、Lysateサンプルには、Flag-RARα-No.9-Stabilonの薄いバンドが観察された。抗Flag抗体免疫沈降サンプル(IP;Flag)には、Flag-RARα-No.9-Stabilonの濃いバンドが観察された。抗体「23-2E」免疫沈降サンプル(IP;23)、及び抗体「24-8G-4G」免疫沈降サンプル(IP;24)にも、Flag-RARα-No.9-Stabilonの濃いバンドが観察された。これらの結果から、抗体「23-2E」、及び抗体「24-8G-4G」は、ProteinG sepharoseを利用した免疫沈降に使用可能であることが確認された。
【0101】
<試験例3(4):CBB染色>
BlueStarマーカー、抗Flag抗体免疫沈降サンプル(IP;Flag)、抗体「23-2E」免疫沈降サンプル(IP;23)、抗体「24-8G-4G」免疫沈降サンプル(IP;24)、および抗体非添加サンプル(IP;ProG)のアクリルアミドゲル電気泳動を行い、電気泳動後のアクリルアミドゲルをCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色した。
CBB染色は、泳動後のアクリルアミドゲルを、0.25% CBB溶液(0.25% CBB-R250、50% メタノール、10%酢酸)に1時間程度浸漬することにより行った。アクリルアミドゲルに付着した染色液を除去した後、アクリルアミドゲルを脱色液(10%酢酸)に浸し、キムワイプを入れて、バンド像がはっきりするまで脱色した。アクリルアミドゲルの脱色後、脱色液をH
20に置き換えた。
CBB染色の結果を
図3に示す。
図3中、アスタリスク2つ(**)は抗体の重鎖、アスタリスク1つ(*)は抗体の軽鎖を示す。
【0102】
<試験例4:免疫染色>
HEK293T細胞をボトムグラスデュッシュに40%コンフレントになるように播種した。リン酸カルシウム法により、Flag-hRARα-No.9-Stabilon/pcDNA3(表1のDのプラスミド)をHEK293T細胞にトランスフェクトした。8時間後に培地(D-MEM低グルコース、10% FBS、1/100希釈ペニシリンストレプトマイシン含有)交換し、さらに12時間後に細胞を4%パラホルムアルデヒド/PBSで固定した。
1%BSA/1xPBST(1xPBS + 0.1%Tween20)でブロッキング後、1xPBSTで細胞を4回洗浄した。次いで、抗体「24-8G-4G」を添加して細胞と反応させた。1xPBSTで細胞を4回洗浄し、Alexa594標識抗マウスIgG抗体(Thermo Fisher Scientific)を添加して細胞と反応させた。1xPBSTで細胞を4回洗浄し、VECTASHIELD Mounting Medium without DAPI(Funakoshi)で退色防止を行った。前記のように調製したサンプルを、共焦点レーザー走査型顕微鏡FV1000-D(OLYNPUS)で観察した。
【0103】
免疫染色の結果を
図4に示す。
図4に示す通り、抗体「24-8G-4G」により、核に移行したFlag-hRARα-No.9-Stabilonを検出することができた。この結果から、抗体「24-8G-4G」は、免疫染色法においても高い特異性を発揮することが確認された。
【0104】
<試験例5:溶出ペプチドとエピトープ部位の検証>
上記試験例から、抗体「24-8G-4G」が、極めて特異的にスタビロン改変体(No.9-Stabilon、No.10-Stabilon)を認識することが確認された。
【0105】
この様な抗原モチーフをタグのシステムとして実用化する場合、生理的にマイルドな条件(生理活性を阻害しない条件)で抗体レジンから抗原モチーフ融合タンパク質を剥離させることが可能な溶出用ペプチドが有用である。
【0106】
そこで、No.9-Stabilon(配列番号9)の前半部(ペプチドA:EFNDNDE(配列番号20))と後半部(ペプチドB:EFNDNED(配列番号21))の合成ペプチドを作製し(ユーロフィンジェノミクス)、溶出効率の検証を行った。
【0107】
ペプチドA及びペプチドBの合成は、90%以上の純度(HPLC)保証で、1mg合成系にて実施した。
大腸菌発現系により、下記(1)及び(2)のタンパク質を得た。
(1)6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hSox2-S19-TAT-NL
(2)6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLS
【0108】
前記(1)及び(2)のタンパク質を発現する大腸菌株BL21(DE3)を、1LのLBカナマイシン培地を用いて、37℃で一晩培養した。
【0109】
大腸菌のO.D.600値が0.5に達したところで、培養液にIPTGを添加(終濃度0.1mM)した。大腸菌は、更に25℃で3時間発現誘導後、遠心分離で集菌した。集菌した大腸菌は、1xTBSTに懸濁後、超音波破砕し、高速遠心分離(14,000rpm,5min,4℃)を行った。上清を別チューブに移した後にNiレジンを加えた。Niレジンを加えた上清は、1xPBSTで5回洗浄後、5mMイミダゾール含有1xPBSTで1回洗浄した。
【0110】
Niレジンを加えた上清は、更に500mMイミダゾール含有1xPBSTで溶出し、溶出タンパク質を得た。得られた2種の溶出タンパク質に抗体「24-8G-4G」を加え、4℃で1時間震盪しながら反応させて、反応液を得た。反応液に、更に1xPBSTで平衡化したProteinG sepharoseを加え、4℃で1時間震盪しながら反応させた。1xPBSTで4回洗浄後、ProteinG sepharoseレジンを各々3本の1.5mlマイクロチューブに分けた。
【0111】
3本のチューブに、ペプチドA、ペプチドB、又は0.1M Glycine Buffer(pH3.0)を20μl加え、ペプチド溶出を行った。ペプチド溶出は4℃で1時間、Glycine Bufferは4℃で5分間行った。ペプチド溶出後は、低速遠心分離(2,000rpm,1分間,4℃)し、上清を別チューブに分けた。Glycine Buffer溶出上清には1M Tris-HCl(pH9.5)を加え中和し、溶出画分を得た。
【0112】
得られた溶出画分に、2xSDS-PAGE sample bufferを等量加え、98℃で2分間煮沸した。これらを10%アクリルアミドゲルでSDS-PAGEし、抗Flag抗体を用いてウエスタンブロット解析を行った。
【0113】
結果を
図5に示す。
図5に示す通り、(1)のタンパク質(
図5中の「Sox2」及び(2)のタンパク質(
図5中の「Oct4」)のいずれにおいても、ペプチドAによる溶出効率は良好であった。この結果から、抗体「24-8G-4G」のエピトープはNo.9 StabilonのN末端寄りの「EFNDNDE」であると推測された。また、ペプチドAにより、抗体[24-8G-4G]からのスタビロン改変体タグ融合タンパク質の解離が可能であることが確認された。
【0114】
<試験例6:大腸菌発現系での利用可能性の検証>
工業的スケールでの発現系として、大腸菌発現系がよく利用される。そこで、大腸菌発現系における、スタビロン改変体タグ及び抗スタビロン改変体抗体の利用可能性の検討を行った。
上述の6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLSをlacプロモーター制御下で発現する大腸菌株BL21(DE3)において、IPTG誘導を行った菌体(IPTG(+))、及びIPTG誘導を行わなかった菌体(IPTG(-))の菌体抽出液を調製した。これらの菌体抽出液に対する抗体「24-8G-4G」の反応性をウエスタンブロット解析にて確認した。比較として、抗FLAG抗体(M2;Flag-HRP;Sigma)、抗His抗体(クローン2D8;MBL)、及び抗体「23-2E」を用いたウエスタンブロット解析も行った。抗体「24-8G-4G」、抗His抗体、及び抗体「23-2E」を用いたウエスタンブロット解析では、2次抗体として抗マウスIgG抗体(Anti-mouse IgG-HRP融合;ジャクソンリサーチ社;115-035-003)を用いた。
【0115】
ウエスタンブロット解析結果を
図6に示す。
図6に示す通り、抗体「24-8G-4G」は、6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLSのみを検出し、その他の大腸菌の非特異的タンパク質には結合しなかった(
図6の1番右のパネル;Stabilon:24)。この高い特異性は、市販の抗Flagモノクローナル抗体(
図6の1番左のパネル;M2)、および抗Hisモノクローナル抗体(
図6の左から2番目のパネル;His)と同様であった。抗体「23-2E」も、6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLSのみを検出したが、抗体「24-8G-4G」と比較して、バンドは薄かった(
図6の右から2番目のパネル;Stabilon:23)。
【0116】
<試験例7:各種発現系における利用可能性の検証>
植物及び昆虫の発現系における、スタビロン改変体タグ及び抗スタビロン改変体抗体の利用可能性の検討を行った。発現系として、イチゴ、コセンダングサの葉(葉の発現系の代表として用いた)、トマト、シャインマスカット、及びカイコを検討した。これらは、発現系として利用価値があると考えられる。これらの抽出液に対する抗体「24-8G-4G」の反応性を、ウエスタンブロット解析により確認した。
【0117】
上記生物種の抽出液5mgをそのまま(-)、又は前記抽出液5mgに上述の6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLSのニッケルレジン精製タンパク質20ngを加えたもの(+)を、SDS-PAGE電気泳動した。
抗Flag抗体、抗His抗体、抗体「23-2E」、及び抗体「24-8G-4G」を用いて、ウエスタンブロット解析を行った。抗His抗体、抗体「23-2E」、及び抗体「24-8G-4G」を用いた場合、2次抗体として抗マウスIgG抗体(Anti-mouse IgG-HRP融合)を用いた。
【0118】
ウエスタンブロット解析の結果を
図7に示す。
図7中、Flag(各反応系における1番左のパネル)は抗Flag抗体、His(各反応系における左から2番のパネル)は抗His抗体、23(各反応系における右から2番目のパネル)は抗体「23-2E」、及び24(各反応系における1番右のパネル)は抗体「24-8G-4G」を用いた結果を示す。(-)は抽出液そのままを用いたレーンであり、(+)は抽出液に6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLSを添加したものを用いたレーンである。
図7に示す通り、抗体「24-8G-4G」を使用したウエスタンブロット解析では、コセンダングサの葉、キウイ、トマト、シャインマスカット、及びカイコ抽出液では、(-)でバンドは観察されなかった。この結果から、抗体「24-8G-4G」は、これらの抽出物中のタンパク質には結合しないことが確認された。一方、(+)では、いずれの発現系でも6xHis-Flag-No.9-Stabilon-hOct4-S19-TAT-NLSのバンドが確認された。
【0119】
以上の結果より、抗体「24-8G-4G」は、植物及び昆虫の発現系においても、スタビロン改変体タグ融合タンパク質のみを特異的に検出可能であることが判明した。
【0120】
以上、本発明を適用した実施例によれば、スタビロン配列に特異的に認識する抗体又はその抗原結合フラグメント、抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸、ベクター、形質転換体、及び、スタビロン改変体検出キットを提供することができる。
【0121】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明および図示してきたが、これらは本発明を例示するものであり、限定的なものとみなされるべきではないことを理解すべきである。本発明の精神または範囲から逸脱することなく、追加、省略、置換、およびその他の変更を行うことができる。したがって、本発明は、前述の説明によって限定されるものとはみなされず、添付の請求項の範囲によってのみ限定される。
【配列表】