(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】振り子装置、制振装置及び制振装置の設計方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2023154213
(22)【出願日】2023-09-21
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藪野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】張 超
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104612279(CN,A)
【文献】特開2006-258141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力による復元力が作用し、支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される振り子部材と、
前記振り子部材に対して磁力による反発力又は吸引力を
磁力による復元力として与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される固定部材と、
を備え
、
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材のうちの少なくともいずれか一方の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量とのうちの少なくともいずれか一つを調整することによって、前記振り子部材に作用する重力による復元力の非線形成分を相殺する前記磁力による復元力を持たせることを特徴とする振り子装置。
【請求項2】
前記振り子部材は、回動可能に前記支点から吊り下げられていることを特徴とする請求項1に記載の振り子装置。
【請求項3】
前記振り子運動は、単振り子運動、球面振り子運動及び円錐振り子運動のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の振り子装置。
【請求項4】
前記振り子部材は剛性を有し、前記支点を中心として垂直面内で単振り子運動が可能に設けられ、且つ静止状態にあるときには、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材間の反発力又は吸引力
である前記磁力による復元力により水平状態に維持されることを特徴とする請求項1に記載の振り子装置。
【請求項5】
前記振り子運動
は単振り子運動であり、前記第2磁気部材を一対有し、当該一対の前記第2磁気部材は、前記単振り子運動の運動方向に前記振り子部材を挟んで互いに面して配置され、
前記第1磁気部材は、前記第2磁気部材と互いに面するように、前記第2磁気部材毎に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の振り子装置。
【請求項6】
前記第2磁気部材は、前記振り子部材を囲むように配置され、
前記第1磁気部材と前記第2磁気部材とは、互いに面する側の磁極が、同極又は異極となるように配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の振り子装置。
【請求項7】
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材は、それぞれ永久磁石又は電磁石により構成されることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の振り子装置。
【請求項8】
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の外観形状は、それぞれ、円柱状、角柱状、球状、アーク状、リング状、中空円柱状、曲面状及び平面状のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の振り子装置。
【請求項9】
前記第2磁気部材の外観形状は、平面状または曲面状であり、
前記第1磁気部材と前記第2磁気部材とは、互いに面する側の磁極が、同極又は異極となるように配置されることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の振り子装置。
【請求項10】
前記支点は、制振対象物に直接又は前記制振対象物に固定された構造部に設けられることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の振り子装置。
【請求項11】
制振対象物の振動を、振り子運動する振り子装置を用いて制振する制振装置であって、
前記振り子装置として、請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の振り子装置を用いたことを特徴とする制振装置。
【請求項12】
制振対象物の振動を、
重力による復元力が作用し、支点を中心として振り子運動する振り子部材を用いて制振する制振装置の設計方法であって、
前記振り子部材の少なくとも一部に第1磁気部材を配置し、
当該第1磁気部材に対して磁力による反発力又は吸引力を
磁力による復元力として与える位置
に第2磁気部材を配置し、
前記振り子部材
に作用する重力による復元力
の非線形成分と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との間の
前記磁力による復元力
の非線形成分とが相殺されるように、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量と、のうちの少なくともいずれか一つを調整することを特徴とする制振装置の設計方法。
【請求項13】
重力による復元力が作用し、支点を中心として振り子運動
する振り子部材の少なくとも一部に第1磁気部材を配置し、
当該第1磁気部材に対して磁力による反発力又は吸引力を
磁力による復元力として与える位置
に第2磁気部材を配置し、
前記振り子部材
に作用する重力による復元力
の非線形成分と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との間の
前記磁力による復元力
の非線形成分とが相殺されるように、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量と、のうちの少なくともいずれか一つを調整
可能であることを特徴とする振り子装置。
【請求項14】
前記復元力特性は、線形特性、ソフトスプリング特性又はハードスプリング特性のいずれかであることを特徴とする請求項
13に記載の振り子装置。
【請求項15】
重力による復元力が作用し、支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される第1振り子部材と、
前記第1振り子部材に
作用する重力による復元力の非線形成分を相殺するような大きさの非線形成分を有する磁力による反発力を
前記第1振り子部材に与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される第1固定部材と、
重力による復元力が作用し、前記支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第3磁気部材により構成される第2振り子部材と、
前記第2振り子部材に対して
作用する重力による復元力の非線形成分を相殺するような大きさの非線形成分を有する磁力による吸引力を
前記第2振り子部材に与え、少なくとも一部が第4磁気部材により構成される第2固定部材と、を備え
、
前記第2振り子部材は前記第1振り子部材の延長上に前記第1振り子部材に連続して剛性を有する一の振り子部材として設けられ、且つ垂直面内で前記支点を中心として単振り子運動が可能に設けられ、さらに静止状態にあるときには、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材間の前記磁力による反発力と、前記第3磁気部材及び前記第4磁気部材間の前記磁力による吸引力とにより水平状態に維持されることを特徴とする振り子装置。
【請求項16】
前記第1磁気部材、前記第2磁気部材、前記第3磁気部材及び前記第4磁気部材のうちの少なくとも一つは電磁石により構成され、
前記
磁力による反発力によ
って変化する前記第1振り子部材のハードスプリング特性と前記
磁力による吸引力によ
って変化する前記第2振り子部材のソフトスプリング特性との少なくともいずれか一方を、前記電磁石の磁力の大きさを変化させること及び前記電磁石を作動停止することのうちの少なくともいずれか一方により変化可能であることを特徴とする請求項
15に記載の振り子装置。
【請求項17】
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材は、それぞれ永久磁石又は電磁石により構成され、前記第3磁気部材及び前記第4磁気部材は、それぞれ永久磁石又は電磁石により構成されることを特徴とする請求項
16に記載の振り子装置。
【請求項18】
前記第1振り子部材又は前記第2振り子部材の振動を、電気エネルギに変換する発電機を備えることを特徴とする請求項
15から請求項
17のいずれか一項に記載の振り子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振り子装置、制振装置及び制振装置の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、風や地震による構造物の揺れを低減する制振装置が知られており、例えば、振り子を利用して制振するようにしたもの(例えば、特許文献1参照)等が知られている。
このような振り子を利用した制振装置においては、例えば制振対象物の固有周波数と振り子の固有周波数とが、1対1となる振り子を用いて制振効果を得る方法が知られている。また、振り子を利用した制振装置において、オートパラメトリック励振を利用した振り子式動吸振器系を構築し、制振対象物の固有周波数と振り子の固有周波数とが、1対1/2となる振り子を用いて、制振効果を得る方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】“振り子のパラメトリック励振を利用した動吸振器系の応答”、日本機械学会論文集(C編)、67巻661号(2001-9)、論文 No.00-1494、p15-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、振り子を自由振動させた場合、振り子の振れる角度が大きく振幅が大きい領域では、振り子に加わる重力による復元力が、振り子の振れる角度に比例せず、非線形となり、振り子の固有周波数が変化する。そのため、振り子を利用した制振装置にあっては、振り子の振幅が大きく復元力が非線形となる領域では、制振対象物と固有振動数比が要求の値(1:1や1:1/2など)に維持できず制振効果が低減したり、振り子がカオス的な運動をする。そのため、振り子はその非線形効果が無視できるほど小さな振幅の範囲に限定して利用され、この振幅の範囲内で制振効果を得るようにしている。
【0006】
オートパラメトリック励振を利用した振り子式動吸振器系においては、制振対象物の固有周波数の1/2を、振り子の固有周波数として設定し、振り子の錘の質量を小さくし、その分振り子の振幅を大きくすることで必要な復元力を得ることができる。
しかしながら、振り子の振幅が大きい領域では、振り子に加わる重力による復元力が振り子の角度に比例せず、振り子の振幅の大きさに応じて固有周波数が変化する。固有周波数が変化すると、上記1/2の条件から外れてしまい、十分な制振効果を得ることができず、制振装置の制振性能が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、振り子の重力による復元力の振幅依存性を所望の特性に調整することの可能な振り子装置及び、この振り子装置を用いた制振装置及び制振装置の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される振り子部材と、前記振り子部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される固定部材と、を備える振り子装置が提供される。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、制振対象物の振動を、振り子運動する振り子装置を用いて制振する制振装置であって、前記振り子装置として、上記態様の振り子装置を用いた制振装置が提供される。
【0010】
さらに、本発明の他の態様によれば、制振対象物の振動を、振り子運動する振り子部材を用いて制振する制振装置の設計方法であって、前記振り子部材の少なくとも一部に第1磁気部材を配置し、当該第1磁気部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与える位置に、第2磁気部材を配置し、前記振り子部材の重力による復元力と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との間の磁力による復元力との和が、所望の復元力特性を有するように、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量と、のうちの少なくともいずれか一つを調整する制振装置の設計方法が提供される。
【0011】
またさらに、本発明の他の態様によれば、支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される振り子部材の少なくとも一部に第1磁気部材を配置し、当該第1磁気部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与える位置に、第2磁気部材を配置し、前記振り子部材の重力による復元力と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との間の磁力による復元力との和が、所望の復元力特性を有するように、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量と、のうちの少なくともいずれか一つを調整する振り子装置が提供される。
【0012】
また、本発明の他の態様によれば、支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される第1振り子部材と、前記第1振り子部材に対して磁力による反発力を与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される第1固定部材と、前記支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第3磁気部材により構成される第2振り子部材と、前記第2振り子部材に対して磁力による吸引力を与え、少なくとも一部が第4磁気部材により構成される第2固定部材と、を備えることを特徴とする振り子装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、振り子装置において、復元力の振幅依存性を所望の特性に調整することができ、この振り子装置を用いることで、復元力の振幅依存性に伴う、制振装置の、制振性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る制振装置の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明に係る振り子装置の一例を示す構成図である。
【
図3】磁気部材による復元力が作用しない振り子本体を自由振動させた場合の変位状況を示すグラフである。
【
図5】本発明に係る振り子部材を自由振動させた場合の、実験で得られた時刻歴波形を示すグラフである。
【
図7】本発明に係る振り子部材を自由振動させた場合の、実験で得られた時刻歴波形を示すグラフである。
【
図9】振り子側磁気部材に作用する磁力の説明に供する、水平移動する磁石を模式的に示した説明図である。
【
図10】水平移動する磁石に働く全磁力を表す数式における、磁石の移動量と1次の項の係数と3次の項の係数の比との関係を示すグラフである。
【
図11】
図2に示す振り子装置を模式的に示した図である。
【
図12】変形例4の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図13】変形例4の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図14】変形例4の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図15】変形例5の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図16】変形例7の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図17】変形例7の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図18】変形例7の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図19】変形例7の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図20】変形例7の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図21】変形例7の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図22】変形例8の説明に供する、振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図23】変形例9の説明に供する、振り子装置の取り付け位置の説明図である。
【
図24】変形例9の説明に供する、振り子装置の取り付け位置の説明図である。
【
図25】変形例9の説明に供する、振り子装置の取り付け位置の説明図である。
【
図26】変形例10の説明に供する、非線形成分と加振周波数との関係を説明するためのグラフである。
【
図27】変形例10の説明に供する、非線形成分と加振周波数との関係を説明するためのグラフである。
【
図28】振り子部材の運動特性の調整方法の説明に供する振り子装置を模式的に示した説明図である。
【
図29】振り子部材の運動特性の調整方法の説明に供する振り子装置を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
なお、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかである。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
<実施形態>
ここでは、本発明の一実施形態に係る振り子装置1を、建物20の制振装置10に適用した場合について説明するが、建物20の制振装置10に限定されるものではない。
【0018】
図1(a)は、制振装置10の一例を示す振動モデルである。
図1(a)において、M,k,cは、それぞれ主系の質量、バネ定数、及び粘性減衰係数を表す。また、m、θ、Lは、それぞれ振り子部材の質量、振り子部材の垂線からの角度、振り子部材の支点から他端までの距離である。
図1(b)は、構造物として建物20に制振装置10を設けた場合の概念図である。建物20の屋上に制振装置10を設け、建物20の横揺れを抑制するようにしている。
【0019】
図2は、振り子装置1の一例を示す正面図である。
振り子装置1は、支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される振り子部材と、振り子部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される固定部材と、を備える。
【0020】
具体的には、振り子装置1は、振り子部材2と、この振り子部材2を支持する振り子支持部材3と、振り子部材2を挟んで両側に設けられた一対の固定磁気部材(第2磁気部材)4a、4bと、これら固定磁気部材4a、4bを支持する磁気部材支持部5a、5bと、振り子支持部材3及び磁気部材支持部5a、5bを支持する支持部本体6と、を備える。
振り子部材2は、振り子支持部材3に吊り下げられ、振り子支持部材3の軸32を支点として鉛直面内で振り子運動を行う。
【0021】
振り子部材2は、振り子本体21と、一対の振り子側磁気部材22a、22bとを備える。振り子本体21は細長い長方形状の薄板から形成され、振り子本体21の表裏面それぞれに振り子側磁気部材22a、22bが設けられている。振り子本体21には、後述のように、固定磁気部材4a、4bと振り子側磁気部材22a、22bとの間に生じる反発力が作用するため、振り子本体21は、反発力が作用したとしても変形しない剛性を有することが好ましい。
【0022】
振り子側磁気部材(第1磁気部材)22a、22bは、薄板状の細長い長方形状の永久磁石からなる板状磁石で形成され、表裏面のうち一方の面がN極に着磁され、他方の面がS極に着磁されている。振り子側磁気部材22a、22bは、振り子本体21の一方の面側がN極、他方の面側がS極となるように、振り子本体21の表裏面に固定されている。ここでは、振り子本体21の表裏面それぞれに、振り子側磁気部材22aと22bとを設けているが、例えば表裏面の一方がN極、他方がS極に着磁された一つの振り子側磁気部材そのものを振り子本体21として用いてもよい。
【0023】
なお、振り子側磁気部材22a、22b、また固定磁気部材4a、4bは、永久磁石でなくともよく、z等、振り子側磁気部材22a、22b、と固定磁気部材4a、4bとの間に反発力を発生させることができればよいが、使い勝手の観点から永久磁石であることが好ましい。
【0024】
また、復元力の調整の観点から、振り子側磁気部材22aと振り子側磁気部材22bとは、磁束密度及びサイズが同一であることが好ましく、同様に、固定磁気部材4aと固定磁気部材4bとは、磁束密度及びサイズが同一であることが好ましい。
振り子本体21の一端は、振り子支持部材3の軸32に取り付けられ、このとき、振り子本体21が軸32を支点として鉛直面内で振り子運動をし、振り子側磁気部材22a及び22bがそれぞれ振り子本体21の振幅が大きくなる方向に面するように取り付けられている。
【0025】
振り子部材2は、振り子側磁気部材22a及び22bが固定された振り子本体21全体が、振り子の錘の役割を担っている。ここでは、振り子本体21そのものを錘として用いているが、これに限るものではなく、振り子本体21に、別途錘を設けてもよい。
振り子支持部材3は、支持機構31と、
図2の紙面に直交する方向に伸びる軸32とを備え、支持機構31が、軸32と振り子部材2とをベアリングを介して連結すること等によって、振り子部材2が、軸32を支点として軸周りを移動自在に支持され、振り子運動できるようになっている。
【0026】
固定磁気部材4a、4bは、例えば円柱型のフェライト磁石で形成され、厚み方向の一方の面がN極に着磁され、他方の面がS極に着磁されている。
磁気部材支持部5aは、第一部材51aと第二部材52aとが略平仮名の「く」の字状に連結されてなり、第一部材51aと第二部材52aとがなす内角側が、振り子部材2側となり、且つ第二部材52aが鉛直方向に伸びるように、第一部材51a側の端部が支持部本体6に固定される。磁気部材支持部5aの第二部材52a側の端部には、固定磁気部材4aが固定され、固定磁気部材4aは、その着磁面が、静止状態(平衡状態)の振り子本体21に固定された振り子側磁気部材22aの着磁面と対向するように配置される。また、固定磁気部材4aは、固定磁気部材4aと振り子側磁気部材22aの互いに対向する着磁面の磁気極性が同一極性となる磁気極性を有する。
【0027】
磁気部材支持部5bは、第一部材51bと第二部材52aとが略平仮名の逆「く」の字状に連結されてなり、第一部材51bと第二部材52bとがなす内角側が、振り子部材2側となり、且つ第二部材52bが鉛直方向に伸びるように、第一部材51b側の端部が支持部本体6に固定される。磁気部材支持部5bの第二部材52b側の端部には、固定磁気部材4bが固定され、固定磁気部材4bは、その着磁面が、静止状態の振り子本体21に固定された振り子側磁気部材22bの着磁面と対向するように配置される。また、固定磁気部材4bは、固定磁気部材4bと振り子側磁気部材22bの互いに対向する着磁面の磁気極性が同一極性となる磁気極性を有する。
【0028】
そして、磁気部材支持部5aと磁気部材支持部5bとは、静止状態の振り子部材2を対称軸として、線対称となるように構成されている。また、磁気部材支持部5a及び5bは、振り子部材2が振り子運動した時に、その移動を妨げないように配置されている。
さらに、磁気部材支持部5a及び5bは、支持部本体6に、鉛直方向の位置を可変に取り付けられている。振り子支持部材3は、支持部本体6に、鉛直方向の位置を可変に取り付けられている。これにより、磁気部材支持部5a、5bの鉛直方向の位置及び軸32の鉛直方向の位置を調整することによって、固定磁気部材4a、4bと、振り子側磁気部材22a、22bとの鉛直方向の相対位置を調整することができる。すなわち、固定磁気部材4a、4bと、振り子側磁気部材22a、22bとの間の反発力を調整できるようになっている。なお、鉛直方向の位置だけでなく、磁気部材支持部5aと磁気部材支持部5bの水平方向の位置も調整可能に構成してもよい。
【0029】
そして、磁気部材支持部5a、5b、及び振り子支持部材3が取り付けられた支持部本体6を、制振対象物としての建物20に固定することによって、振り子部材2が鉛直方向に沿って吊り下げられた状態となるようになっている。
【0030】
このような構成を有する振り子装置1は、振り子部材2が軸32を支点として振り子運動を行い、振り子運動に伴い、振り子本体21に固定された振り子側磁気部材22a、22bがそれぞれ対向する固定磁気部材4a、4bに接近すると、振り子側磁気部材22a、22bと、固定磁気部材4a、4bとの間に反発力が発生し、振り子部材2に反発力が作用する。そのため、固定磁気部材4a、4b及び振り子側磁気部材22a、22bを持たない場合に比較して、復元力が大きくなる。
【0031】
<復元力特性>
ここで、振り子部材2の復元力特性について説明する。
振り子側磁気部材22a、22b及び固定磁気部材4a、4bを備えていない場合の、振り子本体21の重力による復元力は、sinθのテイラー展開により、次式(1)に示すように、べき級数展開することができる。なお、(1)式中、mは振り子部材2の質量、gは重力加速度、θは静止状態からの変位角である。
【0032】
【0033】
(1)式に示すように、3乗に比例する項の係数が負値であるため、重力による復元力は、ソフトスプリングの非線形特性を有する。振り子本体21を自由振動させた場合の、振り子本体21の移動方向を考慮した変位状況を
図3に示し、静止状態を基準とする振り子本体21の振幅と固有周波数との関係を表す背骨曲線を
図4に示す。
図4から、振幅に応じて固有周波数が変化しソフトスプリング特性を有することがわかる。
【0034】
一方、
図2に示すように、振り子側磁気部材22a、22bと、固定磁気部材4a、4bとを備えた場合の、磁力による振り子の復元力F
mは、テイラー展開によって、次式(2)に示すように、表すことができる。
【0035】
【0036】
そのため、
図2に示すように、振り子側磁気部材22a、22bと、固定磁気部材4a、4bとを備えた場合の、振り子の復元力特性は、(1)及び(2)式から次式(3)で近似することができる。
【0037】
【0038】
(3)式は次式(4)のように線形成分、非線形成分にまとめることができる。
【0039】
【0040】
ここで、振り子側磁気部材22a、22bと固定磁気部材4a、4bとをそれぞれ対向させ、対向する面の磁極を同極とした場合、つまり反発力を生じる場合は、(4)式中のF1は正(線形の復元力特性)であり、F3は正(ハードスプリング特性)である。振り子側磁気部材22a、22b及び固定磁気部材4a、4bのそれぞれ対向する面の磁極を異極とした場合、つまり吸引力を生じる場合は、F1は負(線形の復元力特性を持たない)、F3は負(ソフトスプリング特性)である。
【0041】
(4)式から、F3が次式(5)を満足するように調整すれば、重力と磁力とにより振り子部材2に作用する復元力の非線形性を抑制できることがわかる。つまり、F3が(5)式を満足するように、振り子側磁気部材22a、22b及び、固定磁気部材4a、4bの磁束密度・磁石形状や配置位置、また、振り子部材2の質量、具体的には、振り子本体21、振り子側磁気部材22a、22bの質量等を選定し、振り子部材2に作用する磁力を調整すればよい。
【0042】
【0043】
図2に示すように、振り子側磁気部材22a、22bと、固定磁気部材4a、4bと、を備え、(5)式を満足するように調整した振り子装置1において、振り子部材2を自由振動させた場合の、実験で得られた時刻歴波形を
図5に示し、振り子部材2の振幅と固有周波数との関係を表す実験で得られた背骨曲線を
図6に示す。
図6から振り子部材2の振幅の大きさによる固有周波数の変化がほとんどないことがわかる。
【0044】
図7及び
図8は、(5)式を満足するように調整した
図2に示す振り子装置1において、固定磁気部材4a、4bとして、フェライト磁石の数をそれぞれ2個にし、振り子部材2に作用する磁力を大きくして、振り子部材2を自由振動させた場合の、実験で得られた時刻歴波形(
図7)と、振り子部材2の振幅と固有周波数との関係を表す実験で得られた背骨曲線(
図8)を示したものである。
図8から、固定磁気部材4a、4bとしてそれぞれ二つのフェライト磁石を重ねて形成することによって、磁力によるハードスプリング特性の復元力が、重力によるソフトスプリング特性の復元力を大きく上回り、全体として、振幅が大きいときほど固有周波数が高くなるハードスプリング特性を示していることがわかる。
【0045】
つまり、磁気部材として用いる磁石の個数や磁気部材の磁束密度、磁気部材の配置位置を変更し、磁力による復元力を調整することによって、重力による復元力と磁力による復元力との和からなる振り子部材による復元力特性を調整できることがわかる。
前記(5)式において、「(mg/6)=F
3」を満足するように磁力による復元力を調整することで、
図5、
図6に示すように、線形な復元力を発生させることができ、振幅に係わらず固有周波数を略一定に維持することができる。また、「(mg/6)<F
3」を満足するように磁力による復元力を調整することで、
図7、
図8に示すように、ハードスプリング特性を有する復元力を発生させることができる。逆に、「(mg/6)>F
3」を満足するように磁力による復元力を調整することで、
図3、
図4に示すように、磁石を持たない場合に比較してより強いソフトスプリング特性を有する復元力を発生させることができる。
【0046】
なお、振り子本体21及び振り子部材2の変位状況の測定は、以下の条件で行った。
(a)
図2に示す振り子部材2を用いた場合(
図5、
図6に対応)の、変位状況測定時の条件は以下の通りである。
固定磁気部材4a、4bとして直径dが18mm、厚みtが5mmの円柱型のフェライト磁石を用いた。振り子側磁気部材22a、22bと固定磁気部材4a、4bとの間の水平距離を63mmとし、固定磁気部材4a、4bの鉛直方向中心と軸32の中心との間の垂直距離を50mmとした。
【0047】
測定は、レーザ変位計(LK-G35A 株式会社キーエンス社製)を用い、磁気部材支持部5bにレーザ変位計を固定し、振り子側磁気部材22bとの間の距離を測定した。このとき、静止状態にある振り子部材2の、軸32の中心から16mmだけ鉛直方向に離れた地点を測定点として振り子側磁気部材22bまでの水平距離を測定した。振り子部材2の振り幅(レーザ変位計による測定値の変化幅)が5mmの場合、振り子部材2の回転角度は約17度であった。
【0048】
(b)固定磁気部材4a、4b及び振り子側磁気部材22a、22bを持たない場合(
図3、
図4に対応)、つまり振り子本体21の変位状況測定時の条件は以下の通りである。
すなわち、上述の(a)
図2に振り子部材2を用いた場合の測定条件において、固定磁気部材4a、4b、及び振り子側磁気部材22a、22bを設けないこと以外は同一条件で測定した。つまり、静止状態にある振り子本体21の、軸32の中心から16mmだけ鉛直方向に離れた地点を測定点とし振り子本体21までの水平距離を測定した。
【0049】
(c)固定磁気部材4a、4bとしてそれぞれ二つのフェライト磁石を有する振り子部材2を用いた場合(
図7、
図8に対応)の、変位状況測定時の条件は以下の通りである。
すなわち、上述の(a)
図2に振り子部材2を用いた場合の測定条件において、固定磁気部材4a、4bとしてそれぞれ二つのフェライト磁石を用いたこと以外は同一条件で測定した。つまり、固定磁気部材4a、4bとして、直径dが18mm、厚みtが5mmの円柱型のフェライト磁石を二つ重ねて用い、実質的に固定磁気部材4a、4bの厚みが10mmのフェライト磁石を用いた。そして静止状態にある振り子部材2の、軸32の中心から16mmだけ離れた地点を測定点とし、振り子側磁気部材22bまでの水平距離を測定した。
【0050】
また、
図3、5、7において、横軸は経過時間、縦軸は振り子部材2又は振り子本体21の移動方向を考慮した変位である。
図4、6、8において、横軸は周波数、縦軸は振幅を示す。周波数は、
図3、5、7のピークとピークとの間の時間間隔から演算した。
図3では、振幅によって固有周波数が、1.398Hzから1.391Hzに変化し、0.5%程度変化している。
図5では、振幅によって固有周波数が、1.446Hzから1.448Hzに変化し、0.1%程度変化し、
図7では、振幅によって固有周波数が、1.511Hzから1.518Hzに変化し、0.5%程度変化している。
【0051】
<復元力特性の調整>
振り子装置1に線形な復元力を持たせるには、まず、
図2に示す振り子装置1において、(5)式を満足するように、各磁気部材を構成する磁石の個数や磁石の磁力、磁石の設置位置等を決定する。具体的には、磁気部材支持部5a、5bの鉛直方向の位置及び軸32の鉛直方向の位置を調整すること、固定磁気部材4a、4bの個数や磁石の磁力、振り子側磁気部材22a、22bの個数や磁石の磁力を調整すること、振り子部材2の質量を調整すること、等によって、磁力による復元力を調整する。
なお、制振対象物としての建物20の固有振動数をΩとすると、振り子部材2の固有振動数ωが、ω=Ωとなるように振り子装置1を構築する。
【0052】
(磁力の特性)
ここで、振り子側磁気部材22a、22bに働く磁力の特性について説明する。
(水平移動時の磁力特性)
まず、
図9に示すように、磁石A~磁石Cがこの順に平面上に、直線上に並べて配置され、磁石Bが磁石A及び磁石C間を水平移動する時の磁力特性について説明する。
【0053】
磁石A~磁石Cは、同一形状を有し、薄板状に形成され、表裏面の一方がN極、他方がS極に着磁されている。磁石Aと磁石Bとは、そのS極どうしが対向し、磁石Bと磁石Cとは、そのN極どうしが対向するように配置されている。なお、磁石A~Cの厚みをdとする。
【0054】
図9において、磁石Bが、磁石A及び磁石Cの中間位置にあるときを初期状態とし、初期状態における磁石A及び磁石Bのギャップ及び初期状態における磁石B及び磁石Cのギャップをrとする。磁石A及び磁石Bのギャップrとは、磁石Aの厚みの中央部から磁石Bの厚みの中央部までの水平距離を表す。同様に、磁石B及び磁石Cのギャップrとは、磁石Bの厚みの中央部から磁石Cの厚みの中央部までの水平距離を表す。また、初期状態からの磁石Bの変位をxとする、変位xは、磁石Bの厚みの中央部の水平移動距離を表す。
図9において、磁石Aによって、磁石Bに働く力F
Lは、次式(6)で表される。
【0055】
【0056】
また、磁石Cによって、磁石Bに働く力FRは、次式(7)で表される。
【0057】
【0058】
なお、(6)式及び(7)式において、mは磁石Bの磁束密度、m′は磁石A及び磁石Bの磁束密度、μは透磁率である。
(6)式をテイラー展開すると、次式(8)で表される。
【0059】
【0060】
(7)式をテイラー展開すると、次式(9)で表される。
【0061】
【0062】
磁石Bに働く全磁力Fは、(8)式及び(9)式から、次式(10)に示すように近似することができる。
【0063】
【0064】
ここで、(10)式において、1次の項の係数を次式(11)のように定義する。
【0065】
【0066】
(10)式において、3次の項の係数を次式(12)のように定義する。
【0067】
【0068】
(11)式及び(12)式から、(10式)における1次の項の係数と3次の項の係数との比は、次式(13)で表される。
【0069】
【0070】
図10は、(13)式中の、「d/r」を横軸とし、縦軸を「a
3/a
1」としてこれらの関係を示したグラフである。ここで、係数の比「a
3/a
1」が大きい方が、磁力の非線形効果が線形効果に比較して大きくなる。そのため、
図10から、「d/r」を小さくした方が、磁力の非線形効果を得られやすいことがわかる。
【0071】
(振り子運動時の磁力特性)
次に、
図2に示す振り子装置1における振り子運動時の磁力特性を説明する。
図11は、
図2に示す振り子装置1を、模式的に表したものである。
固定磁気部材4a、4bと、振り子側磁気部材22a、22bを有する振り子部材2とが
図11に示す位置関係にある場合、固定磁気部材4aによって振り子部材2に働く力F
lは、次式(14)で表される。
【0072】
【0073】
また、固定磁気部材4bによって振り子部材2に働く力Frは次式(15)で表される。
【0074】
【0075】
なお、(14)式及び(15)式において、m1は振り子に取り付けられた振り子側磁気部材22a、22bとしての磁石の磁束密度、m2は固定磁気部材4a、4bの磁束密度、μは透磁率、rは静止状態にあるときの磁極間のギャップである。
図11において、振り子側磁気部材22a及び22bを一体の磁気部材とみなしたとき、ギャップrは、固定磁気部材4aの厚みの中央部から振り子側磁気部材の重心位置までの水平距離であり、また固定磁気部材4bの厚みの中央部から振り子側磁気部材の重心位置までの水平距離である。xは振り子部材2の静止状態からの変位、lは振り子の等価長さであり、支点Qから振り子側磁気部材の重心位置までの水平距離である。
(14)式をテイラー展開すると、次式(16)で表される。
【0076】
【0077】
(15)式をテイラー展開すると、次式(17)で表される。
【0078】
【0079】
ここで、(16)式及び(17)式において、次式(18)のように定義する。kは、定数である。
【0080】
【0081】
固定磁気部材4aによって振り子部材2に働く力Flと固定磁気部材4bによって振り子部材2に働く力Frとを足し合わせることで、磁力による復元力Fは、次式(19)に示すように近似することができる。
【0082】
【0083】
さらに、x=lsinθであるから、(19)式から次式(20)式を得ることができる。なお、θは振り子部材2の静止状態からの変位角である。
【0084】
【0085】
一方、振り子部材2の重力による復元力は、次式(21)に示すように近似することができる。(21)式中の、mは振り子部材2の質量、lは振り子の等価長さであり、支点Qから振り子側磁気部材の重心までの長さである。θは振り子部材2の静止状態からの変位角、θ″は変位角θの角加速度、kは(18)式から決定される値である。
【0086】
【0087】
ここで、
図11に示す振り子部材2に作用する磁力は、次式(22)で表される等価ばね力F
*と等価とみなすことができる。
【0088】
【0089】
(22)式において、a1を含む項は磁力の線形成分、a3を含む項は磁力の非線形成分である。
等価ばね力F*は、a1を含む線形成分及びa3を含む非線形成分の正負により、以下の特性を有する。
a1:a1>0のとき正剛性、a1<0のとき負剛性
a3:a3>0のときハードスプリング、a3<0のときソフトスプリング
【0090】
(20)式において、1次の項の係数は、次式(23)に示すように、(22)式における係数a1とみなすことができる。
【0091】
【0092】
同様に、(20)式において、3次の項の係数は、次式(24)に示すように、(22)式における係数a3とみなすことができる。
【0093】
【0094】
したがって、次式(25)を満足するように、(24)式で表される3次の項の係数a3に含まれる各成分を調整することによって、振り子部材2の磁力の復元力を、ハードスプリング特性又はソフトスプリング特性を持つように調整することができる。
【0095】
【0096】
<動作及び効果>
このようにして磁力による復元力が調整された状態で、制振対象物としての建物20に振動が入力されると、建物20に固定された支持部本体6が、建物20の振動に伴って振動し、振り子部材2が軸32を支点として鉛直面内で振り子運動を始める。振り子部材2の振幅が比較的小さい領域では、磁力による復元力つまり反発力は比較的小さく、重力による復元力は線形成分を有するため、振り子部材2全体としては、線形な復元力を有する。振り子部材2の振幅が比較的大きい領域では、重力による復元力は非線形成分を有するが、この重力による復元力と同時に、この非線形性成分を相殺する大きさの非線形成分を有する磁力による復元力が加わるため、非線形性成分は相殺され、振り子部材2としては、線形な復元力を持つことになる。そのため、振り子部材2の振幅の大きさに係わらず復元力は線形な復元力となる。
【0097】
このため、より広い動作範囲にわたって振り子部材2の復元力が線形性を有することになり、その結果、振り子部材2の振幅の大きさに係わらず、振り子部材2の固有振動数を、建物20の固有振動数と同等程度に維持することができるため、振り子装置1の振幅に依存する制振性能の低下を抑制することができる。
また、振り子部材2の振幅のより広い動作範囲において、振り子部材2は線形な復元力を維持するため、線形な復元力が微小振幅の範囲に限られる振り子装置に比較して、振り子部材2をより大きな振幅で振り子運動させることができ、その分、制振性能を向上させることができる。
【0098】
仮に、振り子部材2の線形な復元力が微小振幅の範囲に限られる場合、より広い振幅範囲にわたって制振効果を得るためには、例えば、微小振幅用の制振装置と大振幅用の制振装置とを設ける必要がある。本実施形態に係る制振装置10は、固定磁気部材4a、4b及び振り子側磁気部材22a、22bを設けるだけで、微小振幅から比較的大きな振幅までより広い振幅範囲によって制振効果を発揮することができるため、コスト削減や装置の大型化の抑制を図ることができる。
【0099】
また、このように、より広い動作範囲において線形な復元力を得ることができるため、特に、オートパラメトリック励振を利用した動吸振器系を構築し、例えば、制振対象物の固有周波数と、振り子装置1の固有周波数とを「1対1/2」として構築する場合であっても、より広い動作範囲において制振効果を発揮させることができる。そして、この動吸振器系の場合、振り子の錘の質量を小さくすることができ、すなわち振り子部材2の質量を小さくすることができるため、振り子装置1さらには制振装置10の軽量化を図ることができる。
【0100】
また、一般に、復元力の非線形成分を取り除く方法としてフィードバック制御を行う方法が理論的に知られているが、フィードバック制御を行うためには、アクチュエータやセンサを設ける必要があり、その分、制振装置の構造が複雑になり、コストの増加や電力消費等を伴うことになる。本実施形態に係る振り子装置1では、振り子側磁気部材22a、22bや、固定磁気部材4a、4bを設けるだけで、線形な復元力を発生する振り子装置1を実現することができる。そのため、シンプルな構造で、コスト増加を伴うことなく実現することができ、特に、消費電力が発生することなく、実現することができる。
【0101】
また、磁気部材支持部5a及び5b、また軸32は、支持部本体6に、鉛直方向の位置を可変に取り付けられているため、磁力による振り子部材2の復元力を容易に調整することができる。また、振り子側磁気部材22a、22bは、固定磁気部材4a、4bに比較して鉛直方向により長くなるように形成されているため、振り子部材2が振り子運動をした場合に、より広い範囲で、固定磁気部材4a、4bとの間で反発力を発生でき、磁力による復元力を効率よく調整することができる。
【0102】
<変形例>
(変形例1)
上記実施形態では、振り子部材2の復元力特性が線形となるようにした場合について説明したが、前記(5)式において、「(mg/6)<F3」を満足するように調整することで、振り子装置1の復元力特性として、ハードスプリング特性を持たせることができ、逆に、「(mg/6)>F3」を満足するように調整することで、より強いソフトスプリング特性を持たせることができる。例えば、ハードスプリング特性を持たせた振り子装置1を制振装置10として、自励振動する配管等、プラントの配管等に配置することで、良好な制振性能を発揮することができる。
【0103】
振り子装置1のソフトスプリング特性を強くする場合には、振り子側磁気部材22a、22bと固定磁気部材4a、4bとの対向する面どうしの磁極を異極とし、吸引力を発生させる必要がある。この場合、前記(2)式中のF
1が負でありこれだけでは復元力が生じないため、重力の効果となるmg((4)式中の右辺第1項の中のmg)成分が必ず必要である。例えば、後述の変形例として記載した
図19に模式的に示す振り子装置201のように、振り子部材202が水平面内で振動する場合には、重力は、振り子部材202の動きに影響を与えない。そのため、
図19に示す振り子装置201において、振り子側磁気部材と固定磁気部材との対向する面どうしの磁極を異極に変更した構成の場合には、振り子装置は復元力を持つことができず、制振装置を実現することはできない。
【0104】
(変形例2)
上記実施形態において、所定のタイミングで、振り子部材2の固有周波数を取得し、この固有周波数と、制振対象物としての建物20の固有周波数とが一致するように、振り子側磁気部材22a、22bと、固定磁気部材4a、4bとの相対位置を調整するように構成してもよい。
例えば振り子部材2の固有周波数は、レーザ変位計を用いて振り子部材2との間の距離を測定し、測定結果から固有周波数を演算する。固定磁気部材4a、4bを支持する磁気部材支持部5a及び5bと支持部本体6との相対位置を調整可能な調整機構を設け、振り子部材2の固有周波数と制振対象物としての建物20の固有周波数が一致する方向に、磁気部材支持部5a、5bの位置調整を行う。この操作を、例えば、予め設定した一定周期等、予め設定したタイミングで行うことにより、経時変化による固有周波数のずれ等を解消することができる。
【0105】
(変形例3)
上記実施形態においては、振り子部材2が一つの鉛直面内で振り子運動を行う振り子装置1について説明したが、これに限るものではない。例えば直交する二つの鉛直面内で振り子運動するように構成することも可能である。
この場合には、例えば、
図2に示す支持機構31と支持部本体6との間に、支持部本体6に設けた軸を支点として、振り子部材2が振り子運動する鉛直面と直交する鉛直面内で振り子運動するように、支持機構31を支持する機構を別途設け、支持機構31を振り子運動させることにより、振り子部材2が軸32を支点として振り子運動する場合の鉛直面と直交する鉛直面内で振り子部材2を振り子運動させる。そして、振り子部材2に振り子側磁気部材22a、22bを設けると共に、これら振り子側磁気部材22a、22bと直交する面に、振り子側磁気部材22a、22bと同様に形成された一対の振り子側磁気部材を設け、さらに、これら一対の振り子側磁気部材と対向する位置に、固定磁気部材4a、4bと同様に形成された一対の固定磁気部材を設ける。
【0106】
これによって、互いに直交する二つの鉛直面内で振り子部材2は振り子運動を行うため、振り子部材の振り子運動に沿った振動に対して制振を行う制振装置を実現することができる。この場合も上記実施形態と同様に、二つの鉛直面に沿って磁力による復元力を発生することができるため、上記実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
なお、振り子部材2が、3面以上の鉛直面内で振り子運動を行う場合であっても、鉛直面毎に、振り子側磁気部材22a、22bと固定磁気部材4a、4bとを設けることで上記と同等の作用効果を得ることができる。
【0107】
(変形例4)
円錐振り子運動をする振り子装置において、円錐振り子運動の非線形成分を除去することもできる。
円錐振り子運動をする振り子装置101に適用する場合には、
図12に示すように、例えばピボットを用いて、振り子部材102を、支点Qを中心に揺動可能に支持する。そして、振り子部材102の支点Qとは逆側の端部に例えば永久磁石からなる振り子側磁気部材122を配置する。振り子側磁気部材122としての永久磁石は、長手方向の一端側がN極、他端側S極に着磁され、永久磁石の一方の極、例えばN極が支点Q側、S極が支点Qとは逆側となるように配置する。
【0108】
一方、固定磁気部材104としては例えばシート状の永久磁石を用い、この固定磁気部材104を、振り子側磁気部材122の下方に水平に配置する。このとき、固定磁気部材104の振り子側磁気部材122と対向する側の面が、振り子側磁気部材122と反発するようにS極とし、他方の面がN極となるように配置する。
【0109】
振り子側磁気部材122と対向する面の磁極(固定磁気部材104)のみを考慮した磁力は、次のように表すことができる。
(a)まず、
図13に示すように、固定磁気部材104の磁極面が十分に広い場合、つまり、振り子部材102の静止状態からの変位角θの大きさに関係なく、振り子側磁気部材122が常に固定磁気部材104と対向する構成の場合について説明する。
振り子部材102の磁力による復元力Fは、次式(26)に示すように近似することができる。(26)式中の、kは透磁率及び磁束密度からなる定数である。(26)式中の、lは振り子の等価長さであり、支点Qから振り子側磁気部材122の重心までの距離である。dは静止状態にあるときの、振り子側磁気部材122の重心から固定磁気部材104のS極の着磁面までの距離である。支点Qから固定磁気部材104のS極の着磁面までの距離は、「l+d」である。
【0110】
【0111】
一方、振り子部材102の重力による復元力は次式(27)に示すように近似することができる。(27)式において、mは振り子部材102の質量、lは振り子の等価長さであり、支点Qから振り子側磁気部材122の重心までの距離である。θは振り子部材102の静止状態からの変位角、θ″は変位角θの角加速度である。
図13に示す構成の場合、磁力による復元力Fは鉛直上向きとなる。
【0112】
【0113】
(27)式において、1次の項の係数に含まれる「-(k/d2)」は線形成分を表し、3次の項の係数に含まれる「-(kl/d3)」は非線形成分を表す。ここで、線形成分a1=-(k/d2)、非線形成分a3=-(kl/d3)とおくと、線形成分a1と、非線形成分a3との比a3/a1は、次式(28)で表される。
【0114】
【0115】
したがって、「l」を「d」に比較して大きくすることで、磁力の非線形効果を得やすいことがわかる。
【0116】
(b)次に、
図14に示すように、固定磁気部材104の磁極面が十分に広くない場合、つまり、振り子部材102の静止状態からの変位角θが小さいときには振り子側磁気部材122と固定磁気部材104とは対向するが、変位角θが大きいときには振り子側磁気部材122と固定磁気部材104とが対向しない構成の場合について説明する。
この場合の振り子部材102の重力による復元力は次式(29)に示すように近似することができる。(29)式において、mは振り子部材102の質量、lは振り子の等価長さ、θは振り子部材102の静止状態からの変位角、θ″は変位角θの角加速度である。kは透磁率及び磁束密度からなる定数である。(29)式中、dは静止状態にあるときの、振り子側磁気部材122の重心から固定磁気部材104の厚みの中央部までの距離である。支点Qから固定磁気部材104の厚みの中央部までの距離は「l+d」である。
図14に示す構成の場合、磁力による復元力Fは図中に示すように斜め上方向となる。
【0117】
【0118】
(29)式において、線形成分a1=(kd+kl)/d3、非線形成分a3=(k(d+l)(d2+9dl+9l2))/6d5とおくと、線形成分a1と、非線形成分a3との比a3/a1は、次式(30)で表される。
【0119】
【0120】
したがって、「l」を「d」に比較して大きくすることで磁力の非線形効果を得やすいことがわかる。
なお、
図12は、円錐振り子運動をする振り子装置101の一例を模式的に示したものである。
図12~
図14中、振り子部材102が上記実施形態における振り子部材2に対応し、固定磁気部材104が固定磁気部材4a、4bに対応し、振り子側磁気部材122が振り子側磁気部材22a、22bに対応している。
【0121】
(変形例5)
図12に示す円錐振り子運動をする振り子装置101において、シート状の固定磁気部材104に替えて、
図15に示すように、円筒形のラジアル異方性磁石を、固定磁気部材104aとして用いることも可能である。
振り子部材102は、
図12と同様に、例えばピボットを用いて、支点Qを中心に揺動可能に支持され、振り子部材102の支点Qとは逆側の端部に永久磁石等からなる振り子側磁気部材122が配置される。永久磁石は、長手方向の一端がN極、他端がS極に着磁され、例えばN極が支点Q側、S極が支点Qとは逆側となるように配置される。
固定磁気部材104aとして、円筒形のラジアル異方性磁石を配置する。固定磁気部材104aの円筒内面側の磁極は振り子側磁気部材122と反発するS極、外面側はN極とする。
【0122】
S極の着磁は厳密には等方的ではないため、安定に振り子部材102が鉛直下方を向くことは保証されないが、重力の効果によって、静止状態では振り子部材102はその伸びる方向は鉛直方向となる。
この場合も、上記実施形態で説明した振り子部材2が鉛直面内で単振り子運動をする場合と同様に、磁力による復元力を調整し、磁力の非線形効果を利用することにより、円錐振り子運動における振り子部材102の復元力の非線形成分を除去することができる。
【0123】
また、変形例4及び変形例5では、ピボットを用いて振り子部材102を揺動可能に支持することで、円錐振り子運動をさせているが、球面振り子運動をさせるようにしてもよい。
また、変形例4及び変形例5では、振り子部材102側と、固定磁気部材104、104aとは異なる極性としているが、同一の極性とすることも可能である。
【0124】
(変形例6)
上記実施形態において、振り子側磁気部材及び固定磁気部材の外観形状は、それぞれ、円柱状、各柱状、球状、アーク状、リング状、中空円柱状、曲面状、及び平面状のいずれであってもよい。また振り子側磁気部材と固定磁気部材とで同一の外観形状を有していなくてもよく、必要とする反発力又は吸引力を発生させる形状であることが好ましい。
また、上記実施形態において、振り子本体21は、薄板に限るものではなく、剛性を有する部材で形成されていればよい。例えば、振り子本体21を別途設けずに、振り子側磁気部材22a、22bそのものを、振り子本体21として流用してもよい。
【0125】
また、振り子側磁気部材22a、22bは、必ずしも振り子本体21の先端に設けなくてもよく、必要とする反発力または吸引力を発生させることができる位置に設けることが好ましい。
固定磁気部材4a、4bも同様であって、磁気部材支持部5a、5bを別途設けずに、固定磁気部材4a、4bそのものを、磁気部材支持部5a、5bとして流用してもよく、固定磁気部材4a、4bの配置位置も磁気部材支持部5a、5bの先端に限るものではない。
振り子側磁気部材22a、22b及び固定磁気部材4a、4bは、必要とする反発力または吸引力を発生させることの可能な位置。大きさ(長さ)であればよい。
【0126】
(変形例7)
上記実施形態においては、制振装置10として、振り子部材2を吊り下げて振り子運動させる振り子装置1を適用した場合について説明したが、これに限るものではない。
振り子部材2を吊り下げて振り子運動をさせる場合、静止状態では、振り子部材2の伸びる方向が鉛直方向となるようにしているが、
図16に示すように、振り子部材の一端側を制振対象物の壁面等に取り付け、静止状態では、振り子部材が水平状態となり、水平状態を基準として振り子運動をさせるようにした振り子装置を制振装置として用いてもよい。
なお、
図16及び後述する
図17~
図22は、振り子装置を模式的に示した図であり、上記実施形態と同様に、制振対象物が振動することに伴い、振り子部材が振り子運動を行うように、振り子部材の一端が制振対象物に取り付けられ、固定磁気部材は制振対象物が振動することに伴い制振対象物と一体に振動するように配置される。
【0127】
(a)
図16は、振り子部材202の一端を、制振対象物220の壁面等に、鉛直面内で振り子運動ができるように取り付け、制振対象物220が上下に振動することで、振り子部材202の可動端側が鉛直面内で振り子運動をするようにした振り子装置201である。
図16において下方向がZ軸、左方向がX軸、紙面に向かう方向をY軸とし、Z軸方向を重力方向としている。
【0128】
振り子部材202には、制振対象物220とは逆側の端部に振り子側磁気部材222が取り付けられている。制振対象物220上の振り子部材202の一端が取り付けられた点を支点Qとして、振り子部材202は、水平な状態を安定な平衡状態として維持する剛性を有する。
制振対象物220が上下に振動することに伴い振り子部材202が支点Qを軸として振り子運動を行い、振り子側磁気部材222が鉛直面内で円弧上を移動するように構成される。
【0129】
固定磁気部材204は、水平状態にある振り子部材202の伸びる方向の延長上に配置され、制振対象物220と一体に振動するように配置される。固定磁気部材204と振り子側磁気部材222とは、互いに対向する面の磁極が異極となるように着磁されている。これにより、制振対象物220が振動していない状態では、固定磁気部材204と振り子側磁気部材222との間の吸引力によって、振り子部材202が水平状態に維持され、振り子部材202の水平状態からの振幅がある程度の大きさの範囲内にある状態では、振り子部材202は、振り子側磁気部材222と固定磁気部材204との間の吸引力によって、振り子運動を行うように構成されている。
振り子部材202が静止している水平状態から、制振対象物220が
図16においてZ軸方向に振動すると、制振対象物220が振動することに伴い、振り子部材202が支点Qを軸としてZ-X面内で振り子運動をする。
【0130】
この場合も、重力による復元力と、磁力による復元力とが振り子部材202に作用し、重力による復元力の非線形性成分と、磁力による復元力の非線形性成分とが相殺されるため、振り子部材202全体としては、線形な復元力を持つことになり、振り子部材202の振幅の大きさに係わらず線形な復元力を有することになる。
これによって、振り子運動をする振り子部材202に、重力により作用する力の非線形成分を抑制することができる。
【0131】
(b)
図17は、
図16における振り子装置201において、固定磁気部材204を二つ設けたものである。
すなわち、
図17に示す振り子装置201では、振り子部材202は、
図16における振り子装置201と同様に、制振対象物220が上下に振動することに伴い、支点Qを軸としてZ-X面内で振り子運動をするように配置される。また、静止状態で水平状態にある振り子部材202を挟んで、上下に固定磁気部材204a及び204bが配置され、これら固定磁気部材204a、204bは、制振対象物220と一体に振動するように配置される。
固定磁気部材204a及び204bは、水平状態にある振り子部材202の可動端に配置された振り子側磁気部材222と対向するように配置され、振り子側磁気部材222の固定磁気部材204aと対向する側の面と固定磁気部材204bと対向する側の面とは異極に着磁され、固定磁気部材204aと振り子側磁気部材222とが対向する面は互いに同極となるように着磁され、固定磁気部材204bと振り子側磁気部材222とが対向する面は互いに同極となるように着磁されている。
【0132】
これにより、制振対象物220が振動していない状態では、固定磁気部材204aと振り子側磁気部材222との間の反発力と、固定磁気部材204bと振り子側磁気部材222との間の反発力と、重力とによって、振り子部材202が水平状態に維持され、振り子部材202の水平状態からの振幅がある程度の大きさの範囲内にある状態では、振り子部材202は、振り子側磁気部材222と、固定磁気部材204a、204bとの間の反発力によって、振り子運動を行うように構成されている。
振り子部材202が静止している水平状態から、制振対象物220が
図17においてZ軸方向に振動すると、制振対象物220が振動することに伴い、振り子部材202が支点Qを軸として、Z-X面内で振り子運動をする。
【0133】
この場合も、重力による復元力と、磁力による復元力とが振り子部材202に作用し、重力による復元力の非線形性成分と、磁力による復元力の非線形性成分とが相殺されるため、振り子部材202全体としては、復元力は線形成分を有することになり、振り子部材202の振幅の大きさに関わらず、復元力は線形な復元力となる。これによって、振り子運動をする振り子部材202の、重力による復元力に含まれる非線形成分を抑制することができる。
なお、
図16、
図17において、振り子部材202が上記実施形態における振り子部材2に対応し、固定磁気部材204、204a、204bが固定磁気部材4a、4bに対応し、振り子側磁気部材222が振り子側磁気部材22a、22bに対応している。
【0134】
(c)
図18は、
図16における振り子装置201において、振り子部材202が取り付けられた制振対象物220が、Y軸方向に振動し、これにより、振り子部材202の可動端がX-Y平面で振動するようにしたものである。
図18は、左方向をX軸、上方向をY軸、紙面に向かう方向をZ軸とし、Z軸方向を重力方向としている。つまり、
図18は、振り子装置201を上から見た図である。
固定磁気部材204と振り子側磁気部材222の対向する面の磁極は異極とする。
【0135】
振り子部材202は、支点Qと振り子側磁気部材222との間の距離を一定に維持する剛性を有し、制振対象物220が水平面内で振動することに伴い、振り子部材202が支点Qを軸として振り子運動を行い、振り子側磁気部材222が水平面内で円弧上を移動するように構成される。
固定磁気部材204は、制振対象物220の支点Qを含む垂直面に対して直交する状態にある振り子部材202の長手方向の延長上に配置され、制振対象物220と一体に振動するように配置される。固定磁気部材204と振り子側磁気部材222とは互いに異極となるように着磁されている。
【0136】
これにより、制振対象物220が振動していない状態では、振り子部材202は水平状態であり、さらに、固定磁気部材204と振り子側磁気部材222との間の吸引力によって、水平面において、振り子部材202が制振対象物220の支点Qを含む面に対して直交する状態に維持され、制振対象物220の振動に伴い、水平面における振幅がある程度の大きさの範囲内にある状態では、振り子部材202は、振り子側磁気部材222と、固定磁気部材204との間の吸引力によって、振り子運動を行うように構成されている。
振り子部材202が、静止状態であり、且つ制振対象物220の支点Qを含む垂直面に対して垂直且つ水平な状態から、制振対象物220が水平方向に振動すると、磁力による復元力が振り子部材202に作用するため、振り子部材202が支点Qを軸としてX-Y面内で振り子運動をする。この場合、重力が振り子部材202に作用しないため、振り子装置201の復元力特性はソフトスプリング特性となる。
【0137】
(d)
図19は、
図17における振り子装置201において、振り子部材202が取り付けられた制振対象物220が、Y軸方向に振動し、これにより、振り子部材202の可動端がX-Y平面で振動するようにしたものである。
すなわち、
図19に示す振り子装置201では、振り子部材202は、
図18における振り子装置201と同様に、制振対象物220が水平方向に振動することに伴い、支点Qを軸として水平面内で振り子運動をするように配置される。また、静止状態で、制振対象物220の支点Qを含む垂直面と直交する水平状態にある振り子部材202を挟んで、水平面内の両側に固定磁気部材204a、204bが配置され、これら固定磁気部材204a、204bは、制振対象物220と一体に振動するように配置される。そして、振り子側磁気部材222の、固定磁気部材204aと対向する側の面と固定磁気部材204bと対向する側の面とは異極に着磁され、固定磁気部材204aと振り子側磁気部材222とが対向する面は互いに同極となるように着磁され、固定磁気部材204bと振り子側磁気部材222とが対向する面は互いに同極となるように着磁されている。
【0138】
これにより、制振対象物220が振動していない状態では、固定磁気部材204aと振り子側磁気部材222との間の反発力と、固定磁気部材204bと振り子側磁気部材222との間の反発力とによって、振り子部材202は水平状態に維持され、さらに支点Qを含む垂直面に対して直交する状態に維持され、振り子部材202の水平状態からの振幅がある程度の大きさの範囲内にある状態では、振り子部材202は、振り子側磁気部材222と固定磁気部材204a、204bとの間の反発力によって、振り子運動をするように構成されている。
振り子部材202が静止状態であり、制振対象物220が
図19においてY軸方向に振動すると、制振対象物220が振動することに伴い、振り子部材202が支点Qを軸として、X-Y面内で振り子運動をする。この場合、重力が振り子部材202に作用しないため、振り子装置201はハードスプリング特性を有する。
【0139】
なお、
図18、
図19において、振り子部材202が上記実施形態における振り子部材2に対応し、固定磁気部材204、204a、204bが固定磁気部材4a、4bに対応し、振り子側磁気部材222が振り子側磁気部材22a、22bに対応している。
【0140】
(e)
図20は、
図16における振り子装置201において、振り子部材202が取り付けられた制振対象物220が、X軸方向に振動し、これにより、振り子部材202の可動端がZ-X平面で振動するようにしたものである。
図20は、左方向をZ軸、上方向をX軸とし、紙面に向かう方向をY軸とし、Z軸方向を重力方向としている。つまり、
図20に示す振り子装置201は、制振対象物220に対し、振り子部材202が吊り下げられた状態にある振り子装置である。
この場合、固定磁気部材204と振り子側磁気部材222の対向する面の磁極とは異極としてもよく、また同極としてもよい。
【0141】
振り子部材202は、支点Qと振り子側磁気部材222との間の距離を一定に維持する剛性を有し、制振対象物220が水平面内で振動することに伴い、振り子部材202が支点Qを軸として振り子運動を行い、振り子側磁気部材222が垂直面内で円弧上を移動するように構成される。
固定磁気部材204は、一端が制振対象物220の支点Qに取り付けられて吊り下げられた静止状態にある振り子部材202の伸びる方向の延長上に配置され、制振対象物220と一体に振動するように配置される。固定磁気部材204と振り子側磁気部材222とは、例えば、異極となるように着磁されている。これにより、制振対象物220が振動していない状態では、重力と、固定磁気部材204と振り子側磁気部材222との間の吸引力とによって、振り子部材202は鉛直状態に維持されるようになっている。
【0142】
振り子部材202が静止し鉛直状態にある状態から、制振対象物220が水平方向に振動すると、これに伴い、振り子部材202が支点Qを軸としてZ-X面内で振り子運動をする。
異極の場合、磁力による復元力が振り子部材202に作用することによって、重力による非線形性成分と、磁力による非線形性成分とは相殺出来ず、振り子部材202全体としては、線形な復元力を有するものの、重力と磁力とにより振り子に作用する合力は振り子の角度に比例して非線形特性のソフトスプリング特性が増大することになる。
【0143】
なお、固定磁気部材204と振り子側磁気部材222との対向する面の磁極を同極とした場合には、制振対象物220が振動していない状態では、重力による振り子に作用する力の線形成分の大きさが磁力による反発力の線形成分よりも大きい場合には、振り子部材202が鉛直下方向に向いて静止した状態に維持され、振り子部材202の鉛直下方向に向いている状態からの振幅がある程度の大きさの範囲内にある状態では、振り子部材202は振り子運動をするように構成されている。これによって、固定磁気部材204と振り子側磁気部材222との対向する面が同極の場合には、重力による復元力と磁力による復元力との和からなる復元力が存在するため、各復元力に含まれる非線形性成分を相殺することができ、振り子部材202全体として非線形性を持たない線形復元力特性を持たせることができる。
【0144】
(f)
図21は、
図17における振り子装置201において、振り子部材202が取り付けられた制振対象物220がX軸方向に振動し、これにより、振り子部材202の可動端がZ-X平面で振動するようにしたものである。
この場合、固定磁気部材204a、204bのそれぞれと振り子側磁気部材222の対向する面の磁極は同極としてもよく、異極としてもよい。同極とした場合の一例が、
図2に示す振り子装置1である
振り子部材202は、支点Qと振り子側磁気部材222との間の距離を一定に維持する剛性を有し、制振対象物220が水平面内で振動することに伴い、振り子部材202が支点Qを軸として振り子運動を行い、振り子側磁気部材222が垂直面内で円弧上を移動するように構成される。
【0145】
固定磁気部材204a、204bは、一端が制振対象物220の支点Qに取り付けられて吊り下げられた静止状態にある振り子部材202の伸びる方向の延長上に配置され、制振対象物220と一体に振動するように配置される。固定磁気部材204aと振り子側磁気部材222とは、例えば、同極となるように着磁され、同様に、固定磁気部材204bと振り子側磁気部材222とは、同極となるように着磁される。これにより、制振対象物220が振動していない状態では、重力と、固定磁気部材204a、204bと振り子側磁気部材222との間の反発力とによって、振り子部材202が垂直状態に維持されるように構成する。
【0146】
振り子部材202が静止し垂直状態にある状態から、制振対象物220が水平方向に振動すると、これに伴い、振り子部材202が支点Qを軸としてZ-X面内で振り子運動をする。
同極の場合、磁力による復元力が振り子部材202に作用することによって、鉛直下方向に向いて静止した状態での磁石間距離や磁石の厚さなどのパラメータを設定することにより、重力による復元力に含まれる非線形性成分と、磁力の非線形性成分とが相殺されるため、振り子部材202全体としては、線形な復元力を有することになり、振り子部材202の振幅の大きさに関わらず、復元力は線形性を有することになる。
【0147】
一方、固定磁気部材204a、204bと振り子側磁気部材222との対向する面の磁極を異極とした場合には、制振対象物220が振動していない状態では、重力による復元力を、磁力による吸引力の線形成分よりも大きくすることにより、振り子部材202が鉛直下方向に向いて静止した状態を維持するように構成する。固定磁気部材204a、204bと振り子側磁気部材222との対向する面が異極である場合には、重力の復元力と磁力の線形成分との和からなる復元力が存在し、制振対象物220の振動に伴い振り子部材202を振り子運動させることができるが、この場合には、非線形性成分を相殺することができず、ソフトスプリング特性を増加する結果になる。
ここで、固定磁気部材204a、204bと振り子側磁気部材222との対向する面の磁極を異極とした場合と同極とした場合とでは、振り子装置201の復元力特性が異なり、同極とした場合には、ソフトスプリング特性となり、異極とした場合には、ハードスプリング特性となるため、所望とする特性に応じて、固定磁気部材204a、204bと振り子側磁気部材222との対向する面の磁極を異極とするか、同極とするかを決定すればよい。
【0148】
(変形例8)
例えば
図16に示す振り子装置201と
図17に示す振り子装置201とを組み合わせ、
図22に示すように、振り子部材202の両端に、振り子側磁気部材222a、222bを設け、振り子部材202の長手方向中間部分に支点Qを有する振り子装置301を構成してもよい。
例えば、振り子部材202は、図示しない第1振り子部材の一端と第2振り子部材の一端とが支点Qで回動自在に支持されることにより連結された二つの振り子部材で形成し、支点Qを軸として振り子側磁気部材222a側と振り子側磁気部材222b側とが独立に振動できるように構成する。
【0149】
図22に示すように、振り子部材202の一方の端部には振り子側磁気部材(第1磁気部材)222aを設ける。また水平状態(静止状態)にある振り子部材202の延長上の、振り子側磁気部材222aと対向する位置に、固定磁気部材(第2磁気部材、第1固定部材)204を設ける。振り子側磁気部材222a及び固定磁気部材204の対向する面の磁極は異極とし、吸引力が生じるようにする。
【0150】
また、他方の端部には、振り子側磁気部材(第3磁気部材)222bを設け、振り子側磁気部材222bを挟んでその両側に、固定磁気部材(第4磁気部材、第2固定部材)204a及び204bを設ける。振り子側磁気部材222bの、204aと対向する面の磁極と204bと対向する面の磁極とは異極とし、振り子側磁気部材222bと固定磁気部材204aとが対向する面の磁極は同極とし、振り子側磁気部材222bと固定磁気部材204bとが対向する面の磁極は同極とし、互いに反発するようにする。
【0151】
このように、振り子部材202の左端側の振り子Aと右端側の振り子Bとで、連動または独立に動作するように構成すると共に、磁気部材の配置を異ならせ、たとえば振り子Aを、ソフトスプリング特性を有するように構成し、振り子Bを、ハードスプリング特性を有するように構成する。振り子Aに働く磁力と振り子Bに働く磁力とを個別に調整できるように構成しておき、所望とする特性に応じて振り子Aに働く磁力及び振り子Bに働く磁力のいずれか一方または両方を調整することによって、線形復元力と非線形復元力とを独立に設定することができる。
【0152】
(変形例9)
制振対象物は、建物20に限るものではなく、例えば列車等の移動体や、橋梁、桟橋、配管等であっても適用することができる。
【0153】
(a)本実施形態に係る振り子装置を、吸振器として配管に取り付ける場合、例えば、
図23(a)、(b)に示すように、配管320が垂直方向に振動する場合には、
図16又は
図17に示す振り子装置201を用い、静止状態にあるときの振り子部材202が、
図23において配管320のX軸方向に延びるように配管320の側方に振り子装置201を配置し、配管320の垂直方向の振動に対して振り子部材202がZ-X面で振り子運動をするように振り子装置201を設ければよい。
図23(a)において、左方向をY軸、紙面から手前に向かう方向をX軸、下方向をZ軸とし、Z軸方向を重力方向としている。
図23(b)は、
図23(a)の配管320をY軸方向から見た図である。
【0154】
また、
図24(a)、(b)に示すように、配管320が水平方向に振動する場合には、
図18又は
図19に示す振り子装置201を用い、静止状態にあるときの振り子部材202が
図24において配管320のZ軸方向に延びるように、配管320の下部に振り子装置201を配置し、配管320の水平方向の振動に対して振り子部材202がZ-X平面で振り子運動をするように振り子装置201を設ければよい。
図24(a)において、左方向をY軸、上方向をX軸、紙面に向かう方向をZ軸とし、Z軸方向を重力方向としている。
図24(b)は、
図24(a)に示す配管320をY軸方向から見た図である。
【0155】
(b)本実施形態に係る振り子装置を、吸振器として電車の車両に取り付ける場合、
図25(a)、(b)に示すように、車両420の走行方向に向かって左右方向に振動する場合には、
図24に示す配管320の水平方向の振動を抑制する場合と同様に、
図18又は
図19に示す振り子装置201を用い、静止状態にあるときの振り子部材202が
図25において車両の下方に延びるように、車両内部の天井等に振り子装置201を配置し、車両420に対して振り子部材202の可動部が車両の走行方向に向かって左右方向に垂直面内で振動するように振り子装置201を設ければよい。このように配置することによって、車両420の走行方向に対して左右方向の振動を安定化することができる。
【0156】
また、例えば、本実施形態に係る振り子装置を、制振装置として橋梁に取り付け、橋梁の上下振動を抑制する場合には、
図23に示す配管320の上下の振動を抑制する場合と同様に、
図16又は
図17に示す振り子装置201を用い、橋梁の上下方向の振動に対して振り子部材202が垂直面内で振り子運動をするように振り子装置201を設ければよい。この場合、橋梁の固有振動数をΩとしたとき、振り子部材2の固有振動数ωをω=Ω/2となるように設定することが好ましい。
【0157】
(変形例10)
本実施形態に係る振り子装置の非線形性を強め、エネルギハーベスタに適用することも可能である。
通常、加振周波数γがハーベスタ(振動子、ここでは振り子部材)の固有周波数ωに近いときにのみ、ハーベスタが共振し、エネルギを取り出すことができる。すなわち、
図26に示すように、加振周波数γが限定された範囲内にあるときにのみ、エネルギを取り出すことができる。
本実施形態に係る振り子装置を用い、振り子部材の特性を調整し、ソフトスプリング特性或いはハードスプリング特性を持たせることによって、
図27に示すように、より広い加振周波数γの範囲で共振状態となり、エネルギハーベスタを効率的に行うことができる。
【0158】
図27に示す特性を持たせるためには、ハードスプリング特性及びソフトスプリング特性の両方を有する振り子装置が必要である。例えば、変形例8で説明した
図22に示す振り子装置301を用いることができる。
図22において、振り子Aはソフトスプリング特性を有し、振り子Bはハードスプリング特性を有する。振り子A及び振り子Bそれぞれにおいて、磁石間距離を独立に調整する事などにより、振り子の非線形特性をより自在に設定することができる。
【0159】
例えば、加振周波数γが、振り子装置301の線形固有振動数ωよりも小さいときには、ソフトスプリング特性を有する振り子Aの電磁石を作動させ、振り子Bの電磁石は停止させる。逆に、加振周波数γが、振り子装置1の線形固有振動数ωよりも大きいときには、振り子Aの電磁石を停止させ、ハードスプリング特性を有する振り子Bの電磁石を作動させる。これにより、
図27に示すように、より広い加振周波数γの範囲で、エネルギハーベスタを行うことができる。
図22に示す振り子装置301は、制振対象物の振動方向と同じ方向に振動するように配置すればよい。
【0160】
また、
図22に示す振り子装置301に限るものではなく、他の振り子装置をエネルギハーベスタに適用することも可能である。例えば、
図25に示すように振り子装置を車両に取り付け、走行方向に対する車両の左右の揺れに伴い、振り子部材を振り子運動させ、その振動を電気エネルギに変換するように構成してもよい。また、振り子装置を橋梁に設け、橋梁の上下方向の揺れに伴い、振り子部材を振り子運動させ、その振動を電気エネルギに変換するように構成してもよい。また、波により振り子部材が振り子運動するように振り子装置を配置し、波による振り子部材の振動を、電気エネルギに変換するように構成してもよい。
【0161】
振動を電気エネルギに変換する発電機としては、例えば、圧電式(ピエゾ)、電磁誘導式、静電式等の発電機を用いることができる。
例えば振り子装置を車両に取り付けた場合には、
図25(b)に示すように、振り子部材の支点Q近傍に振動を電気エネルギに変換する発電機420aを設け、これにより電気エネルギを取り出すようにしてもよい。
【0162】
<磁気部材の配置と振り子部材の運動特性の調整方法>
図13に示す円錐振り子運動する振り子部材102(固定磁気部材104の磁極面が十分に広い場合)において、
図28に示すように、振り子部材102の伸びる方向が鉛直方向である場合の、固定磁気部材104の表面から振り子側磁気部材122の重心までの距離をr,振り子部材102の鉛直方向からの変位角がθであるときの、振り子側磁気部材122の重心の、固定磁気部材104の表面からの高さとの差分をxとし、支点Qから振り子側磁気部材122の重心までの距離を振り子の等価長さlとする。xは次式(31)で表される。
【0163】
【0164】
また、振り子部材102の磁力による復元力Fは、(31)式を利用して次式(32)に示すように近似することができる。(32)式中のkは透磁率及び磁束密度からなる定数である。
【0165】
【0166】
一方、振り子部材102の重力による復元力は次式(33)に示すように近似することができる。(33)式において、mは振り子部材102の質量、θ″は変位角θの角加速度である。
図28に示す構成の場合、磁力による復元力Fは鉛直上向きとなる。
【0167】
【0168】
(32)式において、1次の項の係数に含まれる「(k/r2)」は線形成分を表し、3次の項の係数に含まれる「-(kl/r3)」は非線形成分を表す。ここで、線形成分a1=(k/r2)、非線形成分a3=-(kl/r3)とおくと、線形成分a1と、非線形成分a3との比a3/a1は、次式(34)で表される。
【0169】
【0170】
したがって、「l」を「r」に比較して大きくすることで非線形効果を得やすいことがわかる。
ここで、振り子側磁気部材122と固定磁気部材104とが互いに対向する面が異極であり、両者が吸引しあう場合には、a1はa1>0となり、正の線形剛性を有し、a3はa3<0となり、非線形剛性はソフトスプリング特性を有する。a1がa1>0であるため、復元力を発生させることができる。
振り子側磁気部材122と固定磁気部材104とが互いに対向する面が同極であり、両者が反発しあう場合には、a1はa1<0となり、負の線形剛性を有し、a3はa3>0となり、非線形剛性はハードスプリング特性を有する。a1がa1<0であり、線形剛性が負であるため、振り子装置は復元力を持つことができない
【0171】
なお、重力の復元力を利用できる場合、例えば
図20に示す振り子装置201の場合、a
1<0であり負の線形剛性を有する場合でも、重力の効果によりこれを打ち消して全体で正の線形剛性を持たせることができる。この場合、復元力が存在し、同時に、磁気部材のハードスプリング特性を有する。
また、
図14に示す円錐振り子運動する振り子部材102(固定磁気部材104の磁極面が十分に広くない場合)においても同様の特性を有し、この場合の線形成分の係数を表すa
1及び非線形成分の係数を表すa
3は、以下の手順で求めることができる。
【0172】
図14に示す振り子部材102において、
図29に示すように、振り子部材102の伸びる方向が鉛直方向である場合の、固定磁気部材104の重心から振り子側磁気部材122の重心までの鉛直方向の距離をr,振り子部材102の鉛直方向からの変位角がθであるときの、固定磁気部材104の重心から振り子側磁気部材122の重心までの距離をxとし、支点Qから振り子側磁気部材122の重心までの距離を振り子の等価長さlとする。
図29に示す構成の場合、磁力による復元力Fは、固定磁気部材104の重心から振り子側磁気部材122の重心に向かうベクトル方向に沿って、振り子側磁気部材122の重心から伸びるベクトル方向の力となる。振り子部材102が振り子運動するときの振り子側磁気部材122の重心の移動軌跡上における、変位角がθであるときの振り子側磁気部材122の重心の位置における接線と、磁力による復元力Fを表すベクトルとがなす角度をαとする。
【0173】
振り子部材102の磁力よる復元力Fは、次式(35)で表すことができる。(35)式中のkは透磁率及び磁束密度からなる定数である。
【0174】
【0175】
また、(35)式から、次式(36)で示す近似式を導くことができる。
【0176】
【0177】
一方、振り子部材102の重力による復元力は、次式(37)に示すように近似することができる。(37)式中の、mは振り子部材102の質量、θ″は変位角θの角加速度である。
【0178】
【0179】
(36)式において、1次の項の係数に含まれる「(kl+kr)θ/r3」は線形成分を表し、3次の項の係数に含まれる「-k(r+l)(r2+9rl+9l2)θ3/6r3」は非線形成分を表す。ここで、線形成分a1=(kl+kr)/r3、非線形成分a3=-k(r+l)(r2+9rl+9l2)/6r3とおくと、線形成分a1と、非線形成分a3との比a3/a1は、次式(38)で表される。
【0180】
【0181】
したがって、「l」を「r」に比較して大きくすることで、磁力の非線形効果を得やすいことがわかる。
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【0182】
本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
【0183】
(1)
支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される振り子部材と、
前記振り子部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される固定部材と、
を備えることを特徴とする振り子装置。
【0184】
(2)
前記振り子部材は、回動可能に前記支点から吊り下げられていることを特徴とする上記(1)に記載の振り子装置。
【0185】
(3)
前記振り子運動は、単振り子運動、球面振り子運動及び円錐振り子運動のうちのいずれかであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の振り子装置。
【0186】
(4)
前記振り子部材は剛性を有し、前記支点を中心として垂直面内で単振り子運動が可能に設けられ、且つ静止状態にあるときには、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材間の反発力又は吸引力により水平状態に維持されることを特徴とする上記(1)に記載の振り子装置。
【0187】
(5)
前記振り子部材は剛性を有し、前記支点を中心として水平面内で単振り子運動が可能に設けられ、且つ静止状態にあるときには、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材間の反発力又は吸引力により、前記支点を含み、前記水平面と直交する垂直面に対して垂直状態に維持されることを特徴とする上記(1)に記載の振り子装置。
【0188】
(6)
前記振り子運動は、単振り子運動であり、前記第2磁気部材を一対有し、当該一対の前記第2磁気部材は、前記単振り子運動の運動方向に前記振り子部材を挟んで互いに面して配置され、
前記第1磁気部材は、前記第2磁気部材と互いに面するように、前記第2磁気部材毎に配置されていることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0189】
(7)
前記第2磁気部材は、前記振り子部材を囲むように配置され、
前記第1磁気部材と前記第2磁気部材とは、互いに面する側の磁極が、同極又は異極となるように配置されることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0190】
(8)
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材は、それぞれ永久磁石又は電磁石により構成されることを特徴とする上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0191】
(9)
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の外観形状は、それぞれ、円柱状、角柱状、球状、アーク状、リング状、中空円柱状、曲面状及び平面状のうちのいずれかであることを特徴とする上記(1)から(8)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0192】
(10)
前記第2磁気部材の外観形状は、平面状または曲面状であり、
前記第1磁気部材と前記第2磁気部材とは、互いに面する側の磁極が、同極又は異極となるように配置されることを特徴とする上記(1)から(8)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0193】
(11)
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材のうちの少なくともいずれか一方の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量とのうちの少なくともいずれか一つを調整可能であることを特徴とする上記(1)から(10)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0194】
(12)
前記支点は、制振対象物に直接又は前記制振対象物に固定された構造部に設けられることを特徴とする上記(1)から(11)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【0195】
(13)
制振対象物の振動を、振り子運動する振り子装置を用いて制振する制振装置であって、
前記振り子装置として、上記(1)から(12)のいずれか一項に記載の振り子装置を用いたことを特徴とする制振装置。
【0196】
(14)
制振対象物の振動を、振り子運動する振り子部材を用いて制振する制振装置の設計方法であって、
前記振り子部材の少なくとも一部に第1磁気部材を配置し、
当該第1磁気部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与える位置に、第2磁気部材を配置し、
前記振り子部材の重力による復元力と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との間の磁力による復元力との和が、所望の復元力特性を有するように、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量と、のうちの少なくともいずれか一つを調整することを特徴とする制振装置の設計方法。
【0197】
(15)
支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される振り子部材の少なくとも一部に第1磁気部材を配置し、
当該第1磁気部材に対して磁力による反発力又は吸引力を与える位置に、第2磁気部材を配置し、
前記振り子部材の重力による復元力と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との間の磁力による復元力との和が、所望の復元力特性を有するように、前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材の磁束密度と、前記第1磁気部材と前記第2磁気部材との相対位置と、前記振り子部材の質量と、のうちの少なくともいずれか一つを調整することを特徴とする振り子装置。
【0198】
(16)
前記復元力特性は、線形特性、ソフトスプリング特性又はハードスプリング特性のいずれかであることを特徴とする上記(15)に記載の振り子装置。
【0199】
(17)
支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第1磁気部材により構成される第1振り子部材と、
前記第1振り子部材に対して磁力による反発力を与え、少なくとも一部が第2磁気部材により構成される第1固定部材と、
前記支点を中心として振り子運動し、少なくとも一部が第3磁気部材により構成される第2振り子部材と、
前記第2振り子部材に対して磁力による吸引力を与え、少なくとも一部が第4磁気部材により構成される第2固定部材と、を備えることを特徴とする振り子装置。
【0200】
(18)
前記第1磁気部材、前記第2磁気部材、前記第3磁気部材及び前記第4磁気部材のうちの少なくとも一つは電磁石により構成され、
前記反発力による前記第1振り子部材のハードスプリング特性と前記吸引力による前記第2振り子部材のソフトスプリング特性との少なくともいずれか一方を、前記電磁石の磁力の大きさを変化させること及び前記電磁石を作動停止することのうちの少なくともいずれか一方により変化可能であることを特徴とする上記(17)に記載の振り子装置。
【0201】
(19)
前記第1磁気部材及び前記第2磁気部材は、それぞれ永久磁石又は電磁石により構成され、前記第3磁気部材及び前記第4磁気部材は、それぞれ永久磁石又は電磁石により構成されることを特徴とする上記(18)に記載の振り子装置。
【0202】
(20)
前記第1振り子部材又は前記第2振り子部材の振動を、電気エネルギに変換する発電機を備えることを特徴とする上記(17)から(19)のいずれか一項に記載の振り子装置。
【符号の説明】
【0203】
1、101、201、301 振り子装置
2、102、202 振り子部材
21 振り子本体
22、22a、22b、122、222 振り子側磁気部材
3 振り子支持部材
31 支持機構
32 軸
4a、4b、104、204 固定磁気部材
5a、5b 磁気部材支持部
6 支持部本体
10 制振装置
20 建物
220 制振対象物
【要約】
【課題】振り子の重力による復元力の振幅依存性を所望の特性に調整することの可能な振り子装置を提供する。
【解決手段】振り子装置1は、振り子支持部材3に設けた軸32に吊り下げられ、軸32を支点として鉛直面内で振り子運動する振り子部材2と、振り子部材2が振り子運動する鉛直面内に振り子部材2を挟んで配置された一対の固定磁気部材4a、4bと、を備え、振り子部材2は、一対の固定磁気部材4a、4bそれぞれに面する一対の振り子側磁気部材22a、22bを有し、固定磁気部材4a、4b及び振り子側磁気部材22a、22bの互いに面する側の磁気極性はそれぞれ同一とし、固定磁気部材4a、4bが、振り子側磁気部材22a、22bに反発力を与えるように構成する。
【選択図】
図2