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特許7505831海藻抽出物を含む高血圧症改善剤並びに同高血圧症改善剤を含む機能性食品、医薬部外品及び医薬品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】海藻抽出物を含む高血圧症改善剤並びに同高血圧症改善剤を含む機能性食品、医薬部外品及び医薬品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240618BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20240618BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 36/02 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 36/04 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L33/16
A61P9/12
A61K36/02
A61K36/03
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/06
A61K36/04
A61K47/46
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023553147
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2022046116
(87)【国際公開番号】W WO2023112974
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021202737
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521467869
【氏名又は名称】シード医療製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 梓
(72)【発明者】
【氏名】堤 巌
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-086217(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102552471(CN,A)
【文献】特開2019-070031(JP,A)
【文献】特開2019-041661(JP,A)
【文献】特開平09-301821(JP,A)
【文献】特開2019-058144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61P、A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のヒバマタ抽出物と、
ヒバマタ抽出物が有する血圧改善作用を助長する補助組成物と、を含む高血圧症改善剤であって、
前記所定量は、前記高血圧症改善剤の1日あたりの摂取量中に1.5mg以上含まれる量であり、
前記補助組成物は、微量元素剤と不溶性食物繊維加工物とよりなることを特徴とする高血圧症改善剤。
【請求項2】
前記微量元素剤は、リン、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、カルシウム、セレンから選ばれる微量元素成分のうち少なくともいずれか2以上の微量元素成分の組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の高血圧症改善剤。
【請求項3】
前記微量元素剤は、さんごも科いしも属の紅藻の灰化粉砕物であることを特徴とする請求項1に記載の高血圧症改善剤。
【請求項4】
前記不溶性食物繊維加工物は、繊維幅が20~80nm、繊維長が繊維幅の120倍以上である食物繊維束よりなることを特徴とする請求項1に記載の高血圧症改善剤。
【請求項5】
前記不溶性食物繊維加工物は、繊維幅が20~80nm、繊維長が繊維幅の120倍以上である食物繊維束よりなることを特徴とする請求項3に記載の高血圧症改善剤。
【請求項6】
剤形を粉末、細粒、顆粒、ソフトカプセル、ハードカプセル、ゼリー状、グミ状、液体又は錠剤としたことを特徴とする請求項1~いずれか1項に記載の高血圧症改善剤。
【請求項7】
請求項1~いずれか1項に記載の高血圧症改善剤を含むことを特徴とする機能性食品。
【請求項8】
請求項1~いずれか1項に記載の高血圧症改善剤を含むことを特徴とする医薬部外品。
【請求項9】
請求項1~いずれか1項に記載の高血圧症改善剤を含むことを特徴とする医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻抽出物を含む高血圧症改善剤並びに同高血圧症改善剤を含む機能性食品、医薬部外品及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日本国においては要介護者数が年々増加する傾向にある。要介護状態になる原因としては脳卒中、認知症、心筋梗塞や心不全など高血圧に関連する疾患によるものが多く、これらの疾患を原因とする要介護者数の割合は全体の約半数とされている。このような背景から、要介護状態を回避するためにも高血圧症を改善できる食品や医薬品が求められている。
【0003】
高血圧症を改善する成分の一例として、海藻抽出物が知られている。海藻抽出物は医薬部外品の成分としても広く用いられているが、もともと食品成分の一つであるから日々の食事の一環として摂取することも可能である。それゆえ、海藻抽出物は、血圧の改善を目的とするいくつかの健康食品にも配合されて提供されている(例えば、特許文献1。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-201568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の引用文献1に係る健康食品は、赤血球の変形能の亢進や血小板の凝集低下による血液流動性を改善し、高血圧症の治療に利用することができるとしている。
【0006】
しかしながら、高血圧症は血液の流動性のみで改善できるものではなく、体内で水分の循環に関与するミネラルバランス、心臓や血管を収縮させる副甲状腺ホルモンの分泌量、血中のブドウ糖や中性脂肪の量など複合的な要素を改善してこそ実現できるものである。
【0007】
この点、本発明者らは長年に亘る研究により、海藻抽出物が有する血圧改善作用を助長して、より顕著な高血圧症改善効果を発揮し得るような補助組成物、しかも食品素材にて構成された補助組成物を見出して、海藻抽出物と共に配合した製剤を完成するに至った。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、所定量の海藻抽出物により得られる血圧改善作用と同等の効果を、より少ない量の海藻抽出物の量で発現することができる高血圧症改善剤を提供するものである。
【0009】
また本発明では、同高血圧症改善剤を含有する機能性食品や医薬部外品、医薬品についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る高血圧症改善剤は、(1)所定量のヒバマタ抽出物と、同ヒバマタ抽出物が有する血圧改善作用を助長する補助組成物と、を含む高血圧症改善剤であって、前記所定量は、前記高血圧症改善剤の1日あたりの摂取量中に1.5mg以上含まれる量であり、前記補助組成物は、微量元素剤と不溶性食物繊維加工物とよりなることとした。
【0011】
また、本発明に係る高血圧症改善剤では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記微量元素剤は、リン、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、カルシウム、セレンから選ばれる微量元素成分のうち少なくともいずれか2以上の微量元素成分の組み合わせからなること。
)前記微量元素剤は、さんごも科いしも属の紅藻の灰化粉砕物であること。
4)及び(5)前記不溶性食物繊維加工物は、繊維幅が20~80nm、繊維長が繊維幅の120倍以上である食物繊維束よりなること。
)剤形を粉末、細粒、顆粒、ソフトカプセル、ハードカプセル、ゼリー状、グミ状、液体又は錠剤としたこと。
【0012】
また、本発明に係る機能性食品では、()上述の高血圧症改善剤を含むこととした。
【0013】
また、本発明に係る医薬部外品では、()上述の高血圧症改善剤を含むこととした。
【0014】
また、本発明に係る医薬品では、()上述の高血圧症改善剤を含むこととした。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る高血圧症改善剤によれば、海藻抽出物と、同海藻抽出物が有する血圧改善作用を助長する補助組成物と、を含む高血圧症改善剤であって、前記補助組成物は、微量元素剤と不溶性食物繊維加工物とよりなることとしたため、所定量の海藻抽出物により得られる血圧改善作用による効果と同等の効果をより少ない量の海藻抽出物で発現することができる。
【0016】
また、前記海藻抽出物は、褐藻の抽出物であることとすれば、海藻抽出物に由来する血圧改善作用をより堅実に享受することができる。
【0017】
また、前記褐藻は、ヒバマタであることとすれば、海藻抽出物に由来する血圧改善作用をより堅実に享受することができる。
【0018】
また、前記微量元素剤は、リン、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、カルシウム、セレンから選ばれる微量元素成分のうち少なくともいずれか2以上の微量元素成分の組み合わせからなることとすれば、これらをいずれか1つ、或いはこれら以外の微量元素のみを補助組成物として配合した場合と比較して、血圧改善作用をより顕著に助長することができる。
【0019】
また、前記微量元素剤は、さんごも科いしも属の紅藻の灰化粉砕物であるとすれば、血圧改善作用をより顕著に助長することができる。
【0020】
また、前記不溶性食物繊維加工物は、繊維幅が20~80nm、繊維長が繊維幅の120倍以上である食物繊維束よりなることとすれば、血圧改善作用をより顕著に助長することができる。
【0021】
また、剤形を粉末、細粒、顆粒、ソフトカプセル、ハードカプセル、ゼリー状、グミ状、液体又は錠剤としたこととすれば、若年層から年配者までといった摂取者の年齢層や、持ち運びの有無など摂取者の使用環境に適した剤形で高血圧症改善剤の摂取を行うことができる。
【0022】
また、本発明に係る機能性食品では、上述の高血圧症改善剤を含むこととしたため、機能性食品としての取り扱いが可能な高血圧症改善剤を提供することができる。
【0023】
また、本発明に係る医薬部外品では、上述の高血圧症改善剤を含むこととしたため、医薬部外品としての取り扱いが可能な高血圧症改善剤を提供することができる。
【0024】
また、本発明に係る医薬品では、上述の高血圧症改善剤を含むこととしたため、医薬品としての取り扱いが可能な高血圧症改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】官能評価試験の結果を示す説明図である。
図2】口臭評価試験の結果を示す説明図である。
図3】ヒバマタ抽出物含量を変化させた場合の試験結果を示す説明図である。
図4】補助組成物に関する試験結果を示す説明図である。
図5】試験に供したサンプルの組成を示す説明図である。
図6】補助組成物に関する試験結果を示す説明図である。
図7】不溶性食物繊維に関する試験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は高血圧症改善剤に関し、特に海藻抽出物と、同海藻抽出物が有する血圧改善作用を助長する補助組成物と、を含む高血圧症改善剤であって、前記補助組成物は、微量元素剤と不溶性食物繊維加工物とよりなることを特徴とする高血圧症改善剤に関するものである。
【0027】
従来、海藻抽出物は、含有する水溶性の食物繊維やミネラル、ビタミン等によって高血圧症を予防したり改善できるとされており、食品や医薬部外品などに配合されて利用されている。
【0028】
ところが、海藻抽出物単体では、高血圧症を十分に改善できるものではなかった。
【0029】
この原因について本発明者らは、海藻抽出物が含有する有効成分(例えばヨウ素)が十分に消化吸収されていないことが原因と考えている。
【0030】
そして本発明者らは、所定の組成物と併用することで、同有効成分の消化吸収を促しその効果を高め、血圧改善作用をより顕著に発揮できるものと考えた。
【0031】
本発明は係る着想と長年の生化学的研究による知見に基づいて完成されたものであり、海藻抽出物と、同海藻抽出物が有する血圧改善作用を助長する補助組成物と、を含む高血圧症改善剤であって、前記補助組成物は、微量元素剤と不溶性食物繊維加工物とよりなる点を特徴としている。なお、上記着想に関する説明は本発明の理解に供すべく記載したものであって、本発明者らが現時点で想定する機序である。従って、必ずしも正しい機序であることを保証するものではなく、また本発明の特許性には何ら影響を与えるもので無いことに留意されたい。
【0032】
ここで血圧改善作用とは、安静時(例えば、自宅での計測時)に収縮期血圧135mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上が慢性的に続く状態(以下、高血圧症とも言う。)を予防したり改善したりするものをいう。
【0033】
血圧改善作用によって、例えば、血圧の高まりを原因とする動脈硬化の進行を防ぐことができる。これにより、動脈硬化を原因とする脳卒中、認知症、心筋梗塞や心不全などの症状を防ぐことができ、ひいてはこれらの症状から要介護状態になることを防ぐことができる。
【0034】
海藻抽出物は、海藻類に含まれる有効成分を溶媒で抽出し、同抽出液を凍結乾燥や噴霧乾燥を施して粉状体(例えば、含水率2~15%程度)にしたものである。
【0035】
有効成分を抽出する方法としては、従来提案されている方法を採用することができる。具体的な一例としては、乾燥させた海藻類を細かく破砕し、同破砕物を熱水、酸性溶液、水とアルコールとの混液の如き含水有機溶媒などに浸漬させて抽出することができる。また、破砕物をこれらの溶媒に浸漬させると共に、超音波の照射や摩砕をすることで細胞を破壊し有効成分を取り出すものであってもよい。
【0036】
また、海藻の種類には、アオノリやアオサ等の緑藻類、テングサやアサクサノリ等の紅藻類、ヒバマタやコンブ、ヒジキ等の褐藻類が知られている。これらの中でも特に褐藻類は、緑藻類や紅藻類と比較して多くのヨウ素を含有している。ヨウ素は昨今の食生活の変化から現代人には特に不足しやすい成分である。本実施形態に係る高血圧症改善剤では不足しているヨウ素の摂取量を充足させる観点から褐藻類を海藻抽出物の原料にすることが好適である。
【0037】
ヨウ素は、原子番号53のハロゲン元素であり、甲状腺ホルモン「サイロキシン」と「トリヨードサイロキシン」の生成を司る微量元素であることから、ヨウ化ナトリウムとして甲状腺疾患用治療薬及び、消毒薬など医薬品で用いられている。また、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどの化合物がサプリメント成分としても用いられている。
【0038】
本来、ヨウ素が単体で存在することは極稀であり、上記の化合物として存在している。このような理由から、一般的にヨウ化物として取り扱われている。
【0039】
経口摂取されたヨウ化物のほぼ全ては、消化器官である胃腸、十二指腸から吸収され血中に移行する。血中のヨウ化物の一部は甲状腺で甲状腺ホルモン合成に供するため濃縮されるが、余剰となったヨウ化物は尿中に排出されることとなる。
【0040】
甲状腺ホルモンには、体内のミネラルバランスを調整したり、心臓や血管を収縮させることが知られている。また、糖や脂質の代謝にも関与することが知られている。仮にヨウ素が不足すれば、これらの作用を享受することができなくなる虞がある。このような背景から、発明者らは、海藻抽出物の原料として褐藻類、特にコンブを採用すればヨウ素不足が改善され、ミネラルバランスの改善、心臓や血管の柔軟な収縮、糖や脂質の代謝機能の改善を確実に享受でき、より効果の高い高血圧症改善剤を提供できると考えている。
【0041】
本実施形態では、海藻抽出物の原料の一例としてヒバマタを採用している。ヒバマタは岩礁上で繁殖する褐藻類の一種である。ヒバマタは、悪臭やえぐ味があるものの、ヨウ素やミネラル類、アルギン酸などをコンブと比較して豊富に含むことが知られている。
【0042】
本実施形態にかかるヒバマタ抽出物は、乾燥重量として0.2重量%の割合でヨウ素が含まれているものであれば、一日の摂取量を1.5mg~150mgの範囲とすることが好ましい。すなわち、ヒバマタ抽出物の一日の摂取量は、0.003mg~0.3mgのヨウ素を摂取できる程度の量とするのが望ましい。ただし、ヨウ素含有量にかかわらずヒバマタ抽出物の量は乾燥重量として1mg以上とすべきである。また、本発明にかかる高血圧症改善剤は、海藻抽出物をヒバマタ抽出物に限定するものではなく、ヒバマタ抽出物1.5mg~150mgと同様の血圧改善作用を生起するものであれば、他の藻類を原料としたり、摂取量を適宜変えることができる。
【0043】
本発明者らは、ヒバマタ抽出物の一日摂取量が1.5mg未満である場合は、ヒバマタ抽出物に由来する血圧改善作用を十分に享受することができないことを実験で明らかにしている。また一方で、150mgを超える場合は、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、甲状腺中毒症が起こる可能性が高まるため、健康面から不適であると考えている。
【0044】
微量元素剤は、リン、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、カルシウム、セレンを含有する化合物から選ばれる少なくともいずれか2以上の組み合わせを含んでいる。
【0045】
これらの化合物は、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、亜セレン酸ナトリウム等の栄養強化などを目的とする食品添加物として飲食物に配合されるものが挙げられる。
【0046】
微量元素剤は、リン、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、カルシウム、セレンの総量が、本発明に係る高血圧症改善剤に0.03~7.58重量%の割合で含まれるように配合する。
【0047】
微量元素剤の一例として、酸化マグネシウム(分子量:40.30)と酸化カルシウム(分子量:56.08)で微量元素剤を構成し、マグネシウム(原子量:24.31)とカルシウム(原子量:40.08)とが高血圧症改善剤2.0gにそれぞれ10重量%含まれるように配合する場合、微量元素剤は酸化マグネシウム0.332gと酸化カルシウム0.28gを含有するように配合する。
【0048】
上述のように微量元素剤は、種々の金属化合物を配合して構成したものであってもよいが、種々の金属化合物を含有する自然素材を原料としたものを採用してもよい。例えば本実施形態においては、微量元素剤の原料として、さんごも科いしも属の紅藻(Lithothamnion)を採用している。より具体的には、同紅藻が成長の過程で藻体の周辺に形成する炭酸カルシウムを主成分とする外骨格の灰化粉砕物(以下、紅藻粉末と称する。)を微量元素剤として採用している。
【0049】
さんごも科いしも属の紅藻は、石のように硬い外骨格を形成する海藻であって、無節サンゴモと称されている海藻の一種である。同紅藻は海水中のミネラル、例えばリン、亜鉛、マグネシウム、鉄、セレン、カリウム、イオウ、ヨウ素、ホウ素などを外骨格に取り込みながら成長するため、同外骨格は種々のミネラル類を含有している。
【0050】
また、さんごも科いしも属の紅藻の外骨格は、微小なハニカム構造であるため、単なる炭酸カルシウムよりなる鉱物(石灰石)と比較して略4倍の表面積を有している。したがって、紅藻粉末とヒバマタ抽出物の乾燥粉末とを混合すれば、ヒバマタ抽出物の乾燥粉末が紅藻粉末のハニカム構造内部に取り込まれ、紅藻粉末がハードカプセルのような機能を発揮することとなる。付言すると、ヒバマタ抽出物の乾燥粉末は、紅藻粉末のハニカム構造内に入り込むことができる程度の細かさとすべきである。
【0051】
さらに、発明者らは、紅藻粉末が胃酸へのバッファー効果を発揮するという知見を得ている。すなわち、紅藻粉末の存在下では胃酸によるpHの急激な低下を抑えることができ、胃酸による化学反応を穏やかに生起させることができる。この原因については現時点で明らかになっていないが、発明者らは同粉末に含まれる種々のミネラル類が相乗的に作用していることが原因であると考えている。
【0052】
このように、紅藻粉末は経口摂取する前にはヒバマタ抽出物の臭いや味を遮断するカプセルとして機能し、経口摂取した後では消化液で溶けて各種ミネラル源として機能する。
【0053】
本実施形態に係る紅藻粉末は、高血圧症改善剤中に0.1~20重量%の割合で含まれるように配合すると共に、海藻抽出物100重量部に対して150~200重量部の範囲で配合されることが好ましい。仮に150重量部未満の量で配合した場合、ヒバマタ抽出物をハニカム構造内に十分に取り込むことができず臭いや味を遮断することができない。また一方で、200重量部を超える量で配合した場合、効果に変化は見られないのでコスト面から好適ではない。
【0054】
不溶性食物繊維加工物は、不溶性食物繊維を含有する木材やもみ殻などを高圧ホモジナイザーやグラインダー、ボールミルなどの機械で物理的に粉砕し、同繊維が所定の幅と長さとになるように処理したものである。なお、粉砕する工程で加水する必要があるものに関しては、凍結乾燥や噴霧乾燥を施して水分を除去して粉状体(例えば、含水率2~15%程度)にする。
【0055】
不溶性食物繊維加工物を構成する不溶性食物繊維の一例として、植物細胞の細胞壁の主成分とされるセルロース、ヘミセルロース、リグニンが挙げられる。また、甲殻類の殻や菌類の細胞壁の主成分とされるキチンやキトサンが挙げられる。
【0056】
例えばセルロースは、グルコースが直鎖状に結合した高分子化合物である。セルロースは、複数の分子鎖が束になって幅20~40μmのセルロース繊維を構成して植物細胞内に存在している。したがって原料となる木材などを粉砕すれば、セルロース繊維が細かく解繊された繊維片を得ることができる。また、繊維片は幅が20nm~80nmであり、長さが幅の120倍(2400nm~9600nm)以上であれば、本実施形態に係る高血圧症改善剤の血圧改善作用をより堅実に享受できる。以下、この範囲に含まれる不溶性食物繊維を「ナノ化不溶性食物繊維」と称し、例えばセルロースがこれに該当する場合「ナノ化セルロース」と称する。
【0057】
本実施形態に係る不溶性食物繊維加工物は、ナノ化セルロースを採用している。ナノ化セルロースは、水に溶けて増粘剤やゲル化剤として機能する。したがって、水分と一緒に経口摂取した高血圧症改善剤は、消化管内でゲル化し、消化管の下流側(小腸側)への移行を遅くすることができる。
【0058】
発明者らは、上述したさんごも科いしも属の紅藻の外骨格を原料とする粉末とを併せて配合することにより、ゲル化したナノ化セルロースが同粉末の消化管内での滞留時間を延ばすことができると考えている。これにより、消化液と紅藻粉末とが十分に反応し、同粉末が含有するミネラル類を吸収しやすくなるものと考えている。
【0059】
ナノ化セルロースは、本実施形態に係る高血圧症改善剤に0.01~5重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0060】
仮に0.01重量%未満の含有量であれば、高血圧症改善剤がもたらす血圧改善作用を十分に享受することができない。本発明者らは、ナノ化セルロースが十分にゲル化しないため、海藻抽出物や微量元素剤が消化管中に十分な時間滞留しないことが原因であると考えている。
【0061】
また一方で、5重量%よりも多い割合で含まれる場合は、血圧改善作用を十分に享受することができない。本発明者らは、海藻抽出物や微量元素剤が消化液と接触することをゲル化したナノ化セルロースによって阻害されるため、十分に消化吸収されないことが原因であると考えている。
【0062】
以上に述べたように、本発明に係る高血圧症改善剤は、海藻抽出物と、同海藻抽出物が有する血圧改善作用を助長する補助組成物と、を含む高血圧症改善剤であって、前記補助組成物は、微量元素剤と、不溶性食物繊維加工物とよりなることとすれば、所定量の海藻抽出物により得られる血圧改善作用と同等の効果をより少ない量の海藻抽出物の量で発現することができる高血圧症改善剤を提供することができる。
【0063】
また、海藻抽出物の原料をヒバマタとすれば、海藻抽出物に由来する高血圧改善効果をより堅実に享受することができる。
【0064】
しかしながら、ヒバマタは、ヨウ素やミネラル類等を豊富に含んでいるものの悪臭とえぐ味による嚥下困難性が問題視されている。特に悪臭に関しては、ソフトカプセルやハードカプセル等で経口摂取してもカプセルの溶解に伴い消化器官を介して発生する口臭の原因となっていた。
【0065】
本発明者らは、海藻抽出物の原料をヒバマタとすると共に、補助組成物の微量元素剤の原料をさんごも科いしも属の紅藻類が形成する外骨格とし、不溶性食物繊維加工物をナノ化セルロースとした高血圧症改善剤であれば、ヒバマタの海藻抽出物の悪臭とえぐ味を十分に低減し、嚥下困難性を改善できることを明らかにしている。また、ゲル化した不溶性食物繊維加工物が悪臭の揮発を抑えるため、口臭の発生を抑制できることを明らかにしている。
【0066】
更に、このような構成の高血圧症改善剤であれば、補助組成物が海藻抽出物と胃酸との反応を穏やかにすると共に消化管内の滞留時間を長くするため、海藻抽出物由来の有効成分を確実に分解・吸収することができる。これにより、所定量の海藻抽出物により得られる血圧改善作用と同等の効果をより少ない量の海藻抽出物の量で確実に発現することができる高血圧症改善剤を提供することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る高血圧症改善剤の剤形は特に限定されるものではなく、例えば粉末、細粒、顆粒、ソフトカプセル、ハードカプセル、ゼリー状、グミ状、液体又は錠剤など、あらゆる剤形を選択することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る高血圧症改善剤には、海藻抽出物と補助組成物の他に、剤形に応じた賦形剤や添加剤、補助成分などを含むこともできる。
【0069】
賦形剤としては、例えば、固形剤の場合には、乳糖や結晶セルロース、デンプンなどとすることができる。また、添加剤としては、例えば、安定剤、甘味剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、保存剤を挙げることができる。また、補助成分としては、高血圧症改善剤に更なる機能を付与したり、血圧改善作用を高める成分を挙げることができ、一例としては、ラクトトリペプチド、カゼインドデカペプチド、杜仲葉配糖体、サーデンペプチドなどを挙げることができる。
【0070】
上述の高血圧症改善剤は、機能性食品、医薬部外品、医薬品に配合して使用することができる。
【0071】
ここで、本発明における機能性食品は、医薬品成分を含まない健康の保持増進に寄与するとされる食品全般を包含する概念であり、例えば、栄養補助食品や健康補助食品、栄養調整食品のほか、所謂サプリメントなどの一般食品であったり、特定保健用食品や栄養機能食品、機能性表示食品の如き保健機能食品も含まれる。
【0072】
また医薬部外品は、人体に対する作用がおだやかで厚生労働大臣が指定するものであり、例えば、薬局またはドラッグストア等で市販されている指定医薬部外品が挙げられる。
【0073】
また医薬品は、病気の診断、治療または予防に使用されることを目的とされているものであり、例えば、病院で医師が処方する医療用医薬品であったり、薬局またはドラッグストア等で市販されているOTC医薬品が挙げられる。
【0074】
以下、本実施形態に係る高血圧症改善剤について、試験結果等を参照しつつ更に説明する。
【0075】
[1.嚥下困難性改善試験]
(1-1.高血圧症改善剤の調製)
前述したようにヒバマタ抽出物は悪臭やえぐ味が強いため、単体では嚥下困難な成分である。本試験では、ヒバマタ抽出物の嚥下困難性が、紅藻粉末とナノ化セルロースとよりなる補助組成物の添加によりどのような影響を受けるかを試験したものである。本試験における被験製剤(食品)は、ヒバマタ抽出物、紅藻粉末、ナノ化セルロース、賦形剤(でんぷん)を添加することで調製した。被験食品は、全量1.5gの顆粒状とした。
【0076】
また、ヒバマタ抽出物と賦形剤とよりなる比較対象製剤(食品)を調製した。サンプル製剤および比較対象製剤の組成は下記表1に示す通りである。
【表1】
【0077】
(1-2.官能評価試験)
官能試験では、健康食品等のOEM製造を行う事業所内にて長年にわたり商品試作や官能評価に携わる男女10名(20~60歳)をパネリストとして選定し、臭いや味について評価した。
【0078】
パネリストは、摂取したサンプル製剤が比較対象製剤と比較して臭いや味に変化が生じたか否かについて評価を行った。臭いや味は、4段階(1:ほとんど臭いなし、2:わずかに臭い、3:臭い、4:かなり臭い)で評価した。なお、臭いや味の基準について確認が必要なときは、各パネリストは適宜比較対象製剤を摂取することが許可された。
【0079】
また、10名の各パネリストは、官能試験に先立って行われた予備官能試験にて、ヒバマタの煮汁を悪臭成分とし、種々のバランスにて希釈して嗅ぐことで、悪臭評価の度合いがおおよそ揃うように訓練が行われている。また、タンニンをえぐ味成分とし、種々のバランスにて配合した水溶液を試飲させることで、えぐ味評価の度合いがおおよそ揃うように訓練が行われている。その結果を図1に示す。
【0080】
図1に示すように、サンプル製剤では、ヒバマタ抽出物の悪臭とえぐ味が抑制されることが明らかとなった。
【0081】
(1-3.口臭評価試験)
次に、上述の官能試験にて評価が良好であったサンプル製剤に関し、口臭の発生を抑制できるかについて比較対象製剤と比較を行った。
【0082】
試験は、男女10名(20~60歳)の被験者に対して、空腹時にサンプル製剤の製剤又は比較対象製剤を摂取させ、30分後の呼気を口臭測定器で評価した。その結果を図2に示す。
【0083】
図2からも分かるように、サンプル製剤は、比較対象製剤と比較して、口臭の発生を抑制できることが示された。
【0084】
〔2〕基本処方及びヒバマタ抽出物の配合割合を変化させた場合の効果確認試験
(1)高血圧症改善剤含有食品の製造
次に、前述の試験におけるサンプル製剤を基本処方とし、ヒバマタ抽出物の含有量を変化させた場合の高血圧症改善効果の発現について確認を行った。試験に供した4つのサンプルの処方を表2に示す。
【表2】
【0085】
(2)ヒト試験
次に、高血圧症改善作用確認試験(ヒバマタ抽出物配合量による効果比較)を行った。
【0086】
被験者は男女10名(20~60歳、正常高血圧(収縮期血圧 130-139 かつ/もしくは 拡張期血圧 85-89mmHg))の被験者に対して、各組成で調製した製剤を1日1回(夕食30分前)4週間継続摂取させた。摂取前、摂取4週間後、8週間後、12週間後の収縮期・拡張期の血圧を血圧計により測定した。
【0087】
その結果を図3に示す。図3(a)は収縮期血圧を示し、図3(b)は拡張期血圧を示している。図3からも分かるように、サンプルI1に関しては、高血圧症改善作用は確認できなかった。一方、その他のサンプルについては、サンプルI2<基本処方A1≦サンプルI3の順で高血圧症改善作用が確認された。
【0088】
〔3〕補助組成物の構成成分を欠く場合の効果確認試験
次に、補助組成物を構成する紅藻粉末やナノ化セルロースのいずれかを欠いた場合における効果の確認を行った。また本試験では、比較のために基本処方の製剤と、補助組成物を含まない製剤についても試験に供した。試験に供した4つのサンプルの処方を表3に示す。
【表3】
【0089】
またヒト試験は、上述の方法に準じて行った。その結果を図4に示す。
【0090】
図4(a)は収縮期血圧を示し、図4(b)は拡張期血圧を示している。図4からも分かるように、基本処方では高血圧症改善作用が確認され、また紅藻粉末及びナノ化セルロースを含まないサンプルX1との比較により補助組成物による血圧改善作用の顕著な助長効果が確認された。その一方、サンプルX2やサンプルX3に関しては、ヒバマタ抽出物による高血圧症改善作用自体は弱いながら確認できたものの、その程度は補助組成物を含有しないサンプルX1と同程度であり、紅藻粉末やナノ化セルロース単独による補助組成物としての機能は確認できなかった。
【0091】
〔4〕補助組成物を構成するミネラルを変化させた場合の効果確認試験
次に、補助組成物を構成するミネラルを変化させた場合における効果の確認を行った。また本試験では、比較のために基本処方の製剤も試験に供した。試験に供した8つのサンプルの処方を図5に示し、その結果を図6に示す。
【0092】
図6(a)は収縮期血圧を示し、図6(b)は拡張期血圧を示している。図6からも分かるように、基本処方A1では高血圧症改善作用が確認されたが、サンプルE1~E7に関しては、いずれも高血圧症改善作用は確認できなかった。
【0093】
〔5〕不溶性食物繊維の性状を変化させた場合の効果確認試験
次に、補助組成物を構成する不溶性食物繊維の性状を変化させた場合、すなわち、繊維径と繊維長を変更した場合における効果の確認を行った。
【0094】
具体的には、先述した基本処方と同様の処方であるが、使用する不溶性食物繊維(カルボキシメチルセルロースナトリウム)の繊維幅が10nm程度、繊維長がその120倍である1200nm程度のものを使用したサンプルF1、同様に繊維幅が20nm、繊維長が2400nm程度のものを使用したサンプルF2、繊維幅が80nm、繊維長が9600nm程度のものを使用したサンプルF3(=基本処方のもの)、繊維幅が100nm、繊維長が12000nm程度のものを使用したサンプルF4を試験に供した。その結果を図7に示す。
【0095】
図7(a)は収縮期血圧を示し、図7(b)は拡張期血圧を示している。図7からも分かるように、繊維幅が20nm、繊維長が2400nm程度のものを使用したサンプルF2や、基本処方A1と同様に繊維幅が80nm、繊維長が9600nm程度のものを使用した場合(サンプルF3)では高血圧症改善作用が確認されたが、サンプルF1やサンプルF4に関しては、いずれも高血圧症改善作用は確認できなかった。
【0096】
このように、上述した高血圧症改善剤によれば、所定量の海藻抽出物により得られる血圧改善作用と同等の効果をより少ない量の海藻抽出物の量で発現することができる高血圧症改善剤を提供することができる。なお、上述した各構成の説明は本発明の一例であり、これらに限定されるものではない。
【0097】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7