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特許7505833光ファイバ研磨用治具および光ファイバ研磨装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】光ファイバ研磨用治具および光ファイバ研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 19/00 20060101AFI20240618BHJP
   G02B 6/25 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B24B19/00 603E
G02B6/25 301
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024009386
(22)【出願日】2024-01-25
【審査請求日】2024-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 裕二
(72)【発明者】
【氏名】忍足 晋平
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠輝
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-170605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 19/00
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバフェルールの研磨に使用される光ファイバ研磨用治具であって、
前記光ファイバフェルールを挿入可能な挿入孔を有する治具本体と、
前記治具本体に対して回転軸部を中心として旋回することが可能に配置された旋回ロッドと、
前記旋回ロッドが旋回したときに前記旋回ロッドに押されて応動することで前記挿入孔に挿入された前記光ファイバフェルールを前記治具本体に固定する固定駒と、を備え、
前記旋回ロッドは、前記光ファイバフェルールの固定時に前記固定駒を押すときの力の作用面と前記回転軸部の中心とを結ぶ仮想領域内の少なくとも一部に空洞を有することを特徴とする光ファイバ研磨用治具。
【請求項2】
前記固定駒を上方へ付勢する付勢手段として板バネを有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項3】
前記空洞は、前記旋回ロッドの外周の一部から前記仮想領域の少なくとも一部にかけて形成された切り欠きであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項4】
光ファイバフェルールの研磨に使用される光ファイバ研磨用治具であって、
前記光ファイバフェルールを挿入可能な挿入孔を有する治具本体と、
前記治具本体に対して回転軸部を中心として旋回することが可能に配置された旋回ロッドと、
前記旋回ロッドが旋回したときに前記旋回ロッドに押されて応動することで前記挿入孔に挿入された前記光ファイバフェルールを前記治具本体に固定する固定駒と、を備え、
前記旋回ロッドは、前記光ファイバフェルールの固定時に前記固定駒を押すときの力の作用面と前記回転軸部とを結ぶ仮想領域内の少なくとも一部に空洞を有し、
前記空洞は、側面視において前記旋回ロッドの外周とは連なっていない穴であることを特徴とする光ファイバ研磨用治具。
【請求項5】
光ファイバフェルールの研磨に使用される光ファイバ研磨用治具であって、
前記光ファイバフェルールを挿入可能な挿入孔を有する治具本体と、
前記治具本体に対して回転軸部を中心として旋回することが可能に配置された旋回ロッドと、
前記旋回ロッドが旋回したときに前記旋回ロッドに押されて応動することで前記挿入孔に挿入された前記光ファイバフェルールを前記治具本体に固定する固定駒と、を備え、
前記旋回ロッドは、前記光ファイバフェルールの固定時に前記固定駒を押すときの力の作用面と前記回転軸部とを結ぶ仮想領域内の少なくとも一部に空洞を有し、
前記空洞に補強部材が配置されていることを特徴とする光ファイバ研磨用治具。
【請求項6】
前記補強部材は、前記旋回ロッドの材質よりも強度の低い材質で形成されていることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項7】
前記旋回ロッドは、前記旋回ロッドの上端を下方に旋回したときに前記旋回ロッドの下端で前記固定駒を押すように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項8】
前記治具本体は、複数の挿入孔を有し、
前記複数の挿入孔のそれぞれに対して前記旋回ロッドと前記固定駒が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項7の何れか1項に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項9】
前記治具本体の上面には、前記旋回ロッドの上端を上方に旋回した状態で支持する第一支持部と、前記旋回ロッドの上端を下方に旋回した状態で支持する第二支持部と、前記第一支持部と前記第二支持部と連通している旋回開口とが、前記複数の挿入孔に対し環状に形成されている隆起部を有することを特徴とする請求項8に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項10】
前記旋回ロッドの周囲に挿通された状態で、前記旋回ロッドの軸方向にスライド可能なスライドロックと、前記スライドロックを前記旋回ロッドの下端側に付勢するコイルスプリングと、前記隆起部に形成され、前記スライドロックの下端部を係止する係止部とを有することを特徴とする請求項9に記載の光ファイバ研磨用治具。
【請求項11】
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の光ファイバ研磨用治具を備えた光ファイバ研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの研磨に使用される光ファイバ研磨用治具および光ファイバ研磨用治具を備えた光ファイバ研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを研磨する際に光ファイバを内部に保持した光ファイバフェルールを固定するためにプレート状の光ファイバ研磨用治具が使用される。特許文献1では、光ファイバ研磨用治具に対して移動可能に設置された固定駒を旋回ロッドにより移動させることで光ファイバ研磨用治具に対して光ファイバフェルールを固定および固定解除をすることができる構造が提案されている。これにより、レンチやドライバー等の工具を使用せずに光ファイバフェルールの取り付けおよび取り外しを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6192797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の光ファイバ研磨用治具では、光ファイバフェルールの種類(形状等)によっては、光ファイバフェルールを固定するための荷重が大きすぎることにより研磨特性が悪化する場合があった。荷重を小さくするために旋回ロッドと固定駒の間隔(クリアランス)を手作業で調整するのは手間がかかるとともに、間隔が大きすぎると光ファイバフェルールを適切に固定できないという問題があった。
【0005】
本発明は、旋回ロッドの操作のみで光ファイバフェルールの固定および固定解除ができる光ファイバ研磨用治具において、光ファイバフェルールを固定するための荷重を適度に軽減させることで、光ファイバフェルールに適切な荷重を与えて固定することが可能な光ファイバ研磨用治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光ファイバ研磨用治具は、光ファイバフェルールの研磨に使用される光ファイバ研磨用治具であって、前記光ファイバフェルールを挿入可能な挿入孔を有する治具本体と、前記治具本体に対して回転軸部を中心として旋回することが可能に配置された旋回ロッドと、前記旋回ロッドが旋回したときに前記旋回ロッドに押されて応動することで前記挿入孔に挿入された前記光ファイバフェルールを前記治具本体に固定する固定駒と、を備え、前記旋回ロッドは、前記光ファイバフェルールの固定時に前記固定駒を押すときの力の作用面と前記回転軸部とを結ぶ仮想領域内の少なくとも一部に空洞を有する構成としてある。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、旋回ロッドの中の荷重を支える領域の一部に空洞を形成する構成とすることで旋回ロッドの剛性を低下させ、旋回ロッドが固定駒を押圧するときに旋回ロッドの先端をたわみやすくしている。これにより、旋回ロッドが固定駒を押すときの押さえ代を短縮することなく旋回ロッドと固定駒との間で発生する荷重を減少させている。
【0007】
上記構成において、前記固定駒を上方へ付勢する付勢手段として板バネを有するように構成してもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、板バネにより固定駒を上方へ付勢することで、旋回ロッドから固定駒への押圧力が発生していない状態においては固定駒を旋回ロッドに向けて移動させて固定駒と光ファイバフェルールとが干渉しないようにする。この状態で治具本体に対して光ファイバフェルールの取り付けと取り外しを可能とする。
【0008】
上記構成において、前記空洞は前記旋回ロッドの外周の一部から前記仮想領域の少なくとも一部にかけて形成された切り欠きであってもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、空洞として切り欠きを形成することで旋回ロッドの剛性を低下させている。
【0009】
上記構成において、前記空洞は側面視において前記旋回ロッドの外周とは連なっていない穴であってもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、空洞として穴を形成することで旋回ロッドの剛性を低下させている。
【0010】
上記構成において、前記空洞に補強部材が配置されている構成としてもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、空洞を形成することで旋回ロッドの剛性を低下させつつも、補強部材により旋回ロッドの強度を補強している。
【0011】
上記構成において、前記補強部材は前記旋回ロッドの材質よりも強度の低い材質で形成されている構成としてもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、旋回ロッドの材質よりも強度の低い材質で補強部材を形成することで、旋回ロッドの強度を過度に補強しないようにしている。
【0012】
上記構成において、前記旋回ロッドは前記旋回ロッドの上端を下方に旋回したときに前記旋回ロッドの下端で前記固定駒を押すように構成してもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、旋回ロッドの旋回運動のうち下方への旋回を固定駒に伝達する。逆に旋回ロッドが上方へ旋回したときには旋回ロッドから固定駒へ押圧力が伝達されない。
【0013】
上記構成において、前記治具本体は複数の挿入孔を有し、前記複数の挿入孔のそれぞれに対して前記旋回ロッドと前記固定駒が設けられた構成としてもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、複数の挿入穴のそれぞれに対して旋回ロッドと固定駒とを用いて光ファイバフェルールを固定する。これにより、光ファイバ研磨用治具に複数の光ファイバフェルールを固定する構造としている。
【0014】
上記構成において、前記治具本体の上面には前記旋回ロッドの上端を上方に旋回した状態で支持する第一支持部と、前記旋回ロッドの上端を下方に旋回した状態で支持する第二支持部と、前記第一支持部と前記第二支持部と連通している旋回開口とが、前記複数の挿入孔に対し環状に形成されている隆起部を有する構成としてもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、隆起部に設けられた旋回開口の中で旋回ロッドを上下に旋回させる。また、第一支持部と第二支持部の二カ所で旋回ロッドを支持可能な構造とすることで、旋回ロッドを固定位置と固定解除位置とで位置決めする。
【0015】
上記構成において、前記旋回ロッドの周囲に挿通された状態で前記旋回ロッドの軸方向にスライド可能なスライドロックと、前記スライドロックを前記旋回ロッドの下端側に付勢するコイルスプリングと、前記隆起部に形成され前記スライドロックの下端部を係止する係止部とを有する構成としてもよい。
上記のように構成された光ファイバ研磨用治具では、スライドロックをコイルスプリングにより係止部に係止することで旋回ロッドの移動を防止する。
【0016】
本発明は、光ファイバ研磨用治具を備えた光ファイバ研磨装置として実現することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、旋回ロッドの操作のみで光ファイバフェルールの固定および固定解除ができる光ファイバ研磨用治具において、光ファイバフェルールを固定するための荷重を適度に軽減させることで、光ファイバフェルールに適切な荷重を与えて固定することが可能な光ファイバ研磨用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】光ファイバ研磨装置に光ファイバ研磨用治具を装着した状態を示す斜視図である。
図2】光ファイバ研磨用治具を光ファイバ研磨装置から取り外した状態の斜視図である。
図3】隆起部の拡大斜視図である。
図4】旋回ロッドの斜視図である。
図5】旋回ロッドの側面図である。
図6】固定駒の斜視図である。
図7】光ファイバフェルールの固定を解除した状態を示す図である。
図8】光ファイバフェルールを治具本体に固定した状態を示す図である。
図9】旋回ロッドと固定駒の接触状態を示す図である。
図10】別の実施形態の旋回ロッドの側面図である。
図11】別の実施形態の旋回ロッドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、一例として示す図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は光ファイバ研磨装置100(以下、研磨装置100)に光ファイバ研磨用治具1(以下、治具1)を装着した状態を示す斜視図である。図2は、治具1を研磨装置100から取り外した状態の斜視図である。研磨装置100は、回転駆動可能なターンテーブル101を上面に有する。治具1には、光ファイバフェルール2(以下、フェルール2)が着脱可能に装着され、治具1は研磨装置100に着脱可能に装着される。フェルール2は、平面視で矩形のMTフェルールである。治具1が研磨装置100に装着されると、ターンテーブル101の上面と治具1の底面とが対向する。研磨フィルム等をターンテーブル101の上面に配置してターンテーブル101を回転駆動する。この状態で治具1の底面から下方に突出したフェルール2を研磨フィルム等により研磨する。治具1を研磨装置100に装着するための構造や研磨装置100の構造や作動等は従来から知られている技術を使用可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0020】
図2に示すように、治具1は、プレート状に形成された治具本体10、治具本体10の上面に環状に隆起するように形成された隆起部20、治具本体10および隆起部20に対して旋回可能に配置された旋回ロッド30、旋回ロッド30と応動することでフェルール2を治具本体10に固定する固定駒40、治具1を持ち上げるときに作業者が把持する一対のハンドル50を有する。図2においては、図面の簡易化のためフェルール2と旋回ロッド30とをそれぞれ1つずつのみ図示しているが、複数の旋回ロッド30と複数の固定駒40を環状に配置することで、複数のフェルール2を治具1に固定して同時に研磨することが可能である。
【0021】
治具本体10は、アルミや合金等の金属または合成樹脂により平面視で略矩形状に形成される。治具本体10には、図7等に示すようにフェルール2を挿入可能な挿入孔11が形成されている。挿入孔11は、矩形状に開口しており、治具本体10を上下方向に貫通する。治具本体10には複数の挿入孔11が環状に配置されている。フェルール2を挿入孔11に挿入し固定駒40により固定したとき、フェルール2の先端は治具本体10の底面から下方に向けて所定長だけ突出する。この状態でフェルール2の先端を研磨装置100により研磨する。
【0022】
図3は、隆起部20の拡大斜視図である。隆起部20は、アルミや合金等の金属または合成樹脂により環状(ドーナツ状)に形成される。隆起部20は、治具本体10の上面に配置され、治具本体10に固定される。隆起部20は、複数の挿入孔11に対応する位置にそれぞれ旋回開口21を有する。各旋回開口21には、旋回ロッド30が隆起部20に対して旋回可能に配置される。各旋回開口21は、隆起部20の径方向内側に位置する第一支持部22と、隆起部20の径方向外側に位置する第二支持部23とを有する。第一支持部22は、鉛直方向に延びた平面視で半円形状を有する壁面により形成される。旋回ロッド30の上端を上方に旋回したとき、旋回ロッド30が第一支持部22に当接することで旋回ロッド30を上方の位置で支持(位置決め)する。第二支持部23は、水平方向に延びた側面視で半円形状を有する壁面により形成される。旋回ロッド30の上端を下方に旋回したとき、旋回ロッド30が第二支持部23に当接することで旋回ロッド30を下方の位置で支持(位置決め)する。旋回開口21は、第一支持部22および第二支持部23と連通している。
【0023】
図4は、旋回ロッド30の斜視図である。図5は、旋回ロッド30の側面図である。旋回ロッド30は、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)等の合成樹脂により形成されている。旋回ロッド30は、円柱状の本体部31と、本体部31から左右に水平方向へ延びる一対の円柱状の回転軸部32と、本体部31の下端において先端が平面状に形成された押圧部33と、回転軸部32と押圧部33との間に位置する中間部34とを有する。旋回ロッド30の下端は隆起部20の旋回開口21に挿通され、旋回ロッド30は回転軸部32によって隆起部20の第一支持部22と第二支持部23との間の壁面に支持される。作業者が旋回ロッド30の上端側を上方または下方へ向かって操作することで、旋回ロッド30が回転軸部32を中心に治具本体10および隆起部20に対して旋回する。旋回ロッド30の上端側が下方(径方向外側)に旋回したとき、押圧部33が固定駒40に当接し、固定駒40を径方向内側へ押圧する。旋回ロッド30の上端側が上方(径方向内側)に旋回したとき、押圧部33と固定駒40との当接が解消される。旋回ロッド30の押圧部33と回転軸部32との間の中間部34には、切り欠き35が形成されている。切り欠き35は、中間部34の外周の一部から内側に向けて円弧状に形成される。切り欠き35の構造や機能についての詳細は後述する。
【0024】
図6は、固定駒40の斜視図である。固定駒は、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)等の合成樹脂により形成されている。固定駒40は、フェルール2に隣接して鉛直方向に形成された壁面を有する側方固定部41と、側方固定部41の上方においてフェルール2に向けて水平方向に若干突出した上方固定部42と、固定駒40が回転するときの軸として機能する回転軸部43と、上方固定部42から回転軸部43へ向けて高さが低くなるように形成された傾斜部44と、図7等において後述する板バネ60と当接する当接部45とを有する。旋回ロッド30が旋回したとき、固定駒40の傾斜部44は旋回ロッド30の押圧部33に押圧され、固定駒40は回転軸部43を中心として回転する。これにより、側方固定部41がフェルール2を側方から押圧するとともに、上方固定部42がフェルール2の上方に配置されてフェルール2が上方へ脱離することを防止する。つまり、固定駒40は、旋回ロッド30が旋回したときに旋回ロッド30に押されて応動することで治具本体10の挿入孔11に挿入されたフェルール2を治具本体10に固定する。当接部45は、傾斜部44の下方で左右方向に突出しており、当接部45の下面の水平面が板バネ60と当接するように配置される。
【0025】
以下、図7および図8を参照して旋回ロッド30と固定駒40によりフェルール2を治具本体10に固定する際の各部品の動作について説明する。図7は、フェルール2の固定を解除した状態を示す図である。固定駒40は、治具本体10のフェルール2の各挿入孔11に隣接した位置に設置される。旋回ロッド30は、下端部が固定駒40の傾斜部44の上方に位置するように設置される。図7に示す状態では、矢印で示すように旋回ロッド30の上端側は上方に旋回されている。このとき、旋回ロッド30の下端側に位置する押圧部33は治具本体10の径方向外側(図7においては左側)に移動しており、押圧部33は固定駒40の傾斜部44と当接しておらず固定駒40を押圧していない。治具本体10の上面と固定駒40の当接部45との間には、固定駒40を上方へ付勢する付勢手段として板バネ60が配置されている。図7に示す状態では、固定駒40は板バネ60により回転軸部43を中心に上方に回転している。固定駒40の側方固定部41および上方固定部42はフェルール2に当接しておらず、作業者がフェルール2を上下方向に移動することでフェルール2の着脱が可能となっている。
【0026】
図8は、フェルール2を治具本体10に固定した状態を示す図である。図8に示す状態では、矢印で示すように旋回ロッド30の上端側は下方に旋回されている。旋回ロッド30の上端側を下方へ旋回することに伴い、旋回ロッド30の下端側に位置する押圧部33は、徐々に治具本体10の径方向内側(図8においては右側)に移動する。このとき、旋回ロッド30の押圧部33は固定駒40の傾斜部44を押圧する。旋回ロッド30に押圧された固定駒40は、板バネ60の付勢力に抗して回転軸部43を中心に治具本体10の径方向内側に回転(移動)する。図8に示す状態では、固定駒40の側方固定部41がフェルール2の側方を押圧するとともに上方固定部42がフェルール2の上方に位置することで、フェルール2を治具本体10に固定している。旋回ロッド30の回転軸部32から押圧部33の先端までの長さは、旋回ロッド30が固定駒40を押圧した状態における回転軸部32と固定駒40の傾斜部44との距離よりも若干長く設定している。これにより、押圧部33と傾斜部44とが当接したときに、旋回ロッド30の先端が弾性変形する。この弾性変形により生じる力を回転軸部32で受けることで旋回ロッド30が固定状態から容易には移動しないようにしている。フェルール2は、鉛直方向に対して所定角度傾斜した状態で治具本体10に固定されており、この状態でフェルール2は研磨(APC研磨)される。
【0027】
旋回ロッド30の本体部31の周囲には、円筒状に形成されたスライドロック70が挿通されている。また、旋回ロッド30の上端部には、本体部31よりも径の大きい径大部71が固定されている。スライドロック70は本体部70Aと本体部70Aよりも径が大きいつまみ部70Bを有する。スライドロック70のつまみ部70Bと径大部71との間にはコイルスプリング72が配置されており、コイルスプリング72によりスライドロック70は下方に付勢されている。つまり、スライドロック70は、旋回ロッド30の下端側に付勢されている。旋回ロッド30の上端側を上方(径方向内側)に旋回させるときには、作業者はつまみ部70Bを把持してスライドロック70を上方にスライドさせコイルスプリング72を圧縮する。隆起部20には、第一支持部22に隣接する第一係止部24と、第二支持部23に隣接する第二係止部25が形成されている。図7に示すように旋回ロッド30の上端側を上方(径方向内側)に旋回させた状態で作業者がつまみ部70Bから手を離すと、コイルスプリング72の付勢力によりスライドロック70は第一係止部24に押し付けられて旋回ロッド30を固定する。図8に示すように旋回ロッド30の上端側上方を下方に旋回させた状態で作業者がつまみ部70Bから手を離すと、コイルスプリング72の付勢力によりスライドロック70は第二係止部25に押し付けられて旋回ロッド30を固定する。以上説明したように、コイルスプリング72の付勢力でスライドロック70を第一係止部24または第二係止部25に押し付けることにより、旋回ロッド30の旋回を防止してフェルール2の固定状態を維持する。
【0028】
図9を参照して旋回ロッド30に形成された切り欠き35の構造と機能について説明する。図9は、旋回ロッド30と固定駒40の接触状態を示す図である。旋回ロッド30の押圧部33と固定駒40の傾斜部44とが接触する部分を拡大して表示している。図9において押圧部33と傾斜部44とが重なっている部分があるが、実際には押圧部33と傾斜部44とが当接したときに、この重なっている部分の幅だけ旋回ロッド30の先端が回転軸部32側に弾性変形する。旋回ロッド30の先端が傾斜部44から受ける力を回転軸部32で受けている。逆に言うと、旋回ロッド30が固定駒40を押し付けている。このとき、旋回ロッド30が固定駒40を押し付ける力が強すぎると、研磨特性への影響が避けられず、要求の研磨性能を得ることができない場合があった。理由として、押し付ける力が強すぎるとフェルール2の種類(形状等)によっては、強い押し付け力によりフェルール2の形状が変形した状態で治具本体10に固定されること等がある。この課題を解消するために、本発明では、旋回ロッド30に切り欠き35を形成することで、旋回ロッド30の先端部(下端部)の剛性を低下させている。旋回ロッド30の剛性を低下させることで、旋回ロッド30と固定駒40との間隔は従来の間隔を維持したまま、旋回ロッド30が固定駒40を押し付ける力を低減することができる。
【0029】
切り欠き35は、押圧部33と回転軸部32との間の中間部34において、旋回ロッド30の先端よりも少し上方側が底面から内側(上方)に向けて一部切りかかれた部分である。つまり、切り欠き35は下方に向けて開口を有するコの字の形状を有する。切り欠き35の入り口部分(下方側)は直線形状であり、内側部分(上方側)は円弧形状である。切り欠き35を形成する位置は、フェルール2を固定するための荷重を旋回ロッド30側で受ける回転軸部32と、旋回ロッド30と固定駒40との間で荷重が発生する接触面との間である必要がある。以下、図9を参照しながら、切り欠き35を形成する位置についてより具体的に説明する。旋回ロッド30の回転軸部32が形成された領域(図9では回転軸部32が形成された幅)を32Aとする。旋回ロッド30が固定駒40を押すときに両者が接触して力が作用する作用面(接触領域)をCAとする。また、回転軸部32の幅方向の中心を32Cとし、作用面CAの中心をCCとする。回転軸部32の領域32Aと作用面CAとを結ぶ仮想領域VA内(図9に一点鎖線で示した領域)の少なくとも一部に切り欠き35を形成する。より好ましくは、回転軸部32の中心32Cと作用面CAの中心CCとを結ぶ仮想線VL上の少なくとも一部に切り欠き35を形成する。
【0030】
切り欠き35の深さ36が異なる複数の旋回ロッド30のサンプルを準備し、旋回ロッド30の先端を押し込む押込量を変化させながら旋回ロッド30の先端に発生する荷重の変化を比較する実験を行った。結果を表1に示す。「無し」は切り欠きを形成していない従来品を示す。表1において、1列目に示した押込量(mm)と1、2行目に示した切り欠きの深さ(mm)と最終行に示した比率(%)以外の各数値は、旋回ロッド30の先端に発生する荷重(kgf)を示す。比率とは、切り欠き無しの旋回ロッド30の荷重を100%としたときの各サンプルの荷重の割合を示す。切り欠き35の内側部分を円弧形状とした。斜線を引いている欄は、荷重が微弱すぎて値を計測できなかった条件を示している。表1に示す実験結果から、切り欠きの深さが増加するにつれて旋回ロッド30の先端に発生する荷重が減少していることが分かる。深さ1.5mmのアーチ形状の切り欠き35を設けたサンプルでは切り欠きがないサンプルと比較して荷重が14%となっており、旋回ロッド30が固定駒40を押圧する荷重を小さくするという本発明の効果を好適に発揮している。
【表1】
【0031】
以上説明したように、実施例に示した本発明の治具1では、旋回ロッド30の中で押圧部33と回転軸部32との間の荷重を受ける中間部34の一部に切り欠き35を有する構成とすることで旋回ロッド30の荷重に対する剛性を低下させる。これにより、旋回ロッド30が固定駒40を押圧するときに旋回ロッド30の先端をたわみやすくして固定駒40にかかる荷重を減少させている。旋回ロッド30が固定駒40を強く押しすぎないことにより、研磨特性が悪化することを防止することができる。また、旋回ロッド30と固定駒40との間隔を手作業により調整する必要がなく、間隔を必要以上に大きくする必要もないため、フェルール2を確実に固定することができる。上記の構成により、様々な種類のフェルール2を適切に固定することができる治具1を提供することができる。このような特徴は、特に小型のフェルール2を固定する際に有効である。複数のフェルール2の間で個体差がある場合でも、光ファイバフェルール2を固定するための荷重を適切に発生させることができる。
【0032】
図10は、別の実施形態に係る旋回ロッド130の側面図である。旋回ロッド130には、旋回ロッド30と同様に切り欠き135が設けられている。切り欠き135の内部には、円筒状の補強部材136が配置されている。補強部材136の材質は、旋回ロッド130の材質よりも強度の低い材質(柔らかい材質)で形成されている。例えば、旋回ロッド130をポリアセタール樹脂(POM樹脂)で形成し、補強部材136をウレタン樹脂で形成する。これにより、旋回ロッド130の剛性を低下させつつも一定の強度を確保することができる。切り欠き135の内部に補強部材136が配置されていること以外は、旋回ロッド130は旋回ロッド30と同一の構造を有する。なお、補強部材136は必ずしも円筒状である必要はない。また、補強部材136が切り欠き135の一部を埋める構造としてもよいし、切り欠き135とほぼ同一形状の補強部材136を使用して切り欠き135の全体を埋める構造とすることも可能である。
【0033】
図11は、別の実施形態に係る旋回ロッド230の側面図である。旋回ロッド230には、穴235が設けられている。穴235は、側面視において旋回ロッド230の外周とは連なっていない点で、切り欠き35や切り欠き135と異なる。しかしながら、旋回ロッド230の剛性を低下させて固定駒40にかかる荷重を低下させるという意味では、切り欠き35や切り欠き135と同様の効果を有する。旋回ロッド30、130、230の回転軸部32が固定駒40を押すときの力の作用点の間に切り欠き35、135や穴235等の空洞があれば本発明の効果を発揮することができる。つまり、空洞とは、切り欠きや穴を含む概念である。切り欠き35の代わりに穴235が形成されていること以外は、旋回ロッド230は旋回ロッド30と同一の構造を有する。穴235を形成する位置は、切り欠き35を形成する位置と同様である。図9に示す領域32Aと作用面CAとを結ぶ仮想領域VA内の少なくとも一部に穴235を形成する。より好ましくは、回転軸部32の中心32Cと作用面CAの中心CCとを結ぶ仮想線VL上の少なくとも一部に穴235を形成する。
【0034】
前記実施例において、平面視で矩形のMTフェルールを例示したが、フェルールの種類はこれに限られない。光ファイバを内蔵したフェルールを治具に固定して研磨する構造であれば、本発明を適用することができる。
【0035】
前記実施例において、隆起部20が環状に形成されフェルール2を環状に治具1に固定する構造を説明したが、フェルールの配置はこれに限られない。例えば、治具本体10上に隆起部を直線状に形成して複数のフェルールを直線状に配置してもよい。隆起部を形成せずに治具本体に直接旋回ロッド等を配置する構造とすることも可能である。
【0036】
前記実施例において、旋回ロッド30の上端を下方に旋回したときに旋回ロッド30の下端で固定駒40を押す構成を説明した。しかしながら、旋回ロッド30の上端を上方に旋回したときに旋回ロッド30の下端で固定駒40を押す構成とすることも可能である。
【0037】
前記実施例において、固定駒40を上方へ付勢する付勢手段として板バネ60を使用する構成を説明したが、付勢構造は板バネに限られない。板バネの代わりに、コイルスプリングを使用したり、ゴムや樹脂等の弾性部材を使用したりすることも可能である。
【0038】
前記実施例において、フェルール2を鉛直方向に対して所定角度傾斜した状態で研磨するAPC研磨に使用される治具を用いて説明したが、本発明の治具の用途はAPC研磨に限られない。フェルールを鉛直方向に配置して直角に研磨する平面研磨の場合にも本発明の治具は有効である。
【0039】
前記実施例において、スライドロック70、コイルスプリング72、第一係止部24、第二係止部25を使用して旋回ロッド30の旋回を防止する構造を説明したが、この構造を採用することは必須ではない。旋回ロッド30と固定駒40との接触により生じる旋回ロッド30の弾性変形の力を回転軸部32で受けることで旋回ロッド30の旋回を防止することができる。
【0040】
前記実施例において、空洞の例として切り欠き35、135および穴235を挙げて説明した。切り欠きや穴の形状は実施例に記載した形状に限られない。また、切り欠きや穴以外の空洞も本発明に含まれる。ここで、空洞とは設計上で意図的に形成するものを意味し、例えば旋回ロッドを樹脂で形成する場合に樹脂の冷却の際に樹脂の内部に不可避に形成されてしまう空洞までを含むことを意図するものではない。
【0041】
なお、本発明は前記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。当業者であれば言うまでもないことであるが、
・前記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって前記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が前記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0042】
1…光ファイバ研磨用治具、2…光ファイバフェルール、10…治具本体、11…挿入孔、20…隆起部、21…旋回開口、22…第一支持部、23…第二支持部、24…第一係止部、25…第二係止部、30…旋回ロッド、31…本体部、32…回転軸部、33…押圧部、34…中間部、35…切り欠き、36…切り欠きの深さ、40…固定駒、41…側方固定部、42…上方固定部、43…回転軸部、44…傾斜部、45…当接部、50…ハンドル、60…板バネ、70…スライドロック、71…径大部、72…コイルスプリング、100…光ファイバ研磨装置、101…ターンテーブル、130…旋回ロッド、135…切り欠き、136…補強部材、230…旋回ロッド、235…穴。
【要約】
【課題】レバーの操作のみで光ファイバフェルールの固定および固定解除ができる光ファイバ研磨用治具において、光ファイバフェルールを固定するための荷重を適度に軽減させることで、光ファイバフェルールに適切な荷重を与えて固定することが可能な光ファイバ研磨用治具を提供する。
【解決手段】光ファイバフェルールの研磨に使用される光ファイバ研磨用治具であって、前記光ファイバフェルールを挿入可能な挿入孔を有する治具本体と、前記治具本体に対して回転軸部を中心として旋回することが可能に配置された旋回ロッドと、前記旋回ロッドが旋回したときに前記旋回ロッドに押されて応動することで前記挿入孔に挿入された前記光ファイバフェルールを前記治具本体に固定する固定駒と、を備え、前記旋回ロッドは、前記光ファイバフェルールの固定時に前記固定駒を押すときの力の作用面と前記回転軸部とを結ぶ仮想領域内の少なくとも一部に空洞を有する。
【選択図】 図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11