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特許7505836エッチング液、補給液及び銅配線の形成方法
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  • 特許-エッチング液、補給液及び銅配線の形成方法 図1
  • 特許-エッチング液、補給液及び銅配線の形成方法 図2
  • 特許-エッチング液、補給液及び銅配線の形成方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】エッチング液、補給液及び銅配線の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
C23F1/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024024813
(22)【出願日】2024-02-21
【審査請求日】2024-02-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145849
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 眞樹子
(72)【発明者】
【氏名】熊崎 航介
(72)【発明者】
【氏名】浜口 仁美
(72)【発明者】
【氏名】井神 香織
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048409(JP,A)
【文献】特開2021-116449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00-4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅のエッチング液であって、
前記エッチング液は、酸と、酸化性金属イオンと、臭化物イオンと、ピペラジン骨格を有する化合物と、イミダゾール化合物とを含み、
前記ピペラジン骨格を有する化合物は、下記一般式(1)で表される、エッチング液。
【化1】

式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、アミノ基含有置換基、又はアミノ基含有置換基を除く炭素数1~10の炭化水素誘導基を示す。
【請求項2】
前記イミダゾール化合物が、イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イミダゾール酢酸、2-エチルイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾ-ル、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、2-アミノイミダゾール硫酸塩からなる群から選択される1以上である請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記イミダゾール化合物が、アミノ基を有さないイミダゾール化合物である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記イミダゾール化合物が、アミノ基を有さないイミダゾール化合物である、請求項2に記載のエッチング液。
【請求項5】
前記イミダゾール化合物が、0.10g/L以上20g/L以下含まれる請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液。
【請求項6】
前記ピペラジン骨格を有する化合物が0.01g/L以上100g/L以下含まれる請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液。
【請求項7】
前記酸が、塩酸である請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液。
【請求項8】
前記酸化性金属イオンが、第二銅イオンである請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液。
【請求項9】
前記臭化物イオンの濃度が、10g/L以上150g/L以下である請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液。
【請求項10】
請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液を連続又は繰り返し使用する際に、前記エッチング液に添加する補給液であって、
前記ピペラジン骨格を有する化合物と、前記イミダゾール化合物とを含む補給液。
【請求項11】
銅層のエッチングレジストで被覆されていない部分をエッチングする銅配線の形成方法であって、請求項1~4の何れか一項に記載のエッチング液を用いてエッチングする銅配線の形成方法。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液、その補給液及びこれを用いた銅配線の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造において、フォトエッチング法で銅配線パターンを形成する場合、エッチング液として塩化鉄系エッチング液、塩化銅系エッチング液、アルカリ性エッチング液等が用いられている。これらのエッチング液を使用すると、サイドエッチングとよばれるエッチングレジスト下の銅が配線パターンの側面から溶解する場合があった。すなわち、エッチングレジストでカバーされることによって、本来エッチングで除去されないことが望まれる部分(すなわち、銅配線部分)が、エッチング液により除去されて、当該銅配線の底部から頂部になるに従い幅が細くなる、又は所望の幅よりもかなり細くなり好ましい配線の形状が得られない等の現象が生じていた。特に銅配線パターンが微細な場合、このようなサイドエッチングはできる限り少なくしなければならない。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、複素芳香5員環化合物であるアゾール化合物が配合されたサイドエッチングを抑制するエッチング液が記載されている。
特許文献3及び特許文献4には、ピペラジン等の特定の脂肪族複素環式化合物を含むエッチング液が記載されており、このピペラジンの作用により銅配線の直線性を低下させることなくサイドエッチングを抑制できることが記載されている。
【0004】
しかし、特許文献3及び4のエッチング液は、連続して使用するにつれ特定の脂肪族複素環式化合物が分解されて減少して、サイドエッチング抑制や直線性の維持等の本来のエッチング液の機能が十分に発揮できなくなる場合があり、エッチング液の管理が困難になるという問題がある。
かかる問題に対応すべく、特許文献3には、脂肪族複素環式化合物の分解を抑制するために、5員環の複素芳香環を有する複素芳香族化合物をエッチング液に添加しておき、脂肪族複素環式化合物の分解抑制を試みることが記載されている。
【0005】
しかしながら、脂肪族複素環式化合物と、その分解を効果的に抑制しうる複素芳香族化合物との組み合わせについては各文献中にはなんら記載がなく、連続使用しても十分なサイドエッチング抑制効果が継続して得られるエッチング液について引き続き求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-330572号公報
【文献】特開2009-79284号公報
【文献】特開2014-224303号公報
【文献】特開2017-48409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、連続使用した場合でも十分なサイドエッチング抑制効果が継続して得られるエッチング液、その補給液及び、十分なサイドエッチング抑制効果が継続して得られる銅配線の形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の銅のエッチング液は、酸と、酸化性金属イオンと、臭化物イオンと、ピペラジン骨格を有する化合物と、イミダゾール化合物とを含み、
前記ピペラジン骨格を有する化合物は、下記一般式(1)で表される、エッチング液である。
【0009】
【化1】
式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、アミノ基含有置換基、又はアミノ基含有置換基を除く炭素数1~10の炭化水素誘導基を示す。
【0010】
前記イミダゾール化合物が、イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イミダゾール酢酸、2-エチルイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾ-ル、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、2-アミノイミダゾール硫酸塩からなる群から選択される1以上であってもよい。
【0011】
前記イミダゾール化合物が、アミノ基を有さないイミダゾール化合物であってもよい。
【0012】
前記イミダゾール化合物が、0.10g/L以上20g/L以下含まれていてもよい。
【0013】
前記ピペラジン骨格を有する化合物が0.01g/L以上100g/L以下含まれていてもよい。
【0014】
前記酸が、塩酸であってもよい。
【0015】
前記酸化性金属イオンが、第二銅イオンであってもよい。
【0016】
前記臭化物イオンの濃度が、10g/L以上150g/L以下であってもよい。
【0017】
また、補給液にかかる本発明は、前記各エッチング液を連続又は繰り返し使用する際に、前記エッチング液に添加する補給液であって、前記ピペラジン骨格を有する化合物と、前記イミダゾール化合物とを含む。
【0018】
また、銅配線の形成方法にかかる本発明は、銅層のエッチングレジストで被覆されていない部分をエッチングする銅配線の形成方法であって、前記に記載されているエッチング液を用いてエッチングする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、連続使用した場合でも十分なサイドエッチング抑制効果が継続して得られるエッチング液、その補給液及び、十分なサイドエッチング抑制効果が継続して得られる銅配線の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態のエッチング液でエッチングした銅配線の断面写真を示す。
図2図2は、本実施形態のエッチング液でエッチングした銅配線の断面写真を示す。
図3図3は、比較例のエッチング液でエッチングした銅配線の断面写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明のエッチング液、その補給液及び、銅配線の形成方法の実施形態について説明する。
【0022】
本実施形態のエッチング液についてまず説明する。
本実施形態のエッチング液は、主に銅配線を形成するために用いられるエッチング液である。
すなわち、銅層の表面をエッチングレジスト等の絶縁層で被覆し、該絶縁層で被覆されていない部分に、エッチング液を接触させることで銅配線等の所定の形状を形成するために用いられるエッチング液である。
本実施形態のエッチング液が用いられる方法については、後述する銅配線の形成方法で詳細を説明する。
尚、本実施形態における「銅」は、銅からなるものであってもよく、銅合金からなるものであってもよい。また、本実施形態において「銅」は、銅又は銅合金を指す。
【0023】
本実施形態のエッチング液は、銅のエッチング液であって、酸と、酸化性金属イオンと、臭化物イオンと、特定のピペラジン骨格を有する化合物と、イミダゾール化合物とを含む。
【0024】
<ピペラジン骨格を有する化合物>
本実施形態のエッチング液には、銅配線の直線性を低下させることなくサイドエッチングを抑制するため、以下のようなピペラジン骨格を有する化合物(以下、単にピペラジン化合物ともいう。)を含む。
本実施形態のピペラジン化合物は、以下の一般式で表される化合物である
【0025】
【化1】
式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、アミノ基含有置換基、又はアミノ基含有置換基を除く炭素数1~10の炭化水素誘導基を示す。
【0026】
前記R1及びR2は同じであっても異なっていてもよい。
前記アミノ基とは、-NH、-NHR、及び-NRR’の何れかを示し、前記R、R’はそれぞれ独立に炭素数1~6の炭化水素誘導基を示す。前記アミノ基含有置換基とは、アミノ基からなる置換基、及び炭素数1~6の炭化水素誘導基にて一部の水素がアミノ基に置き換わった置換基のいずれかを指す。例えば、アミノエチル基、アミノメチル基、ジエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジメチルアミノエチル基、ジメチルアミノメチル基等が挙げられる。
前記炭化水素誘導基とは、炭化水素基にて一部の炭素又は水素が他の原子又は置換基に置き換わっていてもよいものを指す。炭化水素誘導基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、アリル基、アセチル基、ヒドロキシエトキシメチル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシエトキシプロピル基等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のピペラジン化合物としては、例えば、ピペラジン、1-メチルピペラジン、1-アリルピペラジン、1-イソブチルピペラジン、1-ヒドロキシエトキシエチルピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、1-アミノ-4-メチルピペラジン、1-エチルピペラジン、1-ピペラジンエタノール、1-ピペラジンカルボン酸エチル、1-ホルミルピペラジン、1-プロピルピペラジン、1-アセチルピペラジン、1-イソプロピルピペラジン、1-(2-メトキシエチル)ピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン、1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2-ジメチルアミノエチル)-4-メチルピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N,N’-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ジホルミルピペラジン等が挙げられる。
前記ピペラジン化合物は単独で、又は、複数を組み合わせて使用することができる。
【0028】
本実施形態のエッチング液は前記ピペラジン化合物を含むことで、銅エッチングを行う場合の垂直方向のエッチングをより速やかに進行させると同時に、より均一な保護皮膜を形成しやすくなる。従って、銅配線等の側面の過剰なエッチング(サイドエッチング)を抑制する機能がより発揮しやすいエッチング液が得られる。
さらに、前記ピペラジン化合物を後述するイミダゾール化合物と共にエッチング液中に併存させることで、分解されにくくなり、長時間、連続してエッチング液を使用した場合にもサイドエッチング抑制機能を維持することができる。
【0029】
本実施形態のエッチング液において、前記ピペラジン化合物の含有量は例えば0.01g/L以上100g/L以下、又は、0.02g/L以上80g/L以下、又は、0.05g/L以上30g/L以下等が挙げられる。
かかる含有量であることで、垂直方向の銅エッチングを速やかに進行させると同時に、均一な保護皮膜を形成しやすいエッチング液を形成することができる。
【0030】
<イミダゾール化合物>
本実施形態のイミダゾール化合物は前記ピペラジン化合物と共にエッチング液に存在することで、前記ピペラジン化合物の分解を抑制する機能を有する。
イミダゾール化合物は、イミダゾール骨格を有する化合物を指し、例えば、イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イミダゾール酢酸、2-エチルイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾ-ル、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、2-アミノイミダゾール硫酸塩、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2-メチルベンゾイミダゾール、2-ウンデシルベンゾイミダゾール、2-フェニルベンゾイミダゾール等が挙げられる。尚、2-アミノイミダゾールは硫酸塩とした場合には、前記ピペラジン化合物の分解を抑制する効果がやや低くなる傾向がある。
前記イミダゾール化合物は単独で、又は、複数を組み合わせて使用することができる。
【0031】
本実施形態のエッチング液は前記イミダゾール化合物を有するため、前記ピペラジン骨格を有する化合物に対して作用し、その分解を効果的に抑制し得る。特に、後述するように、エッチング時に酸化性金属イオンを再生するために、過酸化水素等の酸化剤を添加する等、ピペラジン骨格を有する化合物が分解されやすい状態でエッチング液を使用した場合でも、効果的に前記ピペラジン化合物の分解を抑制することができる。よって、サイドエッチング抑制機能を十分に維持することができる。
また、前記イミダゾール化合物は、効果的に前記ピペラジン化合物の分解を抑制すると同時に、エッチング液の他の性能、エッチング速度の調整、均一な保護皮膜形成性等を阻害することがない。従って、本来のエッチング性能を阻害することなく、エッチング液のサイドエッチング抑制効果を維持することができる。
【0032】
前記イミダゾール化合物は、アミノ基を有さないイミダゾール化合物であってもよい。イミダゾール化合物がアミノ基を有さない化合物である場合には、特に、効果的に前記ピペラジン化合物の分解を抑制することができ、サイドエッチング抑制機能を十分に維持することができる。
アミノ基を有さないイミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イミダゾール酢酸、2-エチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2-メチルベンゾイミダゾール、2-ウンデシルベンゾイミダゾール、2-フェニルベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0033】
本実施形態のエッチング液において、前記イミダゾール化合物の含有量は例えば0.10g/L以上20g/L以下、又は、0.25g/L以上20g/L以下、又は、0.5g/L以上10g/L以下、又は、0.5g/L以上5g/L以下、又は、0.6g/L以上4g/L以下等が挙げられる。
かかる含有量であることで、前記ピペラジン化合物の分解を抑制しやすくなり、特に酸化剤等が添加された場合でも、前記ピペラジン化合物の分解を十分に抑制しうるエッチング液を形成することができる。
【0034】
<酸>
本実施形態のエッチング液に用いられる酸は、無機酸及び有機酸から適宜選択可能である。前記無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸等が挙げられる。前記有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、安息香酸、グリコール酸等が挙げられる。前記酸の中では、エッチング速度の安定性及び銅の溶解安定性の観点から、塩酸が好ましい。
前記酸の濃度は、例えば、5g/L以上350g/L以下、又は5g/L以上330g/L以下、又は、10g/L以上350g/L以下、又は20g/L以上330g/L以下、又は5g/L以上180g/L以下、又は7g/L以上150g/L以下等が挙げられる。酸の濃度が前記範囲の場合には、エッチング速度が適正に調整しやすくなり、銅を適切な速度でエッチングすることができ、且つ銅の溶解安定性が維持されるとともに、作業環境の悪化を抑制できる。
前記酸は単独で、又は、複数を組み合わせて使用することができる。
【0035】
<酸化性金属イオン>
本発明のエッチング液に用いられる酸化性金属イオンは、金属銅を酸化できる金属イオンであればよく、例えば第二銅イオン、第二鉄イオン等が挙げられる。サイドエッチングを抑制する観点、及びエッチング速度の安定性の観点から、酸化性金属イオンとして第二銅イオンを用いることが好ましい。
【0036】
前記酸化性金属イオンは、酸化性金属イオン源を配合することによって、エッチング液中に含有させることができる。例えば、酸化性金属イオン源として第二銅イオン源を用いる場合、例えば、塩化銅、硫酸銅、臭化銅、有機酸の銅塩、水酸化銅等が挙げられる。例えば、酸化性金属イオン源として第二鉄イオン源を用いる場合、その具体例としては、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、有機酸の鉄塩等が挙げられる。
前記酸化性金属イオンは、必要に応じて単独で、又は、複数を組み合わせて使用することができる。
【0037】
前記酸化性金属イオンの濃度は、例えば、10g/L以上300g/L、又は、10g/L以上250g/L以下、又は、15g/L以上220g/L、又は、30g/L以上200g/L以下である。酸化性金属イオンの濃度が前記範囲の場合には、エッチング速度が適正に調整しやすくなり、銅を適切な速度でエッチングすることができ、且つ銅の溶解安定性が維持される。
【0038】
<臭化物イオン>
本実施形態のエッチング液に用いられる臭化物イオンは、臭化物イオン源を配合することによって、エッチング液中に含有させることができる。例えば、臭化水素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化アンモニウム、臭化銀、臭素等が挙げられる。銅配線の直線性の低下及びサイドエッチングをより抑制でき、かつ、エッチング後の銅配線底部の配線幅(W1)のばらつきをより抑制できる観点から、臭化水素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウムが好ましい。
前記臭化物イオン源は、必要に応じて単独で、又は、複数を組み合わせて使用することができる。
【0039】
前記臭化物イオンの濃度は、例えば、10g/L以上150g/L以下、又は、20g/L以上120g/L、又は、30g/L以上110g/L以下である。臭化物イオンの濃度が上記範囲である場合には、サイドエッチングを効果的に抑制しうると同時に、エッチング後の銅配線底部の配線幅(W1)のばらつきを効果的に抑制しうる。
【0040】
本実施形態のエッチング液には、上述した成分以外にも、本発明の効果を妨げない程度に他の成分を添加してもよい。例えば、界面活性剤、成分安定剤、消泡剤等を添加してもよい。前記他の成分を添加する場合、その濃度は0.001g/L以上5g/L以下程度である。
【0041】
前記エッチング液は、前記の各成分を水に溶解させることにより、容易に調製することができる。前記水としては、イオン性物質及び不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水等が好ましい。
前記エッチング液は、各成分を使用時に所定の濃度になるように配合してもよく、濃縮液を調製しておき使用直前に希釈して使用してもよい。前記エッチング液の使用方法は、特に限定されないが、サイドエッチングを効果的に抑制するには、後述するようにスプレーを用いてエッチングすることが好ましい。また、使用時のエッチング液の温度は、特に制限はないが、生産性を高く維持した上で、サイドエッチングを効果的に抑制するには20℃以上60℃以下で使用することが好ましい。
【0042】
次に本実施形態の補給液について説明する。
本実施形態の補給液は、上記本実施形態のエッチング液を連続又は繰り返し使用する際に、前記エッチング液に添加する補給液であって、前記ピペラジン骨格を有する化合物と、前記イミダゾール化合物とを含む補給液である。
前記補給液中の各成分は、上述した本実施形態のエッチング液に配合できる成分と同様である。前記補給液を添加することにより、前記エッチング液の各成分比が適正に保たれるため、上述した本実施形態のエッチング液の効果を安定して維持できる。
【0043】
また、本発明の補給液には、上述したエッチング液に含まれる酸が360g/Lの濃度を超えない範囲で含まれていてもよい。また、前記補給液には、上述したエッチング液に含まれる各酸化性金属イオンが14g/Lの濃度を超えない範囲で含まれていてもよい。また、前記補給液には、上述したエッチング液に含まれる臭化物イオン源が臭化物イオン濃度で800g/Lの濃度を超えない範囲で含まれていてもよい。また、前記補給液には、前記成分以外に、エッチング液に添加する成分が配合されていてもよい。尚、これらの前記補給液に含まれていてもよい成分は、前記補給液に含ませずに、エッチング液を連続又は繰り返し使用する際に、エッチング液に直接添加することもできる。
【0044】
前記補給液中の各成分の濃度は、エッチング液中の各成分の濃度に応じて適宜設定されるが、上述した本実施形態のエッチング液の効果を安定して維持するという観点から、前記ピペラジン骨格を有する化合物の濃度が0.01g/L以上800g/L以下であることが好ましい。また、同様に、イミダゾール化合物の濃度が0.1g/L以上400g/L以下であることが好ましい。
【0045】
次に、本実施形態の銅配線の形成方法について説明する。
本実施形態の銅配線の形成方法(以下、単に方法ともいう。)は、銅層のエッチングレジストで被覆されていない部分をエッチングする銅配線の形成方法において、上述した本実施形態のエッチング液を用いてエッチングする。
【0046】
本実施形態における銅配線とは、主に、プリント配線板の製造において、フォトエッチング法で形成される銅配線を指す。
このような銅配線の形成方法としては、例えば絶縁基材上の銅箔、無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜、銅スパッタリング膜等の銅層の上にエッチングレジストを形成し、エッチングレジストで覆われていない部分の銅をエッチングして配線パターンを形成することなどが挙げられる。
銅配線を有するプリント配線板としては、例えばリジッド基板、フレキシブル基板、メタルコア基板、セラミック基板などが挙げられる。
【0047】
エッチングレジストとしては、特に限定されるものではなく、例えばドライフィルム、液状レジスト等の絶縁樹脂からなるものや、ニッケルやニッケル/金などの一層または複数層の金属からなるもの等が挙げられる。
【0048】
本実施形態の銅配線の形成方法は、微細な配線パターンを有する銅配線を形成する場合に適している。
パターンが微細な場合には、サイドエッチングはできる限り少なくしなければならないが、本実施形態のエッチング液を用いた銅配線の形成方法においては、連続したエッチングを行ってもサイドエッチングの発生を効果的に抑制できるという利点がある。
【0049】
本実施形態の方法では、エッチング液をスプレーにより、銅層に噴霧してエッチングすることが好ましい。サイドエッチングを効果的に抑制できるからである。スプレーノズルは特に限定されず、扇形ノズル、充円錐ノズル、2流体ノズル等の任意のノズルを使用することができる。また、スプレーでエッチングする場合のスプレー圧は、例えば、0.04MPa以上、又は、0.08MPa以上、又は、0.1MPa以上等が挙げられる。スプレー圧が前記の圧以上である場合、保護皮膜を適切な厚みで銅配線の側面に形成できる。これにより、サイドエッチングを効果的に防止しうる。尚、前記スプレー圧は、エッチングレジストの破損防止の観点から0.30MPa以下であることが挙げられる。
【0050】
本実施形態の銅配線の形成方法において使用される本実施形態のエッチング液は、サイドエッチングを抑制する作用を維持することができる。
サイドエッチングを抑制する機構としては以下のように考えられる。本実施形態のエッチング液のように塩化銅等の酸化性金属イオン源を含むエッチング液で銅配線を形成すると、エッチングの進行とともに、第一銅イオン及びその塩が生成する。配線間では液の入れ替わりが遅くなるため、特に微細配線では第一銅イオン及びその塩による影響で、垂直方向のエッチングが次第に進行しにくくなり、結果としてサイドエッチングが大きくなる。
本実施形態のエッチング液には、ピペラジン骨格を有する化合物及び臭化物イオンを含むためエッチングの進行とともに生成する第一銅イオン及びその塩を、前記ピペラジン骨格を有する化合物が捕捉することができる。その結果、垂直方向のエッチングを速やかに進行させると同時に、スプレーの衝撃を直接受けにくい銅配線の側面に第一銅イオン及びその塩と前記ピペラジン骨格を有する化合物及び臭化物イオンから構成される保護皮膜が形成され、かかる保護被膜によりサイドエッチングを抑制できると考えられる。
【0051】
一方、ピペラジン骨格を有する化合物は、エッチング液を継続して使用することによって分解されることがある。
例えば、本実施形態の銅配線の形成方法において、過酸化水素、塩素酸塩等の酸化剤をエッチング液に添加する場合がある。かかる酸化剤の添加によりエッチング液の再生が可能となる。すなわち、上述のとおり第一銅イオンが増加して、エッチング性能が低下するが、酸化剤の添加により第一銅イオンを第二銅イオンへ再生することによって、エッチング性能の低下を防ぐことができる。この場合、添加された酸化剤は前記ピペラジン骨格を有する化合物も分解する作用があるため、サイドエッチングの抑制機能が低下する恐れがある。
【0052】
しかし、本実施形態のエッチング液は、前記ピペラジン骨格を有する化合物と共にイミダゾール化合物を含むため、エッチングを連続して行ったり、酸化剤を添加して液の再生を図ったりした場合でも、ピペラジン骨格を有する化合物の濃度を所定の範囲に維持することができる。
従って、連続してエッチングを行ってもサイドエッチングを抑制する機能を安定して維持することができる。
【0053】
また、本実施形態の銅配線の形成方法において、連続してエッチングを行う場合に、所定のエッチング性能を維持すべく、適時に上述した本実施形態の補給液を補給してもよい。
この場合、エッチング液中の任意の成分濃度をモニタリングして、所定の濃度範囲を超えたら補給液を補給する、あるいは形成された配線形状の変化等によって補給液を補給する等、補給液を補給するタイミングは適宜設定することができる。
【0054】
本実施形態の銅配線の形成方法において、エッチングの前後におけるエッチング対象である銅の洗浄、エッチングレジストを銅表面に設ける前の前処理、エッチングレジストの剥離等の工程を適宜行うことができる。
【0055】
本実施形態にかかるエッチング液、補給液及び銅配線の形成方法は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例
【0056】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0057】
[試験1:成分残存試験]
(エッチング液)
本実施例で使用する各エッチング液を準備した。
各エッチング液は、以下に示す各材料を用いて調製した。塩化第二銅・二水和物440g/L(銅イオン濃度:161g/L)、47%臭化水素酸130g/L(臭化物イオン濃度:60g/L)、35%塩酸263g/L(酸濃度:92g/L)、ピペラジン骨格を有する化合物2g/L、イミダゾール化合物又はテトラゾール化合物1g/L(又はイミダゾール化合物又はテトラゾール化合物を無添加)、残イオン交換水を混合した水溶液として得た。
尚、イミダゾール化合物については一部濃度を変更した。濃度を変更したものについては表中に濃度を記載した。
【0058】
材料
塩化第二銅・二水和物:日本化学産業社製
47%臭化水素酸:東ソー社製
35%塩酸:東亞合成社製
ピペラジン骨格を有する化合物
・1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジン:東京化成工業社製
・N-(2-アミノエチル)ピペラジン:東京化成工業社製
・1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン:東京化成工業社製
・N,N’-ジメチルピペラジン:東京化成工業社製
イミダゾール化合物
・2-エチル-4-メチルイミダゾール:東京化成工業社製
・イミダゾール:東京化成工業社製
・1-イミダゾール酢酸:東京化成工業社製
・2-エチルイミダゾール:東京化成工業社製
・2-アミノベンゾイミダゾール:東京化成工業社製
・1-(3-アミノプロピル)イミダゾール:東京化成工業社製
・2-アミノイミダゾール硫酸塩:東京化成工業社製
テトラゾール化合物
・1H-テトラゾール:東京化成工業社製
・5-アミノテトラゾール:東京化成工業社製
35%過酸化水素:ADEKA社製
【0059】
調製した各液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)装置(Waters社製、e2695)を用いて、各ピペラジン骨格を有する化合物濃度を測定した。
その後、35%過酸化水素を各エッチング液1Lに対して2ml添加し、混合した後、24時間、室温で放置し、再度同様の条件でHPLC装置を用いて、各ピペラジン骨格を有する化合物濃度を測定した。過酸化水素を添加する前に対する過酸化水素添加後のピペラジン骨格を有する化合物の濃度を%で示した結果を、残存率(%)として表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[試験2:パターン形状観察]
(基板)
厚み12μmの電解銅箔(三井金属鉱業社製、商品名3EC-III)を積層した銅張積層板を用意し、前記銅箔をパラジウム触媒含有処理液(奥野製薬社製、商品名:アドカッパーシリーズ)で処理した後、無電解銅めっき液(奥野製薬社製、商品名:アドカッパーシリーズ)を用いて無電解銅めっき膜を形成した。次いで、電解銅めっき液(奥野製薬社製、商品名:トップルチナSF)を用いて、前記無電解銅めっき膜上に厚み10μmの電解銅めっき膜を形成し、銅層の総厚みを22.5μmとした。得られた電解銅めっき膜の表面を厚み25μmのドライフィルムレジストで被覆した。その後、ライン/スペース(L/S)=36μm/24μmのガラスマスクを使用して露光し、現像処理により未露光部を除去することでL/S=36μm/24μmのエッチングレジストパターンを作製した。
【0062】
上記試験1で調製したエッチング液のうち、ピペラジン骨格を有する化合物として、1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)ピペラジンを用い、イミダゾール化合物又はテトラゾール化合物として表2に記載の化合物を用いたエッチング液であって、35%過酸化水素を添加、混合した後、24時間、室温で放置したエッチング液については、これを用いて、上記基板をエッチングする試験を行った。エッチングは、扇形ノズル(いけうち社製、商品名:ISVV9020)を用い、スプレー圧0.20MPa、液温45℃、138秒スプレー処理をした。処理時間の138秒は、ピペラジン骨格を有する化合物の残存率が100.0%である、エッチング液の材料のイミダゾール化合物としてイミダゾールを用いたエッチング液でエッチングした時に、エッチング後の銅配線底部の配線幅が30μmに至る時点を目標に設定された処理時間である。
その後、水洗、ドライフィルムレジスト剥離(アセトンに30秒浸漬)、乾燥の各処理を行い銅パターン形成基板を作製した。
【0063】
その後、各基板を切断し、ポリエステル製冷間埋め込み樹脂に埋め込み、研磨加工を行い、金属顕微鏡(KEYENCE社製VHX-7000)を用いて対物レンズ1000倍で前記断面を観察した。銅配線頂部と底部をそれぞれ5点測長し、その平均をトップ幅(T)、ボトム幅(B)とした。
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
[試験3:イミダゾール化合物濃度の変化によるパターン形状変化]
上記試験1で調製したエッチング液のうち、ピペラジン骨格を有する化合物及びイミダゾール化合物として、1-メチル-4’-(ジメチルアミノエチル)とイミダゾール、N-(2-アミノエチル)ピペラジンと2-エチル-4-メチルイミダゾールの組み合わせの2種類のエッチング液を調製した、イミダゾール化合物の濃度を、表3に記載の濃度に振ったものについてそれぞれ上記試験2と同様の方法(ただし、35%過酸化水素の添加は行っていない)で処理時間のみ表3に記載の秒数で、パターンを形成し、試験2と同様にパターンのボトム幅(B)を測定した。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
[試験4:ピペラジン化合物濃度の変化による成分残存試験]
試験1と同様のエッチング液であって、ピペラジン骨格を有する化合物の濃度を変化させたエッチング液において、試験1と同様の方法で過酸化水素添加後のピペラジン骨格を有する化合物及びイミダゾール化合物の濃度を測定した。ピペラジン骨格を有する化合物としてはN-(2-アミノエチル)ピペラジンを、イミダゾール化合物としてはイミダゾールを使用した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
[考察]
試験1について、イミダゾール化合物を配合した各エッチング液は、テトラゾール化合物を配合したエッチング液及びイミダゾール化合物又はテトラゾール化合物を無添加のエッチング液と比較して、ピペラジン骨格を有する化合物の残存率が高いことが明らかであった。
試験2について、ピペラジン骨格を有する化合物の残存率が低いと、エッチング後のパターン形状は、トップ幅(T)、ボトム幅(B)いずれも細くなっていった。
すなわち、ピペラジン骨格を有する化合物による配線の側面が過剰にエッチングされることを抑制する効果が、イミダゾール化合物を配合することで、維持されやすくなることが明らかであった。
試験3について、イミダゾール化合物濃度が1g/L及び4g/Lでは、いずれのエッチング液でも処理時間が長くなるにつれパターンのボトム幅が狭くなる。すなわち、所望のパターン幅を得るための適切な処理時間を設定することが容易にできる。イミダゾール化合物濃度が30g/Lになると、このような処理時間とボトム幅との相関がなく、よって、所望のパターン幅を得るための適切な処理時間の設定がやや難しくなることがわかる。
試験4について、ピペラジン骨格を有する化合物の濃度が0.1~20g/Lのいずれの濃度の場合であっても、イミダゾール化合物が1g/L含まれていることで過酸化水素を添加後でもピペラジン骨格を有する化合物の残存率は非常に高かった。すなわち、上記濃度範囲でピペラジン骨格を有する化合物が含まれている場合、イミダゾール化合物濃度1g/Lで配線の側面が過剰にエッチングされることを抑制する効果が維持されうることが明らかになった。


【要約】      (修正有)
【課題】サイドエッチング抑制等の本来のエッチング液の機能を維持しやすいエッチング液、補給液、及びエッチング液の機能を維持しやすい銅配線の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の課題を解決する手段としては、銅のエッチング液であって、前記エッチング液は、酸と、酸化性金属イオンと、臭化物イオンと、ピペラジン骨格を有する化合物と、イミダゾール化合物とを含み、前記ピペラジン骨格を有する化合物は、下記一般式(1)で表される、エッチング液等が開示される。

式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、アミノ基含有置換基、又はアミノ基含有置換基を除く炭素数1~10の炭化水素誘導基を示す。
【選択図】なし
図1
図2
図3