(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】湿式ワイピングシート
(51)【国際特許分類】
A47L 13/17 20060101AFI20240618BHJP
A47L 13/16 20060101ALI20240618BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20240618BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20240618BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240618BHJP
A47K 7/00 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
A47L13/17 A
A47L13/16 C
D01D5/08 D
D04H1/492
D04H1/728
A47K7/00 E
(21)【出願番号】P 2017154681
(22)【出願日】2017-08-09
【審査請求日】2020-06-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2016236112
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】成田 行人
(72)【発明者】
【氏名】百合野 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】金田 学
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 公二
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】窪田 治彦
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-190469(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132790(WO,A1)
【文献】特開2009-299212(JP,A)
【文献】実開平4-33686(JP,U)
【文献】特開平3-227442(JP,A)
【文献】特開2016-151070(JP,A)
【文献】国際公開第2011/004834(WO,A1)
【文献】特開2004-105395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L13/00-13/62
B32B1/00-43/00
D04H1/00-18/04
A47K7/00
D01D5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイピング面側の第1面と該第1面とは反対側の第2面とを有し、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維の、繊維集合体からなる湿式ワイピングシートであって、
前記少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が交絡し、
前記少なくとも2種の繊維径の異なる繊維は、繊維径の細い繊維と、この繊維径の細い繊維の径よりも径が1μm以上大きい繊維径の太い繊維とを含み、
前記繊維集合体の繊維のうち、繊維径の細い繊維が存在する割合が前記第2面側より前記第1面側に多く、前記繊維集合体の繊維のうち、繊維径の太い繊維が存在する割合が前記第1面側より前記第2面側に多く、かつ前記第1面側の毛管圧が前記第2面側より高く、
ワイピング液が、前記第1面側の繊維集合体と前記第2面側の繊維集合体に担持されており、
前記第1面側の繊維集合体によって担持されるワイピング液の量よりも前記第2面側の繊維集合体によって担持されるワイピング液の量のほうが多く、
前記第1面に、繊維径の細い繊維の集合体と、該集合体中に含まれる繊維径の太い繊維とが存在し、前記第1面における繊維径の細い繊維の占める面積比率が45%以上95%以下であり、
前記湿式ワイピングシートに担持される前記ワイピング液の初期の液担持量が、10g/枚以上であり、
ワイピングの際に、前記第1面側の繊維集合体に含まれるワイピング液が少なくなる、もしくは無くなると、前記毛管圧の差によって、前記第2面側の繊維集合体に担持されていたワイピング液が前記第1面側の繊維集合体に引き込まれる、
清掃用又は物品の拭き取り用の湿式ワイピングシート。
【請求項2】
前記第1面における繊維径の細い繊維の占める面積比率が45%以上90%以下である、請求項1記載の清掃用又は物品の拭き取り用の湿式ワイピングシート。
【請求項3】
ワイピング荷重0.16kN/m
2、ワイピング速度1m/sのとき、フローリング床1畳分の面積1.6552m
2を1回ワイピングするときの液放出量が、7畳目まで1g/畳以上である、請求項1
又は2記載の
清掃用又は物品の拭き取り用の湿式ワイピングシート。
【請求項4】
ワイピング対象面1畳分の面積は1.6552m
2であり、該面積を1回ワイピングするときの液放出量が、0.5g/畳以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の
清掃用又は物品の拭き取り用の湿式ワイピングシート。
【請求項5】
繊維径の細い繊維の径が0.1μm以上9μm以下であり、繊維径の太い繊維の径が10μm以上30μm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の
清掃用又は物品の拭き取り用の湿式ワイピングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式ワイピングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、清掃ワイパー、衛生用品などの湿式ワイピングシートは、日常に、日々使用される製品であり、要求される性能は高まり、精力的に検討が行われ、日進月歩で性能改善されている。例えば、ワイピング性能、摩擦耐性、耐熱性を改善するために、液晶ポリエステルを50質量%以上含有し、表層部の繊維径が0.5μm以下にフィブリル化することが提案されている(特許文献1参照)。また、吸収体に最も近い第1層では、繊維密度が高く、多量の液体が表面シートに排出された場合、液体を吸収体に移行させることが困難になる。そこで、表面シートから吸収体への液移行を妨げるとなく、液体が透過する際の拡散性が低い不織布を使用することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-159887号公報
【文献】特開2008-144322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記のような提案を含め、従来技術を検討した。従来のワイピング液を含む湿式ワイピングシートでは、1回の汚れの拭き取り(1回のワイピング)に、ワイピング面の汚れを拭き取るのに必要な量以上に、ワイピング液がワイピング面に放出される。このため、さらなる改善の余地があることがわかった。特に、汚れを落とすために、ごしごしと強く擦らないと汚れが落ちない場合に問題となる。すなわち、ワイピング対象面の汚れを拭き取るのに必要量以上に、ワイピング液がワイピング対象面に放出される。そのため、ラグ、カーペット、床など拭き面積の広いワイピングの場合、ワイピング途中で新たな湿式ワイピングシートに交換することが多くなる。
【0005】
従って、本発明は、軽く拭いて汚れが落とせ、かつ拭き面積が広くても交換しない、もしくは交換する回数が少ない湿式ワイピングシートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1面と該第1面とは反対側の第2面とを有し、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維の、繊維集合体からなる湿式ワイピングシートであって、前記少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が交絡し、前記繊維集合体の繊維のうち、繊維径の細い繊維が存在する割合が前記第2面側より前記第1面側に多く、前記繊維集合体の繊維のうち、繊維径の太い繊維が存在する割合が前記第1面側より前記第2面側に多く、かつ前記第1面側の毛管圧が前記第2面側より高く、ワイピング液が、少なくとも前記第2面側の繊維集合体に担持されている湿式ワイピングシートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、軽く拭いて汚れが落とせ、かつ拭き面積が広くても交換しない、もしくは交換回数が少ない湿式ワイピングシートを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の湿式ワイピングシート面のうちの第1面を、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した図面代用写真である。
【
図2】本発明の湿式ワイピングシート面のうちの第2面を、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した図面代用写真である。
【
図3】本発明の湿式ワイピングシートの断面の一部分を、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した図面代用写真である。
【
図4】本発明の湿式ワイピングシートの断面の別の一部分を、走査型電子顕微鏡写真を用いて撮像した図面代用写真である。
【
図5】製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートの断面の一部分を、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した図面代用写真である。
【
図6】製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートで、1畳あたりの液放出量(g)とワイピング面積(畳)を測定し、これをプロットしたグラフである。
【
図7】製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートの第1面を示した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、特に強く擦った場合、ワイピング対象面の汚れを拭き取るのに必要な量以上に、ワイピング液がワイピング対象面に放出されることを防ぐ手段を種々検討した。この結果、前記のように、少なくとも繊維径の異なる2種の繊維を使用し、繊維径の細い繊維の存在状態および毛管圧を制御することで、上記課題が解決できる見通しを得、本発明に至った。本発明におけるワイピングとは、清掃および清拭の両方の意味を含むもので、拭くこと全般を意味する。例えば、床面、壁面、天井、柱等の建物の清掃、建具や備品の清掃、物品の拭き取り、身体、身体に係る器具の清拭、等を含むものとする。
【0010】
以下、本発明の湿式ワイピングシートおよびその製造方法をその好ましい実施形態に基づき説明する。
最初に、湿式ワイピングシートを説明する。
【0011】
<<湿式ワイピングシート>>
本発明の湿式ワイピングシートは、第1面と、該第1面の反対側の第2面とを有する。すなわち、湿式ワイピングシートの表裏の面のうち、一方の面(例えば、表面)を第1面、他方の面(例えば、裏面)を第2面とする。以下、例えば、第1面をワイピング面として説明する。ワイピング面とはワイピング液を放出する面である。湿式ワイピングシートは、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維の繊維集合体からなり、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が交絡している。第1面側および第2面側には2種の繊維径の異なる繊維(太い繊維とこれよりも細い繊維)のうち、少なくとも繊維径の細い繊維が存在している。繊維集合体は、上記2種類の繊維径を有する繊維のうち、繊維径の細い繊維が存在する割合が、第2面側より第1面側に多い(
図1参照。)。また繊維集合体は、繊維径の太い繊維が存在する割合が、第1面側より第2面側に多い(
図2参照。)。かつ第1面側の毛管圧が、第2面側より高い。さらに、少なくともワイピング液が、第2面側の繊維集合体に担持されている。
【0012】
なお、上記繊維集合体は互いの繊維の交絡を主体として複合化された繊維集合体である。また、第2面側の繊維集合体に少なくともワイピング液を担持するとは、第2面側の繊維集合体にワイピング液を含む態様であって、第1面側の繊維集合体にもその空隙にワイピング液を含む態様をも含む。好ましくは、ワイピング液を担持する量は、第1面側の繊維集合体によって担持する量よりも第2面側の繊維集合体によって担持する量の方が多い。
【0013】
最初に、図面の
図1~4に基づき、本発明の湿式ワイピングシートの走査型電子顕微鏡(SEM)写真で説明する。
図3および4は、本発明の湿式ワイピングシートの断面の異なった部分を撮像した写真である。いずれも、図の上側に繊維径の細い繊維の繊維集合体が存在しており、これが第1面(表面)である。従って、図の下側の面が、第2面(裏面)である。
【0014】
図1に示すように、本発明の湿式ワイピングシートの第1面を上方から観察すると、繊維径の細い繊維の集合体と繊維径の太い繊維が確認される。湿式ワイピングシートの第1面は、繊維径の細い繊維が繊維径の太い繊維よりも多く存在している。それは
図1からも明らかなように、第1面の全面が、繊維径の細い繊維の繊維集合体ではなく、繊維径の細い繊維の繊維集合体中に繊維径の太い繊維を含むものである。
一方、
図2に示すように、本発明の湿式ワイピングシートの第2面を上方から観察すると、繊維径の太い繊維の集合体と繊維径の細い繊維が確認される。湿式ワイピングシートの第2面は、繊維径の太い繊維が繊維径の細い繊維よりも多く存在している。それは
図2からも明らかなように、第2面の全面が、繊維径の太い繊維の繊維集合体ではなく、繊維径の太い繊維の繊維集合体中に繊維径の細い繊維を含むものである。
なお、
図1および2は、観察範囲が290μm×380μmであり、330倍に拡大したものである。
図3および4は、観察範囲が170μm×240μmであり、500倍に拡大したものである。
【0015】
<繊維>
本発明における繊維集合体を構成する繊維は、繊維径の異なる少なくとも2種の繊維である。繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース繊維や、各種金属、ガラス、鉱物を原料とする繊維が代表的である。このうち、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース繊維が好ましい。
【0016】
ポリエステルは、ポリマー主鎖にエステル結合を有する構造であればどのようなポリエステルでも構わない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィンは、エチレン性不飽和基を有するモノマーから得られるものである。ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコールの環状アセタール、アクリル樹脂(アクリル樹脂、メタクリル樹脂を含む)、ポリ塩化ビニルが挙げられる。
ポリオレフィンは、上記のように、ホモポリマーでもコポリマーでも構わない。
【0018】
ポリアミドは、ポリマー主鎖に、アミド結合を有する構造であればどのようなポリアミドでも構わない。例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12のような重縮合ナイロン、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5Tのような共縮合ナイロンが挙げられる。また、下記のジアミン成分とジカルボン酸成分で得られるポリアミドが挙げられる。
【0019】
ジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン化合物が挙げられる。また、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン化合物が挙げられる。さらに、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン化合物が挙げられる。
【0020】
カルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物が挙げられる。また、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物が挙げられる。さらに、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸化合物が挙げられる。
【0021】
ナイロン類も含め、これらのジアミン成分とジカルボン酸成分はそれぞれにおいて、単独でも併用してもよい。
【0022】
セルロース繊維は天然繊維でも合成繊維でもよく、合成繊維としては、例えば、セルロースのアセテート等のアシレート繊維が挙げられる。
【0023】
また、これらの混合繊維、例えば、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレートなども挙げられる。
【0024】
本発明では、上記繊維のなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ナイロン類およびセルロース繊維がより好ましい。アクリル樹脂(特に、アクリル酸は、そのエステル、メタクリル酸もしくはそのエステルから得られる繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0025】
繊維の繊維長、すなわち、本発明で使用する繊維全体の平均繊維長は、1mm以上100mm以下が好ましく、10mm以上90mm以下がより好ましく、20mm以上60mm以下がさらに好ましい。
【0026】
繊維径の異なる繊維の繊維径のうち、細い繊維の繊維径と太い繊維の繊維径との差は、後述の毛管圧の差を付与する観点から、1μm以上29.9μm以下が好ましく、2μm以上28μm以下がより好ましく、5μm以上27μm以下が更に好ましい。
また、繊維径の異なる繊維の繊維径のうち、細い繊維の繊維径は、0.1μm以上9μm以下が好ましく、0.3μm以上7μm以下がより好ましく、0.5μm以上5μm以下が更に好ましい。繊維径の異なる繊維の繊維径のうち、太い繊維の繊維径は、10μm以上30μm以下が好ましく、11μm以上28μm以下がより好ましく、15μm以上25μm以下が更に好ましい。繊維径の細い繊維および繊維径の太い繊維は、ワイピング機能に合わせて選択される。
【0027】
繊維径の異なる繊維は、互いに同じ成分の繊維であっても、異なった成分の繊維であっても構わないが、本発明では同じ成分の繊維が好ましい。また、繊維長においても、互いの繊維で異なっても同じでも構わないが、本発明では同じ繊維長の繊維が好ましい。
【0028】
本発明では、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が交絡している。繊維径の細い繊維が存在する割合が、第2面側より第1面側に多く、繊維径の太い繊維が存在する割合が、第1面側より第2面側に多く、かつ第1面側の毛管圧が、第2面側より高い。これにより、ワイピングの際に、強く拭いても、ワイピング対象面の汚れを拭き取るのに放出されるワイピング液の量を必要量にコントロールできる。そのため、ラグ、カーペット、床など拭き面積の広いワイピングの場合でも、ワイピング途中に新たな湿式ワイピングシートに交換しなくともよい、もしくは交換する回数を少なくすることが可能となる。「繊維径の細い繊維」と「繊維径の太い繊維」との割合は毛管圧に差が生じる範囲であればよく、ワイピングシートの用途、使用態様等により適宜設定でき、一義的に定めるものではない。
<繊維割合の計測方法>
走査型電子顕微鏡で拡大倍率330倍に拡大し、視野範囲290μm×380μmの範囲における繊維径の太い繊維と繊維径の細い繊維の本数を計測し、それぞれの割合を導出する。上述したように、繊維径が9μm以下の繊維を繊維径の細い繊維とし、繊維径が10μm以上の繊維を繊維径の太い繊維とする。シート面の任意の20点を同様に計測し、この平均値を第1面および第2面におけるそれぞれの繊維の割合とする。
【0029】
一般に、毛管圧は、以下の関係式に従うことが知られている。
【0030】
【0031】
ここで、Pcは不織布の毛管圧(N/m2)であり、γLは液の表面張力(N/m)であり、θは繊維と液体との接触角(rad)であり、rは繊維径(m)である。kは不織布の体積あたりの空隙の割合などの因子などを考慮した補正係数であり、この補正係数で較正することによって毛管圧をより正確に求めることができる。
【0032】
上記の式により導きだされるPcは不織布の測定により導き出される要約統計量を用いた値である。Pcを測定するためには液の表面張力、繊維径、繊維と液体との接触角を測定する必要がある。表面張力は協和界面科学社製DY-200のようなプレート法に基づく自動表面張力計で、20℃、65%R.H.の環境下で10回測定した平均値とする。繊維径は、走査型電子顕微鏡による観察から、観察倍率350倍で1観察あたり30本測定し、これをランダムに計5か所、150本の繊維径を測定した平均値とする。繊維と液体との接触角はフーリエ変換赤外分光法(FTIR)により不織布の構成繊維を同定し、同一組成の樹脂プレート上における接触角を測定する。具体的には、協和界面科学社製DMo-901のような全自動接触角計で1μlを滴下した後に3秒経過したときの接触角をプレート上5か所で測定し、その平均値とする。なお、繊維の材質が複数存在する場合は、それぞれの材質ごとに同様に接触角を測定し、Pc計算時の値としては、各繊維成分の表面積比に基づき接触角を加重平均した値を式内のθとする。
【0033】
上記式からも明らかなように、繊維径を小さく(細く)するほど、毛管圧は高くなる。本発明では、第1面側の毛管圧を、繊維径を細くして高める。第1面側の繊維集合体に含まれるワイピング液が少なくなる、もしくは無くなると、毛管圧の差によって、第2面側の繊維集合体に担持されていたワイピング液が第1面側の繊維集合体に引き込まれる。これによって、第1面側の繊維集合体に適量のワイピング液が供給され、常に第1面側はワイピングに適した量のワイピング液が存在する状態になる。
【0034】
また、空隙も含めた湿式ワイピングシート面のうち、第1面における繊維径の細い繊維の占める面積比率は、40%以上99%以下が好ましく、45%以上95%以下がより好ましく、50%以上90%以下がさらに好ましい。一方、第2面における繊維径の細い繊維の占める面積比率は、0%以上55%以下が好ましい。第1面における繊維径の細い繊維の占める面積は、例えば、第1面を撮像した画像もしくは写真等から繊維径の細い繊維の占める面積を測定することで求める。以下、それぞれの繊維の占める面積は、上記同様にして求めることができる。したがって、面積比率は繊維の占める面積から測定対象となる面積で除した値となる。なお、%表示の場合は除した値の100倍となる。
【0035】
ここで、例えば、上記面積比率40%以上99%以下における上限の99%のうちの残りの1%は空隙である。この空隙は、第1面に対してワイピング液が放出されるために必要である。この空隙の割合を調整することで、強く拭いても、ワイピング対象面の汚れを拭き取るのに放出されるワイピング液の量を必要量に抑えることができる。また、第2面における繊維径の細い繊維の占める面積比率を上記のようにすることで、結果的に空隙が多くなり、ワイピング液の担持量が増加する。上記第1面における繊維径の細い繊維の占める面積比率が上記下限値以上であることによって、ワイピング液が適量放出されるため、必要量以上に放出されることがない。そのため、拭くことが可能な面積が広くなる。
【0036】
本発明では、第1面と平行な面において、繊維径の細い繊維の占める面積比率が、第1面の反対側の厚さ方向に向かって、階段状に、曲線的に、またはその組み合わせで減少していることが好ましい。特に、第2面から、湿式ワイピングシートの厚さの50%以上100%以下を、繊維径の細い繊維の占める面積比率を50%以上100%以下の範囲とすることで、ワイピング液の担持量を高めることができる。ここで、繊維径の細い繊維の占める面積比率を50%以上100%以下の範囲とする上記の厚さの比率は、1%以上90%以下が好ましく、5%以上70%以下がより好ましく、7%以上50%以下がさらに好ましい。なお、上記のように好ましい厚さの比率とすることで、ワイピング対象面の汚れを拭き取るのに放出されるワイピング液の量を必要量放出することができる。
【0037】
ここで、湿式ワイピングシートの内部の情報を得るには、共焦点レーザー顕微鏡が利用できる。共焦点レーザー顕微鏡を使用することで、試料内部のスペクトルが得られ、例えば、試料を深さ方向にラマンイメージングすることで、試料内部における成分分布を非破壊で観察することができる。
【0038】
本発明では、ワイピング液を担持する保液層と液放出層の少なくとも2層からなり、液放出層が第1面を含む。特に、多くのワイピング液を担持するためには、上記のように、第2面から、湿式ワイピングシートの厚さの50%以上100%以下を、繊維径の細い繊維の占める面積比率を1%以上100%以下とする。これによって、ワイピング液の多くを担持する保液層とすることができる。一方、液放出層は、第1面を含む保液層以外の部分である。
【0039】
本発明では、繊維の目付は、第1面側が、1g/m2以上100g/m2以下が好ましく、5g/m2以上50g/m2以下がより好ましく、10g/m2以上30g/m2以下がさらに好ましい。一方、第2面側では、10g/m2以上50g/m2以下が好ましく、15g/m2以上30g/m2以下がより好ましく、20g/m2以上25g/m2以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明では、特に、繊維径の異なる繊維が互いに熱融着しないで交絡していることが好ましい。このようにすることで、熱融着している場合と比較し、繊維間の空隙が増え、ワイピング液の担持量が増加する。
【0041】
本発明の湿式ワイピングシートは、1回のワイピング、すなわち、ワイピング対象面を1回拭くことで、ワイピング液が第1面からワイピング対象面に放出される。その放出量は、0.5g/畳以上が好ましく、0.7g/畳以上がより好ましく、1.0g/畳以上がさらに好ましい。放出される量の上限は、8g/畳以下が現実的であり、7g/畳以下が好ましく、6g/畳以下がさらに好ましい。上記放出量が上記下限値以上であることによって十分に拭き取りができ、上記上限値以下であることによって第1面にワイピング液残りが生じにくくなる。ここで畳は、大きさが1820mm×910mmであり、畳面積は1.6552m2である。
【0042】
図6は、1畳ずつフローリング床をワイピングした際の1畳あたりの液の放出量を調べた結果を示したグラフである。このように、1畳あたりの液放出量(g)を測定し、これをプロットすることで、液の放出挙動を見積もることができる。
放出挙動の測定条件は、ワイピング荷重(荷重W)0.16kN/m
2、ワイピング速度(速度V)1m/sである。本発明では、1畳あたりの放出量が、1g以上が好ましく、上限は10g以下が好ましい。
【0043】
本発明では、ワイピング液が湿式ワイピングシートに担持できる最大液担持量、すなわち、初期の液担持量は、1g/枚以上が好ましく、10g/枚以上がより好ましく、12g/枚以上がさらに好ましい。初期の液担持量の上限は、40g/枚以下が現実的であり、30g/枚以下が好ましく、20g/枚以下がさらに好ましい。
【0044】
このようにすることで、目標とする1回のワイピング当たり1g/畳以上の液放出量が可能となりで、しかも6畳目以上持続させることが可能となる。
【0045】
<ワイピング液>
ワイピング液は、一般に、湿式ワイピングシートで使用されるワイピング液が適用される。
すなわち、ワイピング液は水単独でも、界面活性剤を含む水溶液でも構わないが、界面活性剤を含む水溶液が好ましい。
【0046】
界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤のいずれでも構わない。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸等の陰イオン界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤を用いることができる。
【0047】
ワイピング液には、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、すすぎ効果を高めることを目的とした、アクリル酸、メタクリル酸もしくはマレイン酸の重合体またはこれらの塩、ならびにマレイン酸と他のビニル系モノマーとの共重合体またはこれらの塩などが挙げられる。また、殺菌剤、香料、芳香剤、消臭剤、研磨粒子、pH調整剤、アルコールなどの水溶性有機溶媒などが挙げられる。
【0048】
界面活性剤および上記のような添加剤の含有量は、一般に、湿式ワイピングシートで使用される範囲で使用される。
【0049】
<<湿式ワイピングシートの製造方法>>
本発明で使用する湿式ワイピングシートは、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が交絡している。本発明の製造工程では、互いの層を構成する繊維集合体の繊維の繊維径が異なる少なくとも2層の繊維集合体の積層体に水流を吹き付け、一方の繊維集合体に他方の繊維集合体の一部を入り込ませる水流交絡工程を含む。特に、水流交絡法により、一方の繊維集合体に他方の繊維集合体の一部を入り込ませることで、熱風による交絡法のような繊維間の融着は実質的に生じない。
【0050】
本発明では、水流の吹き付けは、少なくとも、上記の積層体の繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層側から行うことが好ましい。この場合、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層上に、この層とは異なる不織布もしくはネットを配して、この配した不織布もしくはネット側から、水流の吹き付けを行い、その後、配した不織布もしくはネットを剥離してもよい。この態様は、本発明ではより好ましい態様である。また、配した不織布もしくはネットを剥離した後、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層から、さらに、水流の吹き付けを行うことは、さらに好ましい態様である。
【0051】
繊維径の細い繊維および繊維径の太い繊維の繊維径は上述と同様であり、繊維径の細い繊維およびの繊維径の太い繊維の繊維長も上述した通りである。
【0052】
積層体の繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の目付は、1g/m2以上100g/m2以下が好ましく、5g/m2以上50g/m2以下がより好ましく、10g/m2以上30g/m2以下がさらに好ましい。積層体の繊維径の太い繊維からなる繊維集合体の目付は、10g/m2以上50g/m2以下が好ましく、15g/m2以上30g/m2以下がより好ましく、20g/m2以上25g/m2以下がさらに好ましい。
【0053】
また、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層上に、この層とは異なる不織布を配する場合、この不織布の目付は、11g/m2以上150g/m2以下が好ましく、20g/m2以上80g/m2以下がより好ましく、30g/m2以上75g/m2以下がさらに好ましい。ここで、本発明では、この不織布が、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層の下に有する繊維径の太い繊維からなる繊維集合体であっても構わず、本発明では好ましい態様である。
【0054】
本発明では、適用する水流交絡法(ウオーターニードリング)では、ウォータージェットノズルの本数および水圧、ラインスピード等の条件によって繊維集合体の積層体に加わる絡合エネルギーをコントロールすることができる。
【0055】
ここで、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層上に、この層とは異なる不織布もしくはネットを配して、穴あきメッシュにより構成されたコンベヤベルト上に置き、コンベヤベルト上に配した不織布もしくはネット側から、水流の吹き付けを行う。その後、配した不織布もしくはネットを剥離した後、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層側から、さらに、水流の吹き付けを行う。この場合、2回目のウォータージェットノズルの本数および水圧、ラインスピード等の条件は、1回目の条件と変更しても構わない。
【0056】
本発明では、穴あきメッシュ外殻上に繊維集合体からなる積層体を置き、繊維集合体からなる積層体を置いた側と反対側から吸引することが好ましい。
穴あきメッシュ外殻は平面でも円型でも構わないが、円型が、効率的で好ましい。
【0057】
本発明では、水流交絡法を適用した際、繊維がフィブリル化しても構わないが、得られた繊維径の細い繊維の繊維径は、0.1μm以上9μm以下であることが好ましい。
【0058】
本発明では、水流交絡工程の後に、繊維径の太い繊維が存在する割合が多い第2面側の繊維集合体にワイピング液を担持させる。ワイピング液の含有量(繊維集合体の担持量)は、1g/枚以上が好ましく、10g/枚以上がより好ましく、12g/枚以上がさらに好ましい。ワイピング液の含有量の上限は、40g/枚以下が現実的で、30g/枚以下が好ましく、20g/枚以下がさらに好ましい。
ワイピング液を含有させる方法は、ロールツーロールライン中で液を吹きかける方法、液貯めプールをロールツーロールで通過させる方法、カット、積層後に液をかける方法などが挙げられ、ロールツーロールライン中で液を吹きかける方法が好ましい。
【0059】
<繊維集合体のうち、繊維径の細い繊維の繊維集合体の製造方法>
繊維径の細い繊維の繊維集合体は、市販されている繊維径の細い繊維の繊維集合体を使用しても構わないが、本発明では、溶融型静電紡糸法(溶融エレクトロスピニング法)で製造するのが好ましい。
【0060】
溶融型静電紡糸法を実施する装置は、溶融型静電紡糸方法を実現可能とするものであればよく、特に限定されない。その装置としては、熱可塑性樹脂を加熱溶融するための加熱溶融ユニットを備え、加熱溶融した熱可塑性樹脂に電圧を作用させて、この熱可塑性樹脂を繊維状に伸長させる静電紡糸ユニットを備えている。さらに、伸長された極細繊維を電気的引力によってコレクターに捕集するための捕集ユニットを備えている。
【0061】
加熱溶融ユニットの加熱手段は、溶融型静電紡糸法で行われている手段であればよく、どのような手段でも構わない。
また、静電紡糸ユニットも、溶融型静電紡糸法で行われているユニットであればよく、どのようなユニットでも構わない。なお、加熱部は、温度制御可能であり、かつ伸長する繊維を30mm以上通過可能な加熱空間部を有するのが好ましい。
捕集ユニットは、極細繊維を捕集するためのコレクターで構成されていてもよい。
【0062】
得られた紡糸は、コレクターに収集され、積層してシート状に広げ(ウェブ)、不織の繊維集合体を製造する。
【0063】
本発明では、織る工程がなく、熱収縮可能な網状ネットも必要とすることなく、不織布の高収縮繊維を熱収縮させる工程と水流交絡法を適用する工程を行うような製造方法と比較し、工程数が少なく、簡便で、安価に大量生産が可能となる。
【0064】
<<湿式ワイピングシートの用途>>
本発明の湿式ワイピングシートは空隙や層構成、ぬれ性の制御等により多様な機能の付与ができる。このため、本発明の湿式ワイピングシートは、例えば、床面、壁面等の建物、戸棚、窓ガラス、鏡、ドア、ドアノブ等の建具、ラグ、カーペット、机食卓等の家具、キッチン、トイレ等の備品のワイピングに使用できる。また清掃ワイパーに使用でき、さらに、顔、体などの清拭や、衛生用品、土木、包装などにも使用できる。
【0065】
ここで、
図5~7は、上記のようにして製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートを示すものである。具体的には、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体を、溶融型静電紡糸法により形成した。繊維は、ポリプロピレンで、得られた紡糸径、すなわち、繊維径は0.6~3μmであった。繊維径の太い繊維の集合体として、繊維径10~18μmのポリエチレンテレフタレート、レーヨン、アクリル混綿不織布を使用した。
【0066】
繊維径の太い繊維の集合体からなる不織布の目付は、65g/m2、製造した繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の目付は55g/m2であった。2枚の繊維径の太い繊維からなる集合体の不織布の間に繊維径の細い繊維からなる繊維集合体側から、再度、高圧ジェット水流を吹き付け、一方の繊維集合体に他方の繊維集合体の一部を入り込ませた。得られたシート全体での繊維の目付は、120g/m2であった。
【0067】
走査型電子顕微鏡で、このシートのシート断面を観察した写真が
図5である。
図の上側が、第1面(ワイピング面)となる。
【0068】
その後、繊維径の太い繊維からなる集合体の不織布側から、ワイピング液を注入した結果、含有量は、7.8g/枚が可能であった。このようにして製造された湿式ワイピングシートを使用して、1畳あたりの液放出量(g)とワイピング面積(畳)との関係をプロットして示したのが
図6である。
【0069】
図6に示すように、7畳目まで、1畳あたりの液放出量は1g以上であった。また、14畳目の放出率は81%であった。なお、含浸率は、含浸液質量/繊維質量×100のようにして求め、380%であった。
摩擦抵抗は、1.6Nであり、全面が繊維径0.3~3μmからなるシートよりは低減したが、全面が繊維径10~18μmからなるマイクロファイバーシートとほぼ同等であった。
【0070】
ここで、摩擦抵抗は、プッシュプルゲージにワイパーヘッドを装着し、プッシュプルゲージの角度がワイピング平面に対して平行となるようにして走査し、応力の最大値を測定し、これをプロットして求めた。
【0071】
図7は、上記の湿式ワイピングシートを使用してワイピング後の第1面の写真であり、凹凸部分が均一でなく、汚れが詰まっていることが観測される。
図7では、上記のような写真観察から、従来取り切れなかった汚れも取れていることが示唆される。
【0072】
このように、本発明により、軽く拭いて汚れが落とせ、かつ拭き面積が広くても交換の必要がない、もしくは交換回数が少なくてすむ湿式ワイピングシートを提供することが可能となった。さらには、簡便で、大量生産が可能な湿式ワイピングシートの製造方法を提供することが可能となった。
【0073】
上述した実施形態に関し、本発明は上記湿式ワイピングシートを含め、以下の湿式ワイピングシートおよびその製造方法を開示する。
【0074】
(1)第1面と該第1面とは反対側の第2面とを有し、少なくとも2種の繊維径の異なる繊維の、繊維集合体からなる湿式ワイピングシートであって、
前記少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が交絡し、
前記繊維集合体の繊維のうち、繊維径の細い繊維が存在する割合が前記第2面側より前記第1面側に多く、前記繊維集合体の繊維のうち、繊維径の太い繊維が存在する割合が前記第1面側より前記第2面側に多く、かつ前記第1面側の毛管圧が前記第2面側より高く、
ワイピング液が、少なくとも前記第2面側の繊維集合体に担持されている湿式ワイピングシート。
(2)前記少なくとも2種の繊維径の異なる繊維が、互いに熱融着しないで交絡している(1)に記載の湿式ワイピングシート。
(3)湿式ワイピングシートの第1面に、繊維径の細い繊維の集合体と繊維径の太い繊維が存在する(1)または(2)に記載の湿式ワイピングシート。
(4)第1面における繊維径の細い繊維の占める面積比率が、40%以上99%以下、好ましくは45%以上95%以下、より好ましくは50%以上90%以下である(1)~(3)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(5)繊維径の異なる繊維のうち、繊維径の細い繊維が、0.1μm以上9μm以下、好ましくは0.5μm以上5μm以下である(1)~(4)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(6)繊維径の異なる繊維の繊維径のうち、繊維径の太い繊維が、10μm以上30μm以下、好ましくは15μm以上25μm以下である(1)~(5)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(7)繊維径の異なる繊維が、互いに同じ成分の繊維である(1)~(6)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(8)繊維径の異なる繊維が、互いに異なった成分の繊維である(1)~(6)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(9)前記湿式ワイピングシートが、前記ワイピング液を担持する保液層と液放出層の少なくとも2層からなり、該液放出層が、前記第1面を含む(1)~(8)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(10)第2面から、湿式ワイピングシートの厚さの50%以上100%以下を、繊維径の細い繊維の占める面積比率を1%以上100%以下とすることで、ワイピング液の多くを担持する保液層とする(1)~(9)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(11)ワイピング対象面を1回拭くことで、ワイピング液が第1面からワイピング対象面に放出される量が0.5g/畳以上、好ましくは0.7g/畳以上、より好ましくは1.0g/畳以上(畳は、面積が1.6552m2)である(1)~(10)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(12)ワイピング対象面を1回拭くことで、ワイピング液が第1面からワイピング対象面に放出される量が、8g/畳以下、好ましくは7g/畳以下、さらに好ましくは6g/畳以下(畳は、面積が1.6552m2)である(1)~(11)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(13)ワイピング液を担持する量は、第1面の反対側の繊維集合体に担持する量の方が多い(1)~(12)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
【0075】
(14)(1)~(13)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法であって、
互いの層を構成する繊維集合体の繊維の繊維径が異なる少なくとも2層の繊維集合体の積層体に水流を吹き付け、一方の繊維集合体に他方の繊維集合体の一部を入り込ませる水流交絡工程を含み、
前記水流の吹き付けを、少なくとも、前記積層体の繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層側から行う湿式ワイピングシートの製造方法。
(15)前記水流交絡工程は、繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層上に、該層とは異なる不織布もしくはネットを配し、前記水流の吹き付けを、配した該不織布もしくはネット側から行い、
水流を吹き付けた後に、配した前記不織布もしくはネットを剥離する(14)に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(16)前記不織布もしくはネットを剥離した後、さらに、水流の吹き付けを、前記積層体の繊維径の細い繊維からなる繊維集合体の層側から行う(15)に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(17)前記繊維集合体のうち、繊維径の細い繊維の繊維集合体を溶融型静電紡糸法により形成する(14)~(16)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(18)穴あきメッシュ外殻上に繊維集合体からなる積層体を置き、繊維集合体からなる積層体を置いた側と反対側から吸引する(14)~(17)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(19)水流交絡法により、繊維がフィブリル化する(14)~(18)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。