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特許7505859セラミックス成形体の脱脂方法およびセラミックス体の製造方法
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  • 特許-セラミックス成形体の脱脂方法およびセラミックス体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】セラミックス成形体の脱脂方法およびセラミックス体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/638 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
C04B35/638
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018191637
(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公開番号】P2020059623
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 祐生
(72)【発明者】
【氏名】武 楚萌
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-322445(JP,A)
【文献】特開平6-108116(JP,A)
【文献】特開2006-93564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/638
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状のセラミックス成形体を載置台に配置する配置工程と、
前記載置台に配置された前記セラミックス成形体に対して、前記セラミックス成形体の焼成温度より低い脱脂温度で熱処理を施すことにより、前記セラミックス成形体に含まれる一部の成分を除去する除去工程と、
を含む、セラミックス成形体の脱脂方法において、
前記除去工程において、前記セラミックス成形体の変形の発生を抑制するための重りを用いることなく、前記セラミックス成形体は、少なくとも前記脱脂温度で接着性を有する接着層を介して、前記載置台に接着され、かつ、前記接着層は、前記セラミックス成形体のうちの前記載置台側の表面全体に接触している、
ことを特徴とするセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックス成形体の脱脂方法において、
前記接着層は、常温では、接着性を有さず、
前記配置工程において、常温で、前記セラミックス成形体を、前記接着層を介して、前記載置台に配置する、
ことを特徴とするセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセラミックス成形体の脱脂方法において、
前記接着層は、少なくとも、前記セラミックス成形体に含まれるバインダーの軟化する温度以下の所定の温度から前記脱脂温度までの温度帯域において、接着性を有する、
ことを特徴とするセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミックス成形体の脱脂方法において、
前記接着層は、前記セラミックス成形体に含まれるバインダーと同じ成分のバインダーを含む、
ことを特徴とするセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項5】
セラミックス体の製造方法において、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂方法により、前記セラミックス成形体を脱脂する脱脂工程と、
前記脱脂工程後に、前記セラミックス成形体に対して、前記焼成温度で熱処理を施すことにより、前記セラミックス体を形成する焼成工程と、
を含む、
ことを特徴とするセラミックス体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のセラミックス体の製造方法において、
前記接着層は、前記脱脂工程の後、前記焼成工程の前に消失している、
ことを特徴とするセラミックス体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、セラミックス成形体の脱脂方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば燃料電池や半導体製造装置などの各種装置の構成部品として、セラミックス体が広く用いられている。このようなセラミックス体を製造する方法としては、次の方法を挙げることができる。まず、複数枚のセラミックスグリーンシートが積層された未焼成基板を焼成して、一次焼成基板を得る。得られた一次焼成基板には、反りやうねり等の歪みが生じる。そこで、重りを用いて一次焼成基板を加圧した状態で、一次焼成基板を焼成する二次焼成を行うことにより、歪みが修正された二次焼成基板を得る(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-312561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したセラミックス体を製造するための従来の方法では、例えば一次焼成基板における歪みの修正のために二次焼成が必須になるといった制約があるなどの問題があり、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示されるセラミックス成形体の脱脂方法は、セラミックス成形体を載置台に配置する配置工程と、前記載置台に配置された前記セラミックス成形体に対して、前記セラミックス成形体の焼成温度より低い脱脂温度で熱処理を施すことにより、前記セラミックス成形体に含まれる一部の成分を除去する除去工程と、を含む、セラミックス成形体の脱脂方法において、前記除去工程において、前記セラミックス成形体は、少なくとも前記脱脂温度で接着性を有する接着層を介して、前記載置台に接着されている。本セラミックス成形体の脱脂方法では、除去工程において、セラミックス成形体は、接着性を有する接着層を介して、載置台に接着されている。セラミックス成形体は、セラミックス成形体に含まれる一部の成分が除去される際に変形しやすい。しかし、セラミックス成形体は、接着層を介して、載置台に接着されているため、除去工程におけるセラミックス成形体の変形(例えば反り)の発生を抑制することができる。
【0008】
(2)上記セラミックス成形体の脱脂方法において、前記接着層は、常温では、接着性を有さず、前記配置工程において、常温で、前記セラミックス成形体を、前記接着層を介して、前記載置台に配置するとしてもよい。本セラミックス成形体の脱脂方法では、配置工程において、常温で、接着性を有しない接着層を介して、載置台に配置される。すなわち、セラミックス成形体は、載置台に接着されないため、載置台におけるセラミックス成形体の位置を調整し易い。これにより、本セラミックス成形体の脱脂方法によれば、接着層が常温で接着性を有する場合に比べて、セラミックス成形体の配置工程の作業性を向上させることができる。
【0009】
(3)上記セラミックス成形体の脱脂方法において、前記接着層は、少なくとも、前記セラミックス成形体に含まれるバインダーの軟化する温度以下の所定の温度から前記脱脂温度までの温度帯域において、接着性を有するとしてもよい。本セラミックス成形体の脱脂方法では、接着層は、少なくとも、セラミックス成形体に含まれるバインダーの軟化する温度以下の所定の温度から脱脂温度までの温度帯域において、接着性を有する。このため、バインダーが軟化してセラミックス成形体が変形し始めるときに、セラミックス成形体は、接着層を介して載置台に接着されている。これにより、除去工程におけるセラミックス成形体の変形の発生を、より確実に抑制することができる。
【0010】
(4)上記セラミックス成形体の脱脂方法において、前記接着層は、前記セラミックス成形体に含まれるバインダーと同じ成分のバインダーを含むとしてもよい。本セラミックス成形体の脱脂方法では、接着層は、セラミックス成形体に含まれるバインダーと同じ成分のバインダーを含む。このため、セラミックス成形体に含まれるバインダーと接着層に含まれるバインダーとが同じ熱挙動を示すため、例えば、除去工程における温度設定が簡単になるなどのメリットがある。
【0011】
(5)上記セラミックス成形体の脱脂方法において、前記接着層は、前記セラミックス成形体のうちの前記載置台側の表面全体に接触しているとしてもよい。本セラミックス成形体の脱脂方法では、接着層は、セラミックス成形体のうちの載置台側の表面全体に接触している。これにより、接着層が、セラミックス成形体のうちの載置台側の表面の一部だけに接触している場合に比べて、除去工程におけるセラミックス成形体の変形の発生を、より確実に抑制することができる。
【0012】
(6)セラミックス体の製造方法において、上記(1)から(5)でのいずれか一つに記載のセラミックス成形体の脱脂方法により、前記セラミックス成形体を脱脂する脱脂工程と、前記脱脂工程後に、前記セラミックス成形体に対して、前記焼成温度で熱処理を施すことにより、前記セラミックス体を形成する焼成工程と、を含むとしてもよい。本セラミックス体の製造方法によれば、セラミックス成形体の脱脂に起因する変形が抑制されたセラミックス体を製造することができる。
【0013】
(7)上記セラミックス体の製造方法において、前記接着層は、前記脱脂工程の後、前記焼成工程の前に消失しているとしてもよい。本セラミックス体の製造方法では、接着層は、脱脂工程の後、焼成工程の前に消失している。このため、焼成工程において、セラミックス成形体は、載置台に接着されていない。これにより、本セラミックス体の製造方法によれば、焼成工程においてセラミックス成形体が載置台に接着されている場合に比べて、焼結時におけるセラミックス成形体の収縮の自由度が確保され、また、焼成工程後、セラミックス体を載置台から取り出す際の作業性を向上させることができる。
【0014】
本明細書によって開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、焼成前のセラミックス成形体の脱脂方法や、焼成後のセラミックス体の製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態におけるセラミックス基板100の製造方法を示すフローチャートである。
図2】セラミックス成形体100Pが載置台10に配置された状態を示す説明図である。
図3】セラミックス基板100の製造方法の各工程の流れを示す説明図である。
図4】本実施例と比較例とのぞれぞれの製造方法により製造されたセラミックス体の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A-1.セラミックス基板100の構成:
本実施形態におけるセラミックス基板100は、セラミックスにより形成された略平板状の部材(セラミックス焼成体)である(後述の図1等参照)。セラミックス基板100の平面視の形状は、略矩形状である。セラミックス基板100は、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解セル 図示しない)における燃料極を構成する基板層である。基板層は、主として、燃料極を構成する機能層と電解質層と空気極とを支持する機能を発揮する層であり、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックスであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とを含むサーメットにより形成されている。
【0017】
A-2.セラミックス基板100の製造方法:
次に、本実施形態におけるセラミックス基板100の製造方法を説明する。図1は、本実施形態におけるセラミックス基板100の製造方法を示すフローチャートである。
【0018】
(配置工程):
図1に示すように、はじめに、配置工程を実施する(S110)。配置工程は、略平板状のセラミックス成形体100Pを載置台10(セッター)に配置する工程である。セラミックス成形体100Pが配置された載置台10は、熱処理用の炉(図示しない)内に配置される。図2は、セラミックス成形体100Pが載置台10に配置された状態を示す説明図であり、図3は、セラミックス基板100の製造方法の各工程の流れを示す説明図である。図3には、図2のIII-IIIの位置におけるセラミックス成形体100Pと樹脂シート200Pと載置台10との断面構成の変化過程が示されている。なお、本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、セラミックス成形体100Pやセラミックス基板100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0019】
セラミックス成形体100Pは、セラミックスを主成分とする、略平板状のセラミックス未焼成体であり、具体的には、セラミックス基板100に対して後述の除去工程(S120)および焼成工程(S130)が施される前におけるセラミックス基板100の前駆体である。なお、主成分とは、体積含有率が50vol%より大きい成分を意味する。また、セラミックス成形体100Pの作製は、例えば、公知のシート積層法やプレス成形法により行うことができる。シート積層法によるセラミックス成形体100Pの作製方法の一例は、次の通りである。すなわち、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、バインダーであるブチラール樹脂と、可塑剤であるジオクチルフタレート(DOP)と、分散剤と、トルエンおよびエタノールの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。次に、スラリーを塗工して、燃料極基板層用のセラミックスグリーンシート110を作製し、複数枚(例えば4枚)のセラミックスグリーンシート110を積層することにより、セラミックス成形体100Pを作製することができる。
【0020】
載置台10は、略平面状の載置面11を有しており、例えばアルミナ(Al)により形成されている。図2に示すように、載置台10の載置面11に、複数のセラミックス成形体100Pを配置する。これにより、複数のセラミックス成形体100Pをまとめて脱脂および焼成することにより、セラミックス基板100の製造効率を向上させることができる。なお、焼結の際にセラミックス成形体100P同士が結合することを避けるため、複数のセラミックス成形体100Pは、互いに間隔を空けて配列されている。
【0021】
ここで、本実施形態では、図2および図3(a)に示すように、セラミックス成形体100Pは、樹脂シート200Pを介して、載置台10の載置面11上に配置されている。また、樹脂シート200Pは、セラミックス成形体100Pの下面全体に接触するように配置されている。具体的には、上下方向(Z軸方向視)で、樹脂シート200Pの全体面積はセラミックス成形体100Pの面積より大きく、かつ、樹脂シート200Pの周縁部が全周にわたってセラミックス成形体100Pから側方にはみ出している。
【0022】
本実施形態の樹脂シート200Pは、樹脂材料を主成分とするシートである。樹脂シート200Pは、少なくとも、セラミックス成形体100Pに含まれるバインダーの軟化する温度(以下、「バインダー軟化温度」という セラミックス成形体100Pが変形し易い温度)で、接着性を有することが好ましい。具体的には、樹脂シート200Pは、常温(例えば25℃)では、接着性を有しておらず、後述の除去工程(S120)において、少なくとも脱脂温度で接着性を有する。また、本配置工程では、常温で、セラミックス成形体100Pが、樹脂シート200Pを介して、載置台10の載置面11上に配置されている。このため、配置工程では、セラミックス成形体100Pは、樹脂シート200Pに接着されていない。なお、樹脂シート200Pが接着性を有していないとは、樹脂シート200Pを載置台10の載置面11上に配置した状態で、載置面11を水平方向に対して20度以上傾けたときに樹脂シート200Pが載置面11上を移動する状態をいう。
【0023】
また、樹脂シート200Pは、少なくとも、上記バインダー軟化温度以下の所定の温度から後述の脱脂温度までの温度帯域において、接着性を有する。さらに、樹脂シート200Pは、除去工程(S120)の後、焼成工程(S130)の前に消失する。すなわち、樹脂シート200Pは、バインダー軟化温度より高く、かつ、焼成工程(S130)における後述の焼成温度未満の温度で気化する材料により形成されている。樹脂シート200Pとしては、例えばブチラール樹脂を含む樹脂シートが挙げられる。ブチラール樹脂を含む樹脂シートであれば、常温では、接着性を有しておらず、除去工程(S120)において、バインダー軟化温度以下の所定の温度から脱脂温度までの温度帯域において、接着性を有する。なお、樹脂シート200Pの上下方向の厚さは、5μm以上であることが好ましく、20μm以下であることが好ましい。
【0024】
(脱脂工程):
次に、図1に示すように、脱脂工程を実施する(S120)。脱脂工程は、セラミックス成形体100Pを脱脂する工程である。具体的には、脱脂工程は、除去工程を含む。除去工程では、載置台10に配置されたセラミックス成形体100Pに対して、セラミックス成形体100Pの焼成温度(例えば1000℃以上)より低い脱脂温度(例えば200℃以上、550℃以下)で熱処理を施すことにより、セラミックス成形体100Pに含まれる一部の成分を除去する。除去される一部の成分とは、少なくとも、セラミックス成形体100Pに含まれるバインダーであり、さらに、バインダー以外の有機成分を含んでいてもよい。
【0025】
ここで、上述したように、樹脂シート200Pは、バインダー軟化温度以下の所定の温度から上記脱脂温度までの温度帯域において接着性を有する。このため、脱脂工程において、熱処理用の炉内の温度が上記所定の温度以上になると、樹脂シート200Pは、接着性を有するようになり、セラミックス成形体100Pが、樹脂シート200Pを介して載置台10の載置面11に接着される。そして、熱処理用の炉内の温度がバインダー軟化温度になると、セラミックス成形体100Pに含まれるバインダーが軟化することに起因して、セラミックス成形体100Pが変形しようとする。しかし、このとき、セラミックス成形体100Pは、樹脂シート200Pを介して載置台10の載置面11に接着されているため、セラミックス成形体100Pの形状が載置面11に沿った平板状に維持される。これにより、除去工程におけるセラミックス成形体100Pの変形(例えば反り)の発生を抑制することができる。しかも、上述したように、樹脂シート200Pは、セラミックス成形体100Pの下面全体に接触するように配置されているため、樹脂シート200Pの接着力によって、セラミックス成形体100Pの変形を、より確実に抑制することができる。
【0026】
(焼成工程):
次に、図1に示すように、焼成工程を実施する(S130)。焼成工程は、セラミックス成形体100Pに対して、上記焼成温度で熱処理を施すことにより、セラミックス基板100を形成する工程である。ここで、上述したように、樹脂シート200Pは、除去工程(S120)の後、焼成工程(S130)の前に消失する。すなわち、熱処理用の炉内の温度が脱脂温度を超えると、セラミックス成形体100Pは、ほとんどのバインダーが除去された脱脂後のセラミックス成形体100Qになる。また、熱処理用の炉内の温度が焼成温度に近づくと、樹脂シート200Pは、気化し、脱脂後のセラミックス成形体100Qと載置台10の載置面11との間から消失する(図3(b)参照)。したがって、熱処理用の炉内の温度が焼成温度になったときには、セラミックス成形体100Pは、載置台10の載置面11に接着されておらず、焼結時におけるセラミックス成形体100Pの収縮の自由度が確保される。そして、セラミックス成形体100Pが制約されることなく収縮してセラミックス基板100が形成される(図3(c)参照)。すなわち、本実施形態であれば、焼成工程においてセラミックス成形体100Pが載置台10の載置面11に接着された場合に比べて、セラミックス成形体100Pの収縮の自由度の制約に起因してセラミックス基板100に亀裂等が生じることを抑制することができる。
【0027】
なお、セラミックス基板100は、特許請求の範囲におけるセラミックス体に相当し、樹脂シート200Pは、特許請求の範囲における接着層に相当する。
【0028】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態におけるセラミックス基板100の製造方法では、除去工程(図1のS120、図3(a)参照)において、セラミックス成形体100Pは、接着性を有する樹脂シート200Pを介して、載置台10に接着されている。セラミックス成形体100Pは、セラミックス成形体100Pに含まれる一部の成分が除去される際に変形しやすい。しかし、セラミックス成形体100Pは、その変形しやすいときに、樹脂シート200Pを介して、載置台10に接着されているため、除去工程におけるセラミックス成形体100Pの変形(例えば反り)の発生を抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態では、配置工程(図1のS110参照)において、常温で、接着性を有しない樹脂シート200Pを介して、載置台10に配置される(図2および図3(a)参照)。すなわち、配置工程では、セラミックス成形体100Pは、樹脂シート200Pは接着性を有しないため、載置台10におけるセラミックス成形体100Pの位置を調整し易い。これにより、本実施形態によれば、樹脂シート200Pが常温でも接着性を有する場合に比べて、セラミックス成形体100Pの配置工程の作業性を向上させることができる。例えば、図2に示すように、複数のセラミックス成形体100Pを、位置調整しつつ、載置台10に精度良く配置することができる。
【0030】
また、本実施形態では、樹脂シート200Pは、少なくとも、上記バインダー軟化温度以下の所定の温度から脱脂温度までの温度帯域において、接着性を有する。このため、バインダーが軟化してセラミックス成形体100Pが変形し始めるときに、セラミックス成形体100Pは、樹脂シート200Pを介して載置台10に接着されている。これにより、除去工程におけるセラミックス成形体100Pの変形の発生を、より確実に抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、樹脂シート200Pは、セラミックス成形体100Pに含まれるバインダー(ブチラール樹脂)と同じ成分のバインダーを含む。このため、セラミックス成形体100Pに含まれるバインダーと樹脂シート200Pに含まれるバインダーとが同じ熱挙動を示すため、例えば、除去工程における温度設定が簡単になるなどのメリットがある。
【0032】
また、本実施形態では、樹脂シート200Pは、セラミックス成形体100Pのうちの載置台10側の表面全体に接触している(図2および図3(a)参照)。これにより、樹脂シート200Pが、セラミックス成形体100Pのうちの載置台10側の表面の一部だけに接触している場合に比べて、除去工程におけるセラミックス成形体100Pの変形の発生を、より確実に抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態では、セラミックス成形体100Pの脱脂工程後に焼成工程(図1のS130参照)を実施する。これにより、セラミックス成形体100Pの脱脂に起因する変形が抑制されたセラミックス基板100を製造することができる。
【0034】
また、本実施形態では、樹脂シート200Pは、脱脂工程の後、焼成工程の前に消失している(図3(b)(c)参照)。このため、焼成工程において、セラミックス成形体100Pは、載置台10に接着されていない。これにより、本実施形態によれば、焼成工程においてセラミックス成形体100Pが載置台10に接着されている場合に比べて、焼結時におけるセラミックス成形体100Pの収縮の自由度が確保され、また、焼成工程後、セラミックス基板100を載置台10から取り出す際の作業性を向上させることができる。
【0035】
ここで、図4は、本実施例と比較例とのぞれぞれの製造方法により製造されたセラミックス体の評価結果を示す説明図である。図4の上段には、各例の除去工程におけるセラミックス成形体100Pの配置状態が示されている。図4の下段には、各例の製造方法により製造されたセラミックス体の反りの程度を示す模式図である。網がけが濃い部分ほど、反り量が多いことを意味する。
【0036】
本実施例の製造方法は、上述した図3に示す製造方法である。すなわち、図4の上段に示すように、除去工程において、セラミックス成形体100Pは、接着性を有する樹脂シート200Pを介して、載置台10に接着されている。一方、比較例の製造方法は、上述した図3に示す製造方法とは異なる。すなわち、除去工程において、セラミックス成形体100Pは、樹脂シート200Pを介さずに直接、載置台10に配置されており、セラミックス成形体100Pは載置台10に接着されていない。その結果、図4の下段に示すように、本実施例の製造方法により製造されたセラミックス体では、相対的に反り量が少なく、比較例の製造方法により製造されたセラミックス体では、相対的に反り量が多くなることが分かる。このことは、セラミックス体の変形の主な要因は、焼成時におけるセラミックス成形体100Pの収縮ではなく、脱脂時におけるセラミックス成形体100Pの変形であることを意味する。すなわち、本実施例の製造方法では、樹脂シート200Pを用いて、セラミックス成形体100Pの変形自体を抑制することにより、事後的に反り修正を行うことなく、変形の少ない寸法精度が高いセラミックス体(セラミックス基板100)を作製することができる。
【0037】
また、比較例の製造方法では、脱脂工程後に、セラミックス成形体100Pに反りが発生し、その反りを修正するために、重りを用いてセラミックス成形体100Pを加圧しつつ二次焼成する必要がある。しかし、この際、セラミックス成形体100Pの成分が重りに移動することにより、セラミックス成形体100Pの組成が変わり、セラミックス成形体100Pの特性が変化するおそれがある。例えば、例えば重りがアルミナにより形成されており、セラミックス成形体100PがアルミナとNiとにより形成されている場合、Niがセラミックス成形体100Pから重りに移動することにより、セラミックス成形体100PにおけるNiの含有量が低下することにより、セラミックス成形体100Pにおける触媒特性が低下するおそれがある。これに対して、本実施形態によれば、重りを用いることなく、セラミックス成形体100P(100)の変形の発生を抑制することができる。
【0038】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0039】
上記実施形態におけるセラミックス基板100、セラミックス成形体100Pや樹脂シート200Pの構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態において、セラミックス成形体100Pは、複数枚のセラミックスグリーンシート110が積層されたシート積層体であったが、セラミックス成形体100Pは、1枚のセラミックスグリーンシート110であってもよい。また、セラミックス成形体100Pは、燃料極基板層用のセラミックスグリーンシート110に、他の層のセラミックスグリーンシート(例えば、燃料極機能層用のセラミックスグリーンシートや、電解質層用のセラミックスグリーンシート)を貼り付けたものでもよい。要するに、セラミックス成形体は、脱脂および焼成によりセラミックス体(セラミックス焼成体)となる前駆体であればよい。
【0040】
また、セラミックス基板100(セラミックス成形体100P)の平面視の形状は、略矩形状以外の形状であってもよく、例えば略円形状などであってもよい。また、セラミックス基板100(セラミックス成形体100P)の全体形状は、略平板状以外の形状であってもよく、例えば略筒状などであってもよい。
【0041】
上記実施形態のセラミックス基板100、セラミックス成形体100Pや樹脂シート200Pにおける各部材の形成材料は、あくまで一例であり、任意に変更可能である。例えば、セラミックス基板100(セラミックス成形体100P)の形成材料であるセラミックスは、YSZ以外のセラミックスであってもよく、例えば、アルミナまたは窒化アルミニウム(AlN)などでもよい。
【0042】
上記実施形態では、接着層として、所定の温度帯域のみ接着性を有する樹脂シート200Pを例示したが、常に接着性を有する材料により形成されたものでもよい。また、上記実施形態では、接着層として、ブチラール樹脂を含む樹脂シートを例示したが、ブチラール樹脂以外の接着材料を含むものでもよく、また、接着層の形態は、シートに限らず、例えばペーストなどでもよい。また、樹脂シート200Pは、セラミックス成形体100Pに含まれるバインダーとは異なる成分のバインダーを含んでいてもよい。
【0043】
上記実施形態のセラミックス基板100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、図3に示す製造工程のうち、配置工程(S110)および脱脂工程(S120)を実施し、焼成工程(S130)を実施しないとしてもよい。
【0044】
本発明は、電気化学反応単セルにおける燃料極を構成する基板層に限らず、例えば、電気化学反応単セルを構成する、基板層以外のセラミックス体、半導体製造装置(例えば静電チャックなど)を構成するセラミックス体や、セラミックスコンデンサ等の電子部品を構成するセラミックス体にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10:載置台 11:載置面 100:セラミックス基板 100P:セラミックス成形体 100Q:脱脂後のセラミックス成形体 110:セラミックスグリーンシート 200P:樹脂シート
図1
図2
図3
図4