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特許7505870気相における短鎖オレフィン類のヒドロホルミル化プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】気相における短鎖オレフィン類のヒドロホルミル化プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/50 20060101AFI20240618BHJP
   C07C 47/02 20060101ALI20240618BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240618BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240618BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01J35/57 Z
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019181966
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2020059701
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】18198785.0
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523448406
【氏名又は名称】エボニック オクセノ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】イェニファー ハセルベルク
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト フランケ
(72)【発明者】
【氏名】フランク シュテンガー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クライス
(72)【発明者】
【氏名】コリンナ ヘヒト
(72)【発明者】
【氏名】マルク オリヴァー クリシュテン
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-542198(JP,A)
【文献】特開2002-355554(JP,A)
【文献】国際公開第2015/028284(WO,A1)
【文献】特開2020-059702(JP,A)
【文献】米国特許第04012450(US,A)
【文献】Adv. Synth. Catal. ,2001年,343,201-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/50
C07C 47/02
B01J 35/57
B01J 31/22
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一触媒系を用いて反応ゾーン中でC2~C8のオレフィン類をヒドロホルミル化する方法であって、以下の、
C2~C8オレフィン類を含むガス供給混合物を、合成ガスとともに多孔質セラミック材料でできた支持体上を通過させるが、ここで、前記触媒系が、元素周期律表の第8又は第9族の金属、少なくとも1の有機リン含有配位子、安定剤、及び場合によりイオン性液体を含み、不均一化されていること、かつ、
前記支持体はセラミック材料のブロックであるモノリスであり、前記支持体のセラミック材料と同一又は異なるセラミック材料でできたウォッシュコートが塗布され、ここで
前記安定剤は、式(I)
【化1】
の少なくとも1つの2,2,6,6-テトラメチルピペリジン単位を含む有機アミン化合物であり、
前記支持体に含まれる前記多孔質セラミック材料が、珪酸塩セラミック、酸化物セラミック、窒化物セラミック、炭化物セラミック、シリコンセラミック、及びそれらの混合物からなる群から選択され、
前記支持体上のウォッシュコートの量が、前記支持体の全量に基づき20重量%以下であり、
前記ヒドロホルミル化が65~200℃の温度範囲で行われ、かつ、
前記ヒドロホルミル化における圧力が、35バール以下である、方法。
【請求項2】
前記珪酸塩セラミックが、アルミノ珪酸塩、珪酸マグネシウム、及びそれらの混合物、例えばベントナイトから選択され;前記酸化物セラミックが、γ-酸化アルミニウム、α-酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、酸化鉄(フェライト)及びそれらの混合物から選択され;前記窒化物セラミックが、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びそれらの混合物から選択され;前記炭化物セラミックが、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、又はそれらの混合物から選択され;前記シリコンセラミックは、珪化モリブデンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記支持体に含まれる前記多孔質セラミック材料が、炭化物セラミックである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭化物セラミックが、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン又はそれらの混合物から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記セラミック材料でできた前記支持体には、主貫流方向に1又はそれ以上の、連続するチャネルがある、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロホルミル化が、75~175℃又は85~150℃の温度範囲で行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドロホルミル化における圧力が、30バール以下又は25バール以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、欧州連合2020ホライズン研究及びイノベーションプログラムの助成金契約第680395号に基づくプロジェクトによる資金提供を受けて行われたものである。
【0002】
本発明は、多孔質セラミック材料の支持体上に触媒系が不均一化されて存在する、短鎖オレフィン類、特にC2~C5オレフィン類をヒドロホルミル化する方法、及び当該方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロホルミル化は工業化学における最も重要な反応の1つであり、世界的な生産能力は年間数百万トンである。この方法では、アルケン(オレフィン類)を一酸化炭素と水素(合成ガス;synthesis gas又はsyngas)の混合物と触媒を用いて反応させてアルデヒドに変換するが、これは、アルコール、エステル又は可塑剤等の化学バルク製品の製造において重要かつ貴重な中間体である。
【0004】
ヒドロホルミル化は工業規模ではもっぱら均一触媒下で行われる。可溶性遷移金属触媒系は、典型的にはコバルト又はロジウムに基づき、しばしばホスフィン又はホスファイト等のリン含有配位子とともに比較的短鎖のオレフィン類のヒドロホルミル化に用いられる。
【0005】
公知の方法では、特にロジウム及びコバルト並びにそれらの化合物が比較的高価であるという事実に関連して様々な問題がある。例えば、部分的に極めて複雑な触媒リサイクル工程による、高エネルギー及びプロセスエンジニアリングによる、ヒドロホルミル化プロセス中の触媒の損失をできるだけ回避する取り組みが行われている。さらに、生成物中の触媒残留物を減らすべく、生成物の精製工程はより複雑である。
【0006】
既知の均一触媒プロセスに関する他の問題はリガンドの安定性であり、これは、ヒドロホルミル化のための温度、圧力、pH等の条件に耐性がなければならず、かつ、プロセス中で消費された溶媒量を補充する必要がある。
【0007】
均一触媒によるヒドロホルミル化での上記問題を解決するため、触媒が、特に支持材料上へ固定化されることにより不均一化されるヒドロホルミル化プロセスが開発された(特許文献1の議論の導入部参照)。従って、「不均一化」及び「固定化」という用語は、触媒が、イオン性液体を用いて固体支持体材料の表面及び/又は細孔内に薄い液膜を形成することにより固定化され、従来の意味での触媒が均一に溶解されている反応溶液が存在しない、と理解されるべきである。
【0008】
固定化/不均一化に関して、上記特許文献1は、いわゆるSILPシステム(SILP=支持イオン性液体相;Supported Ionic Liquid Phase)を開示するが、ここでの触媒系は、中心原子として、ロジウム、イリジウム又はコバルトとともに、特に多孔質二酸化シリコン支持体上で、イオン性液体を用いて固定化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開2015/028284号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、公知のSILPシステムの問題は、一定期間後に触媒活性が大幅に低下し、それにより変換効率が低下することが観察されうることである。これには、様々な影響、例えば、孔内の生成物の凝縮及びこれに対応するアルドール縮合等の二次反応、又はリガンドの不活性化、副生成物の形成及び/又は孔のフラッディングを引き起こしうる水の形成に起因し、その結果、触媒が排出されうるためである。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記問題が解消され、かつ、特に触媒の変換率と寿命を高める、オレフィン類のヒドロホルミル化の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
当該課題は、ヒドロホルミル化において多孔質セラミック材料のモノリス担体上で不均一化される触媒系が用いられる本発明の請求項1記載の方法で解決される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従って、本発明は、不均一触媒系を用いて、反応ゾーン中でC2~C5オレフィン類をヒドロホルミル化する方法を提供し、ここで、当該方法は以下の、
C2~C8オレフィン類を含むガス供給混合物を、合成ガスとともに、多孔質セラミック材料でできた支持体上を通過させるが、ここで、前記触媒系が、元素周期律表の第8又は第9族の金属、少なくとも1の有機リン含有配位子、安定剤、及び場合によりイオン性液体を含み、不均一化されていること、かつ、
前記支持体はセラミック材料のブロックであるモノリスであり、前記支持体のセラミック材料と同一又は異なるセラミック材料でできたウォッシュコートが塗布されること、
で特徴付けられる、方法である。
【0014】
用いられる第1供給混合物は、出発物質としてのC2~C5オレフィン類、特にエテン、プロペン、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン又は2-ペンテンを含むいかなる混合物であってよい。当該供給混合物中のオレフィン類の量は、当然、ヒドロホルミル化反応を効率よく行うのに十分な量でなければならない。これには、特に、石油化学工業の技術的混合物、例えば、ラフィネートストリーム(ラフィネートI、II又はIII)又は粗ブタンがあげられる。本発明によれば、粗ブタンは、5~40重量%のブテン、好ましくは20~40重量%のブテン(ブテンは、1~20重量%の1-ブテン及び80~99重量%の2-ブテンで構成される)、及び60~95重量%のブタン、好ましくは60~80重量%のブタンを含む。
【0015】
反応ゾーンは、本発明のヒドロホルミル化が行われ、支持体が不均一触媒系にしっかりと、特に不動態様で固定される少なくとも1の反応器を含む。本発明のさらなる実施形態では、反応ゾーンは、並列又は直列に接続されうる複数の反応器を含む。好ましくは、反応器は、並列に接続され、交互に用いられる。少なくとも1の反応器(a)がヒドロホルミル化に用いられるために稼働する。少なくとも1の他の反応器(b)は待機状態にあり、ヒドロホルミル化は行われない。これは、運転中の反応器(a)で触媒活性がもはや十分でないことが判明した時点で、供給混合物の進路が当該反応器(a)から待機状態の次の反応器(b)に切り換えられて当該反応器(b)が稼働すると解される。次に、反応器(a)を再生モードに移行させて、以下に記載するように触媒系が再生されるか、又は支持体が再度含浸される場合には反応器が稼働状態に戻るまで待機位置に移動する。この原理は、少なくとも1の反応器が稼働し、1又はそれ以上の反応器が同時に待機し、1又はそれ以上の反応器が同時に再生モードにある、3又はそれ以上の反応器にも適用される。
【0016】
ヒドロホルミル化は、好ましくは、以下の条件下で行われる、すなわち、ヒドロホルミル化の温度は、65~200℃、好ましくは75~175℃、より好ましくは85~150℃の範囲であってよい。圧力は、ヒドロホルミル化の間、35バール、好ましくは30バール、より好ましくは25バールを超えてはならない。合成ガスと供給混合物のモル比は、6:1~1:1、好ましくは5:1~3:1であってよい。場合によっては、供給混合物は、不活性ガス、例えば、工業用炭化水素流に含まれるアルカンで希釈されてよい。
【0017】
本発明のヒドロホルミル化プロセスで用いられる触媒系には、好ましくは、元素の周期律表の第8又は第9族からの遷移金属、特に鉄、ルテニウム、イリジウム、コバルト又はロジウム、より好ましくはコバルト又はロジウム、少なくとも1の有機リン含有配位子、安定剤、及び場合によりイオン性液体を含まれる。
【0018】
安定剤は、好ましくは有機アミン化合物、より好ましくは式(I)
【0019】
【化1】
の少なくとも1の2,2,6,6-テトラメチルピペリジン単位を含む有機アミン化合物である。
【0020】
本発明の特に好ましい実施形態では、安定剤は、以下の式(I.1)、(I.2)、(I.3)、(I.4)、(I.5)、(I.6)、(I.7)及び(I.8)の化合物からなる群より選択される。
【0021】
【化2】
ここで、nは1~20の整数である。
【0022】
【化3】
ここで、nは1~12の整数である。
【0023】
【化4】
ここで、nは1~17の整数である。
【0024】
【化5】
ここで、RはC6~C20のアルキル基である。
【0025】
本発明の意味するところから、場合によって含まれるイオン性液体は、標準圧力(1.01325バール)で、好ましくは25℃で液体である実質的に無水の液体(イオン性液体全体のうち水分含有量は1.5重量%未満)である。当該イオン性液体のイオンは、98重量%を超えるのが好ましい。
【0026】
好ましい実施態様では、イオン性液体のアニオンは、テトラフルオロホウ酸[BF4];ヘキサフルオロホスフェート[PF6];ジシアナミド[N(CN);ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド[NTf;トリシアノメチド[C(CN);テトラシアノボレート[B(CN);ハロゲン化物、特にCl、Br、F、I;ヘキサフルオロアンチモン酸[SbF;ヘキサフルオロヒ酸[AsF;硫酸[SO2-;トシレート[CSO;トリフラートCFSO ;ノナフラート[CSO;トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート[PF(C;チオシアネート[SCN];カルボナート[CO2-;[RA-COO];[RA-SO;[RA-SO;[RAPORB]及び[(RA-SON]からなる群から選択され、ここで、RA及びRBは同じでも異なっていてもよく、各々炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖の脂肪族又は脂環式アルキル基、ペルフルオロアルキル基又は1又はそれ以上のハロゲン原子で置換されうるC5~C18-置換アリール基である。
【0027】
イオン性液体のカチオンは、好ましくは、一般式[NR(ここで、R1、R2、R3、R4は各々独立してC1~C8-アルキル基を表す)の第四級アンモニウムカチオン;一般式[PR(ここで、R1、R2、R3、R4は各々独立してC1~C8-アルキル基を表す)のホスホニウムカチオン;一般式(II)
【0028】
【化6】
のイミダゾリウムであって、ここで、R、R、R及びRは、各々独立して、H、又はC1~C8-アルキル基、C1~C6-アルコキシ基、C1~C6-アミノアルキル基、又は場合によってはC5~C12-置換アリール基を表す;一般式(III)
【0029】
【化7】
のピリジニウムカチオンであって、ここで、R及びRは、各々独立して、H、又はC1~C8-アルキル基、C1~C6-アルコキシ基、場合によってはC1~C6-置換アミノアルキル基、又は場合によってはC5~C12-置換アリール基を表す;一般式(IV)
【0030】
【化8】
のピラゾリウムカチオンであって、ここで、R1及びR2は、各々独立してH又はC1~C8-アルキル基、C1~C6-アルコキシ基、場合によってはC1~C6-置換アミノアルキル基、又は場合によってはC5~C12-置換アリール基を表す;一般式(V)
【0031】
【化9】
のトリアゾリウムカチオンであって、ここで、R及びR及び/又はRは、各々独立に、H、又はC1~C8-アルキル基、C1~C6-アルコキシ基、場合によってはC1~C6-置換アミノアルキル基、又は場合によってはC5~C12-置換アリール基を表す;からなる群から選択される。
【0032】
好ましい実施態様では、イオン性液体のカチオンは上記一般式(II)のイミダゾリウムカチオンであり、R~R基の定義は上記に対応する。特に好ましい実施態様では、イオン性液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムエチルスルフェート、トリオクチルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、及び1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムオクチルスルフェートからなる群より選択される。
【0033】
本発明の触媒系中に場合によっては存在してもよいイオン性液体は、配位子及び安定剤を含む、遷移金属触媒の担体溶液として用いられる。ここで重要なことは、イオン性液体が反応物(供給オレフィン類及び合成ガス)を十分に吸収、つまり、溶解させ、かつ、蒸気圧が比較的低いために触媒系が高温で液体貯蔵器としても存在することである。しかしながら、驚くべきことに、安定剤はまた、支持体の孔内に安定した液体フィルムを形成でき、したがって、イオン性液体を部分的に又は完全に置換しうることが見出された。
【0034】
全ての膜形成成分、すなわち、この場合、イオン性液体及び/又は安定剤について、反応物のガス溶解度は、生成物のガス溶解度よりも優れているはずである。それにより、用いられる出発物質のオレフィン類と生成物アルデヒドとの間の部分的な物質分離を達成しうる。原則として、それには他の膜形成性物質も考えられるものの、高沸点物質が形成されず、及び/又は出発物質のオレフィン類の再供給が制限されるように注意する必要がある。
【0035】
本発明の触媒系の有機リン含有配位子の化学式は、好ましくは、一般式(VI)
【0036】
【化10】
であり、ここで、R‘、R‘‘及びR‘‘‘は各々有機ラジカルであり、Aはともに架橋-O-P(-O)-基であり、ここで、3つの酸素原子のうちの2つは、各々R‘基及びR‘‘‘基に結合するが、ただし、R‘及びR‘‘‘は同一ではなく、有機ラジカルR‘、R‘‘及びR‘‘‘は、好ましくは、いかなる末端トリアルコキシシラン基をも含有しない。
【0037】
好ましい実施態様では、式(VI)の化合物中のR‘、R‘‘及びR‘‘‘は、好ましくは、置換又は未置換の1,1’-ビフェニル基、1,1’-ビナフチル基及びオルト-フェニル基、特に置換又は未置換の1,1’-ビフェニル基から選択されるが、ただし、R‘及びR‘‘‘は同一ではない。より好ましくは、1,1’-ビフェニル基本骨格の3,3’及び/又は5,5’位で置換された1,1’-ビフェニル基には、アルキル基及び/又はアルコキシ基、特にC1-C4-アルキル基、より好ましくはtert-ブチル基及び/又はメチル基、好ましくはC1-C5-アルコキシ基、より好ましくはメトキシ基がある。
【0038】
本発明の前記触媒系は、多孔質セラミック材料の支持体上に不均一されている。本発明によれば、「支持体上に不均一化された」という表現は、触媒系が、薄い、固体又は液体フィルムの形成により、安定剤及び/又は場合によってはイオン性液体を用いて、固体支持体材料の内側及び/又は外側表面上に固定化されることを意味すると理解される。フィルムはまた、室温で固体であってもよく、反応条件で液体であってもよい。
【0039】
固体支持体材料の内面は、特に、孔及び/又はチャネルの内面領域を含む。固定化には、触媒系及び/又は触媒活性種が固体又は液体のフィルム中に溶解された状態である場合、並びに、安定剤がカップリング剤として機能するか又は触媒系が化学的又は共有結合ではなく表面に吸着される場合を含む。
【0040】
すなわち、本発明によれば、触媒が均一に溶解される従来の意味での反応溶液は存在せず、そのかわりに触媒系は支持体の表面及び/又は孔に分散される。
【0041】
多孔質セラミック材料は、好ましくは、ケイ酸塩セラミック、酸化物セラミック、窒化物セラミック、炭化物セラミック、ケイ素セラミック及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
ケイ酸塩セラミックは、好ましくは、アルミノケイ酸塩、ケイ酸マグネシウム、及びそれらの混合物、例えばベントナイトから選択される。酸化物セラミックは、好ましくは、γ-酸化アルミニウム、α-酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、酸化鉄(フェライト)及びそれらの混合物から選択される。窒化物セラミックは、好ましくは、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及びそれらの混合物から選択される。炭化物セラミックは、好ましくは、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン又はそれらの混合物から選択される。炭化物セラミックと窒化物セラミックの混合物、いわゆる炭窒化物でもよい。シリカセラミックは、好ましくはケイ化モリブデンである。触媒系が適用される本発明による支持体は、好ましくは、炭化物セラミックからなる。
【0043】
支持体はモノリスであり、すなわち、多孔質セラミック材料の支持体はセラミック材料のブロック(三次元物体)からなる。ブロックは、1のブロックで構成されてもよく、複数、少なくとも2のブロックを結合して構成されてもよく、及び/又は互いに固定されるか、若しくは取り外しできるように結合されうる。しかし、当該支持体は、特に顆粒ではなく、固定床反応器において触媒床として用いうる。
【0044】
多孔質セラミック材料の支持体は、好ましくは、三次元に拡張する、基本的には、その断面が円形、四角形、正方形等のいかなる幾何学的形状でありうる構成要素である。好ましい実施形態では、三次元に拡張する支持体として用いうる構成要素の縦方向(最長方向)は、主貫流方向(供給混合物及び合成ガスが反応器入口から出口へ流れる方向)である。
【0045】
このように多孔質セラミック材料から形成された支持体には、主貫流方向に少なくとも1の連続チャネルがある。しかし、1又はそれ以上の当該チャネルはまた、完全に連続せず、反応器入口の反対側の端部で結ばれるように、又はチャネルが当該端部に向かって閉じられるように設計されうる。また、当該支持体には、少なくとも2又はそれ以上のチャネルがあってよい。チャネルの直径は、0.25~50mmの範囲、好ましくは1~30mmの範囲、さらに好ましくは1.5~20mmの範囲、さらに好ましくは2~16mmの範囲であり得る。複数のチャネルが存在する場合、当該チャネルの直径は、互いに同一であっても、異なってもよい。特に、チャネルの直径は、機械的安定性が損なわれないように、全体的な支持体の直径又はそのうち1の直径と比較して選択されるべきである。
【0046】
さらに、セラミック材料の支持体は多孔質であり、すなわち、孔がある。本発明の触媒系は、特に、当該孔中の液体又は固体膜中に含まれる。孔径は、好ましくは0.9nm~30μmの範囲、好ましくは10nm~25μmの範囲、より好ましくは70nm~20μmの範囲である。孔の直径は、DIN66133(1993-06年版)に対する窒素吸着又は水銀気孔比測定によって決定してよい。
【0047】
好ましい実施形態では、当該支持体には少なくとも部分的に連続する孔があり、それは表面からチャネルへ、及び/又は1若しくはそれ以上の次のチャネルへ延びる。また、複数の孔が互いに連結し、全体として1の連続した孔を形成してもよい。
【0048】
触媒系が不均一化された多孔質セラミック材料でできた支持体は以下のように、すなわち、当該セラミック材料の支持体には、さらにいわゆるウォッシュコートが塗布されて作製されるが、当該ウォッシュコートは、上記支持体のセラミック材料と同一か又は異なり、特に上記セラミック材料から選択されたセラミック材料、好ましくは酸化ケイ素で被覆される。当該ウォッシュコートそれ自体は、多孔質又は非多孔質であってもよいが、好ましくは、ウォッシュコートは非多孔質である。ウォッシュコートの粒子サイズは、好ましくは5nm~3μm、好ましくは7nm~700nmである。ウォッシュコートは、所望の孔サイズを導入若しくは生成するため、及び/又は支持体の表面積を広くするために用いられる。ウォッシュコートは、特に適当な場合には前駆体としてウォッシュコートのセラミック材料を含有するウォッシュコート溶液に浸漬(浸漬コーティング)して塗布しうる。支持体上のウォッシュコートの量は、支持体の全量を基準にして、20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0049】
触媒系は、当該ウォッシュコートが塗布されたセラミック支持体に適用される。このために、まず、特に室温及び周囲圧力で、少なくとも1の有機リン含有リガンド、少なくとも1の金属前駆体、例えば、各金属の塩化物、酸化物、カルボキシレート、少なくとも1の安定剤及び少なくとも1の溶媒を含んで混合し、触媒溶液を調製する。場合によっては、触媒系の調製にはイオン性液体を用いうるが、当該触媒溶液は、イオン性液体を用いずに明示的に調製しうる。当該触媒溶液は、特に不活性環境、例えばグローブボックス中で調製される。この場合、「不活性環境」とは、水及び酸素をほとんど含まない環境をいう。
【0050】
溶媒は、すべての溶媒クラス(プロトン性、非プロトン性、極性又は非極性)から選択されうる。溶媒の前提条件は、触媒系(配位子、金属前駆体、安定剤、及び場合によりイオン性液体)の溶解度であり、好ましくはヒドロホルミル化で形成される高沸点物質の溶解度でもある。固定化工程内で加熱して溶解度を高めることができる。
【0051】
当該溶媒は好ましくは非プロトン性及び極性、例えばアセトニトリル及び酢酸エチル、又は非プロトン性及び非極性、例えばTHF及びジエチルエーテルである。また、溶剤として、ジクロロメタン等のハイドロクロロカーボンを用いてよい。
【0052】
このようにして調製された触媒溶液は、次いで、例えば浸漬(浸漬コーティング)によって、又は例えば直接反応器内に充填(in situ含浸)する等圧力容器へ充填することによって、支持体(場合によってはウォッシュコートを含む)と接触する。当該触媒溶液を反応器の外側に塗布する場合は、もちろん溶媒を除去した後に反応器に支持体を取り付けなければならない。好ましくは、触媒溶液は、反応器内の支持体上にウォッシュコートを用いて直接塗布されるが、これにより、触媒の汚染の可能性がある、時間のかかる設置及び除去工程を回避できる。
【0053】
in situ含浸の場合、当該反応器は、充填前に、不活性ガス、例えば希ガス、アルカン又は窒素でパージされる。パージは、1~25バール、好ましくはわずかな過圧である20~90ミリバール、より好ましくは標準圧力よりも高い30~60ミリバールで行ってよい。不活性ガスでパージする前に反応器を冷却して、触媒溶液中の溶媒が直ちに蒸発するのを防止してもよい。しかし、溶媒の沸点が反応器温度よりも高い場合には、反応器を冷却する必要はない。
【0054】
不活性ガスによるパージの後、既存の圧力は、例えば、圧力制御により、好ましくは、反応器の加圧が解除されるまで、すなわち、周囲圧力(すなわち、1バール)になるまで、排気されうる。さもなければ、例えば真空ポンプを用いて、反応器内を真空にすることもできる。本発明の一の実施形態では、加圧が解除された後、又は排気後に、当該反応器を上記不活性ガスで再びパージできる。加圧解除、排気、再パージの操作は、所望の頻度で繰り返しうる。
【0055】
当該触媒溶液を圧力容器内の当該反応器に充填し、好ましくは1~25バールの不活性ガス圧力、より好ましくは20~90ミリバールのわずかに正の不活性ガス圧力、好ましくは反応器圧力より高い30~60ミリバールに加圧する。不活性ガスは、希ガス、アルカン、例えばブタン、又は窒素であってよい。次に、触媒溶液を圧力容器に前記のように加圧して、特に圧力駆動方式で反応器に導入する。充填時の圧力容器内の圧力は、反応器内の圧力よりも高いものとする。この場合の温度は20~150℃、圧力は1~25バールである。
【0056】
充填の他の手段としては、不活性ガスでパージした後、反応器を真空に保ち、触媒溶液を減圧によって反応器内に導入することがあげられる。当該触媒溶液の調製には、一般的な真空又は減圧下及び常温で沸騰する溶媒を用いるものとする。
【0057】
当該反応器は、通常の入口/出口を介して触媒溶液で充填しうる。反応器内の液体分配器又はノズルは、場合によっては利用可能な圧力損失器及び投与速度制御器同様、触媒液体を確実に均一に分配しうる。
【0058】
触媒系が適用された後、溶媒が除去される。これは、まず、残存する触媒溶液が反応器出口から排出される。その後、反応器内に残留する溶媒を、圧力調整か又は昇温により蒸発させる。他の実施形態では、圧力の調整は、昇温しつつ行ってよい。その場合の温度は溶媒によって、20~150℃であってよい。溶媒によっては、圧力を高真空(10-3~10-7ミリバール)に調整しうるし、溶媒及び温度によっては、数ミリバール~数バールの加圧を行ってもよい。
【0059】
前記安定剤及び場合によっては含まれる前記イオン性液体は、遷移金属、特にコバルト又はロジウム、及び有機リン含有配位子からなる触媒を用いて支持体上に不均一化されている。
【0060】
触媒系は、直接反応器内(in situ)で又は反応器外で支持体に適用しうる。もう1つの問題は、支持体は常に空気を排除して輸送されなければならず、設置及び除去中に実行するのが難しいことである。従って、本発明の好ましい実施形態では、当該触媒系は反応器内、即ちin situで直接適用される。溶媒が除去された後すぐに反応器を用いて供給混合物を充填しうる。これには、長期間にわたる反応器停止を招く設置及び除去が不要であるという利点がある。さらに、この場合、支持体の大きさはもはや制限されず、適当なサイズの不活性環境の空間を利用しうる。支持体の大きさは、反応器の設計に応じて自由に選択しうる。
【0061】
触媒系を支持体へ適用し、溶媒を除去した後、装置、特に反応器は、2又はそれ以上の多段階の開始手順により、稼働に移行しうる。
【0062】
開始手順の目的は、触媒系の活性化期間を長期化するため、当該触媒系を穏やかに活性化させてそ触媒の最大開始活性を緩和することである。さらに、開始手順は、触媒系の不活性化、阻害及び/又は消耗につながる可能性がある液相の形成を防止することを意図する。特に、濃縮された出発物質から(支持体上で)新たに調製された触媒系で開始する場合、最大の(高沸点)副生成物形成に関する反応変換最大値を達成できる。操作条件(圧力及び温度)に応じて、高沸点副生成物の比率がある値を超えると、含まれる混合物に依存する個々の成分の蒸気圧のために、触媒系を損傷、阻害、又は消耗する可能性のある液相が形成されることがある。
【0063】
本発明によれば、触媒系の活性化は、好ましくは、長期間変換を行うことで達成される。したがって、供給混合物の圧力、温度及び組成のいかなる組み合わせに対する、副生成物の形成に対する最大許容変換率を算定しうるが、これは上記の問題を回避するために超過してはならない変換率である。副生成物生成のための変換率は、生成物アルデヒドの生成の変換関数としても決定しうる(=アルデヒド濃度に依存)。これは、開始手順が供給オレフィン類の最大変換率に依存することを意味する。
【0064】
供給オレフィン類の信頼できる変換率を20%から95%、好ましくは80%から95%で可能にする反応器の既知の長期運転条件において、開始手順を実施すると、反応器に流入する供給混合物の組成が供給オレフィン類の最大変換率を超えずに段階的に変化する。
【0065】
ここで、長期間の操作条件下でも、オレフィン含有量及び/又は合成ガス含有量が、一定の体積流量で、少なくとも2段階、好ましくは3段階以上、特に4段階以上、供給オレフィン類の最大変換率を超えないように上昇するように、オレフィン類の信頼できる変換を確実にする供給混合物の組成を変化させうる。このために、工業用供給混合物及び合成ガス混合物は、第1段階で、不活性ガス、例えば、N、アルゴン、ヘリウム等を供給しうる。
【0066】
稼働時間が長期化すると、例えば、高沸点物質の濃縮及び/又は活性中心の被覆又は不活性化のために、触媒活性が低下する可能性がある。高沸点物質は孔内を凝縮させうるため、反応体のオレフィン類がもはや孔を利用できなくなるか、または反応が緩慢になる。その一方で、副生成物のいくつかは触媒系を分解する可能性があり、これも触媒の活性を低下させる。触媒活性の低下は、例えば、特に、ラマン分光法、ガスクロマトグラフィー又は質量流量計(MDM)を用いた適当な分析から、添加又は選択性の低下により確認しうる。触媒活性のモデルベースのモニタリングも選択肢の一つである。これは、触媒活性をモニタリングする操作条件に依存せず、監査計画/再生計画をサポートして、プロセスを推定する。
【0067】
触媒活性が不十分な場合、多孔質セラミック支持体上で当該不均一触媒系を交換しうる。このために、反応器又は反応器内の支持体を溶媒で1又はそれ以上パージできる。パージにより触媒系の固定化を解除して、除去できる。当該溶媒は、触媒溶液の調製として記載した1の溶媒でありうる。溶媒でパージする場合の温度は、20~150℃でありうる。溶媒でパージする場合の圧力は、1~25バールであってよい。
【0068】
パージ後、支持体は、特に、上記した支持体のin situ含浸で、1又はそれ以上含浸される。このようにして、in situ含浸が更新され、不均一触媒系が新たに適用される。in situ再含浸は、上記のように最初にin situ含浸について記載したのと全く同様の条件下で実施しうる。
【0069】
触媒系はパージと再塗布によって完全に交換されるため、当該工程は、触媒活性が再度低下する場合に常に繰り返してよい。さらなる利点は、高沸点物質と生成物アルデヒドを触媒系の分解生成物としてともに排出できることである。しかし、固定化の解除と再度のin situ含浸によって支持体の特性が失われてはならない。さもなければ、多孔質セラミック支持体を交換しなければならない。
【0070】
さらなる選択肢としては、触媒系が不均一化されている多孔質セラミック支持体を全交換することがあげられる。次いで、支持体上の(反応器から除去された)不均一触媒系を、上記のように反応器の外側で交換し、次に反応器に設置し、かつ、用いられるまで保管してよい。上記のように、触媒系の塗布には不活性環境が必要であり、すなわち、適当な条件下で支持体の設置及び除去の作業を行うことにより取扱い及び保管が行われるべきである。
【0071】
好ましくは、生成した生成物アルデヒドの少なくとも一部と、未反応のオレフィン類の少なくとも一部とを含む気体流出物は、本発明によるヒドロホルミル化が行われる反応ゾーンから常時除去される。気体流出物は、1又はそれ以上の物質分離工程に供されてもよく、その場合、気体流出物は、未反応オレフィン類富化相と少なくとも1の生成物アルデヒド類富化相に分離される。物質分離は、凝縮、蒸留、遠心分離、ナノ濾過、又はこれらのいくつかの組み合わせ、好ましくは凝縮又は蒸留等の公知の分離方法で行いうる。
【0072】
多段階物質分離工程の場合、第1物質分離工程で形成される生成物アルデヒド富化相を、第2物質分離工程、特に、次のアルデヒド分離に供することができ、この生成物アルデヒド富化相に含まれる他の物質、しばしばアルカン及び出発物質のオレフィン類から当該生成物アルデヒドが分離される。未反応オレフィン富化相は、ヒドロホルミル化工程で、又は多段階分離の場合はそのうちの1のヒドロホルミル化工程でリサイクルされて、そこに含まれるオレフィン類を生成物アルデヒドにヒドロホルミル化することができる。
【0073】
物質分離工程では、上記の相に加えて、未反応オレフィン富化相と同一又は少なくとも類似の組成であるパージガスストリームを除去しうる。同様に、当該パージガスストリームを第2物質分離工程又はアルデヒド除去工程に導出して、そこに含まれる生成物アルデヒドを除去し、かつ、不純物(例えば、合成ガス中の窒素)又は不活性物質(例えば、供給混合物中のアルカン)を当該システムから除去しうる。当該不純物又は不活性物質は、通常、揮発性物質として第2物質分離工程、例えばカラムの上部で除去しうる。
【0074】
また、本発明のさらなる目的は、本発明の方法を行いうる、特に、本発明のヒドロホルミル化工程が行われる反応器を含む、装置を提供することである。さらに、当該装置は、ヒドロホルミル化工程からの気体流出物が、少なくとも1の未反応オレフィン富化相と、少なくとも1の生成物アルデヒド富化相とに分離される物質分離ユニットを含んでよく、当該物質分離ユニットは、本発明のヒドロホルミル化の下流に配置される。第1物質分離工程の下流には、第2物質分離ユニット、特にアルデヒド除去ユニットがあり、これにより生成物アルデヒドが分離される。
【0075】
当業者であれば、さらに詳述しなくても、上記の記載を可能な限り利用できることがと想定される。従って、好ましい実施形態及び実施例は、単に記述的開示として解釈されるべきであり、決して開示の方法に限定されるように解釈されるべきではない。
【0076】
以下に、実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。本発明の別の実施形態は、類似の方法で適用しうる。
【実施例1】
【0077】
実施例1:本発明の触媒系の調製及び分析
支持体として、長さ約20cm、直径約25mmの炭化ケイ素のモノリスを用いた。当該支持体は多孔質であり、ウォッシュコート(SiO)で前処理した。当該支持体には、直径が約3mmであるチャネル31があった。当該支持体を反応器にいれて、Rh(acac)(CO)、ビスフェフォス(リガンド)、ビス(2,2,6,6‐テトラメチル‐4‐ピペリジル)セバケート(安定剤)、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([EMIM][NTf]/イオン性液体)及び溶媒としてジクロロメタンを含む触媒溶液と不活性環境(グロ-ブボックス)中で混合して調製して塗布した。このため、反応器を窒素でパージした後、触媒溶液をわずかに過圧して反応器に導入した。放出及び蒸発によって反応器から溶媒を除去した後、支持体上で不均一触媒系をヒドロホルミル化に用いた。
【0078】
供給混合物として、以下の組成の炭化水素流を用いた。
【0079】
【表1】
当該供給混合物を合成ガス(合成ガス:入力混合物のモル比=3.5:1)とともにガス体積流量390ml/分で反応器に誘導して、ヒドロホルミル化を行った。当該ヒドロホルミル化は温度120℃及び圧力10バールで行った。ブテン類の総変換率(すなわち、供給混合物中に含まれるすべてのブテン類の変換率)及びn/イソ選択性(分枝生成物に対する直鎖生成物の比率)を、ガスクロマトグラフィーによる生成物組成を介して確認した。
【0080】
実験開始から500時間後、ブテン類の総変換率は27%、n/イソ選択性は98%であった。
【実施例2】
【0081】
実施例2:本発明の触媒系の調製及び分析
支持体として、長さ約20cm、直径約25mmの炭化ケイ素のモノリスを用いた。当該支持体は多孔質であり、ウォッシュコート(SiO)で前処理した。当該支持体には、直径が約3mmであるチャネル31があった。当該支持体を反応器にいれて、Rh(acac)(CO)、ビスフェフォス(リガンド)、ビス(2,2,6,6‐テトラメチル‐4‐ピペリジル)セバケート(安定剤)、及びジクロロメタンを含む触媒溶液と不活性環境(グロ-ブボックス)中で混合して調製して適用した。このため、反応器を窒素でパージした後、触媒溶液をわずかに過圧して反応器に導入した。放出及び蒸発によって反応器から溶媒を除去した後、支持体上で不均一触媒系をヒドロホルミル化に用いた。
【0082】
供給混合物として、実施例1と実質的に同一の組成の炭化水素ストリームを用いた。当該供給混合物を合成ガス(合成ガス:入力混合物のモル比=3.5:1)とともにガス体積流量390ml/分で反応器に導入して、ヒドロホルミル化を行った。当該ヒドロホルミル化は温度120℃及び圧力10バールで行った。ブテン類の総変換率(すなわち、供給混合物中に含まれるすべてのブテン類の変換率)及びn/イソ選択性(分枝生成物に対する直鎖生成物の比率)を、ガスクロマトグラフィーによる生成物組成を介して確認した。
【0083】
実験開始から500時間後、ブテン類の総変換率は56%であり、n/イソ選択性は97%であった。
【実施例3】
【0084】
実施例3:本発明ではないSILP触媒系の調製及び分析
触媒系の調製を、特許文献1に記載の触媒活性組成物Rh(II)の調製と同様に行った。
【0085】
供給混合物として、以下の組成の炭化水素流を用いた。
【0086】
【表2】
当該供給混合物を合成ガス(合成ガス:入力混合物のモル比=3.5:1)とともにガス体積流量390ml/分で反応器に導入して、ヒドロホルミル化を行った。当該ヒドロホルミル化は温度120℃及び圧力10バールで行った。ブテン類の総変換率(すなわち、供給混合物中に含まれるすべてのブテン類の変換率)及びn/イソ選択性(分枝生成物に対する直鎖生成物の比率)を、ガスクロマトグラフィーによる生成物組成を介して確認した。
【0087】
実験開始から500時間後、ブテン類の総変換率は25%、n/イソ選択性は92%であった。
【0088】
これより、一連の実験から、本発明による不均一触媒系には、公知のSILP系よりも、変換率及び生成物の直線性(n/iso選択性)がより高いという利点があることが明らかである。