(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴム組成物およびその製造方法、ならびに空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20240618BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240618BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08J3/20 B
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019229185
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 佳寿
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-181051(JP,A)
【文献】特開2012-197375(JP,A)
【文献】特開2016-098332(JP,A)
【文献】特開2015-048416(JP,A)
【文献】特開2019-112482(JP,A)
【文献】国際公開第97/036724(WO,A2)
【文献】特表2010-538110(JP,A)
【文献】特開2014-095022(JP,A)
【文献】特開2016-094501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0038617(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0296378(US,A1)
【文献】特開2019-112542(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073234(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194197(WO,A1)
【文献】特開2012-214566(JP,A)
【文献】特開2009-84473(JP,A)
【文献】特開2018-83875(JP,A)
【文献】特開2012-158666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
C08J3/00-3/28
99/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、
カーボンブラックが水に分散したカーボンブラック含有スラリー水溶液に、濃縮ラテックス溶液およびフィールドラテックス溶液を加えて混合して、カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造する工程(I)(但し、当該工程(I)では、スキムラテックスを使用しない。)と、
得られたカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する工程(II)と、
得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥してゴムウエットマスターバッチを製造する工程(III)を含み、
前記工程(I)において、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法で得られたゴムウエットマスターバッチを用いて、乾式混合する工程(IV)を含むことを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
カーボンブラックとゴム成分を含むゴムウエットマスターバッチであって、
前記ゴム成分は、濃縮ラテックス溶液のゴム成分およびフィールドラテックス溶液のゴム成分を含み(但し、スキムラテックスのゴム成分を含まない。)、
前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下であ
り、
前記カーボンブラックは、前記ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分100質量部に対して、10~120質量部であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチ。
【請求項4】
請求項3記載のゴムウエットマスターバッチを含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項5】
請求項4記載のゴム組成物を用いてなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴム組成物およびその製造方法、ならびに空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックを含有するゴム組成物を製造する際の加工性やカーボンブラックの分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、カーボンブラックと分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力でカーボンブラックを分散溶媒中に分散させたカーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたもの(カーボンブラック含有ゴム凝固物)を回収して乾燥するものである(例えば、特許文献1~2)。
【0003】
ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、カーボンブラックとゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、カーボンブラックの分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば、転がり抵抗が低減され、耐疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品(加硫ゴム)を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-500378号公報
【文献】特開2012-144680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、市場では、ゴム組成物を原料としたタイヤ(加硫ゴム)において、より低発熱性および補強性(破断強度)を有するものが求められている。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、優れた低発熱性および補強性を有する加硫ゴムが得られるゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、カーボンブラックが水に分散したカーボンブラック含有スラリー水溶液に、濃縮ラテックス溶液およびフィールドラテックス溶液を加えて混合して、カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造する工程(I)と、得られたカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する工程(II)と、得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥してゴムウエットマスターバッチを製造する工程(III)を含み、前記工程(I)において、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下であるゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、前記ゴムウエットマスターバッチの製造方法で得られたゴムウエットマスターバッチを用いて、乾式混合する工程(IV)を含むゴム組成物の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、濃縮ラテックス溶液のゴム成分およびフィールドラテックス溶液のゴム成分を含み、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下であるゴムウエットマスターバッチに関する。
【0010】
また、本発明は、前記ゴムウエットマスターバッチを含むゴム組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。但し、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
本発明のゴムウエットマスターバッチの製造方法は、カーボンブラックが水に分散したカーボンブラック含有スラリー水溶液に、濃縮ラテックス溶液およびフィールドラテックス溶液を加えて混合して、カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造する工程(I)と、得られたカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する工程(II)と、得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥してゴムウエットマスターバッチを製造する工程(III)を含み、前記工程(I)において、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下である。また、本発明のゴムウエットマスターバッチは、濃縮ラテックス溶液のゴム成分およびフィールドラテックス溶液のゴム成分を含み、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下である。上記の特許文献のように、通常、ゴムウエットマスターバッチのゴム成分には、濃縮ラテックス溶液やフィールドラテックス溶液を区別なく使用できることが示唆されているが、これらを特定の質量比で併用するゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法は、具体的に開示されていない。本発明のゴムウエットマスターバッチの製造方法では、濃縮ラテックス溶液やフィールドラテックス溶液を特定の質量比で併用することにより、上記の工程(I)において、ゴムラテックスが付着したカーボンブラックが均一に含まれるカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造することができると推定される。その結果、当該カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液から得られるカーボンブラック含有ゴム凝固物は、凝固物(凝固クラム)の大きさを一定のサイズに制御できるため、当該ゴム凝固物を脱水・乾燥して得られるゴムウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムは、低発熱性および補強性(破断強度)をバランスよく発現するものと推定される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法>
本発明のゴムウエットマスターバッチの製造方法は、カーボンブラックが水に分散したカーボンブラック含有スラリー水溶液に、濃縮ラテックス溶液およびフィールドラテックス溶液を加えて混合して、カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造する工程(I)と、得られたカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する工程(II)と、得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥してゴムウエットマスターバッチを製造する工程(III)を含み、前記工程(I)において、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下である。また、本発明のゴムウエットマスターバッチは、濃縮ラテックス溶液のゴム成分およびフィールドラテックス溶液のゴム成分を含み、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下である。
【0015】
<工程(I)>
本発明の工程(I)は、カーボンブラックが水に分散したカーボンブラック含有スラリー水溶液に、濃縮ラテックス溶液およびフィールドラテックス溶液を加えて混合して、カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造する。
【0016】
<カーボンブラック含有スラリー水溶液>
前記カーボンブラック含有スラリー水溶液は、通常、原料として、カーボンブラックおよび水を混合することによって得られる。
【0017】
前記カーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。カーボンブラックは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0018】
前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が、30m2/g以上250m2/g以下程度であることが好ましく、50m2/g以上200m2/g以下程度であることがより好ましい。
【0019】
前記水は、イオン交換水、蒸留水、工業用水などの水を主成分とする媒体であるが、例えば、有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0020】
前記カーボンブラックおよび前記水を混合する方法としては、例えば、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0021】
前記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えば、SILVERSON社製「ハイシアーミキサー」、IKA社製「ハイシアーミキサーIKA2000シリーズ」、特殊機化工業(株)製「T.K.ホモミキサー」、みずほ工業(株)製「ウルトラホモミキサー」、エム・テクニック社製「クレアミックス」、太平洋機工(株)製「キャビトロン」などが挙げられる。
【0022】
前記カーボンブラック含有スラリー水溶液中、前記カーボンブラックの割合が、1~20質量%であることが好ましい。前記カーボンブラック含有スラリー水溶液中、前記カーボンブラックの割合は、脱水・乾燥工程における水を除去する作業効率を高める観点から、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記カーボンブラック含有スラリー水溶液中、前記カーボンブラックの割合は、カーボンブラック含有スラリー水溶液の粘度を低下させて攪拌効率を高める観点から、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
<フィールドラテックス溶液>
本発明のフィールドラテックス溶液は、天然ゴムの樹木をタッピングなどして採取される天然ゴムラテックス溶液であり、通常、タンパク質などの非ゴム成分が含まれている。前記天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。前記天然ゴムラテックス中に含まれる天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。また、前記フィールドラテックス溶液中、ゴム成分(固形分(DRCともいう))の割合は、通常、20~40質量%程度である。前記フィールドラテックス溶液は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0024】
<濃縮ラテックス溶液>
本発明の濃縮ラテックス溶液は、前記フィールドラテックス溶液を遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮天然ゴムラテックス溶液である。濃縮天然ゴムラテックス溶液としては、例えば、精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックスなどが挙げられる。前記濃縮ラテックス溶液中、ゴム成分(固形分(DRCともいう))の割合は、通常、50~70質量%程度である。前記濃縮ラテックス溶液は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0025】
前記工程(I)において、前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)が1以下である。前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)は、ラテックスの性状安定化の観点から、0.05以上であることが好ましく0.1以上であることがより好ましく、そして、架橋ゴムの低発熱性および補強性を向上させる観点から、0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。ゴムウエットマスターバッチに含まれる濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比についても、上記同様である。
【0026】
前記カーボンブラックは、ゴムラテックス中のゴム成分100質量部に対して、10~120質量部であることが好ましい。前記カーボンブラックは、加硫ゴムの補強性を向上させる観点から、ゴムラテックス中のゴム成分100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、そして、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
前記工程(I)において、前記カーボンブラック含有スラリー水溶液に、前記濃縮ラテックス溶液および前記フィールドラテックス溶液を加えて混合する方法は特に限定されるものではなく、例えば、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機や円筒状容器内でブレードが回転する混合機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0028】
<工程(II)>
本発明の工程(II)は、上記で得られたカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する。
【0029】
前記凝固の方法としては、前記カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液中に、凝固剤を含有させる方法が挙げられる。前記凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用される、ギ酸、硫酸などの酸;塩化ナトリウムなどの塩などを使用することができる。
【0030】
<工程(III)>
本発明の工程(III)は、上記で得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥して、ゴムウエットマスターバッチを製造する。前記脱水・乾燥の方法としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、オーブン、コンベアー式乾燥機、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種脱水・乾燥装置を使用することができる。なお、工程(III)の前に、必要に応じて、カーボンブラック含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的として、例えば、遠心分離工程や振動スクリーンを使用した固液分離工程を設けてもよく、あるいは、洗浄を目的として、水洗法などの洗浄工程などを設けてもよい。
【0031】
<工程(IV)>
本発明のゴム組成物の製造方法は、上記で得られたゴムウエットマスターバッチを用いて、乾式混合する工程(IV)を含む。
【0032】
前記工程(IV)では、さらに、各種配合剤を用いることができる。使用可能な配合剤としては、例えば、ゴム、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。なお、各種配合剤は、必要に応じ、上記のゴムウエットマスターバッチを製造する際に使用することもできる。
【0033】
前記ゴムは、前記ゴムウエットマスターバッチ由来のゴム成分とは別に使用されるものである。前記ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)や、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などの合成ジエン系ゴムが挙げられる。ゴムは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0034】
前記カーボンブラックは、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、10~120質量部であることが好ましい。前記カーボンブラックは、加硫ゴムの補強性を向上させる観点から、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、そして、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
前記硫黄系加硫剤としての硫黄は、通常のゴム用硫黄であればよく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。硫黄系加硫剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0036】
前記硫黄の含有量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して0.3~6.5質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して1.0~5.5質量部であることがより好ましい。
【0037】
前記加硫促進剤としては、通常のゴム用加硫促進剤であればよく、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などが挙げられる。加硫促進剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0038】
前記加硫促進剤の含有量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して1~5質量部であることが好ましい。
【0039】
前記老化防止剤としては、通常のゴム用老化防止剤であればよく、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などが挙げられる。老化防止剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0040】
前記老化防止剤の含有量は、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して1~5質量部であることが好ましい。
【0041】
前記工程(V)において、前記ゴムウエットマスターバッチ、および前記各種配合剤の配合(添加)の方法は、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練する方法が挙げられる。
【0042】
前記混練する方法は特に限定されないが、例えば、硫黄系加硫剤および加硫促進剤などの加硫系成分以外の成分を、任意の順序で添加し混練する方法、同時に添加して混練する方法、また、全成分を同時に添加して混練する方法などが挙げられる。また、混練する回数は、1回または複数回であってもよい。混練する時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、2~5分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、120~170℃とすることが好ましく、120~150℃とすることがより好ましい。なお、混練機の排出温度は、前記加硫系成分を含む場合、80~110℃とすることが好ましく、80~100℃とすることがより好ましい。
【0043】
本発明のゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、あるいはゴム組成物およびその製造方法によれば、優れた低発熱性および補強性(破断強度)を有する加硫ゴムが得られる。また、本発明のゴムウエットマスターバッチおよびゴム組成物は、空気入りタイヤに適している。
【実施例】
【0044】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0045】
(使用原料)
a)フィールドラテックス溶液:天然ゴムラテックス溶液「NRフィールドラテックス」(Golden Hope社製)(DRC=31.2質量%)
b)濃縮ラテックス溶液:濃縮天然ゴムラテックス溶液(レヂテックス社製)(DRC=60質量%)
c)カーボンブラック:「ダイアブラックA」(三菱ケミカル社製)
d)酸化亜鉛:「酸化亜鉛1号」(三井金属鉱業社製)
e)ステアリン酸:「ビーズステアリン酸」(日油社製)
f)ワックス:「OZOACE0355」(日本精蝋社製)
g)老化防止剤(A):「ノクラック6C」(大内新興化学工業社製)
h)老化防止剤(B):「ノクラック224」(大内新興化学工業社製)
i)硫黄:「5%油入微粉末硫黄」(鶴見化学工業社製)
j)加硫促進剤:「サンセラーNS-G」(三新化学工業社製)
【0046】
<実施例1>
<工程(I):カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液の製造>
フィールドラテックス溶液として、天然ゴムラテックス溶液「NRフィールドラテックス」に水を常温下で加え、濃度が25質量%のフィールドラテックス溶液を調製した。一方、水にカーボンブラックを添加し、これをPRIMIX社製のロボミックスで撹拌し、常温でカーボンブラックを分散させることにより、カーボンブラック濃度が6質量%のカーボンブラック含有スラリー水溶液を調製した。次いで、当該カーボンブラック含有スラリー水溶液に、上記のフィールドラテックス溶液(25質量%)と、濃縮ラテックス溶液として、濃縮天然ゴムラテックス溶液(レヂテックス社製、60質量%)を、カーボンブラック30質量部に対して、固形分(ゴム成分)が100質量部(前記濃縮ラテックス溶液のゴム成分および前記フィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比(濃縮ラテックス溶液のゴム成分/前記フィールドラテックス溶液のゴム成分)は15/85)となるように添加し撹拌し、カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液を製造した。
【0047】
<工程(II):カーボンブラック含有ゴム凝固物の製造>
続いて、上記の工程(I)で製造したカーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液(90℃)を混合しながら、凝固剤として、ギ酸(10%溶液)を溶液全体がpH4となるまで添加して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造した。得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物について、凝固クラムサイズを以下の基準にて算出したところ、5~10mmであった。
基準:柄杓などで凝固物(クラム)を採取し、トレー上に展開する。5mm刻みでそれぞれのサイズを測定し、分別する。最も割合が多かったグループのクラムサイズ幅を算出する。
【0048】
<工程(III):ゴムウエットマスターバッチの製造>
上記の工程(II)で製造したカーボンブラック含有ゴム凝固物を、スクイザー式1軸押出脱水機(スエヒロEPM社製、スクリュープレスV-02型)で脱水および乾燥することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造した。
【0049】
<工程(IV):ゴム組成物および未加硫ゴム組成物の製造>
上記で得られたゴムウエットマスターバッチと、表1に記載の各原料(硫黄と加硫促進剤を除く成分)を、バンバリーミキサーを用いて乾式混合(混練時間:3分、排出温度:150℃)することにより、ゴム組成物を製造した。次いで、得られたゴム組成物に、表1に記載の硫黄、および加硫促進剤を加え、バンバリーミキサーを用いて乾式混合(混練時間:1分、排出温度:90℃)することにより、未加硫ゴム組成物を製造した。なお、表1中の配合比率は、ゴム組成物に含まれるゴム成分の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0050】
<実施例2~3、比較例1~2>
各実施例および比較例では、実施例1の<工程(I):カーボンブラック含有ゴムラテックス水溶液の製造>において、使用する濃縮ラテックス溶液のゴム成分およびフィールドラテックス溶液のゴム成分の質量比を、表1に示す割合に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2~3および比較例1~2のゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および未加硫ゴム組成物を製造した。また、得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物について、凝固クラムサイズを上記の基準にて算出した。結果を表1に示す。なお、比較例2で得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物は、クラムサイズが巨大すぎたため、ウエットマスターバッチが製造できなかった。
【0051】
<加硫ゴムの製造>
上記の実施例及び比較例で得られた未加硫ゴム組成物を、150℃、30分間の条件で加硫することにより、加硫ゴムを製造した。得られた加硫ゴムについて以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
<発熱性の評価>
発熱性の評価は、(株)東洋精機製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、静歪10%、動歪1%、温度60℃で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱し難く、低発熱性に優れるため、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
【0053】
<補強性の評価>
補強性の評価は、JIS K6251の加硫ゴム引張試験に準じて、ダンベル3号を用いてサンプルを作製して引張試験を行い、300%伸張時の応力(S300)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、応力が大きく、耐破壊特性(破断強度)が良好であり、補強性に優れることを意味する。
【0054】