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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】自動車を運転するための方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20240618BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20240618BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20240618BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240618BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
F01N3/20 D
F01N3/20 K
F01N3/00 F
F01N3/20 C
F01N11/00
F02D43/00 301Z
F02D45/00 368F
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020036606
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2020183750
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】10 2019 203 598.1
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ブレナー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ナオ,ミヒャエル
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-321719(JP,A)
【文献】特開2012-081886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/00
F01N 11/00
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を有する自動車を運転するための方法であって、自動車の発車(10)前に、排気ガス後処理システムの構成要素の運転温度および/または自動車のラムダセンサの運転温度を達成するために予熱措置(7)を行う方法において、
目前に迫っている自動車の発車を明確に告知するための、自動車の運転者による信号発信器の操作(1)が、前記予熱措置(7)のためのトリガとして予め設定されていて、
信号発信器の先行する操作なしに運転者により要求された自動車の発車時に、自動車の発車および/またはエンジン始動を必要であれば遅延させ(106)、その間に、予熱措置(7)を実施し、かつ/または出力制限された発車を行うようにすることを特徴とする、自動車を運転するための方法。
【請求項2】
遅延(106)の示唆として警告信号を生成することを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記信号発信器が、車両アクセスコントロールのための操作装置の操作エレメント、特に電子式の車両アクセスコントロールのトランスポンダの操作エレメントまたは自動車のためのキーの操作エレメントを介して、操作可能であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記信号発信器が、コンピュータ機能性を有するモバイル機器、特にスマートフォンまたはタブレットを介して操作可能であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
予熱措置のトリガおよび/または範囲のための別の基準として、自動車内で提供される電気エネルギの状態を取り入れることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
発車確率を算出することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記予熱措置が、電気駆動式の加熱触媒および/または排気ガス燃焼器の操作を介しての前記排気ガス後処理システムの電気的な予熱を含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記排気ガス後処理システムの構成要素のためのおよび/または予熱措置によるラムダセンサのための予め設定された運転温度にまだ達していない限り、自動車の発車を遅延(11)させ、かつ/または出力制限された発車を行うことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
予め設定可能な時間間隔内で、目前に迫った発車の明確な告知に反して発車が行われない場合、予熱措置を終了させることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9までのいずれか1項記載の方法を実行する際に用いられる車両アクセスコントロールのための操作装置において、前記操作装置が、自動車の目前に迫った発車を明確に告知するための操作エレメントを有していることを特徴とする、車両アクセスコントロールのための操作装置。
【請求項11】
前記操作装置が、電子式の車両アクセスコントロールのトランスポンダまたは自動車用のキーであることを特徴とする、請求項10記載の操作装置。
【請求項12】
請求項1~9までのいずれか1項記載の方法を実行する際に用いられるコンピュータ機能性を有するモバイル機器のためのアプリケーションにおいて、前記アプリケーションが、目前に迫っている自動車の発車を明確に告知するための、自動車の運転者による信号発信器のための操作手段として設計されていることを特徴とする、コンピュータ機能性を有するモバイル機器のためのアプリケーション。
【請求項13】
コンピュータプログラムにおいて、前記コンピュータプログラムが、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法の複数のステップを実行するために設計されている、コンピュータプログラム。
【請求項14】
機械読み取り式の記憶媒体において、前記記憶媒体に請求項13記載のコンピュータプログラムが記憶されている、機械読み取り式の記憶媒体。
【請求項15】
電子コントロールユニットにおいて、前記電子コントロールユニットが、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法の複数のステップを実行するために設計されている、電子コントロールユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を有する自動車を運転するための方法であって、内燃機関の始動前に、排気ガス後処理システムの運転温度および/または自動車のラムダセンサの運転温度を達成するために予熱措置を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスを低減させるために、自動車は排気ガス後処理システムを備えている。このような形式の排気ガス後処理システムの重要な構成部分は、単数または複数の触媒であり、このような触媒の運転のためにたいていは所定の温度が必要とされる。例えば、一般的な排気ガス触媒は、第1の反応性のために概ね300℃の運転温度を必要とする。さらに、自動車のラムダセンサも必要であり、このラムダセンサは、排気ガス内の残留酸素含有量を測定し、最適な空燃比の調節に対して責任があり、このラムダセンサの運転のために所定の温度、たいていは約700℃の温度を必要とする。この必要な運転温度をできるだけ迅速に達成するために、従来は、エンジン始動後に、例えば内部モータ式の触媒加熱が行われ、この際にアイドリング回転数が上昇され、点火時期は遅れる方に調節され、それによって排気ガス温度を上昇させひいては排気ガス後処理システムの十分に迅速な始動が可能となる。さらに、必要な温度を達成するために、セカンダリエアポンプによるセカンダリエアインジェクションが公知であり、このセカンダリエアインジェクションによって、排気ガス内の酸素含有量が高められ、排気ガスシステム内の過剰な燃料の後反応による「リッチ」排気ガスと結びついて、排気ガス内で十分な温度上昇が得られ、この十分な温度上昇は同様に、排気ガス後処理システムの始動を保証する。さらに、このような内部モータ式の措置の他に外部モータ式の加熱措置も公知である。例えば、E触媒(電気駆動式の加熱触媒)による排気装置の電気的な予熱および/または吸込み空気の加熱および/または排気ガス温度を上昇させるための排気ガス燃焼器が、排気ガス後処理システムの迅速な始動のために使用されてよい。この場合、排気ガス燃焼器は追加的にパーキングヒータを成していてもよい。
【0003】
エミッションを低減させるためのできるだけ精確な若しくは最適な空燃比も重要であるので、自動車内に使用されたラムダセンサのための運転温度を迅速に達成することは、エミッション限界値を維持するために同様に重要である。ラムダセンサのために概ね700℃の必要な温度を達成するために、たいていはラムダセンサの電気ヒータが設けられている。
【0004】
特許文献1には排気ガス後処理システムが記載されており、この排気ガス後処理システムにおいては、内燃機関の始動後に既に効果的な排気ガス後処理を可能にするために、内燃機関の始動前に電気的な加熱措置が予め設定されている。予熱措置をトリガするために、例えばドア接触スイッチ、着席のためのセンサまたはベルトロックセンサが信号発信器として使用されてよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】ドイツ連邦共和国特許公開第102017113366号明細書
【発明の概要】
【発明の効果】
【0006】
本発明は、内燃機関を有する自動車を運転するための方法を提供する。この場合、自動車の発車前に、排気ガス後処理システムの構成要素の運転温度および/または自動車のラムダセンサの運転温度を達成するために予熱措置が行われる。本発明によれば、予熱措置のためのトリガとして、自動車の運転者による信号発信器の操作が、目前に迫っている自動車の発車を明確に告知するために予め設定されている。このような手段によって、予熱措置の不必要な開始を避けることができる。これは、自動車の発車の前に予熱措置、特に自動車内で得られる電気エネルギを負荷するための外部モータ式の加熱措置が行われることに基づいている。周知のように、自動車内で得られる電気エネルギは限定されている。特に、自動車の電気バッテリにおいては、最小キャパシタンスも維持されなければならず、特にバッテリの充電状態は30パーセントを下回ってはならない。そうでなければ、申し分のない始動および自動車の運転はもはや保証され得ない。これは従来形式の内部モータ式の予熱措置において重大な問題である。このような形式の不必要な予熱措置が行われ、その後で実際に自動車の発車が行われることがない場合、バッテリの充電状態は非常に早期に必要な最小キャパシタンス限界を下回ることになるので、自動車の正常な運転はもはや不可能である。このような問題を解決するために、記載された方法では、運転者による信号発信器の操作が提案されており、これによって、発車要求が明確に、つまり意図的に告知される。つまり、もはや、実際に発車することなしに、運転者が例えば一度だけ短く車両内に着座し、それによって不必要な加熱措置をトリガするというケースは発生し得ない。加熱措置は、後に続く自動車の発車なしに、大きい電気的なエネルギ消費をもたらす。特に、このような不必要な予熱措置を繰り返すと、電気的なエネルギ供給のキャパシタンスは非常に早く空になる。提案された方法は、このような形式の不必要な予熱措置の開始を、運転者による発車要求の明確な告知によって避ける。
【0007】
基本的に、予熱措置は外部モータ式の措置、つまり特に電気的な加熱措置の他に、場合によっては内部モータ式の予熱措置を含んでいてよい。この場合、提案された方法の利点は、前述のように、特に外部モータ式の加熱措置に関連して適用される。
【0008】
この方法の特に好適な実施形態によれば、運転者が自動車を発車させたいが、前もって信号発信器の操作によって自動車の発車が告知されていない場合、自動車の発車および/またはエンジン始動は必要であれば遅延され、その間に、必要な運転温度を達成するための適切な予熱措置を講じることができるようになっている。選択的にまたは追加的に、不都合なエミッション影響を最小化するために、出力制限を伴う発車若しくは出力限定を伴う発車が行われてよい。発車の遅延の間に、例えば、エンジンの始動を遅延させるようになっているので、外部モータ式の、特に電気的な予熱措置が行われる。この場合、エンジンの始動は可能であるが、本来の発車は遅延される。この場合、場合によっては追加的に内部モータ式の予熱措置が講じられてもよい。
【0009】
好適な形式で、運転者は、警告信号その他によって例えば聴覚的に、または相応の視覚的な表示器によって、遅延について知らされる。この場合、運転者に、告知された発車要求が存在しないことに基づいてあいにく予熱ができなかったので、予熱措置の遅れを取り戻すために発車が遅延されなければならないということが伝えられても好適である。このような示唆によって、運転者は非常に迅速に、発車要求の明確な告知が有意義であることを学習する。
【0010】
外部モータ式の予熱措置として、例えば加熱プレートを介した電気的な抵抗加熱が考慮される。その他の場合によっては追加的な措置として、例えば排気ガス燃焼器の運転が電気的なセカンダリエアポンプと共に使用されてよいので、排気ガスラインへのガソリンの噴射およびその燃焼によって、排気ガス後処理システム内の構成要素の加熱が非常に迅速に達成される。さらに、外部モータ式の加熱措置として、インテークエアの加熱、特にインテークエアの電気的な加熱が行われてよい。原則的に別の加熱措置、例えばマイクロウエーブに基づく加熱措置も考慮される。
【0011】
一般的に、提案された方法によって実施される外部モータ式の加熱措置は、自動車の排気ガス後処理システムの単数または複数の構成要素のための、特に単数または複数の触媒のための十分な運転温度を発生させるために設けられている。この場合、これは、例えば電気的に駆動される加熱触媒によって電気的に予加熱され得る、例えばガソリンエンジンの排気ガス後処理システムに関する。このような意味において相応の形式で、ディーゼルエンジンのための外部モータ式の加熱措置、例えば酸化触媒コンバータ、SCR触媒またはNOx吸蔵型触媒の予加熱も考えられる。さらに、外部モータ式の加熱措置は、ラムダセンサの電気加熱を含んでいてよい。排気ガス後処理システム内のそれぞれの運転温度を例えば排気ガス後処理システムの始動温度を越えてさらに最適化するためにも、エンジン始動後に、外部モータ式の加熱措置を内部モータ式の加熱措置と組み合わせてもよい。内部モータ式の加熱措置として、効率をスラッシングするために、例えばイグニッションタイミングがずらされてよく、この場合、それによって同様に排気ガスライン内の温度が上昇される。
【0012】
予熱措置として排気ガス燃焼器を使用する場合、排気ガス燃焼器が例えば追加的な熱交換器を介してエンジン冷却回路内に接続されると、排気ガス燃焼器はパーキングヒータとしても使用され得る。全体として、予め設定されたパーキングヒータ方式は、排気ガスシステムの外部モータ式の予加熱に結び付けられてよい。特に、予加熱されたエンジンにおいては、一般的に未燃焼エミッションを改善し、これは、より低い外部モータ式の予加熱を生ぜしめる。しかも、作動されたパーキングヒータは、車両に近づいてくる運転者において実際に目前に迫っている発車が見込まれていることを非常に確実に示唆する別の基準である。
【0013】
提案された方法のために設けられた信号発信器は、例えば車両アクセスコントロールのための操作装置における操作エレメントとして実現され得る。例えば、電子式の車両アクセスコントロールのトランスポンダに相応のスイッチまたはその他のエレメントが設けられていてよく、これらのスイッチまたはその他のエレメントは、このスイッチまたはこのエレメントの操作によって、発車要求が明確に告知されるように割り当てられている。類似の形式で、例えばスイッチまたはその他のエレメントが自動車のためのキーに設けられてよい。ボタンまたは相応のエレメントの操作以外に、発車要求若しくは自動車の計画された発車を明確に告知するために、例えば音声認識および/または手話認識が設けられていてもよい。音操声認識および/または手話認識も、例えば車両アクセスコントロールのために相応に装備された操作装置を介して実現され、この場合、このために場合によってはカメラ機能またはマイクロホン機能が必要となる。特に好適な形式で、差し迫った発車を告知するための信号発信器は、コンピュータ機能性を有するモバイル機器、例えばスマートフォン、タブレット等の、相応の接続性を有するポータブル情報端末を介して実現され得る。この場合、音声認識または手話認識を介して相応のアプリケーションの範囲内で予定された発車を告知するために、例えばモバイル機器のマイクロホンおよび/またはカメラが使用され得る。しかしながら、例えばモバイル機器の相応に設計されたアプリケーションの範囲内で相応のフィールドにタッチすることによって発車要求が明確に告知され得る。さらに、信号発信器が、相応に設計されたセンサ装置を介して自動車で直接に操作できるようにすることが可能である。例えば、相応に割り当てられたスイッチがドアハンドルまたはその他の箇所に設けられてよく、このスイッチによって運転者は運転者の発車要求を告知する。
【0014】
提案された方法の好適な実施形態によれば、予熱措置のトリガおよび/または範囲のための別の基準として、自動車内で提供される電気エネルギの状態が取り入れられるようになっている。つまり、予熱措置、特に外部モータ式の予熱措置のために十分なエネルギが提供されるかどうかを確認するために、特に車載バッテリの充電状態若しくは車載電源網の状態が検査される。さらに、予熱措置の範囲も、提供される電気エネルギに依存して左右され得る。
【0015】
さらに、別の基準として、予熱措置を開始する前に、予熱措置がそもそも必要であるかどうかを検査することが非常に好適である。これに関連して重要な値は、特に外気温度および/またはエンジン温度および/または排気ガス後処理システム内の温度である。例えば外気温度が比較的高いかまたは例えばエンジンおよび排気ガスシステムがまだ熱いときに、一般的に予熱措置は不要である。好適な形式で、基準として、特に周囲温度に関連したおよび/またはエンジン温度に関連したおよび/または排気ガス後処理システムの温度に関連したおよび/または電気的な車載電源網状態に関連した、予め設定可能な閾値の下回りが考慮されてよい。これは、周囲温度および/またはエンジン温度および/または特に触媒内の若しくは触媒の範囲内の排気ガス後処理システムの温度が、コールドスタートを延期するかどうか、およびこのための実際の温度条件がいかなるものであるかに関して、重要な入力値として決定的であるということに基づいている。これらの温度条件は、予熱措置がそもそも必要であるかどうか、および予熱措置が場合によってはどの程度の優勢さで中止されるべきであるかどうかの決定のために考慮される。これに関連して、車載電源網も、特に電気的な予熱措置が予定されているときに関与する。例えばSOC(state of charge:充填率)を用いてまたはT-Bat若しくはI-Soll等を介して検出される実際の車載電源網状態を用いて、予熱措置のために提供されるエネルギが算出され、それにより予熱措置が相応に調整され得る。
【0016】
提案された方法の枠内の好適な実施例では、例えば特に、温度条件が加熱措置を実際に必要とするときに、発車確率が算出される。この発車確率に基づいて、予熱措置の開始が有意義であるかどうか決定され得る。発車確率の計算のための可能なインプット値は、例えば日付、時間、曜日、GPS位置、GPS位置履歴、学校の休暇、スマーフォンデータ(例えば運転者検知)、ガレージゲートセンサ等であってよい。このような形式のデータから、発車の見込みが多かれ少なかれありそうだというシナリオが導き出される。これは、信号発信器の操作によって明確に告知された発車要求が真実であると証明されるべきであるか、または明確な発車要求が伝達されないが例えば運転者が自動車に近づいてくるか若しくはそれが検知される場合に、特に有意義である。
【0017】
予熱措置として、特に、電気的に駆動される加熱触媒を介したおよび/または排気ガス燃焼器の操作を介した排気ガス後処理システムの電気的な予熱が適している。しかしながら別の予熱措置も、提案された方法の枠内で追加的にまたは選択的に実施されてよい。排気ガス燃焼器を使用することは、排気ガス燃焼器が別個に作動可能なパーキングヒータとして使用され得る、という特別な利点を有している。
【0018】
さらに、この方法の好適な実施形態によれば、排気ガス後処理システムの構成要素のためのおよび/または実施された予熱措置によるラムダセンサのための予め設定された運転温度にまだ達していない限り、自動車の発車が遅延されるようになっている。つまりこの場合、予熱措置を有する段階がいわば延長されてよい。この場合、エンジン始動が遅延され、それによって予熱措置がもっぱら外部モータ式に行われ、有害排出物が発生されないようにもなっている。自動車の発車は遅延されるが、エンジンは始動され得るようになっていてもよい。この場合、予熱段階は、予め設定された運転温度に達するまで、外部モータ式および内部モータ式の予熱措置と組わせて行われる。この場合も、自動車の運転者に、好適な形式で、遅延およびその理由が知らされるようになっている。このような措置によって、高すぎるエミッションを考慮しなければならないコールドスタートが確実に避けられる。選択的にまたは追加的に、予め設定された温度が予熱措置によって達成されない場合、出力制限を伴う発車が行われるようになっていてよい。しかしながら好適な形式で、このような遅延または出力制限を停止するか若しくは回避し、しかも緊急時に迅速な発車を強制的に行うことができるようにするために、その他の機能が設けられていてよい。
【0019】
この方法の別の好適な実施形態によれば、予め設定可能な時間間隔内で、自動車の運転者による目前に迫った発車の明確な告知に反して発車が行われない場合、予熱措置が終了されるようになっている。これによって、運転者の計画若しくは発車要求の急な変更時に、不必要なエネルギ消費を避けるために、予熱措置が過剰に長く続けられないように保証される。
【0020】
提案された方法によって、予熱措置により、走行サイクルの開始と同時に最適な排気ガス後処理が可能である。さらに、提案された方法は、高いエネルギ消費および相応のコスト並びに欠点と結びつくであろう予熱措置の不必要なトリガを避ける。排気ガス後処理システムの迅速な始動およびひいては排気ガスエミッションの最小化は、走行サイクルの開始時点でも既に、法的な排出ガス基準を満たすために証明されなければならない。以前の排出基準のために、例えばサイクルテストのために、外気温度は20℃およびスタート前の最大アイドリング段階は20秒が適用される。新たな排出基準は、特にいわゆるRDEサイクル(Real Drive Emission)によってエミッション限界値に関して著しく高い要求が課せられるので、内部モータ式の措置だけによって、排気ガス後処理システムの十分に迅速な始動は殆ど達成できない。RDE条件においては、特に-7℃の外気温度におけるアイドリング段階なしの自発的なコールドスタートが、エミッション限界値が維持されなければならない可能な基準として適用される。したがって、アイドリング段階の省略および低いスタート温度によって、内部モータ式の触媒加熱は限界値を達成するためにははるかに不十分である。外部モータ式の加熱措置を含む提案された方法によって、このような厳しい法的要求を満たすことは容易に可能である。
【0021】
意図された発車の明確な告知のために信号発信器の操作を介して、また、特に伝達された発車要求が真実であることを証明するために利用され得るさらに別の基準も考慮することができる。発車要求がこのような基準によって真実であると証明できない場合、不必要なエネルギ消費を避けるために開始された予熱手段は中断されてよい。したがって、例えば車両周辺への人の侵入に依存してトリガされる、自動車の間隔センサの信号が評価され得る。この間隔センサは、運転者が車両周辺に関与していて、発車が実際に目前に迫っていることを表示する。車両からの間隔に依存して、場合によっては段階的に異なるプログラミングが追跡される。同様の形式で、人が車両周辺内に侵入するのに依存してトリガされる、自律走行からの視覚的および/または聴覚的なセンサ装置の信号が考慮され得る。相応に、トランスポンダの近傍範囲侵入および車両に関するその位置も考慮され得る。さらに、例えばドア開放信号および/または運転者着座検知が、別の基準として使用され得る。さらに、自動車の運転者の移動電話の位置は、移動電話が自動車に接近する際に、実際の発車が間近に迫っていることが前提とされるように、考慮される。さらに、例えば自動車の運転者のユーザー特性が移動電話のデータを用いて導き出される。したがって、例えば運転者の移動電話の位置の検知を用いて、場合によっては、例えば日付、時間および/またはカレンダ記載等から成るユーザー特性の学習または検知および/または可能な接続が利用され、それによって走行開始が実際に目前に迫っているかどうかの確率を導き出すことができる。同様の形式で、トランスポンダを備えた証明書の位置、例えば会社の証明書、自動車の運転者の証明書の位置が評価され得る。例えば、証明書およびひいては自動車の運転者が自動車の周辺内に侵入したことが検知されると直ちに、それによって実際に差し迫った発車の高い確率を暗示的に推測することができる。このような様々な基準は、既に明確に伝達された発車要求が真実であることを証明するために、および運転者の計画が変更された場合または間違って伝達された発車要求においても、トリガされた予熱措置を再び終了させることができるようにするために、追加的な基準として使用することができる。この場合、前記基準は、個別にまたは様々な組み合わせで互いに評価されてよい。
【0022】
伝達された発車要求が真実であると証明するためのその他の基準として、衛星に基づく自動車の位置確認による情報が、自動車の自宅位置の定義と組み合わせて考慮されてよい。この実施形態によれば、例えばナビゲーションシステム内での設定による目標「ホーム」を用いて算出される自宅位置(車両-ホーム-位置)の定義によって、この基準を介しておよび自動車のGPS位置によって複数のシナリオを導き出すことができる。したがって、例えば「ホーム位置がない」ことが検知されると、一般的に、発車が実際に要求されている確率が高くなる。このような検知は、例えばスーパーマーケット、ドライブイン等のシナリオを容易に推考できるので、高い確率で発車が実際に間近に迫っている。
【0023】
さらに、明確に「発車要求しない」ことも、例えば車両アクセスコントロールの操作装置に相応に割り当てられたスイッチ若しくはボタンによって、または音声認識等によってモバイル機器を介して伝達され得る。これによって、計画変更時に開始された予熱措置を迅速に再び終了させることができるようにするために、例えば前もって表明された発車要求を再び撤回することができる。このような意図しない発車の明確な告知は、例えば車両荷積み、サービス活動、工場訪問等が計画されている場合に、非常に有意義である。特に好適な形式で、このような意味で使用するための電子式の車両アクセスコントロールのトランスポンダに設けられたスイッチ「トランクルーム」が使用されてよい。さらに、ひょっとすると運転者による最初の告知に反しているがエンジン始動若しくは発車が差し迫っていないことを信号で知らせるために、例えば自動車のトランクルームの開放を信号で知らせるセンサ装置の信号または車両に設けられたセンサ「トランクルーム開放/閉鎖」が、相応の形式で評価されてよい。さらに、車両に設けられた間隔センサが相応の形式で使用され、この間隔センサは、運転席ドアへの接近が意図されているのではなく、例えばトランクルームに向かって接近することが意図されているか若しくは行われることを信号で知らせる。この信号も、否定的な基準として評価され、この基準から、所定の確率で最初の告知に反しているが、間接的なエンジン始動が差し迫っていないことを推測することができる。
【0024】
好適な形式で、様々な基準の評価に基づいて、発車確率および/または内燃機関の予測された始動までの若しくは発車までの提供された時間の見積もりが算出されるかまたは行われる。これに基づいて、内燃機関の始動に伴って、排気ガス後処理システムおよび/またはラムダセンサの始動のための、必要な運転温度を考慮した運転条件が存在することを保証するために、場合によってはどの範囲内で外部モータ式の加熱措置が行われるかが決定される。好適な形式で、実施されるべき外部モータ式の加熱措置の決定の際に、車載電源網から提供される電気エネルギとの調整が行われる。これは、待機されたエンジン始動が危うくされないようにするために、低いバッテリ充電時においてのみ、バッテリの過剰な負荷が外部モータ式の予熱措置によって避けられるべきであることに基づいて行われる。
【0025】
さらに、本発明は、車両アクセスコントロールのための操作装置を含んでおり、この操作装置は、自動車の運転者に、自動車の目前に迫った若しくは計画された発車を明確に告知することができる操作エレメントを有することを特徴としている。この操作エレメントは、例えば相応に割り当てられた操作装置のスイッチまたはその他のエレメントであってよい。さらに、この操作エレメントは、カメラまたはマイクロホンであってもよく、このカメラまたはマイクロホンによって、相応の音声認識または手話認識が可能であり、これを介して自動車の運転者がその発車要求を告知することができる。追加的に、操作装置は、この操作装置で、例えばその他のスイッチを操作することによって、または発車要求の伝達のために設けられたスイッチを複数回操作することによって、非走行開始要求を表明することもできるように構成されていてよい。これによって例えば、前もって伝達された発車要求を取り消すことが可能である。非発車要求の伝達のための前記操作手段は、例えば相応に設計された、一般的に設けられているトランクルームスイッチであってよい。
【0026】
さらに本発明は、コンピュータ機能性を有するモバイル機器のためのアプリケーションを含んでおり、この場合、このアプリケーションは、目前に迫っている自動車の発車を明確に告知するための、自動車の運転者による信号発信器のための操作手段として設計されている。このアプリケーションは、例えば、発車要求および場合によっては非発車要求もスイッチを押すことによってまたはモバイル機器のディスプレイ上の相応のフィールドにタッチすることによって、伝達されるように設計されていてよい。別の実施形態では、このアプリケーションは例えば音声認識または手話認識によって作業するので、発車要求(または非発車要求も)を非常に簡単にかつ直感的に伝達することができる。
【0027】
本発明はさらに、提案された方法の複数のステップを実行するために設計されたコンピュータプログラムを含む。さらに本発明は、このようなコンピュータプログラムが記憶されている機械読み取り可能な記憶媒体、および提案された方法の複数のステップを実行するために設計された電子コントロールユニットを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】走行開始要求が告知されている場合の、提案された方法の好適な実施形態の概略的なフローチャートである。
図2】走行開始要求が告知されていない場合の、提案された方法の好適な実施形態の概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
提案された方法のその他の特徴は、図面に関連して以下に記載した複数の実施例の説明から得られる。この場合、個別の特徴はそれぞれ単独でもまたは互いに組み合わせても実現され得る。
【0030】
図1は、提案された方法の1例をフローチャートで示す。ステップ1で、運転者は、例えば電子式の車両アクセスコントロールのトランスポンダに備えられた相応のスイッチを操作することによって、またはスマートフォンの相応のアプリケーションの範囲内の音声指令によって、走行開始要求を告知する。この走行開始要求が自動車の相応のコントロールユニットに伝達されると、次の応答指令2で、相応の温度条件が、例えば外気温度、触媒の範囲内の温度その他を考慮して、外部モータ式の予熱措置を必要とするかどうかが検査される。そうでなければ、この方法はステップ3で、外部モータ式の予熱措置が行われることなしに終了されるので、さらなる加熱措置なしに発車を行うことができる。温度条件が、外部モータ式の予熱措置を必要とする程度であれば、応答指令4で、運転者が実際に車両に近づいているかどうかが検査される。これは、例えば検知可能なトランスポンダ運動に基づいて、例えば自動運転の周辺状況から間隔センサまたはその他のセンサ装置によって行われる。また、可能な限り車両に向かう途中の運転者進路が決定され得る。応答指令4において、運転者が車両に近づいていないと検知されると、方法(ステップ3)はその他の予熱措置を講ずることなしに中断されてよい。何故ならば、運転者の最初のプランとは異なり、発車が行われないことに由来するからである。運転者が近づくと、ステップ5で、応答指令2において考慮された基準に基づいて、予測されたエンジン始動および/または発車までに得られる時間が推定される。この場合、予測しようとするエンジン始動時点の予測は、過去のプロセスからの運転者挙動のための相応のモデルのトレーニングおよびモデリングまたは適応によって、場合によっては改善され得る。提供された時間ウインドに依存して、ステップ6で、必要な外部モータ式の加熱措置の決定が行われる。これは特に、提供された電気的な車載電源網若しくはバッテリ状態との調整によっても行われる。特にこの場合、いつ、どのくらいの出力で、どのような加熱措置が開始されるかが決定される。ステップ7で、外部モータ式の加熱措置による予熱段階が相応に開始される。エンジン始動8後に応答指令9で、要求された有害物質変換のために必要な温度、特に触媒着火温度が得られたかどうかの検査がなされる。このことはラムダセンサの運転温度のためにも当てはまる。この温度条件が得られていれば、ステップ10で、車両発車が行われてよい。この温度条件が得られていなければ、ステップ11で、発車の遅延が行われるか、または出力制限を伴う発車が行われる。発車の遅延は、ステップ12で別の予熱措置につながっており、この別の予熱措置において、外部モータ式の加熱措置が、内部モータ式の加熱措置と組み合わされ、例えば“Homogen-Split-Injection”(均質分割噴射)、遅れて調整されたイグニッションタイミング等と組み合わされる。次いで再び、必要な有害物質変換のための温度条件が得られているかどうかの応答指令9が行われる。この温度条件が得られている場合、エンジン始動10が行われる。遅延11が行われると、好適な形式で例えば視覚的または聴覚的な信号によって、運転者に警告がなされる。
【0031】
緊急的な非常発車の場合のために、発車阻止若しくは遅延11が“ueberritten”(ふみにじられる)ようになっていてよい。このような形式の非常発車のケースの回数は、ECU(Engine Control Unit:エンジンコントロールユニット)内のカウンターによって指数計算され、最大数に制限され得る。カウンターは場合によっては、工場でのみリセットされることができ、OBD(On-Board-Diagnose:オンボード診断)インターフェースを介して記録されてよい。
【0032】
ステップ5で実行された、予測されたエンジン始動または発車まで残っている時間の推定により、外部モータ式のおよび場合によっては内部モータ式の加熱措置によって必要な温度を達成できないとの予測が得られると、排気ガス後処理システムの必要な機能が保証されるまでの間、発車は遅延されるようになっていてよい。この場合も、好適な形式で運転者に遅延が知らされる。
【0033】
予測された時間限界内での運転者による告知(ステップ1)にも拘わらず、エンジン始動が行われるべきではない場合、好適な形式で、外部モータ式の加熱措置が、所定の時間間隔だけ実施されるので、おそらく発車がもはや行われないときに、予熱措置がキャンセルされ得ることが見込まれていてよい。これは、別の基準に依存して、例えば触媒の温度、運転者座着検知(“そもそもまだ誰かが車両内に座っている?”)、ドア閉鎖信号および/または、運転者が車両周囲から離れたこと、例えばトランスポンダから遠ざかったことが容易に推考できる、近接領域センサ装置の信号に依存して行われてよい。さらに、予熱段階の維持は、車載電源網状態が十分であるかどうかに依存して行われてよい。
【0034】
別のシナリオでは、運転者が自動車に近づくが、よりはっきりとした走行開始要求が通告されないか若しくは伝達されない。このようなシナリオは、この方法を実行するための別の実施形態の例として図2に示されている。つまり、運転者が近づくが走行開始要求が通告されないときに、走行開始が予告なしに行われ、エミッションの理由により不都合なまたは場合によっては遅延されたコールドスタートを避ける必要がある場合(ステップ101)、次のシーケンスが実行されてよい。まず、温度条件、例えば外気温度および/または排気ガス後処理システム内の温度、外部モータ式の予熱措置が必要であるかどうかの応答指令102が行われる。そうでなければ、ステップ103でこの方法は停止され、加熱措置は実施されない。温度条件が加熱措置を必要する場合、ステップ104で発車確率が算出される。この場合、可能なインプット値は、例えば日付、時間、曜日、GPS位置、GPS位置履歴、学校の休暇、スマートフォンデータ(例えば運転者検知)、ガレージゲートセンサ等であってよい。このようなデータに基づいて、データマイニングの方法によって相応のモデルがトレーニングされ、および/またはこれに基づいて発車確率が算出されてよい。発車確率が非常に低いという応答指令105が得られると、この方法はステップ103で終了されるので、それ以上の予熱措置は実施されない。何故ならば、発車が考慮されないからである。予測された発車確率が高いという応答指令105が得られると、ステップ106でエンジン始動および/または発車が遅延されるので、その間にステップ7で予熱措置が講じられてよい。運転者に、適切な警告信号によって、例えば聴覚的または視覚的に、遅延およびその理由が知らされる。それに続くステップは、図1に関連して説明された方法に相当する。したがって、相応の説明が参照される。
【0035】
全体として、提案された方法およびここに記載された手段は、自発的なコールドスタートが、発車の遅延なしでも法的なエミッション要求を可能にするか、または最短の遅延だけによって確実に行われるようにすることを可能にする。場合によっては、内部モータ式の加熱措置、特に触媒加熱措置が実行されなくてよく、したがって、微粒子エミッションに関連してさらなる利点が期待される。
【符号の説明】
【0036】
1 ステップ、信号発信器の操作
2,4,9 応答指令
3,5,6 ステップ
7 ステップ、予熱措置
8 エンジン始動
10 ステップ、エンジン始動、発車
11 ステップ、発車阻止、遅延
12 ステップ、別の予熱措置
101 ステップ
102,105 応答指令
103,104 ステップ
106 ステップ、遅延
図1
図2